説明

有用物質の抽出方法とその装置

【課題】加熱及び加圧された液相状態の液相溶媒により、大量のバイオマス原料の処理を可能にする。
【解決手段】バイオマス原料と、バイオマス原料に含まれる有用物質を溶解可能な抽出溶媒を原料混合槽2で混合攪拌し、有用物質を抽出可能な温度で、かつ抽出溶媒の飽和蒸気圧以上の圧力下の液相で、有用物質をバイオマス原料から反応器3で抽出する。抽出された有用物質を含む抽出液と固形物を脱水手段4で分離し、この抽出液から固形分をろ過器6でろ過し、ろ過した抽出液を蒸留器7で蒸留し、抽出溶媒と有用物質を分離し、抽出溶媒を回収し、かつ有用物質を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス原料から有用成分を抽出するための有用物質の抽出方法とその装置に関する。更に詳しくは、水、アルコール等の溶媒を、飽和蒸気圧以上に加圧、加熱して液相状態にし、これに高麗人参等のバイオマス原料を接触させて、バイオマス原料に含有されている所望の有用成分を溶出させて抽出するための有用物質の抽出方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物には、生理活性機能を有する多種類の有用成分が多く含まれている。これらの天然化合物として、茶からカテキン、高麗人参(朝鮮人参)からサポニン等を加圧熱媒体(水、エチルアルコール等)で、抽出する方法を本出願人は提案した(特許文献1)。このサポニンの抽出には、100〜160℃の温度の加圧熱水、又はエチルアルコールで抽出するものである。
【特許文献1】特開2005−314421号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、提案した有用物質の抽出装置は、実験室、又は小規模の生産に用いるものであり、大量のバイオマス原料を処理するものとしては適当な装置ではなかった。本発明は、このような従来の問題点を解決するために開発されたもので、次の目的を達成する。
【0004】
本発明の目的は、加熱及び加圧された液相状態の液相溶媒により、大量のバイオマス原料の処理を可能にする、有用物質の抽出方法とその装置の提供にある。
【0005】
本発明の他の目的は、高麗人参から有用物質を抽出するための大量処理が可能な有用物質の抽出方法とその装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明の有用物質の抽出方法は、
バイオマス原料と、前記バイオマス原料に含まれる有用物質を溶解可能な抽出溶媒とを混合攪拌して混合物を作り(2)、
前記有用物質が抽出可能な温度に前記混合物を加熱し、かつ前記抽出溶媒の飽和蒸気圧以上の圧力下の液相で、前記有用物質を前記バイオマス原料から抽出し(3)、
抽出された前記有用物質を含む抽出液から固形物を分離し(4,5,6)、
前記固形物が分離された前記抽出液を前記抽出溶媒の蒸発温度以上に加熱して蒸留し、前記抽出溶媒を回収して前記有用物質と前記抽出溶媒とを分離し(7)、
回収された前記抽出溶媒を冷却して液化し、液化された前記抽出溶媒を前記混合物の製造に戻して再利用する(8,9)ことを特徴とする。
【0007】
前記抽出溶媒は、バイオマス原料の種類、目的とする有用物質の種類により異なるが、入手、取り扱いの容易性、食品の安全性の観点から水及び/又はエチルアルコールが好ましい。
【0008】
特に、本発明の有用物質の抽出方法は、前記バイオマス原料が高麗人参であり、前記有用物質がサポニンのときに好適である。
【0009】
前記混合物から前記有用物質を前記抽出中に、不活性ガスにより前記混合物を混合攪拌すると抽出がより効果的に行える。
【0010】
本発明の有用物質の抽出装置は、
バイオマス原料と、前記バイオマス原料に含まれる有用物質を溶解可能な抽出溶媒とからなる混合物を混合攪拌するための原料混合槽(2)と、
前記有用物質が抽出可能な温度で、前記混合物を加熱し、かつ前記抽出溶媒の飽和蒸気圧以上の圧力下の液相で、前記有用物質を抽出するための反応器(3)と、
前記反応器(3)により抽出された固形物を含む抽出液から、前記固形物を分離するための固液分離手段(4、5、6)と、
前記固形物が分離された前記抽出液を蒸留し、前記抽出溶媒と前記有用物質とに分離するための蒸留器(7)と、
前記抽出溶媒を再利用するために前記抽出溶媒を冷却して液化するためのコンデンサー(8)とからなる。
【0011】
また、前記有用物質の抽出装置の前記固液分離手段(4、5、6)は、前記固形物を含む前記抽出液から前記固形物を分離するための脱水手段(4)と、前記脱水手段(4)から出た前記抽出液を貯蔵するためのろ液槽(5)と、前記ろ液槽(5)に貯蔵された前記抽出液をフィルターによりろ過するためのろ過器(6)とからなることを特徴とする。
【0012】
更に、前記有用物質の抽出装置は、前記反応器(3)に加圧された不活性ガスを吹き込んで、前記混合物を混合攪拌するための不活性ガス吹き込み手段と、前記反応器(3)に吹き込まれた不活性ガスを含む加熱ガスを冷却して、液体として回収するための不活性ガス放出手段(120)とを備えていることを特徴とする。
【0013】
更に、前記有用物質の抽出装置は、前記脱水手段(4)から出た前記抽出液を貯蔵するろ液槽(5)と、前記コンデンサー(8)から出た前記抽出溶媒を貯蔵し、前記原料混合槽(2)に前記抽出溶媒を戻して再利用するための溶媒槽(9)とを備えていると、より効率的に有用物質を抽出できる。
【0014】
更に、前記反応器(3)は、前記反応器(3)を構成する反応器本体(21)を外部から熱媒体により加熱又は冷却するための第1熱媒体加熱装置(10)と、前記蒸留器(7)は、前記蒸留器(7)を構成する蒸留器本体(70)を外部から熱媒体により加熱又は冷却するための第2熱媒体加熱装置(11)とを備えているとより反応が効果的である。
【0015】
更に、前記抽出溶媒は、水及び/又はエチルアルコールであり、前記バイオマス原料は、高麗人参であると更に効果的に機能を発する。
【発明の効果】
【0016】
以上詳記したように、本発明の有用物質の抽出方法とその装置は、加熱及び加圧された液相状態の液相溶媒により、大量のバイオマス原料から所望の有用物質の抽出処理が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[全体システム]
次に、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の有用物質の抽出装置の実施の形態を示すフロー図である。有用物質の抽出装置1は、本例では高麗人参(朝鮮人参)の中の有用物質であるサポニンを主として、加圧熱媒体で抽出するための装置である。有用物質の抽出装置1は、概略すると、高麗人参等の原料と、エチルアルコール、水等の抽出溶媒とを、混合攪拌するための原料混合槽2、この混合された原料を所定温度と圧力下で有用物質を抽出するための反応器3、抽出液から有用物質と固形物を分離するための脱水手段4、この脱水手段4で絞られて出た抽出液を貯蔵するためのろ液槽5、抽出液から固形分をろ過するためのろ過器6、ろ過した抽出液を蒸留し抽出溶媒と有用物質とを分離するための蒸留器7、抽出溶媒を液化するためのコンデンサー8、液化した抽出溶媒を貯蔵するための溶媒槽9、及びこれらを連結する配管、ポンプ等から構成されている。
【0018】
更に、これらの機器に熱媒体油を供給するための第1熱媒体加熱装置10、及び第2熱媒体加熱装置11、冷却水を供給するための冷却水供給ユニット12、純水を供給するための純水供給ユニット13等の付属システムからなる。
【0019】
[原料混合槽2}
原料混合槽2は、バイオマス原料と、このバイオマス原料中の有用物質を溶解して抽出するための抽出溶媒とを混合、攪拌するためのものである。本例の原料混合槽2は、バイオマス原料である高麗人参、及び抽出溶媒である60℃に加熱された99%のエチルアルコールを用い、この高麗人参、及びエチルアルコールを所定量投入して、均一に混合攪拌するためのものである。原料混合槽本体14は、内部に空間を有する金属製の容器で作られたものである。原料混合槽本体14には、この内部の原料を混合攪拌するための攪拌翼15が配置されている。攪拌翼15を回転駆動するための駆動軸は、原料混合槽本体14の上部の本体に回転自在に支持されており、この駆動軸は原料混合槽本体14上に搭載された攪拌翼モータ16で回転駆動される。
【0020】
内部が洗浄された空の原料混合槽本体14の蓋(図示せず)を開けて、最初に所定の大きさに粉砕された所定量のバイオマス原料を投入し、原料混合槽本体14の蓋をして密閉をする。これにエチルアルコール、水等の抽出溶媒を投入する。バイオマス原料と抽出溶媒の投入が完了すると、攪拌翼モータ16を起動して攪拌翼15を回転させて、バイオマス原料と抽出溶媒が均一になるように混合攪拌する。エチルアルコール等の抽出溶媒は、一般に高価であるから、後述する方法で抽出に使用した抽出溶媒を回収して再利用する。回収した抽出溶媒は、溶媒槽9から配管92により送られてくる。この抽出溶媒は、使用した後に回収したものを、溶媒槽9により、加熱され濃度等を最適値に調整されたものである。濃度等を最適値に調整するとき、回収できなかった減耗した量のみを補充して成分等が調整される。
【0021】
この混合原料の攪拌時の温度は、原料混合槽本体14に配置された温度計TGで検知されている。また、原料混合槽本体14内の混合原料の量も外部から見れるように、液面計LGが原料混合槽本体14の外壁に設置されている。原料混合槽本体14の底部と次工程の反応器3の上部とは、配管19で接続されている。この配管19の途中には、ポンプ20が配置されている。ポンプ20は、原料混合槽本体14内の混合原料を、加圧して反応器3の反応器本体21の内部に、送り込むためのダイヤフラムポンプ等のようなスラリーポンプである。原料混合槽2は、次に説明するように、反応器3で有用物質を抽出のために、原材料を均一に混合攪拌するための前処理手段である。配管19には、除湿された加圧空気、又は蒸気を、ポンプ20,反応器3の反応器本体21内の反応空間30等に、供給するための開閉弁17も連結されている。除湿空気、又は蒸気は、反応空間30等の清掃等のときに使用される。
【0022】
[反応器3]
反応器3は、反応器本体21の内部を高圧力にすることが可能な耐圧性の容器で、一種のオートクレーブであり、内部に空洞の区画された空間である反応空間30を有する反応釜である。反応器3は、例えば、原料が高麗人参でサポニンを抽出する場合、抽出溶媒が99%エチルアルコールであれば、100〜160℃の温度範囲、圧力が2.0MPa以内で、抽出溶媒が液相の状態で原料から目的とする有用物質を抽出するものである。抽出溶媒がエチルアルコールの場合、エチルアルコールの飽和蒸気圧以上に加圧されている。この圧力は、本例の場合2MPaである。抽出溶媒は、有用物質を抽出するとき液相状態である必要がある。このために160℃のエチルアルコールの飽和蒸気圧は1.296Mpaであり、170℃のエチルアルコールの飽和蒸気圧は1.648Mpaであるので、これらの温度の飽和蒸気圧をわずかに上回る圧力として、2MPaに設定したものである。抽出時間は、目的とする有用物質の種類等によって異なるが、一般的には概ね1時間以内である。
【0023】
反応器本体21の外周壁には、加熱された熱媒体油により反応器本体21を加熱するために、熱媒体油を貯蔵するために区画された空間である熱媒体ジャケット22が配置されている。熱媒体ジャケット22には、後述する第1熱媒体加熱装置10から熱媒体油が供給される。反応器本体21には、反応空間30の圧力が異常圧になったとき、この圧力を逃がすための安全弁SVが配置されている。反応空間30と安全弁SVの接続には、安全弁SVを異物等から保護するために本例では焼結フィルター38が介在されている。反応器本体21の底部には、反応が完了した原料を排出するための開閉バルブ46が配置されている。開閉バルブ46は、移液ポンプ48、開閉弁等を介して、脱水手段4に配管45で接続されている。また、この配管45には、除湿された加圧空気、又は蒸気を、移液ポンプ48、脱水手段4等に供給するための開閉弁47も連結されている。除湿空気、又は蒸気は、脱水手段4等の清掃等のときに使用される。
【0024】
[脱水手段4]
脱水手段4は、スラリーから固形分を分離するものであれば、いかなる構造を有するものでも良い。本例の脱水手段4は、遠心脱水機50を用いた。遠心脱水機50は、ろ布を貼り付けたスクリーンであるバスケット部(図示せず)を有し、このバスケット部をモータ51により高速で回転させて、このときの遠心力でろ過するタイプである。反応器3から供給された原料のスラリーは、バスケット部へ供給されると、バスケット部はモータ51で高速回転される。この高速回転により、ろ布のフィルター機能により固形分と、ろ過液に分離される。ろ布に張り付いた固形分は、低速回転する螺旋羽根を備えたスクリューを備えた掻取機(図示せず)で、一定速度で連続的に排出される。本例では、ろ布の目は、約500μmより大きい固形物52を除去する。従って、この遠心脱水機50は、連続的に脱水処理が可能である。固形物52は、有用物質を抽出した残渣である。
【0025】
[ろ液槽5]
遠心脱水機50から排出されたろ過液は、ろ液槽5内に供給される。ろ液槽5は、遠心脱水機50によりろ過されたろ過液をストックするための中間槽である。このろ過液は、微細な固形分(本例では、約500μm以内)を含むスラリー状態である。このために、ろ液槽5のろ液槽本体55内には、回転駆動される攪拌翼56が配置され、この攪拌翼56はろ液槽本体55の外部から攪拌翼駆動モータ57により駆動される。攪拌翼56は、ろ液槽本体55の内部に貯蔵されたろ過液を均一に混合攪拌するためのものである。ろ液槽本体55の底部には、開閉弁を介して、ろ液ポンプ58が接続されている。ろ液ポンプ58は、ろ液槽5内のろ過液であるスラリーを、配管59によりろ過器6へ供給するための加圧ポンプである。
【0026】
[ろ過器6]
ろ過器6は、本例では交互に使用するために第1ろ過器60、第2ろ過器61の2系統から構成されている。第1ろ過器60、第2ろ過器61は、それぞれ2台の一次ラインフィルター62、及び二次ラインフィルター63からなる。一次ラインフィルター62は、本例では約50μmオーバーの固形分を除去するカートリッジタイプのフィルターである。二次ラインフィルター63は、本例では約5μmオーバーの固形分を除去するカートリッジタイプのフィルターである。一次ラインフィルター62、及び二次ラインフィルター63は、何れも目詰まり状態を判断し、フィルターの交換、若しくは洗浄時期を判断するための圧力計Pが配置されている。
【0027】
[蒸留器7]
蒸留器7は、本例では抽出液中のエチルアルコール分を蒸留分離するための装置であり、常温状態からエチルアルコールの沸点の+5〜7℃まで加熱して蒸留するものである。ただし、エネルギー効率の観点から言えば、エチルアルコールの沸点でなく、これ以下の蒸発温度であっても良い。蒸留器本体70の外周には、熱媒体油を貯蔵するための区画された空間である熱媒体ジャケット71が配置されている。この熱媒体ジャケット71には、第2熱媒体加熱装置11から加熱された熱媒体油が供給される。第2熱媒体加熱装置11の構成は、後述する第1熱媒体加熱装置10と実質的に同一の構成である。
【0028】
第2熱媒体加熱装置11により、蒸留器7内のろ過液を、本例ではエチルアルコールの沸点の+5〜7℃である83〜85℃に昇温させて、その中のエチルアルコール分を気化・分離させる。なお、この加熱手段は、スチームによる加熱等のように他の加熱装置であっても良い。第2熱媒体加熱装置11は、所望の設定温度を温度指示調節計72で指示(設定)すると、蒸留器本体70内部の温度を設定温度になるように制御する。この温度制御方法は、周知の技術であり、この詳細な説明は省略する。蒸留器本体70内には、回転する攪拌翼73が配置され、この攪拌翼73は蒸留器本体70の外部から攪拌翼駆動モータ76により回転駆動される。攪拌翼73は、内部のろ過液を均一な温度、濃度になるように攪拌する。
【0029】
蒸留器本体70を冷却するときは、第2熱媒体加熱装置11の加熱ヒータ115の作動を停止させて、熱交換器118で熱媒体油を冷却して行う。第2熱媒体加熱装置11の熱交換器118には、冷却水供給ユニット12から冷却水が送られている。従って、この冷却水は、熱媒体油を冷却することができるので、この冷却水で蒸留器本体70を外周から、熱媒体ジャケット71の熱媒体油を冷却して冷却することになる。従って、本実施の形態でいう第2熱媒体加熱装置11は、熱媒体油の加熱、又は冷却をするものをいう。この熱媒体油の温度は、温度指示調節計72で制御、及び監視される。蒸留器本体70は、熱媒体油による加熱されてその内部のエチルアルコールの蒸留が完了した後、第2熱媒体加熱装置11により40〜50℃まで冷却される。
【0030】
冷却後に、蒸留空間74内の抽出液を取り出す。本例では40〜50℃での冷却であるから、抽出液には若干のエチルアルコールは残留している。本例では、溶媒として使用したエチルアルコールの約80%を回収することができる。蒸留器7で蒸留された溶媒であるエチルアルコールは、開閉弁等を介して、配管77によりコンデンサー8に送られる。エチルアルコールと有用物質を含んだ抽出液78は、回収された液状の製品となる。
【0031】
[コンデンサー8]
コンデンサー8は、蒸留器7で気化した溶媒であるエチルアルコール分を冷却するためのものである。この冷却は、コンデンサー8内に配置された熱交換器81で冷却される。熱交換器81は、螺旋状の冷却パイプ等からなる。熱交換器81は、開閉弁等を介して、冷却水ポンプ32に連結されている。冷却水供給ユニット12から配管82を通して、熱交換器81に送られた冷却水は、蒸留器7で蒸留された溶媒であるエチルアルコールを冷却し、これを液化する。冷却水は、熱交換後、サイトガラスSG、開閉弁等を介して冷却塔33に戻る。この冷却水は、冷却水の供給温度は冷却水ポンプ32近くの温度計TGで監視できる。液化されたエチルアルコールは、配管83で溶媒槽9に送られる。
【0032】
[溶媒槽9]
溶媒槽9は、コンデンサー8により凝縮液化した抽出溶媒を受け入れ、貯蔵して所定のエチルアルコール濃度の水溶液を製造する。溶媒槽本体90の外周には、熱媒体油ジャケット91が配置されている。この熱媒体油ジャケット91により、溶媒槽9内のエチルアルコールを60〜70℃昇温させるものである。液化したエチルアルコールは、再利用するために原料混合槽2に配管92により供給する。熱媒体油ジャケット91に供給する熱媒体油は、第2熱媒体加熱装置11から供給する。また、必要があれば、熱媒体油ジャケット91内の熱媒体油を冷却水供給ユニット12の冷却水で冷却し、冷却された熱媒体油を熱媒体油ジャケット91に送り、溶媒槽9内の抽出溶媒を冷却することもできる。
【0033】
蒸留器7による蒸留完了後、溶媒槽本体90内の水及びエチルアルコール等の抽出溶媒を所定濃度に調整した後、所望の設定温度を温度指示調節計93で指示すると、温度指示調節計93は、溶媒槽本体90内部の抽出溶媒の温度が設定温度になるように制御する。この温度制御方法は、周知の技術であり、この詳細な説明は省略する。溶媒槽本体90内には、回転する攪拌翼94が配置され、この攪拌翼94は溶媒槽本体90の外部から攪拌翼駆動モータ95により回転駆動される。攪拌翼94は、内部の抽出溶媒を均一な温度、濃度になるように攪拌する。
【0034】
溶媒槽本体90の貯蔵空間98には、純水供給ユニット13より配管96により純水を必要に応じて供給できる。又、貯蔵空間98には、エチルアルコールが足りないときは、エチルアルコール供給口99から供給できる。貯蔵空間98に貯蔵されたエチルアルコールの濃度は、密度計DIにより監視できる。更に、貯蔵空間98内のエチルアルコールの量は、溶媒槽本体90の外周に配置した液面計LGで監視することができる。従って、溶媒槽9は、使用した後に回収した抽出溶媒を、加温して濃度、量等を最適値になるように調整したり、回収できずに減耗した量の補充等の調整を行うことができる。
【0035】
溶媒槽本体90の底部には、開閉弁を介して、溶媒ポンプ97が接続されている。溶媒ポンプ97は、溶媒槽本体90内の抽出溶媒を、配管92により原料混合槽2へ供給するためのポンプである。更に、溶媒槽本体90は、バルブ、止弁等を介して、純水ポンプ44に連結されているので、洗浄等の必要に応じて純水を貯蔵空間98に送ることもできる。以下、上記有用物質の抽出装置を構成する各要素の付属ユニットについて、それぞれ説明する。
【0036】
第1熱媒体加熱装置10、第2熱媒体加熱装置11
熱媒体ジャケット22には、第1熱媒体加熱装置10から加熱された熱媒体油が供給される。第1熱媒体加熱装置10は、加熱された熱媒体油を供給するための加熱、又は冷却ユニットである。第1熱媒体加熱装置10の熱媒体油の加熱は、電熱線からなる加熱ヒータ111で加熱する。加熱ヒータ111には、熱媒体タンク112から必要量の熱媒体油が供給される。熱媒体タンク112の熱媒体油の油量は、レベルスイッチLS、及び液面計LGで監視されている。加熱ヒータ111で加熱された熱媒体油は、熱媒体ポンプ113により加圧されて、配管114を通って反応器本体21の外周に配置された熱媒体油ジャケット22に供給される。熱媒体油ジャケット22に供給された熱媒体油は、反応器本体21を外部から加熱する。
【0037】
この加熱後、熱媒体油は、戻り用の配管116を通して加熱ヒータ111に戻る。反応器本体21内のスラリーの温度は、温度指示調節計24で計測、指示(設定)され、熱媒体油の送油温度、又は戻り油温をカスケード制御方式等で制御される。反応器本体21を冷却するときは、加熱ヒータ111の作動を停止させて、熱交換器117で熱媒体油を冷却する。熱交換器117に、冷却水供給ユニット12から冷却水が熱交換器117に送られている。従って、この冷却水は、熱媒体油を冷却することができるので、この冷却水で反応器本体21を冷却することになる。従って、本実施の形態でいう第1熱媒体加熱装置10は、熱媒体油の加熱、又は冷却をするものをいう。第2熱媒体加熱装置11の加熱ヒータ115、熱交換器118等の構造、機能は、実質的に第1熱媒体加熱装置10と同一であるからその説明は省略する。
冷却水供給ユニット12
冷却水供給ユニット12は、熱交換器117、熱交換器118、コンデンサー8の熱交換器81に、冷却水を送るためのユニットである。冷却水供給ユニット12は、冷却された水が貯蔵されている冷却塔33から冷却ポンプ32により冷却水を送るユニットである。
【0038】
窒素ガス供給手段35
窒素ガス供給手段35は、反応器3内の反応空間30内のバイオマス原料、抽出溶媒等を攪拌、又は酸素等をなくして不活性ガスで充填するためのものである。反応空間30内に配置された窒素ガス噴出口31は、窒素ガスにより反応空間30内のバイオマス原料等を攪拌、又は酸素等をなくして不活性ガスで充填するものである。窒素ガス噴出口31から噴出される加圧窒素は、反応空間30内の混合原料を均一に混合攪拌する。窒素ガス噴出口31に、加圧した窒素ガス(N)を供給するための窒素ガス供給手段35が設けられている。窒素ガス供給手段35は、窒素ガスを加圧するための加圧用ポンプ33、窒素ガスの一次タンク36、二次タンク37等からなる。窒素ガスは、圧力指示計(PI)で設定された設定圧に、圧力調整弁(PCV)で設定圧に調節されて、窒素ガス噴出口31に供給される。窒素ガス供給手段35は、攪拌翼等のような機械的な攪拌翼に比して、掃除、点検が容易であり、本実施の形態のような食品の抽出装置にとっては好適である。
【0039】
窒素ガス放出手段120
窒素ガス供給手段35により、反応器本体21内の反応空間30に加圧された窒素ガスが供給されると、反応器本体21内の内圧が高まる。このために設定圧以上になると、反応器本体21内の主に抽出溶媒からなる蒸気と窒素ガスにより、内圧が高くなるので設定圧以上になったとき、これを反応器本体21から放出させる必要がある。窒素ガス放出手段120は、この抽出溶媒からなる蒸気と窒素ガスを放出するためのものである。窒素ガス放出手段120は、反応器本体21にセラミックス製の焼結フィルター38を介して、放出管121が接続されている。
【0040】
放出管121には、焼結フィルターより更に目が細かいフィルター122、開閉弁、冷却器123に接続されている。冷却器123は、抽出溶媒からなる蒸気と窒素ガスを冷却するためのものである。冷却された抽出溶媒からなる蒸気は、液化されるので、この液化された抽出溶媒は開閉弁を通して第1気液分離器124に入る。第1気液分離器124に貯留された抽出溶媒は、開閉弁を介して、第2気液分離器125に入り貯留される。第2気液分離器125に貯留された抽出溶媒は、液化して回収容器126で回収される。放出管121は、放散管127に接続されている。放散管127は温度、圧力等を圧力計P等で監視しながら必要があれば大気に主に窒素ガスを放出する。
【0041】
この窒素ガス放出手段120の一般的な操作は次のように行う。(1)反応器本体21内の反応空間30にバイオマス原料、抽出溶媒からなるスラリーで満杯にする。(2)窒素ガス供給手段35により、加圧された窒素ガスを反応空間30に所望の圧力になるまで供給する。(3)このときの圧力の確認は、窒素ガス供給手段35の圧力指示計PIで行う。前述した第1熱媒体加熱装置10により所定の加熱を行い、有用物質の抽出を行う。(4)適当なタイミングで抽出完了までの間に数回、若しくは常時一定量の窒素を吹き込む。
【0042】
この説明から理解されるように、窒素ガス放出手段120を設けた目的は、反応器本体21内の反応空間30で昇温中、スラリーが膨張し圧力上昇する際に熱水が放出される。更に、間欠、若しくは連続的に窒素による、反応空間30内の攪拌を行う際に圧力の上昇を伴い熱水が放出されることになる。この熱水は、高温高圧の気液混合体であり、そのまま大気中に放出することはできない。特に、エチルアルコールを含んだものであり、これを回収する必要がある。このためにこの熱水を前述した冷却器123で冷却し、有用物質を含んだエチルアルコール等の抽出溶媒と窒素ガスに分離するものである。
【0043】
液状の抽出溶媒は、高圧のために最初に第1気液分離器124に移した後、この元栓である開閉バルブを閉めて、第2気液分離器125に移す。更に、第2気液分離器125の元栓にある開閉バルブを閉める。そして、第2気液分離器125の開放側であるエアー抜き弁を徐々に開いて、第2気液分離器125を大気圧として、その内部の有用物質を含んだエチルアルコール等を含んだ抽出溶媒を回収容器126で回収する。常時、有用物質の抽出中に、窒素ガスを吹き込みを行う場合は、本例では2回程度の操作を繰り返し行う。間欠の吹き込みの場合は、1回の操作のみでこの処理が終了できるように、第1気液分離器124及び第2気液分離器125の容量の大きさを設定する。
【0044】
純水供給ユニット13
反応器本体21には、純水供給ユニット13に配管39を通して接続されている。純水供給ユニット13は、反応空間30に洗浄に必要な純水、又は抽出反応に必要な純水を供給するためのものである。純水供給ユニット13は、純水ポンプ41、純水タンク42、純水製造器43等から構成されている。純水タンク42には、開閉弁等を介して、純水ポンプ41が連結されている。純水ポンプ41は、この純水タンク42内の水を加圧して、配管39を通して反応空間30に送られる。純水タンク42に供給する純水は、水道水等を純水にするイオン交換樹脂、高分子膜等からなる純水製造器43から供給する。なお、この純水は、原料混合槽本体14にはポンプ41により、溶媒槽本体90にはポンプ44により純水を必要に応じて供給できる。
【0045】
[製造方法の概略]
高麗人参から主としてサポニンを抽出する場合の製造方法の概略を説明する。所定量の粉砕された高麗人参と約60℃に加熱されたエチルアルコールを、原料混合槽本体14に投入する。この原料混合槽本体14において、攪拌翼15で混合攪拌して高麗人参とエチルアルコールの混合物を作る。この混合物をポンプ20で反応器本体21に送る。抽出溶媒が99%エチルアルコールであれば、100〜160℃の温度範囲、圧力が2.0MPa以内で、加圧と加熱を行う。加熱温度は、第1熱媒体油加熱装置10で制御を行う。
【0046】
サポニンを含む抽出液を含むスラリーを、ポンプ48により脱水手段4に送る。脱水手段4で固形物を分離する。固形物が分離された抽出液は、ろ液槽本体55に貯蔵される。ろ液槽本体55に貯蔵され抽出液は、ポンプ58により約50μmの一次フィルター62、及び約5μmの二次フィルター63に送られて、細かい固形分が除去される。細かい固形分が除去された抽出液は、蒸留器本体70に送られる。
【0047】
蒸留器本体70は外側から抽出液を、エチルアルコールの沸点の+5℃〜7℃まで第2熱媒体油加熱装置11で加熱して、抽出液内の約80%質量分のエチルアルコールを蒸留させる。エチルアルコールを蒸留させた残留抽出液78がサポニンを含む有用物質を含んだものとなる。蒸発させた抽出溶媒は、コンデンサー8で冷却されて液化する。液化されたエチルアルコールは、溶媒槽本体90で貯蔵されて原料混合槽本体14に戻されて再利用される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本発明の有用物質の抽出装置の実施の形態を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0049】
1…有用物質の抽出装置
2…原料混合槽
3…反応器
4…脱水手段
5…ろ液槽
6…ろ過器
7…蒸留器
8…コンデンサー
9…溶媒槽
10…第1熱媒体加熱装置
11…第2熱媒体加熱装置
12…冷却水供給ユニット
13…純水供給ユニット
14…原料混合槽本体
21…反応器本体
22…熱媒体ジャケット
35…窒素ガス供給手段
50…遠心脱水機
55…ろ液槽本体
70…蒸留器本体
71…熱媒体ジャケット
90…溶媒槽本体
91…熱媒体油ジャケット
120…窒素ガス放出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス原料と、前記バイオマス原料に含まれる有用物質を溶解可能な抽出溶媒とを混合攪拌して混合物を作り(2)、
前記有用物質が抽出可能な温度に前記混合物を加熱し、かつ前記抽出溶媒の飽和蒸気圧以上の圧力下の液相で、前記有用物質を前記バイオマス原料から抽出し(3)、
抽出された前記有用物質を含む抽出液から固形物を分離し(4,5,6)、
前記固形物が分離された前記抽出液を前記抽出溶媒の蒸発温度以上に加熱して蒸留し、前記抽出溶媒を回収して前記有用物質と前記抽出溶媒とを分離し(7)、
回収された前記抽出溶媒を冷却して液化し、液化された前記抽出溶媒を前記混合物の製造に戻して再利用する(8,9)
ことを特徴とする有用物質の抽出方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記抽出溶媒は、水及び/又はエチルアルコールである
ことを特徴とする有用物質の抽出方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記バイオマス原料は、高麗人参であり、前記有用物質はサポニンである
ことを特徴とする有用物質の抽出方法。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記混合物から前記有用物質を前記抽出中に、不活性ガスにより前記混合物を混合攪拌する
ことを特徴とする有用物質の抽出方法。
【請求項5】
バイオマス原料と、前記バイオマス原料に含まれる有用物質を溶解可能な抽出溶媒とからなる混合物を混合攪拌するための原料混合槽(2)と、
前記有用物質が抽出可能な温度で、前記混合物を加熱し、かつ前記抽出溶媒の飽和蒸気圧以上の圧力下の液相で、前記有用物質を抽出するための反応器(3)と、
前記反応器(3)により抽出された固形物を含む抽出液から、前記固形物を分離するための固液分離手段(4、5、6)と、
前記固形物が分離された前記抽出液を蒸留し、前記抽出溶媒と前記有用物質とに分離するための蒸留器(7)と、
前記抽出溶媒を再利用するために前記抽出溶媒を冷却して液化するためのコンデンサー(8)と
からなる有用物質の抽出装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記固液分離手段(4、5、6)は、
前記固形物を含む前記抽出液から前記固形物を分離するための脱水手段(4)と、
前記脱水手段(4)から出た前記抽出液を貯蔵するためのろ液槽(5)と、
前記ろ液槽(5)に貯蔵された前記抽出液をフィルターによりろ過するためのろ過器(6)と
からなることを特徴とする有用物質の抽出装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、
前記有用物質の抽出装置は、
前記反応器(3)に加圧された不活性ガスを吹き込んで、前記混合物を混合攪拌するための不活性ガス吹き込み手段と、
前記反応器(3)に吹き込まれた不活性ガスを含む加熱ガスを冷却して、液体として回収するための不活性ガス放出手段(120)と
を備えていることを特徴とする有用物質の抽出装置。
【請求項8】
請求項5又は6において、
前記有用物質の抽出装置は、
前記脱水手段(4)から出た前記抽出液を貯蔵するろ液槽(5)と、
前記コンデンサー(8)から出た前記抽出溶媒を貯蔵し、前記原料混合槽(2)に前記抽出溶媒を戻して再利用するための溶媒槽(9)と
を備えていることを特徴とする有用物質の抽出装置。
【請求項9】
請求項5又は6において、
前記反応器(3)は、前記反応器(3)を構成する反応器本体(21)を外部から熱媒体により加熱又は冷却するための第1熱媒体加熱装置(10)と、
前記蒸留器(7)は、前記蒸留器(7)を構成する蒸留器本体(70)を外部から熱媒体により加熱又は冷却するための第2熱媒体加熱装置(11)と
を備えていることを特徴とする有用物質の抽出装置。
【請求項10】
請求項5又は6において、
前記抽出溶媒は、水及び/又はエチルアルコールであり、前記バイオマス原料は、高麗人参である
ことを特徴とする有用物質の抽出装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−40744(P2009−40744A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209086(P2007−209086)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000168193)株式会社ミゾタ (12)
【出願人】(593090396)西日本エンジニアリング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】