説明

有機発光素子

【課題】高色純度青色発光材料を発光可能なフルオレン誘導体を用いた有機発光素子を提供する。
【解決手段】一対の電極間に発光層を含む1層または複数層の有機層を備えた有機発光素子であって、前記有機層の少なくとも1層が、下記一般式(1)で表される化合物を単独または混合物として含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高色純度青色発光材料を発光可能なフルオレン誘導体を含む有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、有機化合物を発光材料とする自己発光型素子であり、高速度での発光が可能であるため、動画の表示に好適であり、また、素子構造が簡単で、ディスプレイパネルの薄型化が可能である等の特性を有している。このような優れた特性を有していることから、有機発光素子は、携帯電話や車載用ディスプレイとして、日常生活において普及しつつある。
また、LEDと異なり、面発光が可能であり、薄型で軽量であるという特性を活かして、照明パネル光源としての技術開発も進められている。
【0003】
一般に、有機発光素子は、高効率、長寿命を実現するため、正孔もしくは電子の注入機能、輸送機能または阻止機能を持つ各材料を積層した多層構造を有する。
しかしながら、多層構造型有機発光素子では、駆動中に各層の界面での劣化が生じやすく、これにより、発光効率が低下するという課題を有していた。
【0004】
このため、各層の界面での劣化を抑制することを目的として、例えば、特許文献1,2においては、電極からのキャリア注入におけるエネルギー障壁を低下させるために、電極に接する有機層に電子受容性ドーパントまたは電子供与性ドーパントをドープする方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、電極からの正孔または電子の注入性の改善を図るために、電極界面に酸化性ドーパントまたは還元性ドーパントで修飾した有機半導体層を設けた多層型有機発光素子が記載されている。さらに、特許文献3に記載された素子においては、キャリアの閉じ込め効果を得るために、有機半導体層と発光層との間に電荷障壁層が挿入されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−251067号公報
【特許文献2】特開平10−270171号公報
【特許文献3】特開2000−315581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3記載の方法は、界面での電荷の蓄積による劣化を防ぐことが困難であり、輝度の低下が懸念される。
【0008】
これに対しては、本発明者らは、キャリアの突き抜けを防止する層を有さずに、電子物性制御された素子構成とする画期的な手段を提案している(特願2007−38600)。
しかしながら、この方法では、黄色、緑色以外の、色純度に優れた青色発光を十分に得るには至っていない。
【0009】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、高色純度青色発光材料を発光可能なフルオレン誘導体を見出し、フルオレン誘導体を用いた有機発光素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る有機発光素子は、一対の電極間に発光層を含む1層または複数層の有機層を備えた有機発光素子であって、前記有機層の少なくとも1層が、下記一般式(1)で表される化合物を単独または混合物として含有していることを特徴とする。
【0011】
【化1】

【0012】
前記一般式(1)において、A,BおよびCは、それぞれ独立に、水素、置換もしくは無置換のフェニレン基、置換もしくは無置換のナフタレン基、置換のビフェニレン基、置換もしくは無置換のフルオレン基および置換もしくは無置換のカルバゾール基の中から選ばれた置換基である。AとBは、互いに結合して、置換または無置換の飽和の環結合を形成していてもよい。R1〜R5は、それぞれ独立に、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基およびシクロアルコキシ基の中から選ばれた置換基である。R6〜R13は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、置換もしくは無置換のフェニレン基および置換もしくは無置換のビフェニレン基の中から選ばれた置換基である。n0およびn1は、それぞれ独立に、1または2である。n2およびn3は、それぞれ独立に、1〜8の整数である。Xは、ユニット(a)およびユニット(b)を結ぶ単結合である。
このような化合物を有機EL材料として用いることにより、色純度に優れた青色発光を呈する素子を構成することができる。
【0013】
前記有機発光素子は、前記有機層が正孔注入輸送層、発光層および電子注入輸送層を含み、前記正孔注入輸送層、発光層および電子注入輸送層のうちの少なくとも1層が前記一般式(1)で表される化合物を含有していることが好ましい。
【0014】
また、前記有機発光素子は、一対の電極間に正孔注入輸送層、発光層および電子注入輸送層を含む発光ユニットが複数組積層され、前記各発光ユニット間に電荷発生層が形成されていることが好ましい。
【0015】
また、第1の電極と前記発光層もしくは前記電荷発生層との間に、正孔注入輸送材料の有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有する正孔注入輸送層を備えていてもよい。
前記一般式(1)で表される化合物は、酸化性ドーパントを作用させることにより、正孔注入輸送層に用いることもできる。
【0016】
さらに、第2の電極と発光層の間に、電子注入輸送材料の有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有する電子注入輸送層を備えていてもよい。
前記一般式(1)で表される化合物は、還元性ドーパントを作用させることにより、電子注入輸送層に用いることもできる。
【0017】
前記酸化性ドーパントは、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化レニウム、酸化モリブデンまたは酸化ルテニウムであることが好ましい。
【0018】
また、前記発光層においては、発光ドーパント濃度に偏差があることが好ましい。
【0019】
また、前記電極が、透明基板上に透明導電性薄膜が形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
上述したとおり、本発明に係る有機発光素子によれば、高色純度の青色発光が得られ、高演色性の白色発光素子を提供することが可能となる。
したがって、本発明に係る有機発光素子は、近年、より優れた色再現性が求められるOAコンピュータ用や壁掛けテレビ用のフラットパネル・ディスプレイ、さらに、照明機器、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源等の面発光体としての特徴を活かした光源、表示板、標識灯への応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明に係る有機発光素子において用いられる有機EL材料は、前記一般式(1)で表される化合物である。
このようなフルオレン誘導体は、青色発光材料を高色純度で発光させることができる化合物であり、これを用いれば、高演色性の白色発光素子を提供することができる。
【0022】
前記一般式(1)において、A,BおよびCは、それぞれ独立に、水素、置換もしくは無置換のフェニレン基、置換もしくは無置換のナフタレン基、置換のビフェニレン基、置換もしくは無置換のフルオレン基および置換もしくは無置換のカルバゾール基の中から選ばれた置換基である。AとBは、互いに結合して、置換または無置換の飽和の環結合を形成していてもよい。また、R1〜R5は、それぞれ独立に、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基およびシクロアルコキシ基の中から選ばれた置換基である。R6〜R13は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、置換もしくは無置換のフェニレン基および置換もしくは無置換のビフェニレン基の中から選ばれた置換基である。また、n0およびn1は、それぞれ独立に、1または2である。n2およびn3は、それぞれ独立に、1〜8の整数である。Xは、ユニット(a)およびユニット(b)を結ぶ単結合である。
【0023】
上記置換基のうち、置換のフェニレン基、ナフタレン基、ビフェニレン基、フルオレン基またはカルバゾール基とは、アルキル基、シクロアルキル基、アルコシキシ基、シクロアルコキシ基またはアリールオキシ基で置換されたフェニル基を示す。
アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の飽和脂肪族炭化水素基を示し、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
シクロアルキル基とは、例えば、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等の飽和脂環式炭化水素基を示し、無置換であっても置換されていてもよい。
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基等のエーテル結合を介した飽和脂肪族炭化水素基を示し、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
シクロアルコキシ基とは、例えば、シクロヘキシルオキシ基等のエーテル結合を介した環状飽和脂肪族炭化水素基を示し、無置換であっても置換されていてもよい。
アリールオキシ基とは、例えば、フェノキシ基等のエーテル結合を介した芳香族炭化水素基を示し、無置換であっても置換されていてもよい。
【0024】
以下、前記一般式(1)で表される化合物のうち、具体的な化合物の構造を以下に例示する。なお、下記(化2)〜(化4)に示す各化合物におけるRは、水素または置換もしくは無置換のフェニレン基を表す。
【0025】
【化2】

【0026】
【化3】

【0027】
【化4】

【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

【0031】
【化8】

【0032】
前記一般式(1)で表される化合物は、従来の既知の合成反応により合成することができる。
例えば、ウィッティヒ反応、ウィッティヒ−ホーナー反応等のカルボニル化合物を塩基触媒存在下で縮合する方法によって合成することができる。合成の一例を以下に示す。
2−ハロゲン化ビフェニルを原料とし、グリニアル反応およびリチオ化反応により、求核反応剤を調製する。そして、対応するジメチルベンゾフェノン化合物と反応させる。このとき、反応溶媒には、エーテル系溶剤が用いられ、特に、THF、CPMEが好ましい。
反応後、酸処理を行い、アルコール化合物とした後、酢酸等の酸にて閉環し、9,9−ジベンジルフルオレン誘導体を得る。次いで、この9,9−ジベンジルフルオレン誘導体のベンジル部位をハロゲン化剤でハロゲン化する。ハロゲン化剤としては、特に、NBSが好ましい。
さらに、このハロゲン化物と亜リン酸トリアルキルの反応からリン酸エステル誘導体を合成する。そして、塩基存在下、得られたリン酸エステル誘導体と対応するベンゾフェノン化合物とのウィッティヒ−ホーナー反応により、前記一般式(1)で表される化合物が合成される。
このとき、ウィッティヒ反応の反応溶媒としては、THF、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、DMF、DMSO等の非プロトン性極性溶媒を用いることがで、特に、THF、DMSOが好ましい。また、塩基としては、金属水酸化物、ナトリウムアミド、水素化ナトリウム、t−BuONa、t−BuOK等のアルコラート、アルキルリチウム等の塩基を用いることができ、特に、t−BuOKが好ましい。
【0033】
上記合成においては、ウィッティヒ反応の際、対応するベンゾフェノン化合物を選択することにより、非対称の前記一般式(1)で表される化合物を合成することもできる。
また、フルオレノンを出発原料に用いて、非対称の前記一般式(1)で表される化合物を合成することもできる。
【0034】
あるいはまた、9,9−ビス(ハロゲン化アリール)フルオレン誘導体を原料として用い、Pd等の遷移金属触媒を用いたカップリング反応によって前記一般式(1)で表される化合物を合成することもできる。このとき、ハロゲン基、対応するビニル化合物をそれぞれ選択することにより、遷移金属触媒を用いたカップリング反応の際に、非対称の前記一般式(1)の化合物を合成することもできる。
【0035】
なお、原料は、特に限定されるものではなく、上記に挙げた2−ハロゲン化ビフェニル、フルオレノンおよび9,9−ジハロアリールフルオレン誘導体以外にも、9,9−ジアミノフェニルフルオレン誘導体、9,9−ジアルコキシフェニルフルオレン誘導体、9,9−ジヒドロキシフェニルフルオレン誘導体等を用いることもできる。
【0036】
上記のような色純度に優れた青色発光を得られる前記一般式(1)で表される化合物を含む層を備えた本発明に係る有機発光素子は、電極間に1層または複数層の有機層を積層した構造であり、具体的には、第1の電極/発光層/第2の電極、第1の電極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/第2の電極、第1の電極/正孔輸送層/発光層/第2の電極、第1の電極/発光層/電子輸送層/第2の電極等の構造が挙げられる。
さらに、正孔注入層、正孔輸送発光層、電子注入層、電子輸送発光層等をも含む公知の積層構造とすることもできる。
特に、第1の電極/正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層/第2の電極の積層構造を含んでいることが好ましい。
【0037】
また、有機発光素子は、発光ユニットが回路的に直列に接続され、これらの発光ユニットが同時に発光するような構造を有するマルチ素子とすることもできる。
前記マルチ素子における各発光ユニットの層構成は、特に限定されるものではないが、例えば、電極間に、正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層が積層されて構成された一組の発光ユニットが、各発光ユニット間に電荷発生層を介して、複数組積層された構造を備えていることが好ましい。すなわち、第1の電極/第1の発光ユニット(正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層)/電荷発生層/第2の発光ユニット(正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層)/…/第nの発光ユニット(正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層)/第2の電極のような積層構造であることが好ましい。
【0038】
本発明に係る有機EL材料である前記一般式(1)で表される化合物は、上記のいずれの有機層に用いられてもよく、正孔輸送材料、発光材料、電子輸送材料とともに分散させて用いたり、さらに、この分散層中に発光色素をドープしたりすることもできる。
また、前記一般式(1)で表される化合物は、酸化性ドーパントを作用させることにより、正孔注入輸送層に、また、還元性ドーパントを作用させることにより、電子注入輸送層に用いることもできる。
【0039】
本発明に係る有機発光素子の電極は、透明基板上に透明導電性薄膜が形成されたものであることが好ましい。
前記基板は、有機発光素子の支持体となるものであり、基板側が発光面となる場合、可視光において透光性を有する透明基板を用いることが好ましい。光透過率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることが好ましい。より好ましくは、90%以上である。
前記透明基板としては、一般に、BK7、BaK1、F2等の光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス等のガラス基板、PMMA等のアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホネート、ポリスチレン、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等のポリマー基板が用いられる。
前記基板の厚さは、通常、0.1〜10mm程度のものが用いられるが、機械的強度、重量等を考慮して、0.3〜5mmであることが好ましく、0.5〜2mmであることがより好ましい。
【0040】
また、本発明においては、前記基板上に、第1の電極が設けられることが好ましい。この第1の電極は、通常、陽極であり、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、導電性化合物等により構成されるが、前記透明基板上に透明電極として形成されることが好ましい。
この透明電極には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛、酸化亜鉛等の金属酸化物が一般的に用いられ、特に、透明性や導電性等の観点から、ITOが好適に用いられる。
この透明電極の膜厚は、透明性および導電性の確保のため、80〜400nmであることが好ましく、100〜200nmであることがより好ましい。
陽極の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われ、透明導電性薄膜として形成されることが好ましい。
【0041】
一方、前記陽極が第1の電極である場合、これに対向する第2の電極の陰極は、仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金、導電性化合物により構成される。例えば、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等が挙げられる。
前記陰極の膜厚は、10〜500nmであることが好ましく、50〜200nmであることがより好ましい。
【0042】
前記陽極および陰極は、スパッタリング法やイオンプレーティング法、蒸着法等の通常用いられる方法で成膜することにより形成することができる。
【0043】
前記正孔注入層、正孔輸送層、正孔輸送性発光層に用いられる材料は、特に限定されるものではなく、公知のものから適宜選択して用いることができる。
具体的には、ビス(ジ(p−トリル)アミノフェニル)−1,1−シクロヘキサン(通称:TAPc)、Spiro−TPD(化9)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(通称:TPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(通称:α−NPD)、TPTE(化10)、スターバーストアミン類(化11)、N20(化12)等のスチリルアミン類等のアリールアミン誘導体が挙げられる。
【0044】
【化9】

【0045】
【化10】

【0046】
【化11】

【0047】
【化12】

【0048】
また、ビス(N−アリールカルバゾール)(通称:CBP)(化13)、ビス(N−アルケニルカルバゾール)、ビス(N−アルキルカルバゾール)等のカルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、(化14)、sp−DPVBi(化15)等のスチリル化合物およびその誘導体も用いることができる。
【0049】
【化13】

【0050】
【化14】

【0051】
【化15】

【0052】
あるいはまた、アントラセン、トリフェニレン、ペリレン、4,4’,8,8’−テトラ(3−メチルフェニル)−2,2’−ビナフチル(通称:TMBN)(化16)、1,3,5,7−テトラ(3−メチルフェニル)ナフタレン(通称:TMN1357)(化17)等のナフタレン、ピレン、コロネン、クリセン、ナフタセン、テトラセン、フェナントレン等の縮合多環芳香族炭化水素化合物およびそれらの誘導体、パラテルフェニル、クアテルフェニル、m−フェニレン(化18)等の多環化合物およびそれらの誘導体を用いることもできる。
【0053】
【化16】

【0054】
【化17】

【0055】
【化18】

【0056】
さらに、正孔注入層、正孔輸送層、正孔輸送性発光層として、上記有機化合物をポリマー、オリゴマーまたはデンドリマー中に分散したものや、ポリマー化、オリゴマー化またはデンドリマー化したものを用いることもできる。
また、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフルオレンやその誘導体等のいわゆるπ共役ポリマー、ポリ(N−ビニルカルバゾール)に代表される正孔輸送性非共役ポリマー、ポリシラン類に代表されるσ共役ポリマー等も用いることができる。さらに、フルオレンオリゴマーやその誘導体等のいわゆる共役系オリゴマー等も用いることができる。
【0057】
また、正孔注入層としては、上記材料の他、金属フタロシアニン類および無金属フタロシアニン類、カーボン膜、フロロカーボン膜、ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)、ポリアニリン等の導電性ポリマーも用いることができる。
【0058】
さらに、上記有機化合物に、テトラシアノキノジメタン、トリニトロフルオレノン等の有機系酸化性ドーパント、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化レニウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム等の無機系酸化性ドーパントを作用させ、ラジカルカチオンを形成させて、正孔注入輸送層として用いることもできる。正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度は、特に限定されないが、0.1〜99重量%程度であることが好ましい。
【0059】
なお、上述したように、本発明に係る有機EL材料である前記一般式(1)で表されるフルオレン誘導体は、酸化性ドーパントを作用させて、正孔注入輸送層として用いることもできる。この場合の酸化性ドーパントは、酸化バナジウム、酸化レニウムまたは酸化モリブデンであることが好ましい。
【0060】
また、電子注入層、電子輸送層、電子輸送性発光層に用いられる材料も、特に限定されるものではなく、公知のものから適宜選択して用いることができる。
具体的には、パラテルフェニル、クアテルフェニル、m−フェニレン(化18)等の多環化合物およびそれらの誘導体、スチリル化合物(化14、化15)およびその誘導体が挙げられる。
また、アントラセン、トリフェニレン、ペリレン、ナフタレン、ピレン、コロネン、クリセン、ナフタセン、テトラセン、フェナントレン等の縮合多環芳香族炭化水素化合物およびそれらの誘導体、フェナントロリン、バソフェナントロリン、バソクプロイン、フェナントリジン、アクリジン、キノリン、キノキサリン、ピリジン(化19)、ピリミジン、ピロール、ピラゾール、ピリダジン、ピラジン、フタラジン、ナフチリジン、キナゾリン、シンノリン、チアゾール、オキサジアゾール、オキサゾール、トリアジン、フェナジン、イミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、トリアゾール、ポルフィリン等の複素環化合物およびそれらの誘導体を用いることもできる。
【0061】
【化19】

【0062】
また、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、イリジウム錯体、プラチナ錯体等、中心金属にAl、Zn、Be、Ir、Pt、Tb、Eu等を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、キノリン構造を有する金属キレート錯体材料も用いることができる。
シロール、シロキサン等の有機珪素化合物およびそれらの誘導体、トリアリールホウ素等の有機ホウ素化合物およびそれらの誘導体、トリアリールフォスフィンオキサイド等の5価のリン化合物およびその誘導体等も用いることができる。
【0063】
さらに、電子注入層、電子輸送層、電子輸送性発光層として、上記有機化合物をポリマー、オリゴマーまたはデンドリマー中に分散したものや、ポリマー化、オリゴマー化またはデンドリマー化したものも用いることができる。
また、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフルオレンやその誘導体等のいわゆるπ共役ポリマー、ポリビニルオキサジアゾールに代表される電子輸送性非共役ポリマー等も用いることができる。さらに、フルオレンオリゴマーやその誘導体等のいわゆる共役系オリゴマー等も用いることができる。
【0064】
電子注入層の構成材料としては、上記有機化合物の他に、Ba、Ca、Li、Cs、Mg、Sr、W等の金属の単体、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム等の金属フッ化物、アルミリチウム合金等の金属の合金、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等の金属の有機錯体も用いることができる。
【0065】
さらに、上記有機化合物に、8−ヒドロキシキノリン系Cs、Li有機金属錯体等の有機系還元性ドーパントを作用させ、ラジカルアニオンを形成させて、電子注入輸送層として用いることもできる。
また、Ba、Ca、Li、Cs、Mg、Sr、W等の金属の単体、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、塩化セシウム、塩化ストロンチウム等の金属塩、無機系還元性ドーパントを混合または分散し、ラジカルアニオンを形成させて、電子注入輸送層として用いることもできる。
上記のような電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度は、特に限定されないが、0.1〜99重量%程度であることが好ましい。
【0066】
なお、上述したように、本発明に係る有機EL材料である前記一般式(1)で表されるフルオレン誘導体は、還元性ドーパントを作用させて、電子注入輸送層として用いることもできる。
【0067】
また、本発明に係る有機発光素子の有機層は、パイボーラ材料を用いて構成してもよい。バイポーラ材料とは、正孔および電子のいずれをも輸送することができ、それ自体も発光し得る材料である。
バイポーラ輸送層、バイポーラ性発光層に用いられる材料は、特に限定されるものではない。
例えば、スチリル化合物(化14、化15)およびその誘導体、パラテルフェニル、クアテルフェニル、m−フェニレン(化18)等の多環状芳香族化合物およびその誘導体、アントラセン、トリフェニレン、ペリレン、ナフタレン(化16、化17)、ピレン、コロネン、クリセン、ナフタセン、テトラセン、フェナントレン等の縮合多環芳香族炭化水素化合物およびそれらの誘導体、ビス(N−アリールカルバゾール)、ビス(N−アルケニルカルバゾール)、ビス(N−アルキルカルバゾール)等のカルバゾール誘導体(化13)、チオフェン等の複素環化合物が挙げられる。
また、これらの誘導体等以外の具体例としては、4,4−ビス(2,2−ジフェニル−エテン−1−イル)ジフェニル(通称:DPVBi)(化20)、spiro6(化21)、2,2’,7,7’−テトラキス(カルバゾール−9−イル)−9,9’−スピロ−ビフルオレン(化22)、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)−2’,3’,5’,6’−テトラフェニル−p−ターフェニル(化23)、1,3−ビス(カルバゾール)−9−イル)−ベンゼン(化24)、3−tert−ブチル−9,10−ジ(ナフタ−2−イル)アントラセン(通称:TBADN)(化25)が挙げられる。
【0068】
【化20】

【0069】
【化21】

【0070】
【化22】

【0071】
【化23】

【0072】
【化24】

【0073】
【化25】

【0074】
バイポーラ材料として、上記有機化合物をポリマー、オリゴマーまたはデンドリマー中に分散したものや、ポリマー化、オリゴマー化またはデンドリマー化したものも用いることができる。
また、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフルオレンやその誘導体等のいわゆるπ共役ポリマー、ポリビニルカルバゾールに代表される非共役ポリマー等も用いることができる。さらに、フルオレンオリゴマーやその誘導体等のいわゆる共役系オリゴマー等も用いることができる。
また、正孔輸送性機能、電子輸送性機能を持つモノマーの同一分子内に存在させたポリ(ビニルトリアリールアミンビニルオキサジアゾール)等の共重合体、デンドリマーを用いることもできる。
さらに、上記のバイポーラ材料に、上述したような酸化性ドーパントまたは還元性ドーパントを作用させたものを用いて、正孔注入層または電子注入層を形成してもよい。酸化性ドーパントは、特に、酸化モリブデン、酸化バナジウムが好ましい。
【0075】
前記一般式(1)で表される有機EL材料は、発光層に単独で用いることができるが、それ以外の正孔輸送材料、発光材料、電子輸送材料等とともに分散したり、ドープしたりして、上記のいずれかの有機層と組み合わせて用いることもできる。
本発明に係る有機発光素子においては、特に、青色発光材料をゲスト材料として用い、前記一般式(1)で表される有機EL材料をホスト材料として含む発光層を形成していることが好ましい。また、他のホスト材料と組み合わせて用いてもよい。この場合の前記一般式(1)で表される有機EL材料の濃度は、0.1〜99重量%とすることが好ましい。
【0076】
前記一般式(1)で表される有機EL材料を発光層のホスト材料として用いた場合、該発光層のゲスト材料は、蛍光または燐光性発光材料であってもよい。
例えば、パラテルフェニル、クアテルフェニル等の多環化合物およびそれらの誘導体、スチリル化合物(化14、化15)およびその誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、クマリン誘導体、スチリルアミン誘導体(化12)、TPA(化26)等のアントラセン、トリフェニレン、ペリレン、ナフタレン(化16、化17、化27)、ピレン、コロネン、クリセン、ナフタセン、テトラセン、フェナントレン等の縮合多環芳香族炭化水素化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。
また、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、テルビウム錯体、イリジウム錯体、プラチナ錯体等、中心金属にAl、Zn、Be、Ir、Pt、Tb、Eu等を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、キノリン構造を有する金属キレート錯体材料も用いることができる。具体的には、FIrpic(化28)に代表される金属キレート錯体およびその誘導体が挙げられる。
【0077】
【化26】

【0078】
【化27】

【0079】
【化28】

【0080】
なお、発光層は、上述したようなバイポーラ材料により構成されていてもよい。バイポーラ材料により形成した層内に、前記一般式(1)で表される有機EL材料を単独または混合物として含有させることにより、青色発光を取り出すこともできる。
この発光層に用いられるバイポーラ材料は、それ自体が蛍光または燐光発光する材料であってもよい。バイポーラ材料は、正孔注入輸送層、発光層および電子注入輸送層のいずれにも含有されていてもよい。
【0081】
また、前記一般式(1)で表される材料をゲスト材料とし、ホスト材料に、蛍光または燐光発光性の材料を用いることもできる。
この場合のホスト材料としては、ナフタレン誘導体(化17)、m−フェニレン誘導体(化18)、ジアリールケトン等のケトン化合物およびその誘導体、ビス(N−アリールカルバゾール)(化13)、ビス(N−アルケニルカルバゾール)、ビス(N−アルキルカルバゾール)等のカルバゾール誘導体、Ir(ppz)3(化29)に代表されるイリジウム錯体が挙げられる。
【0082】
【化29】

【0083】
前記ホスト材料として、上記有機化合物をポリマー化、オリゴマー化またはデンドリマー化したものも用いることができる。
また、ポリフルオレン等のいわゆるπ共役ポリマー、ポリビニルカルバゾールに代表される非共役ポリマー等も用いることができる。さらに、フルオレンオリゴマーやその誘導体等のいわゆる共役系オリゴマー等も用いることができる。
【0084】
特に、高色純度の青色発光を得る観点から、本発明に係る有機発光素子の発光層には、前記(化12)、(化16)、(化17)、(化26)および(化27)のうちの少なくともいずれかが含まれていることが好ましい。
【0085】
上記各有機層の形成は、真空蒸着法、スパッタリング法等などの乾式法、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法により行うことができる。好ましくは、真空蒸着により膜形成を行う。
また、前記各層の膜厚は、各層同士の適応性や求められる全体の層厚さ等を考慮して、適宜状況に応じて定められるが、通常、5nm〜5μmの範囲内であることが好ましい。
【0086】
前記一般式(1)で表される有機EL材料を単独または混合物として含有する層を備えた有機発光素子においては、前記一般式(1)で表される有機EL材料により得られる高色純度の青色発光と、緑色および赤色発光とを組み合わせることにより、演色性の高い白色発光を得ることができる。
高演色性の白色発光を得る具体的な方法としては、前記一般式(1)で表される有機EL材料による青色発光に、緑色発光および黄色から橙色発光を補色として加える方法や、前記一般式(1)で表される材料を含む各青色、緑色、赤色発光材料を独立に発光させる方法等がある。
【0087】
前記緑色発光材料または赤色発光材料は、蛍光または燐光性発光材料であってもよい。
例えば、キナクリドン誘導体、スクアリリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、クマリン誘導体、ジシアノピラン誘導体、アントラセンジアミン等のアリールアミン化合物およびそれらの誘導体、ペリレン、ルブレン、テトラセン、デカシクレン等の縮合多環芳香族炭化水素化合物およびそれらの誘導体、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体が挙げられる。
また、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、テルビウム錯体、イリジウム錯体、プラチナ錯体等、中心金属にAl、Zn、Be、Ir、Pt、Tb、Eu等を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、キノリン構造を有する金属キレート錯体材料を用いることもできる。具体的には、Ir(ppy)3(化30)、Irpiq3(化31)に代表される金属キレート錯体およびその誘導体が挙げられる。
【0088】
【化30】

【0089】
【化31】

【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
(DTVPFの合成)
下記に示す合成スキームに従って、下記(化32)に示す化合物(DTVPF)を合成した。
【0091】
【化32】

【0092】
【化33】

【0093】
Mg片1.6g(65.64mmol)、CPMEの順にフラスコ内に仕込み入れ、窒素置換後、2−ブロモビフェニル15.0g(64.35mmol)を溶解したCPME溶液をMg片分散溶液中に投入し、65℃で2.5時間反応を行い、グリニアル試薬を調製した。
この反応溶液を冷却し、溶液中に、4,4’−ジメチルベンゾフェノン13.8g(65.64mmol)を仕込み入れ、65℃で4.0時間反応を行った後、反応溶液を塩酸にて処理した。
エーテル層を水にて2回洗浄し、エーテル回収後の残渣を酢酸に溶解し、100℃で3.5時間加熱撹拌した。室温まで降温後、析出した結晶をろ過し、メタノール洗浄した。
得られた結晶は、外観が白色粉末状であり、MS、1H−NMRにて構造分析の結果、9,9−ジ−p−トリル−9H−フルオレンであると同定された。収量14.7g(収率65.9%)であった。
【0094】
上記において得られた9,9−ジ−p−トリル−9H−フルオレン10.0g(28.86mmol)、AIBN1.0g(28.86×0.2mmol)、N−ブロモスクシンイミド11.0g(28.86×2.1mmol)、四塩化炭素をフラスコに仕込み入れ、窒素雰囲気下、60℃で23時間反応を行った。
反応液をろ過し、固形物を四塩化炭素にて洗浄後、トルエン:DMFの混合溶媒から再結晶にて精製した。
精製物は、外観が白色粉末状であり、MS、1H−NMRにて構造分析の結果、9,9−ビス(4−ブロモメチル−フェニル)−9H−フルオレンであると同定された。収量8.3g(収率56.9%)であった。
【0095】
上記において得られた9,9−ビス(4−ブロモメチル−フェニル)−9H−フルオレン8.0g(15.86mmol)、亜リン酸トリエチル47.9g(288.6mmol)を反応容器に仕込み入れ、窒素雰囲気下、140℃で17時間反応を行った。
反応液から過剰の亜リン酸トリエチルを回収し、得られた粗製をクロロホルム:メタノール混合溶媒を展開液としたシリカゲルカラムにて精製した。
精製物は、外観が白色固体状であり、1H−NMR、MSにて構造分析の結果、目的とするリン酸エステル誘導体であると同定された。収量9.0g(収率91.8%)であった。
【0096】
上記において得られたリン酸エステル3.0g(4.849mmol)、4,4’−ジメチルベンゾフェノン2.5g(12.12mmol)、DMSOを反応容器に仕込み入れ、窒素置換後、室温にてt−BuOK2.7g(24.24mmol)を仕込み入れ、室温で23時間反応を行った。
反応液に水を加えて、析出した結晶をろ過し、得られた粗製をクロロホルム:n−ヘキサン混合溶媒を展開溶媒としたシリカゲルカラムにて精製した。
精製物は、外観が白色粉末状であり、1H−NMR、MSにて構造分析の結果、DTVPFであると同定された。収量1.72g(収率49.1%)であった。
さらに、これを、260℃、2.3×10-4Paで昇華精製した。
得られた精製物は、DSC測定の結果、融点246.48℃、Tg119.77℃であった。
【0097】
(有機発光素子の作製)
DTVPFを正孔注入輸送材料および電子注入輸送材料として用い、TMBN(化16)およびN20(化12)を含む発光層を有する図1に示すような層構成からなる有機発光素子を、以下の方法により作製した。
【0098】
(第1の電極)
まず、パターニング済みの透明導電膜(ITO)が厚さ150nmで成膜されたガラス基板を、純水と界面活性剤による超音波洗浄、純水による流水洗浄、純水とイソプロピルアルコールの1:1混合溶液による超音波洗浄、イソプロピルアルコールによる煮沸洗浄の順で洗浄処理した。この基板を沸騰中のイソプロピルアルコールからゆっくり引き上げ、イソプロピルアルコール蒸気中で乾燥させ、最後に、紫外線オゾン洗浄を行った。
この基板を陽極1とし、真空チャンバ内に配置し、1×10-6Torrまで真空排気し、該真空チャンバ内には、蒸着材料をそれぞれ充填した各モリブデン製ボートと、所定のパターンで成膜するための蒸着用マスクを設置しておき、前記ボートの通電加熱し、蒸着材料を蒸発させることにより、順次、各有機層の成膜を行った。
【0099】
(正孔注入輸送層)
正孔輸送材料としてDTVPFを用い、三酸化モリブデン(MoO3)とともに、各ボートを同時に通電加熱して、共蒸着した。DTVPF:MoO3=67:33の正孔注入層2を膜厚10nmで形成した。
次に、DTVPFのみからなる正孔輸送層3を膜厚56nmで形成した。
(発光層)
TMBN:N20=94:6の発光層4を膜厚15nmで形成した。
(電子注入輸送層)
DTVPFのみからなる電子輸送層5を膜厚38nmで形成した。
その上に、DTVPF:Liq=50:50の電子注入層6を膜厚10nmで形成した。
【0100】
(第2の電極)
真空チャンバを真空に保ったまま、マスクを交換し、陰極蒸着用のマスクを設置し、アルミニウム(Al)層を膜厚100nmで形成し、陰極7とした。
【0101】
真空チャンバを大気圧に戻し、上記により各層を蒸着させた基板を取り出し、窒素置換されたグローブボックスに移し、UV硬化樹脂を用いて、別のガラス板により封止し、有機発光素子を得た。
この素子の層構成を簡略化して示すと、ITO(150nm)/DTVPF:MoO3(10nm,67:33)/DTVPF(56nm)/TMBN:N20(15nm,94:6)/DTVPF(38nm)/DTVPF:Liq(10nm,50%)/Al(100nm)である。
【0102】
この有機発光素子に、10Vの直流電圧を印加したところ、N20由来の青色発光が得られた。この有機発光素子の発光スペクトルを図2に示す。
素子の電流密度100A/m2時の外部量子効率は0.89%、視感発光効率は0.11 lm/Wであった。
また、この発光色の色度は、CIE座標(100A/m2)において、(x,y)=(0.157,0.044)であり、色純度の高い青色発光であることが認められた。
【0103】
[比較例1]
実施例1の素子におけるDTVPFをsp−DPVBi(化15)に換えて、それ以外は実施例1と同様にして、有機発光素子を作製した。
この素子の層構成を簡略化して示すと、ITO(110nm)/sp−DPVBi:MoO3(10nm,67:33)/sp−DPVBi(35nm)/TMBN:N20(20nm,94:6)/sp−DPVBi(45nm)/sp−DPVBi:Liq(12nm,50:50)/Al(100nm)である。
【0104】
この有機発光素子に、10Vの直流電圧を印加したところ、N20由来の発光が若干得られたが、実施例1のような高色純度の青色発光は得られなかった。また、この有機発光素子の発光スペクトルを図3に示す。
【0105】
[実施例2]
TMN1357(化17)をホスト材料とし、TPA(化26)を発光ドーパントとした発光層を有する図1に示すような層構成からなる有機発光素子を、実施例1と同様にして作製した。
この素子の層構成を簡略化して示すと、ITO(150nm)/DTVPF:MoO3(10nm,67:33)/DTVPF(56nm)/TMN1357:TPA(20nm,98:2)/DTVPF(15nm)/DTVPF:Liq(10nm,50:50)/Al(100nm)である。
【0106】
この有機EL素子に1000A/m2の直流電流を印加した際の発光スペクトルを図4に示す。
図4に示すように、TPA由来の純青色発光が得られた。
また、この発光色の色度は、CIE座標(1000A/m2)において、(x,y)=(0.165,0.083)であり、色純度の高い青色発光であることが認められた。
【0107】
[実施例3]
TMN1357(化17)をホスト材料とし、N20(化12)を発光ドーパントとした発光層を有する図1に示すような層構成からなる有機発光素子を、実施例1と同様にして作製した。
この素子の層構成を簡略化して示すと、ITO(150nm)/DTVPF:MoO3(10nm,67:33)/DTVPF(56nm)/TMN1357:N20(15nm,94:6)/DTVPF(38nm)/DTVPF:Liq(10nm,50:50)/Al(100nm)である。
【0108】
この有機EL素子に100A/m2の直流電流を印加した際の発光スペクトルを図5に示す。
図5に示すように、N20由来の純青色発光が得られた。
また、この発光色の色度は、CIE座標(100A/m2)において、(x,y)=(0.157,0.043)であり、色純度の高い青色発光であることが認められた。
【0109】
以上から、本発明に係る一般式(1)で表される化合物を用いた有機発光素子によれば、色純度が高い青色発光が得られることが認められた。
また、酸化性ドーパントをドープした一般式(1)で表される化合物を含む層は、正孔注入層として利用可能であり、また、還元性ドーパントをドープした一般式(1)で表される化合物を含む層は電子注入層として利用可能であることも認められた。
したがって、本発明に係る有機発光素子は、高い色純度が求められる表示素子や光源としての有効利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】実施例1に係る有機発光素子の層構成を模式的に示した断面図である。
【図2】実施例1に係る有機発光素子の発光スペクトルを示したグラフである。
【図3】比較例1に係る有機発光素子の発光スペクトルを示したグラフである。
【図4】実施例2に係る有機発光素子の発光スペクトルを示したグラフである。
【図5】実施例3に係る有機発光素子の発光スペクトルを示したグラフである。
【符号の説明】
【0111】
1 第1の電極(陽極)
2 正孔注入層
3 正孔輸送層
4 発光層
5 電子輸送層
6 電子注入層
7 第2の電極(陰極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に発光層を含む1層または複数層の有機層を備えた有機発光素子であって、前記有機層の少なくとも1層が、下記一般式(1)で表される化合物を単独または混合物として含有していることを特徴とする有機発光素子。
【化1】

(ここで、A,BおよびCは、それぞれ独立に、水素、置換もしくは無置換のフェニレン基、置換もしくは無置換のナフタレン基、置換のビフェニレン基、置換もしくは無置換のフルオレン基および置換もしくは無置換のカルバゾール基の中から選ばれた置換基である。AとBは、互いに結合して、置換または無置換の飽和の環結合を形成していてもよい。R1〜R5は、それぞれ独立に、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基およびシクロアルコキシ基の中から選ばれた置換基である。R6〜R13は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、置換もしくは無置換のフェニレン基および置換もしくは無置換のビフェニレン基の中から選ばれた置換基である。n0およびn1は、それぞれ独立に、1または2である。n2およびn3は、それぞれ独立に、1〜8の整数である。Xは、ユニット(a)およびユニット(b)を結ぶ単結合である。)
【請求項2】
前記有機層が正孔注入輸送層、発光層および電子注入輸送層を含み、前記正孔注入輸送層、発光層および電子注入輸送層のうちの少なくとも1層が前記一般式(1)で表される化合物を含有していることを特徴とする請求項1記載の有機発光素子。
【請求項3】
一対の電極間に正孔注入輸送層、発光層および電子注入輸送層を含む発光ユニットが複数組積層され、前記各発光ユニット間に電荷発生層が形成されていることを特徴とする請求項2記載の有機発光素子。
【請求項4】
第1の電極と前記発光層もしくは前記電荷発生層との間に、正孔注入輸送材料の有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有する正孔注入輸送層を備えていることを特徴とする請求項1〜3までのいずれかに記載の有機発光素子。
【請求項5】
第2の電極と発光層の間に、電子注入輸送材料の有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有する電子注入輸送層を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記酸化性ドーパントが、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化レニウム、酸化モリブデンまたは酸化ルテニウムであることを特徴とする請求項4または5記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記発光層において、発光ドーパント濃度に偏差があることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記電極が、透明基板上に透明導電性薄膜が形成されたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有機発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−218568(P2009−218568A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332358(P2008−332358)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(504265754)財団法人山形県産業技術振興機構 (60)
【Fターム(参考)】