有機EL素子、電気光学装置、及び電子機器
【課題】有機発光層を液滴吐出法により形成した場合であっても、有機発光層の発光強度を均一にすることができる有機EL素子、電気光学装置、及び電子機器を提供する。
【解決手段】第一電極12は、陰極層122と、陰極層122と機能層10との間に設けられた電子注入層121と、を備え、電子注入層121は、陰極層122からの電子の注入容易性が、有機発光層8の発光強度が最も高い領域Aよりも有機発光層8の発光強度が最も低い領域Bにおいて高くなるように形成されていることを特徴とする。
【解決手段】第一電極12は、陰極層122と、陰極層122と機能層10との間に設けられた電子注入層121と、を備え、電子注入層121は、陰極層122からの電子の注入容易性が、有機発光層8の発光強度が最も高い領域Aよりも有機発光層8の発光強度が最も低い領域Bにおいて高くなるように形成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機EL素子、電気光学装置、及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、個々の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)に最良の発光特性を発揮させるようにし、これによって表示特性の向上を図った有機EL装置とその製造方法が知られている。この有機EL装置は、一対の電極と、これら電極間に設けられた少なくとも発光層を有してなる機能層を具備した有機EL素子を、複数備えている。そして、有機EL素子のうちの一の有機EL素子の機能層の構成が、他の有機EL有機EL素子の機能層の構成に対し、少なくとも発光層以外の構成要素について異なっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−110156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の有機EL素子においては、有機発光層の形成方法として、有機発光層の形成領域に液状の材料を液滴として吐出して形成するインクジェット法等の液滴吐出法を採用している。この場合には、有機発光層の形成方法として蒸着法やスピンコート法を採用した場合と比較して、発光層の膜厚が不均一となる。
【0004】
図10に示すように、液滴吐出法により形成した有機発光層8は、中央部Aの膜厚tAが、周辺部Bの膜厚tBよりも薄く、図11に示すように、有機発光層8の周辺部Bの外縁に近づくほど膜厚tが厚くなる場合がある。このとき、有機発光層8の周辺部Bにおける電子が正孔と再結合するまでの距離は、中央部Aにおける電子の電子が正孔と再結合するまでの距離よりも長くなっている。したがって、図11(b)に示すように、有機発光層8の発光強度は、電子の移動距離が長い周辺部Bのほうが小さく、電子の移動距離が短い中央部Aほど大きくなっている。また、有機発光層8の周辺部Bの外縁に近づくほど膜厚tが薄くなる場合がある(図示せず)。この時は図11(b)とは逆に、有機発光層8の周辺部Bにおける電子が正孔と再結合するまでの距離は、中央部Aにおける電子が正孔と再結合するまでの距離よりも短くなる(図示せず)。したがって、有機発光層8の発光強度は、電子の移動距離が短い周辺部Bのほうが大きく、電子の移動距離が長い中央部Aほど小さくなる。
このように、有機発光層の形成領域内で膜厚が不均一になると、電子が正孔と再結合するまでの距離に偏りが生じる。その結果、有機発光層内での電子と正孔との結合の密度に偏りが生じて、有機発光層の形成領域内で発光強度が不均一になるという課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、有機発光層を液滴吐出法により形成した場合であっても、有機発光層の発光強度を均一にすることができる有機EL素子、電気光学装置、及び電子機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の有機EL素子は、第一電極と第二電極との間に少なくとも有機発光層を有する機能層が挟持され、前記有機発光層が液滴吐出法により形成された有機EL素子であって、前記第一電極は、陰極層と、前記陰極層と前記機能層との間に設けられた電子注入層と、を備え、前記電子注入層は、前記陰極層からの電子の注入容易性が、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも前記有機発光層の発光強度が最も低い領域において高くなるように形成されていることを特徴とする。
【0007】
このように構成することで、電子注入層から有機発光層への電子の注入容易性は、有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも有機発光層の発光強度が最も低い領域において低くなる。このため、有機発光層の発光強度が最も低い領域と発光強度が最も高い領域とにおける発光強度の差が、発光強度が最も低い領域と発光強度が最も高い領域とにおける電子注入層の電子の注入容易性によって相殺される。
したがって、有機発光層を液滴吐出法により形成した場合であっても、有機発光層の発光強度が最も低い領域と発光強度が最も高い領域とにおける有機発光層中の電子と正孔の再結合割合を均一化して、有機発光層の形成領域内における有機発光層の発光強度を均一化することができる。
【0008】
また、本発明の有機EL素子は、前記電子注入層の膜厚が、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも前記有機発光層の発光強度が最も低い領域において小さくなるように形成されていることを特徴とする。
【0009】
このように構成することで、陰極層から電子注入層への電子の注入容易性を、有機発光層の発光強度が最も低い領域において有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも高くすることができる。
【0010】
また、本発明の有機EL素子は、前記電子注入層は、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域を覆うように形成された第一電子注入層と、前記第一電子注入層と前記有機発光層の発光強度が最も低い領域とを覆うように形成された第二電子注入層とを備え、前記第一電子注入層の仕事関数が、前記第二電子注入層の仕事関数よりも高いことを特徴とする。
【0011】
このように構成することで、陰極層から電子注入層への電子の注入容易性を、有機発光層の発光強度が最も低い領域において有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも高くすることができる。
【0012】
また、本発明の有機EL素子は、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域に対応する前記第二電極の第1領域と、前記有機発光層の発光強度が最も低い領域に対応する前記第二電極の第2領域と、が区画されていることを特徴とする。
【0013】
このように構成することで、有機発光層の発光強度が最も低い領域における電子注入層を通過した電子が、有機発光層の発光強度が最も高い領域に到達することが防止される。これにより、陰極層から有機発光層の発光強度が最も低い領域における電子注入層に注入された電子を、より確実に有機発光層の発光強度が最も低い領域に到達させることができる。したがって、有機発光層の形成領域内における有機発光層の発光強度をより均一化することができる。
【0014】
また、本発明の電気光学装置は、上記のいずれかの有機EL素子を備えたことを特徴とする。また、本発明の電子機器は、上記の電気光学装置を備えたことを特徴とする。
このように構成することで、電気光学装置が備える有機EL素子の各々が均一に発光するため、電気光学装置の表示性能が向上される。したがって、表示性能の高い電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<第一実施形態>
以下、本発明の第一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各図面では、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材ごとに縮尺を適宜変更している。
【0016】
(有機EL装置)
図1は有機EL装置の配線構造を示す説明図である。図1に示すように、本実施形態の有機EL装置(電気光学装置)100は、複数の走査線101と、走査線101に対して交差する方向に延びる複数の信号線102と、信号線102に並列に延びる複数の電源線103とがそれぞれ配線された構成を有するとともに、走査線101及び信号線102の各交点付近に、画素領域Xを形成したものである。
【0017】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ側駆動回路104が接続されている。走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査側駆動回路105が接続されている。また、画素領域Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用の薄膜トランジスタ(TFT)112と、このスイッチング用のTFT112を介して信号線102から供給される画素信号を保持する保持容量capと、この保持容量capによって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用のTFT113と、このTFT113を介して電源線103に電気的に接続したときに、この電源線103から駆動電流が流れ込む陽極11(第二電極)と、この陽極11と陰極12(第一電極)との間に挟持された機能層10とが設けられている。これら陽極11と陰極12と機能層10とにより、有機EL素子1が構成されている。
【0018】
このような構成によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用のTFT112がオンになると、そのときの信号線102の電位が保持容量capに保持され、この保持容量capの状態に応じて、駆動用のTFT113のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用のTFT113のチャネルを介して、電源線103から陽極11に電流が流れ、さらに機能層10を介して陰極12に電流が流れる。すると、機能層10はこれを流れる電流量に応じて発光する。
【0019】
図2は、図1に示した有機EL装置100の部分拡大断面図であり、図3(a)は陽極11の形状を示す平面図、図3(b)は、陰極12の形状を示す平面図である。また、図2は、図3(a)および図3(b)のa−a線に沿う断面に対応している。
【0020】
図2に示すように、有機EL装置100は、例えば、ガラス等の光透過性を有する材料により形成された基板2を備えている。基板2上には、陰極(第一電極)12と陽極(第二電極)11との間に機能層10が挟持されて有機EL素子1が形成されている。基板2上には、図1に示すように、複数の有機EL素子1がマトリックス状に配置されている。
【0021】
また、基板2上には、図1に示す走査線101、信号線102、保持容量cap、スイッチング用のTFT112(図2では図示省略)、駆動用のTFT113等が形成されている。そして、これらを覆うように、第一層間絶縁膜3が形成されている。第一層間絶縁膜3上には、第二層間絶縁膜4が形成されている。第一層間絶縁膜3および第二層間絶縁膜4は、例えば、SiO2(シリコン酸化物)等の絶縁性の材料により形成されている。
【0022】
第二層間絶縁膜4上には、例えば、ITO(インジウム錫酸化物)等の光透過性を有する導電性材料により、各々の有機EL素子1に対応して陽極11が形成されている。また、第二層間絶縁膜4上には、各々の有機EL素子1の陽極11を区画するように、無機隔壁5が形成されている。無機隔壁5は、例えば、SiO2等により形成されている。無機隔壁5には、陽極11の上部を露出させる開口部5aが形成されている。無機隔壁5の開口部5aは、図3(a)に示すように、トラック形状に形成されている。
【0023】
無機隔壁5上には、例えば、感光性のアクリル樹脂や環状オレフィン樹脂等により有機隔壁6が形成されている。有機隔壁6には、無機隔壁5の開口部5aと上面5bの一部を露出させる開口部6aが形成されている。また、有機隔壁6の開口部6a内に露出された無機隔壁5の上面5bおよび開口部5aの内表面には、親液化処理が施されている。一方、有機隔壁6の少なくとも開口部6aの内表面は、撥液化処理が施されている。
【0024】
開口部5a,6a内の陽極11上には、図2に示すように正孔注入層7が形成されている。正孔注入層7を形成する材料としては、特に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT−PSS)を含有する液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれをグリコールエーテル系の溶媒、例えばジエチレングリコールと、水とに分散させあるいは溶解させた液状体等を用いることができる。
【0025】
開口部5a内の正孔注入層7上には、発光層(有機発光層)8が形成されている。本実施形態では、この正孔注入層7と有機発光層8とにより、機能層10が構成されている。有機発光層8を形成する材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0026】
本実施形態の正孔注入層7および有機発光層8は、例えば、インクジェット法等の液滴吐出法によって液状の形成材料の液滴を無機隔壁5の開口部5aおよび有機隔壁6の開口部6aに吐出して、開口部5a,6aの内側を満たした後、その液状の材料を加熱乾燥させることにより、無機隔壁5の開口部5aの内側に形成されている。本実施形態では、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合について記載する。なお、本実施形態(有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合)において、中央部Aは、有機発光層8のうち最も発光強度が高い領域を含んでおり、周辺部Bは、有機発光層8のうち最も発光強度が低い領域を含んでいるものとする。また中央部Aと周辺部Bとの境目は、状況に応じて適宜設定可能であるが、有機発光層8を平面視した領域のうち、最も発光強度が高い領域の発光強度の約80%以上の発光強度を有する領域を中央部Aとしてもよい。(これは以後の実施形態においても同様である。)
【0027】
本実施形態では、有機発光層8の長辺方向の幅Wl(図3(a)参照)は、約140μm、短辺方向の幅Wsは約45μmに形成されている。そして、長辺方向の両端からそれぞれ約20μm程度内側で、短辺方向の両端からそれぞれ約10μ程度内側の中央部Aの平均膜厚が約60nmに形成されている。そして、その発光層8の中央部Aの周囲を取り巻く周辺部Bの平均膜厚は約80nmに形成されている。
【0028】
有機隔壁6の開口部6aの内側で、有機発光層8上には、電子注入層121が形成されている。電子注入層121は、例えば、LiF(フッ化リチウム)により形成され、後述する陰極層122からの電子の注入容易性が、有機発光層8の中央部Aよりも有機発光層8の周辺部Bにおいて高くなるように形成されている。本実施形態では、電子注入層121は、膜厚tBが大きく形成された有機発光層8の周辺部Bに対応する部分の膜厚TBが、有機発光層8の中央部Aに対応する部分の膜厚TAよりも小さく形成されて、陰極層122からの電子の注入容易性が、有機発光層8の中央部Aよりも有機発光層8の周辺部Bにおいて高くなるように形成されている。
【0029】
このような形状の電子注入層121は、例えば、有機発光層8上の全面に、約5nmの膜厚でLiFを蒸着させ、その後、有機発光層8の中央部Aに対応する形状の開口部を備えたマスクを介して、有機発光層8の中央部Aにさらに約5nmの膜厚でLiFをマスク蒸着させることで形成することができる。これにより、中央部の膜厚TAが約10nm、周辺部の膜厚TBが約5nmの電子注入層を形成することができる。
【0030】
電子注入層121上には、電子注入層121および有機隔壁6を覆って、陰極層122が形成されている。陰極層122は、例えば、Al(アルミニウム)により形成されている。陰極層122は、複数の有機EL素子1にわたって、有機EL素子1の表示領域の一面にベタ状に形成されている。本実施形態では、電子注入層121と陰極層122とによって有機EL素子1の陰極12が構成されている。陰極は、図1に示す走査線101と電気的に接続されている。
また、図示は省略するが、陰極12は、基板2上に形成された陰極用配線に接続されており、この配線の一端部がフレキシブル基板上の配線に接続され、フレキシブル基板上に備えられた駆動IC(駆動回路)に接続されている。
【0031】
また、本実施形態の有機EL装置100は、発光機能層10から基板2側に発した光が、基板2を透過して基板2の外側(観測者側)に出射されるとともに、機能層10から基板2の反対側に射出された光も、陰極12に反射されて基板2を透過し、基板2の外側(観測者側)に出射される、いわゆるボトムエミッション型となっている。
【0032】
次に、本実施形態の作用について説明する。
上述のように、駆動用TFT113がオンになると、陽極11に電流が流れ、陰極層122から電子注入層121を介して有機発光層8に電子が供給され、陽極11から供給された正孔と結合して有機発光層8が発光する。ここで、有機発光層8は、液滴吐出法により形成されて中央部Aの膜厚よりも周辺部Bの膜厚が大きく形成されている。そのため、中央部Aにおける電子が正孔と再結合するまでの距離は、周辺部Bにおける電子が正孔と再結合するまでの距離よりも短くなっている。したがって、有機発光層8の発光強度は、電子の移動距離が長い周辺部Bのほうが小さく、電子の移動距離が短い中央部Aほど大きくなる。
【0033】
しかし、本実施形態では、電子注入層121は、有機発光層8の周辺部Bに対応する部分の膜厚TBが、有機発光層8の中央部Aに対応する部分の膜厚TAよりも小さく形成されて、陰極層122からの電子の注入容易性が、有機発光層8の中央部Aよりも有機発光層8の周辺部Bにおいて高くなるように形成されている。このため、有機発光層8の周辺部Bおよび中央部Aにおいて、陰極層122から電子注入層121への電子の移動距離の差と、電子注入層121から有機発光層8への電子の注入容易性の差とが相殺されて、有機発光層8中の電子と正孔の再結合割合が均一化される。
【0034】
ここで、図4は、図3(a)に示す幅Wl方向における有機EL素子の発光強度を示すグラフである。図4に示すように、本実施形態の有機EL素子1の発光強度は、図10(b)に示す従来の有機EL素子の発光強度と比較して、有機発光層8の周辺部Bに近い部分の輝度が向上し、全体として輝度がより均一化されている。すなわち、上述のように、有機発光層8中の電子と正孔の再結合割合が均一化されたことで、有機発光層8の輝度が均一化される。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の有機EL素子1によれば、有機発光層8を液滴吐出法により形成した場合であっても、有機発光層の周辺部Bと中央部Aとにおける発光強度の差を、周辺部Bと中央部Aとにおける電子注入層の電子の注入容易性の差によって相殺することで、有機発光層8中の周辺部Bと中央部Aにおける電子と正孔の再結合割合を均一化して、有機発光層8の形成領域内における有機発光層8の発光強度を均一化することができる。これにより、有機EL素子1の発光性能が向上して有機EL装置100の表示領域の輝度が向上するとともに、表示性能が向上する。
【0036】
また本実施形態では、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合について説明したが、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも小さくなった場合には、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合とは逆に、電子注入層121は、膜厚tBが小さく形成された有機発光層8の周辺部Bに対応する部分の膜厚TBが、有機発光層8の中央部Aに対応する部分の膜厚TAよりも大きく形成されて、陰極層122からの電子の注入容易性が、有機発光層8の中央部Aよりも有機発光層8の周辺部Bにおいて低くなるように形成すればよい。
【0037】
このように電子注入層121を形成すれば、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも小さくなった場合であっても、有機発光層8の周辺部Bおよび中央部Aにおいて、陰極層122から電子注入層121への電子の注入容易性の差と、電子注入層121から有機発光層8への電子の移動距離の差とが相殺されて、有機発光層8中の電子と正孔の再結合割合が均一化される。また有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも小さくなった場合には、中央部Aは、中央部Aは、有機発光層8のうち最も発光強度が低い領域を含んでおり、周辺部Bは、有機発光層8のうち最も発光強度が高い領域を含んでいるものとする。また中央部Aと周辺部Bとの境目は、状況に応じて適宜設定可能であるが、有機発光層8を平面視した領域のうち、最も発光強度が高い領域の発光強度の約80%以上の発光強度を有する領域を周辺部Bとしてもよい。(これは以後の実施形態においても同様である。)
【0038】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態について、図1を援用し、図5、図6(a)、図6(b)を用いて説明する。本実施形態では、電子注入層が材料の異なる二層により形成されている点で、上述の第一実施形態で説明した有機EL装置100および有機EL素子1と異なっている。その他の点は第一実施形態と同様であるので、同一の部分には同一の符号を付して説明は省略する。
【0039】
図5は、本実施形態の有機EL装置200の有機EL素子1a近傍の拡大断面図である。図6(a)は、本実施形態の有機EL素子1aの陽極11の形状を示す平面図である。図6(b)は、本実施形態の有機EL素子1aの陰極12aの形状を示す平面図である。また、図5は図6(a)および図6(b)のa−a線に沿う断面に対応している。
【0040】
図5、図6(b)に示すように、本実施形態の有機EL素子1aでは、電子注入層が、有機発光層8の中央部Aを覆うように形成された第一電子注入層121aと、第一電子注入層121aと有機発光層8の周辺部Bとを覆うように形成された第二電子注入層121bと、の二層により構成されている。
【0041】
ここで、本実施形態では、第一電子注入層121aの仕事関数が、第二電子注入層121bの仕事関数よりも高くなるように材料が選定されている。例えば、第一電子注入層121aの形成材料として仕事関数が2.87eVのカルシウム(Ca)を選定し、第二電子注入層121bの形成材料として仕事関数が2.59のストロンチウム(Sr)を選定することができる。
【0042】
第一電子注入層121aの形成方法としては、例えば、マスク蒸着法等のマスクパターニングを用いることができる。そして、第一電子注入層121aを形成した後、陰極12aの形成領域の全面に第二電子注入層121bを蒸着させ、その上を覆うように第一実施形態と同様の陰極層122を形成することで、本実施形態の陰極12aを形成することができる。
【0043】
次に、本実施本形態の作用について説明する。
図5および図6(b)に示すように、本実施形態の電子注入層は、有機発光層8の中央部Aにおいては、第一電子注入層121aと第二電子注入層121bとの二層構造により形成されている。一方、有機発光層8の周辺部Bにおいては、電子注入層121は第二電子注入層121bの一層のみにより形成されている。これにより、第一実施形態と同様に、有機発光層8の周辺部Bに対応する部分の電子注入層の膜厚TBを、有機発光層の中央部に対応する部分の電子注入層の膜厚TAよりも小さく形成することができる。
【0044】
加えて、本実施形態では、第一電子注入層121aの仕事関数が、第二電子注入層121bの仕事関数より高くなっている。これにより、陰極層122から電子注入層への電子の注入容易性が、有機発光層8の周辺部Bにおいて有機発光層8の中央部Aよりも高くなる。したがって、第一実施形態と同様に、有機発光層8の周辺部Bと中央部Aとの間で、陰極層122から電子注入層への電子の注入容易性の差と、電子注入層から有機発光層8への電子の移動距離の差とが相殺されて、陰極層122から有機発光層8への電子の注入容易性が均一化される。これにより、第一実施形態と同様に、有機発光層8の輝度が均一化される。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の有機EL素子1aおよび有機EL装置200によれば、第一実施形態と同様に、有機発光層8を液滴吐出法により形成した場合であっても、有機発光層8の形成領域内における有機発光層8の発光強度を均一化することができる。
また、第一電子注入層121aと第二電子注入層121bの材料選定や、各層の膜厚の調整を行うことにより、陰極層122から有機発光層8への電子の注入容易性を制御することができる。
【0046】
また本実施形態では、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合について説明したが、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも小さくなった場合には、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合とは逆に、電子注入層を、有機発光層8の周辺部Bにおいては、第一電子注入層121aと第二電子注入層121bとの二層構造により形成し、有機発光層8の中央部Aにおいては、第二電子注入層121bの一層のみにより形成すればよい。
その結果、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合と同様に、有機発光層8の周辺部Bと中央部Aとの間で、陰極層122から電子注入層への電子の注入容易性の差により、電子注入層から有機発光層8への電子の移動距離の差が相殺されて、有機発光層8中の電子と正孔の再結合割合が均一化される。
【0047】
<第三実施形態>
次に、本発明の第三実施形態について、図1を援用し、図7、図8(a)、図8(b)を用いて説明する。本実施形態では、有機EL素子1bの陽極11の周辺部と中央部とを区画する隔壁が形成されている点で、上述の第一実施形態で説明した有機EL装置100と異なっている。その他の点は第一実施形態と同様であるので、同一の部分には同一の符号を付して説明は省略する。
【0048】
図7は、本実施形態の有機EL装置300の有機EL素子1b近傍の拡大断面図である。図8(a)は、本実施形態の有機EL素子1bの陽極11の形状を示す平面図である。図8(b)は、本実施形態の有機EL素子1bの陰極12の形状を示す平面図である。また、図7は、図8(a)および図8(b)のa−a線に沿う断面に対応している。
【0049】
図7および図8(a)に示すように、本実施形態の有機EL装置300の第二層間絶縁膜4上には、有機EL素子1bの有機発光層8の中央部Aに対応する陽極11aの中央部A1と、有機発光層8の周辺部Bに対応する陽極11aの周辺部B1と、を区画する絶縁隔壁50が形成されている。絶縁隔壁50は、例えば、無機隔壁5と同様の材料により形成されている。
また、図8(a)に示すように、陽極11aはトラック形状の長辺の略中央付近の無機隔壁5が開口された部分において、それぞれ駆動用TFT113のドレインに電気的に接続されている。
【0050】
このような絶縁隔壁50の形成方法としては、まず、第一実施形態と同様に第二層間絶縁膜4上に各々の有機EL素子1bに対応する陽極11を形成する。そして、図8(a)に示すように、有機発光層8の中央部Aと周辺部Bとにそれぞれ対応させて陽極11の中央部A1と周辺部B1とを区画するように、例えば、フォトリソグラフィ法およびエッチング法等を用いて、陽極11をパターニングして、本実施形態の陽極11aを形成する。次いで、パターニングされた陽極11aを覆うように、無機隔壁5の形成材料からなる層を形成し、パターニングした周辺部B1と中央部A1とに対応させて開口部5a1,5a2を形成する。これにより、無機隔壁5と絶縁隔壁50とを同時に形成することができる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の有機EL装置300では、有機EL素子1bの有機発光層8の中央部Aに対応する陽極11aの中央部A1と、有機発光層8の周辺部Bに対応する陽極11aの周辺部B1と、を区画する絶縁隔壁50が形成されているので、有機発光層8の周辺部Bの電子注入容易性の高い電子注入層121を通過した電子が、有機発光層8の中央部Aに到達することが防止される。これにより、第一実施形態の作用に加えて、陰極層122から有機発光層8の周辺部Bの電子注入層121に注入された電子を、より確実に有機発光層8の周辺部Bに到達させることができる。したがって、有機発光層8の形成領域内における有機発光層8の発光強度をより均一化することができる。
【0052】
また本実施形態では、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合について説明したが、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも小さくなった場合においても、有機発光層8の中央部Aの電子注入容易性の高い電子注入層121を通過した電子が、有機発光層8の周辺部Bに到達することが防止され、有機発光層8の形成領域内における有機発光層8の発光強度をより均一化することができる。
【0053】
(電子機器)
次に、上述の実施形態において説明した有機EL装置を備えた電子機器の具体例について説明する。
図9(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図9(a)において、符号1000は携帯電話本体を示し、符号1001は上述の有機EL装置からなる表示部を示している。
図9(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図9(b)において、符号1100は時計本体を示し、符号1101は上述の有機EL装置からなる表示部を示している。
図9(c)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図9(c)において、符号1200は情報処理装置、符号1202はキーボードなどの入力部、符号1204は情報処理装置本体、符号1206は上述の有機EL装置からなる表示部を示している。
図9(d)は、薄型大画面テレビの一例を示した斜視図である。図9(d)において、薄型大画面テレビ1300は、薄型大画面テレビ本体(筐体)1302、スピーカーなどの音声出力部1304、上述の有機EL装置からなる表示部1306を備える。
【0054】
図9(a)〜(d)に示す電子機器1000,1100,1200,1300は、上述の実施形態で説明した有機EL装置のいずれかを備えているので、有機EL素子の各々が均一に発光し、この有機EL装置からなる表示部1001,1101,1206,1306の発光特性が良好となり、表示性能が向上する。したがってこれら電子機器1000,1100,1200,1300自体も、表示部1001,1101,1206,1306の発光性能に優れた表示性能の高いものとなる。
【0055】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、電子注入層の構成は、有機発光層の中央部よりも有機発光層の周辺部において高くなるように形成されていれば、上述の実施形態で説明した構成に限られない。
また、上述の第二実施形態において説明した第一電子注入層および第二電子注入層の材料は、カルシウムとストロンチウムとの組合せに限定されず、第一電子注入層の仕事関数が、第二電子注入層の仕事関数よりも高くなるように選定すればよい。
また、上述の第三実施形態においては、絶縁隔壁を設けることが好ましいが、絶縁隔壁は形成しなくてもよい。この場合にも、陽極が区画されていることから、上述の第三実施形態と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第一実施形態における有機EL装置の配線構造を示す模式図である。
【図2】本発明の第一実施形態における有機EL装置の部分拡大断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態における有機EL素子の構成を示す図であり、(a)は陽極の形状を示す平面図、(b)は陰極の形状を示す平面図である。
【図4】本発明の第一実施形態における陰極の形状を示す平面図である。
【図5】本発明の第二実施形態における有機EL装置の部分拡大断面図である。
【図6】本発明の第二実施形態における有機EL素子の構成を示す図であり、(a)は陽極の形状を示す平面図、(b)は陰極の形状を示す平面図である。
【図7】本発明の第三実施形態における有機EL装置の部分拡大断面図である。
【図8】本発明の第三実施形態における有機EL素子の構成を示す図であり、(a)は陽極の形状を示す平面図、(b)は陰極の形状を示す平面図である。
【図9】(a)〜(d)は本発明の実施形態における電子機器の例を示す斜視図である。
【図10】液滴吐出法により形成した有機発光層の一例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のb−b線に沿う断面図である。
【図11】(a)は、図10(b)の幅W方向の膜厚tの分布を示すグラフであり、(b)は同、幅W方向の発光強度の分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1,1a,1b 有機EL素子、8 発光層(有機発光層)、10 機能層、11,11a 陽極(第二電極)、12,12a 陰極(第一電極)、100,200,300 有機EL装置(電気光学装置)、121 電子注入層、121a 第一電子注入層(電子注入層)、121b 第二電子注入層(電子注入層)、122 陰極層、A,A1 中央部、B,B1 周辺部、TA,TB 膜厚、1000 携帯電話本体(電子機器)、1100 時計本体(電子機器)、1200 情報処理装置(電子機器)、1300 薄型大画面テレビ(電子機器)
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機EL素子、電気光学装置、及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、個々の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)に最良の発光特性を発揮させるようにし、これによって表示特性の向上を図った有機EL装置とその製造方法が知られている。この有機EL装置は、一対の電極と、これら電極間に設けられた少なくとも発光層を有してなる機能層を具備した有機EL素子を、複数備えている。そして、有機EL素子のうちの一の有機EL素子の機能層の構成が、他の有機EL有機EL素子の機能層の構成に対し、少なくとも発光層以外の構成要素について異なっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−110156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の有機EL素子においては、有機発光層の形成方法として、有機発光層の形成領域に液状の材料を液滴として吐出して形成するインクジェット法等の液滴吐出法を採用している。この場合には、有機発光層の形成方法として蒸着法やスピンコート法を採用した場合と比較して、発光層の膜厚が不均一となる。
【0004】
図10に示すように、液滴吐出法により形成した有機発光層8は、中央部Aの膜厚tAが、周辺部Bの膜厚tBよりも薄く、図11に示すように、有機発光層8の周辺部Bの外縁に近づくほど膜厚tが厚くなる場合がある。このとき、有機発光層8の周辺部Bにおける電子が正孔と再結合するまでの距離は、中央部Aにおける電子の電子が正孔と再結合するまでの距離よりも長くなっている。したがって、図11(b)に示すように、有機発光層8の発光強度は、電子の移動距離が長い周辺部Bのほうが小さく、電子の移動距離が短い中央部Aほど大きくなっている。また、有機発光層8の周辺部Bの外縁に近づくほど膜厚tが薄くなる場合がある(図示せず)。この時は図11(b)とは逆に、有機発光層8の周辺部Bにおける電子が正孔と再結合するまでの距離は、中央部Aにおける電子が正孔と再結合するまでの距離よりも短くなる(図示せず)。したがって、有機発光層8の発光強度は、電子の移動距離が短い周辺部Bのほうが大きく、電子の移動距離が長い中央部Aほど小さくなる。
このように、有機発光層の形成領域内で膜厚が不均一になると、電子が正孔と再結合するまでの距離に偏りが生じる。その結果、有機発光層内での電子と正孔との結合の密度に偏りが生じて、有機発光層の形成領域内で発光強度が不均一になるという課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、有機発光層を液滴吐出法により形成した場合であっても、有機発光層の発光強度を均一にすることができる有機EL素子、電気光学装置、及び電子機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の有機EL素子は、第一電極と第二電極との間に少なくとも有機発光層を有する機能層が挟持され、前記有機発光層が液滴吐出法により形成された有機EL素子であって、前記第一電極は、陰極層と、前記陰極層と前記機能層との間に設けられた電子注入層と、を備え、前記電子注入層は、前記陰極層からの電子の注入容易性が、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも前記有機発光層の発光強度が最も低い領域において高くなるように形成されていることを特徴とする。
【0007】
このように構成することで、電子注入層から有機発光層への電子の注入容易性は、有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも有機発光層の発光強度が最も低い領域において低くなる。このため、有機発光層の発光強度が最も低い領域と発光強度が最も高い領域とにおける発光強度の差が、発光強度が最も低い領域と発光強度が最も高い領域とにおける電子注入層の電子の注入容易性によって相殺される。
したがって、有機発光層を液滴吐出法により形成した場合であっても、有機発光層の発光強度が最も低い領域と発光強度が最も高い領域とにおける有機発光層中の電子と正孔の再結合割合を均一化して、有機発光層の形成領域内における有機発光層の発光強度を均一化することができる。
【0008】
また、本発明の有機EL素子は、前記電子注入層の膜厚が、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも前記有機発光層の発光強度が最も低い領域において小さくなるように形成されていることを特徴とする。
【0009】
このように構成することで、陰極層から電子注入層への電子の注入容易性を、有機発光層の発光強度が最も低い領域において有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも高くすることができる。
【0010】
また、本発明の有機EL素子は、前記電子注入層は、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域を覆うように形成された第一電子注入層と、前記第一電子注入層と前記有機発光層の発光強度が最も低い領域とを覆うように形成された第二電子注入層とを備え、前記第一電子注入層の仕事関数が、前記第二電子注入層の仕事関数よりも高いことを特徴とする。
【0011】
このように構成することで、陰極層から電子注入層への電子の注入容易性を、有機発光層の発光強度が最も低い領域において有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも高くすることができる。
【0012】
また、本発明の有機EL素子は、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域に対応する前記第二電極の第1領域と、前記有機発光層の発光強度が最も低い領域に対応する前記第二電極の第2領域と、が区画されていることを特徴とする。
【0013】
このように構成することで、有機発光層の発光強度が最も低い領域における電子注入層を通過した電子が、有機発光層の発光強度が最も高い領域に到達することが防止される。これにより、陰極層から有機発光層の発光強度が最も低い領域における電子注入層に注入された電子を、より確実に有機発光層の発光強度が最も低い領域に到達させることができる。したがって、有機発光層の形成領域内における有機発光層の発光強度をより均一化することができる。
【0014】
また、本発明の電気光学装置は、上記のいずれかの有機EL素子を備えたことを特徴とする。また、本発明の電子機器は、上記の電気光学装置を備えたことを特徴とする。
このように構成することで、電気光学装置が備える有機EL素子の各々が均一に発光するため、電気光学装置の表示性能が向上される。したがって、表示性能の高い電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<第一実施形態>
以下、本発明の第一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各図面では、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材ごとに縮尺を適宜変更している。
【0016】
(有機EL装置)
図1は有機EL装置の配線構造を示す説明図である。図1に示すように、本実施形態の有機EL装置(電気光学装置)100は、複数の走査線101と、走査線101に対して交差する方向に延びる複数の信号線102と、信号線102に並列に延びる複数の電源線103とがそれぞれ配線された構成を有するとともに、走査線101及び信号線102の各交点付近に、画素領域Xを形成したものである。
【0017】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ側駆動回路104が接続されている。走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査側駆動回路105が接続されている。また、画素領域Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用の薄膜トランジスタ(TFT)112と、このスイッチング用のTFT112を介して信号線102から供給される画素信号を保持する保持容量capと、この保持容量capによって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用のTFT113と、このTFT113を介して電源線103に電気的に接続したときに、この電源線103から駆動電流が流れ込む陽極11(第二電極)と、この陽極11と陰極12(第一電極)との間に挟持された機能層10とが設けられている。これら陽極11と陰極12と機能層10とにより、有機EL素子1が構成されている。
【0018】
このような構成によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用のTFT112がオンになると、そのときの信号線102の電位が保持容量capに保持され、この保持容量capの状態に応じて、駆動用のTFT113のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用のTFT113のチャネルを介して、電源線103から陽極11に電流が流れ、さらに機能層10を介して陰極12に電流が流れる。すると、機能層10はこれを流れる電流量に応じて発光する。
【0019】
図2は、図1に示した有機EL装置100の部分拡大断面図であり、図3(a)は陽極11の形状を示す平面図、図3(b)は、陰極12の形状を示す平面図である。また、図2は、図3(a)および図3(b)のa−a線に沿う断面に対応している。
【0020】
図2に示すように、有機EL装置100は、例えば、ガラス等の光透過性を有する材料により形成された基板2を備えている。基板2上には、陰極(第一電極)12と陽極(第二電極)11との間に機能層10が挟持されて有機EL素子1が形成されている。基板2上には、図1に示すように、複数の有機EL素子1がマトリックス状に配置されている。
【0021】
また、基板2上には、図1に示す走査線101、信号線102、保持容量cap、スイッチング用のTFT112(図2では図示省略)、駆動用のTFT113等が形成されている。そして、これらを覆うように、第一層間絶縁膜3が形成されている。第一層間絶縁膜3上には、第二層間絶縁膜4が形成されている。第一層間絶縁膜3および第二層間絶縁膜4は、例えば、SiO2(シリコン酸化物)等の絶縁性の材料により形成されている。
【0022】
第二層間絶縁膜4上には、例えば、ITO(インジウム錫酸化物)等の光透過性を有する導電性材料により、各々の有機EL素子1に対応して陽極11が形成されている。また、第二層間絶縁膜4上には、各々の有機EL素子1の陽極11を区画するように、無機隔壁5が形成されている。無機隔壁5は、例えば、SiO2等により形成されている。無機隔壁5には、陽極11の上部を露出させる開口部5aが形成されている。無機隔壁5の開口部5aは、図3(a)に示すように、トラック形状に形成されている。
【0023】
無機隔壁5上には、例えば、感光性のアクリル樹脂や環状オレフィン樹脂等により有機隔壁6が形成されている。有機隔壁6には、無機隔壁5の開口部5aと上面5bの一部を露出させる開口部6aが形成されている。また、有機隔壁6の開口部6a内に露出された無機隔壁5の上面5bおよび開口部5aの内表面には、親液化処理が施されている。一方、有機隔壁6の少なくとも開口部6aの内表面は、撥液化処理が施されている。
【0024】
開口部5a,6a内の陽極11上には、図2に示すように正孔注入層7が形成されている。正孔注入層7を形成する材料としては、特に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT−PSS)を含有する液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれをグリコールエーテル系の溶媒、例えばジエチレングリコールと、水とに分散させあるいは溶解させた液状体等を用いることができる。
【0025】
開口部5a内の正孔注入層7上には、発光層(有機発光層)8が形成されている。本実施形態では、この正孔注入層7と有機発光層8とにより、機能層10が構成されている。有機発光層8を形成する材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0026】
本実施形態の正孔注入層7および有機発光層8は、例えば、インクジェット法等の液滴吐出法によって液状の形成材料の液滴を無機隔壁5の開口部5aおよび有機隔壁6の開口部6aに吐出して、開口部5a,6aの内側を満たした後、その液状の材料を加熱乾燥させることにより、無機隔壁5の開口部5aの内側に形成されている。本実施形態では、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合について記載する。なお、本実施形態(有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合)において、中央部Aは、有機発光層8のうち最も発光強度が高い領域を含んでおり、周辺部Bは、有機発光層8のうち最も発光強度が低い領域を含んでいるものとする。また中央部Aと周辺部Bとの境目は、状況に応じて適宜設定可能であるが、有機発光層8を平面視した領域のうち、最も発光強度が高い領域の発光強度の約80%以上の発光強度を有する領域を中央部Aとしてもよい。(これは以後の実施形態においても同様である。)
【0027】
本実施形態では、有機発光層8の長辺方向の幅Wl(図3(a)参照)は、約140μm、短辺方向の幅Wsは約45μmに形成されている。そして、長辺方向の両端からそれぞれ約20μm程度内側で、短辺方向の両端からそれぞれ約10μ程度内側の中央部Aの平均膜厚が約60nmに形成されている。そして、その発光層8の中央部Aの周囲を取り巻く周辺部Bの平均膜厚は約80nmに形成されている。
【0028】
有機隔壁6の開口部6aの内側で、有機発光層8上には、電子注入層121が形成されている。電子注入層121は、例えば、LiF(フッ化リチウム)により形成され、後述する陰極層122からの電子の注入容易性が、有機発光層8の中央部Aよりも有機発光層8の周辺部Bにおいて高くなるように形成されている。本実施形態では、電子注入層121は、膜厚tBが大きく形成された有機発光層8の周辺部Bに対応する部分の膜厚TBが、有機発光層8の中央部Aに対応する部分の膜厚TAよりも小さく形成されて、陰極層122からの電子の注入容易性が、有機発光層8の中央部Aよりも有機発光層8の周辺部Bにおいて高くなるように形成されている。
【0029】
このような形状の電子注入層121は、例えば、有機発光層8上の全面に、約5nmの膜厚でLiFを蒸着させ、その後、有機発光層8の中央部Aに対応する形状の開口部を備えたマスクを介して、有機発光層8の中央部Aにさらに約5nmの膜厚でLiFをマスク蒸着させることで形成することができる。これにより、中央部の膜厚TAが約10nm、周辺部の膜厚TBが約5nmの電子注入層を形成することができる。
【0030】
電子注入層121上には、電子注入層121および有機隔壁6を覆って、陰極層122が形成されている。陰極層122は、例えば、Al(アルミニウム)により形成されている。陰極層122は、複数の有機EL素子1にわたって、有機EL素子1の表示領域の一面にベタ状に形成されている。本実施形態では、電子注入層121と陰極層122とによって有機EL素子1の陰極12が構成されている。陰極は、図1に示す走査線101と電気的に接続されている。
また、図示は省略するが、陰極12は、基板2上に形成された陰極用配線に接続されており、この配線の一端部がフレキシブル基板上の配線に接続され、フレキシブル基板上に備えられた駆動IC(駆動回路)に接続されている。
【0031】
また、本実施形態の有機EL装置100は、発光機能層10から基板2側に発した光が、基板2を透過して基板2の外側(観測者側)に出射されるとともに、機能層10から基板2の反対側に射出された光も、陰極12に反射されて基板2を透過し、基板2の外側(観測者側)に出射される、いわゆるボトムエミッション型となっている。
【0032】
次に、本実施形態の作用について説明する。
上述のように、駆動用TFT113がオンになると、陽極11に電流が流れ、陰極層122から電子注入層121を介して有機発光層8に電子が供給され、陽極11から供給された正孔と結合して有機発光層8が発光する。ここで、有機発光層8は、液滴吐出法により形成されて中央部Aの膜厚よりも周辺部Bの膜厚が大きく形成されている。そのため、中央部Aにおける電子が正孔と再結合するまでの距離は、周辺部Bにおける電子が正孔と再結合するまでの距離よりも短くなっている。したがって、有機発光層8の発光強度は、電子の移動距離が長い周辺部Bのほうが小さく、電子の移動距離が短い中央部Aほど大きくなる。
【0033】
しかし、本実施形態では、電子注入層121は、有機発光層8の周辺部Bに対応する部分の膜厚TBが、有機発光層8の中央部Aに対応する部分の膜厚TAよりも小さく形成されて、陰極層122からの電子の注入容易性が、有機発光層8の中央部Aよりも有機発光層8の周辺部Bにおいて高くなるように形成されている。このため、有機発光層8の周辺部Bおよび中央部Aにおいて、陰極層122から電子注入層121への電子の移動距離の差と、電子注入層121から有機発光層8への電子の注入容易性の差とが相殺されて、有機発光層8中の電子と正孔の再結合割合が均一化される。
【0034】
ここで、図4は、図3(a)に示す幅Wl方向における有機EL素子の発光強度を示すグラフである。図4に示すように、本実施形態の有機EL素子1の発光強度は、図10(b)に示す従来の有機EL素子の発光強度と比較して、有機発光層8の周辺部Bに近い部分の輝度が向上し、全体として輝度がより均一化されている。すなわち、上述のように、有機発光層8中の電子と正孔の再結合割合が均一化されたことで、有機発光層8の輝度が均一化される。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の有機EL素子1によれば、有機発光層8を液滴吐出法により形成した場合であっても、有機発光層の周辺部Bと中央部Aとにおける発光強度の差を、周辺部Bと中央部Aとにおける電子注入層の電子の注入容易性の差によって相殺することで、有機発光層8中の周辺部Bと中央部Aにおける電子と正孔の再結合割合を均一化して、有機発光層8の形成領域内における有機発光層8の発光強度を均一化することができる。これにより、有機EL素子1の発光性能が向上して有機EL装置100の表示領域の輝度が向上するとともに、表示性能が向上する。
【0036】
また本実施形態では、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合について説明したが、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも小さくなった場合には、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合とは逆に、電子注入層121は、膜厚tBが小さく形成された有機発光層8の周辺部Bに対応する部分の膜厚TBが、有機発光層8の中央部Aに対応する部分の膜厚TAよりも大きく形成されて、陰極層122からの電子の注入容易性が、有機発光層8の中央部Aよりも有機発光層8の周辺部Bにおいて低くなるように形成すればよい。
【0037】
このように電子注入層121を形成すれば、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも小さくなった場合であっても、有機発光層8の周辺部Bおよび中央部Aにおいて、陰極層122から電子注入層121への電子の注入容易性の差と、電子注入層121から有機発光層8への電子の移動距離の差とが相殺されて、有機発光層8中の電子と正孔の再結合割合が均一化される。また有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも小さくなった場合には、中央部Aは、中央部Aは、有機発光層8のうち最も発光強度が低い領域を含んでおり、周辺部Bは、有機発光層8のうち最も発光強度が高い領域を含んでいるものとする。また中央部Aと周辺部Bとの境目は、状況に応じて適宜設定可能であるが、有機発光層8を平面視した領域のうち、最も発光強度が高い領域の発光強度の約80%以上の発光強度を有する領域を周辺部Bとしてもよい。(これは以後の実施形態においても同様である。)
【0038】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態について、図1を援用し、図5、図6(a)、図6(b)を用いて説明する。本実施形態では、電子注入層が材料の異なる二層により形成されている点で、上述の第一実施形態で説明した有機EL装置100および有機EL素子1と異なっている。その他の点は第一実施形態と同様であるので、同一の部分には同一の符号を付して説明は省略する。
【0039】
図5は、本実施形態の有機EL装置200の有機EL素子1a近傍の拡大断面図である。図6(a)は、本実施形態の有機EL素子1aの陽極11の形状を示す平面図である。図6(b)は、本実施形態の有機EL素子1aの陰極12aの形状を示す平面図である。また、図5は図6(a)および図6(b)のa−a線に沿う断面に対応している。
【0040】
図5、図6(b)に示すように、本実施形態の有機EL素子1aでは、電子注入層が、有機発光層8の中央部Aを覆うように形成された第一電子注入層121aと、第一電子注入層121aと有機発光層8の周辺部Bとを覆うように形成された第二電子注入層121bと、の二層により構成されている。
【0041】
ここで、本実施形態では、第一電子注入層121aの仕事関数が、第二電子注入層121bの仕事関数よりも高くなるように材料が選定されている。例えば、第一電子注入層121aの形成材料として仕事関数が2.87eVのカルシウム(Ca)を選定し、第二電子注入層121bの形成材料として仕事関数が2.59のストロンチウム(Sr)を選定することができる。
【0042】
第一電子注入層121aの形成方法としては、例えば、マスク蒸着法等のマスクパターニングを用いることができる。そして、第一電子注入層121aを形成した後、陰極12aの形成領域の全面に第二電子注入層121bを蒸着させ、その上を覆うように第一実施形態と同様の陰極層122を形成することで、本実施形態の陰極12aを形成することができる。
【0043】
次に、本実施本形態の作用について説明する。
図5および図6(b)に示すように、本実施形態の電子注入層は、有機発光層8の中央部Aにおいては、第一電子注入層121aと第二電子注入層121bとの二層構造により形成されている。一方、有機発光層8の周辺部Bにおいては、電子注入層121は第二電子注入層121bの一層のみにより形成されている。これにより、第一実施形態と同様に、有機発光層8の周辺部Bに対応する部分の電子注入層の膜厚TBを、有機発光層の中央部に対応する部分の電子注入層の膜厚TAよりも小さく形成することができる。
【0044】
加えて、本実施形態では、第一電子注入層121aの仕事関数が、第二電子注入層121bの仕事関数より高くなっている。これにより、陰極層122から電子注入層への電子の注入容易性が、有機発光層8の周辺部Bにおいて有機発光層8の中央部Aよりも高くなる。したがって、第一実施形態と同様に、有機発光層8の周辺部Bと中央部Aとの間で、陰極層122から電子注入層への電子の注入容易性の差と、電子注入層から有機発光層8への電子の移動距離の差とが相殺されて、陰極層122から有機発光層8への電子の注入容易性が均一化される。これにより、第一実施形態と同様に、有機発光層8の輝度が均一化される。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の有機EL素子1aおよび有機EL装置200によれば、第一実施形態と同様に、有機発光層8を液滴吐出法により形成した場合であっても、有機発光層8の形成領域内における有機発光層8の発光強度を均一化することができる。
また、第一電子注入層121aと第二電子注入層121bの材料選定や、各層の膜厚の調整を行うことにより、陰極層122から有機発光層8への電子の注入容易性を制御することができる。
【0046】
また本実施形態では、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合について説明したが、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも小さくなった場合には、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合とは逆に、電子注入層を、有機発光層8の周辺部Bにおいては、第一電子注入層121aと第二電子注入層121bとの二層構造により形成し、有機発光層8の中央部Aにおいては、第二電子注入層121bの一層のみにより形成すればよい。
その結果、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合と同様に、有機発光層8の周辺部Bと中央部Aとの間で、陰極層122から電子注入層への電子の注入容易性の差により、電子注入層から有機発光層8への電子の移動距離の差が相殺されて、有機発光層8中の電子と正孔の再結合割合が均一化される。
【0047】
<第三実施形態>
次に、本発明の第三実施形態について、図1を援用し、図7、図8(a)、図8(b)を用いて説明する。本実施形態では、有機EL素子1bの陽極11の周辺部と中央部とを区画する隔壁が形成されている点で、上述の第一実施形態で説明した有機EL装置100と異なっている。その他の点は第一実施形態と同様であるので、同一の部分には同一の符号を付して説明は省略する。
【0048】
図7は、本実施形態の有機EL装置300の有機EL素子1b近傍の拡大断面図である。図8(a)は、本実施形態の有機EL素子1bの陽極11の形状を示す平面図である。図8(b)は、本実施形態の有機EL素子1bの陰極12の形状を示す平面図である。また、図7は、図8(a)および図8(b)のa−a線に沿う断面に対応している。
【0049】
図7および図8(a)に示すように、本実施形態の有機EL装置300の第二層間絶縁膜4上には、有機EL素子1bの有機発光層8の中央部Aに対応する陽極11aの中央部A1と、有機発光層8の周辺部Bに対応する陽極11aの周辺部B1と、を区画する絶縁隔壁50が形成されている。絶縁隔壁50は、例えば、無機隔壁5と同様の材料により形成されている。
また、図8(a)に示すように、陽極11aはトラック形状の長辺の略中央付近の無機隔壁5が開口された部分において、それぞれ駆動用TFT113のドレインに電気的に接続されている。
【0050】
このような絶縁隔壁50の形成方法としては、まず、第一実施形態と同様に第二層間絶縁膜4上に各々の有機EL素子1bに対応する陽極11を形成する。そして、図8(a)に示すように、有機発光層8の中央部Aと周辺部Bとにそれぞれ対応させて陽極11の中央部A1と周辺部B1とを区画するように、例えば、フォトリソグラフィ法およびエッチング法等を用いて、陽極11をパターニングして、本実施形態の陽極11aを形成する。次いで、パターニングされた陽極11aを覆うように、無機隔壁5の形成材料からなる層を形成し、パターニングした周辺部B1と中央部A1とに対応させて開口部5a1,5a2を形成する。これにより、無機隔壁5と絶縁隔壁50とを同時に形成することができる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の有機EL装置300では、有機EL素子1bの有機発光層8の中央部Aに対応する陽極11aの中央部A1と、有機発光層8の周辺部Bに対応する陽極11aの周辺部B1と、を区画する絶縁隔壁50が形成されているので、有機発光層8の周辺部Bの電子注入容易性の高い電子注入層121を通過した電子が、有機発光層8の中央部Aに到達することが防止される。これにより、第一実施形態の作用に加えて、陰極層122から有機発光層8の周辺部Bの電子注入層121に注入された電子を、より確実に有機発光層8の周辺部Bに到達させることができる。したがって、有機発光層8の形成領域内における有機発光層8の発光強度をより均一化することができる。
【0052】
また本実施形態では、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも大きくなった場合について説明したが、有機発光層8の周辺部Bの膜厚tBが中央部Aの膜厚tAよりも小さくなった場合においても、有機発光層8の中央部Aの電子注入容易性の高い電子注入層121を通過した電子が、有機発光層8の周辺部Bに到達することが防止され、有機発光層8の形成領域内における有機発光層8の発光強度をより均一化することができる。
【0053】
(電子機器)
次に、上述の実施形態において説明した有機EL装置を備えた電子機器の具体例について説明する。
図9(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図9(a)において、符号1000は携帯電話本体を示し、符号1001は上述の有機EL装置からなる表示部を示している。
図9(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図9(b)において、符号1100は時計本体を示し、符号1101は上述の有機EL装置からなる表示部を示している。
図9(c)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図9(c)において、符号1200は情報処理装置、符号1202はキーボードなどの入力部、符号1204は情報処理装置本体、符号1206は上述の有機EL装置からなる表示部を示している。
図9(d)は、薄型大画面テレビの一例を示した斜視図である。図9(d)において、薄型大画面テレビ1300は、薄型大画面テレビ本体(筐体)1302、スピーカーなどの音声出力部1304、上述の有機EL装置からなる表示部1306を備える。
【0054】
図9(a)〜(d)に示す電子機器1000,1100,1200,1300は、上述の実施形態で説明した有機EL装置のいずれかを備えているので、有機EL素子の各々が均一に発光し、この有機EL装置からなる表示部1001,1101,1206,1306の発光特性が良好となり、表示性能が向上する。したがってこれら電子機器1000,1100,1200,1300自体も、表示部1001,1101,1206,1306の発光性能に優れた表示性能の高いものとなる。
【0055】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、電子注入層の構成は、有機発光層の中央部よりも有機発光層の周辺部において高くなるように形成されていれば、上述の実施形態で説明した構成に限られない。
また、上述の第二実施形態において説明した第一電子注入層および第二電子注入層の材料は、カルシウムとストロンチウムとの組合せに限定されず、第一電子注入層の仕事関数が、第二電子注入層の仕事関数よりも高くなるように選定すればよい。
また、上述の第三実施形態においては、絶縁隔壁を設けることが好ましいが、絶縁隔壁は形成しなくてもよい。この場合にも、陽極が区画されていることから、上述の第三実施形態と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第一実施形態における有機EL装置の配線構造を示す模式図である。
【図2】本発明の第一実施形態における有機EL装置の部分拡大断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態における有機EL素子の構成を示す図であり、(a)は陽極の形状を示す平面図、(b)は陰極の形状を示す平面図である。
【図4】本発明の第一実施形態における陰極の形状を示す平面図である。
【図5】本発明の第二実施形態における有機EL装置の部分拡大断面図である。
【図6】本発明の第二実施形態における有機EL素子の構成を示す図であり、(a)は陽極の形状を示す平面図、(b)は陰極の形状を示す平面図である。
【図7】本発明の第三実施形態における有機EL装置の部分拡大断面図である。
【図8】本発明の第三実施形態における有機EL素子の構成を示す図であり、(a)は陽極の形状を示す平面図、(b)は陰極の形状を示す平面図である。
【図9】(a)〜(d)は本発明の実施形態における電子機器の例を示す斜視図である。
【図10】液滴吐出法により形成した有機発光層の一例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のb−b線に沿う断面図である。
【図11】(a)は、図10(b)の幅W方向の膜厚tの分布を示すグラフであり、(b)は同、幅W方向の発光強度の分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1,1a,1b 有機EL素子、8 発光層(有機発光層)、10 機能層、11,11a 陽極(第二電極)、12,12a 陰極(第一電極)、100,200,300 有機EL装置(電気光学装置)、121 電子注入層、121a 第一電子注入層(電子注入層)、121b 第二電子注入層(電子注入層)、122 陰極層、A,A1 中央部、B,B1 周辺部、TA,TB 膜厚、1000 携帯電話本体(電子機器)、1100 時計本体(電子機器)、1200 情報処理装置(電子機器)、1300 薄型大画面テレビ(電子機器)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極と第二電極との間に少なくとも有機発光層を有する機能層が挟持され、前記有機発光層が液滴吐出法により形成された有機EL素子であって、
前記第一電極は、陰極層と、前記陰極層と前記機能層との間に設けられた電子注入層と、を備え、
前記電子注入層は、前記陰極層からの電子の注入容易性が、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも前記有機発光層の発光強度が最も低い領域において高くなるように形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記電子注入層の膜厚が、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも前記有機発光層の発光強度が最も低い領域において薄くなるように形成されていることを特徴とする請求項1記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記電子注入層は、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域を覆うように形成された第一電子注入層と、前記第一電子注入層と前記有機発光層の発光強度が最も低い領域とを覆うように形成された第二電子注入層とを備え、
前記第一電子注入層の仕事関数が、前記第二電子注入層の仕事関数よりも高いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記有機発光層の発光強度が最も高い領域に対応する前記第二電極の第1領域と、前記有機発光層の発光強度が最も低い領域に対応する前記第二電極の第2領域と、が区画されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の有機EL素子を備えたことを特徴とする電気光学装置。
【請求項6】
請求項5記載の電気光学装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項1】
第一電極と第二電極との間に少なくとも有機発光層を有する機能層が挟持され、前記有機発光層が液滴吐出法により形成された有機EL素子であって、
前記第一電極は、陰極層と、前記陰極層と前記機能層との間に設けられた電子注入層と、を備え、
前記電子注入層は、前記陰極層からの電子の注入容易性が、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも前記有機発光層の発光強度が最も低い領域において高くなるように形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記電子注入層の膜厚が、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域よりも前記有機発光層の発光強度が最も低い領域において薄くなるように形成されていることを特徴とする請求項1記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記電子注入層は、前記有機発光層の発光強度が最も高い領域を覆うように形成された第一電子注入層と、前記第一電子注入層と前記有機発光層の発光強度が最も低い領域とを覆うように形成された第二電子注入層とを備え、
前記第一電子注入層の仕事関数が、前記第二電子注入層の仕事関数よりも高いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記有機発光層の発光強度が最も高い領域に対応する前記第二電極の第1領域と、前記有機発光層の発光強度が最も低い領域に対応する前記第二電極の第2領域と、が区画されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の有機EL素子を備えたことを特徴とする電気光学装置。
【請求項6】
請求項5記載の電気光学装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−224434(P2009−224434A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65281(P2008−65281)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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