説明

有機性廃棄物処理方法

【課題】好気性の発酵を促進し、嫌気性の発酵を抑えることで、よく発酵された処理物が得られ、アンモニアやメタンの生成を抑制することができる有機性廃棄物処理方法を提供すること。
【解決手段】有機性廃棄物の堆積物を上下方向で相等しい空間率で該空間率を20〜40%に形成するとともに、上記有機性廃棄物の20〜80重量%に水分を調整しつつ、ペジオコックス属細菌、酵母細胞、桿菌(バチラス属微生物)、連鎖球菌およびブドウ状菌を含む微生物添加物0.01〜1.0重量%の存在下で発酵させることを特徴とする有機性廃棄物処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物、特に汚水、汚物、排水、廃棄される植物残滓などの処理に用いられる、有機性廃棄物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、畜糞などの汚水、汚物をはじめとした有機性廃棄物は、微生物による分解で処理され、その処理物は肥料等として用いられている。前記処理における微生物の反応は、好気性の条件下での微生物による分解(堆肥化などの肥料の製造においては、好気性の発酵とも呼ばれる)が主である。しかし、処理の初期には好気性の発酵の条件が整わないことがある。また、処理時に堆積した有機性廃棄物の下部などでは空気に触れにくく水分が溜まり易いなど、条件が揃いにくいことがある。こうした条件下では、嫌気性の発酵が進行する。一般に嫌気性の発酵では、好気性の発酵よりも分解効率が悪く、均一によく分解された処理物を得にくい。さらに大きな問題として、嫌気性の発酵では、アンモニアやメタンが多量に生じる。アンモニアは悪臭の原因となり、処理の過程において処理場内やその周辺に対して問題となる。さらに、これらの気体は環境問題において悪影響を及ぼす。ことに、農工業で多量に排出される有機性廃棄物の処理において、メタンが大量に発生することは、環境に対する大きな問題となっている。
【0003】
一方、本発明者が提案している特許文献1では、家畜に与える飼料に対して添加する微生物添加物で、家畜の消化器内の微生物の働きを調整し、感染症の発症を抑えるものを開示している。
この微生物添加物は、以下の微生物:a)ペジオコックス属ペントサシュース(Pediococcus pentosaceus); b)ペジオコックス属アシヂラクチシ(Pediococcus acidilactici); c)ピシア属ファリノーサ(Picia farinosa); d)デッケラ属ブラッセレンシス(Dekkera bruxellensis); e)桿菌(バチラス属微生物)(Bacilli); f)連鎖球菌(Streptococci); 及びg)ブドウ状球菌(Staphylococci)の中少なくとも三つを含むものである。
この微生物添加物を飼料に添加した場合はまた、家畜の消化器内での飼料の断片化を促進すること、さらにはその家畜からの畜糞に含まれるアンモニアが低減される旨が開示されている。
【0004】
なお、本発明者は汚水を撹拌し有機性廃棄物の処理を行う方法として特許文献2に示す汚水処理方法を提案している。
この汚水処理方法は、処理槽に堆積させた水分調整材に家畜などから出る固形物を含む汚水を散布し、水分調整材と汚水を攪拌手段で攪拌するとともに、処理槽の下部に溜まる汚水を回収して処理槽内に散布する汚水処理方法である。
上記処理槽を、汚水を散布しながら攪拌する散布領域と汚水を散布せずに攪拌し乾燥を伴った発酵を熟成する熟成領域とに分け、攪拌手段は水分調整材と汚水との混合物を移送可能な移送機能を備え、上記混合物を所定の速度で散布領域側から熟成領域側へ攪拌しながら移送して発酵させ堆肥を製造することを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−500364号公報
【特許文献2】特許第3607252号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、特許文献1の微生物添加物に含まれる微生物が、家畜の消化器内において微生物の働きを調整することで、飼料の分解を促進し、アンモニアの生成を削減することに着目した。有機性廃棄物の処理は、有機物に対する微生物の作用であるが、家畜の消化器内に対して、大気の有無、水分、栄養状態等で多くが相違している。これらを踏まえて、有機性廃棄物の処理において、前記微生物の働きを応用できる可能性について、鋭意研究を進めていった。
【0007】
その結果、上記微生物添加物は、有機性廃棄物の処理において添加すると、微生物による反応を調整、促進し、好気性の発酵を促すことが判明した。しかしながら、有機性廃棄物は好気性の発酵が進行するごとに圧縮されてゆき、空間が少なくなり、空気に触れにくくなるため、好気性の発酵が大きく促進されると、嫌気性の発酵が起こりやすい環境へと戻ってしまう問題が新たに発生した。特に、堆積している有機性廃棄物は、下部にゆくにしたがって空気に触れにくくなり、上部の重みによって圧縮されやすいので、空間が少なくなりやすい。
【0008】
また、有機性廃棄物に含有される水分の条件によっても、微生物の好気性の代謝が起こらず、あるいは嫌気性の代謝の原因となる。すなわち、水分が少なすぎると、微生物の反応が起こりづらく、多すぎると微生物が空気に触れにくいので、嫌気性の発酵を起こりやすくする。
【0009】
そのため、本発明者は、上記の微生物添加物の存在下で好気性発酵を好適に継続することができる空間率の形成の状態と、空間率の割合、水分含有率の条件について、さらに研究を進めていった。
【0010】
本発明は、上述した点にかんがみ案出されたもので、その目的とするところは、好気性の発酵を促進し、嫌気性の発酵を抑えることで、処理の過程におけるアンモニアやメタンの生成を抑制することができ、よく発酵された処理物が得られる有機性廃棄物処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の有機性廃棄物処理方法は、有機性廃棄物の堆積物を上下方向で相等しい空間率で該空間率を20〜40%に形成するとともに、上記有機性廃棄物の20〜80重量%に水分を調整しつつ、ペジオコックス属細菌、酵母細胞、桿菌(バチラス属微生物)、連鎖球菌およびブドウ状菌を含む微生物添加物0.01〜1.0重量%の存在下で発酵させることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、有機性廃棄物に対して、堆積物の上下において等しく一定の空間率が形成され、廃棄物中の微生物に空気が供給されることで、嫌気性の条件下に置かれることが避けられる。水分の調整の条件によって、嫌気性の微生物の活動が避けられる。有機性廃棄物に一定割合で混合された微生物添加物が、堆積物中の微生物の反応を調整し、これらの空間率と水分の条件が揃うことによって、好気性の反応を促進する。そのため、有機性廃棄物に対して好気性の発酵が大きく促進され、嫌気性の発酵が抑えられた状態で微生物による分解が起こり、有機性廃棄物が処理される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機性廃棄物の堆積物の上下方向の空間率と水分の調整により嫌気性条件が避けられ、有機性廃棄物中が一様に好気性の発酵に適した条件となり、微生物添加物によって微生物の好気性の反応が促進されることで、有機性廃棄物の堆積物の全体にわたって好気性の発酵を行うことができる。一様な好気性の発酵によって、有機性廃棄物の分解処理を効率的に行うことができる。
【0014】
その結果として、嫌気性の発酵が抑えられるため、アンモニアやメタンの生成を抑制することができ、周囲への悪臭を抑え、これらの気体の発生による環境問題への悪影響が少ない有機性廃棄物処理方法となる。反応のための微生物を添加するため、元来は微生物分解に適した微生物が含まれていない様々な有機性廃棄物の処理にも応用することができる。この廃棄物処理方法による処理物は、嫌気性の発酵が抑えられ、好気性の発酵の促進により生成されており、均一によく発酵され、土壌に対して良質の肥料として利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る有機性廃棄物処理方法について説明する。
【0016】
〔基本的構成〕
本構成の有機性廃棄物処理方法は、まず、有機性廃棄物の堆積物を上下方向で相等しい空間率で該空間率を20〜40%に形成して行う。
【0017】
処理される有機性廃棄物とは、汚物、汚水、植物の残滓などが挙げられる。最も多く用いられるものとしては家畜などから排出される固形物の汚物である畜糞や、汚水としての畜尿、さらにこれらの混合物としての汚水である。なお、通常、牛や豚などの家畜から排出される汚水の構成は、80〜90%が尿からなる水分で、残りの10〜20%が糞からなる固形物となっている。汚水としては、牛や豚以外の、鶏や羊などから排出される廃棄物も処理することができる。
【0018】
他の有機性廃棄物としては、植物の残滓、例えば植物性材料を食品等に加工した残りや、植物性材料を燃料などの原料として工業的に加工した後の廃棄物、また下水や下水処理の残滓などで有機性のもの、人し尿やその乾燥処理物なども好適に処理できる。これらの有機性廃棄物は、複数の種類が含まれていてもよい。本構成の有機性廃棄物処理方法では、分解反応に適し、また反応を調整する微生物添加物を加えることによって、元来は微生物分解に適した微生物が含まれていない、または少ない様々な有機性廃棄物も処理することができる。
【0019】
有機性廃棄物は、固形物の粒径が0.1〜100mmの範囲内にあるものであることが望ましい。空間率について、粒径がこの範囲未満であると、目が詰まりすぎて空間率を維持することが難しくなり、粒径がこの範囲以上であると、空間率にばらつきが出て維持するのが難しい。水分について、粒径がこの範囲を外れると水分の調整が難しい。いずれの場合も、空間率と水分によって好気的な発酵を行うのに適さない。有機性廃棄物の処理に用いられる撹拌手段で好適に撹拌することを考えると、0.2〜20mmの範囲内の粒径であることがさらに望ましい。
【0020】
次に、有機性廃棄物の堆積物は、有機性廃棄物を一度に多量に処理できるように堆積されたものや、槽などに充填されたものである。堆積された上下方向の深さが浅すぎると面積をとるので処理の効率が悪いが、深すぎると後述する条件を上下方向で相等しく維持することが難しくなる。適切な堆積の深さは、処理に用いる手段によっても異なるが、例えばスコップ等で切り返す手段からショベルカー等で大規模にかきまぜる手段まで考えると、0.2〜5.0m程度まで考えられる。既存の有機性廃棄物の処理槽やその撹拌装置を用いることを想定した場合、1.0〜2.5m程度が好適である。
【0021】
次に、空間率、すなわち処理を行う際の有機性廃棄物に対して空間が占める割合は、上下方向に略等しい間隙を形成している必要がある。有機性廃棄物を処理する際に、有機性廃棄物の上部から下部にかけて均一な空間率を有するように維持されている。上部から下部に均一に空気が供給され、また水分や温度などの条件も略等しくなりやすいことによっても、好気的な発酵が促進される作用もある。
【0022】
空間率の割合は、好気的な発酵に適切な範囲として、20〜40%が維持されていることが望ましい。空間が少ないと、嫌気性の発酵が起こりやすい環境となってしまう。特に微生物の活動をバランスよく起こりやすいようにするためには、25〜35%、30%前後が望ましい。
【0023】
有機性廃棄物の処理は、上記の空間率を形成しつつ行う。有機性廃棄物は、好気性の発酵が進行するごとに圧縮されてゆくので、次第に空間が減ってゆくためである。空間の形成によって、有機性廃棄物に対して一様に、外気から供給された空気が混ざり、酸素が供給される。
【0024】
空間の形成は、上記の条件を維持できるならばいかなる手段を用いてもよく、例えば堆積物を撹拌することによってショベルなどを用いた撹拌(いわゆる切り返し)や、従来の肥料の生成に使用されている撹拌手段、各種の肥料撹拌装置などでもよい。特に上下方向の撹拌は、空間率だけでなく水分や温度の条件も上下方向に一様にすることができるので適している。撹拌は不十分であると、上記の空間率を維持することができない。また、撹拌しすぎると、押しつぶされてしまうため、やはり上記の空間率を維持できない。上記の空間を維持できるような手段、条件を調整しつつ行う。特に好適なのが、特許文献2に記載されている撹拌方法であり、特に家畜から排出される汚水などの大容量の場合や水分が多い場合に適しているほか、あらゆる有機性廃棄物に応用することができる。
【0025】
次に、処理を行う際の有機性廃棄物中の水分は、20〜80重量%になるよう水分を調整する。水分は20重量%を下回ると微生物が活動せず、80重量%を上回ると、発酵は起こるものの、嫌気性の微生物の代謝が増える。特に水分は30〜60重量%、50重量%前後であると、特に微生物の活動がバランスよく起こりやすいため望ましい。水分を調整する手段として、堆積物の下部の水分がたまりやすい箇所から水分を排出し、別の処理手段へと流す方法がある。また、排出した水分をさらに堆積物の上部から導入、例えば散布などを行って、堆積物の水分の割合を調整する手段などをとることができる。
【0026】
次に、有機性廃棄物の処理は微生物添加物の存在下で行う。微生物添加物は、本発明者らが特許文献1で開示している、多種の微生物と栄養素を含む添加物であり、正常な生理的な微生物作用を促進する。微生物添加物は特許文献1で示されているように、家畜の消化器内での排泄物に対する微生物反応のバランスを調整するが、本構成のような外気に触れる環境である有機性廃棄物の処理においても、微生物作用を調整、促進すると考えられ、好気性の反応をうながすと思われる。本構成においては、好気性の発酵を行う微生物を補充すると共に、有機性廃棄物中の微生物の働きを調整し、雑多な微生物の増殖、活動によって起こりやすい嫌気性発酵を抑える作用があると考えられる。また、反応を促進して反応環境の温度を高めることによっても、好気性の反応を促す。
【0027】
微生物添加物は、好気性の発酵を促進するためには、有機性廃棄物に対して0.01〜1.0重量%で使用することができる。さらに、下記するような水分、空間の条件において最も好適に好気性の発酵を行うには、0.02〜0.5重量%が望ましい。
【0028】
微生物添加物に含まれる微生物については、詳細は特許文献1に記載されているが、その必須成分として、ペジオコックス属細菌、酵母細胞、桿菌(バチラス属微生物)、連鎖球菌及びブドウ状菌を含むことで上記の働きを持つ。
本実施形態においては、a)ペジオコックス属ペントサシュース(Pediococcus pentosaceus); b)ペジオコックス属アシヂラクチシ(Pediococcus acidilactici); c)ピシア属ファリノーサ(Picia farinosa); d)デッケラ属ブラッセレンシス(Dekkera bruxellensis); e)桿菌(バチラス属微生物)(Bacilli); f)連鎖球菌(Streptococci);及び g)ブドウ状球菌(Staphylococci)から選択された上記の必須成分を含む。
【0029】
さらに、微生物添加物は、加水分解又は消化酵素、有機酸とバクテリオシンを含むことが望ましい。具体的には、上記 a)〜g)の微生物を含むほかに、以下のような特性も持つことが望ましい。
(1)以下のような加水分解活性を示す「消化酵素」である酵素: h)タンパク分解酵素、例えばトリプシン及びペプチダーセ様活性を示す; i)炭水化物開裂酵素、例えばアミラーゼ及びセルラーゼ様活性を示す; j)リポリティック(Lipolytic)酵素、例えばトリアシルグリセロラーゼ様活性を示す; k)ペルオキシダーゼ酵素、例えばカタラーゼ様活性;及び l)トランスフェラーゼ、例えばアシルトランスフェラーゼ様活性を示す; を含み、
以下の有機酸: m)乳酸; n)酢酸;及び o)琥珀酸の中、少なくとも三つを含み、
以下のバクテリオシン: q)ペヂオシン(Pediocin)A、ニシン(Nisin)、ペヂオシンAcH及びP.アシヂラクチス(acidilactice)PAC1.0を含むこと。
【0030】
(2)水を約8〜15%、全タンパク質を約15〜30%、全リピド(脂質)を0.5〜5%、線維類を約5〜20%、灰分(ミネラル)類を約8〜20%、窒素非含有可溶物を約30〜50%、
活(live)ペジオコックス属ペントサシュースを約6×104〜3×109/gram、活ペジオコックス属アシヂラクチシを約1×103〜1×107/gram、ピシア属ファリノーサを約2×103〜1×108/gram、デッケラ属ブラッセレンシスを約2×103〜2×108/gram、連鎖球菌を約2×103〜4×108/gram、桿菌を約8×102〜6×107/gram、ブドウ状球菌を約6×104〜6×107/gram、
乳酸を約0.2〜5%、酢酸を約0.1〜3%、琥珀酸を約0.01〜2%含み、
且つ乾量で約2〜15MJ/kgのエネルギー量を有すること。
【0031】
これらの微生物を、例えば穀物や穀物粉などの栄養供給ができる素材や他の栄養素に添加し、微生物添加物とすることができる。なお、この微生物添加物は、上記微生物を食品素材、たとえば米ぬか、大豆などと混ぜて、家畜用の飼料への添加物として調整された後のものを、そのまま本構成の微生物添加物として有機性廃棄物の処理方法に用いてもよい。
【0032】
有機性廃棄物の処理は、嫌気性の反応を避け好気的な反応が行われるためには、60℃以上を保ったまま行われることが望ましい。特に、好気的な反応が好適に行われるには70℃以上が望ましい。一般に有機性廃棄物の堆積物は、外気に触れ続けている上部に温度の低下を招き、その部分に嫌気性の発酵が起こりやすくなる。このとき、処理される有機性廃棄物の空間率の形成を、上下方向の撹拌によって行うことで、温度が高くなる下部と温度を均一にすることができる。ただし、頻繁に撹拌しすぎて外気の導入を行いすぎると、処理している有機性廃棄物の全体の温度の低下を招くことがあるので、好気性の発酵が好適に行われず、嫌気性の発酵が起こりやすい環境を作ってしまう。そのため、撹拌条件は好適な温度を調整できるよう、測定しつつ、または実験的に確立した条件で行う。
【0033】
また、処理条件としては、好気性の発酵を促進するためには通気用のブロワー設備を用いることが望ましい。ブロワーがない場合、特に発酵槽の積層高が高い場合には、アンモニア臭が強くなることを本発明者は確認しており、嫌気性の発酵が行われやすくなると考えられる。
【0034】
この方法により処理された有機性廃棄物は、有機性廃棄物由来肥料として利用できる。この有機性廃棄物由来肥料は、上記の微生物添加物を0.1〜1.0重量%含む。pHは4〜10の範囲にある。嫌気性の発酵では酸が生成してpHが落ちるので、主に好気性の反応により処理されることでpHが4〜10の範囲となっている必要がある。また土壌への適正からも、この範囲を外れないことが望ましい。C/N比すなわち炭素量/窒素量の比は5〜40の範囲にある。この範囲を外れると、炭素あるいは窒素が過剰となり土壌に対して好適ではない。この有機性廃棄物由来肥料は主に好気性の発酵が行われることでこの範囲を維持する。土壌に対する適正からは、C/N比は15〜20の範囲にあることがさらに望ましい。
【0035】
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態では、上記空間率の形成は、上記堆積物を1時間あたり200〜400立方mの速度で撹拌し、上記水分の調整は、上記堆積物の上下方向で略中央部の水分調整領域の水分が20〜80重量%になるよう上記堆積物の上方から調整し、上記発酵は、上記堆積物の温度を60〜80℃に維持しつつ、2〜8日間発酵させる。
【0036】
空間率の形成を撹拌で行うことは、上下方向の空間率を適切に形成するほかに、上下方向をはじめ有機性廃棄物の堆積物の水分や温度の条件を均一にする手段としてのものである。1時間あたり200〜400立方mの速度の条件での撹拌を行うことは、適切な速度で撹拌することで、遅すぎる撹拌によって条件の不均一が生じることや、早すぎる撹拌による空間の潰れなどを防ぐためのものである。
【0037】
水分の条件は、有機性廃棄物中のどの領域であっても均一であることは望ましいが、処理中には水が下部に流れることで、有機性廃棄物の上部は水分が少なめであり、下部は多めとなるため、中央部にある水分調整領域に対して、20〜80重量%の範囲内を維持することとしている。
【0038】
前記のような条件で処理することにより、微生物添加物の働きと空間、水分条件によって60〜80℃の温度が維持されて好気的な発酵が行われる。この発酵を2〜8日間、70℃以上の適度な温度が保たれている場合は好ましくは3〜5日間行うと、有機性廃棄物が処理され、有機性廃棄物由来肥料となる。
【0039】
この実施形態は、特許文献2に示されているような汚水処理装置を用いて行うことができる。この汚水処理装置では、有機性廃棄物は家畜から排泄された汚水を用いている。
【0040】
この実施形態では、撹拌手段を用いて垂直または斜めに汚水が撹拌される。特に、特許文献2に示される汚水処理装置においては、1本または複数本のスクリューを、汚水に対して上方から垂直または斜めに差し込み回転させる手段を用いている。垂直に撹拌されることで、汚水の上部から下部にわたって空気が入るので、汚水全体に対して空間率を高めやすい。また、処理槽内を水平方向に移動させて攪拌を行う撹拌手段を用いているので、処理槽内の多量の汚水が均一に撹拌され、汚水内に同じ条件が保たれ、多量の汚水が撹拌される。
【0041】
さらに、垂直方向の撹拌によって汚水の処理槽内での上部から下部にかけて空気が入り、さらに該撹拌によって、その空気が外気との間で循環し、入れ替わっているため、汚水から空気に対する蒸散が促進される。この蒸散によって、汚水の過剰な水分が除かれる。
【0042】
また、この汚水処理装置では、上記処理槽の下部に溜まる水分を回収して、上記処理槽内に散布する手段を設けている。そのため、処理槽の下部において水分が多すぎるということがなく、処理槽の上部と下部で水分の含有率を均一に近くすることができ、略中央部の水分調整領域には20〜80重量%の水分が保たれている。
【0043】
これらの働きによって、適度な水分を保ちつつ、固形物と水分を分離することなく、均一な水分含有量を備えつつ撹拌することができる。なお、この汚水処理装置では、汚水の過剰な水分はバーク等の水分調整材に散布され攪拌されて処理されるとともに、水分調整材に混ざらなかった水分は回収され再び水分調整材に散布されて処理される手段も採用されている。
【0044】
これらの作用によって、汚水は水分が調整され、20〜80重量%の適度な水分が維持されつつ、発酵が行われる。微生物添加物の添加量は、有機性廃棄物に対して0.01〜1.0重量%で行うことができるが、この汚水処理装置では、特に空間率と水分が好適に維持されるために、微生物添加物の添加量が最低限でも問題なく処理することができ、具体的には0.01〜0.03重量%でも可能である。
【0045】
この方法によって得られた有機性廃棄物由来肥料は、上記の微生物添加物を0.01〜1.0重量%含んでいる。特に、微生物のうち、酵母の割合が多いことを特徴とする。好適な好気性の分解が行われているため、有機性廃棄物の線維質を分解する酵母が多く繁殖し、活動しており、他の微生物が少ないためである。この反応により、嫌気性の発酵が抑えられ、好気性の発酵の促進により生成されており、均一によく発酵された良質の肥料となっている。pHは4〜10、C/N比の比は5〜40の範囲にあり、土壌に対して良影響を及ぼす。
【0046】
〔その他の実施形態〕
本発明は、上記の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態を技術的範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0047】
(微生物添加物の作製)
以下の微生物: a)ペジオコックス属ペントサシュース(Pediococcus pentosaceus); b)ペジオコックス属アシヂラクチシ(Pediococcus acidilactici); c)ピシア属ファリノーサ(Picia farinosa); d)デッケラ属ブラッセレンシス(Dekkera bruxellensis); e)桿菌(バチラス属微生物)(Bacilli); f)連鎖球菌(Streptococci); 及びg)ブドウ状球菌(Staphylococci)を含む、12kgの土壌(soil)を、30kgの米ぬか、1kgの大豆粉末及び14リットルの水と混合した。混合物を50℃で12時間加熱した。12時間後、温度を35℃に下げ、混合物をこの温度に48時間保った後、これを含水率約6%まで乾燥し、保存培養とした。
【0048】
ついで、500kgの米ぬかを、1.4kgの上記保存培養と混合した。水を加えて含水率を35%に上げ、混合物を10〜15cmの層にのばし、プラスチックフィルムで覆い、水の蒸発を防いだ。8日後に発酵を完了した。ついで、プラスチックフィルムを除去し、生成物を含水率約7〜9%まで乾燥したものを微生物添加物Aとした。なお、この微生物添加物Aは直ちに用いられるか、引き続く使用のために紙袋等で包装される。
【0049】
微生物添加物Aの成分を分析したところ、水分 8.1%、総タンパク質 22.7%、総脂質 3.1%、線維類 11.7%、灰分(ミネラル)類 14.6%、可溶性窒素非含有物質 39.8%、微生物の数 2×105〜3×109、エネルギー保有量 11.4MJ/kg乾量であった。
【0050】
(試験例1)
5.0tの畜糞を有機性廃棄物とし1kg(0.02重量%)の微生物添加物Aを加え、4日間処理を行った。処理条件は、
実施例1:12×50×1.8mの処理槽に、畜糞を深さ1.4〜1.7mの堆積物とし、処理槽内を上下方向〜斜めに撹拌でき水平移動が可能なスクリュー2本と、処理槽の下部にたまった汚水を回収して処理槽の上部の堆積物から散布する散布装置を備えた装置を用い、1時間あたり250〜350立方mで撹拌しつつ行った。
比較例1:従来の堆積による醗酵処理を行った。
【0051】
実施例1では、空間率は25〜35%、水分含有率は略中央部の水分調整領域において45〜55重量%前後がほぼ維持されていた。温度は、4日目には60〜70℃となっていた。
比較例1では、処理されている有機性廃棄物は、一部で押し固められている部分ができていたり、水分含有率が一様になっていなかった。その結果、空間率が20%未満となっている箇所や、水分含有率が20〜80%の範囲を外れていると思われる箇所が多く認められた。
【0052】
処理後に、両者の発生するアンモニア濃度を、処理物の表面から0.5mの距離での空気中の濃度測定によって測定した。その結果、実施例1では40ppm、比較例1では1000ppmのアンモニア発生量となった。
この処理方法をとることで、アンモニアの発生量がおよそ25分の1に抑えられた。またアンモニアの発生が少ないことから、嫌気性の発酵が抑えられていることが示された。
【0053】
(試験例2)
有気性廃棄物の堆積物として、2立方mの牛糞を堆積したものに対して、各実施例、比較例ごとに表1の添加物を加え、ショベルにより撹拌(切り返し)を行い、空間率を25〜30%、水分を60〜70%程度に維持しつつ、30日間まで発酵を行った。発酵処理の間、外気の平均気温は10℃前後で維持されていた。
比較例2の添加物の脱脂ヌカは、微生物を外部から添加せずに、元から牛糞に含まれる微生物に対する栄養としての糖分のみを添加するためのものである。
撹拌を行う際に、切り返しで内部から露出した処理物に対して、温度とアンモニアの濃度を測定した。比較結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
これらの結果から、有機性廃棄物の処理において、微生物添加物Aの添加を撹拌に組み合わせると、同じ撹拌条件であっても添加しないものよりも発酵温度が高くなり、また安定した高い温度が維持され、好気性の発酵を促進することが示された。
また、微生物添加物Aを加えると、無添加の場合や、元から有機性廃棄物に含まれる微生物に対する栄養のみである脱脂ヌカを加えた際よりも、アンモニア濃度が著しく低く、嫌気性の発酵が抑えられており、発酵が好気的に行われていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は農業や工業の廃棄物の処理の問題、資源の活用の問題、環境問題の解決にも大きく役立つものである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物の堆積物を上下方向で相等しい空間率で該空間率を20〜40%に形成するとともに、上記有機性廃棄物の20〜80重量%に水分を調整しつつ、ペジオコックス属細菌、酵母細胞、桿菌(バチラス属微生物)、連鎖球菌およびブドウ状菌を含む微生物添加物0.01〜1.0重量%の存在下で発酵させることを特徴とする有機性廃棄物処理方法。
【請求項2】
上記微生物添加物が、a)ペジオコックス属ペントサシュース(Pediococcus pentosaceus); b)ペジオコックス属アシヂラクチシ(Pediococcus acidilactici); c)ピシア属ファリノーサ(Picia farinosa); d)デッケラ属ブラッセレンシス(Dekkera bruxellensis); e)桿菌(バチラス属微生物)(Bacilli); f)連鎖球菌(Streptococci);及び g)ブドウ状球菌(Staphylococci)を含むことを特徴とする請求項1記載の有機性廃棄物処理方法。
【請求項3】
上記空間率は、上記堆積物を1時間あたり200〜400立方mの速度で撹拌し、
上記水分の調整は、上記堆積物の上下方向で略中央部の水分調整領域の水分が20〜80重量%になるよう上記堆積物の上方から調整し、
上記発酵は、上記堆積物の温度を60〜80℃に維持しつつ、2〜8日間発酵させることを特徴とする請求項1または2に記載の有機性廃棄物処理方法。

【公開番号】特開2010−284608(P2010−284608A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141675(P2009−141675)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(501062110)株式会社カワシマ (1)
【Fターム(参考)】