説明

有機性廃棄物の発酵熱利用システム及び発酵熱利用方法

【課題】発酵槽を用いて有機性廃棄物を発酵処理しながら、その発酵熱を利用して農業用ハウス内などを好適に暖房できるようにする。
【解決手段】有機性廃棄物を発酵処理する発酵槽1と、発酵槽1の底部から当該発酵槽1内の有機性廃棄物に向けて圧縮加熱した空気を吹き込む高圧送風機10と、発酵槽1の外面部を覆うジャケット11とを備える。ジャケット11の内部には、発酵槽1内での有機性廃棄物の発酵により生じた発酵熱を吸収する暖房用流体が流され、その暖房用流体が特定の暖房区域に配置される放熱部20との間で循環される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材屑、鶏糞、又は米糠などの有機性廃棄物の発酵により生ずる発酵熱を有効利用する技術に係わり、特に有機性廃棄物の発酵熱を利用して農業用ハウス内などを暖房する発酵熱利用システム及び発酵熱利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材屑、鶏糞、米糠、又は食品残渣その他の有機性廃棄物を発酵処理して堆肥などにする種々の装置が提案され、実用に供されている。
【0003】
例えば、有機性廃棄物を収容する横長の発酵槽上に散水装置と撹拌機とを設け、発酵槽内の有機性廃棄物に向けて散水装置から散水をしながら、撹拌機により有機性廃棄物を撹拌するようにした処理装置が知られている(特許文献1)。
【0004】
ここに、有機性廃棄物の発酵に際しては、微生物の働きにより発酵熱が発生するが、特許文献1の装置によれば、発酵槽内での有機性廃棄物の発酵により生じた発酵熱は有効利用されることなく大気中に放出される。
【0005】
一方、有機性廃棄物の発酵熱を有効利用する技術として、農業用ハウス内の暖房に発酵熱を利用する方法が知られている(例えば、特許文献2)。
【0006】
尚、特許文献2では、アーチ状に組まれるフレームにプラスチックフィルムを張設して構成されるハウスの内側周縁部に、有機性廃棄物を堆積するための溝状帯を設けるか、あるいはハウスを二重構造にしてその間に溝状帯を設けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−138141号公報
【特許文献2】特開2007−28928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2ではハウス自体を発酵槽として構成するので、ハウス内における苗床面積の減少を余儀なくされるほか、溝状帯に堆積した有機性廃棄物の発酵熱をハウス内に直接放出するのでハウス内の温度管理が困難である。
【0009】
特に、ハウス内の内側周縁部に溝状帯を設けただけのものでは、その溝状帯に堆積した有機性廃棄物からハウス内に対し、発酵熱のみならず悪臭が放出されるので、ハウス内に悪臭が充満してしまう。又、ハウスを二重構造にしてその間に有機性廃棄物を堆積すべき溝状帯を設けた構成では、有機性廃棄物の出し入れが極めて困難になる。
【0010】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その主たる目的は発酵槽を用いて有機性廃棄物を発酵処理しながら、その発酵熱を利用して農業用ハウス内などを好適に暖房できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するため、
有機性廃棄物を発酵処理する発酵槽と、
前記発酵槽の底部から当該発酵槽内の有機性廃棄物に向けて圧縮加熱した空気を吹き込む送風手段と、
前記発酵槽の外面部を覆ってその内部に前記発酵槽内での有機性廃棄物の発酵により生じた発酵熱を吸収する暖房用流体が流されるジャケットと、
特定の暖房区域に配置されて前記ジャケットとの間で前記暖房用流体の循環が行われる放熱部と、
を備えることを特徴とする有機性廃棄物の発酵熱利用システムを提供する。
【0012】
又、外面部がジャケットにより覆われた発酵槽の底部から当該発酵槽内の有機性廃棄物に向けて圧縮加熱した空気を吹き込む一方、特定の暖房区域に配される放熱部と前記ジャケットとの間で暖房用流体を循環させ、前記発酵槽内での有機性廃棄物の発酵により生じた発酵熱で前記ジャケット内の暖房用流体を加熱すると共に、加熱された流体を前記ジャケット内から前記放熱部に送り、その放熱部からの放熱により前記暖房区域を暖房することを特徴とする有機性廃棄物の発酵熱利用方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発酵槽内に圧縮加熱された空気をその底部から吹き込むことにより、発酵槽内の有機性廃棄物を空気の圧力により良好に撹拌しながら、当該空気の圧縮熱により有機性廃棄物の発酵を促進することができ、しかも有機性廃棄物の発酵熱を利用して化石燃料を燃焼せずして農業用ハウス内などを好適に暖房することができると同時に、発酵処理した有機性廃棄物をコンポストとして有効利用することができる。
【0014】
又、有機性廃棄物の発酵処理は発酵槽内で行なわれることから、農業用ハウスなどの暖房区域内に有機性廃棄物を発酵させる領域を確保せずして発酵処理を行なえ、しかも発酵槽を暖房区域外に設置して暖房区域内に悪臭が充満することを防止することができる。
【0015】
更に、ジャケット内から送出される暖房用流体の流量調節をするなどして暖房区域の温度管理を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る発酵熱利用システムの示す概略図
【図2】同システムを構成する発酵槽の拡大断面図
【図3】同システムを示す詳細図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明を詳しく説明する。先ず、図1及び図2により本発明に係る発酵熱利用システムの構成例を概説すれば、1は有機性廃棄物を発酵処理する発酵槽であり、その上端面には当該発酵槽1内に有機性廃棄物を投入する投入口2が形成され、その投入口2が蓋部材3により開閉自在とされており、発酵槽1の下部には、発酵処理が終了した有機性廃棄物(コンポスト)を取り出すための排出口4が形成されている。
【0018】
又、発酵槽1の上部には、発酵槽1内の有機性廃棄物に向けて散水を行うための散水ノズル5のほか、排気口6ならびに廃熱回収用の吸込口7が設けられており、発酵槽1の底部には吸込口7に対応して温風吹出ノズル8が設けられている。吸込口7と温風吹出ノズル8はダクト9a,9bにより連結連通され、そのダクト9a,9bには高圧送風機10が介在されている。
【0019】
高圧送風機10は、吸込口7から吸い出される発酵槽1内の空気と外気とを混合し、その混合空気を圧縮加熱して高圧高温(20〜30kPa/70〜110℃)の空気とし、その高圧高温空気を発酵槽1の底部から発酵槽1内の有機性廃棄物に向けて吹き込む送風手段となるもので、当該高圧送風機10の吸引口に図示せぬ外気取込管を分岐せしめたダクト9aが接続されると共に、当該高圧送風機10の吐出口がダクト9bを介して温風吹出ノズル8に接続する構成となっている。
【0020】
そして、係る高圧送風機10によれば、発酵槽1内の有機性廃棄物を空気の圧力により良好に撹拌しながら、同空気の圧縮熱によって有機性廃棄物の発酵を促進することができる。
【0021】
尚、発酵槽1には、その内部温度を検出するためのサーモセンサS1が取り付けられており、その出力に基づいて高圧送風機10の運転制御が行われるようになっている。
【0022】
詳しくは、サーモセンサS1の出力(例えば、上段、中段、下段に設けられる3つの平均出力)が所定のレベル以下であるとき、有機性廃棄物の発酵を促進するべく高圧送風機10を駆動して発酵槽1内に高圧高温の空気を供給し、サーモセンサS1の出力が所定のレベルを超えたら高圧送風機10を停止する制御方式とされている。
【0023】
一方、発酵槽1の周囲には、その外面部(外周面及び底面)を覆うジャケット11が設けられる。ジャケット11は、発酵槽1を内容器として当該発酵槽1を収容する外容器となるもので、その内部には発酵槽1内での有機性廃棄物の発酵により生じた発酵熱を吸収するための暖房用流体(本例において水)が流される。尚、発酵槽1の外壁は、高熱伝導率を有して耐食性に優れる金属(例えば、ステンレス鋼板、銅板、又はハニカム構造のアルミ薄板)から形成され、これによりジャケット11内の暖房用流体に対する熱伝達が良好に行われるようになっている。
【0024】
図2から明らかなように、ジャケット11内には、暖房用流体の温度を検知するサーモセンサS2と、その検知温度が設定値を下回ったとき外部からの通電によって発熱する補助熱源となる電気ヒータ12が設けられる。又、ジャケット11には、暖房用流体を取り込むための流体流入口11aと、その流体流入口11aより流入した暖房用流体を外部に送出するための流体流出口11bが形成される。
【0025】
そして、本発明によれば、ジャケット11と後述する放熱部20とを配管により接続して、発酵槽1内からの発酵熱を吸収して加熱されたジャケット11内の暖房用流体(温水)を放熱部20との間で循環せしめる循環経路30を形成し、その循環経路30を通じてジャケット11内から温水が送り込まれる放熱部20からの放熱によって、当該放熱部20が配置される暖房区域(本例において農業用ハウスH)内を暖房する構成とされる。
【0026】
次に、図3により係る発酵熱利用システムの構成例をより詳しく説明する。図3から明らかなように、上記放熱部20は地下埋設管21と空気加熱器22とにより構成される。このうち、地下埋設管21は、農業用ハウスH内の地下数cm程度の位置に埋設される一連の管体であり、本例ではこれに口径10cm程度の銅パイプが用いられている。
【0027】
一方、空気加熱器22は、外胴22a内に放熱コイル22bを収容して成る熱交換器であり、その外胴22aには農業用ハウスH内の空気を放熱コイル22bに吹き付けるファン22cが取り付けられ、そのファン22cから放熱コイル22bに吹き付けられた空気が外胴22a内から農業用ハウスH内に吹き出す構成とされている。
【0028】
尚、図3において、31は一端がジャケット11(図2の流体流出口11b)に接続する供給管、32は供給管31の他の一端(下流端)が接続する温水貯蔵タンク、33は温水貯蔵タンク32と地下埋設管21の一端(上流端)とを繋ぐ供給管、34は地下埋設管21の他の一端(下流端)と温水貯蔵タンク32とを繋ぐ還流管、35は温水貯蔵タンク32と放熱コイル22bの一端(上流端)とを繋ぐ供給管、36は放熱コイル22bの他の一端(下流端)とジャケット11(図1の流体流入口11a)とを繋ぐ還流管であり、それらはジャケット11と放熱部20との間で流体を循環する上記の循環経路30を構成する。
【0029】
このうち、供給管35には循環ポンプP1が介在され、その循環ポンプP1、供給管35、及び還流管36により、ジャケット11内に暖房用流体を送り込む流体送入手段が構成されている。
【0030】
図3に示されるように、還流管36からは散水管36aが分岐されており、その散水管36aの先端は発酵槽1内において上記の散水ノズル5に接続している。
【0031】
又、供給管35には、循環ポンプP1の上流部において排水管41と冷水供給管51が合流されている。排水管41は、発酵槽1の底部と供給管35とを繋ぐもので、その中途には発酵槽1内に設けられるフィルタF(図2参照)を透過した濾水を殺菌するための殺菌装置42が介在される。
【0032】
一方、冷水供給管51は、供給管35に冷水を供給するためのものであり、その一端(上流端)は冷水の供給源となる冷水貯蔵タンク50に接続されている。冷水貯蔵タンク50は、2000リットル程度の実容積を有する容器で、その内部には冷水として例えば16℃程度の井戸水が蓄えられる。又、供給管33には循環ポンプP2が介在され、その循環ポンプP2の上流部において供給管33と冷水貯蔵タンク50が冷水供給管52により連通されている。
【0033】
ここで、以上のように構成されるシステムの作用について説明すると、発酵槽1内では常法により有機性廃棄物の発酵処理(好気性発酵)が行なわれ、その過程において発酵熱が発生する。尚、発酵槽1内の有機性廃棄物は、上述の如く高圧送風機10の駆動による高圧高温空気の供給により適宜撹拌されるほか、その空気の圧縮熱と散水ノズル5からの散水により発酵が促進され、これによって発酵槽1内が75℃前後に維持される。
【0034】
又、温水貯蔵タンク32には一定量の水が蓄えられる。そして、温水貯蔵タンク32内の貯水は、循環ポンプP1の駆動により供給管35を通じて放熱コイル22bに供給され、次いで還流管36を通じてジャケット11内に送り込まれ、そのジャケット11内にて有機性廃棄物の発酵熱を吸収して50〜70℃の温水となり、これが供給管31を通じて温水貯蔵タンク32内に返送される。従って、温水貯蔵タンク32内の水は徐々に昇温され、その温水貯蔵タンク32を介してジャケット11と放熱コイル22bとの間で温水の循環が行われ、農業用ハウスH内の空気が放熱コイル22bからの放熱によって加温されるようになる。
【0035】
一方、温水貯蔵タンク32内の貯水(温水)は、循環ポンプP2の駆動により供給管33を通じて地下埋設管21に供給された後、還流管34を通じて温水貯蔵タンク32に返送される。従って、農業用ハウスH内の土壌も地下埋設管21からの放熱により直接加温されるが、地下埋設管21の放熱量が大きすぎると、農業用ハウスH内で栽培される農作物の生育に悪影響を及ぼすことになる。このため、本例では供給管33内を流れる温水に冷水供給管52を通じて冷水を混合し、地下埋設管21に供給される温水温度を例えば27℃前後(適宜変更)に調整するようにしている。
【0036】
このように、本発明によれば、有機性廃棄物の発酵熱を利用して農業用ハウスH内を好適に暖房し、冬期などにおいても化石燃料を使用せずして農作物を低コストでハウス栽培することが可能とされるが、係るシステムは夏期などにおいて農業用ハウスH内を冷房することも可能とされる。すなわち、夏期などにおいて農業用ハウスH内が高温状態になった場合には、供給管35、還流管36、及び排水管41に介在されるバルブV1,V2,V3を閉じる一方、冷水供給管51と還流管36より分岐する冷水回収管53とに介在されるバルブV4,V5を開き、その状態で循環ポンプP1を駆動することにより、冷水供給管51と供給管35を通じて冷水貯蔵タンク50から放熱コイル22bに冷水を供給してハウスH内を冷房することができる。尚、冷房時において、冷水貯蔵タンク50には井戸から連続的に給水が行われ、冷水回収管53からの還流水は図示せぬ管路を通じて井戸に還元、又は地下浸透される。
【0037】
以上、本発明の具体例を説明したが、係るシステムは上記のような構成に限らず、例えば、放熱部を空気加熱器22のみの構成としたり、あるいは空気加熱器22を省略して地下埋設管21の下流端をジャケット11に接続したりするようにしてもよい。又、循環経路30を構成する配管類の接続形態は図示例に限らず、種々の接続形態にすることができ、要は発酵熱を吸収した流体がジャケット11内から特定の暖房区域内に供給されるようになっていればよい。
【0038】
尚、本発明では有機性廃棄物の発酵熱を利用して化石燃料を燃焼させることなく暖房を行うことができるが、本発明は農業用ハウスHに限らず、一般住宅などの暖房にも適用できる。
【符号の説明】
【0039】
H 農業用ハウス(暖房区域)
1 発酵槽
10 高圧送風機(送風手段)
11 ジャケット
11a 流体流入口
11b 流体流出口
20 放熱部
21 地下埋設管
22 空気加熱器
22a 放熱コイル
30 暖房用流体の循環経路
31 供給管
32 温水貯蔵タンク
33 供給管
34 還流管
35 供給管
36 還流管
P1 循環ポンプ
P2 循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物を発酵処理する発酵槽と、
前記発酵槽の底部から当該発酵槽内の有機性廃棄物に向けて圧縮加熱した空気を吹き込む送風手段と、
前記発酵槽の外面部を覆ってその内部に前記発酵槽内での有機性廃棄物の発酵により生じた発酵熱を吸収する暖房用流体が流されるジャケットと、
特定の暖房区域に配置されて前記ジャケットとの間で前記暖房用流体の循環が行われる放熱部と、
を備えることを特徴とする有機性廃棄物の発酵熱利用システム。
【請求項2】
外面部がジャケットにより覆われた発酵槽の底部から当該発酵槽内の有機性廃棄物に向けて圧縮加熱した空気を吹き込む一方、特定の暖房区域に配される放熱部と前記ジャケットとの間で暖房用流体を循環させ、前記発酵槽内での有機性廃棄物の発酵により生じた発酵熱で前記ジャケット内の暖房用流体を加熱すると共に、加熱された流体を前記ジャケット内から前記放熱部に送り、その放熱部からの放熱により前記暖房区域を暖房することを特徴とする有機性廃棄物の発酵熱利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−255996(P2010−255996A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132420(P2009−132420)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(390037464)株式会社三友金属 (3)
【Fターム(参考)】