板状ワークの加工方法及び加工装置
【課題】板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる板状ワークの加工方法及び加工装置を提供する。
【解決手段】成形型10、20を用いた板状ワークW1の加工では、板状ワークに電極41を接触させて通電し、通電により加熱される内部領域と該内部領域の外側に位置する周縁部領域とを形成するとともに前記内部領域のみを焼入れ温度まで加熱し、前記内部領域が焼入れ温度に加熱された後に、前記成形型により前記板状ワークを所定の形状に加工するとともに前記内部領域を焼入れし、前記板状ワークが加工された後に、前記周縁部領域を少なくとも一部含んで前記板状ワークをブランキングする。
【解決手段】成形型10、20を用いた板状ワークW1の加工では、板状ワークに電極41を接触させて通電し、通電により加熱される内部領域と該内部領域の外側に位置する周縁部領域とを形成するとともに前記内部領域のみを焼入れ温度まで加熱し、前記内部領域が焼入れ温度に加熱された後に、前記成形型により前記板状ワークを所定の形状に加工するとともに前記内部領域を焼入れし、前記板状ワークが加工された後に、前記周縁部領域を少なくとも一部含んで前記板状ワークをブランキングする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成形型を用いて板状ワークを加工する板状ワークの加工方法及び加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用鋼板などの板状素材(板状ワーク)は、プレス加工により所定の形状に加工されて使用されることが一般的に行われており、板状ワークを加熱してその成形性を高めた上で、上下動可能に設けられるパンチと該パンチと対向するように配設されるダイとを備えた成形型を用いて前記板状ワークをプレス加工することが知られている。
【0003】
このような板状ワークのプレス加工として、板状ワークを加熱炉によって加熱し、この加熱された板状ワークをパンチとダイとの間に搬送してプレス加工することが知られている。また、板状ワークの加熱に関して、板状ワークに所定の電流を流し、この電流による通電加熱によって電気的に板状ワークを加熱することも知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、多様な形状のブランクを均一に高温域に加熱し形状精度が良好な超高強度のプレス成形品を容易に得ることを企図し、ブランクの両端部に電極を取り付け、電極に供給する電力を電極毎に調整してブランクの温度分布を調整する金属板の熱間プレス方法及びその装置が開示されている。
【特許文献1】特開2002ー248525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、例えば自動車用鋼板などに使用される板状ワークでは、車体の軽量化や高強度化等を図るために高強度を有する板状ワークを使用することが求められている。かかる高強度を有する板状ワークとして、その加工性を向上させるためにプレス加工する前に焼入れ温度に加熱し、プレス加工する際に成形型と接触することで焼入れさせてその強度を高めるものが知られている。
【0006】
しかし、プレス加工する際に焼入れさせることでその強度を高める焼入れ性を有する板状ワークにおいては、板状ワークがプレス加工されるとともに焼入れされた後に、プレス加工された板状ワークからプレス成形品を切り取るブランキング等の塑性加工を施す場合、その塑性加工が非常に困難なものとなり得る。
【0007】
そこで、この発明は、前記技術的課題に鑑みてなされたものであり、焼入れ性を有する板状ワークにおいて、板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる板状ワークの加工方法及び加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本願の請求項1に係る板状ワークの加工方法は、成形型を用いて板状ワークを加工する板状ワークの加工方法であって、板状ワークを用意するステップと、前記板状ワークに互いに離間する電極を接触させて通電し、前記板状ワークに、前記電極が接触される接触領域間を直線状に結び通電により加熱される内部領域と該内部領域の外側に位置し当該板状ワークの周縁部である周縁部領域とを形成するとともに、通電により前記内部領域のみを焼入れ温度まで加熱するステップと、前記内部領域が焼入れ温度に加熱された後に、前記板状ワークを前記成形型により所定の形状に加工するとともに前記板状ワークを前記成形型により冷却して前記内部領域を焼入れするステップと、前記板状ワークが所定の形状に加工されるとともに前記内部領域が焼入れされた後に、前記周縁部領域を少なくとも一部含んで前記板状ワークをブランキングするステップとを備えていることを特徴としたものである。
【0009】
また、本願の請求項2に係る発明方法は、請求項1に係る発明方法において、前記板状ワークがブランキングされた後に、ブランキングされた前記板状ワークの前記周縁部領域が溶接されることを特徴としたものである。
【0010】
更に、本願の請求項3に係る発明方法は、請求項1又は2に係る発明方法において、前記板状ワークが、600MPa以上の引張強度を有する鋼板であることを特徴としたものである。
【0011】
また更に、本願の請求項4に係る板状ワークの加工装置は、成形型を用いて板状ワークを加工する板状ワークの加工装置であって、互いに離間する電極を有し、該電極を前記板状ワークに接触させて通電することにより、前記板状ワークに、前記電極が接触される接触領域間を直線状に結び通電により加熱される内部領域と該内部領域の外側に位置し前記板状ワークの周縁部である周縁部領域とを形成するとともに前記内部領域のみを焼入れ温度まで加熱する通電手段と、前記板状ワークを所定の形状に加工するとともに焼入れ温度に加熱された前記内部領域を焼入れするように前記板状ワークを冷却する成形型と、前記周縁部領域を少なくとも一部含んで前記板状ワークをブランキングするブランキング手段とを備えていることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本願の請求項1に係る板状ワークの加工方法によれば、板状ワークの内部領域を加熱した状態で成形型により加工するとともに冷却し、加工後に焼入れされていない周縁部領域を含んでブランキングすることにより、板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。
【0013】
また、本願の請求項2に係る発明方法によれば、板状ワークがブランキングされた後に、ブランキングされた板状ワークの周縁部領域が溶接されることにより、焼入れされていない周縁部領域を溶接することで板状ワークの良好な溶接性を得ることができ、また、溶接部の耐遅れ破壊性を向上させることができる。
【0014】
更に、本願の請求項3に係る発明方法によれば、板状ワークが、600MPa以上の引張強度を有する鋼板であることにより、成形型による加工が困難である板状ワークにおいて、その加工性を向上させることができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0015】
また更に、本願の請求項4に係る板状ワークの加工装置によれば、板状ワークの内部領域を加熱した状態で成形型により加工するとともに冷却し、加工後に焼入れされていない周縁部領域を含んでブランキングすることにより、板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、第1の実施形態に係る板状ワークの加工装置を示す概略説明図であり、図2は、図1におけるA1方向から見た前記加工装置の側面説明図、図3は、パンチが下降した状態にある第1の実施形態に係る前記加工装置を示す概略説明図、図4は、図3におけるA1方向から見た前記加工装置の側面説明図、図5は、第1の実施形態に係る前記加工装置で加工される板状ワークの加工工程を説明するための説明図である。
【0017】
図1に示すように、前記加工装置1は、略平板状に形成された板状ワーク(ブランク)W1を加工するための加工装置であり、上下動可能に設けられたパンチ10と、該パンチ10と対向するように配置されたダイ20とを有する成形型30を備えており、該成形型30は、パンチ10に設けられ、下方側に突出する突出部11と、ダイ20に設けられ、突出部11に対応して凹状に形成される凹部21とを組み合わせることで、板状ワークW1を断面ハット状(コ字形断面の両端部に、外側へ張り出すフランジ状部分が一体成形された形状)に成形するように構成されている。
【0018】
加工装置1では、パンチ10がスプリング12及びスプリングガイド13を介してパンチプレート14に取り付けられ、該パンチプレート14がパンチホルダー15に取り付けられている。一方、ダイ20は、ダイホルダー22に取り付けられている。また、加工装置1では、ダイホルダー22に固定されたアウタガイド35が、パンチホルダー15に備えられたアウタガイド用ブッシュ36に組み込まれ、パンチプレート14に固定されたインナガイド37が、パンチ10に設けられたインナガイド用ブッシュ16と、ダイ20に設けられたインナガイド用ブッシュ23とに組み込まれ、パンチ10とダイ20との位置決め精度が確保されている。
【0019】
更に、加工装置1には、パンチホルダー15に連結され該パンチホルダー15を上下方向に移動させる上下方向移動手段(不図示)が備えられている。パンチ10は、スプリングガイド13及びパンチプレート14を介してパンチホルダー15に取り付けられているので、パンチ10は、前記上下方向移動手段によってパンチホルダー15が上下方向に移動されることにより上下方向に移動される。
【0020】
本実施形態に係る加工装置1はまた、図2に示すように、ダイ20上に配置された板状ワークW1を電気的に加熱するための通電手段40を備えている。通電手段40は、互いに離間する2つの電極41と、電極41に電力を供給する電源42と、電源42と電極41とを接続するケーブル43とを備え、電極41をそれぞれ板状ワークW1に接触させて通電することにより、電極41間に発生するジュール熱で板状ワークW1を加熱するように構成されている。
【0021】
電極41にはそれぞれ、矢印Z1に示すように、電極41を上下方向に移動させる電極移動手段(不図示)が連結され、該電極移動手段は、ダイ20上に板状ワークW1を配置する場合、あるいはダイ20上から板状ワークW1を取り除く場合には電極41を上方へ移動させ、電極41間を通電する場合にはダイ20上に配置された板状ワークW1に接触するように電極41を下方に移動させるように構成されている。
【0022】
なお、前記加工装置1は、その他の構成として、通電手段40により板状ワークW1を加熱する際に、後述する板状ワークW1の内部領域S2の温度を測定する、例えば温度センサ等の温度測定手段(不図示)と、前記上下方向移動手段、通電手段40及び前記電極移動手段等の作動を制御する制御ユニット(不図示)とを備えており、該制御ユニットは、好ましくは、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
【0023】
前記加工装置1を用いて、板状ワークW1をプレス加工する際には、先ず、ダイ20上の所定の位置に板状ワークW1を配置させた後に、前記電極移動手段により電極41を下方に移動させ、板状ワークW1に接触させる。そして、通電手段40によって電極41間を通電させ、板状ワークW1を加熱する。
【0024】
図5の(a)は、第1の実施形態に係る前記加工装置を用いて加工される板状ワークを示す上面説明図であり、図5の(b)は、前記板状ワークに電極が接触された状態を説明するための説明図である。
前記のように、略平板状に形成されたブランクを板状ワークW1として用い、板状ワークW1は、図5の(a)に示すように、略矩形状に形成されている。なお、板状ワークとしては、焼入れ性を有する鋼板を使用し、例えば600MPa以上の引張強度を有する高強度鋼板を用いることができる。
【0025】
本実施形態では、互いに離間する2つの電極41はそれぞれ、板状ワークW1に接触される接触部(不図示)を有し、この接触部が、所定の領域を有し略矩形状に形成されている。電極41が板状ワークW1に接触されると、図5の(b)に示すように、板状ワークW1には、板状ワークW1の長手方向の両端部近傍にそれぞれ、電極41が接触される接触領域(破線で囲まれる領域)S1が形成される。
【0026】
板状ワークW1に電極41が接触され、通電手段40によって電極41間が通電されると、板状ワークW1は、電極41が接触される接触領域S1間を直線状に結び接触領域S1間の内部に位置する内部領域S2(斜線ハッチングを施した領域)が加熱される。この通電は、板状ワークW1の内部領域S2が焼入れ温度まで加熱されるように、すなわち、板状ワークW1の内部領域S2が鋼の変態点以上の温度になるまで加熱され、内部領域S2の組織がオーステナイト組織になるまで加熱されるように行われる。なお、この通電は、内部領域S2の外側に位置し、接触領域S1を含み、板状ワークW1の周縁部である周縁部領域S3が焼入れ温度にならないように行われる。
【0027】
板状ワークW1の内部領域S2が焼入れ温度に加熱されると、パンチ10が下方へ移動され、図3及び図4に示すように、パンチ10とダイ20とによって板状ワークW1がプレス加工される。なお、電極41は、図4に示すように、板状ワークW1のプレス加工時に板状ワークW1に接触していても、あるいは前記電極移動手段によって板状ワークW1から離間させるようにしてもよい。
【0028】
図5の(c)は、プレス加工された前記板状ワークを示す上面説明図である。なお、図5の(c)では、内部領域S2に斜線ハッチングを施している。
前記のように、成形型30は、板状ワークW1の内部領域S2を断面ハット状に成形加工するように構成されており、成形型30によって、板状ワークW1の内部領域S2は、底面部50と側面部51とを有し、板状ワークW1の長手方向を横切る断面が断面ハット状に成形加工される。
【0029】
また、成形型30は、板状ワークW1を断面ハット状に成形加工するとともに、板状ワークW1を冷却し、加熱された板状ワークW1の内部領域S2を焼入れする。これにより、板状ワークW1は、周縁部領域S3が焼入れされずに、内部領域S2のみが焼入れされる。
【0030】
本実施形態では、成形型30によって板状ワークW1が成形加工されるとともに内部領域S2が焼入れされた後に、板状ワークW1は、周縁部領域S3を少なくとも一部含んでブランキングされる、具体的にはブランクラインL1の外側に位置する領域S4が切り取られる。なお、加工装置1は、板状ワークW1をブランキングする、例えばブランキング型等のブランキング手段(不図示)を備え、該ブランキング手段によって板状ワークW1が所定の形状にブランキングされる。
【0031】
図6は、プレス加工後にブランキングされた板状ワークを示す斜視図であり、図7は、図6におけるY7−Y7線に沿った断面説明図である。
前記のように、ブランキングされた板状ワークW1では、図7に示すように、フランジ部52を備え、断面ハット状に形成されている。また、板状ワークW1は、底面部50と側面部51とが焼入れされ、周縁部領域S3であるフランジ部52は焼入れされていない。
【0032】
図8は、前記板状ワークを有する製品を説明するための説明図である。図8に示す板状ワークW2は、板状ワークW1と略同様にして加工され、焼入れされていないフランジ部62と、焼入れされた上面部60及び側面部61とを有し、断面ハット状に形成されている。
【0033】
図8に示すように、板状ワークW1は、該板状ワークW1のフランジ部52が板状ワークW2のフランジ部62と重ね合わせられ、フランジ部52とフランジ部62とが、例えばスポット溶接等によって溶接される。これにより、板状ワークW1と板状ワークW2とが接合された製品は、中空状の閉断面部70と、該閉断面部70から外方へ延びるフランジ部71を備え、該フランジ部70には、複数の溶接部72が形成される。
【0034】
例えば自動車用鋼板として使用される板状ワークでは、プレス加工された後に、スポット溶接などの溶接によって他の板状ワークと接合されることが行われ得るが、高強度を有する板状ワークでは、接合部の応力が高いので良好な溶接性を得ることがなかなか難しく、溶接部に割れや遅れ破壊が生じる場合がある。しかし、本実施形態に係る板状ワークの加工では、板状ワークW1の焼入れされていない周縁部領域S3を溶接することにより、かかる問題を回避することができる。
【0035】
前記加工装置1では、板状ワークW1の長手方向の両端部に電極が配置されているが、板状ワークの短手方向の両端部に電極を配置するようにしてもよい。
図9は、第2の実施形態に係る板状ワークの加工装置を示す概略説明図、図10は、図9におけるA2方向から見た前記加工装置の側面説明図、図11は、パンチが下降した状態にある第2の実施形態に係る前記加工装置を示す概略説明図、図12は、図11におけるA2方向から見た前記加工装置の側面説明図である。なお、これらの図では、前述した加工装置1と同様の構成を備え、同様の作用をなすものについては同一符号を付し、それ以上の説明は省略する。
【0036】
また、図13は、第2の実施形態に係る前記加工装置で加工される板状ワークの加工工程を説明するための説明図であり、図13の(a)は、第2の実施形態に係る前記加工装置を用いて加工される板状ワークを示す上面説明図、図13の(b)は、前記板状ワークに電極が接触された状態を説明するための説明図、図13の(c)は、プレス加工された前記板状ワークを示す上面説明図である。第2の実施形態に係る加工装置80においても、図13の(a)に示すように、略矩形状に形成されたブランクを板状ワークW10として用い、前記加工装置80では、板状ワークW10の短手方向の両端部近傍に電極が接触される。
【0037】
前記加工装置80は、加工装置1と略同様の構成を備えているが、互いに離間する2つの電極46が、板状ワークW10の短手方向の両端部近傍にそれぞれ設けられている。該電極46が、前記上下方向移動手段によって下方へ移動され板状ワークW10に接触されると、図13の(b)に示すように、板状ワークW10には、板状ワークW10の短手方向の両端部近傍にそれぞれ、電極46が接触される接触領域(破線で囲まれる領域)S11が形成される。
【0038】
電極46を板状ワークW10に接触させると、次に通電手段45によって電極46間が通電させられ、この通電により電極46間の内部に位置する内部領域(斜線ハッチングを施した領域)S12が加熱される。この通電は、内部領域S12が焼入れ温度になるまで行われるが、内部領域S12の外側に位置し、接触領域S11を含み板状ワークW10の周縁部である周縁部領域S13は、焼入れ温度に加熱されていない。
【0039】
そして、板状ワークW10の内部領域S12のみが焼入れ温度に加熱されると、図11及び図12に示すように成形型30によって断面ハット状にプレス加工されるとともに、成形型30によって板状ワークW10が冷却され、内部領域S12が焼入れされる。
【0040】
板状ワークW10は、図6に示す板状ワークW1と同様に、焼入れされていない周縁部領域S13に対応するフランジ部92と、焼入れされた内部領域S12に対応する底面部90及び側面部91とを有し、断面ハット状に形成される。なお、前記加工装置80では、プレス加工する際に、電極46が板状ワークW10から離間しているが、電極を板状ワークに接触させていてもよい。
【0041】
前記加工装置80では、板状ワークW10を通電手段45により加熱する際に、板状ワークW10の長手方向に沿って電極46が配置されるので、板状ワークW1の短手方向に沿って電極41が配置される前記加工装置1の場合に比して、通電時の断面積を大きくすることができ、板状ワークを所定の温度により速く加熱することができる。
【0042】
なお、プレス加工後の板状ワークW10は、図示されていないが、周縁部領域S13を少なくとも一部含んでブランキングされる。このブランキングは、好ましくは、焼入れされていない周縁部領域S13において行われる。また、ブランキングされた板状ワークW10では、焼入れされていない周縁部領域S13が他の部材と溶接される。
【0043】
本実施形態では、成形型30によって板状ワークW1、W10が断面ハット状に曲げ加工されているが、その他の形状の曲げ加工や絞り加工等の塑性加工、あるいは穴抜きやトリミング等のせん断加工などを行う成形型を用いることができる。また、板状ワークW1、W10の両端部近傍に互いに離間する電極41、46がそれぞれ配置されているが、板状ワークの高強度を要する部分に対応して、電極を板状ワークに接触させることができる。
【0044】
このように、本実施形態に係る板状ワークの加工方法によれば、板状ワークW1、W10の内部領域S2、S12を加熱した状態で成形型30により加工するとともに冷却し、該加工後に焼入れされていない周縁部領域S3、S13を含んでブランキングすることにより、板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。
【0045】
また、板状ワークW1がブランキングされた後に、ブランキングされた板状ワークW1の周縁部領域S3が溶接されることにより、焼入れされていない周縁部領域を溶接することで板状ワークの良好な溶接性を得ることができ、また、溶接部の耐遅れ破壊性を向上させることができる。
【0046】
更に、板状ワークW1が、600MPa以上の引張強度を有する鋼板であることにより、成形型による加工が困難である板状ワークにおいて、その加工性を向上させることができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0047】
また更に、本実施形態に係る加工装置1、80によれば、板状ワークW1、W10の内部領域を加熱した状態で成形型30により加工するとともに冷却し、該加工後に焼入れされていない周縁部領域S3、S13を含んでブランキングすることにより、板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。
【0048】
次に、前述したような板状ワークの加工方法を自動車の車体構成部材の加工に適用する場合について説明する。
図14は、自動車の車体構造を概略的に示す概略説明図である。この具体例は、車体110の車室構成部材に適用するものであり、センタピラー115内に設けられ、該センタピラー115を補強するセンタピラーレインフォースメント120(図15参照)、ドア(不図示)内部に設けられ、該ドアを補強するドアインパクトバー140、及び車室上部を構成するルーフパネル155を補強するルーフレインフォースメント160の各々について、前述した板状ワークの加工方法を適用して加工するものである。
【0049】
図15は、センタピラーレインフォースメントを示す斜視図、図16及び図17は、センタピラーレインフォースメントがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図であり、図16の(a)は、センタピラーレインフォースメント成形用ブランクを示す上面説明図、図16の(b)は、前記センタピラーレインフォースメント成形用ブランクに接触される電極の配置を説明するための上面説明図、図16の(c)は、前記センタピラーレインフォースメント成形用ブランクに接触された電極により加熱される内部領域を示す上面説明図、図17の(a)は、プレス加工された前記センタピラーレインフォースメント成形用ブランクを示す上面説明図、図17の(b)は、センタピラーレインフォースメントを示す上面説明図、図17の(c)は、前記センタピラーレインフォースメントにおける溶接施工部位を示す上面説明図である。
【0050】
センタピラーレインフォースメント120は、センタピラーインナとセンタピラーアウタとの間に配設されるものであり、図15に示すように、略T字状に形成され、車体上下方向に延びる上下部121と、該上下部121の上端部において水平方向に延びる水平部122とを備えている。
【0051】
また、センタピラーレインフォースメント120は、センタピラーインナとセンタピラーアウタと接合されるフランジ部123から中央側に向かって膨出するように成形加工され、該フランジ部123から傾斜して延びる側面部124と上面部125とを備え、上面部125には、シートベルト用ブラケットを取り付けるための穴部126が設けられている。
【0052】
前記センタピラーレインフォースメント120は、図16の(a)に示すように、略矩形状に切断されたブランクW20から成形加工される。ブランクW20は、本実施形態に係る加工装置を用いて、ブランクW20の長手方向の両端部近傍に電極が接触され、図16の(b)に示すように、ブランクW20に前記電極が接触される接触領域S21が形成される。
【0053】
ブランクW20に前記電極が接触された後に、該電極間を通電させることにより、図16の(c)に示すように、前記接触領域S21間の内部に位置する内部領域S22が加熱される。この通電は、内部領域S22が焼入れ温度になるまで行われる。なお、内部領域S22の外側に位置する周縁部領域S23は、焼入れ温度に加熱されていない。
【0054】
そして、ブランクW20の内部領域S22が焼入れ温度に達すると、図17の(a)に示すように、成形型によってセンタピラーレインフォースメント120の形状を有するようにプレス加工されるとともに、内部領域S22(斜線ハッチングを施した領域)が焼入れされる。ブランクW20は、フランジ部123、側面部124、上面部125及び穴部126が成形されるとともに、図16の(c)に示す二点鎖線L2より外側に位置する領域S24が切り取られ、且つ、内部領域S22に対応する側面部124及び上面部125が焼入れされる。また、ブランクW20は、フランジ部123の外側に、後述するブランキングによって取り除かれる縁部128を備えており、フランジ部123及び縁部128は、プレス加工の際に焼入れされていない。
【0055】
プレス加工後には、ブランキング加工が行われ、縁部128が取り除かれ、図17の(b)に示すように、ブランクW20からセンタピラーレインフォースメント120が形成される。このセンタピラーレインフォースメント120は、図17の(c)において斜線ハッチングを施したフランジ部123がセンタピラーインナ及びセンタピラーアウタとともに溶接される。
【0056】
前記センタピラーレインフォースメント120の加工では、プレス加工後に焼入れされていない縁部128をブランキングすることで、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。また、側面部124及び上面部125を成形加工時に焼入れさせることで、高強度化を図ることができる。更に、フランジ部123を焼入れさせずに成形加工することができ、フランジ部123を他の部材と溶接する際には良好な溶接性を得ることができる。
【0057】
図18は、ドアインパクトバーを示す斜視図、図19及び図20は、ドアインパクトバーがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図であり、図19の(a)は、ドアインパクトバー成形用ブランクを示す上面説明図、図19の(b)は、前記ドアインパクトバー成形用ブランクに接触される電極の配置を説明するための上面説明図、図19の(c)は、前記ドアインパクトバー成形用ブランクに接触された電極により加熱される内部領域を示す上面説明図、図20の(a)は、プレス加工された前記ドアインパクトバー成形用ブランクを示す上面説明図、図20の(b)は、ドアインパクトバーを示す上面説明図、図20の(c)は、前記ドアインパクトバーにおける溶接施工部位を示す上面説明図である。
【0058】
ドアインパクトバー140は、ドアアウタパネルとドアインナパネルとの間に配設され、該ドアアウタパネルに取り付けられるものであり、図18に示すように、フランジ部141と、側面部142と、上面部143とを備え、フランジ部141から中央側に向かって膨出するように成形加工され、略断面ハット状に形成されている。
【0059】
前記ドアインパクトバー140は、図19の(a)に示すように、略矩形状に切断されたブランクW40から成形加工される。ブランクW40は、本実施形態に係る加工装置を用いて、ブランクW40の長手方向の両端部近傍に電極が接触され、図19の(b)に示すように、ブランクW40に前記電極が接触される接触領域S41が形成される。
【0060】
ブランクW40に前記電極が接触された後に、該電極間を通電させることにより、図19の(c)に示すように、前記接触領域S41間の内部に位置する内部領域S42が加熱される。この通電は、内部領域S42が焼入れ温度になるまで行われる。なお、内部領域S42の外側に位置する周縁部領域S43は、焼入れ温度に加熱されていない。
【0061】
そして、ブランクW40の内部領域S42が焼入れ温度に達すると、図20の(a)に示すように、成形型によってドアインパクトバー140の形状を有するようにプレス加工されるとともに、内部領域S42(斜線ハッチングを施した領域)が焼入れされる。ブランクW40は、フランジ部141、側面部142及び上面部143が成形されるとともに、内部領域S42に対応するフランジ部141、側面部142、上面部143が焼入れされる。また、ブランクW40は、フランジ部141の外側に、後述するブランキングによって取り除かれる縁部144を備えており、縁部144は、プレス加工の際に焼入れされていない。
【0062】
次に、ブランキング加工が行われ、図20の(a)に示す縁部144が取り除かれ、図20の(b)に示すように、ブランクW40からドアインパクトバー140が形成される。このドアインパクトバー140は、焼入れされていない周縁部領域S43の一部である、図20の(c)において斜線ハッチングを施したドアインパクトバー140の長手方向の両端部に位置する領域S44がドアアウタパネルと溶接される。
【0063】
前記ドアインパクトバー140の加工では、プレス加工後に焼入れされていない縁部144をブランキングすることで、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。また、内部領域S42に対応するフランジ部141、側面部142及び上面部143を成形加工時に焼入れさせることで、高強度化を図ることができる。更に、ドアインパクトバー140の長手方向の両端部に位置する領域S44を焼入れさせずに成形加工することができ、該領域S44を他の部材と溶接する際には良好な溶接性を得ることができる。
【0064】
図21は、ルーフレインフォースメントを示す斜視図、図22及び図23は、ルーフレインフォースメントがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図であり、図22の(a)は、ルーフレインフォースメント成形用ブランクを示す上面説明図、図22の(b)は、前記ルーフレインフォースメント成形用ブランクに接触される電極の配置を説明するための上面説明図、図22の(c)は、前記ルーフレインフォースメント成形用ブランクに接触された電極により加熱される内部領域を示す上面説明図、図23の(a)は、プレス加工された前記ルーフレインフォースメント成形用ブランクを示す上面説明図、図23の(b)は、ルーフレインフォースメントを示す上面説明図、図23の(c)は、前記ルーフレインフォースメントにおける溶接施工部位を示す上面説明図である。
【0065】
ルーフレインフォースメント160は、車室上部を構成するルーフパネル155に取り付けられ該ルーフパネル155を補強するものであり、図21に示すように、略矩形状に形成され、その周縁部を形成する縁部161と、側面部162、163と上面部164とを備え、縁部161から中央側に向かって膨出するように形成されている。また、ルーフレインフォースメント160は、縁部161の短手方向の外側の端部165が凸凹状に形成され、縁部161の長手方向の端部166に内方側へ窪む切欠部167が形成されている。
【0066】
前記ルーフレインフォースメント160は、図22の(a)に示すように、略矩形状に切断されたブランクW60から成形加工される。ブランクW60は、本実施形態に係る加工装置を用いて、ブランクW60の長手方向の両端部近傍に電極が接触され、図22の(b)に示すように、ブランクW60に前記電極が接触される接触領域S61が形成される。
【0067】
ブランクW60に前記電極が接触された後に、該電極間を通電させることにより、図22の(c)に示すように、前記接触領域S61の内部に位置する内部領域S62が加熱される。この通電は、内部領域S62が焼入れ温度になるまで行われる。なお、内部領域S62の外側に位置する周縁部領域S63は、焼入れ温度に加熱されていない。
【0068】
そして、ブランクW60の内部領域S62が焼入れ温度に達すると、図23の(a)に示すように、成形型によってルーフレインフォースメント160の形状を有するようにプレス加工されるとともに、内部領域S62(斜線ハッチングを施した領域)が焼入れされる。ブランクW60は、側面部162、163及び上面部164が成形されるとともに、内部領域S62に対応する縁部161、側面部162、163及び上面部164が焼入れされる。
【0069】
次に、ブランキング加工が行われ、図23の(b)に示すように、ブランクW60の長手方向に沿って延びる縁部161の外側の端部165が凸凹状に形成されるとともに、ブランクW60の長手方向の両端部166に切欠部167が形成され、ブランクW60からルーフレインフォースメント160が形成される。このルーフレインフォースメント160は、焼入れされていない周縁部領域S63の一部である、図23の(c)において斜線ハッチングを施したルーフレインフォースメント160の長手方向の両端部166に位置する領域S64がルーフパネルと溶接される。
【0070】
前記ルーフレインフォースメント160の加工では、プレス加工後に焼入れされていない縁部161をブランキングすることで、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。また、内部領域S62に対応する縁部161、側面部162、163及び上面部164を成形加工時に焼入れさせることで、高強度化を図ることができる。更に、ルーフレインフォースメント160の長手方向の両端部166に位置する領域S64を焼入れさせずに成形加工することができ、該領域S44を他の部材と溶接する際には良好な溶接性を得ることができる。
【0071】
なお、本実施形態に係る板状ワークの加工に際しては、板状ワーク(ブランク)を加熱するために2つの電極を用いているが、板状ワークに複数の焼入れ部を形成するために、各焼入れ部に対応してそれぞれ電極を設けるようにしてもよい。
【0072】
以上のように、本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる板状ワークの加工方法及び加工装置であり、特に自動車用車体構成部材などに使用される高張力鋼板の加工において有効に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】第1の実施形態に係る板状ワークの加工装置を示す概略説明図である。
【図2】図1におけるA1方向から見た前記加工装置の側面説明図である。
【図3】パンチが下降した状態にある第1の実施形態に係る前記加工装置を示す概略説明図である。
【図4】図3におけるA1方向から見た前記加工装置の側面説明図である。
【図5】第1の実施形態に係る前記加工装置で加工される板状ワークの加工工程を説明するための説明図である。
【図6】プレス加工後にブランキングされた板状ワークを示す斜視図である。
【図7】図6におけるY7−Y7線に沿った断面説明図である。
【図8】前記板状ワークを有する製品を説明するための説明図である。
【図9】第2の実施形態に係る板状ワークの加工装置を示す概略説明図である。
【図10】図9におけるA2方向から見た前記加工装置の側面説明図である。
【図11】パンチが下降した状態にある第2の実施形態に係る前記加工装置を示す概略説明図である。
【図12】図11におけるA2方向から見た前記加工装置の側面説明図である。
【図13】第2の実施形態に係る前記加工装置で加工される板状ワークの加工工程を説明するための説明図である。
【図14】自動車の車体構造を概略的に示す概略説明図である。
【図15】センタピラーレインフォースメントを示す斜視図である。
【図16】センタピラーレインフォースメントがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図である。
【図17】センタピラーレインフォースメントがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図である。
【図18】ドアインパクトバーを示す斜視図である。
【図19】ドアインパクトバーがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図である。
【図20】ドアインパクトバーがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図である。
【図21】ルーフレインフォースメントを示す斜視図である。
【図22】ルーフレインフォースメントがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図である。
【図23】ルーフレインフォースメントがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0075】
1、80 加工装置
30 成形型
40、45 通電手段
41、46 電極
S1、S11、S21、S41、S61 接触領域
S2 S12、S22、S42、S62 内部領域
S3 S13、S23、S43、S63 周縁部領域
W1、W10、W20、W40、W60 板状ワーク
【技術分野】
【0001】
この発明は、成形型を用いて板状ワークを加工する板状ワークの加工方法及び加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用鋼板などの板状素材(板状ワーク)は、プレス加工により所定の形状に加工されて使用されることが一般的に行われており、板状ワークを加熱してその成形性を高めた上で、上下動可能に設けられるパンチと該パンチと対向するように配設されるダイとを備えた成形型を用いて前記板状ワークをプレス加工することが知られている。
【0003】
このような板状ワークのプレス加工として、板状ワークを加熱炉によって加熱し、この加熱された板状ワークをパンチとダイとの間に搬送してプレス加工することが知られている。また、板状ワークの加熱に関して、板状ワークに所定の電流を流し、この電流による通電加熱によって電気的に板状ワークを加熱することも知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、多様な形状のブランクを均一に高温域に加熱し形状精度が良好な超高強度のプレス成形品を容易に得ることを企図し、ブランクの両端部に電極を取り付け、電極に供給する電力を電極毎に調整してブランクの温度分布を調整する金属板の熱間プレス方法及びその装置が開示されている。
【特許文献1】特開2002ー248525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、例えば自動車用鋼板などに使用される板状ワークでは、車体の軽量化や高強度化等を図るために高強度を有する板状ワークを使用することが求められている。かかる高強度を有する板状ワークとして、その加工性を向上させるためにプレス加工する前に焼入れ温度に加熱し、プレス加工する際に成形型と接触することで焼入れさせてその強度を高めるものが知られている。
【0006】
しかし、プレス加工する際に焼入れさせることでその強度を高める焼入れ性を有する板状ワークにおいては、板状ワークがプレス加工されるとともに焼入れされた後に、プレス加工された板状ワークからプレス成形品を切り取るブランキング等の塑性加工を施す場合、その塑性加工が非常に困難なものとなり得る。
【0007】
そこで、この発明は、前記技術的課題に鑑みてなされたものであり、焼入れ性を有する板状ワークにおいて、板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる板状ワークの加工方法及び加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本願の請求項1に係る板状ワークの加工方法は、成形型を用いて板状ワークを加工する板状ワークの加工方法であって、板状ワークを用意するステップと、前記板状ワークに互いに離間する電極を接触させて通電し、前記板状ワークに、前記電極が接触される接触領域間を直線状に結び通電により加熱される内部領域と該内部領域の外側に位置し当該板状ワークの周縁部である周縁部領域とを形成するとともに、通電により前記内部領域のみを焼入れ温度まで加熱するステップと、前記内部領域が焼入れ温度に加熱された後に、前記板状ワークを前記成形型により所定の形状に加工するとともに前記板状ワークを前記成形型により冷却して前記内部領域を焼入れするステップと、前記板状ワークが所定の形状に加工されるとともに前記内部領域が焼入れされた後に、前記周縁部領域を少なくとも一部含んで前記板状ワークをブランキングするステップとを備えていることを特徴としたものである。
【0009】
また、本願の請求項2に係る発明方法は、請求項1に係る発明方法において、前記板状ワークがブランキングされた後に、ブランキングされた前記板状ワークの前記周縁部領域が溶接されることを特徴としたものである。
【0010】
更に、本願の請求項3に係る発明方法は、請求項1又は2に係る発明方法において、前記板状ワークが、600MPa以上の引張強度を有する鋼板であることを特徴としたものである。
【0011】
また更に、本願の請求項4に係る板状ワークの加工装置は、成形型を用いて板状ワークを加工する板状ワークの加工装置であって、互いに離間する電極を有し、該電極を前記板状ワークに接触させて通電することにより、前記板状ワークに、前記電極が接触される接触領域間を直線状に結び通電により加熱される内部領域と該内部領域の外側に位置し前記板状ワークの周縁部である周縁部領域とを形成するとともに前記内部領域のみを焼入れ温度まで加熱する通電手段と、前記板状ワークを所定の形状に加工するとともに焼入れ温度に加熱された前記内部領域を焼入れするように前記板状ワークを冷却する成形型と、前記周縁部領域を少なくとも一部含んで前記板状ワークをブランキングするブランキング手段とを備えていることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本願の請求項1に係る板状ワークの加工方法によれば、板状ワークの内部領域を加熱した状態で成形型により加工するとともに冷却し、加工後に焼入れされていない周縁部領域を含んでブランキングすることにより、板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。
【0013】
また、本願の請求項2に係る発明方法によれば、板状ワークがブランキングされた後に、ブランキングされた板状ワークの周縁部領域が溶接されることにより、焼入れされていない周縁部領域を溶接することで板状ワークの良好な溶接性を得ることができ、また、溶接部の耐遅れ破壊性を向上させることができる。
【0014】
更に、本願の請求項3に係る発明方法によれば、板状ワークが、600MPa以上の引張強度を有する鋼板であることにより、成形型による加工が困難である板状ワークにおいて、その加工性を向上させることができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0015】
また更に、本願の請求項4に係る板状ワークの加工装置によれば、板状ワークの内部領域を加熱した状態で成形型により加工するとともに冷却し、加工後に焼入れされていない周縁部領域を含んでブランキングすることにより、板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、第1の実施形態に係る板状ワークの加工装置を示す概略説明図であり、図2は、図1におけるA1方向から見た前記加工装置の側面説明図、図3は、パンチが下降した状態にある第1の実施形態に係る前記加工装置を示す概略説明図、図4は、図3におけるA1方向から見た前記加工装置の側面説明図、図5は、第1の実施形態に係る前記加工装置で加工される板状ワークの加工工程を説明するための説明図である。
【0017】
図1に示すように、前記加工装置1は、略平板状に形成された板状ワーク(ブランク)W1を加工するための加工装置であり、上下動可能に設けられたパンチ10と、該パンチ10と対向するように配置されたダイ20とを有する成形型30を備えており、該成形型30は、パンチ10に設けられ、下方側に突出する突出部11と、ダイ20に設けられ、突出部11に対応して凹状に形成される凹部21とを組み合わせることで、板状ワークW1を断面ハット状(コ字形断面の両端部に、外側へ張り出すフランジ状部分が一体成形された形状)に成形するように構成されている。
【0018】
加工装置1では、パンチ10がスプリング12及びスプリングガイド13を介してパンチプレート14に取り付けられ、該パンチプレート14がパンチホルダー15に取り付けられている。一方、ダイ20は、ダイホルダー22に取り付けられている。また、加工装置1では、ダイホルダー22に固定されたアウタガイド35が、パンチホルダー15に備えられたアウタガイド用ブッシュ36に組み込まれ、パンチプレート14に固定されたインナガイド37が、パンチ10に設けられたインナガイド用ブッシュ16と、ダイ20に設けられたインナガイド用ブッシュ23とに組み込まれ、パンチ10とダイ20との位置決め精度が確保されている。
【0019】
更に、加工装置1には、パンチホルダー15に連結され該パンチホルダー15を上下方向に移動させる上下方向移動手段(不図示)が備えられている。パンチ10は、スプリングガイド13及びパンチプレート14を介してパンチホルダー15に取り付けられているので、パンチ10は、前記上下方向移動手段によってパンチホルダー15が上下方向に移動されることにより上下方向に移動される。
【0020】
本実施形態に係る加工装置1はまた、図2に示すように、ダイ20上に配置された板状ワークW1を電気的に加熱するための通電手段40を備えている。通電手段40は、互いに離間する2つの電極41と、電極41に電力を供給する電源42と、電源42と電極41とを接続するケーブル43とを備え、電極41をそれぞれ板状ワークW1に接触させて通電することにより、電極41間に発生するジュール熱で板状ワークW1を加熱するように構成されている。
【0021】
電極41にはそれぞれ、矢印Z1に示すように、電極41を上下方向に移動させる電極移動手段(不図示)が連結され、該電極移動手段は、ダイ20上に板状ワークW1を配置する場合、あるいはダイ20上から板状ワークW1を取り除く場合には電極41を上方へ移動させ、電極41間を通電する場合にはダイ20上に配置された板状ワークW1に接触するように電極41を下方に移動させるように構成されている。
【0022】
なお、前記加工装置1は、その他の構成として、通電手段40により板状ワークW1を加熱する際に、後述する板状ワークW1の内部領域S2の温度を測定する、例えば温度センサ等の温度測定手段(不図示)と、前記上下方向移動手段、通電手段40及び前記電極移動手段等の作動を制御する制御ユニット(不図示)とを備えており、該制御ユニットは、好ましくは、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
【0023】
前記加工装置1を用いて、板状ワークW1をプレス加工する際には、先ず、ダイ20上の所定の位置に板状ワークW1を配置させた後に、前記電極移動手段により電極41を下方に移動させ、板状ワークW1に接触させる。そして、通電手段40によって電極41間を通電させ、板状ワークW1を加熱する。
【0024】
図5の(a)は、第1の実施形態に係る前記加工装置を用いて加工される板状ワークを示す上面説明図であり、図5の(b)は、前記板状ワークに電極が接触された状態を説明するための説明図である。
前記のように、略平板状に形成されたブランクを板状ワークW1として用い、板状ワークW1は、図5の(a)に示すように、略矩形状に形成されている。なお、板状ワークとしては、焼入れ性を有する鋼板を使用し、例えば600MPa以上の引張強度を有する高強度鋼板を用いることができる。
【0025】
本実施形態では、互いに離間する2つの電極41はそれぞれ、板状ワークW1に接触される接触部(不図示)を有し、この接触部が、所定の領域を有し略矩形状に形成されている。電極41が板状ワークW1に接触されると、図5の(b)に示すように、板状ワークW1には、板状ワークW1の長手方向の両端部近傍にそれぞれ、電極41が接触される接触領域(破線で囲まれる領域)S1が形成される。
【0026】
板状ワークW1に電極41が接触され、通電手段40によって電極41間が通電されると、板状ワークW1は、電極41が接触される接触領域S1間を直線状に結び接触領域S1間の内部に位置する内部領域S2(斜線ハッチングを施した領域)が加熱される。この通電は、板状ワークW1の内部領域S2が焼入れ温度まで加熱されるように、すなわち、板状ワークW1の内部領域S2が鋼の変態点以上の温度になるまで加熱され、内部領域S2の組織がオーステナイト組織になるまで加熱されるように行われる。なお、この通電は、内部領域S2の外側に位置し、接触領域S1を含み、板状ワークW1の周縁部である周縁部領域S3が焼入れ温度にならないように行われる。
【0027】
板状ワークW1の内部領域S2が焼入れ温度に加熱されると、パンチ10が下方へ移動され、図3及び図4に示すように、パンチ10とダイ20とによって板状ワークW1がプレス加工される。なお、電極41は、図4に示すように、板状ワークW1のプレス加工時に板状ワークW1に接触していても、あるいは前記電極移動手段によって板状ワークW1から離間させるようにしてもよい。
【0028】
図5の(c)は、プレス加工された前記板状ワークを示す上面説明図である。なお、図5の(c)では、内部領域S2に斜線ハッチングを施している。
前記のように、成形型30は、板状ワークW1の内部領域S2を断面ハット状に成形加工するように構成されており、成形型30によって、板状ワークW1の内部領域S2は、底面部50と側面部51とを有し、板状ワークW1の長手方向を横切る断面が断面ハット状に成形加工される。
【0029】
また、成形型30は、板状ワークW1を断面ハット状に成形加工するとともに、板状ワークW1を冷却し、加熱された板状ワークW1の内部領域S2を焼入れする。これにより、板状ワークW1は、周縁部領域S3が焼入れされずに、内部領域S2のみが焼入れされる。
【0030】
本実施形態では、成形型30によって板状ワークW1が成形加工されるとともに内部領域S2が焼入れされた後に、板状ワークW1は、周縁部領域S3を少なくとも一部含んでブランキングされる、具体的にはブランクラインL1の外側に位置する領域S4が切り取られる。なお、加工装置1は、板状ワークW1をブランキングする、例えばブランキング型等のブランキング手段(不図示)を備え、該ブランキング手段によって板状ワークW1が所定の形状にブランキングされる。
【0031】
図6は、プレス加工後にブランキングされた板状ワークを示す斜視図であり、図7は、図6におけるY7−Y7線に沿った断面説明図である。
前記のように、ブランキングされた板状ワークW1では、図7に示すように、フランジ部52を備え、断面ハット状に形成されている。また、板状ワークW1は、底面部50と側面部51とが焼入れされ、周縁部領域S3であるフランジ部52は焼入れされていない。
【0032】
図8は、前記板状ワークを有する製品を説明するための説明図である。図8に示す板状ワークW2は、板状ワークW1と略同様にして加工され、焼入れされていないフランジ部62と、焼入れされた上面部60及び側面部61とを有し、断面ハット状に形成されている。
【0033】
図8に示すように、板状ワークW1は、該板状ワークW1のフランジ部52が板状ワークW2のフランジ部62と重ね合わせられ、フランジ部52とフランジ部62とが、例えばスポット溶接等によって溶接される。これにより、板状ワークW1と板状ワークW2とが接合された製品は、中空状の閉断面部70と、該閉断面部70から外方へ延びるフランジ部71を備え、該フランジ部70には、複数の溶接部72が形成される。
【0034】
例えば自動車用鋼板として使用される板状ワークでは、プレス加工された後に、スポット溶接などの溶接によって他の板状ワークと接合されることが行われ得るが、高強度を有する板状ワークでは、接合部の応力が高いので良好な溶接性を得ることがなかなか難しく、溶接部に割れや遅れ破壊が生じる場合がある。しかし、本実施形態に係る板状ワークの加工では、板状ワークW1の焼入れされていない周縁部領域S3を溶接することにより、かかる問題を回避することができる。
【0035】
前記加工装置1では、板状ワークW1の長手方向の両端部に電極が配置されているが、板状ワークの短手方向の両端部に電極を配置するようにしてもよい。
図9は、第2の実施形態に係る板状ワークの加工装置を示す概略説明図、図10は、図9におけるA2方向から見た前記加工装置の側面説明図、図11は、パンチが下降した状態にある第2の実施形態に係る前記加工装置を示す概略説明図、図12は、図11におけるA2方向から見た前記加工装置の側面説明図である。なお、これらの図では、前述した加工装置1と同様の構成を備え、同様の作用をなすものについては同一符号を付し、それ以上の説明は省略する。
【0036】
また、図13は、第2の実施形態に係る前記加工装置で加工される板状ワークの加工工程を説明するための説明図であり、図13の(a)は、第2の実施形態に係る前記加工装置を用いて加工される板状ワークを示す上面説明図、図13の(b)は、前記板状ワークに電極が接触された状態を説明するための説明図、図13の(c)は、プレス加工された前記板状ワークを示す上面説明図である。第2の実施形態に係る加工装置80においても、図13の(a)に示すように、略矩形状に形成されたブランクを板状ワークW10として用い、前記加工装置80では、板状ワークW10の短手方向の両端部近傍に電極が接触される。
【0037】
前記加工装置80は、加工装置1と略同様の構成を備えているが、互いに離間する2つの電極46が、板状ワークW10の短手方向の両端部近傍にそれぞれ設けられている。該電極46が、前記上下方向移動手段によって下方へ移動され板状ワークW10に接触されると、図13の(b)に示すように、板状ワークW10には、板状ワークW10の短手方向の両端部近傍にそれぞれ、電極46が接触される接触領域(破線で囲まれる領域)S11が形成される。
【0038】
電極46を板状ワークW10に接触させると、次に通電手段45によって電極46間が通電させられ、この通電により電極46間の内部に位置する内部領域(斜線ハッチングを施した領域)S12が加熱される。この通電は、内部領域S12が焼入れ温度になるまで行われるが、内部領域S12の外側に位置し、接触領域S11を含み板状ワークW10の周縁部である周縁部領域S13は、焼入れ温度に加熱されていない。
【0039】
そして、板状ワークW10の内部領域S12のみが焼入れ温度に加熱されると、図11及び図12に示すように成形型30によって断面ハット状にプレス加工されるとともに、成形型30によって板状ワークW10が冷却され、内部領域S12が焼入れされる。
【0040】
板状ワークW10は、図6に示す板状ワークW1と同様に、焼入れされていない周縁部領域S13に対応するフランジ部92と、焼入れされた内部領域S12に対応する底面部90及び側面部91とを有し、断面ハット状に形成される。なお、前記加工装置80では、プレス加工する際に、電極46が板状ワークW10から離間しているが、電極を板状ワークに接触させていてもよい。
【0041】
前記加工装置80では、板状ワークW10を通電手段45により加熱する際に、板状ワークW10の長手方向に沿って電極46が配置されるので、板状ワークW1の短手方向に沿って電極41が配置される前記加工装置1の場合に比して、通電時の断面積を大きくすることができ、板状ワークを所定の温度により速く加熱することができる。
【0042】
なお、プレス加工後の板状ワークW10は、図示されていないが、周縁部領域S13を少なくとも一部含んでブランキングされる。このブランキングは、好ましくは、焼入れされていない周縁部領域S13において行われる。また、ブランキングされた板状ワークW10では、焼入れされていない周縁部領域S13が他の部材と溶接される。
【0043】
本実施形態では、成形型30によって板状ワークW1、W10が断面ハット状に曲げ加工されているが、その他の形状の曲げ加工や絞り加工等の塑性加工、あるいは穴抜きやトリミング等のせん断加工などを行う成形型を用いることができる。また、板状ワークW1、W10の両端部近傍に互いに離間する電極41、46がそれぞれ配置されているが、板状ワークの高強度を要する部分に対応して、電極を板状ワークに接触させることができる。
【0044】
このように、本実施形態に係る板状ワークの加工方法によれば、板状ワークW1、W10の内部領域S2、S12を加熱した状態で成形型30により加工するとともに冷却し、該加工後に焼入れされていない周縁部領域S3、S13を含んでブランキングすることにより、板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。
【0045】
また、板状ワークW1がブランキングされた後に、ブランキングされた板状ワークW1の周縁部領域S3が溶接されることにより、焼入れされていない周縁部領域を溶接することで板状ワークの良好な溶接性を得ることができ、また、溶接部の耐遅れ破壊性を向上させることができる。
【0046】
更に、板状ワークW1が、600MPa以上の引張強度を有する鋼板であることにより、成形型による加工が困難である板状ワークにおいて、その加工性を向上させることができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0047】
また更に、本実施形態に係る加工装置1、80によれば、板状ワークW1、W10の内部領域を加熱した状態で成形型30により加工するとともに冷却し、該加工後に焼入れされていない周縁部領域S3、S13を含んでブランキングすることにより、板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。
【0048】
次に、前述したような板状ワークの加工方法を自動車の車体構成部材の加工に適用する場合について説明する。
図14は、自動車の車体構造を概略的に示す概略説明図である。この具体例は、車体110の車室構成部材に適用するものであり、センタピラー115内に設けられ、該センタピラー115を補強するセンタピラーレインフォースメント120(図15参照)、ドア(不図示)内部に設けられ、該ドアを補強するドアインパクトバー140、及び車室上部を構成するルーフパネル155を補強するルーフレインフォースメント160の各々について、前述した板状ワークの加工方法を適用して加工するものである。
【0049】
図15は、センタピラーレインフォースメントを示す斜視図、図16及び図17は、センタピラーレインフォースメントがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図であり、図16の(a)は、センタピラーレインフォースメント成形用ブランクを示す上面説明図、図16の(b)は、前記センタピラーレインフォースメント成形用ブランクに接触される電極の配置を説明するための上面説明図、図16の(c)は、前記センタピラーレインフォースメント成形用ブランクに接触された電極により加熱される内部領域を示す上面説明図、図17の(a)は、プレス加工された前記センタピラーレインフォースメント成形用ブランクを示す上面説明図、図17の(b)は、センタピラーレインフォースメントを示す上面説明図、図17の(c)は、前記センタピラーレインフォースメントにおける溶接施工部位を示す上面説明図である。
【0050】
センタピラーレインフォースメント120は、センタピラーインナとセンタピラーアウタとの間に配設されるものであり、図15に示すように、略T字状に形成され、車体上下方向に延びる上下部121と、該上下部121の上端部において水平方向に延びる水平部122とを備えている。
【0051】
また、センタピラーレインフォースメント120は、センタピラーインナとセンタピラーアウタと接合されるフランジ部123から中央側に向かって膨出するように成形加工され、該フランジ部123から傾斜して延びる側面部124と上面部125とを備え、上面部125には、シートベルト用ブラケットを取り付けるための穴部126が設けられている。
【0052】
前記センタピラーレインフォースメント120は、図16の(a)に示すように、略矩形状に切断されたブランクW20から成形加工される。ブランクW20は、本実施形態に係る加工装置を用いて、ブランクW20の長手方向の両端部近傍に電極が接触され、図16の(b)に示すように、ブランクW20に前記電極が接触される接触領域S21が形成される。
【0053】
ブランクW20に前記電極が接触された後に、該電極間を通電させることにより、図16の(c)に示すように、前記接触領域S21間の内部に位置する内部領域S22が加熱される。この通電は、内部領域S22が焼入れ温度になるまで行われる。なお、内部領域S22の外側に位置する周縁部領域S23は、焼入れ温度に加熱されていない。
【0054】
そして、ブランクW20の内部領域S22が焼入れ温度に達すると、図17の(a)に示すように、成形型によってセンタピラーレインフォースメント120の形状を有するようにプレス加工されるとともに、内部領域S22(斜線ハッチングを施した領域)が焼入れされる。ブランクW20は、フランジ部123、側面部124、上面部125及び穴部126が成形されるとともに、図16の(c)に示す二点鎖線L2より外側に位置する領域S24が切り取られ、且つ、内部領域S22に対応する側面部124及び上面部125が焼入れされる。また、ブランクW20は、フランジ部123の外側に、後述するブランキングによって取り除かれる縁部128を備えており、フランジ部123及び縁部128は、プレス加工の際に焼入れされていない。
【0055】
プレス加工後には、ブランキング加工が行われ、縁部128が取り除かれ、図17の(b)に示すように、ブランクW20からセンタピラーレインフォースメント120が形成される。このセンタピラーレインフォースメント120は、図17の(c)において斜線ハッチングを施したフランジ部123がセンタピラーインナ及びセンタピラーアウタとともに溶接される。
【0056】
前記センタピラーレインフォースメント120の加工では、プレス加工後に焼入れされていない縁部128をブランキングすることで、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。また、側面部124及び上面部125を成形加工時に焼入れさせることで、高強度化を図ることができる。更に、フランジ部123を焼入れさせずに成形加工することができ、フランジ部123を他の部材と溶接する際には良好な溶接性を得ることができる。
【0057】
図18は、ドアインパクトバーを示す斜視図、図19及び図20は、ドアインパクトバーがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図であり、図19の(a)は、ドアインパクトバー成形用ブランクを示す上面説明図、図19の(b)は、前記ドアインパクトバー成形用ブランクに接触される電極の配置を説明するための上面説明図、図19の(c)は、前記ドアインパクトバー成形用ブランクに接触された電極により加熱される内部領域を示す上面説明図、図20の(a)は、プレス加工された前記ドアインパクトバー成形用ブランクを示す上面説明図、図20の(b)は、ドアインパクトバーを示す上面説明図、図20の(c)は、前記ドアインパクトバーにおける溶接施工部位を示す上面説明図である。
【0058】
ドアインパクトバー140は、ドアアウタパネルとドアインナパネルとの間に配設され、該ドアアウタパネルに取り付けられるものであり、図18に示すように、フランジ部141と、側面部142と、上面部143とを備え、フランジ部141から中央側に向かって膨出するように成形加工され、略断面ハット状に形成されている。
【0059】
前記ドアインパクトバー140は、図19の(a)に示すように、略矩形状に切断されたブランクW40から成形加工される。ブランクW40は、本実施形態に係る加工装置を用いて、ブランクW40の長手方向の両端部近傍に電極が接触され、図19の(b)に示すように、ブランクW40に前記電極が接触される接触領域S41が形成される。
【0060】
ブランクW40に前記電極が接触された後に、該電極間を通電させることにより、図19の(c)に示すように、前記接触領域S41間の内部に位置する内部領域S42が加熱される。この通電は、内部領域S42が焼入れ温度になるまで行われる。なお、内部領域S42の外側に位置する周縁部領域S43は、焼入れ温度に加熱されていない。
【0061】
そして、ブランクW40の内部領域S42が焼入れ温度に達すると、図20の(a)に示すように、成形型によってドアインパクトバー140の形状を有するようにプレス加工されるとともに、内部領域S42(斜線ハッチングを施した領域)が焼入れされる。ブランクW40は、フランジ部141、側面部142及び上面部143が成形されるとともに、内部領域S42に対応するフランジ部141、側面部142、上面部143が焼入れされる。また、ブランクW40は、フランジ部141の外側に、後述するブランキングによって取り除かれる縁部144を備えており、縁部144は、プレス加工の際に焼入れされていない。
【0062】
次に、ブランキング加工が行われ、図20の(a)に示す縁部144が取り除かれ、図20の(b)に示すように、ブランクW40からドアインパクトバー140が形成される。このドアインパクトバー140は、焼入れされていない周縁部領域S43の一部である、図20の(c)において斜線ハッチングを施したドアインパクトバー140の長手方向の両端部に位置する領域S44がドアアウタパネルと溶接される。
【0063】
前記ドアインパクトバー140の加工では、プレス加工後に焼入れされていない縁部144をブランキングすることで、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。また、内部領域S42に対応するフランジ部141、側面部142及び上面部143を成形加工時に焼入れさせることで、高強度化を図ることができる。更に、ドアインパクトバー140の長手方向の両端部に位置する領域S44を焼入れさせずに成形加工することができ、該領域S44を他の部材と溶接する際には良好な溶接性を得ることができる。
【0064】
図21は、ルーフレインフォースメントを示す斜視図、図22及び図23は、ルーフレインフォースメントがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図であり、図22の(a)は、ルーフレインフォースメント成形用ブランクを示す上面説明図、図22の(b)は、前記ルーフレインフォースメント成形用ブランクに接触される電極の配置を説明するための上面説明図、図22の(c)は、前記ルーフレインフォースメント成形用ブランクに接触された電極により加熱される内部領域を示す上面説明図、図23の(a)は、プレス加工された前記ルーフレインフォースメント成形用ブランクを示す上面説明図、図23の(b)は、ルーフレインフォースメントを示す上面説明図、図23の(c)は、前記ルーフレインフォースメントにおける溶接施工部位を示す上面説明図である。
【0065】
ルーフレインフォースメント160は、車室上部を構成するルーフパネル155に取り付けられ該ルーフパネル155を補強するものであり、図21に示すように、略矩形状に形成され、その周縁部を形成する縁部161と、側面部162、163と上面部164とを備え、縁部161から中央側に向かって膨出するように形成されている。また、ルーフレインフォースメント160は、縁部161の短手方向の外側の端部165が凸凹状に形成され、縁部161の長手方向の端部166に内方側へ窪む切欠部167が形成されている。
【0066】
前記ルーフレインフォースメント160は、図22の(a)に示すように、略矩形状に切断されたブランクW60から成形加工される。ブランクW60は、本実施形態に係る加工装置を用いて、ブランクW60の長手方向の両端部近傍に電極が接触され、図22の(b)に示すように、ブランクW60に前記電極が接触される接触領域S61が形成される。
【0067】
ブランクW60に前記電極が接触された後に、該電極間を通電させることにより、図22の(c)に示すように、前記接触領域S61の内部に位置する内部領域S62が加熱される。この通電は、内部領域S62が焼入れ温度になるまで行われる。なお、内部領域S62の外側に位置する周縁部領域S63は、焼入れ温度に加熱されていない。
【0068】
そして、ブランクW60の内部領域S62が焼入れ温度に達すると、図23の(a)に示すように、成形型によってルーフレインフォースメント160の形状を有するようにプレス加工されるとともに、内部領域S62(斜線ハッチングを施した領域)が焼入れされる。ブランクW60は、側面部162、163及び上面部164が成形されるとともに、内部領域S62に対応する縁部161、側面部162、163及び上面部164が焼入れされる。
【0069】
次に、ブランキング加工が行われ、図23の(b)に示すように、ブランクW60の長手方向に沿って延びる縁部161の外側の端部165が凸凹状に形成されるとともに、ブランクW60の長手方向の両端部166に切欠部167が形成され、ブランクW60からルーフレインフォースメント160が形成される。このルーフレインフォースメント160は、焼入れされていない周縁部領域S63の一部である、図23の(c)において斜線ハッチングを施したルーフレインフォースメント160の長手方向の両端部166に位置する領域S64がルーフパネルと溶接される。
【0070】
前記ルーフレインフォースメント160の加工では、プレス加工後に焼入れされていない縁部161をブランキングすることで、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる。また、内部領域S62に対応する縁部161、側面部162、163及び上面部164を成形加工時に焼入れさせることで、高強度化を図ることができる。更に、ルーフレインフォースメント160の長手方向の両端部166に位置する領域S64を焼入れさせずに成形加工することができ、該領域S44を他の部材と溶接する際には良好な溶接性を得ることができる。
【0071】
なお、本実施形態に係る板状ワークの加工に際しては、板状ワーク(ブランク)を加熱するために2つの電極を用いているが、板状ワークに複数の焼入れ部を形成するために、各焼入れ部に対応してそれぞれ電極を設けるようにしてもよい。
【0072】
以上のように、本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、板状ワークの加工性を向上させるとともに焼入れすることができ、且つ、ブランキング性が損なわれることを抑制することができる板状ワークの加工方法及び加工装置であり、特に自動車用車体構成部材などに使用される高張力鋼板の加工において有効に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】第1の実施形態に係る板状ワークの加工装置を示す概略説明図である。
【図2】図1におけるA1方向から見た前記加工装置の側面説明図である。
【図3】パンチが下降した状態にある第1の実施形態に係る前記加工装置を示す概略説明図である。
【図4】図3におけるA1方向から見た前記加工装置の側面説明図である。
【図5】第1の実施形態に係る前記加工装置で加工される板状ワークの加工工程を説明するための説明図である。
【図6】プレス加工後にブランキングされた板状ワークを示す斜視図である。
【図7】図6におけるY7−Y7線に沿った断面説明図である。
【図8】前記板状ワークを有する製品を説明するための説明図である。
【図9】第2の実施形態に係る板状ワークの加工装置を示す概略説明図である。
【図10】図9におけるA2方向から見た前記加工装置の側面説明図である。
【図11】パンチが下降した状態にある第2の実施形態に係る前記加工装置を示す概略説明図である。
【図12】図11におけるA2方向から見た前記加工装置の側面説明図である。
【図13】第2の実施形態に係る前記加工装置で加工される板状ワークの加工工程を説明するための説明図である。
【図14】自動車の車体構造を概略的に示す概略説明図である。
【図15】センタピラーレインフォースメントを示す斜視図である。
【図16】センタピラーレインフォースメントがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図である。
【図17】センタピラーレインフォースメントがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図である。
【図18】ドアインパクトバーを示す斜視図である。
【図19】ドアインパクトバーがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図である。
【図20】ドアインパクトバーがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図である。
【図21】ルーフレインフォースメントを示す斜視図である。
【図22】ルーフレインフォースメントがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図である。
【図23】ルーフレインフォースメントがブランクから加工される加工工程を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0075】
1、80 加工装置
30 成形型
40、45 通電手段
41、46 電極
S1、S11、S21、S41、S61 接触領域
S2 S12、S22、S42、S62 内部領域
S3 S13、S23、S43、S63 周縁部領域
W1、W10、W20、W40、W60 板状ワーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型を用いて板状ワークを加工する板状ワークの加工方法であって、
板状ワークを用意するステップと、
前記板状ワークに互いに離間する電極を接触させて通電し、前記板状ワークに、前記電極が接触される接触領域間を直線状に結び通電により加熱される内部領域と該内部領域の外側に位置し当該板状ワークの周縁部である周縁部領域とを形成するとともに、通電により前記内部領域のみを焼入れ温度まで加熱するステップと、
前記内部領域が焼入れ温度に加熱された後に、前記板状ワークを前記成形型により所定の形状に加工するとともに前記板状ワークを前記成形型により冷却して前記内部領域を焼入れするステップと、
前記板状ワークが所定の形状に加工されるとともに前記内部領域が焼入れされた後に、前記周縁部領域を少なくとも一部含んで前記板状ワークをブランキングするステップと、
を備えていることを特徴とする板状ワークの加工方法。
【請求項2】
前記板状ワークがブランキングされた後に、ブランキングされた前記板状ワークの前記周縁部領域が溶接されることを特徴とする請求項1に記載の板状ワークの加工方法。
【請求項3】
前記板状ワークが、600MPa以上の引張強度を有する鋼板であることを特徴とする請求項1又は2に記載の板状ワークの加工方法。
【請求項4】
成形型を用いて板状ワークを加工する板状ワークの加工装置であって、
互いに離間する電極を有し、該電極を前記板状ワークに接触させて通電することにより、前記板状ワークに、前記電極が接触される接触領域間を直線状に結び通電により加熱される内部領域と該内部領域の外側に位置し前記板状ワークの周縁部である周縁部領域とを形成するとともに前記内部領域のみを焼入れ温度まで加熱する通電手段と、
前記板状ワークを所定の形状に加工するとともに焼入れ温度に加熱された前記内部領域を焼入れするように前記板状ワークを冷却する成形型と、
前記周縁部領域を少なくとも一部含んで前記板状ワークをブランキングするブランキング手段と、
を備えていることを特徴とする板状ワークの加工装置。
【請求項1】
成形型を用いて板状ワークを加工する板状ワークの加工方法であって、
板状ワークを用意するステップと、
前記板状ワークに互いに離間する電極を接触させて通電し、前記板状ワークに、前記電極が接触される接触領域間を直線状に結び通電により加熱される内部領域と該内部領域の外側に位置し当該板状ワークの周縁部である周縁部領域とを形成するとともに、通電により前記内部領域のみを焼入れ温度まで加熱するステップと、
前記内部領域が焼入れ温度に加熱された後に、前記板状ワークを前記成形型により所定の形状に加工するとともに前記板状ワークを前記成形型により冷却して前記内部領域を焼入れするステップと、
前記板状ワークが所定の形状に加工されるとともに前記内部領域が焼入れされた後に、前記周縁部領域を少なくとも一部含んで前記板状ワークをブランキングするステップと、
を備えていることを特徴とする板状ワークの加工方法。
【請求項2】
前記板状ワークがブランキングされた後に、ブランキングされた前記板状ワークの前記周縁部領域が溶接されることを特徴とする請求項1に記載の板状ワークの加工方法。
【請求項3】
前記板状ワークが、600MPa以上の引張強度を有する鋼板であることを特徴とする請求項1又は2に記載の板状ワークの加工方法。
【請求項4】
成形型を用いて板状ワークを加工する板状ワークの加工装置であって、
互いに離間する電極を有し、該電極を前記板状ワークに接触させて通電することにより、前記板状ワークに、前記電極が接触される接触領域間を直線状に結び通電により加熱される内部領域と該内部領域の外側に位置し前記板状ワークの周縁部である周縁部領域とを形成するとともに前記内部領域のみを焼入れ温度まで加熱する通電手段と、
前記板状ワークを所定の形状に加工するとともに焼入れ温度に加熱された前記内部領域を焼入れするように前記板状ワークを冷却する成形型と、
前記周縁部領域を少なくとも一部含んで前記板状ワークをブランキングするブランキング手段と、
を備えていることを特徴とする板状ワークの加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2008−87001(P2008−87001A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267722(P2006−267722)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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