説明

有機性固形物の処理方法および有機性固形物の処理装置

【課題】 水に不溶な有機性固形物を、高効率でエネルギー回収することができ、しかも有害物を発生することなく処理できる、有機性固形物の処理方法と、この方法を実施するのに好適な有機性固形物の処理装置の提供が望まれている。
【解決手段】 水に不溶な有機性固形物をスラリー化するスラリー化処理工程(スラリー化処理槽2)と、スラリー化された有機性固形物を水に可溶な有機物にする可溶化処理工程(可溶化処理装置3)と、可溶化された処理物を嫌気性微生物が含まれる汚泥の存在下でメタン発酵させる嫌気性処理工程(嫌気性処理槽4)とを備えた有機性固形物の処理装置1である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、嫌気性微生物を含む汚泥の存在下で、有機性固形物をメタン発酵させて処理する有機性固形物の処理方法と、この処理方法の実施に好適な有機性固形物の処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、ビール麦かす、食品廃棄物、植物性動物性廃棄物などの水に不溶な有機性固形物を含む固形廃棄物は、焼却処理がなされた後、残留物である灰分等が埋め立てされることなどによって処理される。また、近年では、このような固形廃棄物からエネルギーを回収する方法として、焼却処理、または部分酸化を利用したガス化処理などの、燃焼による処理方法が提供されている。このような燃焼による処理方法では、通常、ボイラーやガスタービンを利用して廃棄物の燃焼熱を回収するようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、燃焼による処理方法では、水分の多い廃棄物、例えば含水率が40%以上の廃棄物の場合、発熱量が水分の蒸発熱に奪われてしまい、効率のよいエネルギー回収ができないといった課題があった。また、食品廃棄物などでは通常塩(NaCl)が含まれていることなどから、これを燃焼すると、排ガスとしてダイオキシンや煤塵などの有害物が発生してしまうが、このような有害物発生を抑制するため排ガス処理設備を設置する必要があることから、結果として回収したエネルギーのコストが高くなってしまう
【0004】本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、水に不溶な有機性固形物を、高効率でエネルギー回収することができ、しかも有害物を発生することなく処理できる、有機性固形物の処理方法と、この方法を実施するのに好適な有機性固形物の処理装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の有機性固形物の処理方法では、水に不溶な有機性固形物をスラリー化するスラリー化処理工程と、スラリー化された有機性固形物を水に可溶な有機物にする可溶化処理工程と、可溶化された処理物を嫌気性微生物が含まれる汚泥の存在下でメタン発酵させる嫌気性処理工程とを備えてなることを前記課題の解決手段とした。
【0006】この処理方法によれば、水に不溶な有機性固形物をスラリー化処理し、このスラリー化された有機性固形物を水に可溶な有機物となるよう可溶化処理し、その後、可溶化された処理物を嫌気性処理するので、嫌気性処理では直接分解し難い有機性固形物を可溶化することにより、得られた処理物を嫌気性微生物が含まれる汚泥の存在下でメタン発酵させることが可能になり、これによって有害物を発生することなく有機性固形物を分解することが可能になる。また、もちろん含水率の高い有機性固形物についても、同様の処理が可能になる。さらに、メタン発酵によって生じたメタンは塩素等を含まないクリーンなエネルギーとなる。
【0007】本発明の有機性固形物の処理装置では、水に不溶な有機性固形物をスラリー化するスラリー化処理槽と、スラリー化された有機性固形物を水に可溶な有機物にする可溶化処理装置と、可溶化された処理物を嫌気性微生物が含まれる汚泥の存在下でメタン発酵させる嫌気性処理槽とを備えてなることを前記課題の解決手段とした。
【0008】この処理装置によれば、上記の処理方法を実施できることから、有害物を発生することなく有機性固形物を分解することが可能になり、また、含水率の高い有機固形物についても同様の処理が可能になり、さらに、メタン発酵により、塩素等を含まないクリーンなエネルギーであるメタンを回収することが可能になる。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳しく説明する。図1は本発明の有機性固形物の処理装置の一実施形態例を説明するための概略構成図であり、図1中符号1は有機性固形物の処理装置である。この有機性固形物の処理装置1は、ビール麦かす、食品廃棄物、植物性動物性廃棄物などの水に不溶な有機性固形物を含む固形廃棄物を処理対象とするもので、この有機性固形物をスラリー化するスラリー化処理槽2と、スラリー化された有機性固形物を水に可溶な有機物にする可溶化処理装置3と、可溶化された処理物を嫌気性微生物が含まれる汚泥の存在下でメタン発酵させる嫌気性処理槽4とを備えてなるものである。
【0010】スラリー化処理槽2は、有機性固形物を含む固形廃棄物を導入するとともに、水を導入し、攪拌機等(図示せず)によってこれらを攪拌混合することにより、スラリー化するものである。
【0011】可溶化処理装置3は、前述したようにスラリー化された有機性固形物を水に可溶な有機物にするもので、可溶化処理として、水熱処理、オゾン処理、アルカリ処理、80℃程度の100℃以下での加熱処理、超音波処理、パルス電圧処理、機械的破砕処理などを採用して構成されるものである。本例では、特に高い可溶化率が期待できるものとして、高圧下で高温加熱を行う水熱処理方式が採用されている。
【0012】すなわち、本例の可溶化処理装置3は水熱処理装置によって構成されたもので、図2に示すように高圧下で高温処理するための反応器5と、これから導出される処理液を冷却するための冷却器6とを備えて構成されたものである。反応器5は、管型の熱交換器や他の加熱機器からなる加熱手段と、ポンプP等の加圧手段とを備えてなるもので、50〜200気圧、好ましくは80〜120気圧に昇圧すると同時に、180〜350℃、好ましくは250〜300℃に加熱するようになっている。このような範囲の圧力および温度とするのは、これらの範囲を越えて圧力または温度が高くなると酸化が進み過ぎてしまい、後の嫌気性処理でメタン発酵する有機物、すなわち嫌気性処理に必要な有機物が減少してしまうからである。また、これらの範囲より圧力または温度が低くなると、分解が進まず、したがって可溶化率が低下してしまうからである。
【0013】なお、加熱手段として熱交換器を採用した場合には、加熱流体として、後述するように嫌気性処理槽4から発生したメタンガスの燃焼排ガスや、この燃焼排ガスで加熱された水蒸気や油を用いることができる。もちろん、他の燃料や電気を用いてこれを加熱手段としてもよい。
【0014】冷却器6は、管型の熱交換器などによる冷却手段を備えてなるもので、反応器5で可溶化されて形成された処理液を、常温〜50℃程度に冷却するためのものである。なお、この冷却器6の冷却流体(冷媒)としては、後述するように嫌気性処理槽4から導出される処理排水や、上水道、中水道、さらには他の媒体を用いることができる。上水道や中水道を用いた場合には、冷却塔を設け、冷媒とする水をここを循環させて用いるのが好ましい。このような構成のもとに可溶化処理装置3は、反応器5で高温高圧処理して有機性固形物を可溶化し、可溶化されて形成された処理液を冷却器6で常温〜50℃程度に冷却し、その後弁により常圧に戻し、可溶化物として導出するようになっている。
【0015】嫌気性処理槽4は、嫌気性微生物を含む汚泥を有したもので、嫌気性微生物として具体的には酸生成菌とメタン生成菌とが存在させられている。このような構成のもとに、この嫌気性処理槽4では、導入された可溶化物中の有機物を、前記の汚泥により、低分子化→有機酸生成→メタン生成のステップでメタンガスに転換、すなわちメタン発酵させるようになっている。ここで、このようにメタン発酵させられて得られたメタンガスは、クリーンなエネルギーとして回収される。一方、嫌気性処理後の排液は、汚泥を含んだ状態で排出される。
【0016】また、本例の処理装置1では、嫌気性処理後の汚泥を含む排液を、再度嫌気性処理槽4に返送して再処理することにより、処理効率を高める構成となっている。すなわち、この処理装置1には、前記の汚泥を含む排液を固液分離する固液分離装置7と、この固液分離装置7で固液分離されて得られた濃縮汚泥を可溶化処理する可溶化処理装置8と、可溶化された処理物を前記嫌気性処理槽4に返送する返送路9とが備えられている。
【0017】固液分離装置7としては、膜分離装置、デカンター、濾過装置などの公知のものが用いられる。可溶化処理装置8は、前記可溶化処理装置3と同様に水熱処理装置によって構成されたものでもよく、その他の可溶化処理方式(オゾン処理、アルカリ処理、80℃程度の100℃以下での加熱処理、超音波処理、パルス電圧処理、機械的破砕処理など)を採用したもののでもよい。本例では、可溶化処理装置3と同様に水熱処理装置によって構成されたものとする。
【0018】返送路9は、この可溶化処理装置8で可溶化処理された処理物(可溶化物)を嫌気性処理槽4に返送するべく、前記可溶化処理装置3から嫌気性処理槽4に可溶化物を供給するための供給路10に接続されたもので、これによって可溶化処理装置3からの可溶化物とともに、可溶化処理装置8で得られた可溶化物も嫌気性処理槽4に送られるようになっている。また、返送路9は、直接嫌気性処理槽4に導入しても良い。
【0019】なお、固液分離装置7には、これから得られる上澄み液を脱リン、脱窒処理するための脱リン,脱窒処理槽11が接続されており、これによって上澄み液は、脱リン、脱窒処理された後、一部が前記スラリー化処理槽2に送られ、残部が処理装置1からの排水として系外に排出されるようになっている。
【0020】このような構成の処理装置1による処理方法に基づき、本発明の有機性固形物の処理方法を説明する。まず、処理対象である水に不溶な有機性固形物を含む固形廃棄物をスラリー化処理槽2に導入する。また、このスラリー化処理槽2に水を導入するとともに、前記脱リン,脱窒処理槽11からの(処理水)排水の一部を必要に応じて導入し、攪拌機等(図示せず)によってこれらを攪拌混合することにより、固形廃棄物をスラリー化する。
【0021】次に、スラリー化された固形廃棄物(有機性固形物)を可溶化処理装置8に導入し、ここで高温高圧による水熱処理を行うことにより、スラリーを水に可溶な有機物(可溶化物)にする。このようにして可溶化を行ったら、得られた可溶化物を供給路10によって嫌気性処理槽4に導入する。なお、この嫌気性処理槽4への導入に際しては、後述する可溶化処理装置8からの可溶化物も共に嫌気性処理槽4に導入する。また、これとは別に、他の系から送られてきた有機性排液を嫌気性処理槽4に導入し、一緒に嫌気性処理するようにしてもよい。
【0022】嫌気性処理槽4では、導入された可溶化物中の有機物をメタン発酵させる。そして、得られたメタンガスをクリーンなエネルギーとして回収し、一方、嫌気性処理後の排液については、汚泥を含んだ状態で排出し、固液分離装置7に送る。
【0023】次いで、固液分離装置7にて送られてきた排液を固液分離し、分離した上澄み液は脱リン,脱窒処理槽11に送り、また濃縮汚泥は可溶化処理装置8に送る。可溶化処理装置8では、前記可溶化処理装置3と同様にして高温高圧による水熱処理を行うことにより、濃縮汚泥を水に可溶な有機物(可溶化物)にする。そして、このようにして可溶化を行ったら、得られた可溶化物を返送路9を介して供給路10に送り、可溶化処理装置3から送られてきた可溶化物とともに嫌気性処理槽4に導入し、以下、前記した工程を循環させる。
【0024】また、脱リン,脱窒処理槽11では、固液分離装置7から送られてきた上澄み液に脱リン、脱窒処理を施し、得られた処理水については、その一部を前記スラリー化処理槽2に送ってスラリー調整用に用い、残部を処理装置1からの排水として系外に排出する。
【0025】このような有機性固形物の処理方法にあっては、スラリー化処理と可溶化処理とによって嫌気性処理では直接分解し難い水に不溶な有機性固形物を可溶化するので、得られた処理物を嫌気性微生物が含まれる汚泥の存在下でメタン発酵させることができ、これにより有害物を発生することなく有機性固形物を分解することができる。また、このような処理については、含水率の高い有機固形物についても同様に行うことがでる。さらに、メタン発酵によって生じたメタンは塩素等を含まないクリーンなエネルギーとなるので、有害物発生を抑制するため排ガス処理設備を設置する必要がなく、したがってエネルギー回収のためのコストを低減化することができる。
【0026】また、この処理装置1にあっては、上記の処理方法を実施できることから、有害物を発生することなく有機性固形物を分解することができ、また、クリーンなエネルギーであるメタンを回収するのでコストの低減化を図ることができる。
【0027】図3は本発明の有機性固形物の処理装置の他の実施形態例を説明するための概略構成図であり、図3R>3中符号30は有機性固形物の処理装置である。この有機性固形物の処理装置30が図1に示した処理装置1と異なるところは、嫌気性処理後の汚泥を含む排液を、固液分離装置7で固液分離した後再度嫌気性処理槽4に返送して再処理するのに、可溶化処理装置8を用いることなく、嫌気性処理槽4の前に設けた可溶化処理装置3を再度用いている点にある。
【0028】すなわち、この処理装置30では、可溶化処理装置が一つしか設けられておらず、この可溶化処理装置3で、スラリー化処理槽2から送られたスラリーと、固液分離装置7から送られてきた濃縮汚泥とを共に可溶化処理するようになっている。なお、固液分離装置7で分離された濃縮汚泥は、一旦スラリー化処理槽2に送られ、この処理槽2で形成されたスラリーと共に可溶化処理装置3に送られるようになっている。ここで、固液分離装置7で分離された濃縮汚泥には十分な水分が含まれているため、スラリー化処理槽2において必要とするスラリー化のための水を、この濃縮汚泥によって賄うようにしてもよく、その場合、固液分離装置7での固液分離を調整して、得られる濃縮汚泥の水分を多めに調整するようにしてもよい。
【0029】このような構成の処理装置30にあっては、可溶化処理装置を一つ設けることにより、有機性固形物や嫌気性処理槽4で生成する汚泥の処理を循環させるようにしているので、装置全体を小型で安価なものにすることができ、特に設置面積が狭く、また比較的処理量が少ない場合などに好適なものとなる。
【0030】なお、前記実施形態例では、可溶化処理装置3(8)として図2に示した構成の水熱処理装置を採用したが、本発明はこれに限定されることなく、前述したように種々の構成のものを採用することができる。例えば、水熱処理装置からなる可溶化処理装置としては、図4に示すように可溶化率を高め、省エネルギー化を図った構成のものも採用可能である。図4において符号12は図2に示した反応器5と同様に高圧下で高温処理するための反応器である。
【0031】この反応器12の前(上流側)には予備加熱を行うための予熱器13が設けられ、反応器12の後(下流側)には反応器12からの導出物を固液分離するための固液分離装置14が設けられている。ここで、反応器12に用いられる加熱手段としては、前記反応器5と同様に、嫌気性処理槽4から発生したメタンガスの燃焼排ガスや、この燃焼排ガスで加熱された水蒸気や油などの加熱流体を用いることができる。もちろん、他の燃料や電気を用いることも可能である。
【0032】また、反応器12の導出物を固液分離装置14に移送するための移送路15には、反応器12からの導出物を再度反応器12に戻すための第1の循環路16が設けられている。さらに、固液分離装置14と反応器12との間には、固液分離装置14で分離された汚泥を再度反応器12に戻すための第2の循環路17が設けられている。
【0033】固液分離装置4には、その上澄み液、すなわち反応器12で可溶化処理されてなる可溶化物を前記予熱器13に送るための供給路18が設けられている。このような構成のもとに固液分離装置4を導出された可溶化物(上澄み液)は、予熱器13に導入されてここでの加熱源となるとともに、予熱器13においてスラリーと熱交換させられることにより、自身は冷却されるようになっている。また、この予熱器13には、移送路(図示せず)を介して冷却器6が接続されており、これによって予熱器13に導入された可溶化物(上澄み液)は冷却器6にて常温〜50℃程度に冷却されるようになっている。
【0034】このような構成の可溶化処理装置で可溶化処理するは、まず、スラリー化処理槽2から送られてきたスラリーを予熱器13で予備加熱し、続いてこれを反応器12にて高温高圧処理することにより、スラリーを可溶化する。ここで、通常は一回の高温処理処理では60%程度の可溶化率しか得られないことから、本例では、反応器12からの導出物を第1の循環路16によって再度反応器12に戻し、あるいは、固液分離装置14で分離された汚泥を第2の循環路17によって再度反応器12に戻し、以下、適宜にこれを循環させることにより、可溶化率を90%以上に高めている。なお、可溶化率は以下の式によって定義されている。
可溶化率={(A−B)/A}×100[%]
(ただし、Aは原料中の有機物固形物量、Bは処理後に残留する有機物固形物量である)
【0035】このようにして可溶化処理を行ったら、固液分離装置14で得られた上澄み液(可溶化物)を予熱器13に送り、ここで熱交換した後、冷却器6にて常温〜50℃程度に冷却し、可溶化物として図1あるいは図3R>3に示した嫌気性処理槽4に導入する。
【0036】このような可溶化処理装置にあっては、反応器12からの導出物を再度反応器12に戻し、あるいは、固液分離装置14で分離された汚泥を再度反応器12に戻すようにしていることから、これを適宜に循環させることによって可溶化率を90%以上に高めることができる。また、予熱器13での加熱源として、反応器12から出て固液分離されて得られた上澄み液(処理物)を用いているので、スラリーの加熱に要するエネルギーを低減することができるとともに、冷却器6での上澄み液(処理物)の冷却に要するエネルギーも低減することができ、これにより省エネルギー化を図ることができる。
【0037】また、可溶化処理装置3(8)として、水熱処理装置以外にも例えば図5に示すオゾン処理装置を用いることもできる。図5に示したオゾン処理装置からなる可溶化処理装置は、オゾンの酸化特性を利用して可溶化処理するもので、オゾン処理槽19と、オゾン発生器20と、オゾン分解器21とを備えて構成されたものである。
【0038】このようなオゾン処理装置からなる可溶化処理装置で可溶化処理するには、スラリー化処理槽2から送られてきたスラリーをオゾン処理槽19に導入し、また、オゾン発生器20からオゾン処理槽19の底部に導入、バブリングする。すると、オゾン処理槽19の底部に導入されたオゾンは処理槽19を上昇することにより、処理槽19中のスラリーと接触してスラリー中の固形物と反応し、これを酸化分解して可溶化する。なお、オゾン処理槽19には攪拌機22が設けられており、これによってスラリーとオゾンとの接触効率が高められ、反応速度(反応効率)も高められている。
【0039】このようにして所定時間スラリーをオゾンと接触させたら、得られた処理物を抜き出し、可溶化物として図1あるいは図3に示した嫌気性処理槽4に導入する。また、未反応のままオゾン処理槽19から排出されるオゾンについては、オゾン分解器21によってこれを分解し、酸素として大気に放出する。
【0040】このようなオゾン処理装置からなる可溶化処理装置にあっては、オゾン使用量を0.005〜0.1g−O3 /g−VSSとすることによって可溶化処理を行うことができる。例えばオゾン使用量を0.05g−O3 /g−VSSとすると、可溶化率が25〜50%となり、図2や図4に示した水熱を利用した装置に比べ可溶化率が低くなるものの、必要とするエネルギーが少なく、装置も簡便であることから、省エネルギー化を図ることができるとともに、装置そのもののコストも安価にすることができる。
【0041】なお、前記オゾン処理装置では、攪拌機22を設けてスラリーとオゾンとの接触効率を高め、これにより反応速度(反応効率)も高めているが、これを用いることなく、オゾンのバブリング効果のみでスラリーとオゾンとを接触させるようにしてもよい。
【0042】また、可溶化処理装置3(8)として、図6R>6に示すアルカリ処理装置を用いることもできる。図6に示したアルカリ処理装置からなる可溶化処理装置は、スラリー化処理槽2にNaOH等のアルカリを添加供給するアルカリ供給手段23と、スラリー化処理槽2で固形廃棄物(有機性固形物)に水とアルカリとが添加されることによって得られたスラリーをアルカリによって可溶化処理するためのアルカリ処理槽24と、アルカリ処理槽24で可溶化処理されて得られた処理物(可溶化物)を冷却するための冷却器6と、冷却器6で冷却された処理物(可溶化物)を中和するための中和槽25とを備えて構成されたものである。
【0043】アルカリ処理槽24には攪拌機26が設けられており、また、その周壁部には加熱流体を溜め、あるいはこれを流すためのジャケット27が設けられている。このような構成によってアルカリ処理槽24内は、均一に加温されるようになっている。なお、加熱流体としては、図2あるいは図4に示した反応器5、12に用いられる加熱流体と、同様のものが使用可能となっている。
【0044】このようなアルカリ処理装置からなる可溶化処理装置で可溶化処理するには、予めスラリー化処理槽2において固形廃棄物(有機性固形物)に水とNaOH水溶液とを添加し、スラリー化しておく。このとき、スラリー中の固形物濃度は40%以下になるように水分を添加する。また、NaOH水溶液については、固形廃棄物(有機性固形物)に対して0.5〜4.0g−NaOH/g−VSSとなるように添加する。
【0045】続いて、得られたスラリーをアルカリ処理槽24に導入し、ここで攪拌機26により混合するとともに、ジャケット27の加熱流体により加温し、可溶化処理を行う。次いで、このようにして可溶化処理されてなる処理物を冷却器6で冷却し、さらに中和槽25で塩酸などにより中和処理し、可溶化物として図1あるいは図3に示した嫌気性処理槽4に導入する。
【0046】このようなアルカリ処理装置からなる可溶化処理装置にあっては、約50%の可溶化率が得られた。また、このアルカリ処理装置と図5に示したオゾン処理装置とを組合わせることにより、可溶化率を70〜90%程度に高めることができる。
【0047】なお、図6に示した例では、アルカリ(NaOH水溶液)をスラリー化処理槽2に導入するようにしたが、アルカリ(NaOH水溶液)を直接アルカリ処理槽24に導入し、そのままここで可溶化処理を行うようにしてもよい。また、アルカリ処理槽24にジャケット27を設け、処理槽24全体を加温するようにしたが、ジャケット27を設けるのに代えて、スラリー化する際に用いる水を予め加熱しておくことなどにより、アルカリ処理槽24で可溶化される処理物が高温に保持されるよう調整してもよい。
【0048】(実験例1)図2に示した水熱処理装置からなる可溶化処理装置の可溶化率を、以下の条件で調べた。処理対象となる固形廃棄物(有機性固形物)をビール製造工程から排出される麦かす(含水率75%)とした。この麦かすに水を等量加えてスラリー化し、さらにこのスラリーを反応器5にて300℃、10気圧の条件で10分間可溶化処理を行った。その結果、可溶化率は87.5%となった。なお、温度を下げるか、または圧力を下げると可溶化率も低下した。また、温度を上げるか、または圧力を上げると、嫌気性処理槽4にてメタン発酵する有機物量が減少した。また、スラリー化の際に加える水の量を増やすと可溶化率が上がるという結果が得られた。ただし、その場合には、水熱反応器5に加えるエネルギー量が増加しまい、さらに、後段の嫌気性処理槽4での処理も増やさなければならず、コスト的には不利になる。
【0049】(実験例2)図6に示したアルカリ処理装置からなる可溶化処理装置の可溶化率を、以下の条件で調べた。処理対象となる固形廃棄物(有機性固形物)をビール製造工程から排出される麦かす(含水率75%)とした。この麦かすに水酸化ナトリウム水溶液(6wt%)を等量加え、アルカリ処理槽24にて常圧で95℃の条件で10分間可溶化処理を行った。その結果、可溶化率は49.0%となった。なお、水酸化ナトリウム水溶液の量を増やすか、または濃度を上げると、可溶化率は上がるという結果が得られた。ただし、その場合には、コスト的には不利になる。
【0050】次に、前記実験例1等の実験データを基に、図1に示した処理装置1とほぼ同様の構成からなる処理装置によって処理を行い、得られたメタンガスにより発電を行った場合の試算結果を図7を用いて説明する。図7に示すように、処理対象となる固形廃棄物(有機性固形物)をビール製造工程から排出される麦かす(含水率75%)とし、この麦かす10t/hを図1に示した処理装置1の場合と同様に処理するとともに、ビール廃液を嫌気性処理槽4に直接導入して処理するものとする。麦かすの低位発熱量は20000kJ/kg(無水時)、水分75%、灰分4%とし、ビール廃液中のCODは7g/Lとした。このような条件のもとに試算した結果、嫌気性処理槽4から得られるメタンガスを燃焼させてガスタービンを回し、得られる発電量は1400kWであった。なお、燃焼させるメタンガスは塩素等を含まないクリーンなガスであることから、ダイオキシンの発生はほとんどないと考えられる。
【0051】一方、従来法として麦かすを焼却処理する場合について以下の条件で試算を行った。ビール廃液のみを嫌気性処理し、発生するメタンを焼却炉で燃焼させた。この場合にダイオキシンの発生を抑制するため燃焼ガスの温度を850℃以上にする必要があり、したがって排ガスの温度が850℃になるように燃料を投入するものとした。ダイオキシンはわずかに(例えば0.01ng−TEQ/Nm3 程度)発生すると考えられる。また、このときのボイラーを利用したときの発電量は500kWであると試算された。このように、水分の多い有機物からエネルギーを回収する場合、本発明の方法は従来法に比べエネルギーの回収率が高く、また、ダイオキシンなどの有害物の発生も抑制できると考えられる。
【0052】
【発明の効果】以上説明したように本発明の有機性固形物の処理方法は、水に不溶な有機性固形物をスラリー化処理し、このスラリー化された有機性固形物を水に可溶な有機物となるよう可溶化処理し、その後、可溶化された処理物を嫌気性処理する方法であるから、嫌気性処理では直接分解し難い有機性固形物を可溶化することにより、得られた処理物を嫌気性微生物が含まれる汚泥の存在下でメタン発酵させることができ、これにより有害物を発生することなく有機性固形物を分解することができる。また、含水率の高い有機性固形物についても同様に処理を行うことができる。
【0053】さらに、メタン発酵によって生じたメタンは塩素等を含まないクリーンなエネルギーとなるので、有害物発生を抑制するため排ガス処理設備を設置する必要がなく、したがってエネルギー回収のためのコストを低減化することができる。また、得られたメタンガスについては、例えば水熱処理における加熱源や、ボイラー、ガスタービン、ガスエンジンによって蒸気や電気とするなど、各種のエネルギーとして利用することができ、さらには改質して燃料電池の燃料として発電に用いることもできる。
【0054】本発明の有機性固形物の処理装置は、上記の処理方法を実施できるものであるから、有害物を発生することなく有機性固形物を分解することができ、また、含水率の高い有機固形物についても同様の処理を行うことができ、さらに、クリーンなエネルギーであるメタンを回収するのでコストの低減化を図ることができるなどの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の有機性固形物の処理装置の一実施形態例の、概略構成を説明するための図である。
【図2】 可溶化処理装置を水熱処理装置で構成した場合の、一例を説明するための図である。
【図3】 本発明の有機性固形物の処理装置の他の実施形態例の、概略構成を説明するための図である。
【図4】 可溶化処理装置を水熱処理装置で構成した場合の、他の例を説明するための図である。
【図5】 可溶化処理装置をオゾン処理装置で構成した場合の、一例を説明するための図である。
【図6】 可溶化処理装置をあるかり処理装置で構成した場合の、一例を説明するための図である。
【図7】 本発明の有機性固形物の処理装置によって処理を行い、得られたメタンガスにより発電を行った場合の、試算結果を説明するための図である。
【符号の説明】
1、30…有機性固形物の処理装置、
2…スラリー化処理槽、
3、8…可溶化処理装置、
4…嫌気性処理槽、
5、12…反応器、
9…返送路、
13…予熱器、
16…第1の循環路、
17…第2の循環路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水に不溶な有機性固形物をスラリー化するスラリー化処理工程と、スラリー化された有機性固形物を水に可溶な有機物にする可溶化処理工程と、可溶化された処理物を嫌気性微生物が含まれる汚泥の存在下でメタン発酵させる嫌気性処理工程とを備えてなることを特徴とする有機性固形物の処理方法。
【請求項2】 嫌気性処理工程で生成した汚泥を水に可溶な有機物にする可溶化処理工程と、可溶化された処理物を前記嫌気性処理に返送する返送工程とを備えてなることを特徴とする請求項1記載の有機性固形物の処理方法。
【請求項3】 可溶化処理工程における可溶化処理が、高圧下で高温加熱する水熱処理であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機性固形物の処理方法。
【請求項4】 前記水熱処理が、高圧化で高温加熱処理する高圧高温処理工程と、この高圧高温処理工程からの導出物を再度高圧高温処理工程に戻す循環工程とを備えてなることを特徴とする請求項3記載の有機性固形物の処理方法。
【請求項5】 高圧加熱処理工程の前に予備加熱工程を有し、この予備加熱工程での加熱源として前記高圧熱処理工程からの処理物を用いることを特徴とする請求項4記載の有機性固形物の処理方法。
【請求項6】 水に不溶な有機性固形物をスラリー化するスラリー化処理槽と、スラリー化された有機性固形物を水に可溶な有機物にする可溶化処理装置と、可溶化された処理物を嫌気性微生物が含まれる汚泥の存在下でメタン発酵させる嫌気性処理槽とを備えてなることを特徴とする有機性固形物の処理装置。
【請求項7】 嫌気性処理槽で生成した汚泥を水に可溶な有機物にする可溶化処理装置と、可溶化された処理物を前記嫌気性処理槽に返送する返送路とを備えてなることを特徴とする請求項6記載の有機性固形物の処理装置。
【請求項8】 可溶化処理装置が、可溶化処理として高圧下で高温加熱を行う水熱処理装置であることを特徴とする請求項6又は7記載の有機性固形物の処理装置。
【請求項9】 前記水熱処理装置が、高圧化で高温加熱処理する反応器と、この反応器からの導出物を再度反応器に戻す循環路とを備えてなることを特徴とする請求項8記載の有機性固形物の処理装置。
【請求項10】 反応器の前に予備加熱を行う予熱器が設けられ、この予熱器での加熱源として前記反応器からの処理物が用いられることを特徴とする請求項9記載の有機性固形物の処理装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2002−66507(P2002−66507A)
【公開日】平成14年3月5日(2002.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−256411(P2000−256411)
【出願日】平成12年8月25日(2000.8.25)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】