材料パラメータ導出装置及び材料パラメータ導出方法
【課題】塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータを、定量的に精度良く導出することが可能な材料パラメータ導出装置及び材料パラメータ導出方法を提供する。
【解決手段】試験板11に対し、塑性変形を与え、局部くびれを発生させる成形試験を行う試験ユニット1と、板厚ひずみ分布のデータから局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出する局部くびれ発生判定手段64と、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、局部くびれ発生判定手段64が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみとを比較する比較判定手段66と、局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定する材料パラメータ決定手段67とを備える。
【解決手段】試験板11に対し、塑性変形を与え、局部くびれを発生させる成形試験を行う試験ユニット1と、板厚ひずみ分布のデータから局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出する局部くびれ発生判定手段64と、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、局部くびれ発生判定手段64が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみとを比較する比較判定手段66と、局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定する材料パラメータ決定手段67とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータを導出する材料パラメータ導出装置及び材料パラメータ導出方法に係り、特に自動車用鋼板のような厚さ5mm以下の薄板等の結晶性材料の塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータを導出するに好適な材料パラメータ導出装置及び材料パラメータ導出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形、曲げ加工、ハイドロフォーミング等の板材や管材の成形において、様々な不良現象が考えられる。不良の中でも、破断と、しわに代表される座屈は代表的な不良現象である。不良率の低い安定した量産の実現のためには、これらの不良現象は、量産開始以前に、未然に防止することが必要となる。そこで、例えば、板材料のプレス成形では、量産開始前にプレス成形金型や成形条件を適正化することにより、プレス成形品の破断や座屈現象を防止することが試みられる。このような対策は、最終的には、例えば、量産設備にプレス成形金型を設置し、量産で使用する材料と同等或いは類似した材料を試験材として用いて、実際にプレス成形の試験を実施し、その試験材の成形品品質を評価しながら、プレス成形金型や成形条件を適正化するということによって施される。
【0003】
しかしながら、試験時点での金型品質、或いは試験を実施する者の技能によっては、試験にかかる時間、労力が多大となってしまい、コストアップ、又は量産開始時期の遅延につながってしまう場合がある。このような事態を改善するため、例えば、有限要素法等の成形の数値シミュレーションを用いて、プレス成形の試験前、更には金型製作前に、破断や座屈等の不良の発生を、コンピュータ上で事前に予測する、更には、それら不良への対策を検討し、金型製作、改良に反映する、或いは成形条件に反映する等の対策がとられるようになってきている。
【0004】
例えば、成形時、成形品の局部くびれや破断の危険性を判定する数値シミュレーションにおいては、一般には、数値シミュレーションの結果として得られる成形品の破断判定対象部位の最大、最小主ひずみと、予め基礎試験、例えば中島法等によって取得しておいた、破断発生限界の塑性ひずみを表す、いわゆる比例負荷でのひずみ限界を表す、成形限界線図(Forming Limit Diagram:FLD)を比較する。又、このような基礎試験により取得されるFLDの替わりに、各種の理論FLDが用いられる場合もある。更に、最大、最小主ひずみの替わりに、予め余裕度を持たせて設定しておいた限界の板厚減少率との比較による場合もある。しかしながら、一般に良く知られたことであるが、破断限界ひずみには、変形経路依存性があるため、比例負荷で求められたFLD、ましてや板厚限界ひずみによる評価が、いかなる場合においても、定量的に精度良く、実際の破断限界を表現するとは言えない。
【0005】
非特許文献1等に示されるように、発明者の一人は、材料パラメータKcを含んだ形をした伊藤・呉屋(ITO-GOYA)モデルの線形比較体構成式を提案し、R.ヒル(Hill)の一般分岐理論を、分岐面が板面に対して垂直な面のみならず、傾きを持った面も想定して展開した。例えば、図12に示すように、局所分岐帯の方向を示すベクトルnは板面から傾くことが可能である。この場合、局所分岐帯のひずみ速度は局所分岐モードベクトルmの分岐界面に対する向きで決定されるので、局所分岐モードベクトルmを図13(a)−(c)に示した3つの互いに直交する基本モードベクトルに分解して考えることができる。図13(a)に示すSHモードでは、分岐界面にあり且つ板面に平行なベクトルmSH=(−sinψ,cosψ,0)を、図13(b)に示すSVモードでは、分岐界面にあり、ベクトルmSHに垂直なベクトルmSV=(cosψsinφ,sinψsinφ,−sinφ)を、図13(c)に示すNモードでは、分岐界面に垂直なベクトルmN=(cosψcosφ,cos sinψcosφ,cosφ)を、それぞれ互いに直交する3つの基本モードベクトルとして考えることができる。但し、塑性変形は体積一定であることから図13(c)に示すNモードは、通常の塑性体では起こり得ないとして省略できる。
【0006】
そこで、任意のスカラーであるモード結合係数ν1,ν2を用いて、局所分岐モードベクトルmは、
m=(ν1mSH+ν2mSV)/(ν12+ν22)1/2 ……(1)
と表すことができる。指定された応力方向テンソルsに対してモード結合係数ν1,ν2及びモードベクトル方位角φ,ψ(図12参照。)について、局所分岐変形の発生限界条件の式から局所分岐発生条件を求めることができる。上の局所分岐基準は3次元局所分岐に対する3D分岐理論である。3次元という意味は応力状態が3次元であるだけでなく、たとえ平面応力であっても分岐モードの幾何学は3次元的であるということである。
【0007】
板材成形では平面応力を対象とした破断限界の評価を行うことが多い。これに対する理論モデルとしてS−Rモデルがある。S−Rモデルは平面応力場を前提とした局所分岐基準であるが、上記の3D分岐理論で平面応力場を仮定し、モードベクトルを板面内に限定すると(SHモードのみを考慮)S−Rモードに帰着する。即ち、3D分岐理論及びS−R理論に、同様に伊藤・呉屋モデルの構成式を適用することにより、σ/h(σ:主応力、h:加工硬化係数)平面で、変形経路依存性がない形として成形限界が定義できる。
【0008】
局所分岐は変形モードの突然の変化であるから、塑性ひずみ速度の瞬間の回転を伴う現象である。J2流れ理論に代表される、滑らかな降伏曲面による関連流れ則では塑性ひずみ速度方向は現在の応力によって一義的に規定されてしまい、塑性ひずみ速度の瞬間の回転は起こり得ない。このためにJ2流れ理論は塑性不安定・分岐問題への適用は不適切な結果を生むことになる。1940年代頃よりJ2流れ理論による塑性座屈荷重値が実験値に比べて異常に高く、物理的に不合理とされたJ2変形論の方がむしろ正しい結果を与えることが塑性座屈のパラドックスとして知られていた。この理由もJ2流れ理論では応力速度方向に応じて塑性ひずみ速度方向が変化しないことにある。J2流れ理論に代表されるいわゆる法線則の物理的根拠は、結晶塑性論で活動すべり系はシュミット則により決定され、塑性ひずみ速度方向は結晶学的に定まるすべり系の方位により一意に定まることにある。しかしこれは単一すべりの場合には厳密に成り立つが、多量すべりにおいて実活動すべり系の決定は後続の応力増分に依存する。その結果として塑性ひずみ速度方向は一般に応力速度方向によって変化し得るのである。発明者の一人はこのことを多結晶モデル解析及び実験により確認をし、この成果を踏まえて、降伏曲面の角点の存在を前提とし、角点半頂角の範囲内の連続分布ポテンシャル面を仮定した構成式を提案し塑性座屈のパラドックスを解消した。
【0009】
互いに直交する応力Σ1−Σ2のなす応力平面を示す図14において、nNは応力増分dσの方向の中でひずみ増分dεと方向が一致する方向を示す単位テンソル(順方向テンソル)である。順方向テンソルnN方向の応力増分dσに対してひずみ増分dεの大きさは最大となる。等方性ではそれは比例負荷である。又、αは順方向テンソルnN方向から測った応力増分dσの振れ角である。図14に示すように、β(α)をα方向の応力増分dσに対して生ずるひずみ増分dεの方向角とすると、塑性ひずみ速度方向の応力増分依存性の程度を表すパラメータKcが以下のように定義される。
【0010】
β=Kcα ……(2)
分岐解析のために、非特許文献1には、式(2)で定義した材料パラメータKcを用いて、伊藤・呉屋モデルから導かれる以下のような線形比較体構成式が開示されている:
hdεP=[Kcdσ′+(1−Kc)(dσ′:nN)] ……(3)
ここで、dεPは塑性ひずみ増分、dσ′は偏差応力増分、hは比例負荷時の加工硬化係数である。
【0011】
0 < Kc < 1 ……(4)
であり、材料パラメータKcが大きいほど、応力増分の方向変化に応じた塑性ひずみ増分の方向変化が大きくなるので、材料パラメータKcは、分岐問題においては分岐しやすい特性を示すパラメータである。
【0012】
変形の局所分岐は破断の前兆にすぎず破断そのものではない。非特許文献2には発明者の一人がしばしば引用してきた拡管過程における局所分岐過程のマルシニアーク(Marciniak)の模式図が示されている。マルシニアークの模式図に示されるように、内圧を負荷して拡管成形をする過程で内圧が比較的小さいときは一様に拡管されるが、やがて中心部付近が周囲より大きく拡管されるようになる。つまり一様変形から中心部付近の変形が卓越したところの変形の分岐である。管や板は面内寸法に比べて板厚が極端に小さいという幾何学的異方性があるが、この局所変形は寸法の大きい面内方向での局所分岐である。この変形は連続変形であり変形の進行とともに周囲の変形も大きくなりやがて一様性を失う。「拡散くびれ」といわれる所以であり、力学的不安定ではあっても最終破断には結びつかない。引き続いて更にサイズの小さい「局部くびれ」と呼ばれる局所分岐が起こる。S−Rモデルはこれを予測しており平面応力下での最小サイズの局所分岐変形である。非特許文献2には、伊藤・呉屋モデルの構成式を用いて、S−R理論及び3D分岐理論により、材料パラメータKcを仮定して計算された成形限界線図が開示されている。非特許文献2に示されているS−R限界曲線及び3D限界曲線は、局部くびれ発生限界及び破断限界として考えることができる。
【0013】
量産プレス成形を想定すると、例えば製品内に相当する部位における局部くびれの発生は避けられるべきであるので、例えば有限要素法による成形シミュレーションの結果として得られる、各部位の応力σと材料の基礎試験である引張試験結果等から取得される加工硬化係数hで計算されるσ/hの値と、σ/h平面でのS−R限界曲線を比較することにより、局部くびれの発生を定量的に判定可能となる。
【0014】
以上のような分岐理論による局部くびれ及び破断判定技術を確立するためには、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータ、例えば伊藤・呉屋モデルの構成式で定義される材料パラメータKcを高精度に定める必要がある。又、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータは、材料の破断特性のみならず、座屈現象にも密接に関係すると考えられ、材料の成形における問題を検討する上で、重要な材料パラメータであるといえる。
【非特許文献1】伊藤耿一、他3名、「塑性変形の3次元局所分岐解析による板材の破断限界ひずみの予測」、塑性と加工、日本塑性加工学会、1998年、第39巻、第445号、p60−64
【非特許文献2】伊藤耿一、「板材の加工限界の予測理論」、塑性と加工、日本塑性加工学会、2002年、第43巻、第495号、p23−27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところが、引張試験のような基礎試験から得られる、YS,TS,EL,n値、r値のような一般的な機械特性値などから、材料パラメータKcを決定することができない。
【0016】
非特許文献1により開示された、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの定義式に相当する構成式より、直接的に材料パラメータKcを定めるのは一般に困難である。例えば、伊藤・呉屋構成式より直接的にKcを定めるためには、偏差応力速度テンソル及び塑性ひずみ速度テンソルの双方を実測することが必要となるが、現状では困難である。したがって、非特許文献1に開示された情報より、材料パラメータKcを定めることはできない。
【0017】
又、非特許文献2には仮定した材料パラメータKcのもとでの成形限界線図が開示されているが、材料パラメータKcの同定方法に関する記述がない。
【0018】
このように、非特許文献1及び2に開示された従来の技術では、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータを定めることが困難であった。
【0019】
上記問題を鑑み、本発明は、一般的な材料の機械特性値や、材料パラメータの定義式に相当する構成式から導出することが困難な、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータを定量的に精度良く導出することが可能な材料パラメータ導出装置及び材料パラメータ導出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、(イ)試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行う試験ユニットと、(ロ)この試験ユニットから局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出する局部くびれ発生判定手段と、(ハ)塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみとを比較する比較判定手段と、(ニ)局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定する材料パラメータ決定手段とを備える材料パラメータ導出装置であることを要旨とする。
【0021】
本発明の第2の態様は、(イ)試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行う試験ユニットと、(ロ)この試験ユニットから局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出する局部くびれ発生判定手段と、(ハ)塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみとを表示する表示装置とを備え、この表示装置を用いて、局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定する材料パラメータ導出装置であることを要旨とする。
【0022】
本発明の第3の態様は、(イ)試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行うステップと、(ロ)この成形試験から局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出するステップと、(ハ)塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、局部くびれ発生時の塑性ひずみとを比較するステップと、(ニ)局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定するステップとを含む材料パラメータ導出方法であることを要旨とする。
【0023】
本発明の第3の態様で述べた材料パラメータ導出方法を実現するためのプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に保存し、この記録媒体を第1の態様で述べた材料パラメータ導出装置がなすコンピュータシステムによって読み込ませることにより、本発明の材料パラメータ導出方法を実行することができる。即ち、本発明の第4の態様は、(イ)試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行うステップと、(ロ)この成形試験から局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出するステップと、(ハ)塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、局部くびれ発生時の塑性ひずみとを比較するステップと、(ニ)局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定するステップとを第1の態様で述べた材料パラメータ導出装置に実行させるための材料パラメータ導出プログラムを記録した記録媒体であることである。ここで、「記録媒体」とは、例えばコンピュータの外部メモリ装置、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープなどのプログラムを記録することができるような媒体などを意味する。具体的には、フレキシブルディスク、CD−ROM,MOディスク、カセットテープ、オープンリールテープなどが「記録媒体」に含まれる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、一般的な材料の機械特性値や、材料パラメータの定義式に相当する構成式から導出することが困難な、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータを定量的に精度良く導出することが可能な材料パラメータ導出装置及び材料パラメータ導出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
はじめに、本発明の基本原理を簡単に説明する。塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータは、構成式に含まれる材料パラメータとして定義されている。例えば、式(2)で定義される材料パラメータKcは、応力増分dσの方向変化に応じた塑性変形の方向変化を表現し、分岐問題においては分岐しやすさを表現する特性値である。しかしながら、応力増分テンソルdσと塑性ひずみ増分テンソルdεを直接測定することは困難であるため、式(3)に示す伊藤・呉屋モデルの線形比較体構成式より直接的に材料パラメータKcを算出することは困難である。
【0026】
そこで、本発明では、実験的に測定可能である塑性ひずみを利用した塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの導出方法に着眼した。具体的には、式(3)の線形比較体構成式を用いて、比例負荷の条件、即ちひずみ比βが一定となる条件で、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの候補値を仮定して算出される塑性ひずみ平面でのS−R限界を予め求めておき、同条件での実験による局部くびれ発生時の塑性ひずみと比較することにより、実験による局部くびれ発生時の塑性ひずみに最も近いS−R限界曲線を与える候補値を、求める材料パラメータKcとして採用すれば良い。
【0027】
材料パラメータ導出のための局部くびれを発生させることができる成形実験は、ひずみ比β=−r/(1+r)である引張試験、ひずみ比β=−r/(1+r)〜1.0である円筒状の金型を用いた試験又は球頭状の金型を用いた試験によれば良い。なお、ひずみ比βは、サンプル元板の板幅を変えることにより、概ね−r/(1+r)〜1.0で調整可能である。ここで、rは塑性変形の異方性を表す材料特性であるr値である。
【0028】
次に、図面を参照して、上記の基本原理を適用した本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出装置及び材料パラメータ導出方法を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。又、以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0029】
(材料パラメータ導出装置)
本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出装置は、図1に示すように、試験板11に対して、比例負荷にて塑性変形を与え、局部くびれを発生させる成形試験を行う試験ユニット1と、試験ユニット1によって得られた局部くびれ発生時の塑性ひずみを用いて、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値を導出する演算・制御部(CPU)6とを備える。このため、演算・制御部(CPU)6は、試験ユニット1を駆動して、予め特定の画像パターンを付与した試験板11の変形部の変形履歴画像を取得する変形履歴画像取得手段61と、変形履歴画像取得手段61が取得した変形履歴画像の画像解析によって塑性ひずみ分布の発達履歴を取得する塑性ひずみ分布発達履歴取得手段62と、体積一定の式を用いて塑性ひずみ分布発達履歴取得手段62が取得した塑性ひずみ分布を板厚ひずみ分布に変換する板厚ひずみ演算手段63と、板厚ひずみ演算手段63が変換した板厚ひずみ分布から局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出する局部くびれ発生判定手段64と、伊藤・呉屋モデルの線形比較体構成式を用いて、比例負荷の条件で、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの候補値を離散的に複数個仮定し、それぞれの候補値に対して、S−R限界ひずみ曲線を計算し、S−R限界ひずみ曲線のデータをS−R限界記憶部9に記憶させるS−R限界算出手段65と、S−R限界記憶部9からS−R限界ひずみ曲線のデータを読み出し、局部くびれ発生判定手段64が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみとS−R限界ひずみ曲線とを比較する比較判定手段66と、局部くびれ発生判定手段64が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値として決定する材料パラメータ決定手段67とを備える。
【0030】
試験板11に対して、比例負荷にて塑性変形を与えるため、試験ユニット1には力学的駆動部3が接続され、力学的駆動部3は一定のステップで逐次負荷を増大させる。試験ユニット1にはCCD等のカメラ2が備えられ、カメラ2は、成形中の変形履歴画像を、逐次連続的に撮影する。成形中の変形履歴画像を、逐次連続的に撮影するために、カメラ2には撮像制御回路4が接続されている。力学的駆動部3及び撮像制御回路4には、タイミング制御回路5が接続され、タイミング制御回路5は、試験ユニット1の比例負荷のステップ状の増大と同期して、撮像制御回路4を駆動し、カメラ2により、成形中の変形履歴画像を、逐次、連続撮影し、一定の時間ステップで区切られた時系列のデータとして複数枚の変形履歴画像を取得する。変形履歴画像取得手段61が設定する変形履歴画像の取得のタイミング間隔は、求める塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値の必要桁数が得られるだけ十分細かく設定すれば良い。
【0031】
更に、図1に示すように、本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出装置は、操作者からのデータや命令などの入力を受け付ける入力装置22と、CPU6の演算した演算結果等を出力する出力装置23及び表示装置21と、CPU6の演算に必要な所定のデータなどを格納したデータ記憶部8と、CPU6の演算に必要なプログラムなどを格納したプログラム記憶部7とを備える。
【0032】
CPU6の変形履歴画像取得手段61は、力学的駆動部3を介して試験ユニット1を駆動して、逐次、比例負荷を増大して塑性変形試験を行う。このとき、変形履歴画像取得手段61は、タイミング制御回路5により、比例負荷のステップ状の増大と同期するように、撮像制御回路4を駆動してカメラ2により、成形中の変形履歴画像を、逐次連続的に撮影する。塑性ひずみ分布発達履歴取得手段62は、カメラ2が時系列に沿って一定の時間毎に撮影した変形履歴画像のそれぞれを、試験板11に対する負荷の増大ステップ毎(成形深さ毎)に画像解析して、塑性ひずみ分布を時系列に沿って逐次算出する。
【0033】
CPU6の板厚ひずみ演算手段63は、体積一定の式:
ε1 +ε2+εt= 0 ……(5)
より、板厚ひずみ分布に変換する。ここで、ε1 は、図12に示した応力σ1 方向に対応する試験板11の面内方向のひずみ、ε2は、ε1 方向に直交する面内方向のひずみ(図12において応力σ1 の方向に直交する応力σ2 方向に対応するひずみ)、εtは、ε1 方向とε2 方向とのなす平面に垂直な板厚ひずみである。板厚ひずみεtの分布は、図6に一例を示すように、試験板11に対する負荷の増大ステップ毎(成形深さ毎)に、逐次変換される。図6は、板厚1.58mmの極低炭IF鋼(JSC270D)の表面に直径0.8mmの円形のドットを点間2mmでマトリクス状に形成し、ひずみ比β≒0.9〜1.0の比例負荷を与えて得た変形履歴画像を3次元画像解析して取得された板厚ひずみεtの分布である(実際には、図6の右側に示す棒グラフのように、板厚ひずみεtがカラー表示される。)。図6(a)は成形深さH=33mmにおける板厚ひずみεtの分布、図6(b)は成形深さH=35mmにおける板厚ひずみεtの分布、図6(c)は成形深さH=36mmにおける板厚ひずみεtの分布である。
【0034】
図6(a)〜(c)に例示したような、試験板11に対する負荷の増大ステップ毎(成形深さ毎)の板厚ひずみεtの分布は、図7に示すような板厚ひずみεtの発達履歴のグラフにまとめられる。図7は、図6(c)の断面B−B’で示された水平方向(最大主ひずみ方向)についての板厚ひずみεtの分布を成形深さ毎に示したものである。即ち、図7は、成形深さの増加に伴う板厚方向の塑性ひずみ分布(板厚ひずみ分布)の変化を示す。図7で、白丸、半黒丸、黒丸は、それぞれ成形深さH=33,35,36mmの場合の水平方向(最大主ひずみ方向)についての板厚ひずみεtの分布をそれぞれ表す。
【0035】
CPU6の局部くびれ発生判定手段64は、最終的に発生する局部くびれ線に垂直な方向の板厚ひずみ分布より、局部くびれ発生の有無を判定する。図7に例示した場合では、成形深さの増加に伴い、局部くびれ線上の塑性ひずみは大きくなり、成形深さH=36mmで局部くびれと考えられる板厚ひずみの局所化が認められたと、局部くびれ発生判定手段64が判定する。局部くびれ発生判定手段64の局所くびれの判定は、例えば、板厚ひずみ−εtの最大値εmax測定区間の平均塑性ひずみεaveに対する比が1.05以上を局部くびれとして判定する。
【0036】
局部くびれ発生判定手段64が判定した局部くびれは、図8及び図9に例示したようなε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)に、成形限界線図(FLD)としてプロットされる。白丸、黒丸は、それぞれ健全部、局部くびれ発生部の最大・最小主ひずみであり、図8は、図7に対応する板厚1.58mmの270MPa級の場合、図9は、図8と比較する他の例として板厚1.58mmの440MPa級の場合の成形限界線図である。図8の破線は、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcを0.097と仮定した場合のS−Rモデルによる限界ひずみ曲線(以下において、「S−R限界ひずみ曲線」と言う。)で、図9の破線は、材料パラメータKcを0.080と仮定した場合のS−R限界ひずみ曲線である。図8及び図9において、破線で示したS−R限界ひずみ曲線は全領域で滑らかであるが、実線で示した3D限界ひずみ曲線はε1 /ε2=−0.5の直線で示される単純引っ張りの付近を堺にして急激に折れ曲がっている。図8及び図9から、健全部のひずみはS−R限界ひずみ曲線の内側(下側)に、局部くびれのひずみはS−R限界ひずみ曲線の外側(上側)に位置することがわかる。又、図8及び図9から、一軸、平面ひずみ変形における健全部の最大ひずみは、S−R限界ひずみ曲線上に位置していることがわかる。
【0037】
CPU6のS−R限界算出手段65は、式(3)に示した伊藤・呉屋モデルの線形比較体構成式を用いて、比例負荷の条件で、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの候補値を離散的に複数個仮定し、図10に示すように、それぞれの候補値に対して、S−R限界ひずみ曲線を計算し、S−R限界ひずみ曲線のデータをS−R限界記憶部9に記憶しておく。図10では、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKc=0.1,0.2,0.3の場合について、3本のS−R限界ひずみ曲線を例示的に示しているが、一例であり、要求される材料パラメータKcの精度に応じて、材料パラメータKcの候補値の刻み幅ΔKcを決めれば良い。刻み幅ΔKcは、求める材料パラメータKcの有効数字の桁数に対応して選ぶことになるが、現実にはΔKc=0.003〜0.0005等の図10の例示に比して遙かに小さな刻み幅の候補値を選ぶことが可能である。又、刻み幅ΔKc=0の極限、即ち、連続的な設定でも構わない。刻み幅ΔKcの選定は、変形履歴画像取得手段61が設定する変形履歴画像の取得のタイミング間隔とも関係するが、いずれにせよ、求める塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値の必要桁数が得られるだけ十分細かく刻み幅ΔKcを設定すれば良い。
【0038】
CPU6の比較判定手段66は、S−R限界記憶部9からS−R限界ひずみ曲線のデータをε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)上に読み出し、ε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)にプロットされた健全部と局部くびれ発生部との境界とを比較する。
【0039】
CPU6の材料パラメータ決定手段67は、ε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)にプロットされた健全部と局部くびれ発生部との境界と一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値として決定する。
【0040】
図1において、出力装置23及び表示装置21は、それぞれプリンタ装置及びディスプレイ装置等により構成されている。表示装置21は入出力データ、画像解析データ、変形履歴画像のデータ、塑性ひずみ分布のデータ、板厚ひずみ分布のデータ、板厚ひずみの発達履歴のデータ、局部くびれ発生時の塑性ひずみのデータやそれらの演算途中のデータや演算結果等や解析パラメータを表示することが可能である。更に、表示装置21に、ε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)を表示し、この画面中に健全部の塑性ひずみのデータ、局部くびれ発生部の塑性ひずみのデータ、S−R限界ひずみ曲線等を示すようにしても良い。又、複数のS−R限界ひずみ曲線を表示し、局部くびれ発生時の塑性ひずみのデータと一致する特定のS−R限界ひずみ曲線を強調表示するようにしても良い。
【0041】
入力装置22はキーボード、マウス、ライトペン又はフレキシブルディスク装置などで構成される。入力装置22を用いて、オペレータ(材料パラメータ導出実行者)は、入出力データを指定したり、試験板11に対する負荷の増大ステップ値、材料パラメータKcの候補値の刻み幅ΔKcや許容誤差の値及び誤差の程度を設定したりできる。又、表示装置21にε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)を表示し、この画面中に表示された健全部と局部くびれ発生部との境界とS−R限界ひずみ曲線とを、オペレータが目視により逐次比較して、一致する特定のS−R限界ひずみ曲線をマウス又はライトペン等で指定するような入力操作を行っても良い。更に、入力装置22より出力データの形態等の解析パラメータを設定することも可能で、又、演算の実行や中止等の指示の入力も可能である。
【0042】
S−R限界記憶部9が、S−R限界ひずみ曲線のデータを記憶するように構成しているので、データ記憶部8は入出力データ、画像解析パラメータ、変形履歴画像のデータ、塑性ひずみ分布のデータ、板厚ひずみ分布のデータ、板厚ひずみの発達履歴のデータ、局部くびれ発生時の塑性ひずみのデータやそれらの演算途中のデータ等を記憶する。但し、S−R限界記憶部9を省略し、データ記憶部8が、S−R限界ひずみ曲線のデータも記憶するような構成にしても良いことは勿論である。
【0043】
(材料パラメータ導出方法)
以下、図4のフローチャートを用いて、図1に示した材料パラメータ導出装置を用いて実施する、本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出方法を説明する。なお、図1に示した材料パラメータ導出装置において、予め、CPU6のS−R限界算出手段65が、式(3)に示した伊藤・呉屋モデルの線形比較体構成式を用いて、比例負荷の条件で、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの候補値を、刻み幅ΔKcで、離散的に複数個仮定し、図10に示すように、それぞれの候補値に対応して、S−R限界ひずみ曲線をそれぞれ計算し、複数のS−R限界ひずみ曲線のデータをS−R限界記憶部9に記憶しているものとする。
【0044】
(イ)先ず、予め、図5に示したように、ひずみ測定用のパターンを試験板11に付与しておく。図5に示したように、ひずみ測定用のパターンは、レーザマーキングと電解腐食を用いて、試験板11の表面に、直径0.7〜0.9mmの円形のドットを点間1.0〜3.0mm程度になるようにマトリクス状に形成する。ドットの形状は、必ずしも図5に示したような円形である必要はなく、6角形や8角形等他の形状でも構わない。
【0045】
(ロ)そして、ステップS101において、図1に示す試験ユニット1を用いて、成形試験を開始する。例えば、図1に示すCPU6の変形履歴画像取得手段61により、図2に示すようなパンチ頂部が平らな円筒状の金型を用いた押圧パンチ12a、又は図3に示すようなパンチ頂部が球頭状の金型を用いた押圧パンチ12bを力学的駆動部3で試験ユニット1を駆動して、成形深さを逐次増加して加圧試験(パンチ張り出し試験)を行う。
【0046】
図2及び図3において、試験板11は支持台(ダイ)13の上に搭載され固定されるが、図2では、押圧パンチ12aと試験板11の間には、板中央に直径36mmの穴部16を設けた穴あき駆動板15を用いている。押圧パンチ12aは、ブランクホルダ14により試験板11が保持され、力学的駆動部3により成形深さを変えるように移動して負荷を増大させる。なお、穴あき駆動板15の板厚は、クリアランスに収まる板厚で、延性が高くなる比較的厚めの板とするのが好ましい。図2に示すような試験ユニット1の構成とすることにより、試験板11の中央は、摩擦がない状態で成形が実現され、又平坦であり、純粋な平面応力状態が実現される。例えば、等2軸変形(β≒0.9〜1.0)、及び平面ひずみ変形(β≒0)下での塑性ひずみ発達挙動を調査するために、ブランクサイズ200×200×1.58mm及び200×130×1.58mmの試験板11に対して、直径100mmの円筒状の金型を用いた押圧パンチ12aにて成形する。図1の試験ユニット1には明示していないが、変形履歴画像取得手段61により、単軸引張試験手段を力学的駆動部3で逐次引張長さを増加して、単軸引張試験を行っても良い。例えば、単軸変形下での塑性ひずみ発達挙動を調査するために、JIS5号引張試験を実施することが可能である。この際、変形履歴画像取得手段61は、図1に示すタイミング制御回路5により、押圧パンチ12a、12bの移動位置(成形深さ)と同期して、撮像制御回路4を駆動してCCD等のカメラ2により、成形中の変形履歴画像を、逐次連続的に撮影する。変形履歴画像の取得のタイミング間隔は、求める塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値の必要桁数が得られるだけ十分細かく設定すれば良い。
【0047】
(ハ)CPU6の塑性ひずみ分布発達履歴取得手段62は、ステップS102において、カメラ2が撮影した変形履歴画像のそれぞれを、押圧パンチ12a、12bの移動位置(成形深さ)毎に画像解析して、塑性ひずみ分布を逐次算出する。更に、CPU6の板厚ひずみ演算手段63は、ステップS103において、式(5)に示した「体積一定の式」より、板厚ひずみ分布に変換する。板厚ひずみεtの分布は、図6に一例を示すように、押圧パンチ12a、12bの移動位置(成形深さ)毎に、逐次変換される。この場合、入力装置22の操作により、板厚ひずみ演算手段63は、図6(a)〜(c)に例示したような、押圧パンチ12a、12bの移動位置(成形深さ)毎の板厚ひずみεtの分布を表示装置21に表示させるようにしても良い。
【0048】
(ニ)図6に例示したような、板厚ひずみεtの分布のデータは、図7に示すような板厚ひずみεtの発達履歴のグラフにまとめられる。ステップS104において、CPU6の局部くびれ発生判定手段64は、最終的に発生する局部くびれ線に垂直な方向の板厚ひずみ分布より、局部くびれ発生の有無を判定する。図7に例示した場合では、成形深さの増加に伴い、サンプル中心(ゼロの位置)の塑性ひずみは大きくなり、成形深さH=36mmで局部くびれと考えられる板厚ひずみの局所化が認められたと、局部くびれ発生判定手段64が判定する。ステップS104において、局部くびれ発生判定手段64が、「NO(くびれなし)」と判定した場合は、ステップS102に戻り、更に成形深さを増加して加圧試験を行い、成形中の変形履歴画像を、逐次連続的に撮影する。その後、ステップS103を経由してステップS104に戻るループを形成する。ステップS104において、局部くびれ発生判定手段64が、「YES(くびれ発生)」と判定した場合は、ステップS105に進む。判定は、局部くびれ発生判定手段64が表示装置21に図7に示すような板厚ひずみεtの発達履歴のグラフを表示し、オペレータの目視により、局部くびれ発生の有無を判定するような人間が一部で関与する手法で行っても良く、CPU6の局部くびれ発生判定手段64におけるディジタルな論理演算として、即ち、コンピュータによる自動的な処理をしても良い。又、ディジタルな論理演算の確認として、表示装置21に図7に示すような板厚ひずみεtの発達履歴のグラフを表示しても良い。
【0049】
(ホ)局部くびれ発生判定手段64が判定した局部くびれは、図8及び図9に例示したようなε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)に、成形限界線図(FLD)としてプロットされる。ステップS105において、CPU6の比較判定手段66は、S−R限界記憶部9から、刻み幅ΔKcで、離散的に選定された複数の材料パラメータKcの候補値に対応してそれぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線のデータをε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)上に読み出す。そして、比較判定手段66は、ε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)にプロットされた健全部と局部くびれ発生部との境界とS−R限界ひずみ曲線とを、逐次比較する。比較は、比較判定手段66が表示装置21にε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)を表示し、この画面中に表示された健全部と局部くびれ発生部との境界とS−R限界ひずみ曲線とを、オペレータの目視により、逐次比較するようにしても良く、比較判定手段66におけるディジタルな論理演算で自動的に処理しても良い。オペレータの目視により比較する場合は、最初は比較判定手段66が刻み幅ΔKcを荒く設定して表示装置21に表示させ、ほぼ一致するS−R限界ひずみ曲線が決まったら、比較判定手段66が刻み幅ΔKcを1桁程度細かく設定して表示装置21にズーム表示させてより詳細な比較をし、ほぼ一致するS−R限界ひずみ曲線が決まったら、比較判定手段66が刻み幅ΔKcを更に1桁程度細かく設定して表示装置21にズーム表示させ、更に詳細な比較をするような段階的な処理をしても良い。又、ディジタルな論理演算の確認として、表示装置21にε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)を表示するような併用も可能である。
【0050】
(ヘ)ステップS106において、CPU6の材料パラメータ決定手段67は、ε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)にプロットされた健全部と局部くびれ発生部との境界と一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値として決定する。導出された材料パラメータKcの値は、必要に応じて出力装置23から出力され、表示装置21に表示される。
【0051】
以上のように、本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出方法によれば、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcを高精度に導出することが可能である。
【0052】
上記の説明では、予め、複数のS−R限界ひずみ曲線のデータをS−R限界記憶部9に記憶しているものと仮定したが、ステップS101〜S104の途中のいずれかの段階で、CPU6のS−R限界算出手段65が、線形比較体構成式を用いて、比例負荷の条件で、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの候補値を、刻み幅ΔKcで、離散的に複数個仮定し、それぞれの候補値に対応して、S−R限界ひずみ曲線をそれぞれ計算し、計算された複数のS−R限界ひずみ曲線のデータをS−R限界記憶部9に記憶するようにしても良い。
【0053】
或いは、ステップS105の段階で、CPU6のS−R限界算出手段65が、線形比較体構成式を用いて、比例負荷の条件で、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの候補値を、刻み幅ΔKcで、離散的に複数個仮定し、それぞれの候補値に対応して、S−R限界ひずみ曲線をそれぞれ計算し、直接、比較判定手段66が、ε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)において、健全部と局部くびれ発生部との境界と計算されたS−R限界ひずみ曲線とを、逐次比較するようにしても良い。この場合は、図1に示したデータ記憶部8が、S−R限界ひずみ曲線の計算の演算途中のデータを記憶するようにすれば良い。
【0054】
(材料パラメータ導出プログラム)
図4のフローチャートに示した一連の材料パラメータ導出操作は、図4と等価なアルゴリズムのプログラムにより、図1に示したCPU6を制御して実行できる。このプログラムは、本発明の材料パラメータ導出装置を構成するコンピュータシステムのプログラム記憶部7に記憶させれば良い。又、このプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に保存し、この記録媒体を材料パラメータ導出装置のプログラム記憶部7に読み込ませることにより、図4のフローチャートに示した一連の材料パラメータ導出操作を実行することができる。ここで、「コンピュータ読取り可能な記録媒体」とは、例えばコンピュータの外部メモリ装置、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープなどのプログラムを記録することができるような媒体などを意味する。具体的には、フレキシブルディスク、CD−ROM,MOディスク、カセットテープ、オープンリールテープなどが「コンピュータ読取り可能な記録媒体」に含まれる。例えば、材料パラメータ導出装置の本体は、フレキシブルディスク装置(フレキシブルディスクドライブ)及び光ディスク装置(光ディスクドライブ)を内蔵若しくは外部接続するように構成できる。フレキシブルディスクドライブに対してはフレキシブルディスクを、又光ディスクドライブに対してはCD−ROMをその挿入口から挿入し、所定の読み出し操作を行うことにより、これらの記録媒体に格納されたプログラムを材料パラメータ導出装置を構成するプログラム記憶部7にインストールすることができる。更に、インターネット等の情報処理ネットワークを介して、このプログラムをプログラム記憶部7に格納することが可能である。
【0055】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0056】
例えば、上記の材料パラメータ導出装置及び導出方法の説明においては、比例負荷の条件で材料パラメータを導出する例を示したが、この例に限定されるものではない。変形履歴が把握できれば、変形途中でひずみ比βが変化する変形の条件でも、SR限界が計算可能であり、ひずみ比βが変化する負荷の条件であっても良い。望ましくは、ひずみ比βがほぼ一定の比例負荷の条件である。
【0057】
又、局部くびれ発生の判定方法として、板厚ひずみの分布から判定する方法を示したが、これに限定されるものではない。局部くびれ発生時には、板厚ひずみが局所的に集中するため、板の表面形状も局所的に凹んだ形状となる。したがって、例えば図11に示すように、レーザ変位計51を試験板11の板面に平行に走査させて、試験板11の表面形状を測定することにより、局部くびれ発生を判定することができる。
【0058】
又、例えば、精度が若干落ちるが、予め表面に、例えば直径6.35mmのスクライブドサークル等の特定のパターンが付与されたブランクを用いて、目視によって局部くびれが発生したと判断されたタイミングで成形を終了させて作製されたサンプルの局部くびれ発生部位の塑性ひずみを、この部位のスクライブドサークルの長径、短径の長さ測定値と元板のスクライブドサークル径とから局部くびれ発生時の塑性ひずみを算出しても良い。但し、このような局部くびれ発生時の塑性ひずみの算出方法によると、局部くびれが発生した後、しばらく経った時点の値を測定、つまり、局部くびれ発生時の塑性ひずみを過大に評価してしまうことが避けられず、又、測定ばらつきも大きくなる恐れがある。したがって、上記の実施の形態で説明したような、予め画像パターンを付与した該変形部の変形履歴画像を、画像解析装置によって解析することにより取得する手法の方が、高精度化のためには好ましい。
【0059】
更に、板厚ひずみ分布は、超音波板厚計やレーザ変位センサを用いた方法等の他の手法によっても取得可能である。
【0060】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出装置の主要部の概略を模式的に説明するブロック図である。
【図2】図2(a)は、本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出装置の試験ユニットに用いるパンチ頂部が平らな円筒状の押圧パンチと試験板の関係をその周辺を含めて説明する断面図で、図2(b)は対応する上面図である。
【図3】図3(a)は、本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出装置の試験ユニットに用いるパンチ頂部が球頭状の押圧パンチと試験板の関係をその周辺を含めて説明する断面図で、図3(b)は対応する上面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出方法の概略を説明するフローチャートである。
【図5】試験板の表面に形成するひずみ測定用のパターンを説明する模式的な平面図である。
【図6】図6(a)は、板厚1.58mmの極低炭270IF鋼の成形深さH=33mmにおける板厚ひずみ分布の例、図6(b)は、その極低炭270IF鋼の成形深さH=35mmにおける板厚ひずみ分布の例、図6(c)は、その極低炭270IF鋼の成形深さH=36mmにおける板厚ひずみ分布の例を示す図である。
【図7】図6(c)の断面B−B’で示された水平方向(最大主ひずみ方向)における板厚ひずみ分布を、それぞれ、成形深さH=33,35,36mmの場合について示した塑性ひずみ発達履歴を示すグラフであり、このグラフから局部くびれの発生が判定される。
【図8】最大・最小主ひずみ平面にプロットされた、板厚1.58mmの極低炭270IF鋼の成形限界線図(FLD)であり、成形試験により得られた健全部、局部くびれ発生部の塑性ひずみ、及び材料パラメータKc=0.097と仮定した場合のS−R限界ひずみ曲線を示す。
【図9】最大・最小主ひずみ平面にプロットされた、板厚1.58mmの440DP鋼の成形限界線図(FLD)であり、成形試験により得られた健全部、局部くびれ発生部の塑性ひずみ、及び材料パラメータKc=0.080と仮定した場合のS−R限界ひずみ曲線を示す。
【図10】塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKc=0.1,0.2,0.3の場合について、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線を示す成形限界線図(FLD)である。
【図11】レーザ変位計で試験板の表面形状を測定することにより、局部くびれ発生を判定する方法を説明する模式図である。
【図12】分岐面が板面に対して垂直な面のみならず、傾きを持った面も想定した3次元局所分岐モデルを説明する模式図である。
【図13】図13(a)は、図12に示した3次元局所分岐モデルにおいて、分岐界面にあり且つ板面に平行なベクトルmSHを有するSHモードを、図13(b)は、分岐界面にあり、ベクトルmSHに垂直なベクトルmSVを有するSVモードを、図13(c)は、分岐界面に垂直なベクトルmNを有するNモードを、それぞれ示す模式図である。
【図14】互いに直交する応力Σ1−Σ2のなす応力平面において、塑性ひずみ速度方向の応力増分依存性の程度を表すパラメータKcの定義に必要な、順方向テンソルnN方向から測った応力増分dσの振れ角αと、α方向の応力増分dσに対して生ずるひずみ増分dεの方向角β(α)とをそれぞれ説明する模式図である。
【符号の説明】
【0062】
1…試験ユニット
2…カメラ
3…力学的駆動部
4…撮像制御回路
5…タイミング制御回路
6…演算・制御部(CPU)
7…プログラム記憶部
8…データ記憶部
9…S−R限界記憶部
11…試験板
12a…押圧パンチ
12b…押圧パンチ
13…支持台(ダイ)
14…ブランクホルダ
15…駆動板
16…穴部
21…表示装置
22…入力装置
23…出力装置
61…変形履歴画像取得手段
62…塑性ひずみ分布発達履歴取得手段
63…板厚ひずみ演算手段
64…局部くびれ発生判定手段
65…S−R限界算出手段
66…比較判定手段
67…材料パラメータ決定手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータを導出する材料パラメータ導出装置及び材料パラメータ導出方法に係り、特に自動車用鋼板のような厚さ5mm以下の薄板等の結晶性材料の塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータを導出するに好適な材料パラメータ導出装置及び材料パラメータ導出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形、曲げ加工、ハイドロフォーミング等の板材や管材の成形において、様々な不良現象が考えられる。不良の中でも、破断と、しわに代表される座屈は代表的な不良現象である。不良率の低い安定した量産の実現のためには、これらの不良現象は、量産開始以前に、未然に防止することが必要となる。そこで、例えば、板材料のプレス成形では、量産開始前にプレス成形金型や成形条件を適正化することにより、プレス成形品の破断や座屈現象を防止することが試みられる。このような対策は、最終的には、例えば、量産設備にプレス成形金型を設置し、量産で使用する材料と同等或いは類似した材料を試験材として用いて、実際にプレス成形の試験を実施し、その試験材の成形品品質を評価しながら、プレス成形金型や成形条件を適正化するということによって施される。
【0003】
しかしながら、試験時点での金型品質、或いは試験を実施する者の技能によっては、試験にかかる時間、労力が多大となってしまい、コストアップ、又は量産開始時期の遅延につながってしまう場合がある。このような事態を改善するため、例えば、有限要素法等の成形の数値シミュレーションを用いて、プレス成形の試験前、更には金型製作前に、破断や座屈等の不良の発生を、コンピュータ上で事前に予測する、更には、それら不良への対策を検討し、金型製作、改良に反映する、或いは成形条件に反映する等の対策がとられるようになってきている。
【0004】
例えば、成形時、成形品の局部くびれや破断の危険性を判定する数値シミュレーションにおいては、一般には、数値シミュレーションの結果として得られる成形品の破断判定対象部位の最大、最小主ひずみと、予め基礎試験、例えば中島法等によって取得しておいた、破断発生限界の塑性ひずみを表す、いわゆる比例負荷でのひずみ限界を表す、成形限界線図(Forming Limit Diagram:FLD)を比較する。又、このような基礎試験により取得されるFLDの替わりに、各種の理論FLDが用いられる場合もある。更に、最大、最小主ひずみの替わりに、予め余裕度を持たせて設定しておいた限界の板厚減少率との比較による場合もある。しかしながら、一般に良く知られたことであるが、破断限界ひずみには、変形経路依存性があるため、比例負荷で求められたFLD、ましてや板厚限界ひずみによる評価が、いかなる場合においても、定量的に精度良く、実際の破断限界を表現するとは言えない。
【0005】
非特許文献1等に示されるように、発明者の一人は、材料パラメータKcを含んだ形をした伊藤・呉屋(ITO-GOYA)モデルの線形比較体構成式を提案し、R.ヒル(Hill)の一般分岐理論を、分岐面が板面に対して垂直な面のみならず、傾きを持った面も想定して展開した。例えば、図12に示すように、局所分岐帯の方向を示すベクトルnは板面から傾くことが可能である。この場合、局所分岐帯のひずみ速度は局所分岐モードベクトルmの分岐界面に対する向きで決定されるので、局所分岐モードベクトルmを図13(a)−(c)に示した3つの互いに直交する基本モードベクトルに分解して考えることができる。図13(a)に示すSHモードでは、分岐界面にあり且つ板面に平行なベクトルmSH=(−sinψ,cosψ,0)を、図13(b)に示すSVモードでは、分岐界面にあり、ベクトルmSHに垂直なベクトルmSV=(cosψsinφ,sinψsinφ,−sinφ)を、図13(c)に示すNモードでは、分岐界面に垂直なベクトルmN=(cosψcosφ,cos sinψcosφ,cosφ)を、それぞれ互いに直交する3つの基本モードベクトルとして考えることができる。但し、塑性変形は体積一定であることから図13(c)に示すNモードは、通常の塑性体では起こり得ないとして省略できる。
【0006】
そこで、任意のスカラーであるモード結合係数ν1,ν2を用いて、局所分岐モードベクトルmは、
m=(ν1mSH+ν2mSV)/(ν12+ν22)1/2 ……(1)
と表すことができる。指定された応力方向テンソルsに対してモード結合係数ν1,ν2及びモードベクトル方位角φ,ψ(図12参照。)について、局所分岐変形の発生限界条件の式から局所分岐発生条件を求めることができる。上の局所分岐基準は3次元局所分岐に対する3D分岐理論である。3次元という意味は応力状態が3次元であるだけでなく、たとえ平面応力であっても分岐モードの幾何学は3次元的であるということである。
【0007】
板材成形では平面応力を対象とした破断限界の評価を行うことが多い。これに対する理論モデルとしてS−Rモデルがある。S−Rモデルは平面応力場を前提とした局所分岐基準であるが、上記の3D分岐理論で平面応力場を仮定し、モードベクトルを板面内に限定すると(SHモードのみを考慮)S−Rモードに帰着する。即ち、3D分岐理論及びS−R理論に、同様に伊藤・呉屋モデルの構成式を適用することにより、σ/h(σ:主応力、h:加工硬化係数)平面で、変形経路依存性がない形として成形限界が定義できる。
【0008】
局所分岐は変形モードの突然の変化であるから、塑性ひずみ速度の瞬間の回転を伴う現象である。J2流れ理論に代表される、滑らかな降伏曲面による関連流れ則では塑性ひずみ速度方向は現在の応力によって一義的に規定されてしまい、塑性ひずみ速度の瞬間の回転は起こり得ない。このためにJ2流れ理論は塑性不安定・分岐問題への適用は不適切な結果を生むことになる。1940年代頃よりJ2流れ理論による塑性座屈荷重値が実験値に比べて異常に高く、物理的に不合理とされたJ2変形論の方がむしろ正しい結果を与えることが塑性座屈のパラドックスとして知られていた。この理由もJ2流れ理論では応力速度方向に応じて塑性ひずみ速度方向が変化しないことにある。J2流れ理論に代表されるいわゆる法線則の物理的根拠は、結晶塑性論で活動すべり系はシュミット則により決定され、塑性ひずみ速度方向は結晶学的に定まるすべり系の方位により一意に定まることにある。しかしこれは単一すべりの場合には厳密に成り立つが、多量すべりにおいて実活動すべり系の決定は後続の応力増分に依存する。その結果として塑性ひずみ速度方向は一般に応力速度方向によって変化し得るのである。発明者の一人はこのことを多結晶モデル解析及び実験により確認をし、この成果を踏まえて、降伏曲面の角点の存在を前提とし、角点半頂角の範囲内の連続分布ポテンシャル面を仮定した構成式を提案し塑性座屈のパラドックスを解消した。
【0009】
互いに直交する応力Σ1−Σ2のなす応力平面を示す図14において、nNは応力増分dσの方向の中でひずみ増分dεと方向が一致する方向を示す単位テンソル(順方向テンソル)である。順方向テンソルnN方向の応力増分dσに対してひずみ増分dεの大きさは最大となる。等方性ではそれは比例負荷である。又、αは順方向テンソルnN方向から測った応力増分dσの振れ角である。図14に示すように、β(α)をα方向の応力増分dσに対して生ずるひずみ増分dεの方向角とすると、塑性ひずみ速度方向の応力増分依存性の程度を表すパラメータKcが以下のように定義される。
【0010】
β=Kcα ……(2)
分岐解析のために、非特許文献1には、式(2)で定義した材料パラメータKcを用いて、伊藤・呉屋モデルから導かれる以下のような線形比較体構成式が開示されている:
hdεP=[Kcdσ′+(1−Kc)(dσ′:nN)] ……(3)
ここで、dεPは塑性ひずみ増分、dσ′は偏差応力増分、hは比例負荷時の加工硬化係数である。
【0011】
0 < Kc < 1 ……(4)
であり、材料パラメータKcが大きいほど、応力増分の方向変化に応じた塑性ひずみ増分の方向変化が大きくなるので、材料パラメータKcは、分岐問題においては分岐しやすい特性を示すパラメータである。
【0012】
変形の局所分岐は破断の前兆にすぎず破断そのものではない。非特許文献2には発明者の一人がしばしば引用してきた拡管過程における局所分岐過程のマルシニアーク(Marciniak)の模式図が示されている。マルシニアークの模式図に示されるように、内圧を負荷して拡管成形をする過程で内圧が比較的小さいときは一様に拡管されるが、やがて中心部付近が周囲より大きく拡管されるようになる。つまり一様変形から中心部付近の変形が卓越したところの変形の分岐である。管や板は面内寸法に比べて板厚が極端に小さいという幾何学的異方性があるが、この局所変形は寸法の大きい面内方向での局所分岐である。この変形は連続変形であり変形の進行とともに周囲の変形も大きくなりやがて一様性を失う。「拡散くびれ」といわれる所以であり、力学的不安定ではあっても最終破断には結びつかない。引き続いて更にサイズの小さい「局部くびれ」と呼ばれる局所分岐が起こる。S−Rモデルはこれを予測しており平面応力下での最小サイズの局所分岐変形である。非特許文献2には、伊藤・呉屋モデルの構成式を用いて、S−R理論及び3D分岐理論により、材料パラメータKcを仮定して計算された成形限界線図が開示されている。非特許文献2に示されているS−R限界曲線及び3D限界曲線は、局部くびれ発生限界及び破断限界として考えることができる。
【0013】
量産プレス成形を想定すると、例えば製品内に相当する部位における局部くびれの発生は避けられるべきであるので、例えば有限要素法による成形シミュレーションの結果として得られる、各部位の応力σと材料の基礎試験である引張試験結果等から取得される加工硬化係数hで計算されるσ/hの値と、σ/h平面でのS−R限界曲線を比較することにより、局部くびれの発生を定量的に判定可能となる。
【0014】
以上のような分岐理論による局部くびれ及び破断判定技術を確立するためには、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータ、例えば伊藤・呉屋モデルの構成式で定義される材料パラメータKcを高精度に定める必要がある。又、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータは、材料の破断特性のみならず、座屈現象にも密接に関係すると考えられ、材料の成形における問題を検討する上で、重要な材料パラメータであるといえる。
【非特許文献1】伊藤耿一、他3名、「塑性変形の3次元局所分岐解析による板材の破断限界ひずみの予測」、塑性と加工、日本塑性加工学会、1998年、第39巻、第445号、p60−64
【非特許文献2】伊藤耿一、「板材の加工限界の予測理論」、塑性と加工、日本塑性加工学会、2002年、第43巻、第495号、p23−27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところが、引張試験のような基礎試験から得られる、YS,TS,EL,n値、r値のような一般的な機械特性値などから、材料パラメータKcを決定することができない。
【0016】
非特許文献1により開示された、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの定義式に相当する構成式より、直接的に材料パラメータKcを定めるのは一般に困難である。例えば、伊藤・呉屋構成式より直接的にKcを定めるためには、偏差応力速度テンソル及び塑性ひずみ速度テンソルの双方を実測することが必要となるが、現状では困難である。したがって、非特許文献1に開示された情報より、材料パラメータKcを定めることはできない。
【0017】
又、非特許文献2には仮定した材料パラメータKcのもとでの成形限界線図が開示されているが、材料パラメータKcの同定方法に関する記述がない。
【0018】
このように、非特許文献1及び2に開示された従来の技術では、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータを定めることが困難であった。
【0019】
上記問題を鑑み、本発明は、一般的な材料の機械特性値や、材料パラメータの定義式に相当する構成式から導出することが困難な、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータを定量的に精度良く導出することが可能な材料パラメータ導出装置及び材料パラメータ導出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、(イ)試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行う試験ユニットと、(ロ)この試験ユニットから局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出する局部くびれ発生判定手段と、(ハ)塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみとを比較する比較判定手段と、(ニ)局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定する材料パラメータ決定手段とを備える材料パラメータ導出装置であることを要旨とする。
【0021】
本発明の第2の態様は、(イ)試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行う試験ユニットと、(ロ)この試験ユニットから局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出する局部くびれ発生判定手段と、(ハ)塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみとを表示する表示装置とを備え、この表示装置を用いて、局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定する材料パラメータ導出装置であることを要旨とする。
【0022】
本発明の第3の態様は、(イ)試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行うステップと、(ロ)この成形試験から局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出するステップと、(ハ)塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、局部くびれ発生時の塑性ひずみとを比較するステップと、(ニ)局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定するステップとを含む材料パラメータ導出方法であることを要旨とする。
【0023】
本発明の第3の態様で述べた材料パラメータ導出方法を実現するためのプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に保存し、この記録媒体を第1の態様で述べた材料パラメータ導出装置がなすコンピュータシステムによって読み込ませることにより、本発明の材料パラメータ導出方法を実行することができる。即ち、本発明の第4の態様は、(イ)試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行うステップと、(ロ)この成形試験から局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出するステップと、(ハ)塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、局部くびれ発生時の塑性ひずみとを比較するステップと、(ニ)局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定するステップとを第1の態様で述べた材料パラメータ導出装置に実行させるための材料パラメータ導出プログラムを記録した記録媒体であることである。ここで、「記録媒体」とは、例えばコンピュータの外部メモリ装置、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープなどのプログラムを記録することができるような媒体などを意味する。具体的には、フレキシブルディスク、CD−ROM,MOディスク、カセットテープ、オープンリールテープなどが「記録媒体」に含まれる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、一般的な材料の機械特性値や、材料パラメータの定義式に相当する構成式から導出することが困難な、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータを定量的に精度良く導出することが可能な材料パラメータ導出装置及び材料パラメータ導出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
はじめに、本発明の基本原理を簡単に説明する。塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータは、構成式に含まれる材料パラメータとして定義されている。例えば、式(2)で定義される材料パラメータKcは、応力増分dσの方向変化に応じた塑性変形の方向変化を表現し、分岐問題においては分岐しやすさを表現する特性値である。しかしながら、応力増分テンソルdσと塑性ひずみ増分テンソルdεを直接測定することは困難であるため、式(3)に示す伊藤・呉屋モデルの線形比較体構成式より直接的に材料パラメータKcを算出することは困難である。
【0026】
そこで、本発明では、実験的に測定可能である塑性ひずみを利用した塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの導出方法に着眼した。具体的には、式(3)の線形比較体構成式を用いて、比例負荷の条件、即ちひずみ比βが一定となる条件で、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの候補値を仮定して算出される塑性ひずみ平面でのS−R限界を予め求めておき、同条件での実験による局部くびれ発生時の塑性ひずみと比較することにより、実験による局部くびれ発生時の塑性ひずみに最も近いS−R限界曲線を与える候補値を、求める材料パラメータKcとして採用すれば良い。
【0027】
材料パラメータ導出のための局部くびれを発生させることができる成形実験は、ひずみ比β=−r/(1+r)である引張試験、ひずみ比β=−r/(1+r)〜1.0である円筒状の金型を用いた試験又は球頭状の金型を用いた試験によれば良い。なお、ひずみ比βは、サンプル元板の板幅を変えることにより、概ね−r/(1+r)〜1.0で調整可能である。ここで、rは塑性変形の異方性を表す材料特性であるr値である。
【0028】
次に、図面を参照して、上記の基本原理を適用した本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出装置及び材料パラメータ導出方法を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。又、以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0029】
(材料パラメータ導出装置)
本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出装置は、図1に示すように、試験板11に対して、比例負荷にて塑性変形を与え、局部くびれを発生させる成形試験を行う試験ユニット1と、試験ユニット1によって得られた局部くびれ発生時の塑性ひずみを用いて、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値を導出する演算・制御部(CPU)6とを備える。このため、演算・制御部(CPU)6は、試験ユニット1を駆動して、予め特定の画像パターンを付与した試験板11の変形部の変形履歴画像を取得する変形履歴画像取得手段61と、変形履歴画像取得手段61が取得した変形履歴画像の画像解析によって塑性ひずみ分布の発達履歴を取得する塑性ひずみ分布発達履歴取得手段62と、体積一定の式を用いて塑性ひずみ分布発達履歴取得手段62が取得した塑性ひずみ分布を板厚ひずみ分布に変換する板厚ひずみ演算手段63と、板厚ひずみ演算手段63が変換した板厚ひずみ分布から局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出する局部くびれ発生判定手段64と、伊藤・呉屋モデルの線形比較体構成式を用いて、比例負荷の条件で、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの候補値を離散的に複数個仮定し、それぞれの候補値に対して、S−R限界ひずみ曲線を計算し、S−R限界ひずみ曲線のデータをS−R限界記憶部9に記憶させるS−R限界算出手段65と、S−R限界記憶部9からS−R限界ひずみ曲線のデータを読み出し、局部くびれ発生判定手段64が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみとS−R限界ひずみ曲線とを比較する比較判定手段66と、局部くびれ発生判定手段64が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値として決定する材料パラメータ決定手段67とを備える。
【0030】
試験板11に対して、比例負荷にて塑性変形を与えるため、試験ユニット1には力学的駆動部3が接続され、力学的駆動部3は一定のステップで逐次負荷を増大させる。試験ユニット1にはCCD等のカメラ2が備えられ、カメラ2は、成形中の変形履歴画像を、逐次連続的に撮影する。成形中の変形履歴画像を、逐次連続的に撮影するために、カメラ2には撮像制御回路4が接続されている。力学的駆動部3及び撮像制御回路4には、タイミング制御回路5が接続され、タイミング制御回路5は、試験ユニット1の比例負荷のステップ状の増大と同期して、撮像制御回路4を駆動し、カメラ2により、成形中の変形履歴画像を、逐次、連続撮影し、一定の時間ステップで区切られた時系列のデータとして複数枚の変形履歴画像を取得する。変形履歴画像取得手段61が設定する変形履歴画像の取得のタイミング間隔は、求める塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値の必要桁数が得られるだけ十分細かく設定すれば良い。
【0031】
更に、図1に示すように、本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出装置は、操作者からのデータや命令などの入力を受け付ける入力装置22と、CPU6の演算した演算結果等を出力する出力装置23及び表示装置21と、CPU6の演算に必要な所定のデータなどを格納したデータ記憶部8と、CPU6の演算に必要なプログラムなどを格納したプログラム記憶部7とを備える。
【0032】
CPU6の変形履歴画像取得手段61は、力学的駆動部3を介して試験ユニット1を駆動して、逐次、比例負荷を増大して塑性変形試験を行う。このとき、変形履歴画像取得手段61は、タイミング制御回路5により、比例負荷のステップ状の増大と同期するように、撮像制御回路4を駆動してカメラ2により、成形中の変形履歴画像を、逐次連続的に撮影する。塑性ひずみ分布発達履歴取得手段62は、カメラ2が時系列に沿って一定の時間毎に撮影した変形履歴画像のそれぞれを、試験板11に対する負荷の増大ステップ毎(成形深さ毎)に画像解析して、塑性ひずみ分布を時系列に沿って逐次算出する。
【0033】
CPU6の板厚ひずみ演算手段63は、体積一定の式:
ε1 +ε2+εt= 0 ……(5)
より、板厚ひずみ分布に変換する。ここで、ε1 は、図12に示した応力σ1 方向に対応する試験板11の面内方向のひずみ、ε2は、ε1 方向に直交する面内方向のひずみ(図12において応力σ1 の方向に直交する応力σ2 方向に対応するひずみ)、εtは、ε1 方向とε2 方向とのなす平面に垂直な板厚ひずみである。板厚ひずみεtの分布は、図6に一例を示すように、試験板11に対する負荷の増大ステップ毎(成形深さ毎)に、逐次変換される。図6は、板厚1.58mmの極低炭IF鋼(JSC270D)の表面に直径0.8mmの円形のドットを点間2mmでマトリクス状に形成し、ひずみ比β≒0.9〜1.0の比例負荷を与えて得た変形履歴画像を3次元画像解析して取得された板厚ひずみεtの分布である(実際には、図6の右側に示す棒グラフのように、板厚ひずみεtがカラー表示される。)。図6(a)は成形深さH=33mmにおける板厚ひずみεtの分布、図6(b)は成形深さH=35mmにおける板厚ひずみεtの分布、図6(c)は成形深さH=36mmにおける板厚ひずみεtの分布である。
【0034】
図6(a)〜(c)に例示したような、試験板11に対する負荷の増大ステップ毎(成形深さ毎)の板厚ひずみεtの分布は、図7に示すような板厚ひずみεtの発達履歴のグラフにまとめられる。図7は、図6(c)の断面B−B’で示された水平方向(最大主ひずみ方向)についての板厚ひずみεtの分布を成形深さ毎に示したものである。即ち、図7は、成形深さの増加に伴う板厚方向の塑性ひずみ分布(板厚ひずみ分布)の変化を示す。図7で、白丸、半黒丸、黒丸は、それぞれ成形深さH=33,35,36mmの場合の水平方向(最大主ひずみ方向)についての板厚ひずみεtの分布をそれぞれ表す。
【0035】
CPU6の局部くびれ発生判定手段64は、最終的に発生する局部くびれ線に垂直な方向の板厚ひずみ分布より、局部くびれ発生の有無を判定する。図7に例示した場合では、成形深さの増加に伴い、局部くびれ線上の塑性ひずみは大きくなり、成形深さH=36mmで局部くびれと考えられる板厚ひずみの局所化が認められたと、局部くびれ発生判定手段64が判定する。局部くびれ発生判定手段64の局所くびれの判定は、例えば、板厚ひずみ−εtの最大値εmax測定区間の平均塑性ひずみεaveに対する比が1.05以上を局部くびれとして判定する。
【0036】
局部くびれ発生判定手段64が判定した局部くびれは、図8及び図9に例示したようなε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)に、成形限界線図(FLD)としてプロットされる。白丸、黒丸は、それぞれ健全部、局部くびれ発生部の最大・最小主ひずみであり、図8は、図7に対応する板厚1.58mmの270MPa級の場合、図9は、図8と比較する他の例として板厚1.58mmの440MPa級の場合の成形限界線図である。図8の破線は、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcを0.097と仮定した場合のS−Rモデルによる限界ひずみ曲線(以下において、「S−R限界ひずみ曲線」と言う。)で、図9の破線は、材料パラメータKcを0.080と仮定した場合のS−R限界ひずみ曲線である。図8及び図9において、破線で示したS−R限界ひずみ曲線は全領域で滑らかであるが、実線で示した3D限界ひずみ曲線はε1 /ε2=−0.5の直線で示される単純引っ張りの付近を堺にして急激に折れ曲がっている。図8及び図9から、健全部のひずみはS−R限界ひずみ曲線の内側(下側)に、局部くびれのひずみはS−R限界ひずみ曲線の外側(上側)に位置することがわかる。又、図8及び図9から、一軸、平面ひずみ変形における健全部の最大ひずみは、S−R限界ひずみ曲線上に位置していることがわかる。
【0037】
CPU6のS−R限界算出手段65は、式(3)に示した伊藤・呉屋モデルの線形比較体構成式を用いて、比例負荷の条件で、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの候補値を離散的に複数個仮定し、図10に示すように、それぞれの候補値に対して、S−R限界ひずみ曲線を計算し、S−R限界ひずみ曲線のデータをS−R限界記憶部9に記憶しておく。図10では、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKc=0.1,0.2,0.3の場合について、3本のS−R限界ひずみ曲線を例示的に示しているが、一例であり、要求される材料パラメータKcの精度に応じて、材料パラメータKcの候補値の刻み幅ΔKcを決めれば良い。刻み幅ΔKcは、求める材料パラメータKcの有効数字の桁数に対応して選ぶことになるが、現実にはΔKc=0.003〜0.0005等の図10の例示に比して遙かに小さな刻み幅の候補値を選ぶことが可能である。又、刻み幅ΔKc=0の極限、即ち、連続的な設定でも構わない。刻み幅ΔKcの選定は、変形履歴画像取得手段61が設定する変形履歴画像の取得のタイミング間隔とも関係するが、いずれにせよ、求める塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値の必要桁数が得られるだけ十分細かく刻み幅ΔKcを設定すれば良い。
【0038】
CPU6の比較判定手段66は、S−R限界記憶部9からS−R限界ひずみ曲線のデータをε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)上に読み出し、ε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)にプロットされた健全部と局部くびれ発生部との境界とを比較する。
【0039】
CPU6の材料パラメータ決定手段67は、ε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)にプロットされた健全部と局部くびれ発生部との境界と一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値として決定する。
【0040】
図1において、出力装置23及び表示装置21は、それぞれプリンタ装置及びディスプレイ装置等により構成されている。表示装置21は入出力データ、画像解析データ、変形履歴画像のデータ、塑性ひずみ分布のデータ、板厚ひずみ分布のデータ、板厚ひずみの発達履歴のデータ、局部くびれ発生時の塑性ひずみのデータやそれらの演算途中のデータや演算結果等や解析パラメータを表示することが可能である。更に、表示装置21に、ε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)を表示し、この画面中に健全部の塑性ひずみのデータ、局部くびれ発生部の塑性ひずみのデータ、S−R限界ひずみ曲線等を示すようにしても良い。又、複数のS−R限界ひずみ曲線を表示し、局部くびれ発生時の塑性ひずみのデータと一致する特定のS−R限界ひずみ曲線を強調表示するようにしても良い。
【0041】
入力装置22はキーボード、マウス、ライトペン又はフレキシブルディスク装置などで構成される。入力装置22を用いて、オペレータ(材料パラメータ導出実行者)は、入出力データを指定したり、試験板11に対する負荷の増大ステップ値、材料パラメータKcの候補値の刻み幅ΔKcや許容誤差の値及び誤差の程度を設定したりできる。又、表示装置21にε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)を表示し、この画面中に表示された健全部と局部くびれ発生部との境界とS−R限界ひずみ曲線とを、オペレータが目視により逐次比較して、一致する特定のS−R限界ひずみ曲線をマウス又はライトペン等で指定するような入力操作を行っても良い。更に、入力装置22より出力データの形態等の解析パラメータを設定することも可能で、又、演算の実行や中止等の指示の入力も可能である。
【0042】
S−R限界記憶部9が、S−R限界ひずみ曲線のデータを記憶するように構成しているので、データ記憶部8は入出力データ、画像解析パラメータ、変形履歴画像のデータ、塑性ひずみ分布のデータ、板厚ひずみ分布のデータ、板厚ひずみの発達履歴のデータ、局部くびれ発生時の塑性ひずみのデータやそれらの演算途中のデータ等を記憶する。但し、S−R限界記憶部9を省略し、データ記憶部8が、S−R限界ひずみ曲線のデータも記憶するような構成にしても良いことは勿論である。
【0043】
(材料パラメータ導出方法)
以下、図4のフローチャートを用いて、図1に示した材料パラメータ導出装置を用いて実施する、本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出方法を説明する。なお、図1に示した材料パラメータ導出装置において、予め、CPU6のS−R限界算出手段65が、式(3)に示した伊藤・呉屋モデルの線形比較体構成式を用いて、比例負荷の条件で、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの候補値を、刻み幅ΔKcで、離散的に複数個仮定し、図10に示すように、それぞれの候補値に対応して、S−R限界ひずみ曲線をそれぞれ計算し、複数のS−R限界ひずみ曲線のデータをS−R限界記憶部9に記憶しているものとする。
【0044】
(イ)先ず、予め、図5に示したように、ひずみ測定用のパターンを試験板11に付与しておく。図5に示したように、ひずみ測定用のパターンは、レーザマーキングと電解腐食を用いて、試験板11の表面に、直径0.7〜0.9mmの円形のドットを点間1.0〜3.0mm程度になるようにマトリクス状に形成する。ドットの形状は、必ずしも図5に示したような円形である必要はなく、6角形や8角形等他の形状でも構わない。
【0045】
(ロ)そして、ステップS101において、図1に示す試験ユニット1を用いて、成形試験を開始する。例えば、図1に示すCPU6の変形履歴画像取得手段61により、図2に示すようなパンチ頂部が平らな円筒状の金型を用いた押圧パンチ12a、又は図3に示すようなパンチ頂部が球頭状の金型を用いた押圧パンチ12bを力学的駆動部3で試験ユニット1を駆動して、成形深さを逐次増加して加圧試験(パンチ張り出し試験)を行う。
【0046】
図2及び図3において、試験板11は支持台(ダイ)13の上に搭載され固定されるが、図2では、押圧パンチ12aと試験板11の間には、板中央に直径36mmの穴部16を設けた穴あき駆動板15を用いている。押圧パンチ12aは、ブランクホルダ14により試験板11が保持され、力学的駆動部3により成形深さを変えるように移動して負荷を増大させる。なお、穴あき駆動板15の板厚は、クリアランスに収まる板厚で、延性が高くなる比較的厚めの板とするのが好ましい。図2に示すような試験ユニット1の構成とすることにより、試験板11の中央は、摩擦がない状態で成形が実現され、又平坦であり、純粋な平面応力状態が実現される。例えば、等2軸変形(β≒0.9〜1.0)、及び平面ひずみ変形(β≒0)下での塑性ひずみ発達挙動を調査するために、ブランクサイズ200×200×1.58mm及び200×130×1.58mmの試験板11に対して、直径100mmの円筒状の金型を用いた押圧パンチ12aにて成形する。図1の試験ユニット1には明示していないが、変形履歴画像取得手段61により、単軸引張試験手段を力学的駆動部3で逐次引張長さを増加して、単軸引張試験を行っても良い。例えば、単軸変形下での塑性ひずみ発達挙動を調査するために、JIS5号引張試験を実施することが可能である。この際、変形履歴画像取得手段61は、図1に示すタイミング制御回路5により、押圧パンチ12a、12bの移動位置(成形深さ)と同期して、撮像制御回路4を駆動してCCD等のカメラ2により、成形中の変形履歴画像を、逐次連続的に撮影する。変形履歴画像の取得のタイミング間隔は、求める塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値の必要桁数が得られるだけ十分細かく設定すれば良い。
【0047】
(ハ)CPU6の塑性ひずみ分布発達履歴取得手段62は、ステップS102において、カメラ2が撮影した変形履歴画像のそれぞれを、押圧パンチ12a、12bの移動位置(成形深さ)毎に画像解析して、塑性ひずみ分布を逐次算出する。更に、CPU6の板厚ひずみ演算手段63は、ステップS103において、式(5)に示した「体積一定の式」より、板厚ひずみ分布に変換する。板厚ひずみεtの分布は、図6に一例を示すように、押圧パンチ12a、12bの移動位置(成形深さ)毎に、逐次変換される。この場合、入力装置22の操作により、板厚ひずみ演算手段63は、図6(a)〜(c)に例示したような、押圧パンチ12a、12bの移動位置(成形深さ)毎の板厚ひずみεtの分布を表示装置21に表示させるようにしても良い。
【0048】
(ニ)図6に例示したような、板厚ひずみεtの分布のデータは、図7に示すような板厚ひずみεtの発達履歴のグラフにまとめられる。ステップS104において、CPU6の局部くびれ発生判定手段64は、最終的に発生する局部くびれ線に垂直な方向の板厚ひずみ分布より、局部くびれ発生の有無を判定する。図7に例示した場合では、成形深さの増加に伴い、サンプル中心(ゼロの位置)の塑性ひずみは大きくなり、成形深さH=36mmで局部くびれと考えられる板厚ひずみの局所化が認められたと、局部くびれ発生判定手段64が判定する。ステップS104において、局部くびれ発生判定手段64が、「NO(くびれなし)」と判定した場合は、ステップS102に戻り、更に成形深さを増加して加圧試験を行い、成形中の変形履歴画像を、逐次連続的に撮影する。その後、ステップS103を経由してステップS104に戻るループを形成する。ステップS104において、局部くびれ発生判定手段64が、「YES(くびれ発生)」と判定した場合は、ステップS105に進む。判定は、局部くびれ発生判定手段64が表示装置21に図7に示すような板厚ひずみεtの発達履歴のグラフを表示し、オペレータの目視により、局部くびれ発生の有無を判定するような人間が一部で関与する手法で行っても良く、CPU6の局部くびれ発生判定手段64におけるディジタルな論理演算として、即ち、コンピュータによる自動的な処理をしても良い。又、ディジタルな論理演算の確認として、表示装置21に図7に示すような板厚ひずみεtの発達履歴のグラフを表示しても良い。
【0049】
(ホ)局部くびれ発生判定手段64が判定した局部くびれは、図8及び図9に例示したようなε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)に、成形限界線図(FLD)としてプロットされる。ステップS105において、CPU6の比較判定手段66は、S−R限界記憶部9から、刻み幅ΔKcで、離散的に選定された複数の材料パラメータKcの候補値に対応してそれぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線のデータをε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)上に読み出す。そして、比較判定手段66は、ε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)にプロットされた健全部と局部くびれ発生部との境界とS−R限界ひずみ曲線とを、逐次比較する。比較は、比較判定手段66が表示装置21にε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)を表示し、この画面中に表示された健全部と局部くびれ発生部との境界とS−R限界ひずみ曲線とを、オペレータの目視により、逐次比較するようにしても良く、比較判定手段66におけるディジタルな論理演算で自動的に処理しても良い。オペレータの目視により比較する場合は、最初は比較判定手段66が刻み幅ΔKcを荒く設定して表示装置21に表示させ、ほぼ一致するS−R限界ひずみ曲線が決まったら、比較判定手段66が刻み幅ΔKcを1桁程度細かく設定して表示装置21にズーム表示させてより詳細な比較をし、ほぼ一致するS−R限界ひずみ曲線が決まったら、比較判定手段66が刻み幅ΔKcを更に1桁程度細かく設定して表示装置21にズーム表示させ、更に詳細な比較をするような段階的な処理をしても良い。又、ディジタルな論理演算の確認として、表示装置21にε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)を表示するような併用も可能である。
【0050】
(ヘ)ステップS106において、CPU6の材料パラメータ決定手段67は、ε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)にプロットされた健全部と局部くびれ発生部との境界と一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの値として決定する。導出された材料パラメータKcの値は、必要に応じて出力装置23から出力され、表示装置21に表示される。
【0051】
以上のように、本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出方法によれば、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcを高精度に導出することが可能である。
【0052】
上記の説明では、予め、複数のS−R限界ひずみ曲線のデータをS−R限界記憶部9に記憶しているものと仮定したが、ステップS101〜S104の途中のいずれかの段階で、CPU6のS−R限界算出手段65が、線形比較体構成式を用いて、比例負荷の条件で、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの候補値を、刻み幅ΔKcで、離散的に複数個仮定し、それぞれの候補値に対応して、S−R限界ひずみ曲線をそれぞれ計算し、計算された複数のS−R限界ひずみ曲線のデータをS−R限界記憶部9に記憶するようにしても良い。
【0053】
或いは、ステップS105の段階で、CPU6のS−R限界算出手段65が、線形比較体構成式を用いて、比例負荷の条件で、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKcの候補値を、刻み幅ΔKcで、離散的に複数個仮定し、それぞれの候補値に対応して、S−R限界ひずみ曲線をそれぞれ計算し、直接、比較判定手段66が、ε1 −ε2塑性ひずみ平面(最大・最小主ひずみ平面)において、健全部と局部くびれ発生部との境界と計算されたS−R限界ひずみ曲線とを、逐次比較するようにしても良い。この場合は、図1に示したデータ記憶部8が、S−R限界ひずみ曲線の計算の演算途中のデータを記憶するようにすれば良い。
【0054】
(材料パラメータ導出プログラム)
図4のフローチャートに示した一連の材料パラメータ導出操作は、図4と等価なアルゴリズムのプログラムにより、図1に示したCPU6を制御して実行できる。このプログラムは、本発明の材料パラメータ導出装置を構成するコンピュータシステムのプログラム記憶部7に記憶させれば良い。又、このプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に保存し、この記録媒体を材料パラメータ導出装置のプログラム記憶部7に読み込ませることにより、図4のフローチャートに示した一連の材料パラメータ導出操作を実行することができる。ここで、「コンピュータ読取り可能な記録媒体」とは、例えばコンピュータの外部メモリ装置、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープなどのプログラムを記録することができるような媒体などを意味する。具体的には、フレキシブルディスク、CD−ROM,MOディスク、カセットテープ、オープンリールテープなどが「コンピュータ読取り可能な記録媒体」に含まれる。例えば、材料パラメータ導出装置の本体は、フレキシブルディスク装置(フレキシブルディスクドライブ)及び光ディスク装置(光ディスクドライブ)を内蔵若しくは外部接続するように構成できる。フレキシブルディスクドライブに対してはフレキシブルディスクを、又光ディスクドライブに対してはCD−ROMをその挿入口から挿入し、所定の読み出し操作を行うことにより、これらの記録媒体に格納されたプログラムを材料パラメータ導出装置を構成するプログラム記憶部7にインストールすることができる。更に、インターネット等の情報処理ネットワークを介して、このプログラムをプログラム記憶部7に格納することが可能である。
【0055】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0056】
例えば、上記の材料パラメータ導出装置及び導出方法の説明においては、比例負荷の条件で材料パラメータを導出する例を示したが、この例に限定されるものではない。変形履歴が把握できれば、変形途中でひずみ比βが変化する変形の条件でも、SR限界が計算可能であり、ひずみ比βが変化する負荷の条件であっても良い。望ましくは、ひずみ比βがほぼ一定の比例負荷の条件である。
【0057】
又、局部くびれ発生の判定方法として、板厚ひずみの分布から判定する方法を示したが、これに限定されるものではない。局部くびれ発生時には、板厚ひずみが局所的に集中するため、板の表面形状も局所的に凹んだ形状となる。したがって、例えば図11に示すように、レーザ変位計51を試験板11の板面に平行に走査させて、試験板11の表面形状を測定することにより、局部くびれ発生を判定することができる。
【0058】
又、例えば、精度が若干落ちるが、予め表面に、例えば直径6.35mmのスクライブドサークル等の特定のパターンが付与されたブランクを用いて、目視によって局部くびれが発生したと判断されたタイミングで成形を終了させて作製されたサンプルの局部くびれ発生部位の塑性ひずみを、この部位のスクライブドサークルの長径、短径の長さ測定値と元板のスクライブドサークル径とから局部くびれ発生時の塑性ひずみを算出しても良い。但し、このような局部くびれ発生時の塑性ひずみの算出方法によると、局部くびれが発生した後、しばらく経った時点の値を測定、つまり、局部くびれ発生時の塑性ひずみを過大に評価してしまうことが避けられず、又、測定ばらつきも大きくなる恐れがある。したがって、上記の実施の形態で説明したような、予め画像パターンを付与した該変形部の変形履歴画像を、画像解析装置によって解析することにより取得する手法の方が、高精度化のためには好ましい。
【0059】
更に、板厚ひずみ分布は、超音波板厚計やレーザ変位センサを用いた方法等の他の手法によっても取得可能である。
【0060】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出装置の主要部の概略を模式的に説明するブロック図である。
【図2】図2(a)は、本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出装置の試験ユニットに用いるパンチ頂部が平らな円筒状の押圧パンチと試験板の関係をその周辺を含めて説明する断面図で、図2(b)は対応する上面図である。
【図3】図3(a)は、本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出装置の試験ユニットに用いるパンチ頂部が球頭状の押圧パンチと試験板の関係をその周辺を含めて説明する断面図で、図3(b)は対応する上面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る材料パラメータ導出方法の概略を説明するフローチャートである。
【図5】試験板の表面に形成するひずみ測定用のパターンを説明する模式的な平面図である。
【図6】図6(a)は、板厚1.58mmの極低炭270IF鋼の成形深さH=33mmにおける板厚ひずみ分布の例、図6(b)は、その極低炭270IF鋼の成形深さH=35mmにおける板厚ひずみ分布の例、図6(c)は、その極低炭270IF鋼の成形深さH=36mmにおける板厚ひずみ分布の例を示す図である。
【図7】図6(c)の断面B−B’で示された水平方向(最大主ひずみ方向)における板厚ひずみ分布を、それぞれ、成形深さH=33,35,36mmの場合について示した塑性ひずみ発達履歴を示すグラフであり、このグラフから局部くびれの発生が判定される。
【図8】最大・最小主ひずみ平面にプロットされた、板厚1.58mmの極低炭270IF鋼の成形限界線図(FLD)であり、成形試験により得られた健全部、局部くびれ発生部の塑性ひずみ、及び材料パラメータKc=0.097と仮定した場合のS−R限界ひずみ曲線を示す。
【図9】最大・最小主ひずみ平面にプロットされた、板厚1.58mmの440DP鋼の成形限界線図(FLD)であり、成形試験により得られた健全部、局部くびれ発生部の塑性ひずみ、及び材料パラメータKc=0.080と仮定した場合のS−R限界ひずみ曲線を示す。
【図10】塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータKc=0.1,0.2,0.3の場合について、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線を示す成形限界線図(FLD)である。
【図11】レーザ変位計で試験板の表面形状を測定することにより、局部くびれ発生を判定する方法を説明する模式図である。
【図12】分岐面が板面に対して垂直な面のみならず、傾きを持った面も想定した3次元局所分岐モデルを説明する模式図である。
【図13】図13(a)は、図12に示した3次元局所分岐モデルにおいて、分岐界面にあり且つ板面に平行なベクトルmSHを有するSHモードを、図13(b)は、分岐界面にあり、ベクトルmSHに垂直なベクトルmSVを有するSVモードを、図13(c)は、分岐界面に垂直なベクトルmNを有するNモードを、それぞれ示す模式図である。
【図14】互いに直交する応力Σ1−Σ2のなす応力平面において、塑性ひずみ速度方向の応力増分依存性の程度を表すパラメータKcの定義に必要な、順方向テンソルnN方向から測った応力増分dσの振れ角αと、α方向の応力増分dσに対して生ずるひずみ増分dεの方向角β(α)とをそれぞれ説明する模式図である。
【符号の説明】
【0062】
1…試験ユニット
2…カメラ
3…力学的駆動部
4…撮像制御回路
5…タイミング制御回路
6…演算・制御部(CPU)
7…プログラム記憶部
8…データ記憶部
9…S−R限界記憶部
11…試験板
12a…押圧パンチ
12b…押圧パンチ
13…支持台(ダイ)
14…ブランクホルダ
15…駆動板
16…穴部
21…表示装置
22…入力装置
23…出力装置
61…変形履歴画像取得手段
62…塑性ひずみ分布発達履歴取得手段
63…板厚ひずみ演算手段
64…局部くびれ発生判定手段
65…S−R限界算出手段
66…比較判定手段
67…材料パラメータ決定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行う試験ユニットと、
該試験ユニットから局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出する局部くびれ発生判定手段と、
塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、前記局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみとを比較する比較判定手段と、
前記局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定する材料パラメータ決定手段
とを備えることを特徴とする材料パラメータ導出装置。
【請求項2】
前記S−R限界ひずみ曲線のデータを記憶するS−R限界記憶部を更に備え、
前記比較判定手段は、前記S−R限界記憶部から前記S−R限界ひずみ曲線のデータを読み出して、局部くびれ発生時の塑性ひずみと比較することを特徴とする請求項1に記載の材料パラメータ導出装置。
【請求項3】
試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行う試験ユニットと、
該試験ユニットから局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出する局部くびれ発生判定手段と、
塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、前記局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみとを表示する表示装置
とを備え、該表示装置を用いて、前記局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定することを特徴とする材料パラメータ導出装置。
【請求項4】
前記S−R限界ひずみ曲線のデータを記憶するS−R限界記憶部と、
前記S−R限界記憶部から前記S−R限界ひずみ曲線のデータを読み出して、前記局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみと共に、前記表示装置に表示させる比較判定手段
とを更に備えることを特徴とする請求項3に記載の材料パラメータ導出装置。
【請求項5】
体積一定の式を用いて、前記試験ユニットから得られた塑性ひずみ分布の発達履歴のデータを、前記板厚ひずみ分布のデータに変換する板厚ひずみ演算手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の材料パラメータ導出装置。
【請求項6】
前記試験ユニットを駆動して、予め特定の画像パターンを表面に付与した前記試験板の変形部の変形履歴画像を時系列で逐次取得する変形履歴画像取得手段と、
該変形履歴画像取得手段が取得した変形履歴画像の画像解析によって塑性ひずみ分布の発達履歴を取得する塑性ひずみ分布発達履歴取得手段
とを更に備え、前記板厚ひずみ演算手段は、前記塑性ひずみ分布発達履歴取得手段が取得した前記塑性ひずみ分布のデータを前記板厚ひずみ分布のデータに変換することを特徴とする請求項5に記載の材料パラメータ導出装置。
【請求項7】
前記局部くびれ発生判定手段は、前記試験ユニットから得られた板厚ひずみ分布のデータから前記局部くびれの発生を判定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の材料パラメータ導出装置。
【請求項8】
試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行うステップと、
該成形試験から局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出するステップと、
塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、前記局部くびれ発生時の塑性ひずみとを比較するステップと、
前記局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定するステップ
とを含むことを特徴とする材料パラメータ導出方法。
【請求項9】
体積一定の式を用いて、前記成形試験から得られた塑性ひずみ分布の発達履歴のデータを、前記板厚ひずみ分布のデータに変換するステップを更に含むことを特徴とする請求項8に記載の材料パラメータ導出方法。
【請求項10】
前記成形試験において、予め特定の画像パターンを表面に付与した前記試験板の変形部の変形履歴画像を時系列で逐次取得し、
該変形履歴画像の画像解析によって塑性ひずみ分布の発達履歴を取得するステップを更に含み、前記塑性ひずみ分布のデータが前記板厚ひずみ分布のデータに変換されることを特徴とする請求項9に記載の材料パラメータ導出方法。
【請求項11】
前記局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出するステップは、前記成形試験から得られた板厚ひずみ分布のデータから前記局部くびれの発生を判定することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の材料パラメータ導出方法。
【請求項1】
試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行う試験ユニットと、
該試験ユニットから局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出する局部くびれ発生判定手段と、
塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、前記局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみとを比較する比較判定手段と、
前記局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定する材料パラメータ決定手段
とを備えることを特徴とする材料パラメータ導出装置。
【請求項2】
前記S−R限界ひずみ曲線のデータを記憶するS−R限界記憶部を更に備え、
前記比較判定手段は、前記S−R限界記憶部から前記S−R限界ひずみ曲線のデータを読み出して、局部くびれ発生時の塑性ひずみと比較することを特徴とする請求項1に記載の材料パラメータ導出装置。
【請求項3】
試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行う試験ユニットと、
該試験ユニットから局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出する局部くびれ発生判定手段と、
塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、前記局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみとを表示する表示装置
とを備え、該表示装置を用いて、前記局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定することを特徴とする材料パラメータ導出装置。
【請求項4】
前記S−R限界ひずみ曲線のデータを記憶するS−R限界記憶部と、
前記S−R限界記憶部から前記S−R限界ひずみ曲線のデータを読み出して、前記局部くびれ発生判定手段が検出した局部くびれ発生時の塑性ひずみと共に、前記表示装置に表示させる比較判定手段
とを更に備えることを特徴とする請求項3に記載の材料パラメータ導出装置。
【請求項5】
体積一定の式を用いて、前記試験ユニットから得られた塑性ひずみ分布の発達履歴のデータを、前記板厚ひずみ分布のデータに変換する板厚ひずみ演算手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の材料パラメータ導出装置。
【請求項6】
前記試験ユニットを駆動して、予め特定の画像パターンを表面に付与した前記試験板の変形部の変形履歴画像を時系列で逐次取得する変形履歴画像取得手段と、
該変形履歴画像取得手段が取得した変形履歴画像の画像解析によって塑性ひずみ分布の発達履歴を取得する塑性ひずみ分布発達履歴取得手段
とを更に備え、前記板厚ひずみ演算手段は、前記塑性ひずみ分布発達履歴取得手段が取得した前記塑性ひずみ分布のデータを前記板厚ひずみ分布のデータに変換することを特徴とする請求項5に記載の材料パラメータ導出装置。
【請求項7】
前記局部くびれ発生判定手段は、前記試験ユニットから得られた板厚ひずみ分布のデータから前記局部くびれの発生を判定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の材料パラメータ導出装置。
【請求項8】
試験板に対し、塑性変形を与え、成形試験を行うステップと、
該成形試験から局部くびれの発生を判定し、局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出するステップと、
塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの候補値を複数個仮定し、複数個の候補値に対して、それぞれ計算されたS−R限界ひずみ曲線と、前記局部くびれ発生時の塑性ひずみとを比較するステップと、
前記局部くびれ発生時の塑性ひずみに一致するS−R限界ひずみ曲線を与える候補値を、塑性変形の応力増分依存性の程度を表す材料パラメータの値として決定するステップ
とを含むことを特徴とする材料パラメータ導出方法。
【請求項9】
体積一定の式を用いて、前記成形試験から得られた塑性ひずみ分布の発達履歴のデータを、前記板厚ひずみ分布のデータに変換するステップを更に含むことを特徴とする請求項8に記載の材料パラメータ導出方法。
【請求項10】
前記成形試験において、予め特定の画像パターンを表面に付与した前記試験板の変形部の変形履歴画像を時系列で逐次取得し、
該変形履歴画像の画像解析によって塑性ひずみ分布の発達履歴を取得するステップを更に含み、前記塑性ひずみ分布のデータが前記板厚ひずみ分布のデータに変換されることを特徴とする請求項9に記載の材料パラメータ導出方法。
【請求項11】
前記局部くびれ発生時の塑性ひずみを検出するステップは、前記成形試験から得られた板厚ひずみ分布のデータから前記局部くびれの発生を判定することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の材料パラメータ導出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−68919(P2009−68919A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235896(P2007−235896)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年6月17日米国物理学協会発行の「米国物理学協会(AIP)国際会議 議事録(Conference Proceedings)第908巻」に発表
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年6月17日米国物理学協会発行の「米国物理学協会(AIP)国際会議 議事録(Conference Proceedings)第908巻」に発表
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
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