末梢神経と神経組織の向上された成長のための方法およデバイス
内腔および長軸を有している管状のボディ、および管状のボディの内腔の長軸に沿って実質的に平行に置かれた複数の絹の要素、を含む医療用デバイス。管状のボディを形成し、管状のボディの内腔の長軸に沿って本質的に平行に配置されるように管状のボディの内腔へ絹の要素を導入することを含む、医療用デバイスを製造する方法。本発明の医療用デバイスを神経を再生するための部位に移植することを含む、神経細胞の再生のための方法に本発明のデバイスは使用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢神経および中枢神経組織の治療の向上のために好適なデバイス、構築のための方法およびその使用に関する。
【0002】
場所によっては、外傷または外科手術によって引き起こされた末梢神経損傷は、感覚と運動の消失に結びつく場合がある。回復の速度および程度は遅く、しばしば不完全で、可変である。例えば、機能の喪失は患者を非常に苦しめる場合があり、たとえば、陰茎の神経の損傷は男性のインポテンツに帰着する。脊柱の離断はより重大な結果を有している。損傷された脊髄中の神経の結合を回復する方法はまだない。脊髄損傷の結果は、随意筋の麻痺および衰弱、および離断により引き起こされる皮膚知覚帯の完全な感覚消失を含んでいる。尿・直腸の括約筋の制御不能は両者の失禁に帰着する。更に、上部の頚部脊椎骨内の離断は横隔膜の麻痺に結びつく。第3から5頚部脊椎骨から横隔神経の分布が出るからである。さらに、それは、肋間筋(胸神経が分布する)の麻痺に帰着する。したがって、上部頚部中の離断は、潜在的に致命的な結果を与える呼吸運動を止める。彼らの生命維持のために、この種の損傷を持った患者に人工呼吸を施すことはしたがって必要である。さらに、パーキンソン病および多発性硬化症のような成人病は、中枢神経系の神経路を変性させて、運きを伝える事ができなくなったり、感覚消失および覚醒の低下のような衰弱および高度の苦難をもたらす。
【0003】
通常、末梢神経損傷の後にはある程度の回復が起こり、軸索の再生および再結合をもたらす。しかしながら、人体においては脊柱の離断の後には再結合は見られず、神経路への大怪我の後の脳の中では、再結合はほとんど起こらないと考えられる。
【0004】
従って、神経と神経路の修復を促進する様々な試みがなされた。3つのアプローチが、害された末梢神経の外科治療に使用された:接した端の直接的な再縫合;自家移植片置換;そして、天然または合成の、神経再結合を誘導するように設計された様々な物質の使用。第1のアプローチは制限されている。神経の切断端を縫合するに十分に近づけることは不可能であろう。また、それが可能でも、損傷および外科の手技に起因して生じる瘢痕組織は、軸索が吻合部位を横断するのを防止し、神経腫として公知の神経組織のもつれた結節に時々帰着する。ギャップが長すぎる場合には、自家移植片は現在では最良の選択肢であり、例えば無傷の場所から採取された患者の腓腹神経を縫合して、神経の害された部位を交換する。このアプローチの欠点は、ドナー組織移植片の除去に起因する感覚消失、増加した疼痛、置換されなければならない長い傷ついた部位が存在する場合に十分に長い移植片を除去することは非実用的であり、移植片除去場所での増加した感染の危険および追加される瘢痕にある。さらに、修復手順は時間がかかり、高度の技術を要求する。
【0005】
様々な異なる神経移植片物質が、神経自家移植の欠点の克服を望んで、空の神経周膜を含めて試みられた。軸索成長にチャネルを提供し、かつ線維芽細胞の浸潤および神経腫の形成を防ぐために、カフ、導管、包みおよびチューブを考案する試みの長い歴史があるが、現在、これらのどれも満足な結果を与えていない。
【0006】
神経治療に導管を提供する最も初期の試みでは、脱灰された骨に由来したコラーゲンのチューブを使用した。これは、一般に機能の回復のない線維性癒合に帰着した。脈管、筋膜、脂肪、筋肉、フィブリン、羊皮紙、ゼラチンおよび様々な金属をはじめとする広範囲の他の組織および物質が、続いて試された。これらのデバイスにおける失敗は、組織損傷および移植された物質によって引き起こされた繊維症に起因した。その再吸収されない物質の使用は、それらの除去のためのさらなる外科的処置をしばしば必要とした。
【0007】
害された末梢神経に導管を提供するためにこれらの初期の物質についての改良も示唆された。例えば、末梢神経修復のためのサイラスティック・カフの使用が、Journal of Neurosurgery、28巻、pp.582−587(1968)中でDuckerらによって報告された。神経修復のためのシリコーンゴム鞘は、Surgical Forum、19巻、pp.519−528(1968)において、Midgleyらによって、およびJournal of Neuropathology and Experimental Neurology,41巻、pp.412−422(1982)においてLundborgらによって報告された。生体再吸収性のポリグラクチンメッシュチューブの使用は、Muscle & Nerve,5巻、pp.54−58(1982)の中でMolanderらによって報告された。神経再生での半浸透性のアクリル共重合体チューブの使用は、Journal of Neuroscience Research、9巻、pp.325−338(1983)において、Uzmanらによって示された。神経ギャップの橋架けのための空の末梢神経のチューブの使用も、Y.Restrepoらの、Microsurgery 4:105−112,1983の、Fascicular Nerve Graft Using An Empty Perineurial Tube:An Experimental Study in the Rabbit、およびRestrepoらの、Empty Perineurial Tube Graft Used to Repair A Digital Nerve:A First Case Report(Microsurgery 6:73−77 1985)において、開示されている。ポリエステル類および他のポリマーの生体再吸収性の神経誘導チャネルは、Nyilasらの、Transactions Am.Soc.Artif.Internal Organs、29巻、pp.307−313(1983)に報告されている。人工神経周膜としてのポリグリコール酸の使用はAnn.Plast.Surg、11巻、pp.397−411にJoseph M.Rosenらによって示される。
【0008】
米国特許6716225は、生体適合性を有し、生体再吸収性の生体高分子から作られた、縦方向に堅い中空の導管の使用を開示する。米国特許5,026,381、4,963,146および米国特許5,019,087は、タイプIコラーゲンから作られたマイクロ多孔性の多重壁を有する中空導管を開示する。米国特許6676675は、神経再生の刺激を目指した、ポリビニルアルコールを含む長さ方向に堅いシートまたはチューブ、または複数のチューブの使用を開示する。米国特許6,589,257は、ポリグリコール酸、ポリ乳酸またはポリ(グリコール酸−乳酸)共重合体、または関連する再吸収可能な合成物質から作られ、ゼラチンまたはコラーゲンでコーティングされ、ラミニンでコーティングされた長さ方向に延伸された架橋されたコラーゲン線維を含む再吸収可能なチューブの使用を開示する。米国特許6,090,117は、コラーゲン細線維間のスペースが、コラーゲンラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチンおよび生長因子を含んでいるマトリックスゲルで充填される同様のチューブの使用を教示する。米国特許5,834,029は、セル結合において重要であることが公知の3つのラミニン・シーケンスのうちの任意の1つによって誘導されたマトリックスを含んでいる生体適合性の半浸透性の導管を教示する。
【0009】
3本の末梢神経再生導管が、ここまで治験のためのFDAの承認を得た:サルブリア ナーブ カフ;インテグラ ニューロサイエナシズ 再吸収可能コラーゲンチューブ、およびニューロゲン ニューロチューブ。これらのデバイスが末梢神経の治療を刺激する能力には、相当な改良の余地がある。これらのデバイスまたは上記の言及された物質またはアプローチのいずれも、末梢神経の修復に対して完全に十分ではない。また、どれも中枢神経系(CNS)軸索の再生の刺激に有用であるとは証明されていない。
【0010】
本発明は、末梢神経および中枢神経の白質の再生についての先行技術の試みに伴う損失の多くを、なくすかまたは本質的に減じる、移植可能なデバイスに関する。
【0011】
本発明の1つの態様は、1つの内腔および長軸を有している管状のボディ;および
管状のボディの内腔の長軸に沿って本質的に平行に置かれた、複数の絹の要素、を含む医療デバイスを提供する。
【0012】
管状のボディは再吸収可能な物質を含むことができる。例えばタンパク質または天然又は人工のタンパク質ベースの物質であることができる。合成物質とは、化学的プロセス、並びに組み換えDNA技術プロセスによって合成された物質を包含する。マトリックス中に置かれた繊維を含む複合構造物が好ましい。デバイスの管状の壁は、絹の繊維および適当な蛋白質から作られることができる。例えば再生成されたBombyx moriプロテインのマトリックスと Antherea pernyiiシルクであることができる。
【0013】
マトリックスは、蚕(mulberry silk worm)または非蚕(non−mulberry silk worm)から得られた、再溶解された絹のタンパク質のような絹タンパク質、または蚕または非蚕の蚕から得られた天然絹糸フィブロインから形成することができる。例えばAntherea pernyii シルクが使用できる。たとえば、ホルムアルデヒドガス、グルタルアルデヒド、クエン酸塩イオン、リボース、グリオキサールまたはゲニピンの使用によって架橋させることにより、マトリックスを安定させることができる。
【0014】
ボディを形成する繊維は絹の繊維を含むことができ、それはヘリカルに配置されるかまたは編まれる。
内腔内の絹の要素は、約lμから約l00μmの距離で、互いに好ましくは離れて置かれる。
本発明のデバイスは、10,000μm2当たり約1から約30まで、好ましくは10,000μm2当たり約1から約10、または10,000μm2当たり約5から約10の範囲の、絹の要素の充填密度を有することができる。
【0015】
本発明のこの態様に従えば、デバイスは、約1.0から約2.5mmまで、好ましくは約1.5mmから約2.0mmまで、または約1.0mmから約1.5mmまで、最も好ましくは約1.4mmまたは1.5mmの外部直径を有する管状のボディから作られることができる。
管状のボディの壁は、約250μmから約750μm、好適には約300μmから約600μmの厚さを有することができ、300μmから350μmの値が好ましい。
【0016】
デバイスの長さは、約0.5mmから約150mmまであることができる。デバイスの長さはデバイスを使用して治療される神経に適当なように選ばれることができる。例えば、デバイスがより小さな神経の修復向けである場合、デバイスは適当には、約1.0mmから5.0mmまで、または1.5mmから2.5mm、または1.0mmから2.0mmであることができる。より大きなサイズの神経の修復の場合には、デバイスは対応して大きくなることができ、たとえば、約10mmから20mmまでであることができる。人間の神経の自己由来の移植は、20mmから130mmの長さが成功裡に使用され、また、本発明のデバイスも同様のサイズであることができる。
【0017】
絹の要素は約5μmから約50μm、好適には約10から20μmの直径を有することができる。
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、デバイスは長さ2.0mmであり、直径は0.5mmである。
【0018】
デバイスの中で使用される絹の要素または繊維は、蚕絹:非蚕絹、クモ・ドラグライン絹および、遺伝子組み換え絹タンパク質またはタンパク質類似化合物から紡いだフィラメントから作られることができる。非蚕絹が特に好ましい。適当な例はAntherea pernyiiシルクである。
絹の要素は、典型的には細片絹または巻きとられた絹かよじられた絹の形をしている。絹の要素は便利なように調整されることができ、デバイスの壁に対して本質的に長さ方向に配向される。
【0019】
細胞移動を促進するために、絹の要素は、トリプレツトRGDの少なくとも8個の繰り返しを含む主要な絹のタンパク質を好ましくは有する。それらの内の少なくともいくつかは、主要な絹のタンパク質の構造の曲がり部分または予測される曲がり部分のすぐ近くに隣接して配置される。絹の主要なタンパク質は好ましくは、細胞接着性を調節するために、主要なタンパク質の1つ又は複数のアルギニン基が、そこからブロックされている部位を有する。ブロッキングは脱アミノ化、硫酸化、アミド形成、またはシクロヘキサンジオンでのブロッキングの1つまたは複数により達成することができる。
【0020】
デバイスの遠位の端から近位の端へ、自由なアルギニン基の密度勾配を生じさせるためにブロッキング薬を使用することは便利な場合がある。これは、最初にブロッキング薬の溶液中に近位の端を浸け、ゆっくり次第にデバイスを低下させることにより達成することができる。あるいは、それらが管状のボディの内腔へ導入される前に、自由なアルギニン基の勾配を絹の要素へ導入することができる。そのような勾配は線形、または非線形であることができる。勾配は、デバイスの近位の端で絹の繊維から離れるように神経細胞プロセスを促進することがある。
【0021】
デバイスに入って、出てゆくように神経細胞プロセスを促進するために、長さ方向に配向された絹の要素を、それらがデバイス内腔の管状のボディの1つの端または両端から、0.1から10mm超えて出るように配置することは望ましい場合がある。
ヒドロゲル(例えばポリリシンまたはカゼインとともに、またはこれらを含まないアルギン酸またはヒアルロン酸)のような、再吸収可能な生体適合性のポリマーを含む内腔マトリックス中に、絹の要素がセットされることは特に好ましい。他の成分、たとえば、細胞外マトリックス(ECM)、たとえば、フィブロネクチンおよび/またはラミニンが存在することができる。これらの物質は導管中の内腔マトリックスに加えられるか、または内腔マトリックス中の絹のフィラメント上にコーティングされることができる。
【0022】
本発明の第2の態様は、医療デバイスを製造する方法であって、管状のボディを形成し、管状のボディの内腔へ絹の要素を導入し、管状のボディの内腔の長軸に沿って本質的に平行に配置することを含む方法に関する。
【0023】
管状のボディの形成は、さらに以下の工程を含むことができる:
その上に管状のボディが形成される型台の調製;
型台の上に繊維を置くこと;
繊維にマトリックスを適用して複合物ボディを形成すること;および
型台を除去すること。
【0024】
管状のボディの形成はさらにマトリックスを架橋させることを含むことができる。
チューブの内腔内の絹の要素間に、内腔マトリックス成分を導入することも好ましい。
絹の要素は、例えばエチレンジアミン4酢酸ナトリウム塩(EDTA)のようなキレート試薬の溶液で洗浄して、有毒な場合がある遷移金属イオンのような、可能性のある汚染物質を除去することができる。他のキレート試薬も使用することができる。好ましくは、絹からセリシンを除いて精練される。これは絹をプロテアーゼ、例えばサブチリシンを使用して処理することにより達成することができる。しかし、他の穏やかな蛋白質分解酵素も使用されてもよい。その後、酵素は、処理の後に洗浄することができる。
【0025】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様による医療デバイスの移植を含む神経細胞の再生のための方法を提供する。
本発明は、末梢神経および中枢神経の白質の再生に関して、先行技術の試みに伴う損失の多くを除去するか本質的に減じることができる移植可能なデバイスに関する。
より詳細には、本発明のデバイスは生体適合性の再吸収可能な物質から構成され、神経軸索、シュワン細胞およびグリア細胞を成長させるために結合部位を提供するその能力が調整されることができる。
【0026】
本発明によるデバイスの好ましい形状は、両端が開き、配向された絹のフィラメントを内腔内に含む絹の複合チューブを含む。複合チューブの壁は典型的には本質的に均一の厚さを有している。そして、移植される場所に応じて、0.1から25mm、好ましくは250から750μmの直径を有する。
【0027】
絹の複合チューブは、典型的には交差角度約55度のヘリカルパターンとして置かれた細い非蚕の細片絹フィラメントを含み、これは蚕または非蚕から得られた再溶解された絹フィブロインである再生されたマトリックス中に設置される。しかし、他の再吸収可能な生体適合性のフィラメントおよび再吸収可能な生体適合性のマトリックスを代わりに使用することができる。さらなる実施態様では、マトリックスは、本質的に、蚕または非蚕の絹糸腺から抽出された生来の絹のフィブロインから構成される。マトリックスは共有結合の架橋によって安定させられる。1つの実施態様では、これはホルムアルデヒドガスで処理することにより達成されるが、他の架橋剤を使用することができることができる。さらなる実施態様では、絹の複合チューブは、編み機を使用して、1つまたは7−13の精練された非蚕の絹から直接調製された編まれた絹のチューブから調製することができる。編んだ絹のチューブは、再生された蚕または非蚕絹のような1つ以上の再吸収可能な生体適合性のポリマーの溶液で処理され、編まれた絹のチューブの絹の糸の間にマトリックスを形成する。
【0028】
絹の複合チューブは、ヒアルロン酸を含む内腔マトリックス中に配置された非蚕の絹のフィラメントを含んでいる。他の内腔マトリクス物質としては、ポリリシンを含むヒアルロン酸、またはポリリシンおよびカゼインを含むかまたは含まないアルギン酸塩のようなヒドロゲルがあげられる。フィラメントは、絹の複合チューブの長軸に対して本質的に長さ方向に配向され、チューブの端でフラッシュが切断される。さらなる実施態様では、絹のフィラメントおよび内腔マトリックスは、チューブの端を短かい距離だけ越えて伸びるか、またはチューブの端から短かい距離だけ手前で終了する。フィラメントは、典型的にはチューブの内腔に、10,000μm2当たり1から10本のフィラメントの密度で充填され、フィラメント間が30から100μmとなる平均の間隔を与える。しかしより低密度の充填も使用することができる。
【0029】
さらなる実施態様では、デバイスはさらに1つ以上の生物活性物質を含むことができる。物質は、生長因子、サイトカイン、抗生物質、免疫抑制薬、ステロイド、非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)から成る群から選ばれることができる。生長因子は神経成長因子であることができる。例えば、神経成長因子はフィラメントを囲む内腔マトリックスに加えられることができる。このための使用されることができる神経成長因子として、デバイスが末梢神経の回復を高めるために使用される場合には、末梢神経NGFがあげられ、デバイスが脳または脊髄の中で使用される場合には、中枢神経ニューロトロフィン−3(NT3)または脳由来神経栄養因子(BDNF)があげられる。フィラメントを囲む内腔マトリックスに、神経再生を促進するかまたは神経膠腫または線維形成を抑える他の医薬品または要素を加えることができることが理解されるだろう。さらに、デバイスの機能を高める薬品および他の要素も、絹の複合チューブのマトリックスに加えることができる。例えば抗生物質、免疫抑制薬、ステロイドまたは非ステロイドの抗炎症薬(NSAID)が例示される。他の生物活性物質としては、再生を促進するcAMPエンハンサー(たとえば、ロリプラムまたはdb−cAMP)、TFGβ抗血清および/またはコンドロイチナーゼのような瘢痕形成を減じる分子、またはミエリン阻害を減じる分子(例えばアンチ−Nogoトリートメント)があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
たとえば、シュワン細胞または臭覚被膜細胞(OECs)のような細胞が、神経の再成長および/または神経幹細胞の髄鞘形成を助けるために本発明のデバイスに加えられることもさらに意図される。必要に応じ、他のタイプの細胞を加えることができる。細胞はデバイスが移植されることになっている患者からの内因性の細胞であることができる。または、細胞は、外部ソース(例えば培養中で育てられた細胞)からの外因性の細胞であることができる。言いかえれば、細胞は、患者の免疫系に関して自己由来のことがあり、または非自己由来のこともある。
【0031】
本発明によって調製された神経導管の長さも、害されているか変性された白質の修復を促進する目的で、脳または脊髄に挿入される長さであることができる。それらは、中枢神経系の適当な部分に結合するために、移植された神経芽細胞幹細胞から形成された、移植されたニューロンを導き促進する目的で、セルシーディング技術と共に使用することができる。
【0032】
生物活性物質または細胞が本発明のデバイスに加えられる場合、濃度勾配(線形または非線形)が、デバイスのもう一つの端(例えば遠方の端)に対して、1つの末端(例えば近い端)での物質または細胞のより高い濃度により確立されることができる。あるいは、物質または細胞の貯蔵部分がデバイスの1つの端にのみ加えられることができる。
【0033】
さらなる実施態様では、絹の複合チューブは省略され、再吸収可能なマトリックスの中に配置された配向された絹のフィラメントが直接移植される。
移植のために、適切な直径のデバイスが、治療される神経または白質路の直径に応じて選択されている。デバイスは適切な長さに鋭いブレードまたは他の道具で切断される。1つの実施態様では、デバイスは、1つ以上の縫合糸によって適所に保持される。別の実施態様では、デバイスは、フィブリン糊で適所に保持することができる。デバイスは乾燥した状態で、移植されることができ、または使用の前に適切な生理的塩類溶液で5分から5時間の間ソーキングすることができる。
【0034】
本発明により、したがって、神経細胞の再生に使用するための、上に記載されているようなデバイスが提供される。そのようなデバイスは、脊髄中の、または末梢神経中の神経細胞の再生に特定の用途を見出すことができる。
【0035】
したがって、本発明のデバイスは、動物の体内中の1つまたは複数の神経への外傷または損傷の治療に有用性を見出す。したがって、本発明は人間医学および獣医学の両方に用途を見い出す。人間では、最大の神経は、その最大の直径でちょうど20mm弱である坐骨神経である。人間の医学で使用される適当なデバイスの長さは変わることがあるが、治療を必要とする臨床的に観察された神経の損傷を考慮して、典型的には約10mmから約20mmまでであるだろう。
【0036】
したがって、本発明のデバイスは、中枢神経系中の、または末梢神経系中の害された神経または損傷を受けた神経の連絡を再建するのに役立つことができる。本発明は、神経への損傷の前に存在した、細胞内/細胞外の環境にほぼ類似する環境を備えた神経または脊髄を再構成する手段を提供する。末梢神経の損傷の場合には、とりわけ、軸索とラミニンのような細胞外マトリックス分子中の電気的なインパルスの適切な伝導に必要な、シュワン細胞を有髄化することを含んでいる。したがって、本発明のデバイスは、さらにフィブロネクチンおよび/またはラミニンのような細胞外マトリックス成分(ECM)、およびシュワン細胞のようなさらに外来性の細胞を含むことができる。
【0037】
本発明によって治療可能な損傷された末梢神経のタイプは、神経の離断が生じる損傷を受けた神経である。その損傷は神経断裂症と称されることがある。そのような損傷の臨床的定義は、「サンダーランドシステム」での第4度または第5度の神経断裂症とも呼ばれる。第4度の神経断裂症では、すべての神経および支持する要素の離断がある。神経上膜は完全なことがある。また、神経は拡大されている。第5度の神経断裂症では、神経の連続性を失った完全な離断が見られる。
【0038】
本発明の第2およびそれ以降の態様の好ましい特徴は、第1の態様に準ずるものである。
本発明は、以下において実施例および図を参照しつつさらに記述されるが、これらは例としてのみ提供され、本発明を何ら制限するものではない。多くの図が言及される:
図1は、シュワン細胞核のヘキスト染色をした後根神経節(DRG)外植片を示す。多くのシュワン細胞が外植片から移動しており、絹の繊維に接着したことを示す。
図2は、さらにヘキスト染色をしたDRG外植片を示す。多くのシュワン細胞が外植片から移動しており、絹の繊維に接着したことを示す。さらに、GAP−43の免疫反応性の神経突起(矢印)は、個々の絹の繊維に沿って伸び、ある場合には個々の繊維に橋を架ける。
図3は、ヘキストラベルされた坐骨神経外植片を示し、GAP−43の免疫反応性のシュワン細胞が外植片から移動しており、絹の繊維に接着したことを示す。
図4は、ヘキストラベルされたシュワン細胞核およびGAP−43の免疫反応性の神経突起を含む成体DRG培養物を示す。ラミニンでコーティングされている絹の個々の絹の繊維に接着することが示される。
図5は、ヘキストラベルされたシュワン細胞核およびGAP−43の免疫反応性の神経突起を含む成体DRG培養物を示す。ラミニンでコーティングされていない絹の個々の絹の繊維に接着することが示される。
図6は、神経膠の特定のマーカーS100を使用した細胞のラベル付けを示し、多くのS100の免疫反応性のシュワン細胞が絹の繊維と関連性を有することを示す。
【0039】
図7は、GAP−43、およびニューロン特異性のマーカーβlllチューブリンを使用した細胞のラベル付けを示し、ヘキスト−ラベル付けされた核(矢印)のいくつかと、および細かいGAP−43免疫反応性のプロセスは神経が起源であることを示す。
図8は、絹繊維および脊髄(白色の繊維、図8、左)を示す。星状細胞マーカーGFAPでラベルを付けると、一般に、絹の繊維が完全な脊髄(図8、右)のすぐ近くにあり、ホスト脊髄と移植物の間にほとんど壊死の組織がないことを示した。
図9は、脊髄内へ移植された絹の繊維の束の内のマクロファージ浸潤と、周囲の組織を示す。
図10は、絹の繊維の配向と平行に配向した絹移植物内への、PGP 9.5軸索のマーカーでラベルを付けた軸索(矢印)の成長を示す。
図11は、個々の絹の繊維の間にも沿って成長する、PGP 9.5軸索のマーカーでラベルを付けた軸索の共焦点顕微鏡検査写真を示す。左の写真は矢印でマークされた軸索を示し、右の写真は矢印でマークされた絹の繊維を示す。
図12は、軸索のマーカーPGP 9.5およびシュワン細胞マーカーp75による二重のラベリングを示す。左の写真は軸索を示し、右の写真はシュワン細胞を示す。
【0040】
図13は、導管のコア内に配置された絹の繊維の導管を示す。
図14は、脊髄へ移植された導管の構造を示し、細長い小さな絹の破片(矢)が外被膜の各壁に見られ、長さ方向に配向したストランド(矢じり)として内側のコアが現れる。
図15は、絹の導管中へのマクロファージ浸潤が、結合されていない絹の繊維で見られたそれに、外観と程度において類似することを示す(図9を参照)。さらに、移植後8週において、マクロファージは、個々の絹の繊維の回りにクラスターとなるのを見ることができることがある。
図16は、絹の繊維間に成長するPGP 9.5で染色された軸索を示す。
図17は、軸索のマーカーPGP 9.5およびシュワン細胞マーカーp75により二重ラベリングされ、マットに成長したシュワン細胞と軸索の間で密接な対応を示すことを示す。左の写真は軸索を示し、右の写真はシュワン細胞を示す。
図18は、本発明の1つの実施態様による神経導管の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0041】
本発明のデバイスの調製
神経再生導管の調製は、次の工程のうちのいくつかまたはすべてを要求する:
型台の調製;
型台に繊維を置くこと;
水性のタンパク質の溶液を適用し、複合チューブを形成すること;
型台からの取り出し;
ワックス除去;
複合材料の架橋;
チューブ内へ配向された絹のフィラメントを差し込むこと;
チューブの内腔内のフィラメント間へのマトリックス成分の追加;
フィブロネクチンおよび/またはラミニンのような細胞外マトリックス成分の導入;
神経成長因子の導入、発熱物質の除去および殺菌;
1つまたは複数の神経成長因子の追加;および
乾燥および所定の長さへのデバイスの切断。
【0042】
上記の順序は良好な結果を与えるが、ある工程の順番は重大ではない。例えば、架橋は、チューブへの絹のフィラメントの追加の後に実行することができる;また、発熱物質除去は、NGFの追加の前に、またはその追加の後に実行することができる;殺菌がガンマ照射によって実行される場合、NGFは殺菌の前に加えることができる。
【0043】
円筒状の型台の調製
型台は以下のように調製される。型台を調製する最も簡単な方法は、適切な直径のステンレス鋼管材料またはロッドを使用することである。これらは使用の前に清浄にされ、研摩される。適用されたマトリックス材が乾燥された後、チューブは、容易に型台から滑らせて排出させることができる。小さな直径の型台については、比較的堅い直線のワイヤーが、パラフィンワックスの薄い層または周囲温度よりも高い比較的低い温度で溶融する他の物質の薄い層で最初にコーティングされる。コーティングはワイヤーを溶融したワックスに垂直に浸漬することにより達成することができる。型台上のワックスコーティングの外側の直径は、その上に形成されるチューブの内側(管腔)の直径を画定する。30mmまでのより大きな直径の型台は、適切な直径のワックスのロッドをキャスティングまたは機械加工することにより、または適切な直径のシリンダをワックスでコーティングすることにより調製することができる。それらのまわりに形成された絹のチューブの内腔の内部から除去することができる型台を調製する他の方法が存在し、それらはこの分野での当業者に容易に利用可能である。
【0044】
型台上に繊維を置くこと
3つのタイプの絹のフィラメントが、神経再生導管の外側壁を形成するチューブの壁を強化する繊維として好適に使用される:絹の細片(繭廃棄物からコーミングして取り出し、カージングして精練されたフィラメント);一度に1つの繭から巻きとられた絹から調製された、精練された単一の繭糸;一度に7−13の繭から巻きとられた絹から調製された、20−37デニールの7−13の精練された繭糸。Antheraea pernyiiからのタッサーシルクが使用されたが、任意の蚕または非蚕絹、または天然、組み換え、再生された絹のタンパク質から押し出された絹のフィラメントも代わりに使用することができる。
【0045】
20−37デニールの精練された7−13の繭糸は好結果を与えた。有毒である場合がある遷移金属イオンのような、可能性のある汚染物質を除去するために、絹は、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム塩(EDTA)の希薄溶液で最初に洗浄される。他のキレート試薬を使用することもできる。好ましくは、絹は精練される。これはプロテアーゼ(例えばサブチリシン)を使用した絹の処理によって達成される。しかし、他の穏やかな蛋白質分解酵素も使用されてもよい。酵素は、処理の後に洗浄除去される。
【0046】
タッサーシルク細片は、好結果を与える多くの細かい平行なフィラメントを含んでいる。平行なフィラメントは親指と指の間でつかみ、型台の周囲へ巻き、40から50度の間の交差角度のヘリカル層を提供することができる。巻取装置はこの手順を機械化するために使用することができる。あるいは、単一または7−13の繭糸は型台上にヘリカル様に巻くことができる。連続的な絹のフィラメントについては、型台の上にヘリカル層を巻くのに簡単なデバイスを使用することができる。これは、円筒状の型台をゆっくり回転して、エキセントリックカムを駆動するために小さな電動機を使用し、そのカム従動子が型台上に絹を分布させる。柔軟な円筒状の型台上へ絹のフィラメントを連続的に巻くためのデバイスは、容易に構成される。
【0047】
代案として、編んだチューブは、編み機を使用して、1または7−13の精練した繭糸から直接作ることができる。編んだチューブは以下に記載されるように、絹の複合チューブを形成するために使用することができる。
【0048】
複合チューブを形成するために水性のタンパク質溶液を適用すること
様々なタンパク質が絹複合材料のマトリックスを供給するために使用することができる。6.3Mの臭化リチウム水溶液中に市販のフィブロイン粉末を溶解したことにより調製された、新鮮に調製した再生された蚕フィブロインの濃度10−40%w/vの溶液で好結果が得られた。臭化リチウムは4℃で蒸留水に対する完全な透析によって除去される。透析物は蒸発または逆透析によって透析チューブ内に濃縮される。得られた再生フィブロイン溶液は、型台上にある間に絹糸上へペイントされ、孔のないチューブを生産する。フィブロイン溶液は、乾燥される。得られる再生された絹/Antheraea絹の複合チューブは、型台から取り除くことができる。複合チューブは、再生フィブロイン溶液をスプレーすること、または型台を同じ溶液に浸漬することによっても形成できる。蚕または非蚕から直接得られた濃縮フィブロイン溶液は、再生されたフィブロインの代わりに使用することができる。複数のタンパク質も再生されたフィブロインの代わりに使用することができる。これらとしてはフィブロイン糊、ゼラチンの希薄溶液または血清アルブミンを包含する。他の水溶性のタンパク質、ヒアルロン酸または他の生体適合性のポリマーを代わりに使用することができる場合がある。型台に絹を使用する代わりに、編んだ絹のチューブをマトリックス・タンパク質または他の高分子溶液で、スプレーまたは浸漬することによりコーティングすることができる。
【0049】
型台からの取り出し
ステンレス鋼型台が使用される場合、絹の複合チューブは、型台からそれを滑らせることにより容易に除去することができる。狭い複合チューブについては、これは小さな鉗子で達成することができる。ワックスがコーティングされた型台が使用される場合には、ワックスまたは型台への他の低い融点のコーティングを穏やかに溶融することにより、絹の複合チューブはこれから取り除かれる。あるいは、直径を小さくすることができる型台が使用されることができ、たとえば、中央の芯を除去し、その後それを囲む絹の複合チューブを滑らせて排出することができる。
【0050】
ワックスの除去
ワックスが使用された場合、絹の複合チューブ上のこのトレース量を、ベンゼン、キシレンまたは他のワックス溶剤に浸漬することにより除去できる。
【0051】
複合材料の架橋
下記手順は絹の複合チューブのマトリックスタンパク質を架橋するために使用することができる。過剰の乾燥したパラホルムアルデヒドが、封ができる包装容器の底に置かれ、0.2mlの蒸留水が、0.5リットルの容器中の2グラムのパラホルムアルデヒドに加えられる。パラホルムアルデヒドは濾紙によってカバーされる。また、絹複合チューブはこの上に置かれる。包装容器を密封した後に、それは800℃に1時間熱される。冷却後、絹のチューブが容器から取り出され、温かい湯で徹底的に洗われる。
【0052】
チューブ内へ配向した絹のフィラメントを差し込むこと
絹の細片のフィラメントは、乾燥した絹の複合チューブへ以下のように導入される。最初に適当なサイズの針または千枚通しを絹の細片に通す。より大きな直径の絹複合チューブにはサックニードルが役立つ。その後、典型的には、フィラメントはかなり粘着性のヒアルロン酸溶液でペイントされる。糸を通した針または千枚通しは絹の複合チューブを通して押され、チューブを配向した絹のフィラメントで満たす。この条件では、過剰のヒアルロン酸はチューブの切断端からしみ出る。ヒアルロン酸の代わりに他の再吸収可能なゲル剤を使用することができることがある。1つの実施態様では、ヒアルロン酸または他の再吸収可能なゲル剤の使用は省略される。必要な場合には、糸を通した針が、チューブの内腔内において適切な充填密度が達成されるまで、繰り返し絹の複合チューブを通して押される。経験で、これは目視で判断することができる。あるいは、チューブの中への絹のフィラメントの充填密度の正確な測定は、以下のようにして行うことができる:測定された長さの絹の複合チューブの重量を測定し、絹フィラメントを導入し、チューブの端でそれらを切断した後に再度秤量される。チューブの内腔内に所望の重量のフィラメントが存在するまで、フィラメントを追加、または除去することができる。2倍の接眼鏡を取り付けた双眼実体顕微鏡が、チューブの1mm平方の断面当たりのフィラメントの数を測定するために使用される。実験的な移植の前に、走査電子顕微鏡が、10,000μm2当たり10から1本のフィラメントの充填密度であり、フィラメント間の平均間隔がおよそ30から100μmであることは最良である。
【0053】
チューブの内腔内のフィラメント間へのマトリックス成分の追加
絹のフィラメント間の内腔マトリックス成分は、ヒドロゲルの形成により、フィラメント間の適当な離隔を維持しつつ、デバイス調製および挿入に続くすべての工程において、フィラメントを所定の位置に保持するために使用される。さらに、それらはデバイス内への神経成長を高める。様々な生体高分子が、フィラメント間の内腔マトリックスを提供するために使用することができる。これらのヒドロゲルとしては、ポリリシンを含むかまたは含まないヒアルロン酸、ポリリシンを含むかまたは含まないアルギン酸塩、カゼイン、フィブリン糊、血清アルブミン、およびゼラチンが含まれる。必要に応じて、これらの高分子の水溶液は加熱して調製される。他の溶剤を水の代わりに使用することができる。それらの内腔内に配向された絹のフィラメントを含んでいる絹の複合チューブは、これらのポリマーの1つ以上を含んでいる溶液に浸される。真空は浸潤を支援するために適用することができる。フィブリン糊の場合には、フィブリン糊の形成を始めるために、配向された絹のフィラメントを含んでいる絹の複合チューブが、最初にフィブリン溶液で、その後トロンビン溶液で浸透される。
【0054】
発熱物質の除去および殺菌
発熱物質の除去は、神経成長因子を加える前に行なわれるのが最もよい。それは、最終濃度0.1%v/vのトゥイーン20(登録商標)を含んでいるジメチルスルホキシドの1%v/vの水溶液で洗うことにより最もよく実行される。2から5回の洗浄が、この溶液で通常実行される。発熱物質除去の後、デバイスは無菌の発熱物質を含まない生理的食塩水液中で洗浄することができる。発熱物質除去に使用された溶液に接触するすべてのガラスまたはプラスチック用具または他の実験装置は、発熱物質を除去するために少なくとも2時間2400℃で焼成されるべきである。
【0055】
1つまたは複数の神経成長因子(NGF(s))のような生物活性物質の導入
神経成長因子のような一連の生物活性物質は、デバイスへ導入することができる。これらには、デバイスが末梢神経の回復を高めるために使用されることになっている場合には、これらは末梢神経NGFを包含し、デバイスが脳または脊髄の中で使用されることになっている場合には、中枢神経neurotrophin−3(NT3)または脳由来神経栄養因子(BDNF)を包含する。神経成長因子は、フィラメント間の内腔マトリックス成分を形成する際に最もよく加えられる。その内腔内に配向した絹のフィラメントを含んでいる絹の複合チューブにそれらが加えられる前に、それらは内腔マトリックス溶液と混合することができる。
【0056】
デバイスの乾燥および所定長さへの切断
デバイスは最初にブロットされ、乾燥される前に過剰溶液を除去する。複数の乾燥方法を使用することができ、空気乾燥または凍結乾燥を使用することができる。最適には、導管の適当な長さは、乾いたデバイスから切断される。これらは直接移植するか、または移植の前に、無菌で発熱物質を含まない09% w/vの生理的食塩水中で水分が補給される。
【0057】
デバイスの移植
脊柱の離断または部分的な離断の処理については、厚さ2から10mmのデバイスのディスクが、絹のフィラメントを含んでいる2−20mmの直径の絹の複合チューブの長さ方向から切断される。これらは、損傷している場所で脊髄に横に挿入される。剥離損傷の場合には、導管は脊髄を引き剥がされた根に結び付けるように挿入することができる。末梢神経の再生を促進するための導管は、1−15mmの直径の細いチューブから調製される。直径は治療される神経のサイズおよび位置に応じて変化する。デバイスは、所定の位置に軽く縫合されるべきである。
【0058】
神経導管の長さは、害されているか退化させられた白質の修復を促進する目的での脳に挿入される長さであることができる。それらは、中枢神経系を適当な部分に結合するために、移植された神経芽細胞幹細胞から形成された、移植されたニューロンを導き促進する目的で、セルシーデイング技術と共に使用することができる。セルシーデイング技術も脊髄または末梢神経移植と共に使用することができる。
【0059】
上に記載されたデバイスは、先行技術に対する4つの長所がある。第1には、デバイスは次の理由で優れた引っ張り特性を有している。これらは、絹の複合チューブ、チューブの組成物の主体およびその内腔の内容物の両方に使用することができる、例外的に強い非蚕絹から発生する。さらに、チューブ中の繊維のヘリカル層は、チューブに長さ方向および半径方向の強度および靭性を提供するように設計されている。さらに、デバイスのボディは、その複合構造によってさらに強靭になる。
【0060】
次に、デバイスのデザインは、デバイスを通っての、軸索のマイグレーションの最適化を可能にする。これは、絹のフィラメントの充填密度のためであり、従ってフィラメントの間のチャネルの寸法を容易に調節できる。さらにデバイスの中で使用される非蚕絹は、軸索を含む細胞が結合する、細胞接着シーケンスRGDの多くの繰り返し(好ましくは少なくとも8)を本来有する。この繰り返しの少なくともいくらかは、タンパク質の曲がり角または予測された曲がり角に隣接している。更に、軸索のマイグレーションについては、結合部位の密度を注意深くコントロールする必要があることが理解される。アクセス可能なRGDサイトの密度が大きすぎる場合、軸索の伸びた物は絹の繊維にしっかりと結合しすぎ、デバイスの反対端から出てこない。一方、アクセス可能なRGDサイトの密度が小さすぎる場合、絹のフィラメントへの軸索の伸びた物の付着は不十分であり、デバイス内へ移動するそれらの能力が減じられる。したがって、絹のフィラメントへの軸索の伸びた物の結合は、絹のフィラメント上のRGDサイトの密度を変えることにより調節することができる。これは2つの方法で達成することができる。RGDサイトの天然の密度は、絹の分子当たり1つから、1つの分子当たり12以上まで、種類によって変わる。したがって、絹は、RGDサイトの適切な密度により選択することができる。Antheraea pernyii絹の中のRGD基の天然の密度は好結果を与える。さらに、アルギニン イプシロン アミノ基を当業者には理解されるような穏やかなブロック基で部分的に置換することにより、さらにRGD基の密度を調節することが可能だろう。この方法は、硫酸化およびアミド形成を含んでいるが、これに制限されない。この基はシクロヘキサンジオンによってもブロックされることができる。
【0061】
第3には、乾燥している場合にはデバイスは堅く、濡れた場合には可塑化し、天然の神経のものに類似する曲がりと引っ張り特性を与える。乾燥しているか部分的に水和されている場合、デバイスを挿入して所定の位置に縫合する場合に、その堅さは非常に有用である。一方、ぬれた場合柔軟性は、天然の神経のそれを模倣する。
【0062】
第4には、デバイスが乾燥している場合、内腔マトリックス内のヒアルロン酸ゲルは、内腔内の絹のフィラメントを所定の位置に保持する助けとなり、それはデバイス内腔内の細い絹のフィラメントの損失または配向の乱れを生ずることなく、デバイスを所定の長さに切断し取り扱うことを容易にする。さらに、水和されたヒアルロン酸はニューロンの成長を刺激する。
【0063】
実施例1:培養中の分離されたDRG/絹
最初のインヴィトロでの実験は、培養組織中のAntherea pernyii絹繊維が、末梢神経系(PNS)ニューロン(後根神経節細胞)による神経突起の成長をサポートし、およびさらにPNS支持細胞(シュワン細胞)の接着およびマイグレーションをサポートすることを実証する。実験は、ラット新生児(P3)の後根神経節(DRG)、および坐骨神経体外培養物、および分離された成体ラットDRG細胞を使用して実行された。
【0064】
方法
成体のラットまたは新生児ラット(P3)は、CO2の高濃度の吸入によって犠牲にされた。DRGニューロンは、英国動物(科学的方法)行為に従う手順(Huangら、Neuroreport 16:89−93(2005))を使用して培養された。後根神経節は取り出され、清浄にされ、化学的に分離され(0.125%のコラゲナーゼ、2時間;シグマ、英国)、ボッテンシュタイン アンド サトーの無血清培地(BSF−2;ハムのF−12基礎培地中に0.3%のウシ血清アルブミン(BSA)、1%のN−2サプリメントおよびl00単位の ml−1ペニシリン/100μg ml−1ストレプトマイシンを含む;全ての試薬は米国ライフ・テクノロジーズ(アメリカ製)の中で機械的に分離された。その後、細胞懸濁物は、600回転/分で5分間遠心分離され、再度懸濁された後、15%のBSAクッションによって900回転/分で10分間遠心分離された。ペレットにされた細胞は、BSF−2中に再度懸濁され、次に、ガラス・カバーガラス上に900−1000のニューロン/カバーガラスの密度で、絹の繊維が配置されたカバーガラス上にシーデイングされた。培養が、95%の空気および5%のCO2の湿った大気中で、37℃で7日間、BSF−2中の100ナノグラム/mlの神経成長因子(NGF)で維持された。カバーガラスは、ポリ−L−リジン(l00μg/ml)およびラットテール・コラーゲンで最初にコーティングし、ついで絹の繊維をコラーゲンに付着させて調製された。ある場合には、絹繊維が接着されたカバーガラスが、l0μg/mlのラミニンでコーティングされた後、DRG細胞でシーデイングされた。さらに、いくつかの実験では、DRGと坐骨神経の外植片が分離されたDRG細胞の代わりに使用された。そのような場合、新生児ラット(P3)はCO2の高濃度の吸入によって犠牲にされた。また、腰神経後根神経節と坐骨神経のセグメントが削除され、ラミニンがコーティングされた絹の繊維が接着された、ポリ−L−リジンおよびコラーゲンでコーティングされたカバーガラスに付着された。そして7−10日の間、NGFを含むBSF−2において培養された。
【0065】
培養期間の終わりに、培養物は、100%のメタノールまたは4%のパラホルムアルデヒド中で固定され、次の試薬でラベルが付けられた:DRG細胞体およびプロセスを示すマウスβIIIチューブリン(1:1000)、再生するDRGプロセスおよび無髄シュワン細胞のプロセスを示すウサギGAP−43抗体(1:1000)、シュワン細胞を示すウサギSl00抗体(1:1000)、また一般的な核対比染色としてのヘキスト 3342(2μg/ml)。第一の抗血清は、アンチ−ラビットTRITC(テトラメチルローダミン イソチオシアネート)およびアンチ−マウスFITC(イソチオシアン酸フルオレセイン)の第二の抗血清の使用により視覚化された。その後、調製物はZeiss LSM−510共焦点顕微鏡上で評価された。
【0066】
結果
新生児のDRGおよび坐骨神経外植片
DRG外植片(図1、2)では、ヘキスト色付けは、多くのシュワン細胞が外植片から外へ移動し、絹の繊維に付着したことを示した。さらに、GAP−43の免疫反応性の神経突起は、個々の絹の繊維に沿って伸び、およびある場合には個々の繊維間に橋を架けることを、はっきりと見ることができる。
坐骨神経外植片(図3)では、ヘキストでラベルが付けられた多くのGAP−43の免疫反応性のシュワン細胞が、外植片から外へ移動しており、絹の繊維に付着した。繊維がシュワン細胞の付着のための非常に優れた基体を提供することが確認された。
【0067】
分離された成体のDRG細胞
成体のDRG培養物(図4)中で、多くのヘキストでラベルが付けられたシュワン細胞核およびGAP―43の免疫反応性の神経突起が、個々の絹の繊維に付着することが観察された。繊維が成体PNSニューロンの成長を支持し、グリア細胞を支持することが確認された。外延的成長は、絹がラミニンでコーティングされた培養物(図4)およびラミニンのない培養物(図5)の両方で見られた。絹がそれ自身ニューロンの成長に良好な基体であり、付加的な細胞外マトリックスコーティングを必要としないことが確認された。
【0068】
さらに、インヴィトロで観察された成長の特徴をさらに示すために、ラベル付けがグリア細胞の特定のマーカーSl00およびニューロンの特定のマーカーβIIIチューブリンを使用して実行された。これは、多くのSl00免疫反応性のシュワン細胞が絹の繊維(図6)と組み合わされ、細かいGAP−43免疫反応性のプロセスはニューロンに起因することを確認した(図7)。ほとんどのヘキスト核は卵形で、チューブリン−陰性で、シュワン細胞に属する。しかしながら、いくらかは円形で、チューブリン免疫反応性であり(図7の中の矢印)、チューブリンおよびGAP−43免疫反応性のニューロンプロセスは絹に沿って伸びる。これらは、絹に付着し、絹に沿った伸びるプロセスのDRGニューロンであり、組み合わされたシュワン細胞により支持される。
【0069】
インヴィトロでの研究は、絹から作られた繊維は、新生児および成体のPNSニューロン(DRGセル)の両者による軸索の成長を支援し、シュワン細胞の付着およびマイグレーションを支援することを実証する。シュワン細胞が軸索の成長を支援することは公知なので、これは重要な特性である。
【0070】
実施例2:
成体のラット脊髄中への絹の繊維の移植
最初のインヴィボの実験は、脊髄へ移植する絹の繊維の影響を検討するために行われた。特に興味のあることは、(絹の繊維に対する)軸索の成長の程度および配向、および周囲の完全な神経組織に対する移植の影響(すなわち壊死および炎症反応の程度)であった。
【0071】
方法:
脊髄へ移植された絹についての最初のインヴィボの実験は、結合されていない(すなわち、導管内に含まれていない)絹の繊維の束について行われた。動物の治療および手順は、英国ホームオフィスによって承認されたガイドラインとプロトコルに従って実行された。若い成体雄ウィスターラットは、ハロタン(4%の誘導、2%のメンテナンス)で麻酔をかけられた。切り込みが、脊柱の上の皮膚および筋肉につけられた。また、椎弓切除はT7とT9のレベル間で行なわれた。硬膜が開かれ、中線から横方向にほぼ0.5mm、脊髄の表面から腹部方向にlmm伸びた、長さおよそ2mmの脊髄の一部分を、虹彩はさみを使用して除去した。その後、一束の絹の繊維が、脊髄の長さ方向の軸と平行に絹の繊維を向けて、損傷キャビティーに入れられた。その後、損傷サイトはゲルフォームでカバーされ、上の筋肉および皮膚を縫合した。動物は移植後、1〜8週間生存した。適切な生存時間の後、動物は、ペントバルビタールナトリウム塩(Sagatal、RMB、60mg/kg)で深く麻酔をかけられ、0.01Mリン酸緩衝食塩水(PBS)の50ml、ついで0.01Mリン酸塩緩衝液中4%のパラホルムアルデヒド、pH 7.4が上行大動脈を通して潅流された。脊髄は解剖され、4%のパラホルムアルデヒド中に1−4時間浸けられ、PBS中の15%の蔗糖の中で一晩、凍結防止された。長さ方向の断面の厚さが10−12mmの移植部位が採取された。
【0072】
その後、移植部位を含む部分は、免疫組織化学のために処理された。軸索の内への成長は、低い親和性のp75レセプタの抗体が移植部位に侵入するシュワン細胞にラベルを付けるために使用され、タンパク質遺伝子産物9.5(PGP9.5)の抗体を使用してキャラクタライズされた。さらに、抗星状細胞グリア線維酸性タンパク質(GFAP)を移植物を囲む完全な組織中の神経膠の反応を評価するために使用し、移植への炎症反応をキャラクタライズするためにマクロファージ(EDl)の抗体が使用された。
免疫組織化学用の一般的手順は以下の通りだった:第一の抗体中の48時間の培養、リン酸緩衝食塩水中での10分の洗浄2回、イソチオシアン酸テトラメチルローダミン(TRITC)またはイソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)(両方ともJackson Immunoresearch Laboratories社から入手)に結合した第二の抗体中での2時間の培養。3回の10分の洗浄に続いて、スライドは2.5%の1,4−ジアザビシクロ―(2.2.2)―オクタンを含むPBSグリセリン(1:3)の中でカバーグラスをかけられるか、または上に記載された方法と同じ方法で第2抗体への免疫組織化学のために処理された。
【0073】
絹の繊維は自己蛍光性であり、脊髄中ではっきり見ることができた(白色の繊維、図8、左)。星状細胞マーカーGFAPでラベルを付けることは、一般に、絹の繊維が隣接した完全な脊髄のすぐ近くにあり、ホスト脊髄と移植物との間にはほとんど壊死の組織がないことを示した(図8(右))。さらに、星状細胞の反応は、脊髄障害において典型的に見られたものだった。これらの特徴は両方とも、絹の繊維が脊髄によってよく許容されることを示す。
【0074】
マクロファージ浸潤は、脊髄内へ移植された絹の繊維の束および周囲の組織内に見られた(図9)。この浸潤の程度は次第に縮小した。また、一般に、移植から2mm以上ではマクロファージはほとんど見られなかった。炎症反応のこのレベルは、他の使用された移植物(例えばフィブロネクチン)、並びに治療のない脊髄損傷に続く炎症反応に比較して好ましいものであり、ホスト脊髄と絹の繊維の良好な適合性をさらに示している。
【0075】
軸索マーカーPGP 9.5でのラベリング(図10)は、多数の軸索(矢によって示される)が絹移植物内に成長し、一般に絹の繊維のそれと平行な配向を示すことを示した。最大の成長は、移植後4週で見られた(評価された最後の時点)。
【0076】
共焦点顕微鏡検査法(図11)は、PGP 9.5でラベリングされた軸索は、個々の絹の繊維に沿って、またそれらの間に成長したことを示す。さらに、この時点(4週)までは、絹の繊維の劣化を示すものはなかった。
【0077】
図12は、軸索マーカーPGP 9.5およびシュワン細胞マーカーp75での二重ラベリングを示し、マット内に成長した軸索とシュワン細胞との緊密な対応を示す。これは、移植物において見られた成長の多くが、抹消起源および/または良好に確立された、シュワン細胞に組み合わせた神経組織栄養の支援により刺激されることを示唆している。
【0078】
実施例3:
絹の導管内の絹の繊維の移植(第1の反復)
脊髄中の絹に基づいた導管の使用についての最初の調査により、コア内にきっちりと充填された絹の繊維を有する絹の導管からできている導管を検討した(図13)。
方法:
移植方法は、上記の(2)に記載された方法と同一だった。ただし、脊髄の中に作られた損傷キャビティーがわずかに広く、必要とされた移植物の直径(およそ1mm)が異なるものとされた。
結果:
結果は、これらの移植物が脊髄と一体化せず、組織取り出しの間に脊髄から離れたことを示した。これは、おそらく、導管内の繊維の充填密度が大きすぎ、移植物内へ内因性の要素の浸透を許容することができず、それによりホスト脊髄とのいかなる種類の一体化も不可能となったためであろう。しかしながら、損傷キャビティーが本質的にすべての動物中の移植物と同じサイズで、移植物部位のまわりの脊髄が壊死を示さず、これらの移植物がホスト脊髄によってよく許容されたことを示したことに注目することは重要である。
【0079】
実施例4:
ヒアルロン酸を含む絹の導管内への絹の繊維の移植
絹の導管の一体化が見られなかったこと(上記参照)は、導管のコア内の絹の繊維に対して、繊維が生体分解性の媒体中で懸濁可能であり、軸索および他の内因性の要素の浸潤のためのスペースを許容するだけでなく、軸索の成長を妨げないことを繊維に要求するだろうということを示唆した。したがって、ヒアルロン酸中に懸濁された絹の繊維を有する絹の外側鞘から成る導管がコア内に移植された。
【0080】
方法:
移植と染色法は、上記の実施例3に記載された方法と同一だった。ただし、脊髄の中に作られた損傷キャビティーがわずかに広く、必要とされた移植物の直径(およそ1mm)が異なるものとされた。
結果:
導管の構造は明瞭に見ることができる(図14)。外側の鞘の各壁は小さな絹の細長い小片(矢印)として現れ、および内側のコアは長さ方向に配向したストランドとして現れる(矢じり)。結合されていない絹では(セクション2を参照)、GFAPラベリングは、絹移植物は、星状細胞の瘢痕と移植物との間に壊死組織がほとんどまたは全くなく、ホスト脊髄で良好に一体化されたことを示した。
【0081】
絹導管の中へのマクロファージ浸潤は、図9と比較して、結合されていない絹の繊維(図15)で見られたそれに外観と程度において類似していた。さらに、移植後8週において、絹の繊維が壊れ始めた証拠は依然としてなかったが、マクロファージは個々の絹の繊維の回りにクラスターを形成するのを見ることができることがある。
【0082】
結合されていない絹(実施例3を参照)でのように、多数のPGP 9.5で染色された軸索が、絹の繊維間に成長するのを見ることができることがある(図16を参照)。結合されていない絹の繊維とは対照的に、内に伸びる軸索の多くは、ファシクル(fasicles)中で成長するのを見ることができることがある。
【0083】
さらに、軸索マーカーPGP 9.5およびシュワン細胞マーカーp75の二重ラベリングを有する結合されていない絹(実施例2を参照)では、マット内に成長した軸索とシュワン細胞との間に緊密な対応が示される(図17)。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、シュワン細胞核のヘキスト染色をした後根神経節(DRG)外植片を示す。
【図2】図2は、さらにヘキスト染色をしたDRG外植片を示す。
【図3】図3は、ヘキストラベルされた坐骨神経外植片を示す。
【図4】図4は、ヘキスト染色ラベルされたシュワン細胞核およびGAP−43の免疫反応性の神経突起を有する成人DRG培養を示す。
【図5】図5は、ヘキスト染色ラベルされたシュワン細胞核およびGAP−43の免疫反応性の神経突起を有する成人DRG培養を示す。
【図6】図6は、神経膠の特定のマーカーS100を使用した細胞のラベル付けを示し、多くのS100の免疫反応性のシュワン細胞が絹の繊維と関連性を有することを示す。
【図7】図7は、GAP−43、およびニューロン特異性のマーカーβlllチューブリンを使用した細胞のラベル付けを示す。
【図8】図8は、絹繊維および脊髄(白色の繊維、図8、左)を示す。
【図9】図9は、脊髄内へ移植された絹の繊維の束の内のマクロファージ浸潤と、周囲の組織を示す。
【図10】図10は、絹の繊維の配向と平行に配向した絹移植物内への、PGP 9.5軸索のマーカーでラベルを付けた軸索(矢印)の成長を示す。
【図11】図11は、個々の絹の繊維の間にも沿って成長する、PGP 9.5軸索のマーカーでラベルを付けた軸索の焦点を共有する顕微鏡検査法を示す。左の写真は矢印でマークされた軸索を示し、右の写真は矢印でマークされた絹の繊維を示す。
【図12】図12は、軸索のマーカーPGP 9.5およびシュワン細胞マーカーp75による二重のラベリングを示す。左の写真は軸索を示し、右の写真はシュワン細胞を示す。
【図13】図13は、導管のコア内に配置された絹の繊維の導管を示す。
【図14】図14は、脊髄へ移植された導管の構造を示す。
【図15】図15は、絹の導管中へのマクロファージ浸潤が、結合されていない絹の繊維で見られたそれに、外観と程度において類似することを示す(図9を参照)。
【図16】図16は、絹の繊維間に成長するPGP 9.5で色づけされた軸索を示す。
【図17】図17は、軸索のマーカーPGP 9.5およびシュワン細胞マーカーp75により二重ラベリングが、マットに成長したシュワン細胞と軸索の間で密接な対応を示すことを示す。左の写真は軸索を示し、右の写真はシュワン細胞を示す。
【図18】図18は、本発明の1つの実施態様による神経導管の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢神経および中枢神経組織の治療の向上のために好適なデバイス、構築のための方法およびその使用に関する。
【0002】
場所によっては、外傷または外科手術によって引き起こされた末梢神経損傷は、感覚と運動の消失に結びつく場合がある。回復の速度および程度は遅く、しばしば不完全で、可変である。例えば、機能の喪失は患者を非常に苦しめる場合があり、たとえば、陰茎の神経の損傷は男性のインポテンツに帰着する。脊柱の離断はより重大な結果を有している。損傷された脊髄中の神経の結合を回復する方法はまだない。脊髄損傷の結果は、随意筋の麻痺および衰弱、および離断により引き起こされる皮膚知覚帯の完全な感覚消失を含んでいる。尿・直腸の括約筋の制御不能は両者の失禁に帰着する。更に、上部の頚部脊椎骨内の離断は横隔膜の麻痺に結びつく。第3から5頚部脊椎骨から横隔神経の分布が出るからである。さらに、それは、肋間筋(胸神経が分布する)の麻痺に帰着する。したがって、上部頚部中の離断は、潜在的に致命的な結果を与える呼吸運動を止める。彼らの生命維持のために、この種の損傷を持った患者に人工呼吸を施すことはしたがって必要である。さらに、パーキンソン病および多発性硬化症のような成人病は、中枢神経系の神経路を変性させて、運きを伝える事ができなくなったり、感覚消失および覚醒の低下のような衰弱および高度の苦難をもたらす。
【0003】
通常、末梢神経損傷の後にはある程度の回復が起こり、軸索の再生および再結合をもたらす。しかしながら、人体においては脊柱の離断の後には再結合は見られず、神経路への大怪我の後の脳の中では、再結合はほとんど起こらないと考えられる。
【0004】
従って、神経と神経路の修復を促進する様々な試みがなされた。3つのアプローチが、害された末梢神経の外科治療に使用された:接した端の直接的な再縫合;自家移植片置換;そして、天然または合成の、神経再結合を誘導するように設計された様々な物質の使用。第1のアプローチは制限されている。神経の切断端を縫合するに十分に近づけることは不可能であろう。また、それが可能でも、損傷および外科の手技に起因して生じる瘢痕組織は、軸索が吻合部位を横断するのを防止し、神経腫として公知の神経組織のもつれた結節に時々帰着する。ギャップが長すぎる場合には、自家移植片は現在では最良の選択肢であり、例えば無傷の場所から採取された患者の腓腹神経を縫合して、神経の害された部位を交換する。このアプローチの欠点は、ドナー組織移植片の除去に起因する感覚消失、増加した疼痛、置換されなければならない長い傷ついた部位が存在する場合に十分に長い移植片を除去することは非実用的であり、移植片除去場所での増加した感染の危険および追加される瘢痕にある。さらに、修復手順は時間がかかり、高度の技術を要求する。
【0005】
様々な異なる神経移植片物質が、神経自家移植の欠点の克服を望んで、空の神経周膜を含めて試みられた。軸索成長にチャネルを提供し、かつ線維芽細胞の浸潤および神経腫の形成を防ぐために、カフ、導管、包みおよびチューブを考案する試みの長い歴史があるが、現在、これらのどれも満足な結果を与えていない。
【0006】
神経治療に導管を提供する最も初期の試みでは、脱灰された骨に由来したコラーゲンのチューブを使用した。これは、一般に機能の回復のない線維性癒合に帰着した。脈管、筋膜、脂肪、筋肉、フィブリン、羊皮紙、ゼラチンおよび様々な金属をはじめとする広範囲の他の組織および物質が、続いて試された。これらのデバイスにおける失敗は、組織損傷および移植された物質によって引き起こされた繊維症に起因した。その再吸収されない物質の使用は、それらの除去のためのさらなる外科的処置をしばしば必要とした。
【0007】
害された末梢神経に導管を提供するためにこれらの初期の物質についての改良も示唆された。例えば、末梢神経修復のためのサイラスティック・カフの使用が、Journal of Neurosurgery、28巻、pp.582−587(1968)中でDuckerらによって報告された。神経修復のためのシリコーンゴム鞘は、Surgical Forum、19巻、pp.519−528(1968)において、Midgleyらによって、およびJournal of Neuropathology and Experimental Neurology,41巻、pp.412−422(1982)においてLundborgらによって報告された。生体再吸収性のポリグラクチンメッシュチューブの使用は、Muscle & Nerve,5巻、pp.54−58(1982)の中でMolanderらによって報告された。神経再生での半浸透性のアクリル共重合体チューブの使用は、Journal of Neuroscience Research、9巻、pp.325−338(1983)において、Uzmanらによって示された。神経ギャップの橋架けのための空の末梢神経のチューブの使用も、Y.Restrepoらの、Microsurgery 4:105−112,1983の、Fascicular Nerve Graft Using An Empty Perineurial Tube:An Experimental Study in the Rabbit、およびRestrepoらの、Empty Perineurial Tube Graft Used to Repair A Digital Nerve:A First Case Report(Microsurgery 6:73−77 1985)において、開示されている。ポリエステル類および他のポリマーの生体再吸収性の神経誘導チャネルは、Nyilasらの、Transactions Am.Soc.Artif.Internal Organs、29巻、pp.307−313(1983)に報告されている。人工神経周膜としてのポリグリコール酸の使用はAnn.Plast.Surg、11巻、pp.397−411にJoseph M.Rosenらによって示される。
【0008】
米国特許6716225は、生体適合性を有し、生体再吸収性の生体高分子から作られた、縦方向に堅い中空の導管の使用を開示する。米国特許5,026,381、4,963,146および米国特許5,019,087は、タイプIコラーゲンから作られたマイクロ多孔性の多重壁を有する中空導管を開示する。米国特許6676675は、神経再生の刺激を目指した、ポリビニルアルコールを含む長さ方向に堅いシートまたはチューブ、または複数のチューブの使用を開示する。米国特許6,589,257は、ポリグリコール酸、ポリ乳酸またはポリ(グリコール酸−乳酸)共重合体、または関連する再吸収可能な合成物質から作られ、ゼラチンまたはコラーゲンでコーティングされ、ラミニンでコーティングされた長さ方向に延伸された架橋されたコラーゲン線維を含む再吸収可能なチューブの使用を開示する。米国特許6,090,117は、コラーゲン細線維間のスペースが、コラーゲンラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチンおよび生長因子を含んでいるマトリックスゲルで充填される同様のチューブの使用を教示する。米国特許5,834,029は、セル結合において重要であることが公知の3つのラミニン・シーケンスのうちの任意の1つによって誘導されたマトリックスを含んでいる生体適合性の半浸透性の導管を教示する。
【0009】
3本の末梢神経再生導管が、ここまで治験のためのFDAの承認を得た:サルブリア ナーブ カフ;インテグラ ニューロサイエナシズ 再吸収可能コラーゲンチューブ、およびニューロゲン ニューロチューブ。これらのデバイスが末梢神経の治療を刺激する能力には、相当な改良の余地がある。これらのデバイスまたは上記の言及された物質またはアプローチのいずれも、末梢神経の修復に対して完全に十分ではない。また、どれも中枢神経系(CNS)軸索の再生の刺激に有用であるとは証明されていない。
【0010】
本発明は、末梢神経および中枢神経の白質の再生についての先行技術の試みに伴う損失の多くを、なくすかまたは本質的に減じる、移植可能なデバイスに関する。
【0011】
本発明の1つの態様は、1つの内腔および長軸を有している管状のボディ;および
管状のボディの内腔の長軸に沿って本質的に平行に置かれた、複数の絹の要素、を含む医療デバイスを提供する。
【0012】
管状のボディは再吸収可能な物質を含むことができる。例えばタンパク質または天然又は人工のタンパク質ベースの物質であることができる。合成物質とは、化学的プロセス、並びに組み換えDNA技術プロセスによって合成された物質を包含する。マトリックス中に置かれた繊維を含む複合構造物が好ましい。デバイスの管状の壁は、絹の繊維および適当な蛋白質から作られることができる。例えば再生成されたBombyx moriプロテインのマトリックスと Antherea pernyiiシルクであることができる。
【0013】
マトリックスは、蚕(mulberry silk worm)または非蚕(non−mulberry silk worm)から得られた、再溶解された絹のタンパク質のような絹タンパク質、または蚕または非蚕の蚕から得られた天然絹糸フィブロインから形成することができる。例えばAntherea pernyii シルクが使用できる。たとえば、ホルムアルデヒドガス、グルタルアルデヒド、クエン酸塩イオン、リボース、グリオキサールまたはゲニピンの使用によって架橋させることにより、マトリックスを安定させることができる。
【0014】
ボディを形成する繊維は絹の繊維を含むことができ、それはヘリカルに配置されるかまたは編まれる。
内腔内の絹の要素は、約lμから約l00μmの距離で、互いに好ましくは離れて置かれる。
本発明のデバイスは、10,000μm2当たり約1から約30まで、好ましくは10,000μm2当たり約1から約10、または10,000μm2当たり約5から約10の範囲の、絹の要素の充填密度を有することができる。
【0015】
本発明のこの態様に従えば、デバイスは、約1.0から約2.5mmまで、好ましくは約1.5mmから約2.0mmまで、または約1.0mmから約1.5mmまで、最も好ましくは約1.4mmまたは1.5mmの外部直径を有する管状のボディから作られることができる。
管状のボディの壁は、約250μmから約750μm、好適には約300μmから約600μmの厚さを有することができ、300μmから350μmの値が好ましい。
【0016】
デバイスの長さは、約0.5mmから約150mmまであることができる。デバイスの長さはデバイスを使用して治療される神経に適当なように選ばれることができる。例えば、デバイスがより小さな神経の修復向けである場合、デバイスは適当には、約1.0mmから5.0mmまで、または1.5mmから2.5mm、または1.0mmから2.0mmであることができる。より大きなサイズの神経の修復の場合には、デバイスは対応して大きくなることができ、たとえば、約10mmから20mmまでであることができる。人間の神経の自己由来の移植は、20mmから130mmの長さが成功裡に使用され、また、本発明のデバイスも同様のサイズであることができる。
【0017】
絹の要素は約5μmから約50μm、好適には約10から20μmの直径を有することができる。
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、デバイスは長さ2.0mmであり、直径は0.5mmである。
【0018】
デバイスの中で使用される絹の要素または繊維は、蚕絹:非蚕絹、クモ・ドラグライン絹および、遺伝子組み換え絹タンパク質またはタンパク質類似化合物から紡いだフィラメントから作られることができる。非蚕絹が特に好ましい。適当な例はAntherea pernyiiシルクである。
絹の要素は、典型的には細片絹または巻きとられた絹かよじられた絹の形をしている。絹の要素は便利なように調整されることができ、デバイスの壁に対して本質的に長さ方向に配向される。
【0019】
細胞移動を促進するために、絹の要素は、トリプレツトRGDの少なくとも8個の繰り返しを含む主要な絹のタンパク質を好ましくは有する。それらの内の少なくともいくつかは、主要な絹のタンパク質の構造の曲がり部分または予測される曲がり部分のすぐ近くに隣接して配置される。絹の主要なタンパク質は好ましくは、細胞接着性を調節するために、主要なタンパク質の1つ又は複数のアルギニン基が、そこからブロックされている部位を有する。ブロッキングは脱アミノ化、硫酸化、アミド形成、またはシクロヘキサンジオンでのブロッキングの1つまたは複数により達成することができる。
【0020】
デバイスの遠位の端から近位の端へ、自由なアルギニン基の密度勾配を生じさせるためにブロッキング薬を使用することは便利な場合がある。これは、最初にブロッキング薬の溶液中に近位の端を浸け、ゆっくり次第にデバイスを低下させることにより達成することができる。あるいは、それらが管状のボディの内腔へ導入される前に、自由なアルギニン基の勾配を絹の要素へ導入することができる。そのような勾配は線形、または非線形であることができる。勾配は、デバイスの近位の端で絹の繊維から離れるように神経細胞プロセスを促進することがある。
【0021】
デバイスに入って、出てゆくように神経細胞プロセスを促進するために、長さ方向に配向された絹の要素を、それらがデバイス内腔の管状のボディの1つの端または両端から、0.1から10mm超えて出るように配置することは望ましい場合がある。
ヒドロゲル(例えばポリリシンまたはカゼインとともに、またはこれらを含まないアルギン酸またはヒアルロン酸)のような、再吸収可能な生体適合性のポリマーを含む内腔マトリックス中に、絹の要素がセットされることは特に好ましい。他の成分、たとえば、細胞外マトリックス(ECM)、たとえば、フィブロネクチンおよび/またはラミニンが存在することができる。これらの物質は導管中の内腔マトリックスに加えられるか、または内腔マトリックス中の絹のフィラメント上にコーティングされることができる。
【0022】
本発明の第2の態様は、医療デバイスを製造する方法であって、管状のボディを形成し、管状のボディの内腔へ絹の要素を導入し、管状のボディの内腔の長軸に沿って本質的に平行に配置することを含む方法に関する。
【0023】
管状のボディの形成は、さらに以下の工程を含むことができる:
その上に管状のボディが形成される型台の調製;
型台の上に繊維を置くこと;
繊維にマトリックスを適用して複合物ボディを形成すること;および
型台を除去すること。
【0024】
管状のボディの形成はさらにマトリックスを架橋させることを含むことができる。
チューブの内腔内の絹の要素間に、内腔マトリックス成分を導入することも好ましい。
絹の要素は、例えばエチレンジアミン4酢酸ナトリウム塩(EDTA)のようなキレート試薬の溶液で洗浄して、有毒な場合がある遷移金属イオンのような、可能性のある汚染物質を除去することができる。他のキレート試薬も使用することができる。好ましくは、絹からセリシンを除いて精練される。これは絹をプロテアーゼ、例えばサブチリシンを使用して処理することにより達成することができる。しかし、他の穏やかな蛋白質分解酵素も使用されてもよい。その後、酵素は、処理の後に洗浄することができる。
【0025】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様による医療デバイスの移植を含む神経細胞の再生のための方法を提供する。
本発明は、末梢神経および中枢神経の白質の再生に関して、先行技術の試みに伴う損失の多くを除去するか本質的に減じることができる移植可能なデバイスに関する。
より詳細には、本発明のデバイスは生体適合性の再吸収可能な物質から構成され、神経軸索、シュワン細胞およびグリア細胞を成長させるために結合部位を提供するその能力が調整されることができる。
【0026】
本発明によるデバイスの好ましい形状は、両端が開き、配向された絹のフィラメントを内腔内に含む絹の複合チューブを含む。複合チューブの壁は典型的には本質的に均一の厚さを有している。そして、移植される場所に応じて、0.1から25mm、好ましくは250から750μmの直径を有する。
【0027】
絹の複合チューブは、典型的には交差角度約55度のヘリカルパターンとして置かれた細い非蚕の細片絹フィラメントを含み、これは蚕または非蚕から得られた再溶解された絹フィブロインである再生されたマトリックス中に設置される。しかし、他の再吸収可能な生体適合性のフィラメントおよび再吸収可能な生体適合性のマトリックスを代わりに使用することができる。さらなる実施態様では、マトリックスは、本質的に、蚕または非蚕の絹糸腺から抽出された生来の絹のフィブロインから構成される。マトリックスは共有結合の架橋によって安定させられる。1つの実施態様では、これはホルムアルデヒドガスで処理することにより達成されるが、他の架橋剤を使用することができることができる。さらなる実施態様では、絹の複合チューブは、編み機を使用して、1つまたは7−13の精練された非蚕の絹から直接調製された編まれた絹のチューブから調製することができる。編んだ絹のチューブは、再生された蚕または非蚕絹のような1つ以上の再吸収可能な生体適合性のポリマーの溶液で処理され、編まれた絹のチューブの絹の糸の間にマトリックスを形成する。
【0028】
絹の複合チューブは、ヒアルロン酸を含む内腔マトリックス中に配置された非蚕の絹のフィラメントを含んでいる。他の内腔マトリクス物質としては、ポリリシンを含むヒアルロン酸、またはポリリシンおよびカゼインを含むかまたは含まないアルギン酸塩のようなヒドロゲルがあげられる。フィラメントは、絹の複合チューブの長軸に対して本質的に長さ方向に配向され、チューブの端でフラッシュが切断される。さらなる実施態様では、絹のフィラメントおよび内腔マトリックスは、チューブの端を短かい距離だけ越えて伸びるか、またはチューブの端から短かい距離だけ手前で終了する。フィラメントは、典型的にはチューブの内腔に、10,000μm2当たり1から10本のフィラメントの密度で充填され、フィラメント間が30から100μmとなる平均の間隔を与える。しかしより低密度の充填も使用することができる。
【0029】
さらなる実施態様では、デバイスはさらに1つ以上の生物活性物質を含むことができる。物質は、生長因子、サイトカイン、抗生物質、免疫抑制薬、ステロイド、非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)から成る群から選ばれることができる。生長因子は神経成長因子であることができる。例えば、神経成長因子はフィラメントを囲む内腔マトリックスに加えられることができる。このための使用されることができる神経成長因子として、デバイスが末梢神経の回復を高めるために使用される場合には、末梢神経NGFがあげられ、デバイスが脳または脊髄の中で使用される場合には、中枢神経ニューロトロフィン−3(NT3)または脳由来神経栄養因子(BDNF)があげられる。フィラメントを囲む内腔マトリックスに、神経再生を促進するかまたは神経膠腫または線維形成を抑える他の医薬品または要素を加えることができることが理解されるだろう。さらに、デバイスの機能を高める薬品および他の要素も、絹の複合チューブのマトリックスに加えることができる。例えば抗生物質、免疫抑制薬、ステロイドまたは非ステロイドの抗炎症薬(NSAID)が例示される。他の生物活性物質としては、再生を促進するcAMPエンハンサー(たとえば、ロリプラムまたはdb−cAMP)、TFGβ抗血清および/またはコンドロイチナーゼのような瘢痕形成を減じる分子、またはミエリン阻害を減じる分子(例えばアンチ−Nogoトリートメント)があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
たとえば、シュワン細胞または臭覚被膜細胞(OECs)のような細胞が、神経の再成長および/または神経幹細胞の髄鞘形成を助けるために本発明のデバイスに加えられることもさらに意図される。必要に応じ、他のタイプの細胞を加えることができる。細胞はデバイスが移植されることになっている患者からの内因性の細胞であることができる。または、細胞は、外部ソース(例えば培養中で育てられた細胞)からの外因性の細胞であることができる。言いかえれば、細胞は、患者の免疫系に関して自己由来のことがあり、または非自己由来のこともある。
【0031】
本発明によって調製された神経導管の長さも、害されているか変性された白質の修復を促進する目的で、脳または脊髄に挿入される長さであることができる。それらは、中枢神経系の適当な部分に結合するために、移植された神経芽細胞幹細胞から形成された、移植されたニューロンを導き促進する目的で、セルシーディング技術と共に使用することができる。
【0032】
生物活性物質または細胞が本発明のデバイスに加えられる場合、濃度勾配(線形または非線形)が、デバイスのもう一つの端(例えば遠方の端)に対して、1つの末端(例えば近い端)での物質または細胞のより高い濃度により確立されることができる。あるいは、物質または細胞の貯蔵部分がデバイスの1つの端にのみ加えられることができる。
【0033】
さらなる実施態様では、絹の複合チューブは省略され、再吸収可能なマトリックスの中に配置された配向された絹のフィラメントが直接移植される。
移植のために、適切な直径のデバイスが、治療される神経または白質路の直径に応じて選択されている。デバイスは適切な長さに鋭いブレードまたは他の道具で切断される。1つの実施態様では、デバイスは、1つ以上の縫合糸によって適所に保持される。別の実施態様では、デバイスは、フィブリン糊で適所に保持することができる。デバイスは乾燥した状態で、移植されることができ、または使用の前に適切な生理的塩類溶液で5分から5時間の間ソーキングすることができる。
【0034】
本発明により、したがって、神経細胞の再生に使用するための、上に記載されているようなデバイスが提供される。そのようなデバイスは、脊髄中の、または末梢神経中の神経細胞の再生に特定の用途を見出すことができる。
【0035】
したがって、本発明のデバイスは、動物の体内中の1つまたは複数の神経への外傷または損傷の治療に有用性を見出す。したがって、本発明は人間医学および獣医学の両方に用途を見い出す。人間では、最大の神経は、その最大の直径でちょうど20mm弱である坐骨神経である。人間の医学で使用される適当なデバイスの長さは変わることがあるが、治療を必要とする臨床的に観察された神経の損傷を考慮して、典型的には約10mmから約20mmまでであるだろう。
【0036】
したがって、本発明のデバイスは、中枢神経系中の、または末梢神経系中の害された神経または損傷を受けた神経の連絡を再建するのに役立つことができる。本発明は、神経への損傷の前に存在した、細胞内/細胞外の環境にほぼ類似する環境を備えた神経または脊髄を再構成する手段を提供する。末梢神経の損傷の場合には、とりわけ、軸索とラミニンのような細胞外マトリックス分子中の電気的なインパルスの適切な伝導に必要な、シュワン細胞を有髄化することを含んでいる。したがって、本発明のデバイスは、さらにフィブロネクチンおよび/またはラミニンのような細胞外マトリックス成分(ECM)、およびシュワン細胞のようなさらに外来性の細胞を含むことができる。
【0037】
本発明によって治療可能な損傷された末梢神経のタイプは、神経の離断が生じる損傷を受けた神経である。その損傷は神経断裂症と称されることがある。そのような損傷の臨床的定義は、「サンダーランドシステム」での第4度または第5度の神経断裂症とも呼ばれる。第4度の神経断裂症では、すべての神経および支持する要素の離断がある。神経上膜は完全なことがある。また、神経は拡大されている。第5度の神経断裂症では、神経の連続性を失った完全な離断が見られる。
【0038】
本発明の第2およびそれ以降の態様の好ましい特徴は、第1の態様に準ずるものである。
本発明は、以下において実施例および図を参照しつつさらに記述されるが、これらは例としてのみ提供され、本発明を何ら制限するものではない。多くの図が言及される:
図1は、シュワン細胞核のヘキスト染色をした後根神経節(DRG)外植片を示す。多くのシュワン細胞が外植片から移動しており、絹の繊維に接着したことを示す。
図2は、さらにヘキスト染色をしたDRG外植片を示す。多くのシュワン細胞が外植片から移動しており、絹の繊維に接着したことを示す。さらに、GAP−43の免疫反応性の神経突起(矢印)は、個々の絹の繊維に沿って伸び、ある場合には個々の繊維に橋を架ける。
図3は、ヘキストラベルされた坐骨神経外植片を示し、GAP−43の免疫反応性のシュワン細胞が外植片から移動しており、絹の繊維に接着したことを示す。
図4は、ヘキストラベルされたシュワン細胞核およびGAP−43の免疫反応性の神経突起を含む成体DRG培養物を示す。ラミニンでコーティングされている絹の個々の絹の繊維に接着することが示される。
図5は、ヘキストラベルされたシュワン細胞核およびGAP−43の免疫反応性の神経突起を含む成体DRG培養物を示す。ラミニンでコーティングされていない絹の個々の絹の繊維に接着することが示される。
図6は、神経膠の特定のマーカーS100を使用した細胞のラベル付けを示し、多くのS100の免疫反応性のシュワン細胞が絹の繊維と関連性を有することを示す。
【0039】
図7は、GAP−43、およびニューロン特異性のマーカーβlllチューブリンを使用した細胞のラベル付けを示し、ヘキスト−ラベル付けされた核(矢印)のいくつかと、および細かいGAP−43免疫反応性のプロセスは神経が起源であることを示す。
図8は、絹繊維および脊髄(白色の繊維、図8、左)を示す。星状細胞マーカーGFAPでラベルを付けると、一般に、絹の繊維が完全な脊髄(図8、右)のすぐ近くにあり、ホスト脊髄と移植物の間にほとんど壊死の組織がないことを示した。
図9は、脊髄内へ移植された絹の繊維の束の内のマクロファージ浸潤と、周囲の組織を示す。
図10は、絹の繊維の配向と平行に配向した絹移植物内への、PGP 9.5軸索のマーカーでラベルを付けた軸索(矢印)の成長を示す。
図11は、個々の絹の繊維の間にも沿って成長する、PGP 9.5軸索のマーカーでラベルを付けた軸索の共焦点顕微鏡検査写真を示す。左の写真は矢印でマークされた軸索を示し、右の写真は矢印でマークされた絹の繊維を示す。
図12は、軸索のマーカーPGP 9.5およびシュワン細胞マーカーp75による二重のラベリングを示す。左の写真は軸索を示し、右の写真はシュワン細胞を示す。
【0040】
図13は、導管のコア内に配置された絹の繊維の導管を示す。
図14は、脊髄へ移植された導管の構造を示し、細長い小さな絹の破片(矢)が外被膜の各壁に見られ、長さ方向に配向したストランド(矢じり)として内側のコアが現れる。
図15は、絹の導管中へのマクロファージ浸潤が、結合されていない絹の繊維で見られたそれに、外観と程度において類似することを示す(図9を参照)。さらに、移植後8週において、マクロファージは、個々の絹の繊維の回りにクラスターとなるのを見ることができることがある。
図16は、絹の繊維間に成長するPGP 9.5で染色された軸索を示す。
図17は、軸索のマーカーPGP 9.5およびシュワン細胞マーカーp75により二重ラベリングされ、マットに成長したシュワン細胞と軸索の間で密接な対応を示すことを示す。左の写真は軸索を示し、右の写真はシュワン細胞を示す。
図18は、本発明の1つの実施態様による神経導管の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0041】
本発明のデバイスの調製
神経再生導管の調製は、次の工程のうちのいくつかまたはすべてを要求する:
型台の調製;
型台に繊維を置くこと;
水性のタンパク質の溶液を適用し、複合チューブを形成すること;
型台からの取り出し;
ワックス除去;
複合材料の架橋;
チューブ内へ配向された絹のフィラメントを差し込むこと;
チューブの内腔内のフィラメント間へのマトリックス成分の追加;
フィブロネクチンおよび/またはラミニンのような細胞外マトリックス成分の導入;
神経成長因子の導入、発熱物質の除去および殺菌;
1つまたは複数の神経成長因子の追加;および
乾燥および所定の長さへのデバイスの切断。
【0042】
上記の順序は良好な結果を与えるが、ある工程の順番は重大ではない。例えば、架橋は、チューブへの絹のフィラメントの追加の後に実行することができる;また、発熱物質除去は、NGFの追加の前に、またはその追加の後に実行することができる;殺菌がガンマ照射によって実行される場合、NGFは殺菌の前に加えることができる。
【0043】
円筒状の型台の調製
型台は以下のように調製される。型台を調製する最も簡単な方法は、適切な直径のステンレス鋼管材料またはロッドを使用することである。これらは使用の前に清浄にされ、研摩される。適用されたマトリックス材が乾燥された後、チューブは、容易に型台から滑らせて排出させることができる。小さな直径の型台については、比較的堅い直線のワイヤーが、パラフィンワックスの薄い層または周囲温度よりも高い比較的低い温度で溶融する他の物質の薄い層で最初にコーティングされる。コーティングはワイヤーを溶融したワックスに垂直に浸漬することにより達成することができる。型台上のワックスコーティングの外側の直径は、その上に形成されるチューブの内側(管腔)の直径を画定する。30mmまでのより大きな直径の型台は、適切な直径のワックスのロッドをキャスティングまたは機械加工することにより、または適切な直径のシリンダをワックスでコーティングすることにより調製することができる。それらのまわりに形成された絹のチューブの内腔の内部から除去することができる型台を調製する他の方法が存在し、それらはこの分野での当業者に容易に利用可能である。
【0044】
型台上に繊維を置くこと
3つのタイプの絹のフィラメントが、神経再生導管の外側壁を形成するチューブの壁を強化する繊維として好適に使用される:絹の細片(繭廃棄物からコーミングして取り出し、カージングして精練されたフィラメント);一度に1つの繭から巻きとられた絹から調製された、精練された単一の繭糸;一度に7−13の繭から巻きとられた絹から調製された、20−37デニールの7−13の精練された繭糸。Antheraea pernyiiからのタッサーシルクが使用されたが、任意の蚕または非蚕絹、または天然、組み換え、再生された絹のタンパク質から押し出された絹のフィラメントも代わりに使用することができる。
【0045】
20−37デニールの精練された7−13の繭糸は好結果を与えた。有毒である場合がある遷移金属イオンのような、可能性のある汚染物質を除去するために、絹は、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム塩(EDTA)の希薄溶液で最初に洗浄される。他のキレート試薬を使用することもできる。好ましくは、絹は精練される。これはプロテアーゼ(例えばサブチリシン)を使用した絹の処理によって達成される。しかし、他の穏やかな蛋白質分解酵素も使用されてもよい。酵素は、処理の後に洗浄除去される。
【0046】
タッサーシルク細片は、好結果を与える多くの細かい平行なフィラメントを含んでいる。平行なフィラメントは親指と指の間でつかみ、型台の周囲へ巻き、40から50度の間の交差角度のヘリカル層を提供することができる。巻取装置はこの手順を機械化するために使用することができる。あるいは、単一または7−13の繭糸は型台上にヘリカル様に巻くことができる。連続的な絹のフィラメントについては、型台の上にヘリカル層を巻くのに簡単なデバイスを使用することができる。これは、円筒状の型台をゆっくり回転して、エキセントリックカムを駆動するために小さな電動機を使用し、そのカム従動子が型台上に絹を分布させる。柔軟な円筒状の型台上へ絹のフィラメントを連続的に巻くためのデバイスは、容易に構成される。
【0047】
代案として、編んだチューブは、編み機を使用して、1または7−13の精練した繭糸から直接作ることができる。編んだチューブは以下に記載されるように、絹の複合チューブを形成するために使用することができる。
【0048】
複合チューブを形成するために水性のタンパク質溶液を適用すること
様々なタンパク質が絹複合材料のマトリックスを供給するために使用することができる。6.3Mの臭化リチウム水溶液中に市販のフィブロイン粉末を溶解したことにより調製された、新鮮に調製した再生された蚕フィブロインの濃度10−40%w/vの溶液で好結果が得られた。臭化リチウムは4℃で蒸留水に対する完全な透析によって除去される。透析物は蒸発または逆透析によって透析チューブ内に濃縮される。得られた再生フィブロイン溶液は、型台上にある間に絹糸上へペイントされ、孔のないチューブを生産する。フィブロイン溶液は、乾燥される。得られる再生された絹/Antheraea絹の複合チューブは、型台から取り除くことができる。複合チューブは、再生フィブロイン溶液をスプレーすること、または型台を同じ溶液に浸漬することによっても形成できる。蚕または非蚕から直接得られた濃縮フィブロイン溶液は、再生されたフィブロインの代わりに使用することができる。複数のタンパク質も再生されたフィブロインの代わりに使用することができる。これらとしてはフィブロイン糊、ゼラチンの希薄溶液または血清アルブミンを包含する。他の水溶性のタンパク質、ヒアルロン酸または他の生体適合性のポリマーを代わりに使用することができる場合がある。型台に絹を使用する代わりに、編んだ絹のチューブをマトリックス・タンパク質または他の高分子溶液で、スプレーまたは浸漬することによりコーティングすることができる。
【0049】
型台からの取り出し
ステンレス鋼型台が使用される場合、絹の複合チューブは、型台からそれを滑らせることにより容易に除去することができる。狭い複合チューブについては、これは小さな鉗子で達成することができる。ワックスがコーティングされた型台が使用される場合には、ワックスまたは型台への他の低い融点のコーティングを穏やかに溶融することにより、絹の複合チューブはこれから取り除かれる。あるいは、直径を小さくすることができる型台が使用されることができ、たとえば、中央の芯を除去し、その後それを囲む絹の複合チューブを滑らせて排出することができる。
【0050】
ワックスの除去
ワックスが使用された場合、絹の複合チューブ上のこのトレース量を、ベンゼン、キシレンまたは他のワックス溶剤に浸漬することにより除去できる。
【0051】
複合材料の架橋
下記手順は絹の複合チューブのマトリックスタンパク質を架橋するために使用することができる。過剰の乾燥したパラホルムアルデヒドが、封ができる包装容器の底に置かれ、0.2mlの蒸留水が、0.5リットルの容器中の2グラムのパラホルムアルデヒドに加えられる。パラホルムアルデヒドは濾紙によってカバーされる。また、絹複合チューブはこの上に置かれる。包装容器を密封した後に、それは800℃に1時間熱される。冷却後、絹のチューブが容器から取り出され、温かい湯で徹底的に洗われる。
【0052】
チューブ内へ配向した絹のフィラメントを差し込むこと
絹の細片のフィラメントは、乾燥した絹の複合チューブへ以下のように導入される。最初に適当なサイズの針または千枚通しを絹の細片に通す。より大きな直径の絹複合チューブにはサックニードルが役立つ。その後、典型的には、フィラメントはかなり粘着性のヒアルロン酸溶液でペイントされる。糸を通した針または千枚通しは絹の複合チューブを通して押され、チューブを配向した絹のフィラメントで満たす。この条件では、過剰のヒアルロン酸はチューブの切断端からしみ出る。ヒアルロン酸の代わりに他の再吸収可能なゲル剤を使用することができることがある。1つの実施態様では、ヒアルロン酸または他の再吸収可能なゲル剤の使用は省略される。必要な場合には、糸を通した針が、チューブの内腔内において適切な充填密度が達成されるまで、繰り返し絹の複合チューブを通して押される。経験で、これは目視で判断することができる。あるいは、チューブの中への絹のフィラメントの充填密度の正確な測定は、以下のようにして行うことができる:測定された長さの絹の複合チューブの重量を測定し、絹フィラメントを導入し、チューブの端でそれらを切断した後に再度秤量される。チューブの内腔内に所望の重量のフィラメントが存在するまで、フィラメントを追加、または除去することができる。2倍の接眼鏡を取り付けた双眼実体顕微鏡が、チューブの1mm平方の断面当たりのフィラメントの数を測定するために使用される。実験的な移植の前に、走査電子顕微鏡が、10,000μm2当たり10から1本のフィラメントの充填密度であり、フィラメント間の平均間隔がおよそ30から100μmであることは最良である。
【0053】
チューブの内腔内のフィラメント間へのマトリックス成分の追加
絹のフィラメント間の内腔マトリックス成分は、ヒドロゲルの形成により、フィラメント間の適当な離隔を維持しつつ、デバイス調製および挿入に続くすべての工程において、フィラメントを所定の位置に保持するために使用される。さらに、それらはデバイス内への神経成長を高める。様々な生体高分子が、フィラメント間の内腔マトリックスを提供するために使用することができる。これらのヒドロゲルとしては、ポリリシンを含むかまたは含まないヒアルロン酸、ポリリシンを含むかまたは含まないアルギン酸塩、カゼイン、フィブリン糊、血清アルブミン、およびゼラチンが含まれる。必要に応じて、これらの高分子の水溶液は加熱して調製される。他の溶剤を水の代わりに使用することができる。それらの内腔内に配向された絹のフィラメントを含んでいる絹の複合チューブは、これらのポリマーの1つ以上を含んでいる溶液に浸される。真空は浸潤を支援するために適用することができる。フィブリン糊の場合には、フィブリン糊の形成を始めるために、配向された絹のフィラメントを含んでいる絹の複合チューブが、最初にフィブリン溶液で、その後トロンビン溶液で浸透される。
【0054】
発熱物質の除去および殺菌
発熱物質の除去は、神経成長因子を加える前に行なわれるのが最もよい。それは、最終濃度0.1%v/vのトゥイーン20(登録商標)を含んでいるジメチルスルホキシドの1%v/vの水溶液で洗うことにより最もよく実行される。2から5回の洗浄が、この溶液で通常実行される。発熱物質除去の後、デバイスは無菌の発熱物質を含まない生理的食塩水液中で洗浄することができる。発熱物質除去に使用された溶液に接触するすべてのガラスまたはプラスチック用具または他の実験装置は、発熱物質を除去するために少なくとも2時間2400℃で焼成されるべきである。
【0055】
1つまたは複数の神経成長因子(NGF(s))のような生物活性物質の導入
神経成長因子のような一連の生物活性物質は、デバイスへ導入することができる。これらには、デバイスが末梢神経の回復を高めるために使用されることになっている場合には、これらは末梢神経NGFを包含し、デバイスが脳または脊髄の中で使用されることになっている場合には、中枢神経neurotrophin−3(NT3)または脳由来神経栄養因子(BDNF)を包含する。神経成長因子は、フィラメント間の内腔マトリックス成分を形成する際に最もよく加えられる。その内腔内に配向した絹のフィラメントを含んでいる絹の複合チューブにそれらが加えられる前に、それらは内腔マトリックス溶液と混合することができる。
【0056】
デバイスの乾燥および所定長さへの切断
デバイスは最初にブロットされ、乾燥される前に過剰溶液を除去する。複数の乾燥方法を使用することができ、空気乾燥または凍結乾燥を使用することができる。最適には、導管の適当な長さは、乾いたデバイスから切断される。これらは直接移植するか、または移植の前に、無菌で発熱物質を含まない09% w/vの生理的食塩水中で水分が補給される。
【0057】
デバイスの移植
脊柱の離断または部分的な離断の処理については、厚さ2から10mmのデバイスのディスクが、絹のフィラメントを含んでいる2−20mmの直径の絹の複合チューブの長さ方向から切断される。これらは、損傷している場所で脊髄に横に挿入される。剥離損傷の場合には、導管は脊髄を引き剥がされた根に結び付けるように挿入することができる。末梢神経の再生を促進するための導管は、1−15mmの直径の細いチューブから調製される。直径は治療される神経のサイズおよび位置に応じて変化する。デバイスは、所定の位置に軽く縫合されるべきである。
【0058】
神経導管の長さは、害されているか退化させられた白質の修復を促進する目的での脳に挿入される長さであることができる。それらは、中枢神経系を適当な部分に結合するために、移植された神経芽細胞幹細胞から形成された、移植されたニューロンを導き促進する目的で、セルシーデイング技術と共に使用することができる。セルシーデイング技術も脊髄または末梢神経移植と共に使用することができる。
【0059】
上に記載されたデバイスは、先行技術に対する4つの長所がある。第1には、デバイスは次の理由で優れた引っ張り特性を有している。これらは、絹の複合チューブ、チューブの組成物の主体およびその内腔の内容物の両方に使用することができる、例外的に強い非蚕絹から発生する。さらに、チューブ中の繊維のヘリカル層は、チューブに長さ方向および半径方向の強度および靭性を提供するように設計されている。さらに、デバイスのボディは、その複合構造によってさらに強靭になる。
【0060】
次に、デバイスのデザインは、デバイスを通っての、軸索のマイグレーションの最適化を可能にする。これは、絹のフィラメントの充填密度のためであり、従ってフィラメントの間のチャネルの寸法を容易に調節できる。さらにデバイスの中で使用される非蚕絹は、軸索を含む細胞が結合する、細胞接着シーケンスRGDの多くの繰り返し(好ましくは少なくとも8)を本来有する。この繰り返しの少なくともいくらかは、タンパク質の曲がり角または予測された曲がり角に隣接している。更に、軸索のマイグレーションについては、結合部位の密度を注意深くコントロールする必要があることが理解される。アクセス可能なRGDサイトの密度が大きすぎる場合、軸索の伸びた物は絹の繊維にしっかりと結合しすぎ、デバイスの反対端から出てこない。一方、アクセス可能なRGDサイトの密度が小さすぎる場合、絹のフィラメントへの軸索の伸びた物の付着は不十分であり、デバイス内へ移動するそれらの能力が減じられる。したがって、絹のフィラメントへの軸索の伸びた物の結合は、絹のフィラメント上のRGDサイトの密度を変えることにより調節することができる。これは2つの方法で達成することができる。RGDサイトの天然の密度は、絹の分子当たり1つから、1つの分子当たり12以上まで、種類によって変わる。したがって、絹は、RGDサイトの適切な密度により選択することができる。Antheraea pernyii絹の中のRGD基の天然の密度は好結果を与える。さらに、アルギニン イプシロン アミノ基を当業者には理解されるような穏やかなブロック基で部分的に置換することにより、さらにRGD基の密度を調節することが可能だろう。この方法は、硫酸化およびアミド形成を含んでいるが、これに制限されない。この基はシクロヘキサンジオンによってもブロックされることができる。
【0061】
第3には、乾燥している場合にはデバイスは堅く、濡れた場合には可塑化し、天然の神経のものに類似する曲がりと引っ張り特性を与える。乾燥しているか部分的に水和されている場合、デバイスを挿入して所定の位置に縫合する場合に、その堅さは非常に有用である。一方、ぬれた場合柔軟性は、天然の神経のそれを模倣する。
【0062】
第4には、デバイスが乾燥している場合、内腔マトリックス内のヒアルロン酸ゲルは、内腔内の絹のフィラメントを所定の位置に保持する助けとなり、それはデバイス内腔内の細い絹のフィラメントの損失または配向の乱れを生ずることなく、デバイスを所定の長さに切断し取り扱うことを容易にする。さらに、水和されたヒアルロン酸はニューロンの成長を刺激する。
【0063】
実施例1:培養中の分離されたDRG/絹
最初のインヴィトロでの実験は、培養組織中のAntherea pernyii絹繊維が、末梢神経系(PNS)ニューロン(後根神経節細胞)による神経突起の成長をサポートし、およびさらにPNS支持細胞(シュワン細胞)の接着およびマイグレーションをサポートすることを実証する。実験は、ラット新生児(P3)の後根神経節(DRG)、および坐骨神経体外培養物、および分離された成体ラットDRG細胞を使用して実行された。
【0064】
方法
成体のラットまたは新生児ラット(P3)は、CO2の高濃度の吸入によって犠牲にされた。DRGニューロンは、英国動物(科学的方法)行為に従う手順(Huangら、Neuroreport 16:89−93(2005))を使用して培養された。後根神経節は取り出され、清浄にされ、化学的に分離され(0.125%のコラゲナーゼ、2時間;シグマ、英国)、ボッテンシュタイン アンド サトーの無血清培地(BSF−2;ハムのF−12基礎培地中に0.3%のウシ血清アルブミン(BSA)、1%のN−2サプリメントおよびl00単位の ml−1ペニシリン/100μg ml−1ストレプトマイシンを含む;全ての試薬は米国ライフ・テクノロジーズ(アメリカ製)の中で機械的に分離された。その後、細胞懸濁物は、600回転/分で5分間遠心分離され、再度懸濁された後、15%のBSAクッションによって900回転/分で10分間遠心分離された。ペレットにされた細胞は、BSF−2中に再度懸濁され、次に、ガラス・カバーガラス上に900−1000のニューロン/カバーガラスの密度で、絹の繊維が配置されたカバーガラス上にシーデイングされた。培養が、95%の空気および5%のCO2の湿った大気中で、37℃で7日間、BSF−2中の100ナノグラム/mlの神経成長因子(NGF)で維持された。カバーガラスは、ポリ−L−リジン(l00μg/ml)およびラットテール・コラーゲンで最初にコーティングし、ついで絹の繊維をコラーゲンに付着させて調製された。ある場合には、絹繊維が接着されたカバーガラスが、l0μg/mlのラミニンでコーティングされた後、DRG細胞でシーデイングされた。さらに、いくつかの実験では、DRGと坐骨神経の外植片が分離されたDRG細胞の代わりに使用された。そのような場合、新生児ラット(P3)はCO2の高濃度の吸入によって犠牲にされた。また、腰神経後根神経節と坐骨神経のセグメントが削除され、ラミニンがコーティングされた絹の繊維が接着された、ポリ−L−リジンおよびコラーゲンでコーティングされたカバーガラスに付着された。そして7−10日の間、NGFを含むBSF−2において培養された。
【0065】
培養期間の終わりに、培養物は、100%のメタノールまたは4%のパラホルムアルデヒド中で固定され、次の試薬でラベルが付けられた:DRG細胞体およびプロセスを示すマウスβIIIチューブリン(1:1000)、再生するDRGプロセスおよび無髄シュワン細胞のプロセスを示すウサギGAP−43抗体(1:1000)、シュワン細胞を示すウサギSl00抗体(1:1000)、また一般的な核対比染色としてのヘキスト 3342(2μg/ml)。第一の抗血清は、アンチ−ラビットTRITC(テトラメチルローダミン イソチオシアネート)およびアンチ−マウスFITC(イソチオシアン酸フルオレセイン)の第二の抗血清の使用により視覚化された。その後、調製物はZeiss LSM−510共焦点顕微鏡上で評価された。
【0066】
結果
新生児のDRGおよび坐骨神経外植片
DRG外植片(図1、2)では、ヘキスト色付けは、多くのシュワン細胞が外植片から外へ移動し、絹の繊維に付着したことを示した。さらに、GAP−43の免疫反応性の神経突起は、個々の絹の繊維に沿って伸び、およびある場合には個々の繊維間に橋を架けることを、はっきりと見ることができる。
坐骨神経外植片(図3)では、ヘキストでラベルが付けられた多くのGAP−43の免疫反応性のシュワン細胞が、外植片から外へ移動しており、絹の繊維に付着した。繊維がシュワン細胞の付着のための非常に優れた基体を提供することが確認された。
【0067】
分離された成体のDRG細胞
成体のDRG培養物(図4)中で、多くのヘキストでラベルが付けられたシュワン細胞核およびGAP―43の免疫反応性の神経突起が、個々の絹の繊維に付着することが観察された。繊維が成体PNSニューロンの成長を支持し、グリア細胞を支持することが確認された。外延的成長は、絹がラミニンでコーティングされた培養物(図4)およびラミニンのない培養物(図5)の両方で見られた。絹がそれ自身ニューロンの成長に良好な基体であり、付加的な細胞外マトリックスコーティングを必要としないことが確認された。
【0068】
さらに、インヴィトロで観察された成長の特徴をさらに示すために、ラベル付けがグリア細胞の特定のマーカーSl00およびニューロンの特定のマーカーβIIIチューブリンを使用して実行された。これは、多くのSl00免疫反応性のシュワン細胞が絹の繊維(図6)と組み合わされ、細かいGAP−43免疫反応性のプロセスはニューロンに起因することを確認した(図7)。ほとんどのヘキスト核は卵形で、チューブリン−陰性で、シュワン細胞に属する。しかしながら、いくらかは円形で、チューブリン免疫反応性であり(図7の中の矢印)、チューブリンおよびGAP−43免疫反応性のニューロンプロセスは絹に沿って伸びる。これらは、絹に付着し、絹に沿った伸びるプロセスのDRGニューロンであり、組み合わされたシュワン細胞により支持される。
【0069】
インヴィトロでの研究は、絹から作られた繊維は、新生児および成体のPNSニューロン(DRGセル)の両者による軸索の成長を支援し、シュワン細胞の付着およびマイグレーションを支援することを実証する。シュワン細胞が軸索の成長を支援することは公知なので、これは重要な特性である。
【0070】
実施例2:
成体のラット脊髄中への絹の繊維の移植
最初のインヴィボの実験は、脊髄へ移植する絹の繊維の影響を検討するために行われた。特に興味のあることは、(絹の繊維に対する)軸索の成長の程度および配向、および周囲の完全な神経組織に対する移植の影響(すなわち壊死および炎症反応の程度)であった。
【0071】
方法:
脊髄へ移植された絹についての最初のインヴィボの実験は、結合されていない(すなわち、導管内に含まれていない)絹の繊維の束について行われた。動物の治療および手順は、英国ホームオフィスによって承認されたガイドラインとプロトコルに従って実行された。若い成体雄ウィスターラットは、ハロタン(4%の誘導、2%のメンテナンス)で麻酔をかけられた。切り込みが、脊柱の上の皮膚および筋肉につけられた。また、椎弓切除はT7とT9のレベル間で行なわれた。硬膜が開かれ、中線から横方向にほぼ0.5mm、脊髄の表面から腹部方向にlmm伸びた、長さおよそ2mmの脊髄の一部分を、虹彩はさみを使用して除去した。その後、一束の絹の繊維が、脊髄の長さ方向の軸と平行に絹の繊維を向けて、損傷キャビティーに入れられた。その後、損傷サイトはゲルフォームでカバーされ、上の筋肉および皮膚を縫合した。動物は移植後、1〜8週間生存した。適切な生存時間の後、動物は、ペントバルビタールナトリウム塩(Sagatal、RMB、60mg/kg)で深く麻酔をかけられ、0.01Mリン酸緩衝食塩水(PBS)の50ml、ついで0.01Mリン酸塩緩衝液中4%のパラホルムアルデヒド、pH 7.4が上行大動脈を通して潅流された。脊髄は解剖され、4%のパラホルムアルデヒド中に1−4時間浸けられ、PBS中の15%の蔗糖の中で一晩、凍結防止された。長さ方向の断面の厚さが10−12mmの移植部位が採取された。
【0072】
その後、移植部位を含む部分は、免疫組織化学のために処理された。軸索の内への成長は、低い親和性のp75レセプタの抗体が移植部位に侵入するシュワン細胞にラベルを付けるために使用され、タンパク質遺伝子産物9.5(PGP9.5)の抗体を使用してキャラクタライズされた。さらに、抗星状細胞グリア線維酸性タンパク質(GFAP)を移植物を囲む完全な組織中の神経膠の反応を評価するために使用し、移植への炎症反応をキャラクタライズするためにマクロファージ(EDl)の抗体が使用された。
免疫組織化学用の一般的手順は以下の通りだった:第一の抗体中の48時間の培養、リン酸緩衝食塩水中での10分の洗浄2回、イソチオシアン酸テトラメチルローダミン(TRITC)またはイソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)(両方ともJackson Immunoresearch Laboratories社から入手)に結合した第二の抗体中での2時間の培養。3回の10分の洗浄に続いて、スライドは2.5%の1,4−ジアザビシクロ―(2.2.2)―オクタンを含むPBSグリセリン(1:3)の中でカバーグラスをかけられるか、または上に記載された方法と同じ方法で第2抗体への免疫組織化学のために処理された。
【0073】
絹の繊維は自己蛍光性であり、脊髄中ではっきり見ることができた(白色の繊維、図8、左)。星状細胞マーカーGFAPでラベルを付けることは、一般に、絹の繊維が隣接した完全な脊髄のすぐ近くにあり、ホスト脊髄と移植物との間にはほとんど壊死の組織がないことを示した(図8(右))。さらに、星状細胞の反応は、脊髄障害において典型的に見られたものだった。これらの特徴は両方とも、絹の繊維が脊髄によってよく許容されることを示す。
【0074】
マクロファージ浸潤は、脊髄内へ移植された絹の繊維の束および周囲の組織内に見られた(図9)。この浸潤の程度は次第に縮小した。また、一般に、移植から2mm以上ではマクロファージはほとんど見られなかった。炎症反応のこのレベルは、他の使用された移植物(例えばフィブロネクチン)、並びに治療のない脊髄損傷に続く炎症反応に比較して好ましいものであり、ホスト脊髄と絹の繊維の良好な適合性をさらに示している。
【0075】
軸索マーカーPGP 9.5でのラベリング(図10)は、多数の軸索(矢によって示される)が絹移植物内に成長し、一般に絹の繊維のそれと平行な配向を示すことを示した。最大の成長は、移植後4週で見られた(評価された最後の時点)。
【0076】
共焦点顕微鏡検査法(図11)は、PGP 9.5でラベリングされた軸索は、個々の絹の繊維に沿って、またそれらの間に成長したことを示す。さらに、この時点(4週)までは、絹の繊維の劣化を示すものはなかった。
【0077】
図12は、軸索マーカーPGP 9.5およびシュワン細胞マーカーp75での二重ラベリングを示し、マット内に成長した軸索とシュワン細胞との緊密な対応を示す。これは、移植物において見られた成長の多くが、抹消起源および/または良好に確立された、シュワン細胞に組み合わせた神経組織栄養の支援により刺激されることを示唆している。
【0078】
実施例3:
絹の導管内の絹の繊維の移植(第1の反復)
脊髄中の絹に基づいた導管の使用についての最初の調査により、コア内にきっちりと充填された絹の繊維を有する絹の導管からできている導管を検討した(図13)。
方法:
移植方法は、上記の(2)に記載された方法と同一だった。ただし、脊髄の中に作られた損傷キャビティーがわずかに広く、必要とされた移植物の直径(およそ1mm)が異なるものとされた。
結果:
結果は、これらの移植物が脊髄と一体化せず、組織取り出しの間に脊髄から離れたことを示した。これは、おそらく、導管内の繊維の充填密度が大きすぎ、移植物内へ内因性の要素の浸透を許容することができず、それによりホスト脊髄とのいかなる種類の一体化も不可能となったためであろう。しかしながら、損傷キャビティーが本質的にすべての動物中の移植物と同じサイズで、移植物部位のまわりの脊髄が壊死を示さず、これらの移植物がホスト脊髄によってよく許容されたことを示したことに注目することは重要である。
【0079】
実施例4:
ヒアルロン酸を含む絹の導管内への絹の繊維の移植
絹の導管の一体化が見られなかったこと(上記参照)は、導管のコア内の絹の繊維に対して、繊維が生体分解性の媒体中で懸濁可能であり、軸索および他の内因性の要素の浸潤のためのスペースを許容するだけでなく、軸索の成長を妨げないことを繊維に要求するだろうということを示唆した。したがって、ヒアルロン酸中に懸濁された絹の繊維を有する絹の外側鞘から成る導管がコア内に移植された。
【0080】
方法:
移植と染色法は、上記の実施例3に記載された方法と同一だった。ただし、脊髄の中に作られた損傷キャビティーがわずかに広く、必要とされた移植物の直径(およそ1mm)が異なるものとされた。
結果:
導管の構造は明瞭に見ることができる(図14)。外側の鞘の各壁は小さな絹の細長い小片(矢印)として現れ、および内側のコアは長さ方向に配向したストランドとして現れる(矢じり)。結合されていない絹では(セクション2を参照)、GFAPラベリングは、絹移植物は、星状細胞の瘢痕と移植物との間に壊死組織がほとんどまたは全くなく、ホスト脊髄で良好に一体化されたことを示した。
【0081】
絹導管の中へのマクロファージ浸潤は、図9と比較して、結合されていない絹の繊維(図15)で見られたそれに外観と程度において類似していた。さらに、移植後8週において、絹の繊維が壊れ始めた証拠は依然としてなかったが、マクロファージは個々の絹の繊維の回りにクラスターを形成するのを見ることができることがある。
【0082】
結合されていない絹(実施例3を参照)でのように、多数のPGP 9.5で染色された軸索が、絹の繊維間に成長するのを見ることができることがある(図16を参照)。結合されていない絹の繊維とは対照的に、内に伸びる軸索の多くは、ファシクル(fasicles)中で成長するのを見ることができることがある。
【0083】
さらに、軸索マーカーPGP 9.5およびシュワン細胞マーカーp75の二重ラベリングを有する結合されていない絹(実施例2を参照)では、マット内に成長した軸索とシュワン細胞との間に緊密な対応が示される(図17)。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、シュワン細胞核のヘキスト染色をした後根神経節(DRG)外植片を示す。
【図2】図2は、さらにヘキスト染色をしたDRG外植片を示す。
【図3】図3は、ヘキストラベルされた坐骨神経外植片を示す。
【図4】図4は、ヘキスト染色ラベルされたシュワン細胞核およびGAP−43の免疫反応性の神経突起を有する成人DRG培養を示す。
【図5】図5は、ヘキスト染色ラベルされたシュワン細胞核およびGAP−43の免疫反応性の神経突起を有する成人DRG培養を示す。
【図6】図6は、神経膠の特定のマーカーS100を使用した細胞のラベル付けを示し、多くのS100の免疫反応性のシュワン細胞が絹の繊維と関連性を有することを示す。
【図7】図7は、GAP−43、およびニューロン特異性のマーカーβlllチューブリンを使用した細胞のラベル付けを示す。
【図8】図8は、絹繊維および脊髄(白色の繊維、図8、左)を示す。
【図9】図9は、脊髄内へ移植された絹の繊維の束の内のマクロファージ浸潤と、周囲の組織を示す。
【図10】図10は、絹の繊維の配向と平行に配向した絹移植物内への、PGP 9.5軸索のマーカーでラベルを付けた軸索(矢印)の成長を示す。
【図11】図11は、個々の絹の繊維の間にも沿って成長する、PGP 9.5軸索のマーカーでラベルを付けた軸索の焦点を共有する顕微鏡検査法を示す。左の写真は矢印でマークされた軸索を示し、右の写真は矢印でマークされた絹の繊維を示す。
【図12】図12は、軸索のマーカーPGP 9.5およびシュワン細胞マーカーp75による二重のラベリングを示す。左の写真は軸索を示し、右の写真はシュワン細胞を示す。
【図13】図13は、導管のコア内に配置された絹の繊維の導管を示す。
【図14】図14は、脊髄へ移植された導管の構造を示す。
【図15】図15は、絹の導管中へのマクロファージ浸潤が、結合されていない絹の繊維で見られたそれに、外観と程度において類似することを示す(図9を参照)。
【図16】図16は、絹の繊維間に成長するPGP 9.5で色づけされた軸索を示す。
【図17】図17は、軸索のマーカーPGP 9.5およびシュワン細胞マーカーp75により二重ラベリングが、マットに成長したシュワン細胞と軸索の間で密接な対応を示すことを示す。左の写真は軸索を示し、右の写真はシュワン細胞を示す。
【図18】図18は、本発明の1つの実施態様による神経導管の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内腔および長軸を有している管状のボディ、および
管状のボディの内腔の長軸に沿って実質的に平行に置かれた複数の絹の要素、
を含む医療用デバイス。
【請求項2】
管状のボディは再吸収可能な物質を含む、請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
ボディは、マトリックス中に配置された繊維を含む複合構造を有する、請求項1または2記載のデバイス。
【請求項4】
マトリックスは絹タンパク質である、請求項3記載のデバイス。
【請求項5】
絹タンパク質は、蚕または非蚕から得られた再溶解された絹タンパク質、または蚕または非蚕から得られた天然絹糸フィブロインである、請求項4記載のデバイス。
【請求項6】
マトリックスは架橋によって安定させられている、請求項4または5記載のデバイス。
【請求項7】
架橋はホルムアルデヒドガス、クエン酸塩イオン、リボース、グリオキサールまたはゲニピンを使用して行われる、請求項7記載のデバイス。
【請求項8】
ボディを形成する繊維はヘリカルに置かれるか編まれる、請求項3から7のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項9】
ボディを形成する繊維は絹の繊維である、請求項3から8のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項10】
絹の要素が1μmから100μmの間の距離で互いに離れている、請求項1から9のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項11】
絹の要素の充填密度は10,000μm2当たり約1から約30までである、請求項1から10のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項12】
管状のボディは約1.0から約2.5mmまでの外側直径を有している、請求項1から11のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項13】
管状のボディの壁は約250μmから約750μmまでの厚さを有している、請求項1から12のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項14】
デバイスの長さは約0.5mmから約20.0mmまでである、請求項1から13のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項15】
絹の要素は約5μmから約50μmまでの直径を有している、請求項1から14のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項16】
絹の要素または繊維は、蚕絹、非蚕絹、クモ・ドラグライン絹、または組み換え絹タンパク質もしくはタンパク質類似化合物から紡がれたフィラメントを含む、請求項1から15のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項17】
絹の要素は非蚕に由来した絹から作られる、請求項16記載のデバイス。
【請求項18】
絹の要素は、細片絹または巻きとられた絹またはよじられた絹の形態をしている、請求項17記載のデバイス。
【請求項19】
絹の要素は、RGDトリプレットの少なくとも8個の繰り返しを含んでいる主要な絹のタンパク質を有する、請求項1から18のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項20】
少なくとも、RGDトリプレットの繰り返しのうちのいくつかは、主要な絹のタンパク質の構造の曲がり角に隣接しているか、または予測される曲がり角に位置する、請求項18記載のデバイス。
【請求項21】
主要な絹のタンパク質は、細胞接着性を調節するために、主要なタンパク質の1つ以上のアルギニン基がそれからブロックされる部位を有している、請求項18または19記載のデバイス。
【請求項22】
ブロッキングが、脱アミノ、硫酸化、アミド形成およびシクロヘキサンジオンによるブロッキングの1つ以上によって達成される、請求項20記載のデバイス。
【請求項23】
再吸収可能な生体適合性のポリマーを含む内腔マトリックス中に、複数の絹の要素がセットされる、請求項1から22のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項24】
再吸収可能な生体適合性のポリマーはヒドロゲルを含む、請求項23記載のデバイス。
【請求項25】
ヒドロゲルはポリリシンまたはカゼインを含むかまたは含まない、ヒアルロン酸またはアルギン酸塩である、請求項24記載のデバイス。
【請求項26】
内腔または絹の要素はさらに細胞外マトリックスを含む、請求項1から25のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項27】
細胞外マトリックスはフィブロネクチンおよび/またはラミニンを含む、請求項26記載のデバイス。
【請求項28】
デバイスはさらに1つ以上の生物活性物質を含む、請求項1から27のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項29】
生物活性物質は、生長因子、サイトカイン、抗生物質、免疫抑制薬、ステロイド、非ステロイド抗炎症剤(NSAID)から成る群から選ばれる、請求項28記載のデバイス。
【請求項30】
デバイスはさらに細胞集団を含む、請求項1から29のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項31】
細胞はシュワン細胞または嗅覚被膜細胞(OEC)である、請求項29記載のデバイス。
【請求項32】
管状のボディを形成し、管状のボディの内腔の長軸に沿って本質的に平行に配置されるように管状のボディの内腔内へ絹の要素を導入することを含む、医療用デバイスを製造する方法。
【請求項33】
管状のボディの形成は、以下の工程を含む、請求項32記載の方法:
− 管状のボディが形成される型台の調製;
− 型台上に繊維を置くこと;
− 繊維にマトリックスを適用し、複合ボディを形成すること;および
− 型台の除去。
【請求項34】
さらにマトリックスの架橋を含む、請求項33記載の方法
【請求項35】
チューブの内腔内の絹の要素間に内腔マトリックス成分を導入することを更に含む、請求項32、33または34記載の方法
【請求項36】
請求項1から30のいずれか1項記載の医療用デバイスを移植することを含む、神経細胞の再生方法。
【請求項37】
請求項1から30のいずれか1項記載の医療用デバイスを移植することを含む、脊髄損傷の治療または修復のための方法
【請求項38】
請求項1から30のいずれか1項記載の医療用デバイスを移植することを含む、末梢神経損傷の治療または修復のための方法。
【請求項39】
神経細胞の再生での使用のための、請求項1から30のいずれか1項記載の医療用デバイス。
【請求項40】
脊髄中の神経細胞の再生での使用のための、請求項1から30のいずれか1項記載の医療用デバイス。
【請求項41】
末梢神経中の神経細胞の再生での使用のための、請求項1から30のいずれか1項記載の医療用デバイス。
【請求項1】
内腔および長軸を有している管状のボディ、および
管状のボディの内腔の長軸に沿って実質的に平行に置かれた複数の絹の要素、
を含む医療用デバイス。
【請求項2】
管状のボディは再吸収可能な物質を含む、請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
ボディは、マトリックス中に配置された繊維を含む複合構造を有する、請求項1または2記載のデバイス。
【請求項4】
マトリックスは絹タンパク質である、請求項3記載のデバイス。
【請求項5】
絹タンパク質は、蚕または非蚕から得られた再溶解された絹タンパク質、または蚕または非蚕から得られた天然絹糸フィブロインである、請求項4記載のデバイス。
【請求項6】
マトリックスは架橋によって安定させられている、請求項4または5記載のデバイス。
【請求項7】
架橋はホルムアルデヒドガス、クエン酸塩イオン、リボース、グリオキサールまたはゲニピンを使用して行われる、請求項7記載のデバイス。
【請求項8】
ボディを形成する繊維はヘリカルに置かれるか編まれる、請求項3から7のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項9】
ボディを形成する繊維は絹の繊維である、請求項3から8のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項10】
絹の要素が1μmから100μmの間の距離で互いに離れている、請求項1から9のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項11】
絹の要素の充填密度は10,000μm2当たり約1から約30までである、請求項1から10のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項12】
管状のボディは約1.0から約2.5mmまでの外側直径を有している、請求項1から11のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項13】
管状のボディの壁は約250μmから約750μmまでの厚さを有している、請求項1から12のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項14】
デバイスの長さは約0.5mmから約20.0mmまでである、請求項1から13のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項15】
絹の要素は約5μmから約50μmまでの直径を有している、請求項1から14のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項16】
絹の要素または繊維は、蚕絹、非蚕絹、クモ・ドラグライン絹、または組み換え絹タンパク質もしくはタンパク質類似化合物から紡がれたフィラメントを含む、請求項1から15のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項17】
絹の要素は非蚕に由来した絹から作られる、請求項16記載のデバイス。
【請求項18】
絹の要素は、細片絹または巻きとられた絹またはよじられた絹の形態をしている、請求項17記載のデバイス。
【請求項19】
絹の要素は、RGDトリプレットの少なくとも8個の繰り返しを含んでいる主要な絹のタンパク質を有する、請求項1から18のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項20】
少なくとも、RGDトリプレットの繰り返しのうちのいくつかは、主要な絹のタンパク質の構造の曲がり角に隣接しているか、または予測される曲がり角に位置する、請求項18記載のデバイス。
【請求項21】
主要な絹のタンパク質は、細胞接着性を調節するために、主要なタンパク質の1つ以上のアルギニン基がそれからブロックされる部位を有している、請求項18または19記載のデバイス。
【請求項22】
ブロッキングが、脱アミノ、硫酸化、アミド形成およびシクロヘキサンジオンによるブロッキングの1つ以上によって達成される、請求項20記載のデバイス。
【請求項23】
再吸収可能な生体適合性のポリマーを含む内腔マトリックス中に、複数の絹の要素がセットされる、請求項1から22のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項24】
再吸収可能な生体適合性のポリマーはヒドロゲルを含む、請求項23記載のデバイス。
【請求項25】
ヒドロゲルはポリリシンまたはカゼインを含むかまたは含まない、ヒアルロン酸またはアルギン酸塩である、請求項24記載のデバイス。
【請求項26】
内腔または絹の要素はさらに細胞外マトリックスを含む、請求項1から25のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項27】
細胞外マトリックスはフィブロネクチンおよび/またはラミニンを含む、請求項26記載のデバイス。
【請求項28】
デバイスはさらに1つ以上の生物活性物質を含む、請求項1から27のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項29】
生物活性物質は、生長因子、サイトカイン、抗生物質、免疫抑制薬、ステロイド、非ステロイド抗炎症剤(NSAID)から成る群から選ばれる、請求項28記載のデバイス。
【請求項30】
デバイスはさらに細胞集団を含む、請求項1から29のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項31】
細胞はシュワン細胞または嗅覚被膜細胞(OEC)である、請求項29記載のデバイス。
【請求項32】
管状のボディを形成し、管状のボディの内腔の長軸に沿って本質的に平行に配置されるように管状のボディの内腔内へ絹の要素を導入することを含む、医療用デバイスを製造する方法。
【請求項33】
管状のボディの形成は、以下の工程を含む、請求項32記載の方法:
− 管状のボディが形成される型台の調製;
− 型台上に繊維を置くこと;
− 繊維にマトリックスを適用し、複合ボディを形成すること;および
− 型台の除去。
【請求項34】
さらにマトリックスの架橋を含む、請求項33記載の方法
【請求項35】
チューブの内腔内の絹の要素間に内腔マトリックス成分を導入することを更に含む、請求項32、33または34記載の方法
【請求項36】
請求項1から30のいずれか1項記載の医療用デバイスを移植することを含む、神経細胞の再生方法。
【請求項37】
請求項1から30のいずれか1項記載の医療用デバイスを移植することを含む、脊髄損傷の治療または修復のための方法
【請求項38】
請求項1から30のいずれか1項記載の医療用デバイスを移植することを含む、末梢神経損傷の治療または修復のための方法。
【請求項39】
神経細胞の再生での使用のための、請求項1から30のいずれか1項記載の医療用デバイス。
【請求項40】
脊髄中の神経細胞の再生での使用のための、請求項1から30のいずれか1項記載の医療用デバイス。
【請求項41】
末梢神経中の神経細胞の再生での使用のための、請求項1から30のいずれか1項記載の医療用デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2008−513051(P2008−513051A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530763(P2007−530763)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003456
【国際公開番号】WO2006/030182
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(507078256)クイーン マリー アンド ウエストフィールド カレッジ (5)
【出願人】(507078278)オックスフォード バイオマテリアルズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003456
【国際公開番号】WO2006/030182
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(507078256)クイーン マリー アンド ウエストフィールド カレッジ (5)
【出願人】(507078278)オックスフォード バイオマテリアルズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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