説明

有機色素化合物及びそれを用いた半導体薄膜電極、光電変換素子、光電気化学太陽電池

【課題】低温焼成型酸化チタンとの相性が良好な有機色素を開発し太陽電池特性を向上させる。
【解決手段】有機色素の基本骨格を有し、無機酸化物半導体に結合する吸着基としてアミド結合を有するカルボン酸基を有する、下記式で表される有機化合物及びその化合物を有機色素として用いた半導体薄膜電極、光電変換素子、光電気化学太陽電池。


(式中、Aは電子供与性を持つ炭素環又は複素環、Lはチオフェン環、フラン環、ピロール環もしくはこれらが縮環した複素環の中から選ばれる電子伝達性連結基、Rは電子伝達性連結基に結合している置換基、R1およびR2はアミド基とカルボキシル基との連結アルキレン基に結合している水素原子もしくは置換基、Mは水素原子又は塩形成陽イオン。nは1〜6、mは1〜3の整数。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電気化学をメカニズムとする色素増感太陽電池の技術に関し、特に当該太陽電池の半導体薄膜電極に用いる有機色素に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエネルギー問題および環境問題に鑑みて、化石燃料に代わる再生可能なエネルギーの利用が期待されており、太陽光発電技術が特に注目を集めている。大規模発電用には、シリコンに代表されるように、無機半導体を用いた太陽電池に関する研究開発が盛んであるが、低コスト化や資源的問題から、有機系太陽電池の研究開発も同時に進んでいる。有機系太陽電池には、有機化合物を半導体として用いる有機薄膜太陽電池や、光電気化学をメカニズムとする色素増感太陽電池がある。
色素増感太陽電池の心臓部である色素において、現在一般に用いられているのは希少金属を用いるルテニウム錯体色素であるが、これは、光電変換効率・耐久性に優れてはいるものの、希少金属であるゆえに、色素増感太陽電池の実用化のための色素の安定供給に疑問がある。かたや希少金属を全く使用しないメタルフリーな有機色素において、ここ10年で様々な有機色素化合物が開発され、その性能が飛躍的に向上してはいるものの、光電変換効率および耐久性についてはルテニウム色素に及ばないのが現状である。中でも有望視されている有機色素は、カルバゾール系有機色素(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2)やインドリン系有機色素(三菱製紙株式会社・ケミクレア株式会社等から市販:製品名D149)(特許文献2)である。
また、最近ではガラス基板の代わりにプラスチック基板を用いたフレキシブルな色素増感太陽電池の開発も行われている。それに用いる酸化チタン半導体電極は、通常のガラス基板で用いられる酸化チタン半導体電極を作製する際の450℃から500℃に焼成する過程を経ることができず、100℃から150℃と比較的低温で焼成する必要があり、プラスチック基板専用の比較的低温で十分焼成可能な酸化チタン材料も開発されてきている。(特許文献3、特許文献4、非特許文献3、非特許文献4)それに応じて、色素においてもこのようなプラスチック太陽電池用の酸化チタン材料に適合する色素の開発が待たれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】PCT/JP2007/056383
【特許文献2】特許4326272号
【特許文献3】公開 2005-056627号 (2005/03/03)
【特許文献4】公開 2006-076855号 (2006/03/23)
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 128, 14256-14257 (2006)
【非特許文献2】J. Mater. Chem., 19, 4829-4836 (2009)
【非特許文献3】Chem. Lett., 36, 190-191 (2007).
【非特許文献4】Electrochem. Soc., 154, A455-A461 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、プラスチック基板を用いたフレキシブル色素増感太陽電池に用いられている色素はルテニウム錯体色素であり、この性能に匹敵する有機色素は存在しない。もし有用な有機色素が開発されれば、フレキシブル色素増感太陽電池の研究開発が加速され、実用化にますます近づくものと思われる。本発明は、カルバゾール系などの有機色素の基本骨格を有し、低温焼成型酸化チタンとの相性が良好な新規有機色素を新たに開発し、それをプラスチック基板半導体薄膜電極用の有機色素として用いることにより、ルテニウム錯体色素を用いた場合に比べて太陽電池特性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、有機色素の基本骨格を有し、無機酸化物半導体に結合する吸着基としてアミド結合を有するカルボン酸基を有する有機化合物を開発し、当該有機化合物を有機色素として用いたガラス基板もしくはプラスチック基板半導体薄膜電極、該電極を用いた光電変換素子、及び該素子を用いた光電気化学太陽電池を作製し、その太陽エネルギー変換特性を評価した結果、前記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉下記一般式(1)で表される有機化合物。
【化1】

(式中、Aは電子供与性を持つ炭素環又は複素環、Lはチオフェン環、フラン環、ピロール環もしくはこれらが縮環した複素環の中から選ばれる少なくとも1種の複素環を含む電子伝達性連結基、Rは電子伝達性連結基に結合している置換基、RおよびRはアミド基とカルボキシル基との連結アルキレン基に結合している水素原子もしくは置換基、Mは水素原子又は塩形成陽イオンを示す。nは1〜6、mは1〜3の整数を示す。)
〈2〉〈1〉に記載の有機化合物からなることを特徴とする有機色素。
〈3〉〈2〉に記載の有機色素として用いることを特徴とする半導体薄膜電極。
〈4〉〈3〉に記載の半導体薄膜電極を用いることを特徴とする光電変換素子。
〈5〉〈4〉に記載の光電変換素子を用いることを特徴とする光電気化学太陽電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明による有機化合物を有機色素として光電変換素子に用いると、従来のシアノアクリル酸型吸着基を持つ有機色素を用いた場合に比べ、光電変換効率を向上させることができる。特にプラスチック基板を用いたフレキシブル色素増感太陽電池においてはその効果が顕著であり、従来のルテニウム錯体色素を用いた場合の光電変換効率を上回る効率が観測される。具体的には、従来型では色素分子の電子伝達経路が直接無機酸化物半導体表面と結合しているため、無機酸化物半導体に注入された電子が酸化物半導体中に拡散する際に色素カチオン側に戻ってしまう再還元反応が起きやすく、結果、開放電圧が低下してしまうが、本発明では、その電子伝達経路が電子伝達性のない連結基により無機酸化物半導体と結合する吸着基であるカルボキシル基と分離されているため、色素カチオンの再還元反応が阻害され、結果、高い開放電圧を実現する。また、プラスチック基板を用いたフレキシブル色素増感太陽電池においては、低温焼成型無機酸化物半導体への電子注入効率ならびに外部量子効率が改善し、ルテニウム錯体色素を含め、従来の色素に比べて短絡電流密度も向上し、その結果、該光電変換素子を構成要素として含む?光電気化学太陽電池の性能を大幅に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の光電気化学太陽電池の構成図の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
前記一般式(1)において、Aは電子供与性を持つ炭素環又は複素環を示す。この場合、従来公知の各種の炭素環又は複素環から誘導された環構造であることができる。また環構造には単環及び多環が含有され、多環の場合、縮合多環および鎖上多環が含有される。前記単環において、その環構成元素数は4〜8、好ましくは5〜6である。前記縮合多環において、その単環の結合数は2〜6、好ましくは2〜4である。炭素環には、芳香族炭素環及び脂肪族炭素環が含有される。複素環には、芳香族複素環及び脂肪族複素環が含有される。複素環は、その構成元素として、硫黄、酸素、窒素、セレン等のヘテロ原子を1つ又は複数(2〜5)含有する環状化合物である。環中に2つ以上のヘテロ原子が含まれる場合、そのヘテロ原子は同一又は異なっていてもよい。さらに、複素環には、ベンゼン環、ナフタレン環等の炭素環や、他の複素環が縮合していてもよい。
【0011】
Aの具体例として、以下のものを例示することができる。芳香族炭素環として、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナンスレン環等、脂肪族炭素環として、シクロブテン環、シクロブタン環、シクロペンテン環、シクロペンタン環、シクロヘキセン環、シクロヘキサン環等が挙げられる。芳香族複素環として、ピリジン環、キノキサリン環、プリン環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、ナフトオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ナフトオキサゾール環、セレナゾール環、ベンゾセレナゾール環、ナフトセレナゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ナフトイミダゾール環、キノリン環、アクリジン環等、脂肪族複素環として、ピラゾリン環、ピロリジン環、ピペリジン環、インドリン環、ピラン環、イミダゾリジン環、チアゾリン環、イミダゾリン環、オキサゾリン環等が挙げられる。なお、Aにおいて、その存在する構造異性体は限定されず、各種の構造異性体を用いることができる。
【0012】
前記環Aには、1つ又は複数の置換基が結合していてもよい。このような置換基としては、例えば、メチル基、ヘキシル基などの直鎖型又はイソブチル基、2−エチルオクチル基などの分岐型の炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基;メトキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数3〜20、好ましくは5〜12のアリール基;メチルアミノ基、オクチルアミノ基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基を有するモノアルキルアミノ基、ジエチルアミノ基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基を有するジアルキルアミノ基;ピペリジル基などの環構成元素数5〜8、好ましくは5〜6の環状アミノ基;クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基;水酸基;ニトロ基;アミノ基が挙げられる。
上記Aのうち、色素増感太陽電池の増感色素として用いられる有機色素化合物の観点から、カルバゾール環、インドール環、チエノインドール環、インドリン環が好ましく、特にカルバゾール環が好ましい。
【0013】
前記一般式(1)において、Lは電子伝達性連結基を示す。この場合の電子伝達性連結基とはその連結基の一方の側の電子を他方の側へ伝達する作用を有する連結基を意味し、このような連結基は従来良く知られているものである。この連結基には、チオフェン環、フラン環、ピロール環もしくはこれらが縮環した複素環の中から選ばれる少なくとも1種の複素環を含む構造を持つものが含有される。
一般式(1)において、nは1〜6、好ましくは2〜4の整数を示す。電子伝達性連結基の数(n)においては、色素増感太陽電池に用いられる有機色素化合物として長波長光をより効率良く吸収する吸収波長帯を持つものが好ましいため少なくとも1つ以上は必要であり、また7以上の多すぎる場合においては、合成がさらに煩雑になる上、光電変換特性の顕著な向上も見られない。
【0014】
複素環を含む電子伝達性連結基の具体例を示すと、以下の通りである。
【0015】
(1)チオフェン環を含む連結基
この連結基としては下記一般式(2)で表されるものを示すことができる。
【化2】

式中、nは1〜12、好ましくは1〜8の整数を示す。RとRは、水素原子または置換基を示す。このような置換基の例として、メチル基、ヘキシル基などの直鎖型又はイソブチル基、2−エチルオクチル基などの分岐型の炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基;メトキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜12アルコキシ基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数3〜20、好ましくは5〜12のアリール基;メチルアミノ基、オクチルアミノ基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基を有するモノアルキルアミノ基、ジエチルアミノ基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基を有するジアルキルアミノ基;ピペリジル基などの環構成元素数5〜8、好ましくは5〜6の環状アミノ基;クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基;水酸基;シアノ基;ニトロ基;アミノ基が含有される。
【0016】
(2)フラン環を含む連結基
この連結基としては下記一般式(3)で表されるものを示すことができる。
【化3】

式中、n、R、Rは、前記と同じ。
【0017】
(3)ピロール環を含む連結基
この連結基としては下記一般式(4)で表されるものを示すことができる。
【化4】

式中、n、R、Rは、前記と同じ。Xは水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を示す。この場合の炭化水素基には、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が含有される。脂肪族炭化水素基において、炭素数1〜12、好ましくは1〜8のアルキル基、炭素数3〜12、好ましくは4〜8のシクロアルキル基、炭素数2〜12、好ましくは2〜8のアルケニル基、炭素数3〜12、好ましくは4〜8にシクロアルケニル基が含有される。芳香族炭化水素基においては、その炭素数は6〜18、好ましくは6〜12である。芳香族炭化水素基には、炭素数6〜18、好ましくは6〜12のアリール基及び炭素数7〜18、好ましくは7〜12のアリールアルキル基が含有される。
【0018】
Lとしては、前記した連結基が全て使用できるが、A環から反対側の電子吸引性基であるシアノアクリルアミド部位までの電子の流れを円滑にするという観点からみて、一般式(2)で示されるチオフェン環が好ましく用いられる。
【0019】
前述一般式(1)において、アミド結合はカルボキシル基とアルキレン基−(CR)−で連結されており、mは1〜3、好ましくは1〜2の整数を示す。mが1以上であることにより、励起された色素から酸化チタンへ注入された電子が色素カチオンへ再結合することが妨げられ開放電圧の向上に寄与するが、mが3より大きくなると、π共役部位と酸化チタン層が離れすぎているために、励起された色素から酸化チタンへの電子注入が起きなくなるおそれがある。RとRは、水素原子または置換基を示す。このような置換基の例として、メチル基、ヘキシル基などの直鎖型又はイソブチル基、2−エチルオクチル基などの分岐型の炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基;メトキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜12アルコキシ基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数3〜20、好ましくは5〜12のアリール基;メチルアミノ基、オクチルアミノ基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基を有するモノアルキルアミノ基、ジエチルアミノ基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基を有するジアルキルアミノ基;ピペリジル基などの環構成元素数5〜8、好ましくは5〜6の環状アミノ基;クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基;水酸基;シアノ基;ニトロ基;アミノ基が含有される。
【0020】
前述一般式(1)において、Mは水素原子又は塩形成陽イオンを表す。この場合の塩形成性陽イオンには、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属や、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、その他の金属から誘導されたカチオンの他、アンモニウムカチオン、アミン由来の有機アンモニウムカチオン等が含有される。
次に、前記一般式(1)で表される化合物(有機色素)の具体例を以下に示すが、本発明は、これらの化合物に限定されない。
【0021】
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【0022】
本発明に係る前記一般式(1)で示される化合物の合成方法は、特に限定されず、たとえば、次のような方法により合成することができる。詳細な合成方法は各色素分子によって若干異なるが、基本的には3段階の経路にて合成される。まず第1段階として、ヨウ素原子や臭素原子が結合したAに相当する複素環と、別途合成したLに相当するチオフェン環やフラン環などの電子伝達性連結基のホウ酸エステル誘導体とをスズキカップリング反応によって結合させる。第2段階として、AとLが結合した中間体にVilsmeier試薬を作用させることにより、チオフェン環やフラン環などの電子伝達性連結基LのAの複素環と結合している側と逆側にアルデヒドを導入する。第3段階は、そのアルデヒド誘導体と別途合成したシアノ酢酸誘導体とをピペリジンなどの塩基存在条件下において反応させると、対応する有機色素化合物が得られる。第1段階および第2段階に関しては、非特許文献(J. Am. Chem. Soc., 128, 14256 (2006)もしくはChem. Mater 21, 3993 (2008)) に既に記載されている従来方法によることができる。また、第3段階の合成は、具体的には、実施例3〜8に記載するような方法で行うことができる。シアノ酢酸誘導体の製造は、公知の方法によって製造することができるが、たとえば、購入可能な原料となるシアノ酢酸とアミノ酸エステルとの縮合反応、続く脱保護反応により合成される。
【0023】
本発明に係る一般式(1)で示される有機化合物は、半導体薄膜電極を形成するための有機色素として有効に利用することができる。
この場合、半導体薄膜電極の基板としては、従来公知のものがそのまま適用することができる。たとえば、フッ素あるいはアンチモンドープの酸化スズ(NESA)、スズドープの酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープの酸化亜鉛などの導電性透明酸化物半導体薄膜をコートしたガラスあるいはプラスチック基板である。または鉄、アルミニウムおよびチタンからなる群より選ばれる金属を60質量%以上含む金属箔からなる不透明導電性基板を用いることができる。好ましくは、フッ素ドープの酸化スズ薄膜コートガラスである。半導体薄膜電極の基板に金属箔からなる不透明導電性基板を用いる場合は、対極としては光透過性基板を用いる。
【0024】
本発明に係る半導体薄膜電極は、化合物半導体ナノ粒子から成りナノポーラス構造を有する形態のものが好ましい。
化合物半導体材料は、例えば、TiO2、ZnO、In2O3、SnO2、ZrO2、Ta2O5、Nb2O5、Fe2O3、Ga2O3、WO3、SrTiO3などの金属酸化物および複合酸化物、AgI、AgBr、CuI、CuBrなどの金属ハロゲン化物、さらに、ZnS、TiS2、ZnO、In2S3、SnS、SnS2、ZrS2、Ag2S、PbS、CdS、TaS2、CuS、Cu2S、WS2、MoS2、CuInS2などの金属硫化物、CdSe、TiSe2、ZrSe2、Bi2Se3、In2Se3、SnSe、SnSe2、Ag2Se、TaSe2、CuSe、Cu2Se、WSe2、MoSe2、CuInSe2、CdTe、TiTe2、ZrTe2、Bi2Te3、In2Te3、SnTe、SnTe2、Ag2Te、TaTe2、CuTe、Cu2Te、WTe2、MoTe2などの金属セレン化物ならび金属テルル化物などを挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、TiO2、ZnO、SnO2などの酸化物半導体材料である。
【0025】
例えば、酸化チタン粒子は、P25(Degussa、あるいは日本エアロジル)、ST-01(石原産業)、SP-210(昭和電工)といった市販のものを用いても良いし、J. Am. Ceram. Soc., 80, 3157 (1997) に記載されているように、ゾル・ゲル法によりチタン・アルコキシドなどから加水分解、オートクレービングなどを経て得られた結晶性の酸化チタン粒子を用いても良い。好ましくは、チタン・アルコキシドからゾル・ゲル法により得られた酸化チタン粒子である。
【0026】
前記半導体薄膜を構成する半導体ナノ粒子の粒子径は、5〜1000 nm、好ましくは、10〜300 nmである。
【0027】
例えば、酸化物半導体を用いた半導体薄膜電極を作製する方法には、以下のような方法があるが、それらに限定されない。酸化物半導体ナノ粒子を、水、ポリエチレングリコールなどのポリマー、界面活性剤などとよく混合し、スラリーとし、ドクターブレード法と呼ばれる方法により基板上に塗布する。また、バインダーであるポリマーと高粘性有機溶媒と混合し、それをスクリーン印刷法により基板上に塗布しても良い。酸化物半導体を塗布した基板を、空気中あるいは酸素中、450〜500℃で焼成することにより、酸化物半導体薄膜電極が得られる。
前記半導体薄膜電極の膜厚は、通常、0.5〜100 μmであり、好ましくは、5〜20 μmである。
【0028】
前記有機色素増感剤の半導体電極表面上への吸着は、色素の溶液中に半導体薄膜電極を浸し、室温で1時間以上放置、あるいは加熱条件下で10分から1時間放置することによりおこなう。好ましくは、室温で6時間以上放置する方法である。
【0029】
前記色素吸着の際の溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール。イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノールなどのアルコール溶媒、クロロホルム、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの有機溶媒、ならびに、それらの混合溶媒である。好ましくは、エタノール、クロロホルム、t-ブタノール-アセトニトリル混合溶媒である。
【0030】
前記色素溶液の色素濃度は、通常、0.05〜0.5 mMであり、好ましくは、0.2〜0.3 mMである。
【0031】
前記色素吸着の際には、半導体電極上での色素同士の会合を防ぎ、効率よく色素から半導体へ電子移動反応をおこすために、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、タウロケノデオキシコール酸などのコール酸誘導体やそのナトリウム塩、トリトンXなどの界面活性剤、さらにグルコースなどを色素溶液中に溶解し、色素と共吸着させても良い。共吸着体の色素溶液中の濃度は、通常1〜100 mM、好ましくは、5〜20 mMである。
【0032】
本発明の光電変換素子ならびに光電気化学太陽電池に用いられる電解液には、レドックスイオン対が含まれる。レドックスイオン対は、I-/I3-、Br-/Br2、Fe2+/ Fe3+、Sn2+/ Sn4+、Cr2+/ Cr3+、V2+/ V3+、S2-/S2-、アントラキノン、フェロセンなどが挙げられるが、これらに限定されない。電解質としては、ヨウ素レドックスの場合では、これらのイオンを含むイミダゾリウム誘導体(ヨウ化メチルプロピルイミダゾリウム、ヨウ化メチルブチルイミダゾリウム、ヨウ化、エチルメチルイミダゾリウム、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウムなど)、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化テトラアルキルアンモニウム塩とヨウ素の混合物、臭素レドックスの場合では、これらのイオンを含む臭化リチウム、臭化カリウム、臭化テトラアルキルアンモニウムおよび臭素の混合物を用いる。好ましくは、ヨウ素レドックスのヨウ化リチウム、テトラアルキルアンモニウムやヨウ化イミダゾリウム誘導体である。
【0033】
前記レドックス電解質の濃度は、通常、0.02〜1 M、好ましくは、0.03〜0.5 Mである。
【0034】
前記レドックス電解液に用いる溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール溶媒、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ニトロメタン、n-メチルピロリドンなどの有機溶媒、あるいは、それらの混合溶媒である。
【0035】
本発明の光電変換素子ならび光電気化学太陽電池に用いるレドックス電解液には、光電変換特性向上のために、J. Am. Chem. Soc., 115, 6382 (1993) 等のようにt-ブチルピリジンなどのピリジン誘導体といった塩基性添加物を加えても良い。その際の添加物の電解液中の濃度は、通常、0.05〜1 M、好ましくは、0.1〜0.5 Mである。
【0036】
前記溶媒を用いたレドックス電解液の代わりに、溶媒を含まないヨウ化1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、ヨウ化1-n-プロピル-3-メチルイミダゾリウム、ヨウ化1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、ヨウ化1-n-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムなどの常温溶融塩(イオン液体)であるイミダゾリウム誘導体のヨウ化物とヨウ素との混合物を電解液として用いても良い(例えば、Chem. Commun., 374 (2002), J. Phys. Chem. B, 107, 4374 (2003) )。
【0037】
前記のような常温溶融塩電解液を用いる場合は、Chem. Commun., 374 (2002)等に用いられる各種ゲル化剤を用いて電解質を擬固体化しても良い。
【0038】
本発明の光電変換素子ならびに光電気化学太陽電池に用いるレドックス電解液の代わりに、J. Photochem. Photobiol. A: Chem., 117, 137 (1998)等で用いられるCuI、CuBr、CuSCNなどの無機p型半導体ホール輸送材料、あるいは、スピロピラン誘導体(Natrure, 395, 583 (1998))、ポリピロール誘導体(Sol. Energy Mater. Sol. Cells, 55, 113 (1998) )、ポリチオフェンなどの有機低分子あるいは有機高分子のホール輸送材料を用いても良い。
【0039】
本発明の光電変換素子ならびに光電気化学太陽電池に用いる対極は、透明導電性酸化物コートガラスあるいはプラスチック基板上、または鉄、アルミニウムおよびチタンからなる群より選ばれる金属を60質量%以上含む金属箔上にPt、Rh、Ruなどの貴金属、あるいは、カーボン、酸化物半導体、有機高分子材料などを薄膜状にコートした基板が用いられるが、これらに限定されない。好ましくは、Ptあるいはカーボン電極である。対極として不透明な基板を用いる場合は、半導体薄膜電極の基板に導電性透明基板を用いる。
【0040】
本発明の光電変換素子ならびに光電気化学太陽電池に用いられるスペーサーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニルアセテート、熱あるいは光可塑性樹脂などのポリマーフィルムであり、その膜厚は、通常、15〜120 μmであり、好ましくは、15〜30 μmである。
図1に、上記のようにして作製される光電気化学太陽電池の構造の例を示す。図1において、1は白金スパッタ導電性ガラスもしくはプラスチック、2はレドックス電解液層、3は封止剤、4は色素吸着半導体薄膜電極、5は導電性透明ガラスもしくはプラスチックである。なお実施例11で作製した光電気化学太陽電池もこの構造を有していた。
【実施例】
【0041】
次に本発明を実施例により記述する。なお(21)〜(31)の化合物は、後記において具体的に示されている。以下の実施例においては、適宜、それぞれの式番号をもってそれらの式で示される化合物を示す。
【0042】
実施例1(化合物No(24)の合成)
グリシンターシャリーブチルエステル塩酸塩(22)500mg、トリエチルアミン0.4mL、シアノ酢酸(21)240mg、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール500mgをN,N−ジメチルホルムアミド10mLに溶解させた。次いで、溶液を0℃に冷却し、ジシクロヘキシルカルボジイミド630mgを加えた。反応溶液を0℃で1時間、次いで室温で一晩攪拌する。一晩攪拌後の反応溶液に水20mLと酢酸エチル20mLを加え、析出した不溶物をろ過し、有機層を10%の炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、次いで水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。溶媒を減圧下で留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)にて精製し、(23)で表される目的化合物のエステル誘導体を白色粉末として500mg得た。収率は85%であった。
エステル誘導体(23)のH NMRデータ(400MHz, CDCl3):δ 6.92 (1H, t, J = 4.8 Hz), 3.97 (2H, d, J = 4.8 Hz), 3.49 (2H, s), 1.48 (9H, s); 13C NMRデータ(100MHz, CDCl3):δ 167.2, 160.5, 113.5, 81.8, 41.4, 26.9, 24.7.
【0043】
(23)で表されるエステル誘導体500mgをジクロロメタン15mLに溶解させ、反応溶液を0℃に冷却した。そこへトリフルオロ酢酸15mLを滴下し、反応溶液を0℃で1時間、次いで室温で2時間攪拌した。攪拌後、溶媒を減圧下で留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:酢酸エチル)にて精製し、(24)で表される目的化合物のカルボン酸誘導体を白色粉末として125mg得た。収率は28%であった。
カルボン酸誘導体(24)のH NMRデータ(400MHz, THF-d8):δ 7.72 (1H, t, J = 5.6 Hz), 3.95 (2H, d, J = 5.6 Hz), 3.51 (2H, s); 13C NMRデータ(100MHz, THF-d8):δ 169.0, 160.8, 113.4, 39.6, 23.3.
【0044】
実施例2(化合物No(27)の合成)
ベータアラニンターシャリーブチルエステル塩酸塩(25)1g、トリエチルアミン0.8mL、シアノ酢酸(21)468mg、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール781mgをN,N−ジメチルホルムアミド20mLに溶解させた。次いで、溶液を0℃に冷却し、ジシクロヘキシルカルボジイミド1.34gを加えた。反応溶液を0℃で1時間、次いで室温で一晩攪拌する。一晩攪拌後の反応溶液に水20mLと酢酸エチル20mLを加え、析出した不溶物をろ過し、有機層を10%の炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、次いで水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。溶媒を減圧下で留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)にて精製し、(26)で表される目的化合物のエステル誘導体を白色粉末として1.04g得た。収率は89%であった。
エステル誘導体(26)のH NMRデータ(400MHz, CDCl3):δ 7.24 (1H, t, J = 5.2 Hz), 3.43 (2H, q), 3.42 (2H, s), 2.41 (2H, t, J = 6.4 Hz),1.37 (9H, s); 13C NMRデータ(100 MHz, CDCl3):δ 170.2, 160.8, 113.9, 80.1, 34.7, 33.6, 26.9, 24.8.
【0045】
(26)で表されるエステル誘導体1gをジクロロメタン20mLに溶解させ、反応溶液を0℃に冷却した。そこへトリフルオロ酢酸20mLを滴下し、反応溶液を0℃で1時間、次いで室温で2時間攪拌した。攪拌後、溶媒を減圧下で留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:酢酸エチル)にて精製し、(27)で表される目的化合物のカルボン酸誘導体を白色粉末として355mg得た。収率は48%であった。
カルボン酸誘導体(27)のH NMRデータ(400MHz, THF-d8):δ 7.79 (1H, t, J = 5.6 Hz), 3.50 (2H, s), 3.45 (2H, q), 2.51 (2H, t, J = 5.6); 13C NMRデータ(100MHz, THF-d8):δ 171.7, 161.3, 113.8, 34.5, 32.0, 23.8.
【0046】
実施例3(化合物No(8)の合成)
(28)で表されるアルデヒド160mgと(24)で表されるカルボン酸誘導体100mg をアセトニトリル5mLおよびトルエン2mLの混合溶媒に溶解させ、ピペリジン0.5mL存在下、反応溶液を15時間加熱還流する。 冷却後クロロホルムで希釈し、クロロホルム層を1Mの塩酸、水、飽和食塩水の順で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:クロロホルム→クロロホルム/エタノール=10/1→クロロホルム/エタノール/酢酸=50/10/1)にて精製し、目的である色素化合物(8)を75mg得た。収率は41%であった。
色素化合物(8)のH NMRデータ(400MHz, THF-d8):δ 8.52 (1H, s), 8.42 (1H, d, J = 1.2 Hz), 8.19 (1H, d, J = 7.6 Hz), 7.77 (1H, d, J = 7.6 Hz), 7.70 (1H, t, J = 5.6 Hz), 7.56-7.52 (2H, m), 7.46 (1H, t, J = 7.6 Hz), 7.36 (1H, s), 7.25 (1H, s), 7.23 (1H, t, J = 7.6 Hz), 7.15 (1H, s), 7.13 (1H, s), 4.47 (2H, q, J = 7.2 Hz), 4.07 (2H, d, J = 5.6 Hz), 2.96-2.86 (8H, m), 1.85-1.67 (8H, m), 1.56-1.33 (27H, m), 0.98-0.93 (12H, m).
【0047】
実施例4(化合物No(9)の合成)
(28)で表されるアルデヒド350mgと(27)で表されるカルボン酸誘導体250mg をアセトニトリル3mLおよびトルエン3mLの混合溶媒に溶解させ、ピペリジン0.5mL存在下、反応溶液を15時間加熱還流する。 冷却後クロロホルムで希釈し、クロロホルム層を1Mの塩酸、水、飽和食塩水の順で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:クロロホルム→クロロホルム/エタノール=10/1→クロロホルム/エタノール/酢酸=50/10/1)にて精製し、目的である色素化合物(9)を158mg得た。収率は39%であった。
色素化合物(9)のH NMRデータ(400MHz, THF-d8):8.51 (1H, s), 8.43 (1H, d, J = 1.2 Hz), 8.19 (1H, d, J = 7.6 Hz), 7.76 (1H, d, J = 7.6 Hz), 7.60 (1H, t, J = 5.6 Hz), 7.51 (2H, d, J = 7.6 Hz), 7.46 (1H, t, J = 7.6 Hz), 7.35 (1H, s), 7.22 (1H, t, J = 7.6 Hz), 7.21 (1H, s), 7.13(1H, s), 7.12 (1H, s), 4.44 (2H, q, J = 7.2 Hz), 3.64 (2H, q), 2.94-2.83 (8H, m), 2.63 (2H, t, J = 6.0 Hz), 1.84-1.65 (8H, m), 1.55-1.33 (27H, m), 0.99-0.93 (12H, m).
【0048】
実施例5(化合物No(10)の合成)
(29)で表されるアルデヒド150mgと(24)で表されるカルボン酸誘導体80mg をアセトニトリル4mLおよびトルエン2mLの混合溶媒に溶解させ、ピペリジン0.5mL存在下、反応溶液を15時間加熱還流する。 冷却後クロロホルムで希釈し、クロロホルム層を1Mの塩酸、水、飽和食塩水の順で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:クロロホルム→クロロホルム/エタノール=10/1)にて精製し、目的である色素化合物(10)を106mg得た。収率は62%であった。
色素化合物(10)のH NMRデータ(400MHz, THF-d8):δ 8.51 (1H, s), 8.50 (1H, d, J = 1.6 Hz), 8.43 (1H, d, J = 1.6 Hz), 7.77 (1H, dd, J1 = 8.4 Hz, J2 = 1.6 Hz), 7.73 (1H, dd, J1 = 8.4 Hz, J2 = 1.6 Hz), 7.69 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.66 (1H, t, J = 5.6 Hz), 7.54 (1H, d, J = 4.4 Hz), 7.52 (1H, d, J = 4.8 Hz), 7.38 (1H, s), 7.22 (1H, s), 7.15 (1H, s), 7.02 (2H, d, J = 8.8 Hz), 4.46 (2H, q, J =7.6 Hz), 4.09 (2H, d, J = 5.6 Hz), 4.04 (2H, t, J = 7.4 Hz), 2.95-2.83 (6H, m), 1.87-1.66 (8H, m), 1.59-1.35 (27H, m), 0.99-0.93 (12H, m).
【0049】
実施例6(化合物No(11)の合成)
(29)で表されるアルデヒド300mgと(27)で表されるカルボン酸誘導体150mg をアセトニトリル5mLおよびトルエン2mLの混合溶媒に溶解させ、ピペリジン0.5mL存在下、反応溶液を15時間加熱還流する。 冷却後クロロホルムで希釈し、クロロホルム層を1Mの塩酸、水、飽和食塩水の順で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:クロロホルム→クロロホルム/エタノール=10/1)にて精製し、目的である色素化合物(11)を200mg得た。収率は58%であった。
色素化合物(11)のH NMRデータ(400MHz, THF-d8):δ 8.50 (1H, s), 8.49 (1H, d, J = 1.6 Hz), 8.42 (1H, d, J = 1.6 Hz), 7.76 (1H, dd, J1 = 8.4 Hz, J2 = 1.6 Hz), 7.71 (1H, dd, J1 = 8.4 Hz, J2 = 1.6 Hz), 7.69 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.57(1H, t, J = 5.6 Hz), 7.53 (1H, d, J = 3.6 Hz), 7.50 (1H, d, J = 3.2 Hz), 7.37 (1H, s), 7.20 (1H, s), 7.13 (1H, s), 7.02 (2H, d, J = 8.8 Hz), 4.43 (2H, q, J =7.2 Hz), 4.03 (2H, t, J = 6.4 Hz), 3.65 (2H, q), 2.93-2.82 (6H, m), 2.62 (2H, t, J = 6.8 Hz), 1.86-1.65 (8H, m), 1.56-1.49 (6H, m), 1.45-1.36 (21H, m), 0.99-0.93 (12H, m).
【0050】
実施例7(化合物No(12)の合成)
(30)で表されるアルデヒド140mgと(24)で表されるカルボン酸誘導体48mg をアセトニトリル1mLおよびトルエン2mLの混合溶媒に溶解させ、ピペリジン0.5mL存在下、反応溶液を15時間加熱還流する。 冷却後クロロホルムで希釈し、クロロホルム層を1Mの塩酸、水、飽和食塩水の順で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:クロロホルム→クロロホルム/エタノール=10/1→クロロホルム/エタノール/酢酸=50/10/1)にて精製し、目的である色素化合物(12)を77mg得た。収率は48%であった。
色素化合物(12)のH NMRデータ(400MHz, THF-d8):δ 8.51 (1H, s), 8.50 (1H, d, J = 1.6 Hz), 8.43 (1H, d, J = 1.6 Hz), 7.77 (1H, dd, J1 = 8.4 Hz, J2 = 1.6 Hz), 7.74-7.69 (3H, m), 7.66 (1H, t, J = 5.6 Hz), 7.55 (1H, d, J = 5.6 Hz), 7.52 (1H, d, J = 5.6 Hz), 7.38 (1H, s), 7.22 (1H, s), 7.14 (1H, s), 7.04 (2H, d, J = 8.8 Hz), 4.46 (2H, q, J =7.2 Hz), 4.09 (2H, d, J = 5.6 Hz), 3.86 (3H, s), 2.95-2.83 (6H, m), 1.85-1.66 (6H, m), 1.59-1.36 (21H, m), 0.98-0.93 (9H, m).
【0051】
実施例8(化合物No(14)の合成)
(31)で表されるアルデヒド140mgと(24)で表されるカルボン酸誘導体60mg をアセトニトリル2mLおよびトルエン2mLの混合溶媒に溶解させ、ピペリジン0.5mL存在下、反応溶液を15時間加熱還流する。 冷却後クロロホルムで希釈し、クロロホルム層を1Mの塩酸、水、飽和食塩水の順で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:クロロホルム→クロロホルム/エタノール=10/1)にて精製し、目的である色素化合物(14)を45mg得た。収率は27%であった。
色素化合物(14)のH NMRデータ(400MHz, THF-d8):δ 8.51 (1H, s), 7.68 (1H, d, J = 7.6 Hz), 7.66 (1H, t, J = 5.6 Hz), 7.48 (1H, d, J = 7.6 Hz), 7.44 (1H, s), 7.28-7.23 (3H, m), 7.14 (1H, s), 7.12 (1H, t, J = 7.6), 4.42 (2H, q, J = 7.2 Hz), 4.07 (2H, d, J = 5.6 Hz), 2.93 (2H, t, J = 8.0 Hz), 2.87 (4H, t, J = 7.6 Hz), 1.81-1.67 (6H, m), 1.56-1.36 (21H, m), 0.97-0.92 (9H, m).
【0052】
【化21】

【化22】

【化23】

【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【化28】

【化29】

【化30】

【化31】

【0053】
実施例9
(1)有機色素吸着酸化チタン薄膜ガラス電極の作製
チタン・テトライソプロポキシドの加水分解により作製した酸化チタンコロイドをオートクレービングすることにより結晶性の酸化チタンナノ粒子を得た。これに、バインダーとしてエチルセルロース、溶媒としてα−テルピネオールを混合した有機性のペーストを作製した。あるいは、市販の酸化チタンペースト(たとえば、Solaronix社製)を用いても良い。上記酸化チタンペーストをスクリーン印刷法により、酸化スズコート導電性ガラス上に塗布し、空気中500℃で1〜2時間焼成することにより、膜厚が3〜20ミクロンの酸化チタン薄膜電極を得た。この電極を、0.3mMの有機色素溶液(溶媒は、トルエン、ルテニウム錯体色素(36)においてはt‐ブチルアルコール:アセトニトリル=1:1)に浸漬し、室温で10時間以上放置することにより、有機色素吸着酸化チタン薄膜電極を得た。
【0054】
(2)有機色素吸着酸化チタン薄膜プラスチック電極の作製
低温成膜用酸化チタンペーストPECC-C01-06(ペクセル・テクノロジーズ社製)を、ITO-PENフィルム(シート抵抗13ohm/□、フィルム厚み200 μm)の上にドクターブレード法で塗布し、室温で乾燥後、150℃で10分間加熱乾燥した。乾燥後の酸化チタン膜の厚みは6μmであった。この電極を、0.3mMの有機色素溶液(溶媒はトルエン、ルテニウム錯体色素(36)においてはt-ブチルアルコール:アセトニトリル=1:1)に浸漬し、40度で30分間放置することにより、有機色素吸着酸化チタンプラスチック電極を得た。
【0055】
(3)ガラス電極を用いた光電気化学太陽電池の作製と光電変換特性の評価
前記(1)で作製した酸化チタン薄膜電極(膜厚6ミクロン)に表1記載の色素を吸着させ、白金をスパッタした酸化スズコート導電性ガラスを対極として、ポリエチレンフィルムスペーサーを挟んで重ね合わせ、その隙間に電解液である0.6 Mヨウ化1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウム−0.1 Mヨウ化リチウム−0.05 Mヨウ素−0.5 M t-ブチルピリジンのアセトニトリル溶液を注入し、ゼムクリップでとめセルを作製した。セルの光電変換特性の測定は、光源としてキセノンランプとAMフィルターからなるソーラーシミュレーターを用い、光電流電圧特性は、ソースメーターを用いて測定した。
【0056】
(4)プラスチック電極を用いた光電気化学太陽電池の作製と光電変換特性の評価
前記(2)で作製した酸化チタンプラスチック電極(膜厚5ミクロン)に表1記載の色素を吸着させ、白金をスパッタした酸化スズコート導電性ガラスを対極として、アイオノマーフィルム(厚み25ミクロン)を挟んで重ね合わせ、その隙間に電解液である0.4M ヨウ化テトラブチルアンモニウム‐0.3M 1−メチルベンゾイミダゾール‐0.04M ヨウ素のγ―ブチロラクトン:メトキシプロピオニトリル=1:1溶液を注入し、ゼムクリップでとめセルを作製した。セルの光電変換特性の測定は、光源としてキセノンランプとAMフィルタからなるソーラーシミュレータを用い、光電流電圧特性は、ソースメータを用いて測定した。 本評価で用いた電解液組成は、ITO−PENフィルムを用いた光電気化学太陽電池において、ITO−PENの耐久性が高い電解液である。(例えば、Solar Energy Materials & Solar Cells 93 (2009) 836-839.)
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【化32】

【化33】

【化34】

【化35】

【化36】

ここで、TBAはテトラブチルアンモニウムカチオンを示す。
【0060】
表1には、本発明により合成した新規有機色素および比較例としてアクセプター部位が従来のシアノアクリル酸である有機色素(32)−(35)とルテニウム錯体色素(36)による光増感ガラス電極を用いた光電気化学太陽電池の光電変換特性を示した。表1のように、本発明により合成した新規の有機色素を用いた光電気化学太陽電池では、従来の有機色素を用いた場合に比べ、開放電圧の値が高く、ルテニウム錯体色素を用いた場合のそれと同等の値を示した。従来の有機色素ではπ共役系が直接酸化チタンと結合しているために、酸化チタンに注入された電子が色素カチオンに戻る再結合が起こりやすいと考えられるが、本発明により合成した新規有機色素では、色素分子内のπ共役が酸化チタンと直接結合していないために、再結合が起こりにくく、それにより開放電圧の向上に繋がったものと考えられる。短絡電流密度に関しては、逆にπ共役系と酸化チタンが離れている分、酸化チタンへの電子注入効率が低下し、結果短絡電流密度が従来の有機色素と比べて低下している。開放電圧の向上と短絡電流密度の低下により、結果的に変換効率に関しては同等の値を示している。
【0061】
表2には、本発明により合成した新規有機色素および比較例としてアクセプター部位が従来のシアノアクリル酸である有機色素(32)−(35)とルテニウム錯体色素(36)による光増感プラスチック電極を用いた光電気化学太陽電池の光電変換特性を示した。本発明の有機色素(9)及び(11)においては、従来の有機色素を用いた太陽電池の光電変換特性の全ての要素(短絡電流密度、開放電圧、形状因子)について向上し、さらにルテニウム錯体色素(36)を用いた場合と比較しても、それを上回る光電変換特性を示した。一般にプラスチック電極に用いる低温焼成型酸化チタン膜への電子注入効率は、ルテニウム錯体色素においても有機色素においても、ガラス電極に用いる高温焼成型酸化チタンに比べると非常に低かったが、本発明における新規有機色素においては、電子注入効率が向上し、その結果、高い短絡電流密度が実現している。開放電圧に関しても、光増感ガラス電極を用いた光電気化学太陽電池に関して上記理由により向上したものと考えられる。また、これまでこの系においてルテニウム錯体色素を用いた太陽電池の光電変換特性を上回る有機色素は存在しなかったが、本発明においてはそれを提供できることを証明した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、色素増感太陽電池の心臓部として有効な色素を提供するものである。色素増感太陽電池の用途としては、電卓やパソコンといった民生用電源として期待されている。その中で求められている技術の一つとしてフレキシブル性が挙げられ、プラスチック基板を用いた色素増感太陽電池の開発および実用化が期待されている。本発明は、そのプラスチック基板を用いた色素増感太陽電池に特に有効な色素としての有機化合物を提供するものである。
【符号の説明】
【0063】
1 白金スパッタ導電性ガラスもしくはプラスチックもしくは金属
2 レドックス電解液層
3 封止剤
4 色素吸着半導体薄膜電極
5 導電性透明ガラスもしくはプラスチックもしくは金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される有機化合物。
【化1】

(式中、Aは電子供与性を持つ炭素環又は複素環、Lはチオフェン環、フラン環、ピロール環もしくはこれらが縮環した複素環の中から選ばれる少なくとも1種の複素環を含む電子伝達性連結基、Rは電子伝達性連結基に結合している置換基、RおよびRはアミド基とカルボキシル基との連結アルキレン基に結合している水素原子もしくは置換基、Mは水素原子又は塩形成陽イオンを示す。nは1〜6、mは1〜3の整数を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の有機化合物からなることを特徴とする有機色素。
【請求項3】
請求項2に記載の有機色素として用いることを特徴とする半導体薄膜電極。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体薄膜電極を用いることを特徴とする光電変換素子。
【請求項5】
請求項4に記載の光電変換素子を用いることを特徴とする光電気化学太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−122088(P2011−122088A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281927(P2009−281927)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省地域イノベーション創出研究開発事業委託研究「印刷式透明導電膜による色素増感太陽電池の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504345953)ペクセル・テクノロジーズ株式会社 (30)
【Fターム(参考)】