説明

有機無機複合体の製造方法

【課題】 ポリエステルやポリ酸無水物を合成させながら同時に無機化合物を析出させ微細な無機化合物を高い充填率で均一に分散させた複合体を簡易な合成操作で得る方法を提供する。
【解決手段】 二価フェノ−ル化合物又はジカルボン酸化合物と、酸ハライドとを含有する有機溶剤溶液(1)と、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれ少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)又は珪酸アルカリ(c−2)を含有する水溶液(2)を、前記有機溶剤溶液(1)中の二価フェノ−ル化合物又はジカルボン酸化合物と前記酸ハライド(b)の一部を予め予備重合反応させた状態で、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)を共存させて、前記化合物(a)のアルカリ金属塩を生成させ、更に該アルカリ金属塩を前記酸ハライド(b)とを反応させる有機無機複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汎用のポリマーであるポリエステルをマトリクスポリマーとする有機無機複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機無機複合体はマトリクスとなる有機ポリマー中に無機化合物を分散させた複合材料であり、有機ポリマーの加工性や柔軟性等と無機材料の耐熱性や硬度等の特性を併せ持った材料として注目されている。このような有機無機複合体は、そのまま素材として使用する他、汎用ポリマーの改質剤としても期待がなされている。
このような有機無機複合体の製造技術としては、従来、
1.有機化処理を行った粘土鉱物を層状の無機成分として用いる層剥離法や、
2.無機微粒子を有機ポリマーにポリマー溶融状態で直接混合することによる溶融混練法、あるいは、
3.金属アルコキシドを加水分解させる系に溶解したポリマーを共存させるゾル−ゲル法、等が知られている。
【0003】
1.の方法は、マトリクスとして使用する有機ポリマーがポリアミドであれば、粘土層が良好に剥離したいわゆるナノコンポジットが製造できるが、ポリアミド以外、例えばポリエステル等の低極性ポリマーでは分散が困難である。また粘土鉱物の含有率を10質量%以上とすることも困難である。また、有機化処理を行った粘土鉱物は非常に高価(通常5000円/kg以上)であり、得られる有機無機複合体の用途が限定される。
【0004】
また2.の方法は、固体の無機化合物の微粒子を直接樹脂に分散させる。固体状の無機化合物微粒子は、該無機化合物単体の粒径が小さいほど表面エネルギーが高いことにより凝集する傾向があるため、得られる有機無機複合体の無機微粒子径は混合前の粒径かそれ以上となる。無機微粒子径が粗大化するほど無機材料の特性は発揮できなくなるので、無機微粒子の含有率を高めようと多量に分散させた場合は、無機微粒子の凝集体が多々生じ無機導入量に比例した補強効果が期待できなくなる。
【0005】
また3.の方法は、選定するポリマーによって、比較的無機含有率が高く且つ無機成分が微分散した有機無機複合体を製造することができる。しかし、金属アルコキシドの加水分解と脱水縮合に場合によっては週単位の極めて長時間を要することがあり、製造効率に劣る。また、無機原料である金属アルコシキドは、取り扱い性が悪い上に高価である。
このように、従来法では、含有できる無機化合物量に限界がある上、使用する原料が高価であり得られる有機無機複合体の用途が限られてしまうなどの問題があった。また使用できるポリマーの種類も限られているため、ポリエステル等のプラスチック用途における需要の大きいポリマーをマトリクスとした有機無機複合体を容易に得ることができなかった。
【0006】
これに対し、マトリクスとなるポリマーを合成させながら同時に無機化合物を析出させ、ポリマー中に微細な無機化合物を均一に分散させた複合体を、簡易な合成操作で、且つ珪酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウム等の安価な無機原料を用いて製造できる方法がある。例えば、ポリアミドとシリカとの複合体の製造方法や(例えば特許文献1参照)、ポリアミド等の有機ポリマーと酸化アルミニウム等の金属化合物との複合体の製造方法(例えば特許文献2参照)、芳香族ポリエステルとシリカとの有機無機複合体の製造方法(例えば特許文献3参照)が知られている。
【0007】
しかし特許文献1及び2に記載の方法で得られる有機無機複合体は、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素といった極性ポリマーをマトリクスポリマーとしており、例えばポリマーの改質剤として利用する場合に相溶できるポリマーが限られるといった問題があった。
特許文献3に記載の方法は、芳香族ジカルボン酸ハロゲン化物の有機溶剤溶液と、二価フェノール類と水ガラスの水溶液を混合攪拌して重縮合させる方法であり、ポリエステルとガラスとの有機無機複合体が得られる。しかしながら、ニ価フェノールは水に溶解させて使用するために、水溶性のレゾルシンやハイドロキノン以外は効率よく反応しないといった問題があった。
特許文献3に記載の方法で、水溶性に乏しいビスフェノール等を二価フェノール類として使用した場合、二価フェノール類は水ガラス中のナトリウムイオンにより末端の-OHが−ONaにイオン交換されることにより一部溶解はされるが、この溶解に伴う水ガラスの単独析出反応を引き起こすこととなり(即ち水ガラスのSi−O−Naのナトリウムイオンが、2価フェノールのプロトンとイオン交換することで、Si−O―Hとなると、引き続き脱水重縮合を生じ、Si−O−Si結合を形成し固体として単独で析出する)、該文献が目的とする原料の完全溶解からの無機成分が微粒化した複合体することができない。
また、該方法は、水ガラスをアルミン酸ナトリウム等に置き換えることもまた困難である。即ち水溶時に強アルカリになる無機化合物は、二価フェノール類と同時に溶解させようとすると、二価フェノール類のプロトンにより急速に中和され直ちに析出するため、複合体を合成できない。従って、アルミン酸ナトリウムや亜鉛酸ナトリウムを原料とする、酸化アルミニウム、酸化亜鉛を無機成分に持つ複合体を得ることができない。
【特許文献1】特開平10−176106号公報
【特許文献2】特開2005−036211号公報
【特許文献3】特開2003−252974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、汎用の原料を使用しつつ、ポリエステルやポリ酸無水物をマトリクスポリマーとし、該ポリマーを合成させながら同時に無機化合物を析出させ、該ポリマー中に好ましくは平均粒径100nm以下の微細な無機化合物を高い充填率で均一に分散させた複合体を、簡易な合成操作で、且つ珪酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウム等の安価な無機原料を用いて製造できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ポリエステルやポリ酸無水物の原料である二価フェノール類やジカルボン酸化合物や酸ハライド等のモノマーを全て有機溶剤に溶解し、無機化合物の原料であるアルカリ金属を含む金属化合物や珪酸アルカリを水に溶解し、それぞれの溶液を、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで、容易に、ポリエステルやポリ酸無水物中に微細な無機化合物を、非常に高い濃度で均一に分散させた複合体が得られることを見出している。
【0010】
一般に酸ハライドは非常に反応性が高く、例えばベンゾイルクロライドと水とは常温で徐々に反応してしまう。これに対し本発明者らは既に、常温付近の有機溶媒中では短時間であれば、二価フェノール類やジカルボン酸化合物と酸ハライドとは反応せず安定に存在することを見出し、該安定な有機溶液と、アルミン酸ナトリウム等のアルカリ金属複合酸化物や珪酸アルカリ等の無機原料を溶解した水溶液と共存させることで初めて、ポリマー重合反応が開始され、且つ無機析出反応も同時に開始され、平行して反応が進むことを見出している(特願2008−513428)。
具体的には、二価フェノール類やジカルボン酸化合物や酸ハライド等のモノマーを全て有機溶剤に溶解した安定な溶液と、アルミン酸ナトリウム等のアルカリ金属複合酸化物や珪酸アルカリの水溶液とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで、アルカリ金属により、二価フェノール類のヒドロキシ基やジカルボン酸化合物のカルボキシ基の水素原子が水素イオンとして解離し、アルカリ金属イオンとイオン交換反応を生じ、二価フェノール類やジカルボン酸化合物はアルカリ金属塩となる。アルカリ金属塩となった二価フェノール類やジカルボン酸化合物は反応性を著しく増し、酸ハライドと重縮合反応を生じる。
一方、アルミン酸ナトリウム等のアルカリ金属複合酸化物や珪酸アルカリはアルカリ金属と水素イオンとがイオン交換反応を生じ化合物末端にヒドロキシ基を生じ、これらが脱水重縮合反応を生じるために微細な無機化合物として析出し、高い含有率でポリエステル等の有機ポリマー中に均一に分散される。
【0011】
前記方法は背景技術に記載の1〜3の方法に比べ、ポリエステルに高い濃度で無機化合物を均一に分散させることができる画期的な方法である。しかしながら無機微粒子の粒径を一定以下にすることが難しいといった問題があった。
一般にポリエステル、ポリ酸無水物はポリアミド等の含窒素の高極性ポリマーに比べると極性が低い。そのためシリカ、アルミナ等の無機微粒子と水素結合を介した相互作用を起こし難いために無機微粒子を分散させにくい傾向にある。前記方法では、無機微粒子をナノメートルオーダーで導入することはできるものの、一部に粗大粒子が存在する等により平均粒径が100nm以下の領域にまでは到達していない。
そこで本発明者は更に鋭意検討した結果、前記方法において、有機溶剤溶液(1)中のモノマー(a)と酸ハライド(b)とを一部予備重合反応させた後に、前記有機溶剤溶液(1)を、珪酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム等のアルカリ金属含有の無機原料を溶解させた水溶液(2)と混合することにより、前記方法よりも無機微粒子の粒径を小さくすることができることを見いだした。
【0012】
即ち、本発明は、二価フェノ−ル化合物又はジカルボン酸化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物(a)と、酸ハライド(b)とを含有する有機溶剤溶液(1)と、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれ少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)又は珪酸アルカリ(c−2)を含有する水溶液(2)を、前記有機溶剤溶液(1)中の前記化合物(a)と前記酸ハライド(b)の一部を予め予備重合反応させた状態で、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)の少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させて、前記化合物(a)のアルカリ金属塩を生成させ、更に該アルカリ金属塩を前記酸ハライド(b)とを反応させる有機無機複合体の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記製造方法により得た、無機微粒子の平均粒径が100nm以下である有機無機複合体を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ポリエステル、ポリ酸無水物の比較的低極性なポリマーをマトリクスポリマーとし、該マトリクスポリマー中に無機成分が平均粒径100nm以下の微小な粒径で分散した有機無機複合体を、簡便に得ることができる。
本発明においては、モノマー原料や無機原料の組み合わせを限定することがないので、様々な組み合わせの有機無機複合体を得ることが可能となる。また、本発明の製造方法は、汎用の攪拌装置を用いて常温常圧下、短時間の1ステップで行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の製造方法は、有機ポリマーの原料である二価フェノール類と無機原料である金属化合物(c−1)または珪酸アルカリ(c−2)の何れの材料とも、反応前はいずれかの溶媒に溶解状態であり、有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで、マトリクスとなるポリマーの合成と無機化合物の析出とが同時に生じるボトムアップ型合成であることが特徴である。相溶あるいは分離の状態で有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とが同一容器即ち1つの反応容器中に存在し、且つ有機溶剤溶液(1)の一部もしくは全部と水溶液(2)の一部もしくは全部とが接触する。各々の溶液の一部が接触する場合とは、見た目反応容器中で分離した状態を指し、通常界面重合により反応は進む。一方各々の溶液の全部が接触する場合とは、見た目反応容器中で相溶した状態を指し、通常均一溶液重合により反応は進む。
【0016】
(有機溶剤溶液(1))
本発明におけるマトリクスとなるポリマーは、二価フェノール化合物及びジカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1つの化合物(a)と、酸ハライド(b)との重縮合反応で得られるポリエステルまたはポリ酸無水物であることが、反応が容易であり好ましい。これらの化合物(a)及び(b)はいずれも有機溶剤に溶解しておく。
このとき、前記化合物(a)として二価フェノール化合物を使用し、前記酸ハライド(b)としてジカルボン酸ハロゲン化物を使用するとポリエステルとなり、前記化合物(a)としてジカルボン酸化合物を使用し、前記酸ハライド(b)としてジカルボン酸ハロゲン化物を使用するとポリ酸無水物となる。ポリ酸無水物の場合は、使用する時カルボン酸化合物として芳香族ジカルボン酸化合物又は脂肪族ジカルボン酸化合物であることが好ましい。
【0017】
(化合物(a):二価フェノール類)
本発明で使用する二価フェノール類は、酸ハライドと同時に有機溶剤に溶解可能な、2つのフェノール性水酸基を有する化合物である。
2つのフェノール性水酸基は、1つの芳香環上にあっても複数の芳香環上にあっても良い。これらは所望するポリマーの性質により適宜決定される。
2つのフェノール性水酸基が1つの芳香環上にある化合物としては、例えば、レゾルシン(1,3−ジヒドロキシベンゼン)、ヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)、カテコール(1,2−ジヒドロキシベンゼン)等が挙げられる。
また、2つのフェノール性水酸基がそれぞれ複数の芳香環上にある化合物としては、例えば、2,2’−ビフェノール、4,4’−ビフェノール、3,3’−5,5’−テトラメチルビフェノール(テトラメチルビフェノール)、等のビフェノール化合物、ビスフェノールS、ビスフェノールA、ビスフェノールH、ビスフェノールC、ビスフェノールE等のビスフェノール化合物、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン等のナフタレン骨格を持つ化合物、アントラセン等の芳香環が3つ以上の化合物のいずれかの芳香環に、置換部位は問わずに2つのフェノール性水酸基を有する化合物をあげることができる。
【0018】
また前記二価フェノール類は、酸ハライドと常温、常圧下では反応せず且つ使用する有機溶剤や後述の水溶液(B)中の水と反応しないような置換基を有していてもよい。このような置換基の例としては、ハロゲン元素やアルキル基が挙げられる。
本発明においては、二価フェノール類の溶媒として有機溶剤を使用するので、水溶性が殆どないビフェノール化合物、ビスフェノール化合物、ナフタレン骨格やアントラセン骨格等を持つ二価フェノール類等も使用することができる。
【0019】
なお本発明においては、エチレングリコールや1,4−ブタンジオール等の脂肪族アルキルジオール化合物では酸ハロゲン化物と重縮合反応が生じにくい。これは、脂肪族アルキルジオール化合物の水酸基の水素イオンの解離性が二価フェノール類と比べて極めて低いために、後述の金属化合物(c−1)または珪酸アルカリ(c−2)中のアルカリ金属イオンが脂肪族アルキルジオール化合物の水酸基の水素イオンとイオン交換する反応が遅いためと考えられる。
【0020】
(化合物(a):ジカルボン酸化合物)
本発明で使用するジカルボン酸化合物は、酸ハライドと同時に有機溶剤に溶解可能な、2つのカルボキシ基を有する化合物である。ジカルボン酸化合物は脂肪族ジカルボン酸でも芳香族ジカルボン酸でも良い。
【0021】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、例えば、芳香環から構成された化合物としてはテレフタル酸、イソフタル酸等の1つの芳香環を有する化合物、1,4−ジカルボキシナフタレン、1,5−ジカルボキシナフタレン、1,6−ジカルボキシナフタレン、2,6−ジカルボキシナフタレン等のナフタレン骨格を持つ化合物等の複数の芳香環を有する化合物、あるいは、ビフェニル−2,2´−ジカルボン酸等のビフェニル骨格を持つジカルボン酸等が挙げられる。
【0022】
また脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、エタン二酸(しゅう酸)、プロパン二酸(マロン酸)、ブタン二酸(コハク酸)、ペンタン二酸(グルタル酸)、ヘキサン二酸(アジピン酸)、オクタン二酸(スベリン酸)、デカン二酸(セバシン酸)等が挙げられる。
また前記ジカルボン酸化合物は、酸ハライドと常温、常圧下では反応せず且つ使用する有機溶剤や後述の水溶液(B)中の水と反応しないような置換基を有していてもよい。このような置換基の例としては、ハロゲン元素やアルキル基が挙げられる。
【0023】
(酸ハライド)
本発明で使用する酸ハライドは、有機溶剤溶液(1)中での常温、常圧条件下では二価フェノール類やジカルボン酸化合物とは反応せず、水溶液(2)と共存させることで始めて重縮合反応を生じるような2価のハライドを有する化合物であれば特に限定されない。
例えば、芳香族基を有する酸ハライドとしては、例えば、イソフタル酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド、2つ以上の芳香環から構成される1,4−ジカルボキシナフタレン、1,5−ジカルボキシナフタレン、1,6−ジカルボキシナフタレン、2,6−ジカルボキシナフタレン等の酸ジハロゲン化物が挙げられる。
また、脂肪族基を有する酸ハライドとしては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の酸ジハロゲン化物が挙げられる。
本発明では、酸ハライドを含む有機溶剤溶液を水溶液と共存させることから、酸ハライドとして比較的水に対して安定である芳香族酸ジハライドが特に好ましく用いられる。また、前記酸ハライドは、有機溶剤や後述の水溶液(B)と反応しないような置換基を有していてもよい。このような置換基の例としては、ハロゲン元素やアルキル基が挙げられる。
【0024】
(有機溶剤)
前記二価フェノール類、酸ハライド、及び有機酸は、いずれも有機溶剤に溶解した有機溶剤溶液(1)として使用する。
本発明では、ポリエステルまたはポリ酸無水物等のマトリクスポリマーが合成反応に伴い析出することで、同時に析出する無機成分をナノ粒径で保持することにより無機微粒子化を達成している。従って、本発明で使用する有機溶剤は、前記化合物(a)と前記酸ハライド(b)とを反応させずに溶解させることができると同時に、合成されたポリマーに対する溶解度が低いものが好ましい。一方、ポリエステルまたはポリ酸無水物は構造により有機溶剤に対する溶解性は大きく異なることから、得られるポリマーの溶解性までを加味して適宜選択することが好ましい。本発明で用いられる有機溶剤の具体的な例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジメチルエ−テル、ジエチルエ−テル、ジブチルエ−テル、アニソ−ル等のエ−テル類、アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸アルキル、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、n−メチルピロリドン、N−N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素系有機溶媒、炭酸プロピレン、ジメチルスルホキシド等を例示することができる。これらは、モノマー(a)とジアミン(b)とを良好に溶解させるために複数を組み合わせて用いても良い。
【0025】
有機溶剤として、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、アセトン、酢酸エチル等の、水可溶性もしくは水溶性である有機溶剤を使用すると、得られる前記有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが相溶した状態で反応することとなり、反応場が均一な溶液中である溶液重合で反応が進行し、得られる有機無機複合体は粉末状となる。
一方、ジブチルエーテル、アニソール、酢酸ブチル、クロロホルム、塩化メチレン等の、水難溶性もしくは水不溶性である有機溶剤を使用すると、得られる有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが分離した状態で反応することとなり、反応場が水と有機溶剤との界面である界面重合で反応は進行し、得られる有機無機複合体は塊状となる。
【0026】
有機溶剤溶液(1)中の二価フェノール類と酸ハライドとのモノマーのモル比は、有機無機複合体の合成反応が正常に進行すれば特に限定されないが、収率よく反応を進行させるためにはおよそ1:1であることが好ましい。
また、本発明での前記有機溶剤溶液(1)中の二価フェノール類と酸ハライドのそれぞれのモノマー濃度は、重合反応が十分に進行すれば特に制限されないが、各々のモノマー同士を良好に接触させる観点から、0.01〜3モル/Lの濃度範囲、特に0.05〜1モル/Lが好ましい。
また、前記有機溶剤溶液(1)は、その他反応を阻害しないような添加剤を適宜加えてもよい。
【0027】
(予備重合方法)
本発明で、有機無機複合体中の無機粒子を微粒子化するためには、有機溶剤溶液(1)中の化合物(a)と酸ハライド(b)とを一部を予め予備重合反応させ、オリゴマー化させる必要がある。該予備重合反応の手法としては、前記有機溶剤溶液(1)を加温する方法と、前記有機溶剤溶液中にモノマーの重縮合を促進させる脱酸剤を混合する方法とが挙げられる。
【0028】
(加温による予備重合反応)
前記化合物(a)や酸ハライド(b)は常温以下では重縮合反応を生じにくい。そのため前記有機溶剤溶液(1)は、まずは常温またはそれ以下の温度条件で各モノマーを溶解することが好ましい。その後ゆっくりと加温して、前記化合物(a)や酸ハライド(b)とを一部反応させ、オリゴマー化させることにより予備重合反応の度合いを制御することができる。このときの昇温速度は特に限定はないが、あまり急激な加温は反応速度を必要以上に促進させるので、具体的には1〜20℃/分位が好ましい。また、加温(反応温度)は30〜80℃の範囲が好ましい。加温が30℃未満であると重合反応が十分に進行しないのでオリゴマーとならず本発明の効果がでにくくなるおそれがある。一方加温が80℃を超えると、重合反応が進行しすぎてポリマーとなってしまい、以後の無機析出反応において無機成分を微粒化状態で複合化しにくくなるおそれがある。このときの加温保持時間は、30分〜3時間が、予備重合の状態と製造速度とのバランスが取れるために好ましいが、これらの加温温度や加温保持時間は、使用するモノマーの種類や組み合わせ及び溶媒種により適宜調整してもよい。
一方、該予備重合反応により発生したハロゲン化水素は、有機溶剤溶液(1)中に蓄積され、更なる重合によるポリマー化を防ぐ効果を有するので、これによってもオリゴマー状態で維持することができる。また、蓄積したハロゲン化水素は珪酸アルカリや、アルミン酸アルカリ等の無機原料の酸除去剤として作用するため、本予備重合反応を行っても予備重合反応を行わない場合と比べて複合体中の無機含有率が低くなることはない。
【0029】
(脱酸剤による予備重合反応)
また、一般に有機溶剤中での重縮合の脱酸剤として用いる材料をポリマー合成に必要とされる量よりも少量機溶剤溶液(1)中に添加する方法によっても、オリゴマー化が可能である。脱酸剤は添加量に応じて重縮合反応が生じるので、これによりオリゴマー分子量を調整する。脱酸剤としては塩化カルシウム、塩化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性無機化合物や、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン等のアミン系化合物があげられる。
脱酸剤の添加量としては、原料とするモノマー種や溶媒種にもよるが、一般に通常のポリマー合成に必要とする量の1〜20%の範囲内適宜調整することが好ましい。本手法を用いた場合には脱酸剤によって重縮合反応により発生したハロゲン化水素が除去されるため、珪酸アルカリや、アルミン酸アルカリ等の無機原料からの無機化合物析出可能量がすくなくなる。そのため、有機無機複合体中の無機含有率を低下させたくない場合は最小限の量を使用することが好ましい。また、本予備重合法を前記加温による予備重合法と併用しても良い。
【0030】
また、分子量の目安としては、重合度に換算して、繰り返し単位数nの平均値が1〜15程度までオリゴマー化していることが好ましい。
nが1未満であると予備重合反応が不十分であるため、無機粒子を微粒化する効果が不十分となるおそれがある。一方nが15より大きいと、前記有機溶剤(1)中に重合物が析出しやすくなり、以後の無機析出反応において無機粒子を微粒径で分散できなくなるおそれがある。分子量範囲としては使用するモノマーの種類により変化するが、およそ数平均分子量に換算して400〜5000の範囲が好ましい。
【0031】
(水溶液(2))
本発明における無機化合物の原料は、無機化合物のアルカリ金属塩である。具体的には、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)(以下金属化合物(c−1)と略す)、又は珪酸アルカリ(c−2)が、入手が容易であり安価であり好ましい。金属化合物(c−1)を原料とした場合はアルカリ金属以外の金属元素を有する金属化合物が析出し、珪酸アルカリ(c−2)を原料とした場合はシリカ(酸化ケイ素)が析出する。(以下、前記金属化合物(c−1)の析出体であるアルカリ金属以外の金属原子を有する金属化合物と、珪酸アルカリ(c−2)の析出体であるシリカを称して無機化合物(c)とする。また、金属化合物(c−1)と珪酸アルカリ(c−2)をまとめて無機原料と称する場合がある。)
【0032】
(金属化合物(c−1))
本発明で使用する金属化合物(c−1)は、具体的には、下記一般式(1)で表される。
【0033】
【化1】

【0034】
前記一般式(1)において、Aはアルカリ金属元素を表し、Mはアルカリ金属以外の金属元素を表し、Bは酸素原子、カルボキシ基、またはヒドロキシ基を表す。x、y、及びzは各々独立してA、MとBの結合を可能とする数である。(複合酸化物系の無機材料には不定比化合物(例えばNa1.6Al0.92.8 のような類が多いために、xyzともに整数とも小数とも定義できない。そのため、安定して存在しえる数を指す。)
前記一般式(1)で表される化合物は、水に完全または一部溶解し塩基性を示すものが好ましい。且つ、析出する金属化合物が、水に殆どまたは全く溶解しない化合物であることが好ましい。
【0035】
前記一般式(1)におけるBが酸素原子である化合物としては、例えば、亜鉛酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、亜クロム酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、タンタル酸ナトリウム、亜テルル酸ナトリウム、チタン酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、ジルコン酸ナトリウム等のナトリウム複合酸化物や、亜鉛酸カリウム、アルミン酸カリウム、亜クロム酸カリウム、モリブデン酸カリウム、スズ酸カリウム、マンガン酸カリウム、タンタル酸カリウム、亜テルル酸カリウム、鉄酸カリウム、バナジン酸カリウム、タングステン酸カリウム、金酸カリウム、銀酸カリウム、ジルコン酸カリウム等のカリウム複合酸化物、アルミン酸リチウム、モリブデン酸リチウム、スズ酸リチウム、マンガン酸リチウム、タンタル酸リチウム、チタン酸リチウム、バナジン酸リチウム、タングステン酸リチウム、ジルコン酸リチウム等のリチウム複合酸化物のほかルビジウム複合酸化物が挙げられる。
【0036】
前記一般式(1)におけるBがカルボキシ基及びヒドロキシ基の両方を含む金属化合物(c−1)としては、例えば、炭酸亜鉛カリウム、炭酸ニッケルカリウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸コバルトカリウム、炭酸スズカリウム等が挙げられる。
前記金属化合物(c−1)は、水に溶解させて用いるために水和物であっても良い。また、各々を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0037】
金属化合物(c−1)の中でも、特に、アルミン酸アルカリ、スズ酸アルカリ、亜鉛酸アルカリ、炭酸ジルコニウムアルカリが特に好ましく用いられる。これらの金属化合物は、水溶性が高く溶解させた際の塩基性が強いため、前記マトリクスとなるポリマーの縮重合反応を進行させやすい。中でもアルミン酸アルカリは特に水溶性が高い上安価であるため最も好ましく用いられる。
【0038】
(珪酸アルカリ(c−2))
本発明で使用する珪酸アルカリ(c−2)は、例えば、JIS K−1408−1950に記載の珪酸ナトリウム(水ガラス)1号、2号、3号、4号が例となるMO・nSiOの組成式で、Mがアルカリ金属、nの平均値が1.8〜4のものが挙げられる。また、nの平均値が1.8以下でありMがナトリウムであるオルト珪酸ナトリウムやメタ珪酸ナトリウム、前記の珪酸ナトリウムのナトリウムが他のアルカリ金属に変更された、珪酸リチウム、珪酸カリウム、珪酸ルビジウム等も用いることができる。
【0039】
(水溶液(2)の溶媒)
前記金属化合物(c−1)又は前記珪酸アルカリ(c−2)は、水に溶解させ水溶液(2)として使用する。また、前記有機溶剤溶液との反応を相溶した状態で行いたい場合には、アセトンやテトラヒドロフラン等の極性有機溶剤を水溶液(2)の30質量%程度を上限にして混合し、溶解度を調節してもよい。
【0040】
また、水溶液(2)には有機ポリマーの合成を促進するために、水酸化アルカリ、炭酸アルカリ等の塩基性物質を溶解させてもよい。また、有機溶剤溶液(1)との混合性を高めるために界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
【0041】
(製造方法)
本発明の有機無機複合体の製造方法は、前記化合物(a)と酸ハライド(b)とを含有する有機溶剤溶液(1)と、前記金属化合物(c−1)又は珪酸アルカリ(c−2)を含有する水溶液(2)を、前述の通り前記有機溶剤溶液(1)中の前記化合物(a)と前記酸ハライド(b)の一部を予め予備重合反応させた状態で、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)の少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで前記化合物(a)のアルカリ金属塩を生成させ、更に、該アルカリ金属塩と前記酸ハライド(b)とを反応させることを特徴とする。
本発明での有機無機複合体の合成機構は以下のように推定している。
【0042】
(マトリクスとなるポリマーの合成反応)
前述の通り、前記化合物(a)と前記酸ハライド(b)とは、常温常圧下では塩基の不存在下では反応しない。即ち、前記化合物(a)と前記酸ハライド(b)とを溶解させた有機溶剤溶液は常温下では反応せず安定に存在する。この有機溶剤溶液を一定の温度範囲内で加温したり、重縮合が完全に進行する量よりも少ない脱酸剤を有機溶剤溶液に添加して予備重合反応させても、オリゴマー程度であれば有機溶剤溶液への溶解状態を維持し、析出することはなく安定である。一方、前記金属化合物(c−1)又は前記珪酸アルカリ(c−2)の水溶液も安定である。
これらの安定な溶液を、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させると、前記金属化合物(c−1)又は前記珪酸アルカリ(c−2)のアルカリ金属により、前記化合物(a)のヒドロキシ基やカルボキシ基の水素原子が水素イオンとして解離し、アルカリ金属イオンとイオン交換反応を生じ、前記化合物(a)はアルカリ金属塩となる。アルカリ金属塩となった前記化合物(a)は反応性を著しく増し、前記酸ハライド(b)との重縮合反応が開始され、ポリエステルやポリ酸無水物等のポリマーが生じる。具体的には、下記の通りである(以下アルカリ金属塩として、ナトリウム金属塩の場合を記載している)。
【0043】
前記化合物(a)が二価フェノールである場合、フェノール性水酸基の水素原子が水素イオンとして解離し、ナトリウムイオンとイオン交換し、−ONa基が生じる。
【0044】
前記化合物(a)がジカルボン酸化合物である場合は、カルボキシ基の水素原子が水素イオンとして解離し、ナトリウムイオンとイオン交換し、−COONaが生じる。
【0045】
このようにアルカリ金属塩となった前記化合物(a)は反応性を著しく増すことで、前記酸ハライド(b)と重縮合反応を生じ、前記化合物(a)として二価フェノールを使用した場合はポリエステルが、ジカルボン酸化合物を使用した場合はポリ酸無水物が生成する。その際に発生するNaCl等のハロゲン化アルカリは、合成系中の水や洗浄工程での水に溶解することで、合成系外に排出される。
【0046】
(無機化合物の析出反応)
一方、アルカリ金属がプロトンとイオン交換された金属化合物(c−1)又は珪酸アルカリ(c−2)は、無機析出反応である脱水重縮合を生じやすくなる。例えば珪酸ナトリウムを使用した場合では、前記イオン交換反応時に、−Si−ONaがシラノール基(−Si−OH)となる。生成したシラノール基が複数会合して脱水重縮合反応を生じて(−Si−O−Si−)の結合が生成する。これによりシリカが固体化して析出する。
【0047】
前記ポリマーの合成反応と無機化合物の析出反応は、それぞれの反応の前駆物質が前記イオン交換反応時に同時に生じる。従って、どちらか一方の反応のみが一方的に生じることはなくほぼ同時に進行するものと考えられる。ポリマーが合成しながら同時に無機化合物を析出させるので、該ポリマー中に微細な無機化合物を均一に分散させた複合体を、簡易な合成操作で得ることができる。
【0048】
(有機無機複合体の合成反応場)
前記合成反応の反応場は、有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とが相溶するか、非相溶であるかにより異なる。
前述の通り、有機溶剤として、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、アセトン、酢酸エチル等の、水可溶性もしくは水溶性である有機溶剤を使用すると、得られる前記有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが相溶した状態で反応することとなり、反応場が均一な溶液中である溶液重合で反応が進行し、得られる有機無機複合体は粉末状となる。この時得られるポリマーの分子量は低いものが多い。
一方、前述の通り、ジブチルエーテル、アニソール、酢酸ブチル、クロロホルム、塩化メチレン等の、水難溶性もしくは水不溶性である有機溶剤を使用すると、得られる有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが分離した状態で共存し反応することとなる。このとき、反応場が水と有機溶剤との界面であると、界面重合で反応は進行し、得られる有機無機複合体は塊状〜粗大粒子状となる。この時得られるポリマーの分子量は高いものが多い。
これらの重合方法は特に限定されず、所望する有機無機複合体の形状、ポリマーの分子量等により選択することが可能である。
【0049】
(有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)の共存方法)
前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させるには、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とが接触する環境があれば特に限定はなく、通常は、攪拌翼を有する1つの反応釜に前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを同時に仕込めばよい。反応温度は特に高く設定する必要は無く、例えば−10〜50℃の常温付近の温度範囲で十分に反応が進行する。また、加圧や減圧は特に必要としない。有機無機複合体の合成反応は、用いるモノマー種や反応装置、スケールにもよるが、通常10分以下の短時間で完結する。
【0050】
具体的には、前記有機溶剤溶液(1)または前記水溶液(2)を仕込んだ反応釜中に、攪拌しながらもう1方の溶液を添加していく方法が挙げられる。前記有機溶剤溶液(1)及び前記水溶液(2)の仕込み順序については特に限定はないが、より好ましくは、前記有機溶剤溶液(1)を仕込んだ反応釜中に、攪拌しながら前記水溶液(2)を滴下し、前記水溶液(2)を徐々に添加していく方法であると、得られる有機無機複合体のポリマー成分であるポリエステルのエステル部位が切断する恐れもなく、良好な有機無機複合体を得ることができる。これは、アルカリ性水溶液が共存する状態ではエステル部位が切断する恐れがあり、アルカリ性を示す水溶液(2)と生成したポリエステルが長時間接触するのを避けるためである。
【0051】
(製造装置)
本発明で用いる製造装置としては、有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを良好に接触反応させることができる製造装置であればとくに限定されず連続式、バッチ式のいずれの方式でも可能である。連続式の具体的な装置としては大平洋機工株式会社製「ファインフローミルFM−15型」、同社製「スパイラルピンミキサSPM−15型」、あるいは、インダク・マシネンバウ・ゲーエムベー(INDAG Machinenbaugmb)社製「ダイナミックミキサDLM/S215型」などが挙げられる。また、バッチ式の場合は有機溶液と水溶液の接触を良好に行わせる必要があるので、アンカ−翼やマックスブレンド翼やファウドラ−翼等の攪拌力が強い攪拌装置を用いるのが好ましい。
【0052】
(その他の成分 金属化合物(c−3))
本発明の製造方法においては、異なる無機種を有する無機化合物を複数有する有機無機複合体を得ることも可能である。具体的には、例えば、前記金属化合物(c−1)に該当する金属化合物を複数種使用してもよいし、前記金属化合物(c−1)と前記珪酸アルカリ(c−2)とを併用させてもよい。
また、前記金属化合物(c−1)や前記珪酸アルカリ(c−2)とは異なる無機化合物を併用して、異なる無機化合物を複数有する有機無機複合体を得てもよい。具体的には、例えば、前記水溶液(2)に、塩基性水溶液に溶解し且つ中性溶液では析出する、前記金属化合物(c−1)とは異なる種の金属化合物(c−3)を添加する方法がある。この方法は、前記ポリマーの合成反応と前記無機化合物(c)の析出反応が進行するに従い、水溶液のpHが塩基性から中性に変化することを利用する。即ち、ポリマー生成反応初期では水溶液が塩基性であるために、金属化合物(c−3)は溶解状態のままであるが、有機無機複合化反応が進み水溶液が中性に近づくと、容易に析出し、異種の無機化合物を複数有する有機無機複合体が得られる。金属化合物(c−3)の析出反応は前記無機化合物(c)の析出反応とはやや遅れると推定されるために、得られる有機無機複合体は、ポリエステル中に前記無機化合物(c)が均一に分散され、その上に前記金属化合物(c−3)が担持された形状を有すると推定される。
【0053】
本発明で使用する金属化合物(c−3)の塩基性溶液への溶解量は、pH13の常温下の塩基性溶液に100mg/L以上が目安となる。該量よりも溶解量が小さい場合、得られる有機無機複合体の金属化合物(c−3)担持量が少なすぎて、金属化合物(c−3)に由来する機能を十分に発揮させることができない場合がある。また、本発明に用いる金属化合物(c−3)の中性溶液への溶解量は、pH6〜8の常温下の中性水溶液に30mg/L以下が目安となる。この量よりも溶解量が大きい場合には、該複合体の合成後のろ過や水洗の工程で金属化合物が流出し、担持効率が低くなり、目的とする担持量が得られにくくなる場合がある。
【0054】
本発明で使用する金属化合物(c−3)の金属種は、上記の溶解特性を示す化合物を有するものであればいずれの金属も用いることができる。リチウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、金、モリブデン、タングステン、パラジウム、ルテニウムなどの遷移金属、アルミニウム、亜鉛、インジウム、スズ、鉛、アンチモン等の典型金属を例示することができる。中でも、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の物が好ましく使用される。また、金属元素が2種以上含まれる複合化合物を用いることもできる。また、化合物種としては上記溶解特性を満たすものであれば酸化物、ハロゲン化物、水酸化物や、各種金属のシュウ酸塩、炭酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩等を制限なく用いることができる。そのため、本発明では極めて多種多様の金属酸化物を容易に担持することができる。
【0055】
本発明で使用する金属化合物(c−3)として、好適に用いられる金属化合物を例示すると、リン酸リチウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属化合物、酸化タングステン(VI)、酸化バナジウム(V)、酸化コバルト(II) 、水酸化コバルト(II) 、シュウ酸コバルト(II)、酸化ニオブ(II)、水酸化鉄(II)、酸化ニオブ(V)、酸化モリブデン(VI)、水酸化マンガン(II)、酸化金(III)、水酸化金(III)、ヨウ素酸銀(I)、炭酸銀(I)、酸化銀(I)、硫化銀(I)、酸化銅(I)、水酸化銅(II)、塩基性炭酸銅(II)、酸化銅(II)、リン酸銅(II)、シュウ酸銅(II)、酸化レニウム(VI)、水酸化パラジウム(II)、水酸化ルテニウム(IV)等の遷移金属化合物、酸化スズ(II)、水酸化スズ(II)、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化インジウム(III)、シュウ酸ニッケル(II)、酸化亜鉛(II)、水酸化亜鉛(II)、シュウ酸亜鉛(II)、酸化アンチモン(III)、酸化ガリウム(III)、酸化鉛(II) 、酸化鉛(IV)、リン酸鉛(II)、 水酸化鉛(II)等の典型金属化合物が挙げられる。これら金属化合物は水に溶解させて用いるため、水和物であっても良い。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
前記水溶液(2)中への前記金属化合物(c−3)の溶解方法としては、前記金属化合物(c−3)を溶解させることができ、且つ該水溶液(2)中の無機主成分の原料である金属化合物(c−1)及び珪酸アルカリ(c−2)を析出させることが無ければ制限は無い。例えば、予め所定量の水に金属化合物(c−1)及び珪酸アルカリ(c−2)を溶解した後に、金属化合物(c−3)を溶解させる方法、金属化合物(c−1)及び珪酸アルカリ(c−2)の濃厚な水溶液を作製し該水溶液に金属化合物(c−3)を溶解させたのち、水により希釈する方法、金属化合物(c−1)及び珪酸アルカリ(c−2)が液体である場合には、直接金属化合物(c−3)を溶解させた後に水で希釈する方法が挙げられる。前記水により希釈する方法は、金属化合物(c−3)が強アルカリであるほど溶解させやすいので好ましい。また、金属化合物(c−1)及び珪酸アルカリ(c−2)が析出しなければ適当に加温しても良い。
【0057】
(その他の成分 粘土鉱物)
また、前記水溶液(2)に、粘土鉱物を添加する方法がある。本発明に用いる粘土鉱物としては水中で金属化合物(c−1)及び珪酸アルカリ(c−2)と共存しても膨潤または微分散することができる材料であれば特に限定されないが、特にアルカリ金属イオン層間に持つ粘土鉱物、中でも、該アルカリ金属がナトリウムである粘土鉱物が好ましく用いられる。層間にアルカリ金属イオンを含有した粘土鉱物は、安価な粘土鉱物として知られているが、本材料は水中で膨潤または微分散し、その際にアルカリ性を示す。また、粘土層間のアルカリ金属もまた、金属化合物(c−1)や、珪酸アルカリ(c−2)中のアルカリ金属と同様に、ポリマーの合成を促進する。粘土層間のアルカリ金属としてはNaである粘土鉱物(Na型粘土鉱物)が最も水に対する膨潤性、溶解性が高いため好ましい。
【0058】
粘土構造として特に好ましいのはスメクタイトと呼ばれる群が挙げられ、その中でもさらに具体的にはモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等を例示することができる。
【0059】
(有機無機複合体の無機成分)
本発明の製造方法で得られる有機無機複合体において無機成分は、前述の通り、前記無機化合物(c)の微粒子と、前記金属化合物(c−3)や粘土鉱物を使用した際はそれらの微粒子とから構成される。
例えば、原料に金属化合物(c−1)を用いた場合には、無機成分は、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化亜鉛等の金属酸化物類となる。また珪酸アルカリ(c−2)を用いた場合には二酸化ケイ素(シリカ)となる。中でも、酸化アルミニウム(アルミナ)や二酸化ケイ素(シリカ)は、得られる無機化合物の粒径が小さくなる傾向があり複合化しやすく特に好ましい。例えば耐熱付与剤、寸法安定付与剤として使用する場合は、できるだけ無機粒径が小さい方が高い効果が得られ、例えば平均粒径が500nm以下であるとより高い効果が得られ好ましい。
【0060】
(有機無機複合体全量100質量%に対する無機化合物(c)の含有率)
本発明の方法は、有機酸を併用するため、無機化合物(c)を高い濃度で含有させることが可能であり、具体的には無機化合物(c)を常に安定に30質量%以上含有させることが可能である。無機化合物(c)含有率が多くなりすぎると、逆にシート化や積層板等への加工性や樹脂への混練性が損なわれる場合があるため、上限は80質量%程度にとどめておくことが望ましい。
【0061】
(有機無機複合体全量100質量%に対する金属化合物(c−3)、粘土鉱物の含有率)
金属化合物(c−3)の含有率即ち担持量は、得られる有機無機複合体の用途により適宜選定されれば良く特に限定は無い。しかし、金属化合物(c−3)が前記無機化合物(c)の表面上に担持されることから、前記無機化合物(c)量よりも少ない量が現実的である。具体的には、有機無機複合体全量100質量%に対して最大量15質量%程度担持されているのが好ましい。
一方の粘土鉱物は、粘土層間のアルカリ金属が除去されることにより前記無機化合物(c)と同様に析出することより、前記無機化合物(c)と等しい量であっても差し支えない。
金属化合物(c−3)や粘土鉱物はナノサイズで担持されているので担持効果が高く、用途によっては0.01質量%以上担持すれば機能することもあるが、特に好ましい範囲は0.1質量%〜10質量%である。
【0062】
(有機無機複合体の形状)
本発明の製造方法により、無機微粒子の平均粒径が100nm以下である有機無機複合体が得られる。
【実施例】
【0063】
以下に具体例をもって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
(実施例1〜4:脱酸剤による予備重合反応を行ったポリエステル複合体の合成)
(実施例1)
(複合体の合成処理)
アセトン50gをアンカ−翼を持つ300cm攪拌装置の中に入れ、化合物(a)として二価フェノールである4,4’‐イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3.78g入れて常温及び窒素気流下で5分間攪拌(回転数50回転/分)を行い完全に溶解させた。引き続き、酸ハライドとしてテレフタル酸ジクロライド3.37gをいれ常温で5分間攪拌することにより淡黄色の透明均一な有機溶剤溶液(1−1)を得た。引き続き、脱酸剤としてトリエチルアミン0.335gを有機溶剤溶液(1−1)に添加し常温下で30分間攪拌を行い予備重合反応を行った。目視において合成反応物と見られる析出物は発生しなかった。この状態で0.1gの液をサンプリングして、後述(測定1)の方法で分子量分布を測定したところ、有機溶剤溶液(1−1)は分子量約750にピークを持つオリゴマー(繰り返し単位換算でn=約2)となっていることが解った。
次にイオン交換水60gに金属化合物(c−1)として浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.67gを入れ常温下で10分間攪拌することにより、透明淡黄色の水溶液(2−1)を得た。次に、水溶液(2−1)を有機溶剤溶液(1−1)が入っている攪拌装置の中に、翼の回転数200回転/分で攪拌しつつ、常温下で1分間かけて滴下し反応させた。水溶液(2)を滴下するに伴い白色生成物が発生した。この状態で攪拌を20分間継続することで白色の複合体を含有するスラリーを得た。
【0065】
(複合体の洗浄処理)
このスラリーを95mmφのヌッチェ上に目開き4μmの濾紙を設置し0.015MPaで減圧濾過することにより白色のぺ−スト状の均一な含液有機無機複合体を得た。この粉体をメタノール200g中に分散させ常温下で30分間攪拌することによりメタノール洗浄を行いその分散液を、上記と同様な方法で濾過することで含メタノール有機無機複合体を得た。これを引き続き蒸留水250g中に分散させ常温下で30分間攪拌することにより水洗浄を行いその分散液を、上記と同様な方法で濾過することで含水有機無機複合体を得た。これを150℃で3時間熱風乾燥することにより、白色の有機無機複合体を得た。
【0066】
(実施例2)
実施例1の有機溶剤溶液(1−1)と同一の組成である有機溶剤溶液(1−2)を調製した後、実施例1と同様な方法により脱酸剤トリエチルアミンにより予備重合反応を進行させた。次に、水溶液(2−1)中の粉末アルミン酸ナトリウムを、珪酸アルカリ(c−2)として水ガラス1号の8.28gに変更した無色透明な水溶液(2−2)を調製し用いた以外は実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
【0067】
(実施例3)
実施例1の有機溶剤溶液(1−1)と同一の組成である有機溶剤溶液(1−3)を調製した後、実施例1と同様な方法により脱酸剤トリエチルアミンにより予備重合反応を進行させた。次に、水溶液(2−1)中の粉末アルミン酸ナトリウムを、金属化合物(c−1)として日本軽金属(株)製炭酸ジルコニウムカリウム水溶液“ジルメル1000”の9.81gに変更した無色透明な水溶液(2−3)を調製し用いた以外は実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
【0068】
(実施例4)
実施例1の有機溶剤溶液(1−1)中の4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3,3’−5,5’−テトラメチルビフェノール(テトラメチルビフェノール)4.01gに、テレフタル酸ジクロライドをイソフタル酸ジクロライド3.37gに変更した濃黄色透明な有機溶剤溶液(1−4)を調製した。引き続き、脱酸剤としてトリエチルアミン0.335gを有機溶剤溶液(1−1)に添加し常温下で30分間攪拌を行い予備重合反応を行った。目視において合成反応物と見られる析出物は発生しなかった。この状態で0.1gの液をサンプリングして、後述(測定1)の方法で分子量分布を測定したところ、有機溶剤溶液(1−1)は分子量約800にピークを持つオリゴマー(繰り返し単位換算でn=約2)となっていることが解った。
次に実施例1と同様な組成の水溶液(2−4)を調製し、実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、黄色の有機無機複合体を得た。
【0069】
(実施例5〜6 加温による予備重合反応を行ったポリエステル複合体の合成)
(実施例5)
実施例1と同様な方法で有機溶剤溶液(1−1)の有機溶媒のみを60gのアニソールに変更した有機溶剤溶液(1−5)を得た。前記有機溶媒溶液(1−5)を窒素気流下で攪拌しつつ65℃まで2℃/分の昇温速度で加温を行いこの温度状態を保持したまま150rpmの回転速度で1時間攪拌して予備重合反応をおこなった。この状態では、合成反応物と見られる析出物は発生しなかった。この状態で0.1gの液をサンプリングして、後述(測定1)の方法で分子量分布を測定したところ、有機溶剤溶液(1−1)は分子量約1000にピークを持つオリゴマー(繰り返し単位換算でn=約3)となっていることが解った。
次に水溶液(2−1)中の粉末アルミン酸ナトリウムの量を2.97gに変更した透明淡黄色の水溶液(2−5)を得た。次に、水溶液(2−5)を有機溶剤溶液(1−5)が入っている容器の中に、65℃の状態を維持し翼の回転数200回転/分で攪拌しつつ、1分間かけて滴下し反応させた。水溶液(2)を滴下するに伴い白色生成物が発生した。この状態で攪拌を20分間継続することで白色の複合体を含有するスラリーを得た。以降、実施例1と同様な洗浄処理を行うことで、白色の有機無機複合体を得た。
【0070】
(実施例6)
実施例5と同様な操作を行うことで有機溶剤溶液(1−6)を得たのち、実施例5と同様な方法で加熱による予備重合反応を行った。次に、実施例2の水ガラス1号の量を9.11gに変更した水溶液(2−6)を調製したのち、実施例5と同様な合成、洗浄処理を行うことで白色の有機無機複合体を得た。
【0071】
(実施例7:脱酸剤による予備重合反応を行ったポリ酸無水物複合体の合成)
テトラヒドロフラン50gをアンカ−翼を持つ300cm攪拌装置の中に入れ、化合物(a)としてジカルボン酸であるコハク酸1.96gを入れて常温、窒素気流下で10分間攪拌を行い完全に溶解させた。次に酸ハライド(b)としてテレフタル酸ジクロライド3.37gをいれ常温下で5分間攪拌することにより透明均一な有機溶剤溶液(1−7)を得た。引き続き、脱酸剤としてトリエチルアミン0.335gを有機溶剤溶液(1−7)に添加し常温下で30分間攪拌を行い予備重合反応を行った。目視において合成反応物と見られる析出物は発生しなかった。この状態で0.1gの液をサンプリングして、後述(測定1)の方法で分子量分布を測定したところ、有機溶剤溶液(1−7)は分子量約500にピークを持つオリゴマー(繰り返し単位換算でn=約2)となっていることが解った。次に実施例1と同様なアルミン酸ナトリウム水溶液を用い、実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことで白色の有機無機複合体を得た。
【0072】
(実施例8:加温による予備重合反応を行ったポリ酸無水物複合体の合成)
アニソール60gをアンカ−翼を持つ300cm攪拌装置の中に入れ、化合物(a)としてジカルボン酸である2,6−ジカルボキシナフタレン3.59gを入れて常温、窒素気流下で10分間攪拌を行い完全に溶解させた。次に酸ハライド(b)としてテレフタル酸ジクロライド3.37gをいれ常温下で5分間攪拌することにより透明均一な有機溶剤溶液(1−8)を得た。次に有機溶媒溶液(1−8)を窒素気流下で攪拌しつつ50℃まで2℃/分の昇温速度で加温を行いこの温度状態を保持したまま150rpmの回転速度で1時間攪拌して予備重合反応をおこなった。この状態では、合成反応物と見られる析出物は発生しなかった。この状態で0.1gの液をサンプリングして、後述(測定1)の方法で分子量分布を測定したところ、有機溶剤溶液(1−1)は分子量約1100にピークを持つオリゴマー(繰り返し単位換算でn=約3)となっていることが解った。次に実施例5と同様なアルミン酸ナトリウム水溶液を用い、実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことで白色の有機無機複合体を得た。
【0073】
(参考例)
参考例1〜8は実施例1〜8で合成した有機無機複合体と同様な成分を持ち、予備重合反応処理を行わなかった場合に相当する。
【0074】
(参考例1)
実施例1の有機溶剤溶液(1−1)でトリエチルアミンによる予備重合反応処理を行わない状態で保持した有機溶剤溶液(1−H1)を調製した。この状態で0.1gの液をサンプリングして、後述(測定1)の方法で分子量分布を測定したところ、オリゴマー成分を検出することができなかった。次に実施例1と同様な水溶液(2−1)と同様な水溶液を調製したのち、脱酸剤の不足を補うために25質量%水酸化ナトリウム水溶液0.529gを添加した水溶液(2−H1)を調製した。これらの原料溶液を用いた以外は実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
【0075】
(参考例2)
参考例1と同様な予備重合反応を行っていない有機溶剤溶液(1−H2)を調製した。次に実施例2と同様な水溶液(2−2)と同様な水溶液を調製したのち、脱酸剤の不足を補うために25質量%水酸化ナトリウム水溶液0.529gを添加した水溶液(2−H2)を調製した。これらの原料溶液を用いた以外は実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
【0076】
(参考例3)
参考例1と同様な予備重合反応を行っていない有機溶剤溶液(1−H3)を調製した。次に実施例3の有機溶剤溶液(2−3)と同様な水溶液を調製したのち、脱酸剤の不足を補うために25質量%水酸化ナトリウム水溶液0.529gを添加した水溶液(2−H3)を調製した。これらの原料溶液を用いた以外は実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
【0077】
(参考例4)
実施例4有機溶剤溶液(1−1)でトリエチルアミンによる予備重合反応処理を行わない状態で保持した有機溶剤溶液(1−H4)を調製した。この状態で0.1gの液をサンプリングして、後述(測定1)の方法で分子量分布を測定したところ、オリゴマー成分を検出することができなかった。次に、参考例1と同様な組成である水溶液(2−H4)を調製した。これらの原料溶液を用いた以外は実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、黄色の有機無機複合体を得た。
【0078】
(参考例5)
実施例5と同様な有機溶剤溶液を調製し加熱による予備重合反応を行わない状態で保持した有機溶剤溶液(1−H5)を調製した。この状態で0.1gの液をサンプリングして、後述(測定1)の方法で分子量分布を測定したところ、オリゴマー成分を検出することができなかった。これ以外は実施例5と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
【0079】
(参考例6)
実施例6と同様な有機溶剤溶液を調製し加熱による予備重合反応を行わない状態で保持した有機溶剤溶液(1−H6)を調製した。これ以外は実施例6と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
【0080】
(参考例7)
実施例7の有機溶剤溶液(1−7)でトリエチルアミンによる予備重合反応処理を行わない状態で保持した有機溶剤溶液(1−H7)を調製した。この状態で0.1gの液をサンプリングして、後述(測定1)の方法で分子量分布を測定したところ、オリゴマー成分を検出することができなかった。次に実施例1と同様な水溶液(2−7)と同様な水溶液を調製したのち、脱酸剤の不足を補うために25質量%水酸化ナトリウム水溶液0.529gを添加した水溶液(2−H7)を調製した。これらの原料溶液を用いた以外は実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
【0081】
(参考例8)
実施例8と同様な有機溶剤溶液を調製し加熱による予備重合反応を行わない状態で保持した有機溶剤溶液(1−H8)を調製した。この状態で0.1gの液をサンプリングして、後述(測定1)の方法で分子量分布を測定したところ、オリゴマー成分を検出することができなかった。これ以外は実施例6と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
【0082】
(比較例)
比較例1、2は実施例1、2で合成した有機無機複合体と同様な成分を持つ複合体を溶融混練法により作製したものである。
【0083】
(比較例1)
樹脂溶融混練装置である、ラボプラストミルCタイプ、ミキサー部分KF−6((株)東洋精機製作所)を用いて以下の条件で溶融混練法により酸化アルミニウム微粒子とポリエステル樹脂を複合化した有機無機複合体を得た。加熱温度330℃、ミキサー回転数150rpm、混練時間10分、混合試験物:ポリマー成分としてビスフェノールA型芳香族ポリエステル(ポリアリレート)であるユニチカ“U−ポリマー U−100”3.75g、無機微粒子成分として平均粒径13nmの酸化アルミニウム(アルミナ)微粒子である日本アエロジェル製“AEROXIDE AluC”1.25gを用いた。尚、ポリエステルペレットとアルミナ微粒子をドライブレンドして溶融混練装置に仕込んだがアルミナ微粒子の帯電による容器への付着により溶融混練装置への導入がやや困難であった。この傾向は以下の比較例2においても同様であった。
【0084】
(比較例2)
比較例1で用いたアルミナ微粒子を、平均粒径が12nmの二酸化ケイ素(シリカ)微粒子である日本アエロジェル製“AEROSIL 200”1.25gに変更した以外は比較例1と同様な溶融混練法によりアシリカとポリエステル樹脂との有機無機複合体を得た。
尚、酸化ジルコニウムについては今回比較例に用いたのと同様な粒径領域のナノ粒子を入手することができなかった。
【0085】
上記各実施例、参考例及び比較例で得られた有機無機複合体について以下の項目の測定、試験を行なった。
【0086】
(測定1)
有機溶剤溶液(1)中材料のオリゴマーの分子量測定
実施例1、4、5、7、8で水溶液(2)を混合する直前に採取した0.1gの有機溶剤溶液(1)をN−N−ジメチルアセトアミド30gで希釈した。これを分子量分布測定装置(GPC)である日本ウオーターズTYPE2487及び2414検出器にN−N−ジメチルアセトアミドを溶媒として導入することによりポリスチレン換算分子量分布の測定を行った。同様な測定は前記実施例に対応し、予備重合反応を行わなかった比較例1、4、5、7、8でも同様な測定をおこなった。
【0087】
(測定2)無機化合物の含有率の測定
全ての実施例、参考例、比較例で作製した有機無機複合体を絶乾後に精秤(複合体質量)し、これを空気中、600℃で1時間焼成しポリマー成分を完全に焼失させ、焼成後の質量を測定し灰分質量とした。下式により灰分含有率を算出した。各実施例、参考例、比較例とも本値を無機含有率(質量%)とした。
【0088】
【数1】

【0089】
(測定3)蛍光X線による無機成分の検証及び残存アルカリ金属量の測定
全ての実施例、参考例で得られた有機無機複合体粉末約1gを開口部が直径10mmの測定用ホルダ−にセットし測定用試料とした。該試料を理化学電気工業株式会社製蛍光X線分析装置「ZSX100e」を用いて全元素分析を行った。
得られた全元素分析の結果を用い、測定用試料の試料データ(与えたデータは、試料形状;粉末、補正成分;セルロース、実測した試料の面積当たりの質量値)を装置に与えることにより、FP法(Fundamental Parameter法;試料の均一性、表面平滑性を仮定し装置内の定数を用いて補正を行い成分の定量を行う方法)にて該複合体中の元素存在割合を算出した。
【0090】
いずれの実施例で得られた試料でも、複合化する目的の無機化合物の元素(珪酸ナトリウムの場合がケイ素、アルミン酸ナトリウムの場合はアルミニウム、炭酸ジルコニウムカリウムの場合はジルコニウム)が大量に検出され、目的とする無機化合物の複合化がされていることが示された。
また、各実施例及び参考例では無機原料中のアルカリ金属(珪酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウムの場合はナトリウム、炭酸ジルコニウムカリウムの場合はカリウム)は検出限界以下か、検出されたとしても極僅かであった。従って、無機化合物微粒子の測定方法で得られた灰分はアルカリ金属を実質的に含有しておらず、本発明では金属化合物(c−1)、又は珪酸アルカリ(c−2)からのアルカリ金属除去及び固体化反応が予測された反応機構の通り行われていることが明らかとなった。
【0091】
(測定4)有機ポリマーの検証
(フ−リエ変換型赤外分光分析:FT−IRの測定)
得られた有機無機複合体の粉末をKBr粉末と混合粉砕した試料を作製しKBrディスク法により、FT−IR(日本分光(株)製FT/IR−550)による測定を行った。
参照用のサンプルとして、実施例1〜3、5、6ではビスフェノールA型の芳香族ポリエステル(ポリアリレート)であるユニチカ“U−ポリマー U−100”を粉砕して用いた。また実施例4では3,3’−5,5’−テトラメチルビフェノール(テトラメチルビフェノール)型の芳香族ポリエステル(ポリアリレ−ト)であるDIC株式会社製“N−80”を粉砕して用いた。一方、実施例7,8のポリ酸無水物を有機成分に持つ複合体では適当な参照物質がなく、IRデーター自身を解析した。
【0092】
その結果、実施例1〜6のポリエステルを有機成分に持つ複合体では、いずれも参照サンプルと同一のピ−ク位置に、殆ど同様なピ−ク強度を持つIRスペクトルデ−タ−が得られた。この結果、いずれの実施例でも有機ポリマーの合成が良好に行われていることが示された。また、実施例7、8では1800cm−1の位置にポリ酸無水物特有の強いピークがみられ酸無水結合が生成していることが確認できた。
【0093】
(測定5)無機微粒子平均粒径の測定
各実施例、参考例、比較例で得られた有機無機複合体を250℃、20MPa/cmの条件で2時間熱プレスを行い、厚さ約1mmの有機無機複合体からなる薄片を得た。これを収束イオンビーム装置を用いて厚さ75nmの超薄切片とした。得られた切片を透過型電子顕微鏡(TEM)「JEM−2010EFE」(日本電子株式会社製)を用いて、各々50万倍で観察を行った。この観察により暗色に見える無機微粒子100個の粒径を測定し、その平均値を無機微粒子平均粒径とした。
【0094】
以下、表1に各実施例での原料溶液中に溶解させた化合物、予備重合法及び合成系での2液の状態について記した。尚、表1の有機溶剤溶液(1)の欄の上段は酸ハライド、下段は化合物(a)である。また、参考例1〜8は下記表1の予備重合を行わない状態での同一番号の実施例と同一である。
【0095】
【表1】

【0096】
以下の表2に各実施例で得られた有機無機複合体の(測定2)から得られた無機含有率及び、(測定5)から得た無機微粒子の平均粒径を記した。
【0097】
【表2】


【0098】
以下の表3に各参考例、比較例で得られた有機無機複合体の(測定2)から得られた無機含有率及び、(測定5)から得た無機微粒子の平均粒径を記した。
【0099】
【表3】

【0100】
表1に示した実施例1〜8の結果のとおり、本発明の製造方法により有機ポリマー成分がポリエステルまたはポリ酸無水物であり無機成分の平均粒径が100nm以下である有機無機複合体が安価な無機原料を使用し且つ容易な合成操作により得ることができた。また、無機含有率も17質量%以上と比較的高い上、無機原料由来のアルカリ金属は殆ど残存しなかった。一方、表2に示した予備重合反応を行わなかった参考例1〜8では、対応する実施例にくらべ粒子径が大きく最少でも140nmに留まった。また、同表に示した比較例1,2(溶融混練による作製)では粒径が10nm台のナノ粒子を用いたにもかかわらず、溶融混練工程で無機微粒子が凝集粗大化し1000nm以下の微粒径での複合化ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明で得られた有機無機複合体は成形等の処理で加工が可能であり構造材料や耐熱材料として用いることができる。また、得られた有機無機複合体を他の樹脂に溶融混練、添加することにより、該樹脂に対して無機化合物による強度、弾性率、耐衝撃性、ガスバリア性、電子伝導性、帯電防止特性等の性質を付与できる。本発明で得られた有機無機複合体は無機粒径が小さいために特に無機成分の導入を目的とした添加剤としての機能が優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価フェノ−ル化合物及びジカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1つの化合物(a)と、酸ハライド(b)とを含有する有機溶剤溶液(1)と、
金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれ少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)又は珪酸アルカリ(c−2)を含有する水溶液(2)を、
前記有機溶剤溶液(1)中の前記化合物(a)と前記酸ハライド(b)の一部を予め予備重合反応させた状態で、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)の少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させて、前記化合物(a)のアルカリ金属塩を生成させ、更に該アルカリ金属塩を前記酸ハライド(b)とを反応させることを特徴とする有機無機複合体の製造方法。
【請求項2】
前記予備重合反応を、前記有機溶剤溶液(1)を加温することにより、あるいは有機溶剤溶液(1)中へ脱酸剤を添加することにより行う、請求項1に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項3】
前記金属化合物(c−1)がアルミン酸アルカリ、スズ酸アルカリ、亜鉛酸アルカリ又は炭酸ジルコニウムアルカリである、請求項1又は2に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの製造方法により得た、無機微粒子の平均粒径が100nm以下である有機無機複合体。

【公開番号】特開2009−280700(P2009−280700A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134160(P2008−134160)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】