説明

未塗着塗料回収システム、塗装装置及び未塗着塗料回収方法

【課題】ワークに塗着されなかった未塗着塗料を効率よく回収する。
【解決手段】未塗着塗料回収システム10は、帯電されている塗料PをワークWに塗布する塗装ガン72と、塗料Pの電位と逆電位に帯電させた微粒水WLをワークWに塗着しなかった未塗着塗料PSに噴霧する液体噴霧装置62と、未塗着塗料PSを該ワークWの下方において回収する回収室34と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装において被塗装物に塗着されなかった未塗着塗料を回収する未塗着塗料回収システム、塗装装置及び未塗着塗料回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のボディ(被塗装物)等を塗装する際には、塗料に高電圧を印加して帯電させ、該塗料を噴霧して被塗装物に塗着させる静電塗装が実施されている。この場合、ボディに塗着されなかった塗料が、未塗着塗料として塗装室内に浮遊してしまうため、この未塗着塗料を回収することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、塗装室の天井から換気用空気を下向きに吹き出すことで、余剰の吹き付け塗料ミスト(未塗着塗料)を、塗装室の下方にある開口に排出する技術が開示されている。この特許文献1に開示されている塗料ミスト除去装置では、塗装室の下方において洗浄水を流すことで、下方に移動(落下)してきた未塗着塗料と洗浄水を混合(合流)させて、この開口の下部にある洗浄受け入れ槽で未塗着塗料を回収する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−60553公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の塗料ミスト除去装置は、天井から吹き出す換気用空気の流量を、塗料の塗布に影響を与えない程度に設定しなければならない。このため、塗装室内では、未塗着塗料が容易に落下せずに浮遊するとともに、落下した未塗着塗料が再び舞う等の不都合が生じ、未塗着塗料の回収効率が低下することになる。この場合、塗装済みの被塗装物に不要な未塗着塗料が付着する可能性もあり、被塗装物の塗装品質が低下するおそれもある。
【0006】
さらに、特許文献1のように、塗装室の下方において未塗着塗料を洗浄水に混合して回収する構造では、微粒化されている未塗着塗料を確実に捕集(回収)するために、洗浄水を大量に流す必要があり、塗装コストが増大するという課題も生じる。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、被塗装物の塗装品質を低下させずに未塗着塗料を効率よく回収することができ、また回収時の洗浄水の供給量を抑制することで、塗装コストを低減することができる未塗着塗料回収システム、塗装装置及び未塗着塗料回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明に係る未塗着塗料回収システムは、帯電されている塗料を被塗装物に塗布する塗装部と、前記塗料の電位と逆電位に帯電させた液体を前記被塗装物に塗着しなかった未塗着塗料に噴霧する液体噴霧部と、前記未塗着塗料を該被塗装物の下方において回収する回収部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記によれば、塗料の電位と逆電位に帯電させた液体を被塗装物に塗着しなかった未塗着塗料に噴霧する液体噴霧部を備えることで、未塗着塗料と液体が引き合って混合され、微粒化された未塗着塗料よりも大きな粒状の混合物(液体で薄められた未塗着塗料)が得られる。これにより、未塗着塗料の重量が増加するため、重力方向に落下し易くなり、回収部による未塗着塗料の回収効率を上げることができる。また、被塗装物を塗装する室内に未塗着塗料が浮遊することを低減することができるため、塗装済みの被塗装物に不要な未塗着塗料が付着することを抑制できる。さらに、前記液体が水の場合は、混合後の未塗着塗料に水分が含まれるようになるため、回収部において少量の洗浄水を流すだけで、未塗着塗料が該洗浄水に容易になじむようになり、未塗着塗料を容易に捕集することができる。よって、被塗装物の塗装にかかる塗装コストを低減することができる。
【0010】
また、前記液体噴霧部は、前記被塗装物における少なくとも前記塗料が塗布される箇所の下方に前記液体を噴霧することが好ましい。
【0011】
このように、被塗装物の塗料が塗布される箇所の下方に液体を噴霧することで、被塗装物の下方に落下してきた未塗着塗料と液体が容易に混合される。これにより、混合された未塗着塗料をより確実に落下させることが可能となり、被塗装物の周辺部から未塗着塗料が拡散することを防ぐことができる。
【0012】
さらに、前記塗装部の上方には、少なくとも前記被塗装物における前記塗料が塗布される箇所の上方から下方に向かって気体を流す気体供給部が設けられていることが好ましい。
【0013】
このように、気体供給部によって気体を上方から下方に流すことで、被塗装物に塗布され塗着されなかった未塗着塗料を、一層確実に落下させることができる。液体噴霧部は、この気流によって落下してきた未塗着塗料に液体を噴霧することができるため、未塗着塗料の重力方向の落下をより促進させることができる。
【0014】
また、前記の目的を達成するために、本発明に係る塗装装置は、帯電されている塗料を被塗装物に塗布する塗装部と、前記塗装部の下側に設けられ、前記塗料の電位と逆電位に帯電させた液体を前記被塗装物に塗着しなかった未塗着塗料に噴霧する液体噴霧部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
この場合、前記液体噴霧部は、前記被塗装物における少なくとも前記塗料が塗布される箇所の下方に前記液体を噴霧する構成とすれば、該被塗装物に塗着されなかった未塗着塗料を、その下部側にて噴霧された液体により容易に混合することができる。
【0016】
さらに、前記の目的を達成するために、本発明に係る未塗着塗料回収方法は、帯電されている塗料を被塗装物に塗布する塗布工程と、前記塗料の電位と逆電位に帯電させた液体を前記被塗装物に塗着しなかった未塗着塗料に噴霧する液体噴霧工程と、前記未塗着塗料を前記被塗装物の下方において回収する回収工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
この場合、前記液体噴霧工程では、少なくとも前記被塗装物における前記塗料が塗布される箇所の下方に前記液体を噴霧するとよい。
【0018】
また、少なくとも前記被塗装物における前記塗料が塗布される箇所に、上方から下方に向かって気体を流す気体供給工程を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被塗装物の塗装品質を低下させずに未塗着塗料を効率よく回収することができ、また回収時の洗浄水の量を抑制することで塗装コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態に係る未塗着塗料回収システムの塗装室を示す概略斜視図である。
【図2】図1の塗装室を有する塗装ブースを示す概略側面図である。
【図3】図1の塗布ロボットを示す斜視図である。
【図4】図1の塗布ロボットに設けられた液体噴霧装置のイオン化機構を概略的に示す側面断面図である。
【図5】図2の塗装ロボット及びワークの周辺部を拡大して示す一部拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る未塗着塗料回収システム及び塗装装置について、それを実施する方法との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る未塗着塗料回収システム10の塗装室12を示す概略斜視図である。本発明に係る未塗着塗料回収システム10(以下、単にシステム10ともいう)は、図1に示すように、塗装室12において、被塗装物である自動車のボディ(以下、ワークWという)に塗着しなかった塗料を、未塗着塗料として回収するシステムである。
【0023】
すなわち、このシステム10は、ワークWを塗装する塗装システムと一体化されており、ワークWの塗装においては静電塗装が実施される。このため、塗装室12には、静電塗装を行う複数の塗装ロボット14(塗装装置)がワークWの搬送方向に沿って配設されている。この塗装ロボット14からは、マイナス極性に帯電した塗料Pが噴霧され、その反対極(プラス極性)であるワークWに塗料Pが塗着される構成となっている。
【0024】
なお、以下の説明では、図1に図示した矢印方向に基づき、ワークWの搬送方向と直交する幅方向をX方向、ワークWの搬送方向をY方向と呼ぶ。また、ワークWを正面視した際の右方をX1方向、左方をX2方向と呼び、ワークWの搬送における下流方向をY1方向、上流方向をY2と呼ぶ。
【0025】
図2は、図1の塗装室12を有する塗装ブース16を示す概略側面図である。システム10は、図2に示すように、天井壁18、床壁20及び左右の側壁(上部側壁22a、下部側壁22b)によりトンネル形状に形成された塗装ブース16を有している。この塗装ブース16は、パンチングメタル24、フィルタ26及びスノコ28によって上下の室(空間)に仕切られている。具体的には、天井壁18とパンチングメタル24と左右の上部側壁22aで動圧室30を、パンチングメタル24とフィルタ26と左右の上部側壁22aで静圧室32を、フィルタ26とスノコ28と左右の上部側壁22aで塗装室12を、スノコ28と床壁20と左右の下部側壁22bで回収室(回収部)34を、それぞれ構成している。
【0026】
動圧室30は、ブロア36を介して外部から塗装ブース16内に空気(気体)を取り込む空間であり、天井壁18には、ブロア36に接続された供給ダクト38が設けられている。この動圧室30は、外部から取り込んだ空気を室内全域に行渡らせて、下方に配置されている静圧室32に対し下向きの気流を送る。また、動圧室30の床面には、パンチングメタル24が設けられており、このパンチングメタル24は、動圧室30の空気を整流して静圧室32に送る機能を有している。
【0027】
静圧室32は、動圧室30と塗装室12の間に介在し、動圧室30からの下向きの滑らかな気流を受け入れ、塗装室12にその気流を送風する空間である。この静圧室32の下側にはフィルタ26が設けられており、このフィルタ26は、空気に含まれる塵芥を除去し、塗装室12に清浄な気流を供給する機能を有している。
【0028】
図1及び図2に示すように、塗装室12は、実際にワークWを静電塗装する空間であり、ワークWの搬送を行う搬送コンベア40と、この搬送コンベア40の両側に配設される複数の塗装ロボット14と、ワークWの上方に設けられるエア供給装置(気体供給部)42と、を備えている。搬送コンベア40は、塗装室12中央部をY方向に縦断するように敷設されている。この搬送コンベア40には、搬送ライン(Y方向)に沿って移動自在な搬送台車44が設けられている。搬送台車44は、ワークWを1台毎に搭載(固定支持)した状態で、搬送ライン上を上流(Y2)から下流(Y1)に搬送する。
【0029】
塗装ロボット14は、搬送コンベア40を挟んで左右両側に設置されている(なお、図1では、図の理解を容易にするためX1方向の塗装ロボット14の図示を省略している)。これら塗装ロボット14は、搬送コンベア40により搬送されてきたワークWに対し、図示しない制御部の駆動制御に従って静電塗装を実施する。一方、エア供給装置42は、ワークWの所望の箇所に空気を流す機能を有している。この塗装ロボット14及びエア供給装置42の具体的な構成については後述する。
【0030】
この塗装室12には、上方の静圧室32から下方に向けて清浄な気流(空気)が送られている(以下、エアフローADという:図5参照)。エアフローADは、塗装室12内を上方から下方に向かって流れ、床面に設けられているスノコ28を介して回収室34に流入する。このエアフローADは、塗装室12の通過時に、塗装ロボット14が塗布した塗料PのうちワークWに塗着されなかった未塗着塗料PS(図5参照)を落下させる。
【0031】
回収室34は、室内の中央部に凹形状の貯留槽46を備え、この貯留槽46によって未塗着塗料PSを回収する構成となっている。また、左右の下部側壁22bの上方には、オーバフロー槽48がそれぞれ設けられ、2つのオーバフロー槽48の中央部寄り端部には、回収室34の下方に向かって傾斜するフロープレート50が延設されている。このオーバフロー槽48には、回収室34に流入してきた未塗着塗料PSを混合して回収する洗浄水WSが供給されている。未塗着塗料PSは、オーバフロー槽48に落下し洗浄水WSに混合され、該洗浄水WSとともにオーバフロー槽48からフロープレート50を介して貯留槽46に流入される。貯留槽46は、その内部構造によって、未塗着塗料PSと洗浄水WSをより確実に混合するとともに、貯留槽46内の空気中に浮遊している未塗着塗料PSを捕集する。なお、本システム10では、貯留槽46の底部にポンプ52が設けられており、このポンプ52によって槽内に貯留された洗浄水WSをオーバフロー槽48に還流している。
【0032】
また、回収室34の右側(X1方向)には、貯留槽46の排気孔54に連通する分離室56が設けられている。この分離室56は、排気ファン57が途中に設けられた排気ダクト58を介して外部環境(大気)に連通している。未塗着塗料PSが混じった洗浄水WSは、貯留槽46に落下する際に、気流として排気孔54を通って分離室56に移動し、分離室56に配設された複数のエリミネータ60により洗浄水WSと空気に分離され、分離された洗浄水WSが貯留槽46に貯留される。一方、分離された空気は、分離室56から排気ファン57を介して排気ダクト58により大気に放出される。
【0033】
以上のように構成される塗装ブース16の塗装室12内では、塗装ロボット14がマイナス極に帯電している塗料PをワークWに塗布して、該塗料Pを塗着させる。この際、ワークWに塗着されなかった未塗着塗料PSは、上述したように、上方から下方に向かうエアフローADによって、その一部が落下されて回収室34で回収される。しかしながら、この気流だけでは微粒化した未塗着塗料PSを充分に落下させることができず、塗装室12内に残存(浮遊)することになる。
【0034】
本実施の形態に係るシステム10は、上記のような未塗着塗料PSを回収するため、液体噴霧装置(液体噴霧部)62及びエア供給装置42を備えている。すなわち、液体噴霧装置62は、マイナス極に帯電している未塗着塗料PSに対し、逆電位(すなわち、プラス極)に帯電させた水(液体)を噴霧することで、未塗着塗料PSと水を混合させて、重力方向への落下を容易にさせることができる。この液体噴霧装置62は塗装ロボット14に設けられているため、次に塗装ロボット14について詳述する。
【0035】
図3は、図1の塗布ロボット14を示す斜視図である。図3に示すように、塗装ロボット14は、例えば、産業用の多関節型ロボットであり、塗装室12内の所定位置に固定されるベース部63上に、旋回部64が鉛直軸回りに旋回自在に設けられる。旋回部64には、第1アーム66の一端が鉛直方向に回動可能に連結されるとともに、この第1アーム66の他端には、第2アーム68の一端が鉛直方向に回動可能に連結される。第2アーム68の他端には、一対の挟持板70が回動自在に連結され、この一対の挟持板70の間には、塗装ガン(塗装部)72が揺動可能に装着(狭持)される。
【0036】
塗装ガン72は、例えば、静電塗装を行う回転霧化式塗装装置を適用することができる。この場合、回転霧化式塗装装置は、先端部の回転霧化頭72aに高電圧を印加しつつ回転させ、この状態で該回転霧化頭72aに塗料Pを供給することで、塗料Pをマイナス極に帯電させて霧化(微粒化)することができる。
【0037】
ワークWに対し塗装を行う場合は、図示しない制御部によって、塗装ロボット14の関節部分(旋回部64、第1アーム66の一端、第2アーム68の一端及び挟持板70)が駆動制御され、塗装ガン72の先端部(回転霧化頭72a)をワークWの所定箇所に対向させる。すなわち、塗装ロボット14は、複数の関節部分の回動によって塗装ガン72の向き(塗料Pの塗布方向)を設定し、この状態で塗装ガン72から帯電した塗料Pを噴霧することで、ワークWの所定箇所を塗装することができる。
【0038】
液体噴霧装置62は、この塗装ロボット14の旋回部64に設けられており、旋回部64の周面から塗装ガン72の塗布方向に向かって突出する筒状の噴霧筒74を有している。また、液体噴霧装置62は、水を微粒化させるとともにプラス極に帯電させるイオン化機構76(図4参照)を旋回部64内に備え、このイオン化機構76によって帯電した水を噴霧筒74の開口から噴霧する構成となっている。この場合、噴霧筒74は、塗装ガン72による塗料Pの塗布方向と略一致する方向に帯電した水を噴霧することができる。
【0039】
図4は、図1の塗布ロボット14に設けられた液体噴霧装置62のイオン化機構76を概略的に示す側面断面図である。イオン化機構76は、図4に示すように、水を微粒化して前方に送る微粒子生成部78と、微粒化した水をプラス極に帯電させる帯電部80とを備えている。
【0040】
イオン化機構76の微粒子生成部78は、下部側に所定量の水を貯水する水槽82を有し、この水槽82の底面には超音波振動子83が配設されている。超音波振動子83は、水面に向けて超音波を発振することで、貯水されている水の水面に定在波を発生させ、さらにこの定在波から微粒化した水(以下、微粒水WLという)を上方に生じさせる。これにより、微粒水WLが霧状になって水槽82上方の空間に漂流する。この微粒水WLは、微粒子生成部78の上方後側に設けられた送風ファン84から空気が吹き付けられることで、微粒子生成部78の前方に配設されている帯電部80に向かって移動する。
【0041】
帯電部80は、上下に離間した一対の電極85を有しており、この一対の電極85は、図示しない高電圧発生回路によって高電圧が印加される。高電圧が印加されると、一対の電極85間の空間がプラス極に帯電する。この空間には、送風ファン84によって送られた微粒水WLが通過し、これにより微粒水WLがプラス極に帯電されることになる。
【0042】
液体噴霧装置62は、帯電部80によりプラス極に帯電した微粒水WLを、送風ファン84の風力によってそのまま噴霧筒74に送り、該噴霧筒74の開口部から噴霧する。上述のとおり、噴霧筒74は、塗装ガン72による塗料Pの塗布方向と同一方向に微粒水WLを噴霧するため、ワークWに塗着されずに下方に落下してきた未塗着塗料PS(塗料P)に対し微粒水WLを噴霧することができる。
【0043】
また、未塗着塗料回収システム10のエア供給装置42は、図1及び図2に示すように、塗装ロボット14によって塗料Pの塗着が行われているワークWの所定箇所に対し、空気を送風する機能を有している。エア供給装置42は、外部のブロア36に接続され塗装室12の上方から延びるチューブ86と、このチューブ86の一端部に設けられる送風案内カバー88と、を備えている。
【0044】
エア供給装置42には、ブロア36から空気が取り込まれて、この空気はチューブ86を介して送風案内カバー88に供給される。送風案内カバー88は、チューブ86から供給されてきた空気を平面的に案内して排気することができ、ワークWの形状に沿って上方から下方に局所的なエアカーテンACを形成する。エア供給装置42は、このエアカーテンACをワークWの所定箇所に流すことで、該ワークWの周辺に浮遊している未塗着塗料PSを下方へ押し流すことができる。
【0045】
本実施の形態に係る塗装装置を組み込む未塗着塗料回収システム10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、この未塗着塗料回収システム10の作用について説明する。図5は、図2の塗装ロボット14及びワークWの周辺部を拡大して示す一部拡大側面図である。
【0046】
このシステム10は、ワークWの塗装において、塗装されなかった未塗着塗料PSの回収を行う。したがって、先ずワークWの塗装について説明する。ワークWを塗装する場合は、搬送コンベア40によって、塗装室12内の所定位置(塗装ロボット14が塗装を行う位置)にワークWが搬送される。
【0047】
ワークWが所定位置に搬送されると、塗装ロボット14を駆動制御して、ワークWの所定箇所(被塗布箇所)の対向位置に塗装ガン72を移動させる。そして、この塗装ガン72からワークWに対して塗料Pの塗布が行われる(塗布工程)。図5に示すように、この塗装においては、マイナス極に帯電した塗料Pが塗装ガン72から噴霧され、この塗料Pは、搬送台車44を介して地面に接地されているワークW、すなわちプラス極の極性を有するワークWに塗着される。
【0048】
また、ワークWの塗装時には、エア供給装置42によって、ワークWの塗料Pが塗布される箇所に、上方から下方に向かう気流(エアカーテンAC)が供給される(気体供給工程)。この場合、エアカーテンACは、エア供給装置42によって緩やかな流速(例えば、0.3m/s)に調整されている。エアカーテンACは、ワークWに対する塗料Pの塗着を許容する一方で、塗料Pが塗着して所定の膜厚となった箇所に塗布される塗料Pを、未塗着塗料PSとして下方に押し流すことができる。
【0049】
さらに、塗装室12には、上方(静圧室32)から下方に向かうエアフローADが供給されており、このエアフローADによって、塗装において飛散した未塗着塗料PSを下方に落下させる。すなわち、システム10は、エアカーテンAC及びエアフローADという2つの気流が上方から下方に流れることで、未塗着塗料PSの落下を促進している。
【0050】
ここで、ワークWの塗装時には、塗料Pの噴霧と同時に、塗装ロボット14の下部に設けられている液体噴霧装置62からプラス極に帯電した微粒水WLの噴霧が行われる(液体噴霧工程)。この微粒水WLは、噴霧筒74によって、平面視で塗料Pの噴霧方向と同一方向に噴霧される。
【0051】
ワークWに塗着されなかった未塗着塗料PSは、エアカーテンACやエアフローAD等により、そのまま下方に落下されるため、微粒水WLは、未塗着塗料PSに対して噴霧されることになる。つまり、液体噴霧装置62は、プラス極に帯電した微粒水WLを、マイナス極に帯電した未塗着塗料PSに噴霧する。これにより、重量が軽い微粒状の未塗着塗料PSと、重量が軽い微粒状の微粒水WLが、異なる電位によって互いに引き合い、容易に混合される。この場合、マイナス極に帯電した未塗着塗料PSを中和するように、プラス極に帯電した微粒水WLが集まるため、比較的重量が増加した粒状の混合塗料WPが得られる。その結果、混合塗料WP(未塗着塗料PS)は、重力方向の落下がさらに促進されて、下方の回収室34に一層確実に導かれることになる。
【0052】
また、回収室34では、オーバフロー槽48に洗浄水WS(例えば、水)が供給されており、塗装室12からスノコ28を介して落下してきた混合塗料WP(未塗着塗料PS)と洗浄水WSが合流(混合)される。このとき、混合塗料WPは微粒水WLの混合により薄められた状態とされているため、洗浄水WSに容易に混じり合う。そして、混合塗料WP(未塗着塗料PS)が混じり合った洗浄水WSは、オーバフロー槽48から貯留槽46に流され、貯留槽46に貯留される。これによりシステム10は、未塗着塗料PSを確実に回収することができる(回収工程)。
【0053】
なお、液体噴霧装置62は、上述のように超音波振動子83を用いて微粒水WLを生成し、一対の電極85によって該微粒子を帯電させる構成に限定されるものではない。例えば、液体噴霧装置62は、水槽から供給される少量の水に圧縮空気を吹き付けることで、水を微粒化することができ、この微粒化した水(微粒水WL)を一対の電極85によって帯電させる構成としてもよい。
【0054】
また、液体噴霧装置62は、高電圧発生回路(図示せず)を備え、該高電圧発生回路の一端の電極(霧化電極)を水の供給路に取り付けるとともに、他端(対向電極)を供給路の開口部前方の空間に置くことで静電界を形成する構成としてもよい。この場合、高電圧発生回路により電圧を印加すると、霧化電極に生じる静電気力で水の粒子が分離し、プラス極性をもった水粒子を前方に飛び出させることができる。
【0055】
以上のように、本実施の形態に係る未塗着塗料回収システム10及び未塗着塗料回収方法によれば、ワークWに塗着しなかった未塗着塗料PSに、塗料Pの電位と逆電位に帯電させた微粒水WLを噴霧することで、未塗着塗料PSと微粒水WLが容易に混合され、混合塗料WP(未塗着塗料PS)の重量が増加する。これにより、未塗着塗料PSが重力方向に落下し易くなり、未塗着塗料PSの回収効率を上げることができる。
【0056】
その結果、ワークWを塗装する塗装室12内に未塗着塗料PSが浮遊することを低減することができ、塗装済みのワークWに不要な未塗着塗料PSが付着することを抑制することができる。したがって、ワークWの塗装品質の向上を図ることができる。
【0057】
また、微粒水WLとの混合により混合塗料WP(未塗着塗料PS)には水分が含まれるため、洗浄水WSに容易になじむようになり、下方に落下した未塗着塗料PSを再び飛散させることを防ぐことができる。これにより、未塗着塗料PSの回収効率が一層向上する。さらに、少量の洗浄水でも未塗着塗料PSを容易に回収できるため、ワークWの塗装にかかる塗装コストを低減することができる。
【0058】
またさらに、エア供給装置42によってエアカーテンACを形成し、該エアカーテンACを流すことで、ワークWに塗布され塗着されなかった未塗着塗料PSを、一層確実に落下させることができる。液体噴霧装置62は、このエアカーテンACによって落下してきた未塗着塗料PSに微粒水WLを噴霧することができるため、未塗着塗料PSの重力方向の落下をより促進させることができる。
【0059】
なお、本発明は、上記の実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
10…未塗着塗料回収システム 12…塗装室
14…塗装ロボット 16…塗装ブース
34…回収室 40…搬送コンベア
42…エア供給装置 46…貯留槽
62…液体噴霧装置 72…塗装ガン
74…噴霧筒 76…イオン化機構
86…チューブ 88…送風案内カバー
AC…エアカーテン AD…エアフロー
W…ワーク WL…微粒水
WS…洗浄水 P…塗料
PS…未塗着塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電されている塗料を被塗装物に塗布する塗装部と、
前記塗料の電位と逆電位に帯電させた液体を前記被塗装物に塗着しなかった未塗着塗料に噴霧する液体噴霧部と、
前記未塗着塗料を該被塗装物の下方において回収する回収部と、
を備えることを特徴とする未塗着塗料回収システム。
【請求項2】
請求項1記載の未塗着塗料回収システムにおいて、
前記液体噴霧部は、前記被塗装物における少なくとも前記塗料が塗布される箇所の下方に前記液体を噴霧することを特徴とする未塗着塗料回収システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の未塗着塗料回収システムにおいて、
前記塗装部の上方には、少なくとも前記被塗装物における前記塗料が塗布される箇所の上方から下方に向かって気体を流す気体供給部が設けられていることを特徴とする未塗着塗料回収システム。
【請求項4】
帯電されている塗料を被塗装物に塗布する塗装部と、
前記塗装部の下側に設けられ、前記塗料の電位と逆電位に帯電させた液体を前記被塗装物に塗着しなかった未塗着塗料に噴霧する液体噴霧部と、
を備えることを特徴とする塗装装置。
【請求項5】
請求項4記載の塗装装置において、
前記液体噴霧部は、前記被塗装物における少なくとも前記塗料が塗布される箇所の下方に前記液体を噴霧すること特徴とする塗装装置。
【請求項6】
帯電されている塗料を被塗装物に塗布する塗布工程と、
前記塗料の電位と逆電位に帯電させた液体を前記被塗装物に塗着しなかった未塗着塗料に噴霧する液体噴霧工程と、
前記未塗着塗料を前記被塗装物の下方において回収する回収工程と、
を有することを特徴とする未塗着塗料回収方法。
【請求項7】
請求項6記載の未塗着塗料回収方法において、
前記液体噴霧工程では、少なくとも前記被塗装物における前記塗料が塗布される箇所の下方に前記液体を噴霧すること特徴とする未塗着塗料回収方法。
【請求項8】
請求項6又は7記載の未塗着塗料回収方法において、
少なくとも前記被塗装物における前記塗料が塗布される箇所に、上方から下方に向かって気体を流す気体供給工程を備えることを特徴とする未塗着塗料回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−232224(P2012−232224A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100367(P2011−100367)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】