説明

未燃カーボンを含むスラグの処理方法

【課題】
固体燃料を部分酸化して得られた未燃カーボンを含むスラグを再利用するにあたり、効率的に未燃カーボンを含むスラグを回収するための方法を提供する。
【解決手段】
炭素質燃料をガス化装置のガス化反応室に供給して、発生ガスと、未燃カーボンおよび灰分を含むスラグとを得る工程と、前記発生ガスおよび前記スラグを前記ガス化反応室の下部にある水が貯留された急冷室に送り急冷する工程と、前記急冷室の下部側壁から排出されたスラグ/水スラリーを濃縮装置に供給し濃縮されたスラグを得る工程と、濃縮されたスラグにせん断力を与えてスラグの表面に付着した灰分をスラグから剥離した後、せん断力を与えた後の濃縮されたスラグを分離装置において粗粒スラグと微粒スラグに分離する工程と、を有し、前記粗粒スラグ中の未燃カーボンの濃度は、前記濃縮されたスラグ中の未燃カーボンの濃度よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭、石油コークスなどの単独又はそれらの混合物からなる炭素質燃料をガス化反応させて水素ガス等の発生ガスを得る際に生じる未燃カーボンおよび灰分を含むスラグの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および2に記載された炭素質燃料をガス化反応させて水素ガス等の発生ガスを得る際に生じる未燃カーボンおよび灰分を含むスラグを回収する工程を図6を用いながら説明する。
石炭、石油コークスなどの単独又はそれらの混合物からなる炭素質燃料は、ライン1を通って1次湿式粉砕機2に導入される。炭素質燃料は、1次湿式粉砕機2において水とともに湿式粉砕される。調整された炭素質燃料/水スラリーは、ライン4を通ってスラリータンク5を経由して、スラリー供給ポンプ7によりライン8を通ってバーナー9に送られ、ライン10を通ってバーナー9に導入される酸素とともにガス化装置11の頂部からガス化反応室12に供給されるようになっている。ガス化装置11は、上段に耐火物で内張りされたガス化反応室12を備え、下段に発生ガスを急冷するために水を張った急冷室14を備えている。
【0003】
上記にて発生した発生ガスは、急冷室14の水面上部域に設けられたガス排出口14cからライン15を通って、スクラバー16の下部に送られる。他方、急冷室14の下部側壁においては、未燃カーボンおよび灰分を含むスラグ(以下「ファインスラグ」という)がスラリーの形で排出口14dからライン23を通ってセトラー35へ送出されるようになっている。セトラー35へ供給されたファインスラグを含有するスラリーは、セトラー35内で固・液分離が行なわれる。セトラー35上部からの清澄水は、スクラバー16の底部に伸びるライン20などにプロセス水として利用される。また、セトラー35内で分離された濃度の比較的高いファインスラグの一部は、1次湿式粉砕機2に供給され、新たな炭素質燃料と一緒に粉砕される。また、再利用されない残部のファインスラグは脱水機で水と分離されて系外に排出される。
【0004】
ファインスラグは、未反応の未燃カーボンと灰分で構成されて幅広い粒度分布を持っている。ファインスラグ全体の未燃カーボン分は通常約60〜70質量%であり、残分はガス化に不要な灰分である。このように灰分を約30〜40質量%含むファインスラグを回収して再利用しているが、ガス化システム内で循環する灰分が増加してくるためその再利用量には制限があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−3464号公報
【特許文献2】特開2001−214178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、再利用されるファインスラグから、効率的に未燃カーボン分を回収するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ファインスラグの性状を詳細に検討した結果、次のような知見を得た。まず、ファインスラグは、表層部には灰分の含有率が高く、中心部には未燃カーボンの含有率が高い(図2)。ここで、未燃カーボンとは、ガス化反応において反応しなかった炭素質をいい、揮発成分を含む概念である。また、ファインスラグの粒子径が大きくなるにつれて、未燃カーボンの含有率が高くなる。さらに、灰分の含有率が高いファインスラグの表層は、疎密であり、容易に剥離することができる(図3)。また、表層の灰分を剥離した後のファインスラグの中心部は、表面層に比べて緻密な構造である(図4)。本発明者らは、これらの知見を総合し以下の発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下のとおりである。
(1)炭素質燃料をガス化装置のガス化反応室に供給して、発生ガスと、未燃カーボンおよび灰分を含むスラグとを得る工程と、前記発生ガスおよび前記スラグを前記ガス化反応室の下部にある水が貯留された急冷室に送り急冷する工程と、前記急冷室の下部側壁から排出されたスラグ/水スラリーを濃縮装置に供給し濃縮されたスラグを得る工程と、濃縮されたスラグにせん断力を与えてスラグの表面に付着した灰分をスラグから剥離した後、せん断力を与えた後の濃縮されたスラグを分離装置において粗粒スラグと微粒スラグに分離する工程と、を有し、前記粗粒スラグ中の未燃カーボンの濃度は、前記濃縮されたスラグ中の未燃カーボンの濃度よりも高いことを特徴とする未燃カーボンを含むスラグの処理方法。これにより、未燃カーボンの含有量が多いスラグを得ることができる。
(2)前記粗粒スラグは、63μm未満の粒度を有する粒子の割合が粗粒スラグ全体の35質量%以下である前記(1)記載の未燃カーボンを含むスラグの処理方法。これにより、未燃カーボンの含有量が多いスラグを得ることができる。
(3)前記粗粒スラグを燃焼装置に供給する前記(1)または(2)記載の未燃カーボンを含むスラグの処理方法。これにより、未燃カーボンを再利用し、新たな炭素質燃料の使用量を削減することができる。
(4)前記燃焼装置は、前記ガス化装置である前記(3)記載の未燃カーボンを含むスラグの処理方法。これにより、ガス化装置に持ち込まれる灰分を減少させることができ、ガス化効率を向上させることができる。
(5)前記分離装置は、液体分級器である前記(1)から(4)のいずれか1項に記載の未燃カーボンを含むスラグの処理方法。これにより、一つの装置で濃縮と分級を行うことができる。すなわち、スラグ/水スラリー濃度を向上させることができると同時に、未燃カーボンの含有量が多い粗粒を分級することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、効率的に未燃カーボンの回収を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明におけるスラグの回収工程である
【図2】本発明におけるファインスラグ粒子構造の模式図である。
【図3】本発明におけるファインスラグの粒子表面のSEM写真である。SEM:Scanning Electron Microscope(走査型電子顕微鏡)
【図4】本発明におけるファインスラグの表面灰分を取り除いたコア粒子部分のSEM写真である。
【図5】本発明における液体サイクロンの概略図である。
【図6】従来のスラグの回収工程である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における炭素質燃料をガス化反応させて水素ガス等の発生ガスを得る際に生じる未燃カーボンおよび灰分を含むスラグを回収する工程を図1を用いながら詳細に説明する。尚、図6で述べた従来の未燃カーボンの回収方法と同一の要素には同一の符号を付した。
【0012】
[炭素質燃料をガス化装置に供給して発生ガスと、未燃カーボンおよび灰分を含むスラグとを得る工程]
本発明において用いられる炭素質燃料の具体例としては、石炭および石油コークスなどが挙げられる。天然ガス、ナフサ、原油、C重油、減圧残渣油のような重質油などを含むことができる。炭素質燃料はライン1を通って1次湿式粉砕機2に導入される。調整された炭素質燃料・水スラリーは、ライン4を通ってスラリータンク5に送られる。炭素質燃料・水スラリーは、スラリー供給ポンプ7によりライン8を通ってバーナー9に送られ、ライン10を通ってバーナー9に導入される酸素とともにガス化装置11の頂部からガス化反応室12に供給されるようになっている。ガス化温度は1000〜1700℃、圧力は0.1〜20MPaG(Gはゲージ圧を示す)の操作条件下で酸素と反応させると約95%のガス化率が得られる。得られる発生ガスは、水素、一酸化炭素、二酸化炭素を主成分とするガスである。
【0013】
[発生ガスと前記スラグとを水が貯留された急冷室に供給し冷却する工程]
ガス化装置11は、上段に耐火物で内張りされたガス化反応室12を備え、下段に発生ガスを急冷するために水が貯留された急冷室14を備えており、ガス化反応室12と急冷室14はスロート部13にて連通されている。急冷室14には水が適宜な高さまで張られており、下端がこの水に没するように筒状のディップチューブが同軸的に設けられている。発生ガスとスラグは、急冷室において急冷される。
【0014】
上記にて発生した発生ガスは、急冷室14の水面上部域に設けられたガス排出口14cからライン15を通って、図示しないカーボン捕集器を経由してカーボンスクラバー16の下部に送られて、カーボンスクラバー16の上部に配設されたライン17より供給された水によって、気液接触して洗浄され、カーボンスクラバー16頂部よりライン18を通って次工程に送られる。また、カーボンスクラバー16底部においては、後で述べるセトラー35の清澄水の一部がライン20を通って還流され、カーボンスクラバー16底部の液面を一定に保つようにすると同時に、底部液の一部はライン19を通って急冷室14に還流されるように配管が設けられている。
【0015】
急冷室14の最下部域にはガス化反応により発生した未反応の炭素質燃料(未燃カーボン)は水との混合によってスラリーとなり、急冷室14の最下部に配設されたロックホッパー22の上下のバルブを開閉することによって、ライン21を通ってガス化装置11系外へ排出されるようになっている。こうしてロックホッパー22からライン24を通って排出された未反応の炭素質燃料は適宜な目開きをしたフルイ25で振分けされ、前記フルイ25を通過した比較的粒度の細かいファインスラグを含有するスラリーのみが取出され、このスラリーはライン27を通ってライン23へ接続された構成となっている。なお、フルイ25を通過しなかったフルイ25上の残分である粒度の粗いスラグ(コーススラグ)は、次工程で埋立てなどで処分されるようになっている。
【0016】
[前記急冷室の下部側壁から排出されたスラグ/水スラリーを濃縮装置に供給し濃縮されたスラグを得る工程]
他方、急冷室14の下部側壁においては、後記する比較的粒度の細かいファインスラグがスラリーの形で排出口からライン23を通ってライン26を経て濃縮装置であるセトラー35へ送出されるようになっている。
ここで、得られたファインスラグは、前で述べたとおり、表層部には灰分の含有率が高く、中心部には未燃カーボンの含有率が高い(図2)。ファインスラグが二層構造となる理由は詳細には不明であるが、以下のように推測される。ガス化工程において、バーナーから燃焼火炎中に噴霧された原料スラリーは高温により水分が蒸発し、次に石炭、石油コークスなどの炭素質燃料粒子が表面から酸素と反応してガス化し、それに伴いガス化しない灰分が粒子表面に残留する。反応が進むに従って粒子は縮小していくが、急冷されるまでの時間が非常に短いため、表面に灰分、内部に未反応のカーボンを残したままスラグとして回収されていると推測される。
また、後で述べる実施例で述べるとおりファインスラグの粒子径が大きくなるにつれて、未燃カーボンの含有率が高い。具体的には、63μm以上の粒子径を有するファインスラグ中の未燃カーボンの含有率は、ファインスラグ全体のそれと比べて高い。さらに、灰分の含有率が高いファインスラグの表層は、微細な空隙を持っている疎密な構造であり、しかも容易に剥離することができる(図3)。また、表層の灰分を剥離した後のファインスラグの中心部は、表面層に比べて緻密な構造である(図4)。表層部の灰分が空隙を伴って疎密な構造となるのは、炭素質燃料の持つ灰分割合が数%から十数%であるので表面に残留する量は少なく、また、ガス化による炭素質の消失により微細な空隙を持った疎密な構造を形成すると考えられる。
ファインスラグ粒子は、その粒子の核となる中心部分に未燃カーボンが存在しており、粒子の表面層はポーラスで微細な灰分粒子に覆われた二重構造である。セトラー35へ供給されたこれらのファインスラグを含有するスラリーは、セトラー35内で固・液分離が行なわれ、セトラー35上部からの清澄水はカーボンスクラバー16の底部に伸びるライン20などにプロセス水として利用される。また、セトラー35内で分離された濃度の比較的高いファインスラグは、セトラー35の底部からライン28、ライン38を介してタンク50へ送出される。尚、濃度の高いファインスラグは必要に応じて脱水機37へ送給され、脱水機37で強制脱水することもできる。このように濃縮されたファインスラグスラリー濃度は、5から25質量%である。また、ファインスラグの粒子径は0.5から600μmである。
【0017】
[濃縮されたスラグにせん断力を与えてスラグの表面に付着した灰分をスラグから剥離した後、せん断力を与えた後の濃縮されたスラグを分離装置において粗粒スラグと微粒スラグに分離する工程]
濃縮されたスラグは、せん断力を与えることにより、簡単に灰分が崩壊して分離する。これにより、スラグの表面に付着した灰分をスラグから剥離することができる。剥離された灰分の粒子径は、0.1から30μmと微粒であるので、後で述べる分離装置57によって、容易に粒度の大きなファインスラグから分離することができる。ファインスラグから灰分の多い微細粒子を分離除去することと、粗大粒子からも灰分を分離して除去することで効率的に未燃カーボンを回収することができる。
【0018】
せん断を与える手段53としては、ボールミル、タワーミルなどのボールを粉砕媒体にした粉砕装置が挙げられる。ファインスラグ粒子にせん断力が作用する遠心ポンプなどを用いて数回循環させてせん断力を与えることもできる。せん断により、ファインスラグの粒子径は0.1から400μmとなる。せん断力を与えた後の濃縮されたスラグは分離装置57に送られる前にタンク54に貯留される。
【0019】
せん断力を与えた後の濃縮されたスラグは、剥離された微粒の灰分および未燃カーボンの含有率が低い微粒スラグを除去するために分離装置57に供給され、粗粒スラグと微粒スラグに分離される。分離装置57に供給されるファインスラグスラリー濃度は5から25質量%である。また、粒子径は、0.1から400μmである。さらに、未燃カーボン含有率は60から70質量%である。
ファインスラグスラリーから、微細粒子を分離する方法としては、篩を使用した分級方法や液体サイクロン(液体分級器)などの比重差を利用した分級方法などがある。この中で、スラリーを濃縮し、粗粒分を効率的に得ることができる液体サイクロンが好適に用いられる。液体サイクロンは稼動部がなく目詰りなどの障害が起きにくいので保守管理がしやすいことからも有用である。尚、比重差を利用した分級方法の場合は、微細な灰分を含むスラリーの場合は濃度が25wt%を超えると、微細粒子を含む液比重と粗粒子との比重差が小さくなり分離能が低下するおそれがある。
【0020】
液体サイクロンを用いる場合について説明する。図5に液体サイクロンの概略図を示す。液体サイクロンはハイドロサイクロンとも呼ばれており、通常は水を媒体としたスラリーや混合液を旋回による遠心力を利用して分離・分級を行うものである。供給口71から液体サイクロンに供給されたスラリーは、直胴部72の塔内で旋回し、水より比重の大きい固形物質に働く遠心力により設定した閾値を境として下方旋回流によりコーン部73から下部排出口74から下部に排出される(粗粒)。また、比重の小さい物質(微粒)は内筒15から上方流により上部排出口75から上部へと排出される。このとき供給流速は1〜2m/秒以上で、圧力降下は40kPa以上が必要である。
【0021】
液体サイクロンは様々なサイズがあるので処理流量、分級粒度および濃度、下部流量と上部流量などからサイズが決定される。また、一般的には液体サイクロンの内径が小さいほど分級性能が高いので、用途に合わせて大型の液体サイクロンを使用するか、小型の液体サイクロンを多数組み合わせて処理量を調整する方法が使用されている。
【0022】
本発明の場合は、下部分級液中の固体粒子(粗粒)の粗粒スラグは、63μm未満の粒度を有する粒子の割合が粗粒スラグ全体の35質量%以下であるとなるようにするためには、例えば液体サイクロンの下部絞りと上部内筒径の比は、1.1〜4倍とする。スラリーの供給流速は1から2m/秒である。
【0023】
液体サイクロンの下部から排出される粗粒スラグのスラリー濃度は20から60質量%である。また、粒子径は、0.5から400μm(メジアン径は60から150μm)である。さらに、粗粒スラグ中の未燃カーボン含有率は70から85質量%である。
他方、液体サイクロンの上部から排出される微粒スラグのスラリー濃度は2から15質量%である。また、粒子径は、0.1から150μm(メジアン径は5から30μm)である。さらに、微粒スラグ中の未燃カーボン含有率は50から65質量%である。
このようにして粗粒スラグ中の未燃カーボンの濃度は、前記濃縮されたスラグ中の未燃カーボンの濃度よりも高くなる。ファインスラグの微細な粒子を分級削減することにより、未燃カーボンの回収割合が従来方法より5質量%以上も向上させることができる。粗粒スラグは、63μm未満の粒度を有する粒子の割合が粗粒スラグ全体の35質量%以下である。
【0024】
このようにして未燃カーボンの含有率が向上した粗粒スラグは、回収ファインスラグスラリーとして、燃焼装置に供給される。前記燃焼装置としては、未燃カーボンを燃料として燃焼させる装置である。具体的には、セメント製造装置や石炭炊きボイラなどが挙げられる。また、前記ガス化装置11に供給することもできる。灰分の多い微細粒子スラリーは脱水処理を行って系外に排出し、脱水した水は循環水として再利用される。
【実施例】
【0025】
[ファインスラグの測定方法]
粒子径:レーザー回折・散乱法。分析装置はHORIBA製LA−910を使用した。
スラリー濃度:スラリーをろ過して得られたケーキを乾燥器にて105℃-24時間乾燥し、乾燥前後の質量から求めた。
未燃カーボン濃度:乾燥器にて105℃-24時間乾燥した。得られた乾燥ファインスラグと未分級のファインスラグを熱天秤装置(理学製TAS−100)にて空気流通100mL/min、10℃/min、RT〜800℃条件でTG−DTAを測定し未燃カーボン燃焼による重量減少を測定した。
【0026】
[ファインスラグの粒子径と未燃カーボン濃度の相間の検討]
図1に示す工程において石油コークスをガス化し急冷し、セトラー35の底部から得られた濃縮されたファインスラグスラリーを使用した。ファインスラグのスラリー濃度は10.2質量%、メジアン径は51.4μm、未燃カーボン含有率は63.0質量%であった。このファインスラグスラリーを20μm、45μm、63μm、90μm、150μm目開きの篩で湿式分級を行なった。乾燥器にて105℃-24時間乾燥した。得られた乾燥ファインスラグと未分級のファインスラグを熱天秤装置(理学製TAS−100)にて空気流通100mL/min、10℃/min、RT〜800℃条件でTG−DTAを測定し未燃カーボン燃焼による重量減少を測定した。測定結果を表1に示す。この結果、未分級のファインスラグの未燃カーボン割合は63質量%であったのに対して、63μm未満の粒子中に含まれている未燃カーボン割合は28.9〜60.4質量%と未燃カーボン割合が減少していることがわかる。これに対して、63μm以上の粒子では63〜90μmで70.6質量%、90〜150μmで81.0質量%および150μm以上で88.6質量%となって、未分級のファインスラグの63質量%より未燃カーボン割合が高いことが確認された。
【0027】
【表1】

[実施例1]
図1に示す工程において石油コークスをガス化し急冷し、セトラー35の底部から得られた濃縮されたファインスラグスラリーを使用した。ファインスラグのスラリー濃度は7.7質量%、メジアン径は40.2μm、未燃カーボン含有率は69.9質量%であった。このファインスラグスラリーを内筒径4inchの液体サイクロン(KREBS社製)を用いて分級を行った。オーバーフロー絞りとアンダーフロー絞りを1.25inchと1.0inchとした時のフィード濃度が7.7質量%、流量20m/hrで分級を行った時のオーバーフロー(液体サイクロンの頂部から排出される微粒スラリー)とアンダーフロー(液体サイクロンの底部から排出される粗粒スラリー)の粒子を乾燥してメジアン径と熱天秤によるTG−DTAを測定した。その結果を表2に示す。粒子のメジアン径はフィードが40.2μmに対してオーバーフローが16.5μm、アンダーフローが85.1μmであり、未燃カーボン割合は比較例3のフィードが69.9質量%、実施例2のオーバーフローが61.2質量%、アンダーフローが77.2質量%となり、サイクロンによる分級によりアンダーフローの粗粒子側に未燃カーボンが7質量%増加した。この時のアンダーフロー液の63μm未満の粒子割合は32質量%以下であった。
【0028】
【表2】

【0029】
[実施例2]
上記実施例1において得られたファインスラグスラリーを使用して、内筒径6inchの液体サイクロン(KREBS社製)を用いて分級を行った。オーバーフロー絞りとアンダーフロー絞りは2.0inchと1.5inchでフィード濃度が7.7質量%、流量38m/hrで分級を行った以外は、実施例1と同様な方法で分級した。その結果を表3に示す。粒子のメジアン径は、フィードが40.2μmに対してオーバーフローが18.4μm、アンダーフローが92.0μmであり、未燃カーボン割合は比較例3のフィードが69.9質量%、実施例3のオーバーフローが64.2質量%、アンダーフローが76.9質量%となり、サイクロンによる分級によりアンダーフロー液の粗粒子側に未燃カーボンが7質量%増加した。この時のアンダーフロー液の63μm未満の粒子割合は31質量%以下であった。
【0030】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、石油コークス、石炭またはそれらの混合物からなる炭素質燃料/水スラリーをガス化反応させる際に発生するスラグ中の未燃カーボンの含有率を向上させ、それを再利用する際に利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
2 1次湿式粉砕機
7 スラリー供給ポンプ
9 バーナー
11 ガス化装置
12 ガス化反応室
14 急冷室
16 カーボンスクラバー
22 ロックホッパー
25 フルイ
30 予備湿式粉砕機
35 セトラー
37 脱水機
40 リサイクルタンク
41 ポンプ
50 タンク
53 せん断手段
57 分離装置
61 疎密な灰部分
62 緻密な未燃カーボン部分
71 供給口
72 直胴部
73 コーン部
74 下部排出口
75 上部排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質燃料をガス化装置のガス化反応室に供給して、発生ガスと、未燃カーボンおよび灰分を含むスラグとを得る工程と、
前記発生ガスおよび前記スラグを前記ガス化反応室の下部にある水が貯留された急冷室に送り急冷する工程と、
前記急冷室の下部側壁から排出されたスラグ/水スラリーを濃縮装置に供給し濃縮されたスラグを得る工程と、
濃縮されたスラグにせん断力を与えてスラグの表面に付着した灰分をスラグから剥離した後、せん断力を与えた後の濃縮されたスラグを分離装置において粗粒スラグと微粒スラグに分離する工程と、
を有し、
前記粗粒スラグ中の未燃カーボンの濃度は、前記濃縮されたスラグ中の未燃カーボンの濃度よりも高い
ことを特徴とする未燃カーボンを含むスラグの処理方法。
【請求項2】
前記粗粒スラグは、63μm未満の粒度を有する粒子の割合が粗粒スラグ全体の35質量%以下である請求項1記載の未燃カーボンを含むスラグの処理方法。
【請求項3】
前記粗粒スラグを燃焼装置に供給する請求項1または2記載の未燃カーボンを含むスラグの処理方法。
【請求項4】
前記燃焼装置は、前記ガス化装置である請求項3記載の未燃カーボンを含むスラグの処理方法。
【請求項5】
前記分離装置は、液体分級器である請求項1から4のいずれか1項に記載の未燃カーボンを含むスラグの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−236738(P2010−236738A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83864(P2009−83864)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】