説明

有機電界発光表示素子の製造方法、及び有機電界発光表示素子

【課題】 有機電界発光層及び陰極層が酸素及び水分等と接触して発生する劣化を防止し、信頼性を向上させる有機電界発光表示素子の製造方法、及び該製造方法により製造した有機電界発光表示素子の提供。
【解決手段】 透光性基板111上に陽極層112、有機電界発光層115、そして陰極層118を順に積層した後、陰極層118を含む透光性基板111上に保護層130を形成し、保護層130の一部に熱処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、保護層を素子の他の部分に影響を与えず熱処理して素子の特性及び信頼性を向上させた有機電界発光表示素子の製造方法、及び該製造方法により製造された有機電界発光表示素子に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、情報通信技術の発達に伴う情報化社会に応じるためにユーザの要求が多様化しており、電子ディスプレイの需要も増加している。多様化したユーザの要求を満足させるために、電子ディスプレイは、高精細化、大型化、低コスト化、高性能化、薄型化、小型化等の特性を有するものが要求されており、このために、既存のCRTディスプレイの代わりに、フラットパネル・ディスプレイ(FPD)が開発されている。
【0003】現在、開発段階にあるか、又は、すでに生産が始まっているフラットパネル・ディスプレイには、液晶ディスプレイ(LCD)、発光ダイオード・ディスプレイ(LED)、プラズマ・ディスプレイ・パネル(PDP)、真空蛍光表示板(VDP)、又は電界発光表示素子(ELD)を用いたディスプレイ等がある。この中で電界発光表示素子は、液晶表示素子のような受光形態の素子に比べて応答速度が速く、素子自体が発光する形態であり輝度に優れている。また、素子の構造が簡単であり、製造が容易である。更に、軽量薄型の長所を有しているので、次世代フラットパネル・ディスプレイ素子として脚光を浴びている。電界発光表示素子は、発光層に使用する物質の種類に応じて、有機電界発光表示素子と無機電界発光表示素子とに分類される。
【0004】前述の有機電界発光表示素子は、ガラス、石英等の透光性基板上に透光性を有する陽極層、正孔注入層、正孔輸送層、有機電界発光層、電子輸送層、及び陰極層が順に積層される。有機電界発光層を構成する有機物質は、不純物による汚染、酸化及び水分等に非常に敏感であるので、気密な保護層が必要である。また、陰極層には、効果的に電子を注入し、駆動電圧を下げるために、低い仕事関数を有する金属を使用するが、これらの金属も外部の酸素及び水分等に非常に敏感である。すなわち、陰極層を構成する金属の酸化は、有機電界発光層を発光させる際の輝度及び均一性等の発光特性を著しく劣化させて、有機電界発光表示素子の寿命を短縮させる。
【0005】また、陰極層の金属表面に欠陥等の微細な孔が存在する場合、酸素及び水分等がこの孔を介して有機電界発光層に伝達されて有機電界発光層を劣化させ、素子の特性を急速に低下させる。したがって、有機電界発光表示素子の信頼性を確保するために、陰極層及び有機電界発光層を外部の空気と遮断させて劣化を防止する必要がある。
【0006】有機電界発光表示素子の有機電界発光層を外部と遮断する従来の方法の中で代表的な方法は金属キャップを使用することである。図1は、従来の金属キャップを使用する有機電界発光表示素子の断面図である。金属キャップ20を使用する有機電界発光表示素子は、透光性基板11上に透光性を有する導電性材料で陽極層12を積層し、陽極層12上に正孔注入層13、正孔輸送層14、有機電界発光層15、電子輸送層17及び陰極層18を順に積層する。そして、内部の中央に吸湿材19を備える金属キャップ20を透光性基板11の表面の外縁部に接着材21を用いて接着し、金属キャップ20の内側の空間に陽極層12、正孔注入層13、正孔輸送層14、有機電界発光層15、電子輸送層17、及び陰極層18を封止する。
【0007】前述のような金属キャップ20を使用する有機電界発光表示素子は、陽極層12と陰極層18との間に電圧を印加することにより、正孔が正孔注入層13及び正孔輸送層14を介して有機電界発光層15に注入され、電子が電子輸送層17を介して有機電界発光層15に注入される。そして、注入された電子と正孔とが有機電界発光層15で再結合して発光する。ここで、正孔注入層13、正孔輸送層14及び電子輸送層17は、有機電界発光表示素子の発光効率を増加させる補助的な機能を有する。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】このような従来の有機電界発光素子には、以下のような問題点がある。吸湿材19を含む金属キャップ20は、陰極層18の表面から離れているので金属キャップ20が完全に接着封止されなければ、有機電界発光層15及び陰極層18が酸素及び水分等と接触して劣化する。また、金属キャップ20が備える吸湿材19は、各層を全面に亘って完壁に保護することが困難である。更に、吸湿材19及び金属キャップ20を有機電界発光表示素子上に接着する工程が非常に複雑である。
【0009】本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、透光性基板上に第1導電体層、電界発光層、及び第2導電導体層を積層し、透光性基板を含めて第2導電導体層を覆う保護層を設けて、この保護層の一部に対して熱処理を施すことにより、有機電界発光層及び陰極層が酸素及び水分等と接触して発生する劣化を防止し、素子の信頼性を向上させる有機電界発光表示素子の製造方法、及び該製造方法により製造された有機電界発光表示素子を提供することを目的とする。
【0010】本発明の他の目的は、第2導電体層と保護層との間に吸湿層を設けていることにより、有機電界発光層及び陰極層が酸素及び水分等と接触して発生する劣化を防止し、信頼性が高い有機電界発光表示素子を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】第1発明に係る有機電界発光表示素子の製造方法は、透光性基板に第1導電体層、有機物質を含む電界発光層、及び第2導電体層を順次積層してなる有機電界発光表示素子の製造方法において、前記第2導電体層を積層した後、前記第1導電体層、電界発光層、及び第2導電体層を覆う保護層を前記透光性基板に形成し、前記保護層の一部を熱処理することを特徴とする。
【0012】第2発明に係る有機電界発光表示素子の製造方法は、前記保護層にエネルギービームを照射することにより熱処理を行うことを特徴とする。
【0013】第3発明に係る有機電界発光表示素子の製造方法は、前記エネルギービームは、10〜2000mJ/cm2 の出力を有するエキシマレーザであることを特徴とする。
【0014】第4発明に係る有機電界発光表示素子の製造方法は、前記エキシマレーザは、Ar2 、Kr2 、Xe2 、ArF、KrF、XeCl、又はF2 の何れかをレーザガスに用いたエキシマレーザであることを特徴とする。
【0015】第5発明に係る有機電界発光表示素子は、透光性基板に第1導電体層、有機物質を含む電界発光層、及び第2導電体層を順次積層してある有機電界発光表示素子において、前記第1導電体層、電界発光層、及び第2導電体層を覆う保護層を前記透光性基板に備え、該保護層の一部に熱処理がされていることを特徴とする。
【0016】第6発明に係る有機電界発光表示素子は、前記保護層の表面の一部又は全部が高密度化していることを特徴とする。
【0017】第7発明に係る有機電界発光表示素子は、前記保護層は、シリコン酸化物、シリコン窒化物、又はシリコン窒化酸化物の何れかを含む単層膜若しくは多層膜であることを特徴とする。
【0018】第8発明に係る有機電界発光表示素子は、前記第2導電体層と前記保護層との間に吸湿層を備えることを特徴とする。
【0019】第9発明に係る有機電界発光表示素子は、前記吸湿層は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、又は酸化イットリウムを含むことを特徴とする。
【0020】第1発明及び第2発明にあっては、透光性基板上に第1導電体層、有機物質を含む電界発光層、及び第2導電導体層を積層し、透光性基板に第1導電体層、電界発光層、及び第2導電導体層を覆う保護層を設けて、この保護層の一部に対して熱処理を行う。したがって、例えば、シリコン酸化物、シリコン窒化物、又はシリコン窒化酸化物により形成された保護層の水素含有量を低減することができ、しかも多孔性を改善することができるため、外部の酸素及び水分等の進入を防止して、電界発光層及び第2導電体層の劣化を防止することができる保護層を設けることが可能となる。
【0021】第3発明及び第4発明にあっては、10〜2000mJ/cm2 の出力を有するエキシマレーザを用いて保護層に熱処理を施している。したがって、保護層の内側の各層に必要以上に熱を加えることなく、外部の酸素及び水分等の進入を防止する保護層を短時間で設けることができる。
【0022】第5発明乃至第7発明にあっては、透光性基板上に第1導電体層、電界発光層、及び第2導電導体層を積層し、透光性基板に第1導電体層、電界発光層、及び第2導電導体層を覆う保護層を備え、この保護層には熱処理を施している。したがって、例えば、保護層の材料としてシリコン酸化物、シリコン窒化物、又はシリコン窒化酸化物を用いる場合であっても、保護層の水素含有量は低く、しかも多孔性が改善されているため、外部からの酸素及び水分等の進入を防止し、電界発光層及び第2導電体層の劣化を防止することができる。
【0023】第8発明及び第9発明にあっては、第2導電体層と保護層との間に吸湿層を備えているため、外部から酸素及び水分等が進入した場合であっても電界発光層及び第2導電導体層の劣化を防止することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。図2は、本発明に係る有機電界発光表示素子の断面図である。本発明の有機電界発光表示素子は、透光性基板111上に陽極層112、正孔注入層113、正孔輸送層114、有機電界発光層115、電子輸送層117及び陰極層118を積層し、陰極層118上に外部の酸素又は水分等の侵入を遮断するシリコン系の絶縁性物質からなる薄膜の保護層130を積層して形成する。また、後述するように、保護層130の表面にエキシマレーザ等のエネルギービームを照射して熱処理を行うことにより、高密度均質膜131を形成する。
【0025】図3及び図4は、本発明に係る有機電界発光表示素子の製造工程を説明する断面図である。図3(a)に示すように、透光性基板111上に陽極層112を形成する。透光性基板111は、ガラス、石英ガラス、又は透明プラスチック等の透光性を有する材料の中から一つを選択して使用する。陽極層112は、化学気相蒸着法、スパッタリング法、真空蒸着法、そして電子ビーム法の何れか方法により積層し、フォトリソグラフィ技術を利用してパターンニングする。陽極層112は、厚さが100〜10000Å程度であって、好ましくは、100〜3000Å程度の厚さになるように積層する。また可視光の透過率が100%に近いものが好ましいが、30%程度以上の透過率を有する材料陽極層112を使用することができる。陽極層112は、仕事関数が4.0eV以上の金属、合金、電気導電性を有する化合物、又はその混合物を使用する。例えば、陽極層112は、酸化インジウムスズ(ITO)、インジウム亜鉛化合物(IXO)、酸化亜鉛(TO)、錫、金、白金、パラジウム等の単層膜又は多層膜を形成してなるものである。
【0026】次いで、図3(b)に示すように、陽極層112上に有機層として正孔注入層113、正孔輸送層114、有機電界発光層115、及び電子輸送層117を順に積層する。有機層として低分子有機物質を使用する場合、正孔注入層113は、200〜600Å程度、正孔輸送層114は、200〜600Å程度、有機電界発光層115は、400〜500Å程度、そして電子輸送層117は、600Å程度の厚さに積層する。
【0027】正孔注入層113は、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン、又は、4,4’,4”−トリス(ジ−p−メチルフェニルアミノ)トリフェニルアミンのようなスターバースト型分子を有する有機物質により形成される。正孔注入層113は、電圧の印加時に陽極層112の正孔を正孔輸送層114に注入させる役割をする。
【0028】正孔輸送層114は、N,N’−ジフェニル−N,N’−(4−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル4,4’−ジアミン、又は、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルのような有機物質により形成する。正孔輸送層114は、注入された正孔を電界により有機電界発光層115に移動させる。
【0029】電子輸送層117は、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム、トリス(8−ヒドロキシキノリン)ガリウム、1,3−ビス[5−(p−ターシャリーブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾ−ル−2−イル]ベンゼン等のような有機物質から形成される。前記の電子輸送層117は、電界印加時に陰極層118から注入される電子を有機電界発光層115に移動させる。
【0030】有機電界発光層115は、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム、トリス(4−メチル−8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム、3−(2’−ベンズチアゾリル)−7−N,N−ジエチルアミノクマリン、9,18−ジヒドロキシベンゾ[h]ベンゾ[8]キノ[2,3−b]アクリジン−7,16−ジオン、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニル−エテン−4−イル)−ジフェニル、ペリレン等のような有機物質から形成される。有機電界発光層115では、正孔輸送層114から伝送された正孔と電子輸送層117を介して伝送された電子とが再結合して発光する。有機電界発光層115は、この発光を持続させる役割を担っている。
【0031】高分子有機物質により形成される有機電界発光素子の場合には、PEDOT、PSS等のようなバッファ層及びポリフェニルビニレン誘導体等により有機電界発光層115を構成した有機積層構造であって、スピンコート法、ディッピング、熱真空蒸着法等のような方法を利用して形成する。この場合、バッファ層は、200〜900Å、有機電界発光層115は、200〜900Å程度の厚さに形成する。
【0032】次いで、図3(c)に示した如く、電子輸送層117上に陰極層118を形成する。陰極層118は、仕事関数が4.0eVより小さな金属により形成されており、例えば、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、リチウム、金、銀、ナトリウム等の単層膜、多層膜、又はこれらの混合物から形成される。陰極層118は、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム又はCVD法により形成され、膜の厚さは、100〜10000Å、より好ましくは、100〜3000Å程度の厚さに形成する。また、陰極層118と電子輸送層117との間に電子注入効率を増加させるために、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、酸化リチウム(Li2 O)、リチウム−アルミニウム合金等を約1〜100Åの厚さに成膜形成してもよい。
【0033】次いで、図4(d)に示すように、陰極層118を含む透光性基板111上に保護層130を積層する。保護層130は、有機電界発光層115及び陰極層118が劣化することを抑制するために、酸素及び水分等の侵入を防止できるシリコン系列の絶縁物質により形成する。保護層130は、シリコン酸化物(SiO2 )、シリコン窒化酸化物(SiOxy )、又はシリコン窒化物(Si34、又はSiNx )の中から選択された単層膜、又は、多層膜であり、陰極層118の表面からの厚さが、100〜50000Å、より好ましくは、100〜3000Å程度になるように形成する。保護層130の積層方法は、化学気相蒸着法、スパッタリング法、真空蒸着法、又は電子ビーム法等を使用する。
【0034】化学気相蒸着法を用いてシリコン系列の絶縁物質により保護層130を形成する場合、膜の形成温度は、25〜300℃であって、キャリアガスに不活性気体を利用する。SiNx 膜の形成には、反応ガスとしてSiH4 、NH3 、N2 を使用し、SiNO膜の形成には、反応ガスとしてSiH4 、N2 O、NH3 、N2 を使用し、SiO2 膜の形成には、反応ガスとしてSiH4 及びO2 を使用する。スパッタリング法を使用してシリコン系列の絶縁物質により保護層130を形成する場合、膜の形成温度は、25〜300℃であって、キャリアガスに不活性気体を利用する。SiNx 、SiNO、SiO2 の各膜は、各々SiNx 、SiNO、SiO2 のターゲットを利用する。また、シリコン系列の絶縁性物質、樹脂膜、そしてシリコン系列の絶縁性物質を順に積層して保護層130を形成するか、又は樹脂膜、シリコン系列の絶縁性物質、そして樹脂膜を順に積層して保護層130を形成することもできる。
【0035】次いで、図4(e)のように、保護層130の欠陥を除去するために、熱処理工程を進行させる。保護層130は、熱成長方法により形成されず、化学気相蒸着法、又はスパッタリング法で積層されるので、シリコンと酸素との間、又はシリコンと窒素との間に不完全な結合が多数発生する。このような不完全な結合により発生する多数の不飽和結合(ダングリング・ボンド)及び多孔性は、保護層130の欠陥の原因となる。すなわち、保護層130のこのような欠陥は、酸素及び水分が透過し得る通路を提供することになるので、これを結晶化して除去する必要がある。
【0036】シリコン系列の化合物から構成された保護層130の欠陥を除去するための熱処理温度は、700〜1100℃程度である。しかし、このような温度は、有機電界発光素子の有機発光層を含む他の構成要素に致命的な影響を与えることになるので、本発明では、エキシマレーザを使用した局部熱処理工程を進行する。保護層130の熱処理は、Ar2 、Kr2 、Xe2 、ArF、KrF、XeCl、そしてF2 の何れかをレーザガスに用いたエキシマレーザを使用する。表1は、各エキシマレーザの波長を示す。
【0037】
【表1】


【0038】ここで、エキシマレーザの熱処理パワーは、10〜2000mJ/cm2 、周辺温度は、25〜300℃の条件下で数分間熱処理する。保護層130を熱処理する瞬間の温度は、結晶化が可能な温度である。そして回数は必要に応じて1回又は2回以上実施する。
【0039】熱処理後の保護層130は、シリコンと酸素又は窒素との結合からなる網状構造を有し、前述の不飽和結合に結合された水素の量が最小化した高密度均質膜131が形成される。高密度均質膜131は、熱処理後の厚さが10〜10000Å、より好ましくは、100〜2000Å程度の厚さに形成される。そして、網状構造をなし、水素含有量が減少されるので外部から湿気及び酸素の侵入により有機電界発光層115及び陰極層118が劣化することを防止する。
【0040】また、有機電界発光素子内で発生するガス放出物質による劣化を防止するために、陰極層118と保護層130との間に吸湿層として酸化カルシウム(CaO)、酸化イットリウム(Y23 )、そして酸化マグネシウム(MgO)等の吸湿性及び吸着性が良い酸化金属層を100〜50000Å、より好ましくは、200〜10000Å程度の厚さに形成してもよい。
【0041】次いで、透光性基板111上に前述の各層を覆うように、ガラス、AS樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(HIPS)、PMMA、ポリカーボネート及び金属からなる外部保護ギャップを接着封止して保護層130の機械的強度を補強することもできる。
【0042】図5は、保護層130に用いられるシリコン窒化膜の結合構造を示す模式図である。図5(a)は、シリコン系列の絶縁物質からなる保護層130を熱成長方法ではない化学気相蒸着法、スパッタリング法、真空蒸着法等により積層するので、シリコンと窒素とが完全な結合をなし得ず多数の不飽和結合手140が存在し、保護層130は多孔性を有する。そして、不飽和結合手140が水素と結合して保護層130内に水素含有量を増加させる。このような水素含有量の増加及び多孔性は、酸素及び水分の侵入が可能な原因を提供する。
【0043】図5(b)は、エキシマレーザを使用して熱処理工程を実施した後の保護層130の結合構造である。熱処理により保護層130は、急速に結晶化して不飽和結合手140と水素との結合が切断し、シリコンと窒素との間に結合手141が形成されて不飽和結合手140が除去される。不飽和結合手140の除去は、水素の含有量を減少させ、また保護層130の多孔性も最小化される。したがって、エキシマレーザを照射した保護層130の表面には、酸素及び水分の侵入を抑制できる均質な高密度均質膜131が形成される。
【0044】
【発明の効果】前述したように、本発明による場合は、シリコンと酸素または窒素との結合からなる保護層を素子の他の構成要素に影響を与えず局部的に熱処理して、水素含有量及び多孔性を最小化させた均質膜を形成することで、外部の酸素及び水分等の侵入を防止して、有機電界発光層及び陰極層が劣化することを防止する。また、従来のスパッタ法、CVD法で外部酸素及び水分を遮断できる保護層を形成するために、少なくとも2〜5時間以上の時間を必要とするが、本発明のように保護層のレーザ熱処理工程は数分しかかからず、工程時間を低減することができる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の金属キャップを使用する有機電界発光表示素子の断面図である。
【図2】本発明に係る有機電界発光表示素子の断面図である。
【図3】本発明に係る有機電界発光表示素子の製造工程を説明する断面図である。
【図4】本発明に係る有機電界発光表示素子の製造工程を説明する断面図である。
【図5】保護層に用いられるシリコン窒化膜の結合構造を示す模式図である。
【符号の説明】
111 透光性基板
112 陽極層
113 正孔注入層
114 正孔輸送層
115 有機電界発光層
117 電子輸送層
118 陰極層
130 保護層
131 高密度均質膜
140 不飽和結合手
141 結合手

【特許請求の範囲】
【請求項1】 透光性基板に第1導電体層、有機物質を含む電界発光層、及び第2導電体層を順次積層してなる有機電界発光表示素子の製造方法において、前記第2導電体層を積層した後、前記第1導電体層、電界発光層、及び第2導電体層を覆う保護層を前記透光性基板に形成し、前記保護層の一部を熱処理することを特徴とする有機電界発光表示素子の製造方法。
【請求項2】 前記保護層にエネルギービームを照射することにより熱処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光表示素子の製造方法。
【請求項3】 前記エネルギービームは、10〜2000mJ/cm2 の出力を有するエキシマレーザであることを特徴とする請求項2に記載の有機電界発光表示素子の製造方法。
【請求項4】 前記エキシマレーザは、Ar2 、Kr2 、Xe2 、ArF、KrF、XeCl、又はF2 の何れかをレーザガスに用いたエキシマレーザであることを特徴とする請求項3に記載の有機電界発光表示素子の製造方法。
【請求項5】 透光性基板に第1導電体層、有機物質を含む電界発光層、及び第2導電体層を順次積層してある有機電界発光表示素子において、前記第1導電体層、電界発光層、及び第2導電体層を覆う保護層を前記透光性基板に備え、該保護層の一部に熱処理がされていることを特徴とする有機電界発光表示素子。
【請求項6】 前記保護層の表面の一部又は全部が高密度化していることを特徴とする請求項5に記載の有機電界発光表示素子。
【請求項7】 前記保護層は、シリコン酸化物、シリコン窒化物、又はシリコン窒化酸化物の何れかを含む単層膜若しくは多層膜であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の有機電界発光表示素子。
【請求項8】 前記第2導電体層と前記保護層との間に吸湿層を備えることを特徴とする請求項5乃至請求項7の何れかに記載の有機電界発光表示素子。
【請求項9】 前記吸湿層は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、又は酸化イットリウムを含むことを特徴とする請求項8に記載の有機電界発光表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2003−7454(P2003−7454A)
【公開日】平成15年1月10日(2003.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−379441(P2001−379441)
【出願日】平成13年12月13日(2001.12.13)
【出願人】(501461782)シーエルディー株式会社 (1)
【Fターム(参考)】