説明

有機繊維タイヤコードの熱処理方法

【課題】熱処理時の熱エネルギー効率を改善し、設備の小型、簡易化、及びエネルギーの有効利用を図ることができるタイヤコードの熱処理方法を提供する。
【解決手段】有機繊維タイヤコードの熱処理方法であって、前記タイヤコード10を、該タイヤコードの走行方向に沿って流れる過熱水蒸気の気流中15を走行させ熱処理する。前記過熱水蒸気の気流速度は、5〜100m/秒とすることが好ましく、また、前記過熱水蒸気の温度は、120〜260℃とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維タイヤコードの熱処理方法に関し、熱処理時の熱効率を向上することで熱処理装置の小型化、簡易化及び熱エネルギーの省力化を実現できる有機繊維タイヤコードの熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン、ポリエステルなどの有機繊維は機械的性質、寸法安定性、耐久性に優れ、衣料用のみでなく産業用途にも広く利用されている。産業用としてはゴム資材用途で幅広く使用されており、なかでもタイヤコードではその特徴を生かし多量に利用されている。
【0003】
例えば、空気入りタイヤの補強材として使用されるナイロン、ポリエステル等の有機繊維コードは、コードとゴム材料間との接着性、コード特性を付与するため接着処理液(RFL液)に生コードを浸漬した後熱処理を施す、いわゆるディップ処理が行われている。
【0004】
従来、有機繊維タイヤコードの単体やすだれ織物をディップ処理する場合、図3に示すようなディッピングマシン30により、まず、レットオフ装置に搭載された巻物B1から引き出された生コードCをディップ液を貯留したディップタンク31中で浸漬ロールを通してディップ液中を通過させディッピングすることによって、ディップ液を生コードCに付着させる。ディッピングによりディップ液を含浸された生コードCは絞りロール35によって引き上げられ、長さ方向に張力をかけた状態で乾燥炉32を経て熱処理炉33に搬送され所定の延伸条件、温度下で炉内を循環する熱風により一定時間の緊張熱処理が行われた後、緊張緩和工程34に搬送され、接着性の付与とコード特性が調整された処理コードPとなり、巻物B2にロール状に巻き取られる。従来、このディッピング処理には、以上の一連の処理を1つの装置で連続して行うことができるディッピング装置が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0005】
上記乾燥炉32や熱処理炉33等の加熱炉は、ブタンガス、LNG、灯油などを燃焼させ加熱した炉内の空気を加熱媒体として炉内を循環させ用いていたため、タイヤコードの加熱は炉内の対流伝熱に限られてしまい、このため十分な熱処理効果を得るために長時間の加熱が必要となり、また加熱炉は巨大なものが必要となり、その結果加熱に必要な熱エネルギーは炉の放熱をカバーするのに大部分が消費されエネルギー効率が低かった。
【0006】
また、タイヤコードの処理速度を上げると、ますます巨大な加熱炉が必要となり、5階建てビル1棟分の規模の加熱炉となっていた。さらに、熱源の発生する熱エネルギーの10%以下が、タイヤコードの熱処理に利用されるだけで、大半の熱エネルギーが炉から逃げてしまい、熱エネルギーの大幅な効率化が求められている。
【特許文献1】特開平10−140123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前記の従来技術における問題点を解決するもので、タイヤコードの熱処理における熱エネルギー効率を改善し、設備の小型、簡易化、及びエネルギーの有効利用を図ることができるタイヤコードの熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、有機繊維タイヤコードの熱処理方法であって、前記有機繊維タイヤコードを、該タイヤコードの走行方向に沿って流れる過熱水蒸気の気流中を走行させることを特徴とする有機繊維タイヤコードの熱処理方法である。
【0009】
前記過熱水蒸気の気流速度は、5〜100m/秒とすることが好ましく、また、前記過熱水蒸気の温度は、120〜260℃とすることが好ましい。
【0010】
前記過熱水蒸気の気流速度は、前記タイヤコードの走行速度以上であることが好ましい。
【0011】
本発明においては、 前記有機繊維タイヤコードにゴムとの接着剤を付与した後に熱処理を施してもよく、前記熱処理を有機繊維タイヤコードに施した後に、該有機繊維タイヤコードにゴムとの接着剤を付与することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の大規模な熱処理炉に代えて、タイヤコードを過熱水蒸気の気流中を走行させ熱処理を施すことができるので、処理設備が小型化、簡易化されるとともに、タイヤコードの熱処理に消費される熱エネルギーを大幅に低減することができ、かつ、タイヤコード処理工程の操業性、生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。本実施形態においては、タイヤ用シングルコードのディップ処理加工の例に従い説明するが、本発明は本例に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明に係る過熱水蒸気を利用した熱処理装置1の構成を示す概略図、図2は加熱室11内を示す概略図である。
【0015】
有機繊維タイヤコード(以下、単に「タイヤコード」と言うことがある)の熱処理は、上記従来技術で説明した通り、レットオフ装置に搭載された巻物から引き出されたタイヤコード10をディップタンク中でRFL液などのディップ処理した後、加熱室11内に搬送され所定の延伸条件、温度下で一定時間の緊張熱処理が行われた後、接着性の付与とコード特性が調整された処理コードとなって巻物にロール状に巻き取られる。
【0016】
なお、RFL液などのディップ処理は、通常はタイヤコードの熱処理前に行われるが、熱処理の後でディップ処理を行ってもよく、また、該熱処理の前後の両工程で行ってもよい。
【0017】
図1、2に示すように、熱処理装置1は、水蒸気を発生させるボイラー13、その水蒸気を加熱し過熱水蒸気を発生させる誘導過熱機12、走行するタイヤコード10を熱処理する加熱室11、加熱室11に過熱水蒸気を供給する供給口16、加熱室11内を流れた過熱水蒸気を回収する回収口17を備えている。加熱室11内には、タイヤコード10のターンローラ18が複数設けられており、コード10の走行経路を加熱室11内で複数回折り返すように形成されている。
【0018】
過熱水蒸気は加熱室11内を気流15となって流れた後、回収され配管14を介してボイラー13に戻され、過熱水蒸気が装置1内を循環し再利用されることでエネルギーの消費をより低減することができる。
【0019】
ここで、過熱水蒸気とは、ボイラーからの飽和蒸気を大気圧下で加熱することにより得られる100℃以上の水蒸気のことをいう。過熱水蒸気の特長としては、加熱空気に比べて熱容量が大きいため、加熱対象物を急速に加熱することができる点、および、空気による伝熱は対流伝熱に限られてしまう一方、過熱水蒸気では対流伝熱に加えて放射伝熱や凝縮伝熱によっても伝熱するため、エネルギー効率に優れる点が挙げられる。従って、これらの特長点より、過熱水蒸気は、コードの熱延伸装置における熱処理において使用するに際し、従来の加熱空気に比し極めて有効である。
【0020】
過熱水蒸気を発生させる装置としては、特に制限されることはないが、例えば、虹技株式会社の過熱水蒸気発生装置(HAS−3)を用いることができる。この過熱水蒸気発生装置では誘導過熱方式により、従来のガス燃焼方式に比べ急速な昇温、正確な温度制御が可能である。
【0021】
本発明においては、過熱水蒸気の気流15をタイヤコード10の走行方向に沿って発生させ、過熱水蒸気の気流中15をタイヤコード10を走行させ熱処理する。これにより、タイヤコード10と過熱水蒸気との接触状態を均一にし、かつ接触時間を維持することで熱処理効率を格段に向上させることができる。
【0022】
熱処理条件としては、タイヤコード10に対し、従来の熱処理条件に対応するものとすればよく、特に制限されることはなく、過熱水蒸気の気流速度(供給量)、温度、及びコードの走行速度により適宜調整することができる。
【0023】
過熱水蒸気の気流速度としては、5〜100m/秒とすることが好ましく、より好ましくは10〜80m/秒、さらには20〜60m/秒が好ましい。気流速度が遅いと十分な熱処理効果が得られず、また、100m/秒を超える気流を発生させることはエネルギー効率面で却って好ましくない。
【0024】
なお、上記過熱水蒸気の気流発生は、(1)ボイラーで発生する水蒸気の発生量をコントロールすることで容易に流速を変えることができる、(2)過熱水蒸気を加熱室に供給する供給管の断面積と加熱室の断面積との比を調節することでも任意の流速が得られる。さらに、前記(1)と(2)の方法を組み合わせることで最適条件を得ることができる。
【0025】
前記過熱水蒸気の温度は、120〜260℃程度であり、120℃未満ではタイヤコード10の乾燥、熱処理効果が不十分であり、260℃を超えるとコード物性の低下、接着剤の劣化を生じるおそれがある。
【0026】
また、前記過熱水蒸気の気流速度は、前記タイヤコードの走行速度以上であることが好ましい。タイヤコードの走行速度と気流速度、そのベクトルが同じ時は、タイヤコードと気流とが相対的に静止状態にある加熱となるので、単に過熱水蒸気に暴露し熱処理することになり低効率での熱処理となる。また、過熱水蒸気の気流速度が、タイヤコードの走行速度より遅いと、加熱室に供給される熱エネルギーが減少し、ヒートセット効果が減少する。
【0027】
本発明におけるタイヤコードとしては、ナイロン6、ナイロン66、アラミドなどのポリアミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、レーヨン、ポリケトン、ビニロン等、タイヤを始めとして各種ゴム製品に使用できるものは全て適用可能である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【0029】
図1、2に示す熱処理装置を作製し、過熱水蒸気発生手段として、ボイラーは大阪電機(株)のKSG−300型(水蒸気発生能力:30kg/時間)、過熱水蒸気発生装置は虹技(株)のHAS−3型(過熱水蒸気発生能力:24kg/時間)を使用した。加熱室長さを2m、コードのターン数を3回として、過熱水蒸気の気流速度を変更しタイヤコードの熱処理を行った。
【0030】
使用したタイヤコードは、ポリエステルタイヤコード(1670dtex/2、上×下撚数=38×38回/10cm、ペプサル系+RFLの2浴接着剤処理糸)である。熱処理後のコード物性をJIS L1017に準拠し、島津製作所(株)オートグラフDCS−500を用いて測定した。なお、寸法安定性は、6.8N荷重時伸度と乾熱収縮率との和であり、値が小さいほど良好である。ゴムとの接着力はJIS L1017に記載のTテスト法(A法、埋め込み長さ10mm)により測定し、従来例を100とする指数を求めた。結果を表1に示す。また、加熱エネルギー比は、熱処理に要した消費エネルギーを積算電力で評価し、従来例を100とする指数で示した。
【0031】
なお、従来例は市金工業社(株)製のシングルコード処理機を使用した。
【0032】
【表1】

【0033】
表に示される通り、従来の空気加熱に比べ、過熱水蒸気による熱処理では、熱処理効果が優れ、従来法と同等以上のコード物性、接着性を得ることができ、エネルギー消費量を格段に低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る有機繊維タイヤコード熱処理方法は、ナイロン、ポリエステルなどのタイヤコードのシングルコードの熱処理、コードセッターによる複数本タイヤコードの同時処理に、またすだれ織物の熱処理にも使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施形態の熱処理装置を示す概略図である。
【図2】実施形態の加熱室を示す概略図である。
【図3】従来のディッピング装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0036】
10……タイヤコード
11……加熱室
15……過熱水蒸気の気流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維タイヤコードの熱処理方法であって、
前記有機繊維タイヤコードを、該タイヤコードの走行方向に沿って流れる過熱水蒸気の気流中を走行させる
ことを特徴とする有機繊維タイヤコードの熱処理方法。
【請求項2】
前記過熱水蒸気の気流速度が5〜100m/秒である
ことを特徴とする請求項1に記載の有機繊維タイヤコードの熱処理方法。
【請求項3】
前記過熱水蒸気の温度が120〜260℃である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の有機繊維タイヤコードの熱処理方法。
【請求項4】
前記過熱水蒸気の気流速度が前記タイヤコードの走行速度以上である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機繊維タイヤコードの熱処理方法。
【請求項5】
前記有機繊維タイヤコードにゴムとの接着剤を付与した後に熱処理を施す
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機繊維タイヤコードの熱処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱処理を有機繊維タイヤコードに施した後に、該有機繊維タイヤコードにゴムとの接着剤を付与する
ことを特徴とする有機繊維タイヤコードの熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−114598(P2009−114598A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291915(P2007−291915)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】