説明

有機光電変換素子および太陽電池

【課題】本発明の目的は光電変換効率が高く耐久性に優れる有機光電変換素子、それを用いた太陽電池を提供することにある。
【解決手段】透明な基板上に、透明な第一の電極、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料とを含有する光電変換層、および第二の電極をこの順に有する有機光電変換素子であって、該光電変換層が、該p型有機半導体材料として下記一般式1で表される部分構造を有する化合物を含有することを特徴とする有機光電変換素子。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機光電変換素子、太陽電池に関し、更に詳しくは、バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子、この有機光電変換素子を用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の化石エネルギーの高騰によって、自然エネルギーから直接電力を発電できるシステムが求められており、単結晶・多結晶・アモルファスのSiを用いた太陽電池、GaAsやCIGS(銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)からなる半導体材料)などの化合物系の太陽電池、あるいは色素増感型光電変換素子(グレッツェルセル)などが提案・実用化されている。
【0003】
しかしながら、これらの太陽電池で発電するコストは、未だ化石燃料を用いて発電・送電される電気の価格よりも高いものとなっており、普及の妨げとなっていた。また、基板に重いガラスを用いなければならないため、設置時に補強工事が必要であり、これらも発電コストが高くなる一因であった。
【0004】
このような状況に対し、化石燃料による発電コストよりも低い発電コストを達成しうる太陽電池として、透明電極と対電極との間に電子供与体層(p型半導体層)と電子受容体層(n型半導体層)とが混合された光電変換層を挟んだバルクヘテロジャンクション型光電変換素子が提案され、5%を超える効率が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
これらのバルクヘテロジャンクション型光電変換素子を用いた太陽電池においては、アノード・カソード以外は塗布プロセスで形成されているため、高速且つ安価で製造が可能であると期待され、前述の発電コストの課題を解決できる可能性がある。更に、上記のSi系太陽電池、半導体系太陽電池、色素増感太陽電池などと異なり、160℃より高温のプロセスがないため、安価且つ軽量なプラスチック基板上への形成も可能であると期待される。
【0006】
しかし発電コストの削減のためには、さらなる効率向上が求められており、有機薄膜太陽電池において光電変換効率10%以上を出すためには、非特許文献2ではp型半導体として特定のバンドギャップ(bg)およびLUMO準位を有する化合物が必要とされている。
【0007】
しかし、この条件は必要条件であり、実際に光電変換効率10%を出すためにはさらに複数の条件を満たすことが必要である。前記非特許文献2においては、外部量子効率(EQE)が65%、および曲線因子(FF)が65%という2つの条件が前提条件として設定されている。
【0008】
ここで外部量子効率(EQE)とは、スペクトルに分解された太陽光の光子1つからどれくらいの電子を発生できるかを示す値であり、曲線因子(FF)とは、太陽電池内部の抵抗とかかわる値であり、IV特性上の実際の最大電力と、開放電圧と短絡電流の積の比である。逆にいえば、曲線因子という係数を設定することで、照射光が太陽光であれば、太陽電池の効率は以下の簡略な式で表されることになる。
【0009】
光電変換効率(%)=開放電圧(V)×短絡電流密度(mA/cm)×曲線因子(FF)
なお外部量子効率×理論Jscの積分が短絡電流密度であるため、外部量子効率(EQE)および曲線因子(FF)が太陽電池の効率に非常に重要な要素であることが分かる。
【0010】
この曲線因子および外部量子効率に関係する特性として、p型半導体材料の移動度を挙げることができる。
【0011】
移動度が高ければ、太陽電池内部の直列抵抗は低くなり、曲線因子を向上させることができる。また、キャリアを取り出せる長さは移動度とキャリア寿命および内蔵電界の積であるため、理想的には移動度が高い材料ほど厚い発電層を作製することができ、吸光度を上げることができるため、高い外部量子効率を狙うことができる。
【0012】
したがって、高い移動度を有することが一つの重要な条件となるが、移動度は一般に非晶性よりも結晶性材料が高いため、結晶性のp型半導体材料を選択することが重要な要素となる。有機材料の結晶性を向上させるためには、なるべく平面性の高い材料であることが重要である。
【0013】
一方、高移動度の化合物としてカルコゲン原子を含むヘテロピレン系化合物が、特許文献1に記載のように有機半導体薄膜に用いることが知られているが、この化合物をそのまま有機薄膜太陽電池に適用しても光電変換機能はほとんど果たさない。
【0014】
また、光電変換効率の向上のためにインデノピレン化合物を用いた有機薄膜太陽電池用材料が知られている(特許文献2参照)が、長波長の光を利用できない、蒸着系であって光電変換層を塗布型とするには難しく、厚膜では機能を発現し難いなどの問題があった。
【0015】
また有機薄膜太陽電池の実用化には耐久性も改善が必要であるとの課題があり、電極等の劣化が起こりにくい、高い仕事関数を有する金属を用い、太陽光入射側をカソードとするタイプの太陽電池(いわゆる逆層型太陽電池)において光電変換が高い光電変換素子が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特表2010−531551号公報
【特許文献2】国際公開第10/013520号パンフレット
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Nature Mat.,vol.6(2007),p497、A.Heeger等
【非特許文献2】Adv.Mater.2006,Vol.18, p789(C.J.Brabec等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は光電変換効率が高く耐久性に優れる有機光電変換素子、それを用いた太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の上記課題は、下記の手段により達成される。
【0020】
1.透明な基板上に、透明な第一の電極、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料とを含有する光電変換層、および第二の電極をこの順に有する有機光電変換素子であって、該光電変換層が、該p型有機半導体材料として下記一般式1で表される部分構造を有する化合物を含有することを特徴とする有機光電変換素子。
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、X〜Xは、炭素原子または窒素原子を表す。
【0023】
〜Rは、置換基を有してもよいアルキル基、フッ化アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルキルシリル基を表す。また、たがいに結合して環を形成しても良い。)
2.前記一般式1で表される構造を有する化合物の数平均分子量が、15000〜50000であることを特徴とする前記1に記載の有機光電変換素子。
【0024】
3.前記一般式1において、R〜Rの少なくとも1つはアルキル基、アルキルエーテル基、アルキルチオエーテル基、フッ化アルキル基、フッ化アルキルエーテル基、フッ化アルキルチオエーテル基であることを特徴とする、前記1または2に記載の有機光電変換素子。
【0025】
4.前記一般式1において、XおよびXが窒素原子であることを特徴とする前記1から3のいずれか一項に記載の有機光電変換素子。
【0026】
5.前記一般式1において、X〜Xの全てが窒素原子であることを特徴とする前記1から4のいずれか一項に記載の有機光電変換素子。
【0027】
6.前記一般式1で表される構造を有する化合物が、下記一般式2で表される構造単位を含有する共重合体であることを特徴とする前記1から5の何れか1項に記載の有機光電変換素子。
【0028】
【化2】

【0029】
(式中、Zは炭素、珪素、ゲルマニウムから選ばれる原子を表し、RおよびRはアルキル基、フッ化アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルシリル基から選ばれる置換基を表し、さらに置換基を有していてもよいし、たがいに結合して環を形成してもよい。)
7.前記一般式2のZで表される原子が、珪素原子である構造を有するp型有機半導体材料を含むことを特徴とする、前記6に記載の有機光電変換素子。
【0030】
8.前記第一の電極が、カソードであり、第二の電極がアノードであることを特徴とする前記1から7のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【0031】
9.前記1から8のいずれか1項に記載の有機光電変換素子を具備することを特徴とする太陽電池。
【発明の効果】
【0032】
本発明の上記手段により、高い曲線因子の値を有し光電変換効率が高く、耐久性に優れる有機光電変換素子、それを用いた太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の有機光電変換素子の構成の例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機光電変換素子の構成の他の例を示す概略断面図である。
【図3】タンデム型の光電変換層を備えた、本発明の有機光電変換素子の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、透明な基板上に、透明な第一の電極、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料とを含有する光電変換層、および第二の電極をこの順に有する有機光電変換素子であって、該光電変換層が、p型有機半導体材料として上記一般式1で表される部分構造を有する化合物を含有することを特徴とする。
【0035】
本発明では、特にp型有機半導体材料とn型有機半導体材料とを含有するバルクヘテロジャンクション型の光電変換層のp型有機半導体材料として、上記一般式1で表される部分構造を有する化合物を用いることで、高い曲線因子の値を有し光電変換効率が高く、耐久性に優れる有機光電変換素子を提供することができる。
【0036】
(有機光電変換素子の構成)
図1は、本発明の有機光電変換素子の構成の例を示す概略断面図である。
【0037】
有機光電変換素子10は、透明な基板11上に、透明な第一の電極12を有し、第一の電極12の上に光電変換層14を有し、さらに光電変換層14の上に第二の電極13を有する。
【0038】
図1の例では、第一の電極12と光電変換層14との間に後述する正孔輸送層17を有し、光電変換層14と第二の電極13との間に後述する電子輸送層18を有する。
【0039】
本発明においては、基板11および第一の電極12は透明であり、光電変換に用いられる光は、図1の矢印の方向から入射される。
【0040】
光電変換層14は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する層であって、p型半導体材料とn型半導体材料とを含有する。
【0041】
p型半導体材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプター)として機能する。
【0042】
ここで、電子供与体及び電子受容体は、“光を吸収した際に、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)を形成する電子供与体及び電子受容体”であり、電極のように単に電子を供与あるいは受容するものではなく、光反応によって、電子を供与あるいは受容するものである。
【0043】
図1において、基板11を介して第一の電極12から入射された光は、光電変換層14の光電変換層14における電子受容体あるいは電子供与体で吸収され、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)が形成される。
【0044】
発生した電荷は内部電界、例えば、第一の電極12と第二の電極13との仕事関数が異なる場合では第一の電極12と第二の電極13との電位差によって、電子は電子受容体間を通り、また正孔は電子供与体間を通り、それぞれ異なる電極へ運ばれ、光電流が検出される。
【0045】
図1の例では、第一の電極12の仕事関数は第二の電極13の仕事関数よりも大きいため、正孔は第一の電極12へ、電子は第二の電極13へ輸送される。この場合、第二の電極13には仕事関数が小さく酸化されやすい金属が用いられる。この場合、第一の電極はアノード(陽極)として、第二の電極はカソード(陰極)として機能する。
【0046】
図2に他の構成の例を示す。
【0047】
図2においては、図1の場合とは、反対に第一の電極12の仕事関数よりも第二の電極13の仕事関数を大きくすることで、電子を第一の電極12へ、正孔を第二の電極13へと輸送するように設計した場合を示した。この場合には、第一の電極12と光電変換層14との間に電子輸送層18を有し、光電変換層14と第二の電極13との間に後述する正孔輸送層17を有し、第一の電極はカソード(陰極)として、第二の電極はアノード(陽極)として機能する。
【0048】
本発明においては、耐久性の面から特に、図2に示す構成、即ち、第一の電極がカソード(陰極)であり、第二の電極がアノード(陽極)であることが好ましい態様である。
【0049】
なお、図1、図2には記載していないが、本発明の有機光電変換素子は、正孔ブロック層、電子ブロック層、電子注入層、正孔注入層、あるいは平滑化層等の層を有していてもよい。
【0050】
更に、太陽光利用率(光電変換効率)の向上を目的として、このような光電変換素子を積層した、タンデム型の構成としてもよい。図3は、タンデム型の光電変換層を備える有機光電変換素子を示す断面図である。
【0051】
タンデム型構成の場合、基板11上に第一の電極12、第一の光電変換層14′を積層し、電荷再結合層15を積層した後、第二の光電変換層16、次いで第二の電極13を積層することで、タンデム型の構成とすることができる。
【0052】
第二の光電変換層16は、第一の光電変換層14′の吸収スペクトルと同じスペクトルを吸収する層でもよいし、異なるスペクトルを吸収する層でもよいが、好ましくは異なるスペクトルを吸収する層である。
【0053】
また、第一の光電変換層14′、第二の光電変換層16と各電極の間には、正孔輸送層17や電子輸送層18を有していても良いが、本発明においてはタンデム構成においてもそれぞれの光電変換層は、図2に示されるような構成を有していることが好ましい。
【0054】
以下に、これらの層を構成する材料について述べる。
【0055】
〔p型有機半導体材料〕
光電変換層は、p型有機半導体材料として下記一般式1で表される部分構造を有する化合物を含有する。
【0056】
当該化合物は、半導体特性を有する有機化合物である。一般式1の部分構造を有するのみでもよいが、有機薄膜太陽電池としてより好ましい半導体特性を有する有機化合物とするためには、後述するドナーユニットと結合させた構造を有する化合物であることが好ましい。
【0057】
【化3】

【0058】
一般式1中、X〜Xは、炭素原子または窒素原子を表す。R〜Rは、置換基を有してもよいアルキル基、フッ化アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルキルシリル基を表す。また、たがいに結合して環を形成しても良い。
【0059】
本発明において、光電変換層が、一般式1で表される部分構造を有する化合物を有することで、本願の効果を奏する理由は、明確ではないが、以下のように推測される。
【0060】
ピレニル基は非常にπ共役平面の大きい分子であり、液晶性などを発現することが知られ、自己組織化力の強い置換基であることが知られている。
【0061】
他方でピレニル基の2、7位を置換した構造を用いた有機薄膜太陽電池素子は例がないが、この位置でπ共役がつながったモノマー、オリゴマー、ポリマーは非常に平面性が高く、前述のように分子間でπスタックしやすい構造である。
【0062】
したがってバルクヘテロジャンクション層においてもドナー材料同士が相互作用によりネットワーク構造を形成し、厚い膜厚でもデッドエンド(キャリアを取り出せない領域)のない、連続性の高いモルホロジーを形成できるものと推定される。
【0063】
なお一般にこのような自己凝集性の高いドナー材料は、例えばAdvMater2010E63やNanolett2010p4005などのようにフラーレンと大きな相分離を起こし、電荷分離が発生するドナー材料とアクセプター材料の界面面積が減少して光電変換効率が低下してしまうことがあるが、ピレニル基は代表的アクセプター材料であるフラーレン誘導体とも強い相互作用を有していることが知られており、フラーレンを分離するHPLC用カラムにも使用されていることが知られている。このような効果からか、ピレニル基を含むポリマーは互いに自己集積して厚膜でも光電変換効率が落ちないだけでなく、フラーレンとも適度な相互作用があるために相分離サイズが粗大となりすぎず、適切なサイズの相分離構造を容易に得られるために厚膜でも高い光電変換効率を提供できるものと推定される。
【0064】
〜Rが表す、アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えば、メチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、2−エチルヘキシルなどが挙げられる。フッ化アルキル基は、これら一部またはすべてがフッ素化されたフッ化アルキル基である。なお完全にフッ素化されたフッ化アルキル基では溶解性が低下しやすいため、母核に近い位置はアルキル基で、末端部がフッ化アルキル基であるような、フッ化アルキル基であることが好ましい。たとえば−(CHCH)−C、−(CHCH)−C15、等である。
【0065】
シクロアルキル基としては、好ましくは炭素数4〜8であり、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニル、アダマンチルなどが挙げられる。
【0066】
アリール基としては、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えば、フェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、フェナントリル、ピレニルなどが挙げられる。
【0067】
ヘテロアリール基としては、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には、例えば、イミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、ピペリジル、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、チエニル、フリル、ピロール、チアゾリル等が挙げられる。
【0068】
アルキルシリル基としては、好ましくは炭素数3〜15であり、例えば、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリシクロペンチル、トリス(トリメチルシリル)シリル等が挙げられる。これらの基はさらに置換基を有していて良く、アルキル基によって置換されていても良い。すなわち、トリイソプロピルシリル、トリイソブチルシリル、トリt−ブチルシリル基等である。
【0069】
これらの置換基の中でも、前記一般式1において、R〜Rの少なくとも1つはアルキル基、アルキルエーテル基、アルキルチオエーテル基、フッ化アルキル基、フッ化アルキルエーテル基、フッ化アルキルチオエーテル基であることが好ましい。得られるp型半導体材料を十分な厚膜で形成できるようにするためには、一定以上の溶解性が必要であり、溶解性の付与といった観点ではこれらの置換基で置換された材料であることが好ましい。特に高分子材料の場合、溶解性の付与だけでなくポリアルキルチオフェンのように配列性を提供して高い移動度を提供しうる場合もあるため、これらの置換基で置換されたp型材料であることが好ましい。より好ましくは、分子間スタッキングを起こしやすいように線対称的に置換された構造である。すなわち、RおよびRが前述の置換基であるものか、RおよびRが前述の置換基であるものが好ましい。より好ましくは、RおよびRが前述の置換基であるものである。
【0070】
また、前述の置換基の中でも、アルキル基、アルキルエーテル基、フッ化アルキル基、フッ化アルキルエーテル基であることが好ましく、中でも分岐構造を有するアルキル基、アルキルエーテル基、フッ化アルキル基、フッ化アルキルエーテル基であることが好ましい。
【0071】
またX〜Xは炭素原子または窒素原子であってよいが、炭素原子の場合アルキル基等の溶解性を向上しうる置換基で置換することができる。これらの置換基としては、前述のR〜Rと同様の置換基を上げることができる。
【0072】
但しこの位置に溶解性置換基で置換すると、ピレニル基に連結される置換基(アリール基、ヘテロアリール基、アルケニレン基等)に対して立体障害となり、ピレニル基とのπ共役平面がねじれて短波化してしまう恐れがあるため、X〜Xの原子は置換基を有していない方が好ましい。
【0073】
より好ましくは、水素原子も存在せず、上記のようなピレニル基の隣接基とのねじれを発生しにくい窒素原子であることが好ましい。また、ピレニル基を窒素原子で置換するとLUMOおよびHOMO準位が深くなり、前述のように高い開放電圧を提供できるようになるため好ましい。
【0074】
このように、X〜Xのうち一つ以上が置換することが好ましいが、より好ましくはX〜Xのうち2つ以上の置換し、さらに分子間πスタッキングの観点からは、線対称な位置を置換することである。中でもXおよびXが窒素原子であるものが好ましい。より好ましくは、X〜Xの全てが窒素原子である構造である。
【0075】
なお一般式1で表される部分構造は、p型有機半導体材料に置いて一般的にアクセプターユニットと呼ばれる部分構造であり、ドナーとして機能するドナーユニットと結合させた化合物は長波長の吸収と深いLUMO準位を併せ持つ材料となり、p型有機半導体材料として、好ましく用いられる化合物である。
【0076】
ドナー性ユニットとしては、たとえば同じπ電子数を有する炭化水素芳香族環(ベンゼン、ナフタレン、アントラセン等)よりもLUMO準位またはHOMO準位が浅くなるようなユニットであれば際限なく用いることができる。
【0077】
より好ましくは、チオフェン環、フラン環、ピロール環、シクロペンタジエン、シラシクロペンタジエン等の複素5員環およびこれらを縮合環として含む構造である。
【0078】
具体的には、フルオレン、シラフルオレン、カルバゾール、ジチエノシクロペンタジエン、ジチエノシラシクロペンタジエン、ジチエノピロール、ベンゾジチオフェン等を挙げることができる。
【0079】
一般式2中、Zは炭素、珪素、ゲルマニウムから選ばれる原子を表し、RまたはRは、アルキル基、フッ化アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルキルシリル基を表し、さらに置換基を有していてもよいし、たがいに結合して環を形成してもよい。
【0080】
このような構造は、移動度の高いチオフェン構造が縮合してさらに大きなπ共役平面を有している半面、溶解性を付与可能な置換基を有しているため、溶解性と高移動度の両立を可能とし、一層高い光電変換効率を期待できるようになる。
【0081】
中でもZで表される原子が珪素原子である構造であることが好ましい。
【0082】
これはAdv.Mater.(2010)p367に記載されているように、Zがケイ素原子である方が結晶性が高く、高い移動度が得られる傾向があるためである。
【0083】
本発明に係る、一般式1で表される部分構造を有する化合物としては、当該部分構造と、上記のドナーユニットとを結合した化合物であるが、当該化合物は高分子化合物であることが好ましい。
【0084】
これは、バルクヘテロジャンクション型の光電変換層を構成する他方の成分であるn型有機半導体が低分子化合物(フラーレン誘導体)が広く用いられているため、p型半導体材料が高分子である方が互いにミクロ相分離構造を形成し、バルクヘテロジャンクション型光電変換層で発生した正孔と電子をそれぞれ運ぶキャリアパスを生成しやすくなる傾向があるためである。
【0085】
分子量としては数平均分子量が、曲線因子向上、溶解性による生産性の面から、5000以上500000以下であることが好ましい。より好ましくは、10000以上100000以下であり、さらに好ましくは15000以上50000以下である。
【0086】
なお、分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0087】
ここでいう数平均分子量は、下記の方法により測定したものをいう。
【0088】
ウオーターズ社製150C ALC/GPC(カラム:東ソー(株)製GMHHR−H(S)、溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン)を使用して、ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定した。なお、東ソー(株)製標準ポリスチレンを用いて、ユニバーサルキャリブレーション法によりカラム溶出体積は校正した。
【0089】
また、分子量に応じた精製も分取用のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で精製することができる。
【0090】
本発明に係る部分構造を有する化合物に占める本発明に係る部分構造の割合は、当該化合物に対して概ね20〜80質量%が好ましく25〜60質量%が特に好ましい。本発明においては、当該化合物は、上記のような高分子量の化合物であることが好ましいが、この場合部分構造を繰り返し単位として有し、この部分構造以外の繰り返し単位を含めた化合物全体に対して、30〜50モル%の範囲で含有することが好ましい。
【0091】
以下に、一般式1で表される部分構造を有する化合物の例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0092】
【化4】

【0093】
【化5】

【0094】
【化6】

【0095】
【化7】

【0096】
【化8】

【0097】
【化9】

【0098】
【化10】

【0099】
【化11】

【0100】
上記化合物に置いて、nで表される数は前述の分子量に入るような値となれば十分であるが、例えば数平均分子量10000〜100000の範囲に入るためにはnはおよそ10〜200程度である必要がある。
【0101】
(本発明に係る化合物の合成方法)
本発明に係る化合物のうち、一般式1においてX〜Xが炭素原子のものは、Journal of Organic Chemistry; English; 51; 14; 1986; 2847, Angewandte Chemie; German; 106; 19; 1994; 2062, Justus Liebigs Annalen der Chemie; 531;1937; 1,38等を参考として合成することができる。
【0102】
また、X〜Xに窒素原子を含むものは、USP2040858号明細書等を参考として合成することができる。
【0103】
上記化合物1〜39のような高分子型のものは、これらの論文を参考として合成したアクセプターユニットと、各種ドナー構造をそれぞれの論文に記載の手法で重合することで得ることができる。たとえばカルバゾール構造であればAdv.Mater.(2007)p2295、シクロペンタジチオフェン構造であればAdv.Mater.(2006)p2884、シラシクロペンタジチオフェン構造であれば特表2010−507233、ベンゾジチオフェン構造であればJ.Am.Chem.Soc,(2009)p56等を参考として合成することができる。
【0104】
(化合物例4の合成)
【0105】
【化12】

【0106】
J. Org. Chem. 1986,51, 2847に従って合成した2,7−ジブロモピレン3.60g(10mモル)をテトラヒドロフラン200mlに溶解し、−78℃で1.6Mのn−ブチルリチウムを15.6ml(25mモル)を滴下し、室温に戻して30分撹拌したのち、再び−78度まで冷却して塩化トリブチルすず9.8g(30mモル)を加え、室温で一昼夜撹拌したのち、酢酸エチル・水で洗浄後に有機層を抽出し、カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物4−1を6.6g(収率85%)得た。
【0107】
【化13】

【0108】
ついでAdv. Mater. 2008, 20, 2556およびWO2008/000664に従って、化合物4−2を合成し、この化合物4−2を340mg(0.5mモル)、前記化合物4−1を390mg(0.5mモル)とを20mlの無水トルエンに溶解させた。この溶液を窒素でパージした後、12.55mg(0.014ミリモル)のトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)と、28.80mg(0.110ミリモル)のトリフェニルホスフィンとを加えた。この溶液をさらに15分間、窒素でパージした。その後、110〜120℃まで溶液を加熱し、40時間反応させた。反応が完了後、溶媒を留去して生じた残渣を、メタノール(50ml×3)で洗浄し、その後、アセトン(3×50ml)で洗浄した。
【0109】
回収したポリマー生成物を、加熱してクロロホルム(30ml)に溶解し、0.45μmの膜を介してろ過した。精製のために3ml部分の溶液をリサイクルHPLC(日本分析化学工業製)に装填した。高分子量の分画を集めて100mgの純粋なポリマー(Mn=15000)(化合物例4)を得た。
【0110】
(化合物例6の合成)
【0111】
【化14】

【0112】
Angewandte Chemie;106; 19; (1994); p2062に従って合成した2,7−ジブロモ−4,9−ジオクチルピレン5.84g(10mモル)をテトラヒドロフラン200mlに溶解し、−78℃で1.6Mのn−ブチルリチウムを15.6ml(25mモル)を滴下し、室温に戻して30分撹拌したのち、再び−78度まで冷却して塩化トリブチルすず9.8g(30mモル)を加え、室温で一昼夜撹拌したのち、酢酸エチル・水で洗浄後に有機層を抽出し、カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物6−1を7.7g(収率78%)得た。
【0113】
【化15】

【0114】
ついで化合物例4の合成において化合物4−1の代わりに6−1を使用した以外は同様にして、化合物4−2を340mg(0.5mモル)、前記化合物6−1を390mg(0.5mモル)を重合・精製し、100mgの純粋なポリマー(Mn=50000)(化合物例6)を得た。
【0115】
(化合物例28の合成)
【0116】
【化16】

【0117】
フェノール100gに水酸化ナトリウム8g(200mモル)を添加して70度に加熱して溶解させたところに、東京化成工業製、1,4−ジアミノ−2,3−ジクロロアントラキノン25g(81mモル)を添加し、120度に昇温して5時間反応させた。
【0118】
反応終了後、減圧下でフェノールを留去し、水・酢酸エチルを加えて有機層を抽出したのち、カラムクロマトグラフィーで精製して化合物28−1(1,4−ジアミノ−2,3−フェノキシアントラキノン)18gを得た(収率53%)。
【0119】
【化17】

【0120】
n−ドデカノール14g(75mモル)をテトラヒドロフラン300mlを混合し、水素化ナトリウム3.0g(75mモル)を加えて30分還流させたところに、1,4−ジアミノ−2,3−フェノキシアントラキノン10.5g(25mモル)を加え、さらに2時間還流を行った。
【0121】
冷却後に水・酢酸エチルを加えて有機層を抽出したのち、カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物28−2(1,4−ジアミノ−2,3−ドデシロキシアントラキノン)9.1gを得た(収率60%)
【0122】
【化18】

【0123】
ついでUS2040858号を参考として反応を行った。1,4−ジアミノ−2,3−ジドデシロキシアントラキノン3.0g(49mモル)、ホルムアミド6.0g、ニトロベンゼン6.0g、バナジン酸アンモニウム150mgを180度で5時間反応させ、50度まで冷却したところでテトラヒドロフラン60mlを添加し、不溶成分をろ過したのちにカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物28−3(2,3−ジドデシロキシ−1,9,4,10−アントラジピリミジン)を1.3g得た。収率43%。
【0124】
【化19】

【0125】
2,3−ジドデシロキシ−1,9,4,10−アントラジピリミジン1.25g(2.0mモル)を塩化メチレン250mlに溶解し、Nブロモスクシンイミド0.71g(4.0mモル)を加えて室温で24時間反応させたのち、1N水酸化カリウム水溶液で有機層を抽出したのち、カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物28−4、1.33gを得た(収率85%)
【0126】
【化20】

【0127】
化合物28−4を391mg(0.5mmol)、特表2010−507233号に記載の方法を参考として合成したビス−(5,5′−トリメチルスタンニル)−3,3′−ジ−n−ドデシル−シリレン−2,2′−ジチオフェンを428mg(0.5mmol)とを20mlの無水トルエンに溶解させた。この溶液を窒素でパージした後、12.55mg(0.014ミリモル)のトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)と、28.80mg(0.110ミリモル)のトリフェニルホスフィンとを加えた。この溶液をさらに15分間、窒素でパージした。その後、110〜120℃まで溶液を加熱し、40時間反応させた。反応が完了後、溶媒を留去して生じた残渣を、メタノール(50ml×3)で洗浄し、その後、アセトン(3×50ml)で洗浄した。
【0128】
回収したポリマー生成物を、加熱してクロロホルム(30ml)に溶解し、0.45μmの膜を介してろ過した。精製のために3ml部分の溶液をリサイクルHPLC(日本分析化学工業製)に装填した。高分子量の分画を集めて100mgの純粋なポリマー(Mn=33000)(化合物例28)を得た。
【0129】
〔n型半導体材料〕
本発明に係る光電変換層に用いられるn型有機半導体材料としては、特に限定されないが、例えば、フラーレン、オクタアザポルフィリン等、p型有機半導体の水素原子をフッ素原子に置換したパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物を骨格として含む高分子化合物等を挙げることができる。
【0130】
この中でもn型有機半導体材料としては、各種のp型半導体材料と高速(〜50フェムト秒)且つ効率的に電荷分離を行うことができる、フラーレン誘導体が好ましい。
【0131】
フラーレン誘導体としては、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC84、フラーレンC240、フラーレンC540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブ、多層ナノチューブ、単層ナノチューブ、ナノホーン(円錐型)等、及びこれらの一部が水素原子、ハロゲン原子、置換または無置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基、シリル基等によって置換されたフラーレン誘導体を挙げることができる。
【0132】
中でもN−Methylfulleropyrrolidine、下記構造式で表される[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッドメチルエステル(略称PCBM)、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッド−nブチルエステル(PCBnB)、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッド−イソブチルエステル(PCBiB)、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッド−n−ヘキシルエステル(PCBH)、Adv.Mater.,vol.20(2008),p2116等に記載のbis−PCBM、特開2006−199674号公報等のアミノ化フラーレン、特開2008−130889号公報等のメタロセン化フラーレン、米国特許第7,329,709号明細書等の環状エーテル基を有するフラーレン、J.Amer.Chem.Soc.,(2009)vol.130,p15429に記載のSIMEF、Appl.Phys.Lett.,Vol.87(2005)、p203504に記載のC60MC12等のような、置換基を有してより溶解性が向上した下記の如きフラーレン誘導体を用いることが好ましい。
【0133】
【化21】

【0134】
〔光電変換層の形成方法〕
p型有機半導体材料とn型有機半導体材料とを含有する光電変換層の形成方法としては、蒸着法、塗布法(キャスト法、スピンコート法を含む)等を例示することができる。
【0135】
このうち、前述の正孔と電子が電荷分離する界面の面積を増大させ、高い光電変換効率を有する素子を作製するためには、塗布法が好ましい。また、塗布法は製造速度にも優れている。
【0136】
この際に使用する塗布方法に制限はないが、例えば、スピンコート法、溶液からのキャスト法、ディップコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スプレーコート法等が挙げられる。さらには、インクジェット法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法等の印刷法でパターニングすることもできる。
【0137】
塗布後は残留溶媒及び水分、ガスの除去、及び半導体材料の結晶化による移動度向上・吸収長波化を引き起こすために加熱を行うことが好ましい。
【0138】
製造工程中において所定の温度でアニール処理されると、微視的に一部が凝集または結晶化が促進され、光電変換層を適切な相分離構造とすることができる。
【0139】
その結果、光電変換層の正孔と電子(キャリア)の移動度が向上し、高い効率を得ることができるようになる。
【0140】
光電変換層は、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料とが均一に混在された単一層で構成してもよいが、電子受容体と電子供与体との混合比を変えた複数層で構成してもよい。この場合、塗布後に不溶化できるような材料を用いることで形成することが可能となる。
【0141】
〔電子輸送層〕
本発明の有機光電変換素子は、光電変換層とカソードとの中間に電子輸送層を形成することで、光電変換層で発生した電荷をより効率的に取り出すことが可能となるため、これらの層を有していることが好ましい。
【0142】
本発明においては、第一の電極がカソードである場合に特に好ましく適当できる。
【0143】
電子輸送層とは、このようにカソードとバルクヘテロジャンクション層の中間に位置して、バルクヘテロジャンクション層と電極との間で電子の授受をより効率的にすることのできる層のことである。
【0144】
より具体的には、バルクヘテロジャンクション型の光電変換層のn型半導体材料のLUMO準位とカソードの仕事関数との中間のLUMO準位を有する化合物が電子輸送層として適切である。
【0145】
より好ましくは、電子移動度が10−4以上の化合物である。
【0146】
電子輸送層の中には、バルクヘテロジャンクション型の光電変換層に用いられるp型半導体材料のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有する電子輸送層には、バルクヘテロジャンクション層で生成した正孔をカソード側には流さないような整流効果を有する、正孔ブロック機能が付与される。
【0147】
このような電子輸送層は、正孔ブロック層とも呼ばれる。より好ましくは、n型半導体のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有する材料を電子輸送層として用いることである。また、正孔を阻止する特性から、正孔移動度が10−6よりも低い化合物を用いることが好ましい。
【0148】
電子輸送層としては、オクタアザポルフィリン、p型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、国際公開第04/095889号に記載のカルボリン化合物等を用いることができるが、同様に、光電変換層に用いられるp型半導体材料のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有する電子輸送層には、光電変換層で生成した正孔をカソード側には流さないような整流効果を有する、正孔ブロック機能が付与される。より好ましくは、n型半導体のHOMO準位よりも深い材料を電子輸送層として用いることである。また、電子を輸送する特性から、電子移動度の高い化合物を用いることが好ましい。
【0149】
このような材料としては、バソキュプロイン等のフェナントレン系化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等のn型半導体材料、及び酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ガリウム等のn型無機酸化物及びフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属化合物等を用いることができる。また、光電変換層に用いたn型半導体材料単体からなる層を用いることもできる。
【0150】
これらの層を形成する手段としては、真空蒸着法、溶液塗布法のいずれであってもよいが、好ましくは溶液塗布法である。
【0151】
〔正孔輸送層(電子ブロック層)〕
本発明の有機光電変換素子は、光電変換層とアノードとの中間には正孔輸送層を、光電変換層で発生した電荷をより効率的に取り出すことが可能となるため、これらの層を有していることが好ましい。
【0152】
本発明においては、第二の電極が正孔輸送層である場合に好ましく適用できる。
【0153】
これらの層を構成する材料としては、例えば、正孔輸送層としては、スタルクヴイテック製、商品名BaytronP等のPEDOT(ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン)−PSS(ポリスチレンスルホン酸)、ポリアニリン及びそのドープ材料、国際公開第06/019270号等に記載のシアン化合物、などを用いることができる。なお、光電変換層に用いられるn型半導体材料のLUMO準位よりも浅いLUMO準位を有する正孔輸送層には、光電変換層で生成した電子をアノード側には流さないような整流効果を有する、電子ブロック機能が付与される。このような正孔輸送層は電子ブロック層とも呼ばれ、このような機能を有する正孔輸送層を使用する方が好ましい。
【0154】
このような材料としては、特開平5−271166号公報等に記載のトリアリールアミン系化合物、また酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化タングステン等の金属酸化物等を用いることができる。また、光電変換層に用いたp型半導体材料単体からなる層を用いることもできる。これらの層を形成する手段としては、真空蒸着法、溶液塗布法のいずれであってもよいが、好ましくは溶液塗布法である。光電変換層を形成する前に、下層に塗布膜を形成すると塗布面をレベリングする効果があり、リーク等の影響が低減するため好ましい。
【0155】
また、同様に正孔を輸送する特性から10−4よりも高い正孔移動度を有していることが好ましく、また電子を阻止する特性から、電子移動度が10−6よりも低い化合物を用いることが好ましい。
【0156】
〔その他の層〕
本発明の有機光電変換素子の構成としては、エネルギー変換効率の向上や、素子寿命の向上を目的に、各種中間層を素子内に有する構成としてもよい。
【0157】
中間層の例としては、正孔ブロック層、電子ブロック層、正孔注入層、電子注入層、励起子ブロック層、UV吸収層、光反射層、波長変換層などを挙げることができる。
【0158】
〔電極〕
本発明の有機光電変換素子においては、第一の電極と第二の電極を有するが、タンデム構成をとる場合には、中間電極を用いることでタンデム構成を達成することができる。
【0159】
本発明において、第一の電極は、透明な電極である。
【0160】
透明な、とは、光透過率が50%以上であるものをいう。
【0161】
光透過率とは、JIS K 7361−1(ISO 13468−1に対応)の「プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法」に準拠した方法で測定した可視光波長領域における全光線透過率をいう。
【0162】
本発明の第一の電極は、前述のように透明なカソード(陰極)であり、第二の電極はアノード(陽極)であることが好ましい。
【0163】
〔第一の電極(透明なカソード)〕
本発明の第一の電極に用いられる材料としては、例えば、インジウムチンオキシド(ITO)、AZO、FTO、SnO、ZnO、酸化チタン等の透明金属酸化物、Ag、Al、Au、Pt等の非常に薄い金属層または金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ等のナノワイヤやナノ粒子を含有する層、PEDOT:PSS、ポリアニリン等の導電性高分子材料等を用いることができる。
【0164】
また、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテン、ポリカルバゾール、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン及びポリナフタレンの各誘導体からなる群より選ばれる導電性高分子等も用いることができる。また、これらの導電性化合物を複数組み合わせてカソードとすることもできる。
【0165】
〔第二の電極(アノード)〕
第二の電極は導電材単独層であってもよいが、導電性を有する材料に加えて、これらを保持する樹脂を併用してもよい。
【0166】
カソードである透明電極の仕事関数がおよそ−5.0〜−4.0eVであるため、バルクヘテロジャンクション型の光電変換層で生成したキャリアが拡散してそれぞれの電極に到達するためには、ビルトインポテンシャル、すなわちアノードとカソード間の仕事関数の差がなるべく大きいことが好ましい。
【0167】
したがって、アノードの導電材としては、仕事関数の大きい(4eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、金、銀、銅、白金、ロジウム、インジウム、ニッケル、パラジウム等が挙げられる。
【0168】
これらの中で、正孔の取り出し性能、光の反射率、及び酸化等に対する耐久性の点から、銀が最も好ましい。
【0169】
カソードはこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0170】
また、アノード側を光透過性とする場合は、例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金、銀及び銀化合物等のアノードに適した導電性材料を薄く1〜20nm程度の膜厚で作製した後、上記透明電極の説明で挙げた導電性光透過性材料の膜を設けることで、光透過性アノードとすることができる。
【0171】
なお上記は耐久性向上に有利な、いわゆる逆層型素子とするための第2の電極材料に好ましい材料を記載したが、いわゆる順層型(第1の電極がアノードで第2の電極がカソード)とするためには、前述のように第1電極と第2の電極の仕事関数の関係を逆転させればよいが、実質的に透明な電極は種類が限られておりその仕事関数は比較的深いものが多いため、実際には第2の電極側に仕事関数の浅い(−4.0eV未満)金属を使用することで順層型の有機薄膜太陽電池とすることができる。そのような金属としては、たとえば、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、リチウム、ナトリウム、カリウムなどである。一般的には反射率が高く導電性の高いアルミニウムが使用される。
【0172】
〔中間電極〕
また、前記図3のようなタンデム構成の場合に必要となる中間電極の材料としては、透明性と導電性を併せ持つ化合物を用いた層であることが好ましく、前記アノードで用いたような材料(ITO、AZO、FTO、SnO、ZnO、酸化チタン等の透明金属酸化物、Ag、Al、Au、Pt等の非常に薄い金属層または金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ等のナノワイヤやナノ粒子を含有する層、PEDOT:PSS、ポリアニリン等の導電性高分子材料等)を用いることができる。
【0173】
なお、前述した正孔輸送層と電子輸送層の中には、適切に組み合わせて積層することで中間電極(電荷再結合層)として働く組み合わせもあり、このような構成とすると1層形成する工程を省くことができ好ましい。
【0174】
〔基板〕
本発明において、基板は透明な基板であるが、透明な、とは前述の電極の記載と同様の意味を有する。
【0175】
基板としては、例えばガラス基板や樹脂基板等が好適に挙げられるが、軽量性と柔軟性の観点から透明樹脂フィルムを用いることが望ましい。本発明で透明基板として好ましく用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限がなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。
【0176】
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、可視域の波長(380〜800nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、本発明に係る透明樹脂フィルムに好ましく適用することができる。
【0177】
中でも、透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルムであることが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムであることがより好ましい。
【0178】
本発明に用いられる透明基板には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。また、易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。
【0179】
また、酸素及び水蒸気の透過を抑制する目的で、透明基板にはバリアコート層が予め形成されていてもよいし、透明導電層を転写する反対側にはハードコート層が予め形成されていてもよい。
【0180】
〔光学機能層〕
本発明の有機光電変換素子は、太陽光のより効率的な受光を目的として、各種の光学機能層を有していてよい。光学機能層としては、例えば、反射防止膜、マイクロレンズアレイ等の集光層、カソードで反射した光を散乱させて再度発電層に入射させることができるような光拡散層などを設けてもよい。
【0181】
反射防止層としては、各種公知の反射防止層を設けることができるが、例えば、透明樹脂フィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである場合は、フィルムに隣接する易接着層の屈折率を1.57〜1.63とすることで、フィルム基板と易接着層との界面反射を低減して透過率を向上させることができるのでより好ましい。屈折率を調整する方法としては、酸化スズゾルや酸化セリウムゾル等の比較的屈折率の高い酸化物ゾルとバインダー樹脂との比率を適宜調整して塗設することで実施できる。易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。
【0182】
集光層としては、例えば、支持基板の太陽光受光側にマイクロレンズアレイ上の構造を設けるように加工したり、あるいは所謂集光シートと組み合わせたりすることにより特定方向からの受光量を高めたり、逆に太陽光の入射角度依存性を低減することができる。
【0183】
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を2次元に配列する。一辺は10〜100μmが好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付き、大きすぎると厚みが厚くなり好ましくない。
【0184】
また、光散乱層としては、各種のアンチグレア層、金属または各種無機酸化物などのナノ粒子・ナノワイヤー等を無色透明なポリマーに分散した層などを挙げることができる。
【0185】
〔パターニング〕
本発明に係る各々の電極、光電変換層や、正孔輸送層、電子輸送層等をパターニングする方法やプロセスには特に制限はなく、公知の手法を適宜適用することができる。
【0186】
光電変換層、輸送層等の可溶性の材料であれば、ダイコート、ディップコート等の全面塗布後に不要部だけ拭き取ってもよいし、インクジェット法やスクリーン印刷等の方法を使用して塗布時に直接パターニングしてもよい。
【0187】
電極材料などの不溶性の材料の場合は、電極を真空堆積時にマスク蒸着を行ったり、エッチングまたはリフトオフ等の公知の方法によってパターニングすることができる。また、別の基板上に形成したパターンを転写することによってパターンを形成してもよい。
【0188】
(太陽電池)
本発明の太陽電池は、上記の有機光電変換素子を有する。
【0189】
本発明の太陽電池は、上記有機光電変換素子を具備し、太陽光に最適の設計並びに回路設計が行われ、太陽光を光源として用いたときに最適な光電変換が行われるような構造を有する。
【0190】
即ち、光電変換層に太陽光が照射されうる構造となっており、本発明の太陽電池を構成する際には、前記光電変換層および各々の電極をケース内に収納して封止するか、あるいはそれら全体を樹脂封止することが好ましい。
【0191】
封止の方法としては、作製した有機光電変換素子が環境中の酸素、水分等で劣化しないために、有機光電変換素子だけでなく有機エレクトロルミネッセンス素子などで公知の手法によって封止することが好ましい。
【0192】
例えば、アルミまたはガラスできたキャップを接着剤によって接着することによって封止する手法、アルミニウム、酸化珪素、酸化アルミニウム等のガスバリア層が形成されたプラスチックフィルムと有機光電変換素子上を接着剤で貼合する手法、ガスバリア性の高い有機高分子材料(ポリビニルアルコール等)をスピンコートする方法、ガスバリア性の高い無機薄膜(酸化珪素、酸化アルミニウム等)または有機膜(パリレン等)を真空下で堆積する方法、及びこれらを複合的に積層する方法等を挙げることができる。
【実施例】
【0193】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0194】
実施例1:光電変換効率の評価
〔有機光電変換素子1の作製〕
特開2009−146981号を参考として、逆層型の有機光電変換素子を作製した。
【0195】
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を110nm堆積したもの(表面抵抗率13Ω/□)を、通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングとを用いて2mm幅にパターニングして、透明電極を形成した。
【0196】
パターン形成した透明電極を、界面活性剤と超純水による超音波洗浄、超純水による超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0197】
次いで基板をグローブボックス中に持ち込み、窒素雰囲気下でこの透明基板上に、以下の手順で作製した150mMのTiO前駆体溶液をスピンコート(回転速度2000rpm、回転時間60s)し、所定のパターンに拭き取りを行った。
【0198】
次に、空気中で放置してTiO前駆体を加水分解させた。次に、TiO前駆体を150℃で1時間加熱処理して30nmのTiO層を得た。
【0199】
(TiO前駆体の調製:ゾルゲル法)
先ず、100ml三口フラスコに2−メトキシエタノール12.5mlと、6.25mmolのチタニウムテトライソプロポキシドとを入れ、氷浴中で10分間冷却した。次に、12.5mmolのアセチルアセトンをゆっくり加えて、氷浴中で10分間撹拌した。次に、混合溶液を80℃で2時間加熱後、1時間還流した。最後に、室温まで冷却し、メトキシエタノールを用いて所定の濃度(150m)に調整した。TiO前駆体を得た。なお、上記工程は全て窒素雰囲気で行った。
【0200】
次いで、TiO層の上にバルクヘテロジャンクション層を形成した。p型半導体材料として比較化合物1を0.9質量%、n型半導体材料としてPCBM(フロンティアカーボン製、Nanon Spectra E100H)を0.9質量%(全固形分濃度1.8質量%)を溶解した液を作製し、0.45μmのフィルタでろ過をかけた溶液をブレードコーターで塗布し、100℃で30分乾燥後、乾燥膜厚220nmの光電変換層を得た。なお比較化合物1は特許文献1に基づいて合成した。
【0201】
次に、有機半導体層の上に有機溶剤系PEDOT:PSSの分散液(化研産業製、エノコートHC200)をブレードコートして風乾し、乾燥膜厚30nmの正孔輸送層を成膜した。
【0202】
次に、導電性ポリマー層の上に銀電極層を膜厚約200nmになるように真空蒸着を行ったのち、150℃で10分間加熱処理を行うことで、逆層型の有機光電変換素子を作製した。
【0203】
得られた有機光電変換素子1は、窒素雰囲気下でUV硬化樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、UV RESIN XNR5570−B1)を用いて凸版印刷製透明バリアフィルムGX(水蒸気透過率0.05g/m/d)と貼り合わせて封止した後に大気下に取り出した。
【0204】
得られた有機光電変換素子1は、封止を行った後、ソーラシミュレーター(AM1.5G)の光を100mW/cmの照射強度で照射して、電圧−電流特性を測定し、初期の変換効率を測定した。
【0205】
〔有機光電変換素子2〜8の作製〕
上記有機光電変換素子1の作製において、p型半導体材料を表1に記載の材料に変更し、さらにp:n比を表に記載の組成(全固形分濃度は1.8質量%に固定)に代えた以外は、比較の有機光電変換素子1と同様にして有機光電変換素子2〜8を得た。
【0206】
(変換効率の評価)
上記作製した光電変換素子に、ソーラーシミュレーター(AM1.5Gフィルタ)の100mW/cmの強度の光を照射し、有効面積を4.0mmにしたマスクを受光部に重ね、短絡電流密度Jsc(mA/cm)及び開放電圧Voc(V)、曲線因子(フィルファクター)FFを、同素子上に形成した4箇所の受光部をそれぞれ測定し、平均値を求めた。また、Jsc、Voc、FFから式1に従って光電変換効率η(%)を求めた。
【0207】
式1 η(%)=Jsc(mA/cm)×Voc(V)×FF
【0208】
【表1】

【0209】
【化22】

【0210】
表1からわかるように、本発明の化合物は厚膜(200nm以上)においても比較の化合物よりも良好な光電変換効率を提供できることが分かる。
【0211】
なお比較の化合物1は溶解性が低いために溶液塗布では良好な塗布膜を形成することができず、リークの多い素子であり、結果として光電変換効率も低かった。
【0212】
実施例2:耐久性評価
実施例1で作製した有機光電変換素子2および8について、それぞれ同様の素材および組成を用いて以下のような順層型の素子を作製した。
【0213】
〔有機光電変換素子2′の作製〕
実施例1と同じ透明基板を同様の工程で洗浄した後、ITO膜上に、導電性高分子であるBaytron P4083(スタルクヴィテック社製)を30nmの膜厚となるようにスピンコートした後、140℃で大気中10分間加熱乾燥した。
【0214】
これ以降は、基板をグローブボックス中に持ち込み、窒素雰囲気下で作業した。まず、窒素雰囲気下で上記基板を再度140℃で10分間加熱処理した。
【0215】
p型半導体材料として、前記P3HTの0.6質量%と、n型半導体材料として前記PCBM0.9質量%分をクロロベンゼンに溶解して、1.2質量%のクロロベンゼン溶液を作製し、0.45μmのフィルタでろ過しながら700rpmで60秒、次いで2200rpmで1秒間のスピンコートを行い、室温で30分放置した。
【0216】
次に、上記一連の有機層を成膜した基板を大気に晒すことなく真空蒸着装置内に設置した。2mm幅のシャドウマスクが透明電極と直交するように素子をセットし、10−3Pa以下にまで真空蒸着機内を減圧した後、フッ化リチウムを0.6nm、対極としてアルミニウムを100nm蒸着した。最後に120℃で30分間の加熱を行い、比較の有機光電変換素子2′を得た。なお蒸着速度は2nm/秒で、2mm角のサイズとした。
【0217】
得られた有機光電変換素子21は、窒素雰囲気下でUV硬化樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、UV RESIN XNR5570−B1)を用いて凸版印刷製透明バリアフィルムGX(水蒸気透過率0.05g/m/d)と貼り合わせて封止した後に大気下に取り出した。
【0218】
〔有機光電変換素子8′の作製〕
上記有機光電変換素子2′の作製において、p型半導体材料として、P3HTの代わりに例示化合物28を用い、他は同様にして、有機光電変換素子8′を作製した。
【0219】
(変換効率の評価)
上記作製した光電変換素子に、ソーラーシミュレーター(AM1.5Gフィルタ)の100mW/cmの強度の光を照射し、有効面積を4.0mmにしたマスクを受光部に重ね、短絡電流密度Jsc(mA/cm)及び開放電圧Voc(V)、曲線因子(フィルファクター)FFを、同素子上に形成した4箇所の受光部をそれぞれ測定し、平均値を求めた。また、Jsc、Voc、FFから式1に従って光電変換効率η(%)を求めた。
【0220】
式1 η(%)=Jsc(mA/cm)×Voc(V)×FF
(耐久性評価)
温度80度、湿度80%に保持した容器内に保存し、定期的に取りだして電圧−電流特性を測定し、初期の変換効率を100として、初期の効率の80%の効率まで低下する時間をLT80として評価した。
【0221】
【表2】

【0222】
表2において有機光電変換素子2および8を比較すると、本発明の化合物28の方が耐久性が高いことが分かる。また、有機光電変換素子8、8′においてLT80が増加した値と、有機光電変換素子2、2′においてLT80が増加した値とを比較すると、本発明に係る化合物を用いた前者の値が、後者の値に比べて大きく耐久性の向上の割合が大きく、本発明の効果はいわゆる逆層型の有機光電変換素子において、特に効果が大きいことがわかる。
【符号の説明】
【0223】
10 有機光電変換素子
11 基板
12 第一の電極
13 第二の電極
14 光電変換層
14′ 第一の光電変換層
15 電荷再結合層
16 第二の光電変換層
17 正孔輸送層
18 電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基板上に、透明な第一の電極、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料とを含有する光電変換層、および第二の電極をこの順に有する有機光電変換素子であって、該光電変換層が、該p型有機半導体材料として下記一般式1で表される部分構造を有する化合物を含有することを特徴とする有機光電変換素子。
【化1】

(式中、X〜Xは、炭素原子または窒素原子を表す。
〜Rは、置換基を有してもよいアルキル基、フッ化アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルキルシリル基を表す。また、たがいに結合して環を形成しても良い。)
【請求項2】
前記一般式1で表される構造を有する化合物の数平均分子量が、15000〜50000であることを特徴とする請求項1に記載の有機光電変換素子。
【請求項3】
前記一般式1において、R〜Rの少なくとも1つはアルキル基、アルキルエーテル基、アルキルチオエーテル基、フッ化アルキル基、フッ化アルキルエーテル基、フッ化アルキルチオエーテル基であることを特徴とする、請求項1または2に記載の有機光電変換素子。
【請求項4】
前記一般式1において、XおよびXが窒素原子であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の有機光電変換素子。
【請求項5】
前記一般式1において、X〜Xの全てが窒素原子であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の有機光電変換素子。
【請求項6】
前記一般式1で表される構造を有する化合物が、下記一般式2で表される構造単位を含有する共重合体であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の有機光電変換素子。
【化2】

(式中、Zは炭素、珪素、ゲルマニウムから選ばれる原子を表し、RおよびRはアルキル基、フッ化アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルシリル基から選ばれる置換基を表し、さらに置換基を有していてもよいし、たがいに結合して環を形成してもよい。)
【請求項7】
前記一般式2のZで表される原子が、珪素原子である構造を有するp型有機半導体材料を含むことを特徴とする、請求項6に記載の有機光電変換素子。
【請求項8】
前記第一の電極が、カソードであり、第二の電極がアノードであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の有機光電変換素子を具備することを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−151171(P2012−151171A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6840(P2011−6840)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】