説明

有機物処理方法及び有機物処理装置

【課題】電子デバイス製造工場、その他各種の分野から排出される、硬度成分を多量に含有した有機物含有排水を、イオン交換樹脂塔を用いることなく硬度成分を低減した後に、RO膜分離装置を用いて有機物を低減することにより、回収システム系内で起こるバイオファウリングの抑制、並びにRO膜のフラックス低下を防止して、長期にわたり安定な処理を行うと同時に、水中TOC濃度を効率的に低減して高水質の処理水を得る。
【解決手段】有機物含有水に殺菌剤を添加した後、硬度成分除去機能及び耐酸化性を有する第1RO膜分離装置2に通水し、第1RO処理水にアルカリを添加してpHを9.5以上とした後、活性炭塔4で残存する殺菌剤を除去し、次いで第2RO膜分離装置5に通水して処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物含有水を逆浸透膜(RO膜)分離装置に通水することにより該水中の有機物を除去する有機物処理方法及び有機物処理装置に関する。詳しくは、電子デバイス製造工場等から排出される高濃度TOCないし低濃度TOC含有排水を、RO膜分離装置を用いて処理して処理水を回収する際、回収システムにおけるバイオファウリング並びにRO膜における有機物閉塞による透過流束(フラックス)低下を防止して、長期にわたり安定な処理を行うと同時に、水中TOC濃度を効率的に低減して高水質の処理水を得ることができる有機物含有排水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境基準・水質基準は厳しくなる傾向にあり、放流水についても高度に浄化することが望まれている。一方で、水不足解消の目的から、各種の排水を回収して再利用するためにも、高度な水処理が望まれている。
【0003】
このような状況において、RO膜分離処理は、水中の不純物(イオン類,有機物,微粒子など)を効果的に除去することが可能であることから、近年、多くの分野で使用されるようになってきた。例えば、半導体製造プロセスから排出されるアセトン,イソプロピルアルコールなどを含む有機物含有排水を回収して再利用する場合、これをまず生物処理してTOC成分を十分に除去した後にRO膜処理して浄化する方法が広く採用されている(例えば、特開2002−336886号公報)。
【0004】
しかしながら、近年、生物処理排水をRO膜分離装置に通水した場合、微生物の有機物分解により生成される生物代謝物により、RO膜分離装置の膜面が閉塞し、フラックスが低下するという問題が顕在化し始めるようになってきた。
【0005】
一方、生物処理を行わずに、有機物含有排水を直接、RO膜分離装置に通水すると、RO膜分離装置に流入するTOC濃度が高いため、RO膜分離装置内では微生物が繁殖しやすい環境となる。
そこで、RO膜分離装置内でのバイオファウリングを抑制する目的から、通常はスライムコントロール剤を多量に添加することが行われているが、スライムコントロール剤は高価であるため、より安価なバイオファウリング抑制方法が求められている。
また、電子デバイス製造工場排水からは、RO膜分離装置の膜面に付着してフラックスを低下させる恐れのある非イオン性界面活性剤が混入する場合があるため、このような非イオン性界面活性剤含有排水にはRO膜処理を適用することはできなかった。
【0006】
生物処理排水のような有機物含有水を、RO膜処理する際に発生する問題を改善するために、有機物含有水にスケール分散剤を、原水カルシウム濃度の5倍量以上添加し、pHを9.5以上に調整した後、RO膜処理することにより、RO膜のフラックスの低下を低減し、処理水の安定供給を可能とするシステムが提案されている(特開2006−181397号公報)。
【0007】
このシステムにおいては、原水中に硬度成分が多量に(例えば全硬度で10mg/L以上)存在する場合は、RO膜分離装置の前段に硬度除去手段としてイオン交換樹脂塔(例えば、カチオン交換樹脂塔、軟化塔)を設置する必要があるが、この場合、上記システムの原水中には有機物が存在するため、イオン交換樹脂塔内でスライムが繁殖しやすい状況となってしまう。しかも、塔内から剥離するバイオフィルムにより、後段に設置されるRO保安フィルター又はRO膜が閉塞するという問題が起こる。そのため、イオン交換樹脂塔の前段で殺菌処理が必要となるが、イオン交換樹脂塔の前段で殺菌剤を添加すると、イオン交換樹脂が殺菌剤により樹脂劣化を起こす可能性があることから殺菌剤を添加することができない。
【0008】
このようなことから、上記システムでは、RO膜分離装置の前段で原水中の硬度成分を除去することが困難であった。
【特許文献1】特開2002−336886号公報
【特許文献2】特開2006−181397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点を解決し、例えば電子デバイス製造工場、その他各種の分野から排出される、硬度成分を多量に(例えば全硬度で10〜20mg/L)含有した有機物含有排水を、イオン交換樹脂塔を用いることなく硬度成分を低減した後に、RO膜分離装置を用いて有機物を低減することにより、回収システム系内で起こるスライム繁殖(バイオファウリング)の抑制、並びにRO膜のフラックス低下を防止して、長期にわたり安定な処理を行うと同時に、水中TOC濃度を効率的に低減して高水質の処理水を得る方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、有機物含有水中の硬度成分の除去方法について鋭意検討した結果、有機物含有水に殺菌剤を添加した後、硬度成分除去機能を有する耐酸化性のRO膜で処理することにより、硬度成分を効率的に除去することができ、この処理水をpH9.5以上のアルカリ性とし、また残存する殺菌剤を除去した後にRO膜で処理することにより、この後段のRO膜で有機物を効率的に除去することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明の有機物処理方法は、有機物含有水をRO膜分離装置に通水することにより該水中の有機物を除去する有機物処理方法において、有機物含有水に殺菌剤を添加する殺菌剤添加工程と、該殺菌剤添加工程を経た処理水を、硬度成分除去機能及び耐酸化性を有する第一のRO膜分離装置に通水する第一のRO膜処理工程と、該第一のRO膜処理工程を経た処理水にアルカリを添加してpHを9.5以上にするアルカリ添加工程と、該アルカリ添加工程を経た処理水中に残存する殺菌剤を除去する殺菌剤除去工程と、該殺菌剤除去工程を経た処理水をRO膜処理する第二のRO膜処理工程とを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の有機物処理装置は、有機物含有水をRO膜分離装置に通水することにより該水中の有機物を除去する有機物処理装置において、有機物含有水に殺菌剤を添加する殺菌剤添加手段と、該殺菌剤添加手段の処理水が通水される、硬度成分除去機能及び耐酸化性を有する第一のRO膜分離装置と、該第一のRO膜分離装置の処理水にアルカリを添加してpHを9.5以上にするアルカリ添加手段と、該アルカリ添加手段の処理水中に残存する殺菌剤を除去する殺菌剤除去手段と、該殺菌剤除去手段の処理水が通水される第二のRO膜分離装置とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明では、有機物含有水(原水)に殺菌剤を添加して、硬度成分除去機能を有する酸化性の第一のRO膜で、まず、原水中の硬度成分を除去する。一般的に、耐酸化性を示すRO膜、例えば、酢酸セルロース膜はカルシウム、マグネシウム等のスケール要因物質に対する除去性は高いが、有機物等の除去率は耐酸化性を示さないRO膜、例えば、ポリアミド系RO膜に比べて極端に低い。従って、本発明において、第一のRO膜により、原水中の硬度成分は排除されるものの、第一のRO膜の処理水(透過水、以下、「第1RO処理水」と称す場合がある。)中には、有機物が多量に存在することとなり、後段装置におけるスライム汚染を招く可能性がある。そこで、本発明では、第1RO処理水に水酸化ナトリウム等のアルカリ剤を添加してpH9.5以上に調整する。ここでpHを9.5以上に調整する理由は以下の通りである。
すなわち、微生物はアルカリ性域では生息することができない。そのため、pHを9.5以上に調整することによりN、P、微量金属、有機物等の栄養源は水中に存在するが、微生物は生息できない環境を作り出すことが可能となる。このため、pH9.5以上の水が通水される第二のRO膜等の後段装置におけるバイオファウリングは防止される。
また、RO膜のフラックスを低下させる恐れのある非イオン性界面活性剤はアルカリ性領域では膜面から脱着することが知られており、pHを9.5以上にすることによりこれらの成分の膜面への付着を抑制することが可能となる。
【0014】
なお、第1RO処理水中に残留する殺菌剤は、第二のRO膜の前段で除去するため、このRO膜の殺菌剤による劣化は防止される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電子デバイス製造工場、その他各種の分野から排出される、硬度成分を多量に、例えば全硬度で10〜20mg/L程度含有する有機物含有排水を、イオン交換樹脂塔を用いることなく硬度成分量を低減した後に、RO膜分離装置を用いて有機物を低減することにより、回収システム系内で起こるスライム繁殖(バイオファウリング)の抑制、並びにRO膜のフラックス低下を防止して、長期にわたり安定な処理を行うと同時に、水中TOC濃度を効率的に低減して高水質の処理水を得ることができる(請求項1,6)。
【0016】
本発明において、第一のRO膜処理におけるpH条件は、RO膜の加水分解による劣化を抑制すると共に、膜面におけるスケール生成を抑制する点、また、後述の図2に示す如く、カチオンの除去性の点からも、pH4〜6、特にpH4.5〜5程度が好ましい。従って、第一のRO膜処理に先立ち、原水にpH調整剤を添加してpHを4〜6に調整することが好ましい(請求項2,7)。
【0017】
また、原水への殺菌剤の添加した後、原水中の懸濁物質を除去することが好ましい(請求項3,8)。
【0018】
また、本発明で用いる第一のRO膜としては、耐殺菌剤性を有するものであれば特に限定はしないが、耐酸化性並びに耐汚染性に優れた酢酸セルロース膜を用いるのが、長期運転安定性の観点から好ましい(請求項4,9)。
【0019】
また、本発明においては、第1RO処理水に、水中のカルシウムイオンの5重量倍以上のスケール防止剤を添加して、第二のRO膜に通水することが好ましい(請求項5,10)。
即ち、原水中の硬度成分濃度が高い場合(例えば、全硬度が20mg/L以上の場合)、第一のRO膜による硬度成分除去が不十分となり、第1RO処理水中に硬度成分(特にカルシウム)が多く残留する場合がある。第二のRO膜に通水される第1RO処理水中の硬度成分濃度が全硬度で5mg/L以上であると、後段でスケール障害を引き起こすことがあるので、このような場合にはスケール分散剤を添加することが好ましい。
ここで、第二のRO膜に通水される水中のカルシウムイオンの5重量倍以上のスケール防止剤を添加する理由は以下の通りである。
即ち、本発明では、第1RO処理水にアルカリを添加してpH9.5以上とするため、第二のRO膜に通水される水のpHは9.5以上となるが、そのような高pHのRO運転条件では極微量のカルシウムイオンの混入でも炭酸カルシウムなどのスケールが生成し、RO膜が直ちに閉塞してしまう。従って、このようなスケールによる膜面閉塞を抑制する目的からスケール防止剤を添加するのであるが、このスケール防止剤添加量がカルシウムイオン濃度の5倍量未満ではその添加効果は十分でないため、カルシウムイオン濃度の5倍量以上とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に図面を参照して本発明の有機物処理方法及び有機物処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の有機物処理方法及び有機物処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【0021】
図1においては、原水タンク1内の有機物含有水(原水)に、殺菌剤及びpH調整剤を添加した後、第1RO膜分離装置2に通水する。
【0022】
ここで、原水に添加する殺菌剤としては、次亜塩素酸(HClO)、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)、次亜塩素酸カリウム(KClO)、二酸化塩素(ClO)等の塩素系殺菌剤を好適に用いることができる。
これらの殺菌剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
殺菌剤の添加量は、原水の水質にもよるが、通常、後段の第1RO膜分離装置2の処理水中に残留する遊離塩素濃度が0.3〜1mg−Cl/L程度となるように添加するのが好ましい。
【0023】
また、後述の実験例で示されるように、第1RO膜分離装置2における硬度成分除去率は、第1RO膜分離装置2に通水される水(以下「第1RO給水」と称す場合がある。)のpHが4〜6、特に4.5〜5程度である場合に良好な結果が得られることから、原水には、必要に応じて、酸又はアルカリ等のpH調整剤を添加して、pH4〜6、好ましくはpH4.5〜5に調整する。
【0024】
なお、殺菌剤及びpH調整剤は、どちらを先に添加しても良く、両者を同時に原水に添加しても良い。
【0025】
図1においては、後段の第2RO膜分離装置5の濃縮水が、原水タンク1に返送されて循環処理される。このように、比較的水質の良好な第2RO膜分離装置5の濃縮水を循環処理することにより、水回収率を高めることができる。
【0026】
原水タンク1でpH調整剤及び殺菌剤が添加された水は、第1RO膜分離装置2でRO膜処理され、濃縮水は系外へ排出され、透過水(第1RO処理水)は、処理水タンク3に送給される。
【0027】
本発明においては、この第1RO膜分離装置2のRO膜としては、硬度成分除去機能を有し、かつ耐酸化性の膜を用いる。このRO膜としては特に制限はないが、耐酸化性、耐汚染性に優れることから、酢酸セルロース膜を用いることが好ましい。
【0028】
この第1RO膜分離装置2では、硬度成分除去機能を有するRO膜により、原水中の硬度成分(カルシウム及びマグネシウム)が除去される。
【0029】
第1RO処理水は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリが添加されてpH9.5以上に調整された後、処理水タンク3を経て、活性炭塔4及び第2RO膜分離装置5に順次通水される。
ここで、活性炭塔4及び第2RO膜分離装置5に通水される水(以下「第2RO給水」と称す場合がある。)のpHが9.5よりも低いと、活性炭塔4、第2RO膜分離装置5等でのバイオファウリングを防止し得ない。従って、第1RO処理水はアルカリの添加によりpH9.5以上、好ましくはpH10.5〜11に調整される。
【0030】
活性炭塔4では、第1RO処理水中に残留する殺菌剤が分解除去される。
なお、本発明において、殺菌剤除去手段としては殺菌剤を除去できるものであれば特に限定されず、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)等の還元剤の添加、あるいは活性炭、活性炭フィルター等を用いることができる。
【0031】
活性炭塔4で使用される活性炭種としては石炭系、椰子殻系など殺菌剤を除去できるものであれば何でも良く特に限定はしない。また、通水方法も上向流、下向流どちらでもよく、通水SVも特に限定するものでないが、好ましくは1〜40hr−1で通水する。
【0032】
活性炭塔4で残留殺菌剤が除去された水は、pH9.5以上の条件で第2RO膜分離装置5に通水されることにより、TOCが除去される。
この第2RO膜分離装置5のRO膜としては、ポリエーテルアミド複合膜、ポリビニルアルコール複合膜、芳香族ポリアミド膜などの耐アルカリ性に優れるものであれば良く、特に限定されない。
【0033】
第2RO膜分離装置5の濃縮水は原水タンク1に循環され、透過水(以下「第2RO処理水」と称す場合がある。)は、通常、酸を添加してpH4〜8に調整し、必要に応じて更に活性炭処理等を施した後、再利用又は放流される。ここで使用する酸としては、特に制限はなく、塩酸、硫酸などの鉱酸が挙げられる。
【0034】
図1に示すように、原水に殺菌剤を添加すると共にpH4〜6にpH調整して第1RO膜分離装置2で処理し、次いで、pH9.5以上に調整した後、活性炭処理及びRO膜分離処理することにより、第2RO膜分離装置5におけるフラックスの低下を引き起こすことなく、また、活性炭塔4及びRO膜分離装置5のバイオファウリングを防止して、長期に亘り安定な処理を行って、TOCが高度に除去された高水質処理水を得ることができる。
【0035】
なお、図1は、本発明の実施の形態の一例を示すものであって、本発明はその要旨を超えない限り、何ら図示のものに限定されるものではない。
例えば、原水中の懸濁物質濃度が高い場合には、原水に殺菌剤を添加した後、凝集濾過処理等により、原水中の懸濁物質を除去することが好ましい。この場合、凝集濾過手段としては、圧力濾過、重力濾過、精密濾過、限外濾過、加圧浮上、沈殿など、原水中に含まれる懸濁物質を除去できるのであれば特に限定しない。
【0036】
また、第1RO処理水に、スケール防止剤を添加した後第2RO膜分離装置5に通水しても良く、この場合、用いるスケール防止剤としては、アルカリ領域で解離して錯体を形成しやすいエチレンジアミン四酢酸(EDTA)やニトリロ三酢酸(NTA)などのキレート系スケール防止剤が好適に用いられるが、その他、(メタ)アクリル酸重合体及びその塩、マレイン酸重合体及びその塩などの低分子量ポリマー、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸及びその塩、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸及びその塩、ニトリロトリメチレンホスホン酸及びその塩、ホスホノブタントリカルボン酸及びその塩などのホスホン酸及びホスホン酸塩、ヘキサメタリン酸及びその塩、トリポリリン酸及びその塩などの無機重合リン酸及び無機重合リン酸塩などを使用することができる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0037】
また、スケール防止剤の添加位置は第1RO膜分離装置2の後段であれば特に限定はしないが、殺菌剤除去手段として活性炭を用いる場合では、スケール防止剤が活性炭に吸着して、第2RO膜分離装置5におけるスケール分散効果が低下する恐れがあることから、殺菌剤除去手段の後段でスケール防止剤を添加することが好ましい。
【0038】
第1RO処理水にスケール防止剤を添加する場合、スケール防止剤の添加量は、水中のカルシウムイオンに対して5重量倍以上、特に5〜50重量倍とすることが好ましい。スケール防止剤の添加量が少な過ぎると十分な添加効果が得られず、多過ぎる薬品コストに見合う効果は期待できない。
【0039】
このような本発明の有機物処理方法及び有機物処理装置は、硬度成分を多量に含む水、例えば硬度成分濃度が全硬度で10〜20mg/Lで、また、有機物を含有するため系内でのバイオファウリングが起こり易い総合排水等の処理に好適である。
【実施例】
【0040】
以下に実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0041】
<実験例1>
本発明において、第一のRO膜として好適に用いられる酢酸セルロース膜の好適pH条件を調べるために、後述の実施例1と同様にして処理して得られた凝集濾過処理水に、塩酸(HCl)又は水酸化ナトリウム(NaOH)を添加して、pH4〜8の範囲で異なるpHに調整して、実施例1と同様に、酢酸セルロース膜が装填されたRO膜分離装置に80L/hr、回収率75%で通水したときの、マグネシウム(Mg)及びナトリウム(Na)の除去率を調べ、pHとの関係を図2に示した。
図2より、酢酸セルロース膜によるRO膜処理では、給水pH4〜6、特にpH4.5〜5で運転することにより、優れた硬度成分除去率を達成することができることが分かる。なお、ここではマグネシウム除去率だけを例に挙げたが、第一のRO膜における硬度除去率はマグネシウムもカルシウムも同等である。
【0042】
<実施例1>
TOC濃度10mg/L、カルシウム濃度5mg/Lの排水に、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を遊離塩素として0.5mg−Cl/Lとなるよう添加した後、ポリ塩化アルミニウム(PAC)添加量20mg/L、pH6.5の条件で濾過器に通水して凝集濾過処理を行った。この凝集濾過処理水に塩酸(HCl)を添加してpH5に調整した後、酢酸セルロース膜が装填された第1RO膜分離装置に80L/hr、回収率75%の条件で通水した。この第1RO処理水からは遊離塩素0.5mg−Cl/L検出された。この第1RO処理水に水酸化ナトリウム(NaOH)を添加してpH10とした後、活性炭塔にSV20hr−1の条件で通水した。活性炭処理水は次いでポリアミド膜が装填された第2RO膜分離装置に60L/hr、回収率92%の条件(第2RO給水のpHは9.5)で通水した。なお、第1RO膜分離装置の前段には保安フィルターを設けた。
【0043】
<比較例1>
実施例1と同様に排水にNaClOを添加した後、同様に濾過器に通水して凝集濾過処理を行って得られた凝集濾過処理水を、活性炭塔にSV20hr−1の条件で通水して脱殺菌剤処理を行った後、軟化塔にSV16hr−1の条件で通水して脱カルシウム処理を施した。この軟化塔処理水にNaOHを添加してpHを9.5とした後、ポリアミド膜が充填されたRO膜分離装置に73L/hr、回収率75%の条件で通水した。なお、RO膜分離装置の前段には保安フィルターを設けた。
【0044】
<比較例2,3>
実施例1において、第1RO処理水pHを6(比較例2)、又は8.5(比較例3)に調整したこと、即ち、第2RO給水のpHを6(比較例2)又は8.5(比較例3)としたこと以外は実施例1と同条件で処理を行った。
【0045】
<生菌数>
実施例1及び比較例1〜3の処理における、各ポイントでの生菌数を調べ、結果を表1に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1より次のことが明らかである。
実施例1においては、全測定ポイントにおいて生菌数が観測されないのに対し、比較例1においては活性炭塔処理水で10個/ml、軟化塔処理水で10個/mlとスライムが繁殖している。また、比較例2,3においては第2RO膜処理工程以降で10個/ml程度の生菌が観測されており、脱殺菌剤処理手段としての活性炭塔がスライム繁殖の温床となっていることが明らかとなった。
【0048】
<保安フィルターの差圧>
実施例1の処理において、第1RO膜分離装置の前段に設けた保安フィルターと、比較例1の処理において、RO膜分離装置の前段に設けた保安フィルターの差圧の経日変化を調べ、結果を図3に示した。
図3より明らかなように、実施例1においては保安フィルターの差圧上昇は観測されていない。
一方、比較例1では通水7日で差圧が約0.2MPaに到達しており、保安フィルター交換頻度は1回/週と頻繁に交換しなければならない状況であった。また、閉塞した保安フィルターからはスライムの付着が観測された。
【0049】
<第2RO膜の差圧>
実施例1及び比較例2,3の処理における第2RO膜分離装置のRO膜の差圧の経日変化を調べ、結果を図4に示した。
図4より明らかなように、実施例1においては第2RO膜の差圧上昇は観測されていない。一方、比較例2,3においては通水1ヶ月で0.3MPa程度の差圧が生じた。
【0050】
<処理水質>
実施例1及び比較例1〜3で得られた処理水の水質(TOC)は、表2に示す通りであった。
【0051】
【表2】

【0052】
表2より、処理水の水質については、実施例1と比較例1〜3で大きな差異はないことが分かる。
【0053】
<考察>
以上の結果から、本発明によれば、硬度成分を多量に含む有機物含有排水であっても、イオン交換樹脂塔を用いることなく硬度成分を低減した後に、RO膜分離装置を用いて有機物を低減することにより、回収システム系内で起こるスライム繁殖(バイオファウリング)の抑制、並びにRO膜のフラックス低下を防止して、長期にわたり安定な処理を行うと同時に、水中TOC濃度を効率的に低減して高水質の処理水を得ることができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の有機物処理方法及び有機物処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】実験例1の第1RO給水のpHとMg,Na除去率との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1と比較例1の保安フィルターの差圧の経日変化を示すグラフである。
【図4】実施例1と比較例2,3の第2RO膜の差圧の経日変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1 原水タンク
2 第1RO膜分離装置
3 処理水タンク
4 活性炭塔
5 第2RO膜分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物含有水をRO膜分離装置に通水することにより該水中の有機物を除去する有機物処理方法において、
有機物含有水に殺菌剤を添加する殺菌剤添加工程と、
該殺菌剤添加工程を経た処理水を、硬度成分除去機能及び耐酸化性を有する第一のRO膜分離装置に通水する第一のRO膜処理工程と、
該第一のRO膜処理工程を経た処理水にアルカリを添加してpHを9.5以上にするアルカリ添加工程と、
該アルカリ添加工程を経た処理水中に残存する殺菌剤を除去する殺菌剤除去工程と、
該殺菌剤除去工程を経た処理水をRO膜処理する第二のRO膜処理工程と
を有することを特徴とする有機物処理方法。
【請求項2】
請求項1において、第一のRO膜処理工程の前段に、有機物含有水にpH調整剤を添加してpHを4〜6に調整するpH調整工程を有することを特徴とする有機物処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、殺菌剤添加工程の後段に、有機物含有水中の懸濁物質を除去する懸濁物質除去工程を有することを特徴とする有機物処理方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、第一のRO膜分離装置のRO膜が酢酸セルロース膜であることを特徴とする有機物処理方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、第一のRO膜処理工程を経た処理水に、該処理水中のカルシウムイオンの5重量倍以上のスケール防止剤を添加するスケール防止剤添加工程を有し、スケール防止剤が添加された水が第二のRO膜処理工程で処理されることを特徴とする有機物処理方法。
【請求項6】
有機物含有水をRO膜分離装置に通水することにより該水中の有機物を除去する有機物処理装置において、
有機物含有水に殺菌剤を添加する殺菌剤添加手段と、
該殺菌剤添加手段の処理水が通水される、硬度成分除去機能及び耐酸化性を有する第一のRO膜分離装置と、
該第一のRO膜分離装置の処理水にアルカリを添加してpHを9.5以上にするアルカリ添加手段と、
該アルカリ添加手段の処理水中に残存する殺菌剤を除去する殺菌剤除去手段と、
該殺菌剤除去手段の処理水が通水される第二のRO膜分離装置と
を有することを特徴とする有機物処理装置。
【請求項7】
請求項6において、第一のRO膜処理手段の前段に、有機物含有水にpH調整剤を添加してpHを4〜6に調整するpH調整手段を有することを特徴とする有機物処理装置。
【請求項8】
請求項6又は7において、殺菌剤添加手段の後段に、有機物含有水中の懸濁物質を除去する懸濁物質除去手段を有することを特徴とする有機物処理装置。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1項において、第一のRO膜分離装置のRO膜が酢酸セルロース膜であることを特徴とする有機物処理装置。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか1項において、第一のRO膜分離装置の処理水に、該処理水中のカルシウムイオンの5重量倍以上のスケール防止剤を添加するスケール防止剤添加手段を有し、スケール防止剤が添加された水が第二のRO膜分離装置で処理されることを特徴とする有機物処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−238051(P2008−238051A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81924(P2007−81924)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】