説明

有機物抽出装置及び有機物抽出方法

【課題】単一の装置で生物学的試料の有機溶媒処理、除去及び乾燥の工程を行うことができ、装置を小規模化することができ、スラリの閉塞等が起こらず作業効率が高く、非加熱で迅速な処理が可能な有機物抽出装置及び有機物抽出方法を提供する。
【解決手段】有機物抽出装置は、脱脂処理槽と、この脱脂処理槽の下方に設けられた濾過乾燥処理槽とを備えている。脱脂処理槽は、供給された被処理物及び供給された有機溶媒を攪拌混合する攪拌混合手段と、攪拌混合手段によって攪拌混合された被処理物及び有機溶媒との混合物から液体成分を除去する液体除去手段とを備えている。濾過乾燥処理槽は、脱脂処理槽から供給された混合物を撹拌する撹拌手段と、攪拌手段によって攪拌された混合物から残留液体成分を除去する濾過手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類等に由来する生物学的試料から脂質と水分とを除去し回収するための有機物抽出装置及びそれを用いた有機物抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動植物等の生物学的試料から、医薬品、ファインケミカル又は食品等の原料や中間体を製造する際は、水分や溶媒に懸濁したスラリ状の試料から、濾過、乾燥及び回収の各工程を経て行われる。これらの工程について、従来はそれぞれ個別の装置で行われていた。しかしながら、試料を装置間で移す際や回収する際にコンタミが生じ試料の純度が低くなるという問題や、複数装置を含むシステムが複雑化する等の問題があった。
【0003】
特許文献1には、同一装置で濾過、乾燥及び回収の各工程を行うことができる粉体乾燥装置について提案されている。この粉体乾燥装置は、密閉可能な槽本体に、駆動手段により回転及び昇降する攪拌翼を内装した粉体乾燥機において、攪拌翼の背面に、残留粉体を舞い上がらせるための気体を噴射するスプレーノズルを配設するとともに、槽本体内部の気体を吸引し、気体中の粉体を回収する吸引装置を設けた粉体乾燥機が開示されている。槽本体底部には濾布が設けられ、スラリ中の液分が濾過されるよう構成されている。濾過乾燥処理槽には加温ジャケットが設けられ、槽内部を減圧し真空状態に近付ける際、加温することで生物学的試料の乾燥を速める工夫がなされている。この装置は、粉体乾燥機にスプレーノズルと吸引装置を設けたことから、攪拌翼からの気体の噴射によって粉体を舞い上がらせ、この舞い上がった粉体を吸引装置により吸引することにより粉体を回収し、これにより、粉体の純度を向上させるとともに、粉体乾燥機の作業性を大幅に改善しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−194462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したごとき従来の技術に基づいて、本発明者らは、魚類等の組織に由来する生物学的試料から、各種の生物学的活性を有する成分の抽出を行うことを試みた。魚類等の動物の組織に由来する生物学的試料は、多くはその成分の蛋白質等の活性を保持するため非加熱で前処理されている。そのため、これらの試料は脂質及び水分を非常に多く含有しているので、目的とする成分の抽出を行うには、脂質と水分を除去し、有機物を抽出する脱脂の工程を経る必要がある。こうした脱脂の工程として一般に行われている方法には、有機溶剤(アセトン、エタノール、クロロホルム等)で処理し乾燥する方法がある。
【0006】
しかしながら、処理の際に有機溶剤を大量に使用するため製造設備に使用する全ての電気設備が耐圧防爆仕様となり、消防法に従った工場設計を行う必要が生じる。耐圧防爆仕様の製造設備は、建物も含め通常仕様設備の1.5〜2倍程度の設備投資額となり、工場建設の大きな障害となっている。乾燥時には、人体や環境に影響の大きい有機溶媒の大気暴露も可能な限り防ぐ必要がある。そのため、脱脂と他の工程を別々の装置で行うと、設備が複雑化又は大規模化する問題がある。試料を装置間で移す際に、純度の低下や人体や環境への問題が生じる可能性もある。
【0007】
そこで本発明者らは、特許文献1の装置を用いて、脱脂の工程を同一装置内で行うことで、設備が複雑化又は大規模化する問題及び試料を装置間で移す際の問題を解決することを試みた。すなわち、この装置の攪拌混合タンクに生物学的試料と有機溶媒とを撹拌混合し、ついで濾材により固体と液体の成分を分離して脂質と水分を除去し、ついで固体を乾燥して有機物を抽出する工程を試みた。
【0008】
しかしながら、生物学的試料と有機溶媒とを撹拌混合する工程において、濾材を生物学的試料に暴露させた状態で一定時間攪拌混合を行うと、脂質特有の非常に粘性の高いスラリが生じることが明らかとなった。このスラリは、濾材に対して付着しこれを閉塞させる。濾材の目開きのサイズを大きくしても、閉塞を避けることができず、濾過の効率を大きく低下させた。この脂質特有のスラリは、攪拌翼や攪拌軸ベロー部等にも付着し、装置の稼働に問題をきたす場合もあり、作業効率が大きく低下することが問題となった。
【0009】
この装置に備えられた加温ジャケットによって加温を行うことで、作業効率が低下した抽出工程の反応を早めることもできるが、生物学的試料は加熱によりタンパク質成分が熱変性してしまう等により、抽出する有機物から本来の機能が失われてしまうといった問題があった。
【0010】
従って本発明の目的は、単一の装置で生物学的試料の有機溶媒処理、除去及び乾燥の工程を行うことができ、装置を小規模化することができる有機物抽出装置及び有機物抽出方法を提供することにある。本発明の別の目的は、スラリの閉塞等が起こらず作業効率が高い有機物抽出装置及び有機物抽出方法を提供することにある。本発明のまた別の目的は、非加熱で迅速な処理が可能な有機物抽出装置及び有機物抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の有機物抽出装置は、脱脂処理槽と、この脱脂処理槽の下方に設けられた濾過乾燥処理槽とを備えている。脱脂処理槽は、供給された被処理物及び供給された有機溶媒を攪拌混合する攪拌混合手段と、攪拌混合手段によって攪拌混合された被処理物及び有機溶媒との混合物から液体成分を除去する液体除去手段とを備えている。濾過乾燥処理槽は、脱脂処理槽から供給された混合物を撹拌する撹拌手段と、攪拌手段によって攪拌された混合物から残留液体成分を除去する濾過手段とを備えている。
【0012】
脱脂処理槽で被処理物となる生物学的試料と有機溶剤との混合を行い、有機溶媒等を除去する脱脂処理を行ってから、混合物を濾過乾燥処理槽に供給し、濾過乾燥処理槽で濾過処理を行う。脱脂処理と濾過処理とを別の処理槽で行うことで、脱脂処理中に生じた粘性の高いスラリが濾過のための濾材に付着し詰まることがない。そのため、濾材の目開きサイズにかかわらず、目詰まりを大きく抑制することができる。単一の装置で生物学的試料の脱脂処理、除去及び乾燥の工程を行うことができるため、装置を小型化することができる。またスラリによる濾材の閉塞等が起こらないため、閉塞によって濾過処理が妨げられることがなく、処理を迅速に行うことができる。処理を迅速にするために過度の加熱を行う必要がないので、目的とする成分の変性や分解を最小限として抽出を行うことができ、目的とする成分の純度及び収率が向上する。しかも、濾材へのスラリの付着等が起こらないので濾材の洗浄や交換等を要さず、濾過処理槽内の部材にスラリが付着することもない。そのためメンテナンスの手間、時間及び費用を要さず、作業効率が高い有機物抽出装置となる。
【0013】
脱脂処理槽の混合手段は、供給された被処理物と供給された有機溶媒とを撹拌する脱脂撹拌手段を備えていることが好ましい。これにより、脱脂処理槽内で生物学的試料と有機溶媒を撹拌でき、脱脂工程を行うことができる。
【0014】
脱脂処理槽は、混合物の濁度を計測するための濁度測定手段を備えていることも好ましい。これにより、濁度が規定値に達していないこと、すなわち有機溶媒に脂肪分を含む粒子が分散しておらず、脱脂が十分に行われていないことを検出でき、攪拌混合を継続する目安とすることが可能となる。
【0015】
脱脂処理槽は、混合物の温度を計測するための温度センサを備えていることが好ましい。脱脂工程において試料温度を計測し、温度上昇を抑制することで、生物学的試料が温度上昇によるタンパク質の変性などにより生物学的活性を喪失することを防ぐことができ、収率や作業効率が高まり、得られる生物学的試料の質が向上する。
【0016】
脱脂処理槽は、混合物を前記濾過乾燥処理槽に供給するために、脱脂処理槽の底部において濾過乾燥処理槽との間に設けられた開口部を備えていることも好ましい。被処理物を開口部から落下させることで被処理物を移動させることができる。
【0017】
脱脂処理槽は、底部が開口部に向かう10〜40°の範囲の傾斜角度で傾斜したテーパ状に形成されていることが好ましい。この傾斜角度範囲とすることにより、機械的手段を設けなくとも被処理物を濾過乾燥処理槽に容易に供給することができる。
【0018】
本発明によれば、さらに、脱脂処理槽において被処理物及び有機溶媒を混合し、得られた混合物から液体成分を除去し、液体成分を除去した混合物を脱脂処理槽に連結されてなる濾過乾燥処理槽に供給し、濾過乾燥処理槽において供給された混合物を撹拌し、ついで残留液体成分を除去する有機物抽出方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、脱脂処理槽で被処理物となる生物学的試料と有機溶剤との混合を行い、有機溶媒等を除去する脱脂処理を行ってから、混合物を濾過乾燥処理槽に供給し、濾過乾燥処理槽で濾過処理を行う。脱脂処理と濾過処理とを別の処理槽で行うことで、脱脂処理中に生じた粘性の高いスラリが濾過のための濾材に付着し詰まることがない。そのため、濾材の目開きサイズにかかわらず、目詰まりを大きく抑制することができる。単一の装置で生物学的試料の脱脂処理、除去及び乾燥の工程を行うことができるため、装置を小型化することができる。またスラリによる濾材の閉塞等が起こらないため、閉塞によって濾過処理が妨げられることがなく、処理を迅速に行うことができる。処理を迅速にするために過度の加熱を行う必要がないので、目的とする成分の変性や分解を最小限として抽出を行うことができ、目的とする成分の純度及び収率が向上する。しかも、濾材へのスラリの付着等が起こらないので濾材の洗浄や交換等を要さず、濾過処理槽内の部材にスラリが付着することもない。そのためメンテナンスの手間、時間及び費用を要さず、作業効率が高い有機物抽出装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機物抽出装置の構成を概略的に説明する図である。
【図2】図1の有機物抽出装置を用いた有機物抽出方法を概略的に説明する図である。
【図3】図2の有機物抽出方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明の一実施形態における構成を概略的に示す図である。本実施形態の有機物抽出装置1は、脱脂処理槽2と、脱脂処理槽2の下方に設けられた濾過乾燥処理槽3とを備えて概略構成される。
【0022】
脱脂処理槽2は、供給された後述する有機溶媒4及び被処理物5(図2)を混合し、被処理物5の脱脂処理を行う密閉可能な容器である。脱脂処理槽2は、有機溶媒や撹拌操作によって破損しないように構成され、材質や大きさは被処理物に応じて適宜決めることができる。本実施形態では、脱脂処理槽2は、下方に後述する濾過乾燥処理槽3が配置されるよう、その濾過乾燥処理槽3の上端部に設置されている。
【0023】
脱脂処理槽2は、スラリや粉体状の被処理物5が供給される被処理物供給手段21を備えている。被処理物供給手段21は、脱脂処理槽2に設けられた開口などで、被処理物5を投入するためのポンプやコンベア等を備えていてもよい。この実施形態では、被処理物供給手段21は脱脂処理槽2の上部に設けられた開口及びそれを介してスラリ状の被処理物5を供給できる投入用のダクトとなっており、開閉機構が設けられている。
【0024】
脱脂処理槽2は、有機溶媒4が供給される有機溶媒供給手段22を備えている。この実施形態では、被処理物供給手段21は脱脂処理槽2の上部に設けられた開口及びそれを介して有機溶媒4を供給できる供給管となっており、開閉可能なバルブが設けられ、送液用のポンプ(図示せず)に接続されている。
【0025】
脱脂処理槽2は、被処理物5と有機溶媒4とを混合する混合手段としての脱脂槽撹拌手段25を備えてなる。この混合手段としては、機械的に撹拌又は振盪する手段、超音波などで振動を与える手段を備えたものなどがあるが、固形やスラリ状の被処理物5と有機溶媒4を混合し脱脂処理ができるよう、スクリューやプロペラなどを用いて機械的に撹拌する手段を備えていることが望ましい。本実施形態では、スクリューによって脱脂処理槽2内を撹拌可能な脱脂槽撹拌手段25が設けられ、モータ25aによって回転可能に設けられ、このモータ25aは外部の制御装置によって電子的に制御可能となっている。
【0026】
脱脂処理槽2は、後述する有機溶媒4と被処理物5の混合物5a(図2)から液体成分を除去する液体除去手段23を備えている。液体除去手段23は、脱脂処理槽2に設けられた開口などで、液体成分を排出するためのポンプ等を備えていてもよい。この実施形態では、液体除去手段23は脱脂処理槽2の側面の底部近傍に設けられた開口及びそれを介して液体成分を外部に排出できる配管となっており、開閉可能なバルブが設けられている。
【0027】
脱脂処理槽2は、被処理物を濾過乾燥処理槽3に供給する被処理物移動手段24を備えている。被処理物移動手段24は、混合物5aを容易に濾過乾燥処理槽3へ移動させ得る手段ならばいずれでもよく、開口や配管やポンプなどが設けられていてもよい。
【0028】
本実施形態では、被処理物移動手段24は、脱脂処理槽2の底部に設けられ、濾過乾燥処理槽3との間に設けられた開口部24aを備える。開口部24aは開閉手段24bによって開閉が可能になっている。図に示した例では、開閉手段24bはスクリューバルブである。
【0029】
脱脂処理槽2は、底部2aが開口部24aに向かって、10〜40°の範囲内の傾斜角度だけ水平面に対して傾斜したテーパ状を形成してなる。傾斜角度が10°未満であると、混合物5aの流動性が小さい場合に開口部24aから濾過乾燥処理槽3に供給されない場合があり、傾斜角度が40°より大きいと脱脂処理槽2の形状は底部2aの断面積が小さいものになるので、脱脂処理槽2の容量が少なくなり、後述する脱脂槽撹拌手段25で撹拌が行われにくくなる場合がある。本実施形態では、底部2aは傾斜角度が30°となるよう傾斜している。
【0030】
脱脂処理槽2は、混合物5aの濁度を計測するための濁度測定手段26を備えてなる。濁度測定手段26は、液体成分中に分散している固体成分の濃度を測定できる手段で、本実施形態では光学的な方法によるものとしている。
【0031】
脱脂処理槽2は、混合物5aの温度を計測するための温度センサ27を備えてなる。
【0032】
濾過乾燥処理槽3は、脱脂処理槽2で処理され、供給された混合物5bに対してさらなる処理、主には濾過と乾燥処理により液体成分を除去する処理を行うための容器である。本実施形態では、濾過乾燥処理槽3は圧力容器仕様のジャケット型温調断熱タンクで構成されている。
【0033】
濾過乾燥処理槽3は、この混合物5bを撹拌する撹拌手段31を備えている。撹拌手段31は、液体、半液体又はスラリ状の被処理物を機械的に撹拌できる手段であることが望ましく、スクリューや振盪装置などが使用できる。本実施形態では、撹拌手段31は上下昇降可能な攪拌翼31aを備える。撹拌翼31aはメカニカルシール又はグランドパッキン仕様(高真空対応)を備えているものが望ましい。撹拌手段31は、撹拌翼31aを回転させるためのモータ32を備える。撹拌手段31が備えるウォームギヤ(図示せず)を介して、モータ32の回転を攪拌翼31aの上下運動として伝達できるように構成されてなり、これにより攪拌翼31aは回転と共に周期的に上下運動させることが可能となっている。
【0034】
濾過乾燥処理槽3は、混合物5bから液体成分を除去する濾過手段33を備える。本実施形態では、濾過手段33は濾過乾燥処理槽3の底部近傍に設けられ、スラリ等の固体成分を濾過手段33より上部に、液体成分を下部に濾過できるように構成されてなる。濾過手段33には、各種の濾材、例えばろ布、金網又は焼結金属等を適用できる。濾過乾燥処理槽3の下部に濾過された液体成分は底部の排出部34から排出される。本実施形態では、排出部34は、濾過乾燥処理槽3の底部中央に向けて下に凸状のテーパ形状となっており、その底部中央には上流にバルブと下流にポンプ(いずれも図示せず)を備えた濾過液排出管34aが接続されている。濾過液を排出する際にはバルブが開き、ポンプにより排出される。
【0035】
濾過乾燥処理槽3は、抽出物回収手段35を備える。本実施形態では、抽出物回収手段35は濾過乾燥処理槽3の底部近くに設けられ、濾過手段33と抽出物回収手段35の接続部最下点は端部が相互に合わさるツラ位置となるよう設けられている。本実施形態では抽出物回収手段35は円形配管としているがこれにこだわるものではない。
【0036】
濾過乾燥処理槽3は、槽内を加圧及び減圧が可能なように構成されている。本実施形態では、下端及び上端にヘルール式クランプの自動油圧開閉機構を有しており、外部の真空ポンプ及び圧縮ポンプ(図示せず)を接続して加圧及び減圧が可能となっている。これにより上述した抽出物を濾過乾燥処理槽3を加圧することでいわゆるエア押しすることが可能で、抽出物回収手段35の下流側に吸引ポンプ等を設置することなく抽出物をロスなく回収することができる。
【0037】
濾過乾燥処理槽3は、槽内の温度を調整する温度調整手段36が設けられている。本実施形態では、温度調整手段36は温水によって加温が可能な加温ジャケットで、温水を供給する配管36a及び供給を調整するバルブ36bが設けられている。
【0038】
次に、本実施形態の有機物抽出装置1を用いた有機物抽出方法について図2及び図3に示して説明する。まず、脱脂処理槽2において被処理物5及び有機溶媒4を混合する一次洗浄を行う。
【0039】
この実施形態では、脱脂処理槽2にあらかじめ有機溶媒4を投入する(図3、S1)。有機溶媒4は、脱脂処理の種類に応じて各種適用できるが、主にアセトン、クロロホルム、アルコール、ジエチルエーテル、ヘキサン等が利用でき、アルコールとしては低級アルコールのエタノール等が使用できる。この有機溶媒4を、有機溶媒供給手段22を介して投入する。有機溶媒4の投入量は、あらかじめ計量しておいた被処理物5に重量換算で2〜4倍となるようにする。
【0040】
ついで、図2(A)に示すように、脱脂処理槽2に被処理物5を投入する(S2)。被処理物5は、主に生物組織に由来する生物学的試料で、粉砕物、粗抽出物などの生物学的試料に適用できる。生物学的試料は洗浄や脱脂処理などのこの後の抽出処理に適当なよう細分化処理しておくことができ、例えばフードカッタ、ミートチョッパ又はマスコロイダ等を用いて細分化したものが利用できる。本実施形態では、魚類の軟骨組織を粉砕したものを被処理物5として投入している。
【0041】
ついで、脱脂処理槽2において、脱脂槽撹拌手段25を用いて被処理物5と有機溶媒4とを一定時間攪拌混合する(S3)。この実施形態では、制御装置の制御により脱脂槽撹拌手段25のモータ25aを動作させて行う。この撹拌により、図2(B)に示すように、被処理物5と有機溶媒4とが混合されて混合物5aとなり、被処理物5に含まれる脂肪分などの疎水性成分が有機溶媒4に抽出される。また、有機溶媒4の脱水作用により、被処理物5に含まれる水分が、ある程度固体成分と分離する。
【0042】
ついで、脱脂処理槽2において、濁度測定手段27を用いて混合物5aの濁度を測定する(S4)。濁度が規定の値未満である場合、すなわち混合物5aのうち液体成分4aの相に脂肪分を含む粒子が分散しておらず、脱脂が十分に行われていない場合、攪拌混合(S3)を継続する。
【0043】
一方、濁度測定手段27を用いて測定した混合物5aの濁度が一定の値以上であった場合は、一次洗浄を終了する。制御装置からの制御によって液体除去手段23のバルブを開放し、液体除去手段23から有機溶媒4及び被処理物5の水分などの液体成分4aを排出する(S5)。
【0044】
ついで、この実施形態では、濾過乾燥処理槽3において再度有機溶媒4を加えて撹拌する二次洗浄を行う。二次洗浄ではまず、混合物5aを脱脂処理槽2に連結されてなる濾過乾燥処理槽3に供給する(S6)。脂肪分を失った脱脂処理後の混合物5aは粘性の少ないスラリ状となっており、容易に移動させることができる。混合物5aを濾過乾燥処理槽3に供給するには、被処理物移動手段24を用い、本実施形態では開閉手段24bを開放すると、スラリ状の混合物5aは脱脂処理槽2の底部2aのテーパを介して開口部24aから濾過乾燥処理槽3に滑り落ちる等して落下することで供給される。本実施形態の有機物抽出装置1では、混合物5aは底部2aのテーパにより、ポンプ等を設けず、開閉手段24bを開くのみでテーパを滑り落ち、濾過乾燥処理槽3へと落下するようになっている。
【0045】
ついで、濾過乾燥処理槽3に有機溶媒4を供給する(S7)。本実施形態では、開閉手段25bを開放したまま有機溶媒供給手段22から有機溶媒4を供給すると、濾過乾燥処理槽3に有機溶媒4が供給される。
【0046】
ついで、図2(C)に示すように、有機溶媒4と供給された混合物5bとを撹拌する(S8)。本実施形態では、制御装置によりモータ32を駆動し、撹拌手段31を用いて撹拌を行う。
【0047】
ついで、混合物5bから有機溶媒4を含む液体成分を除去する(S9)。本実施形態では、濾過手段33に設けられた排出部34に備えられたバルブが開き、ポンプが作動することで、濾過手段33により濾過された液体成分が濾過液排出管34aから排出される。
【0048】
ついで、濾過乾燥処理槽3において混合物5bの乾燥工程を行う(S10)。本実施形態では、撹拌手段31を回転させつつ上下させることによって被処理物5を撹拌、濾過乾燥処理槽3内を舞い上がらせて乾燥を促進し、減圧手段によって濾過乾燥処理槽3を減圧し、残存した水分や有機溶媒成分を蒸発させることにより乾燥させる。このとき温度調整手段36によって乾燥処理の温度の調節が行われ、バルブ36bを開放して配管36aから温水を供給し、加温ジャケットである温度調整手段36によって濾過乾燥処理槽3を過熱し、乾燥を促進させる。このとき、混合物5bの性質に応じて、温度による変性や分解が起こらない温度を設定する。混合物5bを乾燥した最終的な抽出物は、抽出物回収手段35を介して濾過乾燥処理槽3から排出し、回収する。
【0049】
この有機物抽出装置1では、被処理物5と有機溶媒4との攪拌混合を脱脂処理槽2で行うので、濾過乾燥処理槽3に供給された混合物5bは脂肪分が除かれ、粘性が低くなっている。そのため、混合物5bが濾過手段33の濾材に対して目詰まりを起こすということがない。
【0050】
なお、この実施形態の変更態様として、濾過乾燥処理槽3における二次洗浄の工程を省略してもよい。
【0051】
他の変更態様として、有機物抽出方法に酵素による処理の工程を加えてもよい。酵素としては分解しにくい蛋白質を除去するためのプロテアーゼ等が挙げられる。工程の例としては、一次洗浄の前又は後に酵素を添加して処理を行う工程を加え、液体成分を除去する際に酵素と分解した成分をともに除去する粗精製の段階として行ってもよい。また、二次洗浄の前又は後に酵素を添加して処理を行う工程を加え、被処理物の純度を高めるために行ってもよい。
【0052】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は生物学的組織の処理を効率的に行うことができることで、医療薬剤、食品等の加工の役立つ他、廃棄物の処理等の問題にも対応でき、産業の発達及び環境問題の解決に広く寄与するものである。
【符号の説明】
【0054】
1 有機物抽出装置
2 脱脂処理槽
2a 底部
3 濾過乾燥処理槽
4 有機溶媒
4a 液体成分
5 被処理物
5a、5b 混合物
21 被処理物供給手段
22 有機溶媒供給手段
23 液体除去手段
24 被処理物移動手段
24a 開口部
24b 開閉手段
25 脱脂槽撹拌手段
25a モータ
26 温度センサ
27 濁度測定手段
31 撹拌手段
31a 撹拌翼
32 モータ
33 濾過手段
34 排出部
35 抽出物回収手段
36 温度調整手段
36a 配管
36b バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂処理槽と、該脱脂処理槽の下方に設けられた濾過乾燥処理槽とを備え、
前記脱脂処理槽は、供給された被処理物及び供給された有機溶媒を混合する混合手段と、該混合手段によって混合された被処理物及び有機溶媒との混合物から液体成分を除去する液体除去手段とを備え、
前記濾過乾燥処理槽は、前記脱脂処理槽から供給された混合物を撹拌する撹拌手段と、該攪拌手段によって攪拌された混合物から残留液体成分を除去する濾過手段とを備えていることを特徴とする有機物抽出装置。
【請求項2】
前記脱脂処理槽の前記混合手段は、前記供給された被処理物と前記供給された有機溶媒とを撹拌する脱脂槽撹拌手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の有機物抽出装置。
【請求項3】
前記脱脂処理槽は、前記混合物の濁度を計測するための濁度測定手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機物抽出装置。
【請求項4】
前記脱脂処理槽は、前記混合物の温度を計測するための温度センサを備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機物抽出装置。
【請求項5】
前記脱脂処理槽は、前記混合物を前記濾過乾燥処理槽に供給するために、前記脱脂処理槽の底部において前記濾過乾燥処理槽との間に設けられた開口部を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の有機物抽出装置。
【請求項6】
前記脱脂処理槽は、底部が前記開口部に向かう10〜40°の範囲の傾斜角度で傾斜したテーパ状を形成してなることを特徴とする請求項5に記載の有機物抽出装置。
【請求項7】
脱脂処理槽において被処理物及び有機溶媒を混合し、得られた混合物から液体成分を除去し、前記液体成分を除去した混合物を前記脱脂処理槽に連結されてなる濾過乾燥処理槽に供給し、前記濾過乾燥処理槽において供給された混合物を撹拌し、ついで残留液体成分を除去することを特徴とする有機物抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−223676(P2012−223676A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91460(P2011−91460)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(511075988)株式会社リナイス (3)
【Fターム(参考)】