説明

有機電解液一次電池

【課題】放電途中の有機電解液一次電池を高温で保存した場合に生じる、電池の内部抵抗の上昇を抑制した有機電解液一次電池を提供する。
【解決手段】負極2、正極1およびセパレータ3が、負極が正極の外側に配されるように渦巻き状に構成された有機電解液一次電池で、正極の最外周端部を絶縁層10で挟み、前記絶縁層で挟まれた部分の正極合剤14の一部が存在しない構成にすることにより、対向する負極活物質の分散が抑制され、負極の消耗に起因する内部抵抗上昇を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム等のアルカリ金属を負極とし、放電途中の電池が高温環境下にさらされた場合の急激な内部抵抗上昇を抑制した有機電解液一次電池に関するものであり、さらに詳しくは、正負極およびセパレータからなる電極組立体の最外周近傍の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムなどのアルカリ金属を負極活物質とし、酸化物などを正極活物質とする有機電解液一次電池は、正負極の起電力差が大きいため、高電圧および高エネルギー密度を有する電源として汎用されている。この種の有機電解液一次電池は、正極合剤が負極活物質であるアルカリ金属を受け入れることにより放電が進行する。またこの種の有機電解液一次電池は、放電特性と長期保存特性とに優れていることから近年に急速に需要が拡大し、カメラ等の数多くの機器に使用されている。
【0003】
また、特許文献1に示されるように、この種の有機電解液一次電池は、一般に帯状の正負極の間にセパレータを介在して、負極が正極の外側に配されるように、渦巻き状に巻回構成された電極組立体を備えている。また負極活物質であるアルカリ金属を十分に利用するため、正極に対して負極を長くした上で、負極集電体の接続部を負極の最外周端部とし、かつこの部位はセパレータを介して正極と対向させない構成にすることで高容量化を図っている。
【特許文献1】特開2001−085066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、有機電解液一次電池を放電した際に負極活物質が対向している正極合剤に侵入するが、正極最外周端部の絶縁層に挟まれた正極合剤には、絶縁層が遮蔽物として存在するために、対向する負極活物質が侵入することができない。従って、放電が進行するにつれて、正極最外周端部の絶縁層に挟まれた部分と他の部分では正極合剤に含まれる負極活物質量に差が生じる。この負極活物質量の濃度差は、濃度拡散により均一になろうとするが、その傾向は、電池温度が高いほど強くなる。従って、放電途中の有機電解液一次電池が60℃などの高温環境下にさらされた場合、正極最外周端部の絶縁層に隣接する正極合剤から、正極最外周端部の絶縁層に挟まれた正極合剤に負極活物質が拡散する。その結果、正極最外周端部の絶縁層に隣接する正極合剤に含まれる負極活物質の減少分を補うために、正極最外周端部の絶縁層の端部に対向する負極活物質がイオン化して消耗し、負極集電体と残存する負極活物質との集電経路が切断されるために、電池の内部抵抗が急激に上昇する。
【0005】
本発明は、以上のような従来の有機電解液一次電池の不都合を解消しようとするものであり、放電途中の有機電解液一次電池の高温環境下での内部抵抗の上昇を抑制した有機電解液一次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の有機電解液一次電池は、最外周端部が絶縁層で挟まれた正極の、絶縁層で挟まれている部分の少なくとも一部に正極合剤が存在しない箇所を設けた構成となっている。
【0007】
このような構成にすることにより、負極集電体と残存する負極活物質との集電経路を保持することができ、電池の内部抵抗の急激な上昇を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、正極の絶縁層に挟まれた部分の少なくとも一部に正極合剤の存在しない箇所を設けることにより、放電途中の有機電解液一次電池が高温環境下にさらされた場合に、正極の絶縁層に隣接する正極合剤から、前記絶縁層に挟まれた正極合剤への負極活物質の拡散を抑制し、絶縁層の端部に対向する負極の消耗を抑えることができる。その結果、負極集電体と残存する負極活物質との集電経路を保持することができ、電池の内部抵抗の急激な上昇を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は前記のように、正極の絶縁層に覆われ挟まれた部分の一部に正極合剤の存在しない箇所を設けることにより、放電途中の有機電解液一次電池が高温環境下にさらされた場合に、負極活物質の正極への拡散と消耗を防止し、電池の内部抵抗の急激な上昇を抑制することが可能となる。
【0010】
またその際、絶縁層で挟まれている部分の正極合剤が長尺方向に分断されるように存在しない箇所を設けると、正極合剤に進入した負極活物質は分断部により絶縁層に挟まれている残存する正極合剤へは濃度拡散できなくなるため、より好ましい。
【0011】
また、絶縁層で挟まれている部分全体が正極合剤の存在しない構成にすると、負極活物質が侵入できる正極合剤体積が減るため、負極活物質の消耗が量的にも抑制される。また、その部分の正極厚みが薄くなり、結果として電極組立体の外径が小さくなり、電池ケースへの収容が容易になる点でもより好ましい。
【0012】
本発明の有機電解液一次電池の電極組立体は、前述のように渦巻き状に構成されている。この電極組立体は、電池ケースへの収容性を向上させるために、最外側に摩擦係数の小さいセパレータを配し、負極、セパレータ、正極の順を繰り返すよう巻回構成されている。また負極集電体の接続部は、高容量化のため、負極の最外周側の端部に設けられ、正極と対向しないようにされている。
【0013】
なお、この種の有機電解液一次電池の正極は、ラス芯材に正極合剤を充填、圧延した後、定められた寸法に切断される。その正極端面は、ラス芯材の切断によるバリが発生しやすく、このバリがセパレータを貫通して対向する負極と接触することにより内部短絡が発生する可能性がある。従って、一般的に正極を負極よりも大きくすることで、ラス芯材のバリがセパレータを貫通しても、バリの対向部に負極が存在しない構成にすることで内部短絡対策としている。しかし、電極組立体の最外周部は正極の最外周端部よりも負極を長くした構成となっているため、上述の対策を講じることができない。そのために、正極最外周端部に耐熱性フィルム等の絶縁層を貼り付けて、正極芯材によるバリが発生してもセパレータを貫通しない構成にすることで、内部短絡対策としている。
【0014】
本発明の好ましい実施の詳細な形態について、図を用いて説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態に係る有機電解液一次電池の半断面正面図であり、図2はその電極組立体の断面図であり、図3は電極組立体の外周部分における詳細な断面図である。
【0016】
鉄製の有底円筒状の電池ケース9は負極端子を兼ねており、その内部には正極合剤14を導電性有孔の正極芯材12上に充填した後、正極合剤14の一部を剥離し、露出した正極芯材12にステンレス構成の正極集電体4を溶接した帯状の正極1と、セパレータ3と、負極活物質であるアルカリ金属あるいはアルカリ金属を主成分とする合金からなる帯状の負極2とを順次重ね合わせ渦巻き状に巻回構成された電極組立体が、電気的絶縁のための上部絶縁板6と下部絶縁板7とに挟まれる形で、有機電解液と共に収容されている。電池ケース9の上部開口端部は、封口板8の周縁部にパッキンを介してかしめることにより密閉構造を保っている。
【0017】
正極1の活物質には、二酸化マンガン、酸化銅などの金属酸化物あるいはフッ化黒鉛、硫化鉄などを単独あるいは混合して用いることができる。導電剤としては、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックや、各種黒鉛を単独あるいは混合して用いることができる。また結着剤としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ヘキサフルオロプロピレン、スチレンーブタジエン共重合体などを単独あるいは混合して用いることができる。また、正極芯材12は、対向する負極の活物質を理論上全て受け入れることができるよう、パンチングメタルやラスメタルなどの有孔体を採用し、正極芯材12の両面に存在する正極活物質を活用できる構造とする必要がある。
【0018】
負極2には、負極活物質をリチウムとし芯材を兼ねるリチウム箔や、負極活物質がリチウム合金であり芯材を兼ねるLi−Al、Li−Si、Li−Sn、Li−Pbなどのリチウム合金箔を用いることができる。
【0019】
セパレータ3にはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン製微孔性フィルムを用いることができる。
【0020】
負極2の最外周端部には、集電のための負極集電体5が固定テープ13により接続されている。この負極集電体5が接続されている箇所は、高容量化に適した設計となるよう正極1と対向しない部位に配置されている。一方、正極1の最外周端部には、帯状に切断する際に形成される芯材のバリがセパレータ3を突き破って負極2と短絡するのを防止するため、絶縁層10が貼り付けられている。絶縁層10には、ガラス繊維、アラミド繊維など、電池の使用環境下において安定している材料を用いることができる。
【0021】
正極の最外周端部の絶縁層10で挟まれた部分の正極合剤14の少なくとも一部に正極合剤が存在しない正極合剤剥離部11を作製することで、放電途中の電池を高温保存した場合に、負極集電体5と残存する負極活物質との集電経路を保持し、電池の内部抵抗の上昇を抑制することが可能となる。
【0022】
なお、正極最外周端部の絶縁層10で挟まれた部分に正極合剤14が存在しない構成にすることにより、その部分の正極厚みが薄くなり、結果として電極組立体の外径が小さくなるためより好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0024】
(実施例1)
正極活物質として二酸化マンガンが100重量%、導電剤としてケッチェンブラックが4重量%、結着剤としてPTFEエマルジョンが6重量%(固形分)からなる混合物からなる正極合剤を、芯材であるステンレス鋼のエキスパンドメタルに充填して、正極フープを作製した。この正極フープを所定の長さに切断して得た正極のの中間部から正極合剤を剥離して、正極集電体を溶接した。さらに正極最外周端部となる側辺の、巻き回り後に内側となる部分に絶縁層としてアラミド樹脂製のテープを貼り付けるが、その前に、アラミド樹脂テープに挟まれた部分の正極合剤を図4に示すように直径2mmの円形に剥離し、帯状正極を作製した。
【0025】
一方、負極活物質と芯材とを兼ねたリチウム箔を所定の長さに切断し、後の巻き工程において最外周端となる部分に負極集電体を圧着した。この集電体圧着部にアラミド樹脂製のテープを貼り付け、帯状の負極を作製した。
【0026】
前記の正負極間に、セパレータとしてPP製微孔性フィルムを介在させ、電極組立体を渦巻き状に巻回構成した。この電極組立体の上下を絶縁板で挟み、鉄製の有底円筒状の電池ケースに挿入した後、プロピレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンを体積比1:1の割合で混合した溶媒に、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(TFS)を0.5モル/リットルの濃度で溶解させた電解液を注入して蓋部を密閉し、図3に示す構成を有する実施例1の円筒形の有機電解液一次電池を作製した。
【0027】
(実施例2)
正極の絶縁層端部直下の正極合剤を、図5に示すように長尺方向に分断された帯状に幅1mm剥離した以外は実施例1と同様に作成した有機電解液一次電池を実施例2とする。
【0028】
(実施例3)
正極最外周端部の絶縁層で挟まれた正極合剤を図6に示すように全て剥離した以外は、実施例1と同様に作製した有機電解液一次電池を、実施例3とする。
【0029】
(比較例)
正極最外周端部の絶縁層で挟まれた正極活物質を剥離しない以外は、実施例1と同様に作製した有機電解液一次電池を、比較例とする。
【0030】
前述した実施例および比較例の電極組立体および有機電解液一次電池に対して、以下に示す評価を行った。
【0031】
《電極組立体の外径検査》
各実施例および比較例ごとに100個の電極組立体を用意し、電池ケースに挿入する前に電極組立体の最大外径を測定した。電池ケースの内径寸法よりも大きいものを不良とした。
【0032】
《内部抵抗試験》
前述した外径検査を通過した良品の電極組立体を有機電解液一次電池に構成し、100mAの放電電流で放電電圧が1.5Vに達するまで放電した。その後、60℃の恒温槽に入れて保存し、一ヶ月ごとに電池を取り出し、常温で4時間保管した後電池の内部抵抗を測定し、放電直後の内部抵抗の平均値に対して2倍以上の値を示した有機電解液一次電池の個数を数えた。
【0033】
電極組立体の外径不良の発生数と、電池の内部抵抗が上昇した電池の個数を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
以下、表1の結果に基づいて記す。
【0036】
まず、比較例は、放電途中の有機電解液一次電池を60℃で保存した場合に、保存期間が長くなればなるほど、電池の内部抵抗が上昇した有機電解液一次電池が増加した。前述のように比較例では正極最外周端部の絶縁層に挟まれた正極合剤が存在するため、有機電解液一次電池を放電した場合に、絶縁層に挟まれた正極合剤に侵入する負極活物質は他の正極合剤と比較して少ない。放電途中の有機電解液一次電池を高温保存した時には、正極絶縁層に挟まれた正極合剤に隣接する正極合剤から負極活物質が拡散し、最終的には正極絶縁層に対向する負極活物質が消耗する。その結果、負極集電体と残存する負極活物質が切断されるために、電池の内部抵抗が急激に増加したと考えられる。
【0037】
これに対して、正極最外周端部の絶縁層で挟まれた正極合剤を剥離した実施例1、実施例2、実施例3は、放電途中の有機電解液一次電池を保存した場合の内部抵抗の上昇が抑制されている。この理由として、正極最外周端部の絶縁層で挟まれた正極合剤を剥離することで、前記絶縁層に隣接する正極合剤に含まれる負極活物質の拡散が抑制され、負極集電体と残存する負極活物質との集電経路を保持することができたと考えられる。
【0038】
正極最外周端部の絶縁層で挟まれた正極合剤を部分的に剥離した実施例1に比べて、実施例2は正極合剤が分断される形で剥離されているため、絶縁層で挟まれていない部分から挟まれている部分への正極合剤中での負極活物質の濃度拡散が防止されるため内部抵抗上昇抑制の効果が高い。
【0039】
また実施例1、実施例2に対し、正極最外周端部の絶縁層に挟まれた部分の正極合剤を全て剥離した実施例3は、正極最外周端部の絶縁層で挟まれた正極部分の厚みをより薄くすることができるため、外径検査における不良数を減少させることができるため、より好ましい結果を示した。
【0040】
なお、前述した実施例では剥離することで絶縁層に覆われ挟まれた部分に正極合剤の存在しない箇所を設けるとしたが、正極合剤の充填時にあらかじめ充填しない箇所を設けた構成でも良い。
【0041】
また、前述の実施例では剥離を芯材の両面で行ったが、片面のみの剥離でも内部抵抗上昇の抑制に効果があった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、負極活物質の正極合剤への拡散を防止し、負極の消耗が抑制され、負極集電体と残存する負極活物質との集電経路を保持することができ、電池の内部抵抗の上昇を抑制することが可能となる。これにより、放電途中の有機電解液一次電池が高温環境下にさらされた場合に起きる、電池の内部抵抗の上昇を抑制した有機電解液一次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施例に係る有機電解液一次電池の半断面正面図
【図2】本発明の一実施例に係る電池電極組立体の断面図
【図3】本発明の一実施例に係る有機電解液一次電池の電極組立体の要部を示す断面図
【図4】本発明の一実施例に係る正極の要部斜視図
【図5】本発明の他の実施例に係る正極の要部斜視図
【図6】本発明の他の実施例に係る正極の要部斜視図
【符号の説明】
【0044】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 正極集電体
5 負極集電体
6 上部絶縁板
7 下部絶縁板
8 封口板
9 電池ケース
10 絶縁層
11 正極合剤剥離部
12 正極芯材
13 固定テープ
14 正極合剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質であるアルカリ金属あるいはアルカリ金属を主成分とする合金からなる帯状の負極と、少なくとも正極活物質を含む正極合剤を芯材上に形成した帯状の正極と、帯状のセパレータと、有機電解液と、これらを収容する電池ケースを具備した有機電解液一次電池であって、
前記負極と前記正極との間に前記セパレータを挟みこむように渦巻き状に巻回された電極組立体をもち、
前記正極の最外周端部は絶縁層で挟まれており、
前記絶縁層で挟まれている部分の少なくとも一部に正極合剤が存在しない箇所を設けたことを特徴とする有機電解液一次電池。
【請求項2】
前記絶縁層で挟まれている部分の正極合剤が長尺方向に分断されるように正極合剤が存在しない箇所を設けたことを特徴とする請求項1記載の有機電解液一次電池。
【請求項3】
前記正極の絶縁層で挟まれている部分に正極合剤を設けない請求項1記載の有機電解液一次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−221833(P2006−221833A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31386(P2005−31386)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】