説明

有機溶媒中に、ポリピロール微粒子と粘着剤とが分散された塗料

【課題】有機溶媒中に、ポリピロール微粒子と粘着剤とが安定的に分散された塗料を提供する。
【解決手段】有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子の製造方法であって、水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を該重合系に添加し更に重合を進行させ、その後、層分離された2層のうちの有機溶媒層を回収し、有機溶媒層中にポリピロール微粒子がナノ分散された分散液を得、前記分散液中に粘着剤とを添加されてなる塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒中に、ポリピロール微粒子と粘着剤とが分散された塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子部品の表面を保護する為、或いは静電気による電子部品への損傷や埃の付着防止の為に、帯電防止性を付与したフィルムが用いられている。そして、フィルムに帯電防止性を付与する手段として、例えば、特開2005−314538号公報(以下、「特許文献1」とする。)に記載されているように有機溶媒中にナノ分散した導電性高分子微粒子からなる塗料をフィルム表面に塗工し、帯電防止層を形成する手段が提案されている。
【0003】
また、特許文献1の塗料は、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤とを混合攪拌してなるO/W型の乳化液中に、ピロールおよび/またはピロール誘導体のモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより、有機溶媒中にナノ分散したポリピロール微粒子からなる塗料である。
【0004】
一方で、電子部品の表面を保護するためのフィルムとしては、保護対象物からフィルムがずれたり剥離したりしない様に、フィルムの保護対象物と接する側に粘着性を付与する層が形成されている。
【0005】
そして、帯電防止性と粘着性とを付与した層を形成するために、特許文献1の塗料と粘着剤とを混合した塗工液が検討された。
【0006】
しかしながら、単に特許文献1記載の塗料と粘着剤とを混合したものは、分散安定性に欠ける問題があった。すなわち、該塗料と粘着剤とを混合したものは、該塗料中において、ポリピロール微粒子が凝集する問題があった。その原因として、特許文献1記載の塗料は、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤とを混合攪拌してなるO/W型の乳化液中において、ミセルが作られ、そのミセル中でポリピロール微粒子が生成して行く方法であり、その後、静置して有機層と水層とに分離させて有機層を回収するものであるが、この際、ミセルを形成している界面活性剤と油滴とが強固に結合し分離し難いため、界面活性剤が有機層に移行し難いものであった。その結果、特許文献1記載の塗料に粘着剤を混合した場合、分散剤として機能する界面活性剤の量が不十分であるため、ポリピロール微粒子が凝集してしまう問題があった。
【特許文献1】特開2005−314538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、有機溶媒中にポリピロール微粒子と粘着剤とが混合された塗料において、ポリピロール微粒子が凝集することがなく、その上、該塗料をフィルムに塗工した場合において、所望の帯電防止性と粘着性とを有する塗料の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、有機溶媒中にポリピロール微粒子と粘着剤とが安定的に分散された塗料を得るために、水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を該重合系に添加する方法であれば、界面活性剤と油滴とが分離し易いミセルであるため、その後、更に重合を進行させ、有機層と水層とに分離させた際、界面活性剤が有機溶媒層へ移行し易くなる。その結果、ポリピロール微粒子表面へより多くの界面活性剤が配位するため、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点以降に粘着剤を添加しても、ポリピロール微粒子が凝集することがないことを見出した。
【0009】
即ち、本発明の請求項1記載の塗料は、有機溶媒中に、ポリピロール微粒子と粘着剤とが分散された塗料であって、水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を該重合系に添加し更に重合を進行させ、その後、層分離された2層のうちの有機溶媒層を回収し、有機溶媒層にポリピロール微粒子がナノ分散された分散液を得、前記分散液に粘着剤を添加されてなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2記載の塗料は、有機溶媒中に、ポリピロール微粒子と粘着剤とが分散された塗料であって、水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒と粘着剤とを該重合系に添加し更に重合を進行させ、その後、層分離された2層のうちの有機溶媒層を回収し、有機溶媒層にポリピロール微粒子と粘着剤とが分散されたこと特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3記載の塗料は、前記請求項1または2記載の塗料において、前記有機溶媒の添加は、ポリピロールの粒子径が100nm以下である時点で行われる事を特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項4記載の塗料は、前記請求項1または2記載の塗料において、前記水性媒体中にドーパントが存在している事を特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗料は、ポリピロール微粒子が凝集することがなく、その上、該塗料をフィルムに塗工した場合において、所望の帯電防止性と粘着性とを有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
更に詳細に本発明を説明する。
【0015】
本発明の有機溶媒層にポリピロール微粒子と粘着剤とが分散された塗料は、水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を該重合系に添加し更に重合を進行させ、その後、層分離された2層のうちの有機溶媒層を回収し、有機溶媒中にポリピロール微粒子が分散された分散液を得、その分散液に粘着剤を添加することによって達成される。また、粘着剤の添加時期は、前記分散液を得た後であってもよいし、或いは前記ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒と同時に添加してもよい。そして、後者の場合、有機溶媒中に予め粘着剤を混合したものを添加してもよいし、有機溶媒と粘着剤とが混合されていないものを同時に添加してもよい。
【0016】
本発明で使用可能なピロールおよび/またはピロール誘導体としては、ピロール、N−
メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、
N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3
−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチ
ルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、
3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−
トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノ
キシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノ
ピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール、3−フ
ェニルナフチルアミノピロール等が挙げられる。特に好ましいのはピロールである。
【0017】
水性媒体中に可溶化できるピロールおよび/またはピロール誘導体の量としては、水に
対して80g/L以下であり、特に好ましくは、20g/Lないし1g/Lである。
【0018】
水性媒体中に可溶化できない量のピロールおよび/またはピロール誘導体(飽和濃度以
上のピロールおよび/またはピロール誘導体)が添加されると、重合開始直後から塊状の
ポリピロールが生成され、目的とする微粒子は得られない。また、ピロールおよび/また
はピロール誘導体のモノマーが1g/L以下では、重合反応が極めて遅くなり、所望する
微粒子を得るまでの時間が長時間となることからあまり好ましくない。
【0019】
本発明に使用することができるアニオン界面活性剤としては、通常使用されるアニオン
界面活性剤が使用でき、特に限定されるものではないが、疎水性末端を複数有するもの(
例えば、疎水基に分岐構造を有するものや、疎水基を複数有するもの)が好ましい。この
ような疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤を使用することにより、安定したミ
セルを形成させることができ、重合後において水相と有機溶媒相との分離が容易であり、
有機溶媒相に分散した導電性微粒子が入手し易い。疎水性末端を複数有するアニオン界面
活性剤の中でも、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(疎水性末端4つ)
、スルホコハク酸ジ−2−オクチルナトリウム(疎水性末端4つ)および分岐鎖型アルキ
ルベンゼンスルホン酸塩(疎水性末端2つ)が好適に使用できる。
【0020】
また、上記のアニオン界面活性剤は単独又は2種以上の混合物として使用することがで
きる。
【0021】
本発明に使用することができるノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチ
レンアルキルエーテル類、アルキルグルコシド類、脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸
エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪
酸エステル類、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテ
ル類が挙げられる。
【0022】
上記のノニオン界面活性剤は単独又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0023】
アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤の使用量は、ピロールおよび/
ピロール誘導体のモノマー1molに対し0.2mol未満であることが好ましく、さら
に好ましくは0.03mol〜0.15molである。0.03mol未満では収率や分
散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では得られた導電性微粒子に導電性の湿度依
存性が生じてしまう場合がある。
【0024】
本発明で使用する酸化剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸およびクロロスルホン酸
のような無機酸、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルナフタレンスルホン酸等の有機酸、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムおよび過酸化水素のような過酸化物が
使用できる。これらは単独で使用しても、二種類以上を併用してもよい。塩化第二鉄等の
ルイス酸でもポリピロールを重合できるが、生成した粒子が凝集し、ポリピロールを微分
散できない場合がある。特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
【0025】
使用する酸化剤の量は、ピロールおよび/またはピロール誘導体のモノマー1molに
対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、導電性微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上ではポリピロールが凝集して導電性微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。本発明で使用する水性媒体は、基本的に水であり、所望により、形成されるポリピロール微粒子の導電率の向上と導電率の経時変化を減少させる目的でドーパント等を加えることができる。
【0026】
使用する水性媒体の量は、使用するピロールおよび/またはピロール誘導体が可溶化で
きる量、即ち、前記で定義されたように、ピロールおよび/またはピロール誘導体の濃度
が80g/L以下となる量であって、特に好ましくは、20g/Lないし1g/Lとなる
量である。
【0027】
上記のように本発明においては、ドーパントを加えることができる。
【0028】
本発明では、水性媒体中に所定のドーパントを添加することで、導電率の向上と経時変
化を減少させることを可能とし得る。
【0029】
本発明でドーパントを使用する場合のドーパントの種類としては、ピロールおよび/ま
たはピロール誘導体のモノマーに可溶であれば特に制限はなく、一般的にピロールおよび
/またはピロール誘導体の重合体を含んでなる導電性微粒子に好適に用いられるアクセプ
ター性ドーパントを適宜使用できるが、代表的なものとしては、例えば、ポリスチレンス
ルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、アリルスルホン酸等のスルホン酸類、過塩素酸、塩素、臭素等のハロゲン類、ルイス酸、プロトン酸等がある。これらは、酸形態であってよいし、塩形態にあることもできる。モノマーに対する溶解性の観点から好ましいものは、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム、トリフルオロメタンスルホン酸テトラブチルアンモニウム、トリフルオロスルホンイミドテトラブチルアンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等である。
【0030】
ドーパントを使用する場合のドーパントの使用量は、生成するピロール重合体単位ユニ
ット当たりドーパント0.01〜0.3分子となる量が好ましい。0.01分子以下では、十分な導電性パスを形成するに必要なドーパント量としては不十分であり、高い導電性を得ることが難しい。一方、0.3分子以上加えてもドープ率は向上しないから、0.3分子以上のドーパントの添加は経済上好ましくない。ここでピロール重合体単位ユニットとは、ピロールモノマーが重合して得られるピロール重合体のモノマー1分子に対応する繰返し部分のことを指す。
【0031】
本発明の有機溶媒中に、ポリピロール微粒子と粘着剤が分散された分散液を製造する方法において、水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始した後、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で、有機溶媒(尚、粘着剤は、有機溶媒と同時に添加されてもよいし、前記有機溶媒層にポリピロール微粒子が分散された分散液に添加されてもよい)が添加される。ポリピロールの重合率が20〜50%となる時点で有機溶媒が添加されるのがより好ましい。重合率が10%未満の時点で有機溶媒が添加された場合、ポリピロールの共役二重結合が充分に成長していないため、所定の導電性(抵抗値)が得られなくなる。また、その後の重合が極めて遅くなるうえ、油適と界面活性剤との結合が強いミセルを形成するため、その後、有機層と水層へ分離させる際、油適と界面活性剤とが分離し難く、有機層と水層との分離が困難、即ち、分散安定性が悪くなる。逆に重合率が60%を越えた時点で有機溶媒が添加された場合、有機溶媒へ移行するポリピロール粒子の大きさは数百nm以上の大きな粒子となり、分散安定性が悪いものとなる。
【0032】
尚、重合率は、ガスクロマトグラフィーを用いて残存モノマーを測定し、当初の添加モ
ノマー量と残存モノマー量の比から容易に算出することができる。
【0033】
ポリピロールの粒径をあまり大きくせず、また、ポリピロール粒子の凝集を起こさない
ためには、反応系中に、ある程度の量の残存モノマー(未反応のモノマー)の存在が重要
であると考えられ、そのため、重合率が向上して残存モノマーの量が減少すると急激にポ
リピロールの粒径の増大及びポリピロール粒子の凝集が起こるものと考えられる。
【0034】
即ち、ポリピロールの粒径をあまり大きくせず、また、ポリピロール粒子の凝集を起こさないためには、反応系中の残存モノマー(未反応のモノマー)量が、当初に添加したモノマー量の40〜90%が残存する時点で有機溶媒を添加することが重要であるといえる。
【0035】
また、同様に、有機溶媒を添加する時点において水性媒体中に分散している微粒子の大きさも極めて重要である。水性媒体中におけるポリピロールの重合率(%)とその際得られるポリピロールの平均粒子径(nm)の関係を示すグラフを図1に示すが、該グラフからポリピロールの重合率が、ある一定値を超えるとポリピロールの平均粒子径が急激に大きくなることが判る。そのため、例えば、ポリピロールの平均粒子径が100nmを超えた時点で有機溶媒を添加しても、有機溶媒へ移行するポリピロール粒子の大きさは結果的に数百nm以上の大きな粒子となりやすく、また、分散安定性も悪いものとなりやすい。
【0036】
従って、有機溶媒の添加は、ポリピロールの粒子径が100nm以下の時点で行うのが
好ましい。
【0037】
尚、ポリピロールの平均粒子径は、レーザードップラー法により容易に測定することが
できる。
【0038】
添加する有機溶媒としては、水への溶解度が1%以下の有機溶媒であれば特に限定され
ないが、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエ
チルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖
状飽和炭化水素類、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳
香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類が挙げられる。
【0039】
有機溶媒の使用量は、重合反応に使用する水の量に対して体積比で2ないし40%(v
/v)が好ましく、特に好ましくは、10ないし25%(v/v)である。
【0040】
2%(v/v)未満では、粒子密度が高くなるため分散性が悪くなり、結果として凝集
が起こる。40%(v/v)を超える場合は相対的に粒子密度が低くなるため、粒子間の
反発力が小さくなり、分散を保てなくなる。
【0041】
前記ポリピロール微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、ピロールおよび/または
ピロール誘導体のモノマー及び所望によりドーパントを水に加えて混合攪拌する工程、
(b)酸化剤を加えて酸化重合を開始する工程、
(c)重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を添加する工程、
(d)混合攪拌して更に重合反応を進行させる工程、
(e)有機相を分液し、有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子を回収して分散液を得る工程。
【0042】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、混合攪
拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を
適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下で
ある。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0043】
本発明において用いられる粘着剤は、例えば前記(e)の工程において得られた分散液中に添加する、或いは前記(c)の工程において添加する有機溶媒と同時に添加してもよい。
【0044】
粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、合成ゴム系粘着剤等が挙げられる。例えばアクリル系粘着剤は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等と、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、N−メチロールアクリルアミド等の架橋性官能基を有するモノマーとを共重合させたものであり、架橋剤としてポリイソシアネート、メチロールメラミン化合物、金属キレート化合物等が使用できる。ポリイソシアネートとしては、トリメチロールプロパン(TMP)/トリレンジイソシアネート(TDI)付加物、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート付加物等が、メチロールメラミン化合物としては、トリメチロールメラミン、トリメチロールメラミンブチルエーテル等が、金属キレート化合物としてはアルミニウムキレート化合物、チタンキレート化合物等がある。また、粘着剤の反応を促進させる目的で、例えばリン酸エステル系化合物等を添加してよく、リン酸エステル系化合物としては、リン酸アルキルエステル、アルキルエーテルリン酸エステル等がある。
【0045】
本発明に於いて用いられる粘着剤は、使用する用途に合わせて微粘着のものから強粘着のものまで使用する事が出来る。具体的には、粘着力が1〜500g/25mmの範囲のものが好ましい。また、1g/25mm未満になると、粘着力が不十分となり被着体から不必要に剥離してしまう虞がでてくる。また、粘着力が500g/25mmを越えると、接着の範囲になり、必要時に被着体から剥離することが難しくなる。
【0046】
こうして本発明の有機溶媒中に、ポリピロール微粒子と粘着剤とが分散した塗料は、導電性を有する粘着塗料として好ましく使用することができる。該導電性塗料はポリピロール微粒子を有機溶媒に分散させ、かつこの分散液中に粘着剤が添加されているため、所望の導電性と粘着性とを発揮することが出来る。また、用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えることも可能である。
【0047】
また、本発明の塗料を基材に塗布し、乾燥させることによって導電性と粘着性とを有する薄膜を得ることもできる。塗布する対象は特に限定されないが、導電性塗料中に含まれる有機溶媒により損傷を受けないよう選択する必要があるが、使用する基材に対して、適宜有機溶媒を選定することが可能である。また塗布方法も特に限定されず、例えばグラビア印刷機、ディッピング、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、コンマコーター、ナイフコーター、バーコーター等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。
【実施例】
【0048】
以下の実施例により本発明をより詳しく説明する。但し、実施例は本発明を説明するためのものであり、いかなる方法においても本発明を限定することを意図しない。
【0049】
実施例1
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(アニオン界面活性剤:ペレックス
OT−P)1.5mmolをイオン交換水100mLに溶解し、次いでピロールモノマー
21.2mmolを加え30分攪拌し、次いで0.12M過硫酸アンモニウム水溶液50
mL(6mmol相当)を加え、1時間反応を行った(重合率50%、平均粒子径78n
m)。次いで、酢酸ブチル25mLを添加し、4時間攪拌した。攪拌終了後、有機相を回
収し、イオン交換水で数回洗浄して酢酸ブチル中に分散した状態で黒色の導電性微粒子(
平均粒子径85nm)の分散液を得た。
【0050】
次に、得られた分散液6質量部に対して、アクリル系粘着剤、即ち、主剤であるサイビノールATR−1(サイデン化学(社)製、アクリル系樹脂:固形分=30%)を5質量部及び硬化剤であるサイビノールM−3L(サイデン化学(社)製、リン酸エステル系樹脂:固形分=1%)を0.5質量部添加し、塗料を得た。
【0051】
実施例2
酢酸ブチル(有機溶媒)を下表(表1)に示す有機溶媒に変え、かつ、粘着剤として、ウレタン系接着剤、即ち、タケラックU−W31(三井化学ポリウレタン(社)製、ウレタン系樹脂:固形分=50%)を3質量部及びタイラックD−160N(三井化学ポリウレタン(社)製、イソシアネート系樹脂:固形分75%)を0.01質量部添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、塗料を得た。
【0052】
実施例3ないし8
酢酸ブチル(有機溶媒)を下表(表1)に示す有機溶媒に変えた以外は実施例1と同様
の操作を行い、塗料を得た。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例9
ピロールモノマーを加えた後に、新たにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2mm
olを添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、塗料を得た。
【0055】
実施例10
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(アニオン界面活性剤:ペレックス
OT−P)をポリオキシエチレンアルキルエーテル系ノニオン界面活性剤エマルゲン40
9P(花王株式会社)に変えた以外は実施例9と同様の操作を行い、塗料を得た。
【0056】
実施例11
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(アニオン界面活性剤:ペレックス
OT−P)1.5mmolを0.42mmolに変え、更にノニオン界面活性剤エマルゲ
ン409P2.1mmolを加えた以外は実施例1と同様の操作を行い、塗料を得た。
【0057】
実施例12
ピロールモノマーを加えた後に、新たにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2mm
olを添加した以外は実施例11と同様の操作を行い、塗料を得た。
【0058】
実施例13
過硫酸アンモニウム水溶液を加えた後の1時間の反応時間を15分間(重合率10%、
平均粒子径15nm)に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、塗料を得た。
【0059】
実施例14
過硫酸アンモニウム水溶液を加えた後の1時間の反応時間を75分間(重合率60%、
平均粒子径100nm)に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、塗料を得た。
【0060】
実施例15
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(アニオン界面活性剤:ペレックス
OT−P)1.5mmolをイオン交換水100mLに溶解し、次いでピロールモノマー
21.2mmolを加え30分攪拌し、次いで0.12M過硫酸アンモニウム水溶液50
mL(6mmol相当)を加え、1時間反応を行った(重合率50%、平均粒子径78n
m)。次いで、トルエンとウレタン系粘着剤との混合液を25mLを添加し、4時間攪拌した。攪拌終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄してトルエン中に分散した状態で黒色の導電性微粒子(平均粒子径85nm)の分散液を得た。その後、得られた分散液に、硬化剤としてタイラックD−160N(三井化学ポリウレタン(社)製、イソシアネート系樹脂:固形分75%)をトルエンにて100倍希釈したものを0.06質量部添加し、塗料を得た。
【0061】
なお、トルエンとウレタン系粘着剤との混合液としては、トルエン24.8mLに対して、ウレタン系接着剤、即ち、タケラックU−W31(三井化学ポリウレタン(社)製、ウレタン系樹脂:固形分=50%)を0.2質量部添加したものを使用した。
【0062】
比較例1
過硫酸アンモニウム水溶液を加えた後の1時間の反応時間を90分間(重合率70%、
平均粒子径300nm)に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、塗料を得た。
【0063】
比較例2
過硫酸アンモニウム水溶液を加えた後の1時間の反応時間を5分間(重合率5%、平均
粒子径2nm)に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、塗料を得た。
【0064】
比較例3(特開2005−314538号公報に記載のO/W型の乳化液中での重合法に準じる製造方法)
即ち、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム1.5mmolを酢酸ブチル50mLに溶解し、さらにイオン交換水100mLを加え20℃に保持しつつ乳化するまで攪拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、30分攪拌し、次いで0.12M過硫酸アンモニウム水溶液50mL(6mmol相当)を少量づつ滴下し、4時間反応を行った。反応終了後、静置したが有機相と水相の分離が明確でなく、有機相の回収が不可能であった。
【0065】
比較例4(特開2005−314538号公報に記載のO/W型の乳化液中での重合法に
準じる製造方法)
即ち、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系ノニオン界面活性剤エマルゲン409P(花王株式会社)1.5mmolをトルエン50mLに溶解し、さらにイオン交換水100mLを加え20℃に保持しつつ乳化するまで攪拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、30分攪拌し、次いで0.12M過硫酸アンモニウム水溶液50mL(6mmol相当)を少量づつ滴下し、4時間反応を行った。反応終了後、静置したが有機相と水相の分離が明確でなく、有機相の回収が不可能であった。
【0066】
比較例5(特開2005−314538号公報に記載のO/W型の乳化液中での重合法に
準じる製造方法)
即ち、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム1.5mmolをトルエン50mLに溶解し、さらにイオン交換水100mLを加え20℃に保持しつつ乳化するまで攪拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、30分攪拌し、次いで0.12M過硫酸アンモニウム水溶液50mL(6mmol相当)を少量づつ滴下し、4時間反応を行った。反応終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄してトルエン中に分散した状態で黒色の導電性微粒子(平均粒子径60nm)の分散液を得た。
【0067】
次に、得られた分散液6質量部に対して、アクリル系粘着剤、即ち、主剤であるサイビノールATR−1(サイデン化学(社)製、アクリル系樹脂:固形分=30%)を5質量部及び硬化剤であるサイビノールM−3L(サイデン化学(社)製、リン酸エステル系樹脂:固形分=1%)を0.5質量部添加し、塗料を得た。
【0068】
比較例6(特開2005−314538号公報に記載のO/W型の乳化液中での重合法に
準じる製造方法)
トルエン(有機溶媒)をメチルエチルケトンに変えた以外は、比較例5と同様の操作を行い、塗料を得た。
【0069】
[抵抗値]
実施例1〜15および比較例1、2、5において得られた塗料を、ガラス板に塗布して導電性薄膜を形成し、気温25℃、湿度50%の雰囲気下で三菱化学社製「ハイレスター」を用い、印加電圧10Vにて導電性塗膜の抵抗値(Ω)を測定した。
【0070】
[分散安定性]
実施例1〜15および比較例1、2、5において得られた塗料を、ガラス板に塗布して導電性薄膜を形成し、その塗膜状態を目視にて評価した。
○:塗膜において、ポリピロール微粒子の凝集物が見られなかった。
△:塗膜において、部分的にポリピロール微粒子の凝集物が見られた。
×:塗膜において、全体的にポリピロール微粒子の凝集物が見られた。
※評価結果を表2に纏めた。
【0071】
尚、表中の“重合方法”に記載のA、B、“界面活性剤”の“アニオン”に記載のC、
“ノニオン”に記載のD、“ドーパント”に記載のEは、それぞれ以下を意味する。
A:水性媒体中で重合反応を開始し、特定の重合率となった時点で有機溶媒を添加して更
に重合反応を行う重合方法
B:特開2005−314538号公報に記載のO/W型の乳化液中での重合法に準じる
重合方法
C:スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(アニオン界面活性剤:ペレック
スOT−P)
D:ノニオン界面活性剤エマルゲン409P
E:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
また、表中の“重合率”は、実施例1ないし15及び比較例1,2では、有機溶媒を添
加する前のポリピロールの重合率(%)を示している。
【0072】
また、表中の“添加前平均粒径”は、有機溶媒を添加する前のポリピロールの平均粒子
径を意味し、また、“反応後平均粒径”は、有機相の回収後におけるポリピロールの平均
粒子径を意味する。
【0073】
また、ポリピロールの平均粒子径は、Microtrac社製Nanotrac UP
A150を用いてレーザードップラー法により測定し、ポリピロールの重合率は、ガスク
ロマトグラフィーを用いて残存モノマーを測定し、当初の添加量と残存モノマーの比から
算出した。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例1〜8で示されるように、使用した有機溶媒の種類(脂肪族エステル類、芳香族
溶媒、ケトン類、環状飽和炭化水素類、鎖状飽和炭化水素類、鎖状飽和アルコール類、芳
香族エステル類、脂肪族エーテル類)に関係なく、同等に優れる抵抗値と分散安定性を示した。
【0076】
実施例9、10および12で示されるように、水性媒体中にドーパント(ドデシルベン
ゼンスルホン酸ナトリウム)を添加した場合は、使用する界面活性剤がアニオン界面活性
剤(実施例9)、ノニオン界面活性剤(実施例10)、アニオン界面活性剤+ノニオン界
面活性剤(実施例12)に関係なく、特に優れる抵抗値及び分散安定性を示した。
【0077】
実施例10及び11で示されるように、アニオン界面活性剤に変えて、ノニオン界面活
性剤(実施例10)、アニオン界面活性剤+ノニオン界面活性剤(実施例11)を使用し
ても、同様に、優れる抵抗値及び分散安定性を示した。
【0078】
実施例13で示されるように、有機溶媒を添加する時点の重合率が10%の場合は、優れる抵抗値及び分散安定性を示したが、一方、比較例2で示されるように、有機溶媒を添加する時点の重合率が5%の場合、抵抗値と分散安定性において劣るものであった。
【0079】
実施例14で示されるように、有機溶媒を添加する時点の重合率が60%の場合は、優れる抵抗値及び分散安定性を示したが、一方、比較例1で示されるように、有機溶媒を添加する時点の重合率が70%の場合、抵抗値と分散安定性において劣るものであった。
【0080】
実施例15で示されるように、重合率が50%の際に、有機溶媒と粘着剤であるウレタン系粘着剤とを混合した混合液を添加した場合は、優れる抵抗値及び分散安定性を示した。
【0081】
比較例5及び6で示されるように、特許文献1記載のO/W型の乳化液中での重合法を用いた場合、抵抗値と分散安定性において劣るものであった。
【0082】
比較例3で示されるように、比較例5のトルエンを酢酸ブチルに変えると重合反応そのものが進行しなかった。
【0083】
比較例4で示されるように、比較例5のアニオン界面活性剤をノニオン界面活性剤に変えると重合反応そのものが進行しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】水性媒体中におけるポリピロールの重合率(%)とその際得られるポリピロールの平均粒子径(nm)の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中に、ポリピロール微粒子と粘着剤とが分散された塗料であって、
水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を該重合系に添加し更に重合を進行させ、その後、層分離された2層のうちの有機溶媒層を回収し、有機溶媒層にポリピロール微粒子がナノ分散された分散液を得、
前記分散液に粘着剤を添加されてなることを特徴とする塗料。
【請求項2】
有機溶媒中に、ポリピロール微粒子と粘着剤とが分散された塗料であって、
水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒と粘着剤とを該重合系に添加し更に重合を進行させ、その後、層分離された2層のうちの有機溶媒層を回収し、有機溶媒層にポリピロール微粒子と粘着剤とが分散されてなることを特徴とする塗料。
【請求項3】
前記有機溶媒の添加は、ポリピロールの粒子径が100nm以下である時点で行われる事を特徴とする請求項1または2記載の塗料。
【請求項4】
前記水性媒体中にドーパントが存在している事を特徴とする請求項1または2記載の塗料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−57484(P2009−57484A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226487(P2007−226487)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】