説明

有機電界発光素子及びその製造方法、画像表示装置、照明装置

【課題】発光媒体層を形成する有機電界発光素子において、光取り出し効率の高い正孔輸送層を具備した有機電界発光素子を提供すること。
【選択手段】基板上の第一電極102と第二電極107の間に少なくとも無機化合物からなる正孔輸送層104と有機発光層106を含む複数の層からなる有機電界発光素子において、前記正孔輸送層が前記有機発光層から放出される発光光を反射することにより、光取り出しが高効率な有機電界発光素子を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自発光型の表示装置及び照明装置に用いられる有機電界発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子(以下、有機EL素子と略す)は、二つの対向する電極の間に正孔輸送材料からなる正孔輸送層や有機発光材料からなる発光層が形成され、電流を流すことで有機発光層から放出される表示光を光透過性電極から取り出すものであり、簡便な構造であるにも係わらず低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目を集めている。しかし、有機EL素子は対向する電極、有機発光層、基板と各層の界面で屈折率差により決まる臨界角以上の発光光は全反射し内部に閉じ込められ、導波光として失われる。またTFTによる発光画素面積の減少などがあるため、有機発光層から外部への光取り出し効率が悪く、素子特性が低下するといった課題がある。
【0003】
これら光取り出し効率低下を改善するため、TFTによる発光画素エリアの縮小に関しては上面発光型(以下、トップエミッション構造)有機EL素子が提案されている(特許文献1を参照)。上記のトップエミッション構造により光取り出し効率を向上させる手段を用いた構成の表示装置においては、TFTによる発光画素エリアの縮小を回避することが可能だが、背面方向に放出される光については損失が生じる。特許文献1では、背面の電極に反射層を形成したり、電極に反射性の材料を用いたりすることで光取り出し効率を向上させている。
【0004】
しかしながら、有機薄膜内で消失する発光光については効率的に取り出すことが出来ない。すなわち、有機薄膜内での散乱や、発光層を区画する隔壁への吸収によって消失する発光光については、上記の方法では対応できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−100137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、有機発光層からの発光光の外部への光取り出し効率を改善し、素子特性を向上させることが可能な有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記のような課題を鑑みてなされたものであり、
請求項1に係る発明は、基板上の第一電極と第二電極の間に、無機化合物からなる正孔輸送層と、有機発光層と、を少なくとも有する有機電界発光素子であって、前記有機発光層から放出される光を前記正孔輸送層により反射することを特徴とする有機電界発光素子である。
また請求項2に係る発明は、前記無機化合物が遷移金属を一種以上含む無機化合物であることを特徴とした請求項1記載の有機電界発光素子である。

また請求項3に係る発明は、前記無機化合物は、酸素欠陥を有し金属光沢を呈する金属酸化物材料を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の有機電界発光素子である。
また請求項4に係る発明は、前記金属酸化物材料の仕事関数が4.0eV以上6.5eV以下であることを特徴とする請求項3に記載の有機電界発光素子である。
また請求項5に係る発明は、前記金属酸化物材料が、酸化チタン、酸化ニッケル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化銀、酸化コバルト、酸化クロム、酸化ルテニウム、酸化イリジウムのいずれかであることを特徴とする請求項3又は4に記載の有機電界発光素子である。
また請求項6に係る発明は、前記無機化合物は正孔輸送材料と、酸素欠陥を有し金属光沢を呈する金属酸化物材料とを含み、前記正孔輸送材料は、CuO、Cr、Mn、NiO、CoO、Pr、AgO、MoO、ZnO、TiO、V、Nb、Ta、MoO、WO、MnOのいずれかを含むことを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の有機電界発光素子である。
また請求項7に係る発明は、前記有機発光層から放出される光に対する前記正孔輸送層の平均反射率が50%以上であることを特徴とした請求項1ないし6のいずれかに記載の有機電界発光素子である。
また請求項8に係る発明は、前記正孔輸送層の膜厚が10nm以上100nm以下であることを特徴とした請求項1ないし7のいずれか記載の有機電界発光素子である。
また請求項9に係る発明は、少なくとも前記有機発光層を複数の画素に区画する隔壁を有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか記載の有機電界発光素子である。
また請求項10に係る発明は、前記正孔輸送層が、前記隔壁の少なくとも一部を覆うことを特徴とする請求項9記載の有機電界発光素子である。
また請求項11に係る発明は、前記第二電極が透明な電極であって、前記第一電極と該第二電極の間で、第一電極から正孔輸送層、有機発光層の順で積層されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか記載の有機電界発光素子である。
また請求項12に係る発明は、前記第一電極が透明な電極であって、前記第一電極と該第二電極の間で、第一電極から有機発光層、正孔輸送層の順で積層されていることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか記載の有機電界発光素子である。
また請求項13に係る発明は、請求項1ないし12のいずれか記載の有機電界発光素子を表示素子として用いたことを特徴とする画像表示装置である。
また請求項14に係る発明は、請求項1ないし13のいずれか記載の有機電界発光素子を発光素子として用いたことを特徴とする照明装置である。
また請求項15に係る発明は、基板上の第一電極と第二電極の間に、無機化合物からなる正孔輸送層と、有機発光層と、を少なくとも有する有機電界発光素子の製造方法であって、基板上に第一電極を形成する工程と、前記第一電極上に有機発光層から放出される光を反射する正孔輸送層を形成する工程と、前記正孔輸送層上に有機発光層を形成する工程と、前記有機発光層上に第二電極を形成する工程と、を有する有機電界発光素子の製造方法である。
また請求項16に係る発明は、前記正孔輸送層は、複数の無機化合物を乾式成膜法により混合して形成したことを特徴とする請求項15に記載の有機電界発光素子の製造方法。
また請求項17に係る発明は、前記正孔輸送層は、複数の無機化合物を共蒸着により混合して形成したことを特徴とする請求項16に記載の有機電界発光素子の製造方法である。
また請求項18に係る発明は、前記無機化合物は金属酸化物を含み、少なくとも一種類の金属酸化物を蒸着時あるいは成膜後に酸素欠陥を生じさせることを特徴とする請求項17に記載の有機電界発光素子の製造方法である。
また請求項19に係る発明は、前記有機発光層は、有機発光材料を含むインキを湿式成膜法により成膜して形成したことを特徴とする請求項15ないし18のいずれかに記載の有機電界発光素子の製造方法である。
また請求項20に係る発明は、基板上に複数の画素に区画する隔壁を形成する工程を有し、前記正孔輸送層は、隔壁と、第一電極とを含む表示領域全面に形成することを特徴とする請求項15ないし19のいずれかに記載の有機電界発光素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
このような構成の表示素子では、正孔輸送層が発光層からの発光光を反射する構成になっているため、有機薄膜内で導波光として消失していた光を取り出すことが可能となった。更には隔壁の少なくとも一部を正孔輸送層で被覆することにより、隔壁に吸収されていた発光光についても取り出すことが可能となった。
【0009】
また正孔輸送層の材料として遷移金属を一種以上含む無機化合物の酸化物、硫化物、窒化物とし、単層もしくは積層、又は混合層とすることにより、有機EL素子の正孔輸送材料として求められる導電性、エネルギー準位とともに反射率の高い100nm以下の薄膜を形成することが可能となった。
【0010】
上記のような構造を持つ有機電界発光表示装置は、発光層から放出され有機薄膜内に閉じ込められ、導波光として失活していた発光光および隔壁に吸収されていた表示光を正孔輸送層で反射することにより効率的に発光光を取り出すことが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る有機電界発光装置の概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る本発明の有機電界発光素子の積層部分の概略断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る有機電界発光装置の概略断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る有機電界発光装置の概略断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る有機電界発光装置の概略断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る凸版印刷装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態の説明において参照する図面は、本発明の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さ、寸法の比率等についてはそのまま実施の様態を表すものではない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態を説明するための表示装置の断面図である。図1に示す本発明の実施形態に係る有機電界発光表示素子を用いた表示装置100では、基板101に、画素毎に具備された第一電極(陽極)102aと、第一電極の画素間を区画する隔壁103と、第一電極の上方に形成された正孔輸送層104と、この正孔輸送層上に形成されたインターレイヤ105と、インターレイヤ上に形成された有機発光層106と、有機発光層上に全面を被覆するように形成された第二電極(陰極)107aと、第一電極、隔壁、正孔輸送層とインターレイヤと有機発光層を含む発光媒体層、第二電極を覆うように基板101と接触した封止体108とを備えている。
【0014】
ここで発光媒体層112は第一電極(陽極)102aと第二電極(陰極)107aに挟持された層である。図1の素子では正孔輸送層104とインターレイヤ105と有機発光層106が発光媒体層に相当する。これ以外にも、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層等の層を適宜加えても良い。
【0015】
図2のA及びBは、本発明の有機電界発光素子の積層部分の断面図である。図2Aはトップエミッション型の有機電界発光素子の例であり、基板101上に第一電極(陽極)102a、正孔輸送層104、有機発光層106、第二電極(陰極)107aの順で積層されている。この順番に積層されていれば、インターレイヤ105や、その他の層をそれぞれの間に積層しても良い。第二電極は透明電極であり、第二電極側に放出された光は第二電極を透過して外部へ出射する。一方、第一電極側に放出された光は、正孔輸送層で反射されるため、同じく第二電極を透過して外部へ出射する。従って、正孔輸送層で反射される分、外部への発光光の取り出し効率を向上させることができる。
【0016】
図2Bは逆構造型の有機電界発光素子の例であり、基板101上に第一電極(陰極)102b、有機発光層106、正孔輸送層104、第二電極(陽極)107bの順で積層されている。この順番に積層されていれば、インターレイヤ105や、その他の層をそれぞれの間に積層しても良い。基板101及び第一電極は透明電極であり、第一電極側に放出された光は第一電極及び基板を透過して外部へ出射する。一方、第二電極側に放出された光は、正孔輸送層で反射されるため、同じく第一電極を透過して外部へ出射する。従って、トップエミッション型の場合と同様、正孔輸送層で反射される分、外部への発光光の取り出し効率を向上させることができる。以降の説明は、トップエミッション型の有機電界発光素子を基に行うが、陰極と陽極を入れ替え、発光媒体層の順序を逆に形成することで逆構造型についても適用される。
【0017】
本発明の有機電界発光素子に係る正孔輸送層104は、上述の原理からも明らかなように、有機発光層から放出される光を反射する性質を有するものである。具体的には、正孔輸送層の反射率は発光層からの発光光波長に対して全平均で50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。すなわち、フルカラー発光の有機電界発光表示装置に用いる有機発光素子では、可視光域のそれぞれの発光光に対して50%以上の反射率である必要があるため、可視光域において50%以上の反射率を有する正孔輸送層材料が好ましい。白色光の照明装置に用いる有機発光素子においても同様である。
【0018】
一方、単色発光の有機電界発光素子においては、放出される光の波長において反射されれば十分であるから、特定波長のみ反射率が高ければよい。また、工程数は増えるが、フルカラー発光の有機電界発光表示装置においても、正孔輸送層をパターン化し、各発光色の画素ごとに成膜材料を変えた正孔輸送層を形成することで、特定波長のみ反射率が高い材料を用いることも可能である。
【0019】
正孔輸送層の物性値としては、陽極(102a、102b)の仕事関数と同等以上の仕事関数を有することが好ましい。これは陽極からインターレイヤや発光層へ効率的に正孔注入を行うためである。陽極の材料と上層の材料により異なるが、4.5eV以上6.5eV以下を用いる事ができ、陽極がITOやIZOの場合、特に5.0eV以上6.0eV以下が好適に用いる事が可能である。正孔輸送層の抵抗率はパターニング法により異なるが、隣接画素へのリーク防止を考慮すると1×10〜5×10Ω・mであることが好ましく、より好ましくは5×10〜1×10Ω・mである。また、正孔輸送層の厚みは材料特性より異なるが上述の抵抗率を考慮すると100nm以下であることが好ましい。一方、正孔輸送層の膜厚が薄いと光を透過し、取り出し効率が低下してしまうため、10nm以上の膜厚であることが好ましい。
【0020】
図3に示すように、トップエミッション型の有機電界発光表示装置であって、基板上に隔壁が形成された基板上に正孔輸送層104を形成する場合には、隔壁上にも正孔輸送層を形成することが好ましい。正孔輸送層が隔壁を覆うことにより、発光媒体層を導波し、あるいは散乱して隔壁に吸収されていた発光光についても反射させて、外部への取り出し効率を向上させることができるためである。また、第一電極102上の発光領域と、隔壁上とを含む表示領域の全面に正孔輸送層を形成すれば良いので、画素ごとのパターニングや位置あわせが不要であり、形成が容易である。または図4のように、隔壁103上部のみ形成を行わないようにパターニングを行ってもよい。隔壁全面被覆しなくても正孔輸送層上に形成された発光媒体層の近傍を覆うことで、発光媒体層から導波あるいは散乱される光を反射させることができる。
【0021】
基板101の材料は、例えば、ガラスや石英、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシート、あるいは、トップエミッション型の有機発光電界素子の場合には、これに加えて、上記のプラスチックフィルムやシートに酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物や、弗化アルミニウム、弗化マグネシウム等の金属弗化物、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、酸窒化珪素などの金属酸窒化物、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂などの高分子樹脂膜を単層もしくは積層させた透光性基材や、アルミニウムやステンレスなどの金属箔、シート、板、プラスチックフィルムやシートにアルミニウム、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属膜を積層させた非透光性基材などを用いることができるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0022】
有機電界発光表示装置100の光取り出しを行う面は基板101と対向する電極側から行えばよい。これらの材料からなる基板101は、有機電界発光表示装置100内への水分や酸素の浸入を避けるために、基板101全面もしくは片面に無機膜の形成、樹脂の塗布などにより、防湿処理や疎水性処理を施してあることが好ましい。特に、発光媒体層112への水分の浸入を避けるために、基板101における含水率及びガス透過係数を小さくすることが好ましい。
【0023】
本発明の実施形態に係る第一電極102は、基板101上に成膜し、必要に応じてパターニングを行う。フルカラー発光の有機電界発光表示装置に用いる有機発光素子であって塗布型の有機発光材料によって発光層を形成する場合、第一電極102は隔壁103によって区画され、各画素に対応した画素電極となる。
【0024】
第一電極102の材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物などの金属複合酸化物や、金、白金などの金属材料や、これら金属酸化物や金属材料の微粒子をエポキシ樹脂やアクリル樹脂などに分散した微粒子分散膜を、単層もしくは積層したものをいずれも使用することができるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0025】
第一電極102を陽極とする場合にはITOなど仕事関数の高い材料を選択することが好ましい。また陰極として逆構造とする場合にはAgなど仕事関数の低い材料を選択することが好ましい。TFT駆動の有機電界発光表示装置では電極は低抵抗であればよく、シート抵抗で20Ω/□以下であれば好適に用いることが可能となる。
【0026】
第一電極102の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの乾式成膜法や、インクジェット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの湿式成膜法など既存の成膜法を用いることができるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0027】
第一電極102のパターニング方法としては、材料や成膜方法に応じて、マスク蒸着法、フォトリソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法などの既存のパターニング法を用いることができる。
【0028】
本発明の実施形態に係る隔壁103は、各画素に対応した発光領域を区画するように形成することができる。第一電極102の端部を覆うように形成するのが好ましい(図1参照)。一般的にアクティブマトリクス駆動型有機電界発光表示装置100は、各画素に対して第一電極102が形成され、それぞれの画素ができるだけ広い面積を占有しようとするため、第一電極102の端部を覆うように形成される。隔壁103の最も好ましい形状は各画素電極102を最短距離で区切る格子状を基本とする。
【0029】
隔壁103の材料としては、絶縁性を有する必要があり、感光性材料等を用いることができる。感光性材料としては、ポジ型であってもネガ型であってもよく、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、ポリイミド樹脂、およびシアノエチルプルラン等を用いることができる。また、隔壁形成材料として、SiO、TiO等を用いることもできる。
【0030】
隔壁103の好ましい高さは0.1μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上2μm以下程度である。10μmより高すぎると対向電極107の形成及び封止を妨げ、0.1μmより低すぎると画素電極102の端部を覆い切れない、あるいは発光媒体層112形成時に隣接する画素とショートしたり混色したりしてしまうからである。
【0031】
隔壁103の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの乾式成膜法や、インクジェット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの湿式成膜法など既存の成膜法を用いることができるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0032】
隔壁103のパターニング方法としては、材料や成膜方法に応じて、基体(基材101及び第一電極102)上に無機膜を一様に形成し、レジストでマスキングした後、ドライエッチングを行う方法や、基体上に感光性樹脂を塗工し、フォトリソグラフィ法により所定のパターンとする方法が挙げられるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。必要に応じてレジスト及び感光性樹脂に撥水剤を添加したり、親水性材料と疎水性材料の多層構造にしたり、プラズマやUVを照射したりして形成後にインクに対する撥水性または親水性を付与することもできる。
【0033】
トップエミッション型の有機電界発光素子の場合、第一電極上に正孔輸送層104を形成する。正孔輸送層の形成法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの乾式成膜法や、スピンコート法、ゾルゲル法、などの湿式成膜法など既存の成膜法を用いることができるが本発明ではこれらに限定されず、一般的な成膜法を用いることができる。特に乾式成膜法を用いた場合には、平坦性が高く、均一な正孔輸送層を形成することができる。また、後述のように、主成分となる正孔輸送材料と、金属光沢を生じせしめる無機材料とを同時に成膜することで、混合組成の無機膜を形成することができることから、正孔輸送層の特性を維持したまま、反射率の高い正孔輸送層を形成することができる。
【0034】
正孔輸送層104の材料(正孔輸送材料)としては、CuO、Cr、Mn、NiO、CoO、Pr、AgO、MoO、ZnO、TiO、V、Nb、Ta、MoO、WO、MnO等の遷移金属酸化物および同遷移金属の窒化物、硫化物を一種以上含んだ無機化合物を単層もしくは複数の層の積層構造、又は混合層として形成することができる。
【0035】
正孔輸送層104のパターニング方法としては、材料特性や成膜法により異なるが、第一電極102および隔壁103を被覆するように形成するベタ成膜が容易である。または前述の図4のように、マスク蒸着法により隔壁103上部のみ形成を行わないようにパターニングを行ってもよい。隔壁全面被覆しなくても発光媒体層の近傍を覆うことで、発光媒体層から導波あるいは散乱される光を反射させることができる。
【0036】
正孔輸送層は窒化度、硫化度ならびに酸化度を調節することで仕事関数や抵抗率、前述の反射率の最適化を行うことができる。窒化度、硫化度ならびに酸化度の制御は、各種成膜法により異なるが、抵抗加熱蒸着法やスパッタリング法を例にとると、チャンバー内に必要とされる反応イオンを持つイオン源を設置、または必要とされる反応分子をもつ気体をパージするなどの方法により成膜中に制御を行う。あるいは、成膜後に必要とされる気体雰囲気下で加熱処理を行い正孔輸送層の窒化度、硫化度あるいは酸化度を制御してもよい。また、複数の無機化合物の混合した正孔輸送層とする場合、その混合比によって窒化度、硫化度ならびに酸化度を制御することができる。
【0037】
反射率の高い正孔輸送層は、例えば、金属光沢を持つ材料を正孔輸送層に含むことで形成することができる。あるいは、成膜工程において、窒化度、硫化度若しくは酸化度の制御により金属光沢を生じる材料を正孔輸送層に含むことで形成することができる。あるいは主成分となる正孔輸送材料(無機化合物)に混合することで、金属結合を呈する材料を正孔輸送層に含むことで形成することができる。例えば、実施例で用いた酸化インジウム(In)は、金属光沢を呈していない材料であるが、主成分である酸化モリブデンとの共蒸着により混合して成膜した正孔輸送層は50%以上の反射率を示す。このような反射率特性を示す一つの理由としては、成膜段階で酸化インジウムから酸素が抜けることで、金属光沢を示すと考えられる。
【0038】
より理論的には、金属酸化物の場合、酸素欠損により価電子帯に存在する自由空孔によってプラズマ振動を生じ、プラズマ振動数の波長が素子の発光波長よりも大きいために金属光沢を呈すると考えられる。従って、混合する材料としては、成膜時に酸素欠損を生じる金属酸化物であり、また混合した際に、膜の仕事関数に影響を与えないために、単膜での仕事関数が4.0eV以上6.5eV以下である材料が好ましい。このような金属光沢を生じさせるために正孔輸送層に添加する無機材料としては、酸化インジウム、酸化バナジウム、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化タングステン(Ta)、酸化モリブデン(MoO)、酸化銀(AgO)、酸化コバルト(CoO)、酸化クロム(Cr)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化イリジウム(In)等が挙げられる。上記正孔輸送層に添加する金属酸化物材料は、正孔輸送材料と同一の材料の使用を妨げるものではなく、正孔輸送材料の酸素欠損量を増やしても良い。しかし例えば共蒸着により正孔輸送材料と、異なる金属酸化物材料とを混合した正孔輸送層を成膜する場合には、蒸着時の酸素の抜けやすさの違いや、アルゴンイオンビームに対する反応性の違い等から、添加する金属酸化物材料のみ酸素欠損を増加させることができ、正孔輸送層としての特性と、反射率とを両立させることが容易である。
【0039】
これらの安定な酸化物から酸素が抜けた状態、すなわち酸素欠損量が10%以上となるように成膜する。ここで酸素欠損量とは、添加無機材料の安定状態において、金属原子に対する酸素原子の比を0%としたものである。酸素原子量が低下することで、酸素欠損量が増加してゆく。例えば酸化モリブデン(MoO)の場合、安定状態ではMo/O(2)=0.50で欠損量δは0%である。仮に一つの酸化モリブデン原子に対して酸素原子の割合が1.5ならば、Mo/O(1.5)=0.66で欠損量δ=酸素欠損割合/酸素欠損がないとした場合の酸素原子割合=(2−1.5)/2で25%となる。なお酸素欠損量の上限は、金属の価数が遷移しない、すなわち金属酸化物の構造が変わらない限り制限はない。
【0040】
このような酸素欠損の含む膜は、酸素の抜けやすい材料であれば、蒸着によって酸素欠陥を含む成膜を行うことができる。あるいは成膜された膜に対して例えばアルゴンイオンビームの照射等を行うことによって、酸素欠損を増やすこともできる。
【0041】
こうした酸素欠損量は、X線光電子分光法(XPS : X-ray Photoelectron SpectroscopyまたはESCA : Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)やオージェ電子分光法(AES : Auger Electron Spectroscopy)、X線励起オージェ電子分光法(XAES : X-ray Excited Auger Electron Spectroscopy)を用いて固体表面の元素分析を行うことで測定することが可能である。
【0042】
加える量としては、正孔輸送層の機能を害さない範囲であれば特に制限はないが、添加無機化合物が、正孔輸送層材料全体に対して組成比で70%以下であることが好ましい。これは添加無機化合物が基本的に主成分よりも低抵抗かつ低仕事関数であるため、加えすぎると、正孔輸送層の特性を保てなくなるおそれがある。従って、前述した正孔輸送層の特性を満たす範囲で、その反射率が50%以上となるように混合することが好ましい。
【0043】
本発明の実施形態に係るインターレイヤ105は、有機発光層と正孔輸送層の間に積層することで、素子の発光寿命を向上させることができる。トップエミッション型の素子構造では正孔輸送層104形成後に積層することができる。通常は正孔輸送層104を被覆するように形成するが、必要に応じてパターニングを行っても良い。
【0044】
インターレイヤ105の材料としては、有機材料ではポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリアリーレン誘導体、アリールアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体などの、芳香族アミンを含むポリマーなどが挙げられる。また無機材料では、CuO、Cr、Mn、NiO、CoO、Pr、AgO、MoO、ZnO、TiO、V、Nb、Ta、MoO、WO、MnO等の遷移金属酸化物および同遷移金属の窒化物、硫化物を一種以上含んだ無機化合物が挙げられるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0045】
これらの有機材料は溶媒に溶解または安定に分散させ有機インターレイヤインキとなる。有機インターレイヤ材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどの単独またはこれらの混合溶媒が上げられる。中でもトルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が有機インターレイヤ材料の溶解性の面から好適である。また、有機インターレイヤインキには必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0046】
これらインターレイヤ材料としては、正孔輸送層104よりも仕事関数が同等以上の材料を選択することが好ましく、更に有機発光層105よりも仕事関数が同等以下であることがより好ましい。これは正孔輸送層104から有機発光層105へのキャリア注入時に不必要な注入障壁を形成しないためである。また有機発光層105から発光に寄与できなかった電荷を閉じ込める効果を得るため、バンドギャップが3.0eV以上であることが好ましく、より好ましくは3.5eV以上であると好適に用いることが出来る。
【0047】
インターレイヤ105の形成法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの乾式成膜法や、インクジェット印刷法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの湿式成膜法など既存の成膜法を用いることができるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0048】
本発明の実施形態に係る有機発光層106は、トップエミッション型の素子の場合、インターレイヤ105形成後に積層することが出来る。有機発光層106から放出される表示光が単色の場合、インターレイヤ105を被覆するように形成するが、多色の表示光を得るには必要に応じてパターニングを行うことにより好適に用いることができる。
【0049】
有機発光層106を形成する有機発光材料は、例えばクマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系などの発光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系の高分子材料が挙げられるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0050】
これらの有機発光材料は溶媒に溶解または安定に分散させ有機発光インキとなる。有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどの単独またはこれらの混合溶媒が上げられる。中でもトルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が有機発光材料の溶解性の面から好適である。また、有機発光インキには必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0051】
上述した高分子材料に加え、9,10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4−テトラフェニルブタジエン、トリス(8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノラート)亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−シアノー8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス[8−(パラ−トシル)アミノキノリン]亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエン、ポリ−2,5−ジヘプチルオキシ−パラ−フェニレンビニレンなどの低分子系発光材料が使用できる。
【0052】
有機発光層106の形成法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの乾式成膜法や、インクジェット印刷法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの湿式成膜法など既存の成膜法を用いることができるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0053】
次に、有機発光層上に本発明の実施の形態に係る第二電極107を形成する。第二電極107の具体的な材料にはMg、Al、Yb等の金属単体を用いたり、発光媒体層112と接する界面にLiや酸化Li、LiF等の化合物を1nm程度挟んで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いたりしてもよい。または電子注入効率と安定性とを両立させるため、仕事関数が低いLi、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb等の金属1種以上と、安定なAg、Al、Cu等の金属元素との合金系を用いてもよい。具体的にはMgAg、AlLi、CuLi等の合金を使用することができる。またITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物などの金属複合酸化物等の透明導電膜を用いることができる。
【0054】
トップエミッション構造におけるこれらの対向電極107は、発光媒体層112から放出される表示光を透過されるため、可視光領域に対して透過性が必要である。Mg、Al、Yb等の金属単体では10nm以下であることが好ましいく、更には2−7nm以内であることがより好ましい。透明導電膜においては可視光波長の平均透過率として85%以上を保つように膜厚を調節し好適に用いることができる。
【0055】
第二電極107の形成法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの乾式成膜法や、インクジェット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの湿式成膜法など既存の成膜法を用いることができるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0056】
封止体108は、例えば第一電極102、隔壁103、発光媒体層112、第二電極107が形成された基板101に対して、その周辺部について封止体108と基板を接着させることにより封止がおこなわれる。この際、トップエミッション構造では発光媒体層から基板101側と反対側の封止体108を通して放射される表示光を取り出すため、可視光領域に対して光透過性が必要となる。光透過性として可視光波長の平均透過率として85%以上であることが好ましい。
【0057】
封止体208は、例えば第一電極102、隔壁103、発光媒体層109、第二電極107が形成された基板101に対して、凹部を有するガラスキャップ又は金属キャップ等を用いて、第一電極、有機発光媒体層、第二電極上空に凹部があたるようにして、その周辺部についてキャップと基板を接着剤により接着させることにより封止がおこなわれる。凹部には吸湿剤を形成し、窒素ガス等の不活性ガス下で封止することで水分、ガス等による素子劣化を防ぐためことができる。
【0058】
また、封止体108は、図5に示したように第一電極102、隔壁103、発光媒体層112、第二電極107が形成された基板101に対して、封止材109上に樹脂層110を設け、該樹脂層110により封止材と基板を貼りあわせることによりおこなうことも可能である。
【0059】
このとき封止材109の材料として、水分や酸素の透過性が低い基材である必要がある。また、材料の一例として、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス、石英、耐湿性フィルムなどを挙げることができる。耐湿性フィルムの例として、プラスチック基材の両面にSiOxをCVD法で形成したフィルムや、透過性の小さいフィルムと吸水性のあるフィルムまたは吸水剤を塗布した重合体フィルムなどがあり、耐湿性フィルムの水蒸気透過率は、10−6g/m/day以下であることが好ましい。
【0060】
樹脂層110としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などからなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物などの熱可塑性接着性樹脂を挙げることができる。樹脂層110を封止材の上に形成する方法の一例として、溶剤溶液法、押出ラミ法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法などを挙げることができる。必要に応じて吸湿性や吸酸素性を有する材料を含有させることもできる。封止材109上に形成する樹脂層110の厚みは、封止する有機EL素子の大きさや形状により任意に決定されるが、5〜500μm程度が望ましい。
【0061】
第一電極102、隔壁103、発光媒体層112、第二電極107が形成された基板101と封止体108の貼り合わせは封止室でおこなわれる。封止体108を、封止材と樹脂層110の2層構造とし、樹脂層110に熱可塑性樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着のみ行うことが好ましい。熱硬化型接着樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着した後、さらに硬化温度で加熱硬化を行うことが好ましい。光硬化性接着樹脂を使用した場合は、ロールで圧着した後、さらに光を照射することで硬化を行うことができる。なお、ここでは封止材109上に樹脂層110を形成したが、基板上に樹脂層110を形成して封止材109と貼りあわせることも可能である。
【0062】
封止材109を用いて封止を行う前やその代わりに、例えばパッシベーション膜として、無機薄膜を形成した封止体108とすることも可能であり、また、これらを組み合わせることも可能である。パッシベーション膜としては例えば、窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化珪素、弗化カルシウムなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。絶縁体であり、水や酸素に対して安定な物質を、真空成膜法を用いることができ、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などを用いて成膜することができる。
【実施例1】
【0063】
基板101上に設けられた第一電極(画素電極)102としてクロム上にITO薄膜とを備えたアクティブマトリクス基板101を用いた。基板101のサイズは対角5インチ、画素数は320×240である。
【0064】
この基板101上に設けられている第一電極102の端部を被覆し画素を区画するような形状で隔壁103を形成した。隔壁103の形成は、日本ゼオン社製、ポジレジスト、商品名「ZWD6216−6」を用いて、スピンコーター法にて基板101全面に厚み2μmで形成した後、フォトリソグラフィ法を用いて幅40μmにパターニングして隔壁103を形成した。これによりサブピクセル数960×240ドット、0.12mm×0.36mmピッチ画素領域が区画された。
【0065】
第一電極102上に正孔輸送層104として、厚み50nmの酸化モリブデンと酸化インジウムを真空蒸着法により共蒸着させシャドーマスク法でパターン成膜した。共蒸着の比率は、各蒸着源に設置されている成膜レートモニタを用いて調節した。酸化モリブデンと酸化インジウムの混合比率は1:4である。このようにして形成した正孔輸送層は可視光領域の全平均反射率で65%であった。パターン領域は表示領域全面に成膜されるように120mm×100mmの開口のあるメタルマスクを用いて成膜を行った。
【0066】
その後、インターレイヤ105の材料であるポリビニルカルバゾール誘導体を濃度0.5%になるようにトルエンに溶解させたインキを用い、基板101上に形成された画素電極102、隔壁103及び正孔輸送層104を図6に示した凸版印刷装置300の被印刷基板302としてセッティングし、隔壁103に挟まれた画素電極102上の正孔輸送層104の真上にそのラインパターンに合わせてインターレイヤ105を凸版印刷法で印刷を行った。このとき300線/インチのアニロックスロール305及び感光性樹脂による凸版307を使用した。印刷、乾燥後のインターレイヤ105の膜厚は10nmとなった。
【0067】
発光媒体層112の有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を濃度1%になるようにトルエンに溶解させた有機発光インキを用い、基板101上に形成された画素電極102、隔壁103、正孔輸送層104及びインターレイヤ105を凸版印刷装置300の被印刷基板302としてセッティングし、隔壁103に挟まれたインターレイヤ105の真上にそのラインパターンに合わせて発光媒体層112を凸版印刷法で印刷を行った。このとき150線/インチのアニロックスロール305及び感光性樹脂による凸版307を使用した。印刷、乾燥後の発光媒体層112の膜厚は80nmとなった。
【0068】
その後、対向電極107として真空蒸着法でカルシウム膜を120mm×100mmの開口のあるメタルマスクを用いて厚み5nmで成膜し、その後アルミニウム膜を124mm×104mmの開口のあるメタルマスクを用いて透過性を得るため厚み5nmで成膜した。
【0069】
その後、封止体108としてCVD法を用いて、窒化珪素膜を300nm成膜して封止を行った。こうして得られた有機電界発光表示装置100を駆動したところ、輝度が5Vで150cd/m、発光効率が20mA/cmで12cd/Aの表示特性を得られ、輝度ムラもなく均一な発光状態であった。
【実施例2】
【0070】
正孔輸送層104を成膜する前までは実施例1と同様の手順で作製し、正孔輸送層104として、厚み50nmの酸化バナジウム(V)と酸化亜鉛(ZnO)を、真空蒸着法の共蒸着によりシャドーマスク法でパターン成膜した。このとき酸化バナジウムと酸化亜鉛の混合比率は1:7である。その後インターレイヤ105と発光媒体層112と対向電極107と封止材108は実施例1と同様の手順で作製した。
【0071】
こうして得られた有機電界発光表示装置100を駆動したところ、輝度が5Vで100cd/m、また、発光効率が20mA/cmで10cd/Aの表示特性を得られ輝度ムラもなく均一な発光状態であった。
【実施例3】
【0072】
(比較例1)
正孔輸送層104を成膜する前までは実施例1と同様の手順で作製し、正孔輸送層104としてPEDOT/PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸)をスピンコート法により50nmの厚さで成膜した。その後インターレイヤ105と発光媒体層112と対向電極と封止材は実施例1と同様の手順で作製した。
【0073】
こうして得られた有機電界発光表示装置100を駆動したところ、輝度が6Vで100cd/m、発光効率が20mA/cmで9cd/Aの表示特性を得られ、輝度ムラもなく均一な発光状態であった。
【0074】
正孔輸送層を無機化合物とし反射層としての機能を兼ね備えることにより、有機薄膜内で導波光として失活していた光を取り出すことが可能となり、更に隔壁の少なくとも一部を被覆することにより隔壁に吸収されていた表示光を取り出し、高効率なトップエミッション型有機電界発光表示装置を得ることが出来た。
【0075】
その後、作製した実施例1、2および比較例1を温度60℃、湿度95%の恒温高湿環境で加速試験を行った結果、1400時間経過で比較例1の発光面にダークスポットが発見されたが、実施例1及び2については2000時間経過後もダークスポットが発生せず、表示不良のなく光取り出し効率の高い有機電界発光表示装置100を得ることができた。
【符号の説明】
【0076】
100・・・有機電界発光表示装置
101・・・基板
102a・・・第一電極(陽極)
102b・・・第一電極(陰極)
103・・・隔壁
104・・・正孔輸送層
105・・・インターレイヤ
106・・・有機発光層
107a・・・第二電極(陰極)
107b・・・第二電極(陽極)
108・・・封止体
109・・・封止材
110・・・樹脂層
112・・・発光媒体層
300・・・凸版印刷装置
301・・・ステージ
302・・・被印刷基板
303・・・インキタンク
304・・・インキチャンバ
305・・・アニロックスロール
306・・・ドクタ
307・・・凸版
308・・・版胴
309・・・インキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の第一電極と第二電極の間に、無機化合物からなる正孔輸送層と、有機発光層と、を少なくとも有する有機電界発光素子であって、前記有機発光層から放出される光を前記正孔輸送層により反射することを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記無機化合物が遷移金属を一種以上含む無機化合物であることを特徴とした請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記無機化合物は、酸素欠陥を有し金属光沢を呈する金属酸化物材料を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記金属酸化物材料の仕事関数が4.0eV以上6.5eV以下であることを特徴とする請求項3に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記金属酸化物材料が、TiO、ZnO、NiO、Ta、MoO)、酸化銀(AgO、CoO、Cr、RuO、Inのいずれかであることを特徴とする請求項3又は4に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記無機化合物は正孔輸送材料と、酸素欠陥を有し金属光沢を呈する金属酸化物材料とを含み、前記正孔輸送材料は、CuO、Cr、Mn、NiO、CoO、Pr、AgO、MoO、ZnO、TiO、V、Nb、Ta、MoO、WO、MnOのいずれかを含むことを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記有機発光層から放出される光に対する前記正孔輸送層の平均反射率が50%以上であることを特徴とした請求項1ないし6のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記正孔輸送層の膜厚が10nm以上100nm以下であることを特徴とした請求項1ないし7のいずれか記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
少なくとも前記有機発光層を複数の画素に区画する隔壁を有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
前記正孔輸送層が、前記隔壁の少なくとも一部を覆うことを特徴とする請求項9記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
前記第二電極が透明な電極であって、前記第一電極と該第二電極の間で、第一電極から正孔輸送層、有機発光層の順で積層されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか記載の有機電界発光素子。
【請求項12】
前記第一電極が透明な電極であって、前記第一電極と該第二電極の間で、第一電極から有機発光層、正孔輸送層の順で積層されていることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか記載の有機電界発光素子。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか記載の有機電界発光素子を表示素子として用いたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか記載の有機電界発光素子を発光素子として用いたことを特徴とする照明装置。
【請求項15】
基板上の第一電極と第二電極の間に、無機化合物からなる正孔輸送層と、有機発光層と、を少なくとも有する有機電界発光素子の製造方法であって、
基板上に第一電極を形成する工程と、
前記第一電極上に有機発光層から放出される光を反射する正孔輸送層を形成する工程と、
前記正孔輸送層上に有機発光層を形成する工程と、
前記有機発光層上に第二電極を形成する工程と、
を有する有機電界発光素子の製造方法。
【請求項16】
前記正孔輸送層は、複数の無機化合物を乾式成膜法により混合して形成したことを特徴とする請求項15に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項17】
前記正孔輸送層は、複数の無機化合物を共蒸着により混合して形成したことを特徴とする請求項16に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項18】
前記無機化合物は金属酸化物を含み、少なくとも一種類の金属酸化物を蒸着時あるいは成膜後に酸素欠陥を生じさせることを特徴とする請求項17に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項19】
前記有機発光層は、有機発光材料を含むインキを湿式成膜法により成膜して形成したことを特徴とする請求項15ないし18のいずれかに記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項20】
基板上に複数の画素に区画する隔壁を形成する工程を有し、
前記正孔輸送層は、隔壁と、第一電極とを含む表示領域全面に形成することを特徴とする請求項15ないし19のいずれかに記載の有機電界発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−103500(P2010−103500A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213036(P2009−213036)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】