説明

有機EL表示装置の製造方法

【課題】表示領域外における画素分離層と蒸着マスクとの接触回数を減少させ、表示領域外の画素分離層上に転写する異物を低減して、保護層端部の水分遮断性能を向上する。
【解決手段】少なくとも、下部電極2、画素を分離する画素分離層4、発光層6を含む有機化合物層、及び保護層を備える有機EL表示装置の製造方法であって、発光層6の形成領域内に存する画素分離層4Aのみに蒸着マスク22を接触させた状態で、発光層6を形成する工程と、発光層6の形成領域外、かつ上部電極8の形成領域内に存する画素分離層4Bのみに蒸着マスク21を接触させた状態で、発光層6を除く有機化合物層5,7を形成する工程と、上部電極8の形成領域よりも面方向外方に存する画素分離層4Cのみに蒸着マスク23を接触させた状態で、上部電極8を形成する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極間に発光層を含む有機化合物層を有する有機EL素子を複数備えた有機EL表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイとして、自発光型のデバイスである有機EL表示装置が注目され、活発に開発されている。
【0003】
有機EL表示装置が有する発光特性の劣化を防止すべく、外部から浸入し得る水分や酸素を遮断するための保護層に関する技術が研究されてきた。ここで保護層は、有機EL表示装置を構成する有機EL素子の上方及びその周辺の広い範囲に形成され、外部から浸入し得る水分を遮断する機能を有する。
【0004】
保護層としては、無機酸化物や無機窒化物等の無機絶縁膜、アクリルやエポキシ樹脂等の有機絶縁膜、及び無機絶縁膜と有機絶縁膜との積層構造(以下、ハイブリッド構造)が用いられている。マスクを用いて無機絶縁膜で保護層をパターン形成する場合や、印刷法を用いて有機絶縁膜で保護層をパターン形成する場合、保護層の端部に中央部と比較して膜厚の薄い領域が存在する。
【0005】
例えば、スクリーン印刷法で有機絶縁膜をパターン形成する場合、形成領域の端部における膜厚が徐々に薄くなるテーパー領域が形成される。このテーパー領域の幅は有機絶縁膜の塗液の粘度にも依存するが、概ね0.5〜2mm程度である。このような保護層のテーパー領域に存する画素分離層上に異物が付着すると、保護層で画素分離層を完全に被覆できず、保護層にクラック等の膜欠陥が生じて、その水分遮断性能の低下を招くことになる。通常、保護層の端部は、有機EL表示装置の表示領域外に位置するように形成されるので、表示領域外における画素分離層上の異物を低減することが重要となる。
【0006】
画素分離層上に異物が付着する主な要因としては、蒸着マスクに付着した異物が画素分離層に転写することが挙げられる。この画素分離層は、通常、表示領域だけでなく表示領域の外周部にも形成され、表示領域内と表示領域外の画素分離層は同一の高さで設定される(例えば、特許文献1参照)。このような構造では、表示領域外の画素分離層には、R(赤),G(緑),B(青)の各色の発光層、有機共通層及び上部電極の形成時に蒸着マスクが繰り返し接触することとなる。その結果、蒸着マスクから表示領域外の画素分離層上に異物が転写し、保護層の水分遮断性能を低下させる要因となっていた。また、蒸着マスクが接触することによって、画素分離層に擦れや傷等の物理的損傷が発生することもある。
【0007】
画素分離層上への異物の転写を防止する対策としては、ハーフエッチングやプレスにより蒸着マスクに凹部を形成して、蒸着マスクと画素分離層との接触を防ぐ方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−123240号公報
【特許文献2】特開2008−243664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、蒸着マスクを用いて蒸着工程を実施する際には、一般に蒸着マスクに対して均一にテンションを掛け、蒸着マスクの撓みをなくした状態で素子基板と接触させている。
【0010】
しかし、特許文献2のように蒸着マスクに凹部を形成すると、蒸着マスクへのテンションの掛かり方が不均一となり、素子基板内での着膜の位置精度に分布が生じるという問題がある。
【0011】
また、プレスを用いて蒸着マスクに凹みを形成する方法では、高い平面性を有する高精細な蒸着マスクを製造するのが困難であるという問題がある。さらに、ハーフエッチングで蒸着マスクに凹部を形成する方法では、フォトリソグラフィとエッチングを2回繰り返す必要があり、蒸着マスクが高価になるという問題もある。
【0012】
そこで本発明の目的は、表示領域外における画素分離層と蒸着マスクとの接触回数を減少させ、表示領域外の画素分離層上に転写する異物を低減して、保護層端部の水分遮断性能を向上できる有機EL表示装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成すべく成された本発明の構成は以下の通りである。
【0014】
即ち、本発明に係る有機EL表示装置の製造方法は、少なくとも、下部電極、画素を分離する画素分離層、発光層を含む有機化合物層、及び保護層を備える有機EL表示装置を製造する方法であって、
前記発光層の形成領域内に存する画素分離層のみに蒸着マスクを接触させた状態で、前記発光層を形成する工程と、
前記発光層の形成領域外、かつ前記上部電極の形成領域内に存する画素分離層のみに蒸着マスクを接触させた状態で、前記発光層を除く有機化合物層を形成する工程と、
前記上部電極の形成領域よりも面方向外方に存する画素分離層のみに蒸着マスクを接触させた状態で、前記上部電極を形成する工程と、
を有することを特徴とする有機EL表示装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、蒸着工程ごとに蒸着マスクを接触させる画素分離層を分けることで、表示領域外における蒸着マスクと画素分離層との接触回数を減少させ、蒸着マスクから画素分離層上に転写する異物を低減している。特に表示領域外における画素分離層上に転写する異物を低減することで、保護層の端部の欠陥が減少し、水分遮断性能を向上できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る有機EL表示装置における蒸着工程毎の画素分離層と蒸着マスクとの接触状態を示す模式図である。
【図2】従来の有機EL表示装置における画素分離層と蒸着マスクとの接触状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0018】
まず、図1を参照して、本発明に係る有機EL表示装置の一実施形態をその製造方法の手順に従って説明する。図1は、本発明に係る有機EL表示装置における蒸着工程毎の画素分離層と蒸着マスクとの接触状態を示す模式図である。図2は、比較として、従来の有機EL表示装置における画素分離層と蒸着マスクとの接触状態を示す模式図である。これらの図面において、1は絶縁性基板、2は画素電極、3は配線、4(4A,4B,4C)は画素分離層、5は第一有機共通層、6は発光層、7は第二有機共通層、8は上部電極、10はカソードコンタクトである。また、21は有機共通層作成用の蒸着マスク、22は発光層作成用の蒸着マスク、23は上部電極作成用の蒸着マスクである。
【0019】
まず、図1(a)に示すように、基板1上に画素電極(下部電極)2及び配線3を形成した後に、画素を分離する画素分離層4が形成される。
【0020】
基板1としては、Siやガラス、プラスチックなどの絶縁性材料からなる基板を用いる。
【0021】
画素電極2は、光反射性の導電性部材であることが好ましく、例えば、Cr、Al、Ag、Au、Pt等の金属材料、もしくはこれらの合金からなることが好ましい。光反射性の部材を用いるのは、光反射率が高いほど光取り出し効率を向上できるからである。また画素電極2には、光反射性の機能を上記の光反射性部材によって確保し、この光反射性部材上に電極としての機能を有するITO(インジウム錫酸化物)膜等の透明導電膜で確保するような構成も含まれる。このような複合構成の場合は、上記光反射性部材の表面が反射面となる。
【0022】
配線3は必ずしも光反射性の部材である必要はないが、配線抵抗を考慮すると、可能な限り低抵抗率の部材であることが好ましい。具体的には、配線3はAl、Ag等の金属材料、もしくはこれらの合金からなることが好ましい。また、配線3の材料を画素電極2と同じ材料に設定することで、画素電極2をパターン形成する際に配線3のパターンを同時に形成することができる。なお、この配線3は、画素電極2とは電気的に分離されるようにパターン形成される。
【0023】
画素電極2及び配線3を形成する方法としては、例えば、蒸着法やスパッタ法、イオンプレーティング法などが好適であるが、これらに限定されない。これらのパターンの形成方法としては、例えば、フォトリソグラフィ法もしくはマスク成膜法などの公知の方法を用いることができる。
【0024】
画素分離層4は、各画素毎の画素電極2上に開口部を有しており、この開口部によって発光面積を規定している。また、配線3上の画素分離層4にも開口部が形成されており、この開口部にはカソードコンタクト10が形成される。このカソードコンタクト10によって、後述の上部電極8と配線3が電気的に接続される。
【0025】
図2の従来の構造では、領域A、B、Cにおいて画素分離層4の膜厚に差はなく、同じ高さHで形成されている。ここで図1及び図2において、領域Aは発光層の形成領域を指し、領域Bは発光層の形成領域外かつ上部電極の形成領域内を指し、領域Cは上部電極の形成領域よりも面方向外方を指している。ここで、領域Aは表示領域内であり、領域B及び領域Cは表示領域外と定義する。
【0026】
一方、図1の本発明の構造では、画素分離層4の高さは領域A、B、Cで異なるように形成されることが特徴である。すなわち、領域Aに存する画素分離層4Aの膜厚をH1、領域Bに存する画素分離層4Bの膜厚をH2、領域Cに存する画素分離層4Cの膜厚をH3とした場合に、膜厚H1、H2、H3が段階的に減少する関係H1>H2>H3を有している。このように段階的に膜厚に変化をもたせる製造方法としては、例えば、画素分離層をポジ型感光性材料で形成し、これに対して遮光パターンの透過率を領域毎に変化させたハーフトーンマスクを用いて露光する方法が好適に用いられる。例えば、画素分離層4A領域は遮光パターンの透過率を0%、画素分離層4B領域は遮光パターンの透過率を50%、画素分離層4C領域は遮光パターンの透過率を25%と設定する。このように設定することで、画素分離層4Bの膜厚H2は画素分離層4Aの膜厚H1の約1/2、画素分離層4Cの膜厚H3は画素分離層4Aの約1/4となる。このようにハーフトーンフォトマスクを用いることで、従来の工程数を増やすことなく、容易に画素分離層の高さに面内分布をもたせることが可能である。
【0027】
画素分離層4の材料は、絶縁体であれば公知の材料を広く用いることができ、例えば、アクリル、ポリイミド等の有機材料が挙げられる。画素分離層4は絶縁性を発現するのに十分な厚さがあればよいが、具体的には、0.5μm〜5μm程度の厚さが好適である。
【0028】
次に、図1(a)に示すように、画素分離層4まで形成した素子基板上に、蒸着マスク21を用いた蒸着法によって第一有機共通層5が形成される。この第一有機共通層5の形成領域は、発光層6の形成領域(領域A)の外側まで広く形成され、領域Bの画素分離層4B上に端部がくるように形成される。このように第一有機共通層5は画素毎にパターニングする必要がないので、高い精度が要求されないラフなパターンの蒸着マスク21を用いることができる。ここで、図2(a)の従来の構造では領域Cに存する画素分離層4に蒸着マスク21が接触しているが、図1(a)の本発明の構造では領域Cに存する画素分離層4Cと蒸着マスク21とは接触していないことが判る。
【0029】
第一有機共通層5は発光層6を除く有機化合物層であり、発光層6よりも下部電極側に位置するので、例えば、正孔注入材料や正孔輸送材料を用いることができる。具体的には、第一有機共通層5として、フタロシアニン化合物、トリアリールアミン化合物、導電性高分子、ペリレン系化合物、Eu錯体等が使用できるが、これらに限定されない。
【0030】
次に、図1(b)に示すように、画素電極2上の開口部に、R(赤),G(緑),B(青)の各色の発光層6が真空蒸着法によって順次形成される。このとき、画素ピッチと同等のピッチでストライプ状あるいはスロット状の開口部が形成された高精細な蒸着マスク22を用いる必要がある。具体的には、まずR発光層をストライプ状の蒸着マスク22で蒸着し、その後1画素ピッチ分だけ蒸着マスク22をずらしてG発光層を蒸着し、さらに1画素ピッチ分だけ蒸着マスク22を同じ方向にずらしてB発光層を蒸着する。図1(b)及び図2(b)に示すように、発光層6は領域Aに形成される。ここで、図2(b)の従来の構造では領域B及び領域Cに存する画素分離層4に蒸着マスク22が接触しているが、図1(b)の本発明の構造では領域B及び領域Cに存する画素分離層4B、4Cと蒸着マスク22とは接触していないことが判る。
【0031】
各色の発光層6として、例えば、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリーレン、芳香族縮合多環化合物、芳香族複素環化合物、芳香族複素縮合環化合物、金属錯体化合物等及びこれらの単独オリゴ体あるいは複合オリゴ体が使用できる。本発明はこれらの例示材料に限定されるものではない。発光層6の膜厚は0.05μm〜0.3μm程度が好ましく、より好ましくは0.05〜0.15μm程度である。
【0032】
続いて、図1(c)に示すように、第一有機共通層5と同様のパターンの開口部が形成された蒸着マスク21を用いて、第二有機共通層7が形成される。この第二有機共通層7の形成領域は、前述の第一有機共通層5と同様に領域Bにおける画素分離層4B上にその端部がくるように形成される。第二有機共通層7の形成には、第一有機共通層5と同様に、ラフなパターンの蒸着マスク21を用いることができる。ここで、図2(c)の従来の構造では領域Cに存する画素分離層4に蒸着マスク21が接触しているが、図1(c)の本発明の構造では領域Cに存する画素分離層4Cと蒸着マスク21とは接触していないことが判る。
【0033】
第二有機共通層7は発光層6を除く有機化合物層であり、発光層6よりも上部電極側に位置するので、例えば、電子注入材料や電子輸送材料を用いることができる。具体的には、第二有機共通層7として、アルミニウムに8−ヒドロキシキノリンの3量体が配位したAlq3、アゾメチン亜鉛錯体、ジスチリルビフェニル誘導体系等が使用できるが、これらに限定されない。
【0034】
続いて、図1(d)に示すように、蒸着マスク23を用いて上部電極8が形成される。上部電極8の形成領域は、図1(d)及び図2(d)に示すように、カソードコンタクト10を完全に覆い、領域Cにおける画素分離層4C上にその端部がくるように形成される。この上部電極8の形成には、蒸着マスク21と同様にラフなパターンの蒸着マスク23を用いることができる。ここで本工程では、図2(d)の従来の構造、図1(d)の本発明の構造ともに、領域Cに存する画素分離層4、4Cに蒸着マスク23が接触することになる。
【0035】
上部電極8としては、透過率の高い材料が好ましく、例えば、ITO(インジウム錫酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)、ZnOなどの透明導電膜や、ポリアセチレンなどの有機導電膜からなることが好ましい。また、Ag、Alなどの金属材料を10nm〜30nm程度の膜厚で形成した半透過膜を用いてもよい。
【0036】
最後に、上部電極8上に不図示の保護層が形成される。保護層としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の有機絶縁膜、窒化シリコン、酸化シリコン、窒化アルミニウム等の無機絶縁膜を用いることができる。有機絶縁膜を形成する方法としては、各種印刷法を用いることができ、特にスクリーン印刷法が好適であるが、この方法に限定されない。一方、無機絶縁膜を形成する方法としては、真空成膜法を用いることができ、特にCVD法が好適であるが、この方法に限定されない。
【0037】
以上の一連の製造工程により有機EL表示装置が製造されるが、以下に各領域毎の画素分離層と蒸着マスクとの総接触回数を比較する。
【0038】
まず、領域Aに存する画素分離層は、本発明の構造ではR,G,Bの発光層の形成工程の計3回、従来の構造では同じくR,G,Bの発光層の形成工程の計3回蒸着マスクと接触する。次に、領域Bに存する画素分離層は、本発明の構造では第一有機共通層形成工程、第二有機共通層形成工程の計2回、従来の構造ではR,G,Bの発光層の形成工程、第一有機共通層形成工程、及び第二有機共通層形成工程の計5回蒸着マスクと接触する。次に、領域Cに存する画素分離層は、本発明の構造では上部電極形成工程の計1回、従来の構造ではR,G,B発光層形成工程、第一有機共通層形成工程、第二有機共通層形成工程、及び上部電極形成工程の計6回蒸着マスクと接触する。
【0039】
このように本発明における画素分離層の構造を採用することで、特に表示領域外の領域B、Cに存する画素分離層4B、4Cと蒸着マスクとの接触回数を減らすことが可能となる。したがって、表示領域外の領域B、Cに存する画素分離層4B、4C上への異物の転写を低減でき、保護層の端部の欠陥が減少させて水分遮断性能を向上させることができるものである。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これは本発明の説明のための例示であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【0041】
例えば、蒸着マスクとの接触面積を減らすために画素分離層上にスペーサーを形成する構造を採用する場合がある。この場合は、上記の各領域A、B、Cごとにスペーサーの高さを調整して、スペーサーを含む画素分離層の全体の高さに上述の段階的に減少する関係をもたせることで、同等の効果を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて、本発明に係る有機EL表示装置及びその製造方法をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕
実施例1では、図1に示した本発明の構造の有機EL表示装置を次のような手順で製造した。
【0044】
まず、画素電極2及び配線3を配設したTFT基板をUV/オゾン洗浄処理した。次に、フォトリソグラフィ工程により、ポジ型感光性ポリイミドからなる画素分離層4(4A,4B,4Cをパターン形成した。具体的には、図1(a)の領域Aにおける画素分離層4Aの遮光パターンは、光透過率0%のフォトマスクを用いて露光を行った。また、領域Bにおける画素分離層4Bの遮光パターンは光透過率50%、領域Cにおける画素分離層4Cの遮光パターンは光透過率20%のハーフトーンフォトマスクを用いて露光を行った。現像及び焼成後に画素分離層の膜厚を測定したところ、画素分離層4Aは2μm、画素分離層4Bは1μm、画素分離層4Cは0.4μmであった。
【0045】
次に、真空蒸着法により、第一有機共通層5、発光層6及び第二有機共通層7を順次形成した。具体的には、まず画素電極2上にαNPDを成膜し、第一有機共通層5を形成した。このとき、第一有機共通層5の膜厚は50nmであった。
【0046】
次に、第一有機共通層5上に、ホストであるアルミキレート錯体(Alq3)と、ゲストであるクマリン6とを重量比で100:6となるように共蒸着し、Gの発光層を形成した。同様のホストに対してR,B系発光材料をゲストとして共蒸着し、R,B発光層を形成した。各発光層6の膜厚は50nmとした。
【0047】
次に、発光層6上に、フェナントロリン化合物(Bphen)を成膜し、第二有機共通層7を形成した。このとき、第二有機共通層7の膜厚を10nmとした。
【0048】
次に、スパッタリング法を用いてITOを成膜し、上部電極8を形成した。このとき、上部電極8の膜厚を130nmとした。
【0049】
最後に、外部電源との接続端子部を除いた有機EL表示装置の全面に熱硬有機絶縁膜と無機絶縁膜を順次積層し、不図示の保護層を形成した。具体的には、有機絶縁膜として熱硬化エポキシ樹脂を用い、窒素雰囲気下でスクリーン印刷法によって形成した。このとき、有機絶縁膜の膜厚は20μmとした。また、無機絶縁膜として窒化シリコンをCVD法により形成した。このとき、無機絶縁膜の膜厚は1μmの膜厚とした。
【0050】
以上の一連の製造工程により、本発明に係る有機EL表示装置を作製した。
【0051】
〔比較例1〕
比較例1では、ハーフトーンではない通常のフォトマスクを用いて、フォトリソグラフィ工程により画素分離層4を形成した以外は、実施例1と同じ方法で従来構造の有機EL表示装置を作製した。比較例1における画素分離層の膜厚は、領域A、領域B、領域Cの全ての領域において2μmであった。
【0052】
〔実施例1と比較例1の比較結果〕
実施例1及び比較例1で作製した有機EL表示装置の外観検査及び高温高湿信頼性評価を行った。これらの結果を下記表1に示す。ここで外観検査は20個の有機EL表示装置に対して行い、各領域の画素分離層上に付着した3μm以上の異物数をカウントして、平均値で表した。また、高温高湿信頼性評価は20個の有機EL表示装置を温度80℃、湿度90%の環境下に3000Hr曝露し、その後に有機EL表示装置を点灯し、非表示欠陥の発生した有機EL表示装置の数をカウントしたものである。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から判るように、領域Aに存する画素分離層上の異物数は実施例1と比較例1とで有意差は見られないが、領域B及び領域Cに存する画素分離層上の異物数については、実施例1は比較例1に比べて大幅に減少していることが確認できる。すなわち、領域B及び領域Cに存する画素分離層と蒸着マスクとの接触回数を減らすことが、画素分離層上に転写する異物数を減らすのに効果的であることが判る。
【0055】
さらに、高温高湿信頼性評価結果において、実施例1では、比較例1に比して非表示欠陥の発生する有機EL表示装置数を大幅に低減できることが確認できる。すなわち、保護層の膜厚が薄くなる端部近傍における画素分離層上に転写する異物数を減少させることで、保護層の欠陥や損傷等を防止して、その高温高湿環境に対する信頼性を向上できることが判った。
【符号の説明】
【0056】
2 画素電極(下部電極)、4(4A,4B,4C) 画素分離層、5 第一有機共通層、6 発光層、7 第二有機共通層、8 上部電極、21 有機共通層形成用の蒸着マスク、22 発光層形成用の蒸着マスク、23 上部電極形成用の蒸着マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下部電極、画素を分離する画素分離層、発光層を含む有機化合物層、及び保護層を備える有機EL表示装置を製造する方法であって、
前記発光層の形成領域内に存する画素分離層のみに蒸着マスクを接触させた状態で、前記発光層を形成する工程と、
前記発光層の形成領域外、かつ前記上部電極の形成領域内に存する画素分離層のみに蒸着マスクを接触させた状態で、前記発光層を除く有機化合物層を形成する工程と、
前記上部電極の形成領域よりも面方向外方に存する画素分離層のみに蒸着マスクを接触させた状態で、前記上部電極を形成する工程と、
を有することを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記発光層の形成領域内に存する画素分離層の膜厚をH1、
前記発光層の形成領域外、かつ前記上部電極の形成領域内に存する画素分離層の膜厚をH2、
前記上部電極の形成領域よりも面方向外方に存する画素分離層の膜厚をH3、
とした場合に、
前記画素分離層の膜厚H1、H2、H3が段階的に減少する関係H1>H2>H3を有するように、
前記異なる膜厚H1、H2、H3の画素分離層をそれぞれ光透過率の異なるフォトマスクを用いて、フォトリソグラフィ工程により形成する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−222146(P2011−222146A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86866(P2010−86866)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】