説明

木造多層建築物用層間密着金物

【課題】木造多層建築物に設置する層間密着金物を提供する。
【解決手段】木造多層建築物用層間密着金物は、木造建築物の多層階にわたって垂直に延在させるタイロッドが貫通する孔12を有する座金10、座金10に載置され、タイロッドに螺合するナット31、タイロッドを囲むように立設され、かつナット31を一体化した側壁32を有する回転体30、座金10の上面に回転体30を囲むように載置された側壁41を有するケーシング40、一端部が回転体の側壁32の上方部分に固定され、そして他端部がケーシングの側壁41に固定され、ナット31を下向きに回転させる力を付与する板バネ35、及び回転体30の外側方から脱着可能に当接して板バネ35の動きを固定するための板バネ固定手段50を備え、側壁32の下方部分とナット31とを、脱着可能な結合手段38により一体化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造多層建築物用層間密着金物に関し、より詳細にはツーバイフォー工法による多層建築物への使用に好適な木造多層建築物用層間密着金物に関する。
【背景技術】
【0002】
木造枠組壁工法は、建築構造の木構造の工法の一種であり、一般にツーバイフォー工法として知られている。この工法は、規格化された木材をフレーム状に組み、構造用合板を打ち付けた壁や床で支えることにより、耐力壁と剛床とを一体化するものである。ツーバイフォー工法による建築物は、耐震性、耐火性、断熱性、気密性、防音性等に優れ、鉄筋コンクリート構造(RC造)や鉄骨構造(S造)と比べて安価かつ短期間で竣工可能な点でも有利である。この工法は、主に欧米で標準的な工法であるが、日本でも1974年頃から建築されるようになった。
【0003】
都市計画で防火地域に指定される地域では、耐火建築物以外の建築が制限されている。耐火建築物とは、主要構造部が耐火構造であるか、火災が終了するまで耐えられることが耐火性能検証法等により確認されたものであって、外壁の開口部で延焼のおそれのある部分には防火戸等を有する建築物をいう。ツーバイフォー工法の建築物には、従来、耐火構造が認められておらず、100m以下の小規模な木造建築物でしか建てられなかったが、2004年にツーバイフォー工法における主要構造部が耐火構造として認定された。その結果、4階建までのツーバイフォー耐火建築物は、建物の種類や面積に関係なく、鉄筋コンクリート等の耐火建築物と同等の設計が可能となった。今後、個人住宅、共同住宅、店舗、ショッピングモール、ホテル、病院、介護施設等において、ツーバイフォー工法による4階建の中層建築物の市場が多いに期待される。
【0004】
木造建築物では、建物の浮き上がりを防ぐために、上下階の柱相互の緊結や土台・基礎と柱の緊結を担うホールダウン金物が各階の建物出隅等に設置される。しかし、多階層からなるツーバイフォー建築物では、地震等による浮き上がり力が増し、通常のホールダウン金物ではその対応が困難となる。
【0005】
そこで、上記ホールダウン金物に代えて、木造建築物の各階層の天端レベルから下部の床レベルの間を長尺のタイロッドで緊締する方式が考えられる。長尺のタイロッドは、図6に示すように各階層でタイロッドを支持する座金10とナット31を設置することが望ましい。その際、建築後に各階層の木材の収縮によって座金10とナット31との間に生じる隙間を無くする配慮が必要である。
【0006】
ボルトやナットを一定の締め付けトルクで締め付けるネジ締付装置が、開発されている。例えば、特許文献1には、巻き弾性を有するゼンマイバネと、ゼンマイバネを巻き弾性を有する状態で係止した係止手段とを備え、ゼンマイバネにおける径内側の先端側が、ボルトやナット等の被締付部材に係合され、ゼンマイバネにおける径外側の後端側が被締付部材を装着した被装着材に固定され、係止手段が、係止解除可能なものからなることを特徴とするネジ締め付け具が開示される。特許文献2には、締付対象物に締付けられる被締付材を締付方向へ付勢する付勢部材の一端部に被締付材に係合する係合部が一体的に形成され、付勢部材に被締付材に対する付勢力の拘束,動作を切換える切換部材を連係させた締付装置において、切換部材は付勢部材の係合部と他端部側とを挟持して付勢力を拘束し付勢部材の係合部と他端部側とから離脱されて付勢力を動作させるものであることを特徴とする締付装置が開示される。
【0007】
しかし、上記従来のネジ締付装置は、上下方向に延在する長尺のタイロッドが存在する場でのナットの締め付け、装置の設置し易さ、加工し易さ、機能性などの面で向いていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−250325
【特許文献2】WO99/40331
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、長尺タイロッドが存在する多層木造建築物用に適した層間密着金物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を鋭意検討した結果、以下の発明により解決できることを見いだした。すなわち、本発明は、木造建築物の多層階にわたって垂直に延在させるタイロッドが貫通する孔12を有する座金10、前記座金10に載置され、前記タイロッドに螺合するナット31、前記タイロッドを囲むように立設され、かつ前記ナット31を一体化した側壁32を有する回転体30、前記座金10の上面に前記回転体30を囲むように載置された側壁41を有するケーシング40、一端部が前記回転体の側壁32の上方部分に固定され、そして他端部が前記ケーシングの側壁41に固定され、前記ナット31を下向きに回転させる力を付与する板バネ35、及び前記回転体30の外側方から脱着可能に当接して前記板バネ35の動きを固定するための板バネ固定手段50を備える木造多層建築物用層間密着金物であって、前記側壁32の下方部分と前記ナット31とを、脱着可能な結合手段38により一体化したことを特徴とする、前記層間密着金物(以下、「層間密着金物」という)を提供する。
【0011】
木造多層建築物用層間密着金物は、前記ケーシング40の水平方向の外形の大きさは一辺が80〜85mm又は130〜135mmであることが好ましい。
【0012】
前記側壁32と前記ナット31とをビス等の脱着可能な結合手段により一体化させることが好ましい。
【0013】
前記板バネ35は、渦巻きバネからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の木造多層建築物用層間密着金物は、木造多層建築物の各階へ設置するときに、各階層の床材間とナット31の隙間補正に有効である。図4に示すように、基礎から天井までカプラ21で繋がれたタイロッド20の各階層の床梁材71上に設置された座金10を押さえるためのナット31がタイロッド20にねじ込まれている。木材の乾燥収縮や建物の自重により生じるナット31と座金10との隙間が生じようとした時に、本発明の層間密着金物1に内蔵される板バネ35の復元力によりナット31が下方に回転して、その隙間を無くする。こうして、柱材、座金、ナット及びタイロッドの一体性が維持され、タイロッドの機能が担保される。
【0015】
上記層間密着金物は、構造が簡単で、部品数が少ないため、安価に作ることが可能である。さらに、側壁とナットとをビスのような脱着可能な結合手段により一体化させたので、ナットの大きさの許容範囲が広がり、その結果、一種類の層間密着金物で、低層から高層までのあらゆる多層木造建築物に使用されるタイロッドのあらゆる材質や太さに対応できる。例えば、低層建築物ではタイロッドの径が細くてよいのでナットの径を小さくでき、一方、高層建築物で太いタイロッドを使用する場合は大きなナットに代えることができる。
【0016】
しかも、ナットと側壁とを脱着可能に一体化したことは、層間密着金物の設置の面でも有利である。すなわち、層間密着金物を設置する際に、タイロッドにナットを据え付けてから回転体を載せ、その側壁をナットにビス等で固定するという非常に設置しやすい手順が実現可能となる。
【0017】
上記木造多層建築物用層間密着金物は、タイロッドやナットの強度に何ら関係せず、回転体を含む密着金物自体に法的な認定を取る必要がない点でも、従来の密着金物よりも有利である。
【0018】
請求項2の発明によれば、層間密着金物のケーシングの水平方向の外形の大きさを一辺が80〜85mm又は130〜135mmとしたので、ツーバイフォー工法で建てられる木造建築物へは、その構造上有する一片85mm又は135mmの空間へ層間密着金物を嵌合することができ、よって、層間密着金物に固定手段を付加する必要がなくなる。これは、従来技術のネジ締付装置にない本発明特有の効果である。
【0019】
請求項3の発明によれば、限られたスペースでエネルギーを多く蓄え、少量ずつ取り出し可能である。特にツーバイフォー工法の木造建築物では、設置スペースが狭いので、渦巻きバネの利用が特に有利である。
【0020】
本発明の層間密着金物を木造建築物に設置することで、都市部防火地域でのツーバイフォー耐火建築物への普及(例えば高齢者向け施設、幼稚園、保育所、ホテル、ショッピングセンター、レストランなど)に大いに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一の実施態様に従う層間密着金物の縦断面図である。
【図2】図1の層間密着金物のAA矢視横断面図である。
【図3】図1の層間密着金物の板バネ固定手段の変形例である。
【図4】図1の層間密着金物を木造多層建築物に複数設置した状態を示す全体正面図である。
【図5】図4の設置状態の横断面である。
【図6】タイロッド形式を採用する仮想の木造多層建築物の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施態様を図1〜5を用いて説明する。層間密着金物1は、図4に示すように、建築物の各階層の天端レベルから床レベルまでの間に垂直に延在するタイロッド20の周りに取り付けられる。タイロッド20は、各階層の床レベルに向かって垂直に延在する棒体であり、その長さは、通常、各階層の高さにほぼ等しい。各タイロッドは、通常、カプラ等でできたタイロッド接続手段21で最上階から基礎まで連結される。タイロッド20は、後述するナット31と螺合するようにネジが切られている。
【0023】
層間密着金物1の座金10は、梁の上に位置して、タイロッド20を鉛直に貫通させるための中心孔12を有する。座金10の形状は、梁や柱材の変化が座金10とさらにナット31に伝わる構造であればよく、図1では平板である。
【0024】
座金10の上に、タイロッド20に螺合するナット31が位置する。そして、ナット31上に回転体30が位置する。この回転体30は、後述する板バネ35の復元力によって回転し、そして、回転体の側壁と一体化したナットも追随して回転する。
【0025】
回転体30は、前記タイロッドを囲むように立設された側壁32を有する。側壁32は、中間に設けた内径がタイロッド20の径より若干大きく、外径が側壁の下方部分よりも若干大きいリング37を境界として、上方のバネ巻き芯として機能する部分と、下方のナットを袴のようにカバーする部分とに分かれる。
【0026】
側壁32の上方部分は、後述する板バネ35の一端を固定するためのスリット33を有する。板バネに渦巻きバネを使用する場合は、図2のように、渦巻きバネがこのスリットを起点として側壁32の上方部分に巻回される。
【0027】
側壁32の下方部分は、結合手段38(図1では複数のビス)でナット31の側面と脱着可能に一体化される。従来のほとんどのネジ締付装置はボルトと回転体とが嵌合する形状を採用するため、ボルトの大きさに応じてそれに適合するネジ締付装置を区々用意する必要があった。それに対して、本発明の層間密着金物では、ナットと回転体との形状を合わせるような必要がなく、その結果、一種類の層間密着金物を用意すれば、ほとんどすべての多層木造建築物に対応可能となる。さらに、層間密着金物を設置する時の利便性も格段に向上する。
【0028】
側壁32の下方部分よりはみ出たリング37のツバ部は、ケーシング40の内壁に突設したツバ受け突起49によって担持される。
【0029】
座金10の上面には、回転体30を囲むように載置された側壁41を有するケーシング40を備える。ケーシング40は、図1に示すような高さ調整機構43を備えてもよい。これにより、ナット31の高さを自由に変更することができる。
【0030】
ケーシング40の上面は、タイロッド20の断面よりも大きい径を有してタイロッドが遊貫できる上孔46を有する蓋42を備える。蓋によって層間金物内への落下物の侵入を防止する。
【0031】
ケーシング40の下面は、側壁32の下端が延出できる程度の径を有する下孔44が開いている。下孔44の輪が側壁32の下端付近をガイドすることで、回転体30の芯ずれや傾斜を防止する。
【0032】
板バネ35の復元力をナット31に伝えるためには、層間密着金物を建物に固定する必要がある。一方、ツーバイフォー工法で建てられる建築物は、その構造上、一片90mm又は140mmという定型の空間が常に存在する。そこで、層間密着金物の水平方向の外形の大きさを一辺が80〜85mm又は130〜135mmとして上記空間に層間密着金物を嵌合させると、層間密着金物自体に固定手段を設けなくても層間密着金物の固定が可能になる。これも、従来技術のネジ締付装置にない本発明特有の特徴である。
【0033】
本発明のケーシング40は、後述する板バネ35の一端(図2の渦巻きバネの外端)を固定するためのスリット41を有する。
【0034】
層間密着金物は、ナット31を下向きに回転させる力を付与する板バネ35を備え、ナット31と座金10との間で、木材の収縮や荷重による建物の沈み込みが原因で発生する緩みを防止する。そのために、板バネ35の一端部が回転体の側壁32のスリット33に固定され、そして他端部がケーシングの側壁41のスリット45に固定される。
【0035】
板バネ35として図1のような渦巻きバネを採用すると、限られたスペースでエネルギーを多く蓄え、少量ずつ取り出し可能である。
【0036】
層間密着金物は、回転体30の外側方から脱着可能に当接して板バネを固定する手段としてのボルト50を備える。当接する場所は、回転体30の側壁32又は板バネ35のいずれでもよい。図1では、ボルト50がケーシング40の側面に空けた板バネ固定手段挿通孔48を通って渦巻きバネ35に当接している。板バネを巻き締めた状態でボルトを締め込み、この状態で層間密着金物を設置後、ボルト50を取り除くことで、渦巻きバネ35の復元力を働かせる。
【0037】
図3は、板バネ固定手段50の設置場所の変更例である。図3において、ボルト50がケーシング40の側面に開けた板バネ固定手段挿通孔48を通って、側壁32の下方部分に固着したボルト受け用ナット36に当接する。渦巻きバネ35を手動等で巻き締めた状態でボルト50をナット36に当接することにより、巻き締め状態を維持する。
【0038】
以下に、上記実施態様の層間密着金物の使用方法を説明する。まず、本発明の層間密着金物の渦巻きバネ35を手動等の適宜の手段で巻き締めて、ナット31を下向きに回転させる力を蓄える。巻き締めた渦巻きバネ35に板バネ固定手段としてのボルト50を締め込み、挿通孔48を通して渦巻きバネ35に当接させて、渦巻きバネ35の巻締め状態を保持する。
【0039】
建築中又は建築後の梁材の金物の設置場所にタイロッド20を設置する。次いで、梁材71の上に座金10を載せ、ナット31を締め込む。次いで、ナット31の上に、バネが緊締状態の回転体30を載せて、ナット31と側壁32とをビスで固定する。回転体30の上にケーシング40を載せ、適宜、高さ調整機構43でケーシング40の高さを調整する。ボルト50の渦巻きばね35への当接を開放する。これにより、渦巻きバネ35の復元力がナット31を下方向へ回転させる力がナット31に作用する。適宜、図5の矢印で示すように、層間密着金物を合板又はボード72で遮蔽する。こうして、建築後の一定期間に生じる柱材や床梁材の収縮によって生まれる柱材と座金10との隙間を未然に防止する。各階に取り付けた本発明の層間密着金物の効果が総合して、木造多層建築物の一体性が、建築時のまま保持される。
【0040】
本発明の層間密着金物を使用するのに好適な建築物は、ツーバイフォー多層耐火建築物である。具体的には、住宅、学校、共同住宅、ホテル、病院、高齢者施設、保育所等のあらゆる木造建築に好適である。また、低層階をRC造等とし、4階層までの上階層を枠組壁工法とした複合建築も可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 木造多層建築物用層間密着金物
10 座金
12 孔
20 タイロッド
21 タイロッド接続手段(カプラ)
30 回転体
31 ナット
32 側壁
33 スリット
35 板バネ(渦巻きバネ)
36 ボルト受け用ナット
37 リング
38 結合手段(ビス)
40 ケーシング
41 側壁
42 蓋
43 高さ調整機構
44 下孔
45 スリット
46 上孔
48 バネ固定手段挿通孔
49 ツバ受け突起
50 板バネ固定手段(ボルト)
70 柱材
71 床梁材
72 合板又はボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築物の多層階にわたって垂直に延在させるタイロッドが貫通する孔(12)を有する座金(10)、
前記座金(10)に載置され、前記タイロッドに螺合するナット(31)、
前記タイロッドを囲むように立設され、かつ前記ナット(31)を一体化した側壁(32)を有する回転体(30)、
前記座金(10)の上面に前記回転体(30)を囲むように載置された側壁(41)を有するケーシング(40)、
一端部が前記回転体の側壁(32)の上方部分に固定され、そして他端部が前記ケーシングの側壁(41)に固定され、前記ナット(31)を下向きに回転させる力を付与する板バネ(35)、及び
前記回転体(30)の外側方から脱着可能に当接して前記板バネ(35)の動きを固定するための板バネ固定手段(50)を備える木造多層建築物用層間密着金物であって、
前記側壁(32)の下方部分と前記ナット(31)とを、脱着可能な結合手段(38)により一体化したことを特徴とする、前記層間密着金物。
【請求項2】
前記ケーシング(40)の水平方向の外形の大きさは、一辺が80〜85mm又は130〜135mmであることを特徴とする、請求項1に記載の木造多層建築物用層間密着金物。
【請求項3】
前記板バネ(35)が渦巻きバネからなる、請求項1又は2に記載の木造多層建築物用層間密着金物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−41760(P2012−41760A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184855(P2010−184855)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(599038123)株式会社石田組 (1)
【Fターム(参考)】