説明

有機EL素子

【課題】 互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を含む有機層を配置してなる構造体と、この構造体の外表面を被覆する保護膜とを備える有機EL素子において、成膜時に下地の有機層を熱分解させることなく且つ下地の有機層との密着性を向上させた保護膜を実現する。
【解決手段】 保護膜8は、Si−CxHy等の金属または半導体と有機物との化合物よりなり、この保護膜8は、パルス電源を使用した反応性直流スパッタ法により室温で成膜されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、基板上に、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を含む有機層を配置してなる構造体と、この構造体の外表面を被覆する保護膜とを備える有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に関する。
【0002】
【従来の技術】EL素子は、自己発光のため視認性が高く、また、完全固体素子であり、耐衝撃性に優れるという特徴を有していることから、現在、無機化合物や有機化合物を用いた色々な素子が提案され、且つ、実用化が試みられている。これらの素子のうち、有機EL素子は無機EL素子に比べて印加電圧を大幅に低下させることができるという利点を有する。
【0003】この有機EL素子は、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を含む有機層を配置してなる構造体を有する。この構造体は、陽極/有機発光層/陰極の積層構造を基本構成として、発光性能向上のため、正孔注入層や電子注入層等の各有機層を必要に応じて両極間に設ける構成が知られている。
【0004】ここで、有機EL素子の各有機層は、水分に弱く、水分と接触した部分は発光しなくなる(いわゆる黒点が形成される)。そのため、従来より、素子を乾燥剤とともに缶に封止する缶封止構造がとられていたが、コストがかかる上に、缶の接着部から水分が侵入し、素子劣化を生じさせると言う問題があった。この様な問題に対して、特開平7−161474号公報に記載されているように、有機EL素子の構造体の外表面を無機アモルファス膜であるSiC膜やSiN膜よりなる保護膜で被覆する構成が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の保護膜であるSiC膜、SiN膜は、基板温度がそれぞれ190℃、350℃で成膜されるため、下地の有機層が熱分解する可能性がある。また、保護膜は無機膜であるために、有機EL素子の構造体における有機層との界面にて密着性が十分でなく、剥離が生じる可能性がある。
【0006】本発明は上記問題に鑑み、基板上に、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を含む有機層を配置してなる構造体と、この構造体の外表面を被覆する保護膜とを備える有機EL素子において、成膜時に下地の有機層を熱分解させることなく且つ下地の有機層との密着性を向上させた保護膜を実現することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1記載の発明では、基板(1)上に、互いに対向する一対の電極(2、7)間に有機発光材料を含む有機層(3〜6)を配置してなる構造体と、この構造体の外表面を被覆する保護膜(8)とを備える有機EL素子において、前記保護膜を、金属または半導体と有機物との化合物により形成したことを特徴する。
【0008】それによれば、保護膜は有機物を含んだものとなり、パルス電源を使用した反応性直流スパッタ法により室温で成膜することができるとともに、無機膜に比べて有機層と密着しやすい。よって、本発明によれば、成膜時に下地の有機層を熱分解させることなく且つ下地の有機層との密着性を向上させた保護膜を実現することができる。
【0009】ここで、請求項2の発明のように、前記金属または半導体と有機物との化合物が、金属または半導体のアルキル化合物であることが好ましい。即ち、本発明の保護膜は、アルキル基を持った無機材料からなるものにできる。
【0010】本発明によれば、保護膜は−CxHyの官能基(アルキル基)を持つ。一方、有機EL素子の構造体の外表面は、通常、金属を含む電極と有機層よりなり、金属の表面には酸素原子が存在し、有機層の表面には水酸基(−OH基)が存在する。従って、本発明の保護膜中のアルキル基(−CxHy基)は、これら酸素原子や水酸基と反応して強力に結合するため、下地の有機層及び電極との密着性を確実に向上させることができる。
【0011】また、請求項3の発明では、前記保護膜(8)を、前記構造体側に有機物成分を多く含み、前記構造体から膜厚方向へ離れるに従って金属または半導体成分が多くなるように組成比が変化しているものとしたことを特徴とする。このような組成比の変化は、反応性直流スパッタ法で保護膜を成膜するにあたって、成膜中に原料ガスの組成を徐々に変化させることで可能である。
【0012】そして、本発明によれば、保護膜は、下地の構造体側では前記の金属または半導体と有機物との化合物の特性を有するものとすることができ、保護膜の表面側では実質的に無機膜に近い特性を有するものとすることができるため、請求項1または請求項2の発明の効果に加えて、外部からの水分等の侵入をより確実に防止することができる。
【0013】また、請求項4の発明によれば、前記保護膜(8)を、前記金属または半導体と有機物との化合物よりなる膜(8a)の上に無機物よりなる無機膜(8b)を少なくとも1層以上成膜してなるものとしたことを特徴とする。また、請求項5の発明によれば、前記保護膜(8)を、前記金属または半導体と有機物との化合物よりなる膜と無機物よりなる無機膜とを交互に複数成膜してなるものとしたことを特徴とする。
【0014】これら請求項4及び請求項5の発明によれば、請求項3の発明と同様の効果が得られる。なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子100の概略断面図である。ガラス等よりなる透明基板1の一面側には、ITO(インジウムチンオキサイド)等の透明導電膜よりなる陽極2が成膜されている。
【0016】この陽極2の上には、ホール注入層3、ホール輸送層4、発光層5、電子輸送層6が順次成膜され、これら各層3〜6により有機層が構成されている。これら有機層3〜6は、公知の有機発光材料、ホール輸送性または電子輸送性の有機材料を採用することができる。また、電子輸送層6の上にはAl(アルミニウム)等の金属膜よりなる陰極7が成膜されている。
【0017】さらに、本実施形態においては、構造体2〜7の外表面及び構造体2〜7より露出する透明基板1の一面が、保護膜8により被覆されている。この保護膜8は、金属または半導体と有機物との化合物により形成されている。この化合物を構成する金属としては、チタン(Ti)や亜鉛(Zn)等を採用することができ、半導体としてはシリコン(Si)等を採用することができ、有機物としては、メタンやブタジエンやアセチレン等を採用することができる。
【0018】そして、これら金属または半導体と有機物との化合物は、具体的には、Si−CxHyやTi−CxHy等の金属または半導体のアルキル化合物とすることができ、これら化合物は、パルス電源を使用した反応性直流スパッタ法により室温で成膜することができるとともに、無機膜に比べて有機層と密着しやすいものである。そして、この保護膜8により、構造体2〜7、特に有機層3〜6の防湿等が図られている。
【0019】こうして、本有機EL素子100においては、互いに対向する一対の電極2、7間に有機発光材料を含む有機層3〜6を配置してなる構造体2〜7が、基板1上に形成されている。そして、両電極2、7間に所定の直流電圧を印加することにより、発光層5を自発光させ、透明基板1の他面側から光が取り出されるようになっている。
【0020】次に、本有機EL素子100の製造方法について、限定するものではないが、具体例を挙げて説明する。まず、透明基板としてのガラス基板1上に、ITOよりなる厚さ140nmの陽極2をスパッタ法等にて成膜する。その上に、銅フタロシアニンよりなる厚さ15nmのホール注入層3、厚さ40nmのテトラトリフェニルアミンよりなるホール輸送層4、1%のキナクリドン(Qd)を添加したキノリノールアルミ錯体(Alq3)よりなる厚さ40nmの発光層5、アルミキノリール(Alq)よりなる厚さ60nmの電子輸送層6を、順次、真空蒸着法で成膜する。
【0021】さらに、陰極7としてAlを100nm蒸着により成膜する。この上に、反応性直流スパッタ法により保護膜8を成膜する。Siをターゲットにして、導入ガスはArとCH4とを用い(Ar:CH4=1:1)、スパッタパワーは4kW、温度は室温、スパッタ圧力は0.1Paとする。このような成膜条件にて成膜された保護膜8は、アルキル化合物のSi−CxHy膜であり、非晶質になっていて膜厚は100nmである。
【0022】ところで、本実施形態によれば、保護膜8は有機物を含んだものとなり、無機膜に比べて有機層と密着しやすい。さらに、保護膜8を構成する金属または半導体と有機物との化合物が、金属または半導体のアルキル化合物である場合、保護膜8は、−CxHyの官能基(アルキル基)を持つ。一方、構造体2〜7の外表面は、図1に示す様に、陽極2及び陰極7と有機層3〜6よりなる。
【0023】陽極2及び陰極7中に含まれる金属の表面には酸素原子が存在し、有機層3〜6の表面には水酸基(−OH基)が存在する。そして、保護膜8中のアルキル基(−CxHy基)は、これら酸素原子や水酸基と反応して強力に結合する(水素結合等が生じると考えられる)ため、下地の有機層3〜6及び電極2、7との密着性を確実に向上させることができる。
【0024】また、保護膜8は、パルス電源を使用した反応性直流スパッタ法により室温(50℃以下)で成膜することができるため、成膜時に下地の有機層3〜6を熱分解させることなく、また、成膜後の温度差も少ないため、下地との密着性が高く、保護膜8にクラック等のダメージが発生しにくい。
【0025】ちなみに、従来の保護膜は、容量結合型の横RFプラズマ装置を用いたRFスパッタ法にて成膜していた。比較例としてRFスパッタ法により保護膜を形成した。上記製造方法の具体例と同様に、透明基板1上に構造体2〜7までを形成したものを、上記横RFプラズマ装置の基板ホルダに固定し、水素ガスにて10%に希釈されたSiH4、CH4をマスフローコントローラに通し、チャンバ内圧力1Torrを維持した。
【0026】続いて、50W、3.56MHzの高周波を印加し、基板温度190℃にて、構造体2〜7上に保護膜としてのa−SiC膜を膜厚100nm形成した。なお、基板1のサイズは75mm×25mmとした。この場合、保護膜の成膜温度が190℃と高いため、成膜後では室温との温度差により下地との密着性が悪く、保護膜にクラックが発生した。
【0027】本実施形態の保護膜8は、上述のように、反応性直流スパッタ法で成膜しているため、成膜時の基板温度がRFスパッタ法よりも低く、例えば50℃以下で成膜できるため、下地との密着性が高く、保護膜8にクラック等のダメージが発生しにくい。また、この反応性直流スパッタ法によれば、下地表面がプラズマにさらされないため、有機層にダメージが入りにくいという効果もある。
【0028】また、本発明者等の検討によれば、保護膜8を金属または半導体と有機物との化合物とすることにより、従来の保護膜であるアモルファスの無機膜に比べて、導電性を低くすることができ、電極2、7間の導通を防止できる等の利点があることも確認している。
【0029】また、本実施形態の保護膜8としては、次に示す様な変形例も可能である。図2は、第1の変形例を示す概略断面図であり、保護膜8を、金属または半導体と有機物との化合物よりなる膜(以下、化合物膜という)8aの上に無機物よりなる無機膜8bを少なくとも1層以上成膜してなるものとしている。つまり、図2に示す無機膜8bは、1層のものでも2層以上の積層構造のものでも良い。
【0030】限定するものではないが、この第1の変形例の具体的な製造方法を示す。上記同様に、透明基板1上に構造体2〜7及び化合物膜(Si−CxHy膜)8aを形成する。次に、この上に、Siをターゲットにして反応性直流スパッタ法により、N2とArの混合ガスを用い、スパッタパワー:4kW、ガス圧:0.1Pa、基板温度:室温の成膜条件にて、無機膜8bとして膜厚100nmのSiN膜を成膜する。
【0031】図2に示す第1の変形例によれば、上記図1R>1において保護膜8の上を更に無機膜8bで被覆した形となるため、上記した保護膜8による効果に加えて、更に、水分の侵入防止を確実にすることができる。
【0032】次に、第2の変形例について述べる。本例では、上記図1に示す有機EL素子100において、保護膜8を、構造体2〜7側(下地側)に有機物成分を多く含み、構造体2〜7(下地)から膜厚方向へ離れるに従って金属または半導体成分が多くなるように組成比が変化しているものとしている。つまり、本例の保護膜8は、下地側のアルキル化合物膜から膜厚方向に徐々に無機膜に近づくように組成比が変化している。
【0033】このような組成比の変化は、反応性直流スパッタ法で成膜するにあたって、成膜中に原料ガスの組成を徐々に変化させることで可能である。限定するものではないが、この第2の変形例の具体的な製造方法を示す。上記同様に、透明基板1上に構造体2〜7を形成する。
【0034】この上に、パルス電源を使用した反応性直流スパッタ法により、Siをターゲットにして、導入ガスはArとCH4とを用い、スパッタパワーは4kW、温度は室温、スパッタ圧力は0.1Paといった成膜条件にて、成膜を行う。このとき、CH4とArとのガス比は最初1:1であるが、成膜中に、徐々にArガスの含有量を多くしていき、最後にはArガスのみで成膜する。
【0035】これによって、本第2の変形例の保護膜8として膜厚200nmで、下地側のSi−CxHy膜が表面側に行くに連れてSi膜に近づくように組成比が変化した膜が得られる。このような第2の変形例の保護膜8によれば、保護膜8は、下地側では金属または半導体と有機物との化合物の特性を有するものとすることができ、表面側では実質的に無機膜に近い特性を有するものとすることができるため、上記した保護膜8の効果に加えて、外部からの水分等の侵入をより確実に防止することができる。
【0036】また、第3の変形例として、図示しないが、保護膜8を、金属または半導体と有機物との化合物よりなる膜(化合物膜)と無機物よりなる無機膜とを交互に複数成膜してなるものとすることもできる。このような保護膜8は、上記第1の変形例に示した製造方法に準じて、化合物膜を成膜し、この上に無機膜を成膜し、以下、同様の方法で、化合物膜、無機膜、‥‥、を順次成膜することで形成することができる。この場合も、上記第1の変形例と同様の効果が得られる。
【0037】なお、上記実施形態においては、透明基板1側に陽極2、これと反対側に陰極7を配置した構成であるが、これとは逆に、透明基板1側に陰極、これと反対側に陽極を配置した構成でも良い。この場合、両電極に挟まれる各有機層の配置は、ホール及び電子の注入形態に応じて適宜変更することは勿論である。また、光の取り出し方向も陽極側から取り出す様にすれば良い。
【0038】要するに、本発明は、基板上に、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を含む有機層を配置してなる構造体と、この構造体の外表面を被覆する保護膜とを備える有機EL素子において、保護膜を上記構成としたことを要部とするものであり、他の部分は適宜設計変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子の概略断面図である。
【図2】上記実施形態の第1の変形例としての有機EL素子の概略断面図である。
【符号の説明】
1…透明基板、2…陽極、3…ホール注入層、4…ホール輸送層、5…発光層、6…電子輸送層、7…陰極、8…保護膜、8a…金属または半導体と有機物との化合物よりなる膜、8b…無機膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板(1)上に、互いに対向する一対の電極(2、7)間に有機発光材料を含む有機層(3〜6)を配置してなる構造体と、この構造体の外表面を被覆する保護膜(8)とを備える有機EL素子において、前記保護膜が、金属または半導体と有機物との化合物により形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】 前記金属または半導体と有機物との化合物が、金属または半導体のアルキル化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】 前記保護膜(8)は、前記構造体側に有機物成分を多く含み、前記構造体から膜厚方向へ離れるに従って金属または半導体成分が多くなるように組成比が変化しているものであることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】 前記保護膜(8)は、前記金属または半導体と有機物との化合物よりなる膜(8a)の上に無機物よりなる無機膜(8b)を少なくとも1層以上成膜してなるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項5】 前記保護膜(8)は、前記金属または半導体と有機物との化合物よりなる膜と無機物よりなる無機膜とを交互に複数成膜してなるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項6】 前記保護膜(8)は、パルス電源を使用した反応性直流スパッタ法により成膜されたものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2001−326070(P2001−326070A)
【公開日】平成13年11月22日(2001.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−142215(P2000−142215)
【出願日】平成12年5月15日(2000.5.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】