説明

有機電界発光型表示装置

【課題】発光効率を高め明るい表示画像を得るため、プロセス加工性に優れ、かつ良好な表面平坦性、高い光反射率ならびに高いホール注入効率を具備したアノードを有する有機電界発光型装置を提供する。
【解決手段】基板上にTFTと、少なくともアノード16、電界発光層18そしてカソード19がこの順に積層された有機EL素子とが表示領域の各画素に形成されているとともに、アノード16はAlに少なくとも8族3d遷移金属の1種以上を不純物として含むAl合金膜16aと、その上層に透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bとを積層した少なくとも二層膜であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気光学表示装置、特に、TFTを形成したアクティブマトリックス型基板上に電気光学素子として画素領域に有機電界発光型(エレクトロルミネッセンス;EL)素子(以後、有機EL素子と呼ぶ)を形成してなる有機電界発光型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気光学素子として有機EL素子のような発光体を用いた有機電界発光型表示装置が表示パネルのひとつとして一般に用いられるようになってきた。
【0003】
有機EL素子とは、陽極電極(アノードともいう)と陰極電極(カソードともいう)の間に有機EL層を含む電界発光層を挟んだ構造を基本構成とするものであり、アノードとカソードの間に電圧を加えることで、アノード側から正孔(ホール)が、カソード側から電子が注入されることによって有機EL層の発光を得るものである。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような有機EL素子を用いた表示装置である有機電界発光型表示装置は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(以後、TFTと呼ぶ)が配置されたTFTアクティブマトリックス基板上に、アノード、電界発光層、そしてカソードがこの順に積層された有機EL素子が、表示パネル領域の各画素に形成された構造を有している。
【0005】
従来からの一般的な有機電界発光型表示装置は下面発光型(ボトムエミッション型)とよばれるもので、ガラスのような透明絶縁性基板上にTFTや有機EL素子が形成されており、有機EL素子の有機EL層から発生した光を透明絶縁性基板においてTFTが形成されていない裏側へ放射させるために、アノードは酸化インジウムIn+酸化スズSnO (以後、ITOと呼ぶ)のような光透過性を有する導電性材料で構成されている。アノードには有機EL層へのホール注入効率を上げるために仕事関数値の高い導電性材料が好ましいとされており、例えば特許文献1では好ましい仕事関数値として4.0eV以上であることが述べられている。ITOは仕事関数値が4.7eV前後であり、アノードとして好ましい材料である。
【0006】
しかしながら、ボトムエミッション型では、基板に形成されたTFTパターンや配線パターン、あるいは信号駆動用回路パターンなどの領域では光を透過させることができないため、有効な発光面積が少なくなってしまうという問題がある。これらの問題を解決するために、発光面積を広く取ることのできる上面発光型(トップエミッション型)と呼ばれる構造のものが開発されている。
【0007】
トップエミッション型構造は、上述のアノードが光反射性を有する金属材料で形成されているので、有機EL層で発生した光をカソードを透過して基板の上部へ放射させる際に、この金属材料による反射光も同時に基板の上部へ放射させることができ、明るい表示画像を得ることができる。
【0008】
トップエミッション型において発光効率が高く明るい画像を得るために、アノードには高い仕事関数値と高い光反射率が求められる。しかしながら、パターニング加工性を考慮した上で、例えば高い仕事関数値を有する金属材料としてCr(約4.5eV)やMo(約4.6eV)を選択した場合、これらの金属膜は光反射率が低く(たとえば波長550nmにおける本発明者らの結果によればCrで67%、Moで60%)、アノードに適用した場合には前記反射光の損失が大きいという問題がある。一方で例えば光反射率が90%以上の高い値を有する金属材料としてAlやAg、およびこれらの合金を選択した場合には仕事関数値として好ましい4.0eVよりも低いため、有機EL素子の発光効率が上げられないという問題がある。
【0009】
以上の問題を解決するために、反射率の高いAg、Alおよびこれらの合金の上層に仕事関数が高い導電性材料の積層させた少なくとも二層構造として、高い反射率と高いホール注入効率とを両立させた構成のアノードが開示されている。(例えば、特許文献2〜5参照)。仕事関数の高い導電性材料としては金属の酸化物薄膜が挙げられている。これらの多くは光透過性を有しており、下層の金属による光反射率を大きく低下させることがないという利点がある。
【0010】
しかしながら、一般に下層である光反射膜を構成する金属膜や合金膜の上部に、上層として透光性導電酸化膜を形成した場合、下層の金属膜または合金膜の金属原子と上層に含まれる酸素との新たな酸化物反応層が、上層と下層との界面に形成される。この酸化物反応層は電気的絶縁体であり、デバイスとしての抵抗値を異常に高くしてしまうという公知の問題を引き起こす。その解決手段として、主にアルミ膜やアルミ合金膜のような金属膜と導電酸化膜との間に別の金属膜を設けることにより、抵抗値の増大を抑制する方法が開示されている(例えば、特許文献6、7参照。)
【0011】
【特許文献1】特許第2597377号公報(第1図)
【特許文献2】特開2001−291595号公報(図1)
【特許文献3】特開2003−77681号公報(図1)
【特許文献4】特開2003−288993号公報(図1)
【特許文献5】特開2004−31324号公報(図5)
【特許文献6】特開平6−196736号公報(第2−3頁)
【特許文献7】特開2000−77666号公報(第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明者らの実験においても、図3に示す透光性導電酸化膜とのコンタクト抵抗における金属膜の材質の依存性のグラフから明らかなように、従来例として示したAlまたはAl合金膜と透光性導電酸化膜であるITO膜を積層した場合の界面における電気的コンタクト抵抗値は、比較例1として示しているCrの場合を1とすると、10倍という非常に大きな値となってしまう結果がえられている。したがって、下層であるAl合金膜上にITO膜を単に積層しただけの構成からアノードがなる場合にも同様に電気的絶縁体である酸化物反応層が界面に形成されるため、有機EL層へのホール注入効率を著しく低下させてしまうという問題点がある。この問題を解決するために、導電酸化膜とAl合金膜との間に別の金属膜を追加する方法を適用した場合、この金属は光反射率の点で最適化することが困難なので、アノードに必要な高い光反射率を得ることができないという問題がある。また、高反射率材料として、Ag膜またはAg合金膜を用いた場合、これらの材料は化学的に非常に活性で大気中での表面酸化による反射率の経時劣化が大きく、実際のプロセス適用時に難があった。さらにAl膜の場合はヒロックをはじめとする表面凹凸が発生しやすく有機EL層を挟んだ対向のカソードとのショートモード故障やダークスポットとよばれる表示不良が発生しやすいという問題点もある。上述の特許文献においては、これら問題点の対策については何ら開示されておらず、実デバイスへの適用は実質的に不可能であった。
【0013】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、発光開口面積を広くとることができるトップエミッション型の有機電界発光型表示装置において、さらに発光効率を高め明るい表示画像を得ることを目的としており、プロセス加工性に優れ、かつ良好な表面平坦性、高い光反射率ならびに高いホール注入効率を具備したアノードを有する有機電界発光型表示装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係わる有機電界発光型表示装置はトップエミッション型であることを特徴とするもので、基板上にTFTと、少なくともアノード、電界発光層そしてカソードがこの順に積層された有機EL素子とが表示領域の各画素に形成されているとともに、前記アノードはAlに少なくとも8族3d遷移金属の1種以上を不純物として含むAl合金膜と、その上層に透光性導電酸化膜を積層した少なくとも二層膜であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
アノードを、Alに少なくとも8族3d遷移金属であるFe、Co、Niから選ばれる1種以上を不純物として含むAl合金膜と、その上層に透光性導電酸化膜を積層した少なくとも二層膜として形成したので、Al合金膜と透光性導電酸化膜との界面における電気的絶縁性の界面反応層の発生を防止することができるようになり、有機EL素子から発生した光の反射効率が高く、かつ有機EL層へのホール注入効率を高めることができ、発光効率が高く明るい表示画像を有する有機電界発光型表示装置を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の有機電界発光型表示装置を構成するTFTアクティブマトリックス基板と有機EL素子、およびそれらの製造方法について、図面に基いて説明する。
【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における有機電界発光型表示装置を構成するTFT基板とその上部に形成されている有機EL素子とを示す画素部の断面図である。図1において、絶縁性基板1上に形成された透過性絶縁膜であるSiN膜2、SiO膜3上にチャネル領域7a、ソース領域7b、ドレイン領域7cを有するポリシリコン膜7が設けられている。SiO膜3やポリシリコン膜7を覆うようにしてゲート絶縁膜5が形成され、その上層にゲート電極6と、SiO等からなる第1層間絶縁膜8とが形成されている。ソース電極11とドレイン電極12とは第1層間絶縁膜8上にあって、おのおのコンタクトホール9、10を介してソース領域7b、ドレイン領域7cと接続されており、以上の構成をもって薄膜トランジスタが形成される。さらに、その上層にはSiNやSiO等からなる第2層間絶縁膜13、および表面を平坦化するために有機樹脂からなる平坦化膜15が形成されている。
【0018】
平坦化膜15上には、第1アノードであるAl合金膜16aの上層に第2アノードとして透光性の導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bを積層してなるアノード16が形成されており、アノード16は平坦化膜15に設けられているコンタクトホール14を介して下層のドレイン電極12と接続している。アノード16上の一部を開口してアノード16と平坦化膜15とを覆っているのは分離膜17であり、分離膜17は隣接する画素(図示せず)間を分離するために画素周囲に額縁のように土手状に形成されており、その開口されている領域のアモルファスITO膜16b上に形成されているのが有機EL材料からなる電界発光層18である。電界発光層18は、アノード16の直上に、ホール輸送層18a、有機EL層18b、電子輸送層18cの順に積層される三層からなる。なお、ホール輸送層18aとアノード16との間に挟まれるホール注入層(図示しない)か、電子輸送層18cの直上に積層される電子注入層(図示しない)か、いずれか少なくとも一層を追加する公知の構造でもよく、その場合の電界発光層18は四層あるいは五層構造で形成されることになる。分離膜17、電界発光層18を覆うようにして形成されているのはカソード19、接着層20である。カソード19はITO等で形成され、アノード16との電位差により電界発光層18に電流を流すためのものであり、接着層20は、電界発光層18を水分や不純物から遮断するためのものである。接着層20上には、絶縁性基板1と対向するように対向基板21が形成されている。
【0019】
図1に示す有機電界発光型表示装置においては、ソース電極11から伝わる信号電圧がドレイン電極12を介してアノード16に印加され、カソード19との間の電圧差により電界発光層18に電流が流れて有機EL層18bが発光するため表示に必要な光をえることができる。本発明の実施の形態1においては、光反射率の高いAlに少なくとも8族3d遷移金属であるFe、Co、Niから選ばれる1種以上を不純物として含むAl合金膜16aと、その上層にアモルファスITO膜16bとを積層した少なくとも二層膜としてアノード16が形成されているので、Al合金膜16aとアモルファスITO膜16bとの界面においては、例えばアルミナ等の電気的絶縁性の界面反応層が存在しない。さらに、Al合金膜16aにおける上記不純物の組成を0.5at%以上15at%以下とすると、光反射率が高いアノード16をえることができる。そのため、有機EL素子から発生する光の反射率が高いうえに、電界発光層18へのホール注入効率を高めることができるので、発光効率が高く明るい表示画像を有する有機電界発光型表示装置を得ることが可能となる。
【0020】
次に有機電界発光型表示装置の製造方法について、図2を参照して詳細に説明を行う。図2は本発明に関わる有機電界発光型表示装置を構成するTFT基板とその上部に形成される有機EL素子との製造方法について説明するための断面図である。
【0021】
以下、図2に基づいてTFT基板とその上部に形成される有機EL素子との製造方法の一実施例を説明する。なお、説明を簡単にするため、p型のトランジスタのみを示している。
【0022】
図2(A)を参照して、プラズマCVD(chemical vapor deposition)法を用いて、絶縁性基板1の主表面上に、SiN膜2、SiO膜3およびアモルファスシリコン膜4を順に形成する。
【0023】
なお、アモルファスシリコン膜4を形成した後、アモルファスシリコン膜4に含まれるH(水素)濃度を低減するため熱処理を実施しても良い。この場合、後に続くレーザアニール工程において、アモルファスシリコン膜4中の水素突沸によるクラックが発生することを防止できる。
【0024】
次に、エキシマレーザ(波長308nm)のレーザ光をアモルファスシリコン膜4に向けて照射する。この際、レーザ光は、所定の光学系を通過して線上のビームプロファイルに変換された後、アモルファスシリコン膜4に向けて照射される。このレーザアニール工程によって、アモルファスシリコン膜4を多結晶化し、ポリシリコン膜7を形成する。
【0025】
なお本実施の形態では、アモルファスシリコン膜4を多結晶化する手段としてパルス型のエキシマレーザを用いたが、これに限定されるものではない。たとえば、YAGレーザやCWレーザ(continuous-wave laser)を用いても良く、熱アニールを実施しても良い。熱アニールを実施する場合、Ni(ニッケル)などの触媒を使用すれば、より大きい粒径のポリシリコン膜7を得ることができる。
【0026】
図2(B)を参照して、ポリシリコン膜7上に所定の開口パターンを有する図示しないレジスト膜を形成する。そのレジスト膜をマスクとしてポリシリコン膜7をエッチングし、ポリシリコン膜7を所定の形状とする。その後、レジスト膜を除去する。
【0027】
次に、プラズマCVD法を用いて、ポリシリコン膜7を覆うゲート絶縁膜5を形成する。次にスパッタリング法を用いて、ゲート絶縁膜5上にゲート電極6を形成するための金属膜を成膜する。この金属膜上に、所定の開口パターンを有する図示しないレジスト膜を形成する。そのレジスト膜をマスクとして金属膜をエッチングし、ゲート電極6を形成する。その後、レジスト膜を除去する。
【0028】
イオンドーピング法を用いて、ボロンを所定のドーズ量でポリシリコン膜7に向けて注入する。このとき、ゲート電極6がマスクとなり、ボロンがポリシリコン膜7の両端に注入されることによって、ポリシリコン膜7にソース領域7bとドレイン領域7cが形成される。ボロンが注入されなかった個所は、チャネル領域7aとなる。
【0029】
図2(C)を参照して、ゲート絶縁膜5上に、ゲート電極6を覆う第1層間絶縁膜8を形成する。第1層間絶縁膜8上に所定の開口パターンを有する図示しないレジスト膜を形成する。レジスト膜をマスクとして第1層間絶縁膜8およびゲート絶縁膜5にエッチングを行ない、ソース領域7bとドレイン領域7cにそれぞれ到達するコンタクトホール9、10を形成する。その後、レジスト膜を除去する。
【0030】
図2(D)を参照して、コンタクトホール9、10をそれぞれ介してソース領域7b、ドレイン領域7cと接続するように、第1層間絶縁膜8上に所定の形状を有するソース電極11、ドレイン電極12を形成する。ソース電極11、ドレイン電極12を形成した後、水素プラズマ雰囲気中に30分間、晒した状態とする。この工程により、ポリシリコン膜7に存在する欠陥をHで終端することができ、信頼性が高く、性能の高いトランジスタを形成することができる。
【0031】
次に、プラズマCVD法を用いて、第1層間絶縁膜8上に、ソース電極11、ドレイン電極12を覆う第2層間絶縁膜13を形成する。この第2層間絶縁膜13上に、所定の開口パターンを有する図示しないレジスト膜を形成する。そのレジスト膜をマスクとして層間絶縁膜をエッチングし、ドレイン電極12に到達するコンタクトホール14を形成する。その後、レジスト膜を除去する。
【0032】
図2(E)を参照して、第2層間絶縁膜13上に、コンタクトホール14の一部または全部と重なるようにドレイン電極12に到達する開口部を有する平坦化膜15を形成する。平坦化膜15としては有機樹脂膜、例えば光透過性のアクリル系感光樹脂膜であるJSR製の製品名PC335を約2μmの膜厚となるようにスピンコート法を用いて塗布形成し、フォトリソグラフィ法を用いてドレイン電極12に到達する開口部を形成する。平坦化膜15をキュアするために220℃のアニールを施す。平坦化膜15を形成することにより、ゲート電極6やソース電極11、ドレイン電極12などの表面凹凸を被覆し、アレイ表面を平坦にすることができる。
【0033】
次に、アノード16の第1アノードとして、アルミニウム(Al)にニッケル(Ni)を添加したターゲットを用いたスパッタリング法により、アルミニウム(Al)にニッケル(Ni)を不純物として2at%添加したAl合金膜16aを50nmの厚さで成膜し、続いて第2アノードとして透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bを20nmの厚さで成膜する。その後に写真製版工程により、所定の開口を有するレジスト膜を形成し、これをマスクとして、シュウ酸を含む溶液、続いて燐酸+硝酸+酢酸を含む溶液を用いて、順次アモルファスITO膜16b、Al合金膜16aをエッチングする。その後、レジストを除去する。
【0034】
ここで、Alに不純物としてNiを添加したが、Niに限定されず、他の8族3d遷移金属であるFe、Coのいずれかを1種以上添加していればよい。Alに8族3d遷移金属を1種以上添加することにより、上層に積層される透光性の導電酸化膜との界面における絶縁性酸化物反応層の形成を抑制することができ、ホール注入効率の低下を防止できる。その添加量は0.5at%以上であり、かつ15at%以下にすることが望ましい。図3に示す透光性導電酸化膜とのコンタクト抵抗値におけるアノード金属膜の材質の依存性において本実施例Aで示される通り、AlにNiが添加されているAl合金膜へITO膜を積層したときのコンタクト抵抗は、Niを添加していないAl膜とITO膜とを積層させた時のコンタクト抵抗を示した従来例に比べて大幅に低減しており、比較例1および比較例2で示されている高融点金属であるMoやCrとITOとを積層した場合のコンタクト抵抗と同程度である。Niを0.5at%以上添加することにより、Al合金膜16aと透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bとの間に形成される絶縁性酸化物反応層の生成を抑制し、良好な電気的コンタクト特性を得ることができる。一方、Niの添加量を15at%以下とした場合、波長550nmにおけるAl合金膜の光反射率のNi組成依存性を示す図4から明らかなように、Al合金膜の光反射率を比較例1、2で示されたCrやMoの光反射率と同等以上にすることができるので、電界発光層18からの発光を反射させることにより表示光として寄与する効果もそれだけ大きいことになるため好ましい。
【0035】
あるいはAlに不純物として、Nを添加しても良い。その添加量は5at%以上であり、かつ26at%以下にすることが望ましい。図3の本実施例Bにおいて示される通り、AlにNが添加されているAl合金膜へITO膜を積層したときのコンタクト抵抗は、比較例で示されている高融点金属であるMoやCrとITOとを積層した場合のコンタクト抵抗よりやや高いものの、Nを添加しない従来例に比べて大幅に低減している。Nを添加することにより、Al合金膜16aと透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bとの間に形成される絶縁性酸化物反応層の生成を抑制し、良好な電気的コンタクト特性を得ることができる。一方、AlへのNの添加量を26at%以下とした場合、波長550nmにおけるAl合金膜の光反射率のN組成依存性を示す図5から明らかなように、Al合金膜の光反射率を比較例1、2で示されたCrやMoの光反射率と同等以上にすることができるので、電界発光層18からの発光を反射させることにより表示光として寄与する効果もそれだけ大きいことになるため好ましい。
【0036】
また、Nを添加する領域としては、アモルファスITO膜16bと接する領域、すなわちAl合金膜16aの表面に近い上層部がのぞましい。この場合、Al合金膜16aの良好な導電性と、アモルファスITO膜16bとの良好な電気的コンタクト特性とを得ることができるため、さらにホール注入の効率低下を防止することができる。このような構成にするには、例えば、スパッタリング法によるAl合金膜16aの成膜時において、Al合金膜表面部の成膜にさしかかったときに、Ar等のスパッタリングガスに窒素ガスを添加すればよい。さらに、AlにNとNiとを添加したAl合金膜においても同様の効果を得ることができる。
【0037】
さらに、上記Al合金膜16aにCu、Si、Y、Ndの少なくとも1種類の不純物を添加することが望ましい。これら不純物を添加することにより、Al合金膜16aの耐熱性を向上することができ、ヒロックをはじめとする表面凹凸の発生を抑制することができる。表面凹凸によるカソードとの電気的ショートを防止することができるため、所謂ダークスポットなどの表示不良の発生を抑制することができ、表示品位が向上する。
【0038】
本実施の形態1においては、Al合金膜16aの膜厚を50nmとしたが、10nm以上200nm以下であれば良い。図6において、波長550nmにおけるAl膜の光反射率と光透過率に対するAl膜の膜厚依存性を示す。図6から明らかなように、Al合金膜の膜厚が10nm以上の場合、光透過成分を十分低減でき、Al合金膜の光反射率を比較例1、2で示されたCrやMoの光反射率と同等以上にすることができるので、電界発光層18からの発光を反射させることにより表示光として寄与する効果もそれだけ大きいことになるため好ましい。また、Al合金膜の膜厚が厚くなると、グレインサイズが大きく表面凹凸が荒くなるため、有機電界発光表示装置のアノードとして用いる場合には、電界発光層18による被覆不良を引き起こし、カソードとのショートモード故障等の要因となる。表面平滑性の指針としては平均粗さRaを1.0nm以下とするのが好ましく、この点からAl合金膜16aの膜厚としては200nm以下とするのが好ましい。
【0039】
またアモルファスITO膜16bの膜厚を20nmとしたが、これに限らず、3.5nm以上の膜厚であれば良い。3.5nm以上の膜厚であれば、層状に成長した均一な膜を形成することが可能であり、膜欠損による表示不良を防止できるという効果がある。
【0040】
ITO膜16bはホール注入効率を高めるという作用の他に、図1で示す電界発光層18から発光された光がアノード16のAl合金膜16a表面で反射する場合の光学経路要素のひとつとして作用することになる。したがって、発光層である有機EL層18bからの光が直接カソード19側へ放射される成分と、アノード16のAl合金膜16aで反射されてカソード19側へ放射される成分との干渉効果を考慮して、高い発光効率が得られるようにITO膜16bの膜厚を設定することが好ましい。さらに、後述するように電界発光層18における有機EL層18bの下層にホール輸送層18a等の膜が形成される場合には、これらの膜とITO膜16bとの積層構成による光学経路に基いて、これらの層の膜厚をそれぞれ設定することが好ましい。
【0041】
以上のような好ましい膜厚で成膜された透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bとAl合金膜16aとの積層膜を、写真製版工程により、所定の開口を有するレジスト膜を形成し、これをマスクとしてシュウ酸を含む溶液、続いて燐酸+硝酸+酢酸を含む溶液を用いて、順次エッチングすることにより、所望のパターンに加工した。燐酸+硝酸+酢酸を含む溶液を用いたエッチングにおいては、アモルファスITO膜16bはAl合金膜16aよりもエッチング速度が遅いため、アノード16パターンのエッヂ部の断面部は庇形状になる。すなわち、アモルファスITO膜16bのパターンは、下層であるAl合金膜16aのパターンよりも庇の分だけ大きく、Al合金膜16aのパターンを内包した形となる。このような庇形状を残したまま図1で示した分離膜17を形成すると、庇の下部に空洞が形成されるため、そこに内包された水分や気泡等の不純物が、図1で示した電界発光層18の劣化を引き起こす可能性がある。
【0042】
一方、レジスト膜を除去する前にさらにシュウ酸を含む溶液でエッチングを追加しても良い。シュウ酸はアモルファスITO膜16bをエッチングするが、Al合金膜16aをエッチングしないという選択性を有するため、このように処理することにより、アノード16のパターンのエッヂ部において通常形成されるアモルファスITO膜16bの庇形状は改善され、概略直線状または、図2(E)に示すように順階段状に形成することができるため、この後に形成する分離膜17の被覆性を向上することができ、電界発光層18の劣化を引き起こす恐れのある不純物の内包も防止できる。
【0043】
ここで、透光性導電酸化膜としてアモルファスITO膜16bを用いたが、これに限らず酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)およびこれら酸化物を混合した材料であればよい。これらは燐酸+硝酸+酢酸でのエッチングが可能であるため、Al合金膜16aとの一括エッチングが可能であり、プロセスの簡略化ができるという効果を奏する。さらにZnO膜は、ITO膜やIn膜、SnO膜と比較して、Al合金膜16aとの界面反応性が低く、界面の凝集物の発生が少なくなる。この界面凝集物はパネルの表示不良を引き起こすとともに、パネル連続点灯によりさらにその生成に進行性を有するものである。したがって、このような界面凝集物の生成を抑制できることは、パネルの高い表示品質ならびに高い信頼性を得るといった点で大きな利点がある。
【0044】
さらに酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛を混合した材料(ITZO)でも良い。ITZO膜の場合、ZnO膜の場合と同様にAl合金膜との界面反応性が低く、界面の凝集物生成の抑制効果が大きい。さらにITZO膜の場合、アモルファスITO膜と同様に熱処理によって結晶化するため化学的安定性が向上するという効果も奏する。
【0045】
次に、図2(F)を参照して、図1で示した電界発光層18を各画素部に分離して形成するための領域を確保するために、ポリイミド等からなる有機樹脂膜を塗布形成した後、写真製版工程により、分離膜17とした。分離膜17はそれぞれの画素領域を取り囲むように額縁形状となるよう設けられ、隣接する画素(図示せず)間を分離するような土手状の凸部として形成されている。分離膜17を形成する有機樹脂膜は、有機EL層18bの特性や信頼性に悪影響を及ぼす吸着水分の少ないポリイミド系の材料を用いるのが望ましい。本実施の形態1では東レ製の製品名DL100を約2μmの膜厚で塗布し、写真製版工程により、額縁形状の分離膜17を形成した。
【0046】
次に、図2(G)を参照して、蒸着等の方法を用いて電界発光層18となる有機材料を画素領域に形成する。本実施例では、電界発光層18として、ホール輸送層18a、有機EL層18b、電子輸送層18cをこの順に積層して形成した。ホール輸送層18aとしては公知のトリアリールアミン類、芳香族ヒドラゾン類、芳香族置換ピラゾリン類、スチルベン類等の有機系材料から幅広く選択することができ、例えばN,N−ジフェニル−N,N−ビス(3−メチルフェニル)−1,1‘−ジフェニル−4,4’ジアミン(TPD)等を1〜200nmの膜厚で形成する。有機EL層18bとしては公知のジシアノメチレンピラン誘導体(赤色発光)、クマリン系(緑色発光)、キナクリドン系(緑色発光)、テトラフェニルブタジエン系(青色発光)、ジスチリルベンゼン系(青色発光)等の材料を1〜200nmの厚さで形成する。電子輸送層18cとしては公知のオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、クマリン誘導体等から選ばれる材料を0.1〜200nmの膜厚で形成する。
【0047】
上記の実施例では電界発光層18をホール輸送層18a、有機EL層18b、電子輸送層18cを順次積層した構成としたが、さらに電界発光層18の発光効率を上げるために、ホール輸送層18aをホール注入層とホール輸送層の二層に、また電子輸送層18cを電子輸送層と電子注入層の二層にした公知の構成としてもよい。
【0048】
次に、カソード19として、透明導電膜であるITO膜をスパッタリング法を用いて100nmの厚さで形成する。カソード19は画素領域において下層の電界発光層18に接続されると同時に、図示しないコンタクトホールを介して下層のカソード接地用電極(図示しない)にも接続されるように構成される。カソード19は膜面が高い平坦性を有することが好ましい。したがって、膜組織に結晶粒界がないアモルファスITO膜を形成することが好ましい。アモルファスITO膜は、例えばArガスにHOガスを混合させたガス中でのスパッタリングにより形成することができる。また、酸化インジウムと酸化亜鉛を混合させたIZO膜、あるいはITO膜に酸化亜鉛を混合させたITZO膜を用いることも可能である。
【0049】
最後に、水分や不純物による電界発光層18の発光特性の劣化を防止するために、対向のガラス基板21との間に、電界発光層18が形成されている画素表示領域全体を、接着層20で覆い、本発明の実施の形態1に係る有機電界発光型表示装置が完成する。
【0050】
なお、上記の実施の形態においては、画素を駆動するスイッチング素子となるTFTの半導体膜として、ポリシリコン膜7を用いたが、これに限らずアモルファスシリコン膜を用いてもよい。またTFTの構造も本実施の形態1で図示したようなトップゲート型に限らず、例えばボトムゲート逆スタッガード型等の構造としてもよい。また、本実施の形態1においては、TFTを1個しか図示しなかったが、画素ごとにTFTが複数あってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の電界発光型表示装置を示す画素部の断面図である。
【図2】本発明の電界発光型表示装置の製造方法について説明するための断面工程図である。
【図3】本発明と従来比較例との透光性導電酸化膜とアノード金属膜とのコンタクト抵抗の値を示す図である。
【図4】Al−Ni膜の反射率のNi組成依存性を示す図である。
【図5】AlN膜の反射率のN組成依存性を示す図である。
【図6】Al膜の反射率および透過率と膜厚の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 絶縁性基板、2 SiN膜、3 SiO2膜、
4 アモルファスシリコン膜、5 ゲート絶縁膜、6 ゲート電極、
7 ポリシリコン膜、7a チャネル領域、7b ソース領域、7c ドレイン領域、
8 第1層間絶縁膜、
9、10 コンタクトホール、
11 ソース電極、12 ドレイン電極、13 第2層間絶縁膜、
14 コンタクトホール、15 平坦化膜、
16 アノード、16a Al合金膜、16b アモルファスITO膜、17 分離膜、
18 電界発光層、18a ホール輸送層、18b 有機EL層、18c 電子輸送層、
19 カソード、20 接着層、21 対向ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜トランジスタ(TFT)と、有機樹脂からなる平坦化膜と、該平坦化膜の上に少なくともアノード、電界発光層そしてカソードがこの順に積層された有機EL素子とが基板上の表示領域の各画素に形成されているとともに、前記アノードはアルミニウム(Al)に少なくとも8族3d遷移金属の1種以上を不純物として添加したAl合金膜と、その上層に透光性導電酸化膜を積層した少なくとも二層膜からなることを特徴とするトップエミッション型の有機電界発光型表示装置。
【請求項2】
前記Al合金膜に含まれる8族3d遷移金属の組成比が0.5at%以上15at%以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光型表示装置。
【請求項3】
薄膜トランジスタ(TFT)と、有機樹脂からなる平坦化膜と、該平坦化膜の上に少なくともアノード、電界発光層そしてカソードがこの順に積層された有機EL素子とが基板上の表示領域の各画素に形成されているとともに、前記アノードはAlに少なくとも窒素(N)原子を不純物として添加したAl合金膜と、その上層に透光性導電酸化膜を積層した少なくとも二層膜であることを特徴とするトップエミッション型の有機電界発光型表示装置。
【請求項4】
前記Al合金膜に含まれるN原子の組成比が5at%以上26at%以下であることを特徴とする請求項3に記載の有機電界発光型表示装置。
【請求項5】
前記Al合金膜に、さらにSi、Cu、Y、およびNdから選ばれる少なくとも1種以上の不純物を含んでいることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機電界発光型表示装置。
【請求項6】
前記Al合金膜厚が10nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機電界発光型表示装置。
【請求項7】
前記透光性導電酸化膜が酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、あるいはこれらの酸化物を混合した材料のいずれかからなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有機電界発光型表示装置。
【請求項8】
前記透光性導電酸化膜が酸化インジウム(In)と酸化スズ(SnO)と酸化亜鉛(ZnO)とを混合した酸化物(ITZO)からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有機電界発光型表示装置。
【請求項9】
前記透光性導電酸化膜の膜厚が3.5nm以上であることを特徴とする請求項7または8に記載の有機電界発光型表示装置。
【請求項10】
少なくとも前記Al合金膜と前記透光性導電酸化膜からなる前記アノードのパターンのエッヂ部の断面形状が、概略直線状、または順階段状であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の有機電界発光型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−236839(P2006−236839A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51262(P2005−51262)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】