説明

杭および柱の接合構造

【課題】 施工手間や施工コストを削減でき、かつ杭の施工誤差に柔軟に対応することができる杭および柱の接合構造を提供すること。
【解決手段】鋼管杭1に固定された杭頭プレート10と鋼製の柱2に固定された柱脚プレート20とを、ボルト30およびナット31で接合するので、鉄筋コンクリート製のフーチングを構築するための施工手間やコストを低減することができる。そして、杭頭プレート10および柱脚プレート20のボルト挿通孔12,22がそれぞれルーズホールとされ、鋼管杭1の水平方向の施工誤差を杭頭および柱脚の両方のボルト挿通孔12,22で吸収することができるため、柱脚プレート20のみにルーズホールを形成する場合と比較して、柱脚プレート20自体や座金21を必要以上に大きくしたり厚くしたりする必要がなく、経済的に杭の施工誤差に対応することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭および柱の接合構造に関し、詳しくは、鋼製の杭と鋼製の柱とを接合する杭および柱の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼製の杭と鋼製の柱との接合構造として、杭頭に一体に形成される鉄筋コンクリート(RC)造のフーチングを介した構造が一般的であり、フーチングの上面から突設したアンカーボルトに柱脚のベースプレートを固定することで、杭と柱とが接合されるようになっている。
しかし、RC造のフーチングを介した構造では、フーチング中に杭頭を所定長さだけ埋め込んで杭とフーチングとを一体化させるとともに、アンカーボルトの定着長を確保する必要から、フーチングの高さ寸法が大きくなってしまう。このため、フーチングを構築するための掘削深さが深くなって施工手間が掛かるとともに、掘削した土を残土として処分しなければならず多額の運搬費や処理費が必要となる。
また、フーチングがRC造であるために、型枠工事、鉄筋工事、コンクリート工事および養生期間が必要となり、工期が長期化するとともにコストが増大してしまう。さらに、解体する場合には、RC造のフーチングを破砕し、ガラを運搬、処分するための費用および手間が多大になってしまう。
【0003】
このようなフーチングを介した杭および柱の接合構造が有する問題を解消するために、フーチングを介さずに鋼製の杭と鋼製の柱とを直接接合する構造が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載された杭および柱の接合構造では、杭頭および柱脚のそれぞれに固定したベースプレート同士をボルトで緊結することで、杭および柱が接合されるようになっており、前述したようなRC造のフーチングが不要にでき、施工手間や施工コストが削減できるようになっている。
【0004】
【特許文献1】特許第3095376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の杭および柱の接合構造では、杭を地盤に貫入した後に杭の施工誤差を測定し、柱の位置決めを行ってから柱側ベースプレートのボルト孔を穿設するため、ボルト孔を建設現場で加工する場合には十分な加工精度が確保できず、また加工工場でボルト孔を加工する場合には柱の設置までに所定の期間が必要になり、いずれの場合でも問題である。また、杭の水平方向の施工誤差を柱側ベースプレートに穿設するボルト孔の位置で調節することから、柱側ベースプレートを予め大きく形成しておく必要があるとともに、柱芯からボルト孔までの距離が大きくなれば、柱側ベースプレートの厚さ寸法も大きくしなければならず、鋼材量が増大して不経済になってしまうという問題もある。
【0006】
本発明の目的は、施工手間や施工コストを削減でき、かつ杭の施工誤差に柔軟に対応することができる杭および柱の接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載の杭および柱の接合構造は、鋼製の杭と鋼製の柱とを接合する杭および柱の接合構造であって、前記杭の頭部に固定された杭頭プレートと、前記柱の脚部に固定された柱脚プレートと、これらの杭頭プレートおよび柱脚プレートを互いに接合するボルトおよびナットと、を備え、前記杭頭プレートおよび柱脚プレートには、それぞれ前記ボルトが挿通されるボルト挿通孔が設けられ、これらの杭頭プレートおよび柱脚プレートのボルト挿通孔は、それぞれ前記杭の施工において予測される水平方向の施工誤差を調整可能なルーズホールとされていることを特徴とする。
【0008】
ここで、鋼製の杭としては、鋼管(円形鋼管、角形鋼管)や形鋼(H形鋼等)などを杭体に用いたものが挙げられ、鋼製の柱としては、鋼管(円形鋼管、角形鋼管)や形鋼(H形鋼等)、組み立て鋼材などを柱体に用いたものが挙げられる。
【0009】
以上の建物の杭および柱の接合構造によれば、鋼製の杭に固定された杭頭プレートと鋼製の柱に固定された柱脚プレートとを、ボルトおよびナットで接合するので、鉄筋コンクリート製のフーチングを用いる必要がなく、フーチングを構築するための施工手間やコストを低減することができる。
また、杭頭プレートおよび柱脚プレートのボルト挿通孔がそれぞれルーズホールとされ、杭の水平方向の施工誤差を杭頭および柱脚の両方のボルト挿通孔で吸収することができるため、柱脚プレート(あるいは杭頭プレート)のみにルーズホールを形成する場合と比較して、ルーズホールの内径を小さくすることができる。従って、柱脚プレート(あるいは杭頭プレート)自体や座金を必要以上に大きくしたり厚くしたりする必要がなく、経済的に杭の施工誤差に対応することができる。
さらに、杭頭プレートおよび柱脚プレートのボルト挿通孔は、杭の施工前に予測される施工誤差に基づいて設定された大きさのルーズホールとされているので、杭を施工した後にボルト挿通孔を設ける必要がなく、事前に加工工場等でボルト挿通孔を加工しておけばよいため、加工精度が確保できるとともに、杭施工から柱設置までに余分な期間が不要になって施工期間を短縮化することができる。
【0010】
この際、本発明の請求項2に記載の杭および柱の接合構造は、請求項1に記載の杭および柱の接合構造において、前記杭頭プレートおよび柱脚プレートのボルト挿通孔は、それぞれ略同一の内径を有して形成され、これらの内径は、前記ボルトが挿通可能な必要最小径に前記杭の施工誤差の予測最大値を加えた寸法に設定されていることを特徴とする。
ここで、ボルトが挿通可能な必要最小径としては、ボルト径に2mm以下の寸法を加えた一般的なボルト孔の内径であり、また杭の施工誤差の予測最大値としては、杭の長さや施工方法、地盤の状況に応じて適宜設定される寸法であって、例えば5cm〜10cm程度の寸法に設定できる。
このような構成によれば、杭頭プレートおよび柱脚プレートのボルト挿通孔が略同一の内径に形成されるので、双方のボルト挿通孔を異なる内径に形成した場合と比較して、鋼材量を最小化することができ、より経済的な杭および柱の接合構造とすることができる。そして、ボルト挿通孔の内径が必要最小径に杭の施工誤差の予測最大値を加えたルーズホールとされていることで、必要以上に内径を大きくしなくても杭の施工誤差に柔軟に対応することができる。
【0011】
さらに、本発明の請求項3に記載の杭および柱の接合構造は、請求項1または請求項2に記載の杭および柱の接合構造において、前記杭頭プレートおよび柱脚プレートのボルト挿通孔には、それぞれ当該杭頭プレートまたは柱脚プレートと略同厚かつ当該ボルト挿通孔の内周に沿って回転自在な補助座金が挿入され、この補助座金には、任意の径方向位置において前記ボルトが挿通可能なボルト挿通部が形成されていることを特徴とする。
このような構成によれば、杭頭プレートおよび柱脚プレートのボルト挿通孔に補助座金が挿入されていることで、ボルトおよびナットを締めた際の締め付け力によって座金が撓むことが防止でき、締め付け力を杭頭および柱脚のプレートに適切に伝達させることができる。そして、補助座金には任意の径方向位置においてボルトが挿通可能なボルト挿通部が形成され、この補助座金をボルト挿通孔内で回転させることで、杭の水平方向の施工誤差がいずれの方向に生じたとしても容易に対応することができる。
【0012】
そして、本発明の請求項4に記載の杭および柱の接合構造は、請求項3に記載の杭および柱の接合構造において、前記補助座金のボルト挿通部は、当該補助座金の周縁部から中心部まで直線的に切り欠かれて形成されていることを特徴とする。
このような構成によれば、周縁部から中心部まで直線的に切り欠かいてボルト挿通部を形成する、つまり略C字形に補助座金を形成することで、加工が簡単にできるとともに、切り欠き量を最小にしつつ任意方向の杭の施工誤差に対応可能な補助座金を形成することができる。
【0013】
また、本発明の請求項5に記載の杭および柱の接合構造は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の杭および柱の接合構造において、前記杭頭プレートと前記柱脚プレートとの間には、前記柱の設置高さ調整用の補助プレートが介装されており、この補助プレートには、前記ボルトの直径よりも大きい内径を有したボルト挿通孔が設けられていることを特徴とする。
このような構成によれば、杭頭プレートと柱脚プレートとの間に補助プレート(フィラープレート)を介装することで、鉛直方向に杭の施工誤差が生じた場合でも柱を所定の高さ位置に設置することができる。
【0014】
また、本発明の請求項6に記載の杭および柱の接合構造は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の杭および柱の接合構造において、前記杭頭プレートと前記ボルトまたはナットとの間、および前記柱脚プレートと前記ナットまたはボルトとの間に介装される座金は、前記杭頭プレートおよび柱脚プレートのボルト挿通孔よりも径大に形成され、かつ中心から所定距離だけ偏心した位置にボルト挿通孔を有していることを特徴とする。
このような構成によれば、座金に設けたボルト挿通孔が偏心していることで、杭頭および柱脚のプレートのボルト挿通孔に対して必要以上に座金を径大に形成しなくても、この座金を回転させるだけで任意方向の杭の施工誤差に容易に対応することができる。
【0015】
また、本発明の請求項7に記載の杭および柱の接合構造は、請求項1から請求項6のいずれかに記載の杭および柱の接合構造において、前記杭頭プレートと前記ボルトまたはナットとの間、および柱脚プレートと前記ナットまたはボルトとの間のうち、少なくとも一方には、皿ばねが介装されていることを特徴とする。
このような構成によれば、杭頭および柱脚のプレートとボルトおよびナットとの間に皿ばねを介装することで、設計上の必要に応じて柱脚の固定度を調整することができ、柱(建物)や杭における設計の自由度を高めることができる。
【0016】
さらに、本発明の請求項8に記載の杭および柱の接合構造は、請求項1から請求項7のいずれかに記載の杭および柱の接合構造において、前記杭は、先端側杭体と、この先端側杭体を地盤に貫入した後に当該先端側杭体の上端に溶接固定される杭頭側杭体とを有して形成され、前記杭頭プレートは、前記杭頭側杭体に固定されていることを特徴とする
このような構成によれば、杭を先端側杭体と杭頭側杭体とで構成し、杭頭プレートが固定されていない先端側杭体を地盤に貫入した後に、先端側杭体の上端に杭頭側杭体を溶接固定することで、杭頭プレートが邪魔になることなく先端側杭体の施工を行うことができる。また、場合によっては、先端側杭体の貫入後に鉛直方向の施工誤差を測定し、この測定結果に応じて杭頭側杭体の長さ寸法を調節することもでき、杭の位置精度を向上させることもできる。
【発明の効果】
【0017】
以上のような本発明の杭および柱の接合構造によれば、施工手間や施工コストを削減でき、かつ杭の施工誤差に柔軟に対応することができる。そして、従来の建築における基礎では鉄筋コンクリートを必ず使用しなければならなかったが、本発明によれば、鉄筋コンクリートを一切使用しなくても杭と柱とを接合することができるので、工期の大幅な短縮化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る杭および柱の接合構造の一例を示す分解斜視図である。図2は、杭および柱の接合構造を示す断面図である。図3は、杭および柱の接合構造を示す平面図である。図4は、杭および柱の接合構造におけるボルト挿通孔および座金の寸法および位置を示す平面図である。図5〜図7は、それぞれ杭および柱の接合構造を適用した建物の例を示す断面図である。図8は、図7の建物における杭および柱の接合部を示す分解斜視図である。
【0019】
図1〜図4において、杭および柱の接合構造は、鋼管杭1と角形鋼管製の柱2とを接合するものであって、鋼管杭1の頭部に固定された鋼板製の杭頭プレート10と、柱2の脚部に固定された鋼板製の柱脚プレート20と、これらの杭頭プレート10および柱脚プレート20を座金11,21を介して互いに接合するボルト30およびナット(ダブルナット)31と、を備えて構成されている。
鋼管杭1は、地盤に貫入される先端側杭体1Aと、この先端側杭体1Aの上端に溶接固定される杭頭側杭体1Bとを有して形成され、杭頭プレート10は、杭頭側杭体1Bの上端に溶接固定されている。柱脚プレート20は、柱2の断面寸法よりも大きな平面寸法で杭頭プレート10と略同一寸法を有して平面矩形状に形成され、柱2の下端に溶接固定されている。
【0020】
杭頭プレート10および柱脚プレート20には、それぞれボルト30が挿通されるボルト挿通孔12,22が設けられ、これらのボルト挿通孔12,22は、それぞれ杭1の施工において予測される水平方向の施工誤差eを吸収可能なルーズホールとされている。すなわち、図4(A)に示すように、ボルト挿通孔12,22は、それぞれ略同一の内径dを有して形成され、これらの内径dは、ボルト30が挿通可能な必要最小径dmin(例えば、25mm)に杭の施工誤差の予測最大値emax(例えば、50mm)を加えた寸法(75mm)に設定されている。従って、鋼管杭1の地盤への貫入施工時に、水平方向に施工誤差e(<emax)が生じたとしても、杭頭プレート10のボルト挿通孔12と、柱脚プレート20のボルト挿通孔22との両方にボルト30が挿通できるようになっている。
そして、杭頭プレート10および柱脚プレート20のボルト挿通孔12,22には、それぞれ補助座金(フィラー座金)13,23が挿入されている。
【0021】
補助座金13,23は、それぞれ杭頭プレート10または柱脚プレート20と略同厚かつボルト挿通孔12,22の内周に沿って回転自在に、ボルト挿通孔12,22の内径dよりも若干小さな直径を有した略円盤状に形成されている。そして、補助座金13,23には、周縁部から中心部まで直線的に切り欠かれたボルト挿通部13A,23Aが形成されており、このボルト挿通部13A,23Aの幅寸法は、ボルト30が挿通可能な必要最小径dminと略同一とされている。このような補助座金13,23をボルト挿通孔12,22内で回転させることで、ボルト挿通部13A,23Aを任意の周方向位置に移動させることができ、ボルト挿通孔12,22内の任意の径方向位置においてボルト30が挿通できるようになっている。
【0022】
また、杭頭プレート10とボルト30の頭部との間、および柱脚プレート20とナット31との間に介装された座金11,21には、ボルト30が挿通可能な必要最小径dminと略同一の内径を有したボルト挿通孔11A,21Aが形成されている。座金11,21は、杭頭プレート10および柱脚プレート20のボルト挿通孔12,22よりも径大に形成され、ボルト挿通孔11A,21Aは、座金11,21の中心から所定距離だけ偏心した位置に設けられている。すなわち、図4(B)に示すように、座金11,21の直径φは、ボルト挿通孔12,22の内径dに杭の施工誤差の予測最大値emaxの1/2を加えた寸法となっている。また、ボルト挿通孔11A,21Aの中心は、座金11,21の周縁からの最小距離が(emax+dmin)/2となり、かつ周縁からの最大距離がemax+dmin/2となる位置に設けられている。従って、杭の水平方向の施工誤差e(<emax)が生じたとしても、座金11,21を回転させることで、ボルト挿通孔12,22を完全に覆うことができるとともに、座金11,21が杭頭プレート10や柱脚プレート20の端縁から外側にはみ出さないようになっている。
【0023】
以上のような杭および柱の接合構造は、図5〜図8に示す各種形式の建物100に適用可能である。
図5に示す建物100は、平屋建てであって、地盤面GLよりも下方で鋼管杭1と柱2とが接合され、柱2の上端に屋根を支持する桁梁3が架設されている。
図6に示す建物100は、二階建てであって、二層分の柱2の途中位置に2階の床梁4が架設され、柱2の上端に屋上階の床梁5が架設されている。
図7に示す建物100は、二階建てであって、鋼管杭1が地盤面GLよりも上方に突出して一階部分を形成し、この突出した鋼管杭1の頭部に2階の柱2が接合されている。この柱2の柱脚に2階の床梁6が架設され、柱2の上端に屋上階の床梁7が架設されている。そして、図8に示すように、2階の床梁6は、H形鋼からなり、上フランジ6Aおよびウェブ6Bが柱2に溶接固定され、下フランジ6Cが柱脚プレート20に溶接固定されている。なお、柱脚に架設される床梁6は、2階の床梁に限らず、1階の床梁や基礎梁として設けられていてもよく、その際、鋼管杭1と柱2とが地盤面GLよりも下方で接合されていてもよい。
【0024】
次に、建物100の構築方法について、説明する。
先ず、工場において、所定の内径のボルト挿通孔12,22を形成した杭頭プレート10および柱脚プレート20を、それぞれ杭頭側杭体1Bの上端および柱2の下端に溶接固定して一体化した部材を製造するとともに、ボルト挿通孔12,22に応じた座金11,21および補助座金13,23を加工しておく。また、必要に応じて柱脚に架設される床梁6の端部部材を柱2および柱脚プレート20に溶接固定しておく。
建設現場において、地盤に所定深さまで先端側杭体1Aを貫入した後、先端側杭体1Aの上端を露出させ、所定の高さ位置で切断して開先加工を施した後に、加工した先端側杭体1Aの上端に杭頭側杭体1Bを溶接固定する。そして、杭頭プレート10上面において、建物100の柱芯位置から杭の水平方向の施工誤差eを測定し、施工誤差が予測最大値emax以下であることを確認する。
【0025】
次に、柱芯位置に合わせて柱2の柱脚プレート20を杭頭プレート10上面に設置する。そして、杭頭プレート10および柱脚プレート20のボルト挿通孔12,22に補助座金13,23を挿入するとともに、座金11,21を設置してボルト30を下方から上方に向かって挿通する。この際、ボルト30がボルト挿通部13A,23Aに挿通されるように補助座金13,23を回転させながら作業を行うとともに、ボルト挿通孔12,22全体を覆うように座金11,21を回転させる。このようにして柱脚プレート20上の座金21から突出させたボルト30先端にナット31を螺合させ、これらのボルト30およびナット31を締め付けて鋼管杭1および柱2の接合作業が完了する。
その後、柱2の上端や途中位置に桁梁3や床梁4,5,7を架設し、柱脚に架設される床梁6の中央部材を端部部材間に架設して建物100の骨組みの構築が完了する。
【0026】
このような本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)すなわち、鋼管杭1に固定された杭頭プレート10と鋼製の柱2に固定された柱脚プレート20とを、ボルト30およびナット31で接合するので、鉄筋コンクリート製のフーチングを用いる必要がなく、フーチングを構築するための施工手間やコストを低減することができる。
【0027】
(2)また、杭頭プレート10および柱脚プレート20のボルト挿通孔12,22がそれぞれルーズホールとされ、鋼管杭1の水平方向の施工誤差eを杭頭および柱脚の両方のボルト挿通孔12,22で吸収することができるため、柱脚プレート20のみにルーズホールを形成する場合と比較して、ルーズホールの内径を小さくすることができる。従って、柱脚プレート20自体や座金21を必要以上に大きくしたり厚くしたりする必要がなく、経済的に杭の施工誤差に対応することができる。
【0028】
(3)さらに、杭頭プレート10および柱脚プレート20のボルト挿通孔12,22は、杭の施工誤差の予測最大値emaxに基づいて設定された内径dとされているので、杭を施工した後にボルト挿通孔12,22を設ける必要がなく、事前に加工工場等でボルト挿通孔12,22を加工しておけばよいため、加工精度が確保できるとともに、杭施工から柱設置までに余分な期間が不要になって施工期間を短縮化することができる。
【0029】
(4)そして、杭頭プレート10および柱脚プレート20のボルト挿通孔12,22が略同一の内径dに形成されるので、双方のボルト挿通孔12,22を異なる内径に形成した場合と比較して、鋼材量を最小化することができ、より経済的にできるとともに、ボルト挿通孔12,22の内径dが必要最小径dminに杭の施工誤差の予測最大値emaxを加えたルーズホールとされていることで、必要以上に内径を大きくしなくても杭の施工誤差eに柔軟に対応することができる。
【0030】
(5)また、杭頭プレート10および柱脚プレート20のボルト挿通孔12,22に補助座金13,23が挿入されていることで、ボルト30およびナット31を締めた際の締め付け力によって座金11,21が撓むことが防止でき、締め付け力を杭頭および柱脚のプレート10,20に適切に伝達させることができる。
【0031】
(6)そして、補助座金13,23には任意の径方向位置においてボルト30が挿通可能なボルト挿通部13A,23Aが形成され、この補助座金13,23をボルト挿通孔12,22内で回転させることで、杭の水平方向の施工誤差eがいずれの方向に生じたとしても容易に対応することができる。
【0032】
(7)さらに、補助座金13,23の周縁部から中心部まで直線的に切り欠かいてボルト挿通部13A,23Aが形成されていることで、加工が簡単にできるとともに、切り欠き量を最小にしつつ任意方向の杭の施工誤差eに対応可能にすることができる。
【0033】
(8)また、座金11,21に設けたボルト挿通孔11A,21Aが偏心していることで、杭頭および柱脚のプレート10,20のボルト挿通孔12,22に対して必要以上に座金11,21を径大に形成しなくても、この座金11,21を回転させるだけで任意方向の杭の施工誤差に容易に対応することができる。
【0034】
(9)鋼管杭1を先端側杭体1Aと杭頭側杭体1Bとで構成し、杭頭プレート10が固定されていない先端側杭体1Aを地盤に貫入した後に、先端側杭体1Aの上端に杭頭側杭体1Bを溶接固定することで、杭頭プレート10が邪魔になることなく先端側杭体1Aの施工を行うことができる。
【0035】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、前記各実施形態においては、杭体として円形の鋼管を用いた鋼管杭1としたが、これに限らず、角形鋼管やH形鋼等の形鋼を用いて杭を構成してもよい。また柱2に角形鋼管を用いたが、円形鋼管やH形鋼等の形鋼、複数の形鋼を組み合わせた組み立て材等を用いて柱を構成してもよい。
また、杭頭プレート10および柱脚プレート20を接合するボルト30およびナット31の数は、前記実施形態に限定されるものではなく、任意の数(例えば、6箇所や8箇所、12箇所)とすることができる。
【0036】
また、前記実施形態では、杭頭プレート10の上面に柱脚プレート20を直接設置する構成であったが、これに限らず、図9に示すように、補助プレート(フィラープレート)40が杭頭プレート10と柱脚プレート20との間に介装されていてもよい。
この補助プレート40は、柱2の設置高さ調整用部材であって、鋼管杭1の鉛直方向の施工誤差を調整するために用いられる、つまり先端側杭体1Aの地盤への貫入深さが深くなった場合や、先端側杭体1A上端の切断位置が低くなった場合に用いられるものである。そして、補助プレート40には、ボルト30が挿通可能な必要最小径dminと略同一の内径dを有したボルト挿通孔42が形成されている。
なお、補助プレート40のボルト挿通孔42の内径を、前記杭頭プレート10および柱脚プレート20のボルト挿通孔12,22と略同一の内径dを有したルーズホールとしてもよく、このボルト挿通孔42に前記補助座金13,23と略同一形状に形成された、つまり周縁部から中心部まで直線的に切り欠かれたボルト挿通部43Aを有した補助座金が挿入されていてもよい。このようにすれば、補助座金を回転させることでボルトの挿通作業を容易にすることができる。
【0037】
また、前記実施形態では、杭頭プレート10とボルト30の頭部との間、および柱脚プレート20とナット31との間に座金11,21を介装する構成であったが、これに限らず、図10に示すように、杭頭プレート10とボルト30の頭部との間、および柱脚プレート20とナット31との間に皿ばね14,24を介装してもよい。
この皿ばね14,24は、杭頭プレート10と柱脚プレート20ととを弾性接合(ばね接合)するもので、鋼管杭1に対する柱2の柱脚の回転固定度を半剛あるいはピンの条件とするためのものである。これらの皿ばね14,24は、杭頭プレート10とボルト30の頭部との間および柱脚プレート20とナット31との間の両方に、1つずつあるいは複数介装してもよく、このように複数の皿ばね14,24を設ければ、柱脚の回転固定度を小さく設定することができる。また、皿ばね14,24を、杭頭プレート10とボルト30の頭部との間および柱脚プレート20とナット31との間の片方のみに介装してもよく、このように皿ばね14,24の数を少なくすれば、柱脚の回転固定度を大きく設定することができる。以上のように皿ばね14,24を設けることで、設計上の必要に応じて柱脚の回転固定度を調整することができ、柱2や鋼管杭1における設計の自由度を高めることができる。
【0038】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態に係る杭および柱の接合構造を示す分解斜視図である。
【図2】前記杭および柱の接合構造を示す断面図である。
【図3】前記杭および柱の接合構造を示す平面図である。
【図4】前記杭および柱の接合構造におけるボルト挿通孔および座金を示す平面図である。
【図5】前記杭および柱の接合構造を適用した建物を示す断面図である。
【図6】前記杭および柱の接合構造を適用した建物を示す断面図である。
【図7】前記杭および柱の接合構造を適用した建物を示す断面図である。
【図8】図7の建物における杭および柱の接合部を示す分解斜視図である。
【図9】(A),(B)は、本発明の変形例に係る杭および柱の接合構造を示す断面図および平面図である。
【図10】本発明の他の変形例に係る杭および柱の接合構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1…杭である鋼管杭、1A…先端側杭体、1B…杭頭側杭体、2…柱、10…杭頭プレート、11,21…座金、11A,21A…ボルト挿通孔、12,22…ボルト挿通孔、13,23…補助座金、13A,23A…ボルト挿通部、14,24…皿ばね、20…柱脚プレート、30…ボルト、31…ナット、40…補助プレート、42…ボルト挿通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の杭と鋼製の柱とを接合する杭および柱の接合構造であって、
前記杭の頭部に固定された杭頭プレートと、前記柱の脚部に固定された柱脚プレートと、これらの杭頭プレートおよび柱脚プレートを座金を介して互いに接合するボルトおよびナットと、を備え、
前記杭頭プレートおよび柱脚プレートには、それぞれ前記ボルトが挿通されるボルト挿通孔が設けられ、これらの杭頭プレートおよび柱脚プレートのボルト挿通孔は、それぞれ前記杭の施工において予測される水平方向の施工誤差を調整可能なルーズホールとされていることを特徴とする杭および柱の接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の杭および柱の接合構造において、
前記杭頭プレートおよび柱脚プレートのボルト挿通孔は、それぞれ略同一の内径を有して形成され、これらの内径は、前記ボルトが挿通可能な必要最小径に前記杭の施工誤差の予測最大値を加えた寸法に設定されていることを特徴とする杭および柱の接合構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の杭および柱の接合構造において、
前記杭頭プレートおよび柱脚プレートのボルト挿通孔には、それぞれ当該杭頭プレートまたは柱脚プレートと略同厚かつ当該ボルト挿通孔の内周に沿って回転自在な補助座金が挿入され、この補助座金には、任意の径方向位置において前記ボルトが挿通可能なボルト挿通部が形成されていることを特徴とする杭および柱の接合構造。
【請求項4】
請求項3に記載の杭および柱の接合構造において、
前記補助座金のボルト挿通部は、当該補助座金の周縁部から中心部まで直線的に切り欠かれて形成されていることを特徴とする杭および柱の接合構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の杭および柱の接合構造において、
前記杭頭プレートと前記柱脚プレートとの間には、前記柱の設置高さ調整用の補助プレートが介装されており、この補助プレートには、前記ボルトの直径よりも大きい内径を有したボルト挿通孔が設けられていることを特徴とする杭および柱の接合構造。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の杭および柱の接合構造において、
前記杭頭プレートと前記ボルトまたはナットとの間、および前記柱脚プレートと前記ナットまたはボルトとの間に介装される座金は、前記杭頭プレートおよび柱脚プレートのボルト挿通孔よりも径大に形成され、かつ中心から所定距離だけ偏心した位置にボルト挿通孔を有していることを特徴とする杭および柱の接合構造。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の杭および柱の接合構造において、
前記杭頭プレートと前記ボルトまたはナットとの間、および柱脚プレートと前記ナットまたはボルトとの間のうち、少なくとも一方には、皿ばねが介装されていることを特徴とする杭および柱の接合構造。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の杭および柱の接合構造において、
前記杭は、先端側杭体と、この先端側杭体を地盤に貫入した後に当該先端側杭体の上端に溶接固定される杭頭側杭体とを有して形成され、
前記杭頭プレートは、前記杭頭側杭体に固定されていることを特徴とする杭および柱の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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