説明

有機過酸化物の製造方法

【課題】有機過酸化物の製造方法であって、酸化油中の副生有機酸を中和除去するにあたり、アルカリ排水量を少なくでき、さらに目的の過酸化物のアルカリ分解を抑制できる有機過酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】下記の工程を含み、有機酸中和工程に供給されるアルカリ水溶液中の炭酸ナトリウム濃度が0.1〜20重量%であり、かつ水酸化ナトリウム濃度が0.1〜10重量%である。
酸化反応工程:有機物を酸素含有ガスで酸化して有機過酸化物と副生有機酸を含む酸化油を得る工程
有機酸中和工程:アルカリ水溶液と酸化反応工程で得られた酸化油を接触させることにより酸化油に含まれる副生有機酸が中和除去された酸化油を得る工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機過酸化物の製造方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、有機物を酸素含有ガスで酸化して有機過酸化物と副生有機酸を含む酸化油を得る酸化反応工程及びアルカリ水溶液と酸化反応工程で得られた酸化油を接触させることにより酸化油に含まれる副生有機酸が中和除去された酸化油を得る有機酸中和工程を含む有機過酸化物の製造方法であって、酸化油中の副生有機酸を中和除去するにあたり、アルカリ排水量を少なくでき、さらに目的の過酸化物のアルカリ分解を抑制できるという優れた効果を有する有機過酸化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記の酸化反応工程及び有機酸中和工程を含む有機過酸化物の製造方法は、たとえば特許文献1に開示されている。
【0003】
しかしながら、従来の方法においては、目的の過酸化物のアルカリ分解を抑制し、有機酸を効率良く中和除去できる炭酸ナトリウム水溶液を添加剤として用いた場合、水酸化ナトリウム水溶液と比較して水への溶解度が低いため、高濃度のアルカリ水溶液を用いることができないという問題があり、一方、水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合、強アルカリによる目的の過酸化物のアルカリ分解が促進され、選択率が低下するという問題点があった。
【0004】
また、特許文献2には、副生物を中和する際に1種類またはそれ以上のアルカリ金属化合物の水溶液を用いることが好ましいとの記載がある。ところが、該文献には、好ましいアルカリ水溶液として、0.01重量%から25重量%のアルカリ金属化合物濃度が示されているのみで、複数のアルカリ金属化合物が共存する場合の水溶液の好ましい組成や濃度に関する記載はない。
【0005】
【特許文献1】特開2005−97180号公報
【特許文献2】WO2007/116046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、有機物を酸素含有ガスで酸化して有機過酸化物と副生有機酸を含む酸化油を得る酸化反応工程及びアルカリ水溶液と酸化反応工程で得られた酸化油を接触させることにより酸化油に含まれる副生有機酸が中和除去された酸化油を得る有機酸中和工程を含む有機過酸化物の製造方法であって、酸化油中の副生有機酸を中和除去するにあたり、アルカリ排水量を少なくでき、さらに目的の過酸化物のアルカリ分解を抑制できるという優れた効果を有する有機過酸化物の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、下記の工程を含む有機過酸化物の製造方法であって、有機酸中和工程に供給されるアルカリ水溶液中の炭酸ナトリウム濃度が0.1〜20重量%であり、かつ水酸化ナトリウム濃度が0.1〜10重量%である有機過酸化物の製造方法に係るものである。
酸化反応工程:有機物を酸素含有ガスで酸化して有機過酸化物と副生有機酸を含む酸化油を得る工程
有機酸中和工程:アルカリ水溶液と酸化反応工程で得られた酸化油を接触させることにより酸化油に含まれる副生有機酸が中和除去された酸化油を得る工程
【発明の効果】
【0008】
本発明により、有機物を酸素含有ガスで酸化して有機過酸化物と副生有機酸を含む酸化油を得る酸化反応工程及びアルカリ水溶液と酸化反応工程で得られた酸化油を接触させることにより酸化油に含まれる副生有機酸が中和除去された酸化油を得る有機酸中和工程を含む有機過酸化物の製造方法であって、酸化油中の副生有機酸を中和除去するにあたり、アルカリ排水量を少なくでき、さらに目的の過酸化物のアルカリ分解を抑制できるという優れた効果を有する有機過酸化物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の酸化反応工程は、有機物を酸素含有ガスで酸化して有機過酸化物と副生有機酸を含む酸化油を得る工程である。
【0010】
有機物としては、アルキルベンゼン等を例示することができ、更に具体的にはクメン及びエチルベンゼンをあげることができ、これらに対応する有機過酸化物は、各々クメンハイドロパーオキサイド及びエチルベンゼンハイドロパーオキサイドである。
【0011】
酸化反応工程を実施する具体例としては、下記のクメンの酸化方法をあげることができる。
【0012】
クメンの酸化は、通常、空気や酸素濃縮空気などの含酸素ガスによる自動酸化で行われる。この酸化反応は添加剤を用いずに実施してもよいし、選択率や反応速度改善のために公知の添加剤を用いてもよい。通常の反応温度は50〜200℃であり、反応圧力は大気圧から5MPaの間である。こうして得られるクメン酸化油には、一般に5〜30重量%の目的過酸化物であるクメンハイドロパーオキサイドと、副生する有機酸類が含まれる。
【0013】
本発明の有機酸中和工程は、アルカリ水溶液と酸化反応工程で得られた酸化油を接触させることにより酸化油に含まれる副生有機酸が中和除去された酸化油を得る工程である。
【0014】
本発明の最大の特徴は、有機酸中和工程に供給されるアルカリ水溶液中の炭酸ナトリウム濃度が0.1〜20重量%であり、かつ水酸化ナトリウム濃度が0.1〜10重量%である点にある。なお好ましくは、有機酸中和工程に供給されるアルカリ水溶液中の炭酸ナトリウム濃度が0.5〜15重量%であり、かつ水酸化ナトリウム濃度が1〜5重量%である。炭酸ナトリウム濃度が低すぎると有機酸を中和するのに用いるアルカリ水溶液量が多く必要となり、炭酸ナトリウム濃度が高すぎると温度と溶解度の関係から、水溶液の温度が低下した場合、析出の恐れがある。また、水酸化ナトリウム濃度が低すぎると炭酸ナトリウム濃度と同様に、有機酸を中和するのに用いるアルカリ水溶液量が多く必要となるため水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合溶液を用いる効果が小さくなり、水酸化ナトリウム濃度が高すぎると有機過酸化物の強アルカリによる分解が促進され収率低下が生じる。
【0015】
有機酸中和工程を実施する具体例としては、下記のクメン酸化油の精製方法をあげることができる。
【0016】
本工程では、前述の酸化反応工程で得られたクメンハイドロパーオキサイドを含む酸化油をアルカリ水溶液と接触させることにより、酸化油に含まれる副生有機酸は中和・除去される。
【0017】
酸化油とアルカリ水溶液の接触方法は特に限定されないが、配管で単に混合するよりも、ラインミキサーや攪拌機などの公知の混合手段を用いて接触させることが、中和をより確実に行う観点から好ましい。
【0018】
酸化油とアルカリ水溶液は接触混合後、油水分離される。油水分離方法は特に規定されないが、水と油の比重差を利用した重力沈降法や、遠心分離法等を挙げることができる。
【0019】
有機酸中和工程に供給される酸化油とアルカリ水の比率が大きく異なる場合、油水の接触をよくするために、油水分離された水層の一部をリサイクルして油層と水層の比率を変更してもよく、その場合の好ましい油層/水層比率(O/W)は0.1≦O/W≦10である。
【0020】
このようにして油水分離された油層からは、所望の水準まで有機酸濃度の低下した酸化油である。
【0021】
一方、有機酸中和工程で有機酸を中和した後の水層には、有機酸塩類が溶解しているため、これを抜き出すことによって有機酸を除去できる。
【0022】
水層のpHは、有機酸の確実な除去の観点から7を下回らないように、好ましくは8〜11の範囲の範囲となるようにアルカリ水溶液を供給する必要がある。
【0023】
有機酸塩類は水への溶解度を超えると析出するため、有機酸塩濃度が溶解度を超えないように、新水やプロセス内で発生した水を補給して希釈してもよいが、排水量を抑制する観点から、プロセス内で発生した水をリサイクルすることが好ましい。
【0024】
有機酸中和工程で用いられるアルカリ水溶液の組成は、前述の炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウム濃度範囲である。ただし、ここでいう有機酸中和工程で用いられるアルカリ水溶液とは、有機酸中和工程に供給される新しいアルカリ水溶液を意味する。
【0025】
本発明の有機過酸化物は、触媒の存在下、プロピレンと接触させることによりプロピレンオキサイドを製造する方法に用いられ得る。その方法はたとえば特許文献1に記載されているが、その概略を示すと次のとおりである。
【0026】
本発明の酸化反応工程はすでに述べたとおりである。
【0027】
本発明の有機酸中和工程はすでに述べたとおりである。
【0028】
本発明のエポキシ化工程は、触媒の存在下、有機酸中和工程で副生有機酸が中和・除去された酸化反応油中の有機過酸化物とプロピレンとを反応させることによりプロピレンオキサイド及びアルコールを得る工程である。
【0029】
エポキシ化反応は、目的物を高収率及び高選択率下に得る観点から、チタン含有珪素酸化物からなる触媒の存在下に実施することが好ましい。これらの触媒は、珪素酸化物と化学的に結合したTiを含有する、いわゆるTi−シリカ触媒が好ましい。たとえば、Ti化合物をシリカ担体に担持したもの、共沈法やゾルゲル法で珪素酸化物と複合したもの、あるいはTiを含むゼオライト化合物などをあげることができる。
【0030】
本発明において、エポキシ化工程の原料物質として使用される有機過酸化物は、希薄又は濃厚な精製物又は非精製物であってよい。
【0031】
エポキシ化反応は、プロピレンと有機過酸化物を触媒に接触させることで行われ、溶媒を用いて液相中で実施される。溶媒は、反応時の温度及び圧力のもとで液体であり、かつ反応体及び生成物に対して実質的に不活性なものでなければならない。溶媒は使用される過酸化物溶液中に存在する物質からなるものであってよい。たとえばエチルベンゼンハイドロパーオキサイドやクメンハイドロパーオキサイドがその原料であるエチルベンゼンやクメンとからなる混合物である場合には、特に溶媒を添加することなく、これを溶媒の代用とすることも可能である。その他、有用な溶媒としては、芳香族の単環式化合物(たとえばベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン)及びアルカン(たとえばオクタン、デカン、ドデカン)などがあげられる。
【0032】
エポキシ化反応温度は一般に0〜200℃であるが、25〜200℃の温度が好ましい。圧力は、反応混合物を液体の状態に保つのに充分な圧力でよい。一般に圧力は100〜10000kPaであることが有利である。
【0033】
固体触媒は、スラリー状又は固定床の形で有利に実施できる。大規模な工業的操作の場合には、固定床を用いるのが好ましい。また、回分法、半連続法、連続法等によって実施できる。反応原料を含有する液を固定床に通した場合には、反応帯域から出た液状混合物には、触媒が全く含まれていないか又は実質的に含まれていない。
【0034】
エポキシ化工程へ供給されるプロピレン/有機過酸化物のモル比は2/1〜50/1であることが好ましい。該比が過小であると反応速度が低下して効率が悪く、一方該比が過大であるとリサイクルされるプロピレンの量が過大となり、回収工程において多大なエネルギーを必要とする。
【0035】
かくして得られたプロピレンオキサイドは、適時蒸留等の公知の精製方法により、所望の製品品質を満たすまで精製される。
【実施例】
【0036】
次に本発明を実施例により説明する。
実施例1
本発明をクメンの空気酸化のより得られるクメンハイドロパーオキサイドとプロピレンを触媒存在下に反応させて、プロピレンオキサイドを製造する方法に適応するケース
アルカリ水溶液製造設備で、炭酸ナトリウム水溶液を約11重量%と水酸化ナトリウムを約4重量%含むアルカリ水溶液(1)を製造する。
有機化合物としてクメン(2)を用い、空気酸化して過酸化物としてクメンハイドロパーオキサイド含む酸化油(3)を得る。酸化工程出口における酸化油(3)中のクメンハイドロパーオキサイドの濃度は、公知情報の経済性および安全上好ましいとされる濃度範囲内として、25〜30wt%である。酸化反応は温度105〜118℃、圧力0.6MPaGで実施する。得られた酸化油中(3)とアルカリ水溶液(1)を混合槽と静置槽からなる有機酸中和工程に供給し、攪拌機を有する混合槽で油水混合した後、静置ドラムにて油水分離する。こうして得られた所定の濃度まで有機酸の低下した中和後の酸化油(4)が得られ、副生有機酸は中和されて有機酸塩となり、アルカリ排水(5)から適時系外へ抜き出すことができる。中和を充分に行うため、pHが約9となるようにアルカリ水溶液(1)は連続的に供給する。このとき、油水の接触効率を高めるために、一部アルカリ排水のリサイクル(6)を実施して、酸化油と水の体積比(O/W)を1〜10程度になるように調整する。
【0037】
エポキシ反応工程では、プロピレン(7)と中和後の酸化油(4)中のクメンハイドロパーオキサイドを公知の触媒存在下で反応させ、プロピレンオキサイドとクミルアルコールを含むエポキシ反応液(8)を得る。反応条件も公知のプロピレンが反応器内でガス化しない温度・圧力を選定する。これをプロピレン精製工程にて精製し、製品プロピレン(9)を得ることができる。
【0038】
比較例1
アルカリ金属化合物として炭酸ナトリウム水溶液を約11重量%と水酸化ナトリウムを約4重量%の合計約15重量%含むアルカリ水溶液の代わりに15重量%炭酸ナトリウム水溶液を用いる場合を例にアルカリ水溶液の使用量を比較する。
このとき、pH9付近では炭酸ナトリウムは重炭酸ナトリウムまでしか中和に寄与しない。したがって、実施例で必要なアルカリ水溶液量を1とすると、中和に必要なアルカリ水の量は、簡単のため炭酸ナトリウムが全量重炭酸ナトリウムまで中和に用いられたとして算出すると、下記の式により、約1.44倍となる。
必要アルカリ水溶液量
=((0.11/106)+(0.04/40))/(0.15/106)
=1.44
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明をクメンの空気酸化のより得られるクメンハイドロパーオキサイドとプロピレンを触媒存在下に反応させて、プロピレンオキサイドを製造する方法に適応させた場合のフローを示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 アルカリ水溶液
2 クメン
3 酸化油
4 中和後の酸化油
5 アルカリ排水
6 アルカリ排水のリサイクル
7 プロピレン
8 エポキシ反応液
9 製品プロピレンオキサイド
10 副生物および未反応物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む有機過酸化物の製造方法であって、有機酸中和工程に供給されるアルカリ水溶液中の炭酸ナトリウム濃度が0.1〜20重量%であり、かつ水酸化ナトリウム濃度が0.1〜10重量%である有機過酸化物の製造方法。
酸化反応工程:有機物を酸素含有ガスで酸化して有機過酸化物と副生有機酸を含む酸化油を得る工程
有機酸中和工程:アルカリ水溶液と酸化反応工程で得られた酸化油を接触させることにより酸化油に含まれる副生有機酸が中和除去された酸化油を得る工程
【請求項2】
有機過酸化物がクメンハイドロパーオキサイドである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
有機過酸化物がエチルベンゼンハイドロパーオキサイドである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
有機過酸化物が、触媒の存在下、プロピレンと接触させることによりプロピレンオキサイドを製造する方法に用いられる請求項1に記載の有機過酸化物の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−215228(P2009−215228A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60812(P2008−60812)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】