説明

有機電界発光素子およびその製造方法

【課題】低電圧で駆動できると共に、高輝度で素子寿命も長い有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】一方が透明または半透明である一対の電極間に挾持された1つまたは複数の有機化合物層より構成され、一方の電極と接するようにジアリールアミン構造から選択される少なくとも1種を含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを含む層が設けられ、前記一方の電極と接する層に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、前記一方の電極表面の仕事関数との差が0〜0.7eVの範囲内である有機電界発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子(以下、「有機EL素子」と称す場合がある)およびその製造方法に関し、詳しくは、特定の電荷輸送性ポリマーを用いた有機EL素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子(以下、「EL素子」という)は、自発光性の全固体素子であり、視認性が高く衝撃にも強いため、広く応用が期待されている。上記EL素子としては、現在は無機螢光体を用いたものが主流であるが、200V以上の交流電圧が駆動に必要なため、製造コストが高く、また輝度が不十分等の問題点を有している。
一方、有機化合物を用いたEL素子研究は、最初アントラセン等の単結晶を用いて始まったが、単結晶の場合、膜厚が1mm程度と厚く、100V以上の駆動電圧が必要であった。そのため、蒸着法による薄膜化が試みられている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、この方法で得られた薄膜は、駆動電圧が30Vと未だ高く、また、膜中における電子・正孔キャリアの密度が低く、キャリアの再結合によるフォトンの生成確率が低いため十分な輝度が得られなかった。
【0003】
ところが、近年、正孔輸送性有機低分子化合物と電子輸送能を持つ螢光性有機低分子化合物とを含む薄膜を、真空蒸着法により順次積層した機能分離型のEL素子において、10V程度の低駆動電圧で1000cd/m2に以上の高輝度が得られるものが報告されており(例えば、非特許文献2参照)、以来、積層型のEL素子の研究・開発が活発に行われている。
これら積層型のEL素子においては、正孔と電子とが、電極から電荷輸送性の有機化合物からなる電荷輸送層を介して正孔と電子とのキャリアバランスを保ちながら螢光性有機化合物からなる発光層に注入され、発光層中に閉じ込められた正孔と電子とが再結合することにより高輝度の発光を実現している。
【0004】
しかしながら、このタイプのEL素子では、実用化に向けて以下のような大きく2つの課題が示されている。
(1)素子が数mA/cm2という高い電流密度で駆動されることから、大量のジュール熱が発生する。このため、蒸着によりアモルファス状態で製膜された電荷輸送性低分子化合物や螢光性有機低分子化合物が次第に結晶化して、最後には融解し、輝度の低下や絶縁破壊が生じるという現象が多く見られ、その結果、素子の寿命が低下するという問題を有している。
(2)素子の作製において、低分子有機化合物を複数の蒸着工程において膜厚が0.1μm以下の薄膜を形成していくため、ピンホールを生じ易く、十分な性能を得るためには厳しく管理された条件下で膜厚の制御を行うことが必要である。従って、生産性が低くかつ大面積化が難しいという問題がある。
【0005】
ここで、上記(1)に示す課題の解決のためには、例えば、正孔輸送材料として安定なアモルファスガラス状態が得られるスターバーストアミンを用いたり、ポリフォスファゼンの側鎖にトリフェニルアミンを導入したポリマーを用いたりしたEL素子が報告されている(例えば、非特許文献3、4参照)。
しかし、これら材料単独では正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルに起因するエネルギー障壁が存在するため、陽極からの正孔注入性あるいは発光層への正孔注入性を満足することができない。また、前者のスターバーストアミンの場合には、溶解性が小さいために精製が難しく、純度を上げることが困難であることや、後者のポリマーの場合には、高い電流密度が得られず十分な輝度が得られてない等の問題も存在する。
【0006】
また、上記(2)に示す課題の解決のためには、製造工程を簡略化できる単層構造のEL素子について研究・開発が進められ、ポリ(p−フェニレンビニレン)等の導電性高分子を用いたり、あるいは正孔輸送性ポリビニルカルバゾール中に電子輸送材料と螢光色素とを混入した素子が提案されているが(例えば、非特許文献5、6参照)、未だ輝度、発光効率等が有機低分子化合物を用いた積層型EL素子には及ばない。
【0007】
さらに、作製法においては、製造の簡略化、加工性、大面積化、コスト等の観点から、湿式による塗布方式が望ましく、キャステイング法によっても素子が得られることが報告されている(例えば、非特許文献7、8参照)。しかし、電荷輸送材料の溶剤や樹脂に対する溶解性や相溶性が悪いため結晶化しやすく、製造上あるいは特性上に問題があった。
【非特許文献1】Thin Solid Films, Vol.94, 171(1982)
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett., Vol.51, 913(1987)
【非特許文献3】第40回応用物理学関係連合講演会予稿集, 30a−SZK−14(1993)
【非特許文献4】第42回高分子討論会予稿集, 20J21(1993)
【非特許文献5】Nature, Vol.357, 477(1992)
【非特許文献6】第38回応用物理学関係連合講演会予稿集, 31p−g−12(1991)
【非特許文献7】第50回応用物理学会学術講演予稿集, 29p−ZP−5(1989)
【非特許文献8】第51回応用物理学会学術講演予稿集, 28a−PB−7(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決することを課題とする。すなわち、本発明は、低電圧で駆動できると共に、高輝度で素子寿命も長い有機電界発光素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、本発明は、
<1>
少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極間に挾持された、1つまたは複数の有機化合物層より構成される有機電界発光素子において、
前記一対の電極の少なくとも一方の電極と接するように、下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを含む層が設けられ、
且つ、前記一方の電極と接する層に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、前記一方の電極表面の仕事関数との差が、0eV以上0.7eV以下の範囲内であることを特徴とする有機電界発光素子。
【0010】
【化1】

【0011】
(一般式(I−1)および(I−2)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表し、k、m、lは0または1を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素又は炭素数2〜10の分枝状炭化水素を表す。)
【0012】
<2>
前記一方の電極表面に、前記電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する塗布工程を経て作製され、
且つ、前記電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する直前の前記一方の電極表面の水に対する接触角が、0度以上30度以下であることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0013】
<3>
前記一方の電極表面を表面処理する表面処理工程と、表面処理された前記一方の電極表面に、前記電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する塗布工程とを経て作製されることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0014】
<4>
前記一方の電極が、陽極であることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0015】
<5>
前記1つまたは複数の有機化合物層が、少なくとも発光層と、電子輸送層および/または電子注入層とから構成され、
前記発光層と、前記電子輸送層および/または前記電子注入層とから選択される少なくとも一層に、
前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルが1種以上含まれることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0016】
<6>
前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする<5>に記載の有機電界発光素子。
【0017】
<7>
前記1つまたは複数の有機化合物層が、少なくとも正孔輸送層および/または正孔注入層と、発光層と、電子輸送層および/または電子注入層とから構成され、
前記正孔輸送層および/または前記正孔注入層と、前記発光層と、前記電子輸送層および/または電子注入層とから選択される少なくとも一層に、
前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルが1種以上含まれることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0018】
<8>
前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする<7>に記載の有機電界発光素子。
【0019】
<9>
前記1つまたは複数の有機化合物層が、少なくとも正孔輸送層および/または正孔注入層と、発光層とから構成され、
前記正孔輸送層および/または前記正孔注入層と、前記発光層とから選択される少なくとも一層に、
前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルが1種以上含まれることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0020】
<10>
前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする<10>に記載の有機電界発光素子。
【0021】
<11>
前記1つまたは複数の有機化合物層が、少なくとも電荷輸送能を有する発光層から構成されることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0022】
<12>
前記電荷輸送能を有する発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする<11>に記載の有機電界発光素子。
【0023】
<13>
前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルが、下記一般式(II−1)または(II−2)で示される電荷輸送性ポリエステルであることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0024】
【化2】

【0025】
(一般式(II−1)および(II−2)中、Aは前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、Yは2価アルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表し、BおよびB’は、それぞれ独立に基−O−(Y−O)n−R、または基−O−(Y−O)n−CO−Z−CO−O−R’(ここで、R、Y、Zは上記と同じ意味を有し、R’はアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。)を表し、nは1〜5の整数を表し、pは5〜5000の整数を表す。)
【0026】
<14>
少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極間に挾持された、1つまたは複数の有機化合物層より構成される有機電界発光素子において、
前記一対の電極の少なくとも一方の電極表面に、下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する塗布工程を経て作製され、
且つ、前記溶液に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、前記溶液を塗布する直前の前記一方の電極表面の仕事関数との差が、0eV以上0.7eV以下の範囲内であることを特徴とする有機電界発光素子。
【0027】
【化3】

【0028】
(一般式(I−1)および(I−2)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表し、k、m、lは0または1を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素又は炭素数2〜10の分枝状炭化水素を表す。)
【0029】
<15>
前記溶液を塗布する直前の前記一方の電極表面の水に対する接触角が、0度以上30度以下であることを特徴とする<14>に記載の有機電界発光素子。
【0030】
<16>
前記一方の電極表面を表面処理する表面処理工程を経た後に、前記塗布工程を実施することを特徴とする<14>に記載の有機電界発光素子。
【0031】
<17>
少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極間に挾持された、1つまたは複数の有機化合物層より構成される有機電界発光素子が、
前記一対の電極の少なくとも一方の電極表面に、下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する塗布工程を経て作製され、
且つ、前記溶液に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、前記溶液を塗布する直前の前記一方の電極表面の仕事関数との差が、0eV以上0.7eV以下の範囲内であることを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【化4】

(一般式(I−1)および(I−2)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表し、k、m、lは0または1を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素又は炭素数2〜10の分枝状炭化水素を表す。)
【0032】
<18>
前記溶液を塗布する直前の前記一方の電極表面の水に対する接触角が、0度以上30度以下であることを特徴とする<17>に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【0033】
<19>
前記一方の電極表面を表面処理する表面処理工程を経た後に、前記塗布工程を実施することを特徴とする<17>に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0034】
以上に説明したように本発明によれば、低電圧で駆動できると共に、高輝度で素子寿命も長い有機電界発光素子およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の有機EL素子は、少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極間に挾持された、1つまたは複数の有機化合物層より構成される有機電界発光素子において前記一対の電極の少なくとも一方の電極と接するように、下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを含む層が設けられ、且つ、前記一方の電極と接する層に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、前記一方の電極表面の仕事関数との差が、0eV以上0.7eV以下の範囲内であることを特徴とする。
【0036】
本発明の有機EL素子は、一対の電極の少なくとも一方の電極と接するように、前記電荷輸送性ポリエステルを含む層が設けられ、且つ、一方の電極と接する層に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、一方の電極表面(有機化合物層が設けられる側の面)の仕事関数との差が、0eV以上0.7eV以下の範囲内であるため、低電圧で駆動できると共に、高輝度で素子寿命も長くできるなどEL素子として求められる諸特性を向上させることができる。
なお、本発明においては、一対の電極の双方と接するように、前記電荷輸送性ポリエステルを含む層が設けられていてもよい。この場合には、両方の電極の表面の仕事関数と、この電極表面に接して設けられた層に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルとの差が、0eV以上0.7eV以下の範囲であることがより好ましい。
さらに、本発明の有機EL素子は、前記電荷輸送性ポリエステルを含有してなる層を有するため、輝度、安定性、耐久性の向上や、大面積化も可能であり、容易に製造可能である。また、有機化合物層が3以上の層からなる場合には、更に電極と接しない少なくともいずれか1層に前記電荷輸送性ポリエステルが含まれていてもよい。これにより、輝度、安定性、耐久性により優れると共に、大面積化も可能であり、容易に製造可能である。
【0037】
【化5】

【0038】
上記一般式(I−1)および(I−2)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、具体的には、置換もしくは未置換のフェニル基、又は置換もしくは未置換の芳香族数2〜10の1価の多核芳香族炭化水素、又は置換もしくは未置換の芳香族数2〜10の1価の縮合環芳香族炭化水素、又は置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環、又は少なくとも1種の芳香族複素環を含む置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表す。
【0039】
ここで、一般式(I−1)および(I−2)中において、Arを表す構造として選択される多核芳香族炭化水素および縮合環芳香族炭化水素を構成する芳香環数は特に限定されないが、芳香環数が2〜5のものが好ましく、縮合環芳香族炭化水素においては、全縮合環芳香族炭化水素が好ましい。なお、当該多核芳香族炭化水素および縮合環芳香族炭化水素とは、本発明においては、具体的には以下に定義される多環式芳香族のことを意味する。
即ち、「多核芳香族炭化水素」とは、炭素と水素とから構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が、炭素―炭素の単結合によって結合している炭化水素化合物を表す。具体例としては、ビフェニル、ターフェニル等が挙げられる。
また、「縮合環芳香族炭化水素」とは、炭素と水素とから構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が、1対の隣接して結合する炭素原子を共有している炭化水素化合物を表す。具体例としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン等が挙げられる。
【0040】
また、一般式(I−1)および(I−2)中において、Arを表す構造のひとつとして選択される芳香族複素環は、炭素と水素以外の元素も含む芳香環を表す。その環骨格を構成する原子数(Nr)は、Nr=5及び/又は6が好ましく用いられる。また環骨格を構成するC以外の元素(異種元素)の種類及び数は特に限定されないが、例えば、S、N、O等が好ましく用いられ、前記環骨格中には2種類以上及び/又は2個以上の異種原子が含まれていてもよい。特に5員環構造を持つ複素環としては、チオフェン、チオフィン及びフランもしくはこれらの3位及び4位の炭素をさらに窒素で置換した複素環、ピロールもしくはこれらの3位及び4位の炭素をさらに窒素で置換した複素環が好ましく用いられ、6員環構造をもつ複素環として、ピリジンが好ましく用いられる。
さらに、一般式(I−1)および(I−2)中において、Arを表す構造のひとつとして選択される芳香族複素環を含む芳香族基は、骨格を構成する原子団中に、少なくとも1種の前記芳香族複素環を含む結合基を表す。これらは、すべてが共役系で構成されたもの、或いは一部が非共役系で構成されたもののいずれでもよいが、電荷輸送性や発光効率の点で、すべてが共役系で構成されたものが好ましい。
【0041】
Arを表す構造として選択されるベンゼン環、多核芳香族炭化水素、縮合環芳香族炭化水素または複素環の置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アリール基、アラルキル基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。アルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アルコキシル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる、アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。置換アミノ基の置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、具体例は前述の通りである。
【0042】
また、Xは置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表し、具体的には、置換もしくは未置換のフェニレン基、又は置換もしくは未置換の芳香族数2〜10の2価の多核芳香族炭化水素、又は置換もしくは未置換の芳香族数2〜10の2価の縮合環芳香族炭化水素、又は置換もしくは未置換の2価の芳香族複素環、又は少なくとも1種の芳香族複素環を含む置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表す。
ここで、「多核芳香族炭化水素」「縮合環芳香族炭化水素」「芳香族複素環」「芳香族複素環を含む芳香族基」については前述に示す通りである
上記一般式(I−1)および(I−2)中、k、m、lは0または1を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素又は炭素数2〜10の分枝状炭化水素を表し、Tの具体的な構造としては、以下を挙げることができる。
【0043】
【化6】

【0044】
また、一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルとしては、下記一般式(II−1)または(II−2)で示されるものが好適に使用される。
【0045】
【化7】

【0046】
一般式(II−1)および(II−2)中、Aは前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を表し、一つのポリマー中に2種類以上の構造のAが含まれてもよい。
また、一般式(II−1)および(II−2)中、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。上記アルキル基としては、炭素数が1〜10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、オクチル基、2−エチル−ヘキシル基などが挙げられる。前記アリール基としては、炭素数が6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる。前記アラルキル基としては、炭素数が7〜20のものが好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。また、前記置換アリール基、置換アラルキル基の置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
また、一般式(II−1)および(II−2)中、Yは2価アルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表す。YおよびZは、具体的には下記の式(1)〜(7)から選択される基が挙げられる。
【0047】
【化8】

【0048】
式(1)〜(7)中、R11およびR12は、それぞれ水素原子、炭素数が1〜4のアルキル基、炭素数が1〜4のアルコキシル基、置換もしくは未置換のフェニル基、置換もしくは未置換のアラルキル基、またはハロゲン原子を表し、a〜cはそれぞれ1〜10の整数を、dおよびeはそれぞれ0、1または2の整数を、fは0または1を各々表し、Vは下記の式(8)〜(18)から選択される基を表す。
【0049】
【化9】

【0050】
式(8)〜(18)中、gは1〜10の整数を表し、hは0〜10の整数を表す。
一般式(II−1)および(II−2)中、nは1〜5の整数を表し、重合度を表すpは5〜5000の範囲であるが、好ましくは10〜1000の範囲である。また、BおよびB’は、それぞれ独立に基−O−(Y−O)n−R、または基−O−(Y−O)n−CO−Z−CO−O−R’(ここで、R、Y、Zは上記と同じ意味を有し、R’はアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。)を表す。
【0051】
また、本発明に用いられる電荷輸送性ポリエステルの重量平均分子量Mwは、5,000〜1,000,000の範囲であることが好ましいが、10,000〜300,000の範囲にあるのがより好ましい。
【0052】
本発明に用いられる電荷輸送性ポリエステルは、下記構造式(III−1)または(III−2)で示される電荷輸送性モノマーを、例えば、第4版実験化学講座第28巻(丸善、1993)等に記載された公知の方法で重合させることによって合成することができる。なお、構造式(III−1)または(III−2)中、Ar、X、T、k、l、mは、前記一般式(I−1)および(I−2)におけるAr、X、T、k、l、mと各々同様であり、A’は水酸基、ハロゲン、アルコキシル基が挙げられる。
【0053】
【化10】

【0054】
具体的には、一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリエステルは、例えば次のようにして合成することができる。
A’が水酸基の場合には、電荷輸送性モノマーと、HO−(Y−O)n−Hで示される2価アルコール類とをほぼ当量混合し、酸触媒を用いて重合する。酸触媒としては、硫酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等、通常のエステル化反応に用いるものが使用でき、触媒量としては、電荷輸送性モノマー1重量部に対して、1/10,000〜1/10重量部の範囲が好ましく、1/1,000〜1/50重量部の範囲がより好ましい。
重合中に生成する水を除去するために、水と共沸可能な溶剤を用いることが好ましく、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、電荷輸送性モノマー1重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部の範囲で用いられる。反応温度は任意に設定できるが、重合中に生成する水を除去するために、溶剤の沸点で反応させることが好ましい。
【0055】
反応終了後、溶剤を用いなかった場合には溶解可能な溶剤に溶解させる。溶剤を用いた場合には、反応溶液をそのまま、メタノール、エタノール等のアルコール類や、アセトン等のポリマーが溶解しにくい貧溶剤中に滴下し、正孔輸送性ポリエステルを析出させ、電荷輸送性ポリエステルを分離した後、水や有機溶剤で十分洗浄し、乾燥させる。更に、必要であれば適当な有機溶剤に溶解させ、貧溶剤中に滴下し、電荷輸送性ポリエステルを析出させる再沈殿処理を繰り返してもよい。再沈殿処理の際には、メカニカルスターラー等で、効率よく撹拌しながら行うことが好ましい。
再沈殿処理の際に電荷輸送性ポリエステルを溶解させる溶剤の量は、電荷輸送性ポリエステル1重量部に対して、1〜100重量部の範囲が好ましく、2〜50重量部の範囲がより好ましい。また、貧溶剤の量は、電荷輸送性ポリエステル1重量部に対して、1〜1,000重量部の範囲が好ましく、10〜500重量部の範囲がより好ましい。
【0056】
前記A’がハロゲンの場合には、電荷輸送性モノマーと、HO−(Y−O)n−Hで示される2価アルコール類とをほぼ当量混合し、ピリジンやトリエチルアミン等の有機塩基性触媒を用いて重合する。該有機塩基性触媒の量は、正孔輸送性モノマー1当量に対して、1〜10当量の範囲が好ましく、2〜5当量の範囲がより好ましい。
溶剤としては、塩化メチレン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、溶剤量は、電荷輸送性モノマー1重量部に対して、1〜100重量部の範囲が好ましく、2〜50重量部の範囲がより好ましい。反応温度は任意に設定できる。重合後、前述のように再沈殿処理し、精製する。
また、ビスフェノール等の酸性度の高い2価アルコール類の場合には、界面重合法も用いることができる。すなわち、2価アルコール類を水に加え、当量の塩基を加えて溶解させた後、激しく撹拌しながら2価アルコール類と当量の電荷輸送性モノマー溶液を加えることによって重合できる。この際、水の量は、2価アルコール類1重量部に対して、1〜1,000重量部の範囲が好ましく2〜500重量部の範囲がより好ましい。
【0057】
電荷輸送性モノマーを溶解させる溶剤としては、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効である。反応温度は任意に設定でき、反応を促進するために、アンモニウム塩、スルホニウム塩等の相間移動触媒を用いることが効果的である。相間移動触媒の量は、正孔輸送性モノマー1重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲であることが好ましく、0.2〜5重量部の範囲がより好ましい。
【0058】
さらに、前記A’がアルコキシル基の場合には、前述の構造式(III−1)及び(III−2)で示される電荷輸送性モノマーに、HO−(Y−O)n−Hで示される2価アルコール類を過剰に加え、硫酸、リン酸等の無機酸、チタンアルコキシド、カルシウム及びコバルト等の酢酸塩あるいは炭酸塩、亜鉛や鉛の酸化物を触媒に用いて加熱し、エステル交換により合成できる。
前記2価アルコール類の量は、電荷輸送性モノマー1当量に対して、2〜100当量の範囲が好ましく、3〜50当量の範囲がより好ましい。また、触媒の量は、電荷輸送性モノマー1重量部に対して、1/10,000〜1重量部の範囲が好ましく、1/1,000〜1/2重量部の範囲がより好ましい。
【0059】
反応は、反応温度を200〜300℃の範囲として行い、アルコキシル基から基−O−(Y−O)n−Hへのエステル交換終了後は、の脱離による重合を促進するため、減圧下で反応させることが好ましい。また、HO−(Y−O)n−Hでと共沸可能な1−クロロナフタレン等の高沸点溶剤を用いて、常圧下でHO−(Y−O)n−Hでを共沸で除きながら反応させることもできる。
【0060】
また、一般式(II−2)で示される電荷輸送性ポリエステルは、次のようにして合成することができる。
すなわち、前述の一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリエステルの合成におけるそれぞれの場合において、2価アルコール類を過剰に加えて反応させることによって下記構造式(IV−1)および(IV−2)で示される化合物を生成した後、これを電荷輸送性モノマーとして用いて前記と同様の方法で、2価カルボン酸または2価カルボン酸ハロゲン化物等と反応させればよく、それによって電荷輸送性ポリエステルを得ることができる。なお、構造式(IV−1)および(IV−2)中、Ar、X、T、k、l、m、Y及びnは、一般式(I−1)、(I−2)、(II−1)、(II−2)中に示したものと同様である。
【0061】
【化11】

【0062】
次に、本発明の有機EL素子の製造方法、および、上述した電荷輸送性ポリエステルを除く本発明の有機EL素子の作製に用いる各種材料等について説明する。
少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極間に挾持された、1つまたは複数の有機化合物層より構成される本発明の有機EL素子は、前記一対の電極の少なくとも一方の電極表面に、上述した一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する塗布工程を少なくとも経て作製されることが好ましく、この場合、前記溶液に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、前記溶液を塗布する直前の前記一方の電極表面の仕事関数との差が、0eV以上0.7eV以下の範囲内であることが好ましく、0eV以上0.4eV以下の範囲であることがより好ましい。
これにより、電荷注入性が改善され、結果として駆動電圧、輝度、寿命などの各種EL素子特性を向上させる。また、電極と接するように電荷輸送性ポリエステルを含む層が設けられる素子構成を採用するため、層数の低減が可能となり、素子構成の簡素化や素子の生産性も向上させることができる。
【0063】
ここで、本発明において、「(電荷輸送性ポリエステルを含む)溶液を塗布する直前の一方の電極表面」とは、電極表面に対して実際に溶液を塗布する際と実質的に同一の表面状態である電極表面を意味し、具体的には、溶液を塗布する前に電極表面に対して、表面状態を変化させるような最後の処理(例えば、ウエット洗浄や表面処理等)が施された直後の電極表面を意味し、本発明において、電極表面の仕事関数や後述する電極表面の水に対する接触角は、このような条件を満たす電極表面について測定された値を意味する。
【0064】
また、本発明の有機電界発光素子が、一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを含む層の表面に、蒸着等によって電極を形成する工程を少なくとも経て作製される場合には、当該層に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、この層表面に形成される電極表面の仕事関数との差が0〜0.7eVの範囲内であることが好ましく、0〜0.4eVの範囲内であることがより好ましい。但し、このようなプロセスを経て作製される場合は、電極表面の仕事関数とは、実質的に電極を構成する電極材料の仕事関数を意味する。
【0065】
さらに、双方の電極表面に隣接するように電荷輸送性ポリエステルを含む層が設けられる場合には、電極に隣接して設けられた層に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、この層に隣接する電極表面の仕事関数との差は、電極に電荷輸送性ポリエステルを含む層を塗布形成することにより形成された電極/電荷輸送性ポリエステルを含む層側、電荷輸送性ポリエステルを含む層に電極を形成することにより形成された電荷輸送性ポリエステルを含む層/電極側の少なくとも一方で0〜0.7eVの範囲内であることが必要であり、双方で0〜0.7eVの範囲内であることが好ましい。
しかしながら、本発明においては、少なくとも電極に電荷輸送性ポリエステルを含む層を塗布形成することにより形成された電極/電荷輸送性ポリエステルを含む層側において、電極に隣接して設けられた層に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、この層に隣接する電極表面の仕事関数との差が0〜0.7eVの範囲内であることが好ましい。
【0066】
ここで、(1)電極表面の仕事関数、および、(2)電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルは、大気下光電子分光法測定装置(理研計器(株)製、AC−2)により測定した。
具体的には、(1)の場合、電極が構成された厚さ2mmのガラス基板上を2cm角に切り出したサンプルを、(2)の場合、膜厚が2〜10μmの範囲になるよう、あらかじめ所定の量の溶媒に溶解し厚さ1mmの2cm角のアルミ板上にスピンコート法により製膜したサンプルを、それぞれ作製し、装置にセットして取扱説明書記載の所定の方法にて計側を行う。なお、計測においては光電子の収量が2000cps(Count Per Second)を超えると精度が落ちる。従って、装置で表示されるY軸では1/2乗となるため、光電子収量の値が45(=2000cpsの1/2乗)を超えないように光量を設定することが好ましい。一方、下限についてはサンプルによって異なるので一義的に値を定義できないが、少なくとも光電子放出のシグナルを検知出来る程度であればよい。
また、測定時にはベースラインが十分取れるように光電子放出閾値の十分手前から掃引すると有効である。
【0067】
なお、電極に隣接する層に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルとの差が、0〜0.7eVの範囲内となるような仕事関数を満たす電極材料としては、電極が、正孔を注入する陽極(アノード)の場合には、具体的には、酸化スズインジウム(ITO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム、酸化亜鉛等の酸化膜、及び蒸着あるいはスパッタされた金、白金、パラジウム等が好ましく用いられる。
また、電極が電子を注入する陰極(カソード)の場合、電子注入を行うため仕事関数の小さな金属が使用されるが、特に好ましくはリチウム等のアルカリ金属およびその塩(ハロゲン化物等)、マグネシウム・カルシウム等のアルカリ土類金属及びその塩、アルミニウム、銀、インジウム及びこれらの合金を用いることが好ましい。
【0068】
さらに、電極表面の仕事関数を、この電極に隣接する電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルとの差が0〜0.7eVの範囲内となるように調整するためには、上述したように電極材料を選択することによっても達成することができるが、この他にも、電極表面に電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する塗布工程を実施する前に、電極表面を表面処理する表面処理工程を実施することで達成することもできる。
表面処理工程の導入により製造工程数が増えてしまうものの、本発明と同様の効果を得るために有機化合物や無機化合物からなる注入層を形成する工程を導入した場合と比べると素子を構成する層の数の増加が抑制できる分だけ有利である。
【0069】
なお、表面処理方法としては特に限定されないが、例えば、低圧水銀ランプ照射による紫外線洗浄、エキシマランプ照射による紫外線洗浄、常圧プラズマ洗浄、真空プラズマ洗浄、オゾン洗浄、ハロゲン系ガス等が挙げられ、これら方法の中から少なくとも1種類が利用でき、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0070】
特に、表面処理は、表面処理の対象となる電極が陽極の場合においては、酸化スズインジウム(ITO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム、酸化亜鉛等の酸化膜からなる電極表面に対して実施することが特に効果的である。また、もとより電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルとこの電荷輸送性ポリエステルを含む層に接する電極表面に存在する化合物との仕事関数の差が0eV以上0.7eV以下でれば、さらに表面処理を行っても表面処理前と比べてイオン化ポテンシャルと仕事関数との差が広がらなければなお一層の性能向上を図ることができる。
【0071】
この効果は、陽極表面の仕事関数を変えるだけでなく、表面に付着する有機物を除去し清浄化する現象や、表面処理により電極表面の表面エネルギーが変化し、結果として水の接触角の減少に見られる濡れ性の向上といった現象として観察される。
その結果、表面処理された電極と接する電荷輸送性ポリエステルを含む層を形成する際に溶液が均一に広がり塗布ムラが無くなり、電極表面に良質の該電荷輸送性ポリエステルを含む層が形成されるだけでなく、層の薄膜化が可能となり同一輝度における印加電圧を下げることが可能になる。
【0072】
よって、電荷輸送性ポリエステルを含む層が形成される電極表面は、電荷輸送性ポリエステルを含む溶液の塗布直前において、水に対する接触角が0度以上30度以下である電極材料より構成されることが望ましく、より好ましくは0度以上20度以下が望ましい。
接触角が30度を超える場合には、電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を電極表面に塗布した際に塗布ムラが発生し、電極表面に対して電荷輸送性ポリエステルを含む層が均一に形成されなくなったりするため、所定の輝度を確保するために必要な印加電圧が高くなってしまう場合がある。
なお、接触角の測定は協和界面科学(株)社製、CA−X型接触角計測定装置を用い、室温25℃の条件下で、イオン交換樹脂を通した後に蒸留した精製水をシリンジ中に入れ、画面上の目盛で3目盛分の直径の液滴をシリンジ先端に生成させた後、所定の取扱説明書に従って操作を行い、接触角を測定した。
【0073】
次に、本発明の有機EL素子の層構成について詳記する。
本発明の有機電界発光素子において、有機化合物層が複数層構成の場合(即ち、各層が異なる機能を有する機能分離型の場合)は、少なくともいずれか一層が発光層からなり、この発光層は電荷輸送機能を持つ発光層であってもよい。この場合、前記発光層あるいは前記電荷輸送機能を持つ発光層と、その他の層からなる層構成の具体例としては、発光層と、電子輸送層および/または電子注入層とから構成される層構成(1)、正孔輸送層および/または正孔注入層と、発光層と、電子輸送層および/または電子注入層とから構成される層構成(2)、正孔輸送層および/または正孔注入層と、発光層とから形成される層構成(3)が挙げられ、これら層構成(1)〜(3)の発光層及び電荷輸送機能を持つ発光層以外の層は電荷輸送層や電荷注入層としての機能を有する。
【0074】
一方、有機化合物層が単層の場合は、有機化合物層が電荷輸送機能を持つ発光層を意味し、この電荷輸送機能を持つ発光層が前記電荷輸送性ポリエステルを含有する。
なお、層構成(1)〜(3)のいずれの層構成においても、少なくともいずれか一層に前記電荷輸送性ポリエステルが含まれていればよいが、一対の電極のうちの少なくとも一方の電極と隣接する層に電荷輸送性ポリエステルが含まれていることが必要がある。
また、本発明の有機EL素子においては、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層は、電荷輸送性材料(前記電荷輸送性ポリエステル以外の正孔輸送性材料、電子輸送性材料)を含有してもよい。詳しくは後述する。以下、図面を参照しつつ、より詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0075】
図1〜図4は、本発明の有機EL素子の層構成を説明するための模式的断面図であって、図1、図2、図3は、有機化合物層が複数の場合の一例であり、図4は、有機化合物層が1つの場合の例を示す。なお、図1〜図4において、同様の機能を有するものは同じ符号を付して説明する。
【0076】
図1に示す有機EL素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、発光層4、電子輸送層5及び背面電極7を順次積層してなる。図2に示す有機EL素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、正孔輸送層3、発光層4、電子輸送層5及び背面電極7を順次積層してなる。図3に示す有機EL素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、正孔輸送層3、発光層4及び背面電極7を順次積層してなる。図4に示す有機EL素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、電荷輸送能を有する発光層6及び背面電極7を順次積層してなる。なお、これらの層以外にも必要に応じて正孔注入層、電子注入層などが設けられる。以下、各々を詳しく説明する。
【0077】
本発明において電荷輸送性ポリエステルを含有してなる層は、その構造によっては、例えば、図1に示される有機EL素子の層構成の場合、電子輸送層5、発光層4(この場合には、電荷輸送能を有する発光層となる)としていずれも機能することができるし、また、図2に示される有機EL素子の層構成の場合、正孔輸送層3、電子輸送層5としていずれも機能することができ、図3に示される有機EL素子の層構成の場合、正孔輸送層3、発光層4(この場合には、電荷輸送能を有する発光層となる)としていずれも機能することができ、図4に示される有機EL素子の層構成の場合、電荷輸送能を有する発光層6として機能することができる。
【0078】
以下、電極や各層の材料、製造方法について説明する。
図1〜図4に示される有機EL素子の層構成の場合、透明絶縁体基板1は、発光を取り出すため透明なものが好ましく、ガラス、プラスチックフィルム等が用いられる。また、透明電極2は、透明絶縁体基板と同様に発光を取り出すため透明であって、かつ正孔の注入を行うため仕事関数の大きなものが好ましく、前述したように酸化スズインジウム(ITO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム、酸化亜鉛等の酸化膜、及び蒸着あるいはスパッタされた金、白金、パラジウム等が好ましく用いられる。
【0079】
図1及び図2に示される有機EL素子の層構成の場合、電子輸送層5は、目的に応じて機能(電子輸送能)が付与された前記電荷輸送性ポリエステル単独で形成されていてもよいが、電気的特性をさらに改善する等の目的で、電子移動度を調節するために、電荷輸送性ポリエステル以外の電子輸送材料を、電子輸送層5を構成する材料全体の重量に対して1〜50重量%の範囲で混合分散して形成されていてもよい。
このような電子輸送材料としては、好適にはオキサジアゾール誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体等が挙げられる。
【0080】
前記電子輸送材料の好適な具体例として、下記例示化合物(V−1)〜(V−4)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、他の汎用の樹脂等との混合で用いてもよい。
【0081】
【化12】

【0082】
なお、陰極からの電子注入性を改善することを目的として、電子輸送層5と背面電極7との間に前記電子注入層を形成する場合の材料は、陰極から電子を注入する機能を有しているものであればよく、電荷輸送性ポリエステルおよびこの電荷輸送性ポリエステル以外の電子輸送材料と同様の材料を用いることができる。但し、必ずしも注入層を設ける必要は無い。
【0083】
図2及び図3に示される有機EL素子の層構成の場合、正孔輸送層3は、目的に応じて機能(正孔輸送能)が付与された電荷輸送性ポリエステル単独で形成されていてもよいが、正孔移動度を調節するために電荷輸送性ポリエステル以外の正孔輸送材料を、正孔輸送層3を構成する材料全体の重量に対して1〜50重量%の範囲で混合分散して形成されていてもよい。
【0084】
このような正孔輸送材料としては、テトラフェニレンジアミン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導、スチルベン誘導体、アリールヒドラゾン誘導体、ポルフィリン系化合物等が好ましく用いられる。特に好適な具体例として下記例示化合物(VI−1)〜(VI−7)が挙げられるが、これらの中では、電荷輸送性ポリエステルとの相容性が良いことから、テトラフェニレンジアミン誘導体が好ましい。また、他の汎用の樹脂等との混合で用いてもよい。なお、構造式(VI−7)中、nは1以上の整数を意味する。
【0085】
【化13】

【0086】
なお、陽極からの正孔注入性を改善することを目的として、透明電極2と正孔輸送層3との間に前記正孔注入層を形成する場合の材料は、陽極から正孔を注入する機能を有しているものであればよく、電荷輸送性ポリエステルおよびこの電荷輸送性ポリエステル以外の正孔輸送材料と同様の材料を用いることができる。但し、必ずしも注入層を設ける必要は無い。
【0087】
図1、図2及び図3に示される有機EL素子の層構成の場合、発光層4は、固体状態で高い蛍光量子収率を示す化合物が発光材料として用いられる。
発光材料が有機低分子の場合、真空蒸着法もしくは低分子と結着樹脂を含む溶液または分散液を塗布・乾燥することにより良好な薄膜形成が可能であることが条件である。
また、発光材料が高分子の場合、それ自身を含む溶液または分散液を塗布・乾燥することにより良好な薄膜形成が可能であることが条件である。
好適には、発光材料が有機低分子の場合、キレート型有機金属錯体、多核または縮合芳香環化合物、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体等が、高分子の場合、ポリパラフェニレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が挙げられる。好適な具体例として、下記の化合物(VII−1)〜(VII−17)が用いられるが、これらに限定されたものではない。
【0088】
【化14】

【0089】
【化15】

【0090】
構造式(VII−13)〜(VII−17)中、nおよびxは1以上の整数を、yは0または1を示す。また、構造式(VII−16)〜(VII−17)中、Arは、置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは、置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表す。
また、有機EL素子の耐久性向上或いは発光効率の向上を目的として、上記の発光材料中にゲスト材料として発光材料と異なる色素化合物をドーピングしてもよい。真空蒸着によって発光層を形成する場合、共蒸着によってドーピングを行い、溶液または分散液を塗布・乾燥することで発光層を形成する場合、溶液または分散液中に混合することでドーピングを行う。発光層中における色素化合物のドーピングの割合としては0.001重量%〜40重量%程度、好ましくは0.01重量%〜10重量%程度である。
【0091】
このようなドーピングに用いられる色素化合物としては、発光材料との相容性が良く、かつ発光層の良好な薄膜形成を妨げない有機化合物が用いられ、好適にはDCM誘導体、キナクリドン誘導体、ルブレン誘導体、ポルフィリン系化合物等が挙げられる。好適な具体例として、下記の化合物(VIII−1)〜(VIII−4)が用いられるが、これらに限定されたものではない。
【0092】
【化16】

【0093】
また、発光層4は、発光性材料単独で形成されていてもよいが、電気特性および発光特性をさらに改善する等の目的で、発光材料に電荷輸送性ポリエステルを1重量%ないし50重量%の範囲で混合分散して形成、もしくは、発光材料中に電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送材料を1重量%ないし50重量%の範囲で混合分散して形成させてもよい。 また、電荷輸送性ポリエステルが発光特性も兼ね備えたものである場合、発光材料として用いても良く、その場合、電気特性および発光特性をさらに改善する等の目的で、前記発光材料に該電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送材料を1重量%ないし50重量%の範囲で混合分散して形成させてもよい。
【0094】
図4に示される有機EL素子の層構成において、電荷輸送能を有する発光層6は、例えば目的に応じて機能(正孔輸送能、あるいは電子輸送能)が付与された電荷輸送性ポリエステル中に、発光材料として前記発光性低分子が電荷輸送能を有する発光層6を構成する材料全体の重量に対して0.1〜50重量%の範囲で分散された有機化合物層であるが、有機EL素子に注入される正孔と電子とのバランスを調節するために、電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送材料を10〜50重量%の範囲で分散させてもよい。
【0095】
このような電荷輸送材料としては、電子移動度を調節する場合には、電子輸送材料として好適にはオキサジアゾール誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体等が挙げられ、好適な具体例としては、前記例示化合物(V−1)〜(V−3)が挙げられる。また、電荷輸送性ポリエステルと強い電子相互作用を示さない有機化合物が用いられることが好ましく、より好ましくは下記例示化合物(IX)が用いられるが、これに限定されるものではない。
【0096】
【化17】

【0097】
同様に正孔移動度を調節する場合には、正孔輸送材料として好適にはテトラフェニレンジアミン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導、スチルベン誘導体、アリールヒドラゾン誘導体、ポルフィリン系化合物等が挙げられ、特に好適な具体例としては、前記例示化合物(VI−1)〜(VI−7)が挙げられ、電荷輸送性ポリエステルとの相容性が良いことから、テトラフェニレンジアミン誘導体が好ましい。
【0098】
図1〜図4に示される有機EL素子の層構成の場合、背面電極7には、真空蒸着可能で、電子注入を行うため仕事関数の小さな金属が使用されるが、特に好ましくは前述したようにリチウム等のアルカリ金属およびその塩(ハロゲン化物等)、マグネシウム・カルシウム等のアルカリ土類金属及びその塩、アルミニウム、銀、インジウム及びこれらの合金である。また、背面電極7上には、さらに素子の水分や酸素による劣化を防ぐために保護層を設けてもよい。
【0099】
具体的な保護層の材料としては、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Alなどの金属、MgO、SiO2、TiO2等の金属酸化物、ポリエチレン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂が挙げられる。保護層の形成には、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ重合法、CVD法、コーティング法が適用できる。
これら図1〜図4に示される有機EL素子の各層形成は以下のように行われる。まず、透明電極2の上に各有機EL素子の層構成に応じて、正孔輸送層3や発光層4、あるいは電荷輸送能を有する発光層6を形成する。正孔輸送層3、発光層4及び電荷輸送能を有する発光層6は、これら各層を構成する材料を真空蒸着法、もしくは有機溶媒中に溶解あるいは分散し、得られた塗布液を用いて前記透明電極2上にスピンコーティング法、ディップ法等を用いて製膜することにより形成する。
【0100】
次に、各有機EL素子の層構成に応じて、発光層4、電子輸送層5は、これら各層を構成する材料を、真空蒸着法、もしくは有機溶媒中に溶解あるいは分散し、得られた塗布液を用いて前記正孔輸送層3や発光層4の表面にスピンコーティング法、ディップ法等を用いて製膜することによって形成される。
【0101】
なお、本発明においては、電荷輸送材料として高分子を含むため、各層形成は塗布液を用いた製膜法により行うことが好ましい。
形成される正孔輸送層3、発光層4及び電子輸送層5の膜厚は、各々0.1μm以下であることが好ましく、特に、0.03〜0.08μmの範囲であることが好ましい。また、電荷輸送能を有する発光層6の膜厚は、0.03〜0.2μmの範囲程度が好ましい。なお、前記正孔注入層、電子注入層を形成する場合の膜厚は、各々前記正孔輸送層3、電子輸送層5と同程度もしくは薄い膜厚であることが好ましい。
【0102】
前記各材料(前記電荷輸送性ポリエステル、発光材料等)の層中での分散状態は分子分散状態でも微粒子分散状態でも構わない。塗布液を用いた製膜法の場合、分子分散状態とするためには、分散溶媒としては前記各材料の共通溶媒を用いる必要があり、微粒子分散状態とするためには、分散溶媒としては前記各材料の分散性及び溶解性を考慮して選択する必要がある。微粒子状に分散するためには、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカー、アトライター、ボールミル、ホモジェナイザー、超音波法等が利用できる。
【0103】
そして、最後に、電子輸送層5や発光層4、あるいは電荷輸送能を有する発光層6の上に背面電極7を真空蒸着法により形成することにより素子が完成される。
このようにして作製された本発明の有機EL素子は、一対の電極間に、例えば、4〜20Vで、電流密度が1〜200mA/cm2の範囲の直流電圧を印加することによって、充分発光させることができる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。まず、実施例に用いた電荷輸送性ポリエステルは、例えば以下のようにして得た。
<合成例1>
下記化合物(X−1)2.0g、エチレングリコール8.0gおよびテトラブトキシチタン0.1gを50mlのフラスコに入れ、窒素気流下、190℃で5時間加熱攪拌した。化合物(X−1)が消費されたことを確認した後、0.25mmHgに減圧してエチレングリコールを留去しながら200℃に加熱し、5時間反応を続けた。
その後、室温まで冷却し、テトラヒドロフラン(THF)50mlに溶解して不溶物を0.2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターにて濾過し、その濾液を撹拌しているメタノール500ml中に滴下して再沈殿を行うことでポリマーを析出させた。得られたポリマーを濾過し、十分にメタノールで洗浄した後乾燥させ、1.9gの正孔輸送性ポリエステル(X−2)を得た。分子量分布はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて測定し、重量平均分子量Mw=7.24×104(スチレン換算)であり、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mn/Mw)=1.87であった。また、この正孔輸送性ポリエステルの仕事関数は5.5eVであった。
【0105】
【化18】

【0106】
<合成例2>
下記化合物(XI−1)2.0g、エチレングリコール8.0gおよびテトラブトキシチタン0.1gを50mlのフラスコに入れ、窒素気流下、190℃で5時間加熱攪拌した。化合物(XI−1)が消費されたことを確認した後、0.25mmHgに減圧してエチレングリコールを留去しながら200℃に加熱し、5時間反応を続けた。
その後、室温まで冷却し、THF50mlに溶解して不溶物を0.2μmのPTFEフィルターにて濾過し、その濾液を撹拌しているメタノール500ml中に滴下して再沈殿を行うことでポリマーを析出させた。
得られたポリマーを濾過し、十分にメタノールで洗浄した後乾燥させ、1.9gの正孔輸送性ポリエステル(XI−2)を得た。分子量分布はGPCにて測定し、Mw=7.08×104(スチレン換算)であり、Mn/Mw=2.0であった。また、この正孔輸送性ポリエステルの仕事関数は5.37eVであった。
【0107】
【化19】

【0108】
<合成例3>
下記化合物(XII−1)2.0g、エチレングリコール8.0gおよびテトラブトキシチタン0.1gを50mlのフラスコに入れ、窒素気流下、190℃で5時間加熱攪拌した。化合物(XII−1)が消費されたことを確認した後、0.25mmHgに減圧してエチレングリコールを留去しながら200℃に加熱し、5時間反応を続けた。
その後、室温まで冷却し、THF50mlに溶解して不溶物を0.2μmのPTFEフィルターにて濾過し、その濾液を撹拌しているメタノール500ml中に滴下して再沈殿を行うことでポリマーを析出させた。
得られたポリマーを濾過し、十分にメタノールで洗浄した後乾燥させ、1.9gの正孔輸送性ポリエステル(XII−2)を得た。分子量分布はGPCにて測定し、Mw=5.1×104(スチレン換算)であり、Mn/Mw=1.8であった。また、この正孔輸送性ポリエステルの仕事関数は5.4eVであった。
【0109】
【化20】

【0110】
次に、上記方法で得た電荷輸送性ポリエステルを使用し、以下のようにして有機EL素子を作製した。
(実施例1)
エッチングによりITO電極を2mm幅の短冊型に形成したガラス基板を、界面活性剤(横浜油脂工業(株)社製、セミクリーンM−LO)を5重量%含んだ洗浄液(溶媒は超純水)、超純水、電子工業用アセトン(ELグレード、関東化学(株)製)、電子工業用2−プロパノール(ELグレード、関東化学(株)製)の順で超音波洗浄装置を用い浸漬洗浄(界面活性剤での洗浄は10分間,他の溶媒による洗浄は順次5分間)した後、乾燥させ、更にUV−オゾンによる表面処理を15分間実施した。ガラス基板上の表面処理後のITO電極表面の仕事関数は5.0eV、水に対する接触角は16度であった。
なお、UV−オゾンによる表面処理はフィルジェン(株)社製UV−オゾンクリーナーNL−UV253を使用し、酸素パージ3分間・UV照射15分間・窒素パージ1.5分間の処理フローで行った。
【0111】
次に、正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(X−2)〕(Mw=7.24×104)と発光性高分子〔下記例示化合物(XIII、ポリフルオレン系)〕(Mw≒105)を95:5の重量比で混合した材料を5重量%クロロベンゼン溶液として調整し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過した。
続いて、ITO電極の表面処理実施直後に、この溶液を用いてITO電極を形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚30nmの正孔輸送層兼発光層として形成した。充分乾燥させた後、引き続き電子輸送性材料として電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(V−4)〕(Mw=1.08×105)を5重量%ジクロロエタン溶液として調整し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した後に発光層上にスピンコート法により塗布し、膜厚30nmの電子輸送層を形成した。
最後にCa、Alの順に蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0112】
【化21】

【0113】
(実施例2)
エッチングによりITO電極を2mm幅の短冊型に形成したガラス基板を、上記実施例1と同様に洗浄および表面処理を実施した。次に、正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(X−2)〕(Mw=7.24×104)を5重量%クロロベンゼン溶液として調整し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過した。
【0114】
続いて、ITO電極の表面処理実施直後に、この溶液を用いてITO電極を形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚30nmの正孔輸送層を形成した。充分乾燥させた後、引き続き発光材料として発光性高分子〔例示化合物(XIII、ポリフルオレン系)〕(Mw≒105)を5重量%キシレン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過した後に上記正孔輸送層上にスピンコート法により塗布して膜厚50nmの発光層を形成した。
【0115】
さらに十分乾燥させた後、電子輸送性材料として電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(V−4)〕(Mw=1.08×105)を5重量%ジクロロエタン溶液として調整し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した後に発光層上にスピンコート法により塗布し、膜厚30nmの電子輸送層を形成した。
最後にCa、Alの順に蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0116】
(実施例3)
エッチングによりITO電極を2mm幅の短冊型に形成したガラス基板を、上記実施例1と同様に洗浄および表面処理を実施した。次に、正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(X−2)〕(Mw=7.24×104)を5重量%クロロベンゼン溶液として調整し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過した。
【0117】
続いて、ITO電極の表面処理実施直後に、この溶液を用いてITO電極を形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚30nmの正孔輸送層を形成した。充分乾燥させた後、引き続き発光材料として発光性高分子〔例示化合物(XIII、ポリフルオレン系)〕(Mw≒105)を5重量%キシレン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過した後に上記正孔輸送層上にスピンコート法により塗布して膜厚50nmの発光層を形成した。
さらに十分乾燥させた後、最後にCa、Alの順に蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0118】
(実施例4)
エッチングによりITO電極を2mm幅の短冊型に形成したガラス基板を、上記実施例1と同様に洗浄および表面処理を実施した。次に、正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(X−2)〕(Mw=7.24×104)と発光性高分子〔例示化合物(XIII、ポリフルオレン系)〕(Mw≒105)を95:5の重量比で混合した材料を5重量%クロロベンゼン溶液として調整し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過した。
【0119】
続いて、ITO電極の表面処理実施直後に、この溶液を用いてITO電極を形成したガラス基板上に、
スピンコート法により塗布して膜厚50nmの電荷輸送兼発光層として形成した。充分乾燥させた後、最後にCa、Alの順に蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0120】
(実施例5)
発光材料として発光性高分子〔下記例示化合物(XIV、PPV系)〕(Mw≒105)を使用したこと以外は、実施例1と同様に素子を作製した。
【0121】
【化22】

【0122】
(実施例6)
発光材料として発光性高分子〔例示化合物(XIV、PPV系)〕(Mw≒105)を使用したこと以外は、実施例2と同様に素子を作製した。
【0123】
(実施例7)
発光材料として発光性高分子〔例示化合物(XIV、PPV系)〕(Mw≒105)を使用したこと以外は、実施例3と同様に素子を作製した。
【0124】
(実施例8)
発光材料として発光性高分子〔例示化合物(XIV、PPV系)〕(Mw≒105)を使用したこと以外は、実施例4と同様に素子を作製した。
【0125】
(実施例9)
上記ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、界面活性剤を5重量%含んだ洗浄液(溶媒は超純水)、超純水、電子工業用アセトン、電子工業用2−プロパノールの順で洗浄後乾燥した後、UV−オゾンによる表面処理を実施しなかったことと、正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(XI−2)〕(Mw=7.0×104)を用いたこと以外は、実施例7と同様に素子を作製した。
なお、ITO電極の洗浄乾燥後のITO電極表面の仕事関数は4.7eVであり、水に対する接触角は22度であった。また、ITO電極の洗浄乾燥直後に、正孔輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布した。
【0126】
(実施例10)
正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(XII−2)〕(Mw=5.1×104)を用いたこと以外は、実施例7と同様に素子を作製した。
【0127】
(比較例1)
上記ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、界面活性剤を5重量%含んだ洗浄液(溶媒は超純水)、超純水、電子工業用アセトン、電子工業用2−プロパノールの順で洗浄後乾燥した後、UV−オゾンによる表面処理を実施しなかった以外は、実施例1と同様に素子を作製した。
なお、ITO電極の洗浄乾燥後のITO電極表面の仕事関数は4.7eVであり、水に対する接触角は22度であった。また、ITO電極の洗浄乾燥直後に、正孔輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布した。
【0128】
(比較例2)
上記ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、界面活性剤を5重量%含んだ洗浄液(溶媒は超純水)、超純水、電子工業用アセトン、電子工業用2−プロパノールの順で洗浄後乾燥した後、UV−オゾンによる表面処理を実施しなかった以外は、実施例2と同様に素子を作製した。なお、ITO電極の洗浄乾燥直後に、正孔輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布した。
【0129】
(比較例3)
上記ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、界面活性剤を5重量%含んだ洗浄液(溶媒は超純水)、超純水、電子工業用アセトン、電子工業用2−プロパノールの順で洗浄後乾燥した後、UV−オゾンによる表面処理を実施しなかった以外は、実施例3と同様に素子を作製した。なお、ITO電極の洗浄乾燥直後に、正孔輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布した。
【0130】
(比較例4)
上記ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、界面活性剤を5重量%含んだ洗浄液(溶媒は超純水)、超純水、電子工業用アセトン、電子工業用2−プロパノールの順で洗浄後乾燥した後、UV−オゾンによる表面処理を実施しなかった以外は、実施例4と同様に素子を作製した。なお、ITO電極の洗浄乾燥直後に、正孔輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布した。
【0131】
(比較例5)
上記ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、界面活性剤を5重量%含んだ洗浄液(溶媒は超純水)、超純水、電子工業用アセトン、電子工業用2−プロパノールの順で洗浄後乾燥した後、UV−オゾンによる表面処理を実施しなかった以外は、実施例5と同様に素子を作製した。なお、ITO電極の洗浄乾燥直後に、正孔輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布した。
【0132】
(比較例6)
上記ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、界面活性剤を5重量%含んだ洗浄液(溶媒は超純水)、超純水、電子工業用アセトン、電子工業用2−プロパノールの順で洗浄後乾燥した後、UV−オゾンによる表面処理を実施しなかった以外は、実施例6と同様に素子を作製した。なお、ITO電極の洗浄乾燥直後に、正孔輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布した。
【0133】
(比較例7)
上記ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、界面活性剤を5重量%含んだ洗浄液(溶媒は超純水)、超純水、電子工業用アセトン、電子工業用2−プロパノールの順で洗浄後乾燥した後、UV−オゾンによる表面処理を実施しなかった以外は、実施例7と同様に素子を作製した。なお、ITO電極の洗浄乾燥直後に、正孔輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布した。
【0134】
(比較例8)
上記ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、界面活性剤を5重量%含んだ洗浄液(溶媒は超純水)、超純水、電子工業用アセトン、電子工業用2−プロパノールの順で洗浄後乾燥した後、UV−オゾンによる表面処理を実施しなかった以外は、実施例8と同様に素子を作製した。なお、ITO電極の洗浄乾燥直後に、正孔輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布した。
【0135】
(比較例9)
上記ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、洗浄および表面処理を一切行わず使用したこと以外は、実施例7と同様に素子を作製した。
なお、正孔輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する前の、洗浄およびUV−オゾンによる表面処理を一切行わなかったITO電極表面の仕事関数は4.7eVであり、水に対する接触角は43度であった。
【0136】
以上のように作製した有機EL素子を、真空中(1.33×10-1Pa)でITO電極側をプラス、Ca/Al背面電極をマイナスとして5Vの直流電圧を印加し、発光について測定を行い、このときの最高輝度、及び発光色を評価した。それらの結果を表1に示す。
また、乾燥窒素中で有機EL素子の発光寿命の測定を行った。発光寿命の評価は、初期輝度が100cd/m2となるように電流値を設定し、定電流駆動により輝度が初期値から半減するまでの時間を素子寿命(hour)とした。この時の駆動電流密度を素子寿命と共に表1に示す。
【0137】
【表1】

【0138】
上記実施例に示すように、前記一般式(I−1)及び(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し構造単位からなる電荷輸送性ポリエステルは、有機EL素子に好適なイオン化ポテンシャル及び電荷移動度を持ち、スピンコーティング法、ディップ法等を用いて良好な薄膜を形成することが可能であった。
また、この電荷輸送性ポリエステルを含む層の少なくとも1層が少なくともいずれか一方の電極と接しており、電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、電荷輸送性ポリエステルを含む層に接する電極表面の仕事関数との差が0eV以上0.7eV以下であるため、素子の寿命も長くなる上に、充分に高い輝度と駆動電圧の低減を示した。さらに本発明においては、素子全体としての作製が容易であり、得られる有機EL素子はピンホール等の不良も少なく、大面積化も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示した概略構成図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の層構成の他の一例を示した概略構成図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の層構成の他の一例を示した概略構成図である。
【図4】本発明の有機電界発光素子の層構成の他の一例を示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0140】
1 透明絶縁体基板
2 透明電極
3 ホール輸送層
4 発光層
5 電子輸送層
6 キャリア輸送能を持つ発光層
7 背面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極間に挾持された、1つまたは複数の有機化合物層より構成される有機電界発光素子において、
前記一対の電極の少なくとも一方の電極と接するように、下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを含む層が設けられ、
且つ、前記一方の電極と接する層に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、前記一方の電極表面の仕事関数との差が、0eV以上0.7eV以下の範囲内であることを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】

(一般式(I−1)および(I−2)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表し、k、m、lは0または1を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素又は炭素数2〜10の分枝状炭化水素を表す。)
【請求項2】
前記一方の電極表面に、前記電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する塗布工程を経て作製され、
且つ、前記電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する直前の前記一方の電極表面の水に対する接触角が、0度以上30度以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記一方の電極表面を表面処理する表面処理工程と、表面処理された前記一方の電極表面に、前記電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する塗布工程とを経て作製されることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記一方の電極が、陽極であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記1つまたは複数の有機化合物層が、少なくとも発光層と、電子輸送層および/または電子注入層とから構成され、
前記発光層と、前記電子輸送層および/または前記電子注入層とから選択される少なくとも一層に、
前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルが1種以上含まれることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする請求項5に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記1つまたは複数の有機化合物層が、少なくとも正孔輸送層および/または正孔注入層と、発光層と、電子輸送層および/または電子注入層とから構成され、
前記正孔輸送層および/または前記正孔注入層と、前記発光層と、前記電子輸送層および/または電子注入層とから選択される少なくとも一層に、
前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルが1種以上含まれることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする請求項7に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記1つまたは複数の有機化合物層が、少なくとも正孔輸送層および/または正孔注入層と、発光層とから構成され、
前記正孔輸送層および/または前記正孔注入層と、前記発光層とから選択される少なくとも一層に、
前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルが1種以上含まれることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする請求項9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
前記1つまたは複数の有機化合物層が、少なくとも電荷輸送能を有する発光層から構成されることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項12】
前記電荷輸送能を有する発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする請求項11に記載の有機電界発光素子。
【請求項13】
前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルが、下記一般式(II−1)または(II−2)で示される電荷輸送性ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化2】

(一般式(II−1)および(II−2)中、Aは前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、Yは2価アルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表し、BおよびB’は、それぞれ独立に基−O−(Y−O)n−R、または基−O−(Y−O)n−CO−Z−CO−O−R’(ここで、R、Y、Zは上記と同じ意味を有し、R’はアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。)を表し、nは1〜5の整数を表し、pは5〜5000の整数を表す。)
【請求項14】
少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極間に挾持された、1つまたは複数の有機化合物層より構成される有機電界発光素子において、
前記一対の電極の少なくとも一方の電極表面に、下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する塗布工程を経て作製され、
且つ、前記溶液に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、前記溶液を塗布する直前の前記一方の電極表面の仕事関数との差が、0eV以上0.7eV以下の範囲内であることを特徴とする有機電界発光素子。
【化3】

(一般式(I−1)および(I−2)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表し、k、m、lは0または1を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素又は炭素数2〜10の分枝状炭化水素を表す。)
【請求項15】
前記溶液を塗布する直前の前記一方の電極表面の水に対する接触角が、0度以上30度以下であることを特徴とする請求項14に記載の有機電界発光素子。
【請求項16】
前記一方の電極表面を表面処理する表面処理工程を経た後に、前記塗布工程を実施することを特徴とする請求項14に記載の有機電界発光素子。
【請求項17】
少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極間に挾持された、1つまたは複数の有機化合物層より構成される有機電界発光素子が、
前記一対の電極の少なくとも一方の電極表面に、下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを含む溶液を塗布する塗布工程を経て作製され、
且つ、前記溶液に含まれる電荷輸送性ポリエステルのイオン化ポテンシャルと、前記溶液を塗布する直前の前記一方の電極表面の仕事関数との差が、0eV以上0.7eV以下の範囲内であることを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【化4】

(一般式(I−1)および(I−2)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表し、k、m、lは0または1を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素又は炭素数2〜10の分枝状炭化水素を表す。)
【請求項18】
前記溶液を塗布する直前の前記一方の電極表面の水に対する接触角が、0度以上30度以下であることを特徴とする請求項17に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項19】
前記一方の電極表面を表面処理する表面処理工程を経た後に、前記塗布工程を実施することを特徴とする請求項17に記載の有機電界発光素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−194338(P2007−194338A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9888(P2006−9888)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】