説明

木造建築物用制震装置および該制震装置を用いた木造建築物の制震構造

【課題】木造建築物の土台、柱および梁により形成される開口部に任意の大きさの窓枠を配置することができ、かつ地震などに起因する木造建築物の揺れを効果的に抑えることのできる木造建築物用制震装置を提供する。
【解決手段】木造建築物の土台20上に立設された複数本の柱のうち互いに隣り合う二本の柱21,22に該柱を補強する左右一対の補強部材24,25を柱21,22の高さ方向に沿って取り付け、これらの補強部材24,25を介して粘弾性ダンパー11の両端部を柱21,22に水平に連結した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物に使用される制震装置および該制震装置を用いた木造建築物の制震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の木造建築物は、主として軸組工法で築造されている。このような建築物に加わる地震などからの揺れを抑制し、建築物の倒壊や破損を防ぐ技術として、建築物を構成する柱や梁、土台といった構造材に振動エネルギーを吸収するダンパーを配置する技術が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開2000−110399号公報
【特許文献2】特開2000−160683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、木造建築物の土台と柱および梁によって形成される矩形状の開口部に粘弾性ダンパー機能を有する筋交を配置して木造建築物の揺れを抑える技術であるため、開口部に窓枠を配置する場合には、窓枠の大きさが筋交によって制限されてしまうという問題がある。
一方、特許文献2に開示された技術では、窓枠の大きさが制限されるという問題が生じることはないが、粘弾性ダンパーの取付位置が柱の端部となるため、地震などに起因する振動エネルギーが粘弾性ダンパーに加わる前に、柱などの構造材と粘弾性ダンパーとの取付部分や構造材自体に振動エネルギーが加わることによって構造材の変形や破損を招きやすいという問題がある。
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、木造建築物の土台と柱および梁により形成される開口部に任意の大きさの窓枠を配置することができ、かつ地震などに起因する木造建築物の揺れを効果的に抑えることのできる木造建築物用制震装置と該制震装置を用いた木造建築物の制震構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明に係る木造建築物用制震装置は、木造建築物の揺れを制震ダンパーにより抑える木造建築物用制震装置であって、前記木造建築物の土台上に立設された複数本の柱のうち互いに隣り合う二本の柱に該柱を補強する左右一対の補強部材を前記柱の高さ方向に沿って取り付け、これらの補強部材を介して前記制震ダンパーの両端部を前記二本の柱に水平に連結したことを特徴とするものである。
【0005】
請求項2記載の発明に係る木造建築物用制震装置は、請求項1記載の木造建築物用制震装置において、前記制震ダンパーが前記補強部材の上部及び下部の少なくとも一方に取り付けられ、前記補強部材と前記制震ダンパーとにより窓枠取付用開口部が形成されていることを特徴とするものである。
請求項3記載の発明に係る木造建築物用制震装置は、請求項1または2記載の木造建築物用制震装置において、前記補強部材が前記二本の柱の間に窓枠を固定するための窓枠取付部を有することを特徴とするものである。
【0006】
請求項4記載の発明に係る木造建築物用制震装置は、請求項1〜3のいずれか一項記載の木造建築物用制震装置において、前記制震ダンパーおよび前記補強部材が前記木造建築物の窓枠と一体にユニット化されていることを特徴とするものである。
請求項5記載の発明に係る木造建築物用制震装置は、請求項1〜4のいずれか一項記載の木造建築物用制震装置において、前記補強部材がアルミニウムまたはアルミニウム合金を押出成形して形成されていることを特徴とするものである。
請求項6記載の発明に係る木造建築物の制震構造は、請求項1〜5のいずれか一項記載の木造建築物用制震装置を用いて木造建築物の揺れを抑えるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び6記載の発明によれば、土台上に立設された複数本の柱のうち互いに隣り合う二本の柱が左右一対の補強部材によって補強されるため、建築物の構造材に加わる地震時の振動エネルギーによって柱が変形したり、あるいは柱と制震ダンパーとの取付部分が破損したりすることを抑制することができる。これにより、木造建築物の土台と柱および梁により形成される開口部にダンパー機能を有する筋交を配置しなくても地震などに起因する建築物の揺れを抑えることができ、従って、木造建築物の土台と柱および梁により形成される開口部に任意の大きさの窓枠を配置することができる。
【0008】
請求項2記載の発明によれば、補強部材と制震ダンパーとにより形成された窓枠取付用開口部に窓枠を取り付けることが可能となり、これにより、補強部材と制震ダンパーおよび窓枠をユニット化することができる。
請求項3記載の発明に係る木造建築物用制震装置によれば、補強部材に窓枠を容易に取り付けることができ、これにより、窓の配置を効率よく行なうことができる。
【0009】
請求項4記載の発明に係る木造建築物用制震装置によれば、制震ダンパーおよび補強部材が窓枠と一体にユニット化されているため、制震装置と窓枠という異なる機能を有する設備を一回の作業で建築物の構造材に取り付けることができ、これにより、建築物自体の施工効率を向上させることができる。
請求項5記載の発明に係る木造建築物用制震装置によれば、補強部材を精度よく形成することができ、これにより、木造建築物の土台と柱および梁により形成される開口部に制震ダンパーや窓枠を正確に配置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明の第1の実施形態に係る木造建築物用制震装置の分解斜視図、図2は同実施形態に係る木造建築物用制震装置の正面図である。また、図3は図2のA−A断面図、図4は図2のB−B断面図、図5は図2のC−C断面図であり、本発明の第1の実施形態に係る木造建築物用制震装置10は、制震ダンパーとしての粘弾性ダンパー11を備えている。
【0011】
粘弾性ダンパー11は、連結板12,13により直列に連結された二つのダンパー部14,15から構成されている。これらのダンパー部14,15は互いに対向する板状剛性部材16,17,18を有しており、これら板状剛性部材16〜18の間には、木造建築物の揺れを吸収する粘弾性体19が形成されている。
また、粘弾性ダンパー11は木造建築物の土台20(図1参照)上に立設された複数本の柱のうち互いに隣り合う二本の柱21,22の間に水平に配置されており、これらの柱21,22には、柱21,22を補強する左右一対の補強部材24,25が木ネジ等によって柱21,22の下端部から上端部にわたって取り付けられている。
【0012】
補強部材24,25は柱21,22の高さ方向に沿って伸長しており、これらの補強部材24,25には、連結部材26,27,28を介して粘弾性ダンパー11の一端部を水平に支持するダンパー支持溝29(図4参照)が補強部材24,25の長手方向に沿って形成されている。
また、補強部材24,25はアルミニウムまたはアルミニウム合金を押出成形して形成されており、これらの補強部材24,25には、木ネジ等によって窓枠30が固定される窓枠取付部31(図5参照)が形成されている。
【0013】
粘弾性ダンパー11は、その両端部が補強部材24,25を介して柱21,22に連結されている。また、粘弾性ダンパー11は柱21と柱22との間に補強部材24,25により水平に支持されている。さらに、粘弾性ダンパー11は補強部材24と補強部材25との間に横架されたダンパー支持部材32,33により窓枠30の上側に支持されている。
【0014】
粘弾性ダンパー11は補強部材24と補強部材25との間の上部に配置され、補強部材24の上部には、粘弾性ダンパー11の一端部が連結されている。また、補強部材25の上部には粘弾性ダンパー11の他端部が連結されており、粘弾性ダンパー11の下側には、窓枠30の取付用開口部34(図1参照)が粘弾性ダンパー11と補強部材24,25とにより形成されている。
図6は本発明の第1の実施形態に係る木造建築物用制震装置の斜視図であり、同図に示すように、粘弾性ダンパー11および補強部材24,25は窓枠30と一体にユニット化されている。
【0015】
上述のように、木造建築物の土台20上に立設された複数本の柱のうち互いに隣り合う二本の柱21,22に柱21,22を補強する左右一対の補強部材24,25を取り付け、これらの補強部材24,25を介して制震ダンパー11の両端部を柱21,22に水平に連結すると、制震ダンパー11の両端側に位置する柱21,22が補強部材24,25によって補強される。したがって、建築物の構造材に加わる地震時の振動エネルギーによって柱21,22が変形したり、あるいは柱21,22と制震ダンパー11との取付部分が破損したりすることを抑制することができ、これにより、木造建築物の土台20と柱21,22および梁23により形成される開口部にダンパー機能を有する筋交を配置しなくても地震などに起因する建築物の揺れを抑えることができるため、木造建築物の土台20と柱21,22および梁23により形成される開口部に任意の大きさの窓枠を配置することができる。
【0016】
また、上述した本発明の第1の実施形態のように、制震ダンパー11の剛性部材として板状の剛性部材16,17,18を用いたことにより、ダンパー自体の厚みを小さくすることができ、これにより、建築物の内装材や外装材などの他の部材と制震ダンパー11が干渉し合うことを防止することができる。また、互いに対向する板状剛性部材16〜18の間に粘弾性体19が形成されているため、振動エネルギーを効率よく吸収することができる。
【0017】
さらに、上述した本発明の第1の実施形態のように、粘弾性ダンパー11の一端部を支持するダンパー支持溝29を左右一対の補強部材24,25に設けたことにより、ボルトやビスなどの固定手段を用いることなく粘弾性ダンパー11の両端部を二本の柱21,22に固定することができ、これにより、部品点数の削減などを図ることができる。
また、上述した本発明の第1の実施形態のように、窓枠30が固定される窓枠取付部31を補強部材24,25に設けると、補強部材24,25に窓枠30を容易に取り付けることができ、これにより、窓の配置を効率よく行なうことができる。
【0018】
また、上述した本発明の第1の実施形態のように、アルミニウムまたはアルミニウム合金を押出成形して補強部材24,25を形成すると、補強部材24,25を精度よく形成することができ、これにより、木造建築物の土台20と柱21,22および梁23により形成される開口部に粘弾性ダンパー11や窓枠30を正確に配置することができる。
また、補強部材24,25と制震ダンパー11とにより形成された窓枠取付用開口部34に窓枠30を取り付けることが可能となり、これにより、補強部材24,25と制震ダンパー11および窓枠30をユニット化することができる。
【0019】
さらに、上述した本発明の第1の実施形態のように、制震ダンパー11および補強部材24,25が窓枠30と一体にユニット化されているため、制震装置と窓枠30という異なる機能を有する設備を一回の作業で建築物の構造材に取り付けることができ、これにより、建築物自体の施工効率を向上させることができる。
上述した本発明の第1の実施形態では、粘弾性ダンパー11および補強部材24,25が窓枠30と一体にユニット化されたものを例示したが、これに限られるものではなく、制震ダンパー11と補強部材24,25が窓枠30と一体にユニット化されていなくてもよい。
【0020】
また、上述した本発明の第1の実施形態では、制震ダンパーとして二つのダンパー部14,15からなるものを例示したが、これに限られるものではなく、例えば、図7に示す本発明の第2の実施形態のように、制震ダンパーとしての粘弾性ダンパー11が一つのダンパー部14からなるものであってもよい。
また、上述した本発明の第1の実施形態では、粘弾性ダンパー11の板状剛性部材として三枚の板状剛性部材を例示したが、板状剛性部材の枚数は二枚であってもよいし、四枚以上であってもよい。
【0021】
上述した本発明の第1の実施形態では、制震ダンパーとしての粘弾性ダンパー11を補強部材24と補強部材25との間の上部に配置したものを例示したが、図8に示す本発明の第3の実施形態のように、制震ダンパーとしての粘弾性ダンパー11を補強部材24と補強部材25との間の下部に配置してもよい。
また、図9に示す本発明の第4の実施形態のように、制震ダンパーとしての粘弾性ダンパー11を補強部材24と補強部材25との間の上部と下部の両方に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る木造建築物用制震装置の分解斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る木造建築物用制震装置の正面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2のB−B断面図である。
【図5】図2のC−C断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る木造建築物用制震装置の斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る木造建築物用制震装置の正面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る木造建築物用制震装置の分解斜視図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る木造建築物用制震装置の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
10 木造建築物用制震装置
11 粘弾性ダンパー
12,13 連結板
14,15 ダンパー部
16,17,18 板状剛性部材
19 粘弾性体
20 土台
21,22 柱
23 梁
24,25 補強部材
26,27,28 連結部材
29 ダンパー支持溝
30 窓枠
31 窓枠取付部
32,33 ダンパー支持部材
34 窓枠取付用開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築物の揺れを制震ダンパーにより抑える木造建築物用制震装置であって、前記木造建築物の土台上に立設された複数本の柱のうち互いに隣り合う二本の柱に該柱を補強する左右一対の補強部材を前記柱の高さ方向に沿って取り付け、これらの補強部材を介して前記制震ダンパーの両端部を前記二本の柱に水平に連結したことを特徴とする木造建築物用制震装置。
【請求項2】
前記制震ダンパーが前記補強部材の上部及び下部の少なくとも一方に取り付けられ、前記補強部材と前記制震ダンパーとにより窓枠取付用開口部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の木造建築物用制震装置。
【請求項3】
前記補強部材が前記二本の柱の間に窓枠を固定するための窓枠取付部を有することを特徴とする請求項1または2記載の木造建築物用制震装置。
【請求項4】
前記制震ダンパーおよび前記補強部材が前記木造建築物の窓枠と一体にユニット化されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の木造建築物用制震装置。
【請求項5】
前記補強部材がアルミニウムまたはアルミニウム合金を押出成形して形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の木造建築物用制震装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載の木造建築物用制震装置を用いて木造建築物の揺れを抑えるようにしたことを特徴とする木造建築物の制震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−70979(P2010−70979A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239879(P2008−239879)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(502444733)日軽金アクト株式会社 (107)
【出願人】(000191065)新日軽株式会社 (545)
【Fターム(参考)】