説明

有機繊維補強材被覆用ゴム組成物および空気入りタイヤ

【課題】低発熱性を維持しつつ、耐破壊特性、耐疲労性がバランス良く向上し、ビード耐久性に優れたチェーハーの原料となる有機繊維補強材被覆用ゴム組成物および空気入りタイヤを提供すること。
【解決手段】下記(1)〜(4)を満たすカーボンブラックを含有する有機繊維補強材被覆用ゴム組成物;(1)ジブチルフタレート(DBP)吸収量(ml/100g)が、90〜180、(2)BET比表面積(BET5)(m/g)と外部比表面積(STSA)(m/g)との差が、5≦(BET5)−(STSA)≦12、(3)前記カーボンブラックのストークス径(Dst)とストークス径分布(ΔD−50(半値幅))との比が、0.70≦(ΔD−50)/(Dst)≦1.10、かつ(4)BET比表面積(BET5)(m/g)とヨウ素吸着量(IA)(mg/g)との比が、1.05≦(BET5)/(IA)≦1.35。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム成分とカーボンブラックとを含有し、空気入りタイヤのチェーハーの原料として有用な有機繊維補強材被覆用ゴム組成物であって、低発熱性を維持しつつ、耐破壊特性、耐疲労性および接着性がバランス良く向上し、ビード耐久性に優れたチェーハーの原料となる有機繊維補強材被覆用ゴム組成物および空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示す重荷重用空気入りタイヤにおいては、ビードワイヤー1およびビードフィラー2の補強材として、有機繊維からなる有機繊維補強材をゴムで被覆したチェーハー7が、カーカスプライ5の巻き上げ端を覆うように配設されている。また、図示を省略するが、このチェーハー7のタイヤ幅方向外側あるいは内側に、チェーハー7と共に、スチールコードをゴムで被覆したスチールチェーハーを配設しても良い。かかるチェーハーには、タイヤ走行中に繰り返し負荷が作用するため、有機繊維からなる有機繊維補強材と被覆ゴムとの間、あるいは被覆ゴム同士の間でセパレーションが発生し易い。したがって、有機繊維からなる有機繊維補強材の補強効果を高め、セパレーションなどの故障発生を防止するため、その被覆ゴムには、有機繊維との高い接着性や、優れた低発熱性、耐破壊特性、耐疲労性が要求されている。
【0003】
被覆ゴムと有機繊維との接着性を向上させる手法としては、例えば、被覆用ゴム組成物中に、有機酸金属塩を配合する方法、あるいは強固な接着層を形成し得るレゾルシンなどのメチレン受容体、ヘキサメチレンテトラミンなどのメチレン供与体を配合する方法などが、従来から用いられている(例えば、下記特許文献1)。これらの方法により、有機繊維と被覆ゴムとの接着性は向上する。しかしながら、これらの方法では、被覆ゴムの耐破壊特性が低下するため、空気入りタイヤの耐久性が十分に向上するとは言い難く、引き続き改善の余地があった。
【0004】
一方、チェーハーなどに使用される有機繊維の被覆ゴムに配合されるカーボンブラックとしては、被覆ゴムの発熱を抑制する(つまり、低発熱性を改良する)ため、比較的粒径の大きいカーボンブラック(例えばHAFクラス)が使用される。しかしながら、比較的粒径の大きいカーボンブラックを被覆ゴム中に配合すると、低発熱性は改良されるが、耐破壊特性が十分に向上するとは言い難い。したがって、低発熱性を維持しつつ、耐破壊特性を向上することができるカーボンブラックを配合した有機繊維補強材用の被覆ゴムが、市場において要求されているのが実情であった。
【0005】
下記特許文献2では、150℃から450℃までの加熱減量が0.87質量%以上、トルエン着色透過度が90%以上、かつ窒素吸着比表面積(NSA)(m/g)とヨウ素吸着量(IA)(mg/g)との比を1.10〜1.30に調整したカーボンブラック、ならびに脂肪酸エステルおよび脂肪酸金属塩の少なくともいずれかである加工助剤を含有するゴム組成物が、耐破壊特性と低発熱性とを両立できる点を記載している。また、下記特許文献3では、セチルトリアンモニウム(CTAB)比表面積(m/g)を115〜145、DBP吸収量(24M4DBP)(ml/100g)とCTABとの比を0.75〜0.92、CTABとIAとの比を0.97〜1.25、比着色量TINT(%)≧−46.787(24M4DBP/CTAB)+168に調整したカーボンブラックを含有するゴム組成物が、耐破壊特性と低発熱性とを両立できる点を記載している。また、下記特許文献4では、NSAとIAとの比を1.20〜1.30、NSAとCTABとの差を5以下に調整したカーボンブラックを含有するゴム組成物が、耐破壊特性と低発熱性とを両立できる点を記載している。さらに、下記特許文献5では、CTABが120以上、圧縮DBP吸収量が90(ml/100g)以上、かつアグリゲート間ポア容積のうちポア径25〜30nmの占める量が30ml/100g以上であるカーボンブラックを含有するゴム組成物が、耐破壊特性と低発熱性とを両立できる点を記載している。
【0006】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、上記文献で着目したカーボンブラックの各指標を最適化するのみでは、カーボンブラック凝集体表面の細孔の度合いを正確に把握することが困難であることが判明した。カーボンブラック凝集体表面の細孔の度合いは、特に低発熱性と耐破壊特性とに大きな影響を及ぼすため、上記文献で使用されたカーボンブラックでは、被覆ゴムにおいて、特に低発熱性と耐破壊特性との両立を図る場合、さらなる改良の余地があることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−263102号公報
【特許文献2】特開2009−40904号公報
【特許文献3】特開2000−344945号公報
【特許文献4】特開2007−231179号公報
【特許文献5】特開2005−344063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低発熱性を維持しつつ、耐破壊特性、耐疲労性および接着性がバランス良く向上し、ビード耐久性に優れたチェーハーの原料となる有機繊維補強材被覆用ゴム組成物および空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、カーボンブラック凝集体表面の細孔の度合いを正確に把握する手法について、鋭意検討を行った。その結果、BET比表面積(BET5)と外部比表面積(STSA)との差が特定の範囲内にあるカーボンブラックでは、カーボンブラック凝集体表面の細孔の度合いが、低発熱性と耐破壊特性、耐疲労性および接着性との両立を図るうえで特に好ましいことが判明した。さらに、BET5とSTSAとに加えて、従来からカーボンブラックの特性を示す指標として使用されているジブチルフタレート(DBP)吸収量と、ヨウ素吸着量(IA)と、カーボンブラックのストークス径(Dst)およびストークス径分布(ΔD−50(半値幅))と、の関係で最適なカーボンブラックを配合したゴム組成物を被覆ゴムとして有機繊維補強材を製造し、かかる有機繊維補強材を原料としてチェーハーを製造することにより、チェーハーの低発熱性と耐破壊特性および耐疲労性とをバランス良く改良できることを見出した。本発明は、上記の検討の結果なされたものであり、下記の如き構成により上述の目的を達成するものである。
【0010】
即ち、本発明は、ゴム成分とカーボンブラックとを含有する有機繊維補強材被覆用ゴム組成物であって、前記カーボンブラックが、下記(1)〜(4)を満たすものであり、
(1)ジブチルフタレート(DBP)吸収量(ml/100g)が、90〜180、
(2)BET比表面積(BET5)(m/g)と外部比表面積(STSA)(m/g)との差が、5≦(BET5)−(STSA)≦12、
(3)前記カーボンブラックのストークス径(Dst)とストークス径分布(ΔD−50(半値幅))との比が、0.70≦(ΔD−50)/(Dst)≦1.10、かつ
(4)BET比表面積(BET5)(m/g)とヨウ素吸着量(IA)(mg/g)との比が、1.05≦(BET5)/(IA)≦1.35、少なくとも前記カーボンブラックを含む補強用充填材の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して40〜70質量部であり、かつ前記補強用充填材中の前記カーボンブラックの割合が70質量%以上であることを特徴とする有機繊維補強材被覆用ゴム組成物に関する。
【0011】
本発明に係るゴム組成物は、カーボンブラックの(1)ジブチルフタレート(DBP)吸収量(ml/100g)が、90〜180であるため、低発熱性と耐破壊特性、耐疲労性および接着性とをバランス良く両立することができる。DBP吸収量は、カーボンブラック凝集体のストラクチャーの指標となるものであり、DBP吸収量が(1)に記載の範囲を下回ると、カーボンブラック凝集体のストラクチャーが低すぎるため、ゴムの補強性が低下し、耐久力が悪化する傾向がある。一方、DBP吸収量が(1)に記載の範囲を超えると、カーボンブラック凝集体のストラクチャーが高すぎるため、低発熱性が悪化する傾向がある。
【0012】
また、本発明に係るゴム組成物は、カーボンブラックの(2)BET比表面積(BET5)(m/g)と外部比表面積(STSA)(m/g)との差が、5≦(BET5)−(STSA)≦12となる。BET比表面積(BET5)と外部比表面積(STSA)とは、いずれも窒素吸収量に基づいて計算された比表面積に関する指標であるため、両者の差を算出することで、カーボンブラック凝集体表面の細孔の度合いを正確に把握することができる。
【0013】
カーボンブラック凝集体表面の細孔にはゴム分子が入り込めないため、細孔が多いほどカーボンブラックとゴム分子との結びつきが弱くなる。本願発明では、カーボンブラックの(BET5)−(STSA)の関係が上記(2)を満たすため、カーボンブラックとゴム分子との結びつき度合いが最適化され、その結果、低発熱性と耐破壊特性、耐疲労性および接着性とをバランス良く両立することができる。
【0014】
また、本発明に係るゴム組成物は、(3)カーボンブラックのストークス径(Dst)とストークス径分布(ΔD−50(半値幅))との比が、0.70≦(ΔD−50)/(Dst)≦1.10であるため、低発熱性と耐破壊特性、耐疲労性および接着性とをバランス良く向上することができる。(ΔD−50)/(Dst)が(3)に記載の範囲を下回ると、低発熱性が悪化する傾向がある。一方、(ΔD−50)/(Dst)が(3)に記載の範囲を超えると、耐破壊特性および耐疲労性が悪化する傾向がある。
【0015】
さらに、本発明に係るゴム組成物は、カーボンブラックの(4)BET比表面積(BET5)(m/g)とヨウ素吸着量(IA)(mg/g)との比が、1.05≦(BET5)/(IA)≦1.35であるため、カーボンブラックとゴム分子との結びつき度合いが最適化され、低発熱性と耐破壊特性とをバランス良く向上することができる。(BET5)/(IA)は、カーボンブラック粒子の表面活性の指標となるものであり、(BET5)/(IA)が(4)に記載の範囲を下回ると、低発熱性が悪化する傾向がある。一方、(BET5)/(IA)が(4)に記載の範囲を超えると、耐破壊特性および耐疲労性が悪化する傾向がある。
【0016】
本発明に係るゴム組成物では、少なくとも前記カーボンブラックを含む補強用充填材の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して40〜70質量部であり、かつ前記補強用充填材中の前記カーボンブラックの割合を70質量%以上に設定する。カーボンブラックを含む補強用充填材の配合量をかかる範囲内に設定することにより、低発熱性と耐破壊特性、耐疲労性および接着性とをバランス良く向上することができる。
【0017】
上記ゴム組成物において、前記カーボンブラックの外部比表面積(STSA)(m/g)が、75〜170であることが好ましい。STSAは、カーボンブラック粒子の比表面積(粒径)の指標となるものであり、STSAが75未満であると耐破壊特性が悪化する傾向があり、170を超えると低発熱性が悪化する傾向がある。
【0018】
上記ゴム組成物において、前記ゴム成分100質量部に対して、硫黄を硫黄分換算で2〜5質量部含有することが好ましい。また、上記ゴム組成物において、前記ゴム成分100質量部に対して、レゾルシン誘導体を0.5〜2.5質量部、かつメラミン樹脂を前記レゾルシン誘導体の含有量の0.5〜2倍の範囲内で含有することが好ましい。これらの構成によれば、低発熱性と耐破壊特性および耐疲労性とをバランス良く向上しつつ、加硫ゴムの接着性を向上することができる。
【0019】
また、本発明は前記いずれかに記載の有機繊維補強材被覆用ゴム組成物で有機繊維補強材を被覆してなるチェーハーを備える空気入りタイヤに関する。上述のとおり、本発明に係るゴム組成物の加硫ゴムは、低発熱性、耐破壊特性、耐疲労性および接着性がバランス良く向上されている。したがって、かかるゴム組成物で有機繊維補強材を被覆してなるチェーハーを備える空気入りタイヤは、特にビード耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図
【図2】各カーボンブラックについて、横軸に(BET5)/(IA)、縦軸に(BET5)−(STSA)をプロットしたグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る有機繊維補強材被覆用ゴム組成物は、ゴム成分とカーボンブラックとを含有する。本発明においては、ゴム成分としてジエン系ゴムを含有することが好ましい。
【0022】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエンを含有するブタジエンゴム(SPB)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上のブレンドとして用いることができる。これら例示したジエン系ゴムとしては、必要に応じて、末端を変性したもの(例えば、末端変性BRや、末端変性SBRなど)、あるいは所望の特性を付与すべく改質したもの(例えば、改質NR)も使用可能である。なお、ポリブタジエンゴム(BR)については、コバルト(Co)触媒、ネオジム(Nd)触媒、ニッケル(Ni)触媒、チタン(Ti)触媒、リチウム(Li)触媒を用いて合成したものに加えて、WO2007−129670に記載のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物を用いて合成したものも使用可能である。加硫ゴムの低発熱性と耐破壊特性および耐疲労性とをバランス良く向上するためには、前記ジエン系ゴムの中でも、天然ゴムを主成分として使用することが好ましい。具体的には、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、天然ゴムを60質量部以上含有することが好ましく、80質量部以上含有することがより好ましく、実質的にゴム成分中、天然ゴムが100質量部であることが特に好ましい。
【0023】
本発明においては、使用するカーボンブラックが下記(1)〜(4)を満たす点が最大の特徴である。
(1)ジブチルフタレート(DBP)吸収量(ml/100g)が、90〜180、
(2)BET比表面積(BET5)(m/g)と外部比表面積(STSA)(m/g)との差が、5≦(BET5)−(STSA)≦12、
(3)前記カーボンブラックのストークス径(Dst)とストークス径分布(ΔD−50(半値幅))との比が、0.70≦(ΔD−50)/(Dst)≦1.10、かつ
(4)BET比表面積(BET5)(m/g)とヨウ素吸着量(IA)(mg/g)との比が、1.05≦(BET5)/(IA)≦1.35。
【0024】
上記(1)〜(4)を満たすカーボンブラックは、タイヤ業界で通常使用されるISAFクラス(ASTMグレード)のカーボンブラックよりもカーボンブラック凝集体表面の細孔の度合いが少なく、その粒径、ストラクチャー、凝集体分布が特殊なカーボンブラックである。本発明においては、かかるカーボンブラックを含有するゴム組成物を原料として使用することで、低発熱性と耐破壊特性、耐疲労性および接着性とがバランス良く改良される。より具体的には、ISAFクラスのカーボンブラックを含有するゴム組成物に匹敵する耐破壊特性および耐疲労性と、HAFクラスのカーボンブラックを含有するゴム組成物に匹敵する低発熱性とを実現することができる。
【0025】
本発明に係るゴム組成物では、外部比表面積(STSA)(m/g)が、75〜170であるカーボンブラックを含有することが好ましい。この場合、耐破壊特性と低発熱性とをよりバランス良く両立することができる。
【0026】
特に、本発明においては、カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸収量(ml/100g)が、120〜150であることが好ましく、BET比表面積(BET5)(m/g)と外部比表面積(STSA)(m/g)との差が、7≦(BET5)−(STSA)≦10であることが好ましく、カーボンブラックのストークス径(Dst)とストークス径分布(ΔD−50(半値幅))との比が、0.75≦(ΔD−50)/(Dst)≦0.95であることが好ましく、あるいはBET比表面積(BET5)(m/g)とヨウ素吸着量(IA)(mg/g)との比が、1.10≦(BET5)/(IA)≦1.30であることが好ましい。また、本発明においては、カーボンブラックの外部比表面積(STSA)(m/g)が、90〜120であることが好ましい。
【0027】
上記カーボンブラックの特性評価項目のうち、ジブチルフタレート(DBP)吸収量(ml/100g)はJIS K6217−4、BET比表面積(BET5)(m/g)および外部比表面積(STSA)(m/g)はJIS K6217−7、ストークス径(Dst)およびストークス径分布(ΔD−50(半値幅))はJIS K6217−6、ならびにヨウ素吸着量(IA)(mg/g)はJIS K6217−1に準拠して測定したものである。
【0028】
本発明に係るゴム組成物では、上記(1)〜(4)を満たすカーボンブラックを含む補強用充填材の配合量が、ゴム成分100質量部に対して40〜70質量部であり、かつ補強用充填材中のカーボンブラックの割合が70質量%以上である。低発熱性と耐破壊特性、耐疲労性および接着性とをバランス良く向上するためには、カーボンブラックを含む補強用充填材の配合量の配合量は、45〜65質量部であることが好ましく、45〜55質量部であることがより好ましい。
【0029】
本発明においては、カーボンブラック以外の充填材として、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、タルク、クレー、アルミナ、セリサイトなどが使用可能である。なお、シリカを使用する場合は、シランカップリング剤も併用することが好ましい。
【0030】
また、本発明に係るゴム組成物では、有機繊維との接着性を向上するために、メチレン受容体とメチレン供与体とを配合することが好ましい。メチレン受容体の水酸基とメチレン供与体のメチレン基とが硬化反応することで、有機繊維との接着性を高めることができる。
【0031】
メチレン受容体としては、フェノール類化合物、またはフェノール類化合物をホルムアルデヒドで縮合したフェノール系樹脂が用いられる。かかるフェノール類化合物としては、フェノール、レゾルシンまたはこれらのアルキル誘導体が含まれる。アルキル誘導体には、クレゾール、キシレノールなどのメチル基誘導体、ノニルフェノール、オクチルフェノールなどの長鎖アルキル基による誘導体が含まれる。フェノール類化合物は、アセチル基などのアシル基を置換基に含むものであってもよい。
【0032】
また、フェノール類化合物をホルムアルデヒドで縮合したフェノール系樹脂には、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂(フェノール−ホルムアルデヒド樹脂)、クレゾール樹脂(クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂)など、さらには複数のフェノール類化合物からなるホルムアルデヒド樹脂などが含まれる。これらは、未硬化の樹脂であって、液状または熱流動性を有するものが用いられる。
【0033】
これらの中でも、ゴム成分や他の成分との相溶性、硬化後の樹脂の緻密さ、さらには信頼性の見地から、メチレン受容体としてはレゾルシンまたはレゾルシン誘導体が好ましく、レゾルシン、またはレゾルシン−アルキルフェノール−ホルマリン樹脂がより好ましい。特に、接着性と低発熱性とをバランス良く向上するためには、ゴム成分100質量部に対してレゾルシン誘導体を0.5〜2.5質量部配合することが好ましく、0.7〜2.0質量部配合することがより好ましい。
【0034】
上記メチレン供与体としては、ヘキサメチレンテトラミンまたはメラミン樹脂が用いられる。かかるメラミン樹脂としては、例えば、メチロールメラミン、メチロールメラミンの部分エーテル化物、メラミンとホルムアルデヒドとメタノールの縮合物などが用いられ、その中でもヘキサメトキシメチルメラミンが特に好ましい。特に、接着性と低発熱性とをバランス良く向上するためには、メラミン樹脂を前記レゾルシン誘導体の含有量の0.5〜2倍の範囲内で配合することが好ましく、0.7〜1.5倍の範囲内で配合することがより好ましい。
【0035】
本発明に係るゴム組成物は、上記ゴム成分、カーボンブラックおよびシリカなどの充填材、有機酸金属塩、メチレン受容体およびメチレン供与体とともに、硫黄、シラン系カップリング剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜配合し用いることができる。
【0036】
硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。加硫後のゴム物性や耐久性などを考慮した場合、ゴム成分100質量部に対する硫黄の配合量は、硫黄分換算で0.5〜5質量部が好ましく、1〜3質量部がより好ましい。
【0037】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。加硫後のゴム物性や耐久性などを考慮した場合、ゴム成分100質量部に対する加硫促進剤の配合量は、0.1〜5質量部が好ましい。
【0038】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。ゴム物性や耐久性などを考慮した場合、ゴム成分100質量部に対する老化防止剤の配合量は、0.1〜5質量部が好ましい。
【0039】
本発明に係るゴム組成物は、上記ゴム成分、カーボンブラックおよびシリカなどの充填材、有機酸金属塩、メチレン受容体およびメチレン供与体、必要に応じて硫黄、シラン系カップリング剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0040】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、ゴム成分およびカーボンブラックのみを予め混練マスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。なお、ゴム成分およびカーボンブラックを予めマスターバッチとする場合、ゴムラテックスにカーボンブラックを混入して得られるウエットマスターバッチを使用してもよい。
【0041】
図1に示すとおり、本発明に係る空気入りタイヤは、一対のビードワイヤー1と、該ビードワイヤー1のタイヤ径方向外側に配されたビードフィラー2と、ビードワイヤー1およびビードフィラー2から各々タイヤ径方向外側に延びるサイドウォール3と、サイドウォール3の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド4と、一対のビードワイヤー1で端部側がタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられたカーカスプライ5と、カーカスプライ5の外周側(タイヤ径方向外側)に配された複数のベルトプライ(図1では、6a〜6dの4枚)からなるベルト6と、を備える。トレッド4は、単一のゴム部で構成してもよく、あるいは接地面側のキャップトレッドとタイヤ径方向内側のベーストレッドとの2層で構成してもよい。
【0042】
ビードワイヤー1およびビードフィラー2のタイヤ径方向内側には、カーカスプライ5を介して、チェーハー7およびリムストリップ8が配され、リムストリップ8がタイヤリム(図示せず)に接するように着座する。ビードフィラー2のタイヤ径方向外側には、チェーハー7を挟み込むようにチェーハーパッド9が配される。一方、カーカスプライ5の内周側には、空気圧保持のためのインナーライナー10が配されている。また、ベルト6の端部側であって、タイヤ径方向内側にはショルダーパッド11が配され、ベルトプライ6bおよび6cの間にはベルトエッジフィラー12が配される。
【0043】
本発明に係るゴム組成物で有機繊維からなる有機繊維補強材を被覆することにより、前記チェーハー7を構成する。有機繊維としては、例えばナイロン、ポリエステル、レーヨン、アラミドを例示することができる。また、チェーハー7と共に、スチールコードをゴムで被覆したスチールチェーハーを、チェーハー7のタイヤ幅方向外側あるいは内側に配設しても良い。本発明に係るゴム組成物を用いて、ゴム用押出機などの公知の設備により、有機繊維からなる有機繊維補強材を製造し、これをチェーハーとして備える未加硫タイヤを成型した後、公知の方法に従い加硫することで、低発熱性を維持しつつ、耐破壊特性、耐疲労性および接着性がバランス良く向上し、ビード耐久性に優れたチェーハーを備える空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は、各ゴム組成物を150℃にて30分間加熱、加硫して得られたゴムサンプルを下記の評価条件に基づいて評価を行った。
【0045】
(1)ゴム硬度
JIS K6253に準拠し、23℃でのゴム硬度(デュロメータAタイプ)を測定、比較例1の測定値を100として指数評価で表示し、数値が大きいほどゴム硬度(剛性)が高く、良好であることを意味する。
【0046】
(2)破断強度(耐破壊特性)
JIS K6251に準拠し、ダンベル3号を用いてサンプルを作製して引張試験を行い、サンプル破断時の破断強度を測定した。比較例1の破断強度の測定値を100として指数評価で表示し、数値が大きいほど耐破壊特性に優れることを意味する。
【0047】
(3)耐屈曲疲労性
JIS K6260に準拠して耐屈曲疲労性を評価した。比較例1の測定値を100として指数評価で表示し、数値が大きいほど良好であることを意味する。
【0048】
(4)低発熱性(tanδ)
UBM社製粘弾性スペクトロメータを用いて、初期歪み10%、動的歪み2%、周波数50Hz、温度60℃でのtanδ値を測定した。比較例1の測定値を100として指数評価で表示し、数値が小さいほど低発熱性に優れることを意味する。
【0049】
(5)タイヤ耐久性
各ゴム組成物をベルトエッジフィラーの原料として使用したベルトを含む空気入りタイヤ(11R22.5)を作製し、直径1.7mの鋼製ドラムを備えた室内ドラム試験機を使用し、空気圧をJIS D4230に規定の100%、速度40km/hとし、タイヤ負荷荷重をJIS規定の140%から始め、150時間毎に荷重を10%ずつ上げてタイヤに故障が発生するまで走行試験を行った。比較例1の空気入りタイヤの故障発生までの走行距離を基準とし、比較例1の走行距離に比して、故障発生までの走行距離が10%以上短い場合を「×(劣る)」、10%以上長い場合を「○(良好)」、±10%未満の場合を「△(同等)」として評価した。
【0050】
(ゴム組成物の調製)
表1および表2の配合処方に従い、実施例1〜7および比較例1〜5のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1および表2に記載の各配合剤を以下に示す(表1および表2において、カーボンブラックおよび各配合剤の配合量を、ゴム成分100質量部に対する質量部数で示す)。なお、カーボンブラックは以下の製造方法により製造した。
【0051】
a)ゴム成分
天然ゴム(NR) 「RSS#3」
スチレンブタジエンゴム(SBR) 「SBR1502」、(JSR社製)
b)シリカ 「ニプシールAQ」、(日本シリカ工業社製)
c)レゾルシン−アルキルフェノール−ホルマリン樹脂(レゾルシン誘導体) 「スミカノール620」、(住友化学社製)
d)ヘキサメトキシメチルメラミン(メラミン樹脂) 「サイレッツ963L」、(三井サイテック)
e)オイル 「プロセスP200」、(ジャパンエナジー社製)
f)不溶性硫黄 「ミュークロン HS OT−20」、(フレキシス社製)
g)亜鉛華 「亜鉛華1号」、(三井金属鉱業社製)
h)ステアリン酸 (日本油脂社製)
i)老化防止剤 「サントフレックス6PPD」、(フレキシス社製)
j)加硫促進剤 「サンセラーCM(CBS)」、(三新化学社製)
【0052】
(カーボンブラックの製造方法)
炉頭部に接線方向空気供給口と炉軸方向に装着された燃焼バーナーを備える燃焼室と、該燃焼室と同軸的に連設された原料油噴射ノズルを有する多段の狭径反応室および広径反応室と、により構成されるオイルファーネス炉を用いて、カーボンブラック混合ガス温度を1000〜2200℃、空気量(Nm/h)と原料導入量(kg/h)の比を2.0〜6.0、空気量と燃料導入量(kg/h)の比を15.0〜30.0、原料導入量と燃料導入量の比を3.0〜8.0の範囲内で適宜調整し、規定の比表面積、ストラクチャー、表面活性、凝集体分布、細孔の度合いを有するカーボンブラックを得るために、下記i)〜iv):
i)原料油の分割導入、
ii)酸素ガス添加、
iii)反応時間0.002〜0.05(秒)、
iv)乾燥温度180〜250(℃)、
を単独もしくは組み合わせて表1および表2に記載のカーボンブラック(A)〜(E)を製造した。表3にカーボンブラック(A)〜(E)のカーボンブラック特性を示す。また、カーボンブラック(A)〜(E)について、横軸に(BET5)/(IA)、縦軸に(BET5)−(STSA)をプロットしたグラフを図2に示す。
【0053】
また、カーボンブラック(F)〜(G)として、下記に記載のカーボンブラック市販品を使用した。表3にカーボンブラック(F)〜(G)のカーボンブラック特性を示す。また、カーボンブラック(F)〜(G)について、横軸に(BET5)/(IA)、縦軸に(BET5)−(STSA)をプロットしたグラフを図2に示す。
g)カーボンブラック(F) 「シースト300(HAF−LS)」、東海カーボン社製
h)カーボンブラック(G) 「シースト3(HAF)」、東海カーボン社製
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
表1の結果から、カーボンブラック(A)〜(E)のいずれかを含有する実施例1〜7では、低発熱性、耐破壊特性、および耐疲労性がバランス良く向上し、かつ耐久性に優れることがわかる。一方、表2の結果から、カーボンブラック(F)または(G)を含有する比較例1〜3では、使用したカーボンブラックが上記(1)〜(4)の条件のいずれかを満たさないため、低発熱性、耐破壊特性、耐疲労性および耐久性のいずれかが悪化することがわかる。また、カーボンブラック(A)を含有するものの、その含有量が少ない比較例4では、耐破壊特性が悪化し、カーボンブラック(A)の含有量が多い比較例5では、低発熱性が悪化することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分とカーボンブラックとを含有する有機繊維補強材被覆用ゴム組成物であって、
前記カーボンブラックが、下記(1)〜(4)を満たすものであり、
(1)ジブチルフタレート(DBP)吸収量(ml/100g)が、90〜180、
(2)BET比表面積(BET5)(m/g)と外部比表面積(STSA)(m/g)との差が、5≦(BET5)−(STSA)≦12、
(3)前記カーボンブラックのストークス径(Dst)とストークス径分布(ΔD−50(半値幅))との比が、0.70≦(ΔD−50)/(Dst)≦1.10、かつ
(4)BET比表面積(BET5)(m/g)とヨウ素吸着量(IA)(mg/g)との比が、1.05≦(BET5)/(IA)≦1.35、
少なくとも前記カーボンブラックを含む補強用充填材の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して40〜70質量部であり、かつ前記補強用充填材中の前記カーボンブラックの割合が70質量%以上であることを特徴とする有機繊維補強材被覆用ゴム組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックの外部比表面積(STSA)(m/g)が、75〜170である請求項1に記載の有機繊維補強材被覆用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分100質量部に対して、硫黄を硫黄分換算で0.5〜5質量部含有する請求項1または2に記載の有機繊維補強材被覆用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム成分100質量部に対して、レゾルシン誘導体を0.5〜2.5質量部、かつメラミン樹脂を前記レゾルシン誘導体の含有量の0.5〜2倍の範囲内で含有する請求項1〜3のいずれかに記載の有機繊維補強材被覆用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の有機繊維補強材被覆用ゴム組成物で有機繊維補強材を被覆してなるチェーハーを備える空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−180449(P2012−180449A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44130(P2011−44130)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】