説明

木造枠組構造用の断熱材およびそれを用いた断熱構造

【課題】木造枠組構造で作られる住宅の床、天井、または屋根の部分を構成する枠組が異なった距離の縦枠材間内寸法を含む場合であっても、1つの種類の合成樹脂発泡体製の断熱材を施工現場に用意するのみで、内寸法の異なるすべての縦枠材間に容易にかつ確実に挿入できる木造枠組構造用の断熱材を得る。
【解決手段】横幅B×奥行K(>B)である角材を基材とし縦枠材間の標準内寸法がAであり、第1の非標準内寸法がAx(=(A+(K−B)/2))である木造枠組構造の床、天井、または屋根用の枠組における縦枠材間に挿入される合成樹脂発泡体製の断熱材10であり、前面側の横幅a1は前記Axより小さく、後面側の横幅a2は前記Axより大きくする。断熱材10は長手方向に沿う1本以上の後面側に開放したV字状の割溝21〜23を有し、V字状の割溝21〜23のいずれかから断熱材の一部を除去することで異なる横幅寸法の部分断熱材50を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造枠組構造で作られる住宅での、特に床、天井、または屋根部分を構成する枠組内に挿入される合成樹脂発泡体製の断熱材と、それを用いた断熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ツーバイフォー構造と通称される木造枠組構造は知られており、日本においても木造枠組構造によって多くの住宅が建てられている。木造枠組構造では角材によって組まれた枠組そのものが構造材としての機能を果たすようになっており、日本では、一般に、38mm×89mmの角材が枠組の基材として用いられている。また、軸組構造による住宅と同様、木造枠組構造においても、その床部分、屋根部分、あるいは天井部分に合成樹脂発泡体製の断熱材を挿入する断熱施工が行われている。木造枠組構造での枠材の標準的な構造材配置モジュールは455mmであり、縦枠材間に挿入する断熱材の横幅は、一般に、455mm−38mm=417mmのものが用いられる。
【0003】
しかしながら、床工事、天井工事、屋根工事においては、壁部との取り合い箇所で、モジュール崩れが発生する。壁枠材幅が89mmである箇所の壁外側の際に幅38mmの床根太材、野縁材、垂木材に相当する縦枠材が配置されるが、配置モジュールの測定基準線は壁中央に設定されているため、壁部との取り合い箇所でのモジュール線と、床根太材、野縁材、垂木材に相当する縦枠材の中心線とは、25.5mmだけ外側にずれている。この分、構造材間寸法(断熱材を充填する幅)は大きくなっている。
【0004】
さらに、木造枠組構造において、床根太材、野縁材、垂木材に相当する縦枠材において、構造上補強が必要となる箇所では、同じ基材である角材を2枚重ねて使用されることが多い。この場合に、構造材幅は38×2=76mmとなり、この分、構造材間寸法(断熱材を充填する幅)は小さくなる。
【0005】
そのように構造材間寸法(縦枠材間)の内寸法が変化しても、標準横幅の断熱材を用いて容易に断熱施工ができるように、特許文献1には、断熱材の側縁から幅方向に縦枠材間の横幅の半分および横幅分だけ入り込んだ位置に2本のスリットを形成し、該スリットを利用して断熱材の一部を分離することで、残りの部分断熱材を縦枠材間の異なった内寸法箇所に容易に挿入できるようにした木造枠組構造用の断熱材が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、長方形である合成樹脂発泡体製の断熱材の側縁に沿ってV字状の割溝を形成するとともに、その断熱材の前面側の幅寸法は挿入すべき構造部材間の間隔よりも狭く設定し、後面側の幅寸法は挿入すべき構造部材間の間隔よりも広く設定した建築用断熱材が記載されている。この断熱材は、その前面と後面の寸法の違いから、隣接する構造部材間への挿入は容易であり、その後、さらに押し込む過程でV字状の割溝が次第に狭くなっていくことで、断熱材は構造部材間にしっかりと嵌め込まれた状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−217015号公報
【特許文献2】特開平10−110483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載される木造枠組構造用の断熱材は、スリットを利用して一部を分離した部分断熱材を施工現場で調整することで、縦枠材間の内寸法が異なっている場所に対しても容易に挿入することができる利点がある。しかし、特許文献1に記載される断熱材の横幅は挿入すべき縦枠材間の内寸法よりも少し幅の広いものとされており、挿入する作業が容易とはいえない。また、木造枠組構造において、一般に、寸法が38mm×89mmの角材を縦枠材および横枠材として用いているために、前記したように、床工事、天井工事、屋根工事において、壁部との取り合い箇所で、モジュール崩れが発生し、モジュール線と、床根太材、野縁材、垂木材に相当する縦枠材の中心線とは、25.5mm、すなわち縦枠材間の標準部417mmよりも25.5mm[=(417+(89−38)/2)mm]だけ広い442.5mmとなるが、特許文献1に記載の断熱材では、この点の配慮はなされていない。
【0009】
一方、特許文献2に記載の断熱材は、前面側の幅寸法を挿入すべき構造部材間の間隔よりも狭く設定し、後面側の幅寸法を挿入すべき構造部材間の間隔よりも広く設定したことで、隣接する構造部材間への挿入は容易であり、その後、さらに押し込むことで、断熱材は構造部材間にしっかりと圧入された状態となる。しかし、異なった間隔の構造部材間に挿入するために、一部を除去して部分断熱材にするという技術についてはまったく示唆されていない。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、木造枠組構造で作られる住宅での、特に床、天井、または屋根部分を構成する枠組が異なった距離の縦枠材間内寸法を含む場合であっても、1つの種類の合成樹脂発泡体製の断熱材を施工現場に用意するのみで、内寸法の異なるすべての縦枠材間に容易にかつ確実に挿入することのできる木造枠組構造用の断熱材を提供することを課題とする。また、その断熱材を用いた木造枠組構造における、特に床、天井、または屋根部の断熱構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による木造枠組構造用の断熱材は、横幅B(mm)×奥行K(mm)(>B(mm))である角材を基材とし縦枠材間の標準内寸法がA(mm)である木造枠組構造での枠組であって、住宅の床、天井、または屋根の部分を構成する枠組における前記縦枠材間に挿入される合成樹脂発泡体製の断熱材であり、前記断熱材は長手方向に沿う1本以上の後面側に開放したV字状の割溝を有しかつ断熱材の前面側の幅寸法a1(mm)は当該枠組の第1の非標準内寸法Ax(=(A+(K−B)/2)(mm))より小さく、後面側の幅寸法a2(mm)は前記Ax(mm)より大きくされており、前記V字状の割溝のいずれかから断熱材の一部を除去することにより、前記標準内寸法A(mm)である縦枠材間または前記第1の非標準内寸法Axとは異なる第2の非標準内寸法Ay(mm)である縦枠材間に挿入可能な部分断熱材であって、その前面側の幅寸法ax1(mm)は挿入されるべき縦枠材間の標準内寸法A(mm)または第2の非標準内寸法Ay(mm)より小さく、後面側の幅寸法ax2(mm)は標準内寸法A(mm)または第2の非標準内寸法Ay(mm)より大きくされた部分断熱材を得ることができることを特徴とする。
【0012】
上記の木造枠組構造用の断熱材は、前面側の幅寸法a1(mm)は、当該枠組の第1の非標準内寸法Ax(mm)より狭く、後面側の幅寸法a2(mm)は当該枠組の第1の非標準内寸法Axより広い。したがって、上記の寸法を備えた本発明による木造枠組構造用の断熱材は、前記標準内寸法A(mm)よりも広い前記第1の非標準内寸法Axである縦枠材間の第1の非標準部へ容易に挿入することができる。その後、さらに押し込む過程で、前記V字状の割溝の溝幅が次第に狭くなっていき、最後には、両側面を対向する縦枠材の側面に密着させた姿勢で縦枠材間に挿入された状態となる。それにより、縦枠材間の前記第1の非標準部には確実な断熱層が形成される。
【0013】
なお、ここにおいて、Ax=(A+(K−B)/2)の値は、前記したように、横幅B(mm)×奥行K(mm)(>B(mm))である角材を基材とし縦枠材間の標準内寸法がA(mm)である木造枠組構造での枠組であって、当該枠組が住宅の床、天井、または屋根の枠組として用いられる場合での、モジュール崩れが生じている箇所、すなわち、壁部との取り合い箇所における縦枠材間の寸法(最も外側に位置する縦枠材とそれに隣接する縦枠材との間の距離)である。
【0014】
標準内寸法A(mm)である縦枠材間または前記第1の非標準内寸法Axとは異なる第2の非標準内寸法Ay(mm)である縦枠材間に挿入するときには、形成されたV字状の割溝のいずれかから断熱材の一部を除去して部分断熱材とする。得られる部分断熱材においても、その前面側の幅寸法ax1(mm)は、挿入すべき縦枠材間の標準内寸法A(mm)または第2の非標準内寸法Ay(mm)より小さく、後面側の幅寸法ax2(mm)は標準内寸法A(mm)または第2の非標準内寸法Ay(mm)より大きくされている。したがって、枠組を構成する前記縦枠材間の内寸法標準部および第2の非標準部にも、前記部分断熱材を容易に挿入することができる。その後、さらに押し込む過程で、V字状の割溝をさらに有している場合には、当該V字状の溝幅が次第に狭くなっていくことで、またV字状の割溝を有していない場合には、部分断熱材を形成する合成樹脂発泡体自体がわずかに変形することで、最終的に、部分断熱材の両側面を対向する縦枠材の側面に密着させた姿勢で、前記標準部および第2の非標準部の縦枠材間にしっかりと挿入された状態となる。それにより、縦枠材間の標準部および第2の非標準部にも確実に断熱層が形成される。
【0015】
本発明による木造枠組構造用の断熱材の一態様において、断熱材は、前記標準内寸法A(mm)である縦枠材間に挿入可能な大きさの部分断熱材が得られる位置に前記V字状の割溝が第1のV字状の割溝として形成されていることを特徴とする。
【0016】
この態様の断熱材は、前記第1のV字状の割溝から一部を分離した後の部分断熱材を、住宅の床、天井、または屋根の部分を構成する枠組における縦枠材間の標準内寸法がA(mm)である標準部に容易に挿入することができ、挿入後にはそこに安定した断熱層が形成される。
【0017】
本発明による木造枠組構造用の断熱材の別の態様において、断熱材は、前記第2の非標準内寸法Ay(mm)が(A−B/2)(mm)である縦枠材間に挿入可能な大きさの部分断熱材が得られる位置に前記V字状の割溝が第2のV字状の割溝として形成されていることを特徴とする。
【0018】
この態様の断熱材は、前記した枠組における縦枠材間標準部を構成する一方の縦枠材に沿って、補強の目的で同じ寸法の縦枠材を並置することで形成される、前記第2の非標準部である縦枠材間に、その第2のV字状の割溝を利用して一部を除去して得られる部分断熱材を容易に挿入することができ、挿入後にはそこに安定した断熱層が形成される。
【0019】
本発明による木造枠組構造用の断熱材のさらに別の態様において、断熱材は、前記第2の非標準内寸法Ay(mm)が(A−B)(mm)である縦枠材間に挿入可能な大きさの部分断熱材が得られる位置に前記V字状の割溝が第3のV字状の割溝として形成されていることを特徴とする。
【0020】
この態様の断熱材は、前記した枠組における縦枠材間標準部を構成する双方の縦枠材に沿って、補強の目的で同じ寸法の縦枠材を並置することで形成される、前記第2の非標準部である縦枠材間に、その第3のV字状の割溝を利用して一部を除去して得られる部分断熱材を容易に挿入することができ、挿入後にはそこに安定した断熱層が形成される。
【0021】
本発明による木造枠組構造用の断熱材において、前記第1のV字状の割溝のみが形成されていてもよい。第1のV字状の割溝のみを有する断熱材は、前記枠組における縦枠材間の前記第1の非標準部と標準部との間で共用可能となる。第1のV字状の割溝と第2のV字状の割溝とが形成されていてもよい。この態様の断熱材では、前記枠組における縦枠材間の前記第1の非標準部と標準部と第2の非標準部であって一方の縦枠材のみに沿って補強の目的で同じ寸法の縦枠材が並置されている第2の非標準部との間で共用可能となる。第1のV字状の割溝と第2のV字状の割溝と第3のV字状の割溝とが形成されていてもよい。この態様の断熱材では、前記枠組における縦枠材間の前記第1の非標準部と標準部と第2の非標準部であって一方およびまたは双方の縦枠材に沿って補強の目的で同じ寸法の縦枠材が並置されている第2の非標準部との間で共用可能となる。
【0022】
本発明による木造枠組構造用の断熱材を取り付ける対象となる枠組の寸法、および枠組を構成する基材としての角材の寸法に特に限定はない。現在の一般的な木造枠組構造では、木造枠組を構成する基材としての縦枠材および横枠材の寸法は、横幅B=38mm、奥行K=89mm、縦枠材間の標準内寸法A=417mmである。本発明による断熱材が上記寸法の木造枠組構造での枠組であって、住宅の床、天井、または屋根の部分を構成する枠組に挿入される合成樹脂発泡体製の断熱材である場合、前記第1のV字状の割溝の内側側面の位置は、断熱材の後面における側端縁から略25〜35mm程度だけ内側に入った位置となり、前記第2のV字状の割溝の内側側面の位置は、断熱材の後面における側端縁から略44〜52mm程度だけ内側に入った位置となり、前記第3のV字状の割溝の内側側面の位置は、断熱材の後面における側端縁から略70〜77mm程度だけ内側に入った位置となる。
【0023】
本発明による木造枠組構造用の断熱材において、V字状の割溝の後面側の開口幅は任意であってよいが、木造枠組を構成する縦枠材は横幅B=38mm、奥行K=89mm、縦枠材間の標準内寸法A=417mmである木造枠組である場合に、V字状の割溝の後面側の開口幅は略6〜10mmであることは、作業の容易性の観点から望ましい。また、V字状の割溝の後面側の開口幅を略6〜10mm程度とすることで、内寸法Ax(=(A+(K−B)/2)(mm))である前記第1の非標準部において対向する縦枠材の一方または双方に、補強材として同じ角材を並置するときの縦枠材間距離と、内寸法Ayである前記第2の非標準部において対向する縦枠材の一方または双方に、補強材として同じ角材を並置するときの縦枠材間距離との差分を、V字状の割溝の後面側の開口の開き幅で吸収することが可能となり、より少ない数のV字状の割溝を形成した1種の断熱材を用いて、住宅の床、天井、または屋根の部分を構成する枠組に生じる距離の異なるすべての縦枠材間に対処することが可能となる。
【0024】
前記した各V字状の割溝は、断熱材の一方の側縁から距離の順に順番に配列するようにしてもよいが、断熱材全体の強度とバランスを考慮すると、断熱材の双方の側縁側に分散するようにして配置することが望ましい。それにより、施工現場でのV字状の割溝を利用しての分離作業も容易かつ確実となる。
【0025】
本発明は、さらに、上記の木造枠組構造用の断熱材を用いた木造枠組の断熱構造として、横幅B(mm)×奥行K(mm)(>B(mm))である角材を基材とした木造枠組構造での枠組であって、枠組の縦枠材間の内寸法がA(mm)である内寸法標準部と、標準内寸法A(mm)よりも広い非標準内寸法Ax(=(A+(K−B)/2)(mm))である第1の非標準部と、非標準内寸法Axとは異なる第2の非標準内寸法Ay(mm)である第2の非標準部とを備え、住宅の床、天井、または屋根の部分を構成する枠組の縦枠材間に、上記したいずれかの断熱材を挿入した木造枠組構造での断熱構造であり、前記第1の非標準部には前記断熱材がそのまま挿入されており、前記標準部および第2の非標準部には前記いずれかのV字状の割溝の部分から一部を除去した後の部分断熱材が挿入されている構造を少なくとも備えることを特徴とする木造枠組構造の断熱構造をも開示する。
【発明の効果】
【0026】
本発明による木造枠組構造用の断熱材を用いることにより、木造枠組構造で作られる住宅の床、天井、または屋根の部分を構成する枠組が異なった距離の縦枠材間内寸法を含む場合であっても、1つの種類の合成樹脂発泡体製の断熱材を施工現場に用意するのみで、内寸法の異なるすべての縦枠材間に容易にかつ確実に挿入することができるようになる。それにより、断熱施工の容易性が得られるとともに、断熱材の在庫管理あるいは製品管理も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】木造枠組構造における枠組での床組と屋根垂木組の構造を寸法も入れて説明する第1の図であり、(a)は断面図、(b)は平面図。
【図2】木造枠組構造における枠組での床組と屋根垂木組の構造を寸法も入れて説明する第2の図であり、(a)は断面図、(b)は平面図。
【図3】本発明による断熱材の一例を寸法も入れて説明する短手方向の断面図(a)とそれを縦枠材間の第1の非標準部に挿入した後の状態を示す図(b)。
【図4】部分断熱材を縦枠材間の標準部、第1の非標準部、第2の非標準部に挿入した後の状態を示す5つの図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施の形態に基づき説明する。最初に、木造枠組構造の住宅での床または屋根の部分での枠組について説明する。
【0029】
図1は、床組あるいは屋根垂木組の構造を標準的な枠組での寸法(単位mm)も入れて示している。枠組1は、基材である同じ寸法の角材を縦枠材2および横枠材3として用い、全体が矩形状に組み付けられている。通常、角材の寸法は、横幅Bが38mm、奥行Kが89mmである。枠組1での隣接する縦枠材2、2の標準部での中心間の距離(配置モジュール)Zは455mmとされており、したがって、図1にF1で示す縦枠材間標準部での内寸法Aは417mmとなっている。なお、床枠組では縦枠材2は根太に相当し、屋根垂木枠組では縦枠材2は垂木に相当する。図示しないが、天井に木造枠組構造が用いられる場合があるが、天井枠組でも構成は図に示す枠組と同じであり、その場合に、縦枠材2は野縁に相当する。
【0030】
木造枠組構造における床、天井、屋根においては、壁部との取り合い箇所で、モジュール崩れが発生する。前記したように、基材の奥行幅Kが89mmである箇所の壁外側の際に幅38mmの根太等に相当する縦枠材が配置されるときに、配置モジュールの測定基準線は壁中央に設定されているため、壁部との取り合い箇所でのモジュール線と、標準部でのモジュール線とは、25.5mm(=(K−B)/2=(89−38)/2)だけ外側にずれることとなる。図1でF2として示す部分が、前記モジュール崩れの部分であり、ここでの縦枠材間の内寸法Axは442.5mm(=417mm+25.5mm)となっている。この領域を本発明では第1の非標準部といい、その寸法を第1の非標準内寸法Axという。
【0031】
また、木造枠組構造における床、天井、屋根においては、構造上補強が必要となる箇所に、同じ基材である角材を2枚重ねて使用される。この場合に、縦枠材が1枚−2枚使いで構成される縦枠材間においては、1枚使いの縦枠材の中心と2枚使いの縦枠材の中心との距離が構造材の配置モジュールZ=455mmとされる。したがって、ここでの縦枠材間距離は、図1にF3の領域として示すように、398mm(=A−B/2=417−38/2)となる。この領域を第2の非標準部の1といい、その寸法を第2の非標準内寸法Ay1という。縦枠材が2枚−2枚使いで構成される縦枠材間も設定される。この場合には、双方の2枚使いの縦枠材の中心間距離が構造材の配置モジュールZ=455mmとされる。したがって、ここでの縦枠材間距離は、図1にF4の領域として示すように、379mm(=A−B=417−38)となる。この領域を第2の非標準部の2といい、その寸法を第2の非標準内寸法Ay2という。
【0032】
上記した木造枠組構造における床、天井、屋根の枠材での構造材の補強は、前記したモジュール崩れの領域、すなわち図1にF2で示した領域でも行われる。図2でF5およびF6として示す領域がその領域である。F5の領域は、前記モジュール崩れの領域F2において縦枠材が2枚−1枚使いで構成される場合であり、ここでの縦枠材間距離は404.5mm(=Ax−B=442.5−38)となる。この領域を第1の非標準部の2といい、その寸法を第の非標準内寸法Ax1という。モジュール崩れの領域F2においても、縦枠材が2枚−2枚使いで構成される縦枠材間が設定される。F6はこの領域を示しており、ここでの縦枠材間距離は385.5mm(=Ax−B−B/2=442.5−38−19)となる。この領域を第1の非標準部の3といい、その寸法を第の非標準内寸法Ax2という。
【0033】
すなわち、木造枠組構造における住宅の床、天井、または屋根の部分を構成する枠組を合成樹脂発泡体製の断熱材を用いて断熱しようとすると、前記したように、領域F1〜F6の横幅を備えた6種類の断熱材を用意することが必要となる。本発明によれば、そのうちの2種類あるいは3種類以上の断熱材を1つの断熱材から施工現場で容易に調整できるようにした木造枠組構造用の断熱材を得ることができる。
【0034】
図3(a)は、本発明による断熱材10の一例を短手方向の断面で示している。なお、断熱材10の素材としての合成樹脂発泡体は、柔軟性を有し圧縮可能であり、反発弾性を有していて、枠組1の縦枠材間に圧挿した場合に、縦枠材の側面に断熱材の側面が密着する性質を有するものであるのが好ましい。具体的には、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂を、押出発泡成形あるいはビーズ発泡成形によって成形したものが好ましい。
【0035】
断熱材10は所要長さの長尺状部材であり、図3に示すように、左右の側面11、12と、前面13と後面14とを備える。側面に沿うようにして長手方向に適数(図示のものでは3本)のV字状の割溝21、22、23が形成されている。各V字状の割溝は後面14側で開放しており、各割溝の底部は前面13の近傍にまで達している。
【0036】
断熱材10は、前面側の幅寸法はa2が後面側の幅寸法はa1よりも広く、かつ、前面側の幅寸法a1は前記した縦枠材間の第1の非標準部の内寸法Axよりも小さくされ、後面側の幅寸法a2は第1の非標準部の内寸法Axよりも大きくされている。したがって、左右の側面11、12は後面14側から前面13側に向けて次第に幅が狭くなる方向に傾斜した面となっている。
【0037】
前記V字状の割溝21とV字状の割溝22は、断熱材10の幅方向の中央部から左側面11側に偏位た位置に形成されており、V字状の割溝23は、断熱材10の幅方向の中央部から右側面12側に偏位した位置に形成されている。また、各V字状の割溝21、22、23の中心線の方向は、断熱材10の幅方向の中央部での垂線に対して平行ではなく、断熱材10の幅方向の中央部に向かう方向にわずかに傾斜している。したがって、断熱材10の厚みは全幅方向にほぼ同じであるが、図示されるように、割溝21と割溝22は、図左下方向にわずかに傾斜した姿勢となっており、V字状の割溝23は、図で右下方向にわずかに傾斜した姿勢となっている。さらに、V字状の割溝21、22、23のいずれかから断熱材10の一部を除去して部分断熱材50としたときに、該部分断熱材50の前面13側の幅寸法ax1は後面14側の幅寸法はax2よりも狭くなっている。
【0038】
具体的には、図3(a)に示すように、V字状の割溝21の左側面11側の側面は該左側面11の後面側端から略25mmの位置にあり、その開口幅は略7mmとされている。V字状の割溝22の左側面は前記V字状の割溝21の右側面から略37.5mmの位置にあり、その開口幅は略7mmとされている。また、V字状の割溝23の右側面12側の側面は右側面12の後面側端から略44mmの位置にあり、その開口幅は略7mmとされている。上記寸法のものを水平面に投影すると図示に示したような寸法となり、断熱材10の後面14側の横幅寸法a2は略460.9mmとなる。
【0039】
断熱材10の前面13側は、左側面11の前面側端と前記V字状の割溝21の中心線の延長部間の距離は略20.9mm、V字状の割溝21の中心線の延長部とV字状の割溝22の中心線の延長部間の距離は略36.4mm、V字状の割溝22の中心線の延長部とV字状の割溝23の中心線の延長部間の距離は略334.5mm、V字状の割溝23の中心線の延長部と右側面12の前面側端との距離は略39.8mmである。上記寸法のものを水平面に投影すると図示に示したような寸法となり、断熱材10の前面13側の横幅寸法a1は略431.0mmとなる。
【0040】
前記したように、図1で説明した壁枠組1において、第1の非標準部F2での縦枠材2、2間の内寸法Ax=442.5mmであり、前記距離a1=431.0mm<Ax=442.5mmである。また、前記距離a2=460.9mm>Ax=442.5mmである。したがって、上記寸法の断熱材10は、その前面13側から、第1の非標準部F2での縦枠材2、2間に容易に挿入することができ、さらに押し込む過程で、各V字状の割溝21、22、23の開口は次第に狭くなる方向に閉じていき、最後には図3(b)に示すように、各V字状の割溝21、22、23の開口幅が略0.5mmとなった状態で第1の非標準部F2での縦枠材2、2間に挿入される。
【0041】
次に、図1に示すA=417mmである縦枠材間の標準部F1の領域に断熱材10を挿入する場合を説明する。この場合には、図3(a)に示した断熱材10から前記V字状の割溝21を利用して、図で左側部分を除去した部分断熱材50aを用いる。部分断熱材50aの前面側の幅寸法ax1は、略431−略21=略410mmとなり、A=417mmより小さい。また、後面側の幅寸法ax2は、略460.9−略24.5=略436.4mmとなり、A=417mmより大きい。そのために、上記寸法の部分断熱材50aはその前面13側から、縦枠材間の標準部F1での縦枠材2、2間に容易に挿入することができ、さらに押し込む過程で、第2と第3のV字状の割溝22、23の開口が次第に狭くなる方向に閉じていき、最後には図4(a)に示すように、第2と第3のV字状の割溝22、23の割溝22、23の開口幅が略0.5mmとなった状態で、図1に示した標準部F1における縦枠材2、2間に挿入される。したがって、図示の断熱材10において、前記V字状の割溝21は本発明でいう「第1のV字状の割溝」に相当する。
【0042】
次に、図1にF3で示す前記した1枚−2枚間隔の領域、すなわち縦枠材間の距離がAy1=398mmである第2の非標準部の1に、断熱材10を挿入する場合を説明する。この場合には、図3(a)に示した断熱材10からV字状の割溝23を利用して、図でそれより右側部分を除去した部分断熱材50bを用いる。部分断熱材50bの前面13側の幅寸法ax1は、略431−略40=略391mmとなり、Ay1=398mmより小さい。また、後面14側の幅寸法ax2は、略460.9−略50.7=略410.2mmとなり、Ay1=398mmより大きい。そのために、上記寸法の部分断熱材50bは、図1にF3として示した1枚−2枚間隔の領域に、前面13側から容易に挿入することができ、さらに押し込む過程で、第1と第2のV字状の割溝21、22の開口が次第に狭くなる方向に閉じていき、最後には図4(b)に示すように、第1と第2のV字状の割溝21、22の開口幅が略0.5mmとなった状態で、縦枠間にしっかりと挿入される。したがって、図示の断熱材10において、前記V字状の割溝23は本発明でいう「第2のV字状の割溝」に相当する。
【0043】
次に、図1にF4で示す前記した2枚−2枚間隔の領域、すなわち縦枠材間の距離がAy2=379mmである第2の非標準部の2に、断熱材10を挿入する場合を説明する。この場合には、図3(a)に示した断熱材10からV字状の割溝22を利用して、図でそれより左側部分を除去した部分断熱材50cを用いる。部分断熱材50cの前面13側の幅寸法ax1は、略431−略57=略374mmとなり、Ay2=379mmより小さい。また、後面14側の幅寸法ax2は、略460.9−略75.3=略385.6mmとなり、Ay2=379mmより大きい。そのために、上記寸法の部分断熱材50cは、図1にF4として示した2枚−2枚間隔の領域に、前面13側から容易に挿入することができ、さらに押し込む過程で、第3のV字状の割溝23の開口が次第に狭くなる方向に閉じていき、最後には図4(c)に示すように、第3のV字状の割溝23の開口幅が略0.5mmとなった状態で、縦枠間にしっかりと挿入される。したがって、図示の断熱材10において、前記V字状の割溝22は本発明でいう「第3のV字状の割溝」に相当する。
【0044】
次に、図2にF5として示した、モジュール崩れF1における2枚−1枚間隔の領域、すなわち縦枠材間の距離がAx1=404.5mmである第1の非標準部の2に、断熱材10を挿入する場合を説明する。ここでは、Ax1=404.5mmがAy1=398mmに近いことから、前記した部分断熱材50bをそのまま用いる。すなわち、前記したように、部分断熱材50bの前面13側の幅寸法ax1は略391mmであってAx1=404.5mmより小さく、後面14側の幅寸法ax2は、略410.2mmであってAx1=404.5mmより大きい。そのために、部分断熱材50bは、図2にF5として示した領域に、前面13側から容易に挿入することができ、さらに押し込む過程で、第1と第2のV字状の割溝21、22の開口が次第に狭くなる方向に閉じていき、最後には図4(d)に示すように、第1と第2のV字状の割溝21、22の開口幅が略3.5〜4mmにまで狭まった状態で、縦枠間にしっかりと挿入される。
【0045】
次に、図2にF6として示した、モジュール崩れF1における2枚−2枚間隔の領域、すなわち縦枠材間の距離がAx2=385.5mmである第1の非標準部の3に、断熱材10を挿入する場合を説明する。ここでは、Ax2=385.5mmがAy2=379mmに近いことから、前記した部分断熱材50cをそのまま用いる。すなわち、前記したように、部分断熱材50cの前面13側の幅寸法ax1は略374mmであってAx2=385.5mmより小さく、後面14側の幅寸法ax2は略385.6mmであってAx2=385.5mmより大きい。そのために、部分断熱材50cは、図2にF6として示した領域に、前面13側から容易に挿入することができ、さらに押し込むことで、図4(e)に示すように、第3のV字状の割溝23の開口幅が略7mmとなった状態で、縦枠間にしっかりと挿入される。
【0046】
なお、上記図3(a)に示した断熱材10は本発明による断熱材の一つの実施の形態であって、本発明による断熱材はこれに限らない。前記した第1、第2、第3のV字状の割溝21、22、23のすべてが断熱材に設けられている必要はなく、断熱施工しようとする木造枠組構造による住宅における床、天井、または屋根での枠組における前記標準部と非標準部の寸法の種類に応じて、第1、第2、第3のV字状の割溝21、22、23のいずれかを選択的に形成してもよいことは、理解されよう。すなわち、図示しないが、「第1のV字状の割溝」に相当するV字状の割溝21のみを有していてもよく、「第2のV字状の割溝」に相当するV字状の割溝25のみを有していてもよく、「第3のV字状の割溝」に相当するV字状の割溝22のみを有していてもよい。それらを適宜組み合わせて形成することもできる。
【符号の説明】
【0047】
1…木造枠組構造での枠組、
2…縦枠材、
3…横枠材、
10…断熱材、
50(50a〜50c)…部分断熱材、
A…縦枠材間標準部での内寸法、
Ax、Ay…縦枠材間非標準部での内寸法、
B…基材としての枠材と横幅、
K…基材としての枠材の奥行、
a1…断熱材の前面側の幅寸法、
a2…断熱材の後面側の幅寸法、
ax1…部分断熱材の前面側の幅寸法、
ax2…部分断熱材の後面側の幅寸法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横幅B(mm)×奥行K(mm)(>B(mm))である角材を基材とし縦枠材間の標準内寸法がA(mm)である木造枠組構造での枠組であって、住宅の床、天井、または屋根の部分を構成する枠組における前記縦枠材間に挿入される合成樹脂発泡体製の断熱材であり、
前記断熱材は長手方向に沿う1本以上の後面側に開放したV字状の割溝を有しかつ断熱材の前面側の幅寸法a1(mm)は当該枠組の第1の非標準内寸法Ax(=(A+(K−B)/2)(mm))より小さく、後面側の幅寸法a2(mm)は前記Ax(mm)より大きくされており、
前記V字状の割溝のいずれかから断熱材の一部を除去することにより、前記標準内寸法A(mm)である縦枠材間または前記第1の非標準内寸法Axとは異なる第2の非標準内寸法Ay(mm)である縦枠材間に挿入可能な部分断熱材であって、その前面側の幅寸法ax1(mm)は挿入されるべき縦枠材間の標準内寸法A(mm)または第2の非標準内寸法Ay(mm)より小さく、後面側の幅寸法ax2(mm)は標準内寸法A(mm)または第2の非標準内寸法Ay(mm)より大きくされた部分断熱材を得ることができることを特徴とする木造枠組構造用の断熱材。
【請求項2】
前記標準内寸法A(mm)である縦枠材間に挿入可能な大きさの部分断熱材が得られる位置に前記V字状の割溝が第1のV字状の割溝として形成されていることを特徴とする請求項1に記載の木造枠組構造用の断熱材。
【請求項3】
前記第2の非標準内寸法Ay(mm)が(A−B/2)(mm)である縦枠材間に挿入可能な大きさの部分断熱材が得られる位置に前記V字状の割溝が第2のV字状の割溝として形成されていることを特徴とする請求項2に記載の木造枠組構造用の断熱材。
【請求項4】
前記第2の非標準内寸法Ay(mm)が(A−B)(mm)である縦枠材間に挿入可能な大きさの部分断熱材が得られる位置に前記V字状の割溝が第3のV字状の割溝として形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の木造枠組構造用の断熱材。
【請求項5】
基材としての角材が横幅B=38mm、奥行K=89mm、縦枠材間の標準内寸法A=417mmである木造枠組構造の住宅の床、天井、または屋根の部分を構成する枠組の前記縦枠材間に挿入される請求項1ないし4のいずれか一項に記載の木造枠組構造用の断熱材であって、前記各V字状の割溝の後面側の開口幅が略6〜10mmであることを特徴とする木造枠組構造用の断熱材。
【請求項6】
横幅B(mm)×奥行K(mm)(>B(mm))である角材を基材とした木造枠組構造での枠組であって、枠組の縦枠材間の内寸法がA(mm)である内寸法標準部と、標準内寸法A(mm)よりも広い非標準内寸法Ax(=(A+(K−B)/2)(mm))である第1の非標準部と、非標準内寸法Axとは異なる第2の非標準内寸法Ay(mm)である第2の非標準部とを備え、住宅の床、天井、または屋根の部分を構成する枠組の縦枠材間に、前記請求項1ないし5のいずれか一項に記載の断熱材を挿入した木造枠組構造での断熱構造であり、前記第1の非標準部には前記断熱材がそのまま挿入されており、前記標準部および第2の非標準部には前記いずれかのV字状の割溝の部分から一部を除去した後の部分断熱材が挿入されている構造を少なくとも備えることを特徴とする木造枠組構造の断熱構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate