説明

有機ELダイオード及び有機ELダイオードの効率改善方法

【課題】従来の有機ELダイオードを超える長寿命化を達成し、同時にエネルギー変換効率に優れ、低い消費電力で駆動可能な有機ELダイオードを提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を達成するため、正孔供給層/有機発光層/電子供給層の3層の基本層構成を備える有機ELダイオードであって、前記有機発光層の表面にある前記電子供給層は、電子輸送層/バッファ層/陰極の3層の構造を備え、前記バッファ層はホスト材料であるAlqにフッ化アルカリ又はアルカリ土類フッ化物をドープした成分を用い、陰極は貴金属成分を用いて構成したことを特徴とする有機ELダイオード等を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、有機ELダイオード及び有機ELダイオードの効率改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELダイオード(以下、単に「OLED」と称する。)は、この技術領域で広く知られる発光素子である。図11に示すように、典型的なOLED10は、基板12、陽極14、正孔輸送層(HTL)16、有機発光層18、電子輸送層20と、陰極22を含む。この他、正孔注入層15を陽極14と正孔輸送層16との間に形成して用いる場合がある。また、バッファ構造(層)21を電子輸送層20と陰極22との間に形成して用いる場合もある。
【0003】
特許文献1に開示されているように、一般的なOLED(特許文献1参照)の構成は次のようになる。OLEDの陽極は、ITOで構成されるのが一般的である。そして、正孔注入層15には、フッ素系ポリマーCF(Xは、1または2)を用いて構成している。電子輸送層は、4,4’−Bis[N−(1−naphthyl)−N−phenylamino]biphenyl(NPB)を用いて構成している。有機発光層は、Alq:C545Tを用いて構成している。ここで、Alq(アルミキノリノール錯体)は、Tris(8−hydroxyquinoline)aluminumであり、C545Tは、1H,5H,11H−[1]Benzopyrano[6,7,8−i]quinolizin−11−one,10−(2−benzothiazolyl)−2,3,6,7−tetrahydro−1,1,7,7−tetramethyl−(9CI)である。そして、電子輸送層は、Alqで構成している。更に、バッファ構造(層)は、LiFを用いて構成された第1バッファ層と、銅フタロシアニン(CuPc)を用いて構成された第2バッファ層を含むものとしている。また、陰極は、Liを3wt%程度含有したAlで構成することが行われている。
【0004】
また、特許文献2に開示されているのは、OLEDの正孔注入層は、IDE406(IDEMITSU社製)で構成されている。そして、陰極はアルミニウムで構成される。電子輸送層は、Alqより構成される。真空雰囲気下で形成したLiFの薄層を、バッファ層として陰極と電子輸送層の間に積層配置している。
【0005】
特許文献3に言うエレクトロルミネセント素子(OLEDの別称)では、その正孔注入層には15nm厚さのCuPc層、正孔注入層には15nm厚さのNPB層を採用している。そして、電子輸送層は75nm厚さのAlq層、バッファ層は0.5nm厚さのフッ化リチウム(LiF)層を採用している。そして、当該LiF層は、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)、酸化リチウム(LiO)又は酸化マグネシウム(MgO)に置き換えることが可能としている。そして、陰極には、アルミニウム、又はMg−Ag材料を用いて構成することが開示されている。また、銀又は金の材料も陰極に用いることができることが記載されている。
【0006】
図12に、従来のOLED10の構造の一例を示す。緑色OLEDの製造の過程では、陰極材料は、効率よく電子注入を行い、正孔との再結合を効率よく行わせるため、通常、仕事関数の低い材料を用いて構成され、陰極と電子輸送層との間のエネルギー障壁を低下させる。例えば、Alq(LUMO=2.9eV)を用いて電子輸送層20を構成した時、例えば、陰極22の構成材料としてカルシウム(2.9eV)とマグネシウム(3.6eV)とからなる材料等を用いることが好ましい。しかし、カルシウムとマグネシウムとからなる陰極材料は、保存と製造の過程で多くの問題を生じる。また、アルミニウムを陰極22として用いる時、LiF又はLiOの無機物の薄層をバッファ層21として、陰極22とAlqからなる電子輸送層20の間に形成することも好ましい。このような電極構造は、仕事関数を効果的に低下させたものである点で好ましい。しかし、バッファ層21としてのLiFを大面積の領域に塗布しようとすると、塗布した膜厚の均一性を達成するのが困難である。よって、LiFの使用は、OLEDの使用寿命に影響する可能性がある。
【0007】
【特許文献1】米国特許第6579629号
【特許文献2】米国特許第2004/0157084号
【特許文献3】米国特許第5776623号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のことから、本件発明において、従来のOLEDを超える長寿命化を達成し、同時に、従来を超えるエネルギー効率を示し、より低い消費電力で駆動可能なOLEDを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、以下のような有機ELダイオード及び有機ELダイオードの効率改善方法を採用する。
【0010】
本件発明に係る有機ELダイオード: 本件発明に係る有機ELダイオードの基本層構成は、正孔供給層/有機発光層/電子供給層の3層の層構成を備え、前記有機発光層の表面にある前記電子供給層は、電子輸送層/バッファ層/陰極の3層の構造を備え、前記バッファ層はホスト材料であるAlqにフッ化アルカリ又はアルカリ土類フッ化物をドープした成分を用い、陰極は貴金属成分を用いて構成したことを特徴とするものである。
【0011】
前記有機ELダイオードは、銀、金等の貴金属層と、フッ化アルカリ又はアルカリ土類フッ化物をドープしたAlq材料(Alq:CsFと表示する場合がある)を含むものと言える。そして、この貴金属層は、スパッタリング堆積法によって積層形成することができる。前記貴金属の仕事関数は、実質的に4.2eV以上である。
【0012】
そして、本件発明に係る有機ELダイオードの前記バッファ層は、有機発光層と接する第1バッファ層と陰極と接する第2バッファ層との2層構成であり、第1バッファ層はホスト材料であるAlqにフッ化アルカリ又はアルカリ土類フッ化物をドープした成分からなり、前記第2バッファ層は、CuPcを主成分として構成されたものとすることが好ましい。ここで、明記しておくが、複数層のバッファ層を設ける場合には、有機発光層と接する側のバッファ層から順に、第1バッファ層、第2バッファ層、第3バッファ層と称することとする。このようにCuPcで構成したバッファ層を設けるのは、陰極をスパッタリングで形成する過程で、ドープされたAlq層の表面の物理的損傷及び粗さが、陰極形成に与える影響を軽減するため、ドープされたAlq層の上に、予めCuPcで構成したバッファ層を追加形成することが好ましいからである。
【0013】
また、本件発明に係る有機ELダイオードの前記バッファ層は、前記バッファ層は、有機発光層と接する第1バッファ層と陰極と接する第2バッファ層との2層構成であり、第1バッファ層はAlqを用いて構成され、前記第2バッファ層はホスト材料であるAlqにフッ化アルカリ又はアルカリ土類フッ化物をドープした成分からなるものとすることも好ましい。
【0014】
そして、より好ましくは第2バッファ層と陰極との間に、CuPcを主成分として構成された第3バッファ層を備えるものとすることも好ましい。上述と同様に、陰極をスパッタリングで形成する過程で、ドープされたAlq層の表面の物理的損傷及び粗さが、陰極形成に与える影響を軽減するため、予めCuPcで構成したバッファ層を追加形成することが好ましいからである。
【0015】
本件発明に係る有機ELダイオードの前記バッファ層の構成に、ホスト材料であるAlqに異種成分をドープして用いる場合には、ドープ種としてCsFを用いる事が好ましい。
【0016】
そして、本件発明に係る有機ELダイオードの前記陰極は、貴金属である銀、金、白金よりなる群より選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて構成したものであることが好ましい。
【0017】
また、本件発明に係る有機ELダイオードの前記電子供給層を構成する電子輸送層は、Alqを主成分として用いて構成する事が好ましい。
【0018】
本件発明に係る有機ELダイオードの前記正孔供給層は、前記有機発光層に隣接した正孔輸送層及び陽極を含むものである。
【0019】
そして、本件発明に係る有機ELダイオードにおいて、前記正孔輸送層と前記陽極との間に正孔注入層を設けることが好ましい。
【0020】
本件発明に係る有機ELダイオードの効率改善方法: 本件発明に係る有機ELダイオードの効率改善方法は、上記のいずれかに記載の有機ELダイオードの構成から、その効率改善方法は容易に理解できる。
【0021】
即ち、本件発明に係る有機ELダイオードの効率改善方法は、実質的に透明で光透過性のある基板を用意し、前記基板の上に陽極を形成し、その上に正孔輸送層を形成し、その上に有機発光層を形成し、その上に電子輸送層を形成し、その上に前記陰極と前記電子輸送層間のエネルギー障壁を減少させるためホスト材料であるAlqにフッ化アルカリ又はアルカリ土類フッ化物をドープした成分で少なくとも1層のバッファ層を形成し、前記バッファ層の上に仕事関数が4.2eV以上の貴金属成分で陰極を構成する各ステップを含むことを特徴としたものである。
【0022】
本件発明に係る有機ELダイオードの効率改善方法において、前記基板の上に陽極を形成し、正孔輸送層を形成する前に、陽極上に正孔注入層を形成することが好ましい。
【0023】
上記本件発明に係る有機ELダイオードの効率改善方法において、前記バッファ層に対するドープ種は、CsFであることが好ましい。
【0024】
そして、本件発明に係る有機ELダイオードの効率改善方法前記バッファ層(第1バッファ層)の形成と前記陰極形成の間に、更にCuPcを主成分として構成した材料で第2バッファ層を形成し、二層のバッファ層を形成するステップを含む事が好ましい。
【0025】
更に、本件発明に係る有機ELダイオードの効率改善方法において、前記電子輸送層形成と前記バッファ層(第2バッファ層)形成との間に、更に第1バッファ層としてAlqで構成した層を形成し、二層のバッファ層を形成するステップを含む事が好ましい。
【0026】
そして、上述の第2バッファ層の形成と陰極の形成との間に、CuPcより構成される第3バッファ層を形成する工程を含むことが更に好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本件発明に係るOLEDは、貴金属を陰極材料とした点に特徴を有し、このような貴金属で陰極を構成することで、OLEDの長寿命化が可能となる。そして、この貴金属の仕事関数は4.2eV以上であり電子輸送のエネルギー障壁はむしろ高くなる。しかし、貴金属で構成した陰極と主にAlq(LUMO=2.9eV)で構成される電子輸送層と間のエネルギー障壁を低くするため、フッ化アルカリ(例えば、CsF)又はアルカリ土類フッ化物をドープしたAlq材料を配することで、電子輸送が従来のOLEDを超えるものとなる。その結果、本件発明に係るOLEDは良好なエネルギー効率を備えているため、従来のOLEDと同等の発光状態及び色調であれば、より低い消費電力で駆動可能なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本件発明に係るOLEDの技術的特徴、長所が一層明確に理解されるよう、以下に実施形態及び実施例を例示し、図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0029】
本件発明に係るOLEDは、貴金属を陰極材料とした点に特徴を有している。この貴金属の仕事関数は、4.2eV以上である。このように貴金属を電極材料として使用する主な利点は、前記陰極が酸化されにくく、腐食環境に置かれても侵食を受けにくい点にある。そして、本件発明に係るOLEDにおいては、陰極と主にAlq(LUMO=2.9eV)で構成される電子輸送層と間のエネルギー障壁を低くするために、フッ化アルカリ(例えば、CsF)、又はアルカリ土類フッ化物をドープしたAlq材料を電子輸送層と陰極との間に用いることが好ましい。
【0030】
本件発明で表されたOLEDの実施形態の一つを図1に示す。前記OLED100は、実質的に透明な基板112に形成された陽極114、前記陽極上に形成された正孔注入層115、正孔輸送層116、有機発光層118、Alqをホスト材料として構成した電子輸送層120、Alqをホスト材料としてフッ化アルカリをドープした素材で構成した第1バッファ層121、及び銀を主成分とした陰極122から成るものである。
【0031】
また、本件発明でに係るOLEDの他の実施形態を図2に示す。このOLED100’の主な層構成は、図1に示したものと同様であるが、第1バッファ層121と陽極122との間に第2バッファ層123を設けた点が異なる。そして、係る場合の第2バッファ層123は、CuPcによって構成することが好ましい。
【0032】
以下に示す2つの実施例に係るOLEDの層構成も、図1と図2とに示したいずれかの層構成を採用することになる。従って、上述の層構成を基本として、本件発明の技術的思想の範囲を逸脱しない限りにおいては、当業者であれば行い得る微差の範囲の変更や、容易に考え得る要素を付加することは可能である。例えば、正孔輸送層116は、以下の実施例で示した以外に、NPBに代えて、2,6−Bis(di−p−tolylamine)naphthaleneの芳香族第三アミンを用いる事が出来る。同様に、陰極は、銀に代えて、金又は白金を用いることができる。
【0033】
以上のことから、より上位概念的に捉えれば、本件発明に係るOLEDの一般構造は、図3に示すように捉えることが出来る。この図3から分かるように、本件発明に係るOLED100の基本的構成は、基板112の上に形成された正孔供給層200、有機発光層118、電子輸送層120と、電子輸送層の上に形成された電子供給層130を含むのである。そして、ここで言う正孔供給層200は、有機発光層118に正孔を供給するための層であり、少なくとも陽極114と正孔輸送層116とを含むものとして考えている。そして、更に、当該正孔供給層200は、正孔注入層115を含むことも好ましく、図面には当該正孔注入層115を含むものとして表示している。
【0034】
電子供給層130の層構成は、陰極122と第1バッファ層121(図3では図示を省略)とを含む。陰極122は、銀、金又は白金等の仕事関数が4.2eV以下の貴金属によって構成されることができる。第1バッファ層121は、ホスト材料であるAlqに、フッ化アルカリ(例えば、CsF)又はアルカリ土類フッ化物をドープした素材で構成することが好ましい。また、電子供給層130は、陰極122と第1バッファ層121の間に形成された第2バッファ層123(図3では図示を省略)を設けることも可能である。そして、当該第2バッファ層123は、例えばCuPcの材料を用いて構成する事が好ましい。
【0035】
また、図2に示された実施形態では、電子輸送層120、第1バッファ層121と第2バッファ層123とを配することで、電子輸送を効果的に行う層を構成することができる。このとき電子輸送層120、第1バッファ層121、第2バッファ層123を含めて、図4に示すように電子輸送層119として捉えることも可能であり、電子輸送層120の存在が明記されない状態で、直接有機発光層118の上に隣接配置したように表すことも可能である。
【0036】
また、図1に示すように、実施形態の陰極122、第1バッファ層121と電子輸送層120は、有機発光層118を提供できる電子供給層を構成したと捉えることが出来る。同様に、図2に示した他の実施形態では、陰極122、第1バッファ層121、第2バッファ層123と、電子輸送層120も電子供給層を構成したと捉えることが出来る。同様に、図3に示されるもう一つの実施例の電子供給層130と電子輸送層120と、図4に示したもう一つの実施形態として陰極122と電子輸送層120とが電子供給層を構成したと捉えることも出来る。
【0037】
本件発明で表されたOLEDと従来のOLED間の効能の差異を比較するため、以下に実施例と比較例とを挙げる。
【実施例1】
【0038】
実施例1に係るOLEDの層構成は、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/バッファ層/陰極であり、これらの構成成分及び概略厚さ等に関して以下に記載する。ここで、電子供給層130は、バッファ層/陰極である。そして、正孔供給層200は、陽極/正孔注入層/正孔輸送層である。なお、各層の形成方法に関しては、既に公知の種々の手法の使用が可能であり、特段の限定を要さないために省略する。
【0039】
陽極: ITO
正孔注入層: IDE406:F4 60nm
正孔輸送層: NPB 20〜30nm
有機発光層: NPB:Alq:C545T 30〜60nm
電子輸送層: Alq 10nm
バッファ層: Alq:CsF 20nm
陰極: Ag 100nm
【実施例2】
【0040】
実施例2に係るOLEDの層構成は、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/第1バッファ層/第2バッファ層/陰極であり、これらの構成成分及び概略厚さ等に関して以下に記載する。ここで、電子供給層130は、第1バッファ層/第2バッファ層/陰極である。そして、正孔供給層200は、陽極/正孔注入層/正孔輸送層である。なお、各層の形成方法に関しては、既に公知の種々の手法の使用が可能であり、特段の限定を要さないために省略する。
【0041】
陽極: ITO
正孔注入層: IDE406:F4 60nm
正孔輸送層: NPB 20−30nm
有機発光層: NPB:Alq:C545T 30−60nm
電子輸送層: Alq 10nm
第1バッファ層: Alq:CsF 20nm
第2バッファ層: CuPc 10nm
陰極: Ag 100nm
【比較例】
【0042】
この比較例に係るOLEDの層構成は、図12に示す層構成を備え、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/バッファ層/陰極であり、これらの構成成分及び概略厚さ等に関して以下に記載する。ここで、電子供給層130は、第1バッファ層/第2バッファ層/陰極である。そして、正孔供給層200は、陽極/正孔注入層/正孔輸送層である。なお、各層の形成方法に関しては、既に公知の種々の手法の使用が可能であり、特段の限定を要さないために省略する。
【0043】
陽極: ITO
正孔注入層: IDE406:F4 60nm
正孔輸送層: NPB 20−30nm
有機発光層: NPB:Alq:C545T 30−60nm
電子輸送層: Alq 30nm
バッファ層: LiF 0.95nm
陰極: Al 100nm
【0044】
なお、F4は、F4−TCNQの略であり、約2%の重量濃度のP型ドーパントを含むものである。NPB:Alq:C545Tは、ホスト材料としてAlqとNPBとを1:1の重量比とし、緑色を発光させるためのドーパント材料として1wt%のC545Tが混入するよう、共蒸着して形成したものである。
【0045】
以下、上記実施例と比較例との対比した評価結果に関して説明する。
【0046】
A.電流密度(mA/cm
図5で表しているのは、電流密度と印加電圧との関係図である。なお、図5〜図10のA、B、Cとして示した各曲線は、実施例1、比較例、実施例2の評価結果をそれぞれ示している。ここで、図5に示すように、実施例1と実施例2の電流密度は、比較例より良い電流効率を示していることが理解できる。比較例で、実施例と同程度の電流密度を得ようとすれば、約20%程度の電圧を上げて印可しなければ、同レベルの電流密度に達しない。例えば、電流密度を14mA/cmとしたいとき、比較例の場合には6Vの電圧を必要とする。これに対し実施例2は5.1V、実施例1は4.8Vで済むことになり、消費電力を削減することが可能となる。
【0047】
B.輝度(Luminance;cd/m
図6で表しているのは、輝度と印加電圧との関係図である。図6に示すように、同一の印可電圧であれば、実施例1と実施例2の発光効率が、比較例より高いことが分かる。比較例では、実施例と同程度の輝度を得ようとすれば、約20%程度電圧を上昇させて印可しなければ、同レベルの輝度を得ることが出来ない。約20%の電圧を加えなければ、同じ電流密度に達しない。例えば、輝度を1500cd/mとしたいとき、比較例の場合には6Vの電圧印可を必要とする。これに対し、実施例2は5.1V、実施例1は4.8Vで済むことになり、低電圧で省電力で高い発光輝度を得ることが出来る。
【0048】
C.電流効率(Current Efficiency; cd/A)
図7には電流効率と輝度との関係を示し、図8には電流効率と印加電圧との関係を示している。図7から分かるように、輝度を1000(nit=cd/m)としようとするとき、実施例1と実施例2の電流効率は、比較例より約12%程度高いため、1Aあたりの輝度が高いことが分かる。そして、例えば、輝度が2000(nit=cd/m)とする場合には、比較例の電流効率は11.8(cd/A)であり図8によれば6.3Vの印可電圧が必要となる。これに対して、実施例2の電流効率は13.5(cd/A)であり図8より必要な印可電圧は5.2Vで済むことがわかる。同様に、実施例1の電流効率は13(cd/A)であり図8より必要な印可電圧は4.8Vで済むことがわかる。従って、図7及び図8より、同じ輝度を得ようとする限り、実施例1と実施例2との電流効率は、比較例より好ましく、必要な印可電圧も低くなるため、消費電力の削減に大きく寄与する。
【0049】
D.X軸の色度座標図(Chromaticity CIE
図9には、1931 CIE値と電圧との関係を示している。図9から分かるように、実施例1と実施例2の1931 CIE値は、印加電圧が4Vの時、比較例はCIE=0.29、実施例1と実施例2は、CIE=0.28でほぼ同程であるが、全体的に比較例より僅かに低くなっている。この結果、CIE値において、従来のOLEDと同等の色度の再現が可能であることが分かる。なお、1931 CIEとは、国際照明委員会(Commission International de l’Eclairage:CIE)が、色を数値で表わす方法として、1931年にXYZ(Yxy)表色系として制定したもので、XYZ表色系色度図(横軸方向がx、縦軸方向がyで、無彩色は色度図の中心にあり、彩度は周辺になるほど高くなるとした図である。)を基準として、Yが反射率で明度に対応し、xyが色度を表すものであり、1931 CIE(図面中では単に「CIE」と表示)は、xの測定値を意味する。大まかに言えば、xの値が高いほど赤に、xの値が小さいほど緑〜青に近づいて行く。
【0050】
E.Y軸の色度座標図(Chromaticity CIE
図10は、1931 CIE値と電圧との関係図である。図10から分かるように、実施例1と実施例2の1931 CIE値は、比較例とほぼ一致している。例えば、印加電圧が4Vのときをみれば、比較例のCIEと実施例1とのCIE=0.64であり、実施例2のCIE=0.65である。この結果、CIE値において、従来のOLEDと同等の色度の再現が可能であることが分かる。なお、1931 CIE(図面中では単に「CIE」と表示)は、yの測定値を意味する。大まかに見れば、このyの値が高いほど緑に、yの値が小さいほど青に近づいて行く。
【0051】
以上の評価結果から分かるように、本件発明に係る実施例1と実施例2は、比較例である従来のOLEDに比べ、消費電力を削減する事の出来る良好なOLEDであることが理解できる。そして、本件発明に係るOLEDの呈する色度は、XYZ表色系色度図において、従来のOLEDとほぼ同等であることが理解できる。しかし、本件発明に係るOLEDは、従来のOLEDと同等の色調の発光を得ようとすれば、陰極と電子輸送層との間のエネルギー障壁を低下させ、陰極から効率よく電子注入を行うことが出来るため、正孔と電子との再結合を効率よく行わせることが出来るため、印可電圧が低くとも、エネルギー利用効率に優れるため良好な電流密度を示し、低消費電力で高い発光輝度を得ることが可能となる。以下の表1では、本件発明に係るOLEDと、従来のOLEDとの全体的な性能を対比して掲載した比較表である。なお、この表1においては、輝度が2000cd/mの場合を用いて比較している。
【0052】
【表1】

【0053】
以上、本件発明に係るOLEDの好適な実施例を例示したが、これは本件発明を限定するものではなく、本件発明の精神及び範囲を逸脱しない限りにおいては、当業者であれば行い得る変更や要素付加を行うことは可能であり、本件の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本件発明に係るOLEDは、貴金属を陰極材料とした点に特徴を有し、貴金属を電極材料として使用すると、前記陰極が酸化されにくく、腐食環境に置かれても侵食を受けにくいためOLEDの長寿命化が可能となり、フラットディスプレイパネルの製造に応用することで、長寿命化した有機ELディスプレイパネルの供給が可能となる。しかも、本件発明に係るOLEDは、陰極に本来高い仕事関数を示す貴金属を用いると、電子供給の効率が低下することを防止するため、陰極と主にAlq(LUMO=2.9eV)で構成される電子輸送層と間のエネルギー障壁を低くするため、フッ化アルカリ(例えば、CsF)又はアルカリ土類フッ化物をドープしたAlq材料をバッファ層として電子輸送層と陰極との間に用いて欠点を解決した。この本件発明に係るOLEDは、その製造工程に特殊な製造方法を要するものではなく、従来の公知の技術を用いて製造することが可能であるため、製造的見地から見ても新たな製造設備の費用投資を必要とせず好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本件発明に係るOLEDの1実施形態の層構成を示す断面模式図である。
【図2】本件発明に係るOLEDの1実施形態の層構成を示す断面模式図である。
【図3】本件発明に係るOLEDの一つの基本的層構成を示す断面模式図である。
【図4】本件発明に係るOLEDの一つの基本的層構成を示す断面模式図である。
【図5】本件発明に係るOLEDと従来のOLEDとの評価結果(電流密度と印加電圧のと関係)を示すグラフである。
【図6】本件発明に係るOLEDと従来のOLEDとの評価結果(輝度と印加電圧との関係)を示すグラフである。本件発明に係るOLEDの一つの基本的層構成を示す断面模式図である。 を図示している。
【図7】本件発明に係るOLEDと従来のOLEDとの評価結果(電流効率と輝度との関係)を示すグラフである。
【図8】本件発明に係るOLEDと従来のOLEDとの評価結果(電流効率と印加電圧との関係)を示すグラフである。
【図9】本件発明に係るOLEDと従来のOLEDとの評価結果(1931 CIEのX軸の色度座標と印加電圧との関係)を示すグラフである。
【図10】本件発明に係るOLEDと従来のOLEDとの評価結果(1931 CIEのX軸の色度座標と印加電圧との関係)を示すグラフである。
【図11】従来の代表的OLEDの層構成を示す断面模式図である。
【図12】従来の代表的OLEDの層構成を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0056】
10、100、100’ 有機ELダイオード(OLED)
12、112 基板
14、114 陽極
15、115 正孔注入層
16、116 正孔輸送層
18、118 有機発光層
20、120 電子輸送層
21 バッファ構造
22 陰極
119 電子輸送層
121 第1バッファ層
122 陰極
123 第2バッファ層
130 電子供給層
200 正孔供給層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正孔供給層/有機発光層/電子供給層の3層の基本層構成を備える有機ELダイオードであって、
前記有機発光層の表面にある前記電子供給層は、電子輸送層/バッファ層/陰極の3層の構造を備え、前記バッファ層はホスト材料であるAlqにフッ化アルカリ又はアルカリ土類フッ化物をドープした成分を用い、陰極は貴金属成分を用いて構成したことを特徴とする有機ELダイオード。
【請求項2】
前記バッファ層は、有機発光層と接する第1バッファ層と陰極と接する第2バッファ層との2層構成であり、第1バッファ層はホスト材料であるAlqにフッ化アルカリ又はアルカリ土類フッ化物をドープした成分からなり、前記第2バッファ層は、CuPcを主成分として構成された請求項1に記載の有機ELダイオード。
【請求項3】
前記バッファ層は、有機発光層と接する第1バッファ層と陰極と接する第2バッファ層との2層構成であり、第1バッファ層はAlqを用いて構成され、前記第2バッファ層はホスト材料であるAlqにフッ化アルカリ又はアルカリ土類フッ化物をドープした成分からなる請求項1に記載の有機ELダイオード。
【請求項4】
第2バッファ層と陰極との間に、CuPcを主成分として構成された第3バッファ層を備えた請求項3に記載の有機ELダイオード。
【請求項5】
ホスト材料であるAlqに対するドープ種に、CsFを用いた請求項1〜請求項4のいずれかに記載の有機ELダイオード。
【請求項6】
前記陰極は、貴金属である銀、金、白金よりなる群より選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて構成した請求項1〜請求項5のいずれかに記載の有機ELダイオード。
【請求項7】
前記電子供給層を構成する電子輸送層は、Alqを主成分として用いて構成される請求項1〜請求項6のいずれかに記載の有機ELダイオード。
【請求項8】
前記正孔供給層は、前記有機発光層に隣接された正孔輸送層及び陽極を含む請求項1〜請求項7のいずれかに記載の有機ELダイオード。
【請求項9】
前記正孔輸送層と前記陽極との間に正孔注入層を設けた請求項8に記載の有機ELダイオード。
【請求項10】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載の有機ELダイオードの有機ELダイオードの効率改善方法であって、
実質的に透明で光透過性のある基板を用意し、
前記基板の上に陽極を形成し、その上に正孔輸送層を形成し、その上に有機発光層を形成し、その上に電子輸送層を形成し、その上に前記陰極と前記電子輸送層間のエネルギー障壁を減少させるためホスト材料であるAlqにフッ化アルカリ又はアルカリ土類フッ化物をドープした成分で少なくとも1層のバッファ層を形成し、
前記バッファ層の上に仕事関数が4.2eV以上の貴金属成分で陰極を構成する各ステップを含むことを特徴とした有機ELダイオードの効率改善方法。
【請求項11】
請求項9に記載の有機ELダイオードの有機ELダイオードの効率改善方法であって、
前記基板の上に陽極を形成し、正孔輸送層を形成する前に、陽極上に正孔注入層を形成する請求項10に記載の有機ELダイオードの効率改善方法。
【請求項12】
前記バッファ層に対するドープ種は、CsFである請求項10又は請求項11に記載の有機ELダイオードの効率改善方法。
【請求項13】
前記バッファ層(第1バッファ層)の形成と前記陰極形成の間に、更にCuPcを主成分として構成した材料で第2バッファ層を形成し、二層のバッファ層を形成するステップを含む請求項10〜請求項12に記載の有機ELダイオードの効率改善方法。
【請求項14】
前記電子輸送層形成と前記バッファ層(第2バッファ層)形成との間に、更に第1バッファ層としてAlqで構成した層を形成し、二層のバッファ層を形成するステップを含む請求項10〜請求項12に記載の有機ELダイオードの効率改善方法。
【請求項15】
第2バッファ層の形成と陰極の形成との間に、CuPcより構成される第3バッファ層を形成する工程を含む請求項14に記載の有機ELダイオードの効率改善方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−157022(P2006−157022A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345533(P2005−345533)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(304060520)友達光電股▲ふん▼有限公司 (15)
【Fターム(参考)】