説明

杭の姿勢制御容易な低空頭型杭打抜機

【課題】 振動式の杭打抜機を改良して、杭打地点の上方に障害物が有っても杭の打ち抜き作業を容易ならしめ、かつ杭の姿勢制御(垂直軸周り回転角位置の調節)を容易ならしめる。
【解決手段】 ショベル系建設車両に着脱し得るエクステンション7によって、水平軸H周りの回動可能に旋回機構8を装着する。該旋回機構8の下方に、緩衝機構9を介して起振機構10を装着するとともに、該起振機構10の下方にチャック機構11を装着する。平面図(B)に表わされているように、これらの機構には垂直な中心孔が形成されていて、チャック機構の固定爪11bと可動爪11cとによって杭(図示せず)を把持し、かつ、該杭を垂直軸(紙面と直交)周りに回転させて、杭の角位置(姿勢)を調節することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭を地中に打ち込んだり引き抜いたりする杭打抜機に係り、特に、作業地点の上方に障害物が有って余裕空間の低い場合に好適であり、かつ、杭の軸心周りの回動角位置に対応する調節が容易なように改良した杭打抜機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤の力に抗して既製杭を打ち込んだり引き抜いたりする機械は振動式と圧入式とに大別され、それぞれに長短を有しているが、本発明は振動式の杭打抜機を適用対象とする。
図4(A)は、振動式杭打抜機の典型的な従来例を示す模式図である。
起振機1をクレーン2で吊り上げ、該起振機1に装着されたチャック3によって杭4の頂部を把持する。
クレーン2で起振機1を吊り降ろしつつ該起振機1を作動させて杭4に振動を与えると、該杭は地面5の中へ貫入してゆく。
この図4(A)から理解されるように、この型式の振動杭打ちを行なう場合は、杭4の地上突出長さ寸法Lよりも、更に上方に作業用の余裕空間(空頭)Vが必要である。このため、橋梁の下方やトンネル内などのように作業余裕空間(空頭)が制限される作業条件では、杭の打ち抜き作業が困難である。
【0003】
低空頭の振動杭打抜機を構成するには、杭4の頂部でなく昼間部、例えば符号Mを付して示した箇所を把持し得る構造のチャックや起振機を用いれば良い。この場合は、起振機をクレーンで吊持する代りに、ショベルカーのアームに装着して支持される。
図4(B)はショベルカー搭載形杭打抜機の作業状態を描いた平面図である。
ショベルカー6の旋回車体6aにアーム6bが設置されており、該アーム6bの先端に装着された杭打抜機のチャック6cが杭を把持している。
本例においては多数のH型鋼4が杭として打設されている。説明の便宜上、図示の如く4a,4b.4c………4jと符号を付して区別する。
【0004】
図4(B)のように、杭の頂部ではなく中間部を把持して該杭を打ち抜きすると、作業地の上方に障害物が有って空頭が低くても作業に支障を来たさない。その代り、次のような問題が有る。
図に示すように、水平な直交座標X−Yを想定し、アーム6bがX軸に対して為す角をθとする。
いま、杭4b,杭4c,杭4d…がX軸方向に列設されているものとし、その並びに揃えて杭4aを打設しようとすると、該杭4aの位置と姿勢とを制御しなければならない。
位置の制御は、旋回車体6aおよびアーム6bを旋回させて角θを増減調節するとともに、アーム6bを伸縮動作させて行なうことができる。
(注)ショベルカー6は走行可能であるが、なるべく走行せずにアームの旋回と伸縮とによって杭を位置決めしたい。ショベルカーの走行精度は、作業機の動作精度に比して著しく劣るからである。
なお、アームの伸縮は、平面図における投影長さを伸縮させる意であって、正面図である図4を参照して述べればアーム関節を屈伸させる操作である。
【0005】
上述のように杭4aの位置は調節できるが、該杭4aの垂直軸周りの角位置(姿勢)を調節することは容易でない。
このような杭の姿勢制御は、前述のように多数の杭を一定方向に揃えて列設する場合も必要であるが、更に、杭4h,杭4i,杭4jのように列設方向を屈折させる場合にも必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】 特開平11−13061号公報
【特許文献2】 特開2005−163505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4に示した(A),(B)2例の振動式杭打抜機において、図(A)の型式は高い空頭(作業地上方の余裕空間V)を必要とし、図(B)の型式は低空頭型であるが杭の姿勢制御(垂直軸周りの角位置調節)が容易でない。
本発明は上述の事情に鑑みて為されたものであって、その目的は、低空頭の作業現場に適用することができ、しかも杭の姿勢制御(垂直軸周りの角位置調節)が容易な振動式の杭打抜機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために創作した請求項1に係る杭の姿勢制御容易な低空頭型杭打抜機の構成は(図2参照)ショベル系建設車両(6)のアーム(6b)に対して着脱交換可能なエクステンション(7)と、
上記エクステンションによって水平軸周りの回動可能に支持され、かつ、杭(4)を挿通して垂直軸周りに回動し得る旋回機構(8)と、
上記旋回機構の下方に、緩衝機構(9)を介して装着され、かつ、杭を垂直に挿通し得る中心孔を備えた起振機構(10)と、
該起振機の下方に装着され、かつ前記の杭を垂直に貫通せしめて把持し得るチャック機構(11)と、を具備していることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明の構成は、前記請求項1に記載した構成要件に加えて(図1(B)参照)、前記の緩衝機構が、起振機構を取り囲む枠組部材を有しており、該枠組部材と起振機構とが緩衝部材によって接続支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明に係る杭打抜機によると、杭を把持するチャック機構及び該杭に振動を与える起振機構が、旋回機構を介して支持されているので、杭の姿勢制御が容易であり、 さらに請求項2の発明を適用すると、緩衝機構がコンパクトに構成され、しかも優れた緩衝機能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】 本発明に係る杭打抜機の要部を示し、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図2】 本発明に係る杭打抜機の作業状態を描いた正面図である。
【図3】 本発明に係る杭打抜機の要部を示し、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【図4】 振動式杭打抜機の2例を示し、(A)はクレーン吊持形杭打抜機の正面図、(B)はショベルカー搭載形杭打抜機の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図2は、本発明の1実施形態を用いて杭打ち抜き作業を行なっている状態の全体的な正面図である。
この図2は、杭4が地面5に対して垂直をなす基本姿勢を描いてある。本発明においては、この基本姿勢に基づいて上,下、垂直,水平を呼称する。
符号6を付して示したのは、ショベル系建設車両の1例としてのショベルカーである。
その旋回車体6aに対して、アーム6bが起伏傾動可能に搭載されており、該アームは屈伸可能な関節を有している。
前記アーム6bの先端に、エクステンション7を介して旋回機構8が装着されている。
本実施形態の詳細な構成は図1及び図3を参照して後述するが、詳細説明に先立ち、図2について全体的構成の概要を説明する。
【0013】
(図2参照)前記旋回機構8の下方に、緩衝機構8を介して起振機構10が装着されており、該起振機構10の下方にチャック機構11が装着されている。
本発明における旋回機構8、緩衝機構9、起振機構10、およびチャック機構11は、垂直姿勢の杭4を挿通し得るように構成されている。
なお、本発明においてエクステンションとは、ショベル系建設車両のバケットと交換して着脱し得る、フロントアタッチメント支持用の部材であって、当該ショベル系建設車両のアーム先端に着脱するためのピン孔と、作業用シリンダに着脱するためのピン孔とを備えている部材をいう。
この図2から理解されるように、杭4を垂直に貫通させて把持しているので、該杭4の上方に余裕空間(空頭)を必要とせず、低空頭杭打抜作業が可能である(非低空頭型の杭打抜機を描いた図4(A)と比較されたい)。
【0014】
図2に示した実施形態の要部を抽出した拡大詳細図は図1(A)の如くである。同図1の(B)は前記(A)図の側面図である。
チャック機構11のフレーム11aは起振機構10の底面に固着されている。
前記のフレーム11aに対して固定爪11bが固定的に装着され、可動爪11cが可動的に装着されている。チャックシリンダ11dは、該可動爪11cを固定爪11bに対して接近・離間駆動する。
緩衝機構9は、起振機構10の一部を取り囲む枠組部材を有していて、該枠組部材と起振機構10との間が、緩衝部材によって接続され、相互に支持されている。
本図1(B)において部分的に破断し、符号Fを付して示したのは枠組部材の一部であり、符号Dを付して示したのは緩衝部材である。
本実施形態においては円柱状のゴム部材によって前記の緩衝部材を構成したが、本発明を実施する際は円柱状に限らず、各種柱状,鼓状のゴム部材でも良く、また金属スプリングでも良い。
【0015】
図3(B)は、前掲の図1(A)と同じく本実施形態の要部正面図であり、図3(A)は平面図である。
エクステンション7は、ショベル系建設車両のアーム及びシリンダに軸着するためのピン孔7aとピン孔7bとを有しており、水平軸H周りの回動可能に旋回機構8を軸支している。
なお本図3(B)にはピン孔7a,7bが明瞭に現れているが、図3(A)においては該ピン孔が隠れているので、ピン孔の中心線に符号の引出線を付してある。
図3(A)に表されているように、固定爪11bと可動爪11cとが平面図に現れている。ということは、該固定爪,可動爪よりも上方に位置している旋回機構8、緩衝機構9、及び起振機構(図3(A)においては緩衝機構9に覆われて隠れている)に、垂直な貫通孔が設けられていることを意味する。
図3(A)は平面図であるから、地球基準の垂直軸は紙面と直交している。旋回機構8が垂直軸周りに回転するので、固定爪11bと可動爪11cとによって挟持されている杭(図示省略)が垂直軸周りに回転せしめられ、その角位置を調節することができる。すなわち、杭の姿勢制御が容易である。
【符号の説明】
【0016】
1…起振機
2…クレーン
3…チャック
4,4a〜4j…杭
5…地面
6…ショベルカー
6a…旋回車体
6b…アーム
6c…チャック
7…エクステンション
7a,7b…ピン孔
8…旋回機構
9…緩衝機構
10…起振機構
11…チャック機構
11a…フレーム
11b…固定爪
11c…可動爪
11d…チャックシリンダ
D…緩衝部材
F…枠組部材
H…水平軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショベル系建設車両のアームに対して着脱交換可能なエクステンションと、
上記エクステンションによって水平軸周りの回動可能に支持され、かつ、杭を挿通して垂直軸周りに回動し得る旋回機構と、
上記旋回機構の下方に、緩衝機構を介して装着され、かつ、杭を垂直に挿通し得る中心孔を備えた起振機構と、
該起振機の下方に装着され、かつ前記の杭を垂直に貫通せしめて把持し得るチャック機構と、を具備していることを特徴とする、杭の姿勢制御容易な低空頭型杭打抜機。
【請求項2】
前記の緩衝機構が、起振機構を取り囲む枠組部材を有しており、該枠組部材と起振機構とが緩衝部材によって接続支持されていることを特徴とする、請求項1に記載した杭の姿勢制御容易な低空頭型杭打抜機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−255390(P2010−255390A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122509(P2009−122509)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(391002122)調和工業株式会社 (43)
【Fターム(参考)】