説明

有用リン脂質組成物及びそれを含有する食品、食品配合剤、飲料並びに有用リン脂質組成物の製造方法

【課題】魚介類、特にその加工過程から出る廃棄物由来の有用リン脂質及びそれを含有する食品、食品配合剤、飲料並びに有用リン脂質組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】魚介類の部位1から水分及び油分を除去して固形物2を取り出し、固形物2に有機溶剤を添加して固形物2の有機溶剤抽出液5を取り出し、有機溶剤抽出液5を精製して得られる有用リン脂質組成物8である。有用リン脂質組成物8は、35重量%以上のホスファチジルコリンと7重量%以上のホスファチジルエタノールアミンと、を含み、健康上及び栄養上、有用なリン脂質が豊富に含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類由来の有用リン脂質組成物及びそれを含有する食品、食品配合剤、飲料並びに有用リン脂質組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類は、蛋白質やその他の栄養源として有用な食品であるが、近年、単に港で水揚げされる魚介類がそのまま商品となるだけでなく、加工工場でさまざまに加工されて商品化される比率が増加している。主要な商品を生産する加工の過程でさまざまな副生品が生じるが、その有効な利用法が見つからない場合には廃棄物として廃棄処分している。このため、加工利益を低下させるだけでなく、近年では特に廃棄経費、廃棄場確保、廃棄による環境破壊などの問題が深刻になっている。これらの例は多数挙げることができるが、例えば、いかの内臓であるいかゴロや、いかをするめや塩辛などに加工する場合に剥かれる表皮など、また、ほたて貝の貝柱を主製品とする場合の副生物である内臓部分に相当するほたてウロなどがある。
【0003】
これらの水産加工中で廃棄される廃棄物には、リン脂質が含有され、肝機能改善、血圧降下、抗アレルギー、記憶力などの学習機能向上、制ガン機能など極めて重要な生理機能を有することが知られている。そして、廃棄物ではないが、魚卵から抽出したリン脂質が既に商品化されている(非特許文献1参照)。この中でとくに、ほたてウロから製造されるリン脂質は、他の原料から得られた物より豊富なEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などの高度不飽和脂肪酸を含有しており、これら成分が上記生理機能に特に有用であることが知られている。
【0004】
ところで、国内のほたてウロは年間10万トンに達し、また、いかゴロも日本国内での産出は極めて多く、しかも人体健康に有用な種々の物質が豊富に含まれていることも知られている。しかしながら、それら有用物質の分離濃縮精製が困難なために、現在、そのほとんどが廃棄され、資源の浪費と廃棄の弊害をもたらしている。この問題を解決して現在廃棄されている物質の有効利用を目指す試みもいくつか見受けられる。
【0005】
さらに、魚介類廃棄物中には種々の有害重金属が含まれ、ほたてウロなどに含有されるカドミウム(Cd)は、廃棄物湿潤基準で100〜200ppmあるので、そのままの形態で廃棄した場合、環境汚染の懸念がある。このため、魚介類廃棄物から有用物質を分離抽出すると同時に、Cdなどの有害物質を残渣中に濃縮して、最終処理を行なうことが必要である。
【0006】
従来技術として、本発明者らの一人による特許文献1、2には、魚介類由来の廃棄物からアミノ酸、オリゴ蛋白、ビタミン、ミネラル、及び油脂、蛋白から成る有用組成物を得る酵素を用いた精製法が開示されている。
【0007】
また特許文献3には、ほたてウロやいかゴロから油分と蛋白質を効率よく分離回収する方法と回収された油が開示され、いかゴロ、ほたてウロなどからのリン脂質の抽出回収が最も重要、かつ有望なもののひとつであると記載されている。
しかしながら、その分離方法はまだ十分精密なものではなく、得られる製品は、例えば化学構造式で表現できるような単一構造成分ではなく、そのためにその用途も飼料とか人の一般的栄養源などに留まっている。
【0008】
本発明者の一人が共同発明者である特許文献4には、以上に挙げたような未完成技術をさらに向上させ、魚介類由来の廃棄物から高度な生理活性を有する成分を高濃度に含有する組成物を回収する方法として、リン脂質を魚介類から溶剤抽出によって回収することが開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平11−123052号公報
【特許文献2】米国特許US6,346,276
【特許文献3】特開2003−81996号公報
【特許文献4】特開2004−26767号公報
【非特許文献1】阿部秀一、日比野英彦、ジャパンフードサイエンス、2001−1、p.38、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、魚介類商品の高度加工に伴う廃棄物の増加に伴い、廃棄経費の増加、廃棄場の確保、廃棄物に含有されているCdなどによる環境汚染、などの問題が深刻化し、廃棄物の有効利用による廃棄量の削減が水産業界の重要な課題となっている。一方、廃棄物中に健康、栄養上有用な成分が豊富に含有される場合があることが知られ、これを効率よく回収することで廃棄量の減少と有用成分の製造とを達成することは重要、かつ有望な課題となっている。
【0011】
上記特許文献1及び2に開示された方法においては、廃棄物から有用物質を分離する方法として、蛋白分解酵素を用いた処理を主体としているため、酵素処理に長時間を要すること、添加する酵素自体が組成物中に混入すること、さらに、酵素処理はその前後処理も含めて工程が複雑になり、経費が高くなるなどの課題がある。
【0012】
しかしながら、従来の魚介類からのリン脂質回収は、リン脂質抽出に先立って原料を乾燥することで処理量を減少している。それに対して特許文献4の方法は、乾燥工程を省くことを特徴としているので、抽出原料の量が膨大になることが避けられないという課題がある。
【0013】
さらに、従来のリン脂質回収技術を上回る高効率の工程で良質のリン脂質を低経費で製造する必要があるという課題がある。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑み、魚介類、特にその加工過程から出る廃棄物由来の有用リン脂質及びそれを含有する食品、食品配合剤、飲料並びに有用リン脂質組成物の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明は、魚介類の部位から水分及び油分を除去して取り出した固形物と、固形物に有機溶剤を添加して得た有機溶剤抽出液と、有機溶剤抽出液を精製して得られる有用リン脂質組成物であって、この有用リン脂質組成物が、35重量%以上のホスファチジルコリンと7重量%以上のホスファチジルエタノールアミンとを含むことを特徴とする。
上記構成によれば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンなどのリン脂質を豊富に含有する有用リン脂質組成物が得られる。
【0016】
本発明の有用リン脂質組成物を含有する食品又は食品配合剤は、上記の有用リン脂質組成物を含有し、有用リン脂質組成物が35重量%以上のホスファチジルコリンと7重量%以上のホスファチジルエタノールアミンとを含むことを特徴とする。
上記構成によれば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンなどのリン脂質を豊富に含有する有用リン脂質組成物を食品又食品配合剤に添加することにより、食品から摂取できるので、摂取が容易となり、例えば、肝機能改善、血圧降下、抗アレルギー、記憶力などの学習機能向上、制ガンなどに効果のある健康食品などとして有効利用することが可能になる。
【0017】
本発明の有用リン脂質組成物を含有する飲料は、魚介類の部位から水分及び油分を除去して取り出した固形物と、固形物に有機溶剤を添加して得た有機溶剤抽出液と、有機溶剤抽出液を精製して得られる有用リン脂質組成物を含有し、有用リン脂質組成物が水溶性であることを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、有用リン脂質組成物がオメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質でなり、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質を飲料に対して0.05〜10重量%分散させている。
また、有用リン脂質組成物を含有する飲料が、好ましくは、ミネラル水や炭酸水などの水系飲料、緑茶、紅茶、ウーロン茶などの茶系飲料、牛乳やヨーグルトなどの乳系飲料、果汁や野菜汁などのジュース系飲料、コーヒーやココアを含む飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンクなどの各種ドリンク、酢などを含む健康系飲料、日本酒、焼酎、ビール、ワインなどのアルコール系飲料の何れかである。
上記構成によれば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンなどのリン脂質を豊富に含有する有用リン脂質組成物を飲料に添加することにより、飲料から摂取できるので、摂取が容易となり、例えば、肝機能改善、血圧降下、抗アレルギー、記憶力などの学習機能向上、制ガンなどに効果のある健康食品などとして有効利用することが可能になる。
【0018】
本発明の有用リン脂質組成物の製造方法は、魚介類の部位から水分及び油分を除去して固形物を取り出す工程と、固形物に有機溶剤を添加して固形物の有機溶剤抽出液を取り出す工程と、有機溶剤抽出液を精製する工程と、を含む工程により有用リン脂質組成物を得ることを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、固形物を取り出す工程が、魚介類の部位に水を加え所定温度で所定時間蒸煮する蒸煮工程と、遠心分離及び/又はろ過による固液分離工程と、からなり、蒸煮工程及び固液分離工程が、連続的に行なわれる。
好ましくは、有機溶剤は、エタノール又は含水アセトンである。有機溶剤抽出液を精製する工程は、好ましくはカラムクロマト法による精製工程であり、展開液としてはエタノールなどを使用する。カラムクロマト法において、最初に、クロマトカラムにアセトンを展開し、アセトンに溶解する不要成分を流去し、次に、クロマトカラム中に吸着した残留物をエタノールで展開するようにすれば好ましい。
また、好ましくは、魚介類の部位が、水産加工の過程から産出される副生品、とくにほたてウロである。
【0019】
上記構成によれば、魚介類原料、特にほたてウロなど水産物加工過程から出る廃棄物を原料として、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンなどのリン脂質を豊富に含有する有用組成物が得られ、組成物は、例えば、肝機能改善、血圧降下、抗アレルギー、記憶力などの学習機能向上、制ガンなどに効果のある健康食品などの用途に、有効利用できる。
【0020】
さらに、上記構成によれば、出発原料中に通常100〜200ppm程度含まれるカドミウムが、有機溶剤抽出による抽出液中には極微量しか含まれず、従って最終製品となる有用リン脂質組成物は人体に安全な組成物であるとともに、抽出残渣固形物中にカドミウムが濃縮されて移行し、その後のカドミウム分離除去処理を効率よく行なえる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、魚介類に由来する有用なリン脂質組成物又はそれを含有する食品、食品配合剤や飲料を得ることができる。
さらに、本発明の有用リン脂質組成物の製造方法によれば、有用なリン脂質を豊富に含む組成物を効率的に、かつ低価格で製造することができる。この組成物は、例えば、肝機能改善、血圧降下、抗アレルギー、記憶力などの学習機能向上、制ガンなどに効果のある健康食品などの用途に有効利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
先ず、本発明のリン脂質を主成分とする組成物について説明する。
リン脂質は、一例として、化学式(1)で表されるようなグリセリンリン酸エステルであり、魚介類をはじめ、卵黄、大豆などに多く含まれ、抽出利用されている。
【化1】

ここで、R1 COO,R2 COOは脂肪酸残基であり、Xはコリン(PC)、エタノールアミン(PE)、イノシトール(PI)及びグリセロール(PG)のうちから選ばれるアルコールアミンのエステル結合部または多価アルコールのエステル結合部である。
【0023】
このようなグリセリンリン酸エステルとしては、下記化学式(2)で表されるホスファチジルコリンや下記化学式(3)で表されるホスファチジルエタノールアミンなどが挙げられる。
化学式(2)で表されるホスファチジルコリンは、上記化学式(1)中のXがコリン(PC)から成るグリセリンリン酸エステルである。
【化2】

化学式(3)で表されるホスファチジルエタノールアミンは、上記化学式(1)中のXがエタノールアミン(PE)から成るグリセリンリン酸エステルである。
【化3】

【0024】
次に、本発明のリン脂質を主成分とする組成物の製造方法について説明する。
図1は、本発明の有用リン脂質組成物の製造方法を示す工程図である。図において、出発原料1は魚介類の部位である。図示するように、第1工程及び第2工程は連続的に行われ、魚介類の部位から固形物2及び液相3を得る工程である。
この第1工程は、魚介類の部位の組織中に含まれる中性油分を水不溶相として分離する工程であり、具体的には、出発原料1と水との混合物を所定温度で沸騰させて、所定時間加熱する。以下、この第1工程を本発明においては、蒸煮工程と呼ぶ。
ここで、出発原料1は、魚介類の水産加工の工程から産出される副生品として、従来は有効に利用されることなく廃棄されている魚介類の部位を用いるのが好適である。好ましくは、ほたての貝柱以外の軟体部であるほたてウロや、いかの内臓であるいかゴロを用いることができる。
【0025】
出発原料1として、魚介類の廃棄する部位(以下、魚介類の部位と呼ぶ)を用いた場合の蒸煮工程では、魚介類の部位に対して0.5〜5重量倍の水を加えて、95〜100℃に加熱して行なうことができる。蒸煮が長時間に過ぎると最終目的製品であるリン脂質が分解する場合があるので好ましくない。
【0026】
第2工程は、第1工程の後で、固形物2及び液相3に分離する工程である。この工程は、遠心分離及び/又はろ過による固液分離工程で可能であるが、遠心分離工程を好適に用いることができる。具体的には、第1工程終了後に遠心分離器にかけ、所定の回転数で所定時間遠心分離を行なうことにより、固形物2及び液相3を得る。この際の遠心力としては、1000〜3000G程度であればよい。この液相3は、廃棄物として回収する。
なお、遠心分離工程で得た固形物2は水分を含んでいるので、水分を減少させるために、さらに、減圧乾燥を行なって固形物の含水量を下げることが好ましい。この場合、常圧乾燥によると高温のために目的とするリン脂質が分解するおそれがあるので、減圧乾燥が望ましい。
【0027】
第3工程は、第2工程で得た固形物2の有機溶剤抽出工程である。この工程では、固形物2に有機溶剤を添加して有機溶剤抽出を行ない、残渣固形物4と有機溶剤抽出液5とを得る。この有機溶剤抽出工程は、例えば撹拌器つき防爆仕様タンクに入れて行なうことができる。この場合、固形物2に、固形物2と同じ重量の有機溶剤を加えて行なうことができ、この工程を繰り返し行なうこともできる。さらに、有機溶剤抽出工程は、円筒カラム形状の抽出装置で連続式に抽出することもできる。
【0028】
ここで、有機溶剤は、次の工程であるカラムクロマト操作条件を考慮して選択され、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、クロロホルム、塩化メチレン、ヘキサン、及びそれらの含水物を用いることができる。また、有機溶剤は含水アセトンとすることもできる。この場合、含水アセトンは、水分を10〜30重量%とすることが好ましい。
ただし、食品用途であることを考慮すると、エタノールが最も好ましい。エタノールは、仮に微量が人体中に取り込まれても無害であり、本発明の目的とする抽出に効率よく使用できる性能を持つ有機溶剤である。
【0029】
上記第3の有機溶剤抽出工程によれば、第2工程で得た固形物2内に含まれ有機溶剤に溶解しない成分が、残渣固形物4に濃縮される。このため、固形物2内に含まれるカドミウムなどの有害な重金属を、残渣固形物4に含ませて回収することができる。
【0030】
第4工程は、有機溶剤抽出液5に含まれる有機溶剤を蒸留除去する工程である。蒸留除去した有機溶剤は回収する。この場合、残存する抽出液6中の有機溶剤が10〜50重量%の範囲内となるようにする。有機溶剤が10重量%より少ないと流動性を失い、50重量%を超えるとその量が多くなり過ぎて、ともに次の工程への仕込みに不適当である。
【0031】
第5工程は、第4工程で得た抽出液6の精製工程である。精製工程としてはカラムクロマト法が好適である。この抽出液6をクロマトカラム上部に仕込んだ後、有機溶剤を展開剤として流下し、不適切な画分を除去して、好適な画分を回収する。有機溶剤としてはエタノールが好適であり、初期に流出する濃黒褐色の画分を除去して、淡色になる画分を目的物として回収する。
クロマトカラムとしては、例えば、シリカゲル又はアルミナゲルからなる充填剤を充填した円筒管を用いることが好適である。さらに、上記材料の混合粒子や多孔質樹脂粒子を用いてもよい。
【0032】
別法として、有機溶剤としてエタノール単体ではなく、アセトン及びエタノールを展開剤として用いてもよい。この場合、クロマトカラムに、最初にアセトンを流通させると、アセトンに溶解する、例えば、トリグリセライドなどの有用リン脂質組成物8以外の不要成分が流出するので、これを除去した。
次に、クロマトカラム内の充填剤に吸着した目的成分をエタノールで流出させて回収する。
【0033】
第6工程は、クロマトカラムからの流出液相である精製液7に含まれている有機溶剤を蒸留除去する工程であり、濃縮液相として有用リン脂質組成物8が得られる。この有用リン脂質組成物8の収率は、出発原料1に対して1〜3%程度である。
【0034】
本発明の特徴は、魚介類を出発原料としており、従来はほとんど廃棄されていた魚介類の内臓などの部位から有用リン脂質組成物8を得ることにあり、特に、第1の蒸煮工程と第2の固液分離工程を連続的に行ない、出発原料1中の水分、油分などの相当量を除去することによって、有機溶剤抽出の対象となる固形物を減少させ、その後の抽出精製工程を効率よく行なうことができる点にある。
【0035】
また、本発明のリン脂質の製造方法によれば、有用なリン脂質組成物8からなり、カドミウムをほとんど含まない組成物を効率的に、かつ低価格で製造することができる。これにより、有機溶剤抽出工程で回収した残渣固形物4中に、カドミウムなどを濃縮し、効率よく回収することができる。
【0036】
本発明によって製造される有用リン脂質組成物8は、35重量%以上のホスファチジルコリンと7重量%以上のホスファチジルエタノールアミンとを含む。
【0037】
また、本発明の有用リン脂質組成物8を含有する食品又は食品配合剤は、上記の製造工程によって得られる組成物を含有している。この組成物の食品又は食品配合剤への含有率は、例えば食味を損なわないようにすれば、食品から摂取できるので摂取が容易となる。これにより、本発明の有用リン脂質組成物8及びそれを含有する食品又は食品配合剤は、例えば、肝機能改善、血圧降下、抗アレルギー、記憶力など学習機能向上、制ガンなどに効果のある健康食品などの用途に有効利用できる。なお、ここで食品とは、固形食品のほか、粘性、液状の食品を含む広い概念である。
【0038】
また、食品中で、とくに本発明の有用リン脂質組成物8を含有する飲料は、上記の製造工程によって得られる組成物を含有している。この組成物の飲料への含有率は、例えば、飲料本来の味を損なわないようにすれば、飲料から摂取できるので摂取が容易となる。
【0039】
この飲料に用いる本発明の有用リン脂質組成物8において、リン脂質として、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)を含んでいることが好ましい。これらDHA,EPAは、何れも末端から3番目に位置する炭素が不飽和結合を有していることから、オメガ−3高度不飽和脂肪酸と呼ばれており、このようなオメガ−3高度不飽和脂肪酸を含むリン脂質が、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質である。
【0040】
特に、ほたてやいか由来の本発明の有用リン脂質組成物8は、DHAやEPAを豊富に含んでいるので、水に溶解しないDHAを含むトリグリセライド型の油脂(以下、適宜TG型DHAと呼ぶ)とは異なり水溶性であり、常温で水を含む飲料によく溶解し、そして、その色が殆ど無色透明である。これは、本発明の有用リン脂質組成物8が、親水性となるリン酸エステル部を含むことによる。それに加えて、リン脂質に含まれるリン酸エステル部の親水性及び結合する脂肪酸部分の親油性のバランスによって、高性能な界面活性機能を有するので、水への溶解性を向上させることができる。
【0041】
さらに、本発明の有用リン脂質組成物8を水を含む飲料に添加したときには、撹拌などの方法により適宜分散させれば、より均一にすることができる。これは、本発明の有用リン脂質組成物8が水中でリポソームを形成することによると推定される。したがって、TG型DHAなどを水に溶解させるための溶解助剤や乳化剤のような添加剤を使用する必要がなくなる。
【0042】
上記有用リン脂質組成物8としては、特にほたて由来のオメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質を用いれば、その色がほぼ透明であり、水に分散させ易い点で好適である。このオメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質を、水を含む飲料に対しては、0.05〜10重量%分散させればよい。オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質が0.05重量%より少ないと、有用リン脂質の効果が小さく好ましくない。逆に、10重量%を超えると油ぽっく感じる場合もあり、飲料本来の味を損なうので好ましくない。
【0043】
本発明の有用リン脂質組成物8を、シロップ状の飲料に添加してもよい。例えば、白糖の溶液や白糖とその他の甘味剤などで味を調整したシロップに本発明の有用リン脂質組成物8を適量添加すればよい。この場合には、シロップ飲料中の有用リン脂質組成物8の添加量は10重量%以上の高濃度としてもよい。
【0044】
このため、本発明の有用リン脂質組成物8を含有する飲料は、水やアルコールなどによく溶解し、分散性がよいので、飲料の賞味期限中の沈殿や濁りなどが生じないと共に、ほぼ無色であるので飲料本来の呈色や味を損なうことがない。
これにより、本発明の有用リン脂質組成物8及びそれを含有する食品において、とくに飲料は、例えば、肝機能改善、血圧降下、抗アレルギー、記憶力など学習機能向上、制ガンなどに効果のある機能性飲料などの用途に有効利用できる。このような飲料としては、ミネラル水や炭酸水などの水系飲料、緑茶、紅茶、ウーロン茶などの茶系飲料、牛乳やヨーグルトなどの乳系飲料、果汁や野菜汁などのジュース系飲料、コーヒーやココアを含む飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンクなどの各種ドリンク、酢などを含む健康系飲料、日本酒、焼酎、ビール、ワインなどのアルコール系飲料などに適用することができる。
【実施例1】
【0045】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
出発原料1としてほたてウロを用い、実施例の有用リン脂質組成物8を製造した。出発原料1のほたてウロの重量は1000kgであり、一応の水切りはしてあるが特に乾燥してない状態(以下、湿潤基準と呼ぶ)である。その内訳は、固形分23重量%で、水分が770kgである。この固形分中の蛋白質は、ほたてウロの場合には約13.5%程度である。
最初に、出発原料1を連続的に投入し、第1の蒸煮工程及び第2の固液分離工程を連続して行なった。具体的には、出発原料1に水2000リットルを加え、スチームジャケット加熱式連続蒸煮管で、95〜100℃、20分の滞留時間で加熱煮沸した。
【0046】
続いて、第2の固液分離工程として、連続式遠心分離機に通し、2000Gの回転を掛け、固形物2及び液相3を得た。この液相3は、廃棄物として回収した。この工程で得た固形物2の重量は470kgあり、カールフィッシャー測定により含水量は61.7重量%であった。
【0047】
有機溶剤抽出工程として、上記固形物2のうち100kg(乾燥固形分約38kg)を、ステンレススティール製の円筒状抽出装置(直径0.5m、高さ1.5m、容量200リットル)に充填し、95%エタノール300リットルを流通速度100リットル/時で流通して抽出操作を行なった。最後に、空気で残留液相を押出して、これも有機溶剤抽出液5に加え、約400リットルの有機溶剤抽出液5を得た。このときに得られた抽出残渣固形物4は、35kgであった。
【0048】
第4工程として、約400リットルの有機溶剤抽出液5を、50℃、650mmHg(約、8.7×104 Pa)で減圧蒸留して有機溶剤を除去回収した。ここで得られた抽出液6は、褐色粘ちょうな液体で、その重量は15.5kgであった。
【0049】
第5工程として、上記抽出液6を直径50cm、高さ1.5mのステンレススティール製クロマトカラムに通した。クロマトカラム中には、シリカゲルを充填してある。粒径250〜500μmのシリカゲル(ヒシゲル、洞海化学製)を用いた。分離には95重量%エタノールで展開した。流出液相のうち、濃黒褐色の初期画分を分離廃棄し、その後淡褐色になった流出液相を目的画分として回収した。
【0050】
次に、第6工程として、上記精製液7から、第4工程と同条件でエタノールを蒸留除去すると、有用リン脂質組成物8として油相7.8kgを得た。この有用リン脂質組成物8は、黒褐色の外観とオイル状の性状とを呈していた。
【0051】
次に、実施例1で得た有用リン脂質組成物8の分析を行った。分析はイヤトロスキャンによる定量分析を行った。その結果、実施例1のリン脂質組成物8は、36.7重量%のホスファチジルコリンと、7.2重量%のホスファチジルエタノールアミンと、その他のリン脂質などから構成されることがわかった。
【実施例2】
【0052】
実施例1と同条件で第2工程の遠心分離までを行ない、その後の固形物2を第3工程で含水アセトン(水分20重量%)による抽出を行なった。この有機溶剤抽出液5から第4工程で溶剤蒸留除去し、抽出液6を得た。
次に、抽出液6を第5工程としてクロマトカラムに仕込んだ。クロマトカラムには、アセトンを展開液として流通させ、黒褐色だった流出液が淡色になるまで流した後、次いでエタノールを流通させて、充填剤に吸着した物質を流出させた。このようにして得られた精製液7から実施例1と同条件の処理を行なって、有用リン脂質組成物8として6.3kgを得た。
【0053】
また、実施例1及び2で得た有用リン脂質組成物8の重金属の分析を行なったところ、Cdは検出限界以下(0.2ppm)であった。従って食品として許容される水準であった。
【実施例3】
【0054】
実施例3として、実施例2で得た有用リン脂質組成物8を含有するローヤルゼリー飲料を製造した。
最初に、水158gに上記実施例2の有用リン脂質組成物8を41.7g加え、撹拌して溶解させることにより、21重量%の有用リン脂質組成物8を含有する水分散液を調製した。
次に、水588gに、ブドウ糖果糖液糖140g、水溶性ローヤルゼリー20g、精製はちみつ50g、イソマルトオリゴ糖40g、プルーン果汁15g、梅果汁120g、羅漢果エキス1g、ビタミンエキス1g及びクエン酸1gを混合し溶解した。
続いて、pHを調整した後でろ過し、上記有用リン脂質組成物8を含有する水分散液24gを加えて撹拌を行ない、100cm3 ずつ瓶に充填し、加熱殺菌後冷却し、実施例3のローヤルゼリー飲料を製造した。この場合、飲料100g中には、有用リン脂質組成物8を500mg含有した飲料となる。つまり、有用リン脂質組成物8を約0.5重量%含有している。
【0055】
次に、実施例3に対する比較例の飲料について説明する。
(比較例1)
有用リン脂質組成物8を添加しないこと以外は実施例3と同じ組成とし、比較例1の有用リン脂質組成物8を添加しないローヤルゼリー飲料を製造した。
【0056】
(比較例2)
実施例3の有用リン脂質組成物8を含有する水分散液24gの代りに、DHAトリグリセリド0.5g及び水19gからなる水分散液を用いた以外は、実施例3と同じ組成とし、比較例2のDHAトリグリセリドを含有したローヤルゼリー飲料を製造した。
【0057】
図2は、実施例3、比較例1及び2で製造した各飲料をガラスコップに入れた時の外観の光学写真像を示す図であり、(A)は実施例3、(B)は比較例1、(C)は比較例2の各飲料を示している。
図2から明らかなように、実施例3で製造した有用リン脂質組成物8を添加したローヤルゼリー飲料は、実施例2で得た有用リン脂質組成物8が水溶性であるので、比較例1の飲料と比較するとわずかながら色が濃くなり、透明感が薄れることを除けば飲料に十分に溶解することが分かった。
さらに、検討したところ、有用リン脂質組成物8の色は、脱色工程をさらに加えることにより透明化でき、飲料の呈色に変化を与えないようにできることが判明した。さらに、実施例3の飲料を、4週間、0℃で保存後、その外観及び飲料を目視検査したが、色の変化や飲料水内の沈殿物の発生は認められなかった。
【0058】
一方、比較例3で製造したDHAトリグリセリドを添加したローヤルゼリー飲料の場合には、DHAトリグリセリドが水系飲料に全く溶けずに飲料液面に油として浮遊し、飲料としての商品価値がないことが判明した。
【0059】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。例えば、水産加工工程からの廃棄物としては、ほたてやいか由来の廃棄物に限らないことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の有用リン脂質組成物の製造方法を示す工程図である。
【図2】実施例3、比較例1及び2で製造した各飲料をガラスコップに入れた時の外観の光学写真像を示す図であり、(A)は実施例3、(B)は比較例1、(C)は比較例2の各飲料を示している。
【符号の説明】
【0061】
1:出発原料
2:固形物
3:液相
4:残渣固形物
5:有機溶剤抽出液
6:抽出液
7:精製液
8:有用リン脂質組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類の部位から水分及び油分を除去して取り出した固形物と、
該固形物に有機溶剤を添加して得た有機溶剤抽出液と、
該有機溶剤抽出液を精製して得られる有用リン脂質組成物であって、
上記有用リン脂質組成物が、35重量%以上のホスファチジルコリンと7重量%以上のホスファチジルエタノールアミンとを含むことを特徴とする、有用リン脂質組成物。
【請求項2】
魚介類の部位から水分及び油分を除去して取り出した固形物と、
該固形物に有機溶剤を添加して得た有機溶剤抽出液と、
該有機溶剤抽出液を精製して得られる有用リン脂質組成物を含有し、
上記有用リン脂質組成物が35重量%以上のホスファチジルコリンと7重量%以上のホスファチジルエタノールアミンとを含むことを特徴とする、有用リン脂質組成物を含有する食品又は食品配合剤。
【請求項3】
魚介類の部位から水分及び油分を除去して取り出した固形物と、
該固形物に有機溶剤を添加して得た有機溶剤抽出液と、
該有機溶剤抽出液を精製して得られる有用リン脂質組成物を含有し、
上記有用リン脂質組成物が水溶性であることを特徴とする、有用リン脂質組成物を含有する飲料。
【請求項4】
前記有用リン脂質組成物がオメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質からなり、該オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質を飲料に対して0.05〜10重量%分散させたことを特徴とする、請求項3に記載の有用リン脂質組成物を含有する飲料。
【請求項5】
前記有用リン脂質組成物を含有する飲料が、ミネラル水や炭酸水などの水系飲料、緑茶、紅茶、ウーロン茶などの茶系飲料、牛乳やヨーグルトなどの乳系飲料、果汁や野菜汁などのジュース系飲料、コーヒーやココアを含む飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンクなどの各種ドリンク、酢などを含む健康系飲料、日本酒、焼酎、ビール、ワインなどのアルコール系飲料の何れかであることを特徴とする、請求項3に記載の有用リン脂質組成物を含有する飲料。
【請求項6】
魚介類の部位から水分及び油分を除去して固形物を取り出す工程と、
該固形物に有機溶剤を添加して該固形物の有機溶剤抽出液を取り出す工程と、
該有機溶剤抽出液を精製する工程と、
を含む工程により有用リン脂質組成物を得ることを特徴とする、有用リン脂質組成物の製造方法。
【請求項7】
前記固形物を取り出す工程が、前記魚介類の部位に水を加え所定温度で所定時間蒸煮する蒸煮工程と、遠心分離及び/又はろ過による固液分離工程と、からなり、上記蒸煮工程及び固液分離工程が、連続的に行なわれることを特徴とする、請求項6に記載の有用リン脂質組成物の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶剤が、エタノール又は含水アセトンであることを特徴とする、請求項6に記載の有用リン脂質組成物の製造方法。
【請求項9】
前記有機溶剤抽出液を精製する工程が、カラムクロマト法による精製工程であり、エタノールを展開液とすることを特徴とする、請求項6に記載の有用リン脂質組成物の製造方法。
【請求項10】
前記カラムクロマト法において、最初に、クロマトカラムにアセトンを展開し、アセトンに溶解する不要成分を流去し、次に、クロマトカラム中に吸着した残留物をエタノールで展開することを特徴とする、請求項9に記載の有用リン脂質組成物の製造方法。
【請求項11】
前記魚介類の部位が、水産加工の過程から産出される副生品であることを特徴とする、請求項6に記載の有用リン脂質組成物の製造方法。
【請求項12】
前記副生品が、ほたてウロであることを特徴とする、請求項11に記載の有用リン脂質組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−311853(P2006−311853A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332469(P2005−332469)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(393017535)コスモ食品株式会社 (18)
【Fターム(参考)】