説明

有機EL素子およびその製造方法

【課題】 像の映り込みや視認性の低下を改善し優れた表示特性を有する有機EL素子、およびそのような素子を製造するための簡便な方法を提供すること。
【解決手段】 基板上に、透明電極と、少なくとも有機発光層を含む有機EL層と、金属電極とを順次有する有機EL素子であって、金属電極との界面を形成する有機EL層の表面層を形成する際に圧力を調整することにより、透明電極と有機EL層との界面が平坦であり、かつ金属電極と前記有機EL層との界面が凹凸である有機EL素子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子およびその製造方法に関し、特に、外部から光が入射し素子内で反射することによって引起される像の映りこみを改善する凹凸が有機EL層の表面に形成された有機EL素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置に適用される発光素子の一例として、有機化合物の薄膜積層構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と称する)が知られている。有機EL素子については、1987年、イーストマンコダック社のC.W.Tangらによって、高効率の発光を実現する2層積層構造の有機EL素子が発表され(非特許文献1を参照)、それ以来現在に至るまでに様々な有機EL素子が開発され、その一部は実用化され始めている。
【0003】
一般に有機EL素子は、光の取り出し側となる透明電極と、金属電極と、それら電極で挟持される有機EL層とを有する構造となっている。このような有機EL素子は、通常、平坦な基板上に、透明電極、有機EL層、金属電極を順次積層することによって作製されるため、各層の表面は平坦となっている。平坦な金属電極は鏡面を形成し、光の取り出し側となる透明電極と反対方向に発光した光を透明電極側に反射するように作用することで、有機EL層から発光された光の利用効率を高める効果がある。有機EL層は、少なくとも有機発光層を含み、通常、2層以上の積層構造からなり、その総膜厚は200nm以下と非常に薄い。そのため、素子内に外部から光が入射すると、光は有機EL層を容易に透過し、金属電極で鏡面反射することによる像の映りこみ、または鏡面反射された光が透明電極側に戻って表示面での視認性を低下させるという問題を生じる。
【0004】
外部からの光が素子内の金属電極で反射することによって生じる表示特性の低下を解決する方法の1つとして、散乱板のような反射防止膜を表示面前面に設けて、外部からの光の入射および結像を抑止する方法がある。しかし、このような方法によれば、散乱板によって、有機EL層からの発光もまた散乱されることになり、表示画像がぼやける傾向がある。そのため、表示画像のぼやけを生じることなく、像の映りこみを改善する代表的な方法として、金属電極表面に微細な凹凸を多数形成し、その凹凸によって光を散乱させる技術が検討されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−243152号公報
【特許文献2】特開2002−299056号公報
【特許文献3】特開2001−74919号公報
【非特許文献1】C.W.Tang,S.A.VanSlyke,Appl.Phys.Lett.,51,913(1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表示素子の分野では、外部から素子内に入射した光を散乱できるような凹凸面を形成するいくつかの方法が知られている。例えば、有機EL素子の金属電極表面に凹凸を形成する方法として、基板上に感光性材料を設け、それらをフォトマスク露光および現像によって凹凸形状にパターニングすることによって基板表面に凹凸を形成し、次いで透明電極、有機EL層および金属電極を順次積層する方法が知られている(特許文献1および2)。しかし、上述の方法では、基板に凹凸を形成するための独立した工程が必要となり煩雑であるだけでなく、基板上に順次積層される透明電極、有機EL層、および金属電極といった全ての層が凹凸に形成されることになる。各層の平坦性が損なわれると、各層の膜厚が不均一になり特性にバラツキが生じるだけでなく、リークやショートといった問題が生じやすくなり、有機EL素子の信頼性が低下する可能性がある。すなわち、外部から入射した光を散乱させるには、反射面となる金属電極の表面が凹凸であれば良く、その他の層はできるだけ平坦であることが望ましい。そのため、優れた表示特性を実現することが可能な有機EL素子およびそれを製造する簡便な方法に対する要望がある。凹凸面を形成する他の方法として、基板上に凹凸を形成するようにビーズを並べ、これらをガラス、樹脂、金属酸化物といった硬化性バインダーによって固定したものを型取りし、鋳型に硬化性材料を注入することで凹凸面を有する散乱体を形成する方法がある(特許文献2)。しかし、上述の方法は、工程数が多く煩雑であるため、より簡便な方法が望まれている。
【0007】
従って、本発明の課題は、像の映り込みや視認性の低下が改善され優れた表示特性を有する有機EL素子、およびそのような素子を製造するための簡便な方法を提供することである。より具体的には、有機EL層と金属電極との界面が凹凸である一方で、透明電極と有機EL層との界面は平坦である有機EL素子、およびそのような素子を製造する簡便な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本発明者らは、映りこみを抑制するための凹凸構造を有する有機EL素子およびその製造方法について鋭意検討した結果、有機材料を蒸着させて有機EL層を形成する際に、蒸着時の圧力を調整することによって、良好な凹凸面が容易に得られることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の有機EL素子は、基板上に、透明電極と、少なくとも有機発光層を含む有機EL層と、金属電極とを順次有するものであって、上記透明電極と上記有機EL層との界面は平坦であり、かつ上記金属電極と上記有機EL層との界面は凹凸であることを特徴とする。ここで、金属電極との界面を形成する有機EL層の表面層が、表面に凸凹を有する電子注入層または電子輸送層であることが好ましい。
【0010】
本発明の有機EL素子の製造方法は、基板上に透明電極を形成する工程と、上記透明電極の上に、少なくとも有機発光層を含み、金属電極との界面を形成する表面層が凹凸である有機EL層を形成する工程と、上記有機EL層の上に金属電極を形成する工程とを有し、上記有機EL層の表面層の形成において、真空蒸着装置内で有機材料を成膜した後に、上記真空蒸着装置内に不活性ガスを導入して圧力を上げ、次いで脱気して上記真空蒸着装置内の圧力を再度真空状態まで下げることによって、表面層に凹凸を形成することを特徴とする。ここで、不活性ガスを導入した際の上記真空蒸着装置内の圧力が、0.1から10Paであることが好ましい。また、上記表面層が、電子注入層または電子輸送層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外光による映りこみ、および視認性の低下といった問題が改善されることにより、優れた表示特性を有しかつ信頼性の高い有機EL素子を実現することが可能である。また、本発明によれば、上述の有機EL素子を簡便な方法によって製造することが可能となるため、優れた表示特性を有しかつ信頼性の高い有機EL素子の量産化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の第1は、有機EL素子に関する。本発明による有機EL素子は、基板上に、透明電極と、少なくとも有機発光層を含む有機EL層と、金属電極とを順次有するものであって、上記透明電極と上記有機EL層との界面が平坦であり、かつ上記金属電極と上記有機EL層との界面が凹凸であることを特徴とする。このように、上記金属電極と上記有機EL層との界面が凹凸になっているため、外部から素子内に入射した光は、金属電極の凹凸面で散乱され、像の映り込みおよび視認性の低下が改善される。
【0013】
以下、本発明における有機EL素子の構成エレメントについて説明する。透明電極は、光の取り出し側となるため、透明導電性材料からなる膜とする必要がある。透明電極は、可視光の領域である380〜780nmの波長において80%以上の透過率を有することが望ましい。透明電極材料としては、例えば透明導電性酸化物であるITOまたはIZOが好ましい。
【0014】
有機EL層は、少なくとも有機発光層を含む。有機発光層では、陽極および陰極に電圧が印加されることによって生じる正孔および電子が再結合することで発光が生じる。有機EL層は、必要に応じて、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層といった追加の層を含んでもよい。すなわち、有機EL層は、陽極/有機発光層/陰極の構成を基本として、例えば、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/陰極、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極といった構成であってもよい。正孔注入層および正孔輸送層は、陽極より注入された正孔を有機発光層に伝達する機能を有する。また、電子注入層および電子輸送層は、陰極より注入された電子を有機発光層に伝達する機能を有する。すなわち、正孔注入層および/または正孔輸送層を有機発光層と陽極との間に介在させることによって、より低い電界で多くの正孔が有機発光層に注入されることになる。一方、陰極および電子注入層および/または電子輸送層から有機発光層に注入された電子は、陽極側まで輸送されず、正孔注入層または正孔輸送層と有機発光層との界面に蓄積され、その結果、発光効率が向上することになる。なお、一般に、透明電極を陽極とし、金属電極を陰極とすることが好ましい。そのため、金属電極と有機EL層との界面を形成する表面層は、電子注入層または電子輸送層であることが好ましい。なお、本願発明の有機EL層は、平坦な基板上に形成された透明電極上に形成されるため、透明電極との界面は平坦であるが、金属電極との界面を形成する表面層が凹凸になっていなければならない。有機EL層の表面層は金属電極の下地層になるため、表面層の凸凹が金属電極にも反映されて微細な凹凸構造が形成されることになる。
【0015】
有機EL層を構成する各層の材料としては、特に限定されるものではなく公知のものが使用される。その一例を以下に示す。正孔注入層には、例えば、フタロシアニン類(銅フタロシアニン(CuPc)など)またはインダンスレン系化合物を使用することができる。正孔輸送層には、例えば、TPD、N,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルビフェルアミン(α−NPD)、4,4’−4”−トリス(N−3−トリル−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、N,N,N’−テトラビフェニル−4,4’−ビフェニレンジアミン(TBPB)といったトリアリールアミン系材料を使用することができる。 有機発光層の材料は、所望の色調に応じて選択することが可能である。例えば青色から青緑色の発光を得るためには、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンソオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などを使用することができる。より具体的には、4,4′−ビス(2,2′−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)が挙げられる。また、種々の波長域の発光を得るために、ホスト化合物(ジスチリルアリーレン化合物、TPD、アルミニウムトリス(8−キノリノラート)(Alqなど))にドーパント(ペリレン、キナクリドン類、ルプレンなど)を添加したものを使用することもできる。
【0016】
電子輸送層には、2−(4−ビフェニル)−5−(p−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、フェニルキノキサリン類、アルミニウムのキノリノール錯体(例えばAlq)などを使用することができる。電子注入層には、Li,Cs,Mg,Caなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属、あるいはこれら金属のフッ化物または酸化物などを使用することができる。
【0017】
金属電極は、陰極として構成することを想定すると、仕事関数4.8eV未満の金属および合金から形成されることが好ましい。例えば、Al、Ag、Mg、Mn、またはそれら金属を含有する合金(AlLi、MgAgなど)が好ましい。また、LiF/Alなどの積層電極を使用することもできる。なお、本願発明で使用される金属電極は、有機EL層の形成時に形成された表面層の凹凸を反映して、微細な凹凸構造を有することになる。反射面となる金属電極の表面が凹凸となっていることにより、外部から素子内に入射した光を散乱させることができ、像の映り込み、および視認性の低下といった現象を改善することが可能である。
【0018】
以上説明したように、本発明の有機EL素子では、基板上に形成された透明電極、少なくとも有機発光層を有する有機EL層、および金属電極を必須エレメントとするが、当技術分野で慣用の他のエレメントを追加してもよい。本発明による有機EL素子の一例を図1に示す。図1は、本発明の有機EL素子の一例を示す模式的断面図であり、(a)は素子全体を示し、(b)は有機EL層の構成を示す。図1(a)に示すように、本発明の有機EL素子は、基板10と、色変換膜(CCM)20と、オーバーコート層30と、パッシベーション層40と、透明電極50と、有機EL層60と、金属電極70とを有する。なお、図1(b)に示すように、有機EL層60は、透明電極に隣接する正孔注入層61と、正孔輸送層62と、有機発光層63と、電子輸送層64、凹凸表面の電子輸送層(表面層)64’とから構成される。なお、図1で示した表面層は、下地層となる有機材料と同じ材料を別途設けて凹凸が形成された場合を例示しているが、表面層は下地層と異なる材料から形成することも可能である。例えば、下地層を電子輸送層、凹凸の表面層を電子注入層としてもよい。しかし、成膜効率を考慮すると、下地層と表面層とは同じ材料から構成されることが望ましい。
【0019】
本発明の第2は、有機EL素子の製造方法に関する。本発明の製造方法は、基板上に透明電極を形成する工程と、上記透明電極の上に、少なくとも有機発光層を含み、金属電極との界面を形成する表面層が凹凸である有機EL層を形成する工程と、上記有機EL層の上に金属電極を形成する工程とを有し、上記有機EL層の表面層の形成において、真空蒸着装置内で有機材料を成膜した後に、真空蒸着装置内に不活性ガスを導入して圧力を上げ、次いで脱気して真空蒸着装置内の圧力を再度真空状態まで下げることによって表面層に凹凸を形成することを特徴とする。このように本発明の製造方法は、金属電極と接触し界面を形成する有機EL層の表面層を形成する際に、真空蒸着装置内の圧力を調整するだけで凹凸を形成することが可能である。すなわち、本発明によれば、金属電極の表面に凹凸を形成するために、従来法のように予め基板表面を処理する必要がない。また、表面が平坦な基板上に透明電極、有機EL層が積層されるため、透明電極と有機EL層との界面は平坦となる。
【0020】
有機EL層の形成は、蒸着法、スピンコート法、キャスト法などの公知の方法に従って、有機材料を成膜することによって達成することが可能である。また、有機材料を樹脂などの結着材とともに溶剤に溶かして溶液としたものを、スピンコート法に従い成膜することで達成することも可能である。但し、有機EL層の表面層を形成する際には、有機材料の成膜に引き続き、圧力を調整する必要があるため、各種方法に従った成膜は真空槽内で実施されることが望ましい。そのため、表面層を除く有機EL層の形成においても、真空蒸着装置を用いた蒸着法を適用することが好ましい。
【0021】
蒸着法は、通常、真空槽の内圧を1×10−5Paまで減圧して実施する。しかし、本願発明の製造方法では、表面層(凹凸層)の形成時に真空槽の内圧を高くする必要がある。理論によって拘束されるものではないが、真空度を下げて蒸着を実施すると蒸着粒子の衝突確率が上がるため、有機分子が集合した状態になる。そして、この状態で真空度を再度上げて、有機分子の衝突確率を下げることによって、有機材料は被成膜面に達して微粒子化する。有機材料は、通常の圧力下ではアモルファス状態で堆積され平坦な層となるが、高圧下では微粒子化した状態で堆積されて凹凸が形成されることになる。そのため、凹凸層の形成時には、圧力は、0.1Pa〜10Pa、好ましくは0.5Pa〜5Pa、より好ましくは0.8Pa〜2Paまで高くすることが好ましい。圧力の上昇が十分でないと、有機材料の粒子化が不十分であり、凹凸が形成されない可能性がある。一方、圧力の上昇が大きすぎると、凹凸が大きすぎてショートおよびリークの問題が生じる可能性がある。
【0022】
その他の構成エレメントの形成方法としては、当技術分野において周知のものを適用することが可能である。例えば、透明電極の形成は、ITOまたはIZOなどの透明導電性酸化物をスパッタ法により成膜し、フォトリソグラフ法にてパターニングすることによって実施することが可能である。また、金属電極の形成は、先に形成された有機EL層の凹凸上に、Alなどの金属材料を蒸着法またはスパッタ法に従い成膜することによって実施することが可能である。
【0023】
以上説明したように、本願発明の製造方法によれば、有機EL層と金属電極との界面を形成する表面層を形成する際に、圧力を調整することによって凹凸を形成することが可能であるため、従来の凹凸形成法と比較して、より簡便に金属電極に凹凸を形成することが可能となる。そのため、外部からの光を散乱せしめ、映りこみおよび視認性の低下を抑制した、高品質の有機EL素子を低コストで提供することが可能である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、それらは本発明を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0025】
(実施例1)
本実施例は、透明電極と金属電極との界面が凹凸となっている、カラー表示の有機EL素子に関する。この有機EL素子の構造は図1に示す通りであり、以下手順に沿って製造した。
【0026】
(色変換フィルタ基板)
ガラス基板上に、青色フィルタ材料をスピンコート法にて塗布した。次に、フォトリソグラフ法に従いパターニングを実施し、ラインパターンを有する青色フィルタ層を得た。次に、蛍光色素として、クマリン6を含んだ塗布液を調製し、先の工程によって得られた基板(青色フィルタ層のラインパターンが形成済みである)上に、塗布液をスピンコート法に従って塗布した。
【0027】
次に、フォトリソグラフ法に従ってパターニングを実施し、ラインパターンを有する緑色変換層を得た。蛍光色素として、クマリン6、ローダミン6G、ベーシックバイオレット11を含んだ塗布液を調製し、先の工程によって得られた基板(青色フィルタ層および緑色変換層のラインパターンが形成済みである)上に、スピンコート法を用いて塗布した。次に、フォトリソグラフ法に従いパターニングを実施し、ラインパターンを有する赤色変換層を得た。
【0028】
上述のように作製した基板(青色フィルタ層、緑色変換層および赤色変換層がそれぞれ形成された)の上に、UV硬化型樹脂をスピンコート法に従って塗布し、高圧水銀灯に暴露することによって、膜厚8μmのオーバーコート層を形成した。この時、各色変換層のパターンの変形はなく、かつオーバーコート層の上面は平坦であった。
【0029】
次に、パッシベーション層として、室温において、RFマグネトロンスパッタ法に従い、膜厚300nmのSiOx(xは、およそ2)膜を形成した。この際、スパッタターゲットとしてSiを用い、スパッタガスとしてArと酸素との混合ガスを用いた。
【0030】
上述のようにして色変換フィルタ基板を作製した後、以下に示す手順に従って、透明電極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/凹凸層/金属電極を順次形成することにより、有機EL素子を形成した。
【0031】
(透明電極)
先の工程によって得られた色変換フィルタ基板上に、スパッタ法に従って透明電極IZOを基板全面に成膜した。IZOターゲットとしてIn−10%ZnOを用い、DCスパッタリング法に従い、室温において、0.3Paの圧力下、スパッタリングガスとしてArを用い、100W(20nm/min.)のスパッタアワーを印加することによって成膜した。次に、フォトリソグラフ法に従ってパターニングを行い、それぞれの色の発光部に位置する、ストライプパターンを有する透明電極を形成した。パターニング後、乾燥処理(150℃)およびUV処理(室温および150℃)を行った。
【0032】
(有機EL層)
7室型蒸着装置において、先の工程により透明電極が形成された基板上に、有機EL層として、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、凹凸層の成膜を行った。成膜に際して真空槽内圧は1×10−5Paまで減圧した。蒸発源は抵抗加熱式であり、るつぼ材質は蒸着材料に応じて石英、Mo、BN、PBNを適宜使い分けた。各層の蒸着材料および成膜後の膜厚は以下の通りである:正孔注入層(CuPc、60nm)、正孔輸送層(TBPB、20nm)、有機発光層(DPVBi、40nm)、電子輸送層(Alq、20nm)、各有機材料の蒸着レートは2〜4Å/sとした。
【0033】
なお、表面層となる凹凸層の形成は、電子輸送層を形成する蒸着源からの蒸発を継続させる一方で、蒸着装置内の真空槽の内圧を調整することにより実施した。すなわち、真空槽の内圧を1×10−5Paから、一旦1Paまで上昇させ、そのまま10秒にわたって放置した。引き続き、減圧することによって内圧を1×10−5Paに戻し、そのまま20秒間にわたって放置した後に成膜を終了した。上述のようにして得られた表面層(電子輸送層)の状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。後述の比較例1による表面層(電子輸送層)の状態を示す図4との比較から明らかなように、成膜時に一旦圧力を上げることによって、表面に良好な凹凸が形成されることが分かる。
【0034】
(金属電極)
引き続き、真空を破らずに、表面が凹凸の有機EL層の上にメタルマスクを用いて、LiF(膜厚1nm)/Al(膜厚100nm)の金属電極を形成した。金属電極は、金属電極との界面を形成する有機EL層の表面層の凹凸を反映して、微細な凹凸形状を有した。得られた金属電極の表面状態を示すSEM写真を図3に示す。後述の比較例1による金属電極の表面状態を示す図5との比較から明らかなように、本発明によれば、有機EL層における表面層の凹凸形状を良好に反映して微細な凹凸を有する金属電極を形成することが可能であることが分かる。
【0035】
(素子の封止)
上述のようにして作製した有機EL素子を、大気に暴露せずにグローブボックス(酸素濃度、水分濃度、数ppm以下)に移動して、封止を行った。封止は、有機EL素子が形成された基板に紫外線硬化型樹脂を塗布し、封止部材と貼りあわせ、紫外線を照射し、樹脂を硬化させることによって達成された。なお、封止内部には接着剤を用いて予めゲッター剤を固定しておいた。封止後の有機EL素子について、蛍光灯下における映り込みの評価、分光光度計による拡散反射率の測定、および発光状態の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0036】
(実施例2)
本実施例は、有機EL層の表面層に凹凸を形成する際の圧力を換えたことを除き、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。すなわち、表面層の凹凸は、電子輸送層を形成する蒸着源からの蒸発を継続させる一方で、真空槽の内圧を1×10−5Paから、一旦0.1Paまで上昇させ、そのまま10秒にわたって放置し、引き続き、真空槽内を減圧することによって、内圧を1×10−5Paに戻し、そのまま20秒間にわたって放置することによって形成した。封止後の有機EL素子について、蛍光灯下における映り込みの評価、分光光度計による拡散反射率の測定、および発光状態の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0037】
(実施例3)
本実施例は、有機EL層の表面層に凹凸を形成する際の圧力を換えたことを除き、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。すなわち、表面層の凹凸は、電子輸送層を形成する蒸着源からの蒸発を継続させる一方で、真空槽の内圧を1×10−5Paから、一旦10Paまで上昇させ、そのまま10秒にわたって放置し、引き続き、真空槽内を減圧することによって、内圧を1×10−5Paに戻し、そのまま20秒間にわたって放置することによって形成した。封止後の有機EL素子について、蛍光灯下における映り込みの評価、分光光度計による拡散反射率の測定、および発光状態の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0038】
(比較例1)
本実施例は、有機EL層の表面層に凹凸がなく、平坦な金属電極を備えた有機EL素子に関する。有機EL素子は、有機EL層の表面層に凹凸を形成するための圧力の調整を実施しないことを除き、全て実施例1と同様にして作製した。すなわち、有機EL層の表面層は、実施例1と同様にして形成した電子輸送層の上に、真空槽の内圧を1×10−5Paに保持したまま電子輸送層と同じ有機材料を蒸着し平坦な薄膜を形成した。得られた電子輸送層の表面状態を示すSEM写真を図4に示す。また、真空槽の内圧を変化させることなく成膜された平坦な電子輸送層の上に実施例1と同様にして形成した金属電極の表面状態を示すSEM写真を図5に示す。さらに、封止後の有機EL素子について、蛍光灯下における映り込みの評価、分光光度計による拡散反射率の測定、および発光状態の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0039】
(比較例2)
本実施例は、有機EL層の表面層に凹凸を形成する際の圧力を換えたことを除き、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。すなわち、表面層の凹凸は、電子輸送層を形成する蒸着源からの蒸発を継続させる一方で、真空槽の内圧を1×10−5Paから、一旦1×10−3Paまで上昇させ、そのまま10秒にわたって放置し、引き続き、真空槽内を減圧することによって、内圧を1×10−5Paに戻し、そのまま20秒間にわたって放置することによって形成した。封止後の有機EL素子について、蛍光灯下における映り込みの評価、分光光度計による拡散反射率の測定、および発光状態の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
(比較例3)
本実施例は、有機EL層の表面層に凹凸を形成する際の圧力を換えたことを除き、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。すなわち、表面層の凹凸は、電子輸送層を形成する蒸着源からの蒸発を継続させる一方で、真空槽の内圧を1×10−5Paから、一旦100Paまで上昇させ、そのまま10秒にわたって放置し、引き続き、真空槽内を減圧することによって、内圧を1×10−5Paに戻し、そのまま20秒間にわたって放置することによって形成した。封止後の有機EL素子について、蛍光灯下における映り込みの評価、分光光度計による拡散反射率の測定、および発光状態の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から明らかなように、実施例1〜3の素子では金属電極表面に良好な凹凸が形成されていることによって、素子内に入射した外光が金属電極面で効率良く反射および散乱され、蛍光灯下における映りこみが抑制された。一方、金属表面に凹凸がないか(比較例1)、凹凸形状が光を散乱させるのに不十分である場合(比較例2)は、正反射光が強く、像の映り込みが確認された。また、実施例1〜3の拡散反射率が、比較例1および2と比較して20%程度増加していることからも、適当な凹凸によって反射防止機能が付加されることが明らかである。なお、凹凸形状が大きすぎる場合(比較例3)は、素子は高い拡散反射率を示し、映り込みは抑制されるが、素子の駆動時にリークまたはショートが発生し発光を示さなかった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す模式的断面図であり、(a)は素子全体の構造を示し、(b)は有機EL層の構成を示す。
【図2】実施例1における電子輸送層の表面形状を示すSEM写真である。
【図3】実施例1における金属電極の表面形状を示すSEM写真である。
【図4】比較例1における電子輸送層の表面形状を示すSEM写真である。
【図5】比較例1における金属電極の表面形状を示すSEM写真である。
【符号の説明】
【0044】
10 基板
20 色変換膜(CCM)
30 オーバーコート層
40 パッシベーション層
50 透明電極(陽極)
60 有機EL層
61 正孔注入層
62 正孔輸送層
63 有機発光層
64 電子輸送層
64’ 凹凸の表面層
70 金属電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、透明電極と、少なくとも有機発光層を含む有機EL層と、金属電極とを順次有する有機EL素子であって、前記透明電極と前記有機EL層との界面は平坦であり、かつ前記金属電極と前記有機EL層との界面は凹凸であることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記金属電極との界面を形成する有機EL層の表面層が、表面に凸凹を有する電子注入層または電子輸送層であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
基板上に透明電極を形成する工程と、
前記透明電極の上に、少なくとも有機発光層を含み、金属電極との界面を形成する表面層が凹凸である有機EL層を形成する工程と、
前記有機EL層の上に金属電極を形成する工程と
を有し、前記有機EL層の表面層の形成において、真空蒸着装置内で有機材料を成膜した後に、前記真空蒸着装置内に不活性ガスを導入して圧力を上げ、次いで脱気して前記真空蒸着装置内の圧力を再度真空状態まで下げることによって、表面層に凹凸を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記不活性ガスを導入した際の前記真空蒸着装置内の圧力が、0.1から10Paであることを特徴とする請求項3に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記表面層が、電子注入層または電子輸送層であることを特徴とする請求項3または4に記載の有機EL素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−41130(P2006−41130A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217908(P2004−217908)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】