説明

有機金属錯体、発光素子、表示装置、電子機器、及び照明装置

【課題】燐光を発光することが可能な新規物質を提供する。
【解決手段】前記新規物質の有機金属錯体は一般式(G1)で示される。一般式(G1)において、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を表す。また、Rは、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基のいずれか一を表す。また、Arは、置換基を有していてもよい炭素数6〜13のアリーレン基を表す。また、Mは第9族元素または第10族元素を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する発明は、電流励起によって発光することの可能な物質に関する。特に、三重項励起状態からの発光が得られる物質に関する。また、その物質を用いた発光素子、表示装置、電子機器、発光装置、及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子は、一対の電極(陽極及び陰極)間に発光物質を含む層(発光層)を有している。発光物質として、様々な有機化合物を用いることが可能であることが報告されている。
【0003】
発光素子の発光機構は、一対の電極間に発光層を挟んで電圧を印加することにより、陰極から注入された電子及び陽極から注入された正孔が発光層の発光中心で再結合して分子励起子を形成し、その分子励起子が基底状態に戻る際にエネルギーを放出して発光するといわれている。励起状態には一重項励起と三重項励起が知られ、発光はどちらの励起状態を経ても可能であると考えられている。
【0004】
このような発光素子においては、一重項励起状態に比べて三重項励起状態の方がより多くの励起子が生成されるため、三重項励起状態から発光できる材料(燐光材料)を用いることで、発光素子の発光効率を高めることができる。このため、発光物質として燐光材料を用いる試みが多くなされている。
【0005】
緑色〜青色を示す代表的な燐光材料として、イリジウム(Ir)を中心金属とする金属錯体(以下、「Ir錯体」という)がある(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1では、トリアゾール誘導体を配位子とするIr錯体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−137872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1において報告されているように、緑色や青色を示す燐光材料の開発も進んできてはいるものの、信頼性、発光特性、またはコストといった面でより優れた燐光材料の開発が望まれている。
【0008】
本発明の一態様は、上記問題を鑑みてなされたものであり、燐光を発光することが可能な新規物質を提供することを課題とする。または、緑色〜青色の波長域の燐光を示す新規物質を提供することを課題とする。または、燐光を発光することが可能な新規物質を用いた発光素子、発光装置、照明装置、もしくは電子機器を提供することを課題とする。または、緑色〜青色の波長域の燐光を示す新規物質を用いた発光素子、発光装置、照明装置、もしくは電子機器を提供することを課題とする。
【0009】
なお、本発明は上述した複数の課題のうち、少なくとも一つを解決することができればよい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体を配位子とするオルトメタル錯体が緑色〜青色の波長域の燐光を示すことを見出した。
【0011】
本発明の一態様は、一般式(G1)で表される構造を含む有機金属錯体である。
【0012】
【化1】

【0013】
また、本発明の一態様は、一般式(G2)で表される有機金属錯体である。
【0014】
【化2】

【0015】
一般式(G1)、(G2)において、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を表す。また、Rは、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基のいずれか一を表す。また、Arは、置換基を有していてもよい炭素数6〜13のアリーレン基を表す。また、Mは第9族元素または第10族元素を表す。
【0016】
また、一般式(G2)において、Mが第9族元素のときはn=2であり、Mが第10族元素のときはn=1である。また、Lは、モノアニオン性の二座配位子を表す。
【0017】
ここで、Rにおける置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基の具体例としては、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、1,1−ジフルオロエチル基、1,1,2,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロピル基、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ノナデカフルオロノニル基が挙げられ、特にトリフルオロメチル基が好ましい。
【0018】
また、Rにおける炭素数1〜6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基が挙げられる。また、Rにおける置換基を有していてもよい炭素数5〜8のシクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、1−メチルシクロヘキシル基、2,6−ジメチルシクロヘキシル基が挙げられる。また、Rにおける置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基の具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、単数または複数のメチル基で置換されたフェニル基、単数または複数のエチル基で置換されたフェニル基、単数または複数のイソプロピル基で置換されたフェニル基、tert−ブチル基で置換されたフェニル基、フルオロ基で置換されたフェニル基、トリフルオロメチル基で置換されたフェニル基が挙げられる。
【0019】
また、Arの具体例としては、フェニレン基、単数または複数のアルキル基で置換されたフェニレン基、シクロアルキル基で置換されたフェニレン基、アルコキシ基で置換されたフェニレン基、アリールオキシ基で置換されたフェニレン基、アルキルチオ基で置換されたフェニレン基、アリールチオ基で置換されたフェニレン基、モノまたはジアルキルアミノ基で置換されたフェニレン基、モノまたはジアリールアミノ基で置換されたフェニレン基、アリール基で置換されたフェニレン基、単数または複数のハロゲン基で置換されたフェニレン基、単数または複数のハロアルキル基で置換されたフェニレン基、ビフェニル−ジイル基、ナフタレン−ジイル基、フルオレン−ジイル基、9,9−ジアルキルフルオレン−ジイル基、9,9−ジアリールフルオレン−ジイル基が挙げられる。なお、これらの具体例のうち、ビフェニル−ジイル基、ナフタレン−ジイル基、フルオレン−ジイル基、9,9−ジアルキルフルオレン−ジイル基、9,9−ジアリールフルオレン−ジイル基等のように、Arの共役がベンゼン環よりも広がる置換基(具体的には、Arとして炭素数が10以上である置換基)を用いると、有機金属錯体の発光スペクトルを狭線化することができる。Arがフェニレン基の場合、励起状態の電子スピンがArとトリアゾール環の間に存在し、発光時にArとトリアゾール環の炭素−炭素結合伸縮振動が局在的な変化を起こす。このため、スペクトルにおける伸縮振動由来の、短波長側から2つめのピークが大きくなっていると考えられる。これに対し、Arの共役がベンゼン環よりも広がると、励起状態の電子スピンがArとトリアゾール環の間に存在しない。このため、Arとトリアゾール環の炭素−炭素結合伸縮振動が局在的な変化を起こさなくなり、第2ピークは小さくなる。ゆえに、発光スペクトルの最も短波長側の第1ピークが大きくなる。この結果、有機金属錯体の発光波長を短波長化させることができる。また、有機金属錯体の発光スペクトルを狭線化することができる。
【0020】
また、第9族元素としてはイリジウムが好ましく、第10族元素としては白金が好ましい。これは、より効率よく燐光発光させるためには、重原子効果の観点から、有機金属錯体の中心金属として重い金属の方が好ましいためである。
【0021】
上述の一般式(G1)で表される構造を含む有機金属錯体において、Rがフェニル基であり、Arがフェニレン基である場合、合成が容易となるため好ましい。すなわち、本発明の一態様は、一般式(G3)で表される構造を含む有機金属錯体である。
【0022】
【化3】

【0023】
また、上述の一般式(G2)で表される有機金属錯体において、Rがフェニル基であり、Arがフェニレン基である場合、合成が容易となるため好ましい。すなわち、本発明の一態様は、一般式(G4)で表される有機金属錯体である。
【0024】
【化4】

【0025】
一般式(G3)、(G4)において、R11は、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を表す。また、R12〜R16は、各々独立して、水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、またはフェニル基を表す。また、R17〜R20は、各々独立して、水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、炭素数1〜4のアルキルチオ基、炭素数6〜12のアリールチオ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、炭素数6〜24のモノまたはジアリールアミノ基、シアノ基、ハロゲン基、炭素数1〜4のハロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基のいずれか一を表す。ここで、R17〜R20のうち、互いに隣接する置換基同士が直接結合して環状構造を形成してもよい。また、Mは第9族元素または第10族元素を表す。
【0026】
また、一般式(G4)において、Mが第9族元素のときはn=2であり、Mが第10族元素のときはn=1である。また、Lは、モノアニオン性の二座配位子を表す。
【0027】
なお、一般式(G3)、(G4)において、R11の具体例としては、一般式(G1)及び(G2)におけるRと同様のものを用いることができる。また、R12〜R16の具体例としては、水素、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基が挙げられる。
【0028】
また、R17〜R20の具体例としては、各々独立して、水素、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、フェニルチオ基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、フルオロ基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、ブロモメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル基、フェニル基、フルオロ基で置換されたフェニル基、またはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基が挙げられる。
【0029】
そして、R17〜R20のうち、少なくとも一つが電子吸引性の置換基であることがより好ましい。電子吸引性の置換基としては、ハロゲン基、ハロアルキル基、ハロゲン基で置換されたフェニル基、ハロアルキル基で置換されたフェニル基が挙げられる。より具体的には、シアノ基、フルオロ基、トリフルオロメチル基、フルオロ基で置換されたフェニル基、またはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基が挙げられ、特にフルオロ基、トリフルオロメチル基が好ましい。R17〜R20のうち、少なくとも一つが電子吸引性の置換基であることにより、有機金属錯体のHOMO準位が下がり、それに伴ってエネルギーギャップが大きくなるため、有機金属錯体のエネルギーが安定化する。この結果、有機金属錯体の発光波長を短波長化させることができる。このため、青色の波長域の燐光を示す材料として特に好ましい。また、一般式(G3)、(G4)におけるR17及び/またはR19にメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基が置換される場合、電子吸引性の置換基として働くことができる。
【0030】
また、本発明の一態様は、前記モノアニオン性の二座配位子が、ベータジケトン構造を有するモノアニオン性の二座キレート配位子、カルボキシル基を有するモノアニオン性の二座キレート配位子、フェノール性水酸基を有するモノアニオン性の二座キレート配位子、2つの配位元素がいずれも窒素であるモノアニオン性の二座キレート配位子のいずれか一である有機金属錯体である。
【0031】
また、本発明の一態様は、前記モノアニオン性の二座配位子は、構造式(L1)乃至(L6)のいずれか一で表される配位子である有機金属錯体である。
【0032】
【化5】

【0033】
構造式(L1)乃至(L6)において、R71〜R90は水素、炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン基、ハロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または炭素数1〜4のアルキルチオ基のいずれか一を表す。また、A、A、Aは窒素N、または炭素C−Rを表し、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン基、炭素数1〜4のハロアルキル基、またはフェニル基を表す。
【0034】
また、本発明の一態様は、前記有機金属錯体を含む層を一対の電極間に有する発光素子である。また、前記有機金属錯体を含む層は発光層であってもよい。
【0035】
また、本発明の一態様は、前記有機金属錯体を含む第1の発光ユニットと、前記有機金属錯体よりも長波長の発光を呈する発光材料を含む第2の発光ユニットとを一対の電極間に有する発光素子である。
【0036】
また、本発明の一態様は、前記有機金属錯体を含む第1の発光ユニットと、前記有機金属錯体よりも長波長の発光を呈する第1の発光材料を含む第2の発光ユニットと、前記有機金属錯体よりも長波長、かつ前記第1の発光材料よりも短波長の発光を呈する第2の発光材料を含む第3の発光ユニットとを一対の電極間に有する発光素子である。
【0037】
また、本発明の一態様は、前記発光素子を画素部に有する表示装置である。
【0038】
また、本発明の一態様は、前記表示装置を表示部に用いた電子機器である。
【0039】
また、本発明の一態様は、前記発光素子を光源として用いた照明装置である。
【0040】
また、本発明の一態様において、炭素数1〜9のハロアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数6〜13のアリーレン基は、それぞれ無置換のものと、置換基を有するものの両者を含む。また、置換基を有する場合、当該置換基に含まれる炭素数は、前記各炭素数に含まれないものとする。例えば、置換基を有するシクロアルキル基は、置換基に含まれる炭素を含まずに炭素を5以上8以下含むものとする。
【0041】
また、本明細書において、「発光装置」とは、発光素子を有するデバイス全般を指し、具体的には、テレビや携帯電話機等の表示装置に用いるバックライト、信号機、街灯や街頭イルミネーション等の照明用途のライト、照明装置、ビニールハウスなどで使用できる育種用のライトなどを範疇に含む。
【発明の効果】
【0042】
本発明の一態様により、燐光を発光することが可能な新規物質を提供することができる。また、当該新規物質を用いた発光素子、表示装置、発光装置、照明装置、及び電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一態様に係る発光素子の概念図。
【図2】本発明の一態様に係る発光装置の一例を示す図。
【図3】本発明の一態様に係る発光装置の一例を示す図。
【図4】本発明の一態様に係る発光装置の一例を示す図。
【図5】本発明の一態様に係る電子機器及び照明装置の一例を示す図。
【図6】本発明の一態様に係る照明装置の一例を示す図。
【図7】[Ir(MCFptz)(pic)]のH−NMRチャートを示す図。
【図8】[Ir(MCFptz)(pic)]のジクロロメタン溶液における吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図9】[Ir(CFptz)(pic)]のH−NMRチャートを示す図。
【図10】[Ir(CFptz)(pic)]のジクロロメタン溶液における吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図11】発光素子1の電流密度−輝度特性を示す図。
【図12】発光素子1の電圧−輝度特性を示す図。
【図13】発光素子1の輝度−電流効率特性を示す図。
【図14】発光素子1の発光スペクトルを示す図。
【図15】発光素子2の電流密度−輝度特性を示す図。
【図16】発光素子2の電圧−輝度特性を示す図。
【図17】発光素子2の輝度−電流効率特性を示す図。
【図18】発光素子2の発光スペクトルを示す図。
【図19】比較例である[Ir(taz−tBuP)(pic)]のH−NMRチャートを示す図。
【図20】比較例である[Ir(taz−tBuP)(pic)]のジクロロメタン溶液における吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図21】[Ir(CFFptz)]のH−NMRチャートを示す図。
【図22】[Ir(CFFptz)]のジクロロメタン溶液における吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図23】発光素子3の電流密度−輝度特性を示す図。
【図24】発光素子3の電圧−輝度特性を示す図。
【図25】発光素子3の輝度−電流効率特性を示す図。
【図26】発光素子3の発光スペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の一態様に係る実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更しうることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態において、同じ物を指し示す符号は異なる図面において共通とする。
【0045】
また、以下に説明する実施の形態及び実施例それぞれにおいて、特に断りがない限り、本明細書に記載されている他の実施形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0046】
(実施の形態1)
本発明の一態様は、一般式(G1)で表される構造を含む有機金属錯体である。
【0047】
【化6】

【0048】
一般式(G1)において、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を表す。また、Rは、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基のいずれか一を表す。また、Arは、置換基を有していてもよい炭素数6〜13のアリーレン基を表す。また、Mは第9族元素または第10族元素を表す。
【0049】
一般式(G1)で表される構造を含む有機金属錯体の具体例としては、構造式(100)〜(178)で表される有機金属錯体が挙げられる。ただし、本発明はこれらの構造式で表される有機金属錯体のみに限定されるものではない。
【0050】
【化7】

【0051】
【化8】

【0052】
【化9】

【0053】
【化10】

【0054】
【化11】

【0055】
【化12】

【0056】
【化13】

【0057】
【化14】

【0058】
【化15】

【0059】
【化16】

【0060】
【化17】

【0061】
【化18】

【0062】
【化19】

【0063】
【化20】

【0064】
以上に示す本発明の一態様である有機金属錯体は、燐光を発光することが可能な新規物質である。
【0065】
次に、一般式(G1)で表される構造を含む有機金属錯体の合成方法の一例について説明する。
【0066】
<ステップ1;3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体の合成法>
まず、下記一般式(G0)で表される3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体は新規物質であるので、その合成法の一例について説明する。なお、一般式(G0)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を表す。また、Rは、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基のいずれか一を表す。また、Arは、置換基を有していてもよい炭素数6〜13のアリール基を表す。
【0067】
【化21】

【0068】
なお、Rの具体例としては、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、1,1−ジフルオロエチル基、1,1,2,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロピル基、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ノナデカフルオロノニル基が挙げられる。
【0069】
また、Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、1−メチルシクロヘキシル基、2,6−ジメチルシクロヘキシル基、フェニル基、ビフェニル基、単数または複数のメチル基で置換されたフェニル基、単数または複数のエチル基で置換されたフェニル基、単数または複数のイソプロピル基で置換されたフェニル基、tert−ブチル基で置換されたフェニル基、フルオロ基で置換されたフェニル基、トリフルオロメチル基で置換されたフェニル基が挙げられる。
【0070】
また、Arの具体例としては、フェニレン基、単数または複数のアルキル基で置換されたフェニレン基、シクロアルキル基で置換されたフェニレン基、アルコキシ基で置換されたフェニレン基、アリールオキシ基で置換されたフェニレン基、アルキルチオ基で置換されたフェニレン基、アリールチオ基で置換されたフェニレン基、モノまたはジアルキルアミノ基で置換されたフェニレン基、モノまたはジアリールアミノ基で置換されたフェニレン基、アリール基で置換されたフェニレン基、単数または複数のハロゲン基で置換されたフェニレン基、単数または複数のハロアルキル基で置換されたフェニレン基、ビフェニル−ジイル基、ナフタレン−ジイル基、フルオレン−ジイル基、9,9−ジアルキルフルオレン−ジイル基、9,9−ジアリールフルオレン−ジイル基が挙げられる。
【0071】
下記スキーム(a)に示すように、Arを含むチオエーテル化合物、またはArを含むN−置換チオアミド化合物(A1)と、ハロアルキルヒドラジド化合物(A2)とを反応させることにより、3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体を得ることができる。なお、スキーム(a)において、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を表す。また、Rは、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基のいずれか一を表す。また、Arは、置換基を有していてもよい炭素数6〜13のアリール基を表す。
【0072】
【化22】

【0073】
ただし、3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体の合成法は、スキーム(a)のみに限定されるものではない。例えば、他の合成法の一例として、R及びRを含むチオエーテル化合物、またはR及びRを含むN−置換チオアミド化合物を、アリールヒドラジド化合物と反応させる方法もある。また、下記スキーム(a’)に示すように、ジヒドラジド化合物(A1’)と第1級アミン化合物(A2’)とを反応させる方法もある。なお、スキーム(a’)において、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を表す。また、Rは、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基のいずれか一を表す。また、Arは、置換基を有していてもよい炭素数6〜13のアリール基を表す。
【0074】
【化23】

【0075】
以上のように、3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体は、ごく簡便な合成スキームにより合成することができる。
【0076】
<ステップ2;ハロゲンで架橋された複核金属錯体の合成法>
下記合成スキーム(b)に示すように、ステップ1で得られる3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体と、ハロゲンを含む第9族または第10族の金属化合物(塩化ロジウム水和物、塩化パラジウム、塩化イリジウム水和物、ヘキサクロロイリジウム酸アンモニウム、テトラクロロ白金酸カリウム等)とを混合した後、不活性ガス雰囲気にて加熱することにより、ハロゲンで架橋された複核金属錯体(B)を得ることができる。なお、この加熱プロセスは、ステップ1で得られる3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体と、ハロゲンを含む第9族または第10族の金属化合物とをアルコール系溶媒(グリセロール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール等)単独、またはアルコール系溶媒1種類以上と水との混合溶媒に溶解した後に行ってもよい。加熱手段としては特に限定はないが、オイルバス、サンドバス、又はアルミブロックを加熱手段として用いてもよい。また、マイクロ波を加熱手段として用いることも可能である。なお、スキーム(b)において、Mは第9族元素または第10族元素を表す。また、Mが第9族元素のときはn=3であり、Mが第10族元素のときはn=2である。また、Xはハロゲンを表す。
【0077】
【化24】

【0078】
<ステップ3;3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体を配位子とするオルトメタル錯体の合成法>
下記合成スキーム(c)に示すように、ステップ2で得られるハロゲンで架橋された複核金属錯体と、モノアニオン性の二座配位子Lの原料であるHL(Hは水素を表す)とを混合した後、不活性ガス雰囲気にて加熱することにより、HLからプロトンが脱離して中心金属Mに配位し、一般式(G2)で表される有機金属錯体を得ることができる。加熱手段としては特に限定はないが、オイルバス、サンドバス、又はアルミブロックを加熱手段として用いてもよい。また、マイクロ波を加熱手段として用いることも可能である。
【0079】
【化25】

【0080】
本発明においては、上述したように3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体を配位子とするオルトメタル錯体を得るために、Rとして置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を用いている。このため、Rとしてアルキル基を用いた場合に比較して、合成スキーム(b)において生成したハロゲンで架橋された複核金属錯体が合成スキーム(c)で表される反応中に分解してしまうことを抑制し、高い収率を得ることができる。また、Rとして置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を用いることにより、アルキル基を用いた場合に比較して短波長側に発光ピークを有する有機金属錯体を得ることができる。このため、青色の波長域の燐光を示す材料を作製する上で有利である。
【0081】
なお、モノアニオン性の二座配位子としては、ベータジケトン構造を有するモノアニオン性の二座キレート配位子、カルボキシル基を有するモノアニオン性の二座キレート配位子、フェノール性水酸基を有するモノアニオン性の二座キレート配位子、2つの配位元素がいずれも窒素であるモノアニオン性の二座キレート配位子などがあるが、具体例としては、下記構造式(L1)乃至(L6)で表される配位子が挙げられる。
【0082】
【化26】

【0083】
なお、上記合成スキーム(b)、合成スキーム(c)を経ることにより、ヘテロ型の有機金属錯体を得ることができるが、下記合成スキーム(b’)を経ることにより、トリス型の有機金属錯体を得ることができる。
【0084】
<ステップ2’;3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体を配位子とするオルトメタル錯体の合成法>
下記合成スキーム(b’)に示すように、ステップ1で得られる3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体と、ハロゲンを含む第9族もしくは第10族の金属化合物(塩化ロジウム水和物、塩化パラジウム、塩化イリジウム水和物、ヘキサクロロイリジウム酸アンモニウム、テトラクロロ白金酸カリウム等)、または第9族もしくは第10族の有機金属錯体化合物(アセチルアセトナト錯体、ジエチルスルフィド錯体等)とを混合した後、加熱することにより、一般式(G2’)で表される構造を有する有機金属錯体を得ることができる。また、この加熱プロセスは、ステップ1で得られる3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体と、ハロゲンを含む第9族もしくは第10族の金属化合物、または第9族もしくは第10族の有機金属錯体化合物とをアルコール系溶媒(グリセロール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール等)に溶解した後に行ってもよい。なお、スキーム(b’)において、Mは第9族元素または第10族元素を表す。また、Mが第9族元素のときはn=3であり、Mが第10族元素のときはn=2である。
【0085】
【化27】

【0086】
また、上述の化合物(A1)、(A2)、(A1’)、(A2’)は、様々な種類が市販されているか、または合成可能であるため、一般式(G0)で表される3−アリール−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体は数多くの種類を合成することができる。したがって、本発明の一態様である有機金属錯体は、その配位子のバリエーションが豊富であるという特徴を有する。そして、このように配位子のバリエーションが豊富な有機金属錯体を発光素子の作製の際に用いることにより、発光素子に求められる素子特性の微調整を容易に行うことができる。
【0087】
(実施の形態2)
実施の形態1に記載の有機金属錯体を用いた発光素子の一態様について、図1(A)を用いて説明する。
【0088】
発光素子は、一対の電極(第1の電極102及び第2の電極104)と、前記一対の電極間に挟まれたEL層103を有する。また、本実施の形態で説明する発光素子は、基板101上に設けられている。
【0089】
基板101は、発光素子の支持体として用いられる。基板101としては、ガラス基板、プラスチック基板などを用いることができる。また、基板101として、可撓性を有する基板(フレキシブル基板)や曲面を有する基板を用いることもできる。なお、発光素子の支持体として機能するものであれば、基板101としてこれら以外の基板を用いることも可能である。
【0090】
第1の電極102及び第2の電極104は、一方が陽極として機能し、他方が陰極として機能する。本実施の形態においては、第1の電極102を陽極として用い、第2の電極104を陰極として用いるものとして説明するが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
【0091】
陽極として用いる材料は、仕事関数の大きい(具体的には4.0eV以上)金属、合金、導電性化合物、またはこれらの混合物などが好ましい。具体的には、酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide)、ケイ素若しくは酸化ケイ素を含有した酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO:Indium Zinc Oxide)、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム(IWZO)等が挙げられる。この他、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、または金属材料の窒化物(例えば、窒化チタン)等が挙げられる。
【0092】
陰極として用いる材料は、仕事関数の小さい(具体的には3.8eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物、またはこれらの混合物などが好ましい。具体的には、元素周期表の第1族または第2族に属する元素、すなわちリチウム(Li)やセシウム(Cs)等のアルカリ金属、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属が挙げられる。また、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む合金(例えばMgAg、AlLi)を用いることもできる。また、ユウロピウム(Eu)、イッテルビウム(Yb)などの希土類金属、または希土類金属を含む合金を用いることもできる。また、EL層103の一部として、第2の電極104に接する電子注入層を設ける場合、仕事関数の大小に関わらず、Al、Ag、ITOなどの様々な導電性材料を第2の電極104として用いることができる。これら導電性材料は、スパッタリング法やインクジェット法、スピンコート法等を用いて成膜することが可能である。
【0093】
EL層103は、単層構造で構成されることも可能であるが、通常積層構造から構成される。EL層103の積層構造については特に限定されず、電子輸送性の高い物質を含む層(電子輸送層)または正孔輸送性の高い物質を含む層(正孔輸送層)、電子注入性の高い物質を含む層(電子注入層)、正孔注入性の高い物質を含む層(正孔注入層)、バイポーラ性(電子及び正孔の輸送性の高い物質)の物質を含む層、発光物質を含む層(発光層)などを適宜組み合わせて構成すればよい。例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層等を適宜組み合わせて構成することができる。図1(A)においては、第1の電極102の上に形成されたEL層103として、正孔注入層111、正孔輸送層112、発光層113、電子輸送層114が順に積層された構造を示している。
【0094】
発光素子は、第1の電極102と第2の電極104との間に生じた電位差により電流が流れ、発光性の高い物質を含む層である発光層113において正孔と電子とが再結合し、発光するものである。つまり発光層113に発光領域が形成されるような構成となっている。
【0095】
発光は、第1の電極102または第2の電極104のいずれか一方または両方を通って外部に取り出される。従って、第1の電極102または第2の電極104のいずれか一方または両方は、透光性を有する電極で成る。第1の電極102のみが透光性を有する電極である場合、発光は第1の電極102を通って基板側から取り出される。また、第2の電極104のみが透光性を有する電極である場合、発光は第2の電極104を通って基板と逆側から取り出される。第1の電極102および第2の電極104がいずれも透光性を有する電極である場合、発光は第1の電極102および第2の電極104を通って、基板側および基板と逆側の両方から取り出される。
【0096】
本発明の一態様である一般式(G1)で表される構造を含む有機金属錯体は、例えば発光層113に用いることができる。この場合、一般式(G1)で表される構造を含む有機金属錯体からなる薄膜で発光層113が形成されていてもよいし、一般式(G1)で表される構造を含む有機金属錯体がホスト材料にドーピングされた薄膜で発光層113が形成されていてもよい。
【0097】
発光層113に接する正孔輸送層112や電子輸送層114、特に発光層113における発光領域に近い方に接するキャリア(電子または正孔)輸送層は、発光層113で生成した励起子からのエネルギー移動を抑制するため、発光層を構成する発光物質、または発光層に含まれる発光中心物質が有するエネルギーギャップよりも大きいエネルギーギャップを有する物質で構成することが好ましい。
【0098】
正孔注入層111は、正孔注入性の高い物質を含む層であり、第1の電極102から正孔輸送層112へ正孔の注入を補助する機能を有する層である。正孔注入層111を設けることによって、第1の電極102と正孔輸送層112との間のイオン化ポテンシャルの差が緩和され、正孔が注入され易くなる。正孔注入層111は、正孔輸送層112を形成している物質よりもイオン化ポテンシャルが小さく、第1の電極102を形成している物質よりもイオン化ポテンシャルが大きい物質、または正孔輸送層112と第1の電極102との間に1〜2nmの薄膜として設けたときにエネルギーバンドが曲がるような物質を用いて形成することが好ましい。つまり、正孔注入層111におけるイオン化ポテンシャルが正孔輸送層112におけるイオン化ポテンシャルよりも相対的に小さくなるような物質を正孔注入層111として選択することが好ましい。正孔注入性の高い物質の具体例としては、フタロシアニン(略称:HPc)や銅フタロシアニン(CuPc)等のフタロシアニン系の化合物、またはポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)水溶液(PEDOT/PSS)等の高分子が挙げられる。
【0099】
正孔輸送層112は、正孔輸送性の高い物質を含む層である。正孔輸送性の高い物質とは、電子よりも正孔の移動度が高いものを指し、好ましくは電子の移動度に対する正孔の移動度の比の値(=正孔移動度/電子移動度)が100よりも大きい物質である。また、正孔輸送性の高い物質としては、1×10−6cm/Vs以上の正孔移動度を有する物質が好ましい。正孔輸送性の高い物質の具体例としては、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)、4,4’−ビス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:TPD)、4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、N,N’−ビス[4−[ビス(3−メチルフェニル)アミノ]フェニル]−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(略称:DNTPD)、1,3,5−トリス[N,N−ジ(m−トリル)アミノ]ベンゼン(略称:m−MTDAB)、4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(略称:TCTA)、フタロシアニン(略称:HPc)、銅フタロシアニン(略称:CuPc)、バナジルフタロシアニン(略称:VOPc)が挙げられる。また、正孔輸送層112は、単層構造としてもよいし、積層構造としてもよい。
【0100】
電子輸送層114は、電子輸送性の高い物質を含む層である。電子輸送性の高い物質とは、正孔よりも電子の移動度が高いものを指し、好ましくは正孔の移動度に対する電子の移動度の比の値(=電子移動度/正孔移動度)が100よりも大きい物質である。また、電子輸送性の高い物質としては、1×10−6cm/Vs以上の電子移動度を有する物質が好ましい。電子輸送性の高い物質の具体例としては、キノリン骨格を有する金属錯体、ベンゾキノリン骨格を有する金属錯体、オキサゾール系配位子を有する金属錯体、チアゾール系配位子を有する金属錯体が挙げられる。キノリン骨格を有する金属錯体の具体例としては、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Alq)、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム(略称:BAlq)が挙げられる。また、ベンゾキノリン骨格を有する金属錯体の具体例としては、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(略称:BeBq)が挙げられる。また、オキサゾール系配位子を有する金属錯体の具体例としては、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンズオキサゾラト]亜鉛(略称:Zn(BOX))が挙げられる。また、チアゾール系配位子を有する金属錯体の具体例としては、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(略称:Zn(BTZ))が挙げられる。また、金属錯体以外にも、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)や、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ01)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)なども用いることができる。具体例を挙げた上述の物質は、主に1×10−6cm/Vs以上の電子移動度を有する物質である。なお、正孔よりも電子の輸送性の高い物質であれば、前記以外の物質を電子輸送層114として用いてもよい。また、電子輸送層114は、単層構造としてもよいし、積層構造としてもよい。
【0101】
また、発光層113と電子輸送層114との間に電子キャリアの移動を制御する層を設けてもよい。電子キャリアの移動を制御する層は、上述したような電子輸送性の高い材料に対して、電子トラップ性の高い物質を少量添加した層である。電子キャリアの移動を制御する層を設けることにより、電子キャリアの移動を抑制し、キャリアバランスを調節することが可能となる。このような構成は、発光層を電子が突き抜けてしまうことにより発生する問題(例えば素子寿命の低下)の抑制に大きな効果を発揮する。
【0102】
また、電子輸送層114と第2の電極104との間に、第2の電極104に接して電子注入層を設けてもよい。電子注入層としては、電子輸送性を有する物質からなる層中に、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化カルシウム(CaF)などのようなアルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの化合物を含有させたものを用いればよい。具体例としては、Alq中にマグネシウム(Mg)を含有させたものを用いることができる。電子注入層を設けることにより、第2の電極104からの電子注入を効率良く行うことができる。
【0103】
また、EL層103の形成方法は、乾式法、湿式法を問わず、種々の方法を用いることができる。例えば、真空蒸着法、インクジェット法、またはスピンコート法を用いることができる。また、EL層103を積層構造とする場合、各層毎に異なる成膜方法を用いて形成してもよいし、各層全てを同一の成膜方法で形成してもよい。
【0104】
また、第1の電極102、第2の電極104は、ゾル−ゲル法を用いた湿式法で形成してもよいし、金属材料のペーストを用いた湿式法で形成してもよい。また、スパッタリング法や真空蒸着法などの乾式法で形成してもよい。
【0105】
(実施の形態3)
本実施の形態では、複数の発光ユニットを積層した構成の発光素子(以下、「タンデム型の発光素子」という)の態様について、図1(B)を参照しながら説明する。タンデム型の発光素子は、第1の電極と第2の電極との間に、複数の発光ユニットを有する発光素子である。発光ユニットとしては、実施の形態2で示したEL層103と同様な構成を用いることができる。つまり、実施の形態2で示した発光素子は、1つの発光ユニットを有する発光素子であり、本実施の形態3の発光素子は、複数の発光ユニットを有する発光素子ということができる。
【0106】
図1(B)において、第1の電極501と第2の電極502との間には、第1の発光ユニット511と第2の発光ユニット512が積層されている。第1の電極501と第2の電極502は、実施の形態2と同様なものを適用することができる。また、第1の発光ユニット511と第2の発光ユニット512は同じ構成であっても異なる構成であってもよく、各ユニットの構成は、それぞれ実施の形態2と同様なものを適用することができる。
【0107】
第1の発光ユニット511と第2の発光ユニット512との間には、電荷発生層513が設けられている。電荷発生層513は、有機化合物と金属酸化物の複合材料を含み、第1の電極501と第2の電極502に電圧を印加したときに、一方の側の発光ユニットに電子を注入し、他方の側の発光ユニットに正孔を注入する機能を有する。有機化合物と金属酸化物の複合材料は、キャリア注入性、キャリア輸送性に優れているため、低電圧駆動、低電流駆動を実現することができる。
【0108】
ここで、有機化合物は、正孔輸送性の有機化合物として正孔移動度が1×10−6cm/Vs以上であるものを用いることが好ましい。有機化合物の具体例としては、芳香族アミン化合物、カルバゾール化合物、芳香族炭化水素、高分子化合物(オリゴマー、デンドリマー、ポリマー等)が挙げられる。また、金属酸化物は、元素周期表における第4族乃至第8族に属する金属の酸化物を用いればよく、具体例としては、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化レニウムが挙げられる。これらの金属酸化物は、電子受容性が高いため、好ましい。特に、酸化モリブデンは大気中でも安定であり、吸湿性が低く、且つ扱いやすいため、特に好ましい。
【0109】
また、電荷発生層513は、単層構造でもよいし、積層構造でもよい。例えば、有機化合物と金属酸化物の複合材料を含む層と、電子供与性物質の中から選ばれた一の化合物、及び電子輸送性の高い化合物を含む層とを積層した構造としてもよいし、有機化合物と金属酸化物の複合材料を含む層と、透明導電膜とを積層した構造としてもよい。
【0110】
本実施の形態では、2つの発光ユニットを有する発光素子について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。すなわち、タンデム型の発光素子は、3つ以上の発光ユニットを有する発光素子でもよい。なお、3つ以上の発光ユニットを有する発光素子の場合、各発光ユニットの間毎に電荷発生層を有する。例えば、本発明の一態様である有機金属錯体を用いて作製される第1のユニットと、前記有機金属錯体よりも長波長の発光(例えば、赤色の発光)を呈する発光材料を用いて作製される第2のユニットとを有する発光素子を構成してもよい。また、本発明の一態様である有機金属錯体を用いて作製される第1のユニットと、前記有機金属錯体よりも長波長の発光(例えば、赤色の発光)を呈する第1の発光材料を用いて作製される第2のユニットと、前記有機金属錯体よりも長波長、かつ前記第1の発光材料よりも短波長の発光(例えば、緑色の発光)を呈する第2の発光材料を用いて作製される第3のユニットとを有する発光素子を構成してもよい。これらの発光素子を用いることにより、白色の発光装置を得ることができる。特に、本発明の一態様である有機金属錯体の発光スペクトルは、ブロードなピークを有する特長がある。このため、タンデム型の発光素子において少なくとも1つの発光ユニットに本発明の一態様である有機金属錯体を用いることで、白の再現力(演色性)に優れた発光装置を容易に提供することができる。
【0111】
そして、本実施の形態に係るタンデム型の発光素子は、一対の電極間に複数の発光ユニットを電荷発生層で仕切って配置することで、電流密度を低く保ったまま、高輝度領域での長寿命素子を実現することができる。
【0112】
(実施の形態4)
本実施の形態では、上記実施の形態で説明した発光素子を用いて作製される発光装置の一例である、パッシブマトリクス型の発光装置、及びアクティブマトリクス型の発光装置について説明する。
【0113】
図2、図3にパッシブマトリクス型の発光装置の例を示す。
【0114】
パッシブマトリクス型(単純マトリクス型ともいう)の発光装置は、ストライプ状(帯状)に並列された複数の陽極と、ストライプ状に並列された複数の陰極とが互いに直交するように設けられており、その交差部に発光層が挟まれた構造となっている。従って、選択された(電圧が印加された)陽極と選択された陰極との交点にあたる画素が点灯することになる。
【0115】
図2(A)乃至図2(C)は、封止前における画素部の上面図を示す図であり、図2(A)乃至図2(C)中の鎖線A−A’で切断した断面図が図2(D)である。
【0116】
基板601上には、下地絶縁層として絶縁層602が形成されている。なお、絶縁層602が必要でなければ特に形成しなくともよい。絶縁層602上には、ストライプ状の複数の第1の電極603が等間隔で配置されている(図2(A)参照)。なお、本実施の形態で示す第1の電極603は、実施の形態2における第1の電極102に相当する。
【0117】
また、第1の電極603上には、各画素に対応する開口部605を有する隔壁604が設けられている。隔壁604は、絶縁材料で形成されている。例えば、ポリイミド、アクリル、ポリアミド、ポリイミドアミド、レジスト、もしくはベンゾシクロブテン等の感光性または非感光性の有機材料や、アルキル基を含むSiO膜等のSOG膜を絶縁材料として用いることができる。また、各画素に対応する開口部605は、発光領域となる(図2(B)参照)。
【0118】
開口部を有する隔壁604上には、第1の電極603と交差する複数の隔壁606が設けられている(図2(C)参照)。複数の隔壁606は、それぞれ互いに平行に設けられており、逆テーパ状をなしている。
【0119】
第1の電極603及び隔壁604上には、EL層607及び第2の電極608が順次積層されている(図2(D)参照)。なお、本実施の形態で示すEL層607は、実施の形態2におけるEL層103に相当し、第2の電極608は、実施の形態2の第2の電極104に相当する。隔壁604及び隔壁606を合わせた膜厚は、EL層607及び第2の電極608の膜厚より大きくなるように設定されているため、図2(D)に示すように複数の領域に分離されたEL層607、及び第2の電極608が形成される。なお、当該領域は、それぞれ電気的に独立している。
【0120】
第2の電極608は、第1の電極603と交差する方向に伸長するストライプ状の電極である。なお、逆テーパ状の隔壁606上にもEL層607の一部及び第2の電極608を形成する導電層の一部が形成されるが、EL層607、及び第2の電極608とは分断されている。
【0121】
また、必要に応じて、基板601に封止缶やガラス基板などの封止材をシール材などの接着剤で貼り合わせて封止し、発光素子が密閉された空間に配置されるようにしても良い。これにより、発光素子の劣化を防止することができる。なお、密閉された空間には、充填材や、乾燥した不活性ガスを充填しても良い。さらに、水分などによる発光素子の劣化を防ぐために基板と封止材との間に乾燥材などを封入することが好ましい。乾燥剤によって微量な水分が除去され、十分乾燥される。乾燥剤としては、酸化カルシウムや酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物、ゼオライト、またはシリカゲル等を用いることができる。アルカリ土類金属の酸化物は、化学吸着によって水分を吸収する性質を有する。また、ゼオライトやシリカゲルは、物理吸着によって水分を吸着する性質を有する。
【0122】
次に、図2(A)乃至図2(D)に示したパッシブマトリクス型の発光装置にFPC(フレキシブルプリントサーキット)などを実装した場合の上面図を図3に示す。
【0123】
図3において、画像表示を構成する画素部は、走査線群とデータ線群が互いに直交するように交差している。
【0124】
ここで、図2における第1の電極603が、図3の走査線703に相当し、図2における第2の電極608が、図3のデータ線708に相当し、逆テーパ状の隔壁606が隔壁706に相当する。データ線708と走査線703の間には、図2のEL層607が挟まれており、領域705で示される交差部が画素1つ分となる。
【0125】
走査線703は配線端で接続配線709と電気的に接続され、接続配線709が入力端子710を介してFPC711bに接続される。また、データ線708は入力端子712を介してFPC711aに接続される。
【0126】
また、必要に応じて、光の射出面に偏光板、円偏光板(楕円偏光板を含む)、位相差板(λ/4板、λ/2板)、カラーフィルタなどの光学フィルムを適宜設けてもよい。また、偏光板または円偏光板に加えて反射防止膜を設けてもよい。反射防止膜を設けることにより、表面の凹凸により反射光を拡散し、映り込みを低減できるアンチグレア処理を施すことができる。
【0127】
なお、図3では、駆動回路を基板上に設けない例を示したが、基板上に駆動回路を有するICチップを実装させてもよい。
【0128】
また、ICチップを実装させる場合には、画素部の周辺(外側)の領域に、画素部へ各信号を伝送する駆動回路が形成されたデータ線側IC、走査線側ICをそれぞれ実装する。実装方式は、COG方式、TCP、ワイヤボンディング方式等を用いることができる。TCPはTABテープにICを実装したものであり、TABテープを素子形成基板上の配線に接続してICを実装する。データ線側IC及び走査線側ICは、シリコン基板やSOI(Silicon On Insulator)基板に形成されたものであってもよいし、ガラス基板、石英基板、またはプラスチック基板上に形成されたものであってもよい。
【0129】
次に、アクティブマトリクス型の発光装置の例について、図4を用いて説明する。なお、図4(A)は発光装置を示す上面図であり、図4(B)は図4(A)を鎖線A−A’で切断した断面図である。本実施の形態に係るアクティブマトリクス型の発光装置は、素子基板801上に設けられた画素部802と、駆動回路部(ソース側駆動回路)803と、駆動回路部(ゲート側駆動回路)804とを有する。画素部802、駆動回路部803、及び駆動回路部804は、シール材805によって、素子基板801と封止基板806との間に封止されている。
【0130】
素子基板801上には、駆動回路部803及び駆動回路部804に外部からの信号(ビデオ信号、クロック信号、スタート信号、またはリセット信号等)や電位を伝達する外部入力端子を接続するための引き回し配線807が設けられる。ここでは、外部入力端子としてFPC808を設ける例を示している。なお、ここではFPCしか図示されていないが、このFPCにはプリント配線基板(PWB)が取り付けられていてもよい。本明細書における発光装置は、発光装置本体だけでなく、発光装置本体にFPCまたはPWBが取り付けられた状態のものも範疇に含むものとする。
【0131】
次に、アクティブマトリクス型の発光装置の断面構造について図4(B)を用いて説明する。なお、素子基板801上には駆動回路部803及び駆動回路部804及び画素部802が形成されているが、図4(B)においては、ソース側駆動回路である駆動回路部803と、画素部802を示している。
【0132】
駆動回路部803は、nチャネル型TFT809とpチャネル型TFT810とを組み合わせたCMOS回路を有する例を示している。なお、駆動回路部を形成する回路は、種々のCMOS回路、PMOS回路、またはNMOS回路で形成することができる。また、本実施の形態では、画素部が形成された基板上に駆動回路が形成されたドライバー一体型を示すが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、画素部が形成された基板とは別の基板に駆動回路を形成することもできる。
【0133】
画素部802は、スイッチング用のTFT811と、電流制御用のTFT812と、電流制御用TFT812の配線(ソース電極またはドレイン電極)に電気的に接続された陽極813とを含む複数の画素により形成されている。また、陽極813の端部を覆って絶縁物814が形成されている。ここでは、ポジ型の感光性アクリル樹脂を用いることにより形成する。なお、スイッチング用のTFT811や電流制御用のTFT812といったTFTの構造は、特に限定されない。例えば、スタガ型のTFTでもよいし、逆スタガ型のTFTでもよい。また、トップゲート型のTFTでもよいし、ボトムゲート型のTFTでもよい。また、TFTに用いる半導体の材料についても特に限定されず、シリコンを用いてもよいし、インジウム、ガリウム、及び亜鉛を含む酸化物等の酸化物半導体を用いてもよい。また、TFTに用いる半導体の結晶性についても特に限定されず、非晶質半導体を用いてもよいし、結晶性半導体を用いてもよい。
【0134】
発光素子817は、陽極813、EL層815、及び陰極816によって構成されている。発光素子の構造、材料等については実施の形態2で説明したため、ここでは詳細な説明を省略する。なお、図4における陽極813、EL層815、及び陰極816はそれぞれ実施の形態2における第1の電極102(陽極)、EL層103、第2の電極104(陰極)に相当する。また、ここでは図示しないが、陰極816は外部入力端子であるFPC808に電気的に接続されている。
【0135】
絶縁物814は、陽極813の端部に設けられている。そして、絶縁物814の上層に形成される陰極816の被覆性を少なくとも良好なものとするため、絶縁物814の上端部または下端部に曲率を有する曲面が形成されるようにするのが好ましい。例えば、絶縁物814の上端部または下端部に曲率半径(0.2μm〜3μm)を有する曲面を持たせるのが好ましい。また、絶縁物814の材料としては、光によってエッチャントに不溶解性となるネガ型の感光性樹脂、或いは光によってエッチャントに溶解性となるポジ型の感光性樹脂などの有機化合物や、酸化シリコン、酸窒化シリコン等の無機化合物を用いることができる。
【0136】
また、図4(B)に示す断面図では発光素子817を1つのみ図示しているが、画素部802においては、複数の発光素子がマトリクス状に配置されている。例えば、画素部802に3種類(R、G、B)の発光が得られる発光素子をそれぞれ選択的に形成し、フルカラー表示可能な発光装置を形成することができる。また、カラーフィルタと組み合わせることによってフルカラー表示可能な発光装置としてもよい。
【0137】
また、発光素子817は、素子基板801、封止基板806、及びシール材805で囲まれた空間818に設けられている。空間818は、希ガスまたは窒素ガスが充填されていてもよいし、シール材805で充填されていてもよい。
【0138】
シール材805は、できるだけ水分や酸素を透過しない材料であることが好ましく、例えばエポキシ系樹脂を用いるのが好ましい。また、封止基板806としては、ガラス基板、石英基板、またはFRP(Fiberglass−Reinforced Plastics)、PVF(ポリビニルフロライド)、ポリエステル、もしくはアクリルからなるプラスチック基板等を用いることができる。
【0139】
以上のようにして、アクティブマトリクス型の発光装置を得ることができる。
【0140】
(実施の形態5)
本実施の形態では、上記実施の形態で説明した発光装置を用いて作製される電子機器及び照明装置の具体例について、図5、図6を用いて説明する。
【0141】
本発明を適用可能な電子機器の一例として、テレビジョン装置(テレビ、またはテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、遊技機(パチンコ機、スロットマシン等)、ゲーム筐体が挙げられる。これらの電子機器および照明装置の具体例を図5、図6に示す。
【0142】
図5(A)は、テレビジョン装置9100を示している。テレビジョン装置9100は、筐体9101に表示部9103が組み込まれている。本発明の一態様を用いて作製される発光装置は、表示部9103に用いることが可能であり、表示部9103により映像を表示することが可能である。なお、ここではスタンド9105により筐体9101を支持した構成を示している。
【0143】
テレビジョン装置9100の操作は、筐体9101が備える操作スイッチや、別体のリモコン操作機9110により行うことができる。リモコン操作機9110が備える操作キー9109により、チャンネルや音量の操作を行うことができ、表示部9103に表示される映像を操作することができる。また、リモコン操作機9110に、当該リモコン操作機9110から出力する情報を表示する表示部9107を設ける構成としてもよい。
【0144】
図5(A)に示すテレビジョン装置9100は、受信機やモデムなどを備えている。テレビジョン装置9100は、受信機により一般のテレビ放送の受信を行うことができ、さらにモデムを介して有線または無線による通信ネットワークに接続することにより、一方向(送信者から受信者)または双方向(送信者と受信者間、あるいは受信者間同士など)の情報通信を行うことも可能である。
【0145】
本発明の一態様を用いて作製される発光装置は、色度が良好であるため、当該発光装置をテレビジョン装置の表示部9103に用いることで、従来に比べて画質の向上した画像を表示することが可能となる。
【0146】
図5(B)はコンピュータであり、本体9201、筐体9202、表示部9203、キーボード9204、外部接続ポート9205、ポインティングデバイス9206等を含む。コンピュータは、本発明の一態様を用いて作製される発光装置をその表示部9203に用いることにより作製される。
【0147】
また、本発明の一態様を用いて作製される発光装置は、色度が良好な発光装置であるため、当該発光装置をコンピュータの表示部9203に用いることで、従来に比べて画質の向上した画像を表示することが可能となる。
【0148】
図5(C)は携帯型ゲーム機であり、筐体9301と筐体9302の2つの筐体で構成されており、連結部9303により、開閉可能に連結されている。筐体9301には表示部9304が組み込まれ、筐体9302には表示部9305が組み込まれている。また、図5(C)に示す携帯型ゲーム機は、操作キー9309、接続端子9310、センサ9311(力、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流量、湿度、傾度、振動、においまたは赤外線を測定する機能を含むもの)、マイクロフォン9312等の入力手段を備えている。さらに、スピーカ部9306、記録媒体挿入部9307、LEDランプ9308等を備えていてもよい。もちろん、携帯型ゲーム機の構成は上述のものに限定されず、表示部9304および表示部9305の両方、または一方に本発明の一態様を用いて作製される発光装置が少なくとも用いられていればよい。
【0149】
図5(C)に示す携帯型ゲーム機は、記録媒体に記録されているプログラムまたはデータを読み出して表示部に表示する機能や、他の携帯型ゲーム機と無線通信を行って情報を共有する機能を有する。なお、図5(C)に示す携帯型ゲーム機が有する機能はこれに限定されず、様々な機能を有することができる。
【0150】
また、本発明の一態様を用いて作製される発光装置は、色度が良好な発光装置であるため、当該発光装置を携帯型ゲーム機の表示部(9304、9305)に用いることで、従来に比べて画質の向上した画像を表示することが可能となる。
【0151】
図5(D)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機9500は、筐体9501に組み込まれた表示部9502の他、操作ボタン9503、外部接続ポート9504、スピーカ9505、マイクロフォン9506などを備えている。携帯電話機9500は、本発明の一態様を用いて作製される発光装置を表示部9502に用いることにより作製される。
【0152】
図5(D)に示す携帯電話機9500は、表示部9502を指などで触れることで、情報を入力する、電話を掛ける、またはメールを作成するなどの操作を行うことができる。
【0153】
表示部9502の画面は、主として3つのモードがある。第1は、画像の表示を主とする表示モードであり、第2は、文字等の情報の入力を主とする入力モードである。第3は表示モードと入力モードの2つのモードが混合した表示+入力モードである。
【0154】
例えば、電話を掛ける、またはメールを作成する場合は、表示部9502を文字の入力を主とする入力モードとし、画面に表示させた文字の入力操作を行えばよい。この場合、表示部9502の画面のほとんどにキーボードまたは番号ボタンを表示させることが好ましい。
【0155】
また、携帯電話機9500内部に、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサを有する検出装置を設けることで、携帯電話機9500の向き(縦向きか横向きか)を判断して、表示部9502の画面表示を自動的に切り替えるようにすることができる。
【0156】
また、画面モードの切り替えは、表示部9502への接触、または筐体9501の操作ボタン9503の操作により行われる。また、表示部9502に表示される画像の種類によって切り替えるようにすることもできる。例えば、表示部に表示する画像信号が動画のデータであれば表示モード、テキストデータであれば入力モードに切り替える。
【0157】
また、入力モードにおいて、表示部9502の光センサで検出される信号を検知し、表示部9502のタッチ操作による入力が一定期間ない場合には、画面のモードを入力モードから表示モードに切り替えるように制御してもよい。
【0158】
また、表示部9502は、イメージセンサとして機能させることもできる。例えば、表示部9502に掌や指を触れ、掌紋、指紋等を撮像することで、本人認証を行うことができる。また、表示部に近赤外光を発光するバックライトまたは近赤外光を発光するセンシング用光源を用いれば、指静脈、掌静脈などを撮像することもできる。
【0159】
本発明の一態様を用いて作製される発光装置は、色度が良好な発光装置であるため、当該発光装置を携帯電話機の表示部9502に用いることで、従来に比べて画質の向上した画像を表示することが可能となる。
【0160】
図5(E)は卓上型の照明装置であり、照明部9401、傘9402、可変アーム9403、支柱9404、台9405、電源スイッチ9406を含む。卓上型の照明装置は、本発明の一態様を用いて作製される発光装置を照明部9401に用いることにより作製される。なお、照明装置の形式は、卓上型に限らず、天井固定型や、壁掛け型、携帯型も含まれる。
【0161】
図6は、本発明の一態様を用いて作製される発光装置を、室内の照明装置1001として用いた例である。本発明の一態様を用いて作製される発光装置は大面積化も可能であるため、大面積の照明装置として用いることができる。また、上記実施の形態で示した発光装置は、薄型化が可能であるため、ロール型の照明装置1002として用いることもできる。なお、図6に示すように、室内の照明装置1001を備えた部屋で、図5(E)で説明した卓上型の照明装置1003を併用してもよい。
【0162】
以上のように、本発明の一態様を用いて作製される発光装置を用いて電子機器や照明装置を提供することができる。本発明の一態様を用いて作製される発光装置の適用範囲は極めて広く、様々な分野の電子機器や照明装置に適用することが可能である。
【実施例1】
【0163】
(合成例1)
本実施例では、下記構造式(実施の形態1における構造式(108))で表される有機金属錯体、ビス[5−(1,1−ジフルオロエチル)−3,4−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾラト](ピコリナート)イリジウム(III)(略称:[Ir(MCFptz)(pic)])の合成例を具体的に例示する。
【0164】
【化28】

【0165】
<ステップ1;N−[(エチルスルファニル)フェニルメチリデン]アニリンの合成>
まず、300mL三口フラスコにナトリウムエトキシド3.2g、N−フェニルチオベンズアミド10gを入れ、エタノール60mLを加えて室温で1時間撹拌した。その後、この混合物にヨードエタン3.7mLを加え、60℃で6時間加熱撹拌し、反応させた。反応後、エタノールを減圧下にて留去し、油状物を得た。この油状物をジクロロメタンに溶解し、水、次いで飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。そして、有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。得られた混合物を自然ろ過し、ろ液を濃縮してN−[(エチルスルファニル)フェニルメチリデン]アニリンを得た(褐色油状物、粗収率110%)。ステップ1の合成スキームを下記(a−1)に示す。
【0166】
【化29】

【0167】
<ステップ2;3−(1,1−ジフルオロエチル)−4,5−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾール(略称:HMCFptz)の合成>
次に、ヒドラジン一水和物0.54g(11mmol)、エタノール10mLを100mL三ツ口フラスコに入れ、−10℃で15分間撹拌した。この混合溶液に2,2−ジフルオロプロピオン酸エチル1.5g(11mmol)を−10℃で少量ずつ滴下し、室温まで昇温しながら48時間撹拌した。この混合溶液に、上記ステップ1で得たN−[(エチルスルファニル)フェニルメチリデン]アニリン2.6g(11mmol)、1−ブタノール20mLを加え、110℃で8時間還流した。還流後、溶媒を減圧下にて留去して油状物を得た。得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。展開溶媒には、まずトルエンを用い、次いで酢酸エチルを用いた。得られたフラクションを濃縮して固体を得た。この固体をエタノールとヘキサンの混合溶媒にて再結晶して3−(1,1−ジフルオロエチル)−4,5−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾール(略称:HMCFptz)を得た(白色固体、収率27%)。ステップ2の合成スキームを下記(b−1)に示す。
【0168】
【化30】

【0169】
<ステップ3;ビス[5−(1,1−ジフルオロエチル)−3,4−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾラト](ピコリナート)イリジウム(III)(略称:[Ir(MCFptz)(pic)])の合成>
次に、上記ステップ2で得た配位子HMCFptz0.81g(2.9mmol)、塩化イリジウム水和物(IrCl・HO)0.41g(1.4mmol)、2−エトキシエタノール15mL、及び水5mLを、還流管をつけた50mLフラスコに入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。この反応容器にマイクロ波を30分間照射することにより、反応させた。所定時間経過後、この反応溶液を濃縮して、塩素架橋されたイリジウムの複核錯体の粗生成物を褐色油状物として得た。得られた油状物と、ピコリン酸0.70g(5.7mmol)、炭酸ナトリウム0.60g(5.7mmol)、及びジクロロメタン15mLを50mLナスフラスコに入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。この反応容器にマイクロ波を30分間照射することにより、加熱反応させた。なお、マイクロ波の照射には、マイクロ波合成装置(CEM社製 Discover)を用いた。次に、この混合物を水で洗浄し、有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。乾燥後、この混合物を自然ろ過し、得られたろ液を濃縮した。得られた残渣を酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒にて再結晶することにより、有機金属錯体[Ir(MCFptz)(pic)]を得た(黄色粉末、収率33%)。ステップ3の合成スキームを下記(c−1)に示す。
【0170】
【化31】

【0171】
上記ステップ3で得られた黄色粉末の核磁気共鳴分光法(H−NMR)による分析結果を下記に示す。また、H−NMRチャートを図7に示す。この結果から、本合成例1において、上述の構造式(108)で表される本発明の一様態である有機金属錯体[Ir(MCFptz)(pic)]が得られたことがわかった。
【0172】
H−NMR.δ(CDCl):1.92(t,3H),2.22(t,3H),6.20(dd,1H),6.26(dd,1H),6.55(m,4H),6.81(m,2H),7.31(dd,1H),7.51(m,3H),7.64(m,7H),7.89(m,2H),8.32(d,1H).
【0173】
次に、[Ir(MCFptz)(pic)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(吸収スペクトル)及び発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.068mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。また、発光スペクトルの測定には、蛍光光度計((株)浜松ホトニクス製 FS920)を用い、脱気したジクロロメタン溶液(0.068mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。得られた吸収スペクトル及び発光スペクトルの測定結果を図8に示す。横軸は波長、縦軸は吸収強度または発光強度を表す。また、図8において2本の実線が示されているが、細い実線は吸収スペクトルを示し、太い実線は発光スペクトルを示している。なお、図8に示す吸収スペクトルは、ジクロロメタン溶液(0.068mmol/L)を石英セルに入れて測定した吸収スペクトルから、ジクロロメタンのみを石英セルに入れて測定した吸収スペクトルを差し引いた結果を示している。
【0174】
図8に示すとおり、本発明の一様態である有機金属錯体[Ir(MCFptz)(pic)]は、469nm,489nmに発光ピークを有しており、ジクロロメタン溶液からは水色の発光が観測された。
【実施例2】
【0175】
(合成例2)
本実施例では、下記構造式(実施の形態1における構造式(100))で表される有機金属錯体、ビス(3,4−ジフェニル−5−トリフルオロメチル−4H−1,2,4−トリアゾラト)(ピコリナート)イリジウム(III)(略称:[Ir(CFptz)(pic)])の合成例を具体的に例示する。
【0176】
【化32】

【0177】
<ステップ1; 3,4−ジフェニル−5−トリフルオロメチル−4H−1,2,4−トリアゾール(略称:HCFptz)の合成>
まず、トリフルオロ酢酸エチル1.8gと1−ブタノール50mLを三口フラスコに入れ、フラスコ内を窒素雰囲気にした。その後、0℃にて10分間撹拌し、混合溶液にヒドラジン一水和物0.397gを滴下した。この混合溶液を0℃にて20分間撹拌した後、室温にて1時間撹拌し反応させた。反応後の混合溶液に、N−[(エチルスルファニル)フェニルメチリデン]アニリン3.0gをさらに添加し、120℃にて5時間加熱撹拌し反応させた。反応後の混合溶液を室温に放冷し、ろ過してろ液を得た。得られたろ液を濃縮し、固体を得た。この固体をヘキサンで洗浄することにより、トリアゾール誘導体HCFptzを得た(収率26%)。ステップ1の合成スキームを下記(a−2)に示す。
【0178】
【化33】

【0179】
<ステップ2; ジ−μ−クロロ−ビス[ビス(3,4−ジフェニル−5−トリフルオロメチル−4H−1,2,4−トリアゾラト)イリジウム(III)](略称:[Ir(CFptz)Cl])の合成>
次に、2−エトキシエタノール12mL、水4mL、上記ステップ1で得たHCFptz0.87g、及び塩化イリジウム水和物(IrCl・HO)(Sigma−Aldrich社製)0.43gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 100W)を30分間照射し、反応させた。なお、マイクロ波の照射には、マイクロ波合成装置(CEM社製 Discover)を用いた。次に、反応溶液をろ過し、ろ液を濃縮乾固した。得られた残渣をエタノールにて再結晶することにより、複核錯体[Ir(CFptz)Cl]を得た(茶色粉末、収率99%)。ステップ2の合成スキームを下記(b−2)に示す。
【0180】
【化34】

【0181】
<ステップ3; ビス(3,4−ジフェニル−5−トリフルオロメチル−4H−1,2,4−トリアゾラト)(ピコリナート)イリジウム(III)(略称:[Ir(CFptz)(pic)])の合成>
次に、ジクロロメタン15mL、上記ステップ2で得た複核錯体[Ir(CFptz)Cl] 1.20g、及びピコリン酸0.74gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 100W)を30分間照射し、反応させた。そして反応溶液をろ過した。得られたろ取物をジクロロメタンに溶解してろ過し、不溶物を除去した後、ろ液を濃縮乾固した。得られた残渣を酢酸エチルを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。さらにジクロロメタン溶媒にて再結晶することにより、本発明の一態様である有機金属錯体[Ir(CFptz)(pic)]を得た(黄色粉末、収率18%)。ステップ3の合成スキームを下記(c−2)に示す。
【0182】
【化35】

【0183】
上記ステップ3で得られた黄色粉末の核磁気共鳴分光法(H−NMR)による分析結果を下記に示す。また、H−NMRチャートを図9に示す。この結果から、本合成例2において、上述の構造式(100)で表される本発明の一様態である有機金属錯体[Ir(CFptz)(pic)]が得られたことがわかった。
【0184】
H−NMR.δ(CDCl):6.25(d,1H),6.32(d,1H),6.48(d,1H),5.58(dd,1H),6.67(m,2H),6.86(m,2H),7.35(dt,1H),7.51(m,3H),7.61−7.74(m,7H),7.89(m,2H),8.35(d,1H).
【0185】
次に、[Ir(CFptz)(pic)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(吸収スペクトル)及び発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.064mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。また、発光スペクトルの測定には、蛍光光度計((株)浜松ホトニクス製 FS920)を用い、脱気したジクロロメタン溶液(0.39mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。得られた吸収スペクトル及び発光スペクトルの測定結果を図10に示す。横軸は波長、縦軸は吸収強度または発光強度を表す。また、図10において2本の実線が示されているが、細い実線は吸収スペクトルを示し、太い実線は発光スペクトルを示している。なお、図10に示す吸収スペクトルは、ジクロロメタン溶液(0.064mmol/L)を石英セルに入れて測定した吸収スペクトルから、ジクロロメタンのみを石英セルに入れて測定した吸収スペクトルを差し引いた結果を示している。
【0186】
図10に示すとおり、本発明の一様態である有機金属錯体[Ir(CFptz)(pic)]は、470nm,495nmに発光ピークを有しており、ジクロロメタン溶液からは青緑色の発光が観測された。
【実施例3】
【0187】
(合成例3)
本実施例では、下記構造式(実施の形態1における構造式(155))で表される有機金属錯体、トリス[3−(4−フルオロフェニル)−4−フェニル−5−トリフルオロメチル−4H−1,2,4−トリアゾラト]イリジウム(III)(略称:[Ir(CFFptz)])の合成例を具体的に例示する。
【0188】
【化36】

【0189】
<ステップ1; 3−(4−フルオロフェニル)−4−フェニル−5−トリフルオロメチル−4H−1,2,4−トリアゾール(略称:HCFFptz)の合成>
まず、100mL三口フラスコにトリフルオロ酢酸エチル3.0g、1−ブタノール10mLを入れて、氷浴下で10分間撹拌した。撹拌後、この混合溶液にヒドラジン一水和物1.1gを加え、室温に昇温しながら30分間撹拌した。その後、この反応溶液にエチル N−フェニル−4−フルオロベンゼンカルボキシイミドチオアート5.1gを加えて、130℃で5時間加熱還流した。還流後、減圧下にて1−ブタノールを留去して油状物を得た。得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。展開溶媒にはトルエン:酢酸エチル=4:1(v/v)の混合溶媒を用いた。得られたフラクションを濃縮して固体を得た。この固体をエタノールとヘキサンの混合溶媒にて再結晶し、3−(4−フルオロフェニル)−4−フェニル−5−トリフルオロメチル−4H−1,2,4−トリアゾール(略称:HCFFptz)を得た(白色固体、収率27%)。ステップ1の合成スキームを下記(a−3)に示す。
【0190】
【化37】

【0191】
<ステップ2; トリス[3−(4−フルオロフェニル)−4−フェニル−5−トリフルオロメチル−4H−1,2,4−トリアゾラト]イリジウム(III)(略称:[Ir(CFFptz)])の合成>
次に、上記ステップ1で得た配位子HCFFptz1.61gと、トリス(アセチルアセトナト)イリジウム(III)0.51gを、三方コックを付けた反応容器に入れ、反応容器内をアルゴン置換した。その後、250℃にて44時間加熱し、反応させた。反応物をジクロロメタンに溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。展開溶媒にはジクロロメタン:酢酸エチル=98:2の混合溶媒を用いた。得られたフラクションを濃縮して固体を得た。この固体を、ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒にて再結晶し、有機金属錯体[Ir(CFFptz)]を得た(淡黄色粉末、収率80%)。ステップ2の合成スキームを下記(b−3)に示す。
【0192】
【化38】

【0193】
上記ステップ2で得られた淡黄色粉末の核磁気共鳴分光法(H−NMR)による分析結果を下記に示す。また、H−NMRチャートを図21に示す。この結果から、本合成例3において、上述の構造式(155)で表される本発明の一態様である有機金属錯体[Ir(CFFptz)]が得られたことがわかった。
【0194】
H−NMR.δ(CDCl):6.30(m,6H),6.54(dd,3H),7.42(d,3H),7.50(m,3H),7.65(m,9H).
【0195】
次に、[Ir(CFFptz)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(吸収スペクトル)及び発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.081mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。また、発光スペクトルの測定には、蛍光光度計((株)浜松ホトニクス製 FS920)を用い、脱気したジクロロメタン溶液(0.081mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。得られた吸収スペクトル及び発光スペクトルの測定結果を図22に示す。横軸は波長、縦軸は吸収強度または発光強度を表す。また、図22において2本の実線が示されているが、細い実線は吸収スペクトルを示し、太い実線は発光スペクトルを示している。なお、図22に示す吸収スペクトルは、ジクロロメタン溶液(0.081mmol/L)を石英セルに入れて測定した吸収スペクトルから、ジクロロメタンのみを石英セルに入れて測定した吸収スペクトルを差し引いた結果を示している。
【0196】
図22に示すとおり、本発明の一態様である有機金属錯体[Ir(CFFptz)]は、472nmに発光ピークを有しており、ジクロロメタン溶液からは水色の発光が観測された。
【実施例4】
【0197】
本実施例では、実施の形態1の構造式(108)で表される有機金属錯体、ビス[5−(1,1−ジフルオロエチル)−3,4−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾラト](ピコリナート)イリジウム(III)(略称:[Ir(MCFptz)(pic)])を用いた発光素子(以下、「発光素子1」という)について説明する。なお、本実施例で用いた材料の一部の構造式を以下に示す。
【0198】
【化39】

【0199】
(発光素子1)
まず、ガラス基板上に珪素を含むインジウムスズ酸化物をスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極を形成した。第1の電極の膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0200】
次に、第1の電極が形成された面が下方となるように、第1の電極が形成されたガラス基板を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した。その後、第1の電極上に、4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(略称:TCTA)と酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、有機化合物と無機化合物とを複合してなる複合材料を含む層を形成した。複合材料を含む層の膜厚は50nmとし、TCTAと酸化モリブデンの比率は、重量比で2:1(=TCTA:酸化モリブデン)となるように調節した。なお、共蒸着法とは、一つの処理室内で複数の蒸発源を用いて、複数の材料を同時に蒸着する方法を指す。
【0201】
次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、複合材料を含む層上にTCTAを10nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層を形成した。
【0202】
さらに、9−[4−(4,5−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:CzTAZ I)と、実施の形態1の構造式(108)で表される有機金属錯体である[Ir(MCFptz)(pic)]とを共蒸着することにより、正孔輸送層上に30nmの膜厚の発光層を形成した。ここで、CzTAZ Iと[Ir(MCFptz)(pic)]との重量比は、1:0.06(=CzTAZ I:[Ir(MCFptz)(pic)])となるように調節した。
【0203】
その後、抵抗加熱による蒸着法を用いて、発光層上に、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ01)を膜厚10nmとなるように成膜し、続いてTAZ01層の上にバソフェナントロリン(略称:BPhen)を膜厚20nmとなるように成膜した。こうして、TAZ01からなる層及びBPhenからなる層を積層した電子輸送層を発光層上に形成した。
【0204】
さらに、電子輸送層上にフッ化リチウムを1nmの膜厚となるように成膜し、電子注入層を形成した。
【0205】
最後に、抵抗加熱による蒸着法を用い、電子注入層上にアルミニウムを200nmの膜厚となるように成膜することにより、陰極として機能する第2の電極を形成した。このようにして、発光素子1を作製した。
【0206】
発光素子1の電流密度−輝度特性を図11に示す。また、電圧−輝度特性を図12に示す。また、輝度−電流効率特性を図13に示す。また、1mAの電流を流した時の発光スペクトルを図14に示す。図14から、発光素子1の発光は、[Ir(MCFptz)(pic)]からの発光であることがわかった。106cd/mの輝度の時の発光素子1のCIE色度座標は(x,y)=(0.24,0.37)であり、水色の発光が得られた。また、図13から分かるように、発光素子1の106cd/mにおける電流効率は4.2cd/Aであることがわかった。また、図12から、106cd/mにおける駆動電圧は5.4Vであり、パワー効率は2.5lm/Wであった。
【実施例5】
【0207】
本実施例では、実施の形態1の構造式(100)で表される有機金属錯体、ビス(3,4−ジフェニル−5−トリフルオロメチル−4H−1,2,4−トリアゾラト)(ピコリナート)イリジウム(III)(略称:[Ir(CFptz)(pic)])を用いた発光素子(以下、「発光素子2」という)について説明する。なお、本実施例で用いた材料の一部の構造式を以下に示す。
【0208】
【化40】

【0209】
(発光素子2)
まず、ガラス基板上に珪素を含むインジウムスズ酸化物をスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極を形成した。第1の電極の膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0210】
次に、第1の電極が形成された面が下方となるように、第1の電極が形成されたガラス基板を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した。その後、第1の電極上に、4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(略称:TCTA)と酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、有機化合物と無機化合物とを複合してなる複合材料を含む層を形成した。複合材料を含む層の膜厚は40nmとし、TCTAと酸化モリブデンの比率は、重量比で2:1(=TCTA:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0211】
次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、複合材料を含む層上にTCTAを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層を形成した。
【0212】
さらに、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−2,2’−ジメチル−ビフェニル(略称:dmCBP)と、実施の形態1の構造式(100)で表される有機金属錯体である[Ir(CFptz)(pic)]とを共蒸着することにより、正孔輸送層上に30nmの膜厚の発光層を形成した。ここで、dmCBPと[Ir(CFptz)(pic)]との重量比は、1:0.03(=dmCBP:[Ir(CFptz)(pic)])となるように調節した。
【0213】
その後、抵抗加熱を用いた蒸着法により、発光層上に、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ01)を膜厚10nmとなるように成膜し、電子輸送層を形成した。
【0214】
さらに、TAZ01とリチウムとを共蒸着することにより、電子輸送層上に20nmの膜厚の電子注入層を形成した。ここで、TAZ01とリチウムとの重量比は、1:0.02(=TAZ01:リチウム)となるように調節した。
【0215】
最後に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、電子注入層上にアルミニウムを200nmの膜厚となるように成膜することにより、陰極として機能する第2の電極を形成した。このようにして、発光素子2を作製した。
【0216】
発光素子2の電流密度−輝度特性を図15に示す。また、電圧−輝度特性を図16に示す。また、輝度−電流効率特性を図17に示す。また、1mAの電流を流した時の発光スペクトルを図18に示す。図18から、発光素子2の発光は、[Ir(CFptz)(pic)]からの発光であることがわかった。951cd/mの輝度の時の発光素子2のCIE色度座標は(x,y)=(0.23,0.38)であり、水色の発光が得られた。また、図17から分かるように、発光素子2の951cd/mにおける電流効率は11.9cd/Aであり、高い電流効率を示すことがわかった。また、図16から、951cd/mにおける駆動電圧は8.2Vであり、パワー効率は4.6lm/Wであった。この結果から、発光素子2は、ある一定の輝度を得るための電圧が低く、低消費電力でありながら、高い電流効率を有することがわかった。
【実施例6】
【0217】
本実施例では、実施の形態1の構造式(155)で表される有機金属錯体、トリス[3−(4−フルオロフェニル)−4−フェニル−5−トリフルオロメチル−4H−1,2,4−トリアゾラト]イリジウム(III)(略称:[Ir(CFFptz)])を用いた発光素子(以下、「発光素子3」という)について説明する。
【0218】
(発光素子3)
まず、ガラス基板上に珪素を含むインジウムスズ酸化物をスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極を形成した。第1の電極の膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0219】
次に、第1の電極が形成された面が下方となるように、第1の電極が形成されたガラス基板を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した。その後、第1の電極上に、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)と、酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、有機化合物と無機化合物とを複合してなる複合材料を含む層を形成した。複合材料を含む層の膜厚は50nmとし、CBPと酸化モリブデンの比率は、重量比で2:1(=CBP:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0220】
次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、複合材料を含む層上に4,4’−ビス(9−カルバゾール)−2,2’−ジメチル−ビフェニル(略称:dmCBP)を10nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層を形成した。
【0221】
次に、9−[4−(4,5−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:CzTAZ I)と、実施の形態1の構造式(155)で表される有機金属錯体である[Ir(CFFptz)]とを共蒸着することにより、正孔輸送層上に40nmの膜厚の発光層を形成した。ここで、CzTAZ Iと、[Ir(CFFptz)]との重量比は、1:0.06(=CzTAZ I:[Ir(CFFptz)])となるように調節した。
【0222】
その後、抵抗加熱を用いた蒸着法により、発光層上にCzTAZ Iを膜厚10nmとなるように成膜し、続いてCzTAZ I層の上にバソフェナントロリン(略称:BPhen)を膜厚15nmとなるように成膜した。こうして、CzTAZ Iからなる層及びBPhenからなる層を積層した電子輸送層を発光層上に形成した。
【0223】
さらに、抵抗加熱を用いた蒸着法により、電子輸送層上にフッ化リチウムを膜厚1nmとなるように成膜し、電子注入層を形成した。
【0224】
最後に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、電子注入層上にアルミニウムを200nmの膜厚となるように成膜することにより、陰極として機能する第2の電極を形成した。このようにして、発光素子3を作製した。
【0225】
発光素子3の電流密度−輝度特性を図23に示す。また、電圧−輝度特性を図24に示す。また、輝度−電流効率特性を図25に示す。また、1mAの電流を流した時の発光スペクトルを図26に示す。図26から、発光素子3の発光は、[Ir(CFFptz)]からの発光であることがわかった。92cd/mの輝度のときの発光素子3のCIE色度座標は(x,y)=(0.18,0.24)であり、水色の発光が得られた。また、図25から分かるように、発光素子3の92cd/mにおける電流効率は4.9cd/Aであり、高い電流効率を示すことがわかった。また、図24から、92cd/mにおける駆動電圧は4.2Vであり、パワー効率は3.6lm/Wであった。この結果から、発光素子3は、ある一定の輝度を得るための電圧が低く、低消費電力でありながら、高い電流効率を有することがわかった。
【0226】
(比較例1)
本比較例では、有機金属錯体、ビス(3,4−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾラト)(ピコリナート)イリジウム(III)(略称:[Ir(ptz)(pic)])の合成方法について説明する。なお、[Ir(ptz)(pic)]の構造を以下に示す。
【0227】
【化41】

【0228】
<ステップ1; ジ−μ−クロロ−ビス[ビス(3,4−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾラト)]イリジウム(III)(略称:[Ir(ptz)Cl])の合成>
まず、2−エトキシエタノール15mLと水5mL、配位子3,4−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾール(略称:Hptz)1.77g、塩化イリジウム水和物(IrCl・HO)0.597gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 100W)を30分間照射し、反応させた。反応溶液をろ過し、得られた粉末をエタノールにて洗浄することにより複核錯体[Ir(ptz)Cl] を得た(黄色粉末、収率43%)。なお、マイクロ波の照射はマイクロ波合成装置(CEM社製 Discover)を用いた。また、ステップ1の合成スキームを下記(a−4)に示す。
【0229】
【化42】

【0230】
<ステップ2; ビス(3,4−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾラト)(ピコリナート)イリジウム(III)(略称:[Ir(ptz)(pic)])の合成>
次に、ジクロロメタン15mL、上記ステップ1で得た複核錯体[Ir(ptz)Cl] 1.14g、ピコリン酸0.985g、炭酸ナトリウム0.848gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 100W)を60分間照射し、反応させた。反応溶液の精製を試みたが、目的のイリジウム錯体を確認することは出来なかった。ステップ2の合成スキームを下記(b−4)に示す。
【0231】
【化43】

【0232】
本比較例で説明したように、[Ir(ptz)(pic)]は、合成が困難であった。このように、トリアゾール環の5位に結合している置換基が水素の場合、実施例1、実施例2、及び実施例3で例示した本発明の一態様である有機金属錯体と比較して、著しく収率が悪いか、または合成できないことが判明した。すなわち、本発明の一態様である有機金属錯体は、錯体の合成の際に分解反応が抑制できるため、[Ir(ptz)(pic)]に比較して合成の収率が飛躍的に向上する。
【0233】
(比較例2)
本比較例では、下記の構造式で表される有機金属錯体、ビス[4−(4−tert−ブチルフェニル)−3,5−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾラト](ピコリナート)イリジウム(III)(略称:[Ir(taz−tBuP)(pic)])の合成例を具体的に説明する。
【0234】
【化44】

【0235】
<ステップ1; ジ−μ−クロロ−ビス[ビス{4−(4−tert−ブチルフェニル)−3,5−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾラト}]イリジウム(III)(略称:[Ir(taz−tBuP)Cl])の合成>
まず、2−エトキシエタノール15mLと水5mL、配位子4−(4−tert−ブチルフェニル)−3,5−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾール(略称:Htaz−tBuP)1.71g、及び塩化イリジウム水和物(IrCl・HO)(Sigma−Aldrich社製)0.58gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 100W)を30分間照射し、反応させた。なお、本比較例におけるマイクロ波の照射には、マイクロ波合成装置(CEM社製 Discover)を用いた。次に、反応溶液をろ過し、ろ液を濃縮乾固した。得られた残渣を酢酸エチルに溶解してろ過し、不溶物を除去した。得られたろ液を濃縮乾固することにより複核錯体[Ir(taz−tBuP)Cl] を得た(黄色粉末、収率100%)。ステップ1の合成スキームを下記(a−5)に示す。
【0236】
【化45】

【0237】
<ステップ2; ビス[4−(4−tert−ブチルフェニル)−3,5−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾラト](ピコリナート)イリジウム(III)(略称:[Ir(taz−tBuP)(pic)])の合成>
さらに、ジクロロメタン15mL、上記ステップ1で得た複核錯体[Ir(taz−tBuP)Cl] 1.78g、ピコリン酸0.94g、及び炭酸ナトリウム1gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 100W)を30分間照射し、反応させた。そして、反応溶液をろ過した。得られたろ取物をジクロロメタンに溶解してろ過し、不溶物を除去した後、ろ液を濃縮乾固した。得られた残渣を酢酸エチルを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。さらにメタノール溶媒にて再結晶することにより、比較例である有機金属錯体[Ir(taz−tBuP)(pic)]を得た(黄色粉末、収率19%)。ステップ2の合成スキームを下記(b−5)に示す。
【0238】
【化46】

【0239】
上記ステップ2で得られた黄色粉末の核磁気共鳴分光法(H−NMR)による分析結果を下記に示す。また、H−NMRチャートを図19に示す。この結果から、本比較例で示した合成法により、[Ir(taz−tBuP)(pic)]が得られたことがわかった。
【0240】
H−NMR.δ(アセトン−d):1.42(s,18H),6.39(t,2H),6.51(t,1H),6.58(t,1H),6.72(m,3H),7.23−7.59(m,12H),7.68−7.80(m,6H),7.95−8.15(m,4H),8.70(s,1H).
【0241】
次に、[Ir(taz−tBuP)(pic)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(吸収スペクトル)及び発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.055mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。また、発光スペクトルの測定には、蛍光光度計((株)浜松ホトニクス製 FS920)を用い、脱気したジクロロメタン溶液(0.33mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。得られた吸収スペクトル及び発光スペクトルの測定結果を図20に示す。横軸は波長、縦軸は吸収強度または発光強度を表す。また、図20において2本の実線が示されているが、細い実線は吸収スペクトルを示し、太い実線は発光スペクトルを示している。なお、図20に示す吸収スペクトルは、ジクロロメタン溶液(0.055mmol/L)を石英セルに入れて測定した吸収スペクトルから、ジクロロメタンのみを石英セルに入れて測定した吸収スペクトルを差し引いた結果を示している。
【0242】
図20に示すとおり、本発明の比較例である有機金属錯体[Ir(taz−tBuP)(pic)]は、480nm,508nmに発光ピークを有しており、ジクロロメタン溶液からは青緑色の発光が観測された。
【0243】
本比較例で説明した[Ir(taz−tBuP)(pic)]は、実施例1で説明した[Ir(MCFptz)(pic)]や、実施例2で説明した[Ir(CFptz)(pic)]や、実施例3で説明した[Ir(CFFptz)]と比較して、長波長側に発光ピークを有している。このことから、トリアゾール環の5位に結合している置換基がフェニル基の場合、ハロアルキル基に比較して発光スペクトルが長波長側にシフトしてしまうことがわかる。すなわち、トリアゾール環の5位に結合している置換基が、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基である本発明の一態様である有機金属錯体は、トリアゾール環の5位に結合している置換基がフェニル基である有機金属錯体に比較して短波長側に発光ピークを有する。このため、青色の波長域の燐光を示す材料を作製する上で、本発明の一態様である有機金属錯体の方が[Ir(taz−tBuP)(pic)]に比較して有利である。
【符号の説明】
【0244】
101 基板
102 電極
103 EL層
104 電極
111 正孔注入層
112 正孔輸送層
113 発光層
114 電子輸送層
501 電極
502 電極
511 発光ユニット
512 発光ユニット
513 電荷発生層
601 基板
602 絶縁層
603 電極
604 隔壁
605 開口部
606 隔壁
607 EL層
608 電極
703 走査線
705 領域
706 隔壁
708 データ線
709 接続配線
710 入力端子
712 入力端子
801 素子基板
802 画素部
803 駆動回路部
804 駆動回路部
805 シール材
806 封止基板
807 配線
808 FPC
809 nチャネル型TFT
810 pチャネル型TFT
811 TFT
812 TFT
813 陽極
814 絶縁物
815 EL層
816 陰極
817 発光素子
818 空間
1001 照明装置
1002 照明装置
1003 照明装置
711a FPC
711b FPC
9100 テレビジョン装置
9101 筐体
9103 表示部
9105 スタンド
9107 表示部
9109 操作キー
9110 リモコン操作機
9201 本体
9202 筐体
9203 表示部
9204 キーボード
9205 外部接続ポート
9206 ポインティングデバイス
9301 筐体
9302 筐体
9303 連結部
9304 表示部
9305 表示部
9306 スピーカ部
9307 記録媒体挿入部
9308 LEDランプ
9309 操作キー
9310 接続端子
9311 センサ
9312 マイクロフォン
9401 照明部
9402 傘
9403 可変アーム
9404 支柱
9405 台
9406 電源スイッチ
9500 携帯電話機
9501 筐体
9502 表示部
9503 操作ボタン
9504 外部接続ポート
9505 スピーカ
9506 マイクロフォン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(G1)で表される構造を含む有機金属錯体。
【化1】


(式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を表す。また、Rは、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基のいずれか一を表す。また、Arは、置換基を有していてもよい炭素数6〜13のアリーレン基を表す。また、Mは第9族元素または第10族元素を表す。)
【請求項2】
一般式(G2)で表される有機金属錯体。
【化2】


(式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を表す。また、Rは、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基のいずれか一を表す。また、Arは、置換基を有していてもよい炭素数6〜13のアリーレン基を表す。また、Mは第9族元素または第10族元素を表す。また、Mが第9族元素のときはn=2であり、Mが第10族元素のときはn=1である。また、Lは、モノアニオン性の二座配位子を表す。)
【請求項3】
一般式(G3)で表される構造を含む有機金属錯体。
【化3】


(式中、R11は、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を表す。また、R12〜R16は、各々独立して、水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、またはフェニル基を表す。また、R17〜R20は、各々独立して、水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、炭素数1〜4のアルキルチオ基、炭素数6〜12のアリールチオ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、炭素数6〜24のモノまたはジアリールアミノ基、シアノ基、ハロゲン基、炭素数1〜4のハロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基のいずれか一を表す。さらに、R17〜R20のうち、互いに隣接する置換基同士が直接結合して環状構造を形成してもよい。また、Mは第9族元素または第10族元素を表す。)
【請求項4】
一般式(G4)で表される有機金属錯体。
【化4】


(式中、R11は、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のハロアルキル基を表す。また、R12〜R16は、各々独立して、水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、またはフェニル基を表す。また、R17〜R20は、各々独立して、水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、炭素数1〜4のアルキルチオ基、炭素数6〜12のアリールチオ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、炭素数6〜24のモノまたはジアリールアミノ基、シアノ基、ハロゲン基、炭素数1〜4のハロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基のいずれか一を表す。さらに、R17〜R20のうち、互いに隣接する置換基同士が直接結合して環状構造を形成してもよい。また、Mは第9族元素または第10族元素を表す。また、Mが第9族元素のときはn=2であり、Mが第10族元素のときはn=1である。また、Lは、モノアニオン性の二座配位子を表す。)
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一において、前記モノアニオン性の二座配位子が、ベータジケトン構造を有するモノアニオン性の二座キレート配位子、カルボキシル基を有するモノアニオン性の二座キレート配位子、フェノール性水酸基を有するモノアニオン性の二座キレート配位子、2つの配位元素がいずれも窒素であるモノアニオン性の二座キレート配位子のいずれか一である有機金属錯体。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一において、前記モノアニオン性の二座配位子は、構造式(L1)乃至(L6)のいずれか一で表される配位子である有機金属錯体。
【化5】


(式中、R71〜R90は水素、炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン基、ハロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または炭素数1〜4のアルキルチオ基のいずれか一を表す。また、A、A、Aは窒素N、または炭素C−Rを表し、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン基、炭素数1〜4のハロアルキル基、またはフェニル基を表す。)
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一に記載の有機金属錯体を含む層を一対の電極間に有する発光素子。
【請求項8】
請求項7において、前記有機金属錯体を含む層は発光層である発光素子。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか一に記載の有機金属錯体を含む第1の発光ユニットと、前記有機金属錯体よりも長波長の発光を呈する発光材料を含む第2の発光ユニットとを一対の電極間に有する発光素子。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれか一に記載の有機金属錯体を含む第1の発光ユニットと、前記有機金属錯体よりも長波長の発光を呈する第1の発光材料を含む第2の発光ユニットと、前記有機金属錯体よりも長波長、かつ前記第1の発光材料よりも短波長の発光を呈する第2の発光材料を含む第3の発光ユニットとを一対の電極間に有する発光素子。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか一に記載の発光素子を画素部に有する表示装置。
【請求項12】
請求項11に記載の表示装置を表示部に用いた電子機器。
【請求項13】
請求項7乃至10のいずれか一に記載の発光素子を光源として用いた照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−213715(P2011−213715A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54973(P2011−54973)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】