説明

板状体の吸着搬送装置

【課題】 板状体、特に太陽電池素子を破損させることなく搬送することが可能で、かつ摺動部に微粒子などの粉塵の侵入を抑制することが可能な吸着搬送装置を提供すること。
【解決手段】 複数の貫通孔が形成される昇降基板と、前記昇降基板の貫通孔を通して下向きに設けられる摺動可能な吸着手段とを備える、板状体の吸着搬送装置であって、前記貫通孔の底面側開口部を囲むように中空状の防塵部材が設けられる、板状体の吸着搬送装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池素子などの板状体を吸着・搬送する搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池などの板状体を用いる製造工程においては、板状体を破損させずに搬送することを目的として、板状体の表面を複数の吸着部材により吸着して上下左右に搬送する吸着搬送装置が用いられることが多い。そしてこのような吸着部の上下動作には、一般にシリンダーなどの摺動部材が用いられている。例えば、特許文献1では、基板の離型のために、吸着部材と昇降ベースとの間に摺動部を有する吸着搬送装置が開示されている。
【特許文献1】特開平10−244545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このような摺動部には、ゴミや微粒子などが入り込み、しばしば故障の原因となる。特に、太陽電池モジュールの製造工程においては、太陽電池素子に配線材をはんだ付けする際に用いられる融剤(フラックス)が、揮発成分が蒸発することによって粉塵となり、飛散して吸着搬送装置の摺動部に多量に付着する。そして場合によっては、摺動抵抗を増加させ、昇降基板の下降・上昇が正常に行われず、板状体を持上げることができなくなってしまう場合がある。
【0004】
本発明の目的は、板状体、特に太陽電池素子を破損させることなく搬送することが可能で、かつ摺動部に微粒子などの粉塵の侵入を抑制することが可能な吸着搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の板状体の吸着搬送装置は、複数の貫通孔が形成される昇降基板と、前記昇降基板の貫通孔を通して下向きに設けられる摺動可能な吸着手段とを備え、前記貫通孔の底面側開口部を囲むように中空状の防塵部材が設けられる。
【0006】
ある実施態様においては、前記吸着手段は、摺動軸と、前記摺動軸の下端部に接続された吸着部とからなり、前記防塵部材は、前記吸着部との間に隙間を形成するように設けられる。
【0007】
ある実施態様においては、さらに、前記防塵部材内にエアーを供給する、エアー供給部が設けられる。
【0008】
ある実施態様においては、前記吸着部は、前記摺動軸との接続面から前記板状体との接触面に向かうにしたがって断面積が大きくなる構造を有する。
【0009】
ある実施態様においては、前記防塵部材の内壁に、エアー押出し部が設けられる。
【0010】
ある実施対応においては、さらに、前記防塵部材内と外部とを連通する、連通孔が設けられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の板状体の吸着搬送装置は、摺動部の入り口に相当する昇降基板に形成された貫通孔の底面側の開口部を囲むようにして中空状の防塵部材を設けることを特徴とする。この特徴により、防塵部材が外壁となり、フラックスの残留物質などの粉塵の摺動部への侵入経路を制限することができる。また、粉塵の侵入経路となり得る防塵部材の開口部においては、吸着手段が上方に摺動する際に、防塵部材内部のエアーが外部へ排出されるため、粉塵の侵入を効率的に抑制することができる。このように、本願発明の板状体の搬送装置は、摺動部への粉塵の侵入を効率的に抑制するとともに、板状体を破損させることなく搬送することが可能である。特に、板状体として、フラックスが付着した太陽電池素子を用いる場合、粉塵(フラックスの残留物質)が舞い上がりやすい吸着部と板状体との接触時において、吸着手段が上方に摺動し、防塵部材内部のエアーが外部に排出されるため、本発明の吸着搬送装置は有用である。
【0012】
さらに、摺動部に粉塵などが進入しにくいため、清掃回数を少なくできるとともに、メンテナンスも簡便になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<実施の形態1>
以下、本発明の板状体の搬送装置の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の吸着搬送装置の一例を示す斜視図である。本発明の吸着搬送装置は、図1に示すように、吸着手段を昇降・移動させる昇降基板1と、昇降基板1に下向きに取り付けられる吸着手段2とを備えている。具体的には、昇降基板1に、複数の貫通孔11が設けられており、吸着手段2は、この貫通孔11の内壁に沿って摺動可能に設けられる。そして、昇降基板1と吸着手段2との摺動部の一方の端部、すなわち貫通孔11の底面側の開口部を囲むように中空状の防塵部材3が設けられている。図2は、図1に示す吸着搬送装置の部分断面図であり、吸着手段2および防塵部材3付近を示している。図2(a)は吸着手段2が伸びた状態を示し、図2(b)は吸着手段2が上方に摺動された状態、いわゆる縮んだ状態を示す。
【0014】
本発明の吸着搬送装置によって搬送される板状体としては、例えば、太陽電池素子、太陽電池モジュールなどが用いられる。これらは、製造工程中において、フラックスなどの粉塵の原因となる融剤が用いられるため、特に摺動部に粉塵が侵入しやすく、本発明の吸着搬送装置を用いることが有効である。太陽電池素子としては、例えば、シリコン多結晶太陽電池素子などが挙げられる。
【0015】
昇降基板1は、水平状態で昇降する移動手段であり、例えば、搬送アームなどとして使用される。
【0016】
この昇降基板1は、上述のように、吸着手段2を摺動可能に取り付けるための貫通孔11を有する。この貫通孔11の形状は、吸着手段2の大きさおよび形状に応じて適宜設定される。例えば、図1では、円柱状の貫通孔が形成されているが、角柱状であってもよい。
【0017】
吸着手段2は、板状体を安定に吸着・搬送するために、昇降基体1に複数設けられる。図1では、昇降基板1に対して4つの吸着手段2が設けられている。吸着手段2は、図2に示すように、貫通孔11の内壁に沿って上下に摺動する摺動軸21と、摺動軸21の下端部に接続された吸着部22とを備える。なお、図2(a)のような吸着手段2が伸びた状態を確保するために、摺動部を通して押下げバネ23が設けられている。
【0018】
摺動軸21としては、吸着部22の吸引孔からエアーを吸引できるように筒状のものが用いられる。
【0019】
吸着部22は、板状体と接触する部分であり、板状体と当接する際の衝撃を緩和する観点から、弾性体などが用いられる。吸着部22の形状は、摺動軸21の断面積に比べて板状体との当接面が大きくなるように設計されればよく、特に制限されない。好ましくは、摺動軸21との接続面から板状体との当接面に向かうにしたがって、その断面積が大きくなるように設計される。例えば、円錐状、角錐状などが挙げられる。また一例として、図2(a)では、摺動軸21との接続面からある面までは断面積が一定であり、その面から板状体との当接面に近づくにしたがって断面積が大きくなるような構造の吸着部22が示されている。
【0020】
防塵部材3は、貫通孔11の底面側の開口部を囲むことができるような筒状のものが用いられる。具体的には、円筒状、柱筒状の防塵部材が用いられる。このような防塵部材を設けることによって、摺動部への粉塵などの侵入を制限することができる。昇降基板との密閉性、あるいは取扱いが容易な観点から、防塵部材3は弾性体を用いることが好ましい。
【0021】
防塵部材3の大きさは、特に制限されない。防塵部材3の長さは、例えば、吸着手段2が上方に摺動した状態(吸着手段2が縮んだ状態)における貫通孔の底面部開口部から摺動軸の長さ〜吸着部を含めた吸着手段自体の長さ程度に設計される。また防塵部材3の開口部の大きさは、例えば、貫通孔11に取り付けられる吸着手段2の摺動を妨害しない程度の大きさであればよい。
【0022】
防塵部材3は、さらに、上記吸着部22との間に隙間を形成するように設けられることが好ましい。この隙間は、吸着手段2が上方に摺動する際に、吸着部22によって、防塵部材の内部空間内のエアーが加圧されて排出される、エアー排出口として機能する。このような排出エアーにより、摺動部への粉塵などの侵入を効果的に抑制することができる。例えば、図2(a)に示すように、吸着手段2が伸びた状態における防塵部材の内部空間の体積は体積Aである。これに対して、図2(b)に示すように、吸着手段2が上方に摺動すると(吸着手段2が縮むと)、吸着部22の一部が防塵部材3の内部空間内に挿入されることによって、この内部空間の体積は、体積Bに減少される。このように体積Aと体積Bとの差のエアーが排出エアーとして隙間より排出される。
【0023】
このように、本発明の板状体の吸着搬送装置は、防塵部材を設けることによって、摺動部への粉塵の侵入を効率的に抑制するとともに、板状体を破損させることなく搬送することが可能である。
【0024】
以下、本発明の吸着搬送装置による板状体の搬送方法について図3を用いて詳細に説明する。図3では、板状体として、太陽電池素子が用いられている。まず、図3(a)のように、昇降基板1が待機台に載せられた太陽電池素子100の上方に移動する。このとき吸着手段2は下方に伸びた状態である。次いで、図3(b)のように、昇降基板1が下降する。吸着手段2は昇降基板1とともに下降し、吸着部22が太陽電池素子100に接触する。昇降基板1がさらに下降すると、吸着手段2はそれ以上、下降せず、昇降基板1の下降に伴い昇降基板1が貫通孔11内を摺動するようになる(図3(c))。このように、吸着手段2が昇降基板1の貫通孔11内を摺動することによって、昇降基板1が下降することによる太陽電池素子100にかかる応力が緩和される。このとき、吸着手段2の吸着部22が上方に摺動すると、それに伴い防塵部材3内部のエアーが、吸着部22と防塵部材3との間の隙間から押出され、外部に排出される。そして、この排出エアーが、防塵部材3内部に入り込んだ粉塵を排出するとともに、防塵部材3の開口部近辺に存在する粉塵等を除去するため、フラックスが付着した太陽電池素子を吸着する場合にも防塵部材の内部への粉塵の侵入・付着を抑制することができる。その後、昇降基板1の下降が停止すると、吸着部22の内部の空気が吸引され、太陽電池素子100が吸着・支持され、図3(d)のように、昇降基板1が上昇する。そして図3(e)のように、太陽電池素子100を次工程に搬送する。なお、吸着部22と防塵部材3との間の隙間を少なくして、防塵部材3内部の内圧がすぐに回復しないようにすることによって、太陽電池素子100の吸着後に昇降基板1を上昇させても吸着手段2がすぐに下降せず、粉塵も吸い込みにくくなる。なお、図4に示すように、摺動軸21に向かって断面積が小さくなる円錐状や角錐状などの吸着部を用いると、摺動による空気の排出がしやすい一方で、摺動軸が上方に摺動した場合に隙間が小さいため、吸気も少なくすることができるため好適である。
【0025】
<実施の形態2>
図5は、図2に示す吸着搬送装置に、エアー供給部12を設けた実施態様を示す。エアー供給部12は、防塵部材6内部のエアーを強制的に排出するために、外部から防塵部材6にエアーを供給するものであり、例えば、エアーコンプレッサーなどが用いられる。エアー供給部12は、例えば、昇降基板1を貫通するエアー導入路を介して設けられる。このようなエアー供給部12により、外部のエアーが昇降基板1を貫通するエアー導入路を介して防塵部材6内部に噴出される。噴出されるエアーは、特に制限されない。エアー供給部12を設けることによって、防塵部材3内部を清浄な空気で満たすことが可能で、吸着手段2が下降する際にエアーを排出するようにすれば、粉塵等を吸い込まないようにすることができる。また、常時エアーを排出することも可能である。また、図示しないが、摺動軸21に空気抵抗を生じさせる羽根や突起を設ければ、エアー供給部12の圧力によって吸着手段2を押下げることができ、引下げバネの代用となり得、太陽電池素子に対する押圧力をさらに軽減させることも可能である。
【0026】
<実施の形態3>
図6は、図5に示す吸着搬送装置に、エアー押出し部31を設けた実施態様を示す。エアー押出し部31は、防塵部材3の内壁に設けられる羽であり、内壁に沿った羽根などが用いられる。エアー押出し部31は、防塵部材3内部の仕切り板の役目を果たし、吸着手段2が上方に摺動する(吸着手段2が縮む)際に、エアー押出し部31よりも下側の空間のエアーを選択的に排出するため、効率的である。なお、エアー押出し部31は、先端が下方向に傾斜するように取り付けることが好ましい。
【0027】
また、吸着手段2が上方に摺動する際に、吸着手段2の吸着部22の一部が防塵部材3内部に挿入される構造の吸着搬送装置を用いる場合は、エアー押出し部31に加え、外部と防塵部材3とを連通する連通孔を設けることが好ましい。この場合、吸着手段が上方に摺動する場合は、上記と同様にエアー押出し部31よりも下側の空間のエアーが選択的に排出され、一方で、昇降基板1が上昇して吸着部22が引下げられる際には、連通孔13から清浄な空気が補給されるとともに、エアー押出し部よりも上側の空間のエアーが下側の空間に移動される。したがって、防塵部材の内部に粉塵等を吸い込まない構造にすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の吸着搬送装置の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す吸着搬送装置の部分拡大図である。
【図3】本発明の吸着搬送装置による板状体の搬送方法を説明するための図面である。
【図4】本発明の吸着搬送装置の別の実施態様を示す図面である。
【図5】本発明の吸着搬送装置の別の実施態様を示す図面である。
【図6】本発明の吸着搬送装置の別の実施態様を示す図面である。
【符号の説明】
【0029】
1:昇降基板
2:吸着手段
3:防塵部材
11:貫通孔
21:摺胴部
22:吸着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔が形成される昇降基板と、前記昇降基板の貫通孔を通して下向きに設けられる摺動可能な吸着手段とを備える、板状体の吸着搬送装置であって、
前記貫通孔の底面側開口部を囲むように中空状の防塵部材が設けられる、板状体の吸着搬送装置。
【請求項2】
前記吸着手段は、摺動軸と、前記摺動軸の下端部に接続された吸着部とからなり、
前記防塵部材は、前記吸着部との間に隙間を形成するように設けられる、請求項1に記載の板状体の吸着搬送装置。
【請求項3】
さらに、前記防塵部材内にエアーを供給する、エアー供給部が設けられる、請求項1または2に記載の板状体の吸着搬送装置。
【請求項4】
前記吸着部は、前記摺動軸との接続面から前記板状体との接触面に向かうにしたがって断面積が大きくなる構造を有する、請求項2に記載の板状体の吸着搬送装置。
【請求項5】
前記防塵部材の内壁に、エアー押出し部が設けられる、請求項1から4のいずれかの項に記載の板状体の吸着搬送装置。
【請求項6】
さらに、前記防塵部材内と外部とを連通する、連通孔が設けられる、請求項1から5のいずれかの項に記載の板状体の吸着搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−82705(P2010−82705A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251202(P2008−251202)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】