説明

有機化合物の吸脱着能に優れた活性炭、該活性炭の製造方法、有機化合物の吸脱着装置並びに吸脱着方法

【課題】テトラクロロエチレンのようなハロゲン化有機化合物を活性炭を用いて吸脱着を繰り替えし行う場合に、活性炭上に残留する塩素量を低減して活性炭の長寿命化を図るようにする。
【解決手段】活性炭をシランカップリング剤であるビニルトリメトキシシラン水溶液で処理し、濾過、乾燥して処理活性炭を得る。該処理活性炭は、10回のトリクロロエチレンの吸脱着を繰返したときの塩化水素残留量が、未処理活性炭に比して1/50以下とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチレンクロライド等のハロゲン化有機化合物、メチルエチルケトンや酢酸ビニル等のケトン系有機化合物、エステル系有機化合物等の溶剤の吸脱着能に優れた活性炭、該活性炭の製造方法、有機化合物の吸脱着装置または吸脱着方法の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、メチレンクロライド、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、臭化プロピル等、フッ素、塩素、臭素等のハロゲンを含有するハロゲン化有機化合物(特にハロゲン化炭化水素類)、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系有機化合物、酢酸ビニル等のエステル系有機化合物等の各種の有機溶剤は、化学工場、塗装工場、印刷工場、薬品工場等の各種施設において、反応、抽出、コーティング、脱脂洗浄等の各種工程で広く溶剤として採用されている。そしてこのような有機化合物は、ガス化して施設外に排出される惧れがあり、そこでこれら施設の排気経路には、排気中の有機化合物のガスを除去(回収)する除去(回収)装置を設けることが環境対策のためにも要請されている。そしてこのような除去装置として、吸着剤として活性炭を用い、該活性炭に吸着させた有機化合物を脱着して回収することが従来から試みられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−300943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで今日、活性炭は、前述したような吸着機能に加えて熱分解や加水分解等の触媒機能もあり、特にハロゲンを含む有機化合物を吸脱着した場合、吸脱着の過程で活性炭による触媒機能を受けてハロゲンやハロゲン化水素が生成する等して早期のうちに酸性化しやすく、これによって溶剤の品質が低下し、特にpHが約4以下になった場合の品質低下は著しく、溶剤メーカーでもpHが5以下になったときを溶剤の交換時期であるとしている場合が多いのが実情で、溶剤の寿命が短く、早期の交換が強いられるという問題があり、ここに本発明が解決せんとする課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、有機化合物を吸脱着するための活性炭であって、該活性炭は、シランカップリング剤で処理されたものであることを特徴とする有機化合物の吸脱着能に優れた活性炭である。
請求項2の発明は、ガス化した有機化合物を吸脱着するための活性炭であって、該活性炭は、シランカップリング剤で処理させたものであることを特徴とする有機化合物の吸脱着能に優れた活性炭の製造方法である。
請求項3の発明は、ガス化した有機化合物の排出流路に設けられる吸脱着装置であって、該吸脱着装置は、シランカップリング剤で処理させて得た処理活性炭を用いて前記有機化合物の吸脱着をするものであることを特徴とする有機化合物の吸脱着装置である。
請求項4の発明は、ガス化した有機化合物の排出流路に活性炭が設けられ、該有機化合物の吸着をするにあたり、前記活性炭はシランカップリング剤で処理させて得た処理活性炭とし、該処理活性炭により有機化合物を吸着する工程と、該処理活性炭で吸着した有機化合物を脱着する工程とを備えているものであることを特徴とする有機化合物の吸脱着方法である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1乃至4の発明とすることにより、ガス化した有機化合物の吸脱着を効率よくしかも繰り返し行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実験用システムの回路図である。
【図2】未処理活性炭および10重量%ビニルトリメトキシシランで処理した処理活性炭のFT−IRスペクトル図である。
【図3】未処理活性炭および5重量%ビニルトリメトキシシランで処理した処理活性炭のFT−IRスペクトル図である。
【図4】未処理活性炭の吸着等温線を示すグラフ図である。
【図5】5重量%ビニルトリメトキシシランで処理した処理活性炭の吸着等温線を示すグラフ図である。
【図6】10重量%ビニルトリメトキシシランで処理した処理活性炭の吸着等温線を示すグラフ図である。
【図7】各活性炭に残留する塩素量と塩化水素への分解率を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明において回収しようとする有機化合物は特にハロゲン化炭化水素類で、その代表例として、前述したメチレンクロライド(ジクロロメタン:CHCl)、クロロホルム(トリクロロメタン:CHCl)、1,1,1−トリクロロエタン(CHCCl)、トリクロロトリフルオロエタン(CClF−CClF)、トリクロロエチレン(CHCl=CCl)、テトラクロロエチレン(CCl=CCl)、臭化プロピル(1−ブロモプロパン:CHCHCHBr)等、フッ素、塩素、臭素等のハロゲンを含有するものがある。
またさらには、ジメチルケトン(CHCOCH)、メチルエチルケトン(CHCOC)、ジエチルケトン(CCOC)等のケトン系有機化合物、酢酸メチル(CHCOOCH)、酢酸エチル(CHCOOC)、酢酸ビニル(CHCOOCH=CH)等のエステル系有機化合物、ヘキサン(C12)やシクロヘキサン(C10)等の脂肪族有機化合物、ベンゼン(C)、トルエン(CCH)等の芳香族有機化合物等の有機溶剤を例示することができる。
【0009】
また活性炭としては、通常市販される汎用のものを用いることができ、その代表例としてヤシガラ活性炭がある。
【0010】
活性炭をシランカップリングで処理する場合に用いられるシランカップリング剤としては、反応性が異なる2種類の官能基を持っているものであり、一般化学式としては、
X−Si(OR)
X−Si(OR)
で表される。ここでXは有機質材料と化学結合する反応基であり、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基が例示され、またORは無機質材料と化学結合する反応基であり、メトキシ基、エトキシ基が例示される。
【0011】
さらにシランカップリング剤として具体的な官能基として、
・ビニルトリクロルシラン(ClSiCH=CH)、ビニルトリメトキシシラン((CHO)SiCH=CH)、ビニルトリエトキシシラン((CO)SiCH=CH)等のビニル基、
・2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン((CHO)SiC(CO))、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン((CHO)SiCOCH(CO))、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン((CO)CHSiCOCH(CO))、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン((CO)SiCOCH(CO))等のエポキシ基、
・p−スチリルトリメトキシシラン((CHO)Si(CCH=CH))等のスチリル基、
・3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン((CHO)CHSiCOCOC(CH)=CH)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン((CHO)SiCOCOC(CH)=CH)、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン((CHO)Si(CH)COCOC(CH)=CH)、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン((CO)Si)COCOC(CH)=CH)等のメタクリロキシ基、
・3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン((CHO)SiCOCOCH=CH)等のアクリロキシ基、
・N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン((CHO)CHSiCNHCNH)、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン((CHO)SiCNHCNH)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン((CO)SiCNHCNH)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン((CHO)SiCNH)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン((CO)SiCNH)、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチルブチリデン)プロピルアミン((CO)SiCN=C(C)CH)、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン((CHO)SiCNHC)等のアミノ基、
・3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン((CO)SiCNHCONH)等のウレイド基、
・3−クロロプロピルトリメトキシシラン((CHO)SiCCl)等のクロロプロピル基、
・3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン((CHO)CHSiCSH)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン((CHO)SiCSH)等のメルカプト基、
・ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド((CO)SiCSi(OC)等のスルフィド基、
・3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン((CHO)SiCN=C=O)等のイソシアネート基
が例示される。
【0012】
活性炭をシランカップリング剤で処理して処理活性炭を得る手法としては、シランカップリング剤の水溶液、メタノール、エタノール等の低級アルコール溶液または低級アルコール−水混合溶液を作成し、該溶液に活性炭を入れて撹拌後、酢酸水溶液を入れて加水分解したものをろ過し、乾燥することで得ることができる。
【0013】
このように、シランカップリング剤で処理した処理活性炭を用いて有機化合物の吸脱着処理をしたときに、回収される有機化合物の酸性化が抑制される理由は明らかになっていないが、シランカップリング剤が活性炭の表面にコーティングされ、あるいは担持されたものとなり、このようなシランカップリング剤が存在する雰囲気下で有機化合物の吸脱着処理をする場合、吸着能は維持されるものの触媒機能が抑えられて有機化合物の分解が低下し、酸性化が抑えられると推測されるが、その詳細については今後の研究に委ねられるところである。
【実験例】
【0014】
次に、本発明を実験例に基づいてさらに詳しく説明する。
【0015】
<実験用システムの説明>
図1は実験用システムのフロー回路図であって、該図中、1は活性炭を充填する活性炭槽であって、該活性炭槽1に活性炭Cを充填することができる。活性炭槽1には、上流側流路R1と下流側流路R2とが接続されるが、上流側流路R1には切換えバルブV1が設けられている。切換えバルブV1は、流量計Fが接続されキャリアガスとしてヘリウムが供給されるキャリア流路R3と有機溶剤として代表されるトリクロロエチレンが充填された溶剤容器2が接続された溶剤流路R4に接続されている。尚、溶剤容器2は恒温槽3によって定温状態となっている。そしてキャリアガスは、切換えバルブV1の切換えることによって、キャリア流路R3、溶剤流路R4を経て活性炭槽1に至る吸着流路と、キャリア流路R3から直接活性炭槽1に至る脱着流路とに切換えられるようになっている。
一方、下流側流路R2には切換えバルブV2が設けられているが、該切換えバルブV2を切換えることにより、検量管4に必要量(例えば1mL)の検量ガスをトラップできると共に、該トラップした検量ガスをGC−FID(ガスクロマトグラフィー/水素炎イオン化検出器)に供給できるようになっている。
【0016】
<処理活性炭の作成>
5重量%、10重量%のビニルトリメトキシシラン(以下「VTMS」と称する)水溶液にやしがら活性炭の粉末を0.5g入れ、60℃、1時間撹拌する。その後、5重量%の酢酸水溶液を5.0g入れ、60℃、1時間撹拌して加水分解をする。しかる後、ろ過した残渣を、150℃の雰囲気下で2時間乾燥することでVTMSで処理した2種類の処理活性炭を得た。
【0017】
これら処理活性炭と未処理活性炭のFT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)で観測したスペクトルを図2、3に示す。これらのスペクトルから、処理活性炭は、未処理活性炭には見られないSi−C、C=C、C−Hに帰属する吸収帯が見られることから、活性炭上にVTMSが存在することが確認される。しかも波数1000付近にSi−O−Siの伸縮振動による吸収帯も見られることから、VTMS同士が活性炭上で反応したものもあることを示している。
【0018】
次に、未処理活性炭、前記に種類の処理活性炭の吸着等温線を測定したところ、図4〜6のようになった。またBET表面積は、未処理活性炭が969m/g、5重量%VTMSで処理した処理活性炭は154m/g、10重量%VTMSで処理した処理活性炭は145m/gであった。これらのことから、処理活性炭はVTMSにより細孔の一部が塞がれていると判断される。
【0019】
また、前記図1に示す実験用システムを用いて10回の吸脱着を繰り返した後、各活性炭中に残留する塩素をイオンクロマトグラフィーを用いて定量した。ここで残留する塩素としては、塩化水素となって活性炭上に残留するとして計算した。この結果を図7の表図に示す。ここで示される結果は、それぞれの活性炭1gあたりの塩化水素量、トリクロロエチレンの吸着量に対してどれくらい塩化水素に分解しているかの分解率である。処理活性炭を用いた場合、残留量は未処理活性炭に比べて1/50以下になっていることが確認され、このことから活性炭をVTMSで処理した活性炭は未処理活性炭に比してトリクロロエチレンの分解抑制機能が高くなるよう改質されたものであるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、トリクロロエチレンのようなハロゲン化溶媒を活性炭を用いて吸脱着を繰り替えし行う場合に、活性炭上に残留する塩素量を低減して活性炭の長寿命化を図るという産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0021】
1 活性炭槽
2 溶剤容器
3 恒温槽
4 検量管
C 活性炭
F 流量計
R1 上流側流路
R2 下流側流路
R3 キャリア流路
R4 溶剤流路
V1 切換えバルブ
V2 切換えバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物を吸脱着するための活性炭であって、該活性炭は、シランカップリング剤で処理されたものであることを特徴とする有機化合物の吸脱着能に優れた活性炭。
【請求項2】
ガス化した有機化合物を吸脱着するための活性炭であって、該活性炭は、シランカップリング剤で処理させたものであることを特徴とする有機化合物の吸脱着能に優れた活性炭の製造方法。
【請求項3】
ガス化した有機化合物の排出流路に設けられる吸脱着装置であって、該吸脱着装置は、シランカップリング剤で処理させて得た処理活性炭を用いて前記有機化合物の吸脱着をするものであることを特徴とする有機化合物の吸脱着装置。
【請求項4】
ガス化した有機化合物の排出流路に活性炭が設けられ、該有機化合物の吸着をするにあたり、前記活性炭はシランカップリング剤で処理させて得た処理活性炭とし、該処理活性炭により有機化合物を吸着する工程と、該処理活性炭で吸着した有機化合物を脱着する工程とを備えているものであることを特徴とする有機化合物の吸脱着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−202461(P2010−202461A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50205(P2009−50205)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(399031883)株式会社モリカワ (19)
【Fターム(参考)】