説明

有機EL表示装置の製造方法

【課題】壁構造体(壁部材)を用いた斜方蒸着によるパターニングを利用しつつ、上部共通電極の被覆不良を回避できる有機EL表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】所定の素子分離膜上に壁部材を形成する方法と、第一下部電極上に第一有機EL層を形成する工程と、真空蒸着法により第二下部電極上に第二有機EL層を形成する工程と、真空蒸着法により第三下部電極上に第三有機EL層を形成する工程と、前記壁部材を除去する工程と、を有し、前記第二有機EL層を形成する工程において、前記第三下部電極が前記壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽され、前記第三有機EL層を形成する工程において、前記第二有機EL層が前記壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に知られている有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)を搭載した表示装置とは、有機EL素子を単数あるいは複数有する画素を所定のパターンで配列してなる装置である。またこの画素により、表示装置内の表示領域は2次元的に高精細に分割されている。ここでこの画素に含まれる有機EL素子は、例えば、赤、緑又は青のいずれかの光を出力する電子素子である。有機EL素子を搭載した表示装置は、所望の色を出力する有機EL素子を所望の発光強度で駆動させることでフルカラーの画像を得ている。
【0003】
ところで、表示装置の構成部材である有機EL素子において、素子の構成部材となる有機EL層は、蒸着等により有機材料からなる薄膜を成膜することにより形成される薄膜層である。ここで蒸着により表示装置内の有機EL素子の構成部材である有機化合物層を素子ごとに形成する際には、高精細なパターニング技術が必要とされる。そしてパターニングを行う際には、パターニングの精細度に応じた精細度の高いメタルマスクが必要となる。しかし、メタルマスクは、使用する度に蒸着操作を行ったときに付着する蒸着膜によってマスクの開口部が狭くなったり、応力でマスクの開口部が歪んだりする。従って、一定回数の成膜を行った後で使用したマスクを洗浄する必要があり、これが生産コストの点で不利な要因となっていた。また、マスクの加工精度の制約もあってピクセルサイズは百μm程度が限界であり、高精細化に対しても不利であった。さらに基板サイズに関しても、高精細メタルマスクを大型化するとマスクの開口部の位置精度を確保するためにマスクのフレームの剛性を高める必要がある。しかしマスクの剛性を高めるとその分だけマスク自体の重量の増加を引き起こす。このため、加工性、ハンドリングの両面から第4世代以降の大判サイズの表示装置を製作する場合では、高精細化された有機EL素子及びこの有機EL素子を搭載した表示装置の最適な作製プロセスについては現在のところ具体化できていないという状況にある。
【0004】
このような状況の中、メタルマスクを使用しない方法で高精細化された有機EL素子を有する表示装置を作製する方法が提案されている。その具体的な方法として、例えば、特許文献1に提案されている方法がある。ここで特許文献1にて提案されている方法とは、基板の上にシャドーマスクとしての役割を果たす壁構造体を形成し、斜方蒸着を行うにより有機EL層のパターニングを行う方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−155538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1にて提案された手法では、形成した壁構造体によって、有機EL層上に形成される共通上部電極に被覆不良が生じてしまいシェーディングが発生しやすいという課題があった。本発明は上記の課題を解決するためになされるものであり、その目的は、壁構造体(壁部材)を用いた斜方蒸着によるパターニングを利用しつつ、上部共通電極の被覆不良を回避できる有機EL表示装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機EL表示装置の製造方法の第一の態様は、基板上に第一有機EL素子と、第二有機EL素子と、第三有機EL素子と、から構成される画素を複数有し、
前記第一有機EL素子が、第一下部電極と、第一有機EL層と、第一上部電極と、からなり、
前記第二有機EL素子が、第二下部電極と、第二有機EL層と、第二上部電極と、からなり、
前記第三有機EL素子が、第三下部電極と、第三有機EL層と、第三上部電極と、からなり、
前記第一有機EL素子と、前記第二有機EL素子と、前記第三有機EL素子と、が、前記基板の面方向に前記第二有機EL素子、前記第一有機EL素子、前記第三有機EL素子の順で配列され、
第一有機EL素子と、第二有機EL素子と、第三有機EL素子と、が、それぞれ素子分離膜によって離隔して設けられている有機EL表示装置の製造方法であって、
所定の素子分離膜上に壁部材を形成する方法と、
前記第一下部電極上に前記第一有機EL層を形成する工程と、
真空蒸着法により、前記第二下部電極上に前記第二有機EL層を形成する工程と、
真空蒸着法により、前記第三下部電極上に前記第三有機EL層を形成する工程と、
前記壁部材を除去する工程と、を有し、
前記第二有機EL層を形成する工程において、前記第三下部電極が前記壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽され、
前記第三有機EL層を形成する工程において、前記第二有機EL層が前記壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽されることを特徴とする。
【0008】
また本発明の有機EL表示装置の製造方法の第二の態様は、基板上に第一有機EL素子と、第二有機EL素子と、第三有機EL素子と、から構成される画素を複数有し、
前記第一有機EL素子が、第一下部電極と、第一有機EL層と、第一上部電極と、からなり、
前記第二有機EL素子が、第二下部電極と、第二有機EL層と、第二上部電極と、からなり、
前記第三有機EL素子が、第三下部電極と、第三有機EL層と、第三上部電極と、からなり、
前記第一有機EL素子と、前記第二有機EL素子と、前記第三有機EL素子と、が、前記基板の面方向に前記第一有機EL素子、前記第二有機EL素子、前記第三有機EL素子の順で配列される有機EL表示装置の製造方法であって、
前記第一下部電極上に前記第一有機EL層を形成する工程と、
前記第一有機EL層上に壁部材を形成する工程と、
真空蒸着法により、前記第二下部電極上に前記第二有機EL層を形成する工程と、
真空蒸着法により、前記第三下部電極上に前記第三有機EL層を形成する工程と、
前記壁部材を除去する工程と、を有し、
前記第二有機EL層を形成する工程において、前記第三下部電極が前記壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽され、
前記第三有機EL層を形成する工程において、前記第二有機EL層が前記壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、壁部材を用いた斜方蒸着によるパターニングを利用しつつ、上部共通電極の被覆不良を回避できる有機EL表示装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1にて製造される有機EL表示装置の具体例を示す平面概略図である。
【図2】本発明の有機EL表示装置の製造方法における第1の実施形態を示す断面概略図である。
【図3】本発明の有機EL表示装置の製造方法における第2の実施形態を示す断面概略図である。
【図4】実施例3にて製造される有機EL表示装置の具体例を示す平面概略図である。
【図5a】本発明の有機EL表示装置の製造方法における第3の実施形態を示す断面概略図である。
【図5b】本発明の有機EL表示装置の製造方法における第3の実施形態を示す断面概略図である。
【図6a】本発明の有機EL表示装置の製造方法における第4の実施形態を示す断面概略図である。
【図6b】本発明の有機EL表示装置の製造方法における第4の実施形態を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の製造方法は、基板上に第一有機EL素子と、第二有機EL素子と、第三有機EL素子と、から構成される画素を複数有する有機EL表示装置の製造方法である。ここで第一有機EL素子は、第一下部電極と、第一有機EL層と、第一上部電極と、からなる部材である。また第二有機EL素子は、第二下部電極と、第二有機EL層と、第二上部電極と、からなる部材である。さらに第三有機EL素子は、第三下部電極と、第三有機EL層と、第三上部電極と、からなる部材である。
【0012】
ところで本発明の有機EL表示装置の製造方法は、以下に説明する2つの態様に大別される。
【0013】
第一の態様は、画素に含まれる有機EL素子が、基板の面方向に第二有機EL素子、第一有機EL素子、第三有機EL素子の順で配列されており、各有機EL素子が、それぞれ素子分離膜によって離隔して設けられている有機EL表示装置の製造方法である。この態様では、以下に示す工程(1A)〜(1E)が含まれている。
(1A)所定の素子分離膜上に壁部材を形成する工程
(1B)第一下部電極上に第一有機EL層を形成する工程
(1C)真空蒸着法により、第二下部電極上に第二有機EL層を形成する工程
(1D)真空蒸着法により、第三下部電極上に第三有機EL層を形成する工程
(1E)壁部材を除去する工程
【0014】
ここで第二有機EL層を形成する工程(工程(1C))において、第三下部電極は工程(1A)で形成された壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽される。また第三有機EL層を形成する工程(工程(1D))において、工程(1C)において形成された第二有機EL層は壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽される。
【0015】
第二の態様は、画素に含まれる有機EL素子が、基板の面方向に第一有機EL素子、第二有機EL素子、第三有機EL素子の順で配列されている有機EL表示装置の製造方法である。この態様では、以下に示す工程(2A)〜(2E)が含まれている。
(2A)第一下部電極上に第一有機EL層を形成する工程
(2B)第一有機EL層上に壁部材を形成する工程
(2C)真空蒸着法により、第二下部電極上に第二有機EL層を形成する工程
(2D)真空蒸着法により、第三下部電極上に第三有機EL層を形成する工程
(2E)壁部材を除去する工程
【0016】
ここで第二有機EL層を形成する工程(工程(2C))において、第三下部電極は工程(2B)で形成された壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽される。また第三有機EL層を形成する工程(工程(2D))において、工程(2C)において形成された第二有機EL層は壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽される。
【0017】
以上より、本発明の製造方法では、斜方蒸着に必要な壁部材が製造プロセスの途中で除去され最終的には装置内に残存しない。このため、有機EL層の上部に形成される共通電極(上部電極)の被覆不良を回避することができる。また最終的に壁部材が除去されるので、斜め方向から表示装置を見た際に当該壁部材によって画素が遮られることがない。このため、表示装置の視野角特性を改善することができる。さらに最終的に壁部材が除去されることで、膜封止によって表示装置の封止を行う際に、当該壁部材による被覆不良を回避できる。このため、膜封止の際に形成される封止膜の膜厚を薄くすることができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、壁部材が複数の層からなる積層体であって、この壁部材の最下層が水溶性材料からなる層であり、当該壁部材を除去する工程に水浸漬工程が含まれる。仮に、壁部材を除去する工程を行う際に、物理的な力によって当該壁部材を除去しようとすると、第一有機EL層等の有機EL層に破損を伴うダメージが加わる可能性が高くなる。これに対して、水浸漬による当該壁部材の除去では物理的な破損を回避できる上に、有機EL層を侵食することなく壁部材だけを選択的に除去できる。このため、壁部材を除去する工程を行う際には水浸漬工程を含ませることが好ましい。
【0019】
一方、本発明の第二の態様においては、第一有機EL層の縁部が、前記壁部材の側面よりも内側に位置するのが好ましい。
【0020】
以下、図面を適宜参照しながら本発明の実施形態について説明する。尚、以下の説明において特に図示又は記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知又は公知技術を適用することができる。また以下に説明する実施形態は、あくまでも本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態の具体例を説明する。図1は、本実施例にて製造される有機EL表示装置の具体例を示す平面概略図である。また図2は、本発明の有機EL表示装置の製造方法における第1の実施形態を示す断面概略図である。
【0022】
図1の有機EL表示装置1は、基板10上に、第一有機EL素子20aと、第二有機EL素子20bと、第三有機EL素子20cとからなる画素20が複数配列されている。また図1の有機EL表示装置1において、画素20に含まれる有機EL素子(20a、20b、20c)は、第二有機EL素子20b、第一有機EL素子20a、第三有機EL素子20c、の順で配列されている。尚、画素20の配列態様は、例えば、図1(a)にて示されるストライプ配列であってもよいし、図1(b)にて示されるデルタ配列であってもよい。
【0023】
図1の有機EL表示装置1において、各有機EL素子(20a、20b、20c)は、それぞれ素子分離膜11によって区画されている。ここで、本実施例においては、製造プロセスの途中で所定の素子分離膜11上の領域12に壁部材を設けた上で有機EL表示装置を製造する。尚、壁部材の詳細については、後述する。また本実施形態において壁部材は、例えば、図1(a)及び(b)に示されるように、同じ行に配列されている有機EL素子(20a、20b、20c)を画素1個単位で区画する位置(領域12)に設けられる。
【0024】
次に、本実施例における有機EL表示装置の製造プロセスについて、適宜図面を参照しながら以下に説明する。
【0025】
(1)電極付基板の製造工程(図2(a))
まず図2(a)に示される電極付基板を作製する。尚、図2(a)に示される電極付基板を用意することができる場合はこの工程を省略することができる。ここで図2(a)に示される電極付基板は、基板10上に、下部電極21及び素子分離膜11が、所定の領域にパターニング形成されている。
【0026】
ここで基板10は、電極に所望の電流を供給できる機能を有するものであり、例えば、基材であるガラス基板上にTFT等の駆動回路が形成されたものを挙げることができる。
【0027】
また下部電極21は、その構成材料が光反射特性を有し、電荷又は正孔の注入に適した仕事関数を持つものが好ましい。例えば、正孔の注入を行う陽極としては、光反射性の金属材料であるAgからなる薄膜にITO薄膜を積層した積層薄膜を使用することができる。ただし本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
ここで下部電極21は、画素や画素に含まれる有機EL素子の配列に応じて適宜パターニングされる。パターニングの方法としては、公知の方法を利用することができる。またパターニングの態様としては、例えば、図1(a)に示されるストライプ配列や図1(b)に示されるデルタ配列がある。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。尚、以下の説明において、下部電極21を、第一下部電極21a、第二下部電極21b、第三下部電極21cということがある。ここで第一下部電極21aは、第一有機EL素子20aの構成部材となる下部電極である。また第二下部電極21bは、第二有機EL素子20bの構成部材となる下部電極である。また第三下部電極21cは、第三有機EL素子20aの構成部材となる下部電極である。
【0029】
素子分離膜11は、絶縁性の材料からなる部材である。ここで素子分離膜11の構成材料としては、公知の材料を使用することができる。また素子分離膜11のパターニングについては、公知の方法を採用することができる。
【0030】
(2)壁部材を設ける工程(図2(b))
次に、素子分離膜上の所定の領域に壁部材30を形成する(図2(b))。本実施例において、壁部材30は、水溶性材料からなる下層31と、非水溶性材料からなる上層32と、からなる部材である。この積層構成にすることにより、壁部材30は、水浸漬による除去に適した形態となる。
【0031】
ここで下層31を構成する水溶性材料としては、LiF、NaCl等の水溶性無機材料、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性ポリマーを挙げることができる。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
また上層32を構成する非水溶性材料としては、窒化シリコン薄膜や酸化シリコン薄膜、金属薄膜を挙げることができる。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
図2(b)に示される壁部材30は、例えば、フォトリソグラフィーを利用したパターニングにより形成する。具体的には、以下に示すプロセスにより形成する。
(i)下層31の形成
(ii)上層32の形成
(iii)レジスト層(不図示)の形成
(iv)露光、現像
(v)エッチング処理
【0034】
上記(i)のプロセスは、有機EL表示装置に含まれる表示領域全体に下層31を形成する工程である。下層31の形成方法としては、公知の成膜方法を利用することができる。
【0035】
上記(ii)のプロセスは、下層31上に上層32を形成する工程である。上層32の形成方法としては、公知の成膜方法を利用することができる。尚、上述した非水溶性材料から上層32を成膜することによって、(iii)及び(iv)のプロセスにおいて下層31の構成材料がレジスト材料を溶解する溶媒やレジスト現像液によって溶出するのを防ぐことができる。
【0036】
上記(iii)のプロセスは、上層32上にレジスト層(不図示)を形成する工程である。レジスト層の形成方法としては、公知の成膜方法を利用することができる。
【0037】
上記(iv)及び(v)のプロセスを経て図2(b)に示されるように素子分離膜11上の所定の領域(図1(a)、(b)に示される領域12)に下層31と上層32とがこの順に積層してなる壁部材30が形成される。ここで各プロセスにおいては、それぞれ公知の方法を利用することができる。尚、上記(v)のプロセスにおいて、下層31のエッチングを行う際は、上層32のエッチングに対してオーバーエッチングになる条件下で行うのが好ましい。このエッチング操作により、下層31が上層32に対して相対的に凹んでいる形状になる。即ち、下層31の縁部が上層の側面よりも内側に位置することになる。特に、下層31の中でも上層32との境界又はその周辺をオーバーエッチングさせて、下層31を断面テーパー形状に加工するのが好ましい。
【0038】
(3)有機EL層の形成工程(図2(c)〜図2(e))
次に、画素20を構成する各有機EL素子(20a、20b、20c)を構成する有機EL層をそれぞれ形成する。ここで有機EL層とは、少なくとも発光層を含む単層あるいは複数層からなる積層体である。また有機EL層の具体的な構成としては、発光層を有していれば特に限定されるものではない。発光層の他に有機EL層を構成する層として、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層、正孔ブロック層、電子ブロック層等が挙げられる。尚、有機EL層は、発光効率の観点からアモルファス膜であることが好ましい。
【0039】
有機発光層を構成する材料としては、有機発光材料、正孔注入材料、電子注入材料、正孔輸送材料、電子輸送材料より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0040】
発光層を構成する有機発光材料としては、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリーレン、芳香族縮合多環化合物、芳香族複素環化合物、芳香族複素縮合環化合物、金属錯体化合物等及びこれらの単独オリゴ体あるいは複合オリゴ体を使用できる。ただし、本発明においてはこれらの材料に限定されるものではない。尚、有機発光材料を、正孔注入材料又は正孔輸送材料にドーピングしたり、電子注入材料又は電子輸送材料に有機発光材料をドーピングしたりする等して発色の選択の幅を広げるように構成してもよい。
【0041】
正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層の構成材料である正孔注入材料及び正孔輸送材料としては、フタロシアニン化合物、トリアリールアミン化合物、導電性高分子、ペリレン系化合物、Eu錯体等が使用できる。ただし、本発明においてはこれらの材料に限定されるものではない。
【0042】
電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層の構成材料である電子注入材料及び電子輸送材料としては、8−ヒドロキシキノリンの3量体がアルミに配位したAlq3、アゾメチン亜鉛錯体、ジスチリルビフェニル誘導体系等を使用できる。ただし、本発明においてはこれらの材料に限定されるものではない。
【0043】
有機EL層の膜厚は、0.05μm〜0.30μm程度が好ましく、0.15μm〜0.30μm程度がより好ましい。
【0044】
以下に、有機EL層の形成工程の具体例を、図面を参照しながら説明する。
【0045】
まず第一有機EL素子20aを構成する第一有機EL層22aを形成する(図2(c))。ここで、第一有機EL層22aは、例えば、蒸着法によって形成される。ところで第一有機EL層22aを形成する際には、蒸着源から発生する蒸気の流れ方向に対して垂直になる位置に基板を配置する。尚、第一有機EL層22aは、各有機EL素子(第一有機EL素子20a、第二有機EL素子20b、第三有機EL素子20c)に対して共通の層として機能する。
【0046】
次に、第二有機EL素子20bを構成する第二有機EL層22bを形成する(図2(d))。ここで、第二有機EL層22bは、例えば、第一有機EL層22aと同様に蒸着法によって形成される。ところで第二有機EL層22bを形成する際には、蒸着源から発生する蒸気の流れ方向に対して所定の角度傾けた状態で基板10を配置する。即ち、第二有機EL層22bは、斜方蒸着により形成する。尚、基板10を傾ける角度については、第二有機EL層22bを設ける領域と、壁部材30の高さを考慮して適宜設定される。つまり、壁部材30は、第二有機EL層22bを第二有機EL素子20bを設ける領域に選択的に形成するための遮蔽部材として機能する。つまり、壁部材30によって第三下部電極21cが蒸着蒸気から遮蔽されることになる。
【0047】
次に、第三有機EL素子20cを構成する第三有機EL層22cを形成する(図2(e))。ここで、第三有機EL層22cは、例えば、第一有機EL層22a及び第二有機EL層22bと同様に蒸着法によって形成される。ところで第三有機EL層22cを形成する際には、蒸着源から発生する蒸気の流れ方向に対して所定の角度傾けた状態で基板10を配置する。即ち、第三有機EL層22cは、斜方蒸着により形成する。尚、基板10を傾ける角度については、第三有機EL層22cを設ける領域と、壁部材30の高さを考慮して適宜設定される。つまり、壁部材30は、第三有機EL層22cを第三有機EL素子20cを設ける領域に選択的に形成するための遮蔽部材として機能する。つまり、壁部材30によって第二有機EL層22bが蒸着蒸気から遮蔽されることになる。
【0048】
(4)壁部材の除去工程(図2(f))
次に、壁部材を除去する工程を行う(図2(f))。具体的には、全ての有機EL層(22a、22b、22c)を形成した基板10を水に浸漬させる。これにより、壁部材30を構成する下層31が溶解され、壁部材30の除去が可能となる。ここで壁部材30を除去した後には、脱水のためベーク処理を行ってもよい。尚、本発明においては、この方法に限定されるものではない。
【0049】
(5)上部電極の形成工程等
次に、各有機EL層(22a、22b、22c)上に、上部電極23を形成する(図2(g))。尚、本実施例において、上部電極23は、各有機EL素子(20a、20b、20c)に共通する電極層である。
【0050】
ここで下部電極21を反射電極とした場合では、上部電極23は、光透過性の電極とする。このため上部電極23の構成材料としては、透過率の高い材料が好ましい。具体的には、ITO、IZO、ZnO等の透明導電性材料や、ポリアセチレン等の有機導電材料が挙げられる。またAg、Al等の金属材料を、光透過性を有する程度(10nm〜30nm)の膜厚で形成した半透過膜等も使用可能である。尚、本発明においては、これらの材料に限定されるものではない。
【0051】
上部電極23は、例えば、スパッタリングによりITOを膜厚30nmで成膜することにより形成される。ここで、上部電極23の膜厚が薄すぎる場合は充分な導電性を確保することができない。一方、上部電極23の膜厚が厚すぎる場合は充分な光透過性を確保することができない。これらを考慮して、上部電極23の膜厚は、好ましくは、10nm〜300nmの範囲である。
【0052】
次に、膜封止のため窒化シリコンの膜をCVDにより、例えば、膜厚1μmで成膜する。ここで、窒化シリコン膜の膜厚が薄すぎる場合には充分な防湿特性を確保できない。一方、窒化シリコン膜の膜厚が厚すぎる場合には充分な光透過性を確保できない。これらを考慮して、窒化シリコン膜の膜厚は、好ましくは100nm〜30000nmの範囲である。また膜封止の材料としては、透過率が高く、透湿性の低い材料が好ましく用いられる。具体的には、上述した窒化シリコン、酸化シリコンと窒化シリコンとの複合膜等も使用可能である。尚、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。
【0053】
以上の工程で得られた有機EL表示装置は、形成された上部電極において被覆不良が生じないため、シェーディングの発生を抑制することができる。また得られた有機EL表示装置は、封止膜に被覆不良が生じないため、ダークスポットの発生を抑制することができる。
【実施例2】
【0054】
以下、図面を参照しながら、本発明の第2の実施形態の具体例を説明する。図3は、本発明の有機EL表示装置の製造方法における第2の実施形態を示す断面概略図である。本実施例における有機EL表示装置の製造プロセスについて、適宜図面を参照しながら以下に説明する。尚、本実施例の製造方法で製造される有機EL表示装置は、例えば、図1に示される有機EL表示装置1である。また本実施例における有機EL表示装置の製造プロセスの基本的な流れは実施例1とほぼ同じである。そこで、本実施例と実施例1との相違点を中心に以下に説明する。
【0055】
(1)電極付基板の製造工程(図3(a))
まず実施例1と同様に、電極付基板を作製あるいは用意する(図3(a))。
【0056】
(2)壁部材を設ける工程(図2(b))
次に、素子分離膜上の所定の領域に壁部材33を形成する(図3(b))。本実施例において、壁部材33は、水溶性材料からなる部材である。これにより、壁部材33は、水浸漬による除去に適した形態となる。
【0057】
ここで壁部材33を構成する水溶性材料としては、LiF、NaCl等の水溶性無機材料、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性ポリマーを挙げることができる。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
図3(b)に示される壁部材33は、例えば、フォトリソグラフィーを利用したパターニングにより形成するが本発明はこれに限定されるものではない。例えば、フォトリソグラフィーの代わりに、インクジェット法を利用して素子分離膜11上の所定の領域(図1(a)、(b)に示される領域12)に選択的に壁部材33を形成する方法を採用してもよい。
【0059】
(3)有機EL層の形成工程(図3(c)〜図3(e))
次に、画素20を構成する各有機EL素子(20a、20b、20c)を構成する有機EL層をそれぞれ形成する。ここで各有機EL層(22a、22b、22c)は、実施例1と同様の方法(蒸着法)により形成される。ただし本発明はこれに限定されるものではない。
【0060】
(4)壁部材の除去工程(図3(f))
次に、壁部材を除去する工程を行う(図3(f))。具体的には、全ての有機EL層(22a、22b、22c)を形成した基板10を水に浸漬させる。これにより、壁部材33を構成する水溶性材料が溶解され、壁部材33の除去が可能となる。尚、本実施例においては、壁部材33の側面及び上面には有機EL層の構成材料が付着して壁部材33の除去が困難になる場合がある。係る場合は、有機EL層の最上層の構成材料が溶解する溶媒を一定量水に混合した混合溶媒を使用するのが好ましい。
【0061】
ここで壁部材33を除去した後には、脱水のためベーク処理を行ってもよい。尚、本発明においては、この方法に限定されるものではない。
【0062】
(5)上部電極の形成工程等
次に、実施例1と同様に各有機EL層(22a、22b、22c)上に、上部電極23を形成し(図3(g))、次いで膜封止のための窒化シリコンの膜を形成する。以上の工程により有機EL表示装置が得られる。
【0063】
得られた有機EL表示装置は、上部共通電極に被覆不良が生じないため、シェーディングの発生を抑制することができる。また、封止膜に被覆不良が生じないため、ダークスポットの発生を抑制することができる。
【実施例3】
【0064】
以下、図面を参照しながら、本発明の第3の実施形態の具体例を説明する。図4は、本実施例にて製造される有機EL表示装置の具体例を示す平面概略図である。また図5は、本発明の有機EL表示装置の製造方法における第3の実施形態を示す断面概略図である。
【0065】
図4の有機EL表示装置2は、基板10上に、第一有機EL素子20aと、第二有機EL素子20bと、第三有機EL素子20cとからなる画素20が複数配列されている。また図1の有機EL表示装置1において、画素20に含まれる有機EL素子(20a、20b、20c)は、第一有機EL素子20a、第二有機EL素子20b、第三有機EL素子20cの順で配列されている。尚、画素20の配列態様は、例えば、図4(a)にて示されるストライプ配列であってもよいし、図4(b)にて示されるデルタ配列であってもよい。
【0066】
本実施形態においては、所定の有機EL素子を設ける領域に選択的に形成された有機EL層上に、壁部材を設けた上で有機EL装置を製造する。尚、壁部材の詳細については、後述する。また本実施形態において壁部材は、例えば、図4(a)及び(b)に示されるように、第一有機EL素子20aを設ける領域に選択的に形成された有機EL層(第一有機EL層)が存在する位置(領域13)に設けられる。
【0067】
次に、本実施例における有機EL表示装置の製造プロセスについて、適宜図面を参照しながら以下に説明する。
【0068】
(1)電極付基板の製造工程(図5(a))
まず図5(a)に示される電極付基板を作製する。尚、図5(a)に示される電極付基板を用意することができる場合はこの工程を省略することができる。
【0069】
ここで図5(a)に示される電極付基板は、基板10上に、下部電極21が、所定の領域にパターニング形成されている。
【0070】
ここで基板10は、電極に所望の電流を供給できる機能を有するものであり、例えば、基材であるガラス基板上にTFTによる駆動回路が形成されたものを挙げることができる。
【0071】
また下部電極21は、光反射特性を有し、電荷又は正孔の注入に適した仕事関数を持つものが好ましい。例えば、正孔の注入を行う陽極としては、光反射性の金属材料であるAgからなる薄膜にITO薄膜を積層した積層薄膜を使用することができる。ただし本発明はこれに限定されるものではない。
【0072】
ここで下部電極21は、画素や画素に含まれる有機EL素子の配列に応じて適宜パターニングされる。パターニングの方法としては、公知の方法を利用することができる。またパターニングの態様としては、例えば、図4(a)に示されるストライプ配列や図4(b)に示されるデルタ配列がある。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。尚、以下の説明において、下部電極21を、第一下部電極21a、第二下部電極21b、第三下部電極21cということがある。ここで第一下部電極21aは、第一有機EL素子20aの構成部材となる下部電極である。また第二下部電極21bは、第二有機EL素子20bの構成部材となる下部電極である。また第三下部電極21cは、第三有機EL素子20aの構成部材となる下部電極である。
【0073】
(2)第一有機EL層等の形成工程(図5(b))
次に、第一有機EL層22a、並びに壁部材30を構成する下層31及び上層32を、この順で形成する(図5(b))。
【0074】
この工程において形成される第一有機EL層22aは、3つの有機EL層の中でも膜厚の最も薄い層を形成する。具体的には、青色有機EL層を第一有機EL層22aとして形成する。特に、後述する第一の有機EL層22a及び壁部材30の加工工程にエッチング工程が含まれる場合、第一有機EL層22aを第二有機EL層22bや第三有機EL層22cと比較して膜厚を薄くする。こうすることで、上部電極の被覆不良の問題をより効果的に改善することができる。即ち、壁部材を除去した後の第一有機EL層22aはサイドエッチによりその端部が急峻に立ち上がっている。これにより、電極が被覆不良を起こす可能性がある。このため、第一有機EL層22aを、第二有機EL層22bや第三有機EL層22cと比較して膜厚を薄くすることで上部電極の被覆不良の原因となる段差を最小限に留めることができるので、被覆不良の要因をより低減することができる。
【0075】
本実施例において、第一有機EL層22aは、例えば、真空蒸着法により形成する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。尚、第一有機EL層の層構成、第一有機EL層に含まれる層の構成材料及び第一有機EL層の膜厚については、実施例1と同様である。
【0076】
第一有機EL層22aを形成した後に形成される下層31は、壁部材30の構成する層であって水溶性材料からなる層である。また下層31を形成した後に形成される上層32は、壁部材30の構成する層であって非水溶性材料からなる層である。この積層構成にすることにより、壁部材30は、水浸漬による除去に適した形態となる。
【0077】
ここで下層31を構成する水溶性材料及び上層32を構成する非水溶性材料については、実施例1と同様である。
【0078】
(3)第一有機EL層等の加工工程(図5(c))
次に、第一有機EL層22a、並びに壁部材30を構成する下層31及び上層32の加工工程を行う(図5(c))。この加工工程により、第一有機EL層22aが第一有機EL素子20aの構成材料である第一下部電極21a上にのみ選択的に設けられることになる。またこの加工工程により、下層31と上層32とがこの順で積層されている壁部材30が第一有機EL層22a上にのみ選択的に設けられることになる。
【0079】
ここで本工程においては、例えば、フォトリソグラフィーを利用したパターニングにより各層の加工を行う。具体的には、以下に示すプロセスにより各層の加工を行う。
(i)レジスト層(不図示)の形成
(ii)露光、現像
(iii)エッチング処理
【0080】
上記(i)のプロセスは、上層32上にレジスト層(不図示)を形成する工程である。レジスト層の形成方法としては、公知の成膜方法を利用することができる。尚、レジスト層を形成する際に、前もって非水溶性の材料からなる上層32を成膜することによって、(ii)及び(iii)のプロセスにおいて下層31の構成材料が溶出するのを防ぐことができる。
【0081】
上記(ii)及び(iii)のプロセスを経て、図5(c)に示されるように、第一下部電極21a上に、第一有機EL層22aと、壁部材30とがこの順でされることになる。ここで各プロセスにおいては、それぞれ公知の方法を利用することができる。尚、上記(iii)のプロセスにおいて、下層31及び第一有機EL層22aのエッチングを行う際は、上層32のエッチングに対してオーバーエッチングになる条件下で行うのが好ましい。このエッチング操作により、下層31及び第一有機EL層22aが上層32に対して相対的に凹んでいる形状になる。また図5(c)に示されるように、壁部材30が、水溶性材料からなる下層31と、非水溶性材料からなる上層32と、からなる積層体であり、かつ、下層31の端部が上層32の端部(又は側面)よりも内側に位置する場合も好ましい形態となる。図5(c)に示される態様にすることにより、非水溶性材料からなる上層31がひさしとして陰を作ることで第二有機EL層22b及び第三の有機EL層22cを順次成膜する際に上層32と基板10との間に非被覆部が生じる。このため、後の工程で壁部材30の除去を容易にすることができる。
【0082】
(4)第二有機EL層、第三有機EL層の形成工程(図5(d)〜図5(e))
次に、第二有機EL素子20bを構成する第二有機EL層22bを第二下部電極21b上に形成する(図5(d))。ここで、第二有機EL層22bは、例えば、第一有機EL層22aと同様に蒸着法によって形成される。ところで第二有機EL層22bを形成する際には、蒸着源から発生する蒸気の流れ方向に対して所定の角度傾けた状態で基板10を配置する。即ち、第二有機EL層22bは、斜方蒸着により形成する。尚、基板10を傾ける角度については、第二有機EL層22bを設ける領域と、壁部材30の高さを考慮して適宜設定される。つまり、壁部材30は、第二有機EL層22bを第二有機EL素子20bを設ける領域に選択的に形成するための遮蔽部材として機能する。つまり、壁部材30によって第三下部電極21cが蒸着蒸気から遮蔽されることになる。
【0083】
次に、第三有機EL素子20cを構成する第三有機EL層22cを第三下部電極21c上に形成する(図5(e))。ここで、第三有機EL層22cは、例えば、第一有機EL層22a、第二有機EL層22bと同様に蒸着法によって形成される。ところで第三有機EL層22cを形成する際には、蒸着源から発生する蒸気の流れ方向に対して所定の角度傾けた状態で基板10を配置する。即ち、第三有機EL層22cは、斜方蒸着により形成する。尚、基板10を傾ける角度については、第三有機EL層22cを設ける領域と、壁部材30の高さを考慮して適宜設定される。つまり、壁部材30は、第三有機EL層22cを第三有機EL素子20cを設ける領域に選択的に形成するための遮蔽部材として機能する。つまり、壁部材30によって第二有機EL層22bが蒸着蒸気から遮蔽されることになる。
【0084】
(5)壁部材の除去工程(図5(f))
次に、壁部材を除去する工程を行う(図5(f))。具体的には、全ての有機EL層(22a、22b、22c)を形成した基板10を水に浸漬させる。これにより、壁部材30を構成する下層31が溶解され、壁部材30の除去が可能となる。ここで壁部材30を除去した後には、脱水のためベーク処理を行ってもよい。尚、本発明においては、この方法に限定されるものではない。
【0085】
(6)上部電極の形成工程等
次に、実施例1と同様に各有機EL層(22a、22b、22c)上に、上部電極23を形成し(図3(g))、次いで膜封止のための窒化シリコンの膜を形成する。以上の工程により有機EL表示装置が得られる。
【0086】
得られた有機EL表示装置は上部共通電極に被覆不良が生じないため、シェーディングの発生を抑制することができる。また、封止膜に被覆不良が生じないため、ダークスポットの発生を抑制することができる。
【0087】
本実施形態によると、共通する有機EL層を形成しなくても各色独立した有機材料を用いて有機EL層を形成することができる。共通する有機EL層を用いた場合、各有機EL層の膜厚をそれぞれ独立して決定することができないため、光学干渉による光取り出し効果が低減してしまう。一方、本実施形態によれば、と各色独立して有機EL層の膜厚を決定することができるため、光の利用効率を高めることができる。
【0088】
また本実施形態では、壁部材を配置する領域は第一有機EL素子の領域上にあるので、壁部材を設けるための領域を別に確保する必要がないため、各画素あたりの電極の面積比率を増加させることができる。これにより素子の電流密度を低下させることが可能になり、結果として有機EL素子の輝度劣化を抑制することができる。
【実施例4】
【0089】
以下、図面を参照しながら、本発明の第4の実施形態の具体例を説明する。図6は、本発明の有機EL表示装置の製造方法における第4の実施形態を示す断面概略図である。本実施例における有機EL表示装置の製造プロセスについて、適宜図面を参照しながら以下に説明する。尚、本実施例の製造方法で製造される有機EL表示装置は、例えば、図4に示される有機EL表示装置2である。また本実施例における有機EL表示装置の製造プロセスの基本的な流れは実施例1とほぼ同じである。そこで、本実施例と実施例3との相違点を中心に以下に説明する。
【0090】
(1)電極付基板の製造工程(図6(a))
まず実施例1と同様に、電極付基板を作製あるいは用意する(図6(a))。
【0091】
(2)第一有機EL層等の形成工程(図6(b))
次に、第一有機EL層22a及び壁部材層34を、この順で形成する(図6(b))。
【0092】
この工程において形成される第一有機EL層22aは、3つの有機EL層の中でも膜厚の最も薄い層(例えば、青色有機EL層)を第一有機EL層22aとして形成する。尚、第一有機EL層の層構成、第一有機EL層22aに含まれる層の構成材料、第一有機EL層22aの膜厚及び第一有機EL層22aの成膜方法については、実施例3と同様である。
【0093】
第一有機EL層22aを形成した後に形成される壁部材層34は、水溶性材料からなる層であって後述する加工工程によって壁部材35として加工される層である。この壁部材層34を形成することにより、壁部材30は、水浸漬による除去に適した形態となる。
【0094】
ここで壁部材層34を構成する水溶性材料については、実施例1と同様である。
【0095】
(3)第一有機EL層等の加工工程(図6(c))
次に、第一有機EL層22a及び壁部材層34の加工工程を行う(図6(c))。この加工工程により、第一有機EL層22aが第一有機EL素子20aの構成材料である第一下部電極21a上にのみ選択的に設けられることになる。またこの加工工程により、壁部材35が第一有機EL層22a上にのみ選択的に設けられることになる。
【0096】
ここで本工程においては、例えば、フォトリソグラフィーを利用したパターニングにより各層の加工を行う。具体的には、以下に示すプロセスにより各層の加工を行う。
(i)レジスト層(不図示)の形成
(ii)露光、現像
(iii)エッチング処理
【0097】
上記(i)のプロセスは、壁部材層34上にレジスト層(不図示)を形成する工程である。レジスト層の形成方法としては、公知の成膜方法を利用することができる。尚、レジスト層を形成する際に、前もって非水溶性の材料からなる層(不図示)を成膜してもよい。これにより、(ii)及び(iii)のプロセスにおいて壁部材層34の構成材料が溶出するのを防ぐことができる。
【0098】
上記(ii)及び(iii)のプロセスを経て、図6(c)に示されるように、第一下部電極21a上に、第一有機EL層22aと、壁部材35とがこの順でされることになる。ここで各プロセスにおいては、それぞれ公知の方法を利用することができる。尚、上記(iii)のプロセスにおいて、第一有機EL層22aのエッチングを行う際は、壁部材層33のエッチングに対してオーバーエッチングになる条件下で行うのが好ましい。このエッチング操作により、第一有機EL層22aが壁部材層34に対して相対的に凹んでいる形状になる。また(iii)のプロセスによって第一有機EL層22aの端部が壁部材35の側面よりも内側に位置することになる。これにより壁部材35がひさしとして陰を作ることで第二有機EL層22bや第三の有機EL層22cを成膜する際に壁部材35と基板10との間に非被覆部が生じる。これにより壁部材35の除去を容易にすることができる。
【0099】
(4)第二有機EL層、第三有機EL層の形成工程(図6(d)〜図6(e))
次に、画素20を構成する第二有機EL素子20b及び第三有機EL素子20cを構成する有機EL層(22b、22c)をそれぞれ形成する(図6(d)〜図6(e))。ここで各有機EL層(22b、22c)は、実施例3と同様の方法(蒸着法)により形成される。ただし本発明はこれに限定されるものではない。
【0100】
(5)壁部材の除去工程(図6(f))
次に、壁部材を除去する工程を行う(図6(f))。具体的には、全ての有機EL層(22a、22b、22c)を形成した基板10を水に浸漬させる。これにより、壁部材30を構成する水溶性材料が溶解され、壁部材30の除去が可能となる。ここで壁部材30を除去した後には、脱水のためベーク処理を行ってもよい。尚、本発明においては、この方法に限定されるものではない。
【0101】
(6)上部電極の形成工程等
次に、実施例3と同様に各有機EL層(22a、22b、22c)上に、上部電極23を形成し(図6(g))、次いで膜封止のための窒化シリコンの膜を形成する。以上の工程により有機EL表示装置が得られる。
【0102】
得られた有機EL表示装置は上部共通電極に被覆不良が生じないため、シェーディングの発生を抑制することができる。また、封止膜に被覆不良が生じないため、ダークスポットの発生を抑制することができる。さらに、本実施形態は、壁部材の構成以外の構成が第3の実施形態と共通する。このため第3の実施形態と同様の効果(光の利用効率、電極の面積比率、有機EL素子の輝度劣化の抑制)を奏する。
【符号の説明】
【0103】
1(2):有機EL表示装置、10:基板、11:素子分離膜、20:画素、20a:第一有機EL素子、20b:第二有機EL素子、20c:第三有機EL素子、21:下部電極、22a:第一有機EL層、22b:第二有機EL層、22c:第三有機EL層、23:上部電極、30(33,35):壁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第一有機EL素子と、第二有機EL素子と、第三有機EL素子と、から構成される画素を複数有し、
前記第一有機EL素子が、第一下部電極と、第一有機EL層と、第一上部電極と、からなり、
前記第二有機EL素子が、第二下部電極と、第二有機EL層と、第二上部電極と、からなり、
前記第三有機EL素子が、第三下部電極と、第三有機EL層と、第三上部電極と、からなり、
前記第一有機EL素子と、前記第二有機EL素子と、前記第三有機EL素子と、が、前記基板の面方向に前記第二有機EL素子、前記第一有機EL素子、前記第三有機EL素子の順で配列され、
第一有機EL素子と、第二有機EL素子と、第三有機EL素子と、が、それぞれ素子分離膜によって離隔して設けられている有機EL表示装置の製造方法であって、
所定の素子分離膜上に壁部材を形成する方法と、
前記第一下部電極上に前記第一有機EL層を形成する工程と、
真空蒸着法により、前記第二下部電極上に前記第二有機EL層を形成する工程と、
真空蒸着法により、前記第三下部電極上に前記第三有機EL層を形成する工程と、
前記壁部材を除去する工程と、を有し、
前記第二有機EL層を形成する工程において、前記第三下部電極が前記壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽され、
前記第三有機EL層を形成する工程において、前記第二有機EL層が前記壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽されることを特徴とする、有機EL表示装置の製造方法。
【請求項2】
基板上に第一有機EL素子と、第二有機EL素子と、第三有機EL素子と、から構成される画素を複数有し、
前記第一有機EL素子が、第一下部電極と、第一有機EL層と、第一上部電極と、からなり、
前記第二有機EL素子が、第二下部電極と、第二有機EL層と、第二上部電極と、からなり、
前記第三有機EL素子が、第三下部電極と、第三有機EL層と、第三上部電極と、からなり、
前記第一有機EL素子と、前記第二有機EL素子と、前記第三有機EL素子と、が、前記基板の面方向に前記第一有機EL素子、前記第二有機EL素子、前記第三有機EL素子の順で配列される有機EL表示装置の製造方法であって、
前記第一下部電極上に前記第一有機EL層を形成する工程と、
前記第一有機EL層上に壁部材を形成する工程と、
真空蒸着法により、前記第二下部電極上に前記第二有機EL層を形成する工程と、
真空蒸着法により、前記第三下部電極上に前記第三有機EL層を形成する工程と、
前記壁部材を除去する工程と、を有し、
前記第二有機EL層を形成する工程において、前記第三下部電極が前記壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽され、
前記第三有機EL層を形成する工程において、前記第二有機EL層が前記壁部材によって蒸着蒸気から遮蔽されることを特徴とする、有機EL表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記壁部材を形成する工程にエッチング工程が含まれており、
前記第一有機EL層の膜厚が、前記第二有機EL層及び前記第三有機EL層よりも薄いことを特徴とする、請求項2の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記壁部材が複数の層からなる積層体であって、
前記壁部材の最下層が水溶性材料からなる層であり、
前記壁部材を除去する工程に水浸漬工程が含まれることを特徴とする、請求項2又は3に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項5】
第一有機EL層の縁部が、前記壁部材の側面よりも内側に位置することを特徴とする、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項6】
前記壁部材が、水溶性材料からなる層と、非水溶性材料からなる層と、がこの順に形成される積層体であり、
前記水溶性材料からなる層の縁部が、前記非水溶性材料からなる層の側面よりも内側に位置することを特徴とする、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5a】
image rotate

【図5b】
image rotate

【図6a】
image rotate

【図6b】
image rotate


【公開番号】特開2012−216297(P2012−216297A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79012(P2011−79012)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】