説明

有機膜の形成方法、ノズルプレート、インクジェットヘッド、および電子機器

【課題】基材を高密度に被覆することができ、アルカリ性溶液に対しても高い耐性を有する有機膜の形成方法を提供することを目的とする
【解決手段】基材100の表面にプラズマ処理を行うプラズマ処理工程と、プラズマ処理した基材100の表面を、少なくとも水を含む雰囲気下に暴露する暴露処理工程と、を含む前処理工程と、基材100の表面上にシランカップリング剤により有機膜110を形成する有機膜形成工程と、を有することを特徴とする有機膜の形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機膜の形成方法、ノズルプレート、インクジェットヘッド、および電子機器に係り、特に、シランカップリング剤を用いた有機膜を形成する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シランカップリング剤を用いた有機膜は、様々な基材に形成することができるので、幅広い分野で応用されている。インクジェットの分野においても、ノズルプレートの吐出面に撥液膜を形成する場合や、基材同士を接着する場合などに使用され、吐出性・メンテナンス性、ヘッドの耐久性を向上させる効果がある。
【0003】
シランカップリング剤を用いた単分子膜や重合膜は、基材とSi−O結合(シロキサン結合)を介して結合している。そして、この結合は、アルカリ性溶液中では、加水分解しやすく、アルカリ性溶液に接触すると、基材から消失しやすく、アルカリ溶液に対する耐久性が乏しいという問題があった。
【0004】
このような問題に対して、例えば、下記の特許文献1では、耐アルカリ性、耐熱性が高い撥水膜を提供することを目的として、シロキサン結合近傍にアルカリ性成分が近づきにくくなる置換基、および、耐熱性を有する置換基を配置した材料からなる撥水膜が記載されている。また、下記の特許文献2には、液体を吐出する吐出口がある面に撥液膜を備えた液体吐出ノズルプレートの製造方法に関し、Si酸化膜を備えたSi基板表面を化学反応で除去し活性化処理した後、物理的破壊で除去し活性化処理を行い、Si酸化膜の上に撥液膜を設けることで、ノズルプレートを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−286478号公報
【特許文献2】特開2009−29068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように、撥水膜の材質自体を改良し、アルカリ性溶液の耐久性を向上させても、下地の処理が不完全であれば、十分な反応サイト(水酸基、OH基)が形成されないため、膜と下地との密着性・膜質の低下が見られた。また、特許文献2のように、下地のSi酸化膜にプラズマ処理を行い、有機物を除去し、表面を清浄化・活性化することで撥液膜と下地の結合を強化しても、表面に十分な反応サイトを形成することができず、十分なアルカリ耐性のある高密度な膜は得られていなかった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、基材を高密度に被覆することができ、アルカリ性溶液に対しても高い耐性を有する有機膜の形成方法、ノズルプレート、インクジェットヘッド、および電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、基材の表面にプラズマ処理を行うプラズマ処理工程と、前記プラズマ処理した前記基材の表面を、少なくとも水を含む雰囲気下に暴露する暴露処理工程と、を含む前処理工程と、前記基材の表面上にシランカップリング剤により有機膜を形成する有機膜形成工程と、を有することを特徴とする有機膜の形成方法を提供する。
【0009】
請求項1によれば、基材の表面上にシランカップリング剤により有機膜を形成する前に、前処理工程として、プラズマ処理および、水を有する雰囲気下に暴露することで、基材表面に反応サイト(水酸基、OH基)を高密度に形成することができる。そして、この基材表面にシランカップリング剤を用いて有機膜を形成することで、反応サイトが高密度に形成されているため、有機膜を高密度に被覆することができ、アルカリ性溶液に対して高い耐性を有する有機膜を形成することができる。
【0010】
請求項2は請求項1において、前記暴露処理工程は、水蒸気雰囲気下で行われることを特徴とする。
【0011】
請求項2によれば、暴露処理工程を水蒸気雰囲気下で行うことで、基材表面に残存する余分な水分の量を減らすことができる。
【0012】
請求項3は請求項1または2において、前記前処理工程は、前記暴露処理工程の次に、前記基材の表面を脱水処理する脱水処理工程を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項3によれば、暴露処理工程の次に脱水処理工程を行うことで、暴露処理工程により基材表面に過剰に残存する水分を除去することができる。基材表面に水分が残存すると、シランカップリング剤と基材がシロキサン結合をしにくくなり、極めて不安定で結合力の弱い結合(水素結合)をする場合がある。したがって、脱水処理工程を行うことで、シランカップリング剤と基材とをシロキサン結合させることができ、耐久性の高い有機膜を形成することができる。
【0014】
請求項4は請求項1から3いずれか1項において、前記基材表面に少なくともSi原子を有することを特徴とする。
【0015】
請求項4によれば、基材表面に少なくともSi原子を有しているので、シランカップリング剤との密着性を向上させることができる。なお、基材表面に少なくともSi原子を有するとは、基材全体がSi原子を含む材料で形成されている場合に限らず、基材の表面部がSi原子を含む材料で形成されている場合も含むものとする。
【0016】
請求項5は、請求項1から4いずれか1項において、前記プラズマ処理工程は、少なくともO、希ガス、H、Nのいずれか、または、少なくとも2種類以上を含んだ混合ガスを含む反応ガスを使用することを特徴とする。
【0017】
請求項5によれば、プラズマ処理工程において、上記記載のガスを用いることにより、基材表面に不純物が付着することを防止することができる。
【0018】
請求項6は請求項3から5いずれか1項において、前記脱水処理工程は、少なくとも希ガスを含むガスでパージ処理を行うことを特徴とする。
【0019】
請求項7は請求項3から5いずれか1項において、前記脱水処理工程は、少なくともNを含むガスでパージ処理を行うことを特徴とする。
【0020】
請求項8は請求項3から7いずれか1項において、前記脱水処理工程は、40℃以上に加熱された雰囲気下に暴露することを特徴とする。
【0021】
請求項6から8は、脱水処理工程の具体的な方法を記載したものであり、脱水処理工程としては、希ガスを含むガス、または、Nを含むガスでパージを行う、あるいは、40℃以上に加熱された雰囲気中に暴露することで行うことができる。また、ガスによるパージを行った後、加熱処理を行うこともできる。
【0022】
請求項9は請求項1から8いずれか1項において、前記有機膜は少なくともフッ素原子を含み、撥液性を有することを特徴とする。
【0023】
請求項9によれば、有機膜は撥液性を有しているので、該有機膜を、例えばノズルプレートに用いることで、ノズル孔周辺部への液滴の付着を防止することができるので、吐出安定性を向上させることができる。
【0024】
本発明の請求項10は、前記目的を達成するために、請求項1から9いずれか1項に記載の有機膜の形成方法により形成された、少なくとも前記基材とシロキサン結合を有する有機膜を備えたことを特徴とするノズルプレートを提供する。
【0025】
本発明の請求項11は、前記目的を達成するために、請求項10に記載のノズルプレートを備えたことを特徴とするインクジェットヘッドを提供する。
【0026】
本発明の請求項12は、請求項11に記載のインクジェットヘッドを備えたことを特徴とする電子機器を提供する。
【0027】
請求項10から12は、請求項1から9に記載の有機膜の形成方法により形成された有機膜を備えたノズルプレート、インクジェットヘッド、電子機器であり、請求項1から9の有機膜の形成方法により形成された有機膜は、高密度に有機膜を形成することができ、アルカリ性に対して高い耐性を有するので、ノズルプレート、インクジェットヘッド、電子機器に対して好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の有機膜の形成方法によれば、前処理工程により、基材の表面に反応サイト(水酸基:OH基)を高密度に形成することができるので、有機膜を高密度に形成することができ、アルカリ性溶液に対して高い耐性を有する有機膜を形成することができる。また、形成された有機膜は、ノズルプレート、インクジェットヘッド、電子機器に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】インクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。
【図2】図1に示すインクジェット記録装置の印字部周辺の要部平面図である。
【図3】ヘッドの構造例を示す平面透視図である。
【図4】図3中IV−IV線に沿う断面図である。
【図5】本発明に係る有機膜形成方法を説明するための工程図である。
【図6】有機膜形成工程の他の実施形態を説明するための工程図である。
【図7】有機膜形成工程のさらに他の実施形態を説明するための工程図である。
【図8】実験結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0031】
<インクジェット記録装置の全体構成>
図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置を示した全体構成図である。同図に示すように、このインクジェット記録装置10は、インクの色毎に設けられた複数のインクジェットヘッド(以下、単に「ヘッド」ともいう。)12K、12C、12M、12Yを有する印字部12と、各ヘッド12K、12C、12M、12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
【0032】
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質などが異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0033】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置されている。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0034】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコードあるいは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0035】
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻き癖が残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0036】
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラー31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が平面をなすように構成されている。
【0037】
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラー31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバー34が設けられており、この吸着チャンバー34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
【0038】
ベルト33が巻かれているローラー31、32の少なくとも一方にモータ(不図示)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1において、時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は、図1の左から右へと搬送される。
【0039】
縁無しプリントなどを印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロールなどをニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、あるいはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラー線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0040】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラー・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラー・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面にローラーが接触するので、画像が滲み易いという問題がある。従って、本例のように、印字領域では画像面と接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0041】
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹きつけ、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0042】
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている。印字部12を構成する各ヘッド12K、12C、12M、12Yは、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている(図2参照)。
【0043】
記録紙16の搬送方向(紙搬送方向)に沿って上流側(図1の左側)から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド12K、12C、12M、12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各ヘッド12K、12C、12M、12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
【0044】
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色毎に設けられてなる印字部12によれば、紙搬送方向(副走査方向)について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち、一回の副走査で)記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、ヘッドが紙搬送方向と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0045】
なお本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するヘッドを追加する構成も可能である。
【0046】
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各ヘッド12K、12C、12M、12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは図示を省略した管路を介して各ヘッド12K、12C、12M、12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段など)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0047】
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサなど)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
【0048】
本例の印字検出部24は、少なくとも各ヘッド12K、12C、12M、12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列とからなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0049】
印字検出部24は、各色のヘッド12K、12C、12M、12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定などで構成される。
【0050】
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹きつける方式が好ましい。
【0051】
多孔質のペーパに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
【0052】
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラー45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0053】
このようにして生成されたプリント物は、排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える選別手段(不図示)が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に、本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成されている。
【0054】
また、図示を省略したが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられている。
【0055】
〔ヘッドの構造〕
次に、ヘッド12K、12C、12M、12Yの構造について説明する。なお、各ヘッド12K、12C、12M、12Yの構造は共通しているので、以下では、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
【0056】
図3(a)は、ヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図3(b)は、その一部の拡大図である。また、図3(c)は、ヘッド50の他の構造例を示す平面透視図である。図4は、インク室ユニットの立体的構成を示す断面図(図3(a)、(b)中、IV−IV線に沿う断面図)である。
【0057】
記録紙面上に形成されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド50は、図3(a)、(b)に示すように、インク滴の吐出孔であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52などからなる複数のインク室ユニット53を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙搬送方向と直交する主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0058】
紙搬送方向と略直交する方向に記録紙16の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図3(a)の構成に代えて、図3(c)に示すように、複数のノズル51が2次元に配列された短尺のヘッドブロック(ヘッドチップ)50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録紙16の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。また、図示は省略するが、短尺のヘッドを一列に並べてラインヘッドを構成してもよい。
【0059】
図4に示すように、各ノズル51は、ヘッド50のインク吐出面50aを構成するノズルプレート60に形成されている。ノズルプレート60は、例えば、Si、SiO、SiN、石英ガラスのようなシリコーン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料、ポリイミドのような樹脂系材料で構成されている。
【0060】
ノズルプレート60の表面(インク吐出側の面)には、インクに対して撥液性を有する有機膜62が形成されており、インクの付着防止が図られている。この有機膜62の形成方法については、後で詳説する。
【0061】
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル51と供給口54が設けられている。各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。共通流路55はインク供給源たるインク供給タンク(不図示)と連通しており、該インク供給タンクから供給されるインクは共通流路55を介して各圧力室52に分配供給される。
【0062】
圧力室52の天面を構成し共通電極と兼用される振動板56には個別電極57を備えた圧電素子58が接合されており、個別電極57に駆動電圧を印加することによって圧電素子58が変形してノズル51からインクが吐出される。インクが吐出されると、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
【0063】
本例では、ヘッド50に設けられたノズル51から吐出させるインクの吐出力発生手段として圧電素子58を適用したが、圧力室52内にヒータを備え、ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させるサーマル方式を適用することも可能である。
【0064】
かかる構造を有するインク室ユニット53を図3(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
【0065】
即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd×cosθとなり、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものとなど価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
【0066】
なお、本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されず、副走査方向に1列のノズル列を有する配置構造など、様々なノズル配置構造を適用できる。
【0067】
また、本発明の適用範囲はライン型ヘッドによる印字方式に限定されず、記録紙16の幅方向(主走査方向)の長さに満たない短尺のヘッドを記録紙16の幅方向に走査させて当該幅方向の印字を行い、1回の幅方向の印字が終わると記録紙16を幅方向と直交する方向(副走査方向)に所定量だけ移動させて、次の印字領域の記録紙16の幅方向の印字を行い、この動作を繰り返して記録紙16の印字領域の全面にわたって印字を行うシリアル方式を適用してもよい。
【0068】
<有機膜形成方法>
次に本発明に係る有機膜形成方法の一例について説明する。図5は、有機膜形成方法を説明するための工程図である。ここでは、図5に示すように、基材100(図4のノズルプレート60に相当)の表面側(インク吐出面側)に有機膜110(図4の有機膜62に相当)を形成する場合について説明する。
【0069】
本発明に係る有機膜形成方法は、(1)基材の表面にプラズマ処理を行うプラズマ処理工程と、(2)プラズマ処理した基材の表面を、少なくとも水を含む雰囲気下に暴露する暴露処理工程と、(3)基材の表面を脱水処理する脱水処理工程と、を含む前処理工程と、(4)基材の表面上にシランカップリング剤により有機膜を形成する有機膜形成工程と、で構成される。なお、脱水処理工程は、必要に応じて行えばよく、省略することも可能である。以下、各工程について詳しく説明する。
【0070】
≪前処理工程≫
(1)プラズマ処理工程
プラズマ処理工程は、図5(a)、(b)に示すように、基材100表面のプラズマ処理を行い、基材100表面の有機物などのコンタミネーションを除去し、さらに、未結合手(ダングリングボンド)および酸化層108の形成を行う工程である。
【0071】
基材100を構成する材料は、金属、有機材料、無機材料など、特に限定無く用いることができるが、有機膜(撥液膜)を形成する表面に少なくともSi原子を含む層が形成されていることが好ましい。Si原子を含む層が形成されていることで、シランカップリング剤との密着性を高めることができる。また、表面には、自然酸化膜、CVDなどによる酸化膜、熱酸化膜などが形成されていることが好ましい。
【0072】
プラズマ処理は、基材をプラズマ処理装置に入れて行う。プラズマ処理装置内に導入するガスは、少なくともO、希ガス(Arなど)、H、NまたはCFガスのいずれかを含むか、または2種以上を含んだ混合ガスを使用することが好ましい。
【0073】
プラズマ処理の条件は、使用処理装置のチャンバー構造や、下地部材の材質によって異なるが、例えば、YES社製のCVD装置(YES−1224P)を用いた場合の条件を以下に示す。
【0074】
Arガス(99.99%以上)を用いたプラズマ処理:ガス流量=10〜50sccm、プラズマ出力=100〜800W、処理時間=1〜60min
+Ar混合ガスを用いたプラズマ処理:混合ガス流量=10〜50sccm(好ましくは、O:Ar=25sccm:5sccm)、プラズマ出力=100〜800W、処理時間=1〜60min
(2)暴露処理工程
図5(c)に示すように、プラズマ処理工程後、少なくとも水を含む雰囲気下で基材100の暴露処理を行う。
【0075】
暴露処理工程としては、温度管理可能な恒温槽で、湿度=1〜100%で、処理時間=1〜60min処理することで行うことができる。好ましくは、湿度=60%以上、処理時間=約10minである。
【0076】
また、未結合手および酸化層108表面へのコンタミネーションを防止するため、プラズマ処理工程と暴露処理工程を同じ装置内で行うことが好ましい。例えば、上述したYES社製CVD装置(YES−1224P)を用いることで、同じチャンバー内で行うことができる。このとき、base pressureの設定を0.5torr、チャンバー温度140℃雰囲気中に0.2mLの水を蒸発させた雰囲気で処理を行うことができる。
【0077】
暴露処理工程を行うことにより、未結合手および酸化層108の表面に、シランカップリング剤の反応サイトとなる水酸基:OH基を多数形成することができる。
【0078】
なお、上記は、ガス雰囲気中に水蒸気を含む構成で説明したが、基材を水に浸漬させる方法で暴露処理工程を行うこともできる。水に浸漬させて暴露を行う場合は、室温〜100℃以上の純水中、好ましくは超純水中に浸漬することで行うことができる。
【0079】
(3)脱水処理工程
暴露処理工程を行った後、未結合手および酸化層108表面に過剰に水分が残存すると、シランカップリング剤と未結合手および酸化層108がシロキサン結合をせず、極めて不安定で結合力の弱い結合(水素結合)をする場合がある。シランカップリング剤と未結合手および酸化層108との結合が弱いとアルカリ耐性が低下するため、好ましくない。したがって、未結合手および酸化層108表面に過剰に水分が残存する場合は、図5(c)に示すように、脱水処理工程を行うことが好ましい。
【0080】
脱水処理方法としては、ガスによるパージ処理、ベーク処理などにより行うことができる。パージ処理としては、チャンバー内へガスを供給することで行う。供給するガスとしては、空気などで行うことができるが、コンタミネーション、基材100、未結合手および酸化層108への影響を考慮すると、不活性ガス(NやAr、Heなどの希ガス)で行うことが好ましい。また、パージは複数回行うことが好ましく、処理チャンバー内に蒸気センサを設置することで、チャンバー内の残存水分量から、未結合手および酸化層108上の水分の脱水に必要なパージ回数を確認することができる。
【0081】
また、脱水処理としては、ベーク処理を行うこともできる。ベーク処理としては、室温以上に設定された恒温槽内に下地部材を設置することで行うことができる。ベーク処理の条件としては、温度は40℃以上が好ましく、さらに好ましくは60℃以上であり、より好ましくは100℃以上である。また、温度の上限は、Siのみの構造体であれば1000℃以上で処理が可能であり、1100℃以下で行うことが好ましい。接着剤や圧電体などを含む構造体であれば、300℃以下で行うことが好ましく、より好ましくは、200℃以下である。高温で行うことで、短時間で処理を行うことができる。処理時間は、1分〜24時間処理を行うことができる。
【0082】
脱水処理工程は、暴露処理工程を行ったチャンバーと同一のもので行うことで、コンタミネーションを低減することができる、また、脱水処理工程は、パージ処理を行った後、ベーク処理を行うこともできる。
【0083】
なお、上述したように、脱水処理工程は、下地表面に水分が残存していなければ省略することも可能である。
【0084】
≪有機膜形成工程≫
(4)有機膜形成工程
[4A]基材上に直接形成する方法
暴露処理工程または脱水処理工程後に、図5(d)シランカップリング剤による有機膜110の形成を行う。暴露処理工程において、未結合手および酸化層108の表面に、シランカップリング剤の反応サイトとなる水酸基:OH基を多数形成しているため、有機膜形成工程において、シランカップリング剤が未結合手および酸化層108と高密度に結合し、高密度な有機膜を形成することができる。したがって、アルカリ性に対して高い耐性を付与することができる。
【0085】
シランカップリング剤は、YSiX4−n(n=1、2、3)で表されるケイ素化合物である。Yはアルキル基などの比較的不活性な基、または、ビニル基、アミノ基、あるいはエポキシ基などの反応性基を含むものである。Xは、ハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセトキシ基などの基質表面の水酸基あるいは吸着水との縮合により結合可能な基からなる。シランカップリング剤は、ガラス繊維強化プラスチックなどの有機質と無機質からなる複合材料を製造する際に、これらの結合を仲介するものとして幅広く用いられており、Yがアルキル基などの不活性な基の場合は、改質表面上に、付着や摩擦の防止、つや保持、撥水、潤滑などの性質を付与する。また、反応性基を含む場合は、主として接着性の向上に用いられる。さらに、Yに直鎖状のフッ化炭素鎖を導入したフッ素系シランカップリング剤を用いて改質した表面は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)表面のように低表面自由エネルギーを持ち、撥水、潤滑、離型などの性質が向上し、さらに撥油性も発現する。
【0086】
本発明においては、撥液性を有する有機膜:フッ素系シランカップリング剤(塩素型、メトキシ型、エトキシ型、イソシアナト型など)を形成する。撥液膜として、例えば、物理的気相成長法(蒸着法、スパッタリング法など)や化学気相成長法(CVD法、ALD法など)などのドライプロセス法や、ゾルゲル法、塗布法などのウェットプロセス法などによって形成される金属アルコキシド系撥液膜、シリコーン系撥液膜、フッ素含有系撥液膜(フッ素含有系撥液膜の市販品として、Si基材上に優れた密着性を有する旭硝子社製のサイトップやT&K社製のNANOSなどがあり、また、Gelestの販売しているシランカップリング剤など、シロキサン結合可能で膜表面にCF系の基がくる膜であれば良い)などを用いることができる。
【0087】
[4B]プラズマ重合膜上に形成する方法
図6にプラズマ重合膜上に有機膜を形成する方法を説明するための工程図である。有機膜の形成方法としては、〔4B−1〕基材の表面にプラズマ重合膜で構成される中間層を形成する中間層形成工程と、〔4B−2〕基材の表面に形成された中間層(プラズマ重合膜)に酸化処理を施す酸化処理工程と、〔4B−3〕酸化処理が施された中間層の表面に膜を形成する膜形成工程とで構成される。
【0088】
〔4B−1〕中間層形成工程
プラズマ重合膜上に有機膜を形成する場合、まず、前処理工程が終了した基材100、未結合手および酸化層108(図6(a))の表面にプラズマ重合膜で構成される中間層209を成膜する(図6(b))。
【0089】
中間層(プラズマ重合膜)209の構成材料や形成方法(成膜方法)については、特開2008−105231号公報明細書に記載されている材料、方法を好ましく用いることができる。
【0090】
即ち、中間層209の構成材料としては、例えば、オルガノポリシロキサンなどのシリコーン材料、アルコキシシランなどのシラン化合物が挙げられる。このうち、シリコーン材料が好ましく、オルガノポリシロキサンが特に好ましい。中間層209にオルガノポリシロキサンを用いることにより、シロキサン結合(Si−O)を骨格とした構造を有するので、基材100の構成材料(シリコーン系材料など)と結合しやすく、容易にプラズマ重合膜を形成することができる。
【0091】
オルガノポリシロキサンの中でも、アルキルポリシロキサンを用いることが好ましい。アルキルポリシロキサンは高分子化合物であるため、基材100上に高分子膜を形成することができる。また、高分子中にアルキル基を有するため、高分子構造に立体障害が少なく、分子が規則正しく配列した膜を形成することができる。また、アルキルポリシロキサンの中でも、特にジメチルポリシロキサンが好ましい。ジメチルポリシロキサンは、製造が容易なため、容易に入手することができる。また、反応性が高いため、後述するような酸化処理を中間層209に施したときに、メチル基を簡単に切断することができる。
【0092】
また、中間層(プラズマ重合膜)209の形成方法としては、プラズマ重合法、蒸着法、シランカップリング剤による処理、ポリオルガノシロキサンを含有する液状材料による処理などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0093】
これらの方法の中でも、プラズマ重合法を用いるのが好適である。プラズマ重合法を用いることにより、オルガノポリシロキサンのプラズマが発生するため、均質かつ均一な膜厚の中間層(プラズマ重合膜)209を形成することができる。
【0094】
〔4B−2〕酸化処理工程
次に、露点が−40〜20℃(好ましくは−40〜−20℃)の処理ガス雰囲気下で、中間層(プラズマ重合膜)209の表面に酸化処理を施し、水酸基及び/又は吸着水を導入する。
【0095】
処理ガスに対する条件や酸化処理の方法などについては、特開2008−105231号公報明細書に記載されている条件、方法などを好ましく用いることができる。
【0096】
即ち、酸化処理の方法として、紫外線、プラズマなどのエネルギー線を照射する方法を適用することができる。この方法によれば、エネルギー線が照射される領域にのみ酸化処理を施すことができるので、SiO化を効率的に行うことができる。
【0097】
特に本実施形態においては、エネルギー線を照射する方法の中でも、プラズマ照射を用いて酸化処理を行う方法が好適である。酸化処理としてプラズマ照射を用いる場合、プラズマを発生させるガス種としては、例えば、酸素ガス、窒素ガス、水素、不活性ガス(アルゴンガス、ヘリウムガスなど)などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0098】
プラズマ照射を行う雰囲気は、大気中または減圧状態のいずれであってもよいが、大気中とするのが好ましい。これにより、アルキル基とSiとの結合が切断されるのとほぼ同時に、大気中に存在する酸素分子から酸素原子が効率よく導入されるため、ポリオルガノシロキサンをより迅速にSiOに変化させることができる。
【0099】
特に、プラズマ照射には、プラズマを発生するガス種として、酸素ガスを含むガスを用いる酸素プラズマ照射を用いるのが好適である。酸素プラズマ照射によれば、酸素プラズマがアルキル基とSiとの結合を切断するとともに、Siと酸素原子との結合に利用されるため、ポリオルガノシロキサンをより確実にSiOに変化させることができる。
【0100】
また、プラズマ照射は、密閉条件(例えば、チャンバ内)または開放条件のいずれの条件で行ってもよいが、密閉条件とするのが好ましい。これにより、中間層(プラズマ重合膜)209が、プラズマ密度のより高い状態で酸化処理されるため、より多くの水酸基を中間層(プラズマ重合膜)209に導入することができる。
【0101】
〔4B−3〕膜形成工程
次に図6(c)に示すように、酸化処理が施された中間層(プラズマ重合膜)209表面に有機膜210を形成する。
【0102】
有機膜210としては、中間層(プラズマ重合膜)209とシロキサン結合が可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、金属アルコキシド系撥液膜、フッ素含有プラズマ重合膜、シリコーン系プラズマ重合撥液膜などを適用することができ、これらの中でも、フッ素含有プラズマ重合膜、シリコーン系プラズマ重合撥液膜などのプラズマ重合膜が特に好ましい。
【0103】
プラズマ重合膜で構成される有機膜の形成方法としては、特開2004−106203号公報明細書に記載される方法を好ましく用いることができる。即ち、プラズマ重合膜(有機膜)の形成は、従来公知のプラズマ処理装置を用いて行うことができる。原料としては、液状シロキサンの如き低分子量のシロキサンを気化させたものを原料ガスとして用いる。必要に応じて、この原料ガスにアルゴンやヘリウムなどの希ガス、酸素や二酸化炭素などの酸化力を有するガスなどを混合させる。これにより、原料を重合させた状態で基材100に積層することができる。
【0104】
プラズマ重合膜で構成される有機膜は、上述のとおり、低分子量のシロキサン(シロキサン結合を有する化合物)を原料とし、これをプラズマ重合させることにより形成されるもので、金属塩に対する耐性に優れており、該金属塩をインク凝集剤として含有する水性前処理液(金属塩溶液)用のノズルプレートの撥液層として最適である。
【0105】
また、金属アルコキシド系撥液膜の形成方法としては、特開2008−105231号公報明細書に記載される方法を好ましく用いることができる。即ち、液相プロセスや気相プロセスのような各種プロセスを用いて行うことができ、その中でも液相プロセスを用いることが好ましく、比較的簡単な工程により、金属アルコキシドで構成される有機膜を形成することができる。
【0106】
このように、基材100の表面に形成した中間層(プラズマ重合膜)209に酸化処理(好ましくはプラズマ照射による酸化処理)を施し、水酸基及び/又は吸着水を導入し、酸化処理が施された中間層209に有機膜210を形成する。これにより、基材100の表面側に、密着性が高く、耐擦性に優れた有機膜210を均一に形成することができる。
【0107】
したがって、インクジェットヘッドにおいて重要なインクの吐出性能及び信頼性を向上させることができ、画像品質の向上を図ることが可能となる。
【0108】
[4C]段差構造を形成する方法
図7に示した有機膜形成方法は、〔4C−1〕前処理工程が終了した基材100、未結合手および酸化層108(図7(a))の表面に第1プラズマ重合膜304を形成する工程(第1プラズマ重合膜形成工程)と、〔4C−2〕第1プラズマ重合膜304に水素プラズマ処理を行う工程(水素プラズマ処理工程)と、〔4C−3〕第1プラズマ重合膜304上に第2プラズマ重合膜306を形成する工程(第2プラズマ重合膜形成工程)と、〔4C−4〕第2プラズマ重合膜306上にマスク308を形成する工程(マスク形成工程)と、〔4C−5〕マスク308を用いて第2プラズマ重合膜306の酸化処理(またはエッチング処理)を行う工程(段差形成工程)と、〔4C−6〕マスク308を除去する工程(マスク除去工程)と、〔4C−7〕第1及び第2プラズマ重合膜304、306の表面(撥液膜形成面)に酸化処理を行う工程(酸化処理工程)と、〔4C−8〕酸化処理が施された第1及び第2プラズマ重合膜304、306の表面に有機膜320を形成する工程(膜形成工程)とから構成される。
【0109】
〔4C−1〕第1プラズマ膜形成工程
まず、図7(b)に示すように、前処理工程の終了した基材100、未結合手および酸化層108上に第1プラズマ重合膜304を形成する。第1プラズマ膜形成工程としては、上記〔4B−1〕中間層形成工程と同様の方法により行うことができる。
【0110】
〔4C−2〕水素プラズマ処理工程
次に、図7(c)に示すように、第1プラズマ重合膜304に水素プラズマ処理(Hプラズマ処理)を行い、第1プラズマ重合膜304の耐プラズマ性を向上させる。これにより、後で行われる段差形成工程における酸化処理(又はエッチング処理)において、第1プラズマ重合膜304をエッチングストップ層として機能させることが可能となる。
【0111】
水素プラズマ処理としては、以下の3種類の方法が挙げられる。
【0112】
(1)Hプラズマ照射
(2)Hと不活性ガスとを含む処理ガスのプラズマ照射
(3)Hを有する物質と不活性ガスとを含む処理ガスのプラズマ照射
プラズマ照射の条件は、Hをチャンバー内に供給し、チャンバー内の圧力を所定の値、好ましくは13.3MPa(100mTorr)以下、例えば6.7MPa(50mTorr)とする。この状態で、電極に高周波電力を印加し、処理ガスをプラズマ化してプラズマ重合膜にHプラズマを照射する。
【0113】
耐プラズマ性向上の詳細なメカニズムは必ずしも明確ではないが、Hを有するプラズマが第1プラズマ重合膜304の架橋反応を促進したり、C−O結合やC−H結合がC−C結合に変わることで科学的結合が強化され、耐プラズマ性を向上させているものと考えられる。Hを有する物質としては、取り扱いが容易であることからHやNHが好ましい。例えば、H+N処理ガスによる水素プラズマ処理で、第1プラズマ重合膜304の耐プラズマ性を向上させることができる。
【0114】
〔4C−3〕第2プラズマ重合膜形成工程
次に、図7(d)に示すように、水素プラズマ処理が行われた第1プラズマ重合膜304上に第2プラズマ重合膜306を形成する。
【0115】
このとき、第2プラズマ重合膜306の構成材料として、上述した第1プラズマ重合膜304の構成材料と同一材料を用いる。同一材料からなるプラズマ重合膜304、306を積層させることで、プラズマ重合膜同士の密着性が高い状態を維持することができる。
【0116】
第2プラズマ重合膜306の形成方法は特に限定されるものではないが、上述した第1プラズマ重合膜304の形成方法と同一方法であることが好ましく、それらの中でも、プラズマ重合法が好適に用いられる。
【0117】
〔4C−4〕マスク形成工程
次に、図7(e)に示すように、第2プラズマ重合膜306上に所定形状にパターニングされたマスク308を形成する。
【0118】
マスク308には、第2プラズマ重合膜306のノズル孔102の外周部(開口周辺部)に対応する外周部位310を包含するような所定形状の開口部312が形成されている。換言すれば、第2プラズマ重合膜306の外周部位310は、マスク308に覆われておらず、開口部312を通じて露出した構造となっている。
【0119】
図示の例では、マスク308には、各ノズル孔102にそれぞれ対応する位置に開口部312がそれぞれ設けられており、各開口部312はノズル孔102の内径を拡径した円形状に構成されている。なお、マスク308の開口部312の形状は、第2プラズマ重合膜306におけるノズル孔102の外周部位310が少なくとも露出する形状であれば特に限定されず、複数のノズル孔102に対応する外周部位310を包含する形状(例えば、帯状など)であってもよい。
【0120】
マスク308の構成材料としては、次の段差形成工程で行われる酸化処理(又はエッチング処理)に対する耐性を有するもの、即ち、次の工程で照射されるエネルギー線を遮断する機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、アルミニウムなどの金属やガラス(紫外線を遮断する機能を有するガラス)、各種セラミックス、シリコーンなどの材料を挙げることができる。
【0121】
また、マスク308の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、開口部312を有するプレート状のマスク308を第2プラズマ重合膜306に装着するようにしてもよい。具体的には、第2プラズマ重合膜306におけるノズル孔102の外周部位310が露出するように、外周部位310とマスク308の開口部312とを位置決めして、第2プラズマ重合膜306上にマスク308を接合すればよい。また、他の形成方法として、蒸着法、フォトリソグラフィー法などを用いることもできる。
【0122】
以上のように、外周部位310と開口部312とが位置決めされて、マスク308が第2プラズマ重合膜306上に配置されることにより、開口部312から露出する外周部位310を選択的に酸化処理することができる。
【0123】
〔4C−5〕段差形成工程
次に、図7(f)に示すように、マスク308で覆われた第2プラズマ重合膜306に酸化処理を行い、第2プラズマ重合膜306の外周部位310を除去し、ノズル孔102の開口周辺部にノズル孔102よりも拡径した段差構造314を形成する(図7(g)参照)。
【0124】
プラズマ重合膜に酸化処理を行うと、酸化処理が施された部分のプラズマ重合膜の膜厚が減少するという性質があることは、特開2008−105231号公報明細書に記載されている。本例では、このような性質を利用して、マスク308の開口部312から露出している部分(即ち、第2プラズマ重合膜306の外周部位310)を選択的に除去する。なお、酸化処理については、上記〔4B−2〕酸化処理工程と同様の方法により行うことができる。
【0125】
第2プラズマ重合膜306に酸化処理を行うと、上述したマスク308の機能により、第2プラズマ重合膜306のマスク308の開口部312の直下の部分、すなわち、外周部位310のみに選択的に酸化処理が施される。これにより、当該部位310の表面に終端するアルキル基がSi原子から切断され、SiO化される。そして、開口部312内にある第2プラズマ重合膜306、即ち、外周部位310における第2プラズマ重合膜306の膜厚が減少する。このとき、水素プラズマ処理によって耐プラズマ性が向上した第1プラズマ重合膜304がエッチングストップ層として機能するので、第2プラズマ重合膜306のマスク308に覆われていない部分(即ち、外周部位310)が完全に除去され、ノズル孔102よりも拡径した段差構造314がノズル孔102の開口周辺部に形成される。これにより、ノズル孔102ごとにばらつきが少ない段差構造314をノズル開口周辺部に形成することができ、吐出安定性、メンテナンス性を向上させることができる。
【0126】
なお、本実施形態では、第2プラズマ重合膜306の外周部位310を除去する方法と
して酸化処理を適用したが、酸化処理の代わりにエッチング処理を適用することも可能で
ある。
【0127】
〔4C−6〕マスク除去工程
次に、図7(g)に示すように、第2プラズマ重合膜306からマスク308を除去する。
【0128】
マスク308の除去方法は、マスク308の種類(形成方法)によって異なる。プレート状のマスク308を用いる場合、例えば、マスク308を第2プラズマ重合膜306から離反することにより除去することができる。また、マスク308を蒸着法やフォトリソグラフィー法などにより形成した場合、例えば、大気圧または減圧下において酸素プラズマやオゾン蒸気に晒す方法、マスク308の溶解液または剥離液に浸漬する方法などにより行うことができる。
【0129】
〔4C−7〕酸化処理工程
次に、図7(h)に示すように、段差構造314を構成するプラズマ重合膜304、306の表面(有機膜形成面)に酸化処理を行う。具体的には、露点が−40〜20℃(好ましくは−40〜−20℃)の処理ガス雰囲気下で、プラズマ重合膜304、306の表面に酸化処理を施し、水酸基及び/又は吸着水を導入する。これにより、次工程により形勢される撥液膜とのプラズマ重合膜304、306との密着性を向上させることができおる。酸化処理については、上記〔4B−2〕酸化処理工程と同様の方法により行うことができる。
【0130】
〔4C−8〕膜形成工程
次に、図7(i)に示すように、酸化処理が施されたプラズマ重合膜304、306の表面(有機膜形成面)に有機膜320を形成する。
【0131】
有機膜320としては、プラズマ重合膜304、306とシロキサン結合が可能なもの
であれば特に限定されるものではなく、例えば、金属アルコキシド系撥液膜、フッ素含有
プラズマ重合膜、シリコーン系プラズマ重合撥液膜などを適用することでき、これらの中
でも、フッ素含有プラズマ重合膜、シリコーン系プラズマ重合撥液膜などのプラズマ重合
膜が特に好ましい。膜形成工程としては、上記〔4B−3〕膜形成工程と同様の方法により行うことができる。
【0132】
なお、本発明に係る有機膜形成方法について、基材100としてノズル形成基板に対して有機膜を形成する場合を一例として説明したが、これに限定されず、インク流路などの孔部が形成された基材(構造体)に有機膜を形成する場合についても好適に適用することが可能である。
【0133】
以上、有機膜形成方法、ノズルプレート、インクジェットヘッド、及び電子機器について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0134】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0135】
Si基材上に、シランカップリング剤によるフッ素含有系撥液膜を蒸着法によって形成し、インク液中に浸漬し、純水で接触角を確認することで、所定時間経過後の撥液膜の性能を確認した。
【0136】
〔試料1:比較例〕
Si基材に前処理を行わず、成膜を行った。
【0137】
〔試料2:比較例〕
プラズマ処理(800W、02−gas flow=20sccm、処理時間10分間)したSi基材に成膜を行った。
【0138】
〔試料3:実施例〕
Arプラズマ処理(300W、Ar−gas flow=20sccm)した後、水蒸気暴露処理(140℃雰囲気中に0.2mLの水を蒸発)を行い、脱水処理(100℃、1時間加熱)したSi基板に成膜を行った。
【0139】
〔試料4:実施例〕
試料3の脱水処理を窒素ガスパージとした以外は、試料3と同様の方法により成膜を行った。
【0140】
また、浸漬に用いるインクは下記の組成のインクを用いた。なお、インクのpHは、いずれの組成においてもpH=9.0であった。
【0141】
(インク1の組成)
シアン分散液1(顔料濃度で) : 3%
樹脂粒子分散物P−2 : 7%
サンニックスGP−250(三洋化成工業(株)製):10%
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル :10%
オルフィンE1010(日信化学製、界面活性剤) : 1%
イオン交換水 :残部
(インク2の組成)
シアン分散液1(顔料濃度で) : 2%
樹脂粒子分散物P−2 : 8%
サンニックスGP−250(三洋化成工業(株)製): 8%
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル : 8%
オルフィンE1010(日信化学製、界面活性剤) : 1%
イオン交換水 :残部
(インク3の組成)
シアン分散液1(顔料濃度で) : 4%
樹脂粒子分散物P−2 : 7%
サンニックスGP−250(三洋化成工業(株)製): 9%
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル : 9%
オルフィンE1010(日信化学製、界面活性剤) : 1%
イオン交換水 :残部
≪結果≫
成膜を行った試料を、それぞれのインクに浸漬させ、60℃に設定した恒温槽に設置し、100時間後に取り出し、純水で静的接触角を測定した。インク1で行った結果を図8に示す。
【0142】
図8に示すように、試料1および試料2は、インク浸漬後100時間で、撥液性が劣化し、表面にSi特有のアルカリ溶液による異方性エッチングが観察された。これは、有機膜がアルカリ溶液中で消失し、基材のSiがエッチングされたためである。
【0143】
一方、試料3は、浸漬前後で変化がなく、また、光学顕微鏡観察においても、エッチピットは確認されず、基材を完全に被覆しており、高密度の膜が形成されていることが確認できる。また、試料4も高いアルカリ耐性を有しており、ベーク処理のように温度をかけることができない場合に、効果的に行うことができる。
【0144】
なお、結果は記載していないが、インク2および3(インクの含有率が異なる)についても、同様の結果が示された。また、市販の水溶性顔料インクでも、効果の確認を行っている。また、顔料・染料インク、または、インクに限らず、シランカップリング剤による有機膜のアルカリ性溶液に対する耐久性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0145】
10…インクジェット記録装置、50…ヘッド、51…ノズル、52…圧力室、54…インク供給口、55…共通液室、58…圧電素子、60…ノズルプレート、62、110、210、320…有機膜、100…基材、102…ノズル孔、108…未結合手および酸化層、209…中間層、304…第1プラズマ重合膜、306…第2プラズマ重合膜。308…マスク、314…段差構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面にプラズマ処理を行うプラズマ処理工程と、前記プラズマ処理した前記基材の表面を、少なくとも水を含む雰囲気下に暴露する暴露処理工程と、を含む前処理工程と、
前記基材の表面上にシランカップリング剤により有機膜を形成する有機膜形成工程と、を有することを特徴とする有機膜の形成方法。
【請求項2】
前記暴露処理工程は、水蒸気雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1に記載の有機膜の形成方法。
【請求項3】
前記前処理工程は、前記暴露処理工程の次に、前記基材の表面を脱水処理する脱水処理工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の有機膜の形成方法。
【請求項4】
前記基材表面に少なくともSi原子を有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の有機膜の形成方法。
【請求項5】
前記プラズマ処理工程は、少なくともO、希ガス、H、Nのいずれか、または、2種類以上を含んだ混合ガスを含む反応ガスを使用することを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の有機膜の形成方法。
【請求項6】
前記脱水処理工程は、少なくとも希ガスを含むガスでパージ処理を行うことを特徴とする請求項3から5いずれか1項に記載の有機膜の形成方法。
【請求項7】
前記脱水処理工程は、少なくともNを含むガスでパージ処理を行うことを特徴とする請求項3から5いずれか1項に記載の有機膜の形成方法。
【請求項8】
前記脱水処理工程は、40℃以上に加熱された雰囲気下に暴露することを特徴とする請求項3から7いずれか1項に記載の有機膜の形成方法。
【請求項9】
前記有機膜は少なくともフッ素原子を含み、撥液性を有することを特徴とする請求項1から8いずれか1項に記載の有機膜の形成方法。
【請求項10】
請求項1から9いずれか1項に記載の有機膜の形成方法により形成された、少なくとも前記基材とシロキサン結合を有する有機膜を備えたことを特徴とするノズルプレート。
【請求項11】
請求項10に記載のノズルプレートを備えたことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項12】
請求項11に記載のインクジェットヘッドを備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−73282(P2011−73282A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227219(P2009−227219)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】