説明

末梢神経障害を治療および予防するための方法および組成物

治療的有効量のオンコモジュリンを対象に投与する段階を含む、対象における末梢神経障害を治療および/または予防するための方法を本明細書において開示する。好ましくは、対象は哺乳動物、最も好ましくはヒトである。好ましい態様において、オンコモジュリンを、マンノース、マンノース誘導体、および/またはイノシンと組み合わせて使用してもよい。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の支援
本発明は、国立衛生研究所(NIH)助成金番号EY05690によって一部援助された。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有し得る。
【0002】
関連出願
本出願は国際出願であり、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる2006年5月12日に出願された米国特許仮出願第60/800,068号の米国特許法第119条(e)項に基づく優先権の恩典を主張する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
末梢性ニューロパシーは、末梢神経系への障害を示す。これは、運動神経、感覚神経、感覚運動神経、または自律神経の機能障害として顕在化し得る。
【0004】
この障害は、遺伝的に獲得された状態、全身性疾患、または毒物への曝露を含む多種多様の原因に関連している。糖尿病性ニューロパシーは、疾患によって誘導される末梢性ニューロパシーの一例である。ニューロパシーはまた、先端巨大症、甲状腺機能低下症、AIDS、ハンセン病、ライム病、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン症候群、結節性動脈周囲炎、ウェゲナー肉芽腫症、頭蓋動脈炎、およびサルコイドーシスなどの病態、ならびに他の病態においても起こり得る。
【0005】
末梢神経障害(末梢性ニューロパシー)の治療が、当技術分野において大いに必要とされている。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、対象における末梢神経障害を治療および/または予防するための方法であって、末梢神経障害を有するか、またはそのような障害を予防する必要がある対象を選択する段階、および治療的有効量のオンコモジュリンを対象に投与する段階を含む方法を提供する。好ましくは、対象は哺乳動物、最も好ましくはヒトである。
【0007】
1つの態様において、cAMPモジュレーターおよび/または軸索形成(axogenic)因子が対象にさらに投与される。これらの成分は、別々に使用され得るが、同時にも投与され得る。特定の理論に拘泥するものではないが、cAMPモジュレーターおよび軸索形成因子は、オンコモジュリンの活性を増強すると考えられている。
【0008】
好ましくは、cAMPモジュレーターは、非加水分解性cAMP類似体、フォルスコリン、アデニル酸シクラーゼ活性化因子、cAMPを刺激するマクロファージ由来因子、マクロファージ活性化因子、カルシウムイオノフォア、膜脱分極、ホスホジエステラーゼ阻害物質、特異的ホスホジエステラーゼIV阻害物質、β2-アドレナリン受容体阻害物質、または血管作動性腸管ペプチドである。
【0009】
好ましい軸索形成因子には、マンノース(「AF-1」と呼ばれることがある)、マンノース誘導体、およびイノシンが含まれる。
【0010】
これらの組成物は、組成物が対象の末梢神経細胞と接触させられるように、全身的にまたは局部的に投与され得る。
【0011】
本発明の局面は、対象における末梢神経障害を治療および/または予防するための方法であって、対象における末梢神経障害をそれによって治療および/または予防するために、治療的有効量のオンコモジュリンを対象に投与する段階を含む方法に関する。末梢神経障害は、対象の脊髄中に存在してよい。本発明の別の局面は、対象における脊髄損傷を治療および/または予防するための方法であって、対象における脊髄損傷をそれによって治療および/または予防するために、治療的有効量のオンコモジュリンを対象に投与する段階を含む方法に関する。これらの方法は、任意で、そのような末梢神経障害の治療または予防を必要とする対象を選択する段階をさらに含んでよい。1つの態様において、これらの方法は、前記対象に、cAMPモジュレーターを投与する段階をさらに含む。cAMPモジュレーターは、非加水分解性cAMP類似体、フォルスコリン、アデニル酸シクラーゼ活性化因子、cAMPを刺激するマクロファージ由来因子、マクロファージ活性化因子、カルシウムイオノフォア、膜脱分極、ホスホジエステラーゼ阻害物質、特異的ホスホジエステラーゼIV阻害物質、β2-アドレナリン受容体阻害物質、もしくは血管作動性腸管ペプチド、またはそれらの組合せでよい。1つの態様において、これらの方法は、前記対象に、マンノースまたはマンノース誘導体を投与する段階をさらに含む。1つの態様において、これらの方法は、前記対象にイノシンを投与する段階をさらに含む。末梢神経障害は、糖尿病性ニューロパシーの結果、ウイルス感染症もしくは細菌感染症の結果であり得る。オンコモジュリンは、局所注入によって局所的に投与することができる。オンコモジュリンは、薬学的に許容される製剤で対象に投与することができる。この方法の対象は哺乳動物、例えばヒトでよい。
【0012】
本発明の別の局面は、包装材料および該包装材料内に含まれる薬学的物質を含む製品に関し、前記包装材料は、前記薬学的物質が薬学的に許容される担体と共に末梢神経障害を治療および/または予防するために有効量で十分な期間投与され得ることを示すラベルを含み、前記薬学的物質はオンコモジュリンを含む。
【0013】
本発明の別の局面は、末梢神経に対する障害を治療および/または予防するための薬学的キットであって、オンコモジュリン、軸索形成因子、およびcAMPモジュレーターの組合せを含む薬学的キットに関する。軸索形成因子は、マンノース、マンノース誘導体、またはイノシンでよい。cAMPモジュレーターの例は、非加水分解性cAMP類似体、フォルスコリン、アデニル酸シクラーゼ活性化因子、cAMPを刺激するマクロファージ由来因子、マクロファージ活性化因子、カルシウムイオノフォア、膜脱分極、ホスホジエステラーゼ阻害物質、特異的ホスホジエステラーゼIV阻害物質、β2-アドレナリン受容体阻害物質、または血管作動性腸管ペプチドである。
【0014】
本発明の別の局面は、対象における末梢神経障害を治療および/または予防するための医薬を調製する際のオンコモジュリンの使用に関する。この使用は、本明細書における方法において記述されるように構想される。
【0015】
本発明の別の局面は、神経細胞に対するオンコモジュリンの軸索形成効果を阻害するための方法であって、オンコモジュリンの阻害物質を神経細胞に接触させる段階を含む方法に関する。1つの態様において、神経細胞は、オンコモジュリンの軸索形成効果を阻害する必要がある対象中に存在し、かつ、接触させる段階は、阻害物質を対象に投与することによって達成される。
【0016】
詳細な説明
本発明は、対象における末梢神経障害(末梢性ニューロパシー)を予防および/または治療するための方法および組成物を提供する。この方法は、対象にオンコモジュリンを投与する段階を含む。任意で、付加的な因子(軸索形成因子、ならびに/またはcAMPモジュレーターおよび/もしくはキナーゼ阻害物質)も投与される。投与されるこれらの因子の量は、治療的有効量である。
【0017】
この方法は、末梢神経障害の治療または予防を必要とする対象を選択する段階をさらに含んでよい。このような選択は、末梢神経障害を有する対象の特定および/または対象において末梢神経障害が発達するリスクの特定を含んでよい。
【0018】
本明細書において説明する組成物は、限定されるわけではないが、以下を含む末梢性ニューロパシーに関連した障害を治療するための本明細書において説明する方法において具体的に使用され得る:糖尿病性ニューロパシー、ウイルス関連ニューロパシー(後天性免疫不全症候群(AIDS)に関係したニューロパシー、多発神経炎を伴う伝染性単核球症、多発神経炎を伴うウイルス肝炎を含む);ギラン・バレー症候群;ボツリヌス中毒に関係したニューロパシー;鉛およびアルコールに関係したニューロパシーを含む毒性多発ニューロパシー;亜急性連合変性症を含む栄養性ニューロパシー;全身性エリテマトーデスに関連したニューロパシーを含む血管障害性ニューロパシー;サルコイドに関連したニューロパシー;癌性ニューロパシー;圧迫性ニューロパシー(例えば手根管症候群)およびシャルコー・マリー・トゥース病のような遺伝性ニューロパシー。脊髄損傷に関連した末梢神経障害もまた、本発明の方法によって治療され得る。対象は、上記に挙げたものを含む、末梢性ニューロパシーの結果としての末梢神経障害に対する本発明の方法に従って治療される。このような末梢神経障害を発達させるリスクがある対象もまた、このように治療される。
【0019】
後根神経節などの末梢神経、さもなければ脊髄神経節として公知の末梢神経は、脊柱の下方へ伸びることが公知である。これらの神経は、脊髄損傷の結果として損傷される場合がある。脊髄損傷に関連するこのような末梢神経障害もまた、本発明の方法を用いて治療することができる。
【0020】
治療される損傷は急性または慢性であり得る。脊髄損傷は、脊髄の全面的な切断、脊髄の部分的な切断、または脊髄の挫滅もしくは圧迫損傷でもよい。脊髄損傷は、治療の3ヶ月より前、1ヶ月より前、治療の3週間より前、もしくは治療の2週間より前、治療の1週間より前、または治療から1日前〜6日前の間に発生したものの場合がある。
【0021】
単独で、または本明細書において説明する組合せでのオンコモジュリンの投与は、損傷部位での神経再生を刺激するのに効果的な条件下で、かつ/または、損傷された脊髄を通じての神経機能を少なくとも部分的に修復するのに効果的な条件下で、実施されるべきである。神経機能の修復は、神経インパルス伝導の修復、伝導活動電位の検出可能な増加、解剖学的連続性の観察、複数の脊髄根レベルの修復、挙動もしくは感受性の増大、またはそれらの組合せが証拠となり得る。投与は、投与された因子と損傷部位との接触をもたらし、それによって神経再生(全体的または部分的)を促進する方法による。
【0022】
オンコモジュリンは、実施例、およびその開示内容が参照により本明細書に組み入れられるWO 01/091783において説明される方法によって単離することができる。分子の活性な断片、ペプチド、および一部分もまた、使用され得る。好ましくは、オンコモジュリンは、ヒト対象に投与されるヒトオンコモジュリンのように、投与される種に由来する(例えば、組換え体)。ヒトオンコモジュリンcDNAの例は、GeneBankアクセッション番号NM 006188である。
【0023】
「軸索形成因子」という用語は、神経細胞からの軸索再生を刺激する能力を有する任意の因子を含む。軸索形成因子の例には、例えば、内容が参照により本明細書に組み入れられる、Schwalb et al.(1996)Neuroscience 72(4):901-10、Schwalb et al.、同書、および米国特許第5,898,066号に記載されているように、AF-1(マンノース)およびAF-2が含まれる。軸索形成因子の他の例には、例えば、内容が参照により本明細書に組み入れられる、PCT出願番号PCT/US98/03001、米国特許第6,440,455号、およびBenowitz et al.(1999)Proc. Natl. Acad. Sci. 96(23): 13486-90に記載されているように、イノシンのようなプリンが含まれる。
【0024】
好ましい軸索形成因子は、マンノース(例えば、D-マンノースもしくはL-マンノース)またはマンノース誘導体、例えば、アミノマンノース、マンノース-6-リン酸(リン酸(Phosporic acid)マノ-(3,4,5,6-テトラヒドロキシ-テトラヒドロ-ピラン-2-イルメチ(ylmethy))エステル)である。
【0025】
軸索形成因子の治療的有効量または治療的有効投与量は、約0.001〜30mg/kg体重の範囲でよく、本発明の他の範囲には、約0.01〜25mg/kg体重、約0.1〜20mg/kg体重、約1〜10mg/kg、2〜9mg/kg、3〜8mg/kg、4〜7mg/kg、および5〜6mg/kg体重が含まれる。イノシンの場合、損傷を含む組織におけるインビボで治療的に有効な濃度の非限定的な範囲は、5μM〜5mMである。これらの範囲および投与量はオンコモジュリンに対しても想定されるが、他の用量および範囲もまた、有用な場合がある。
【0026】
「cAMPモジュレーター」という用語は、細胞におけるcAMPの量、産生、濃度、活性、もしくは安定性を、上方(増加)もしくは下方(減少)のいずれかに調節するか、または細胞性cAMPの薬理学的活性を調節する能力を有する任意の化合物を含む。cAMPモジュレーターは、cAMPの産生をもたらすシグナル伝達経路において、アデニル酸シクラーゼのレベルで、アデニル酸シクラーゼの上流で、またはアデニル酸シクラーゼの下流で、例えばcAMPそれ自体のレベルで作用し得る。環状AMPモジュレーターは、細胞内で、例えば、Gi、Go、Gq、Gs、およびGtなどのGタンパク質のレベルで、または細胞外で、例えば、Gタンパク質共役受容体のような細胞外受容体のレベルで作用し得る。環状AMPモジュレーターには、フォルスコリンのようなアデニル酸シクラーゼの活性化因子;8-ブロモ-cAMP、8-クロロ-cAMP、またはジブチリルcAMP(db-cAMP)を含む、cAMPの非加水分解性類似体;イソプロテノール;血管作動性腸管ペプチド;カルシウムイオノフォア;膜脱分極;cAMPを刺激するマクロファージ由来因子;ザイモザンまたはIFN-γなどマクロファージ活性化を刺激する作用物質;ペントキシフィリンおよびテオフィリンなどのホスホジエステラーゼ阻害物質;特異的なホスホジエステラーゼIV(PDE IV)阻害物質;ならびにサルブタモールのようなβ2-アドレナリン受容体アゴニストが含まれる。cAMPモジュレーターという用語はまた、cAMPの産生、機能、活性、または安定性を阻害する化合物、例えば、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ3Bのようなホスホジエステラーゼを含む。cAMPの産生、機能、活性、または安定性を阻害するcAMPモジュレーターは当技術分野において公知であり、例えば、その内容が参照により本明細書に組み入れられるNano et al.(2000)Pflugers Arch 439(5):547-54に記載されている。
【0027】
「ホスホジエステラーゼIV阻害物質」とは、酵素ホスホジエステラーゼIVの活性を阻害する作用物質を意味する。ホスホジエステラーゼIV阻害物質の例は当技術分野において公知であり、ロリプラムのような4-アリールピロリジノン、ニトラクアゾン、デンブフィリン、チベネラスト、CP-80633、およびCP-77059のようなキナゾリンジオンが含まれる。
【0028】
「β-2アドレナリン受容体アゴニスト」とは、β-2アドレナリン作動性受容体を刺激する作用物質を意味する。β-2アドレナリン受容体アゴニストの例は当技術分野において公知であり、サルメテロール、フェノテロール、およびイソプロテレノールが含まれる。
【0029】
対象に「投与する段階」という用語は、非経口経路または経口経路のいずれかによる送達、筋肉内注射、皮下/皮内注射、静脈注射、口腔内投与、経皮送達、および直腸、結腸、膣、鼻腔内、または気道の経路による投与を含む、対象中の所望の場所に活性化合物を送達するための任意の適切な経路によって、薬学的製剤中の活性化合物を対象に投薬、送達、または適用することを含む。脊髄損傷の治療に適した別の投与形態は、脊柱または脊柱管中への注射である。
【0030】
本明細書において使用される場合、「接触させる段階」という言い回しは、化合物が神経に有益な(neurosalutary)効果を神経細胞に及ぼすことができるように、神経細胞の近くに本発明の化合物を導くインビボの方法またはインビトロの方法の両方を含むことを意図する。1つの態様において、本明細書において説明する1種または複数種の因子は、再生を必要としている神経細胞と直接接触する。別の態様において、1種または複数種の因子は、神経細胞と直接接触しないが、周囲の細胞と接触する。本明細書において説明する様々な因子との様々な形態の接触の組合せもまた、構想される。
【0031】
本明細書において使用される場合、「神経に有益な効果」とは、神経細胞、神経系の一部分、または神経系全体の健康または機能に対して好ましい応答または結果を意味する。このような効果の例には、神経細胞または神経系の一部分が、傷害に耐えるか、再生するか、望ましい機能を維持するか、成長するか、または生き残る能力の改善が含まれる。「神経に有益な効果を生じること」という語句は、神経系の構成要素内の機能または回復力のこのような応答または改善を生じること、またはもたらすことを含む。例えば、神経に有益な効果を生じることの例には、神経細胞への損傷後に軸索伸長を促進すること;神経細胞をアポトーシスに対して耐性にすること;神経細胞を、β-アミロイド、アンモニア、もしくは他の神経毒などの毒性化合物に対して耐性にすること;加齢に関連する神経細胞萎縮もしくは機能損失を回復させること;またはコリン作動性神経支配の加齢に関連する損失を回復させることが含まれると考えられる。
【0032】
本明細書において使用される場合、「有効量」という用語は、所望の結果を実現するために必要な投与量および期間で有効な量、例えば、対象において神経に有益な効果を生じるのに十分な量を含む。本明細書において定義される活性化合物の有効量は、対象の疾患の状態、年齢、および体重、ならびに活性化合物が対象において所望の応答を誘発する能力などの因子に応じて変動し得る。投与計画は、最適な治療応答を提供するように調整され得る。有効量はまた、活性化合物の任意の毒性効果または有害効果を、治療的に有益な効果が上回っている量でもある。
【0033】
「対象」という用語は、動物を含むことを意図する。特定の態様において、対象は、哺乳動物、ヒト、または非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、雌ウシ、もしくはげっ歯動物である。
【0034】
投与経路および投与計画は、治療される病態の正確な性質、病態の重症度、ならびに患者の年齢および一般的身体状態などの因子に基づいて、熟練した臨床家によって決定される。組成物は、全身的に投与されるか、局部的に注射されるか、または局所的手段もしくは経口手段によって送達され得る。1つの態様において、活性化合物製剤は、対象にくも膜下腔内投与される。
【0035】
オンコモジュリンは、当業者に公知の製剤技術に従って、様々なタイプの薬学的組成物中に含まれてよい。例えば、化合物は、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、および経口投与用に適合された他の剤形、ならびに非経口用途向けに適合された液剤および懸濁剤中に含まれてよい。貯蔵条件下でのpHの乱れを防止するために、適切な緩衝液系(例えば、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、またはホウ酸ナトリウム)を添加してよい。
【0036】
注射の場合、本発明の活性化合物製剤は、液状溶液、好ましくはハンクス溶液またはリンガー溶液などの生理学的に適合する緩衝液中で調剤され得る。さらに、活性化合物製剤は、固形形態で調剤し、かつ、使用直前に再溶解または懸濁させてもよい。凍結乾燥させた形態もまた、含まれる。注射剤は、例えば、活性化合物製剤のボーラス注射または(注入ポンプを使用するような)持続輸注の形態でよい。
【0037】
一般に、前述の目的のために使用される用量は様々であるが、上記に挙げた病態のいずれかに起因する神経障害を予防、軽減、または改善するのに有効な量であると考えられる。本明細書において使用される場合、「薬学的有効量」とは、その量を用いた患者の治療が、神経機能の医学的に望ましい変化を伴うことができるか、または末梢障害を予防、軽減、もしくは改善することができる、オンコモジュリンの量を意味する。
【0038】
下記の実施例のセクションで詳述する実験により、PI3キナーゼ、MEK、およびJAKを阻害すると、オンコモジュリンの軸索形成効果が増強されることが示唆される。これは、本発明の方法において、オンコモジュリンと共に1種または複数種のそのような阻害物質(例えば、MEK阻害用のPD98059、PI3Kに対するLY294002、およびJAKに対するJaki)を投与することが有用であり、かつ、対象に治療的効果を提供することを示唆する。
【0039】
対象において、またはインビトロもしくはエクスビボでオンコモジュリンの効果(例えば、軸索形成効果および/または神経に有益な効果)を阻害することが、さらに有用な場合がある。1つのこのような使用は、所望の領域に対する神経成長応答を含むように、対象における神経障害の治療的処置を調節することである。したがって、発明の別の局面は、対象にオンコモジュリンの阻害物質を投与することによって、それを必要とする対象においてオンコモジュリンを阻害するための方法に関する。1つのこのようなオンコモジュリン阻害物質は、CaMKII阻害物質(例えばKN92)である。投与は、オンコモジュリンの神経細胞伸長促進効果(軸索形成効果)が望まれない領域への接触を促進するために、対象に対して実施される。この方法は、オンコモジュリンの阻害を必要とする対象を特定することを最初に含んでよい。このような特定は、オンコモジュリンの効果が望ましくない対象(または対象のある領域)におけるオンコモジュリンの望まれない存在を決定することを含んでよい。個体中のオンコモジュリンの存在が望まれない領域は、オンコモジュリン療法(例えば投与)が計画されているか、または進行中である神経障害に直接隣接した領域でよい。別のこのような領域は、オンコモジュリンが個体において望まれない効果を引き起こしている対象におけるオンコモジュリンの天然もしくは非天然に存在する過剰発現、またはそうでなければ引き起こされた活動亢進を示す領域でよい。
【0040】
本発明の別の局面は、インビトロまたはエクスビボでオンコモジュリンの阻害物質を神経細胞に投与する/接触させることによって、インビトロまたはエクスビボでオンコモジュリンを阻害するための方法に関する。
【0041】
包装材料および包装材料内に含まれる薬学的物質を含む製品もまた、提供される。包装材料は、薬学的物質が、虚血ストレスもしくは低酸素ストレス、過剰圧力、または損傷に起因する障害を含む、末梢神経への障害を治療および/または予防するために有効量で十分な期間投与され得ることを示すラベルを含む。薬学的物質は、薬学的に許容される担体と共に、本発明の神経栄養性化合物(任意で軸索形成因子および/またはcAMPモジュレーターを伴うオンコモジュリン)を含む。
【0042】
包装材料および包装材料内に含まれる薬学的物質を含む製品もまた、提供される。包装材料は、薬学的物質が、脊髄に対する障害または脳卒中に起因する神経障害を治療および/または予防するために有効量で十分な期間投与され得ることを示すラベルを含む。薬学的物質は、薬学的に許容される担体と共に、本発明の神経栄養性化合物(任意で軸索形成因子および/またはcAMPモジュレーターを伴うオンコモジュリン)を含む。
【0043】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、安全であり、かつ、本発明の有効量の少なくとも1種の化合物の所望の投与経路に対して適切な送達を提供する、任意の調製物を意味する。
【0044】
オンコモジュリンは、任意の適切な手段によって、神経障害の部位に局在させてよい。例えば、それは、マトリックス、例えばゲルまたは固体内で障害部位に局在させることができる。
【0045】
好ましくは、オンコモジュリンは、障害部位の神経を囲む導管によって障害部位に局在させられる。これは、切断された神経中の隙間を埋めることが望ましい場合に特に好ましい。しかしながら、神経が切断されておらず、むしろ障害されているか、または変性している場合には、他のアプローチの方が良い場合がある。このような病態の一例はニューラプラキシーである。
【0046】
導管は、神経障害部位の周囲に配置してよい。導管の存在それ自体が、神経障害の修復を促進し得るが、導管によるオンコモジュリンの局在化がこれを増強すると考えられる。
【0047】
導管は、任意の適切な材料から構成されてよい。例えば、これは、これまで広く使用されてきたシリコーンのような非生体吸収性材料から構成されてよい。
【0048】
しかしながら、生体吸収性材料は障害が修復された際に身体に吸収され得るため、生体吸収性材料が好ましい。コラーゲン導管(Integra Life Sciences社から入手可能)は、この点に関して1つの選択肢である。
【0049】
1つの面で、本発明は、本発明に不可欠なものとして、本明細書において説明する組成物、方法、およびその個別の構成要素に関するが、不可欠であるか否かに関わらず、特定されない要素を包含することを制限しない。いくつかの態様において、組成物、方法、およびその個別の構成要素の説明に含まれる他の要素は、本発明の基本的特徴および新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないものに限定される。これは、説明される方法内の段階ならびにその中の組成物および構成要素に同様に当てはまる。他の態様において、本明細書において説明する本発明、組成物、方法、およびその個別の構成要素は、構成要素、組成物、または方法に対して不可欠な要素とみなされない任意の要素を除外すると意図される。
【0050】
本明細書において他に規定されない限り、本出願に関連して使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有する。さらに、文脈において特に指示が無い限り、単数形の用語は複数形を含むものとし、かつ、複数形の用語は単数を含むものとする。
【0051】
実施される例以外で、または特に指示が無い場合、本明細書において使用される成分または反応条件の量を表すすべての数字は、すべての場合において、「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。パーセンテージに関連して使用される場合の「約」という用語は、±1%を意味し得る。
【0052】
本発明は、本明細書において説明する特定の方法論、プロトコル、および試薬などに限定されず、したがって、様々であり得ることを理解すべきである。本明細書において使用される専門用語は、特定の態様を説明する目的のためにすぎず、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を制限することは意図されない。
【0053】
特定されるすべての特許、特許出願、および刊行物は、例えば、本発明に関連して使用され得るそのような刊行物において記載されている方法論を説明および開示する目的のために、参照により本明細書に明白に組み入れられる。これらの刊行物は、本出願の出願日より前にそれらの開示があったことを示すためだけに提供される。この点に関するいかなることも、本発明者らが、以前の発明のせいで、または他のなんらかの理由のために、そのような開示に先行する権利が無いことの承認として解釈されるべきではない。日付に関する記載またはこれらの文献の内容に関する表現はすべて、出願者が入手可能な情報に基づいており、かつ、これらの文献の日付または内容の正確さに関するいかなる承認も構成しない。
【0054】
本発明は、さらに限定するものとして解釈されるべきではない以下の実施例によってさらに例示される。
【0055】
実施例
結果
オンコモジュリンの同定
本発明者らは、活性化されたマクロファージによって分泌されたタンパク質がサイズ排除クロマトグラフィーによって分離される場合、20kDa未満のタンパク質を含む画分が軸索再生を促進することを以前に発見した。これらの画分は、10〜15kDaの目立つバンドを含み(参考文献21)、このバンドを質量分析(Harvard Taplin Mass Spectrometry Facility)によって本研究において解析した。この解析により、タンパク質オンコモジュリン中に存在する、ペプチド

の存在が明らかになった。オンコモジュリンは、いくつかの腫瘍におけるその発現およびカルモジュリンに部分的に類似していることに基づいて名付けられた、11.7kDaのCa2+結合タンパク質である24。オンコモジュリンは、脊椎動物の進化の全体を通じて高度に保存されており(NCBIデータベース)、退化した不活性なCa2+結合部位(残基7〜33)を有する40残基のN末端ドメインおよび70残基の共通する(consensual)EFハンドドメインを含む(図1a)。この後者のドメインは、Ca2+およびMg2+親和性が比較的低い1つの部位(残基41〜70)25および高親和性Ca2+結合部位(残基81〜108)を含む。神経系に対するオンコモジュリンの唯一報告されている関係は、内耳の有毛細胞におけるその存在であった26。質量分析により、リゾチームもまた、10〜15kDaバンド中に存在することが示された。
【0056】
RGCに対する強力な軸索促進因子であるオンコモジュリン
以前の観察結果22と一致して、マンノースおよびフォルスコリンの組合せは、培養状態のRGCが軸索を伸長するのを刺激した(図1b、1c;P<0.0001)。3日後、大半の軸索の長さは30〜70μmであったが、いくつかは70〜140μmであり、かつ、140μmを超えたものが少しあった。オンコモジュリン(OM)の添加により、特に最も長いサイズ範囲において、伸長の量がほぼ倍増した(P<0.0001)。フォルスコリン、マンノース、およびオンコモジュリンは、軸索成長のヒストグラム全体を右にシフトさせるため(図1c)、本発明者らは、ルーチン的にこれら3つのサイズクラスのデータをまとめて、伸長の単一の強い指標を得、それにより、本発明者らは、複数の実験群の効果を一度に表すことができた(例えば、図1d)。フォルスコリンおよびマンノースの存在下では、オンコモジュリンおよび(ザイモザンに刺激されたマクロファージから調製された)MCMの効果は等価であった(図1d)。これらの作用物質のどれも細胞生存を延長しなかったが、MCMはRGCに対してわずかに毒性であった(図1e)。オンコモジュリンの最大半減応答の有効濃度(EC50)は約3.8nMである(図1f)。
【0057】
本発明者らは、オンコモジュリンの効果を、RGCにおける伸長および/または生存を促進することが公知である他の成長因子、すなわち、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、およびグリア由来の神経栄養因子(GDNF)の効果と比較した7〜9、27〜30。オンコモジュリンも、他の因子のうちいずれかも、フォルスコリンおよびマンノースの不在下では伸長を刺激しなかった(図2a)。フォルスコリンおよびマンノースの存在下では、予想された通り、CNTFは軸索成長を増加させた(P<0.05)が28、30、その程度はオンコモジュリンよりも有意に低かった(図2a、P<0.001)。BDNFおよびGDNFは効果が無かった。
【0058】
オンコモジュリン効果の特異性
オンコモジュリンに対してかなりの相同性を有するCa2+結合タンパク質には、α-パルブアルブミン、カルモジュリン、カルビンジン、およびS100-βが含まれる。これらのタンパク質はすべて、本発明者らのバイオアッセイ法において、オンコモジュリンと同じ濃度(15nM、図2b)または10倍高い濃度で試験した場合に不活性であった。S100-βは、この100倍の濃度でいくらかの活性を示した(データ不掲載)。オンコモジュリンも他の任意の因子のいずれも、ベースラインを上回るRGC生存を促進しなかった。これはおそらくは、インスリンのような生存因子が本発明者らの培地中に存在したためである27。オンコモジュリンと同時精製されたリゾチームは、RGC生存を約25%減少させ、かつ、伸長を促進しなかった(データ不掲載)。
【0059】
MCMからオンコモジュリンを吸着させることによる活性の消失
オンコモジュリンとは異なり、ザイモザンに刺激されたマクロファージによって分泌されるタンパク質は、フォルスコリンおよびマンノースの不在下でさえ、RGCに対していくらかの効果を発揮する21。この観察結果から、オンコモジュリンが、ザイモザンに刺激されたマクロファージによって分泌される主要な軸索促進因子であるかどうか、または付加的な成長因子が存在するかどうかという疑問が生じる。この問題を調査するために、本発明者らは、最初にポリクローナルウサギ抗オンコモジュリン抗血清または正常なウサギ血清に由来するIgG画分をプロテインAビーズに吸着させ、次いで、これらのビーズを用いて、MCMからオンコモジュリンを除去した。MCMを特異的IgGと吸着させることにより、オンコモジュリンレベルが低下し、かつ、軸索促進活性が消失した(図2c)。正常ウサギIgGによるMCMの吸着は、少しの効果しか有さなかった。これらの知見から、オンコモジュリンがMCMの生物活性のために必要であること、および付加的な成長促進因子が存在し得るが、それらの活性はオンコモジュリンの不在下では検出され得ないことが示される。
【0060】
オンコモジュリンが示すRGCに対する高親和性の結合
RGCは、低ナノモル濃度のオンコモジュリンに応答するが、関連するタンパク質には応答しないという知見から、オンコモジュリンは、高親和性受容体を介してその効果を発揮し得ることが示唆される。この可能性を調査するために、本発明者らは、イムノパンニングによって精製されたRGCを用いて31、受容体-リガンド結合アッセイ法を実施した。前標識したRGCへのFluorogoldの逆行性輸送を用いて評価したところ、純度は約98%であると推定された(図3a、3b)。14〜16時間培養した後(フォルスコリンの存在下または不在下で)、RGCを軽く固定し、かつ、アルカリホスファターゼ(AP)-オンコモジュリン融合タンパク質(AP-OM)または組換えAP単独のいずれかと共にインキュベートした。AP-OMもAPも、基本条件下で感知できる結合を示した。しかしながら、細胞内cAMP濃度([cAMP]i)がフォルスコリンと共に(図3c〜3e)、または8-ブロモアデノシン3',5'-環状モノホスファート(sp-8-Br-cAMP、データ不掲載)と共に上昇する場合、AP-OMはRGCに強く結合したが、APはそうではなかった。cAMP依存性の結合は、低ナノモル濃度のオンコモジュリンで明らかになり、かつ、力強い伸長をもたらす濃度である10nM(図3c〜3k)で強力であった(図1f)。
【0061】
オンコモジュリンのC末端が2つの活性なCa2+結合モチーフを含むのに対し、N末端は、NCBIタンパク質データベースの他のタンパク質中に存在しない進化的に保存された配列を含む。どのドメインが結合および生物活性のために必要であるかを調査するために、本発明者らは、オンコモジュリンのN末端のアミノ酸50個(AONT)またはC末端(AOCT)のいずれかに連結されたアルカリホスファターゼをコードするプラスミドを設計した。本発明者らはまた、第1の結合部位(AOE62N)、第2の結合部位(AOE101Q)、または両方(AOE62N、E101Q)中のCa2+親和性を実質的に減少させる単一のアミノ酸置換を有するオンコモジュリン変種に連結されたAPをコードするプラスミドも設計した(参考文献33、34)。RGCへのオンコモジュリンの結合はN末端しか必要としなかったが(図3h、3i、3k)、生物活性は、N末端およびC末端の両方の存在を必要とした(図3l)。本発明者らは、驚くべきことに、E62およびE101を変異させることによって、生物活性がごくわずかに減少することを発見した(図3l)。したがって、オンコモジュリンのN末端は、RGCに結合するために必要とされているのに対し、C末端は同様に生物活性のために必要とされている。
【0062】
オンコモジュリン結合は、100nMを超える濃度で飽和し、解離定数(Kd)は28±5nMであった(図3m)。過剰な結合されていないオンコモジュリンは、RGCからAP-OMを追い出したが(図3f、3k、3n)、100倍過剰のパルブアルブミンは置換しなかった(図3g、3k)。本発明者らの置換試験から算出された最大半減阻害濃度(IC50)(約30nM、図3n)は、Kdとほぼ同一であった。したがって、オンコモジュリンは、RGCに対する特異的な高親和性結合を示し、これは、飽和性であり、可逆性であり、かつcAMP依存性である。光固定後、未処理のRGCを透過処理した場合、AP-OMは、事前のフォルスコリン処理が無い場合でさえ、結合した(図3j)。この観察結果から、cAMPが、細胞表面からのサイトゾル由来受容体の転位置を引き起こすことが示唆される32
【0063】
オンコモジュリン作用のメカニズム
Trk受容体またはgp130を介したシグナル伝達を妨害する作用物質は、硝子体内マクロファージ活性化の修復促進効果を阻害しない23。したがって、オンコモジュリンがマクロファージ活性化の陽性効果のために不可欠である場合には、本発明者らは、それが、ニューロトロフィンまたはCNTFファミリーのメンバーによって活性化されるものとは異なるシグナル伝達経路を介して作用すると予測する。この予測と一致して、オンコモジュリンの効果は、Trk受容体を介してニューロトロフィンによって活性化される、MAPキナーゼキナーゼ(MEK)-1、MEK-2およびMEK-5の阻害物質(PD98059、5μM)またはPI3キナーゼの阻害物質(LY294002、20μM)によって妨害されなかった。PD98059は、伸長をわずかに促進した(P<0.02)。CNTFファミリーメンバーの下流で活性化されるヤヌスキナーゼを(20nMのJakiを用いて)妨害しても、同様に、オンコモジュリンの活性は減少しなかった(図4a)。3種すべての阻害物質の組合せは、伸長を大幅に減少させた(図4a)。しかしながら、これら3種の阻害物質は、オンコモジュリン活性の必要条件であるフォルスコリンおよびマンノースの効果も妨害した(データ不掲載)ため、この知見は、オンコモジュリンシグナル伝達に関して有益ではない。試験した他の作用物質とは異なり、KN93(10μM)、すなわちCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)の阻害物質は、マンノースおよびフォルスコリンの効果を変えること無く、オンコモジュリンの効果を完全に妨害した。KN93の不活性な類似体であるKN92(10μM)は、伸長を実質的に減少させなかった(図4a)。使用した作用物質のどれも、RGC生存を変化させなかった(データ不掲載)。要約すると、オンコモジュリンシグナル伝達は、CaMKIIを必要とするが、MEK-1、MEK-2、もしくはMEK-5、PI3キナーゼ、またはJak-1、Jak-2、もしくはJak-3を必要としない。
【0064】
硝子体内マクロファージの活性化により、RGCにおける軸索伸長に関連した遺伝子の発現が変化する(参考文献15)。この観察結果と一致して、転写阻害物質のアクチノマイシンD(ActD、8nM)は、伸長に対するオンコモジュリンの効果を妨害し(図4b)、その際、RGC生存を変化させなかった(データ不掲載)。
【0065】
ミエリンの阻害効果を克服するにあたっての栄養因子の効果は、[cAMP]iの上昇によって媒介される(参考文献35)。RGCに対するオンコモジュリンの効果は[cAMP]iの上昇を必要とし(図1d)、[cAMP]iの最低レベルに一度達すると、オンコモジュリンは、[cAMP]iをさらに上昇させることによって作用することが考えられる。この場合、本発明者らは、[cAMP]iの上昇がそれだけでオンコモジュリンの効果を模倣するのに当然十分であること、および逆に、オンコモジュリンの効果が高レベルの[cAMP]iの効果を上回らないはずであることを予想する。しかしながら、本発明者らは、逆が真であることを発見した。ジブチリルcAMPの濃度([dB-cAMP])を250μMまで上昇させると、オンコモジュリンの効果が増強されたのに対し、さらに上昇させると伸長は減少した(図4c)。したがって、cAMPはオンコモジュリンの効果のために必要とされるが、オンコモジュリンは、[cAMP]iをさらに上昇させることによっては作用しない。
【0066】
ActDの阻害効果と合わせて、RGC遺伝子発現に対するマクロファージ活性化の効果から、オンコモジュリンが転写カスケードを活性化することが示唆される。したがって、硝子体に直接オンコモジュリンを注射すると、RGCにおいて、活性型の転写活性化因子であるリン酸化cAMP/Ca2+応答エレメント結合タンパク質(P-CREB)のレベルが著しく上昇した(図4d)。オンコモジュリンの下流での効果の詳細は本研究の範囲を超えるが、本発明者らの結果から、それがCaMKII依存性経路を介して作用し、かつ、転写の変化を伴うことが示唆される。
【0067】
培養状態およびインビボでのオンコモジュリン分泌
オンコモジュリンは、共通のシグナルペプチド配列を含まないことから、それが本当にマクロファージから分泌されるかどうか、または培地中への出現が細胞溶解に起因するかどうかという疑問が生じる。共焦点顕微鏡観察によって実証されるように、このタンパク質は、マクロファージ内の小胞中に濃縮され(図5a)、培養状態では、継続的に分泌されている(図5b)。マクロファージの活性化因子であるザイモザンは、オンコモジュリンの細胞内濃度およびその分泌を増大させた(図5b)。一方、最も豊富な細胞質内タンパク質の1つであるβ-チューブリンは、ザイモザンに応答して増加することも、8時間のインキュベーション期間を通して細胞外に現れることも無かった(図5b)。マクロファージ中で発現される別の細胞質内タンパク質であるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)36も同様に、細胞外で検出されなかった。したがって、オンコモジュリンの細胞外出現は、生理学的分泌プロセスを反映しているように思われる。
【0068】
本発明者らは、インビボでのオンコモジュリン発現を調査するためにさらなる実験を実施した。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)によって、本発明者らは、オンコモジュリンmRNAが、成人の網膜において低レベルで存在し、かつ、(水晶体損傷に起因する、図5cの「LI」)炎症の間に大幅に増加することを判定した。同様の増加がタンパク質レベルで検出された(図5d)。インビボでのオンコモジュリンの解剖学的局在化を調査するために、本発明者らは、水晶体損傷後7日目に網膜を二重免疫染色して、活性化されたマクロファージ(抗体ED1)およびオンコモジュリンを検出した。染色の特異性に関する対照として、本発明者らは抗オンコモジュリン抗血清を組換えオンコモジュリンと前もって吸着させた(図5e)。陽性の免疫染色が、水晶体損傷後に網膜の神経節細胞および内網状層において増加することが判明した(図5f)。1次抗体の前吸着によって、この染色は減少したが、消失はしなかった(図5f)。
【0069】
さらなるRT-PCRにより、オンコモジュリンmRNAが、発達中の視神経および成熟した視神経中に存在し、かつ、損傷後に、障害された神経において起こる炎症応答と並行して、増大することが明らかになった17。視神経の主要な到達点(target)である上丘において、オンコモジュリンmRNAは、若年ラットでは検出されるが、成体ラットでは検出されない。したがって、活性化マクロファージによってインビボで分泌される他に、オンコモジュリンは、視覚系の一部分で発現され、RGCが発達する間のタンパク質供給源として機能する可能性がある。
【0070】
オンコモジュリンによるインビボでの視神経再生への刺激
オンコモジュリンがインビボで軸索再生を促進するかどうかを調査するために、本発明者らは、生体適合性かつ生分解性のポリ-(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)マイクロスフェアを用いて、このタンパク質、cAMP類似体8-ブロモアデノシン3',5'-環状モノホスファート(sp-8-Br-cAMP)、または両方を、視神経損傷後の硝子体中に送達した。2週間後、空のPLGAビーズを注射した対照は、損傷部位の先に少量の再生を示し(図6a)、これは、眼中への少数のED1+マクロファージの流入と相関関係があった(データ不掲載)。Sp-8-Br-cAMPは単独で伸長を約2倍に増加させ(P<0.05)、オンコモジュリンはそれだけでは効果を示さなかった。しかしながら、Sp-8-Br-cAMPの存在下で、オンコモジュリンは、遠位の視神経中への再生をベースラインから5倍〜7倍に増大させた(図6b、6c;オンコモジュリン+Sp-8-Br-cAMPの効果をSp-8-Br-cAMP単独に対して比較。軸索長>500μmに対してはP<0.001、軸索長>1mmに対してはP<0.02)。オンコモジュリン+Sp-8-Br-cAMPは、空のビーズの場合と比べて、眼中のマクロファージ数を増加させることも、RGCの生存力を変更することも無かった(P>0.5、データ不掲載)。
【0071】
本発明者らはまた、軸索成長の長さに対するオンコモジュリンの効果も調査した。オンコモジュリン+Sp-8-Br-cAMPは、Sp-8-Br-cAMP単独と比べて、最長の再生軸索の長さを有意に増加させた(図6d、P<0.001)。
【0072】
オンコモジュリンによるDRG神経細胞の伸長への刺激
オンコモジュリンが他の細胞集団に対して作用するかどうかを調査するために、本発明者らは、後根神経節(DRG)の感覚神経細胞を使用した。神経節内のマクロファージ活性化により、DRG神経細胞が、インビボでまたは1週間後に培養状態に置かれた場合に軸索を再生する能力が大きく増大した37。本発明者らは、神経節内へのオンコモジュリン注射がこれらの効果の一部を再現し得るかどうか調査した。インビボで1週間オンコモジュリンに曝露されたDRG神経細胞は、ポリ-D-リシン許容基材上に播種した場合に、ビヒクルで処理した神経細胞よりもかなり大きな伸長を示した(図7a、7b)。コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)を含む阻害性基材上で、生理食塩水で前処理したDRG神経細胞は神経突起を伸長しなかった。オンコモジュリンで前処理すると、いくらか伸長が刺激され、かつ、この効果は、CSPGを分解する酵素コンドロイチナーゼABCで培養物を処理することによってさらに増強された(図7a、7c)。
【0073】
さらなる実験により、オンコモジュリンが、前もって処理されていないDRG神経細胞に対して作用すること、およびこの効果はフォルスコリンによって増強される(図7d)が、マンノースによっては増強されない(データ不掲載)ことが実証された。これらの実験から、オンコモジュリンが、DRG軸索再生に対して報告されているマクロファージ活性化の効果の原因であることは証明されないものの37、RGC以外の神経細胞集団の伸長を刺激し得ることは示される。
【0074】
考察
活性化されたマクロファージは、RGCが損傷された視神経を通って軸索を再生するのを刺激し8、15、18、21、23、DRG神経細胞がその中心枝を脊髄中に再生させることを可能にし37、38、かつ、脊髄損傷後の機能的回復を促進する39。本研究は、12kDaのCa2+結合タンパク質であるオンコモジュリンが、RGCおよび他の神経細胞に対する、マクロファージ由来の強力な成長因子であることを示す。本発明者らは、オンコモジュリンが、マクロファージによって大量に発現および分泌されること、RGCに高い親和力で結合すること、ならびに、マンノースおよび増加したcAMPの存在下で、CaMキナーゼII依存性経路を活性化し、他の公知のポリペプチド成長因子よりも大きな軸索伸長をもたらすことを初めて示す。オンコモジュリンを免疫除去すると、マクロファージの軸索促進効果が消失し、かつ、インビボでは、オンコモジュリンおよびcAMP類似体を継続的に放出すると、成人視神経の阻害性の高い環境中にRGCが軸索を再生することが可能になった。
【0075】
オンコモジュリンは、高親和性の細胞表面受容体を介して作用すると思われる。このタンパク質は、RGCに対して飽和性の結合を示し、Kdは28±5nMである。この値は、EC50値(約3.8nM)を超えており、かつ、神経細胞中の他のリガンド-受容体ペアに対して存在するように、RGC上の「予備受容体」の存在を反映している可能性がある40、41。RGCに対するオンコモジュリンの結合は可逆的であり(IC50は約30nM)、かつ高度に特異的である。最も密接に関連したCa2+結合タンパク質であるパルブアルブミンは、受容体占有のためにオンコモジュリンと競合せず、かつ、パルブアルブミンも、他の任意のCa2+結合タンパク質も、最高150nMまでの濃度で、RGCからの伸長を刺激しなかった。オンコモジュリンの受容体結合部位はN末端中にあり、他のCa2+結合タンパク質中には存在しない高度に保存された配列を含む。オンコモジュリンの軸索促進効果はまた、C末端のEFハンドドメインも必要とするが、そのCa2+親和力の減弱に対して比較的非感受性である。RGCに対するオンコモジュリン結合のcAMP依存性に関して、考え得る説明には、trkBに対して存在することが公知であるように、受容体(もしくは共受容体)の発現を調節する際、休止中の受容体もしくは共受容体を活性化する際、または受容体もしくは共受容体の細胞質ゾルプールから細胞膜への移行を調節する際のcAMPの役割が含まれる(参考文献32、42)。この後者の可能性と一致して、RGCを透過処理することにより、オンコモジュリンが、[cAMP]iが上昇しない場合でさえ、おそらくは受容体の細胞内プールに結合することが可能になった。マンノースはオンコモジュリンがその受容体に結合するためには必要とされないが、それでもなお、RGCがこのタンパク質に応答するために必要とされる。この要求の根拠は現在不明である。オンコモジュリンは、生存している間にフォルスコリンに曝露した後に固定されていたRGCに結合するため、無傷の細胞において、オンコモジュリンは、受容体に結合する前には内在化されないようである。オンコモジュリン-受容体複合体が結合後に内在化されるかどうかは不明である。要約すると、本発明者らの研究は、特異性、飽和性、およびcAMP依存性を示す、RGC上の高親和性オンコモジュリン受容体の存在を指摘する。
【0076】
本発明者らの知見から、マクロファージ由来のシグナルに対する受容体をRGCがなぜ発現し得るのかという疑問が生じる。硝子体は、炎症に対して耐性が高く、RGCのみが異常な状況下でマクロファージに遭遇する43。代替のリガンドがこの受容体に対して存在することも考え得る。しかしながら、オンコモジュリンのN末端に相同な配列を含む唯一のタンパク質はα-パルブアルブミンであり、これは、受容体占有のために競合しない。別の可能性は、RGCが、マクロファージ以外の細胞に由来するオンコモジュリンに正常に応答するということである。この路線で、本発明者らは、網膜軸索の主要な到達点である上丘が、発達する間、オンコモジュリンを発現することを発見した。RGCに対するオンコモジュリンの別の生理学的供給源があるかどうかを決定するため、およびこのタンパク質が、神経系外の細胞間シグナル伝達に関与しているかどうかを決定するためには、さらなる実験が必要とされると考えられる。
【0077】
オンコモジュリンは、RGCに対して作用することが公知である他のポリペプチド成長因子とは、活性および下流のシグナル伝達メカニズムが異なる。以前に研究された成長因子のうちで、CNTFが、培養中のRGCを刺激して軸索を伸長させるにあたって最も効果的であり、この効果は[cAMP]依存性であった28、30。BDNFは、成熟RGCからの長距離の成長よりはむしろ、局部的な発芽を刺激し、かつ、BDNFおよびCNTFの両方とも生存を促進する28、29、44。本発明者らの研究において、CNTFは、その効果はオンコモジュリンの効果より低かったものの、マンノースおよびフォルスコリンの存在下で、培養中のRGCからの伸長を促進したが、BDNFもGDNFも、促進しなかった。他の成長因子のインビボでの効果は、本明細書において使用した条件下では試験されていない。以前の研究により、RGCが成熟した視神経中に軸索を再生するのを促進する際にCNTFは効果が無いが、これは、継続的に送達されることも、cAMPを上昇させる作用物質の存在下で送達されることも無いことが判明した(参考文献18)。しかしながら、別の実験モデルにおいて、CNTFおよび上昇したcAMPは、眼内マクロファージ活性化とほぼ同じ程度まで21、末梢神経グラフトを通るRGC軸索再生を促進した30。本明細書において試験した因子の他に、本発明者らは、線維芽細胞増殖因子-2(FGF2)、神経成長因子(NGF)、カルジオトロフィン、インターロイキン-6、上皮成長因子(EGF)、およびいくつかのケモカインは、培養状態の成熟RGCが軸索を伸長するのを刺激しないことを以前に報告した21
【0078】
他の因子に対するオンコモジュリンの生物活性において観察される差と並行して、下流のシグナル伝達経路にも著しい差がある。RGCに対するオンコモジュリンの効果は、BDNFおよび関連するニューロトロフィンによって活性化されるPI3キナーゼまたはMEK-1、MEK-2、もしくはMEK-5の活性を妨害する作用物質によっても、CNTFおよび関連するサイトカインによって活性化されるヤヌスキナーゼの阻害物質によっても、影響されなかった。これらの知見と合致して、硝子体内マクロファージ活性化の修復促進効果は、ニューロトロフィンまたはCNTFファミリーメンバーに対する受容体に干渉する作用物質に非感受性であることが報告されている23。しかしながら、CaMKIIの阻害物質は、オンコモジュリンの効果を完全かつ選択的に妨害した。さらに下流では、オンコモジュリンの効果は、転写阻害物質によっても妨害された。この知見は、オンコモジュリンがRGC中の転写活性化因子CREBのリン酸化を招き、かつ、マクロファージ活性化がRGCにおける軸索伸長に関係した遺伝子の発現を誘導するというインビボでの観察結果と一致している(参考文献15)。要約すると、オンコモジュリンを軸索伸長と結びつける正確なメカニズムはまだ明らかにされていないものの、本発明者らの結果から、オンコモジュリンが、CaMKII活性および下流の転写の変化を伴うシグナル伝達経路を活性化することが示される。
【0079】
オンコモジュリンが他の任意の神経集団において伸長を刺激するかを判定するために、本発明者らは、DRG感覚神経細胞に対するその効果を調査した。DRGにおいてマクロファージが活性化されると、これらの神経細胞が、培養状態で、かつ後根進入部を通じてインビボで移植された場合に軸索を再生する能力が向上する37、38。以前の研究37で使用された手順に従って、本発明者らは、インビボで感覚神経細胞をオンコモジュリンに曝露すると、培養状態に置いた場合のそれらの成長が刺激され、かつ、これらの細胞が阻害性CSPG基材上で成長することを可能にするにあたってのコンドロイチナーゼABCの効果が増強されることを発見した。フォルスコリンは効果を増大させたものの、オンコモジュリンは、[cAMP]iを上昇させる作用物質の不在下でさえDRG神経細胞からの伸長を促進した。これらの結果は、オンコモジュリンが感覚神経細胞再生に対するマクロファージ活性化の効果を媒介することを証明しないものの、オンコモジュリンがRGC以外の神経集団に作用し得ることを示す。
【0080】
オンコモジュリンは、硝子体内マクロファージ活性化の効果の多くの原因となるが、それらすべての原因とはなり得ない。本明細書において、オンコモジュリンは、活性化マクロファージによって分泌される主要な軸索促進タンパク質として単離された。これと一致して、このタンパク質を免疫除去すると、RGCに対するMCMの活性が消失した。しかしながら、インビボでのオンコモジュリンの軸索促進効果は、[cAMP]iを上昇させる作用物質の存在を必要とするのに対し、硝子体内マクロファージ活性化は単独で、オンコモジュリンおよびcAMP類似体(OM/cAMP)よりも多くのRGCに損傷部位から1mm先まで軸索を伸長させる(図6cを参考文献21の図2と比較されたい)。この差の一部は、RGC生存に対するマクロファージ活性化の強力な効果に起因する可能性がある。その一方で、最長の再生軸索の平均長は、硝子体内マクロファージ活性化の場合(5.5mm)よりも、OM/cAMPに応答した場合の方がいくらか長かった(6.7mm)。マクロファージ活性化が無い場合の眼損傷は、再生を引き起こさない18、21。培養状態では、オンコモジュリンは、RGCからの伸長を刺激するために、[cAMP]iを上昇させる作用物質と共にマンノースを必要とする。MCMはそれだけで中等度の効果を有するが、フォルスコリンおよびマンノースの存在下では、その効果はオンコモジュリンの効果と同様である。まとめると、これらの結果から、オンコモジュリンはRGCに対するマクロファージの軸索促進効果のために不可欠であるが、マクロファージによって産生される他の因子は、細胞生存を促進するのに寄与し、かつ、おそらくは[cAMP]iを上昇させることによって、伸長に対するオンコモジュリンの効果を増強し得ることが示唆される。OM/cAMPの効果とマクロファージ由来因子の効果の任意の比較を複雑にするさらなる問題には、後者が、伸長に寄与する二次的作用物質を網膜中の他の細胞から放出させ得る可能性、マイクロスフェアからのOM/cAMPの未知の放出特徴、およびOM/cAMPが分解するか、または眼外に拡散する速度が含まれる。また、本明細書および別の文献5、30において示されるように、使用されるcAMPレベルが高すぎる場合には、これは有害になると思われる。本明細書において得られる再生の量は、オンコモジュリンおよび[cAMP]iを上昇させるための作用物質の送達をより正確に制御して、RGCの生存を促進することによって10、11、45、ならびにミエリンおよびグリア性瘢痕に関連する阻害性シグナルを抑制することによって13、15、実質的に改善することができる可能性が高い。このような組合せアプローチが、最終的に、臨床的に有意義な視神経再生レベルをもたらす場合がある。
【0081】
方法
本文書中のすべてのインビボ研究は、研究機関の動物管理使用委員会(the Institutional Animal Care and Use Committee)の承認を得て、小児病院(Children's Hospital)で実施した。
【0082】
オンコモジュリンの同定
オンコモジュリンは、Harvard MicrochemistryおよびProteomics Analysis Facilityで実施される高速液体クロマトグラフィー(HPLC)タンデム型質量分析(LC-MS/MS)によって同定した。Mrが約14kDaのタンパク質バンドを、サイズ排除クロマトグラフィーによって分離した後、ザイモザンに刺激されたマクロファージによって分泌されたタンパク質を含むSDSポリアクリルアミドゲルから切り出した。これは、培養中の網膜神経節細胞からの軸索伸長を刺激することが見出されたカラム画分中に存在する最も目立つバンドであった21。14kDaバンドのトリプシンペプチドに対する配列解析を、イオントラップ質量分析計(Finnigan LCQ DECA XP)のナノエレクトロスプレーイオン源に直接連結されたマイクロキャピラリー逆相HPLCを用いて実施した。結果として生じるMS/MSスペクトルを、SEQUESTおよび施設内で開発したプログラムを用いて、公知の配列と互いに関連付けた。次いで、結果の忠実度を手作業で確認した。
【0083】
マクロファージ培養およびオンコモジュリン検出
ラットマクロファージを、記載されているように、ザイモザンの存在下または不在下で培養した21。細胞を1〜8時間インキュベートした後、マクロファージ順化培地(MCM)を回収した。同じ時間間隔で細胞を採取し、ホモジナイズし、かつ、高速上清画分を調製した。モノクローナル抗体(1:5,000)を用いたウェスタンブロット法によって、オンコモジュリンを可視化した26。いくつかの実験において、本発明者らは免疫蛍光法を用いて、(モノクローナル抗体、1:2,000によって)培養したマクロファージ中のタンパク質または(オンコモジュリンに対するウサギポリクローナル抗体(抗OM)、1:2,000、Swantによって)網膜切片中のタンパク質を可視化した。網膜切片を抗体ED1(1:200、Serotec)で二重染色して、マクロファージを検出した。すべての場合において、適切な蛍光性二次抗体(Molecular Probes)を1:500で使用した。対照は、オンコモジュリンでコーティングされたフィルターまたは対照のニトロセルロースフィルター上への抗血清由来の抗オンコモジュリンIgGの吸着を含んだ。抗オンコモジュリン抗体の有無をウェスタンブロット法によって確認した。
【0084】
マクロファージ馴化培地からのオンコモジュリンの免疫除去
プロテインAビーズ(Sigma)を、ウサギ抗OM抗血清(Swant)または正常なウサギ血清(Invitrogen)のいずれかと共に4℃で16時間インキュベートした。徹底的にすすいだ後、吸着されたIgGを伴うビーズをMCM(1ml 10倍濃縮物、ザイモザン処理後8時間目に回収)と4℃で24時間混合し、次いで、遠心分離によって沈降させた。本発明者らは、ウェスタンブロット法によって、5μlの上清または未処理のMCMをオンコモジュリンについて試験した。免疫除去したMCMおよび対照MCMの生物活性を、ほぼ最大の応答を与えることが判明した濃度である1:4で希釈して、後述するように分離したRGC培養物中で試験した。
【0085】
網膜一次培養物
記載されているようにして、成体ラットの網膜培養物を調製した21。手短に言えば、上丘中にFluorogoldを注入することによって、RGCを逆行性に標識した。1週間後、網膜を解剖し、分離し、かつ、所定の無血清培地に細胞を播種した。3日後、盲検化された様式で、4つ組の試料において、軸索成長(伸長している軸索の長さが30μm以上、70μm以上、または140μm以上であるRGCの割合(%))を評価した。実験はすべて、別々に少なくとも3回繰り返した。場合によっては、細胞をGAP-43抗体(1:500、Chemicon)で免疫染色した。
【0086】
免疫精製したRGC培養物
成体ラット網膜細胞を上述のように分離し、次いで、抗体MAC1、続いてThy1に対する抗体(Chemicon)を用いたイムノパンニング31、46によって単離した。全細胞に対するFluorogoldで標識された細胞の計数に基づいた純度は約98%であった。フォルスコリンで処理したRGCまたはフォルスコリン無しで処理したRGCを、結合アッセイ法の前に、14〜16時間培養した後、軽く固定(4%パラホルムアルデヒド(PFA)、6分)した。
【0087】
組換えオンコモジュリンタンパク質の作製
ラットオンコモジュリンを大腸菌(Escherichia coli)において発現させ、かつ、DEAE-SepharoseカラムおよびSephadex G-75カラムを通過させて精製して、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)および紫外線吸光度によって判定した純度が98%を上回る組換えオンコモジュリンを得た47。オンコモジュリン遺伝子をベクターpAP5(小児病院(Children's Hospital)、ハーバード大学医学部(Harvard Medical School)、ボストン)のZ.Heからの贈与物)中に融合させることによって、アルカリホスファターゼオンコモジュリン(AP-OM)プラスミドを作製した。強力なCa2+結合に不可欠であることが公知の部位での単一のアミノ酸交換によって、E62Q、E101N、およびE62Q+E101N変異体オンコモジュリンプラスミドを作製した33、34(部位特異的変誘発キット、Stratagene)。OMNTおよびOMCTは、それぞれN末端のアミノ酸50個およびC末端領域に相当するオンコモジュリンの切断型変種である。変異遺伝子はすべてpAP5中に挿入した。APプラスミドまたはAP融合プラスミドを293T細胞中にトランスフェクトした。Ni-NTAカラム(Qiagen)を用いて組換えタンパク質を精製し、かつ、APに対する抗体、および可能な場合にはオンコモジュリンに対する抗体を用いたウェスタンブロット法によって確認した。
【0088】
RT-PCR
様々なラット組織に由来する全RNAをRNeasy(Qiagen)を用いて抽出した。製造業者の取扱い説明書(Invitrogen)に従って、第1鎖cDNAを合成した。鋳型としての第1鎖cDNAをラットオンコモジュリンプライマー

と共に用いて、PCRを実施した。PCR断片を配列決定して、それらがオンコモジュリンに対応することを確認した。
【0089】
リガンド結合アッセイ法
少し修正して、記載されているように48結合アッセイ法を実施した。手短に言えば、軽く固定した免疫精製済みRGCをAP-OMまたはAPと共にインキュベートした(37℃、24時間)。徹底的にすすいだ後、細胞を再び固定し、加熱(65℃、90分)して内因性APを破壊し、かつ、ニトロブルーテトラゾリウムクロリド/5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイルホスファートトルイジン塩(BCIP/NBT)と共にインキュベートした。場合によっては、AP-OMまたはAP(対照)(フォルスコリンを併用または併用しない)を最初の固定前に培養物に添加した。ImageJソフトウェア(米国国立衛生研究所(US National Institutes of Health))を用いて吸光度を測定し、かつ、AP結合のレベルを引くことによって補正した。Prismソフトウェアを用いて、結合曲線およびスキャッチャードプロットを作成した。置換研究のために、37℃で24時間、40nM AP-OMを平衡結合させた後、様々な濃度の非標識オンコモジュリンを培養物に添加した。
【0090】
高分子マイクロスフェア
単一の乳濁液の溶媒蒸発法によって、PLGAを用いて、凍結乾燥させたオンコモジュリンまたはsp-8-Br-cAMP(Sigma)とマイクロスフェアからマイクロスフェアを調製した49。インビトロでのタンパク質放出速度を測定するために、オンコモジュリンを含むビーズ10mgをリン酸緩衝化生理食塩水(PBS、37℃)中でインキュベートした。3日毎に上清を採取し、ウェスタンブロット法で解析した。初期バーストに続いて、低レベルのオンコモジュリンが1ヶ月の期間に渡って継続的に放出されることが判明した。
【0091】
視神経手術および硝子体内注射
記載されているようにして、雄のFisherラット(200〜250g)に対して視神経手術を実施した18。神経挫滅後3日目に、同じ液体体積を眼から引き抜いた後、10μl生理食塩水中の空のマイクロスフェア、または、オンコモジュリン、sp-8-Br-cAMP、もしくは両方を含むマイクロスフェアをラットに眼内注射した(一群当たりn=8〜12)。2週間後にラットを屠殺し、視神経の結合した網膜を記載されているようにして調製した18、21。損傷部位から500μmおよび1mmの距離の視神経におけるGAP-43免疫染色によって軸索成長を評価した18、21。各事例において最長軸索の長さを測定し、各群の全事例の平均を求めた。
【0092】
インビボでのオンコモジュリンの即時効果を調査するために、ラットにこのタンパク質(1μg μl-1、体積5μl、n =6)を硝子体内注射し、2時間後に屠殺した。網膜切片を免疫染色して、リン酸化型の転写活性化因子CREBを検出した(P-CREBに対する抗体、1:100、Cell Signaling Technology)。視神経先端から2mmの位置の蛍光顕微鏡写真を撮影した。
【0093】
DRG注射および培養物
雄のSprague-Dawley成体ラット(250〜300g)に由来するL4-L5 DRGに、5μlの生理食塩水またはオンコモジュリン(200ng μl-1)を注射した。7日後、注射した神経節を解剖し、記載されているようにして単細胞懸濁液を調製した50。CSPG(Chemicon)を含む、または含まないラミニン(Sigma)上で20時間または40時間、細胞を培養した。場合によっては、コンドロイチナーゼABC(0.5U ml-1、Seikagaku)を添加した。クラスIII β-チューブリンに対するTuj1抗体(1:5,000、Babco)によって神経突起伸長を可視化し、かつ、盲検化された観察者が、4つ組の試料において神経突起伸長を定量した。他の研究では、オンコモジュリン、マンノース、および/またはフォルスコリンの存在下または不在下で、RPMI-1640中でL4-L5 DRG神経細胞を培養して、自然発生的成長を制限した。3日後に細胞を固定および免疫染色し、かつ、伸長を評価した。
【0094】
本明細書に引用する参考文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0095】
参考文献





【0096】
当業者は、ルーチンな実験法を用いるだけで、本明細書において説明した本発明の個々の態様に対する多くの等価物を認識するか、または確認することができる。このような等価物は、特許請求の範囲によって包含されると意図される。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】オンコモジュリンは、RGCにおける軸索再生を刺激する。図1Aは、オンコモジュリンおよび他の関連するカルシウム結合タンパク質の概略図である。オンコモジュリン(OM)は、2つの活性なCa2+結合部位(長方形)を含み、そのEFハンドドメインがα-パルブアルブミン(α-PV)、カルモジュリン(CM)、カルビンジン(CB)、およびS100-βに関連しているが、N末端領域はα-PVにのみ関連している(配列同一性%を示している)。図1Bは、RGCに対するオンコモジュリンの効果を示す、様々に処理されたRGCの顕微鏡写真である。上段では、記載したように細胞を処理し、かつGAP-43に対する抗体で染色した。下段は同じ視野であり、RGCを特定するためのFluorogold標識を示す。スケールバーは30μmである。図1Cは、記載した因子と共に3日間培養した後に、指定のサイズ範囲(30〜70μm、70〜140μm、および140μm超)に軸索を伸長しているRGCの割合(%)を示すヒストグラムである。処理群間の差は、すべてP<0.0001で有意である。図1Dは、オンコモジュリン、マンノース、およびフォルスコリンに応答した軸索伸長を示すデータの棒グラフである。図1Cに示すヒストグラムデータをまとめると、軸索の長さが30μmを超えるFluorogoldで標識されたRGCの合計割合(%)が得られる。***はP<0.001(フォルスコリンおよびマンノースのみの場合との差)である。図1Eは、細胞生存を示すデータの棒グラフである(400倍顕微鏡視野当たりのRGCの平均数。所定の培地のみで処理した対照における生存に対して標準化した。)。図1Fは、オンコモジュリンの存在に対する軸索伸長の用量応答を示すデータの線グラフである。(P<0.05、対照と比べて減少)。MCMは、ザイモザンに刺激されたマクロファージによって分泌されたタンパク質を含む培地である。
【図2】オンコモジュリンの効力および特異性。図2A、2B、および2Cは棒グラフである。図2Cは、棒グラフの上に写真も含む。図2Aは、BDNF(50ng ml-1)、CNTF(10ng ml-1)、およびGDNF(50ng ml-1)と比較したオンコモジュリン(OM)の軸索促進効果を示す。フォルスコリンおよびマンノースの不在下(白い棒)または存在下(黒っぽい棒)で因子を試験した。図1Dでしたように結果を定量する。*はP<0.05および***はP<0.001である(フォルスコリンおよびマンノースによって誘導された成長との差)。†††はP<0.001(CNTFと比べたオンコモジュリンの効果の差)である。図2Bは、オンコモジュリンならびにパルブアルブミン(PV)、カルモジュリン(CaM)、カルビンジン(CB)、およびS100-β(S100)を含む他のCa2+結合タンパク質の軸索促進効果を示す(すべて、フォルスコリンおよびマンノースの存在下で、15nMで試験した)。図2Cは、(ザイモザンに刺激されたマクロファージによって分泌されたタンパク質を含む)MCMからオンコモジュリンを免疫除去すると、軸索促進活性が消失したことを示す。上部の写真は、空のプロテインAビーズ(-)への曝露後、またはプロテインAビーズに結合された抗オンコモジュリンIgG(α-OM)もしくは正常ウサギ血清由来のIgG(NRS)を用いた除去後のMCM中のオンコモジュリンを検出するためのウェスタンブロットの写真である。下は、オンコモジュリン除去後のMCMの軸索促進活性を示す。††はp<0.01である(除去されていないMCMと比べた減少)。
【図3】RGCへのオンコモジュリン結合:動態およびドメイン解析。イムノパンニングによって単離する7日前に、FluorogoldでRGCを逆行性に標識し、かつ、フォルスコリンと共にまたはフォルスコリン無しで培養して増殖させた。図3A〜3Jは顕微鏡写真である。図3Aおよび3Bのデータは、培養物の純度を示す。Fluorogoldで標識したRGCの位相画像(a)および蛍光画像(b)である。スケールバーは30μmである。図3C〜3Jは、RGCへのアルカリホスファターゼ(AP)-オンコモジュリン融合タンパク質(AO)の結合(すべて10nM)を示す。AP単独(c、フォルスコリン有り)、フォルスコリンの不在下でのAO(図3D)またはフォルスコリンの存在下でのAO(図3E)。cAMP依存性のAO結合は、100倍過剰の非標識オンコモジュリン(OM、図3F)によって置換されたが、α-パルブアルブミン(図3G)によっても、オンコモジュリンのN末端を含むAP融合タンパク質(AONT、図3H)によっても、オンコモジュリンのC末端を含むAP融合タンパク質(AOCT、図3I)によっても置換されず、かつ、フォルスコリンで前処理されていない透過処理されたRGCへのAO結合(図3J)によって置換された。c〜jにおけるスケールバーは30μmである。図3Kは、結合の定量化を示すデータの棒グラフである(AP結合によって補正された細胞表面積当たりの吸光度。***はP<0.001である(フォルスコリン無しでの結合と比べた増加)。†††はP<0.001である(AOおよびフォルスコリンと比べた低下))。図3Lは、軸索伸長に対するAO変異(AOvar)の効果を示すデータの棒グラフである(フォルスコリンおよびマンノースの存在下(「Forsk」、「M」)、15nMで試験した。伸長は図1Cのようにして測定した)。E62N/E101Qは、アミノ酸が置換された、Ca2+結合が低下したAO変異体である。***はP<0.001である(フォルスコリン+マンノースと比べた増加)。図3Mもまた、結合動態および対応するスキャッチャードプロットを示すグラフである。RGCに対するAO結合は、飽和性であった(Kdは約28±5nM。i.u.は強度単位を示す。AP結合によって補正)。図3Nは、結合データの線グラフである。AOの平衡結合(40nM)後、図に示すように非標識のオンコモジュリンに細胞を曝露した。結果は、競合物質の不在下でのAO結合に対して標準化する。
【図4】オンコモジュリンの下流での効果は、CaMKIIおよび転写変化を伴う。図4A、4B、および4Cは、記載した因子に応答した軸索伸長を定量したデータのグラフである。図4Aは、オンコモジュリン(OM)の効果を示すが、フォルスコリン+マンノースの効果は示さず、これはCaMKIIの阻害物質であるKN93によって妨害された。KN92はKN93の不活性型である。MEK-1、MEK-2、もしくはMEK-5の阻害物質(PD:PD98059)、PI3キナーゼの阻害物質(LY:LY294002)、またはJak-1、Jak-2、もしくはJak-3の阻害物質(Jaki)は、オンコモジュリンによって誘導される成長を妨害しなかったが、3種すべての組合せ(「L」、「P」、「J」)は、フォルスコリン+マンノースの場合のレベルを下回るまで伸長を妨害した。図4Bは、オンコモジュリンの効果が転写阻害物質ActDによって妨害されることを示す。図4Cは、cAMPの濃度上昇がオンコモジュリンの効果を再現しなかったことを示す。オンコモジュリン活性のためにcAMPが必要ではあったが(図1C)、最適レベルを超えてcAMP濃度を上昇させることは有害であった。図4Dは、オンコモジュリンがP-CREBのレベルを上昇させたことを示す。硝子体内注射後2時間目に、組織学的検査のために網膜を調製した。4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)ならびにP-CREBおよびクラスIII β-チューブリンに対する抗体で切片を染色した。gclは神経節細胞層であり、iplは内網状層である。矢印はP-CREB陽性のRGCを指す。***はP<0.001である(阻害物質の不在下での伸長と比べた減少)。スケールバーは30μmである。
【図5】オンコモジュリンの発現および分泌。図5Aは、オンコモジュリンの小胞局在化を示す写真である。DAPIおよび抗オンコモジュリン抗体、続いて蛍光性の二次抗体で染色した培養マクロファージの共焦点画像が示される。スケールバーは5μmである。図5Bは、ウェスタンブロットの写真8枚を集めたものである。データは、オンコモジュリン(OM)の分泌を示す。ザイモザンの不在下(上)または存在下(下)で、指定した時間(単位:時間)、マクロファージを培養した。細胞溶解物の高速上清画分中(「細胞内」、左)のタンパク質または培地中に分泌されたタンパク質(「細胞外」、右)を濃縮し、かつ、ウェスタンブロット法によって、OMおよびβ-チューブリンを探索した。図5Cは、RT-PCRによって可視化したオンコモジュリンmRNA発現を示す2枚の写真を集めたものである。MΦ-はザイモザン処理無しのマクロファージであり、MΦ+はザイモザン処理をしたマクロファージである。網膜、視神経、水晶体、および上丘(「Sup coll」)を、生後2日目(P2)に、または、(網膜の場合の)水晶体損傷もしくは(視神経の場合の)神経挫滅後に炎症応答を示していない(-)成人(「Ad」)もしくは炎症応答を示している(+)成人(「Ad」)において検査した。図5Dは、ウェスタンブロットの写真であり、ウェスタンブロット法による網膜中のオンコモジュリンの検出を示している(「C」は対照の正常な網膜であり、「LI」は、水晶体損傷後1週目の網膜である)。図5Eはウェスタンブロットの写真であり、抗血清に由来する抗オンコモジュリンIgGを前もって吸着させる(preadsorbing)と、ウェスタンブロットにおけるオンコモジュリン染色が減少することを示す。図5Fは、インサイチューの細胞写真9枚を集めたものである。写真は、インサイチューのオンコモジュリン免疫染色を示す。正常な対照の網膜切片または(水晶体損傷による)マクロファージ活性化後1週間目の網膜切片であり、抗体ED1(活性化された単球の場合、赤色)および抗オンコモジュリン(緑色)または前もって吸着させた抗オンコモジュリン(「Pre-ads」、染色の特異性を確認するため)のいずれかで染色した。合成した画像は、水晶体損傷後1週間目の網膜の神経節細胞層(gcl)および内網状層(ipl)におけるオンコモジュリンに特異的な免疫染色を示す。スケールバーは50μmである。
【図6】オンコモジュリンは、インビボでの視神経再生を促進する。図6Aおよび6Bは、神経挫滅後2週目の、損傷部位(アスタリスク(*))の遠位にあるGAP-43+軸索を検出するために免疫染色された視神経の縦方向切片の写真である。眼内にPLGAマイクロスフェアのみを注射したラット(図6A)またはオンコモジュリンおよびsp-8-Br-cAMPを含むマイクロスフェアを注射したラット(図6B)である。スケールバーは250μmである。図6Cは、損傷部位に対して遠位側の500μm以上の軸索成長(白い棒)および1mm以上の軸索成長(黒っぽい棒)を定量するデータの棒グラフである。図6Dは、最も長い軸索の長さを示すデータの棒グラフである(損傷部位に対して遠位側の長さ(mm)、全事例の平均)。*はP<0.05、**はP<0.01、および***はP<0.001である(空のマイクロスフェアを注射した対照と比べた増加)。†はP<0.001である(sp-8-Br-cAMPで処置した群との差)。
【図7】オンコモジュリンは、DRG神経細胞における神経突起伸長を刺激する。図7Aは、様々に処理されたDRG神経細胞の写真6枚を集めたものである。図7A〜7Cでは、許容(ポリ-D-リシン+ラミニン)基材または非許容(CSPG)基材上で細胞を培養する1週間前に、オンコモジュリン(OM)または生理食塩水をインビボでDRGに注射した。図7Aは、Tuj1抗体で染色した、培養状態のDRG神経細胞を示す。スケールバーは100μmである。図7B〜7Dは棒グラフである。図7Bは、許容基材上での神経突起伸長の定量を示す。***はP<0.001である(生理食塩水で処理した対照と比べた増加)。図7Cは、非許容基材上での伸長の定量を示す。オンコモジュリンおよびコンドロイチナーゼABC(ChABC)はそれぞれ、いくらか伸長を促進した(**はP<0.01、陰性対照と比較)。2種を組み合わせると、相乗効果を示した(††はP<0.01、†††はP<0.001である)。図7Dは、記載したようにオンコモジュリンおよびフォルスコリンの存在下または不在下でインキュベートした未処理のDRG神経細胞を示す。*はP<0.05(陰性対照を上回る増加)であり、†はP<0.05である(フォルスコリンを用いずに処理した細胞と比べた増加)。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図1F】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図3E】

【図3F】

【図3G】

【図3H】

【図3I】

【図3J】

【図3K】

【図3L】

【図3M】

【図3N】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図5D】

【図5E】

【図5F】

【図6A】

【図6B】

【図6C】

【図6D】

【図7A】

【図7B】

【図7C】

【図7D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における末梢神経障害を治療および/または予防するための方法であって、対象における末梢神経障害をそれによって治療および/または予防するために、治療的有効量のオンコモジュリンを対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項2】
末梢神経障害が対象の脊髄中に存在する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
対象における脊髄損傷を治療および/または予防するための方法であって、対象における脊髄損傷をそれによって治療および/または予防するために、治療的有効量のオンコモジュリンを対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項4】
末梢神経障害の治療または予防を必要とする対象を選択する段階をさらに含む、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項5】
対象にcAMPモジュレーターを投与する段階をさらに含む、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項6】
cAMPモジュレーターが、非加水分解性cAMP類似体、フォルスコリン、アデニル酸シクラーゼ活性化因子、cAMPを刺激するマクロファージ由来因子、マクロファージ活性化因子、カルシウムイオノフォア、膜脱分極、ホスホジエステラーゼ阻害物質、特異的ホスホジエステラーゼIV阻害物質、β2-アドレナリン受容体阻害物質、または血管作動性腸管ペプチドである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
対象にマンノースまたはマンノース誘導体を投与する段階をさらに含む、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項8】
対象にイノシンを投与する段階をさらに含む、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項9】
cAMPモジュレーターがフォルスコリンである、請求項5記載の方法。
【請求項10】
末梢神経障害が糖尿病性ニューロパシーの結果である、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項11】
末梢神経障害がウイルス感染症または細菌感染症の結果である、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項12】
オンコモジュリンが局所的に投与される、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項13】
オンコモジュリンが局所注入によって投与される、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項14】
オンコモジュリンが、薬学的に許容される製剤で対象に投与される、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項15】
対象が哺乳動物である、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項16】
哺乳動物がヒトである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
包装材料および該包装材料内に含まれる薬学的物質を含む製品であって、該包装材料が、該薬学的物質が薬学的に許容される担体と共に末梢神経障害を治療および/または予防するために有効量で十分な期間投与され得ることを示すラベルを含み、該薬学的物質がオンコモジュリンを含む、製品。
【請求項18】
以下の組合せを含む、末梢神経に対する障害を治療および/または予防するための薬学的キット:
(a)オンコモジュリン;
(b)軸索形成(axogenic)因子;および
(c)cAMPモジュレーター。
【請求項19】
軸索形成因子が、マンノース、マンノース誘導体、またはイノシンである、請求項18記載のキット。
【請求項20】
cAMPモジュレーターが、非加水分解性cAMP類似体、フォルスコリン、アデニル酸シクラーゼ活性化因子、cAMPを刺激するマクロファージ由来因子、マクロファージ活性化因子、カルシウムイオノフォア、膜脱分極、ホスホジエステラーゼ阻害物質、特異的ホスホジエステラーゼIV阻害物質、β2-アドレナリン受容体阻害物質、または血管作動性腸管ペプチドである、請求項18記載のキット。
【請求項21】
対象における末梢神経障害を治療および/または予防するための医薬の調製における、オンコモジュリンの使用。
【請求項22】
神経細胞に対するオンコモジュリンの軸索形成効果を阻害するための方法であって、オンコモジュリンの阻害物質を神経細胞に接触させる段階を含む、方法。
【請求項23】
神経細胞が、オンコモジュリンの軸索形成効果を阻害する必要がある対象中に存在し、かつ、接触させる段階が、阻害物質を該対象に投与することによって達成される、請求項22記載の方法。

【公表番号】特表2009−536950(P2009−536950A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509892(P2009−509892)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/011576
【国際公開番号】WO2007/133749
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(596115687)チルドレンズ メディカル センター コーポレーション (25)
【Fターム(参考)】