説明

有機繊維タイヤコード、空気入りタイヤ及び有機繊維タイヤコードの製造方法

【課題】泡の発生しているディップ液を汚染することなく消泡する方法によって製造された有機繊維タイヤコードを提供する。
【解決手段】有機繊維タイヤコードのディップ工程において、ディップ処理部にはディップ液22の溜められた処理槽24が設けられている。処理槽24中には、ディップ液上にフィルム又は織物の消泡用シート40が浮かんでいる。消泡用シート40の材質は高分子材料であり、例えば、PE、PP、PET、ナイロン(ポリアミド系の合成高分子)などが用いられる。又、消泡用シート40は、撥水性材料、又は、消泡性材料で被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維タイヤコードをディップ液中に潜らせる際に生じた泡を消泡する製造方法によって製造された有機繊維タイヤコード、空気入りタイヤ及び有機繊維タイヤコードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タイヤに埋設される有機繊維タイヤコードには、ゴムとの接着力を増すためのディップ液を付着させている。 有機繊維タイヤコードにディップ液を付着させる方法としては、ラテックスを含むディップ液を溜めた槽の中に有機繊維タイヤコードを連続して潜らせ、その後、挟持ローラで挟持して余分なディップ液を除去している。
【0003】
ところで、有機繊維タイヤコードをディップ液中に連続して潜らせると、有機繊維タイヤコードと共に空気がディップ液中に進入し、進入した空気が泡となる。しかし、この泡は消え難く、有機繊維タイヤコードのディップ処理が増えるにしたがって増加し、ディップ液の表面に泡の層が生じてしまう。この泡の量が多くなると、ディップにむらが生じたり、また、ガムアップ(挟持ローラ上にかたまりができること。)の原因ともなる。
【0004】
上記問題を解決するためには、生じた泡を即座に消泡することが必要である。生じた泡を消泡する技術として、機械的消泡、電気的消泡などが上げられるが、ラテックスを含むディップ液に対しては、界面化学消泡が一般的に用いられている。
【0005】
従来では、界面化学消泡としてディップ液中に、シリコーン系、アルコール系などの液体状の各種消泡剤を添加し、生じた泡を消泡剤の作用で消泡するのが一般的である。この消泡剤の種類について様々な検討が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−13277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ディップ工程などの製造工程や廃水処理工程などで、液体の表面に生じる泡は、生産性を著しく減退させる場合があり、その対策として消泡剤を添加していた。
【0007】
しかしながら、工程によっては、消泡剤が汚染物質となって製品に混入し、性能低下を引き起こしてしまう場合がある。例えば、上述したディップ工程において、ディップ槽で生じる泡を消泡剤を添加して除去した結果、消泡剤が有機繊維タイヤコードに付着し、接着低下を引き起こすという問題が生じている。
【0008】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑み、泡の発生しているディップ液を汚染することなく消泡する方法によって製造された有機繊維タイヤコード、空気入りタイヤ及び有機繊維タイヤコードの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の特徴は、タイヤ補強用の有機繊維タイヤコードであって、ディップ液でディップする際に生じる泡を消泡用シートで消泡して製造する有機繊維タイヤコードであることを要旨とする。
【0010】
第1の特徴に係る有機繊維タイヤコードは、泡の発生しているディップ液を汚染することなく消泡する方法によって製造される。
【0011】
又、消泡用シートは、撥水性材料あるいは消泡性材料で被覆されていることが好ましい。消泡用シートの表面が撥水性あるいは消泡性となるため、接触した泡を消泡することができる。
【0012】
又、消泡用シートの材質は、高分子材料であることが好ましい。
【0013】
又、消泡用シートは、ディップ液に浮くことが好ましい。消泡用シートがディップ液に浮いているため、ディップ液表面に浮かんできた泡を確実に消泡することができる。
【0014】
本発明の第2の特徴は、上述した有機繊維タイヤコードを適用した空気入りタイヤであることを要旨とする。例えば、上述した有機繊維タイヤコードをカーカスやベルトのコードとして使用することができる。
【0015】
本発明の第3の特徴は、タイヤ補強用の有機繊維タイヤコードをディップ液でディップする際に生じる泡を消泡用シートで消泡して製造する有機繊維タイヤコードの製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、泡の発生しているディップ液を汚染することなく消泡する方法によって製造された有機繊維タイヤコード、空気入りタイヤ及び有機繊維タイヤコードの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0018】
(有機繊維タイヤコード)
本実施形態に係る有機繊維タイヤコード10は、周知のように複数本の有機繊維が加撚、延伸されて製糸されている。この有機繊維タイヤコード10の製糸工程では、有機繊維の各々にオイルローラで油剤を付着させている。この油剤は、有機繊維に加撚時等に必要とされる潤滑性(摩擦低減)、制電性、集束性を持たせるために使用される。
次に、有機繊維タイヤコード10をデイップ処理する処理機16について説明する。図1に示すように、有機繊維タイヤコード10が巻かれたリール18の搬送方向下流側(矢印A方向)には、複数の搬送ローラ19を介してディップ処理部20が設けられている。
【0019】
ディップ処理部20には、ディップ液22の溜められた処理槽24が設けられており、処理槽24には有機繊維タイヤコード10をディップ液22に浸漬するための浸漬ローラ25が設けられている。
【0020】
処理槽24の上方には、有機繊維タイヤコード10に付着した余剰のディップ液22を除去するための挟持ローラ27が配置されている。
【0021】
挟持ローラ27の搬送方向下流側には、乾燥部26、ストレッチ部28、リラックス部30及び冷却部32が順に配置されている。尚、これら各処理部の前後には搬送ローラ29が配置されている。
【0022】
乾燥部26は、周知のように有機繊維タイヤコード10を所定温度に加熱してディップ液22を乾燥させる。ストレッチ部28は、有機繊維タイヤコード10に所定の緊張を与える。又、リラックス部30は、有機繊維タイヤコード10の緊張を開放する。又、冷却部32は、有機繊維タイヤコード10を冷却する。
【0023】
処理槽24中には、図2に示すように、ディップ液上にフィルム又は織物の消泡用シート40が浮かんでいる。消泡用シート40の材質は高分子材料であり、例えば、有機高分子材料のPE、PP、PET、ナイロン(ポリアミド系の合成高分子)などが用いられる。又、消泡用シート40は、撥水性材料、又は、消泡性材料で被覆されている。撥水性材料としては、例えば、フッ素系樹脂などが挙げられ、消泡性材料としては、例えば、シリコーン系樹脂などが挙げられる。
【0024】
消泡用シート40は、手で扱える程度の大きさであり、例えば、消泡用シート40の形状が正方形あるいは長方形のフィルム状である場合、その一辺は5mm以上であることが好ましい。
【0025】
又、ディップ液表面領域の出来るだけ広い領域を消泡用シート40で覆うことが好ましい。
【0026】
(有機繊維タイヤコードの製造方法)
次に、有機繊維タイヤコードの製造方法について説明する。
【0027】
まず、紡糸(及び延伸)された複数の有機繊維の各々は、オイルローラによって消泡剤の添加された油剤が連続的に付着され、その後周知の方法によって加撚、延伸され、1本の有機繊維タイヤコード10となってリールに巻き取られる。
【0028】
次に、図1に示すように、リール18に巻かれた有機繊維タイヤコード10は、引き出されて搬送ローラ12を介してディップ処理部20へ搬送される。
【0029】
有機繊維タイヤコード10は浸漬ローラ12の下方を潜る際にディップ液22に浸漬される。ここで、有機繊維タイヤコード10がディップ液22に進入する際に空気も同時に進入して泡を生ずるが、図2に示すように、処理槽24の表面に浮かんだ消泡用シート40に泡が接触することにより、泡の消泡速度が促進され、生じた泡をディップ液の表面で消泡することができる。
【0030】
その後、処理槽24から引き出された有機繊維タイヤコード10は、余剰のディップ液22が挟持ローラ27で除去され、適量のディップ液22のみが残される。
【0031】
ディップ液22の付着した有機繊維タイヤコード10は、搬送ローラ12を介して乾燥部26へ至り、所定温度に加熱され乾燥処理される。
【0032】
乾燥処理が終了した有機繊維タイヤコード10は、ストレッチ部28へ至って所定の緊張が掛けられ、その後、リラックス部30へ至って緊張が解かれる。そして、最後には冷却部32に搬送されて冷却され、巻き取り用のリール34に巻かれる。
(空気入りタイヤ)
本実施形態に係る空気入りタイヤは、上述の有機繊維タイヤコード10をカーカスやベルトに適用したものである。尚、本実施形態に係る空気入りタイヤは、従来より公知の構造で、特に限定はなく、通常の方法で製造できる。又、本実施形態に係る空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0033】
空気入りタイヤの一例としては、1対のビード部、当該ビード部にトロイド状をなして連なるカーカス、当該カーカスのクラウン部をたが締めするベルト及びトレッドを有してなる空気入りタイヤなどが好適に挙げられる。本実施形態に係る空気入りタイヤは、ラジアル構造を有していてもよいし、バイアス構造を有していてもよい。
【0034】
カーカスは、上述した有機繊維タイヤコード10をゴムで被覆し形成される。又、ベルトを上述した有機繊維タイヤコード10をゴムで被覆し形成してもよい。
【0035】
(作用及び効果)
本実施形態に係る有機繊維タイヤコード10を製造する場合、撥水性又は消泡性の表面を有する消泡用シート40を泡の立っている液体表面に浮かせて接触させる。このため、泡の消泡速度が促進され、短時間で消泡することができる。
【0036】
又、消泡剤を使用しないため、泡の発生しているディップ液を汚染することなく消泡することができる。
【0037】
更に、従来、消泡剤として用いられる界面活性剤はディップ液中に分散し難いものが多く、十分な消泡効果を持たせるための消泡剤の添加によってゴムとの接着力が低下するという問題があった。又、この場合には、ガムアップが起こりやすくなるという問題があった。本実施形態に係る有機繊維タイヤコード10の製造方法では、消泡剤を使用しないため、接着力の低下やガムアップを回避することができる。
【0038】
又、消泡用シート40は、撥水性材料あるいは消泡性材料で被覆されているため、その表面が撥水性あるいは消泡性となるため、接触した泡を消泡することができる。
【0039】
又、消泡用シート40は、ディップ液22に浮くことができるため、ディップ液表面に浮かんできた泡を確実に消泡することができる。
【0040】
又、消泡用シート40を用いた消泡方法により、有機繊維タイヤコードを製造すると、ディップ工程においてディップ液を汚染することがない。
【0041】
(その他の実施の形態)
以上、有機繊維タイヤコードを製造する場合、ディップ液でディップする際に生じる泡を消泡用シートで消泡する方法について説明したが、消泡用シートによる消泡方法は、有機タイヤコードの製造工程以外に用いても構わない。コード以外の製造工程や排水処理工程などにおいても、消泡用シートを用いることにより、泡の発生している液体を汚染することなく消泡することができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
本発明の効果を確かめるために、消泡用シートを作成した。消泡用シートの材質は、6ナイロンであり、形状は、キャンバス織物で、繊度が940dtex/1、打ち込み数が縦横30本/5cmであった。又、消泡用シートの表面は、フッ素系樹脂で被覆されていた。この消泡シートを3×3cmにカットしたものを用意した。
【0044】
(試験方法)
試験は、表1に示すディップ液を作成し、ディップ液100mlを300ml容量のトールビーカーに入れて、ハンドミキサーで1分程度撹拌して泡立たせた。そして、泡だったディップ液を直径10cm程度のシャーレに直ちに移し、そのまま静置した場合(比較例1)と、用意した消泡用シートをディップ液表面に浮かべた場合(実施例1)とについて、消泡するまでの時間を計測した。
【表1】

【0045】
(結果)
結果を表2に示す。
【表2】

【0046】
実施例1は、比較例1と比較すると、消泡するまでの時間が大幅に短縮された。よって、撥水性又は消泡性の表面を有する消泡用シートを泡の立っている液体表面に浮かせて接触させることにより、泡の消泡速度が促進され、短時間で消泡することができることが確認できた。又、消泡剤を使用していないため、ディップ液が汚染されることはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る有機繊維タイヤコードをディップ処理する処理機の側面図である。
【図2】図1の処理槽の拡大図である。
【符号の説明】
【0048】
10…有機繊維タイヤコード
12…搬送ローラ
12…浸漬ローラ
16…処理機
18…リール
19…搬送ローラ
20…ディップ処理部
22…ディップ液
24…処理槽
25…浸漬ローラ
26…乾燥部
27…挟持ローラ
28…ストレッチ部
29…搬送ローラ
30…リラックス部
32…冷却部
34…リール
40…消泡用シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ補強用の有機繊維タイヤコードであって、
ディップ液でディップする際に生じる泡を消泡用シートで消泡して製造することを特徴とする有機繊維タイヤコード。
【請求項2】
前記消泡用シートは、撥水性材料で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の有機繊維タイヤコード。
【請求項3】
前記消泡用シートは、消泡性材料で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の有機繊維タイヤコード。
【請求項4】
前記消泡用シートの材質は、高分子材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機繊維タイヤコード。
【請求項5】
前記消泡用シートは、前記ディップ液に浮くことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機繊維タイヤコード。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の有機繊維タイヤコードを適用することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項7】
タイヤ補強用の有機繊維タイヤコードをディップ液でディップする際に生じる泡を消泡用シートで消泡して製造することを特徴とする有機繊維タイヤコードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−16726(P2006−16726A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195799(P2004−195799)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】