有機光電変換素子、及びこれを用いた光センサ、カラー撮像素子
【課題】暗電流を従来例に比較して低減し、かつ光電変換効率を従来の有機光電変換膜と同様、あるいは向上させることが可能な光電変換素子を提供する。
【解決手段】本発明の有機光電変換素子は、陽極と、陰極と、これら電極間に介挿された有機半導体層からなる有機光電変換膜であり、有機半導体層が、光電変換層と、この光電変換層の間に形成された注入電荷輸送抑制層とから構成され、注入電荷輸送抑制層のHOMO準位・LUMO準位が、光電変換層に用いられている有機材料のHOMO準位・LUMO準位に比較し、いずれも大きい、またはいずれも小さい有機材料にて形成されている。
【解決手段】本発明の有機光電変換素子は、陽極と、陰極と、これら電極間に介挿された有機半導体層からなる有機光電変換膜であり、有機半導体層が、光電変換層と、この光電変換層の間に形成された注入電荷輸送抑制層とから構成され、注入電荷輸送抑制層のHOMO準位・LUMO準位が、光電変換層に用いられている有機材料のHOMO準位・LUMO準位に比較し、いずれも大きい、またはいずれも小さい有機材料にて形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号を電気信号に変換する光電変換素子に係わり、光電変換を行う光電変換部に波長選択機能を有する有機光電変換材料を用いる有機光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、テレビカメラなどに用いられている撮像素子、すなわち光電変換素子においては、単結晶シリコンが光電変換部の材料として用いられている。
上記光電変換素子は、分光感度特性がブロードであり、青から赤まで可視光領域のすべての波長に対して感度を持つ。
このため、テレビカメラの解像度を低減させずにカラー対応とする際、入射光をRGBの3原色にプリズムにより分解し、各原色毎にそれぞれ光電変換素子を設けるカラー撮像システム、すなわち3板式が主流の構成となっている。
【0003】
しかし、この3板式のカラー撮像システムは、プリズム及び3つの光電変換素子が必要であるため、小型・軽量化が困難である。
このため、小型・軽量化が容易に行える単板式構造が提案されており、例えば光電変換素子の各画素上にRGBに対応する赤、緑及び青の色フィルタをベイヤーパターンに配列した構造が提案されている。
しかしながら、このベイヤーパターンの構造においては、青、緑及び赤のいずれか一色にて1画素を形成しているため、1画素につき真に得られる信号は1色のみで二色は周辺画素の信号から演算して求めることとなり、3板式に比較して偽色が発生しやすく、さらに所望の色以外の入射光は色フィルタにより吸収されてしまうため、入射した光の利用効率が低下する欠点がある。
【0004】
そのため、ある特定の波長の光、例えば赤、緑及び青の光のみを吸収し、この吸収した光に対し光電変換を行う有機材料を光電変換層とする有機光電変換素子、及び上記波長選択機能を有する有機光電変換素子において、入射光が光電変換されることで生成された電荷を読み出す読出回路を、2次元アレイ化した固体撮像素子、さらに3つの異なる色の波長の光、例えば赤、緑及び青の光に対し、それぞれ波長選択機能を有する光電変換素子を順次積層することにより、カラー固体撮像素子が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
現在主流の3板式カラー撮像システムを採用したカラーカメラと同等に高性能で、なおかつ小型軽量なカラーカメラを、上述した有機光電変換膜からなるカラー固体撮像素子を用いることで実現できると期待されている。
【0006】
図を用いて従来の有機光電変換素子について簡単に説明する。図13は、例えば陽極11、正孔注入阻止層12、光電変換層13及び陰極14からなる従来の有機光電変換素子の断面構造を示す概念図である。
この図においては、正孔注入阻止層12及び光電変換層13はいずれも有機材料を用いて形成されている。また、光電変換層13には、ある特定の色の波長の光のみを吸収して光電変換する有機材料を用いる。
【0007】
光電変換層13が正孔輸送性の有機材料にて形成される場合、陽極11から光電変換層13への正孔の注入を抑制する目的で、陽極11と光電変換層13との間に正孔注入阻止層12を設けることが多く行われている。この正孔注入阻止層12には、材料として可視光領域の光を透過する電子輸送性(正孔を輸送し難い)有機材料を用いる。
一方、光電変換層13が電子輸送性の有機材料にて形成される場合、上述と逆に、陰極14から光電変換層13に対する電子の注入を防止する目的で陰極14と光電変換層13との間に電子注入阻止層を設けることが多く行われている。この電子注入阻止層には、材料として可視光領域の光を透過する正孔輸送性(電子を輸送し難い)有機材料を用いる。
また、陽極11及び陰極14のいずれか一方、望ましくは双方が透明な導電性電極として形成されている。
【0008】
図13に示す従来の有機光電変換膜における理想的なエネルギー準位図を図14に示す。図14における符号Vは真空準位を示しており、符号W11は陽極11の仕事関数、符号H12及びL12はそれぞれ正孔注入阻止層12のHOMO準位・LUMO準位である。さらに、符号H13・L13はそれぞれ光電変換層13のHOMO準位・LUMO準位を示し、符号W14は陰極14の仕事関数を示している。
図13における有機光電変換膜に対し、陽極11に対して電圧Vpを印加し、陰極14に対して電圧Vpより低い電圧Vmを印加した場合、すなわち有機光電変換膜が入射光を光電変換して、光電流が発生する動作について図15を用いて説明する、図15は、例えば、陽極11に正の電圧Vpを印加し、陰極14に負の電圧Vmを印加した状態において、有機光電変換膜に光を照射すると、光電変換層13内では特定の色の波長の光(例えば、赤、緑及び青のいずれかの光)が吸収され、その強度に応じた電子・正孔対が発生する。
【0009】
発生した電子・正孔対は、光電変換層13に印加された電圧(Vp−Vm)による電界の効果により分離され、電子は正孔注入阻止層12を通じて陽極11に、正孔は陰極14にそれぞれ移動し外部に読出され、光電流として検出される。
【特許文献1】特開2003−158254号公報
【特許文献2】特開2003−234460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、光電変換層13が外部に正孔及び電子を移動することによって光電流を得るため、この光電変換層13における光電変換効率を向上させ、入射光に対して感度の良い有機光電変換膜を得るため、入射光により光電変換層13内に発生した電子・正孔対を効率よく分離する必要がある。
したがって、電子・正孔対を効率良く分離するため、光電変換層13内の電界を大きくする、すなわち陽極11と陰極14の間に印加する電圧を大きくすればよい。
【0011】
しかしながら、図16に示すように、陽極11と陰極14との間にある程度以上の電圧を印加した場合、陽極11から正孔注入阻止層12を超えて光電変換層13内に注入される正孔や陰極14から光電変換層13に注入される電子が大幅に増加してしまう。
上述のように光電変換層13に注入された正孔や電子が暗電流として検出されるため、有機光電変換膜の信号対雑音比(S/N)を低下させる要因になる。
【0012】
その対応として、暗電流を防ぐ手段として、陽極11から光電変換層13に正孔が注入しないように、図13における正孔注入阻止層12を厚膜化すること、あるいは正孔注入阻止層12のHOMO準位H12と陽極11の仕事関数W11のエネルギー準位差を大きくすること、また、陰極14から光電変換層13に電子が注入しないように、図13における光電変換層13のLUMO準位13と陰極14の仕事関数W14のエネルギー準位差を大きくすること、あるいは光電変換層13と陰極14の間に光電変換層13のLUMO準位L13に比べて小さなLUMO準位を有し、陰極14の仕事関数W14とのエネルギー準位差がより大きくなるような材料で形成された電子注入阻止層を挿入することが考えられる。
しかしながら、正孔注入阻止層12のHOMO準位H12と陽極11の仕事関数W11のエネルギー準位差を大きくする、および光電変換層13のLUMO準位L13と陰極14の仕事関数W14のエネルギー準位差を大きくするためには、用いる材料を見直さなければならない。
また、正孔注入阻止層12の厚膜化および電子注入阻止層を挿入した場合には、光電変換層13に印加される電圧が減少するので、光電変換効率を低下させる要因となってしまう。結果として従来の有機光電変換膜の構造においては、光電変換効向上と暗電流の低減とがトレードオフの関係にあり、光電変換効率を低下させずに暗電流を低減することが難しいという課題があった。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、暗電流を従来例に比較して低減し、かつ光電変換効率を従来の有機光電変換膜と同様、あるいは向上させることが可能な光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の有機光電変換素子は、陽極と、陰極と、これら電極間に介挿された有機半導体層からなる有機光電変換素子であって、前記有機半導体層が、光電変換層と、この光電変換層の間に形成された可視光領域の光を透過する有機材料からなる注入電荷輸送抑制層とから構成され、前記注入電荷輸送抑制層のHOMO準位・LUMO準位が、光電変換層に用いられている有機材料のHOMO準位・LUMO準位に比較し、いずれも大きい、またはいずれも小さい有機材料にて形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の有機光電変換素子は、前記光電変換層が特定の波長の光のみを吸収し、該光を光電変換する波長選択機能を有する有機材料で形成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の有機光電変換素子は、前記注入電荷輸送抑制層が0.5nm〜50nmの厚さで構成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の有機光電変換素子は、前記注入電荷輸送抑制層が前記光電変換層に1層あるいは複数層介挿されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の光センサは、上記いずれかの有機光電変換素子と、入射光により生成された電荷を読み出す読み出し回路を備えたことを特徴とする。
【0019】
本発明のカラー撮像素子は、上記いずれかの有機光電変換素子のなかで、青色に波長選択機能を有する有機光電変換素子と、緑色に波長選択機能を有する有機光電変換素子と、赤色に波長選択機能を有する有機光電変換素子と、前記各有機光電変換素子で生じた電荷を読み出す読み出し回路を順次積層して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、光電変換層を形成する有機材料のHOMO準位・LUMO準位に比較し、HOMO準位・LUMO準位が、いずれも大きいかいずれも小さく、なおかつ可視光領域の光を透過する注入電荷輸送抑制層を、電荷が輸送される方向に対して垂直に光電変換層に挿入することにより、電極から注入される電荷の電極間における移動が抑制され、暗電流を減少させることが可能となる。
また、本発明によれば、入射光により発生した信号電荷(電子および正孔)の電極間における移動も抑制されるが、一方で、電荷注入輸送抑制層と光電変換層とのエネルギー準位差を有する接触面における酸化還元反応により、入射光により発生した電子・正孔対の分離が接触面近傍で促進されるため、全体として光電変換効率の高い有機光電変換膜が得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(実施の形態1)
以下、図1を用いて本発明による有機光電変換素子を説明する。図1は本発明の有機光電変換素子の断面構成を示す概念図である。
この図において、本発明の有機光電変換素子は、例えば、陽極41、正孔注入阻止層42、光電変換層43A、注入電荷輸送抑制層44、光電変換層43B、陰極45から構成されている。図13の従来例と異なる点は、光電変換層43A及び43Bの間に注入電荷輸送抑制層44が挿入されている点である。
図1の有機光電変換素子は、陰極45に対し陽極41に比較して低い電圧、例えば陰極45に対して負の電圧、陽極41に対して正の電圧が印加されている状態にて動作、すなわち上記光電変換層43A及び43Bの吸収した光量に対応した電荷を生成し、この電荷に応じた電流が流れる。図1の断面構造を有する有機光電変換素子の電圧が印加されていないときの各層のエネルギー準位を図2に示す。
【0022】
ここで、上記陽極41及び陰極45には、形成材料として、例えばインジウム酸化物(IO)、インジウム・スズ酸化物(ITO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)などの金属酸化物をスパッタ法や加熱蒸着法などを利用して10nm〜300nmの厚さで堆積した透明導電性薄膜を用いる。また、陽極41及び陰極45には、白金、金、銀、アルミニウムなどの金属材料を加熱蒸着法やスパッタ法あるいは電子ビーム蒸着法などを用い、5nm〜30nmと薄く堆積した半透明金属薄膜を用いても良い。
【0023】
また、光電変換層43A及び43Bには、形成材料として、特定の波長の光を吸収する波長選択機能を有する有機光電変換材料であれば何を用いてもよいが、例えばスチルベン誘導体、ベンゾキサゾール誘導体、縮合芳香族炭素環(ペリレン誘導体、アントラセン誘導体、テトラセン誘導体など)、メロシアニン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ジアミン誘導体、チオフェン誘導体、PtやEu(ユウロピウム)、Sn、AI、Ir、Znなどの金属錯体、DCM誘導体、アゾ系有機顔料、多環式系有機顔料(フタロシアニン類、キナクリドン類、ポルフィリン類など)を蒸着法や塗布法を利用して30nm〜300nmの厚さで堆積した薄膜を用いることができる。すなわち、光電変換層43A及び43Bは、入射光における特定の波長の光を吸収し、電子正孔対を生成するものであり、それ以外の波長の入射光の成分を透過させる。
また、光電変換層43A及び43Bには、上記有機材料を複数種混合した薄膜あるいは積層した薄膜を用いても良い。
【0024】
陽極41から光電変換層43に注入され、ノイズとして検出される正孔を抑制するため、正孔注入阻止層42には、可視光領域の光を透過する電子輸送性の有機材料で、かつ光電変換層43のHOMO準位H43に比べて大きいHOMO準位を有する材料であれば何を用いてもよいが、例えばチオフェン誘導体、ベンゾキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアジン誘導体、スチルベン誘導体、ペリレン誘導体、TCNQ誘導体、SnやA1、Znなどの金属錯体、フラーレン、縮合芳香族炭素環を蒸着法や塗布法を利用して10nm〜100nmの厚さで堆積した薄膜を用いることができる。
【0025】
注入電荷輸送抑制層44には、光電変換層43A及び43Bを形成する材料のHOMO準位及びLUMO準位に比較して、HOMO準位、LUMO準位のいずれも大きいかあるいはいずれも小さく、可視光領域の光を透過する有機材料であれば何を用いてもよい。
ここで、注入電荷輸送抑制層44には、上述したHOMO準位及びLUMO準位を有する、例えば、チオフェン誘導体、ベンゾキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアジン誘導体、スチルベン誘導体、ペリレン誘導体、TCNQ誘導体、SnやAl、Znなどの金属錯体、フラーレン、縮合芳香族炭素環、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、トリフェニレン誘導体、トリフェニルアミン誘導体を用いることができる。
【0026】
また、注入電荷輸送抑制層44には、すでに述べた正孔注入阻止層42と同一の材料で形成してもよいし、異なる材料で形成してもよい。
また、注入電荷輸送抑制層44は、蒸着法や塗布法を利用して0.5nm〜50nmの厚さにて、より望ましくは1nm〜20nmの厚さにて、光電変換層43A及び43Bに比較して薄く形成する。ここで、注入電荷輸送抑制層44の厚さは、設計値として、陽極41及び陰極45間に印加される電圧が分圧された際に、光電変換層43A及び43Bに電子正孔対の発生及び分離に必要な電圧が印加される厚さに制御される必要がある。
さらに、上記光電変換層間に複数の、例えば2層〜5層の注入電荷輸送抑制層を挿入してもよく、例えば図3に示すように、光電変換層43A、43B及び43Cのそれぞれの間に、電荷輸送44A、44Bの2層を挿入しても良い。
【0027】
また、図1及び図3に示す形態のほかに、正孔注入阻止層42を省いた形態や光電変換層43Bと陰極45との間に電子注入阻止層を有する構成としてもよい。
図1の構成において、陰極45から注入され光電変換層43Bに注入されてノイズとして検出される電子を抑制するため、電子注入阻止層は光電変換層43BのLUMO準位に対し、低いLUMO準位を有する有機材料を用いる。ここで、光電変換層43A及び43Bに電子輸送性を有する材料が用いられている場合に、特に有効に電子注入阻止層が機能する。
ここで、電子注入阻止層には、可視光領域の光を透過する正孔輸送性の有機材料であれば何を用いてもよいが、例えばチオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、トリフェニレン誘導体、トリフェニルアミン誘導体などを用いることができる。
【0028】
次に、図1に示す構成の動作について、図4を用いて説明する。
図4の構成は、光電変換膜43A及び43BのHOMO準位及びLUMO準位に比較して、それぞれのエネルギー準位より大きいHOMO準位、LUMO準位を有し、かつ可視光領域の波長の光を透過する注入電荷輸送抑制層45を、光電変換膜43A及び43Bの厚さに比較して薄く挿入した有機光電変換素子の各膜のエネルギー準位図を示している。
図4に示すように、正孔が陽極41から正孔注入阻止層42を超え、光電変換層43Aに達したとしても、この正孔は光電変換層43AのHOMO準位と、注入電荷輸送抑制層44のHOMO準位との境界におけるエネルギー障壁のために、光電変換層43Bへの移動が抑制され、注入電荷輸送抑制層44を挿入しない場合に比較して陽極41と対向する陰極45に到達しにくくなる。
【0029】
同様に、陰極45から光電変換層43Bに注入された電子は、注入電荷輸送抑制層44のLUMO準位と光電変換層43AのLUMO準位との境界におけるエネルギー障壁により、陰極45と対向する陽極41に到達しにくくなる。
すなわち、有機光電変換素子において、光電変換層43A及び43Bの間に注入電荷輸送抑制層44を、光電変換膜43A及び43Bの厚さに比較して薄く挿入することにより、陽極41から注入される正孔と、陰極45から注入される電子との移動を抑制することができ、暗電流を低減する効果がある。
【0030】
一方、注入電荷輸送抑制層44の膜厚が光電変換層43A及び43Bに比較して薄いため、光電変換層43Aおよび43Bに印加される分圧は、光電変換層43A及び43Bに注入電荷輸送抑制層44を挿入しない場合に比較して、ほとんど低下せず同等の電圧が印加される。
また、光電変換層43A及び43B内の電界による電子正孔対の分離効果に加え、注入電荷輸送抑制層44と光電変換層43Bとの間の境界のエネルギー差、すなわち領域Xにおける酸化還元反応の効果により、注入電荷輸送抑制層44と光電変換層43Bの界面近傍において、入射光により光電変換層43B内に生成された電子正孔対の分離が促進される。図4においては、光電変換層43BのLUMO準位が注入電荷輸送抑制層44のLUMO準位に比較して小さいため、電子正孔対における電子がより安定した準位に落ち、正孔が陰極45に輸送される。
結果として、光電変換層43に注入電荷輸送抑制層45を挿入した場合でも、有機光電変換膜の光電変換効率は低下せず、あるいは向上する。
【0031】
また、図5に示すように、光電変換層44を形成する有機材料のHOMO準位及びLUMO準位各々に比較して、いずれも小さいHOMO準位・LUMO準位を有し、かつ可視光領域の波長の光を透過する注入電荷輸送抑制層44を、有機光電変換膜の光電変換層43A及び43Bの間に、光電変換層43A及び光電変換層43Bの厚さに比較して薄く挿入した場合も図4の構成と同様の効果が得られる。
この図5の構成として、光電変換層43A及び43B内の電界による電子正孔対の分離効果に加え、光電変換層43Aと注入電荷輸送抑制層44との間の境界のエネルギー差、すなわち領域Yにおける酸化還元反応の効果により、光電変換層43Aと注入電荷輸送抑制層44との界面近傍において、入射光により光電変換層43A内に生成された電子正孔対の分離が促進される。図5においては、光電変換層43AのHOMO準位が注入電荷輸送抑制層44のHOMO準位に比較して大きいため、電子正孔対における正孔がより安定した準位に落ち、電子が陽極41に輸送される。
【0032】
また、図6に示すように、光電変換層43A及び43Bを形成する有機材料のHOMO準位及びLUMO準位各々に比較して、HOMO準位に比較して大きいHOMO準位を有し、かつLUMO準位に比較して小さいLUMO準位を有し、さらに可視光領域の波長の光を透過する注入電荷輸送抑制層44を有機光電変換膜の光電変換層43A及び43Bの間に、光電変換層43A及び43Bの厚さに比較して薄く挿入する構成としても良い。
この図6の構成の場合、注入電荷輸送抑制層44と光電変換層43Aあるいは注入電荷輸送抑制層43Bとの間の酸化還元反応が働かないため、すでに述べた構成に比較して電子正孔対の分離効率が低下し、光電変換効率は低下するが、一方、暗電流を大きく低減する効果がある。
【0033】
また、上述した有機光電変換素子を光センサの光電変換部とし、入射し吸収した光により発生した電荷(電子あるいは正孔)を読み出すため、この電荷読み出し手段としては、例えば、従来から用いられているCMOS(Complimentary Metal Oxide Semiconductor)、あるいはCCD(Charge Coupled Device)、TFT(Thin Film Transistor)などを用いた読出し回路を用いることが可能である。
ここで、図7のように上述した電荷読出し回路を2次元アレイ化し、入射光により生成された電荷を読み出す回路上に、特定の光の波長選択機能を有する有機光電変換素子を形成した、特定の波長の光を検出する単色固体撮像素子を形成することもできる。この際、有機光電変換素子は画素に区切らずともよい。
【0034】
また、上述した単色固体撮像素子について、R(赤色)の光の波長選択機能を有する第1の単色固体撮像素子と、G(緑色)の光の波長選択機能を有する第2の単色固体撮像素子及び、B(青色)の光の波長選択機能を有する第3の単色固体撮像素子を用意し、それぞれを順次積層したカラー固体撮像素子を形成することができる。1画素にて3色の輝度情報を取得することが可能で、かつ従来のようにプリズムや複数の固体撮像素子を設ける必要がないため、小型・軽量であり、かつ光の利用効率の高い高解像度なカラーカメラを実現できる。
【0035】
<応用例1>
図1における有機光電変換素子を、光電変換層43A及び43Bの有機材料として、緑色の光に感度を有し、正孔輸送性を有するキナクリドン誘導体を用いた場合、このキナクリドン誘導体のHOMO準位及びLUMO準位各々に比較して、HOMO準位、LUMO準位それぞれが小さいトリフエニルアミン誘導体を注入電荷輸送抑制層44に用いる構成として作成する。
【0036】
応用例1における図1に示す有機光電変換素子の作製方法を以下に説明する。
洗浄したガラス基板上に陽極41としてITOを30nmの厚さにて、スパッタ法により蒸着して形成する。
次に、上記ITO上に、正孔注入阻止層42としてアルミニウムキノリン(Alq3)を30nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
そして、上記正孔注入阻止層42上に、光電変換層43Aとしてキナクリドン誘導体を50nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
【0037】
この光電変換層43A上に、注入電荷輸送抑制層44としてトリフエニルアミン誘導体を抵抗加熱蒸着により形成する。
次に、上記注入電荷輸送抑制層44上に、光電変換層43Bとしてキナクリドン誘導体を50nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
ここで、上記正孔注入阻止層42と、光電変換層43Aと、注入電荷輸送抑制層44と、光電変換層43Bとを連続して抵抗加熱蒸着した。
そして、上記光電変換層43B上に、陽極41の対向電極である陰極45を、陽極41と同様にスパッタ法により形成した。
【0038】
上記形成において、注入電荷輸送抑制層44の厚さを複数の異なる厚さ、例えば0nm(注入電荷輸送抑制層44を形成していない)、1nm、10nm、20nm、50nm、100nmと変えた6つの試料を作製し、それぞれの電気特性の測定を行った。
上記6つの試料の測定結果として、設定された一定強度の入射光において、注入電荷輸送抑制層の厚さと、注入電荷輸送抑制層44が0nmの厚さにおける生成される電子正孔対による電流値を1とした相対信号電流値と、暗電流の実測値との対応を示すテーブルを図8に示す。
【0039】
測定条件としては、陽極41及び陰極45の間に、20Vの電圧を印加した状態にて、波長550nm、強度50μW/cm2の光を入射した場合において、それぞれの試料の信号電流および暗電流を比較した。
ここで、信号電流値は上述したように、注入電荷輸送抑制層44の厚さが0nmの試料の信号電流値を1とした場合の相対電流値で表している。
注入電荷輸送抑制層44の厚さが1nm〜50nmの各試料は、注入電荷輸送抑制層44の厚さが0nmの試料に比べて信号電流値が大きくなっており、特に注入電荷輸送抑制層44の厚さが10nmの試料では1.5倍であった。
【0040】
一方、暗電流値については、注入電荷輸送抑制層44の厚さが厚くなるにつれて減少し、100nmの厚さにては測定限界を下回る数値まで減少している。
この結果から、注入電荷輸送抑制層44を光電変換層43A及び43Bの厚さに比較して薄い膜として、光電変換層43A及び43Bの間に挿入することにより、暗電流を小さくし、従来例に対して光電変換効率が同等あるいは高い有機光電変換素子が得られることが確認できた。
【0041】
<応用例2>
応用例1と同様に緑色に感度を有するキナクリドン誘導体で形成された光電変換層の間に、キナクリドン誘導体のHOMO準位及びLUMO準位に比較して、HOMO準位、LUMO準位のいずれもが小さいエネルギー準位を有するトリフエニルアミン誘導体で形成された注入電荷輸送抑制層を複数層、例えば0層、2層、5層及び10層有する4つの有機光電変換素子を作製した。
応用例2における図3(例えば、注入電荷輸送抑制層が2層に相当)に示す有機光電変換素子の作製方法を以下に説明する。
【0042】
洗浄したガラス基板上に陽極41としてITOを30nmの厚さにて、スパッタ法により蒸着して形成する。
次に、上記ITO上に、正孔注入阻止層42としてアルミニウムキノリン(Alq3)を30nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
そして、上記正孔注入阻止層42上に、光電変換層43Aとしてキナクリドン誘導体を抵抗加熱蒸着により形成する。
【0043】
この光電変換層43A上に、注入電荷輸送抑制層44Aとしてトリフエニルアミン誘導体を抵抗加熱蒸着により5nmの厚さに形成する。
次に、上記注入電荷輸送抑制層44A上に、光電変換層43Bとしてキナクリドン誘導体を抵抗加熱蒸着により形成する。
この光電変換層43B上に、注入電荷輸送抑制層44Bとしてトリフエニルアミン誘導体を抵抗加熱蒸着により5nmの厚さに形成する。
【0044】
そして、上記注入電荷輸送抑制層44B上に、光電変換層43Cとしてキナクリドン誘導体を抵抗加熱蒸着により形成する。
ここで、上記正孔注入阻止層42と、光電変換層43Aと、注入電荷輸送抑制層44Aと、光電変換層43B、注入電荷輸送抑制層44Bと、光電変換層43Cとを連続して抵抗加熱蒸着し、光電変換層(キナクリドン誘導体)は全体で100nmの厚さになるように形成した。
そして、上記光電変換層43C上に、陽極41の対向電極である陰極45を、陽極41と同様にスパッタ法により形成した。
【0045】
上記形成において、光電変換層の間に介挿する注入電荷輸送抑制層の数を0層、2層、5層及び10層の層数と変えた4つの試料を作製し、それぞれの電気特性の測定を行った。
上記光電変換層に介挿する各注入電荷輸送抑制層の1層あたりの厚さは、光電変換層中に注入電荷輸送抑制層を2層、5層及び10層有する光電変換膜の場合、それぞれ5nm、 2nm、1nmの厚さとなるように形成し、さらに光電変換層中に注入電荷輸送抑制層を均等に挿入した。
上記4つの試料の測定結果として、設定された一定強度の入射光において、注入電荷輸送抑制層における注入電荷輸送抑制層の層の数と、注入電荷輸送抑制層44が0層、すなわち挿入されていない場合に生成される電子正孔対による電流値を1とした相対信号電流値と、暗電流の実測値との対応を示すテーブルを図9に示す。
【0046】
図9は陽極41と陰極45との間に20Vの電圧を印加した状態において、波長550nm、強度50μW/cm2の光を入射した場合、それぞれの試料の信号電流および暗電流を比較したものである。
ここで、上述したように、信号電流値は注入電荷輸送抑制層が0層、すなわち光電変換層に注入電荷輸送抑制層が介挿されていない試料における信号電流値を1とした相対電流値で表している。
光電変換層中に注入電荷輸送抑制層を2層及び5層有する試料は、注入電荷輸送抑制層が挿入されていない試料に比較して、信号電流値が大きくなっている。
一方、暗電流値は、注入電荷輸送抑制層の数が増えるに従って減少している。この結果から、複数の注入電荷輸送抑制層を光電変換層に薄く挿入する場合において、暗電流が小さく光電変換効率が従来例と同等あるいは高い有機光電変換素子が得られるという本発明の効果が確認できた。
【0047】
<応用例3>
図1における有機光電変換素子を、光電変換層43A及び43Bの有機材料として、青色の光に感度を有し、正孔輸送性を有するポルフィリン誘導体を用いた場合、このポルフィリン誘導体のHOMO準位及びLUMO準位各々に比較して、HOMO準位、LUMO準位がそれぞれ大きいA1錯体(アルミニウムキノリン)を注入電荷輸送抑制層44に用いる構成として作製する。
【0048】
応用例3における図1に示す有機光電変換素子の作製方法を以下に説明する。
洗浄したガラス基板上に陽極41としてITOを30nmの厚さにて、スパッタ法により蒸着して形成する。
次に、上記ITO上に、正孔注入阻止層42としてアルミニウムキノリン(Alq3)を30nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
そして、上記正孔注入阻止層42上に光電変換層43Aとしてポルフィリン誘導体を40nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
【0049】
この光電変換層43A上に、注入電荷輸送抑制層44として正孔注入阻止層42と同じアルミニウムキノリンを10nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
次に、上記注入電荷輸送抑制層44上に、光電変換層43Bとしてポルフィリン誘導体を40nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
ここで、上記正孔注入阻止層42と、光電変換層43Aと、注入電荷輸送抑制層44と、光電変換層43Bとを連続して抵抗加熱蒸着した。
そして、上記光電変換層43B上に、陽極41の対向電極である陰極45を、陽極41と同様にスパッタ法により形成した。
【0050】
上記形成において、注入電荷輸送抑制層44を有無とした2つの試料を作製し、それぞれの電気特性の測定を行った。
上記の試料の測定結果として、設定された一定強度の入射光において、注入電荷輸送抑制層の有無と、注入電荷輸送抑制層44がない試料における生成される電子正孔対による電流値を1とした相対信号電流値と、暗電流の実測値との対応を示すテーブルを図10に示す。
【0051】
測定条件としては、陽極41及び陰極45の間に、25Vの電圧を印加した状態にて、波長480nm、強度50μW/cm2の光を入射した場合においてそれぞれの試料の信号電流及び暗電流を比較した。
ここで、信号電流値は上述したように注入電荷輸送抑制層44がない試料の信号値を1とした場合の相対電流値で表している。
注入電荷輸送抑制層44が有る場合の試料は無い場合の試料に比べて信号電流値が約1割5分大きくなった。
【0052】
一方、暗電流については、注入電荷輸送抑制層44を入れることによって小さくなっている。
この結果から、注入電荷輸送抑制層44を光電変換層43A及び43Bの厚さに比較して薄い膜として、光電変換層43A及び43Bの間に挿入することにより、暗電流を小さくし、従来例に対して光電変換効率が同等あるいは高い有機光電変換素子が得られることが確認できた。
【0053】
<応用例4>
図1における有機光電変換素子を、光電変換層43A及び43Bの有料材料として、赤色の光に感度を有し、正孔輸送性を有する亜鉛フタロシアニンを用いた場合、この亜鉛フタロシアニンのHOMO準位及びLUMO準位各々に比較して、HOMO準位に比較して大きいHOMO準位有し、かつLUMO準位に比較して小さいLUMO準位を有するトリフェニルアミン誘導体を注入電荷輸送抑制層44に用いる構成として作製する。
【0054】
上記応用例4における図1に示す有機光電変換素子の作製方法を以下に説明する。
洗浄したガラス基板上に陽極41としてITOを30nmの厚さにて、スパッタ法により蒸着して形成する。
次に、上記ITO上に正孔注入阻止層42としてアルミニウムキノリン(Alq3)を30nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
そして、上記正孔注入阻止層42上に光電変換層43Aとして亜鉛フタロシアニンを50nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
【0055】
この光電変換層43A上に、注入電荷輸送抑制層44としてトリフェニルアミン誘導体を10nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
次に、上記注入電荷輸送抑制層44上に、光電変換層43Bとして亜鉛フタロシアニンを50nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
ここで、上記正孔注入阻止層42と光電変換層43Aと、注入電荷輸送抑制層44と、光電変換層43Bとを連続して抵抗加熱蒸着した。
そして、上記光電変換層43B上に、陽極41の対向電極である陰極45を、陽極41と同様にスタッパ法により形成した。
【0056】
上記形成において、注入電荷輸送抑制層44を有無とした2つの試料を作製し、それぞれの電気特性の測定を行った。
上記の試料の測定結果として、設定された一定強度の入射光において、注入電荷輸送抑制層の有無と、注入電荷輸送抑制層44がない試料における生成される電子正孔対による電流値を1とした相対信号電流値と、暗電流の実測値との対応を示すテーブルを図11に示す。
【0057】
測定条件としては、陽極41及び陰極45の間に、30Vの電圧を印加した状態にて、波長650nm、強度50μW/cm2の光を入射した場合において、それぞれの試料の信号電流及び暗電流を比較した。
ここで、信号電流値は上述したように注入電荷輸送抑制層44がない試料の信号電流値を1とした相対電流値で表している。
注入電荷輸送抑制層44を入れることで信号電流値は約3割減少した。
【0058】
一方、暗電流については、注入電荷輸送抑制層44を入れることによって小さくなっている。
この結果から、光電変換層43A及び43BのHOMO準位に比較して大きいHOMO準位を有し、かつLUMO準位に比較して小さいLUMO準位を有する注入電荷輸送抑制層44を光電変換層43A及び43Bの厚さに比較して薄い膜として、光電変換層43A及び43Bの間に挿入することにより、暗電流の小さい有機光電変換素子が得られることが確認できた。
【0059】
(実施の形態2)
図7に示されるように、応用例1記載の有機光電変換素子を2次元アレイ化された読出し回路上に形成し、単色固体撮像素子を作製した。形成方法は応用例1と同様である。
ここで読み出し回路は、従来から用いられているMOSトランジスタによるスイッチング回路を用いることができる。例えば、特開2006−86493の図4の例を適用できる。すなわち、図7の有機光電変換素子の上側を光入射方向とした場合、光入射方向の電極は全画素共通の透明電極とし、読み出し回路側は画素毎に設けられた電極として、電極間に電圧を印加することにより、電極と電極との間に生じる電界によって入射光により光導電層で生じた電荷が電極まで達し、さらに読み出し回路のMOSトランジスタの電荷蓄積部まで移動して、電荷蓄積部に電荷が蓄積される。電荷蓄積部の電荷はMOSトランジスタのスイッチングにより2次元的に読み出され、電気信号として出力されるものである。
有機光電変換素子として応用例3の有機材料を用いれば青色、応用例1ならば緑色、応用例4ならば赤色をそれぞれ吸収する分光感度に対応した光センサとできる。
【0060】
(実施の形態3)
青色用有機光電変換素子、緑色用有機光電変換素子、赤色用有機光電変換素子を積層し、さらに2次元読み出し回路を設ければカラー撮像素子を形成できる。
この場合、例えば図12に示す特開2006−86493の例のように、青色用有機光電変換素子123、緑色用有機光電変換素子118、赤色用有機光電変換素子113の各有機光電変換素子の間はそれぞれ透明絶縁膜120、115により絶縁され、また赤色用有機光電変換素子113と、読み出し回路100との間は絶縁膜110及び119により絶縁されている。光入射側の電極125は透明で全画素共通であり、光入射側でない方の電極は各画素毎の透明のモザイク状電極である(最下側は透明でなくてもよい)。ここで、各有機光電変換素子は透明電極間にR、G、Bそれぞれの色に対応した波長選択機能を有する有機光電変換材料の薄膜を有する本実施形態の構成となる素子である。
モザイク状の各画素毎の電極はMOSトランジスタの電荷蓄積部102と配線122により電気的に接続されており、これらは途中にある有機光電変換素子とは絶縁されている。電圧が印加されて光電変換層で発生した電荷は電極に到達し、MOSトランジスタの電荷蓄積部102に蓄積される。これが2次元的に読み出されるので、各有機光電変換素子毎の電荷に対応した電気信号は独立に処理可能であり、従って、図12の構成に対して、本発明の光電変換素子を適用することにより、容易にカラー撮像素子を構成できる。
【0061】
あるいは、特開2005−51115の図5の積層型撮像素子のように、複数の薄膜トランジスタアレイと、複数の受光部が積層された構造により、カラー撮像素子を構成できる。
ここで、各受光部は、R、G、Bのそれぞれの色に対応した波長選択機能を有する有機光電変換材料の薄膜を有する本発明の有機光電変換素子により構成することができる。
上述したカラー撮像素子において、電圧が印加されたR、G、Bの各受光部から、受光により発生した電荷がそれぞれ対応する薄膜トランジスタの電極に到達する。これら電荷が各受光部から薄膜トランジスタにより2次元的に読み出され、各薄膜トランジスタアレイからR、G、Bに対応した電気信号が得られる。従って、上述した構造によりカラー撮像素子が構成できる。
【0062】
上述したように、本発明においては、光電変換層に用いられる有機材料に比べてHOMO準位・LUMO準位がいずれも大きくあるいはいずれも小さく、なおかつ可視光領域の光を透過し、さらに電荷輸送性を有する有機材料で形成された注入電荷輸送抑制層を、光電変換層の中に0.5nm〜50nmの厚さにて1層あるいは複数層を挿入している。
本発明は、上記構成により、従来例に比較して、光電変換層と、この光電変換層の間に挿入した注入電荷輸送抑制層とのエネルギー準位差によって、陽極41及び陰極45から注入される電荷(正孔及び電子)の移動が抑制されるため暗電流が小さく、また上記エネルギー準位差による酸化還元反応により電子正孔対の分離が促進され、光電変換効率の高い有機光電変換素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態による有機光電変換素子の断面構造を示す概念図である。
【図2】図1に示す断面構造の有機光電変素子の電圧を印加しないときの各層のエネルギーダイアグラム(エネルギー準位図)を示す図である
【図3】本発明の実施形態による他の有機光電変換素子の断面構造を示す概念図である。
【図4】図1に示す構造の有機光電変換素子の電圧印加時のエネルギーダイアグラム(エネルギー準位図)の一例である。
【図5】図1に示す構造の他の有機光電変換素子の電圧印加時のエネルギーダイアグラム(エネルギー準位図)の例である。
【図6】図1に示す構造の他の有機光電変換素子の電圧印加時のエネルギーダイアグラム(エネルギー準位図)の例である。
【図7】入射光により生成された電荷を読み出す回路と、特定の光の波長選択機能を有する有機光電変換素子とを重ね合わせた単色固体撮像素子の概念図である。
【図8】図1の構造の有機光電変換膜において、注入電荷輸送抑制層の厚さの異なった試料の測定結果を示すテーブルである。
【図9】図1の構造の有機光電変換膜において、光電変換層に介挿する注入電荷輸送抑制層の数を異ならせた試料の測定結果を示すテーブルである。
【図10】図1の断面構造を有する有機光電変換膜における注入電荷輸送抑制層の有無の試料測定結果を示すテーブルである。
【図11】図1の断面構造を有する有機光電変換膜における注入電荷輸送抑制層の有無の試料測定結果を示すテーブルである。
【図12】本実施形態による誘起光電変換素子を用いたカラー撮像素子の断面構造を示す図である。
【図13】従来の有機光電変換素子の断面構造を示す概念図である。
【図14】従来の有機光電変換膜の電圧を印加しないときのエネルギーダイアグラムの一例である。
【図15】従来の有機光電変換膜に電圧を印加した状態のエネルギーダイアグラムの他の例である。
【図16】従来の有機光電変換膜に電圧を印加した状態のエネルギーダイアグラムの他の例である。
【符号の説明】
【0064】
41…陽極
42…正孔
43A,43B,43C…光電変換層
44,44A,44B…注入電荷輸送抑制層
45…陰極
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号を電気信号に変換する光電変換素子に係わり、光電変換を行う光電変換部に波長選択機能を有する有機光電変換材料を用いる有機光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、テレビカメラなどに用いられている撮像素子、すなわち光電変換素子においては、単結晶シリコンが光電変換部の材料として用いられている。
上記光電変換素子は、分光感度特性がブロードであり、青から赤まで可視光領域のすべての波長に対して感度を持つ。
このため、テレビカメラの解像度を低減させずにカラー対応とする際、入射光をRGBの3原色にプリズムにより分解し、各原色毎にそれぞれ光電変換素子を設けるカラー撮像システム、すなわち3板式が主流の構成となっている。
【0003】
しかし、この3板式のカラー撮像システムは、プリズム及び3つの光電変換素子が必要であるため、小型・軽量化が困難である。
このため、小型・軽量化が容易に行える単板式構造が提案されており、例えば光電変換素子の各画素上にRGBに対応する赤、緑及び青の色フィルタをベイヤーパターンに配列した構造が提案されている。
しかしながら、このベイヤーパターンの構造においては、青、緑及び赤のいずれか一色にて1画素を形成しているため、1画素につき真に得られる信号は1色のみで二色は周辺画素の信号から演算して求めることとなり、3板式に比較して偽色が発生しやすく、さらに所望の色以外の入射光は色フィルタにより吸収されてしまうため、入射した光の利用効率が低下する欠点がある。
【0004】
そのため、ある特定の波長の光、例えば赤、緑及び青の光のみを吸収し、この吸収した光に対し光電変換を行う有機材料を光電変換層とする有機光電変換素子、及び上記波長選択機能を有する有機光電変換素子において、入射光が光電変換されることで生成された電荷を読み出す読出回路を、2次元アレイ化した固体撮像素子、さらに3つの異なる色の波長の光、例えば赤、緑及び青の光に対し、それぞれ波長選択機能を有する光電変換素子を順次積層することにより、カラー固体撮像素子が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
現在主流の3板式カラー撮像システムを採用したカラーカメラと同等に高性能で、なおかつ小型軽量なカラーカメラを、上述した有機光電変換膜からなるカラー固体撮像素子を用いることで実現できると期待されている。
【0006】
図を用いて従来の有機光電変換素子について簡単に説明する。図13は、例えば陽極11、正孔注入阻止層12、光電変換層13及び陰極14からなる従来の有機光電変換素子の断面構造を示す概念図である。
この図においては、正孔注入阻止層12及び光電変換層13はいずれも有機材料を用いて形成されている。また、光電変換層13には、ある特定の色の波長の光のみを吸収して光電変換する有機材料を用いる。
【0007】
光電変換層13が正孔輸送性の有機材料にて形成される場合、陽極11から光電変換層13への正孔の注入を抑制する目的で、陽極11と光電変換層13との間に正孔注入阻止層12を設けることが多く行われている。この正孔注入阻止層12には、材料として可視光領域の光を透過する電子輸送性(正孔を輸送し難い)有機材料を用いる。
一方、光電変換層13が電子輸送性の有機材料にて形成される場合、上述と逆に、陰極14から光電変換層13に対する電子の注入を防止する目的で陰極14と光電変換層13との間に電子注入阻止層を設けることが多く行われている。この電子注入阻止層には、材料として可視光領域の光を透過する正孔輸送性(電子を輸送し難い)有機材料を用いる。
また、陽極11及び陰極14のいずれか一方、望ましくは双方が透明な導電性電極として形成されている。
【0008】
図13に示す従来の有機光電変換膜における理想的なエネルギー準位図を図14に示す。図14における符号Vは真空準位を示しており、符号W11は陽極11の仕事関数、符号H12及びL12はそれぞれ正孔注入阻止層12のHOMO準位・LUMO準位である。さらに、符号H13・L13はそれぞれ光電変換層13のHOMO準位・LUMO準位を示し、符号W14は陰極14の仕事関数を示している。
図13における有機光電変換膜に対し、陽極11に対して電圧Vpを印加し、陰極14に対して電圧Vpより低い電圧Vmを印加した場合、すなわち有機光電変換膜が入射光を光電変換して、光電流が発生する動作について図15を用いて説明する、図15は、例えば、陽極11に正の電圧Vpを印加し、陰極14に負の電圧Vmを印加した状態において、有機光電変換膜に光を照射すると、光電変換層13内では特定の色の波長の光(例えば、赤、緑及び青のいずれかの光)が吸収され、その強度に応じた電子・正孔対が発生する。
【0009】
発生した電子・正孔対は、光電変換層13に印加された電圧(Vp−Vm)による電界の効果により分離され、電子は正孔注入阻止層12を通じて陽極11に、正孔は陰極14にそれぞれ移動し外部に読出され、光電流として検出される。
【特許文献1】特開2003−158254号公報
【特許文献2】特開2003−234460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、光電変換層13が外部に正孔及び電子を移動することによって光電流を得るため、この光電変換層13における光電変換効率を向上させ、入射光に対して感度の良い有機光電変換膜を得るため、入射光により光電変換層13内に発生した電子・正孔対を効率よく分離する必要がある。
したがって、電子・正孔対を効率良く分離するため、光電変換層13内の電界を大きくする、すなわち陽極11と陰極14の間に印加する電圧を大きくすればよい。
【0011】
しかしながら、図16に示すように、陽極11と陰極14との間にある程度以上の電圧を印加した場合、陽極11から正孔注入阻止層12を超えて光電変換層13内に注入される正孔や陰極14から光電変換層13に注入される電子が大幅に増加してしまう。
上述のように光電変換層13に注入された正孔や電子が暗電流として検出されるため、有機光電変換膜の信号対雑音比(S/N)を低下させる要因になる。
【0012】
その対応として、暗電流を防ぐ手段として、陽極11から光電変換層13に正孔が注入しないように、図13における正孔注入阻止層12を厚膜化すること、あるいは正孔注入阻止層12のHOMO準位H12と陽極11の仕事関数W11のエネルギー準位差を大きくすること、また、陰極14から光電変換層13に電子が注入しないように、図13における光電変換層13のLUMO準位13と陰極14の仕事関数W14のエネルギー準位差を大きくすること、あるいは光電変換層13と陰極14の間に光電変換層13のLUMO準位L13に比べて小さなLUMO準位を有し、陰極14の仕事関数W14とのエネルギー準位差がより大きくなるような材料で形成された電子注入阻止層を挿入することが考えられる。
しかしながら、正孔注入阻止層12のHOMO準位H12と陽極11の仕事関数W11のエネルギー準位差を大きくする、および光電変換層13のLUMO準位L13と陰極14の仕事関数W14のエネルギー準位差を大きくするためには、用いる材料を見直さなければならない。
また、正孔注入阻止層12の厚膜化および電子注入阻止層を挿入した場合には、光電変換層13に印加される電圧が減少するので、光電変換効率を低下させる要因となってしまう。結果として従来の有機光電変換膜の構造においては、光電変換効向上と暗電流の低減とがトレードオフの関係にあり、光電変換効率を低下させずに暗電流を低減することが難しいという課題があった。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、暗電流を従来例に比較して低減し、かつ光電変換効率を従来の有機光電変換膜と同様、あるいは向上させることが可能な光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の有機光電変換素子は、陽極と、陰極と、これら電極間に介挿された有機半導体層からなる有機光電変換素子であって、前記有機半導体層が、光電変換層と、この光電変換層の間に形成された可視光領域の光を透過する有機材料からなる注入電荷輸送抑制層とから構成され、前記注入電荷輸送抑制層のHOMO準位・LUMO準位が、光電変換層に用いられている有機材料のHOMO準位・LUMO準位に比較し、いずれも大きい、またはいずれも小さい有機材料にて形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の有機光電変換素子は、前記光電変換層が特定の波長の光のみを吸収し、該光を光電変換する波長選択機能を有する有機材料で形成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の有機光電変換素子は、前記注入電荷輸送抑制層が0.5nm〜50nmの厚さで構成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の有機光電変換素子は、前記注入電荷輸送抑制層が前記光電変換層に1層あるいは複数層介挿されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の光センサは、上記いずれかの有機光電変換素子と、入射光により生成された電荷を読み出す読み出し回路を備えたことを特徴とする。
【0019】
本発明のカラー撮像素子は、上記いずれかの有機光電変換素子のなかで、青色に波長選択機能を有する有機光電変換素子と、緑色に波長選択機能を有する有機光電変換素子と、赤色に波長選択機能を有する有機光電変換素子と、前記各有機光電変換素子で生じた電荷を読み出す読み出し回路を順次積層して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、光電変換層を形成する有機材料のHOMO準位・LUMO準位に比較し、HOMO準位・LUMO準位が、いずれも大きいかいずれも小さく、なおかつ可視光領域の光を透過する注入電荷輸送抑制層を、電荷が輸送される方向に対して垂直に光電変換層に挿入することにより、電極から注入される電荷の電極間における移動が抑制され、暗電流を減少させることが可能となる。
また、本発明によれば、入射光により発生した信号電荷(電子および正孔)の電極間における移動も抑制されるが、一方で、電荷注入輸送抑制層と光電変換層とのエネルギー準位差を有する接触面における酸化還元反応により、入射光により発生した電子・正孔対の分離が接触面近傍で促進されるため、全体として光電変換効率の高い有機光電変換膜が得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(実施の形態1)
以下、図1を用いて本発明による有機光電変換素子を説明する。図1は本発明の有機光電変換素子の断面構成を示す概念図である。
この図において、本発明の有機光電変換素子は、例えば、陽極41、正孔注入阻止層42、光電変換層43A、注入電荷輸送抑制層44、光電変換層43B、陰極45から構成されている。図13の従来例と異なる点は、光電変換層43A及び43Bの間に注入電荷輸送抑制層44が挿入されている点である。
図1の有機光電変換素子は、陰極45に対し陽極41に比較して低い電圧、例えば陰極45に対して負の電圧、陽極41に対して正の電圧が印加されている状態にて動作、すなわち上記光電変換層43A及び43Bの吸収した光量に対応した電荷を生成し、この電荷に応じた電流が流れる。図1の断面構造を有する有機光電変換素子の電圧が印加されていないときの各層のエネルギー準位を図2に示す。
【0022】
ここで、上記陽極41及び陰極45には、形成材料として、例えばインジウム酸化物(IO)、インジウム・スズ酸化物(ITO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)などの金属酸化物をスパッタ法や加熱蒸着法などを利用して10nm〜300nmの厚さで堆積した透明導電性薄膜を用いる。また、陽極41及び陰極45には、白金、金、銀、アルミニウムなどの金属材料を加熱蒸着法やスパッタ法あるいは電子ビーム蒸着法などを用い、5nm〜30nmと薄く堆積した半透明金属薄膜を用いても良い。
【0023】
また、光電変換層43A及び43Bには、形成材料として、特定の波長の光を吸収する波長選択機能を有する有機光電変換材料であれば何を用いてもよいが、例えばスチルベン誘導体、ベンゾキサゾール誘導体、縮合芳香族炭素環(ペリレン誘導体、アントラセン誘導体、テトラセン誘導体など)、メロシアニン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ジアミン誘導体、チオフェン誘導体、PtやEu(ユウロピウム)、Sn、AI、Ir、Znなどの金属錯体、DCM誘導体、アゾ系有機顔料、多環式系有機顔料(フタロシアニン類、キナクリドン類、ポルフィリン類など)を蒸着法や塗布法を利用して30nm〜300nmの厚さで堆積した薄膜を用いることができる。すなわち、光電変換層43A及び43Bは、入射光における特定の波長の光を吸収し、電子正孔対を生成するものであり、それ以外の波長の入射光の成分を透過させる。
また、光電変換層43A及び43Bには、上記有機材料を複数種混合した薄膜あるいは積層した薄膜を用いても良い。
【0024】
陽極41から光電変換層43に注入され、ノイズとして検出される正孔を抑制するため、正孔注入阻止層42には、可視光領域の光を透過する電子輸送性の有機材料で、かつ光電変換層43のHOMO準位H43に比べて大きいHOMO準位を有する材料であれば何を用いてもよいが、例えばチオフェン誘導体、ベンゾキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアジン誘導体、スチルベン誘導体、ペリレン誘導体、TCNQ誘導体、SnやA1、Znなどの金属錯体、フラーレン、縮合芳香族炭素環を蒸着法や塗布法を利用して10nm〜100nmの厚さで堆積した薄膜を用いることができる。
【0025】
注入電荷輸送抑制層44には、光電変換層43A及び43Bを形成する材料のHOMO準位及びLUMO準位に比較して、HOMO準位、LUMO準位のいずれも大きいかあるいはいずれも小さく、可視光領域の光を透過する有機材料であれば何を用いてもよい。
ここで、注入電荷輸送抑制層44には、上述したHOMO準位及びLUMO準位を有する、例えば、チオフェン誘導体、ベンゾキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアジン誘導体、スチルベン誘導体、ペリレン誘導体、TCNQ誘導体、SnやAl、Znなどの金属錯体、フラーレン、縮合芳香族炭素環、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、トリフェニレン誘導体、トリフェニルアミン誘導体を用いることができる。
【0026】
また、注入電荷輸送抑制層44には、すでに述べた正孔注入阻止層42と同一の材料で形成してもよいし、異なる材料で形成してもよい。
また、注入電荷輸送抑制層44は、蒸着法や塗布法を利用して0.5nm〜50nmの厚さにて、より望ましくは1nm〜20nmの厚さにて、光電変換層43A及び43Bに比較して薄く形成する。ここで、注入電荷輸送抑制層44の厚さは、設計値として、陽極41及び陰極45間に印加される電圧が分圧された際に、光電変換層43A及び43Bに電子正孔対の発生及び分離に必要な電圧が印加される厚さに制御される必要がある。
さらに、上記光電変換層間に複数の、例えば2層〜5層の注入電荷輸送抑制層を挿入してもよく、例えば図3に示すように、光電変換層43A、43B及び43Cのそれぞれの間に、電荷輸送44A、44Bの2層を挿入しても良い。
【0027】
また、図1及び図3に示す形態のほかに、正孔注入阻止層42を省いた形態や光電変換層43Bと陰極45との間に電子注入阻止層を有する構成としてもよい。
図1の構成において、陰極45から注入され光電変換層43Bに注入されてノイズとして検出される電子を抑制するため、電子注入阻止層は光電変換層43BのLUMO準位に対し、低いLUMO準位を有する有機材料を用いる。ここで、光電変換層43A及び43Bに電子輸送性を有する材料が用いられている場合に、特に有効に電子注入阻止層が機能する。
ここで、電子注入阻止層には、可視光領域の光を透過する正孔輸送性の有機材料であれば何を用いてもよいが、例えばチオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、トリフェニレン誘導体、トリフェニルアミン誘導体などを用いることができる。
【0028】
次に、図1に示す構成の動作について、図4を用いて説明する。
図4の構成は、光電変換膜43A及び43BのHOMO準位及びLUMO準位に比較して、それぞれのエネルギー準位より大きいHOMO準位、LUMO準位を有し、かつ可視光領域の波長の光を透過する注入電荷輸送抑制層45を、光電変換膜43A及び43Bの厚さに比較して薄く挿入した有機光電変換素子の各膜のエネルギー準位図を示している。
図4に示すように、正孔が陽極41から正孔注入阻止層42を超え、光電変換層43Aに達したとしても、この正孔は光電変換層43AのHOMO準位と、注入電荷輸送抑制層44のHOMO準位との境界におけるエネルギー障壁のために、光電変換層43Bへの移動が抑制され、注入電荷輸送抑制層44を挿入しない場合に比較して陽極41と対向する陰極45に到達しにくくなる。
【0029】
同様に、陰極45から光電変換層43Bに注入された電子は、注入電荷輸送抑制層44のLUMO準位と光電変換層43AのLUMO準位との境界におけるエネルギー障壁により、陰極45と対向する陽極41に到達しにくくなる。
すなわち、有機光電変換素子において、光電変換層43A及び43Bの間に注入電荷輸送抑制層44を、光電変換膜43A及び43Bの厚さに比較して薄く挿入することにより、陽極41から注入される正孔と、陰極45から注入される電子との移動を抑制することができ、暗電流を低減する効果がある。
【0030】
一方、注入電荷輸送抑制層44の膜厚が光電変換層43A及び43Bに比較して薄いため、光電変換層43Aおよび43Bに印加される分圧は、光電変換層43A及び43Bに注入電荷輸送抑制層44を挿入しない場合に比較して、ほとんど低下せず同等の電圧が印加される。
また、光電変換層43A及び43B内の電界による電子正孔対の分離効果に加え、注入電荷輸送抑制層44と光電変換層43Bとの間の境界のエネルギー差、すなわち領域Xにおける酸化還元反応の効果により、注入電荷輸送抑制層44と光電変換層43Bの界面近傍において、入射光により光電変換層43B内に生成された電子正孔対の分離が促進される。図4においては、光電変換層43BのLUMO準位が注入電荷輸送抑制層44のLUMO準位に比較して小さいため、電子正孔対における電子がより安定した準位に落ち、正孔が陰極45に輸送される。
結果として、光電変換層43に注入電荷輸送抑制層45を挿入した場合でも、有機光電変換膜の光電変換効率は低下せず、あるいは向上する。
【0031】
また、図5に示すように、光電変換層44を形成する有機材料のHOMO準位及びLUMO準位各々に比較して、いずれも小さいHOMO準位・LUMO準位を有し、かつ可視光領域の波長の光を透過する注入電荷輸送抑制層44を、有機光電変換膜の光電変換層43A及び43Bの間に、光電変換層43A及び光電変換層43Bの厚さに比較して薄く挿入した場合も図4の構成と同様の効果が得られる。
この図5の構成として、光電変換層43A及び43B内の電界による電子正孔対の分離効果に加え、光電変換層43Aと注入電荷輸送抑制層44との間の境界のエネルギー差、すなわち領域Yにおける酸化還元反応の効果により、光電変換層43Aと注入電荷輸送抑制層44との界面近傍において、入射光により光電変換層43A内に生成された電子正孔対の分離が促進される。図5においては、光電変換層43AのHOMO準位が注入電荷輸送抑制層44のHOMO準位に比較して大きいため、電子正孔対における正孔がより安定した準位に落ち、電子が陽極41に輸送される。
【0032】
また、図6に示すように、光電変換層43A及び43Bを形成する有機材料のHOMO準位及びLUMO準位各々に比較して、HOMO準位に比較して大きいHOMO準位を有し、かつLUMO準位に比較して小さいLUMO準位を有し、さらに可視光領域の波長の光を透過する注入電荷輸送抑制層44を有機光電変換膜の光電変換層43A及び43Bの間に、光電変換層43A及び43Bの厚さに比較して薄く挿入する構成としても良い。
この図6の構成の場合、注入電荷輸送抑制層44と光電変換層43Aあるいは注入電荷輸送抑制層43Bとの間の酸化還元反応が働かないため、すでに述べた構成に比較して電子正孔対の分離効率が低下し、光電変換効率は低下するが、一方、暗電流を大きく低減する効果がある。
【0033】
また、上述した有機光電変換素子を光センサの光電変換部とし、入射し吸収した光により発生した電荷(電子あるいは正孔)を読み出すため、この電荷読み出し手段としては、例えば、従来から用いられているCMOS(Complimentary Metal Oxide Semiconductor)、あるいはCCD(Charge Coupled Device)、TFT(Thin Film Transistor)などを用いた読出し回路を用いることが可能である。
ここで、図7のように上述した電荷読出し回路を2次元アレイ化し、入射光により生成された電荷を読み出す回路上に、特定の光の波長選択機能を有する有機光電変換素子を形成した、特定の波長の光を検出する単色固体撮像素子を形成することもできる。この際、有機光電変換素子は画素に区切らずともよい。
【0034】
また、上述した単色固体撮像素子について、R(赤色)の光の波長選択機能を有する第1の単色固体撮像素子と、G(緑色)の光の波長選択機能を有する第2の単色固体撮像素子及び、B(青色)の光の波長選択機能を有する第3の単色固体撮像素子を用意し、それぞれを順次積層したカラー固体撮像素子を形成することができる。1画素にて3色の輝度情報を取得することが可能で、かつ従来のようにプリズムや複数の固体撮像素子を設ける必要がないため、小型・軽量であり、かつ光の利用効率の高い高解像度なカラーカメラを実現できる。
【0035】
<応用例1>
図1における有機光電変換素子を、光電変換層43A及び43Bの有機材料として、緑色の光に感度を有し、正孔輸送性を有するキナクリドン誘導体を用いた場合、このキナクリドン誘導体のHOMO準位及びLUMO準位各々に比較して、HOMO準位、LUMO準位それぞれが小さいトリフエニルアミン誘導体を注入電荷輸送抑制層44に用いる構成として作成する。
【0036】
応用例1における図1に示す有機光電変換素子の作製方法を以下に説明する。
洗浄したガラス基板上に陽極41としてITOを30nmの厚さにて、スパッタ法により蒸着して形成する。
次に、上記ITO上に、正孔注入阻止層42としてアルミニウムキノリン(Alq3)を30nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
そして、上記正孔注入阻止層42上に、光電変換層43Aとしてキナクリドン誘導体を50nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
【0037】
この光電変換層43A上に、注入電荷輸送抑制層44としてトリフエニルアミン誘導体を抵抗加熱蒸着により形成する。
次に、上記注入電荷輸送抑制層44上に、光電変換層43Bとしてキナクリドン誘導体を50nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
ここで、上記正孔注入阻止層42と、光電変換層43Aと、注入電荷輸送抑制層44と、光電変換層43Bとを連続して抵抗加熱蒸着した。
そして、上記光電変換層43B上に、陽極41の対向電極である陰極45を、陽極41と同様にスパッタ法により形成した。
【0038】
上記形成において、注入電荷輸送抑制層44の厚さを複数の異なる厚さ、例えば0nm(注入電荷輸送抑制層44を形成していない)、1nm、10nm、20nm、50nm、100nmと変えた6つの試料を作製し、それぞれの電気特性の測定を行った。
上記6つの試料の測定結果として、設定された一定強度の入射光において、注入電荷輸送抑制層の厚さと、注入電荷輸送抑制層44が0nmの厚さにおける生成される電子正孔対による電流値を1とした相対信号電流値と、暗電流の実測値との対応を示すテーブルを図8に示す。
【0039】
測定条件としては、陽極41及び陰極45の間に、20Vの電圧を印加した状態にて、波長550nm、強度50μW/cm2の光を入射した場合において、それぞれの試料の信号電流および暗電流を比較した。
ここで、信号電流値は上述したように、注入電荷輸送抑制層44の厚さが0nmの試料の信号電流値を1とした場合の相対電流値で表している。
注入電荷輸送抑制層44の厚さが1nm〜50nmの各試料は、注入電荷輸送抑制層44の厚さが0nmの試料に比べて信号電流値が大きくなっており、特に注入電荷輸送抑制層44の厚さが10nmの試料では1.5倍であった。
【0040】
一方、暗電流値については、注入電荷輸送抑制層44の厚さが厚くなるにつれて減少し、100nmの厚さにては測定限界を下回る数値まで減少している。
この結果から、注入電荷輸送抑制層44を光電変換層43A及び43Bの厚さに比較して薄い膜として、光電変換層43A及び43Bの間に挿入することにより、暗電流を小さくし、従来例に対して光電変換効率が同等あるいは高い有機光電変換素子が得られることが確認できた。
【0041】
<応用例2>
応用例1と同様に緑色に感度を有するキナクリドン誘導体で形成された光電変換層の間に、キナクリドン誘導体のHOMO準位及びLUMO準位に比較して、HOMO準位、LUMO準位のいずれもが小さいエネルギー準位を有するトリフエニルアミン誘導体で形成された注入電荷輸送抑制層を複数層、例えば0層、2層、5層及び10層有する4つの有機光電変換素子を作製した。
応用例2における図3(例えば、注入電荷輸送抑制層が2層に相当)に示す有機光電変換素子の作製方法を以下に説明する。
【0042】
洗浄したガラス基板上に陽極41としてITOを30nmの厚さにて、スパッタ法により蒸着して形成する。
次に、上記ITO上に、正孔注入阻止層42としてアルミニウムキノリン(Alq3)を30nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
そして、上記正孔注入阻止層42上に、光電変換層43Aとしてキナクリドン誘導体を抵抗加熱蒸着により形成する。
【0043】
この光電変換層43A上に、注入電荷輸送抑制層44Aとしてトリフエニルアミン誘導体を抵抗加熱蒸着により5nmの厚さに形成する。
次に、上記注入電荷輸送抑制層44A上に、光電変換層43Bとしてキナクリドン誘導体を抵抗加熱蒸着により形成する。
この光電変換層43B上に、注入電荷輸送抑制層44Bとしてトリフエニルアミン誘導体を抵抗加熱蒸着により5nmの厚さに形成する。
【0044】
そして、上記注入電荷輸送抑制層44B上に、光電変換層43Cとしてキナクリドン誘導体を抵抗加熱蒸着により形成する。
ここで、上記正孔注入阻止層42と、光電変換層43Aと、注入電荷輸送抑制層44Aと、光電変換層43B、注入電荷輸送抑制層44Bと、光電変換層43Cとを連続して抵抗加熱蒸着し、光電変換層(キナクリドン誘導体)は全体で100nmの厚さになるように形成した。
そして、上記光電変換層43C上に、陽極41の対向電極である陰極45を、陽極41と同様にスパッタ法により形成した。
【0045】
上記形成において、光電変換層の間に介挿する注入電荷輸送抑制層の数を0層、2層、5層及び10層の層数と変えた4つの試料を作製し、それぞれの電気特性の測定を行った。
上記光電変換層に介挿する各注入電荷輸送抑制層の1層あたりの厚さは、光電変換層中に注入電荷輸送抑制層を2層、5層及び10層有する光電変換膜の場合、それぞれ5nm、 2nm、1nmの厚さとなるように形成し、さらに光電変換層中に注入電荷輸送抑制層を均等に挿入した。
上記4つの試料の測定結果として、設定された一定強度の入射光において、注入電荷輸送抑制層における注入電荷輸送抑制層の層の数と、注入電荷輸送抑制層44が0層、すなわち挿入されていない場合に生成される電子正孔対による電流値を1とした相対信号電流値と、暗電流の実測値との対応を示すテーブルを図9に示す。
【0046】
図9は陽極41と陰極45との間に20Vの電圧を印加した状態において、波長550nm、強度50μW/cm2の光を入射した場合、それぞれの試料の信号電流および暗電流を比較したものである。
ここで、上述したように、信号電流値は注入電荷輸送抑制層が0層、すなわち光電変換層に注入電荷輸送抑制層が介挿されていない試料における信号電流値を1とした相対電流値で表している。
光電変換層中に注入電荷輸送抑制層を2層及び5層有する試料は、注入電荷輸送抑制層が挿入されていない試料に比較して、信号電流値が大きくなっている。
一方、暗電流値は、注入電荷輸送抑制層の数が増えるに従って減少している。この結果から、複数の注入電荷輸送抑制層を光電変換層に薄く挿入する場合において、暗電流が小さく光電変換効率が従来例と同等あるいは高い有機光電変換素子が得られるという本発明の効果が確認できた。
【0047】
<応用例3>
図1における有機光電変換素子を、光電変換層43A及び43Bの有機材料として、青色の光に感度を有し、正孔輸送性を有するポルフィリン誘導体を用いた場合、このポルフィリン誘導体のHOMO準位及びLUMO準位各々に比較して、HOMO準位、LUMO準位がそれぞれ大きいA1錯体(アルミニウムキノリン)を注入電荷輸送抑制層44に用いる構成として作製する。
【0048】
応用例3における図1に示す有機光電変換素子の作製方法を以下に説明する。
洗浄したガラス基板上に陽極41としてITOを30nmの厚さにて、スパッタ法により蒸着して形成する。
次に、上記ITO上に、正孔注入阻止層42としてアルミニウムキノリン(Alq3)を30nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
そして、上記正孔注入阻止層42上に光電変換層43Aとしてポルフィリン誘導体を40nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
【0049】
この光電変換層43A上に、注入電荷輸送抑制層44として正孔注入阻止層42と同じアルミニウムキノリンを10nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
次に、上記注入電荷輸送抑制層44上に、光電変換層43Bとしてポルフィリン誘導体を40nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
ここで、上記正孔注入阻止層42と、光電変換層43Aと、注入電荷輸送抑制層44と、光電変換層43Bとを連続して抵抗加熱蒸着した。
そして、上記光電変換層43B上に、陽極41の対向電極である陰極45を、陽極41と同様にスパッタ法により形成した。
【0050】
上記形成において、注入電荷輸送抑制層44を有無とした2つの試料を作製し、それぞれの電気特性の測定を行った。
上記の試料の測定結果として、設定された一定強度の入射光において、注入電荷輸送抑制層の有無と、注入電荷輸送抑制層44がない試料における生成される電子正孔対による電流値を1とした相対信号電流値と、暗電流の実測値との対応を示すテーブルを図10に示す。
【0051】
測定条件としては、陽極41及び陰極45の間に、25Vの電圧を印加した状態にて、波長480nm、強度50μW/cm2の光を入射した場合においてそれぞれの試料の信号電流及び暗電流を比較した。
ここで、信号電流値は上述したように注入電荷輸送抑制層44がない試料の信号値を1とした場合の相対電流値で表している。
注入電荷輸送抑制層44が有る場合の試料は無い場合の試料に比べて信号電流値が約1割5分大きくなった。
【0052】
一方、暗電流については、注入電荷輸送抑制層44を入れることによって小さくなっている。
この結果から、注入電荷輸送抑制層44を光電変換層43A及び43Bの厚さに比較して薄い膜として、光電変換層43A及び43Bの間に挿入することにより、暗電流を小さくし、従来例に対して光電変換効率が同等あるいは高い有機光電変換素子が得られることが確認できた。
【0053】
<応用例4>
図1における有機光電変換素子を、光電変換層43A及び43Bの有料材料として、赤色の光に感度を有し、正孔輸送性を有する亜鉛フタロシアニンを用いた場合、この亜鉛フタロシアニンのHOMO準位及びLUMO準位各々に比較して、HOMO準位に比較して大きいHOMO準位有し、かつLUMO準位に比較して小さいLUMO準位を有するトリフェニルアミン誘導体を注入電荷輸送抑制層44に用いる構成として作製する。
【0054】
上記応用例4における図1に示す有機光電変換素子の作製方法を以下に説明する。
洗浄したガラス基板上に陽極41としてITOを30nmの厚さにて、スパッタ法により蒸着して形成する。
次に、上記ITO上に正孔注入阻止層42としてアルミニウムキノリン(Alq3)を30nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
そして、上記正孔注入阻止層42上に光電変換層43Aとして亜鉛フタロシアニンを50nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
【0055】
この光電変換層43A上に、注入電荷輸送抑制層44としてトリフェニルアミン誘導体を10nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
次に、上記注入電荷輸送抑制層44上に、光電変換層43Bとして亜鉛フタロシアニンを50nmの厚さに抵抗加熱蒸着により形成する。
ここで、上記正孔注入阻止層42と光電変換層43Aと、注入電荷輸送抑制層44と、光電変換層43Bとを連続して抵抗加熱蒸着した。
そして、上記光電変換層43B上に、陽極41の対向電極である陰極45を、陽極41と同様にスタッパ法により形成した。
【0056】
上記形成において、注入電荷輸送抑制層44を有無とした2つの試料を作製し、それぞれの電気特性の測定を行った。
上記の試料の測定結果として、設定された一定強度の入射光において、注入電荷輸送抑制層の有無と、注入電荷輸送抑制層44がない試料における生成される電子正孔対による電流値を1とした相対信号電流値と、暗電流の実測値との対応を示すテーブルを図11に示す。
【0057】
測定条件としては、陽極41及び陰極45の間に、30Vの電圧を印加した状態にて、波長650nm、強度50μW/cm2の光を入射した場合において、それぞれの試料の信号電流及び暗電流を比較した。
ここで、信号電流値は上述したように注入電荷輸送抑制層44がない試料の信号電流値を1とした相対電流値で表している。
注入電荷輸送抑制層44を入れることで信号電流値は約3割減少した。
【0058】
一方、暗電流については、注入電荷輸送抑制層44を入れることによって小さくなっている。
この結果から、光電変換層43A及び43BのHOMO準位に比較して大きいHOMO準位を有し、かつLUMO準位に比較して小さいLUMO準位を有する注入電荷輸送抑制層44を光電変換層43A及び43Bの厚さに比較して薄い膜として、光電変換層43A及び43Bの間に挿入することにより、暗電流の小さい有機光電変換素子が得られることが確認できた。
【0059】
(実施の形態2)
図7に示されるように、応用例1記載の有機光電変換素子を2次元アレイ化された読出し回路上に形成し、単色固体撮像素子を作製した。形成方法は応用例1と同様である。
ここで読み出し回路は、従来から用いられているMOSトランジスタによるスイッチング回路を用いることができる。例えば、特開2006−86493の図4の例を適用できる。すなわち、図7の有機光電変換素子の上側を光入射方向とした場合、光入射方向の電極は全画素共通の透明電極とし、読み出し回路側は画素毎に設けられた電極として、電極間に電圧を印加することにより、電極と電極との間に生じる電界によって入射光により光導電層で生じた電荷が電極まで達し、さらに読み出し回路のMOSトランジスタの電荷蓄積部まで移動して、電荷蓄積部に電荷が蓄積される。電荷蓄積部の電荷はMOSトランジスタのスイッチングにより2次元的に読み出され、電気信号として出力されるものである。
有機光電変換素子として応用例3の有機材料を用いれば青色、応用例1ならば緑色、応用例4ならば赤色をそれぞれ吸収する分光感度に対応した光センサとできる。
【0060】
(実施の形態3)
青色用有機光電変換素子、緑色用有機光電変換素子、赤色用有機光電変換素子を積層し、さらに2次元読み出し回路を設ければカラー撮像素子を形成できる。
この場合、例えば図12に示す特開2006−86493の例のように、青色用有機光電変換素子123、緑色用有機光電変換素子118、赤色用有機光電変換素子113の各有機光電変換素子の間はそれぞれ透明絶縁膜120、115により絶縁され、また赤色用有機光電変換素子113と、読み出し回路100との間は絶縁膜110及び119により絶縁されている。光入射側の電極125は透明で全画素共通であり、光入射側でない方の電極は各画素毎の透明のモザイク状電極である(最下側は透明でなくてもよい)。ここで、各有機光電変換素子は透明電極間にR、G、Bそれぞれの色に対応した波長選択機能を有する有機光電変換材料の薄膜を有する本実施形態の構成となる素子である。
モザイク状の各画素毎の電極はMOSトランジスタの電荷蓄積部102と配線122により電気的に接続されており、これらは途中にある有機光電変換素子とは絶縁されている。電圧が印加されて光電変換層で発生した電荷は電極に到達し、MOSトランジスタの電荷蓄積部102に蓄積される。これが2次元的に読み出されるので、各有機光電変換素子毎の電荷に対応した電気信号は独立に処理可能であり、従って、図12の構成に対して、本発明の光電変換素子を適用することにより、容易にカラー撮像素子を構成できる。
【0061】
あるいは、特開2005−51115の図5の積層型撮像素子のように、複数の薄膜トランジスタアレイと、複数の受光部が積層された構造により、カラー撮像素子を構成できる。
ここで、各受光部は、R、G、Bのそれぞれの色に対応した波長選択機能を有する有機光電変換材料の薄膜を有する本発明の有機光電変換素子により構成することができる。
上述したカラー撮像素子において、電圧が印加されたR、G、Bの各受光部から、受光により発生した電荷がそれぞれ対応する薄膜トランジスタの電極に到達する。これら電荷が各受光部から薄膜トランジスタにより2次元的に読み出され、各薄膜トランジスタアレイからR、G、Bに対応した電気信号が得られる。従って、上述した構造によりカラー撮像素子が構成できる。
【0062】
上述したように、本発明においては、光電変換層に用いられる有機材料に比べてHOMO準位・LUMO準位がいずれも大きくあるいはいずれも小さく、なおかつ可視光領域の光を透過し、さらに電荷輸送性を有する有機材料で形成された注入電荷輸送抑制層を、光電変換層の中に0.5nm〜50nmの厚さにて1層あるいは複数層を挿入している。
本発明は、上記構成により、従来例に比較して、光電変換層と、この光電変換層の間に挿入した注入電荷輸送抑制層とのエネルギー準位差によって、陽極41及び陰極45から注入される電荷(正孔及び電子)の移動が抑制されるため暗電流が小さく、また上記エネルギー準位差による酸化還元反応により電子正孔対の分離が促進され、光電変換効率の高い有機光電変換素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態による有機光電変換素子の断面構造を示す概念図である。
【図2】図1に示す断面構造の有機光電変素子の電圧を印加しないときの各層のエネルギーダイアグラム(エネルギー準位図)を示す図である
【図3】本発明の実施形態による他の有機光電変換素子の断面構造を示す概念図である。
【図4】図1に示す構造の有機光電変換素子の電圧印加時のエネルギーダイアグラム(エネルギー準位図)の一例である。
【図5】図1に示す構造の他の有機光電変換素子の電圧印加時のエネルギーダイアグラム(エネルギー準位図)の例である。
【図6】図1に示す構造の他の有機光電変換素子の電圧印加時のエネルギーダイアグラム(エネルギー準位図)の例である。
【図7】入射光により生成された電荷を読み出す回路と、特定の光の波長選択機能を有する有機光電変換素子とを重ね合わせた単色固体撮像素子の概念図である。
【図8】図1の構造の有機光電変換膜において、注入電荷輸送抑制層の厚さの異なった試料の測定結果を示すテーブルである。
【図9】図1の構造の有機光電変換膜において、光電変換層に介挿する注入電荷輸送抑制層の数を異ならせた試料の測定結果を示すテーブルである。
【図10】図1の断面構造を有する有機光電変換膜における注入電荷輸送抑制層の有無の試料測定結果を示すテーブルである。
【図11】図1の断面構造を有する有機光電変換膜における注入電荷輸送抑制層の有無の試料測定結果を示すテーブルである。
【図12】本実施形態による誘起光電変換素子を用いたカラー撮像素子の断面構造を示す図である。
【図13】従来の有機光電変換素子の断面構造を示す概念図である。
【図14】従来の有機光電変換膜の電圧を印加しないときのエネルギーダイアグラムの一例である。
【図15】従来の有機光電変換膜に電圧を印加した状態のエネルギーダイアグラムの他の例である。
【図16】従来の有機光電変換膜に電圧を印加した状態のエネルギーダイアグラムの他の例である。
【符号の説明】
【0064】
41…陽極
42…正孔
43A,43B,43C…光電変換層
44,44A,44B…注入電荷輸送抑制層
45…陰極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、これら電極間に介挿された有機半導体層からなる有機光電変換素子であって、
前記有機半導体層が、
光電変換層と、
この光電変換層の間に形成された可視光領域の光を透過する有機材料からなる注入電荷輸送抑制層と
から構成され、
前記注入電荷輸送抑制層のHOMO準位・LUMO準位が、光電変換層に用いられている有機材料のHOMO準位・LUMO準位に比較し、いずれも大きい、またはいずれも小さい有機材料にて形成されていることを特徴とする有機光電変換素子。
【請求項2】
前記光電変換層が特定の波長の光のみを吸収し、該光を光電変換する波長選択機能を有する有機材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機光電変換素子。
【請求項3】
前記注入電荷輸送抑制層が0.5nm〜50nmの厚さで構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機光電変換素子。
【請求項4】
前記注入電荷輸送抑制層が前記光電変換層に1層あるいは複数層介挿されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の有機光電変換素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかの有機光電変換素子と、入射光により生成された電荷を読み出す読み出し回路を備えた光センサ。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかの有機光電変換素子のなかで、青色に波長選択機能を有する有機光電変換素子と、緑色に波長選択機能を有する有機光電変換素子と、赤色に波長選択機能を有する有機光電変換素子と、前記各有機光電変換素子で生じた電荷を読み出す読み出し回路を順次積層したカラー撮像素子。
【請求項1】
陽極と、陰極と、これら電極間に介挿された有機半導体層からなる有機光電変換素子であって、
前記有機半導体層が、
光電変換層と、
この光電変換層の間に形成された可視光領域の光を透過する有機材料からなる注入電荷輸送抑制層と
から構成され、
前記注入電荷輸送抑制層のHOMO準位・LUMO準位が、光電変換層に用いられている有機材料のHOMO準位・LUMO準位に比較し、いずれも大きい、またはいずれも小さい有機材料にて形成されていることを特徴とする有機光電変換素子。
【請求項2】
前記光電変換層が特定の波長の光のみを吸収し、該光を光電変換する波長選択機能を有する有機材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機光電変換素子。
【請求項3】
前記注入電荷輸送抑制層が0.5nm〜50nmの厚さで構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機光電変換素子。
【請求項4】
前記注入電荷輸送抑制層が前記光電変換層に1層あるいは複数層介挿されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の有機光電変換素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかの有機光電変換素子と、入射光により生成された電荷を読み出す読み出し回路を備えた光センサ。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかの有機光電変換素子のなかで、青色に波長選択機能を有する有機光電変換素子と、緑色に波長選択機能を有する有機光電変換素子と、赤色に波長選択機能を有する有機光電変換素子と、前記各有機光電変換素子で生じた電荷を読み出す読み出し回路を順次積層したカラー撮像素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−117480(P2009−117480A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286479(P2007−286479)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】
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