説明

木粉高充填樹脂成形体及び合成木材

【課題】結晶性の熱可塑性合成樹脂における微視的なクリープ現象の発生を抑制することで、水分の多い場所で用いた場合でもクラックの発生が起こりにくい木粉高充填樹脂成形体及び合成木材を提供する。
【解決手段】木粉高充填樹脂成形体1の形成にMFRが0.1〜0.9となされた熱可塑性合成樹脂を用いることで、結晶性の合成樹脂の、結晶ラメラ間のタイ原子の数が多くなってクリープ寿命が長くなされていることで、木粉が40〜80wt%を高充填されていても、木粉が水分を吸収して膨潤した場合でも微視的なクリープ現象の発生を抑制でき、水分の多い場所で用いた場合でも吸水における寸法変化やクラックの発生を起こりにくくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラス、バルコニー、レストラン等建物の床材、駅前広場、公園の遊歩道、池、泉水等に懸かる木橋、自然公園内の湿地等に渡された木道、台所、浴室の簀の子や椅子、容器等の水分に曝される場所において好適に使用され、合成樹脂に木粉が高充填されて形成された木粉高充填樹脂成形体及び合成木材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂に木粉を高充填して形成した木粉高充填樹脂成形体としては、木粉30重量%以上、流動性指数MFRが100〜500g/10minの高流動性樹脂3〜10重量%、MFRが1〜50g/10minの熱可塑性樹脂(汎用熱可塑性樹脂)12〜65重量%および滑剤2〜10重量%を必須成分として含有する木粉高充填押出成形用樹脂組成物と、その樹脂組成物を押出成形して得られる平板、異型または中空形状の木粉高充填押出成形体が開示されている(例えば特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−301670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、合成木材を水分に多く接触する場所で使用すると、配合された木粉が水分を吸収して膨潤し、体積が膨張することから合成木材内で微少な内部応力が発生される。かかる内部応力が長期に亘って働き続けると、合成樹脂が結晶性のものである場合、結晶ラメラ間のずれを発生させ微視的なクリープ現象が起こり、そのクリープ現象により更に木粉への水分の吸収が促進される。この様な現象が持続的に生じることで結晶ラメラ間のずれが大きくなってゆき、寸法変化が大きくなり、視認されるまでの大きさとなるとクラックが発生したり、強度の低下及び美観の悪化を招いたりする恐れがある。
【0005】
特許文献1に記載のような従来の木粉高充填樹脂成形体では、木粉を高充填させるためにMFRが100〜500g/10minという極めて流動性の高い熱可塑性樹脂を用いており、合成樹脂を構成する結晶ラメラ間を繋ぐタイ原子の数が少なくクリープ寿命が短いことから、水分の多い場所で用いると、配合された木粉が水分を含んで膨潤した場合にクリープ現象が起こりやすく、クラックが発生する恐れが大きいものであった。
【0006】
本発明は上記の如き課題に鑑みてなされたものであり、結晶性の熱可塑性合成樹脂における微視的なクリープ現象の発生を抑制することで、水分の多い場所で用いた場合でもクラックの発生が起こりにくい木粉高充填樹脂成形体及び合成木材を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。すなわち、本発明に係わる木粉高充填樹脂成形体は、熱可塑性合成樹脂に木粉を配合し押出成形により成形された樹脂成形体であって、前記木粉が40〜80wt%含有され、前記熱可塑性合成樹脂に結晶性の合成樹脂で、JIS−K7210(熱可塑性プラスチックの流れ試験方法)に規定される試験条件4におけるメルトフローレート(以下、MFRとする)が0.1〜0.9のものを用いて形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明に係わる木粉高充填樹脂成形体によれば、MFRが0.1〜0.9となされた熱可塑性合成樹脂を用いることで、結晶性の合成樹脂の、結晶ラメラ間のタイ原子の数が多くなってクリープ寿命が長くなされていることで、木粉が40〜80wt%を高充填されていても、木粉が水分を吸収して膨潤した場合でも微視的なクリープ現象の発生を抑制でき、水分の多い場所で用いた場合でも吸水における寸法変化やクラックの発生を起こりにくくすることができる。
【0009】
ここで結晶性の合成樹脂は、結晶化した部分の密度が高く、なおかつ硬いため、耐薬品性に優れた剛直なイメージの合成樹脂を示すもので、具体的には高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド(ナイロン)、ポリアセタール,ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン
、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリルなどが挙げられる。これらを適宜用途に応じて一種類、若しくは複数種類混合して適用することができる。
【0010】
また、JIS−K7210に規定される試験条件4とは、JIS中の試験機を用いて190℃で2.16kgの試験荷重をかけて10分間当たりの樹脂流出量を測定するものであり、上記結晶性の合成樹脂であるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミドなどの試験条件として好適に用いられるものである。
【0011】
MFRを0.1〜0.9とするにおいては、その範囲内のMFR値である熱可塑性合成樹脂を1種類用いてもよく、またその範囲内のMFR値、若しくはその範囲外のMFR値である熱可塑性合成樹脂を複数種類配合して見かけのMFR値を0.1〜0.9としたものを用いてもよい。
【0012】
また本発明に係わる合成木材は、請求項1に記載の木粉高充填樹脂成形体の外側に、木粉を10〜40wt%含有し、且つ前記木質高充填成形体より木粉の含有割合が小さい木粉低充填合成樹脂層が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明に係わる合成木材によれば、請求項1に記載の木粉高充填樹脂成形体によりクラックの発生の恐れを小さくして天然木材に近い剛性が確保され、且つ木粉低充填合成樹脂層により耐候性と美観とを確保でき、高品質で美観と剛性とを備えるものとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係わる木粉高充填樹脂成形体によれば、MFRが0.1〜0.9となされた熱可塑性合成樹脂を用いることで、結晶性の合成樹脂の、結晶ラメラ間のタイ原子の数が多くなってクリープ寿命が長くなされていることで、木粉が40〜80wt%を高充填されていても、木粉が水分を吸収して膨潤した場合でも微視的なクリープ現象の発生を抑制でき、水分の多い場所で用いた場合でも吸水における寸法変化やクラックの発生を起こりにくくすることができる。
【0015】
また本発明に係わる合成木材によれば、請求項1〜3のいずれかに記載の木粉高充填樹脂成形体によりクラックの発生の恐れを小さくして天然木材に近い剛性が確保され、且つ木粉低充填合成樹脂層により耐候性と美観とを確保でき、高品質で美観と剛性とを備えるものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係わる最良の実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係わる木粉高充填樹脂成形体の、実施の一形態を示す斜視図である。木粉高充填樹脂成形体1は、断面矩形を形成する板枠部11内にリブ部12により二体の中空部13が設けられたものであり、板枠部11及びリブ部12は木粉が50wt%配合された熱可塑性合成樹脂を用いて、押出成形により成形されたものである。
【0018】
ここで、板枠部11の断面矩形における四隅を形成している角部14については、樹脂成形品として成形後の内部応力の発生が不可避なものであり、常時角部14を形成する板枠部11を押し広げる方向Y1に応力が生じている。板枠部11を形成する合成樹脂中の木粉に水分が吸収されると、上述の如く微視的なクリープ現象が発生してクラックが発生しやすくなるが、この様な応力が生じている角部14の内側においてとりわけクラックの発生が起こりやすくなる。
【0019】
図2は、本発明に係わる合成木材の、実施の一形態を示す斜視図である。図1と同様に断面矩形の板枠部11内にリブ部12が設けられることで二体の中空部13が設けられることで木粉高充填樹脂成形体1が形成されているが、木質高充填樹脂成形体1の外側には、押出成形時に木粉高充填樹脂成形体1と一体に押出成形され、合成樹脂に木粉が20wt%充填されている木粉低充填合成樹脂層2が形成されることで合成木材10となされている。
【0020】
かかる合成木材10においては、木粉低充填合成樹脂層2側からの水分の吸収は防がれるものの、中空部13が設けられていることで中空部13から木粉高充填樹脂成形体1の角部14付近に含まれる木粉には水分が吸収されるようになり、かかる角部14付近においてクラックが発生しやすくなる。
【0021】
木粉高充填樹脂成形体1において、含まれる木粉の量が少ないと、木粉が水分を含んで膨潤する度合いが小さくクラックが発生する恐れは殆どないが、合成樹脂に木粉が40wt%以上含まれるとクラックの発生が懸念される状態となる。図1の木粉高充填樹脂成形体1、及び図2の合成木材10において、木粉高充填樹脂成形体1を形成する合成樹脂に、MFRが0.1〜0.9となされた熱可塑性合成樹脂を用いることで、熱可塑性合成樹脂の結晶ラメラ間のタイ原子の数が多くなってクリープ寿命が長くなされていることで、木粉が40〜80wt%を高充填されていても、木粉が水分を吸収して膨潤した場合でも微視的なクリープ現象の発生を抑制でき、水分の多い場所で用いた場合でもクラックの発生を起こりにくくすることができる。木粉が80wt%を上回ると、成形時の流動性が極めて悪化し、押出成形すること自体が極めて困難な状態となる。
【0022】
木粉高充填樹脂成形体1の形成に用いられる熱可塑性合成樹脂としては、熱可塑性で結晶性のMFRが0.1〜0.9のものであれば特に限定されるものではないが、押出成形に好適に用いられる高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド(ナイロン)、ポリアセタール,ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン
、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリル等を用いることができる。
【0023】
また木粉については、木粉高充填樹脂成形体1中に40〜80wt%配合でき、押出成形により著しい焦げや変成等が発生しないものであれば特に限定されるものではないが、スギ、ヒノキ、ベイツガ等がよく使用され、その粒径は20〜100メッシュ程度のものが好適である。木粉は40〜80wt%配合されるが、最も好適な配合割合は50〜60wt%である。
【0024】
また木粉低充填合成樹脂層2の形成に用いられる合成樹脂は、押出成形が可能である木粉高充填樹脂成形体1の形成に用いられる合成樹脂が好適であるが、木粉高充填樹脂成形体1の形成に用いられている合成樹脂と相溶性を有するものが、成形時に一体化することができ好ましい。また配合する木粉は10wt%を下回ると合成木材としての木質感を得ることができなくなり、40wt%を上回ると耐久性の低下を招くこととなる。
【0025】
図3は、本発明に係わる合成木材の、他の実施形態を示す斜視図である。合成木材10は、断面中実でプレート状の台形形状である木粉高充填樹脂成形体1の周囲に、木粉低充填合成樹脂層2が設けられて形成されている。木粉高充填樹脂成形体1の周囲は木粉低充填合成樹脂層2により覆われて水分の吸収はほとんど起こらないが、端面から水分が吸収されると、厚み方向の一方の端部からクラックCが発生しやすくなる。押出成形においては、とりわけ中央付近に木粉の充填量が多くなる傾向があることから、厚み方向の中央付近においてクラックが発生する恐れが大きくなる。かかる木粉高充填樹脂成形体1を形成する合成樹脂に、MFRが0.1〜0.9となされた熱可塑性合成樹脂を用いることでクラック発生の懸念を小さくすることができる。
【0026】
次に、本発明による効果を、以下の実施例において示す。
【0027】
(実施例1)
MFRが0.8の結晶性の合成樹脂である高密度ポリエチレン樹脂100重量部に、ベイツガの木粉(80メッシュ)を100重量部配合したものを原料とし、二層押出成形により、図3に示した形状の合成木材を形成したが、その木粉高充填樹脂成形品として前記造粒原料を用いて形成することで、本発明の実施例1に係わる合成木材を得た。尚、木粉高充填樹脂成形体の厚みは7mm、幅は200mm、木粉低充填合成樹脂層は高密度ポリエチレン100重量部に木粉25重量部配合して形成したものであり、その厚みは1.5mmである。
【0028】
(実施例2)
木粉高充填樹脂成形品として、MFRが0.3の高密度ポリエチレン樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして、本発明の実施例2に係わる合成木材を得た。
【0029】
(実施例3)
木粉高充填樹脂成形品として、高密度ポリエチレン樹脂100重量部に対して木粉を122重量部配合した以外は実施例1と同様にして、本発明の実施例3に係わる合成木材を得た。
【0030】
(比較例1)
木粉高充填樹脂成形品として、MFRが1.2の高密度ポリエチレン樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の合成木材を得た。
【0031】
(比較例2)
木粉高充填樹脂成形品として、高密度ポリエチレン樹脂100重量部に対して、木粉を82重量部配合した以外は比較例1と同様にして、比較例2の合成木材を得た。
【0032】
(比較例3)
木粉高充填樹脂成形品として、MFRが2.0の高密度ポリエチレン樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例3の合成木材を得た。
【0033】
(比較例4)
木粉高充填樹脂成形品として、MFRが5.0の高密度ポリエチレン樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例4の合成木材を得た。
【0034】
(比較例5)
木粉高充填樹脂成形品として、高密度ポリエチレン樹脂100重量部に対して、木粉を54重量部配合した以外は比較例4と同様にして、比較例5の合成木材を得た。
【0035】
(評価方法)
実施例及び比較例の合成木材を、60℃の温水に30日間浸漬し、1日おきにクラックの発生の有無を目視にて確認した。また浸漬から1、3、5、10、15、20、30日目に、吸水率(浸漬前からの重量増の割合)を測定した。その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示す通り、熱可塑性合成樹脂のMFRが0.9以下である実施例1〜3については、木粉が50wt%及び55wt%含まれている場合でも、30日間の温水浸漬においてクラックの発生が見られていない。熱可塑性合成樹脂のMFRが0.9を上回り、且つ木粉を50wt%含有する比較例1、3及び4については、比較的早期にクラックの発生が確認され、木粉の含有量が45wt%である比較例2についても比較的遅い時期ではあるがクラックが発生している。尚、クラックはいずれも図3に示すクラックCの位置にて発生している。また同じ木粉の含有量であれば、MFRが小さいほどクラックの発生時期が遅くなることも確認されている。尚、木粉の含有量が35wt%である比較例5についてはクラックの発生は見られなかった。木粉の含有量が50wt%である実施例1〜3、比較例1、3及び4については、温水浸漬30日後の含水率はいずれも高い値となっており、実施例1〜3については、木粉への水分の吸収は見られるものの、クラックの発生は起こらないことが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係わる木粉高充填樹脂成形体の、実施の一形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係わる合成木材の、実施の一形態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係わる合成木材の、他の実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
1 木粉高充填樹脂成形体
13 中空部
2 木粉低充填合成樹脂層
10 合成木材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性合成樹脂に木粉を配合し押出成形により成形された樹脂成形体であって、前記木粉が40〜80wt%含有され、前記熱可塑性合成樹脂に結晶性の合成樹脂で、JIS−K7210(熱可塑性プラスチックの流れ試験方法)に規定される試験条件4におけるメルトフローレート(以下、MFRとする)が0.1〜0.9のものを用いて形成されていることを特徴とする木粉高充填樹脂成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の木粉高充填樹脂成形体の外側に、木粉を10〜40wt%含有し、且つ前記木質高充填成形体より木粉の含有割合が小さい木粉低充填合成樹脂層が設けられていることを特徴とする合成木材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−152832(P2007−152832A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353434(P2005−353434)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】