説明

杭の支持力測定方法

【課題】動的抵抗成分の測定値に関わらず、客観的且つ正確に杭の支持力を測定すること。
【解決手段】ハンマ10を杭20に対して衝突させる衝突段階と、衝突段階における、杭20における杭天端速度と杭20の慣性力補正荷重とを測定する測定段階と、測定段階における、杭天端速度と杭20の慣性力補正荷重との関係を示す第一グラフを作成する第一グラフ作成段階と、第一グラフにおいて、杭天端速度が0である位置の杭20の慣性力補正荷重を耐力として抽出する耐力抽出段階と、ハンマ10の衝突速度を変えて、耐力抽出段階までを複数回行い、ハンマの衝突速度と耐力との関係を示すグラフを作成する第二グラフ作成段階と、第二グラフにおいて、衝突速度と耐力との関係が変化する耐力の値を支持力とする支持力測定段階と、を有することを特徴とする杭の支持力測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工後の杭の支持力を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地面に埋設した杭の支持力を測定する場合、杭に対して載荷装置による載荷を行い、その計測データから支持力を算定する。杭の支持力は、載荷した荷重と沈下量の関係を得ることで算定することができ、一般的な評価方法として静的載荷試験が行われている。
【0003】
しかし、静的載荷試験の多くの場合においては反力杭を必要とするため、反力杭を設置する作業が煩雑で、特に住宅の基礎や小規模の建築物などでは敷地が狭いことなどから、反力を適切な本数を配置できないなどの障害があって、適用できないケースが多い。
【0004】
また、反力を用いない評価方法としては、急速載荷試験などがあげられるが、急速載荷試験のデータの整理を行う際に結果の客観性を持たせるために様々な手法が考案されており、例えば、ハンマを杭に対して衝突させて得られた計測データによる載荷時間と杭頭速度の関係から杭頭速度がほぼ一定になる一定速度区間を抽出し、前記一定速度区間に対応する前記計測データによる載荷荷重と杭頭変位の関係を、杭の載荷初期部分の静的荷重と変位の初期勾配とし、前記載荷初期部分の延長線が、載荷荷重から杭の慣性力を差し引いて計算した地盤抵抗力と変位の関係を示した線に交わった点からは、該地盤抵抗力と変位の関係を静的荷重と変位の関係にする。この静的荷重と変位の関係から、杭の支持力を測定するなど、評価方法の精度を向上させることで、適切な構造物の設計ができる手法が考案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−125713
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
急速載荷試験のデータを評価し、地盤抵抗力と変位の関係を静的荷重と変位の関係にする場合には、地盤抵抗力から動的抵抗成分を除去することで、静的抵抗成分を得る。
【0007】
一般的には荷重−沈下関係を推定する場合には、
F=Fsoil+Fa=Fw+Fv+Fa=Fw+C・v+M・α …(1)
(F:杭頭の載荷力、Fw:地盤の静的抵抗成分、
α:杭の加速度、v:杭の速度、α:杭の加速度)
で示される釣り合い方程式を用いている。式(1)において、F、v、α、Mが既知量であるため、減衰係数Cを求めれば、任意の点での静的抵抗成分Fwを求めることができる。
【0008】
減衰定数Cの求める方法としては、次のような方法がある。即ち、杭変位の最大点を除荷点とし、除荷点では速度v=0のため地盤の動的抵抗成分Fvが作用しない。このため、Fw=Fsoilとなる。よって、減衰定数Cは、地盤抵抗力が最大の時の速度をvとし、除荷点での地盤の抵抗力Fv(max)と地盤の抵抗力の最大値Fsoil(max)を用いる。
【0009】
これにより、
C=(Fsoil(max)−Fv(max))/v …(2)
の式が得られる。この式(2)のCを用いて、任意の時刻での静的抵抗成分を算定している。
【0010】
しかし、変位の最大点である除荷点荷重と地盤の最大抵抗力がほぼ一致するという試行結果が得られた場合、動的抵抗成分の値が実際より小さくなる。このため、静的抵抗成分は実際よりも大きくなり、静的荷重を危険側に評価してしまうおそれが認識されていた。
【0011】
本発明は前記課題を解決するものであり、その目的は、動的抵抗成分の測定値に関わらず、客観的且つ正確に杭の支持力を測定することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するための本発明に係る第一の方法は、ハンマを杭に対して衝突させる衝突段階と、前記衝突段階における、前記杭における杭天端速度と前記杭の慣性力補正荷重とを測定する測定段階と、前記測定段階における、前記杭天端速度と前記杭の慣性力補正荷重との関係を示す第一グラフを作成する第一グラフ作成段階と、前記第一グラフにおいて、前記杭天端速度が0である位置の前記杭の慣性力補正荷重を耐力として抽出する耐力抽出段階と、前記ハンマの衝突速度を変えて、前記耐力抽出段階までを複数回行い、前記ハンマの前記衝突速度と前記耐力との関係を示すグラフを作成する第二グラフ作成段階と、前記第二グラフにおいて、前記衝突速度と前記耐力との関係が変化する耐力の値を支持力とする支持力測定段階と、を有することを特徴とする杭の支持力測定方法である。
【0013】
また、第二の方法は、前記杭天端の上に緩衝材を配設し、前記緩衝材に前記測定段階にて用いる測定機器を配設することを特徴とする請求項1に記載の杭の支持力測定方法である。
【発明の効果】
【0014】
第1の方法においては、杭の耐力を抽出する際に、杭天端速度が0である位置の杭の慣性力補正荷重を抽出する。このように、杭天端速度が0のときには動的抵抗成分が働かない。動的抵抗成分が働かない場合における慣性力補正荷重を抽出することで、静的抵抗成分のみの荷重を抽出することができる。そして、この荷重を基に支持力を測定するため、動的抵抗成分の測定値に関わらず、正確に静的抵抗成分に基づく杭の支持力を測定することができる。また、杭天端速度が0の点を抽出する作業においては個人差がないため、支持力の評価に個人差が介入せず、客観的な測定を行うことができる。
【0015】
第2の方法においては、杭天端に緩衝材を配設し、当該緩衝材に測定機器を配設する。このように構成すると、まず、ハンマを落下させた時に緩衝材が衝撃を吸収することとなる。すると、緩衝材が衝撃を吸収する過程において、ハンマの緩衝材への載荷時間が長くなる。載荷時間が長くなることにより、測定機器による測定がより厳密になる。こうして、より客観的且つ正確に杭の支持力を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の一実施形態について説明する。尚、以下で「杭」として示すものは、金属製の杭のみならず、コンクリート製の杭、木製の杭、ならびにセメント系または石灰系固化材によって改良されたコラム、樹脂製の棒状体のことをいう。
【0017】
(支持力測定方法の概略)
支持力測定方法の概略を説明する。本実施形態の支持力測定方法は、まず、ハンマを杭に衝突させる(衝突段階)。そして、衝突による杭天端速度と荷重を測定し(測定段階)、杭天端速度と荷重との関係のグラフを作成し(第一グラフ作成段階)、杭天端速度が0になるところを耐力として抽出する(耐力抽出段階)。ここまでの試行を複数回行う。そして、前記試行により得られた耐力とハンマの衝突速度との関係をグラフに表し(第二グラフ作成段階)、その上で、衝突速度と耐力との関係が変化する耐力の値を杭の支持力として決定する(支持力測定段階)。
【0018】
(支持力測定方法の詳細)
以下、上記各段階について図を用いて詳細に説明する。図1は支持力測定のための装置の模式図であり、図2は慣性力補正荷重−杭天端速度を示す第一グラフの例を示す図であり、図3は耐力−衝突速度関係を示す第二グラフの例を示す図である。
【0019】
まず、測定する際には、ハンマ10を杭20に対して衝突させる(衝突段階)。具体的には、図1(a)に示すように、ハンマ10を鉛直方向に落下させ、杭20上に配置される緩衝材30に衝突させる。これによって、杭頭部分を振動させる。
【0020】
緩衝材30には、振動における各値を測定する測定機器40が配設される。本実施形態においては、緩衝材30としてナイロン棒を使用し、測定機器40としては加速度計41及びひずみ計42を用いた。
【0021】
本実施形態においては、杭天端21上にクッションとなる緩衝材30を載置する。緩衝材30があることにより、ハンマ10の衝撃を緩和する過程で、ハンマ10の杭に対する載荷時間を長くすることができる。すると、測定結果の解析がしやすくなり、より正確な支持力を測定することができる。
【0022】
また、緩衝材30を杭天端21上に配設すると、地面Eに杭20が埋設された状態で測定することができる。このため、図1(b)に示す場合のような杭頭22を地面Eから突出させた状態で測定する場合よりも、より実際に近い値を測定することができる。但し、本願発明の測定は、図1(b)に示すように杭頭22に測定機器40を配設する場合であっても測定は可能である。
【0023】
また、緩衝材30の弾性係数は杭よりも大きく、ハンマ10の衝突による緩衝材30の歪みも大きいため、よりハンマ10の衝撃を詳細に把握することができる。これにより、より正確な測定を行うことができる。
【0024】
次に、衝突段階における杭頭部分の振動時において、測定機器40によって、衝突による杭頭の鉛直方向の速度と荷重を測定する(測定段階)。
【0025】
具体的には、測定機器40としては加速度計41とひずみ計42を用い、杭天端速度と荷重とを測定する。例えば、加速度計41において得た値(緩衝材30の鉛直方向の加速度)を積分することで、杭20の杭頭に配設される緩衝材30の鉛直方向の速度を得る。これを杭天端速度とする。
【0026】
一方、ひずみ計42で得られた値(緩衝材30のひずみ)と緩衝材30の弾性係数とによって、荷重の値を得る。そして、当該荷重の値から杭の質量と得られた加速度の値を引いて、慣性力を補正することで、慣性力補正荷重を得る。
【0027】
これら測定した値に基づいて、図2に示すようなグラフを作成する(第一グラフ作成段階)。図2に示すグラフは、慣性力補正荷重(kN)と杭天端速度(m/s)との関係を示すグラフである。そして、杭天端速度が0となる慣性力補正荷重を耐力として抽出する(耐力抽出段階)。ここで、杭天端速度が0となるときにおいては、杭天端21は動いていないので、動的抵抗成分が働かない。このときの荷重を測定することにより、動的抵抗成分を排除し、静的抵抗成分のみの荷重を抽出することができる。
【0028】
以上の、衝突段階、測定段階、第一グラフ作成段階、耐力抽出段階の一連の試行を、ハンマ10の杭頭への衝突速度を変えて、複数回行う。これにより、ハンマ10の杭頭への所定の衝突速度に応じた、杭20の耐力を得ることができる。
【0029】
次に、図3に示すように、前記試行を複数回行うことによって得られた、耐力とハンマ10の衝突速度との関係をグラフに表す(第二グラフ作成段階)。本実施形態においては、図3に示す7点を抽出した。
【0030】
図3において、抽出した点で隣接する点を結んだとき、大きい傾きを示す部分(図中、傾向A)と、小さい傾きを示す部分(図中、傾向B)とがある。この場合、衝突速度と耐力との関係が変化する耐力の値(図中、傾向Aと傾向Bとの交点P)を杭の支持力として決定する(支持力測定段階)。
【0031】
ここで、傾向の変わる点は、地盤が弾性範囲を超える点を表す。即ち、地盤の弾性範囲内の場合は、衝突速度の増加に伴って耐力も所定割合で増加していくが、地盤の弾性範囲を超えると、衝突速度の増加にも拘らず耐力前記所定割合では増加しなくなるからである。
【0032】
以上のように杭の支持力を決定することで、動的抵抗成分を排除して耐力を抽出することができ、動的抵抗成分の測定値に関わらず、客観的且つ正確に杭の支持力を測定することができる。
【0033】
〔他の実施形態〕
前述の実施形態においては、耐力に対するパラメータとしてハンマ10の衝突速度を用いたが、これに限るものではない。例えば、ハンマ10の衝突速度の変わりに、ハンマ10の杭天端21からの落下高さとしてもよい。
【0034】
前述の実施形態においては、測定機器40としては加速度計41及びひずみ計42を用いたが、これに限るものではない。杭天端速度と載荷荷重とを求められるものであれば、いかなる手段を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、金属製の杭のみならず、コンクリート製の杭ならびにセメント系または石灰系固化材によって改良されたコラム、樹脂製の棒状体等、地中に埋設する弾性体の柱状体に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】支持力測定のための装置の模式図。
【図2】慣性力補正荷重−杭天端速度を示す第一グラフの例を示す図。
【図3】耐力−衝突速度関係を示す第二グラフの例を示す図。
【符号の説明】
【0037】
E…地面、10…ハンマ、20…杭、21…杭天端、22…杭頭、30…緩衝材、40…測定機器、41…加速度計、42…ひずみ計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンマを杭に対して衝突させる衝突段階と、
前記衝突段階における、前記杭における杭天端速度と前記杭の慣性力補正荷重とを測定する測定段階と、
前記測定段階における、前記杭天端速度と前記杭の慣性力補正荷重との関係を示す第一グラフを作成する第一グラフ作成段階と、
前記第一グラフにおいて、前記杭天端速度が0である位置の前記杭の慣性力補正荷重を耐力として抽出する耐力抽出段階と、
前記ハンマの衝突速度を変えて、前記耐力抽出段階までを複数回行い、前記ハンマの前記衝突速度と前記耐力との関係を示すグラフを作成する第二グラフ作成段階と、
前記第二グラフにおいて、前記衝突速度と前記耐力との関係が変化する耐力の値を支持力とする支持力測定段階と、
を有することを特徴とする杭の支持力測定方法。
【請求項2】
前記杭天端の上に緩衝材を配設し、
前記緩衝材に前記測定段階にて用いる測定機器を配設することを特徴とする請求項1に記載の杭の支持力測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−19597(P2008−19597A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191394(P2006−191394)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】