説明

有機化合物処理装置の運用方法

【課題】有機化合物の吸着を行う吸着塔11a,11bで、脱着用水蒸気により脱着を終えた時点で塔内に残る残存脱着用水蒸気の無駄な放出とそれによる白煙の発生をふせぐ。
【解決手段】次に脱着を行う並列した吸着塔11b,11aに残存脱着用水蒸気を転出入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機化合物を含むガスを排出する前に、ガスから有機化合物を除去して処理する処理装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場から発生する排ガスには、そのまま大気中に排出すると問題を起こす揮発性有機化合物が含まれる場合がある。この場合、排ガスを大気中に排出する前に、含有している揮発性有機化合物を処理しなければならない。その方法として、活性炭等の吸着剤を内蔵した吸着塔で、排ガス中に含まれる揮発性有機化合物を吸着剤に吸着させ、ガス中の濃度を低減させて大気へ排出し、その後、吸着剤から揮発性有機化合物を脱着させて吸着塔を再利用可能にするとともに、揮発性有機化合物を処理するという吸脱着方式が一般的である。
【0003】
上記の脱着には、揮発性有機化合物を含まないガスを吸着剤に接触させることが必要である。一基の吸着塔で脱着と同時に吸着することはできないので、脱着は速やかに実行することが好ましい。脱着を速める方法としては、脱着用のガスを大量に導入する方法、真空ポンプで吸引して圧力を低下させる方法、吸熱反応である脱着を促進するために高温の脱着用水蒸気を導入する方法などがあり、コストや効率の点から、高温の脱着用水蒸気を用いる方法が多く採用されている。
【0004】
いずれにせよ、常に排ガス処理を継続するためには、少なくとも二本の吸着塔を並列させ、一つが脱着工程を行っている間に、別の吸着塔が吸着工程を担うようにしなければならない。それぞれの塔は吸着工程と脱着工程とを交互に行うことになる。
【0005】
高温の水蒸気で脱着を行う場合、脱着工程が終わった直後の吸着塔には高温の水蒸気が充満している。ここに排ガスを導入して高温の水蒸気が押し出されると、排出口から大気中に吹き出して白煙を生じる。その正体は湯気でしかないが、外観上問題とされやすいため、この白煙の発生を防止する手段が検討されている。
【0006】
例えば、吸着塔の出口側にコンデンサーを連結し、外気を導入して水蒸気をコンデンサーに押し出し、コンデンサーにて水蒸気を凝縮して回収する方法が提案されている(特許文献1の[0024])。
【0007】
また特許文献2には、2つの吸着塔を直列に接続し、被処理ガスを上流の吸着塔に流し、その排気を下流の吸着塔に流す方法が記載されている(特許文献2の[0011])。
【0008】
一方、有機物を脱着させた後の水蒸気を、水蒸気を得るための熱を発生させる燃焼炉に供給して、その有機物を燃焼させることで燃料を節約する方法が検討されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−66503号公報
【特許文献2】特開2001−179041号公報
【特許文献3】特開2007−222736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1のようにコンデンサーを設けると、それによって部品点数が増えて装置が複雑化し、制御も難しくなり、コストも増加してしまった。
【0011】
一方、特許文献2には、あくまで被処理ガスとして一旦吸着を終えたガスを別の吸着塔に導入することが記載されているものの、脱着用水蒸気の余剰分については問題視した記載や示唆は全くない。
【0012】
また、特許文献3のように脱着用水蒸気を燃焼炉に送ろうとしても、脱着完了時点で吸着塔内に残っている水蒸気が含有する有機物はわずかであるため、この水蒸気を燃焼炉に導入しても供給できる燃料の全体量が減ることになり、燃焼炉で発生させるべき熱量が低下し、脱着に必要な水蒸気を得るための熱量が賄いきれなくなるおそれがあった。
【0013】
さらに、高温の水蒸気をそのまま放出したり、わざわざ凝縮したりすることは、エネルギー上大きなロスであるため、省エネの点からも問題であった。
【0014】
そこでこの発明は、脱着完了後に吸着塔内に残る水蒸気による白煙の発生を簡便に防ぎ、かつエネルギー効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、脱着工程が終了した時点で一の吸着塔内に残る残存脱着用水蒸気を転出させて、脱着をこれから行う他の吸着塔、脱着を開始している他の吸着塔、又はその両方に転入させることにより、上記の課題を解決したのである。
【0016】
すなわち、残存脱着用水蒸気はまだ十分な熱量を残しているため、脱着をこれから開始する他の吸着塔に転入させると、その熱量を脱着開始時に必要な加熱のために用いることができ、その分の脱着用水蒸気が節約できる。また、既に脱着を開始している他の吸着塔に転入させると、脱着用水蒸気の一部としても用いることができる。特に、脱着開始時点で導入することが有効である。脱着開始時点では十分に吸着層が暖まっておらず、脱着用水蒸気を導入しても予熱のために消費されるだけで脱着は容易に進行しないが、その無駄になる分を補うことができるからである。他の吸着塔に転入させれば、その分の水蒸気は、他の脱着用水蒸気と同じラインで循環させたり処理させたりすることができるので、装置から白煙が生じることもない。
【0017】
具体的な転出入の方法としては、そのためのラインを別途設けてもよいが、その分装置が複雑化してしまうため、元来から使用されている上記脱着用水蒸気を供給するための水蒸気供給ラインを一部逆送させて行うと、装置の拡張を抑えてこの発明を実施できる。
【0018】
上記脱着用水蒸気の供給口が、吸着塔の高さ方向に複数段存在している場合には、上記残存脱着用水蒸気を最下段の供給口から供給することで、吸着層の一部ではなく全体を効率よく暖めることができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明により、残存脱着用水蒸気が有していた熱量を無駄にすることなく他の吸着塔の予熱のために効率よく利用することができ、水蒸気の排出によって白煙が生じることも防ぎ、装置系内の循環性、リサイクル性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明を実施する有機化合物処理装置の例を示す構成図
【図2】この発明の第一の実施形態におけるフロー図
【図3】この発明の第二の実施形態におけるフロー図
【図4】燃焼炉と熱交換器を備えた有機化合物処理装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明を具体的に説明する。この発明は、揮発性有機化合物を吸着する吸着剤を充填した吸着層を内部に有する吸着塔を複数基有し、その吸着塔の少なくとも一つに、揮発性有機化合物を含有するガスを導入し、前記揮発性有機化合物を上記吸着剤に吸着させて含有量を低減させた処理後ガスを排出し、吸着を行った後の吸着塔には、順に脱着用水蒸気を導入して吸着剤から揮発性有機化合物を脱着させた後に、再び吸着に用いる、有機化合物処理装置の制御方法である。
【0022】
この発明を実行する有機化合物処理装置が処理する揮発性有機化合物とは、常圧で加熱することで気体になり得る有機化合物であり、特に常温で液体であるものが吸着処理しやすい。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数が1〜8程度のアルコール、トルエン、ベンゼンなどの芳香族有機化合物などの、炭化水素系の溶剤が挙げられる。
【0023】
まず、図1に示す吸着塔を並列に二基有する装置を有する実施形態について説明するが、吸着塔は三基以上並列であってもよい。また、並列に二基以上設けてあれば、それぞれの列がさらに直列に複数基連結されていても構わない。
【0024】
この有機化合物処理装置は、二つの吸着塔11(11a,11b)を有する。それぞれの吸着塔11a,11bは略円筒形であり、下方側の端部近傍に一枚の多孔板20a,20bを設けてある。多孔板20(20a,20b)は吸着塔11の横断面全てを覆う大きさであり、この多孔板20上に、揮発性有機化合物を吸着可能でありかつ加熱により脱着可能な吸着剤を充填させた吸着層12(12a,12b)を設けている。この吸着剤としては、例えば、多孔板の穴より粒径が大きい活性炭の粒子などが挙げられる。吸着層12は吸着塔11の上下端までは到達せず、上下どちらにも空洞部分を有する。
【0025】
吸着塔11の吸着層12より上端側には、揮発性有機化合物含有ガスAの導入口13(13a,13b)が設けてあり、吸着層12より下端側には、処理後ガスBの排出口15(15a,15b)が設けてある。それぞれの口には弁が設けてある。このうち、排出口15は大気中へ放出するものである。また、下端側の底部には図示しないが、主に蒸気が凝集して生じた水を排出する排水口が設けてある。揮発性有機化合物含有ガスAは、別の装置等で発生したもので、揮発性有機化合物を除去して処理後ガスBにする処理対象である。例えば、種々の排ガスなどが挙げられる。揮発性有機化合物含有ガスAは、導入口13から導入されて排出口15までの間にある吸着層12を通過する際に、揮発性有機化合物を吸着剤に吸着されて、揮発性有機化合物の濃度が低下した処理後ガスBとなる。
【0026】
上記の吸着塔11の吸着層12が設けられた側面に、吸着層12の一部に対して脱着用水蒸気Fを供給する供給口24(24a,24b)が設けてあり、吸着塔11の吸着層12より下の底部に、吸着層12の全体に対して脱着用水蒸気Fを供給する供給口25(25a,25b)が設けてある。これらそれぞれの口に弁が設けてある。これらの供給口24,25は、脱着用水蒸気の供給源に繋がる水蒸気供給ライン21に繋がっており、分岐点22以降が各々の吸着塔11へ向かって分かれている。水蒸気供給ライン21には、分岐点22の前に逆流を防止するための弁23が設けてある。
【0027】
供給口24,25から供給された脱着用水蒸気Fは、供給開始直後は吸着層12で冷やされて大部分が凝縮し、大量の水(ドレン)として排水口から排出されるが、進行する脱着用水蒸気Fの供給とともに、吸着層12の温度が上昇すると、部分的に凝縮して水(ミスト)と上記の混合体となり、吸着層12に吸着された揮発性有機化合物を脱着させ、気体又は液滴(ミスト)状態で、揮発性有機化合物を同伴させつつ上昇し、吸着塔11の塔頂部に設けられた供出口26(26a,26b)から出て行く(揮発性有機化合物含有水蒸気K)。ただし、一旦脱着を行った後はこの工程の一部を後述する残存脱着用水蒸気が担うことになる。
【0028】
また、供給口25(25a、25b)にはそれぞれ水蒸気温度センサが設けてあり、後述する残存脱着用水蒸気が通過する際にその温度を計測できる。
【0029】
上記の構成から成る揮発性有機化合物処理装置の運用方法の実施手順を図2のフローと表1の状況遷移表とともに説明する。なお、表1中、「open」は該当部の弁を開放することを示し、「close」は該当部の弁を閉鎖することを示す。「in」は該当部を通して塔内へ向けてガスが流入することを示し、「out」は該当部を通して塔内からガスが流出していることを示す。「−」は閉鎖のまま変わらないことを示し、「|」は開放のまま変わらないことを示す。
【0030】
【表1】

【0031】
この発明にかかる揮発性有機化合物処理装置は、まず(S100)、一方の吸着塔11(11a又は11b)に繋がる導入口13(13a又は13b)を開放して、揮発性有機化合物含有ガスAをその一方の吸着塔11(11a又は11b)に導入し、吸着層12の吸着剤に吸着させ始める(S101)。ここでは、まず「a」の塔から吸着を始める。吸着層12aを通過した処理後ガスBは排出口15aから出て大気中へ放出される。この吸着作業を一定時間が経過するまで、又は、吸着能が一定以下になるまで行う(S102)。
【0032】
一方、吸着を終える前から脱着の準備を進めておく。すなわち、水蒸気供給ライン21に繋がる脱着用水蒸気Fの供給源で、脱着を行うために十分な高温の水蒸気を供給できるように準備を整えておく。
【0033】
次に、吸着塔11aでの吸着を終えるためには導入口13aの弁を閉める(S103)。それと同時に導入口13bの弁を開けて、もしくは導入口13aの弁を閉めるより若干早く導入口13bの弁を開けて、吸着工程を吸着塔11aから吸着塔11bへと移行する(S103)。そして、水蒸気供給ライン21の弁23を開放し、吸着塔11aの上段の供給口24aを開けて(S104)、吸着層12aの一部(上部のみ)について脱着を開始する(S105)。一定時間経過した後に、吸着塔11aの底部の供給口25aを開けて(S106)、吸着層12の全部について脱着を開始させることで、多段的な脱着を進行させる(S107)。このような多段階の脱着開始を行うことで、脱着される揮発性有機化合物の濃度を時間経過に対して平準化し、放出する揮発性有機化合物含有水蒸気Kを処理する際の負荷を分散させることができる。濃度が一時的に極端に高まると、その段階で揮発性有機化合物含有水蒸気Kを成分分離したり燃焼させたりする際の処理負荷が上がってしまうが、平準化によってこの負荷の増大を抑制できる。
【0034】
具体的には、脱着は次のように進行する。最初は供給された脱着用水蒸気Fによって吸着層12aが暖められ、水蒸気は凝縮されて水となって排水されるが、十分に熱せられた後は、脱着用水蒸気Fによって吸着層12aから揮発性有機化合物が脱着される。これが、吸着層12aのうち、供給口24aよりも上の領域でまず起こり(S105)、続いて吸着層12aの残りの領域で起こる(S107)。脱着工程を通じて、脱着された揮発性有機化合物はミストや水蒸気に同伴された揮発性有機化合物含有水蒸気Kとして、供出口26aから外部へと供出される(S108)。供出口26aから出た揮発性有機化合物含有水蒸気Kには、揮発性有機化合物が含まれているので、これを何らかの形で回収又は利用することが望ましい。例えば、コンデンサーなどで凝集させて水と有機化合物を回収してもよいし、燃焼炉に送り込んで脱着用水蒸気Fを得るための燃料の一部としても用いてもよい。このような脱着作業(S108)を、十分に吸着層12aから揮発性有機化合物が脱着されるまで行う。具体的には、一定時間が経過するまで、揮発性有機化合物含有水蒸気K中に含まれる揮発性有機化合物の量が一定以下になるまで、又は、揮発性有機化合物含有水蒸気Kの温度が一定以上になるまで行う。特に、リアルタイムで水蒸気中における揮発性有機化合物の含有量を測定することは困難であるため、時間又は温度で判断するのが望ましい。脱着が十分に進行したら、揮発性有機化合物含有水蒸気Kの温度は十分に元の脱着用水蒸気Fの温度に近づくからである。
【0035】
脱着を終了させるには、水蒸気供給ライン21の弁23を閉鎖し、併せて上段の供給口24aを閉鎖する(S109)。ただし、下段の供給口25aは開放したままとしておく。その状態で、吸着塔11bでの吸着工程が終わるまで待機する(S110)。
【0036】
吸着塔11bでの吸着が終わったら、導入口13bを閉鎖し、導入口13aを開放して、揮発性有機化合物含有ガスAを導入口13aから吸着塔11a内に導入して吸着塔11aでの吸着を開始する(S111)。ただし、吸着を終えた吸着塔11bについては、導入口13bの閉鎖とともに上段の供給口24bを閉鎖しておくが、底部の供給口25bは開放しておく(S112)。
【0037】
これにより、吸着塔11aでは、排出口15aは閉鎖されたままで、供給口25aが空いているので、吸着塔11a内に残存していた高温の残存脱着用水蒸気は、揮発性有機化合物含有ガスAに押し出されて、供給口25aから転出して行く(S113)。転出された残存脱着用水蒸気は、供給口25aから分岐点22まで逆送したのち、分岐点22から供給口25bまで順送して、供給口25bから吸着塔11b内に転入される(S114)。こうして残存脱着用水蒸気は、吸着塔11aが保有していた熱量ごと、吸着塔11bに移動する。吸着塔11aに残存していた残存脱着用水蒸気によって、吸着塔11b内が暖められるので、脱着開始時において吸着塔11bに導入される脱着用水蒸気Fの無駄が少なくなる。なお、このとき水蒸気供給ライン21の弁23は閉鎖してある。
【0038】
ここで、底面の供給口25bの弁を開放したのは、上部にある供給口24bの弁のみを開放すると残存水蒸気により有機溶剤が多量に脱着し、平準化の妨げになるおそれがあるためである。底面から残存水蒸気を転入させれば、この熱量は専ら吸着層全体を暖めるために使われ、脱着にはほとんど寄与しない。即ち、上記の平準化の妨げにはならない。
高さ方向に複数の供給口がある場合も、このように最も供出口に近い(すなわち、最上段の)供給口のみを開放することは、避けたほうが良い。
【0039】
この残存脱着用水蒸気の転出入は徹底して行うのではなく、途中で打ち切ることが好ましい。残存脱着用水蒸気は徐々に冷やされてくるため、転出の終盤になってくると、わざわざ転出入させて再利用するほどの熱量はなくなってくる。そのような残存脱出用水蒸気を吸着塔11bに転入させても予熱させる効果が不充分であり、それよりは脱着用水蒸気Fをそのまま導入させてしまった方が、効率がよくなる。このため、吸着塔11aでは、塔内や供給口配管などのいずれかに設けた温度センサにて温度を測定しつづけ、残存脱着用水蒸気を転出入しても熱効率がかえって悪くなると考えられる一定温度を下回ったら転出を止めるために供給口25aを閉鎖し、排出口15aを開放して、排出口15aから気体を排出するように変更する(S115)。この時点で排出される気体は、処理後ガスBと残存脱着用水蒸気との混合体となっている可能性が高く、以後、処理後ガスBの含有量が増加していく。残存脱着用水蒸気は、元々持っていた水蒸気の大半が既に凝集して水となって底部の上記排水口から排出されているので、処理後ガスBとともに大気中へ排出しても、白煙を生じることはほとんどない。その後、吸着塔11aでは上記のように一定時間が経過するなどの条件が成立するまで吸着工程を続けていく(S116〜)。
【0040】
なお、残存脱着用水蒸気の温度の低下速度は、外気温が同じであればほぼ一定になると考えられるので、一旦温度センサにて残存脱着用水蒸気の転出時の温度を測定して、上記の一定温度以下になるまでの時間を測定しておき、二度目以降はその一定時間が経過した時点で転出を終えるように設定してもよい。この他、残存脱着用水蒸気を転入させる吸着塔11bの上面に温度センサを設け、この温度が一定以上に達したときに転出入を打ち切ってもよい。これは、特に残存脱着用水蒸気を吸着塔の上部から転入させる場合に効果を発揮する。即ち、残存脱着用水蒸気により予期せず脱着が進行しないため、平準化を妨げることがないためである。なお、後述する実施形態のように残存脱着用水蒸気と脱着用水蒸気Fを混合して転入させる場合、塔内に供給される脱着用水蒸気の総量が増加するが、前記温度センサに連動させることでこの残存脱着用水蒸気の有無に関わらず同じ運転条件で平準化を行うことができる。
【0041】
一方、吸着塔11bでは、上段の供給口24bを開放して、下段の供給口25bを一旦閉鎖する(S115)。これと併せて、水蒸気供給ライン21の弁23を開放することで、水蒸気供給ライン21から供給される脱着用水蒸気Fが、上段の供給口24bから供給されて、吸着層12bの上段部分の脱着が開始される(S116)。その後、供給口25bを開放して(S117)、吸着層12bの全体で脱着を起こさせることで(S118)、吸着層12bの全体から一挙に揮発性有機化合物が脱着されることを防ぎ、脱着量の平準化を図る。
底部の供給口25bの弁開放(S117)により、吸着層全体の脱着が開始されるが、底面からの残存水蒸気により吸着層の下段が暖められているため脱着が速やかに起こり、脱着工程の時間短縮になる。
【0042】
その後の、吸着塔11bにおける脱着終了後の経過(S119〜)は、上記のS109の後と吸着塔11a,11bの関係が逆になっただけで同じである。すなわち、吸着塔11b内に残存した残存脱着用水蒸気が、導入口13bから導入された揮発性有機化合物含有ガスAに押し出されて、底部の供給口25bから転出され、分岐点22まで逆送され、吸着塔11aの供給口25aから転入されることで、吸着塔11bに残存していた熱量の多くが吸着塔11aに移動する。
【0043】
このような、脱着完了時に残る残存脱着用水蒸気の転出入を脱着終了及び吸着開始の際に行うことで、水蒸気量及び熱量を無駄にせず、なおかつ、高温の水蒸気を大気中に排出することを防ぎ、白煙の発生を防止することができる。
【0044】
上記の実施形態は、残存脱着用水蒸気の転出入の際に、弁23を閉じて新たな脱着用水蒸気の供給を一時的に停止している。これは残存脱着用水蒸気が水蒸気源へ逆流することを防ぐためである。ただし、この弁23が単なるオンオフだけでなく、流量を調整できる弁であれば、残存脱着用水蒸気が転出入の際に水蒸気源へ逆流することを防ぎつつ、新たな脱着用水蒸気を供給して、速やかな転出入と脱着開始を行うことができる。この第二の実施形態を、上記第一の実施形態を基礎として説明する。
【0045】
この第二の実施形態の実施手順を、図3のフローと表2の状況遷移表とともに説明する。S100〜S111までは第一の実施形態と同じであるが、図2及び表1におけるS112〜S116を変更しており、それぞれをS112a〜S116aと表記する。すなわち、吸着塔11bでの吸着が終わり、吸着塔11aでの吸着を開始する際(S111)、吸着を終えた吸着塔11bの、上部の供給口24b,及び底部の供給口25bの両方の弁を開放するとともに、水蒸気源から新たな脱着用水蒸気を供給するべく弁23を開放する(S112a)。ただし、弁23と上部の供給口24bの弁は、流量を絞ることが可能であり、いずれも全開にせず、適度に調整する必要がある。
【0046】
【表2】

【0047】
吸着塔11a内に残存していた残存脱着用水蒸気が供給口25aから転出する(S113a。第一の実施形態S113と同様。)。この転出した残存脱着用水蒸気と、水蒸気供給ライン21から弁23を通して供給された新たな脱着用水蒸気Fとが、分岐点22付近で混合して、上部の供給口24b及び底部の供給口25bから、吸着塔11b内に供給される(S114a)。ただし、混合した水蒸気が弁23へ逆流しないように、コントロールバルブである弁23を通過する流量を適切に調整しておく。また、上部の供給口24bの弁をコントロールバルブとするか、又は、分岐点22と供給口24bとの間にコントロールバルブを設けるか、いずれかの位置のコントロールバルブにより、上部の供給口24bへ流れ込む水蒸気量を絞り、底部の供給口25bへ優先的に水蒸気が供給されるように調整する。これにより、上部の供給口24bに過剰にならない程度の水蒸気が供給されて、速やかに脱着を開始でき、第一の実施形態よりも脱着に要する時間を短縮できる。また、それと並行して、吸着層12bの上部の供給口24bよりも下の部分が、転入してきた残存脱着用水蒸気と新たな脱着用水蒸気Fとによって十分暖められる。その後、底部の供給口25bの弁は一旦閉鎖する(S115a)が、既に吸着層12bの上部では脱着が進行しているため(S116a)、下部での脱着開始までの時間ロスも少なくなり、吸着層12bが十分に暖められた状態で、その後の全体脱着(S117,S118)が開始される。これにより、吸着層12bの下部に吸着されていた揮散性有機化合物は、第一の実施形態よりも早く脱着されるため、吸着層12bの上部から脱着された揮散性有機化合物の供出に続くまでの時間が短縮され、供出量の低下を抑え、全体として第一の実施形態よりも、揮散性有機化合物の量がさらに平準化される。
【0048】
以上と同様の変更が、吸着塔11aへの転入時にも行われる(S122a〜S125a)。
【0049】
次に、有機化合物処理装置の構成が異なる場合の、応用的な実施形態について述べる。
有機化合物処理装置が水蒸気供給ライン21に弁23を持たない場合でも、この発明の実施は可能である。すなわち、水蒸気供給ライン21から常に脱着用水蒸気Fが供給され続けていても、その供給圧力を上回る程度の圧力で吸着塔11a(又は11b)に揮発性有機化合物含有ガスAを供給すると、それによって押されて転出させられる残存脱着用水蒸気が、供給される脱着用水蒸気Fを押し戻し、供給口25a(又は25b)から分岐点22まで残存脱着用水蒸気を逆送させることができる。分岐点22まで到達した残存脱着用水蒸気と新たな脱着用水蒸気とは、上記第二の実施形態と同様に混合されて分岐点22から供給口25b(又は25a)へ順送され、吸着塔11b(又は11a)へ残存脱着用水蒸気を転入させることができる。一方、分岐点22よりも上流側の水蒸気供給ライン21では、脱着用水蒸気Fの流れが分岐しないため、供給圧力が高くなり、残存脱着用水蒸気の逆流がある程度進んでも、途中で脱着用水蒸気Fの圧力によって逆流は止まり、水蒸気の供給源まで逆流することを防ぐことができる。このような弁23を持たない構成とすることによって、部品点数を減らして装置を簡略化できるとともに、制御すべき弁の数が減るので、制御機構も簡略化できる。
【0050】
なお、弁23を設けない場合でも、上記第二の実施形態のように、転入の際に上部の供給口24a(又は24b)をコントロールバルブによって絞りつつ開放してもよい。
【0051】
この発明を実施するにあたり、有機化合物処理装置が有する吸着塔11は、二基の場合に限定されず、三基以上を並列に設けてあっても実施可能である。三基以上の吸着塔を、それぞれタイミングをずらして吸着、脱着させることで、処理装置の目的である吸着工程を安定して進行させることができる。吸着の開始時には、揮発性有機化合物含有ガスAが吸着層12に浸透する際にある程度の時間と圧力が必要となり、圧損が生じるため、導入して速やかに吸着が100%の効率で進行するわけではない。その吸着開始時の圧損を他の吸着塔が補うことで、本来の目的である吸着塔の吸着工程を安定して進行させることができる。その上で、一の吸着塔で脱着完了時に残存している残存脱着用水蒸気を吸着開始とともに転出させ、次の脱着を行う吸着塔に転入させれば、上記の吸着塔が二基の場合の実施形態と同様に、一の吸着塔に蓄積していた熱を有効に利用することができるとともに、残存脱着用水蒸気の大気放出を防いで、白煙の発生を防止できる。
【0052】
また、三基以上の吸着塔を並行して運用する場合、脱着が完了した一の吸着塔から、既に脱着が開始されている別の吸着塔に残存脱着用水蒸気を転出入させてもよい。この場合、脱着の開始前に予熱しておくことはできないが、残存脱着用水蒸気が大気中へと放出されず、新たな脱着用水蒸気Fと一緒に脱着に用いることができるので、水蒸気の無駄を減らすことはでき、また、水蒸気の大気外放出による白煙の発生も抑えることが出来る。
【0053】
この発明を実施する有機化合物処理装置に水蒸気を供給する供給源としては、外部に存在する水蒸気発生源があればそれを利用してもよい。揮発性有機化合物含有ガスAの発生源が熱を発するものである場合はその熱により水を蒸発させて脱着用水蒸気Fを得てもよい。一方、有機化合物の処理装置として装置内で水蒸気の供給を行い、装置を完結させる場合には、燃料を燃やして熱を発生させる燃焼炉31と、その燃焼炉の熱により水を脱着用水蒸気Fにする熱交換器32とを併設させるとよい。その場合の有機化合物処理装置の構成図を図4に示す。
【0054】
燃焼炉31は上記の脱着用水蒸気Fを生成させるための熱を発生させるためのものであり、そのための燃料Dを供給する燃料供給口42を有しており、それとは別に、上記の吸着塔11(11a,11b)の供出口26(26a,26b)から送られてきた有機化合物含有水蒸気Kを供給する含有水蒸気供給口43も有している。また燃焼炉31は当然にバーナや煙突も有している(いずれも図示せず。)。さらに、内部温度を測定する燃焼炉内温度センサ44を有している。この燃焼炉31で発生した熱が、熱交換器32へ供給される。
【0055】
熱交換器32は、水蒸気の元となる水Eを供給する循環口51を備え、水Eを加熱して脱着用水蒸気Fを発生させる。生じた脱着用水蒸気Fは、水蒸気発生口52から水蒸気供給ライン21を通じて、上記の吸着塔11の供給口24,25へ供給されるが、その吸着塔11a、11bへと分かれる分岐点22の前に、循環用分岐53が設けてあり、分岐の一方は熱交換器32へ循環する循環経路54を形成している。この循環経路54中には、水Eを噴霧する機能を有しており、循環口51を通じて熱交換器32に繋がる。生成する脱着用水蒸気Fが十分な高温になるまでは、発生する水蒸気はこの循環経路54を巡り、吸着塔11や外部へは排出しないようにして、熱効率を高めている。また、熱交換器32は発生する水蒸気の温度を調整するために、内部温度を測定する水蒸気温度センサ56を有している。
【0056】
上記の循環用分岐53の他方は、上記の吸着塔11a,11bへ分かれる分岐点22との間にさらにもう一つの放出用分岐55が設けてある。この放出用分岐55の一方は、大気への開放口59に繋がっており、循環経路54内の内圧が過剰になったり、脱着用水蒸気Fが余ったときに、大気中に逃がすことができるよう、必要に応じて開閉可能な弁が設けられている。特に、弁23を設けないでこの発明を実施するにあたり、逆送する残存脱着用水蒸気によって循環経路54などの内圧が許容限界に近づいたときに、放出を行う安全弁として作用する。
【符号の説明】
【0057】
A 揮発性有機化合物含有ガス
B 処理後ガス
D 燃料
E 水
F 脱着用水蒸気
K 揮発性有機化合物含有水蒸気
11,11a,11b 吸着塔
12,12a,12b 吸着層
13,13a,13b 導入口
15,15a,15b 排出口
20,20a,20b 多孔板
21 水蒸気供給ライン
22 分岐点
23 弁
24,24a,24b 供給口
25,25a,25b 供給口
26,26a,26b 供出口
31 燃焼炉
32 熱交換器
35 放出用分岐
42 燃料供給口
43 含有水蒸気供給口
44 燃焼炉内温度センサ
51 循環口
52 水蒸気発生口
53 循環用分岐
54 循環経路
55 放出用分岐
56 水蒸気温度センサ
59 開放口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物を吸着する吸着剤を充填した吸着層を内部に有する吸着塔を複数基有し、その吸着塔の少なくとも一つに、揮発性有機化合物を含有するガスを導入し、前記揮発性有機化合物を上記吸着剤に吸着させて含有量を低減させた処理後ガスを排出し、
吸着を行った後の吸着塔に、順に脱着用水蒸気を導入して吸着剤から揮発性有機化合物を脱着させた後に、再び吸着に用いる、有機化合物処理装置の制御方法であって、
上記脱着が終了した時点でその吸着塔内に残存する残存脱着用水蒸気を転出させて、脱着をこれから行う他の吸着塔、脱着を開始している他の吸着塔、又はその両方に転入することを特徴とする、有機化合物処理装置の運用方法。
【請求項2】
上記吸着塔に上記脱着用水蒸気を供給する水蒸気供給ラインは、供給源から途中まで共有されて個々の吸着塔に向けて分かれる分岐点を有しており、
他の上記吸着塔への上記残存脱着用水蒸気の転出入を、一の上記吸着塔の脱着用水蒸気供給口を転出のための排出口としてそこから上記水蒸気供給ラインを分岐点まで逆送させ、その分岐点から他の上記吸着塔の転入のための供給口となる脱着用水蒸気供給口まで順送させて行うことを特徴とする請求項1に記載の有機化合物処理装置の運用方法。
【請求項3】
上記脱着用水蒸気供給口が、上記吸着塔の高さ方向に複数段存在しており、上記転入のための供給口として、少なくとも最上段以外の上記脱着用水蒸気供給口を利用することを特徴とする請求項2に記載の有機化合物処理装置の運用方法。
【請求項4】
上記脱着用水蒸気の供給源から、上記分岐点までの間に逆流を防ぐ弁が無く、
上記供給源まで残存脱着用水蒸気が逆送することを、上記供給源からの脱着用水蒸気の連続供給によって防ぐことを特徴とする請求項2又は3に記載の有機化合物処理装置の運用方法。
【請求項5】
一の上記吸着塔内に残存した上記残存脱着用水蒸気の転出を、当該一の上記吸着塔における転出のための排出口における水蒸気温度が予め定めた温度を下回った時点、又は転出開始から予め定めた時間を経過した時点で打ち切ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機化合物処理装置の運用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−86018(P2013−86018A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228690(P2011−228690)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】