説明

有機板状粒子の製造方法

【課題】結晶性ポリエステル粒子から微細な有機板状粒子を効率良く製造する方法を提供すること。
【解決手段】平均粒子径が1000μm以下の結晶性ポリエステル粒子を亜臨界状態または超臨界状態の流体中に保持する工程を有する、平均粒子径0.1〜1000μmの有機板状粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機板状粒子の製造方法に関する。詳しくは、化粧品をはじめ、シャンプーやリンス、石鹸等の日用品、さらに塗料やインクの原料として好適に用いられる有機板状粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板状粒子はその粒径や厚さを変えることにより様々な色や光沢を発現するため、化粧品をはじめ、シャンプーやリンス、石鹸などの日用品、さらに塗料やインクの原料としても使用される。また、球状粒子や不定形粒子に比べて滑り性に優れることから、化粧品などに配合すると皮膚などに塗布した場合の感触、即ち使用感が改善されるなどの利点がある。このような板状粒子には、タルクやマイカなどの体質顔料が知られているが、無機物であるがゆえに、化粧品などに配合した場合の皮膚への付着性が低い。それに対し、高分子化合物からなる有機板状粒子は滑り性と付着性を両立することが可能である。
【0003】
高分子化合物からなる有機板状粒子を製造する方法としては、たとえば、高分子化合物の微粒子を溶媒に分散させ、溶媒の凍結温度以下まで冷却したのち、高分子化合物のガラス転移温度未満まで昇温する方法(特許文献1参照)が知られている。
【0004】
一方、アモルファスのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを所定の状態にある二酸化炭素により処理することで結晶性が高まることが報告されている(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平3−234734号公報
【非特許文献1】Polymer,1978,vol.28,July,P1298-1302,Mizoguchiら
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した有機板状粒子の製造方法では溶媒を使用するため、乾燥粉体を得るためには溶媒除去工程が必要である。また溶媒の凍結温度以下まで冷却する必要があるためエネルギー負荷も大きく、現実的な方法ではない。一方、前記した二酸化炭素による処理でPETフィルムの結晶性が高まるとの報告はPETフィルムでの現象のみを教示するものであり、たとえば、PETからなる粒子についても結晶性が高まり得るのか、また、PETからなる粒子の結晶性が高まることで当該粒子がどのような形態をとり得るようになるかといった点については一切の記載も示唆もなされていない。
【0006】
従って、本発明は、結晶性ポリエステル粒子から微細な有機板状粒子を効率良く製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、平均粒子径が1000μm以下の結晶性ポリエステル粒子を亜臨界状態または超臨界状態の流体中に保持する工程を有する、平均粒子径0.1〜1000μmの有機板状粒子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機板状粒子の製造方法によれば、化粧品をはじめ、シャンプーやリンス、石鹸等の日用品、さらに塗料やインクの原料として好適に用いられる、滑り性、感触、皮膚への付着性に優れる乾燥した微細な高分子の有機板状粒子を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は有機板状粒子の製造方法に関するものであり、所定の結晶性ポリエステル粒子を亜臨界状態または超臨界状態の流体中に保持する工程を有することを1つの大きな特徴とする。
【0010】
本発明者らは、その結晶化時に通常とり得る形態を問わず、任意の結晶性ポリエステル粒子を、亜臨界状態または超臨界状態の流体中に保持することで、該粒子の形態を板状化し得ることを初めて見出した。従って、本発明によれば、従来の有機板状粒子の製造方法と異なり、溶媒を使用することなく、微細な有機板状粒子を効率良く製造することができる。
【0011】
なお、本明細書において、「結晶性」とは結晶化する性質を有することをいい、また、「結晶化する性質を有する」とは、X線回折において明瞭な結晶構造を示す結晶を形成し得ることをいう。
【0012】
本発明において原料として使用される結晶性ポリエステル粒子としては、結晶化時に板状の形態をとる結晶性ポリエステル粒子に限らず、特に制限されるものではない。該粒子としては、例えば、PETなどからなる粒子が挙げられる。なお、本発明においてポリエステルとしては平均分子量が10000以上のものが好ましい。ここで、平均分子量とは重量平均分子量をいい、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーにより測定される。
【0013】
原料として使用される結晶性ポリエステル粒子の形状としては、特に制限されるものではないが、その平均粒子径としては、変形のしやすさ、また商品系における性能、さらにハンドリングのしやすさなどの観点から、1000μm以下であり、好ましくは0.1〜1000μm、より好ましくは0.1〜100μm、さらに好ましくは1〜50μmである。原料として使用される結晶性ポリエステル粒子の平均粒子径は、たとえば、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0014】
より良好な有機板状粒子が得られることから、原料として使用される結晶性ポリエステル粒子には非晶質部分が存在することが好ましいが、非晶質部分の存在は、X線回折により結晶状態を示さないハローが見られることにより確認することができる。前記原料の中でも特に製法により非晶性になりやすいという観点から、原料としてはPETからなる粒子が好適に使用される。非晶質部分が存在する結晶性ポリエステル粒子は、例えば、溶融した状態にある、前記したようなポリエステルを急冷することによって得られる。
【0015】
原料である結晶性ポリエステル粒子の亜臨界状態または超臨界状態の流体中での保持はたとえば、以下のようにして行うことができる。
【0016】
原料を耐圧容器に充填する。原料の充填量としては特に限定されるものではなく、使用する耐圧容器の容量を考慮し、流体を注入し得る空間が確保されるように適宜設定すれば良い。
【0017】
本発明で使用される耐圧容器としては、密閉することができ、使用する温度および圧力に耐え得るものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス製容器などの公知の容器が使用される。
【0018】
所定量の前記原料を耐圧容器に充填した後、耐圧容器を密閉する。耐圧容器内を所定の温度まで昇温し、つづいて流体をボンベより耐圧容器へ高圧ポンプを用いて供給することにより昇圧し、流体が亜臨界状態または超臨界状態になるように調整する(昇温・昇圧工程)。また、昇温および昇圧の順序はこれに限るものでなく、先ず昇圧し、続いて昇温することにより所定条件に調整してもよいし、また昇温と昇圧を同時に行ってもよい。
【0019】
本発明に使用される流体の種類は、特に限定されないが、臨界条件が穏やかである、不燃性である、毒性がない、安価であるなどの理由から二酸化炭素が好ましい。
【0020】
本発明において、「亜臨界状態」とは、流体の温度と圧力のいずれか一方が臨界条件以上である状態をいい、「超臨界状態」とは、流体の温度と圧力がともに臨界条件以上である状態をいう。たとえば、流体が二酸化炭素の場合、亜臨界状態とは、温度が31.1℃以上且つ圧力が7.38MPa未満、あるいは温度が31.1℃未満且つ圧力が7.38MPa以上である状態を、超臨界状態とは、温度が31.1℃以上且つ圧力が7.38MPa以上である状態を、それぞれいう。本発明の製造方法において原料を保持する流体の状態として亜臨界状態と超臨界状態とは厳密に区別するものではないが、原料の板状化を促進する観点から、超臨界状態が好ましい。
【0021】
亜臨界状態または超臨界状態における温度や圧力の範囲は使用する流体により異なるため、それらの条件は使用する流体に応じて適宜設定すればよい。かかる条件設定は、たとえば二酸化炭素の相図(温度−圧力曲線)を参照して行えばよい(例えば、「熱計算ハンドブック」(日本能率協会)第Db14頁の表22参照)。一方、亜臨界状態または超臨界状態における流体温度としては原料である結晶性ポリエステル粒子の融点未満であることが好ましい。流体温度がかかる温度範囲にあれば、該粒子の溶融に伴う粒子同士の凝集が実質的に生じない。
【0022】
従って、たとえば、流体が二酸化炭素の場合、原料から有機板状粒子を得るための好ましい条件としては、二酸化炭素が亜臨界状態または超臨界状態となる温度・圧力条件であって、かつ該温度が原料の融点未満である条件が挙げられる。また、二酸化炭素の密度が低い条件では原料の板状化に要する時間が長くなる場合があり、より好ましい条件としては、温度が原料の融点未満で、且つ圧力が7.38MPa以上である条件が、さらに好ましい条件としては、温度が31.1℃以上且つ原料の融点未満で、且つ圧力が7.37MPa以上である条件が、挙げられる。
【0023】
原料を亜臨界状態または超臨界状態の流体中に保持する間、所望により撹拌を行えばよいが、たとえば、当該状態における温度が原料の融点以上である場合、原料の凝集を抑える観点から、攪拌を行うことが好ましい。
【0024】
原料を所定の流体中に保持する時間としては特に限定されず、原料の種類や所望する原料の板状化の程度により適宜設定すればよい。原料の性質によっては、原料の該流体中での保持を、流体が亜臨界状態または超臨界状態に達したことを確認した後に直ちに終了してもよい場合があるが、保持する時間としては、通常、流体の状態が亜臨界状態または超臨界状態となった時点から、好ましくは0.1時間〜1日間程度である。
【0025】
次いで、流体を耐圧容器から排出し(減圧工程)、大気圧に達したのち有機板状粒子を回収する。原料の所定の流体中での保持は減圧工程の開始をもって終了することになる。流体を排出する速度に関しては特に限定するものではない。また、減圧を開始する前に、または減圧と同時に耐圧容器内を冷却してもよい(冷却工程)。減圧工程および冷却工程はそれぞれ一段階で行っても多段階で行ってもよい。また、それらの工程の間、撹拌を維持してもよい。
【0026】
以上により、所望の有機板状粒子が得られる。なお、所定の原料から有機板状粒子が得られるメカニズムとしては以下の通り推定される。
【0027】
結晶性の低いポリエステルからなる粒子は自由体積が大きいため、該粒子中に流体分子が入り込みやすい。流体分子が入り込むとポリエステルの各分子は移動しやすくなり、エネルギー的により安定な結晶構造に配置される。このときの高分子の結晶構造がラメラ状である場合、粒子は板状に変形する。本発明においては、所定の原料を亜臨界状態または臨界状態の流体中に保持するが、そのような状況にあって、原料である結晶性ポリエステル粒子を構成するポリエステルはエネルギー的により安定な結晶構造としてラメラ状をとり、その結果、粒子は板状化するものと推定される。このような観点から、原料である結晶性ポリエステル粒子の板状化は、減圧工程および/または冷却工程に入る前に完了していると考えられる。
【0028】
また、流体分子がポリエステルからなる粒子に入り込む量は、流体の密度が同じ場合は温度が高い程、また温度が同じ場合は圧力が高い程多くなり、原料の板状化も容易になると推定される。そのため、流体の状態としては臨界状態であるのが好ましいものと考えられる。
【0029】
本発明においては溶媒を使用しないことから、得られた有機板状粒子は乾燥しており、また、通常、凝集はない。従って、本発明によれば、平均粒子径0.1〜1000μm、好ましくは0.1〜100μmの微細な有機板状粒子が得られる。ここで、有機板状粒子の平均粒子径とは、面積基準の円相当直径をいう。具体的には、後述する有機板状粒子の長径(μm)と短径(μm)とを乗じて得られる値(μm)の面積を有する円の直径として求める。
【0030】
なお、本発明において「板状粒子」とは、その厚さに対する短径の比(短径/厚さ)が2以上であるものをいう。本発明において得られる有機板状粒子において、当該比は、3〜1000であることが好ましく、より好ましくは5〜1000である。
【0031】
また、本発明により得られる有機板状粒子の短径は、特に限定はされないが、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは0.1〜30μmである。一方、長径は、特に限定はされないが、好ましくは0.1〜300μm、より好ましくは0.1〜100μmである。短径および長径は、たとえば、有機板状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真に基づいて測定することができる。短径とは、SEM写真における有機板状粒子の像を2本の平行線ではさんだ場合、その平行線の間隔が最小となる時の該間隔をいい、一方、長径とは、短径を定義した際の平行線に直角な方向の2本の平行線で有機板状粒子の像をはさんだ時の当該平行線の間隔をいう。
【0032】
本発明の製造方法により得られた有機板状粒子は、例えば、化粧品をはじめ、シャンプーやリンス、石鹸等の日用品、さらに塗料やインクの原料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下の実施例において使用した装置の一例を図1に示す。
【0034】
該装置は、二酸化炭素ボンベ1、フィルター2、二酸化炭素冷却ユニット3、二酸化炭素供給ポンプ4、逆止弁5、ヒーター6、攪拌翼7、耐圧容器8、モーターM、バルブV−1、排気バルブV−2、圧力計P−1を備えてなる。該装置の各構成単位は、図1に示されるような位置関係で配設されており、それぞれの配管を介して連結されている。
【0035】
実施例1
PET粉体(融点:250℃、重量平均分子量20000、三菱化学社製)5gを耐圧容器8(100mL)に充填し密封した。この耐圧容器8に二酸化炭素ボンベ1より二酸化炭素を供給し、さらに昇温することにより、耐圧容器8内を50℃、30MPa(超臨界状態)に調整した。
【0036】
なお、粉体を構成するPET粒子のX線回折では結晶性を示さないハローが見られた。
【0037】
つづいて800rpmで攪拌しながら60分間保持した。その後攪拌を維持した状態で耐圧容器8上部の排気バルブV−2より二酸化炭素を徐々に排出し、耐圧容器8内の圧力を30MPaから大気圧まで減圧した。大気圧まで減圧したのち、耐圧容器8を開放し、容器内より粉体を回収した。
【0038】
回収した粉体を走査型電子顕微鏡(SEM)(キーエンス社製)で観察したところ、図2に示すような板状粒子が観察された。なお、当該粒子の短径は8μm、長径は20μmであり、平均粒子径は14μmであった。
【0039】
実施例2
前記と同様のPET粉体5gを耐圧容器8(100mL)に充填し密封した。この耐圧容器8に二酸化炭素ボンベ1より二酸化炭素を供給し、さらに昇温することにより、槽内を80℃、30MPa(超臨界状態)に調整した。
【0040】
つづいて800rpmで攪拌しながら60分間保持した。その後攪拌を800rpmに維持した状態で耐圧容器8内を55℃まで冷却した。冷却後の圧力は20MPaであった。その後攪拌を維持した状態で耐圧容器8上部の排気バルブV−2より二酸化炭素を徐々に排出し、耐圧容器8内の圧力を20MPaから大気圧まで減圧した。大気圧まで減圧したのち、耐圧容器8を開放し、容器内より粉体を回収した。
【0041】
回収した粉体をSEMで観察したところ、図3に示すような板状粒子が観察された。なお、当該粒子の短径は8μm、長径は25μmであり、平均粒子径は16μmであった。
【0042】
実施例3
前記と同様のPET粉体5gを耐圧容器8(100mL)に充填し密封した。この耐圧容器8に二酸化炭素ボンベ1より二酸化炭素を供給し、さらに昇温することにより、槽内を120℃、30MPa(超臨界状態)に調整した。
【0043】
つづいて800rpmで攪拌しながら60分間保持した。その後攪拌を800rpmに維持した状態で耐圧容器8内を58℃まで冷却した。冷却後の圧力は15MPaであった。その後攪拌を維持した状態で耐圧容器8上部の排気バルブV−2より二酸化炭素を徐々に排出し、耐圧容器8内の圧力を15MPaから大気圧まで減圧した。大気圧まで減圧したのち、耐圧容器8を開放し、容器内より粉体を回収した。
【0044】
回収した粉体をSEMで観察したところ、図4に示すような板状粒子が観察された。なお、当該粒子の短径は4μm、長径は8μmであり、平均粒子径は6μmであった。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の製造方法によれば、たとえば、化粧品、塗料、インクなどに好適に使用され得る高品質の有機板状粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の製造方法を実施するための装置の一例を示す装置概要図である。
【図2】実施例1で得られた有機板状粒子のSEM写真(倍率:3000倍)である。
【図3】実施例2で得られた有機板状粒子のSEM写真(倍率:3000倍)である。
【図4】実施例3で得られた有機板状粒子のSEM写真(倍率:5000倍)である。
【符号の説明】
【0048】
1 二酸化炭素ボンベ
2 フィルター
3 二酸化炭素冷却ユニット
4 二酸化炭素供給ポンプ
5 逆止弁
6 ヒーター
7 攪拌翼
8 耐圧容器
M モーター
P−1 圧力計
V−1 バルブ
V−2 排気バルブ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1000μm以下の結晶性ポリエステル粒子を亜臨界状態または超臨界状態の流体中に保持する工程を有する、平均粒子径0.1〜1000μmの有機板状粒子の製造方法。
【請求項2】
流体が二酸化炭素である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
亜臨界状態または超臨界状態の流体温度が結晶性ポリエステル粒子の融点未満である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
結晶性ポリエステル粒子がポリエチレンテレフタレートである請求項1〜3いずれか記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−188558(P2006−188558A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382050(P2004−382050)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】