説明

有機質材料発酵処理装置

【課題】人的な切り返し作業及び撹拌作業が不要で、微生物活動を活発に行わせることができ、完熟堆肥の製造期間を短縮できる有機質材料発酵処理装置を提供する。
【解決手段】有機質材料6を堆積させて発酵させる処理槽1の側壁3下部に空気取出口5を設け、処理槽1の上部側に吸引口8を設けると共に、吸引口8を吸引管路9を介して吸引手段10に接続し、吸引手段10によって吸引口8に作用する吸引力により、空気取出口5から空気を処理槽1内に導入して、処理槽1内に堆積された有機質材料6の下部側から上部側へと通気させ、吸引口8から吸引管路9を通じて排気させるようにしてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜産廃棄物や農業廃棄物、その他の近年バイオマスと言われる有機質材料を処理槽内に堆積して発酵させることにより、堆肥等を製造する有機質材料発酵処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜排泄物等の畜産廃棄物や、菌床栽培後の菌床、オガクズ等の木質系廃棄物を含む農業廃棄物を材料として、堆肥を製造することは従来より一般に行われていることであり、有機農業における重要な肥料として堆肥が使用されている。肥料の製造にあたっては、処理槽である堆肥槽を設け、被処理物としての、例えば家畜排泄物に含まれる微生物、又は微生物を含む発酵資材を家畜排泄物と混合し、定期的に機械による撹拌やショベルカー等による切り返しを行って微生物に酸素を供給し、発酵を促進するようにしている。また、堆積された処理物の下部、つまり処理層の床部に空気口を設け、この空気口より送風して微生物に酸素を供給することもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような従来の堆肥製造においては、次の(a) 〜(f) に示すような問題点がある。(a) 微生物が発酵するのに適正な環境をつくって発酵分解を行っている過程で、人的な撹拌や切り返しを行うと、微生物を取り巻く環境が急激に変わるため、微生物の活動が低下して発酵速度が減速される。このため、処理する家畜排泄物の種類、質により異なるが、堆肥として完熟するまでに長期間を必要としているのが現状である。
(b) ショベルカー等によって人的な切り返しを行う場合は、空気と接している被処理物の上面に緊密な層ができて、発酵に伴う炭酸ガス排出の妨げとなり、微生物の活動が低下する。
(c) 機械撹拌においては、発酵ガス等に対処するため、撹拌機材料にステンレス鋼を使用するため、設備費が高価となる。また、撹拌のための回転部分は耐用期間が短く且つ故障も多く、多大なメンテナンス費用を必要とする。また、回転部分が故障すると、撹拌動作が停止して、被処理物の発酵が一定期間停止する。また、機械撹拌用装置は固定式であるため、他の場所へ移動して処理物を処理することはできない。
(d) ストックされた被処理物の下部に空気口を設けて送風する構造においては、被処理物を堆積することにより、その荷重で空気口が圧迫され、床部から高圧で空気を圧送しても、堆肥内への送風効果はほとんど得られない状態となる。
(e) 人的に切り返しを行う設備では、発酵による炭酸ガス、アンモニアガスが作業場全体に充満するため、作業員の健康に支障を来す。
(f) 人的な切り返しや機械撹拌では、発酵熱によって発生する蒸気を積極的に外部に脱水しないため、堆肥の水分含有率が高く、堆肥の運搬、土壌との混和、保存等の作業に多大な労力を必要とする。
【0004】
本発明は、上記のような問題点を解消できる有機質材料発酵処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段を、後述する実施形態の参照符号を付して説明すると、請求項1に係る発明の有機質材料発酵処理装置は、有機質材料6を堆積させて発酵させる処理槽1の側壁3下部に空気取出口5を設け、処理槽1の上部側に吸引口8を設けると共に、吸引口8を吸引管路9を介して吸引手段10に接続し、この吸引手段10によって吸引口8に作用する吸引力により、空気取出口5から空気を処理槽1内に導入して、処理槽1内に堆積された有機質材料6の下部側から上部側へと通気させ、吸引口8から吸引管路9を通じて排気させるようにしてなることを特徴とする。
【0006】
請求項2は、請求項1に記載の有機質材料発酵処理装置において、前記空気取出口5の内側には、有機質材料6の荷重により空気取出口5が閉塞するのを防ぐ閉塞防止板7を設けてなることを特徴とする。
【0007】
請求項3は、請求項1又は2に記載の有機質材料発酵処理装置において、前記空気取出口5は、処理槽1の側壁3下部に上下に一定間隔で夫々外側から内側に向かって下り傾斜状に開口する複数のスリット5a・・・からなることを特徴とする。
【0008】
請求項4は、処理槽1内の所要高さ位置に、堆積される有機質材料6の下部側の密度が増大して空気の流通が悪くなるのを防止するために有機質材料6の直圧を抑える直圧抑え板17を設けてなることを特徴とする。
【0009】
請求項5は、請求項1〜4の何れかに記載の有機質材料発酵処理装置において、前記処理槽1は、側壁3と底壁4とにより形成される槽本体2からなり、前記吸引口8は、槽本体2内に堆積された有機質材料の表層部に上方より突入するように配設されることを特徴とする。
【0010】
請求項6は、請求項1〜4の何れかに記載の有機質材料発酵処理装置において、前記処理槽1は、側壁3と底壁4とにより形成される槽本体2と、槽本体2の上方開放部を全面覆うように設けられるカバー体16とからなり、前記吸引口8はカバー体16に設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項7は、請求項1〜6の何れかに記載の有機質材料発酵処理装置において、前記吸引管路9には、この吸引管路9を通じて排気される発酵ガスを脱臭する脱臭装置11を設けてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記解決手段による発明の効果を、後述する実施形態の参照符号を付して説明すると、請求項1に係る発明の有機質材料発酵処理装置は、吸引手段10によって吸引口8に作用する吸引力により、空気取出口5から空気を処理槽1内に導入して、処理槽1内に堆積された有機質材料6の通気を行わせるようにした吸引方式の装置であって、人的な切り返し・撹拌作業を行わないから、発酵期間における微生物環境の変化を最小限に止めることができ、これにより微生物による発酵活動が連続的となって、堆肥製造の場合の完熟堆肥の製造期間を短縮することができる。また、この吸引方式の装置では、堆積した処理物である有機質材料6の様々な方向から空気が吸引されるため、炭酸ガスが有機質材料6内に蓄積することがなく、微生物活動をより活発に行わせることができる。
【0013】
また、この吸引式発酵処理装置では、機械的駆動部分が吸引手段10のみであるから、設備費が少なく、電力の消費が少なくて済む。また、人的な切り返し作業及び撹拌作業が不要で、一日当たりの人的管理も極めて短時間で済むため、日常のランニングコストを極力少なくできる。また装置は、処理槽1に空気取出口5と吸引口8とを設けて、吸引手段10により吸引するようにした単純な構造であるから、故障が極めて少なく、長期的な連続運転が可能である。
【0014】
また、この吸引式発酵処理装置では、処理槽1の側壁3下部に空気取出口5を設けて、この空気取出口5より空気を処理槽1内に導入するから、空気取出口5が、堆積される有機質材料6の荷重で圧迫されることがなく、処理槽1内の有機質材料6の下層部から上層部まで比較的均一に通気させることができて、有機質材料6を有効に発酵させることができる。
【0015】
またこの装置によって堆肥を製造する場合、発酵熱に伴って有機質材料6から発生する蒸気を吸引することにより、有機質材料6からの脱水の速度が早まって、水分量が少なくなり、その結果成分が濃縮された完熟堆肥を製造することができる。従って、製造された堆肥は、水分量が少ないことによって軽量となるため、運搬が容易となり、土壌との混和が容易となり、また養分が濃縮されているために、堆肥の施用量を減量できて、作業性が向上し、また袋に詰めて保存する場合も作業性が向上する。また、完熟堆肥の製造期間を短縮できることから、従来の堆肥製造装置の処理槽と同じ容量のものに比べて数倍の堆肥処理を行うことができる。
【0016】
請求項2に係る発明のように、処理槽1の側壁3下部に設けた空気取出口5の内側に、閉塞防止板7を設けたことによって、槽本体2内に堆積された有機質材料6の荷重で空気取出口5が閉塞されるのを有効に防止できる。
【0017】
請求項3に係る発明のように、空気取出口5が、処理槽1の側壁3下部に上下に一定間隔で夫々外側から内側に向かって下り傾斜状に開口する複数のスリット5a・・・からなるものによれば、外気は、上下複数のスリット5a・・・の夫々により下り傾斜状に誘導されて有機質材料6の下層部に導入された後、上向き弧状を成して有機質材料6の中間槽部から上層部へ上昇することになり、それにより堆積された有機質材料6の下層部から上層部にわたる有機質材料6全体への通気が均一且つ適正になされて、有機質材料6の発酵をより一層有効に行わせることができる。
【0018】
請求項4に係る発明のように、処理槽1内の所要高さ位置に有機質材料6の直圧を抑える直圧抑え板17を設けることにより、堆積される有機質材料の下部側の密度が増大しても、有機質材料6内の空気の流通が阻害されず、通気を良好に行わせることができる。
【0019】
請求項5に係る発明のように、処理槽1が、側壁3と底壁4とにより形成されて、上方側が開放された槽本体2からなる場合に、吸引口8を、槽本体2内に堆積された有機質材料の表層部に上方より突入するように配設することにより、有機質材料6に対して有効に吸引力を作用させて、空気取出口5から外気を確実に導入させることができる。
【0020】
請求項6に係る発明のように、処理槽1が、側壁3と底壁4とで形成される槽本体2と、槽本体2の上方開放部を全面覆うように設けられるカバー体16とからなる場合には、吸引口8をカバー体16に設けることによって、有機質材料6から発生する蒸気を含む発酵ガスを効率良く有効に吸引することができる。
【0021】
請求項7に係る発明のように、吸引管路9に脱臭装置11を設けることにより、吸引管路9を通じて排気される発酵ガスが臭気を伴う場合は、この脱臭装置11で脱臭することによって、臭気のないガスのみを排出でき、作業員の健康に支障を来すことがない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る有機質材料発酵処理装置の一実施形態を示す一部断面正面図である。
【図2】本発明に係る有機質材料発酵処理装置の他の実施形態を示す一部断面正面図である。
【図3】処理槽での堆肥堆積後の日数と堆肥温度との関係を示すグラフである。
【図4】(a) 〜(c) は、処理槽への被処理物の投入方法、処理槽での処理、及び処理槽で処理された被処理物の取り出し方法を簡単に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明すると、本発明に係る有機質材料発酵処理装置を示す図1において、1は有機質材料6を堆積させて発酵させる処理槽で、前後左右の四側壁3・・・と底壁4とを備えた槽本体2からなり、槽本体2には各側壁3の下部に空気取出口5が設けられ、この空気取出口5の内側には、槽本体2内に堆積される被処理物である有機質材料6の荷重によって空気取出口5が閉塞されるのを防ぐ閉塞防止板7が設けられている。空気取出口5は、各側壁3の下部に上下に一定間隔で夫々側壁3の外側から内側に向かって下り傾斜状に開口するように形成された複数のスリット5a・・・からなる。
【0024】
処理槽1には槽本体2内の上部に、複数の吸引口8が、処理槽1内に堆積された有機質材料6の表層部に上方より突入するように配設されている。これらの吸引口8は、処理槽1の上方に配管された吸引管路9から分岐した複数の分岐管路9aに設けられたもので、吸引管路9の先端側には吸引手段としての吸引ブロワー(送風機)10が設けられ、また吸引管路9には、この吸引管路9を通じて処理槽1内から排気される発酵ガスを脱臭する脱臭装置11が介設されている。
【0025】
また図1に示すように、槽本体2内の中央部には温度計12が設置され、吸引管路9の各分岐管路9aには、圧力計13、風速計14及び吸引バランス調整ゲート15が設けられている。吸引バランス調整ゲート15は、吸引口8が複数設けてある場合に、何れの吸引口8も吸引圧力及び風速が互いにバランスをとるように調整するためのものである。
【0026】
また、槽本体2の各側壁3及び底壁4には夫々の内側面に断熱層3a,4aを設けて、有機質材料6で発生する発酵熱を外部へ逃がさないようにしている。
【0027】
脱臭装置11は、周知構造のもので、図1に概略示すように、発酵ガス冷却タンク21と、冷却水の通る水管22をタンク21内に例えば螺旋状に配管した冷却水循環器23とからなるもので、吸引管路9からの熱を持った発酵ガスを入口部21aよりタンク21内に導入し、この発酵ガスをタンク21内で水管22の水と熱交換して冷却することにより、発酵ガスの臭気粒子を凝結させて、タンク21内面に結露させ、タンク21の底部より結露廃液として適宜取り出し、臭気のないガスのみをタンクの出口部21bから排出させるようにしたものである。図中の24は、タンク21に溜まった廃液のレベルを検知するレベル計、25,26は電動バルブで、タンク21内の廃液が或る一定レベルになると、上下バルブ25,26が適宜に開閉して廃液を排出させるようになっている。
【0028】
次に、上述した図1に示す有機質材料発酵処理装置を使用して完熟堆肥を製造する場合について説明する。
【0029】
先ず、生牛糞に好熱菌を含む微生物群の粉末を所要の割合で混合した有機質材料6を、処理槽1の槽本体2内に堆積し、図1に示すように各吸引口8が有機質材料6の表層部に上方より突入する状態とした。この時、槽本体2の各側壁3下部にある空気取出口5は、閉塞防止板7によって、槽本体2内に堆積された有機質材料6の荷重で閉塞されるのを防止されている。
【0030】
有機質材料6の堆積後、吸引ブロワー(吸引手段)10を作動させて各吸引口8より吸引を行わせると、槽本体2の周囲の空気が、各側壁3下部の空気取出口5より図1の矢印で示すように処理槽1内に大量に導入され、しかしてこの空気は、槽本体2内に堆積された有機質材料6の堆積層の下部側から上部側へと通気されて、吸引口8より吸引管路9に吸引される。またこの時、槽本体2は上方側が開放されているから、上方からも多少有機質材料6内に空気が導入される。
【0031】
このように、吸引ブロワー10によって吸引口8に作用する吸引力により、空気取出口5から外気が処理槽1内に大量に導入されて、槽本体2内に堆積された有機質材料6の堆積層の下部側から上部側へ至る堆積層の全域にわたり通気されるから、炭酸ガスが有機質材料6内に蓄積することがなく、微生物の発酵活動がより活発で且つ有効に行われ、これによって発酵熱が上がり、この発酵熱に伴って有機質材料6内から発生する蒸気量も多くなる。
【0032】
しかして、上記のように発酵熱に伴って有機質材料6から発生する蒸気は、吸引口8での吸引作用によって、他の発酵ガスと共に吸引口8から分岐管路9aを通じて吸引管路9に吸引される。これにより、処理槽1内の有機質材料6の脱水が有効に促進されて、水分量が少なく、成分が濃縮された完熟堆肥を製造することができる。吸引ブロワー10によって吸引管路9に吸引される吸引ガス(発酵ガス及び蒸気)量は、引き過ぎ、引き足らずによって微生物(菌)の分解速度に大きな影響を与えるため、吸引圧力が常に一定になるように圧力信号により吸引ブロワー10を制御するようになっている。即ち、図1及び図2に示す有機質材料発酵処理装置においては、圧力計13と吸引ブロワー10との間に、圧力計13からの圧力信号によって吸引ブロワー10の吸引量を制御する制御装置(図示省略)が介装される。また、この有機質材料発酵処理装置は、有機質材料6により、発酵促進資材に応じ、温度計12を見ながら、適正な吸引速度を設定することができる構造となっている。
【0033】
この場合、外気が槽本体2の空気取出口5から有機質材料6内へ大量に導入されることによって、有機質材料6内の温度環境に顕著な変化を及ぼさず且つ有機質材料6から発生する蒸気を十分吸引できるようにするため、吸引時における風量を適宜に設定しておく。この風量の設定は、図1に示す圧力計13、風速計14及び吸引バランス調整ゲート15によって行う。
【0034】
また、吸引口8から吸引管路9に吸引される吸引ガス中のアンモニアガスは、脱臭装置11において蒸気を凝結させた水中に溶解させて結露廃液として取り出すことによって、アンモニアを含まないガスが外部へ排出されることになる。
【0035】
図2は本発明に係る有機質材料発酵処理装置の他の実施形態を示している。この装置の処理槽1は、前後左右の四側壁3・・・と底壁4とを備えた槽本体2と、この槽本体2の上方開放部を全面覆うように設けられたカバー体16とから構成されていて、カバー体16に複数の吸引口8が一体に設けられている点が、図1の装置と異なっており、これ以外はほとんど同じである。即ち、槽本体2に設けられた空気取出口5は、図1のもと同じで、各側壁3の下部に上下に一定間隔で夫々側壁3の外側から内側に向かって下り傾斜状に開口するように形成された複数のスリット5a・・・からなる。また各吸引口8は、分岐管路9aを介して吸引管路9に通じ、この吸引管路9の先端側に吸引手段としての吸引ブロワー(送風機)10が設けられている。吸引管路9には、図1の装置のように途中に脱臭装置11を介設してもよい。尚、カバー体16は、槽本体2の上端部に取り外し可能に取り付けるようにしてもよいし、図4に示す処理槽1のように、カバー体16の一端部を槽本体2上端部にヒンジで枢着することにより開閉自在としてもよい。
【0036】
また処理槽1内には所要高さ位置に、堆積される有機質材料6の下部側の密度が増大して空気の流通が悪くなるのを防止するために有機質材料6の直圧を抑える直圧抑え板17が複数設けられている。各直圧抑え板17は、図2に示す通り断面山形に形成されたもので、図示は省略するが、両端部が槽本体2の対向する側壁3,3に固定された構造となっている。また、槽本体2内の中央部には温度計12が設けられ、カバー体16には風速計14が設けられ、吸引管路9には圧力計13が設けられている。
【0037】
この図2に示す有機質材料発酵処理装置を使用して、完熟堆肥を製造するには、生牛糞に好熱菌を含む微生物群の粉末を所要の割合で混合した有機質材料6を、処理槽1の槽本体2内に図1に示すような状態に堆積する。有機質材料6の堆積後、吸引ブロワー10を作動させ、カバー体16の各吸引口8より吸引を行わせると、槽本体2の周囲の空気が、各側壁3下部の空気取出口5より図2の矢印で示すように処理槽1内に大量に導入され、そしてこの空気は、槽本体2内に堆積された有機質材料6の堆積層の下部側から上部側へと通気され、吸引口8より吸引管路9に吸引されて排出される。
【0038】
図1に示す装置も、この図2に示す装置も同様であるが、空気取出口5の内側に閉塞防止板7が設けられているため、有機質材料6の荷重によって空気取出口5が閉塞されることがなく、外気を槽本体2内の下部側へ有効に導入させることができる。また、空気取出口5は、前後左右の四側壁3・・・の各側壁3の下部に上下に一定間隔で夫々側壁3の外側から内側に向かって下り傾斜状に開口するように形成された複数のスリット5a・・・からなり、しかも閉塞防止板7がスリット5aと同じ傾斜で最上部のスリット5aの上側で配設されているために、外気は、図1,図2の矢印で示すように、上下複数のスリット5a・・・の夫々により下り傾斜状に誘導されて有機質材料6の下層部に導入された後、上向き弧状を成して有機質材料6の中間槽部から上層部へ上昇することになり、それにより堆積された有機質材料6の下層部から上層部にわたる有機質材料6全体への通気が均一且つ適正になされて、有機質材料6の発酵をより一層有効に行わせることができる。
【0039】
また処理槽1内には直圧抑え板17が設けてあって、堆積される有機質材料6の下部側の密度が増大して空気の流通が悪くなるのが防止されるから、有機質材料6内への通気を一層良好に行わせて、有機質材料6の発酵をより一層有効に行わせることができる。また上記空気取出口5から外気が処理槽1内に大量に導入されて、槽本体2内に堆積された有機質材料6の堆積層の下部側から上部側へ至る堆積層全域にわたり通気されることから、炭酸ガスが有機質材料6内に蓄積することなく、微生物の発酵活動がより活発で且つ有効に行われ、これによって発酵熱が上がり、この発酵熱に伴って有機質材料6内から発生する蒸気量も多くなる。そして、発酵熱に伴って有機質材料6から発生する蒸気は、吸引口8での吸引作用により、カバー体16の吸引口8から分岐管路9aを通じて吸引管路9へと吸引され、これにより処理槽1内の有機質材料6の脱水が有効に促進されて、水分量が例えば15%前後と少なく、成分が濃縮された完熟堆肥を製造することができる。
【0040】
表−1は図2に示す装置を使用して完熟堆肥を製造した時の堆肥(有機質材料)堆積後の各日数ごとに温度計12によって計測した堆肥内温度を示すもので、この堆積後の日数と堆肥内温度との関係を表すグラフを図3に示す。この時の完熟堆肥の具体的な製造方法は、以下に説明する通りである。

【0041】
上記完熟堆肥の製造において、先ず、水分67.4%を含む生牛糞に好熱菌を含む微生物群の粉末を、乾物あたり夫々15:1の割合で混合し、これを有機質材料6として処理槽1に堆積した。この有機質材料6の堆積後、有機質材料6への酸素供給と有機質材料6から発生する蒸気を排出して脱水を促進するために、吸引ブロワー10を作動させて吸引を開始した。この吸引ブロワー10には400Wリングブロワーを使用し、直径48cm、高さ78cmの強化樹脂製の円筒形ドラムによって吸引を行った。吸引時における風量は、外気が大量に有機質材料(堆肥)6に入ることによって、有機質材料6内の温度環境に顕著な変化を及ぼさず且つ有機質材料6から発生する蒸気を十分吸引できるように、約120m3/時間に設定した。
【0042】
その結果、表−1及び図3のグラフに示すように、1日経過後に、有機質材料(堆肥)6内の温度は68℃に達し、その後約30日間は75℃前後に安定し、80日が経過するまでは55〜60℃程度、80日以後は40℃前後で推移した。 尚、有機質材料6の堆積後118日(約4ヶ月)の水分含有量は15.7%、炭素/窒素比は17.5であり、十分に乾燥した完熟堆肥(完熟堆肥の炭素/窒素比は15〜20と定義されている)を製造することができた。
【0043】
図4は、上述した有機質材料発酵処理装置の使用による堆肥の製造において、処理槽1への有機質材料6の投入方法と、堆肥製造後の堆肥の取り出し方法とを例示したもので、先ず、(a) に示すように、処理槽1のカバー体16を開放して、有機質材料6を、ベルトコンベア27(ショベルカーでもよい)によって槽本体2内に投入する。有機質材料6の投入後、(b) に示すようにカバー体16を閉じた処理槽1内において有機質材料6の発酵脱水処理を行い、前述のように十分に乾燥した完熟堆肥を製造する。完熟堆肥の製造後、(c) に示すように、処理槽1のカバー体16を開放し、バキューム式製品取り出し機28の吸引パイプ29を処理槽1の槽本体2内に挿入し、槽本体2内の堆肥製品30を吸引して、排出シュート31より製品台車32に排出する。この場合、製造された堆肥製品30の水分含有量は20%以下(前述の例では15.7%)と少ないため、バキューム方式により簡単に取り出すことができる。
【0044】
上記のように製造される脱水有機質材料である堆肥は、有機脱水肥料であって、有機農業における基肥として使用され、また有機液肥と併用されるなどして、ビニールハウス栽培、水耕栽培、溶液栽培に利用される。また、この脱水有機質材料は、堆肥に使用されるだけでなく、粉末燃料あるいは固形燃料として、ボイラー、タービン等の燃焼エネルギー源に利用されて、温水や温風、そして電力を得ることができる。
【0045】
以上説明したように、本発明に係る有機質材料発酵処理装置は、吸引ブロワー10によって吸引口8に作用する吸引力により、空気取出口5から空気を処理槽1内に導入して、処理槽1内に堆積された有機質材料6の通気を行わせるようにした吸引方式の処理装置であって、人的な切り返し作業及び撹拌作業を一切行わないから、発酵期間における微生物環境の変化を最小限に止めることができ、これによって微生物による発酵活動が連続的となり、堆肥を製造する場合の完熟堆肥の製造期間を短縮することができる。また、この吸引方式は、堆積した処理物である有機質材料6の様々な方向から空気が吸引されるため、炭酸ガスが有機質材料6内に蓄積することがなく、微生物活動をより活発に行わせることができる。
【0046】
また、この吸引方式による発酵処理装置では、機械的駆動部分が実質的に吸引ブロワー10のみであるから、設備費が少なく、電力の消費が少なくて済む。また人的な切り返し作業及び撹拌作業が不要で、人的管理は、1日当たり1時間程度の極めて短い時間で済むため、日常のランニングコストを極力少なくできる。また、発酵処理装置は、処理槽1に空気取出口5と吸引口8とを設けて、吸引ブロワー10により吸引するようにした単純な構造であるから、故障が極めて少なく、長期的な連続運転が可能である。
【0047】
また、この吸引式発酵処理装置では、処理槽1の側壁3下部に空気取出口5を設けて、この空気取出口5より空気を処理槽1内に導入するから、空気取出口5が、堆積される有機質材料6の荷重で圧迫されることがなく、処理槽1内の有機質材料6の下層部から上層部まで比較的均一に通気させることができて、有機質材料6を有効に発酵させることができる。
【0048】
またこの装置によって堆肥を製造する場合、発酵熱に伴って有機質材料6から発生する蒸気を吸引することにより、有機質材料6からの脱水の速度が早まって、水分量が少なくなり、その結果成分が濃縮された完熟堆肥を製造することができる。従って、製造された堆肥は、水分量が少ないことによって軽量となるため、運搬が容易となり、土壌との混和が容易となり、また養分が濃縮されているために、堆肥の施用量を減量できて、作業性が向上し、また袋に詰めて保存する場合も作業性が向上する。また、完熟堆肥の製造期間を短縮できることから、従来の堆肥製造装置の処理槽と同じ容量のものに比べて数倍の堆肥処理を行うことができる。
【0049】
また上記吸引式発酵処理装置では、処理槽1の側壁3下部に設けた空気取出口5の内側に、閉塞防止板7を設けたことによって、槽本体2内に堆積された有機質材料6の荷重で空気取出口5が閉塞されるのを有効に防止できる。また、空気取出口5は、処理槽1の側壁3下部に上下に一定間隔で夫々外側から内側に向かって下り傾斜状に開口する複数のスリット5a・・・からなるため、外気は、上下複数のスリット5a・・・の夫々により下り傾斜状に誘導されて有機質材料6の下層部に導入された後、上向き弧状を成して有機質材料6の中間槽部から上層部へ上昇することになり、それにより堆積された有機質材料6の下層部から上層部にわたる有機質材料6全体への通気が均一且つ適正になされて、有機質材料6の発酵をより一層有効に行わせることができる。
【0050】
また、図2に示す吸引式発酵処理装置のように、処理槽1内の所要高さ位置に、有機質材料6の直圧を抑える直圧抑え板17を設けることにより、堆積される有機質材料の下部側の密度が増大しても、有機質材料6内の空気の流通が阻害されず、通気を良好に行わせることができる。
【0051】
また図1に示す吸引式発酵処理装置のように、処理槽1が、側壁3と底壁4とにより形成されて、上方側が開放された槽本体2からなる場合に、吸引口8を、槽本体2内に堆積された有機質材料の表層部に上方より突入するように配設することにより、有機質材料6に対して有効に吸引力を作用させて、空気取出口5から外気を確実に導入させることができる。また図2に示す吸引式発酵処理装置のように、処理槽1が、側壁3と底壁4とで形成される槽本体2と、槽本体2の上方開放部を全面覆うように設けられるカバー体16とからなる場合には、吸引口8をカバー体16に設けることによって、有機質材料6から発生する蒸気を含む発酵ガスを効率良く有効に吸引することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 処理槽
2 槽本体
3 側壁
4 底壁
5 空気取出口
6 有機質材料
7 閉塞防止板
8 吸引口
9 吸引管路
10 吸引手段(吸引ブロワー)
11 脱臭装置
16 カバー体
17 直圧抑え板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機質材料を堆積させて発酵させる処理槽の側壁下部に空気取出口を設け、処理槽の上部側に吸引口を設けると共に、吸引口を吸引管路を介して吸引手段に接続し、この吸引手段によって吸引口に作用する吸引力により、空気取出口から空気を処理槽内に導入して、処理槽内に堆積された有機質材料の下部側から上部側へと通気させ、吸引口から吸引管路を通じて排気させるようにしてなる有機質材料発酵処理装置。
【請求項2】
前記空気取出口の内側には、有機質材料の荷重により空気取出口が閉塞するのを防ぐ閉塞防止板を設けてなる請求項1に記載の有機質材料発酵処理装置。
【請求項3】
前記空気取出口は、処理槽の側壁下部に上下に一定間隔で夫々外側から内側に向かって下り傾斜状に開口する複数のスリットからなる請求項1又は2に記載の有機質材料発酵処理装置。
【請求項4】
処理槽内の所要高さ位置に、堆積される有機質材料の下部側の密度が増大して空気の流通が悪くなるのを防止するために有機質材料の直圧を抑える直圧抑え板を設けてなる請求項1〜3の何れかに記載の有機質材料発酵処理装置。
【請求項5】
前記処理槽は、側壁と底壁とにより形成される槽本体からなり、前記吸引口は、槽本体内に堆積された有機質材料の表層部に上方より突入するように配設される請求項1〜4の何れかに記載の有機質材料発酵処理装置。
【請求項6】
前記処理槽は、側壁と底壁とにより形成される槽本体と、槽本体の上方開放部を全面覆うように設けられるカバー体とからなり、前記吸引口はカバー体に設けられている請求項1〜4の何れかに記載の有機質材料発酵処理装置。
【請求項7】
前記吸引管路には、この吸引管路を通じて排気される発酵ガスを脱臭する脱臭装置を設けてなる請求項1〜6の何れかに記載の有機質材料発酵処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−20224(P2012−20224A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159538(P2010−159538)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(510192857)
【出願人】(510264165)株式会社フランシスジャパン (1)
【Fターム(参考)】