説明

有機単結晶薄膜、有機単結晶導波路及び作製方法

【課題】 歩留まりが高く良質な有機単結晶薄膜、有機単結晶導波路及び作製方法を提供する。
【解決手段】 加熱手段104によりバルク状の有機単結晶表面近傍に溶融部102を形成し、溶融部102に基板面を対向接触させた状態で冷却手段106により溶融部102を冷却することにより得られるバルク単結晶101と基板100との接合体を、基板100側から所望の厚さで切断することより得られる有機単結晶薄膜を用いることにより、歩留まりが高く良質な有機単結晶薄膜、有機単結晶導波路が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的特性を持つ有機単結晶薄膜、有機単結晶導波路及び作製方法に関し、特に光通信や光情報処理分野において必要とされる非線形光学装置・高速スイッチング装置などに使用される有機単結晶薄膜、有機単結晶導波路及び作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機単結晶薄膜、有機単結晶導波路及び作製方法には以下の技術が挙げられる。
(1)フォトリソグラフィーにより基板に複数の溝を形成し、その上に溶融再結晶により単結晶薄膜を形成。溝の方向により単結晶薄膜の方位を規制する、光波長変換素子の製造方法(例えば、特許文献1参照)。
(2)一対の平面基板の間隙に融液を毛細管現象により吸引し、融点よりわずかに高い温度から冷却固化することにより良質の有機多結晶薄膜を得る、有機非線形光学薄膜の作製方法(例えば、特許文献2参照)。
(3)スローエバポレーション法により、上層の有機化合物が溶解している有機溶液と下層の水との界面に有機単結晶薄膜を作製する薄膜状有機単結晶の製造方法(例えば、特許文献3参照)。
(4)[110]の面方位を有するイオン性単結晶基板に、蒸着法、融液からの析出法、溶液からの再結晶法により有機化合物薄膜及びその製造方法(例えば、特許文献4参照)。
(5)有機気相反応法(OVPD)による有機非線形光学材料DAST(4'−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)薄膜の作製方法(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献1】特開昭63−15233号公報
【特許文献2】特開平1−131535号公報
【特許文献3】特許第2659243号公報
【特許文献4】特開平7−10698号公報
【特許文献5】特表2000−504298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来技術では以下のような問題がある。
(1)溶融再結晶なので、複数の種結晶が生成しやすく多結晶化しやすい。結晶方位も基板の性質で決定されてしまう。
(2)同上。
(3)溶媒蒸発法なのでやはり複数の種結晶が発生しやすく、多結晶化する。有機溶液と水との界面に有機薄膜が生成するため、デバイスとして作用させる為には所定の基板に移し取るという難しい工程が必要になる。生産性も悪い。
(4)擬似的なエピタキシャル成長ではあるが、基板がイオン性単結晶に限られてしまう。
(5)気相での化学反応を利用するため、適用可能な材料がごく一部に限られてしまう。薄膜の堆積速度と良質の単結晶薄膜生成がトレードオフの関係になる。
【0004】
そこで、本発明は、これらの問題を解決するため、歩留まりが高く良質な有機単結晶薄膜、有機単結晶導波路及び作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、加熱手段によりバルク状の有機単結晶表面近傍に溶融部を形成し、該溶融部に基板を対向接触させた状態で冷却手段により前記溶融部を冷却することにより得られるバルク単結晶と前記基板との接合体を、前記基板側から所望の厚さで切断することより得られることを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記加熱手段の加熱条件及び前記冷却手段の冷却条件を所定の条件に設定することにより得られることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記バルク単結晶と前記基板との間に形成される前記溶融部に圧力及びせん断応力のいずれか一方もしくは両方を与えることにより得られることを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載の発明において、前記基板として予め表面処理を行った基板を使用することを特徴とする。
【0009】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項記載の発明において、前記基板として予め導波路形成に適した形状に加工された基板を使用することにより得られる請求項1から4のいずれか1項記載の有機単結晶薄膜を用いたことを特徴とする。
【0010】
請求項6記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項記載の発明において、請求項1から4のいずれか1項記載の有機単結晶薄膜を用いたことを特徴とする。
【0011】
請求項7記載の発明は、加熱手段によりバルク状の有機単結晶表面近傍に溶融部を形成し、該溶融部に基板を対向接触させた状態から冷却手段で前記溶融部を冷却し、冷却することにより得られるバルク単結晶と前記基板との接合体を前記基板側から所望の厚さで切断することより有機単結晶薄膜を作製することを特徴とする。
【0012】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記加熱手段の加熱条件及び前記冷却手段の冷却条件を所定の条件に設定することにより有機単結晶薄膜を作製することを特徴とする。
【0013】
請求項9記載の発明は、請求項7または8記載の発明において、前記バルク単結晶と前記基板との間に形成される前記溶融部に圧力及びせん断応力の何れか一方もしくは両方を与えることにより有機単結晶薄膜を作製することを特徴とする。
【0014】
請求項10記載の発明は、請求項7から9のいずれか1項記載の発明において、前記基板として予め表面処理を行った基板を使用することを特徴とする。
【0015】
請求項11記載の発明は、予め導波路形成に適した形状に加工された基板を使用することにより得られる請求項7から10のいずれか1項記載の有機単結晶薄膜を用いることを特徴とする。
【0016】
請求項12記載の発明は、請求項7から11のいずれか1項記載の有機単結晶薄膜を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1、7に記載の発明によれば、バルク単結晶と基板との間に溶融部を形成し、その溶融部をバルク単結晶側からエピタキシャル成長させることによりバルク単結晶と基板との接合体を得、その接合体を基板側から所望の厚さに切断し、研磨するという簡単な構成により、従来法で生じていた、複数の結晶核発生による多結晶化を防止することができ、歩留まりが高く良質な有機単結晶薄膜が得られる。
【0018】
請求項2、3、8、9に記載の発明によれば、基板、バルク単結晶の加熱条件・冷却条件および溶融部に加わる応力を最適に制御することにより、良質の単結晶薄膜を得ることができる。即ち、溶融部の厚みと溶融部における温度勾配、冷却速度を最適化することにより、良質の単結晶薄膜を得ることができる。
【0019】
請求項4、10に記載の発明によれば、予め導波路形成に適した基板を使用することにより、導波路デバイス作製に有利な形で有機単結晶薄膜を基板に形成できる。本発明によれば、導波路溝の形状による複数の結晶核発生と多結晶薄膜化を防止し、良質の単結晶薄膜を得ることができる。
【0020】
請求項5、11に記載の発明によれば、有機材料は無機材料に比べて、切断、研磨、切削、エッチング、アブレーション等の加工技術が広く使用でき、単結晶薄膜の後加工が容易である。この特長を利用すれば、スラブ状単結晶薄膜導波路を任意の形状に後加工することが可能である。
【0021】
請求項6、12に記載の発明によれば、基板を表面処理することにより、有機単結晶薄膜と基板との接着性を増すことができる。また、単結晶薄膜の成長を容易ならしめることも可能である。さらに、基板に表面処理を施すことにより、単結晶薄膜の製造歩留まりと品質が向上する。
【0022】
ここで、本発明は、複数の種結晶の生成・多結晶薄膜化を抑えるため、気相法、溶液法、融液法による結晶核生成とそれに続く種結晶の成長というプロセスに代わって、予め準備されたバルク単結晶を用いた液相エピタキシャル成長を採用した。
この方法によれば、結晶成長が予め用意されたバルク単結晶側から進むので、バルク単結晶の結晶方位を決めておけばそれにしたがって薄膜単結晶の結晶方位を基板の性質にかかわらず任意に制御することができる。
基板とバルク単結晶との間隔および加熱温度や冷却温度を適切にコントロールすることにより溶融層の膜厚と温度勾配を精度良く制御することが可能になり、良質の単結晶薄膜を作製することができる。
すなわち、本発明によれば、任意の基板に任意の材料・任意の結晶方位で、生産性良く良質な有機単結晶薄膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
〔請求項1関係〕
図1(a)は本発明に係る有機単結晶薄膜の作製方法の一実施の形態を示す原理図であり、図1(b)は図1(a)の温度分布図である。図1(b)において、横軸は温度を示し、縦軸はバルク単結晶の厚さ方向の位置を示す。
バルク単結晶101は、溶液法、ブリッジマン法等の有機単結晶の作製方法として通常用いられる方法により作製されたものを使用する。本発明に使用できる比較的大型のバルク単結晶の作製方法については、「Crystals」(H. C. Freyhardt監修、Springer-Verlag)1〜100ページ(N. Karl著)に詳細に記述されている。バルク単結晶101は所望の方位が出るように予め加工されたものを用いる。バルク単結晶101の厚さについては特に制限は無い。
溶融部102は、バルク単結晶101の表面を溶融させて作製しても良く、バルク単結晶101の目減りを押える為に予め別途基板100側にバルク単結晶101を形成する有機材料の多結晶薄膜(図示せず)を設けておき、加熱手段としての高温側熱源104及び冷却手段としての低温側熱源106の加熱冷却によりバルク単結晶101の表面も含めて溶融させて作製しても良い。
基板100についても特に制限は無い。
溶融部102をバルク単結晶101側からエピタキシャルに結晶成長させる為には溶融部102の温度制御、溶融部102の圧力制御、溶融部102と基板100およびバルク単結晶101との界面における応力制御、基板100の表面の物理化学的性質の制御、基板100の表面形状の制御等が必要になる。精密な温度制御を実現する為には高温側熱源104および低温側熱源106の両方に加熱機構および冷却機構が組み込まれていることが望ましい。
始めは、高温側(基板100側)の温度(TH)は有機材料の融点(TM)より高い温度に設定され、低温側(バルク単結晶101側)の温度(TL)はTMより低い温度に設定される。
【0024】
次にTHを徐々に低下させると溶融部102とバルク単結晶101との界面でバルク単結晶101の結晶方位に規制されたエピタキシャル成長が進む。このエピタキシャル成長は溶融部102と基板100との界面の温度がTM以下になるまで進行する。この時、THと同時にTLをも変化させても良い。また、溶融部102の厚さ(d)は、TH、TL、基板100の熱伝導度と熱容量、バルク単結晶101の熱伝導度と熱容量、融液の熱伝導度と熱容量によって決定される。dの大きさは良質の単結晶が成長できる条件の範囲であればできるだけ小さい方が良いが、必ずしも一義的には決められない。
この様にして得られた基板100/バルク単結晶101接合体を基板100側から所望の厚さに切断する。切断は糸鋸、溶媒を染み込ませた糸、レーザー光、カッター、ダイシングソー等を用いて行われる。また、必要に応じて単結晶薄膜の表面を研磨することも可能である。
研磨の方法としては、ダイヤモンド,カーボランダム,アルミナ,シリカ、酸化セリウム等の有機材料より硬い砥粒による研磨、同様の材料からなる鋭利な刃物による切削研磨等有機結晶に適した様々なものが考えられる。
切断されたバルク単結晶101は新しい基板と組み合わせて繰り返し使用される。
【0025】
〔請求項2、3関係〕
ひずみの無い良質の単結晶薄膜を得るためには図1(a)に示す溶融部102(厚さd)における温度勾配および冷却速度ができるだけ小さい方が良い。しかしながら、溶融部102の温度勾配を小さくすると厚さdが大きくなってしまい、その上に冷却速度(単結晶成長速度)も小さくなると全体の単結晶化に長い時間がかかってしまう恐れがある。実際の作製工程においては以上の要件を踏まえて試行錯誤により最適の加熱・冷却条件を見出す必要がある。
得られる単結晶の品質には、温度条件だけではなく、溶融部102の融液の圧力や融液と基板100およびバルク単結晶101との界面における応力も影響する場合がある。図1に示した位置調整機構103、105、107、108により、融液の圧力(融液層厚)および界面におけるせん断応力(シェア機構)を調整する。この調整も一義的に決まるものではなく、温度制御と合わせて試行錯誤で調整する。
【0026】
〔請求項4関係〕
図2(a)に示すように、導波路基板200、接地電極201、クラッド層202、及びコア溝203が形成された基板を単結晶薄膜作製基板として使用する。
バルク状の有機単結晶表面近傍に溶融部を形成し、この溶融部に単結晶薄膜作製基板面を対向接触させた状態で冷却手段により溶融部を冷却し、得られたバルク単結晶と単結晶薄膜作製基板との接合体を基板側から所望の厚さで切断する。
図2(b)に示すように切断された単結晶薄膜204aを研磨してコア層204を作製する(図2(c))。
図2(d)に示すようにこのコア層204及びクラッド層202の上に更にクラッド層204bを設けることにより導波路が作製される。尚、変調用電極205および接地電極201は必要に応じて形成するものである。
【0027】
〔請求項5関係〕
有機材料の種類によっては基板の表面形状により得られる単結晶の品質が大きく左右される場合がある。例えば、導波路溝(コア溝)を形成した基板では良質の単結晶薄膜が得られない場合がある。この様な場合には、単結晶薄膜を形成しやすい形状の基板を用いて作製した後、レーザー加工等の手段により導波路を形成する方法が取られる。
【0028】
〔請求項6関係〕
単結晶薄膜の品質は、基板表面の物理化学的性質にも大きく依存する。すなわち、基板の表面エネルギーや、疎水性か親水性かによって、形成される単結晶薄膜の品質が大きく左右される。また、カップリング剤による表面処理により、単結晶薄膜と基板との接着力を向上させることも可能である。例えば、基板表面の影響をできるだけ少なくする為のフッ素系の表面処理剤、疎水性にする為のヘキサメチルジシラザン(HMDS)やオクタデシルトリクロロシラン(OTS)等のシランカップリング剤、チタンカップリング剤、基板表面が金属の場合のアルカンチオール化合物、配向処理された有機薄膜等が具体例として挙げられる。
これらの表面処理剤の効果については、用いる有機材料の種類によって異なり、ケースバイケースで最善の表面処理を行う。また、表面処理のパターン化により、パターン化された有機単結晶薄膜を得ることも可能である。例えば基板表面に疎水性処理をパターン状に施した場合、バルク単結晶と基板との接着力は疎水部と親水部とでは大きく異なる。このことを利用すると、得られた有機単結晶薄膜の後加工が格段に容易になる。フッ素系の表面処理剤でコーティングした部分については、バルク単結晶と基板との接着力が小さく、後加工による有機単結晶薄膜の不要部分の除去が容易になる場合もある。
【0029】
〔請求項7〜9関係〕
有機単結晶薄膜の作製に用いられる装置の一例を図3に示した。
図3は本発明に係る有機単結晶薄膜の作製方法を適用した作製装置の一実施例を示す概念図である。
装置全体はプログラマブルオーブン(以下「オーブン」という)300に入れ、基板303とバルク単結晶304とをヒートシンクの役目をする二つの銅製のブロック301、302で挟む。各々の銅製ブロック301、302の反対側には、一方(この例では上側)はヒータ307が配置され、他方(この例では下側)には冷却装置306がそれぞれ設置されている。
さらに、このヒータ307と銅製ブロック301、302との一体化した部分は金属あるいはセラミック製のロッドを介してアクチュエータ311につながっている。上側の銅ブロック302の位置は薄膜単結晶作製中であっても必要に応じてアクチュエータ311により調整できる。バルク単結晶304を担持する下側の銅製ブロック301は、この場合、冷却装置306上を前後左右に可動にしてあり、ばね313、314等の引っ張り力により溶融部305にせん断力を付与できる様な構成にしてある。
各部の温度については、この場合は基板303、バルク単結晶304、オーブン雰囲気の3点で観測している。これら3点の温度を温度センサ308、309、310でモニターし、所望の温度勾配が得られる様にヒータ307、冷却装置306、オーブン300の温度を調整する。
【0030】
〔請求項10関係〕
平面基板を用いて単結晶薄膜を形成し、その後にフォトリソグラフィー技術、レーザー加工技術、機械加工技術で導波路を形成することはもちろん可能であるが、コア溝として予め導波路溝を形成した基板に単結晶薄膜を形成した方が導波路デバイスの作製が格段に容易になる。この時、基板そのものをクラッド層として使用しても良く、溝部分にクラッド層を別途形成しても良い。
【0031】
〔請求項11関係〕
請求項5と同様のため、説明を省略する。
【0032】
〔請求項12〕
請求項6と同様のため、説明を省略する。
【実施例】
【0033】
〔実施例1〕
図3に示す装置を用いてDASTの単結晶薄膜を作製した。
厚さ2mm,25mm角の光学研磨ガラス製の基板303を用い、バルクDAST単結晶としては、メタノール溶液からの徐冷法で作製した後、研磨により(0 0 -1)面をフラットにした厚さ2mm,10mm角のものを用いた。
始めに、基板303の表面で264℃とし,バルク単結晶304側に向かって−10℃/mmの温度勾配になるように加熱装置(ヒータ)307の温度、冷却装置306の温度、及びオーブン300の温度を設定した。
次に、−10℃/mmの温度勾配を維持しつつ、基板303の表面温度が257℃になるまで72時間かけて徐々に冷却した。
基板303の温度、バルク単結晶304の温度、及びオーブン300の温度を室温まで降下させた後、バルク単結晶304と基板303との接合体を注意深く取り出し、糸鋸を用いて基板303側から5μmの厚さに切断した。
その後、回転研磨盤にて表面を研磨し薄膜を作製した。得られた薄膜は、均一で粒界が無く、光学的にも透明で良好な単結晶薄膜導波路であった。この単結晶薄膜について、1.3μmで伝送損失を測定したところ3.3dB/cmであった。
【0034】
〔実施例2〕
実施例1と同様にDASTの単結晶薄膜を作製した。
本実施例においては、アクチュエータ311により溶融部305に圧力をかけると同時にバルク単結晶304を担持する銅ブロック301、302にも引っ張り力を加えた。その結果、良好な単結晶薄膜を得る歩留まりが実施例1の50%から80%に向上した。
【0035】
〔実施例3〕
実施例1と同様の装置を用いてPOM(3−メチル−4−ニトロピリジン−1−オキシド)の単結晶薄膜を作製した。
厚さ1mm,8mm角のガラス製の基板303にフォトリソグラフィ及びエッチングにより深さ10μm、幅15μm、長さ8mmの埋め込み導波路用溝を形成する。
バルク単結晶304としては市販の8x8x8mmのPOM単結晶を用いた。
始めの基板303の表面温度を145℃とし、温度勾配を−8℃/mmにした。同じ温度勾配を保ちつつ基板303の温度が135℃になるまで36時間かけて徐令した。得られた接合体を室温まで冷却した後、基板303の表面に沿って糸鋸で切断し導波路端面および表面を研磨した。得られたPOM単結晶薄膜導波路の1064nmにおける光伝送損失は0.6dB/cmであった。
【0036】
〔実施例4〕
実施例2で得られたスラブ型単結晶薄膜導波路を、波長400nm、パルス幅150フェムト秒、繰り返し周波数1kHzのフェムト秒レーザーを用いて、幅5μmのリッジ型導波路に加工した。加工は真空中で行い、加工しきい値エネルギーは約150mJ/cmであった。
【0037】
〔実施例5〕
実施例1において、光学研磨ガラス製の基板303を予めHMDS(ヘキサメチルジシラザン)処理した場合、良好な単結晶薄膜を得る歩留まりが80%に向上した。また、実施例3において、埋め込み導波路溝をフォトリソグラフィ及びエッチングで形成した後、埋め込み導波路部表面(側壁と底部)をOTS(オクタデシルトリクロロシラン)で処理した場合、切断、研磨も含めたトータルの歩留まりが80%から95%に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、光通信や光情報処理分野における非線形光学装置、高速スイッチング装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は本発明に係る有機単結晶薄膜の作製方法の一実施の形態を示す原理図であり、(b)は(a)の温度分布図である。
【図2】(a)に示すように、導波路基板200、接地電極201、クラッド層202、及びコア溝203が形成された基板を単結晶薄膜作製基板として使用する。
【図3】本発明に係る有機単結晶薄膜の作製方法を適用した作製装置の一実施例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0040】
100 基板
101 バルク単結晶
102 溶融部
103、108 位置調整機構(シェア機構)
105、107 位置調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段によりバルク状の有機単結晶表面近傍に溶融部を形成し、該溶融部に基板を対向接触させた状態で冷却手段により前記溶融部を冷却することにより得られるバルク単結晶と前記基板との接合体を、前記基板側から所望の厚さで切断することより得られることを特徴とする有機単結晶薄膜。
【請求項2】
前記加熱手段の加熱条件及び前記冷却手段の冷却条件を所定の条件に設定することにより得られることを特徴とする請求項1記載の有機単結晶薄膜。
【請求項3】
前記バルク単結晶と前記基板との間に形成される前記溶融部に圧力及びせん断応力のいずれか一方もしくは両方を与えることにより得られることを特徴とする請求項1または2記載の有機単結晶薄膜。
【請求項4】
前記基板として予め表面処理を行った基板を使用することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の有機単結晶薄膜。
【請求項5】
前記基板として予め導波路形成に適した形状に加工された基板を使用することにより得られる請求項1から4のいずれか1項記載の有機単結晶薄膜を用いたことを特徴とする有機単結晶薄膜導波路。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項記載の有機単結晶薄膜を用いたことを特徴とする有機単結晶薄膜導波路。
【請求項7】
加熱手段によりバルク状の有機単結晶表面近傍に溶融部を形成し、該溶融部に基板を対向接触させた状態から冷却手段で前記溶融部を冷却し、冷却することにより得られるバルク単結晶と前記基板との接合体を前記基板側から所望の厚さで切断することより有機単結晶薄膜を作製することを特徴とする有機単結晶薄膜の作製方法。
【請求項8】
前記加熱手段の加熱条件及び前記冷却手段の冷却条件を所定の条件に設定することにより有機単結晶薄膜を作製することを特徴とする請求項7記載の有機単結晶薄膜の作製方法。
【請求項9】
前記バルク単結晶と前記基板との間に形成される前記溶融部に圧力及びせん断応力の何れか一方もしくは両方を与えることにより有機単結晶薄膜を作製することを特徴とする請求項7または8記載の有機単結晶薄膜の作製方法。
【請求項10】
前記基板として予め表面処理を行った基板を使用することを特徴とする請求項7から9のいずれか1項記載の有機単結晶薄膜の作製方法。
【請求項11】
予め導波路形成に適した形状に加工された基板を使用することにより得られる請求項7から10のいずれか1項記載の有機単結晶薄膜を用いることを特徴とする有機単結晶薄膜導波路の作製方法。
【請求項12】
請求項7から11のいずれか1項記載の有機単結晶薄膜を用いることを特徴とする有機単結晶薄膜導波路の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−143529(P2006−143529A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336003(P2004−336003)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】