説明

有機EL表示装置

【課題】ホール注入特性を改善し、発光効率の高い低消費電力の有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】ITO電極上に有機膜と金属膜とを順次積層してなる有機EL素子をマトリクス状に配置した有機EL表示装置において、前記ITO電極の前記有機層との境界近傍において、前記ITO電極中の酸素含有量の深さ方向の分布が、ITO電極内部から有機膜に向かって増加する分布となっているITO電極を用いた構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置のITO電極表面は平滑であることが求められるため、低温で形成されることが多い。低温で成膜されたITO電極内には酸素と未結合のIn、Snの他に有利酸素や水分が含まれている。また、バンク形成工程等の工程を経たITO電極の表面は、還元などにより酸素欠乏となりやすい。実際に発光欠陥部より遊離したInが観測されている。
【0003】
そのため、ITO電極の表面処理(UV処理や酸素プラズマ処理など)が必須である。ITO表面の洗浄化と仕事関数増加が表面処理の効果として言われている。しかし、同じ条件で表面処理を行っても得られる結果にはばらつきがあり、また、これらの表面処理によってITO電極の待つ質をどのように変化させるべきか知られていなかった。これは、有機EL表示装置の長寿命化や量産ラインの構築での一つの問題になっている。
【0004】
ボトムエミッション型の有機EL表示装置では、酸素空孔やSn4+をIn3+で置換したことによって発生する電子をキャリアとしたn形半導体であるITO電極をホール注入電極として用いている。本発明者は、仕事関数が大きくできるために、ホール注入が可能になっているとは考えられるが、多数キャリアである電子の悪影響があるのではないかと疑問を持っていた。
【0005】
有機EL表示装置の特性を改善するために、ITO電極と有機層との間にp形半導体を挿入することが特許文献1に開示されている。また、酸素含有量の異なるITO電極を2層にするITO電極構造が特許文献2に開示されている。この構造は、酸素含有量を大きくし、抵抗を高くした外側のITO電極を保護膜として用いようとするものである。また、ITO電極の組成に関しては、InやSnに着目したものが特許文献3及び特許文献4に開示されている。さらに、ITO電極のクリーニング(清浄化)や仕事関数増大のため、酸化効果のある表面処理法(酸素プラズマ処理、UV/O3処理、オゾン処理等)を用いることが特許文献5、6に記載されている。
【特許文献1】特開2002−352964号公報
【特許文献2】特開2004−31242号公報
【特許文献3】特開2002−170666号公報
【特許文献4】特開2002−170431号公報
【特許文献5】特開2000−311869号公報
【特許文献6】特開2001−28296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記公知例では、有機膜の界面でのITO電極の状態には言及されておらず、表面処理によって増大させた仕事関数の経時劣化に伴う発光特性の劣化や駆動電圧上昇に対応できない。有機EL表示装置のITO電極表面は平滑であることが求められるため、低温で形成されることが多い。また、バンク形成工程等の工程を経たITO電極の表面は、還元などにより酸素欠乏となりやすい。実際に発光欠陥部より遊離したInが観測されている。このため、ITO電極の欠陥が増えるとともに、仕事関数が低下し、発光特性が劣化しやすいこれらの問題に対しても上記従来技術は考慮されていない。
【0007】
本発明者は、ITO電極を表面処理(酸素プラズマ処理やUV/O3処理)で仕事関数は増加すると、ITO電極の酸化度が上昇し、キャリア(電子)密度が低下し、抵抗は増加する。ただし、イオン散乱中心が減少するので移動度は増大する。
【0008】
本発明の目的は、ホール注入特性を向上し、発光効率を向上させ、低消費電力の有機EL表示装置を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、ITO表面の欠陥を低減し、面内分布の改善等を通じて歩留まり向上に寄与しようとするものである。
【0010】
本発明のまた他の目的は、仕事関数の高いITO電極と有機膜の界面の経時変化を抑制し、有機EL表示装置の長寿命化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するた、本発明の代表的手段の1つに、ITO電極上に有機膜と金属膜とを順次積層してなる有機EL素子をマトリクス状に配置した有機EL表示装置において、前記ITO電極の前記有機層との境界近傍における前記ITO電極中の酸素含有量の深さ方向の分布が、ITO電極内部から有機膜に向かって増加する分布となるITO電極を用いたものがある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機EL表示装置のホール注入特性、発光効率が向上させ、低消費電力が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を適用した有機EL表示装置の一例を以下に示す。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の実施例1を説明するボトムエミッション型の有機EL表示装置(OLED)の断面図である。この有機EL表示装置は、ガラス基板110、ガラス基板110の上に形成されたTFT回路120、TFT回路120上に形成された絶縁膜と、絶縁膜上に形成されたTFT回路と接続されたITO電極2、ITO電極の上に形成され、バンクと呼ばれるITO電極2の上に開口を備えた絶縁隔壁である絶縁膜3、絶縁膜3の開口で露出しているITO電極2及び絶縁膜2の上に形成された有機層4(ホール注入層41、ホール輸送層42、発光層43、電子輸送層44)、有機層4の上に形成された上部電極で構成されている。
【0015】
以下、絶縁層1とITO電極2の界面AからITO電極2と有機EL層4(ホール注入層41)の界面Bに向かって、ITO電極2の酸素含有量をどのように分布させるのが好ましいか、説明する。
【0016】
図2に、本発明の特徴であるITO電極2(ITO電極)内酸素濃度の深さ方向分布を示す。
ITO電極内のYの部分はキャリア(電子)密度が高く、抵抗の低い領域を示している。この領域では、酸素空孔やSn4+サイトをIn3+で置換したことによって発生する電子を多数キャリアとしており、n型半導体としての性質を有する。
【0017】
図2において、Xで示した場所はY領域より酸素濃度が高くなっている領域を示す。この領域では、キャリア密度が低くなるため、Y領域に比べて、抵抗が高くなる。しかし、ITO電極の移動度と仕事関数はむしろ増大する。望ましくは、界面BにおけるITO電極の酸素濃度を化学量論組成以上とすることが望ましい。なお、化学量論組成にある酸素濃度とは、ITO電極がすべてIn23とSnO2からなる場合の濃度をいう。
【0018】
深さdは、場所X界面B(ITO電極2と有機層4の界面を示す)からの深さを示している。
【0019】
本発明の適用により、上記Xで示した場所では、界面Bに向かって酸素濃度が増加するようにしている。
【0020】
深さdは、界面Bから内部への酸素拡散やITO電極2と有機膜4の相互拡散の影響を小さくするため、1nm以上の厚みが必要である。
【0021】
また、ITO電極2は配線や電極として用いるため、Yで示した低抵抗領域を設ける必要がある。従って、ITO電極の厚み(50〜200nm)やその低効率、酸素濃度が高いX領域の形成方法からみて深さdを10nm以内とすることが好ましい。
【0022】
図2(A)は、製造工程で受けた損傷などによりITO電極の酸素濃度が界面Bで低下する傾向がある膜に対して、酸素を拡散させることによりX領域を設け、該X領域での酸素濃度分布を界面Bの向かって増大させたものである。これは、その上に還元性雰囲気においてSi系絶縁膜が形成されたITO電極に本発明を適用した場合に見られる。
【0023】
図2(B)は、製造工程で受ける損傷を少なくした場合のITO電極に対して本発明を適用したものである。これが望ましい。OLED素子の従来の製造プロセスでは、ITO表面の清浄化や仕事関数増大を目的に、酸素プラズマ処理やUV処理を行っている。しかし、本発明のようにITO電極の内部まで酸素過剰にし、高抵抗で仕事関数の高い層を形成することは行われていない。そのため、仕事関数の高い部分は表面(界面B)に限られ、また、(A)のようにダメージを受けたITO電極の場合には、酸素が遊離したInやSnが表面に存在しており、前記表面処理効果も面内ばらつきを示すことが多くなる。これらは、OLED素子の特性や寿命の劣化原因となる。
【0024】
以上のことから、本発明によれば図3、図4に示した効果が得られ、その結果、本発明は電流効率などのOLED特性の改善や長寿命化に貢献することになる。
【0025】
図3は、本発明を適用したITO電極と従来のITO電極の仕事関数の経時劣化を示したグラフを記載した図である。いずれも、UV処理を施し、処理後の経過時間による仕事関数を示した。従来のITO電極の仕事関数は時間とともに減少し、30分もたてばUV処理前とほぼ変わらなくなった。それに対し、本発明によるITO電極の場合、仕事関数の減少は少ない。図示していないが、発明者らは約1ヶ月経過後も約5.4eVの値を示すことを確認している。
【0026】
仕事関数が時間経過とともに減少する理由として、表面汚染や酸素の内部への拡散が考えられるが、正しくは分かっていない。いずれの理由にせよ、本発明によるITO電極では仕事関数の減少速度が小さい。また、本発明によるITO電極が従来のITO電極より高い仕事関数を示している。これは、酸化度を高くしているためと考えられる。
【0027】
低分子OLEDではホール注入層41に用いられる有機膜は5.2eV程度のイオン化ポテンシャル(仕事関数)を有する。そのため、この値より低い仕事関数の電極ではホール注入特性が悪くなり、発光効率の低下、駆動電圧上昇の原因の1つとなってしまう。
【0028】
以上のことから、本発明によるITO電極は、発光効率等のOLED特性の改善や長寿命化に寄与できる。
【0029】
大気下光電子分光装置(理研計器製、型式:AC−2)により測定した光電子スペクトル。
縦軸(Y軸)には光電子収量Y(飛び出してくる光電子の数)のn乗値を、横軸(X軸)には照射光のエネルギ(励起エネルギ)を示す。光電子スペクトルが直線近似できるnの値は、金属の場合で0.5である。光電子収量の閾値エネルギにより金属試料の仕事関数を求めることができる。
【0030】
図4(A)は本発明によるITO電極に対するデータ、(B)は酸素プラズマ処理やUV処理を施した従来のITO電極に対するデータである。従来のITO電極の場合、図4(B)に示すように、直線近似できる領域が2つ(B1,B2)見られることが多い。図4(B)に示したデータが得られる1つのケースは、表面層と内部で性質が異なる場合である。すなわち、酸素プラズマ処理やUV処理を施した表面層の仕事関数が高く、ITO内部の仕事関数が小さくなっている場合である。このITO電極上に有機膜41(OLED層)を積層してOLED素子を形成すると、OLED特性は劣化し、駆動電圧が増加してしまう。この原因としては、バルク内部への酸素拡散等による界面BにおけるITO電極酸素濃度の低下、あるいは、ITO電極2と有機膜4の間の相互拡散によりB2に相当する部分、すなわち、ITOの仕事関数の大きな表面層の消失が考えられ、これにより有機膜と接するITO電極面の仕事関数の低下する。
【0031】
図4(B)に示したデータが得られる他のケースは、ITO電極表面が仕事関数の高い部分と低い部分から構成されている場合である。すなわち、酸素濃度の高く仕事関数が大きい部分と酸素濃度が低く仕事関数が小さい部分がITO電極表面に分布している場合である。ITO電極2がダメージを受け、酸素欠損が生じた場合に発生しやすい。この場合にも、この上に有機膜41(OLED層)を積層してOLED素子を形成すると、仕事関数が小さい部分の存在のため、OLED特性は劣化し、駆動電圧が高くなる。
【0032】
それに対し、本発明のITO電極によれば、表面から深いところまで、仕事関数の高い膜としているため、この上に有機膜41(OLED層)を形成した場合でも、酸素拡散による界面Bにおける酸素濃度低下や相互拡散による仕事関数の高いITOの表面層の消失が発生しにくい。また、ITO電極の表面から内部まで酸素濃度を高くするため、有機膜4との界面におけるITO電極表面においても酸素欠損部の存在を防止できる。このため、OLED素子の特性劣化(輝度低下等)や駆動電圧上昇を抑制できる。
【0033】
以上述べてきたように、本発明によれば、従来に比較して、OLED特性の優れた長寿命のOLED素子を得ることができる。
【0034】
本発明によるITO電極を用いたOLED素子の製造方法の一例の工程フロー図を図5に示す。
【0035】
(5A)TFT回路基板上100へのITO電極の成膜
駆動回路を形成したTFT回路基板上に周知のスパッタリング法によりITO電極を形成する。膜厚は設計に従って定めればよいが、50〜200nmの間に設定することが多い。この場合、表面が平坦になるように成膜条件を調整するとともに、未反応の酸素や水分を急増させる。この未反応の酸素や水分を吸蔵させることがポイントの1つとなる。
【0036】
(5B)ITO電極パターン2の形成
周知のフォトエッチング法を用いてITO電極を加工し、ITO電極パターン2を形成する。表面が平坦であるITO電極は非晶質であることが多く、耐薬品性に乏しく、ダメージを受けやすいので、できるだけダメージが少ないように条件を定める。
【0037】
(5C)ITO電極パターン2の熱処理
ITOパターン2を形成した基板の熱処理を行う。これにより、ITO電極は低抵抗化する。熱処理温度と抵抗値の関係を第6図に示す。200〜250℃の温度で最も低い抵抗値を示すことがわかる。これは、ITO電極内で反応が起こり、キャリア密度(電子)が増大したことを反映している。ITO内の反応には未反応の酸素や水と低酸化インジウム、低酸化スズの反応も含まれ、ITO電極の酸化度が上昇する。これに対応して仕事関数も増大する。
【0038】
熱処理温度と仕事関数の関係を図7に示す。この熱処理条件を調整することにより、ITO電極内に存在した酸素欠損などを補償できる。また、ITO電極の緻密化も達成される。(5A)のITO成膜工程で未反応の酸素や水を含む非晶質ITO電極を形成することにより、この効果を有効的なものにすることができる。
第6図と第7図に示した抵抗値と仕事関数から熱処理温度の適正範囲を求めると、200〜300℃となる。
【0039】
さらに、この熱処理を酸化性雰囲気で行うと、ITO表面から内部に向かって酸化が進み、図2に示した本発明に特徴的な酸素濃度分布を得ることができる。
【0040】
この効果を高めるためには、酸化雰囲気での熱処理とともにUV照射したり、オゾン処理を行うことが有効である。
【0041】
なお、本工程に設けることにより、成膜工程で生じたITO電極の酸素欠損に起因した欠陥(インジウムやスズの低級酸化物)を補償できる。
【0042】
(5D)絶縁層3の形成
周知のプラズマCVD法等を用いてSiNx膜やSiNxOy膜からなる絶縁膜を形成する。周知のフォトエッチングやドライエッチングを用いて上記絶縁膜を加工し、有機膜4を形成する領域に開口部を設ける。SiNx膜やSiNxOy膜の形成は還元性雰囲気で行われるため、ITO電極が還元され、酸素が欠損した欠陥が発生しやすい。これが発生すると、ITO幕の仕事関数は低いものとなる。
【0043】
(5E)TFT回路基板の洗浄
周知の洗浄方法(UV照射+ブラシ洗浄、アルカリ洗浄、中性洗剤洗浄など)を用いて絶縁層3を形成したTFT基板を洗浄し、表面を清浄にする。
【0044】
(5F)ITO電極パターン2の表面処理
酸素を含む気体を用いたプラズマ処理、UV/O3処理、オゾン処理などを用いて表面処理を行い、ITO表面を清浄にするとともに、仕事関数を増大させる。この場合、処理条件を調整することにより、ITO表面から内部に向かって酸化が進むようにする。これにより、図2に示すような本発明に特徴的な酸素濃度分布とする。従来技術では、このことが考慮されていない。
【0045】
図8に、酸素プラズマ処理を用いた場合の処理条件と仕事関数の関係を示す。本実施例の場合には処理によって5.6eV以上と従来と比べても高い値となっている。ITO電極の酸化度が高いためと考えられる。この原理は、工程(5C)の場合と同じである。
【0046】
本工程により、(5E)までの工程で発生した酸素欠損に起因した欠陥を補修し、第2図に示すような本発明に特徴的な酸素濃度分布が得られる。
【0047】
なお、本発明に特徴的な第2図に示すITO電極内の酸素濃度分布を工程(5C)で得ている場合には、本工程はITO表面の清浄化を主目的に行う。
【0048】
(5G)有機EL層4の成膜
周知の真空蒸着法(マスク蒸着)を用いてホール注入層41、ホール輸送層42、発光層43、電子輸送層44とする有機膜を順次成膜し、有機EL層4とする。
【0049】
(5H)上部電極5の形成
周知の真空蒸着法(マスク蒸着)を用いて、LiF膜とAl膜を順次成膜し、上部電極5を形成する。
【0050】
以上で、本発明を適用した図1に示したOLED素子が形成される。この後に封止工程などを経てOLEDパネルが製造されるが、省略する。
【0051】
本実施例では、本発明のITO電極を、工程(5A)のITO成膜条件、工程(5C)の熱処理条件、工程(5F)の表面処理条件、の組み合わせで得ている。しかし、図11に示すように、ITO成膜工程を工程(11A1)と工程(11A2)に分け、工程(11A1)で低抵抗の部部とするITO電極21を形成し、工程(11A2)で酸素含有量の多いITO電極22を形成しても良い。ただし、本実施例と同様の効果を得るためには、非晶質膜とし、工程(5A)と同じように、未反応の酸素や水分を含ませることが好ましい。熱処理によって酸素欠損に起因した欠陥を補償し、緻密な膜にでき、かつ、表面の平坦なITO電極が形成できるからである。
【0052】
図9は、従来のボトムエミッション型OLEDで用いられている典型的なITO電極のITO電極内酸素の深さ方向分布を示したものである。Aが下地基板側との界面を、Bが有機膜層41(OLED層4)との界面を示している。有機EL素子の基本的構造は第1図と同じである。
【0053】
図9(A)は未処理ITO電極の酸素濃度分布を示す。ITO電極は、抵抗を低くするため、酸素空孔を有する酸素欠乏型の膜となっているが、更に、電極パターン形成などの工程でのダメージにより、ITO表面では、更に酸素欠乏となりやすい。従って、従来のITO電極の表面には酸素濃度の高い領域と低い領域が混在しやすい。このようなITO電極をOLED素子のホール注入側の電極に用いた場合、仕事関数は4.5〜4.8eVと低いためにホール注入障壁が高く、所望のOLED特性を得ることができない。
【0054】
図9(B)は上記(A)の欠点を補うため、酸素プラズマ処理、UV/O3処理などを施したものである。この表面処理により、ITO電極表面の酸素濃度が高くなり、仕事関数は5.2eV以上の値を示す。この上に、OLED層(ホール注入層41)を形成することにより、特性が改善されたOLED素子が得られるようになる。
【0055】
ここで示した図9(B)のITO電極に典型的な光電子スペクトルは図4(B)のようになる。光電子スペクトルでは、直線近似できる領域が2つ存在することが多く、ITO電極は仕事関数高い部分と低い部分から構成されていることが多い。仕事関数高い部分と低い部分の分布は膜圧方向で存在するが、面内でも生ずることがある。
【0056】
このようなITO電極では、表面処理(酸素プラズマ処理、UV/O3処理など)後の仕事関数の経時劣化が生じやすい。この例を図3(B)に示す。このような仕事関数の経時劣化は、ITO電極の仕事関数高い部分の厚みが薄かったり、表面での存在比率が少ない場合に顕著になるものと考える。
【0057】
このようなITO電極をOLED素子に用いると、OLEDの特性改善は難しく、また、寿命特性改善(輝度半減時間の短縮や駆動電圧上昇抑制)も困難になる。
【0058】
上記従来技術の課題は、ITO表面の清浄化と仕事関数増大には着目しているものの、ITO電極の膜質や、仕事関数を高い値に保持するための方法まで踏み込んでいないために発生していると考えられる。
【0059】
図10は、ITO電極電極2の有機層4(ホール注入層41)との界面Bに厚みaで酸素高濃度層を作成した場合の酸素濃度プロファイルを示した図である。この酸素高濃度層では、ITO電極の化学量論組成と同等以上の酸素濃度を示す。該酸素高濃度層では、仕事関数が高いので、界面Bにおいて、良好なホール注入特性が得られる。ITO電極2と有機層4の相互拡散などによる特性劣化を考えると、厚みaは1nm程度あればよい。また、この酸素高濃度層はキャリア(電子)密度が低く、高い抵抗を示すため、厚みは厚くしすぎることは良くない。第2図と組み合わせて考えると、d≧aとせざる得ない。
【0060】
本実施の形態のITO電極を有するOLED素子の製造方法の一例を図11に示す。ITO電極を成膜する工程を、ITO電極の低抵抗な部分を構成するITO電極を成膜する工程と、化学量論組成と同等以上の酸素を含み高抵抗で仕事関数の高いITO電極(酸素高濃度層)を成膜する工程に分ければよい。該酸素高濃度層を形成する1つの方法は、成膜雰囲気の酸素や水分の割合を多くすることである。
【0061】
本実施例によれば、化学量論組成と同等以上の酸素を含み高抵抗で仕事関数の高いITO電極(酸素高濃度層)を確実に形成できる。このため、第5図に示した工程(5C)の熱処理や(5F)の表面処理で、ITO電極の酸素プロファイル調整は行う必要はなく、(5C)はITO電極の低抵抗化、(5F)はITO電極表面の清浄化を主眼に行えばよい。また、製造工程に還元雰囲気があって、酸素欠乏が生じても、ITO電極表面の酸素濃度が高いため、工程(5F)での酸化による補修が簡単である。
【0062】
図11は、図10に示した酸素濃度プロファイルを有するITO電極を用いたOLED素子の製造方法の一例を示す工程フロー図である。図5に示した工程と異なる点は、(5A)のITO電極の成膜工程を(11A1)と(11A2)の2つの工程に分けた所である。工程(11A1)では工程(11C)の熱処理で低抵抗化できる膜質とし、工程(11A2)では酸素高濃度層に対応するITO電極を形成する。すなわち、工程(11A1)では最適酸素(+水)分圧で成膜するが、工程(11A2)では最適酸素(+水)分圧に更に酸素や水分を加えて成膜する。
【0063】
本実施例の場合、工程(11C)の熱処理や(11F)表面処理で、ITO電極の酸素プロファイル調整を行う必要はない。工程(11C)はITO電極(工程(11A1)で成膜したITO電極)の低抵抗化、工程(11F)はITO電極(工程(11A2)で成膜したITO電極)表面の清浄化を主眼に行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1の実施の形態を示すボトムエミッション型のOLEDの断面図である。
【図2】本発明の特徴を示すITO電極2内の酸素濃度分布を示す図である。
【図3】本発明の効果の1つを示すグラフを記載した図である。
【図4】本発明の効果の1つを示す光電子スペクトルを記載した図である。
【図5】本発明によるOLED素子の製造方法の1つを示す製造工程フロー図を示す図である。
【図6】第5図に示した工程(5C)によるITO電極2(ITO電極)の抵抗変化を示すグラフを記載した図である。
【図7】第5図に示した工程(5C)によるITO電極2(ITO電極)の仕事関数を示すグラフを記載した図である。
【図8】第5図に示した工程(5F)によるITO電極2(ITO電極)の仕事関数を示すグラフを記載した図である。
【図9】従来のボトムエミッション型OLEDで用いられている典型的なITO電極のITO電極内酸素の深さ方向分布を示した図である。
【図10】ITO電極電極2の有機層4(ホール注入層41)との界面Bに厚みaで酸素高濃度層を作成した場合の酸素濃度プロファイルを示した図である。
【図11】第10図に示した酸素濃度プロファイルを有するITO電極を用いたOLED素子の製造方法の一例を示す工程フロー図である。。
【符号の説明】
【0065】
1,3・・・絶縁層、2・・・ITO電極、4・・・有機EL層、41・・・ホール注入層、42・・・ホール輸送層、43・・・発光層、44・・・電子輸送層、5・・・上部電極、100・・・TFT回路基板、110・・・ガラス基板、120・・・TFT回路、A・・・絶縁層1とITO電極2の界面、B・・・ITO電極2と有機EL層4(ホール注入層41)の界面。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ITO電極上に有機膜と金属膜とを順次積層してなる有機EL素子をマトリクス状に配置した有機EL表示装置において、
前記ITO電極の前記有機層との境界近傍において、前記ITO電極中の酸素含有量の深さ方向の分布が、ITO電極内部から有機膜に向かって増加する分布となっていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ITO電極と有機膜との界面におけるITO電極の酸素含有量を、該ITOの化学量論組成以上とすることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記酸素含有量は、前記ITO電極と前記有機膜との界面から1nm以上10nm以下の範囲における酸素含有量であることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項4】
有機膜と金属膜とを順次ITO電極上に積層してなる有機EL素子をマトリクス状に配置した有機EL表示装置において、
前記ITOと前記有機層との界面に、酸素濃度がITOの化学量論組成以上となる層が存在することを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記層は、1nm以上の厚みを備えていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項6】
請求項1乃至5において、
【請求項7】
請求項6において、
前記有機EL素子は、アクティブマトリクス基板上に形成されていることを特徴とする有機EL表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−234259(P2007−234259A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51309(P2006−51309)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】